説明

レーザー彫刻用樹脂組成物、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版及びその製造方法、並びに、レリーフ印刷版及びその製版方法

【課題】耐薬品性に優れたレリーフ印刷版を得ることができ、彫刻カスの除去性に優れるレーザー彫刻用樹脂組成物、前記レーザー彫刻用樹脂組成物を用いたレリーフ印刷版原版、それを用いたレリーフ印刷版の製版方法、及び、それにより得られたレリーフ印刷版を提供すること。
【解決手段】(成分A)エチレン性不飽和基を有するフィラー、(成分B)エチレン性不飽和基を有する重合性化合物、及び、(成分C)重合開始剤、を含むことを特徴とするレーザー彫刻用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー彫刻用樹脂組成物、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版及びその製造方法、並びに、レリーフ印刷版及びその製版方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レリーフ形成層をレーザーにより直接彫刻し製版する、いわゆる「直彫りCTP方式」が多く提案されている。この方式では、フレキソ原版に直接レーザーを照射し、光熱変換で熱分解及び揮発を生じさせ、凹部を形成する。直彫りCTP方式は、原画フィルムを用いたレリーフ形成と異なり、自由にレリーフ形状を制御することができる。このため、抜き文字の如き画像を形成する場合、その領域を他の領域よりも深く彫刻する、又は、微細網点画像では、印圧に対する抵抗を考慮し、ショルダーをつけた彫刻をする、なども可能である。この方式に用いられるレーザーは高出力の炭酸ガスレーザーが用いられることが一般的である。炭酸ガスレーザーの場合、全ての有機化合物が照射エネルギーを吸収して熱に変換できる。一方、安価で小型の半導体レーザーが開発されてきているが、これらは可視及び近赤外光であるため、該レーザー光を吸収して熱に変換することが必要となる。
一方、レジストとして使用する感光性樹脂組成物としては、特許文献1及び特許文献2が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−26950号公報
【特許文献2】特開2008−81732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、耐薬品性に優れたレリーフ印刷版を得ることができ、彫刻カスの除去性に優れるレーザー彫刻用樹脂組成物、前記レーザー彫刻用樹脂組成物を用いたレリーフ印刷版原版、それを用いたレリーフ印刷版の製版方法、及び、それにより得られたレリーフ印刷版を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の上記課題は以下の<1>、<12>〜<15>及び<18>に記載の手段により解決された。好ましい実施態様である<2>〜<11>、<16>及び<17>と共に以下に記載する。
<1>(成分A)エチレン性不飽和基を有するフィラー、(成分B)エチレン性不飽和基を有する重合性化合物、及び、(成分C)重合開始剤、を含むことを特徴とするレーザー彫刻用樹脂組成物、
<2>成分Aが、エチレン性不飽和基を有する無機フィラーである、上記<1>に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物、
<3>前記無機フィラーが、球状である、上記<2>に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物、
<4>前記無機フィラーが、層状である、上記<2>に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物、
<5>前記無機フィラーが、カーボンブラックである、上記<2>又は<3>に記載のレーザー彫刻用組成物、
<6>前記無機フィラーが、シリカである、上記<2>又は<3>に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物、
<7>前記無機フィラーが、雲母である、上記<2>又は<4>に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物、
<8>成分Cが、熱重合開始剤である、上記<1>〜<7>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用樹脂組成物、
<9>(成分D)バインダーポリマーを更に含む、上記<1>〜<8>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用樹脂組成物、
<10>(成分E)可塑剤を更に含む、上記<1>〜<9>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用樹脂組成物、
<11>(成分F)周期律表の1〜16族から選択される金属又はメタロイドの少なくとも1つのオキシ化合物を更に含む、上記<1>〜<10>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用樹脂組成物、
<12>上記<1>〜<11>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を有するレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、
<13>上記<1>〜<11>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を熱架橋した架橋レリーフ形成層を有するレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、
<14>上記<1>〜<11>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を形成する層形成工程、及び、前記レリーフ形成層を光及び/又は熱により架橋し架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程、を含むレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法、
<15>上記<1>〜<11>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を形成する層形成工程、前記レリーフ形成層を光及び/又は熱により架橋し架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程、及び、前記架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版をレーザー彫刻し、レリーフ層を形成する彫刻工程、を含むレリーフ印刷版の製版方法、
<16>前記レーザー彫刻を700〜1,300nmのレーザーにより行う、上記<15>に記載のレリーフ印刷版の製版方法、
<17>彫刻後のレリーフ層表面を水又は水溶液により洗浄する洗浄工程を更に含む、上記<15>又は<16>に記載のレリーフ印刷版の製版方法、
<18>上記<15>〜<17>のいずれか1つに記載のレリーフ印刷版の製版方法により製造されたレリーフ層を有するレリーフ印刷版。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、耐薬品性に優れたレリーフ印刷版を得ることができ、彫刻カスの除去性に優れるレーザー彫刻用樹脂組成物、前記レーザー彫刻用樹脂組成物を用いたレリーフ印刷版原版、それを用いたレリーフ印刷版の製版方法、及び、それにより得られたレリーフ印刷版を提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
なお、本発明において、数値範囲を表す「下限〜上限」の記載は、「下限以上、上限以下」を表し、「上限〜下限」の記載は、「上限以下、下限以上」を表す。すなわち、上限及び下限を含む数値範囲を表す。また、「((成分A)エチレン性不飽和基を有するフィラー」等を単に「成分A」等ともいう。
【0008】
(レーザー彫刻用樹脂組成物)
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」ともいう。)は、(成分A)エチレン性不飽和基を有するフィラー、(成分B)エチレン性不飽和基を有する重合性化合物、及び、(成分C)重合開始剤、を含むことを特徴とする。
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、レーザー彫刻が施されるレリーフ印刷版原版のレリーフ形成層用途以外にも、特に限定なく、他の用途にも広範囲に適用することができる。例えば、以下に詳述する凸状のレリーフ形成をレーザー彫刻により行う印刷版原版のレリーフ形成層のみならず、表面に凹凸や開口部を形成する他の製造物、例えば、凹版、孔版、スタンプ等、レーザー彫刻により画像形成される各種印刷版や各種成形体の形成に適用することができる。
中でも、適切な支持体上に設けられるレリーフ形成層の形成に適用することが好ましい態様である。
【0009】
なお、本明細書では、レリーフ印刷版原版の説明に関し、レーザー彫刻に供する画像形成層としての、表面が平坦な層であり、かつ未架橋の架橋性層をレリーフ形成層と称し、前記レリーフ形成層を架橋した層を架橋レリーフ形成層と称し、これをレーザー彫刻して表面に凹凸を形成した層をレリーフ層と称する。
以下、レーザー彫刻用樹脂組成物の構成成分について説明する。
【0010】
<(成分A)エチレン性不飽和基を有するフィラー>
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、(成分A)エチレン性不飽和基を有するフィラーを含有する。
前記成分Aにおける「エチレン性不飽和基を有する」とは、エチレン性不飽和基を有する基又は化合物をフィラーに物理的に吸着しているか、又は、化学結合により結合していることを表す。
フィラーがエチレン性不飽和基を有することを示す方法としては、以下の確認方法が好ましく例示できる。
フィラー又はフィラー分散物10gにメチルエチルケトン100gを加えて、25℃30分撹拌した後に、蒸留してメチルエチルケトンを除去する。得られた固体を50重量倍になるようにKBrを混合した錠剤(高さ500μm、直径2mmのもの)を作製する。次いで、C=C二重結合に由来する810cm-1の波長での吸光度をFT−IR測定装置(FTS−7000、バリアン・テクノロジーズ・ジャパン(株)製)にて測定し、C=C二重結合の有無からフィラーがエチレン性不飽和基を有することを確認する。
また、樹脂組成物からフィラーを分離する方法としては、ろ過等が例示できる。また、ろ過を行う場合、必要に応じて、溶剤により粘度を調節してもよい。
【0011】
本発明におけるフィラーは、樹脂組成物中で分子分散せず、固体の状態で分散するものであれば、特に限定はない。
本発明に用いることができるフィラーとしては、有機フィラー及び無機フィラーが挙げられる。
【0012】
有機フィラーとしては、低密度ポリエチレン粒子、高密度ポリエチレン粒子、ポリスチレン粒子、各種有機顔料、マイクロバルーン、尿素−ホルマリンフィラー、ポリエステルパーティクル、セルロースフィラー、有機金属等が挙げられる。
前記有機顔料としては、公知のものが挙げられ、インジゴ系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料、染付けレーキ顔料、アジン顔料、ニトロソ顔料、ニトロ顔料、天然顔料、蛍光顔料、等が使用できる。また、無機顔料を含有していてもよい。
【0013】
無機フィラーとしては、アルミナ、チタニア、ジルコニア、カオリン、焼成カオリン、タルク、ロウ石、ケイソウ土、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛、リトポン、非晶質シリカ、コロイダルシリカ、焼成石コウ、シリカ、炭酸マグネシウム、酸化チタン、アルミナ、炭酸バリウム、硫酸バリウム、雲母、カーボンブラック等が挙げられる。
これらの中でも、カーボンブラック、シリカ、アルミナ、又は、雲母が好ましく、カーボンブラック、シリカ、又は、雲母がより好ましく、カーボンブラック、又は、シリカが特に好ましい。
【0014】
本発明に用いることができるフィラーの形状としては、特に制限はないが、球状、層状、ファイバー状、中空バルーンの形状を挙げることができる。これらの中でも、球状、又は、層状であることが好ましく、球状であることがより好ましい。
本発明に用いることができるフィラーの平均粒径(平均一次粒径)は、10nm以上10μm以下であることが好ましく、10nm以上5μm以下であることがより好ましく、50nm以上3μm以下であることが特に好ましい。上記範囲であると、樹脂組成物の安定性が良好であり、また、彫刻後における粒子状の膜ヌケの発生を抑制でき、画質に優れる。
【0015】
カーボンブラックとしては、レリーフ形成層を構成する樹脂組成物中における分散安定性などに問題がない限り、ASTMにより分類される規格の製品以外でも、カラー用、ゴム用、乾電池用などの各種用途に通常使用されるいずれのカーボンブラックも使用可能である。
ここでいうカーボンブラックには、例えば、ファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、アセチレンブラックなども包含される。なお、カーボンブラックなどの黒色着色剤は、分散を容易にするため、必要に応じて分散剤を用い、予めニトロセルロースやバインダーなどに分散させたカラーチップやカラーペーストとして、樹脂組成物の調製に使用することができ、このようなチップやペーストは市販品として容易に入手できる。
本発明においては、比較的低い比表面積及び比較的低いDBP吸収を有するカーボンブラックや、比表面積の大きい微細化されたカーボンブラックまでを使用することも可能である。
【0016】
好適なカーボンブラックの市販品の例としては、Printex U(登録商標)、Printex A(登録商標)又はSpezialschwarz 4(登録商標)(いずれもDegussa社製)、シースト600 ISAF−LS(東海カーボン(株)社製)、旭#70(N−300)(旭カーボン(株)製)、ケッチェンブラックEC600JD(ライオン(株)製)等が挙げられる。
このようなカーボンブラックの選択については、例えば、「カーボンブラック便覧」カーボンブラック協会編、を参考にすることができる。
また、カーボンブラックは、球状であることが好ましく、平均一次粒径としては、20nmより大きく80nm未満であることが好ましく、25nmより大きく70nm未満であることがより好ましい。上記範囲であると、凝集を抑制でき、分散性に優れる。
【0017】
また、層状のフィラーとしては、薄い平板状の形状を有する無機質の層状化合物が好ましく挙げられ、例えば、下記式で表される天然雲母、合成雲母等の雲母群、3MgO・4SiO・H2Oで表されるタルク、テニオライト、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、りん酸ジルコニウムなどが挙げられる。
A(B,C)2〜5410(OH,F,O)2
(式中、AはK,Na,Caのいずれかを表し、B及びCはFe(II),Fe(III),Mn,Al,Mg,Vのいずれかを表し、DはSi又はAlを表す。)
【0018】
本発明に用いることができる無機質の層状化合物の形状としては、アスペクト比が20以上であることが好ましく、100以上であることがより好ましく、200以上であることが特に好ましい。なお、アスペクト比は粒子の厚さに対する長径の比であり、たとえば、粒子の顕微鏡写真による投影図から測定することができる。アスペクト比が大きい程、得られる効果が大きい。
【0019】
本発明に用いることができる無機質の層状化合物の粒子径は、その平均長径が0.3〜20μmであることが好ましく、0.5〜10μmであることがより好ましく、1〜5μmであることが特に好ましい。また、該粒子の平均の厚さは、0.1μm以下であることが好ましく、0.05μm以下であることがより好ましく、0.01μm以下であることが特に好ましい。
例えば、無機質の層状化合物のうち、代表的化合物である膨潤性合成雲母のサイズは厚さが1〜50nm、面サイズが1〜20μm程度である。また、本発明に用いることができる雲母粒子としては、合成雲母(「ソマシフME−100」:コープケミカル(株)製、アスペクト比:1,000以上)が例示できる。
【0020】
本発明に用いることができるシリカとしては、球状シリカ粒子が好ましく、以下に示す市販品を好ましく例示できる。なお、括弧内の数値は平均粒径を表す。
日本アエロジル(株)製として、AEROSIL RM50(40nm)、R711(12nm)、R7200(12nm)、AEROSIL OX50(40nm)、50(30nm)、90G(20nm)、130(16nm)、150(14nm)、200(12nm)、200CF(12nm)、300(7nm)、380(7nm)が例示できる。
AGCエスアイテク(株)製として、サンスフェア H−31(3μm)、H−51(5μm)、H−121(12μm)、H−201(20μm)、サンスフェア L−31(3μm)、L−51(5μm)、サンスフェア NP−30(4μm)、NP−100(10μm)、NP−200(20μm)が例示できる。
日産化学工業(株)製として、メタノールシリカゾル(10〜20nm)、MA−ST−M(10〜20nm)、IPA−ST(10〜20nm)、EG−ST(10〜20nm)、EG−ST−ZL(70〜100nm)、NPC−ST(10〜20nm)、DMAC−ST(10〜20nm)、MEK−ST(10〜20nm)、XBA−ST(10〜20nm)、MIBK−ST(10〜20nm)が挙げられる。
【0021】
<フィラーへのエチレン性不飽和基又はエチレン性不飽和化合物の物理的吸着又は化学的結合>
本発明に用いることができる成分Aは、エチレン性不飽和基を有する基又は化合物をフィラーに物理的に吸着していても、化学結合により結合していてもよい。
また、本発明に用いることができる成分Aは、エチレン性不飽和基をフィラー表面に有していることが好ましい。
フィラーへのエチレン性不飽和基の導入方法としては、特に制限はなく、例えば、「金属石鹸の性質と応用」(幸書房)、「印刷インキ技術」(CMC出版、1984年刊)及び「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)に記載されている方法が例示できる。
【0022】
フィラーにエチレン性不飽和基を有する化合物を化学的に結合させる方法としては、フィラーにフィラーと反応性の化合物を反応させエチレン性不飽和基を導入する方法が挙げられる。前記フィラーと反応性の化合物は、エチレン性不飽和基を有していても、有していなくともよい。エチレン性不飽和基を有しない前記フィラーと反応性の化合物を使用した場合は、例えば、前記フィラーと反応性の化合物により、フィラーに導入された官能基に対し、エチレン性不飽和基の導入を行えばよい。
具体的には例えば、シリカ粒子等の無機粒子をシランカップリング剤により修飾することが挙げられる。
シランカップリング剤としては、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシランを挙げることができる。
【0023】
フィラーにエチレン性不飽和基を有する化合物を物理的に吸着させる方法としては、エチレン性不飽和基を有する低分子成分中にフィラーを分散させる方法、エチレン性不飽和基を有するポリマーをフィラーの分散剤として用いる方法等が挙げられる。これらの中でも、フィラーの分散性の観点から、エチレン性不飽和基を有するポリマーを分散剤として用いる方法が特に好ましい。すなわち、本発明の樹脂組成物は、エチレン性不飽和基を有するポリマーを表面に有するフィラーを含有していることが特に好ましい。
【0024】
前記エチレン性不飽和基を有するポリマーとしては、分子中にエチレン性不飽和基を有し、かつポリマーであれば、特に制限なく用いることができ、例えば、エチレン性不飽和基を有する構成単位を有する共重合体が挙げられる。
エチレン性不飽和基を有するポリマーとしては、全モノマー単位中、エチレン性不飽和基を有するモノマー単位が10〜90モル%であることが好ましく、30〜70モル%であることがより好ましく、45〜70モル%であることが最も好ましい。
また、エチレン性不飽和基を有するポリマーの重量平均分子量(Mw)は、1,000以上であり、2,000〜200,000であることが好ましく、4,000〜120,000であることがより好ましい。
前記エチレン性不飽和基としては、例えば、アリル基、シンナミル基、クロチル基、スチリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基等が挙げられる。
エチレン性不飽和基は、ポリマーの主鎖中に有していても、側鎖中に有していてもよい。また、エチレン性不飽和基のポリマーへの導入は、特に制限はなく、共重合により導入してもよいし、高分子反応により導入してもよい。
【0025】
〔エチレン性不飽和基を有するモノマー単位〕
前記エチレン性不飽和基を有するポリマーは、エチレン性不飽和基を有するモノマー単位を有することが好ましい。
前記エチレン性不飽和基を有するポリマーにエチレン性不飽和基を有するモノマー単位を導入する方法としては、二官能以上のエチレン性不飽和化合物を共重合する方法、カルボキシル基やヒドロキシ基等の反応性基を有するモノマーを共重合し、前記反応性基に高分子反応によりエチレン性不飽和基を導入する方法、エチレン性不飽和基の前駆基を有するモノマーを共重合し、前記エチレン性不飽和基の前駆基をエチレン性不飽和基に変性する方法が例示できる。これらの中でも、反応性基を有するモノマーを共重合し、前記反応性基に高分子反応によりエチレン性不飽和基を導入する方法が好ましく例示できる。
なお、本発明においては、高分子反応によりエチレン性不飽和基を導入したモノマー単位を、元のモノマー単位に高分子反応により導入された構造を含めて全体として1つのモノマー単位というものとする。
【0026】
前記反応性基を有するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシスチレン、ビニル安息香酸等が挙げられる。
本発明において、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート及び/又はメタクリレート」を意味し、「(メタ)アクリル」は「アクリル及び/又はメタクリル」を意味する。
前記高分子反応として具体的には、ポリマー中のカルボキシル基に2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシ基を有するエチレン性不飽和化合物を反応させる高分子反応や、ポリマー中のヒドロキシ基に(メタ)アクリル酸クロライド等のエチレン性不飽和基を有するカルボン酸ハロゲン化物又は(メタ)アクリル酸等のエチレン性不飽和基を有するカルボン酸を反応させる高分子反応などが例示できる。
【0027】
また、前記二官能以上のエチレン性不飽和化合物を共重合する方法の場合、二官能以上のエチレン性不飽和化合物としては、重合性の異なる2種以上のエチレン性不飽和基を有する多官能エチレン性不飽和化合物が好ましく挙げられる。多官能エチレン性不飽和化合物中のエチレン性不飽和基の重合性が異なることにより、重合を行った場合であっても、重合性の低いエチレン性不飽和基を重合後のポリマー中に残存させることが容易である。
重合性の異なる2種以上のエチレン性不飽和基を有する多官能エチレン性不飽和化合物としては、アリル基及び(メタ)アクリル基を有する化合物、スチリル基及び(メタ)アクリル基を有する化合物が例示できる。具体的には、アリル(メタ)アクリレートや4−スチリル(メタ)アクリレートが例示できる。
【0028】
〔末端にエチレン性不飽和基を有する重合性オリゴマー〕
前記エチレン性不飽和基を有するポリマーは、末端にエチレン性不飽和基を有する重合性オリゴマー(以下、「マクロモノマー」ともいう。)を共重合成分として共重合したポリマーであることが好ましい。
前記末端にエチレン性不飽和基を有する重合性オリゴマー(マクロモノマー)は、ポリマー鎖部分とその末端のエチレン性不飽和基の部分とからなる。
前記マクロモノマーにおけるエチレン性不飽和基は、ポリマー鎖の一個の末端(以下、「片末端」ともいう。)にのみ有することが好ましい。
前記末端にエチレン性不飽和基を有する重合性オリゴマーの分子量としては、ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が、1,000〜20,000であることが好ましく、2,000〜10,000であることがより好ましい。上記範囲であると、フィラーの分散剤としての十分な立体反発効果を保持できる。
【0029】
前記末端にエチレン性不飽和基を有する重合性オリゴマーにおいて、前記ポリマー鎖部分としては、アルキル(メタ)アクリレート、スチレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル及びブタジエンよりなる群から選ばれた少なくとも1種のモノマーから形成される単独重合体又は共重合体であることが好ましい。これらの中でも、アルキル(メタ)アクリレートの単独重合体若しくは共重合体、又は、ポリスチレンが好適に挙げられる。
前記末端にエチレン性不飽和基を有する重合性オリゴマーにおいて、前記エチレン性不飽和基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基が好ましく、(メタ)アクリロイル基が特に好ましい。
本発明において、前記末端にエチレン性不飽和基を有する重合性オリゴマーは、置換基で置換されていてもよく、該置換基としては、特に制限はないが、例えば、ハロゲン原子などが挙げられる。
前記末端にエチレン性不飽和基を有する重合性オリゴマーの好ましい具体例としては、ポリスチレン、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリ−n−ブチル(メタ)アクリレート、及びポリ−i−ブチル(メタ)アクリレート等の、分子の片末端に(メタ)アクリロイル基が結合したポリマーが好適に挙げられる。
【0030】
前記末端にエチレン性不飽和基を有する重合性オリゴマーとしては、市販品であってもよく、適宜合成したものであってもよい。
前記市販品としては、例えば、片末端メタクリロイル化ポリスチレンオリゴマー(Mn=6,000、商品名:AS−6、東亞合成(株)製)、片末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレートオリゴマー(Mn=6,000、商品名:AA−6、東亞合成(株)製)、片末端メタクリロイル化ポリ−n−ブチルアクリレートオリゴマー(Mn=6,000、商品名:AB−6、東亞合成(株)製)などが挙げられる。
また、後者としては、片末端メタクリロイル化ポリメチル(メタ)アクリレート共重合体、片末端メタクリロイル化ポリスチレン共重合体、片末端メタクリロイル化ポリ−n−ブチル(メタ)アクリレート共重合体、片末端メタクリロイル化メチル(メタ)アクリレート及びヒドロキシエチル(メタ)アクリレートの共重合体、片末端メタクリロイル化n−ブチル(メタ)アクリレートとヒドロキシエチル(メタ)アクリレートの共重合体の共重合体、片末端メタクリロイル化2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート及びヒドロキシエチル(メタ)アクリレートの共重合体、片末端メタクリロイル化スチレン及びアクリロニトリルの共重合体、片末端メタクリロイル化ポリエチレングリコール共重合体、片末端メタクリロイル化ポリプロピレングリコール共重合体、片末端メタクリロイル化ポリε−カプロラクトン共重合体などが挙げられる。
【0031】
〔吸着部位を有するモノマー単位〕
前記エチレン性不飽和基を有するポリマーは、吸着部位を有するモノマー単位を有することが好ましい。
前記吸着部位とは、使用したフィラーに物理的に吸着可能な部位である。
前記吸着部位としては、含窒素複素環基が好ましく挙げられる。
前記含窒素複素環基としては、ピリジン環、イミダゾリン環、ピラゾリン環、イミダゾール環、ピリミジン環、トリアゾール環、テトラゾール環、チアゾール環、オキサゾール環、ベンズイミダゾール環、ベンズチアゾール環、ベンズオキサゾール環、プリン環、キナゾリン環及びペリミジン環よりなる群から選ばれた環から1以上の水素原子を除いた基が好ましく例示できる。
前記含窒素複素環基は、置換基を有していてもよく、該置換基としては、例えば、ハロゲン原子、カルボキシル基、カルボニルオキシ基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アミド基、メルカプト基、アルキルチオ基等が挙げられる。
【0032】
前記吸着部位を有するモノマー単位を形成するモノマーとしては、下記式(Ad−1)で表されるモノマーが好ましい。
【0033】
【化1】

(式(Ad−1)中、R1は、水素原子、又は、置換若しくは無置換のアルキル基を表し、R2は、単結合、又は、二価の連結基を表し、Xは、−CO−、−C(=O)O−、−CONH−、−OC(=O)−、又は、フェニレン基を表し、Aは、置換又は無置換の含窒素複素環基を表す。)
【0034】
前記式(Ad−1)において、R1は、水素原子、又は、置換若しくは無置換のアルキル基を表す。前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、フェニル基、ベンジル基等を挙げることができる。これらの中でも、メチル基が好ましい。前記アルキル基は、置換基を有していてもよく、該置換基としては、例えば、ハロゲン原子(塩素原子、臭素原子等)、カルボキシル基、カルボニルオキシ基、アルコキシ基、アルキルチオ基等が好適に挙げられる。これらの中でも、ハロゲン原子が好ましい。
前記式(Ad−1)において、R2は、単結合、又は、二価の連結基を表す。前記二価の連結基としては、複素原子を介していてもよい炭素数1〜12の置換又は無置換のアルキレン基を表し、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基、−CH2CH2O−、−CH2CH2OCH2CH2O−、−(CH23O(CH23O−等を挙げることができる。これらの中でも、後述する含窒素複素環基を導入する際のいわゆるスペーサーとして機能する観点から、エチレン基、トリメチレン基、−CH2CH2O−が好ましい。
前記式(Ad−1)において、Xは、−CO−、−C(=O)O−、−CONH−、−OC(=O)−、又は、フェニレン基を表す。これらの中でも、−C(=O)O−、−CONH−、又は、フェニレン基が好ましい。
【0035】
前記式(Ad−1)において、Aは、置換又は無置換の含窒素複素環基を表す。Aとしては、置換又は無置換の、ピリジル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、トリアゾリル基及びテトラゾリル基よりなる群から選択された基であることが好ましい。前記含窒素複素環基は、置換基を有していてもよく、該置換基としては、例えば、ハロゲン原子、カルボキシル基、カルボニルオキシ基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アミド基、メツカプト基、アルキルチオ基等が挙げられる。前記含窒素複素環基は、吸着基として優れており、該フィラーの分散性を高める観点から、好ましく用いられる。また、スペーサーとして機能する前記R2を介して、前記含窒素複素環基を導入することにより、更にフィラーの分散性に対する効果が高まる。
【0036】
以下に、前記式(Ad−1)で表されるモノマーの好ましい具体例(モノマー1〜モノマー18)を示すが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0037】
【化2】

【0038】
【化3】

【0039】
【化4】

【0040】
前記エチレン性不飽和基を有するポリマーは、前記式(Ad−1)で表されるモノマーのうち少なくとも1種を共重合した共重合体を含むことが好ましい。
すなわち、前記エチレン性不飽和基を有するポリマーは、下記式(Ad−1’)で表されるモノマー単位を少なくとも有することが好ましい。
【0041】
【化5】

【0042】
式(Ad−1’)におけるR1、R2、X及びAは、前記式(Ad−1)におけるR1、R2、X及びAと同義であり、好ましい態様も同様である。
前記エチレン性不飽和基を有するポリマーにおいては、前記式(Ad−1’)で表されるモノマー単位は、1種単独で含まれてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
前記エチレン性不飽和基を有するポリマーにおける前記式(Ad−1’)で表されるモノマー単位の含有量は、ポリマーの全重量に対し、3〜70重量%の割合で含有されることが好ましく、5〜50重量%の割合で含有されることがより好ましく、10〜40重量%の割合で含有されることが特に好ましい。上記範囲であると、フィラーの凝集が抑制でき、フィラーの分散性に優れる。
【0043】
また、前記吸着部位を有するモノマー単位を形成するモノマーとしては、下記式(Ad−2)で表されるモノマーが好ましい。
【0044】
【化6】

(式(Ad−2)中、R1は、水素原子、又は、置換若しくは無置換のアルキル基を表し、R2は、アルキレン基を表し、Wは、−CO−、−C(=O)O−、−CONH−、−OC(=O)−、又は、フェニレン基を表し、Xは、−O−、−S−、−C(=O)O−、−CONH−、−C(=O)S−、−NHCONH−、−NHC(=O)O−、−NHC(=O)S−、−OC(=O)−、−OCONH−、又は、−NHCO−を表し、Yは、−NR3−、−O−、−S−、又は、−N=を表し、これと隣接する原子団を介してN原子と連結して環状構造を形成しており、R3は、水素原子、アルキル基、又は、アリール基を表し、m及びnはそれぞれ独立に、0又は1を表す。)
【0045】
式(Ad−2)におけるR1は、水素原子、又は、置換若しくは無置換のアルキル基を表す。
1で表されるアルキル基としては、炭素数1〜12のアルキル基が好ましく、炭素数1〜8のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜4のアルキル基が特に好ましい。
1で表されるアルキル基が置換アルキル基である場合、導入可能な置換基としては、例えば、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、ハロゲン基等が挙げられる。
1で表される好ましいアルキル基として具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシプロピル基、2−メトキシエチル基等が挙げられる。
1としては、水素原子、又は、炭素数1〜4のアルキル基が特に好ましい。
【0046】
式(Ad−2)におけるR2は、アルキレン基を表す。
2で表されるアルキレン基としては、炭素数1〜12のアルキレン基が好ましく、炭素数1〜8のアルキレン基がより好ましく、炭素数1〜4のアルキレン基が特に好ましい。
2で表されるアルキレン基は、導入可能な場合には置換基を有していてもよく、該置換基としては、例えば、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基等が挙げられる。
2で表される好ましいアルキレン基として具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基等が挙げられる。
【0047】
Wは、−CO−、−C(=O)O−、−CONH−、−OC(=O)−、又は、フェニレン基を表し、−C(=O)O−、−CONH−、又は、フェニレン基であることが好ましい。
Yは、−NR3−、−O−、−S−、又は、−N=を表し、これと隣接する原子団を介してN原子と連結して環状構造を形成する。
3は、水素原子、アルキル基、又は、アリール基を表す。R3で表されるアルキル基としては、炭素数1〜12のアルキル基などが好適に挙げられ、R3で表されるアリール基としては、フェニル基、ナフチル基などが好適に挙げられる。
3は、水素原子、又は、炭素数1〜4のアルキル基であることがより好ましく、水素原子、又は、メチル基であることが特に好ましい。
Yとしては、−S−、−NH−、又は、−N=であることが特に好ましい。
Yが、これと隣接する原子団を介してN原子と連結して形成する環状構造としては、イミダゾール環、ピリミジン環、トリアゾール環、テトラゾール環、チアゾール環、オキサゾール環等の単環構造、及び、ベンズイミダゾール環、ベンズチアゾール環、ベンズオキサゾール環、プリン環、キナゾリン環、ペリミジン環等の縮合環構造が挙げられる。フィラーとの親和性の点から、縮合環構造であることが好ましい。縮合環構造うち、ベンズイミダゾール環、ベンズチアゾール環、及び、ベンズオキサゾール環が特に好ましく挙げられる。
Xは、−O−、−S−、−C(=O)O−、−CONH−、−C(=O)S−、−NHCONH−、−NHC(=O)O−、−NHC(=O)S−、−OC(=O)−、−OCONH−、又は、−NHCO−を表す。Xとしては、−O−、−S−、−CONH−、−NHCONH−、又は、−NHC(=O)S−が特に好ましい。
m及びnはそれぞれ独立に、0又は1を表し、m及びnが共に1であることが特に好ましい。
【0048】
前記式(Ad−2)で表されるモノマーの好ましい具体例(モノマーM−1〜モノマーM−18)を以下に挙げるが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0049】
【化7】

【0050】
【化8】

【0051】
前記エチレン性不飽和基を有するポリマーは、前記式(Ad−2)で表されるモノマーのうち少なくとも1種を共重合した共重合体を含むことが好ましい。
すなわち、前記エチレン性不飽和基を有するポリマーは、下記式(Ad−2’)で表されるモノマー単位を少なくとも有することが好ましい。
【0052】
【化9】

【0053】
式(Ad−2’)におけるR1、R2、W、X、Y、m及びnは、前記式(Ad−2)におけるR1、R2、W、X、Y、m及びnと同義であり、好ましい態様も同様である。
前記エチレン性不飽和基を有するポリマーにおいては、前記式(Ad−2’)で表されるモノマー単位は、1種単独で含まれてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
前記エチレン性不飽和基を有するポリマーにおける前記式(Ad−2’)で表されるモノマー単位の含有量は、ポリマーの全重量に対し、2〜50重量%であることが好ましい。
【0054】
〔その他の共重合体〕
前記エチレン性不飽和基を有するポリマーは、その効果を損なわない範囲において、前述した以外の共重合可能なモノマーを共重合成分として更に含んでいてもよい。
本発明に用いることができるモノマーとしては、特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリル酸エステル類、クロトン酸エステル類、ビニルエステル類、マレイン酸ジエステル類、フマル酸ジエステル類、イタコン酸ジエステル類、(メタ)アクリルアミド類、ビニルエーテル類、ビニルアルコールのエステル類、スチレン類、(メタ)アクリロニトリルなどが好ましい。
このようなモノマーの具体例としては、例えば、以下のような化合物が挙げられる。
【0055】
(メタ)アクリル酸エステル類の例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸t−オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸アセトキシエチル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−(2−メトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸3−フェノキシ−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジエチレングリコールモノメチルエーテル、(メタ)アクリル酸ジエチレングリコールモノエチルエーテル、(メタ)アクリル酸トリエチレングリコールモノメチルエーテル、(メタ)アクリル酸トリエチレングリコールモノエチルエーテル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールモノエチルエーテル、(メタ)アクリル酸β−フェノキシエトキシエチル、(メタ)アクリル酸ノニルフェノキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸オクタフルオロペンチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロオクチルエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸トリブロモフェニル、及び、(メタ)アクリル酸トリブロモフェニルオキシエチルなどが挙げられる。
【0056】
クロトン酸エステル類の例としては、クロトン酸ブチル、及び、クロトン酸ヘキシル等が挙げられる。
ビニルエステル類の例としては、ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、ビニルブチレート、ビニルメトキシアセテート、及び、安息香酸ビニルなどが挙げられる。
マレイン酸ジエステル類の例としては、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、及び、マレイン酸ジブチルなどが挙げられる。
フマル酸ジエステル類の例としては、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、及び、フマル酸ジブチルなどが挙げられる。
イタコン酸ジエステル類の例としては、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、及び、イタコン酸ジブチルなどが挙げられる。
【0057】
(メタ)アクリルアミド類としては、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−n−ブチルアクリル(メタ)アミド、N−t−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−シクロヘキシル(メタ)アクリルアミド、N−(2−メトキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−フェニル(メタ)アクリルアミド、N−ベンジル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、及び、ジアセトンアクリルアミドなどが挙げられる。
【0058】
スチレン類の例としては、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブチルスチレン、ヒドロキシスチレン、メトキシスチレン、ブトキシスチレン、アセトキシスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、ブロモスチレン、クロロメチルスチレン、酸性物質により脱保護可能な基(例えばt−Boc基(t−ブトキシカルボニル基)など)で保護されたヒドロキシスチレン、ビニル安息香酸メチル、及び、α−メチルスチレンなどが挙げられる。
ビニルエーテル類の例としては、メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、及び、メトキシエチルビニルエーテルなどが挙げられる。
【0059】
以下に、本発明好適に用いることができるエチレン性不飽和基を有するポリマーの具体例B−1〜15を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
【化10】

【0061】
【化11】

【0062】
【化12】

【0063】
〔フィラーの分散方法〕
フィラーにエチレン性不飽和基を有する化合物で表面処理する方法としては、インク製造やトナー製造等に用いられる公知の分散技術が使用できる。分散機としては、超音波分散器、サンドミル、アトライター、パールミル、スーパーミル、ボールミル、インペラー、デスパーザー、KDミル、コロイドミル、ダイナトロン、3本ロールミル、加圧ニーダー等が挙げられる。詳細は、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)に記載されている。
また、本発明に用いることができるフィラーの分散安定性を改良するための高分子を添加してもよい。これらの高分子(所謂分散剤)の例としては、ポリビニルアルコール、アクリルアミド/アクリル酸の共重合物、スチレン/無水マレイン酸共重合物、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0064】
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物における(成分A)エチレン性不飽和基を有するフィラーの添加量は、樹脂組成物の全固形分量(溶剤を除いた量)に対し、1〜20重量%が好ましく、3〜15重量%がより好ましく、5〜10重量%が特に好ましい。上記範囲であると、彫刻カス除去性及び耐薬品性に優れ、また、画像部と非画像部の端部が粒状になることを抑制でき、画質に優れる。また、前記エチレン性不飽和基を有するポリマー等の分散剤を用いる場合は、フィラーと分散剤との総量が上記の添加量の範囲内に入っていることが好ましい。
【0065】
<(成分B)エチレン性不飽和基を有する重合性化合物>
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、(成分B)エチレン性不飽和基を有する重合性化合物を含有する。
本発明に用いることができるエチレン性不飽和基を有する重合性化合物(「エチレン性不飽和化合物」ともいう。)は、エチレン性不飽和基を少なくとも1個、好ましくは2個以上、より好ましくは2〜6個有する化合物の中から任意に選択することができる。
また、本発明に用いることができるエチレン性不飽和基を有する重合性化合物は、2以上の(メタ)アクリル基を有する化合物であることが好ましく、2以上の(メタ)アクリロキシ基を有する化合物であることがより好ましい。
【0066】
以下、エチレン性不飽和基を有する重合性化合物として用いられる、エチレン性不飽和基を1つ有する単官能モノマー、及び、エチレン性不飽和基を2個以上有する多官能モノマーについて説明する。
本発明の樹脂組成物は、膜中に架橋構造を形成するため、多官能モノマーが好ましく使用される。多官能モノマーの分子量としては、200〜2,000であることが好ましい。
単官能モノマーとしては、不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸等)と一価アルコール化合物とのエステル、不飽和カルボン酸と一価アミン化合物とのアミド等が挙げられる。また、多官能モノマーとしては、不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸等)と多価アルコール化合物とのエステル、不飽和カルボン酸と多価アミン化合物とのアミド等が挙げられる。
また、ヒドロキシル基やアミノ基、メルカプト基等の求核性置換基を有する不飽和カルボン酸エステル又はアミド類と単官能若しくは多官能イソシアネート類又はエポキシ類との付加反応物、及び、単官能若しくは多官能のカルボン酸との脱水縮合反応物等も好適に使用される。
【0067】
多官能モノマーとしては、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アルコール化合物とのエステルが例示できる。
その具体例としては、アクリル酸エステルとして、エチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、テトラメチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリ(アクリロイルオキシプロピル)エーテル、トリメチロールエタントリアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールジアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ソルビトールトリアクリレート、ソルビトールテトラアクリレート、ソルビトールペンタアクリレート、ソルビトールヘキサアクリレート、トリ(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ポリエステルアクリレートオリゴマー等が例示できる。
【0068】
メタクリル酸エステルとして、テトラメチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールジメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、ソルビトールトリメタクリレート、ソルビトールテトラメタクリレート、ビス〔p−(3−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕ジメチルメタン、ビス−〔p−(メタクリルオキシエトキシ)フェニル〕ジメチルメタン等が例示できる。
【0069】
イタコン酸エステルとしては、エチレングリコールジイタコネート、プロピレングリコールジイタコネート、1,3−ブタンジオールジイタコネート、1,4−ブタンジオールジイタコネート、テトラメチレングリコールジイタコネート、ペンタエリスリトールジイタコネート、ソルビトールテトライタコネート等が例示できる。
クロトン酸エステルとしては、エチレングリコールジクロトネート、テトラメチレングリコールジクロトネート、ペンタエリスリトールジクロトネート、ソルビトールテトラクロトネート等が例示できる。
イソクロトン酸エステルとしては、エチレングリコールジイソクロトネート、ペンタエリスリトールジイソクロトネート、ソルビトールテトライソクロトネート等が例示できる。
マレイン酸エステルとしては、エチレングリコールジマレート、トリエチレングリコールジマレート、ペンタエリスリトールジマレート、ソルビトールテトラマレート等が例示できる。
【0070】
その他のエステルの例として、例えば、特公昭46−27926号、特公昭51−47334号、特開昭57−196231号の各公報記載の脂肪族アルコール系エステル類や、特開昭59−5240号、特開昭59−5241号、特開平2−226149号の各公報記載の芳香族系骨格を有するもの、特開平1−165613号公報記載のアミノ基を含有するもの等も好適に用いられる。
【0071】
また、脂肪族多価アミン化合物と不飽和カルボン酸とのアミドのモノマーの具体例としては、メチレンビスアクリルアミド、メチレンビスメタクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビスアクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビスメタクリルアミド、ジエチレントリアミントリスアクリルアミド、キシリレンビスアクリルアミド、キシリレンビスメタクリルアミド等がある。
その他の好ましいアミド系の多官能エチレン性不飽和化合物の例としては、特公昭54−21726号公報記載のシクロへキシレン構造を有すものを挙げることができる。
【0072】
また、イソシアネートと水酸基の付加反応を用いて製造されるウレタン系付加多官能モノマーも多官能エチレン性不飽和化合物として好適であり、そのような具体例としては、例えば、特公昭48−41708号公報中に記載されている1分子に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物と、下記式(A)で示される水酸基を含有するエチレン性不飽和化合物を付加させた1分子中に2個以上のエチレン性不飽和基を含有するウレタン系の多官能エチレン性不飽和化合物等が挙げられる。
CH2=C(R)COOCH2CH(R’)OH (A)
(ただし、R及びR’は、H又はCH3を示す。)
【0073】
また、特開昭51−37193号、特公平2−32293号、特公平2−16765号の各公報に記載されているようなウレタンアクリレート類や、特公昭58−49860号、特公昭56−17654号、特公昭62−39417号、特公昭62−39418号の各公報記載のエチレンオキサイド鎖を有するウレタン系の多官能エチレン性不飽和化合物も好適である。
更に、特開昭63−277653号、特開昭63−260909号、特開平1−105238号の各公報に記載される、分子内にアミノ構造やスルフィド構造を有する多官能エチレン性不飽和化合物類を用いることにより、短時間で架橋した樹脂組成物を得ることができる。
【0074】
その他の多官能エチレン性不飽和化合物の例としては、特開昭48−64183号、特公昭49−43191号、特公昭52−30490号各公報に記載されているようなポリエステルアクリレート類、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸を反応させたエポキシアクリレート類等の多官能のアクリレートやメタクリレートを挙げることができる。また、特公昭46−43946号、特公平1−40337号、特公平1−40336号の各公報記載の特定の不飽和化合物や、特開平2−25493号公報記載のビニルホスホン酸系化合物等も挙げることができる。また、ある場合には、特開昭61−22048号公報記載のペルフルオロアルキル基を含有する構造が好適に使用される。更に日本接着協会誌vol.20、No.7、300〜308ページ(1984年)に光硬化性モノマー及びオリゴマーとして紹介されているものも使用することができる。
【0075】
本発明に用いることができるラジカル重合性化合物としては、飽和橋かけ環式多官能モノマーも例示できる。
飽和橋かけ環式多官能モノマーとしては、メタクリロイルオキシ基又はアクリロイルオキシ基を2つ有するビシクロ環、トリシクロ環構造を有する化合物等の縮環構造を有する脂環式多官能モノマーを用いることが物性を制御する観点から好ましい。
ビシクロ環、トリシクロ環構造としては、ノルボルネン骨格(ビシクロ[2.2.1]ヘプタン)、ジシクロペンタジエン骨格(トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン)、アダマンタン骨格(トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン)等の縮環構造の脂環式炭化水素構造が挙げられる。
飽和橋かけ環式多官能モノマーとしては、ビシクロ環、トリシクロ環部分にアミノ基が直接結合していてもよく、また、メチレン、エチレン等のアルキレン等の脂肪族部分を介して結合していてもよい。更に、これら縮環構造の脂環族炭化水素基の水素原子が、アルキル基等で置換されていてもよい。
本発明において、飽和橋かけ環式多官能モノマーとしては、下記より選択される脂環式多官能モノマーであることが好ましい。
【0076】
【化13】

【0077】
また、エチレン性不飽和基を有する重合性化合物としては、イソシアネート基や、エポキシ基等の親電子性置換基を有する不飽和カルボン酸エステル又はアミド類と単官能若しくは多官能のアルコール類、アミン類又はチオール類との付加反応物、更にハロゲノ基や、トシルオキシ基等の脱離性置換基を有する不飽和カルボン酸エステル又はアミド類と単官能若しくは多官能のアルコール類、アミン類又はチオール類との置換反応物も好適である。
また、別の例として、上記の不飽和カルボン酸の代わりに、不飽和ホスホン酸、スチレン、ビニルエーテル等に置き換えた化合物群を使用することも可能である。
エチレン性不飽和基を有する重合性化合物としては、特に制限はなく、前記例示した化合物の他、公知の種々の化合物を用いることができ、例えば、特開2009−204962号公報の段落0098〜0124に記載の化合物などを使用してもよい。
【0078】
本発明においては、エチレン性不飽和基を有する重合性化合物として、彫刻感度向上の観点から、分子内に硫黄原子を有する化合物を用いることが好ましい。
このように分子内に硫黄原子を有するエチレン性不飽和化合物としては、彫刻感度向上の観点から、特に、2つ以上のエチレン性不飽和結合を有し、そのうち2つのエチレン性不飽和結合間を連結する部位に炭素−硫黄結合を有するラジカル重合性化合物(以下、適宜、「含硫黄多官能モノマー」ともいう。)を用いることが好ましい。
本発明における含硫黄多官能モノマー中の炭素−硫黄結合を含んだ官能基としては、スルフィド、ジスルフィド、スルホキシド、スルホニル、スルホンアミド、チオカルボニル、チオカルボン酸、ジチオカルボン酸、スルファミン酸、チオアミド、チオカルバメート、ジチオカルバメート、又は、チオ尿素を含む官能基が挙げられる。
また、含硫黄多官能モノマーにおける2つのエチレン性不飽和結合間を連結する炭素−硫黄結合を含有する連結基としては、−C−S−、−C−SS−、−NHC(=S)O−、−NHC(=O)S−、−NHC(=S)S−、及び、−C−SO2−から選択される少なくとも1つのユニットを含む連結基であることが好ましい。
【0079】
また、含硫黄多官能モノマーの分子内に含まれる硫黄原子の数は1つ以上であれば特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、彫刻感度と塗布溶剤に対する溶解性のバランスの観点から、1〜10個が好ましく、1〜5個がより好ましく、1又は2個が更に好ましい。
一方、分子内に含まれるエチレン性不飽和部位の数は2つ以上であれば特に制限は無く、目的に応じて、適宜選択することができるが、架橋膜の柔軟性の観点で、2〜10個が好ましく、2〜6個がより好ましく、2〜4個が更に好ましい。
【0080】
本発明における含硫黄多官能モノマーの分子量としては、形成される膜の柔軟性の観点から、120〜3,000であることが好ましく、120〜1,500であることがより好ましい。
また、本発明における含硫黄多官能モノマーは単独で用いてもよいが、分子内に硫黄原子を持たない多官能重合性化合物や単官能重合性化合物との混合物として用いてもよい。
分子内に硫黄原子を有する重合性化合物の具体例としては、例えば、特開2009−255510号公報の段落0032〜0037に記載のものを例示でき、ここに記載の化合物を本発明に使用してもよい。
【0081】
本発明の樹脂組成物における成分Bは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の樹脂組成物中に含まれる成分Bの含有量は、全固形分量に対して、2〜50重量%が好ましく、5〜30重量%がより好ましく、10〜20重量%が特に好ましい。
【0082】
<(成分C)重合開始剤>
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、(成分C)重合開始剤を含有する。
重合開始剤は、当業者間で公知のものを制限なく使用することができるが、ラジカル重合開始剤であることが好ましい。
以下、好ましい重合開始剤であるラジカル重合開始剤について詳述するが、本発明はこれらの記述により制限を受けるものではない。
また、ラジカル重合開始剤としては、光ラジカル重合開始剤であっても、熱ラジカル重合開始剤であってもよいが、熱ラジカル重合開始剤であることが好ましい。
【0083】
本発明において、好ましいラジカル重合開始剤としては、(a)芳香族ケトン類、(b)オニウム塩化合物、(c)有機過酸化物、(d)チオ化合物、(e)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(f)ケトオキシムエステル化合物、(g)ボレート化合物、(h)アジニウム化合物、(i)メタロセン化合物、(j)活性エステル化合物、(k)炭素ハロゲン結合を有する化合物、(l)アゾ系化合物等が挙げられる。以下に、上記(a)〜(l)の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0084】
本発明においては、彫刻感度と、レリーフ印刷版原版のレリーフ形成層に適用した際にはレリーフエッジ形状を良好とするといった観点から、(c)有機過酸化物及び(l)アゾ系化合物がより好ましく、(c)有機過酸化物が特に好ましい。
【0085】
前記(a)芳香族ケトン類、(b)オニウム塩化合物、(d)チオ化合物、(e)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(f)ケトオキシムエステル化合物、(g)ボレート化合物、(h)アジニウム化合物、(i)メタロセン化合物、(j)活性エステル化合物、及び(k)炭素ハロゲン結合を有する化合物としては、特開2008−63554号公報の段落0074〜0118に挙げられている化合物を好ましく用いることができる。
また、(c)有機過酸化物及び(l)アゾ系化合物としては、以下に示す化合物が好ましい。
【0086】
(c)有機過酸化物
本発明に用いることができるラジカル重合開始剤として好ましい(c)有機過酸化物としては、3,3’,4,4’−テトラ(ターシャリーブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラ(ターシャリーアミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラ(ターシャリーヘキシルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラ(ターシャリーオクチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラ(クミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラ(p−イソプロピルクミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、ジ−ターシャリーブチルジパーオキシイソフタレートなどの過酸化エステル系が好ましい。
【0087】
(l)アゾ系化合物
本発明に用いることができるラジカル重合開始剤として好ましい(l)アゾ系化合物としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビスプロピオニトリル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミドオキシム)、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)等を挙げることができる。
【0088】
なお、本発明においては、前記(c)有機過酸化物が本発明における重合開始剤として、膜(レリーフ形成層)の架橋性及び彫刻感度向上の観点で特に好ましい。
【0089】
彫刻感度の観点からは、この(c)有機過酸化物と、(成分D)バインダーポリマーとしてガラス転移温度が常温(20℃)以上のポリマーとを組み合わせた態様が特に好ましい。
これは、有機過酸化物を用いてレリーフ形成層を熱架橋により硬化させる際、ラジカル発生に関与しない未反応の有機過酸化物が残存するが、残存した有機過酸化物は、自己反応性の添加剤として働き、レーザー彫刻時に発熱的に分解する。その結果、照射されたレーザーエネルギーに発熱分が加算されるので彫刻感度が高くなったと推定される。
特にバインダーポリマーのガラス転移温度が室温以上の場合、有機過酸化物の分解に由来して発生した熱が、バインダーポリマーに効率よく伝達され、かつバインダーポリマー自体の熱分解に有効に利用されるためより高感度化されるものと推定している。
なお、光熱変換剤の説明において詳述するが、この効果は、光熱変換剤としてカーボンブラックを用いる場合に著しい。これは、カーボンブラックから発生した熱が(c)有機過酸化物にも伝達される結果、カーボンブラックだけでなく有機過酸化物からも発熱するため、バインダーポリマー等の分解に使用されるべき熱エネルギーの発生が相乗的に生じるためと考えている。
【0090】
また、好ましい併用成分として、有機過酸化物と後述する光熱変換剤とを組み合わせて用いることで、彫刻感度が極めて高くなるのでより好ましく、有機過酸化物と光熱変換剤であるカーボンブラックとを組み合わせて用いた態様が最も好ましい。
これは、有機過酸化物を用いてレリーフ形成層を熱架橋により硬化させる際、ラジカル発生に関与しない未反応の有機過酸化物が残存するが、残存した有機過酸化物は、自己反応性の添加剤として働き、レーザー彫刻時に発熱的に分解する。その結果、照射されたレーザーエネルギーに発熱分が加算されるので彫刻感度が高くなると推定される。
なお、光熱変換剤の説明において記述したが、この効果は、光熱変換剤としてカーボンブラックを用いる場合に著しい。これは、カーボンブラックから発生した熱が有機過酸化物にも伝達される結果、カーボンブラックだけでなく有機過酸化物からも発熱し、成分B等の分解に使用されるべき熱エネルギーの発生が相乗的に生じるためと考えている。
【0091】
本発明の樹脂組成物における成分Cは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の樹脂組成物中に含まれる成分Cの含有量は、全固形分量に対して、0.1〜5重量%が好ましく、0.3〜3重量%がより好ましく、0.5〜1.5重量%が特に好ましい。
【0092】
<(成分D)バインダーポリマー>
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、(成分D)バインダーポリマー(以下、単に「バインダー」ともいう。)を含有することが好ましい。
バインダーポリマーは、レーザー彫刻用樹脂組成物に含有される高分子成分である。
バインダーポリマーの数平均分子量(Mn)としては、500〜50万であることが好ましい。
また、バインダーポリマーの重量平均分子量(GPC測定によるポリスチレン換算)は、1,000以上が好ましく、0.5万〜50万がより好ましく、1万〜40万が更に好ましく、1.5万〜30万が特に好ましい。
バインダーとしては、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレア樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ヒドロキシエチレン単位を含む親水性ポリマー、アクリル樹脂、アセタール樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ゴム、熱可塑性エラストマーなどが例示できる。
【0093】
本発明に用いることができるバインダーポリマーとしては、前記縮合性基と反応可能な基を有するバインダーポリマーであることが好ましい。
前記縮合性基と反応可能な基としては、特に限定されず、ヒドロキシル基、アルコキシ基、加水分解性シリル基及びシラノール基が好ましく用いられる。
これらの官能基は、ポリマー分子中のいずれかに存在すればよいが、特にポリマー鎖の側鎖に存在することが好ましい。このようなポリマーとしては、ビニル共重合体(ポリビニルアルコールやポリビニルアセタールなどのビニルモノマーの共重合体及びその誘導体)やアクリル樹脂(ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどのアクリル系モノマーの共重合体及びその誘導体)が好ましく用いられる。ここで、ビニルモノマーの共重合体の誘導体とは、具体的には、ビニルアルコール単位の水酸基あるいは水酸基のα位を化学修飾して側鎖を延長した形態とし、その末端に水酸基やカルボキシル基といった官能基を導入したバインダーポリマーのことを指す。
本発明に用いることができるバインダーポリマーとしては、ヒドロキシ基を有するバインダーポリマーが特に好ましく用いられる。
【0094】
〔ヒドロキシル基を有するバインダーポリマー〕
以下、ヒドロキシル基を有するバインダーポリマー(以下、適宜、「特定ポリマー」ともいう。)について説明する。このバインダーポリマーは水不溶、かつ、炭素数1〜4のアルコールに可溶のバインダーポリマーであることが好ましい。
【0095】
特定ポリマーとして、水性インキ適性とUVインキ適性を両立しつつ、かつ彫刻感度が高く皮膜性も良好であるという観点で、ポリビニルブチラール(PVB)及びその誘導体、側鎖にヒドロキシル基を有するアクリル樹脂、及び、側鎖にヒドロキシ基を有するエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0096】
本発明に用いることができる特定ポリマーは、本発明においてレリーフ形成層を構成するレーザー彫刻用樹脂組成物の好ましい併用成分である、後述する光熱変換剤と組み合わせた場合に、ガラス転移温度(Tg)が20℃以上のものとすることで、彫刻感度が向上するため、特に好ましい。このようなガラス転移温度を有するバインダーポリマーを以下、非エラストマーと称する。即ち、エラストマーとは、一般的に、ガラス転移温度が常温以下のポリマーであるとして学術的に定義されている(科学大辞典 第2版、編者 国際科学振興財団、発行 丸善株式会社、P154参照)。従って、非エラストマーとはガラス転移温度が常温を超える温度であるポリマーを指す。バインダーポリマーのガラス転移温度の上限には制限はないが、200℃以下であることが取り扱い性の観点から好ましく、25℃以上120℃以下であることがより好ましい。
【0097】
ガラス転移温度が室温(20℃)以上のポリマーを用いる場合、特定ポリマーは常温ではガラス状態をとるが、このためゴム状態をとる場合に比較して、熱的な分子運動はかなり抑制された状態にある。レーザー彫刻においては、レーザー照射時に、赤外線レーザーが付与する熱に加え、所望により併用される光熱変換剤の機能により発生した熱が、周囲に存在する特定ポリマーに伝達され、これが熱分解、消散して、結果的に彫刻されて凹部が形成される。
本発明の好ましい態様では、特定ポリマーの熱的な分子運動が抑制された状態の中に光熱変換剤が存在すると特定ポリマーへの熱伝達と熱分解が効果的に起こるものと考えられ、このような効果によって彫刻感度が更に増大したものと推定される。
特定ポリマーの特に好ましい態様である非エラストマーの具体例を以下に挙げる。
【0098】
(1)ポリビニルアセタール誘導体
本明細書においては、以下、ポリビニルアセタール及びその誘導体を単にポリビニルアセタール誘導体ともいう。すなわち、本明細書においてポリビニルアセタール誘導体は、ポリビニルアセタール及びその誘導体を包含する概念で使用され、ポリビニルアルコール(ポリ酢酸ビニルを鹸化して得られる。)を環状アセタール化することにより得られる化合物の総称を示す。
ポリビニルアセタール誘導体中のアセタール含量(原料の酢酸ビニルモノマーの総モル数を100%とし、アセタール化されるビニルアルコール単位のモル%)は、30〜90%が好ましく、50〜85%がより好ましく、55〜78%が特に好ましい。
ポリビニルアセタール誘導体中のビニルアルコール単位としては、原料の酢酸ビニルモノマーの総モル数に対して、10〜70モル%が好ましく、15〜50モル%がより好ましく、22〜45モル%が特に好ましい。
また、ポリビニルアセタール誘導体は、その他の成分として、酢酸ビニル単位を有していてもよく、その含量としては0.01〜20モル%が好ましく、0.1〜10モル%が更に好ましい。ポリビニルアセタール誘導体は、更に、その他の共重合単位を有していてもよい。
ポリビニルアセタール誘導体としては、ポリビニルブチラール誘導体、ポリビニルプロピラール誘導体、ポリビニルエチラール誘導体、ポリビニルメチラール誘導体などが挙げられ、なかでもポリビニルブチラール誘導体(以下、「PVB誘導体」ともいう。)が好ましい。なお、これらの記載においても、例えば、ポリビニルブチラール誘導体とは、本明細書においては、ポリビニルブチラール及びその誘導体を包含する意味で用いられ、他のポリビニルアセタール誘導体類についても同様である。
ポリビニルアセタール誘導体の重量平均分子量としては、彫刻感度と皮膜性のバランスを保つ観点で、5,000〜800,000であることが好ましく、8,000〜500,000であることがより好ましい。更に、彫刻カスのリンス性向上の観点からは、50,000〜300,000であることが特に好ましい。
【0099】
以下、ポリビニルアセタールの特に好ましい例として、ポリビニルブチラールを挙げて説明するが、これに限定されない。
ポリビニルブチラール誘導体の構造の一例は、以下に示す通りであり、これらの各構成単位を任意の割合で含んで構成されるが、Lは50モル%以上であることが好ましい。
【0100】
【化14】

【0101】
PVBの誘導体としては、市販品としても入手可能であり、その好ましい具体例としては、アルコール溶解性(特にエタノール)の観点で、積水化学工業(株)製の「エスレックB」シリーズ、「エスレックK(KS)」シリーズ、電気化学工業(株)製の「デンカブチラール」が好ましく、アルコール溶解性(特にエタノール)の観点で、積水化学工業(株)製の「エスレックB」シリーズ、電気化学工業(株)製の「デンカブチラール」がより好ましい。
これらのうち、特に好ましい市販品を、上記式中の、L、m、及びnの値と、分子量とともに以下に示す。積水化学工業(株)製の「エスレックB」シリーズでは、「BL−1」(L=61、m=3、n=36、重量平均分子量1.9万)、「BL−1H」(L=67、m=3、n=30、重量平均分子量2.0万)、「BL−2」(L=61、m=3、n=36、重量平均分子量約2.7万)、「BL−5」(L=75、m=4、n=21、重量平均分子量3.2万)、「BL−S」(L=74、m=4、n=22、重量平均分子量2.3万)、「BM−S」(L=73、m=5、n=22、重量平均分子量5.3万)、「BH−S」(L=73、m=5、n=22、重量平均分子量6.6万)が、また、電気化学工業(株)製の「デンカブチラール」シリーズでは「#3000−1」(L=71、m=1、n=28、重量平均分子量7.4万)、「#3000−2」(L=71、m=1、n=28、重量平均分子量9.0万)、「#3000−4」(L=71、m=1、n=28、重量平均分子量11.7万)、「#4000−2」(L=71、m=1、n=28、重量平均分子量15.2万)、「#6000−C」(L=64、m=1、n=35、重量平均分子量30.8万)、「#6000−EP」(L=56、m=15、n=29、重量平均分子量38.1万)、「#6000−CS」(L=74、m=1、n=25、重量平均分子量32.2万)、「#6000−AS」(L=73、m=1、n=26、重量平均分子量24.2万)が、それぞれ挙げられる。
PVB誘導体を特定ポリマーとして用いてレリーフ形成層を製膜する際には、溶媒に溶かした溶液をキャストし乾燥させる方法が、膜の表面の平滑性の観点で好ましい。
【0102】
(2)アクリル樹脂
バインダーポリマーとしては、アクリル樹脂を用いることができる。
アクリル樹脂としては、ヒドロキシル基を有するアクリル樹脂が好ましく挙げられる。
ヒドロキシル基を有するアクリル樹脂の合成に用いられるアクリル単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸エステル類、クロトン酸エステル類(メタ)アクリルアミド類であって分子内にヒドロキシル基を有するものが好ましい。この様な単量体の具体例としては例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0103】
また、アクリル樹脂としては、上記ヒドロキシル基を有するアクリル単量体以外のアクリル単量体を共重合成分として含むこともできる。このようなアクリル単量体としては、(メタ)アクリル酸エステル類としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、アセトキシエチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−(2−メトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、エチレングリコールとプロピレングリコールとの共重合体のモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
更に、ウレタン基やウレア基を有するアクリル単量体を含んで構成される変性アクリル樹脂も好ましく使用することができる。
これらの中でも、水性インキ耐性の観点で、ラウリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート類、t−ブチルシクロヘキシルメタクリレートなど脂肪族環状構造を有する(メタ)アクリレート類が特に好ましい。
【0104】
また、特定ポリマーとして、フェノール類とアルデヒド類とを酸性条件下で縮合させた樹脂であるノボラック樹脂を用いることができる。
好ましいノボラック樹脂としては、例えば、フェノールとホルムアルデヒドから得られるノボラック樹脂、m−クレゾールとホルムアルデヒドとから得られるノボラック樹脂、p−クレゾールとホルムアルデヒドとから得られるノボラック樹脂、o−クレゾールとホルムアルデヒドとから得られるノボラック樹脂、オクチルフェノールとホルムアルデヒドとから得られるノボラック樹脂、m−/p−混合クレゾールとホルムアルデヒドとから得られるノボラック樹脂、フェノール/クレゾール(m−、p−、o−またはm−/p−、m−/o−、o−/p−混合のいずれでもよい。)の混合物とホルムアルデヒドとから得られるノボラック樹脂などが挙げられる。
これらのノボラック樹脂は、重量平均分子量が800〜200,000で、数平均分子量が400〜60,000のものが好ましい。
特定ポリマーとして、ヒドロキシル基を側鎖に有するエポキシ樹脂を用いることも可能である。好ましい具体例としては、ビスフェノールAとエピクロヒドリンとの付加物を原料モノマーとして重合して得られるエポキシ樹脂が好ましい。
これらのエポキシ樹脂は、重量平均分子量が800〜200,000で、数平均分子量が400〜60,000のものが好ましい。
【0105】
特定ポリマーの中でも、レリーフ形成層としたときのリンス性及び耐刷性の観点から、ポリビニルブチラール誘導体が特に好ましい。
特定ポリマーに含まれるヒドロキシル基の含有量は、前記いずれの態様のポリマーにおいても、0.1〜15mmol/gであることが好ましく、0.5〜7mmol/gであることがより好ましい。
【0106】
本発明の樹脂組成物における成分Dは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の樹脂組成物中に含まれる成分Dの含有量は、全固形分量に対して、10〜50重量%が好ましく、15〜45重量%がより好ましく、20〜40重量%が特に好ましい。
【0107】
<(成分E)可塑剤>
本発明の樹脂組成物は、フレキソ版として必要な柔軟性を付与するという観点から、(成分E)可塑剤を含有することが好ましい。
可塑剤としては、高分子の可塑剤として公知のものを用いることができ、限定されないが、例えば、高分子大辞典(初版、1994年、丸善(株)発行)の第211〜220頁に記載のアジピン酸誘導体、アゼライン酸誘導体、ベンゾイル酸誘導体、クエン酸誘導体、エポキシ誘導体、グリコール誘導体、炭化水素及び誘導体、オレイン酸誘導体、リン酸誘導体、フタル酸誘導体、ポリエステル系、リシノール酸誘導体、セバシン酸誘導体、ステアリン酸誘導体、スルホン酸誘導体、テルペン及び誘導体、トリメリット酸誘導体が挙げられる。これらの中でも、ガラス転移温度を低下させる効果の大きさという観点から、アジピン酸誘導体、クエン酸誘導体及びリン酸誘導体が好ましく、リン酸誘導体がより好ましい。
アジピン酸誘導体としては、アジピン酸ジブチル、アジピン酸2−ブトキシエチルが好ましい。
クエン酸誘導体としては、クエン酸トリブチルが好ましい。
リン酸誘導体としては、リン酸トリブチル、リン酸トリ2−エチルヘキシル、リン酸トリブトキシエチル、リン酸トリフェニル、リン酸クレジルジフェニル、リン酸トリクレジル、リン酸t−ブチルフェニル、リン酸2−エチルヘキシルジフェニル等が挙げられる。これらの中でも、リン酸トリフェニル、リン酸クレジルジフェニル、リン酸トリクレジルが好ましく、リン酸クレジルジフェニルがより好ましい。
成分Eは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
成分Eの含有量は、ガラス転移温度を室温以下に低下させるという観点から、固形分換算で、樹脂組成物の総重量を100重量%として、1〜50重量%が好ましく、10〜40重量%がより好ましく、20〜30重量%が更に好ましい。
【0108】
<(成分F)周期律表の1〜16族から選択される金属又はメタロイド(半金属)の少なくとも1つのオキシ化合物>
本発明の樹脂組成物は、(成分F)周期律表の1〜16族から選択される金属又はメタロイド(半金属)の少なくとも1つのオキシ化合物を含有することが好ましい。
周期律表の1〜16族から選択される金属又はメタロイドとしては、周期律表の1〜16族から選択されるものであれば特に制限されないが、アルカリ金属(Li、Na、K、Rb、Cs、Fr)、アルカリ土類金属(Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra)、アルミニウム、珪素、リン、チタン、ゲルマニウム、砒素、ジルコニウム、スズ、亜鉛、カドミウム、ビスマス、インジウム、スカンジウム及びアンチモンが好ましく挙げられる。
これらの中でも、彫刻感度の点で、アルカリ土類金属、アルミニウム、珪素、リン、チタン、ゲルマニウム、砒素、ジルコニウム、スズ、亜鉛、ビスマスが好ましく、アルカリ土類金属、アルミニウム、チタン(好ましくは原子価4)、ジルコニウム、スズ、亜鉛、ビスマスがより好ましく、アルカリ土類金属、アルミニウム、チタン(好ましくは原子価4)、スズ、亜鉛、ビスマスが特に好ましい。
また、オキシ化合物(酸素含有化合物)としては、前記金属又はメタロイドの、アルコキシド、フェノキシド、エノレート、カーボネート、アセテート又はカルボキシレート及び酸化物が挙げられる。
所望により、オキシ化合物の有機部分は一部が多価であるもの、例えば、多価アルコール(例えば、グリコール若しくはグリセロール)、ポリビニルアルコール又はヒドロキシカルボン酸から誘導されるものであり得る。キレート化合物を使用してもよい。炭素原子が存在する場合、代表的には前記金属又はメタロイド1個当たりの炭素原子の数は4〜24個の範囲である。
本発明においては、アルミニウム、亜鉛、スズ又はビスマスのカルボキシレートが好ましく、亜鉛のカルボキシレートがより好ましい。
具体的には、酢酸亜鉛、2−エチルヘキシル酸亜鉛、2−エチルヘキシル酸スズ、ビスマストリス(2−エチルヘキサノエート)、ビス(2−エチルヘキシル酸)ヒドロキシアルミニウムが特に好ましく、2−エチルヘキシル酸亜鉛が最も好ましい。
成分Fの含有量は、彫刻感度と皮膜性の観点で、樹脂組成物の全固形分量に対し、0.01〜20重量%が好ましく、0.5〜10重量%がより好ましく、1〜5重量%が更に好ましい。
【0109】
<(成分G)溶剤>
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物を調製する際に、溶剤を用いることが好ましい。
溶剤としては、有機溶剤を用いることが好ましい。
非プロトン性有機溶剤の好ましい具体例は、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシドが挙げられる。
プロトン性有機溶剤の好ましい具体例は、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオールが挙げられる。
これらの中でも、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが特に好ましく例示できる。
溶剤の使用量は、特に制限はなく、必要に応じて使用量を調整すればよい。
【0110】
<その他の添加剤>
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物には、公知の各種添加剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜配合することができる。例えば、充填剤、ワックス、プロセス油、金属酸化物、オゾン分解防止剤、老化防止剤、重合禁止剤、着色剤等が挙げられ、これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0111】
また、その他の成分として、加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を1つのみ有する化合物を使用してもよい。
加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を1つのみ有する化合物として、具体的には、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、メルカプトメチルトリメトキシシラン、ジメトキシ−3−メルカプトプロピルメチルシラン、2−(2−アミノエチルチオエチル)ジエトキシメチルシラン、3−(2−アセトキシエチルチオプロピル)ジメトキシメチルシラン、2−(2−アミノエチルチオエチル)トリエトキシシラン、ジメトキシメチル−3−(3−フェノキシプロピルチオプロピル)シラン、、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、トリメチルシラノール、ジフェニルシランジオール、トリフェニルシラノール、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等が例示できる。
【0112】
(レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版)
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の第1の実施態様は、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を有する。
また、本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の第2の実施態様は、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を架橋した架橋レリーフ形成層を有する。
本発明において「レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版」とは、レーザー彫刻用樹脂組成物からなる架橋性を有するレリーフ形成層が、架橋される前の状態、並びに、光及び/若しくは熱により硬化された状態の両方又はいずれか一方のものをいう。
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版は、熱架橋した架橋レリーフ形成層を有するものであることが好ましい。
本発明において「レリーフ形成層」とは、架橋される前の状態の層をいい、すなわち、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなる層であり、必要に応じ、乾燥が行われていてもよい。
本発明において「架橋レリーフ形成層」とは、前記レリーフ形成層を架橋した層をいう。前記架橋は、光及び/又は熱により行われることが好ましい。また、前記架橋は樹脂組成物が硬化される反応であれば特に限定されず、成分B同士の反応、成分Aと成分Bとの反応、及び、成分A同士の反応による架橋構造を含む概念であるが、成分A及び/又は成分Bが他の成分と反応して架橋構造を形成していてもよい。
架橋レリーフ形成層を有する印刷版原版をレーザー彫刻することにより「レリーフ印刷版」が作製される。
また、本発明において「レリーフ層」とは、レリーフ印刷版におけるレーザーにより彫刻された層、すなわち、レーザー彫刻後の前記架橋レリーフ形成層をいう。
【0113】
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版は、前記のような成分を含有するレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を有する。(架橋)レリーフ形成層は、支持体上に設けられることが好ましい。
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版は、必要により更に、支持体と(架橋)レリーフ形成層との間に接着層を、また、(架橋)レリーフ形成層上にスリップコート層、保護フィルムを有していてもよい。
【0114】
<レリーフ形成層>
レリーフ形成層は、前記本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなる層であり、架橋性の層である。
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版によるレリーフ印刷版の作製態様としては、レリーフ形成層を架橋させて架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版とした後、架橋レリーフ形成層(硬質のレリーフ形成層)をレーザー彫刻することによりレリーフ層を形成してレリーフ印刷版を作製する態様であることが好ましい。レリーフ形成層を架橋することにより、印刷時におけるレリーフ層の摩耗を防ぐことができ、また、レーザー彫刻後にシャープな形状のレリーフ層を有するレリーフ印刷版を得ることができる。
【0115】
レリーフ形成層は、レリーフ形成層用の前記の如き成分を有するレーザー彫刻用樹脂組成物を、シート状又はスリーブ状に成形することで形成することができる。レリーフ形成層は、通常、後述する支持体上に設けられるが、製版、印刷用の装置に備えられたシリンダーなどの部材表面に直接形成したり、そこに配置して固定化したりすることもでき、必ずしも支持体を必要としない。
以下、主としてレリーフ形成層をシート状にした場合を例に挙げて説明する。
【0116】
<支持体>
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の支持体に使用する素材は特に限定されないが、寸法安定性の高いものが好ましく使用され、例えば、スチール、ステンレス、アルミニウムなどの金属、ポリエステル(例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PAN(ポリアクリロニトリル))やポリ塩化ビニルなどのプラスチック樹脂、スチレン−ブタジエンゴムなどの合成ゴム、ガラスファイバーで補強されたプラスチック樹脂(エポキシ樹脂やフェノール樹脂など)が挙げられる。支持体としては、PETフィルムやスチール基板が好ましく用いられる。支持体の形態は、レリーフ形成層がシート状であるかスリーブ状であるかによって決定される。
【0117】
<接着層>
レリーフ形成層を支持体上に形成する場合、両者の間には、層間の接着力を強化する目的で接着層を設けてもよい。
接着層に用いることができる材料(接着剤)としては、例えば、I.Skeist編、「Handbook of Adhesives」、第2版(1977)に記載のものを用いることができる。
【0118】
<保護フィルム、スリップコート層>
レリーフ形成層表面又は架橋レリーフ形成層表面への傷や凹み防止の目的で、レリーフ形成層表面又は架橋レリーフ形成層表面に保護フィルムを設けてもよい。保護フィルムの厚さは、25〜500μmが好ましく、50〜200μmがより好ましい。保護フィルムは、例えば、PETのようなポリエステル系フィルム、PE(ポリエチレン)やPP(ポリプロピレン)のようなポリオレフィン系フィルムを用いることができる。またフィルムの表面はマット化されていてもよい。保護フィルムは、剥離可能であることが好ましい。
【0119】
保護フィルムが剥離不可能な場合や、逆にレリーフ形成層に接着しにくい場合には、両層間にスリップコート層を設けてもよい。スリップコート層に使用される材料は、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、部分鹸化ポリビニルアルコール、ヒドロシキアルキルセルロース、アルキルセルロース、ポリアミド樹脂など、水に溶解又は分散可能で、粘着性の少ない樹脂を主成分とすることが好ましい。
【0120】
(レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法)
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版におけるレリーフ形成層の形成は、特に限定されるものではないが、例えば、レーザー彫刻用樹脂組成物を調製し、必要に応じて、このレーザー彫刻用塗布液組成物から溶剤を除去した後に、支持体上に溶融押し出しする方法が挙げられる。あるいは、レーザー彫刻用樹脂組成物を、支持体上に流延し、これをオーブン中で乾燥して樹脂組成物から溶媒を除去する方法でもよい。
中でも、本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版の製版方法は、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を形成する層形成工程、並びに、前記レリーフ形成層を光及び/又は熱により架橋し、架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程、を含む製造方法であることが好ましく、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を形成する層形成工程、並びに、前記レリーフ形成層を熱架橋し、架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程、を含む製造方法であることがより好ましい。
【0121】
その後、必要に応じてレリーフ形成層の上に保護フィルムをラミネートしてもよい。ラミネートは、加熱したカレンダーロールなどで保護フィルムとレリーフ形成層を圧着することや、表面に少量の溶媒を含浸させたレリーフ形成層に保護フィルムを密着させることによって行うことができる。
保護フィルムを用いる場合には、先ず保護フィルム上にレリーフ形成層を積層し、次いで支持体をラミネートする方法を採ってもよい。
接着層を設ける場合は、接着層を塗布した支持体を用いることで対応できる。スリップコート層を設ける場合は、スリップコート層を塗布した保護フィルムを用いることで対応できる。
【0122】
<層形成工程>
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版の製版方法は、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を形成する層形成工程を含むことが好ましい。
レリーフ形成層の形成方法としては、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物を調製し、必要に応じて、このレーザー彫刻用樹脂組成物から溶剤を除去した後に、支持体上に溶融押し出しする方法や、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物を調製し、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物を支持体上に流延し、これをオーブン中で乾燥して溶媒を除去する方法が好ましく例示できる。
レーザー彫刻用樹脂組成物は、例えば、成分A及び成分B、並びに、任意成分として、成分D〜成分F等を適当な溶媒に溶解させ、次いで、成分Cを溶解させることによって製造することができる。
【0123】
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版における(架橋)レリーフ形成層の厚さは、架橋の前後において、0.05mm以上10mm以下が好ましく、0.05mm以上7mm以下がより好ましく、0.05mm以上3mm以下が更に好ましい。
【0124】
<架橋工程>
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法は、前記レリーフ形成層を光及び/又は熱により架橋し、架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程を含む製造方法であることが好ましい。
レリーフ形成層が光重合開始剤を含有する場合には、光重合開始剤のトリガーとなる活性光線をレリーフ形成層に照射することで、レリーフ形成層を架橋することができる。
光は、レリーフ形成層全面に行うのが一般的である。光(「活性光線」ともいう。)としては可視光、紫外光、及び電子線が挙げられるが、紫外光が最も一般的である。レリーフ形成層の支持体等、レリーフ形成層を固定化するための基材側を裏面とすれば、表面に光を照射するだけでもよいが、支持体が活性光線を透過する透明なフィルムであれば、更に裏面からも光を照射することが好ましい。表面からの照射は、保護フィルムが存在する場合、これを設けたまま行ってもよいし、保護フィルムを剥離した後に行ってもよい。酸素の存在下では重合阻害が生じる恐れがあるので、レリーフ形成層に塩化ビニルシートを被せて真空引きした上で、活性光線の照射を行ってもよい。
【0125】
レリーフ形成層が熱重合開始剤を含有する場合には(上記の光重合開始剤が熱重合開始剤にもなり得る。)、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版を加熱することで、レリーフ形成層を架橋することができる(熱により架橋する工程)。加熱手段としては、印刷版原版を熱風オーブンや遠赤外オーブン内で所定時間加熱する方法や、加熱したロールに所定時間接する方法が挙げられる。
【0126】
レリーフ形成層の架橋方法としは、レリーフ形成層を表面から内部まで均一に硬化(架橋)可能という観点で、熱による架橋の方が好ましい。
レリーフ形成層を架橋することで、第1にレーザー彫刻後形成されるレリーフがシャープになり、第2にレーザー彫刻の際に発生する彫刻カスの粘着性が抑制されるという利点がある。未架橋のレリーフ形成層をレーザー彫刻すると、レーザー照射部の周辺に伝播した余熱により、本来意図していない部分が溶融、変形しやすく、シャープなレリーフ層が得られない場合がある。また、素材の一般的な性質として、低分子なものほど固形ではなく液状になり、すなわち粘着性が強くなる傾向がある。レリーフ形成層を彫刻する際に発生する彫刻カスは、低分子の材料を多く用いるほど粘着性が強くなる傾向がある。低分子である重合性化合物は架橋することで高分子になるため、発生する彫刻カスは粘着性が少なくなる傾向がある。
【0127】
前記架橋工程が、光により架橋する工程である場合は、活性光線を照射する装置が比較的高価であるものの、印刷版原版が高温になることがないので、印刷版原版の原材料の制約がほとんどない。
前記架橋工程が、熱により架橋する工程である場合には、特別高価な装置を必要としない利点があるが、印刷版原版が高温になるので、高温で柔軟になる熱可塑性ポリマーは加熱中に変形する可能性がある等、使用する原材料は慎重に選択する必要がある。
熱架橋の際には、熱重合開始剤を加えることが好ましい。熱重合開始剤としては、遊離基重合(free radical polymerization)用の商業的な熱重合開始剤として使用され得る。このような熱重合開始剤としては、例えば、適当な過酸化物、ヒドロペルオキシド又はアゾ基を含む化合物が挙げられる。代表的な加硫剤も架橋用に使用できる。熱架橋性(heat−curable)の樹脂、例えばエポキシ樹脂、を架橋成分として層に加えることにより熱架橋も実施され得る。
【0128】
(レリーフ印刷版及びその製版方法)
本発明のレリーフ印刷版の製版方法は、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を形成する層形成工程、前記レリーフ形成層を光及び/又は熱により架橋し、架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程、及び、前記架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版をレーザー彫刻する彫刻工程、を含むことが好ましく、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を形成する層形成工程、前記レリーフ形成層を熱架橋し架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程、及び、前記架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版をレーザー彫刻する彫刻工程、を含むことがより好ましい。
本発明のレリーフ印刷版は、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなる層を架橋及びレーザー彫刻して得られたレリーフ層を有するレリーフ印刷版であり、本発明のレリーフ印刷版の製版方法により製版されたレリーフ印刷版であることが好ましい。
本発明のレリーフ印刷版は、水性インキを印刷時に好適に使用することができる。
本発明のレリーフ印刷版の製版方法における層形成工程及び架橋工程は、前記レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法における層形成工程及び架橋工程と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0129】
<彫刻工程>
本発明のレリーフ印刷版の製版方法は、前記架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版をレーザー彫刻する彫刻工程を含むことが好ましい。
彫刻工程は、前記架橋工程で架橋された架橋レリーフ形成層をレーザー彫刻してレリーフ層を形成する工程である。具体的には、架橋された架橋レリーフ形成層に対して、所望の画像に対応したレーザー光を照射して彫刻を行うことによりレリーフ層を形成することが好ましい。また、所望の画像のデジタルデータを元にコンピューターでレーザーヘッドを制御し、架橋レリーフ形成層に対して走査照射する工程が好ましく挙げられる。
この彫刻工程には、赤外線レーザーが好ましく用いられる。赤外線レーザーが照射されると、架橋レリーフ形成層中の分子が分子振動し、熱が発生する。赤外線レーザーとして炭酸ガスレーザーやYAGレーザーのような高出力のレーザーを用いると、レーザー照射部分に大量の熱が発生し、架橋レリーフ形成層中の分子は分子切断又はイオン化されて選択的な除去、すなわち、彫刻がなされる。レーザー彫刻の利点は、彫刻深さを任意に設定できるため、構造を3次元的に制御することができる点である。例えば、微細な網点を印刷する部分は、浅く又はショルダーをつけて彫刻することで、印圧でレリーフが転倒しないようにすることができ、細かい抜き文字を印刷する溝の部分は深く彫刻することで、溝にインキが埋まりにくくなり、抜き文字つぶれを抑制することが可能となる。
中でも、光熱変換剤の吸収波長に対応した赤外線レーザーで彫刻する場合には、より高感度で架橋レリーフ形成層の選択的な除去が可能となり、シャープな画像を有するレリーフ層が得られる。
【0130】
彫刻工程に用いられる赤外レーザーとしては、生産性、コスト等の面から、炭酸ガスレーザー(CO2レーザー)又は半導体レーザーが好ましい。特に、ファイバー付き半導体赤外線レーザー(FC−LD)が好ましく用いられる。一般に、半導体レーザーは、CO2レーザーに比べレーザー発振が高効率且つ安価で小型化が可能である。また、小型であるためアレイ化が容易である。更に、ファイバーの処理によりビーム形状を制御できる。
半導体レーザーとしては、波長が700〜1,300nmのものが好ましく、800〜1,200nmのものがより好ましく、860〜1,200nmのものが更に好ましく、900〜1,100nmのものが特に好ましい。
【0131】
また、ファイバー付き半導体レーザーは、更に光ファイバーを取り付けることで効率よくレーザー光を出力できるため、本発明における彫刻工程には有効である。更に、ファイバーの処理によりビーム形状を制御できる。例えば、ビームプロファイルはトップハット形状とすることができ、安定に版面にエネルギーを与えることができる。半導体レーザーの詳細は、「レーザーハンドブック第2版」レーザー学会編、実用レーザー技術 電子通信学会等に記載されている。
また、本発明のレリーフ印刷版原版を用いたレリーフ印刷版の製版方法に好適に用いることができるファイバー付き半導体レーザーを備えた製版装置は、特開2009−172658号公報及び特開2009−214334号公報に詳細に記載され、これを本発明に係るレリーフ印刷版の製版に使用することができる。
【0132】
本発明のレリーフ印刷版の製版方法では、彫刻工程に次いで、更に、必要に応じて下記リンス工程、乾燥工程、及び/又は、後架橋工程を含んでもよい。
リンス工程:彫刻後のレリーフ層表面を、水又は水を主成分とする液体で彫刻表面をリンスする工程。
乾燥工程:彫刻されたレリーフ層を乾燥する工程。
後架橋工程:彫刻後のレリーフ層にエネルギーを付与し、レリーフ層を更に架橋する工程。
前記工程を経た後、彫刻表面に彫刻カスが付着しているため、水又は水を主成分とする液体で彫刻表面をリンスして、彫刻カスを洗い流すリンス工程を追加してもよい。リンスの手段として、水道水で水洗する方法、高圧水をスプレー噴射する方法、感光性樹脂凸版の現像機として公知のバッチ式又は搬送式のブラシ式洗い出し機で、彫刻表面を主に水の存在下でブラシ擦りする方法などが挙げられ、彫刻カスのヌメリがとれない場合は、石鹸や界面活性剤を添加したリンス液を用いてもよい。
彫刻表面をリンスするリンス工程を行った場合、彫刻されたレリーフ形成層を乾燥してリンス液を揮発させる乾燥工程を追加することが好ましい。
更に、必要に応じてレリーフ形成層を更に架橋させる後架橋工程を追加してもよい。追加の架橋工程である後架橋工程を行うことにより、彫刻によって形成されたレリーフをより強固にすることができる。
【0133】
本発明に用いることができるリンス液のpHは、9以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、11以上であることが更に好ましい。また、リンス液のpHは14以下であることが好ましく、13.5以下であることがより好ましく、13.2以下であることが更に好ましい。上記範囲であると、取り扱いが容易である。
リンス液を上記のpH範囲とするために、適宜、酸及び/又は塩基を用いてpHを調整すればよく、使用する酸及び塩基は特に限定されない。
本発明に用いることができるリンス液は、主成分として水を含有することが好ましい。
また、リンス液は、水以外の溶媒として、アルコール類、アセトン、テトラヒドロフラン等などの水混和性溶媒を含有していてもよい。
【0134】
リンス液は、界面活性剤を含有することが好ましい。
本発明に用いることができる界面活性剤としては、彫刻カスの除去性、及び、レリーフ印刷版への影響を少なくする観点から、カルボキシベタイン化合物、スルホベタイン化合物、ホスホベタイン化合物、アミンオキシド化合物、又は、ホスフィンオキシド化合物等のベタイン化合物(両性界面活性剤)が好ましく挙げられる。
【0135】
また、界面活性剤としては、公知のアニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤等も挙げられる。更に、フッ素系、シリコーン系のノニオン界面活性剤も同様に使用することができる。
界面活性剤は、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
界面活性剤の使用量は特に限定する必要はないが、リンス液の全重量に対し、0.01〜20重量%であることが好ましく、0.05〜10重量%であることがより好ましい。
【0136】
以上のようにして、支持体等の任意の基材表面にレリーフ層を有するレリーフ印刷版が得られる。
レリーフ印刷版が有するレリーフ層の厚さは、耐磨耗性やインキ転移性のような種々の印刷適性を満たす観点からは、0.05mm以上10mm以下が好ましく、より好ましくは0.05mm以上7mm以下、特に好ましくは0.05mm以上3mm以下である。
【0137】
また、レリーフ印刷版が有するレリーフ層のショアA硬度は、50°以上90°以下であることが好ましい。レリーフ層のショアA硬度が50°以上であると、彫刻により形成された微細な網点が凸版印刷機の強い印圧を受けても倒れてつぶれることがなく、正常な印刷ができる。また、レリーフ層のショアA硬度が90°以下であると、印圧がキスタッチのフレキソ印刷でもベタ部での印刷かすれを防止することができる。
なお、本明細書におけるショアA硬度は、25℃において、測定対象の表面に圧子(押針又はインデンタと呼ばれる)を押し込み変形させ、その変形量(押込み深さ)を測定して、数値化するデュロメータ(スプリング式ゴム硬度計)により測定した値である。
【0138】
本発明のレリーフ印刷版は、フレキソ印刷機による水性インキでの印刷に特に好適であるが、凸版用印刷機による水性インキ、油性インキ及びUVインキ、いずれのインキを用いた場合でも、印刷が可能であり、また、フレキソ印刷機によるUVインキでの印刷も可能である。本発明のレリーフ印刷版は、リンス性に優れており彫刻カスの残存がなく、かつ、得られたレリーフ層が弾性に優れるため、水性インク転移性及び耐刷性に優れ、長期間にわたりレリーフ層の塑性変形や耐刷性低下の懸念がなく、印刷が実施できる。
【実施例】
【0139】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「重量%」を意味する。
【0140】
以下に、実施例及び比較例に用いた化合物を示す。
・ポリビニルブチラール(デンカブチラール#3000−2、重量平均分子量:90,000、電気化学工業(株)製)
・ケッチェンブラックEC600JD(ライオン(株)製カーボンブラック、平均一次粒径34.0nm)
・RM50(日本アエロジル(株)製シリカ粒子、平均粒径40nm)
・R711(日本アエロジル(株)製シリカ粒子、平均粒径12nm)
・サンスフェア H−31(AGCエスアイテック(株)製シリカ粒子、平均粒径3μm)
・サンスフェア NP−100(AGCエスアイテック(株)製シリカ粒子、平均粒径10μm)
・200CF(日本アエロジル(株)製シリカ粒子、平均粒径12nm)
・分散バインダーB−3(前述した分散剤B−3、重量平均分子量:20,000)
・分散バインダーB−7(前述した分散剤B−7、重量平均分子量:20,000)
・分散バインダーB−11(前述した分散剤B−11、重量平均分子量:20,000)
・分散バインダーX(下記に示す構造のポリマー、重量平均分子量:20,000)
・分散バインダーY(下記に示す構造のポリマー、重量平均分子量:20,000)
【0141】
【化15】

【0142】
・モノマー1(下記に示す二官能アクリレート化合物)
【0143】
【化16】

【0144】
・パーブチルZ(t−ブチルパーオキシベンゾエート、日油(株)製)
・イルガキュア184(α−ヒドロキシケトン、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)
・リン酸クレジルジフェニル(可塑剤、東京化成工業(株)製)
・2−エチルヘキシル酸亜鉛(ホープ製薬(株)製)
【0145】
<分散バインダーB−3の合成方法>
〔成分1〜成分3のモノマー〕
成分1としては、片末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート重合体(数平均分子量(Mn)=6,000、商品名:AA−6、東亞合成(株)製)を使用した。
成分2としては、下記に示すM’−1を使用した。なお、M’−1は、以下の方法により合成した。
2−アミノベンズイミダゾール13.3部をピリジン30部に溶解させ、45℃に加熱する。これに2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート17.1部を滴下し、50℃で更に5時間加熱撹拌を行った。この反応液を蒸留水200部に撹拌しながら注ぎ、得られた析出物を濾別、洗浄することで、M’−1を27.3部得た。
成分3としては、前駆体である下記に示すM’−2を使用した。なお、M’−2は、公知の方法により合成した。
【0146】
【化17】

【0147】
〔分散バインダーB−3の合成〕
片末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート重合体(Mn=6,000、商品名:AA−6、東亜合成(株)製)(60部)、前記M’−1(40部)、前記M’−2(100部)、及び、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(和光純薬工業(株)製)(1.63部)のN,N−ジメチルアセトアミド(300部)溶液を、窒素気流下、80℃でN,N−ジメチルアセトアミド(300部)中に、2.5時間かけて滴下した。滴下後更に80℃で2時間撹拌した。放冷後、この溶液にN,N−ジメチルアセトアミド(800部)、p−メトキシフェノール(和光純薬工業(株)製)(1.18部)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(和光純薬工業(株)製)(315部)を加え、室温(25℃)で12時間撹拌した。その後、0℃でメタンスルホン酸(和光純薬工業(株)製)(200部)を滴下後、この溶液を、激しく攪拌している水(1,700部)に投入し、30分撹拌した。析出した白色固体をろ別・乾燥することにより分散バインダーB−3を得た。
分散バインダーB−3の同定は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法、NMR、IRスペクトルにより行った。
【0148】
<フィラーの表面処理・分散方法>
フィラーのエチレン性不飽和基を有するポリマーによる表面処理及び分散方法は、以下の方法で調製した。
下記処方を、モーターミルM−200(アイガー社製)により、直径1.0mmのジルコニアビーズを用いて周速9m/sで5時間分散し、フィラー分散液を得た。
フィラー 15部(乾燥重量)
表1に示したエチレン性不飽和基を有するポリマー 10部
プロピレングリコールモノメチルアセテート 75部
【0149】
(実施例1)
<熱架橋:レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版1の作製>
ポリビニルブチラール40部、表1に示す成分Aを10部(フィラー及びエチレン性不飽和基を有するポリマーの合計量)、リン酸クレジルジフェニル25部、2−エチルヘキシル酸亜鉛3部、溶剤としてプロピルグリコールモノエチルエーテルアセテート(PGMEA)100部を、撹拌羽根及び冷却管をつけた3つ口フラスコ中に入れ、撹拌しながら70℃で120分間加熱し溶解した。
その後、更にモノマー1を20部添加して30分間撹拌した。その後、パーブチルZを2部添加し、70℃で10分間撹拌した。この操作により、流動性のあるレーザー彫刻用樹脂組成物を得た。
PET基板上に所定厚のスペーサー(枠)を設置し、レーザー彫刻用樹脂組成物をスペーサー(枠)から流出しない程度に静かに流延し、100℃のオーブン中で3時間乾燥及び熱架橋させて、厚さがおよそ1mmのレリーフ形成層を設け、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版1を作製した。
【0150】
(実施例2〜8、11及び12)
<レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版2〜8、11及び12の作製>
成分Aを表1に記載の種類、配合量に変更した以外は、実施例1のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版1と同様にして、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版2〜8、11及び12をそれぞれ作製した。
【0151】
(実施例9)
<光架橋:レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版9の作製>
ポリビニルブチラール40部、表1に示す成分Aを10部、リン酸クレジルジフェニル25部、2−エチルヘキシル酸亜鉛3部、溶剤としてプロピルグリコールモノエチルエーテルアセテート(PGMEA)100部を、撹拌羽根及び冷却管をつけた3つ口フラスコ中に入れ、撹拌しながら70℃で120分間加熱し溶解した。
その後、更にモノマー1を20部添加して30分間撹拌した。その後、イルガキュア184を2部添加し、70℃で10分間撹拌した。この操作により、流動性のあるレーザー彫刻用樹脂組成物を得た。
PET基板上に所定厚のスペーサー(枠)を設置し、レーザー彫刻用樹脂組成物をスペーサー(枠)から流出しない程度に静かに流延し、80℃のオーブン中で3時間乾燥させて、風乾させた後に、ウシオ(株)製のメタルハライドランプを使用した露光機を用いて、版面上での露光量が2,000mJ/cm2になるように曝光し、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版9を作製した。
【0152】
(実施例10)
<シリカの表面修飾>
AEROSIL 200CF(日本アエロジル(株)製)100部を反応槽に入れ、窒素雰囲気下、撹拌しながら、水1.5部を噴霧した。これに3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン10部、ジエチルアミン1.0部を噴霧し、150℃で1時間加熱撹拌し、その後冷却し、200CF表面修飾物を得た。
【0153】
<レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版10の作製>
ポリビニルブチラール40部、成分Aとして上記で作製した200CF表面修飾物を10部、リン酸クレジルジフェニル25部、2−エチルヘキシル酸亜鉛3部、溶剤としてプロピルグリコールモノエチルエーテルアセテート(PGMEA)100部を、撹拌羽根及び冷却管をつけた3つ口フラスコ中に入れ、撹拌しながら70℃で120分間加熱し溶解した。
その後、更にモノマー1を20部添加して30分間撹拌した。その後、パーブチルZを2部添加し、70℃で10分間撹拌した。この操作により、流動性のあるレーザー彫刻用樹脂組成物を得た。
PET基板上に所定厚のスペーサー(枠)を設置し、レーザー彫刻用樹脂組成物をスペーサー(枠)から流出しない程度に静かに流延し、100℃のオーブン中で3時間乾燥及び熱架橋させて、厚さがおよそ1mmのレリーフ形成層を設け、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版10を作製した。
【0154】
(比較例1〜4)
<レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版C1〜C4の作製>
成分Aを表1に記載の種類、配合量に変更した以外は、実施例1のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版1と同様にして、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版C1〜C4をそれぞれ作製した。
【0155】
<レーザー彫刻用レリーフ印刷版の作製>
レーザー彫刻機として、ADFLEX(コムテックス社製)を用いた。
得られた各レーザー彫刻用印刷版原版に対し、前記レーザー彫刻機で、出力:12W、ヘッド速度:200mm/秒、ピッチ設定:2,400DPIの条件で、網点パターン(2×2ドット、高さ300μm)を彫刻し、各レリーフ印刷版をそれぞれ得た。
【0156】
<耐薬品性の評価>
前記方法にて作製した各レリーフ印刷版原版を2cm×2cmにカットした後に、イソプロピルアルコール20重量%水溶液20g中に25℃24時間浸漬し、浸漬前後の重量変化を測定した。レリーフ印刷版原版の耐薬品性が不足している場合は液が浸透して重量が増加することになる。重量変化が5%以下であるならば実用上問題ないと判断した。評価基準は、以下の通りである。
◎:重量変化が1%未満であった。
○:重量変化が1〜3%であった。
△:重量変化が4〜5%であった。
×:重量変化が5%を超える値であった。
【0157】
<彫刻カス除去性の評価>
前記方法にて彫刻した各レリーフ印刷版上に、0.01規定のKOH水溶液(和光純薬工業(株)製)を版表面が均一に濡れる様にスポイトで滴下(約100ml/m2)し、1分静置後、ハブラシ(ライオン(株)クリニカハブラシ フラット)を用い、荷重200gfで版と並行に20回(トータルで30秒間)こすった。その後、流水にて版面を洗浄、版面の水分を除去し、1時間ほど自然乾燥した。
自然乾燥して得られた版の表面を倍率100倍のマイクロスコープ(キーエンス(株)製)で観察し、版上の取れ残った彫刻カスの程度を評価した。評価基準は、以下の通りである。
◎:全く版上に彫刻カスが残っていない。
○:版上の画像底部(凹部)に僅かに彫刻カスが残っている。
△:版上の画像凸部と画像底部(凹部)とに彫刻カスが残っている。
×:版全面に彫刻カスが付着している。
なお、◎、○及び△が、実用上問題のない範囲である。
【0158】
【表1】

【0159】
なお、表1における成分Aの添加量は、フィラー及びエチレン性不飽和基を有するポリマーの合計量を、樹脂組成物中における固形分量(溶剤を除いた含有量)として表した。
また、比較例4においては、分散バインダーYは、フィラーに物理的に吸着しておらず、遊離している、すなわち、フィラーはエチレン不飽和基を有していないことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(成分A)エチレン性不飽和基を有するフィラー、
(成分B)エチレン性不飽和基を有する重合性化合物、及び、
(成分C)重合開始剤、を含むことを特徴とする
レーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項2】
成分Aが、エチレン性不飽和基を有する無機フィラーである、請求項1に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項3】
前記無機フィラーが、球状である、請求項2に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項4】
前記無機フィラーが、層状である、請求項2に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項5】
前記無機フィラーが、カーボンブラックである、請求項2又は3に記載のレーザー彫刻用組成物。
【請求項6】
前記無機フィラーが、シリカである、請求項2又は3に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項7】
前記無機フィラーが、雲母である、請求項2又は4に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項8】
成分Cが、熱重合開始剤である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項9】
(成分D)バインダーポリマーを更に含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項10】
(成分E)可塑剤を更に含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項11】
(成分F)周期律表の1〜16族から選択される金属又はメタロイドの少なくとも1つのオキシ化合物を更に含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を有するレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を熱架橋した架橋レリーフ形成層を有するレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を形成する層形成工程、及び、
前記レリーフ形成層を光及び/又は熱により架橋し架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程、を含む
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を形成する層形成工程、
前記レリーフ形成層を光及び/又は熱により架橋し架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程、及び、
前記架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版をレーザー彫刻し、レリーフ層を形成する彫刻工程、を含む
レリーフ印刷版の製版方法。
【請求項16】
前記レーザー彫刻を700〜1,300nmのレーザーにより行う、請求項15に記載のレリーフ印刷版の製版方法。
【請求項17】
彫刻後のレリーフ層表面を水又は水溶液により洗浄する洗浄工程を更に含む、請求項15又は16に記載のレリーフ印刷版の製版方法。
【請求項18】
請求項15〜17のいずれか1項に記載のレリーフ印刷版の製版方法により製造されたレリーフ層を有するレリーフ印刷版。

【公開番号】特開2012−66415(P2012−66415A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211381(P2010−211381)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】