レーザー溶接方法及びレーザー溶接装置
【課題】曲線部のレーザー溶接時に、フィラーワイヤを溶融池内の好適な位置に供給することができ、二枚の金属板を良好にレーザー溶接することができるようにする。
【解決手段】上下に重ね合わせられた二枚の金属板W1、W2のうち上側の金属板W1表面にレーザー光LBを照射しつつレーザー光LBを所定の溶接経路Rに沿って移動し、レーザー光LBによって金属板W1、W2を溶融させて溶融金属が貯留されてなる溶融池WYを形成するとともに、ワイヤ供給手段3によって溶融池WYにおけるレーザー光LBの被照射部位Lよりも溶接進行方向後方の所定位置に通電加熱されたフィラーワイヤXを供給し、二枚の金属板W1、W2をレーザー溶接するに際し、レーザー光LBの移動軌跡が曲線部であると判定されると、ワイヤ供給手段3の位置を調整することにより、フィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させる。
【解決手段】上下に重ね合わせられた二枚の金属板W1、W2のうち上側の金属板W1表面にレーザー光LBを照射しつつレーザー光LBを所定の溶接経路Rに沿って移動し、レーザー光LBによって金属板W1、W2を溶融させて溶融金属が貯留されてなる溶融池WYを形成するとともに、ワイヤ供給手段3によって溶融池WYにおけるレーザー光LBの被照射部位Lよりも溶接進行方向後方の所定位置に通電加熱されたフィラーワイヤXを供給し、二枚の金属板W1、W2をレーザー溶接するに際し、レーザー光LBの移動軌跡が曲線部であると判定されると、ワイヤ供給手段3の位置を調整することにより、フィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラーワイヤを供給しながら上下に重ね合わせられた二枚の金属板をレーザー溶接するレーザー溶接方法及びレーザー溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、上下に重ね合わされた二枚の金属板の溶接方法として、レーザー溶接が利用されつつある。このレーザー溶接は、二枚の金属板の上側の金属板表面に向けてレーザー光を照射しつつ該レーザー光を所定の溶接経路に沿ってこれら二枚の金属板に対して移動させ、二枚の金属板を溶融させて線状の溶接ビードを形成させるものである。
【0003】
また、レーザー溶接については、上下に重ね合わされた二枚の金属板を溶接するものではないが、二枚の金属板を突き合わせて溶接する際に、突き合わせた被溶接部にフィラーワイヤを供給しながらレーザー溶接することにより、金属板だけでなくフィラーワイヤも溶融させて、二枚の金属板を溶接することが知られている。
【0004】
例えば特許文献1には、突き合わせた被溶接部にレーザー光を照射しつつ移動させる際に、被溶接部にフィラーワイヤをレーザー光の移動方向後方側から送給するものが開示されている。また、例えば特許文献2には、突き合わせた被溶接部にレーザー光を照射してレーザー溶接を行う際に、レーザー光の周囲を囲む円弧状のフィラーワイヤを被溶接部に送給するものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−9173号公報
【特許文献2】特開2003−48087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上下に重ね合わされた二枚の金属板をレーザー溶接する場合、二枚の金属板における対向する面は一般に完全な平面ではないので、二枚の金属板間には少なからず隙間が生じることとなり、その結果、例えば隙間が大きい箇所において上側の金属板の溶融金属が金属板間の隙間を超えて下側の金属板に接触するまで垂下せず、上下の金属板が連結されない溶接不良を生じることがある。
【0007】
これに対しては、上下に重ね合わされた二枚の金属板のうち上側の金属板表面に向けて照射されたレーザー光によって形成された溶融池におけるレーザー光よりも溶接進行方向後方の所定位置にフィラーワイヤを供給することで、金属板だけでなくフィラーワイヤも溶融させて、すなわち溶融金属を増加させて、二枚の金属板を溶接することが考えられる。
【0008】
しかしながら、フィラーワイヤを溶融池におけるレーザー光よりも溶接進行方向後方の所定位置に供給しながら上下に重ね合わせた二枚の金属板をレーザー溶接する際には、レーザー光の移動軌跡が所定の曲率を有する曲線部では、レーザー光によって照射される曲線部の内側がその外側に比して、レーザー光によって金属板に入力されるエネルギー入力量が大きくなることから、溶融池が曲線部の曲率中心側に移動することとなり、レーザー光の溶接進行方向後方の所定位置に供給されたフィラーワイヤの先端が溶融池の外周面を形成する非溶融状態の金属板や被溶接部に接触し、フィラーワイヤが引っかかったり折れ曲がったりしてワイヤ供給状態が一定せずに溶接が不安定になる畏れがある。
【0009】
そこで、本発明は、前記技術的課題に鑑みてなされたものであり、フィラーワイヤを供給しながら上下に重ね合わせられた二枚の金属板をレーザー溶接する際に、曲線部のレーザー溶接時に、フィラーワイヤを溶融池内の好適な位置に供給することができ、二枚の金属板を良好にレーザー溶接することができるようにする、ことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このため、本願の請求項1に係る発明は、上下に重ね合わせられた状態で対向する面の間に隙間が生じた平板状の二枚の金属板のうち上側の金属板表面にレーザー光を照射しつつ該レーザー光を所定の溶接経路に沿って前記二枚の金属板に対して相対的に移動し、該レーザー光によって前記金属板を溶融させて溶融金属が貯留されてなる溶融池を形成するとともに、ワイヤ供給手段によって前記溶融池における前記レーザー光の被照射部位よりも溶接進行方向後方の所定位置に通電加熱されたフィラーワイヤを供給し、二枚の金属板をレーザー溶接するレーザー溶接方法であって、前記レーザー光の移動軌跡が所定の曲率を有する曲線部であるか否かを判定する曲線部判定ステップと、前記曲線部判定ステップにおいて前記レーザー光の移動軌跡が前記曲線部であると判定されると、前記ワイヤ供給手段の位置を調整することにより、前記フィラーワイヤの前記溶融池への供給位置を前記曲線部の曲率中心側へ移動させるワイヤ供給位置調整ステップと、を備えている、ことを特徴としたものである。
【0011】
また、本願の請求項2に係る発明は、請求項1に記載のレーザー溶接方法において、前記ワイヤ供給位置調整ステップは、前記ワイヤ供給手段を平行移動させることにより、フィラーワイヤの前記溶融池への供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させる、ことを特徴としたものである。
【0012】
更に、本願の請求項3に係る発明は、請求項1に記載のレーザー溶接方法において、前記ワイヤ供給位置調整ステップは、前記ワイヤ供給手段を回転移動させることにより、フィラーワイヤの前記溶融池への供給位置を前記曲線部の曲率中心側へ移動させる、ことを特徴としたものである。
【0013】
また更に、本願の請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3の何れか1項に記載のレーザー溶接方法において、前記ワイヤ供給位置調整ステップにおける前記フィラーワイヤの供給位置の移動量が、前記曲線部の曲率、前記レーザー光の出力及び前記レーザー光の移動速度の少なくとも何れか1つに基づいて決定される、ことを特徴としたものである。
【0014】
また更に、本願の請求項5に係る発明は、請求項1から請求項3の何れか1項に記載のレーザー溶接方法において、前記ワイヤ供給位置調整ステップにおける前記フィラーワイヤの供給位置の移動量が、前記溶融池の形状を撮像する撮像手段によって撮像された前記溶融池の形状に基づいて決定される、ことを特徴としたものである。
【0015】
また更に、本願の請求項6に係る発明は、上下に重ね合わせられた状態で対向する面の間に隙間が生じた平板状の二枚の金属板のうち上側の金属板表面にレーザー光を照射し、前記金属板を溶融させて溶融金属が貯留されてなる溶融池を形成するレーザーヘッドと、前記溶融池における前記レーザー光の被照射部位よりも溶接進行方向後方の所定位置に通電加熱されたフィラーワイヤを供給するワイヤ供給手段と、を備え、二枚の金属板をレーザー溶接するレーザー溶接装置であって、前記ワイヤ供給手段の位置を調整することにより、フィラーワイヤの前記溶融池への供給位置を移動するワイヤ供給位置調整手段と、前記レーザー光の移動軌跡が所定の曲率を有する曲線部であるか否かを判定する曲線部判定手段と、前記曲線部判定手段によって前記レーザー光の移動軌跡が前記曲線部であると判定されると、前記ワイヤ供給位置調整手段の作動を制御することにより、フィラーワイヤの前記溶融池への供給位置を前記曲線部の曲率中心側へ移動させるワイヤ供給位置制御手段と、を備えている、ことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0016】
本願の請求項1に係る発明によれば、レーザー光の移動軌跡が曲線部であると判定されると、ワイヤ供給手段の位置を調整することにより、フィラーワイヤの溶融池への供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させるので、曲線部のレーザー溶接時に、レーザー光によって照射される曲線部の内側がその外側に比してエネルギー入力量が大きくなって溶融池が曲線部の曲率中心側に移動する場合においても、フィラーワイヤを非溶融状態の金属板や被溶接部に接触することなく、フィラーワイヤを溶融池内の好適な位置に供給することができ、二枚の金属板を良好にレーザー溶接することができる。
【0017】
また、本願の請求項2に係る発明によれば、ワイヤ供給位置調整ステップは、ワイヤ供給手段を平行移動させることにより、フィラーワイヤの溶融池への供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させるので、比較的簡単な方法によって、前記効果をより具体的に実現することができる。
【0018】
更に、本願の請求項3に係る発明によれば、ワイヤ供給位置調整ステップは、ワイヤ供給手段を回転移動させることにより、フィラーワイヤの溶融池への供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させるので、比較的簡単な方法によって、前記効果をより具体的に実現することができる。
【0019】
また更に、本願の請求項4に係る発明によれば、ワイヤ供給位置調整ステップにおけるフィラーワイヤの供給位置の移動量が、曲線部の曲率、レーザー光の出力及びレーザー光の移動速度の少なくとも何れか1つに基づいて決定されることにより、フィラーワイヤの供給位置の移動量を精度良く決定することができ、前記効果をより有効に奏することができる。
【0020】
また更に、本願の請求項5に係る発明によれば、ワイヤ供給位置調整ステップにおけるフィラーワイヤの供給位置の移動量が、溶融池の形状を撮像する撮像手段によって撮像された溶融池の形状に基づいて決定されることにより、フィラーワイヤの供給位置の移動量をより精度良く決定することができ、前記効果をより安定して得ることができる。
【0021】
また更に、本願の請求項6に係る装置発明によれば、請求項1に記載の方法発明と同様の作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るレーザー溶接装置の斜視図である。
【図2】前記レーザー溶接装置の背面図である
【図3】前記レーザー溶接装置の側面図である
【図4】前記レーザー溶接装置の制御構成図である。
【図5】前記レーザー溶接装置によってレーザー溶接中にある二枚の金属板のレーザー光被照射部位及びその近傍の状態を示す図である。
【図6】曲線部のレーザー溶接時に金属板へ入力されるエネルギーを説明するための説明図である。
【図7】曲線部のレーザー溶接時の前記レーザー溶接装置の制御を説明するための説明図である。
【図8】本発明の第1の実施形態に係るレーザー溶接装置の制御フローチャートである。
【図9】曲線部のレーザー溶接時の前記レーザー溶接装置の別の制御を説明するための説明図である。
【図10】本発明の第2の実施形態に係るレーザー溶接装置の制御構成図である。
【図11】本発明の第2の実施形態に係るレーザー溶接装置の制御フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態に係るレーザー溶接方法及びレーザー溶接装置について、添付図面を参照しながら説明する。
【0024】
図1は、本発明の第1の実施形態に係るレーザー溶接装置の斜視図であり、図2は、前記レーザー溶接装置の背面図、図3は、前記レーザー溶接装置の側面図、図4は、前記レーザー溶接装置の制御構成図である。なお、図1では、図を見やすくするために、ワイヤ供給ノズルの位置を調整することにより、フィラーワイヤの溶融池への供給位置を調整するワイヤ供給位置調整機構を省略して示している。
【0025】
図1に示すように、第1の実施形態に係るレーザー溶接装置10は、レーザー光LBを発生するレーザーヘッド2と、レーザーヘッド2からのレーザー光被照射部位Lの後方の所定位置にフィラーワイヤXを供給するワイヤ供給手段としてのワイヤ供給ノズル3と、フィラーワイヤXを所定温度に加熱するワイヤ加熱装置4と、レーザーヘッド2及びワイヤ供給ノズル3を支持すると共にワークWに対して相対的に移動させるアーム型の溶接ロボット5とを有している。なお、図1では、溶接ロボット5のロボットアーム51の先端のみが示されている。
【0026】
本実施形態では、ワークWとしては、上下に重ね合わせられた平板状の二枚の金属板W1、W2を一例として示している。二枚の金属板W1、W2は、複数のクランプ治具6によって把持されているが、金属板W1、W2の精度上、対向する面の間には少なからず隙間Zが生じている。
【0027】
レーザーヘッド2は、例えばYAGレーザー、炭酸ガスレーザー等の高出力レーザーを利用して構成されていると共に、レーザー光LBの出力が可変とされている。また、レーザー光LBの焦点位置は可変であるが、本実施形態では下側の金属板W2の下面に設定されている。このレーザーヘッド2は、平面状に形成された取付ブラケット52を介してロボットアーム51の先端に取り付けられている。
【0028】
ワイヤ供給ノズル3は、レーザーヘッド2よりも溶接進行方向後方側に配設され、ワイヤ送給装置31内のワイヤ送給モータ32(図4参照)によって、フィラーワイヤXが巻回されたワイヤ送給装置31内の図示しないワイヤロールから繰り出されたフィラーワイヤXを、上側の金属板W1の上面においてレーザー光LBに対して溶接進行方向後方の所定位置に、所定角度で供給することができるようになっている。
【0029】
ワイヤ送給モータ32は、回転速度や回転方向の制御が可能に構成され、これにより、フィラーワイヤXの供給量が調整可能に構成されるとともに、前記ワイヤロールからフィラーワイヤXを供給可能に、且つ前記ワイヤロールへフィラーワイヤXを引き戻し可能に構成されている。
【0030】
ワイヤ供給ノズル3はまた、該ワイヤ供給ノズル3をレーザーヘッド2に対して溶接進行方向と直交する左右方向に水平に平行移動させるワイヤノズル水平移動機構33(図4参照)と該ワイヤ供給ノズル3をレーザーヘッド2に対して回動移動させるワイヤノズル回動駆動機構34(図4参照)を介して、取付ブラケット52に取り付けられている。
【0031】
具体的には、図2及び図3に示すように、取付ブラケット52の溶接進行方向後端部に取り付けられた矩形状の固定プレート35に、ワイヤノズル水平移動機構33によって該固定プレート35に対して水平に平行移動可能に構成される移動プレート36が取り付けられ、この移動プレート36に、ワイヤノズル回動駆動機構34によって該移動プレート36に対して回動可能に構成される回動軸部37が取り付けられ、この回動軸部37の先端部の傾斜面37aにワイヤ供給ノズル3が固定されている。
【0032】
このようにして、レーザーヘッド2とワイヤ供給ノズル3とがロボットアーム51の先端に取り付けられ、ワイヤ供給ノズル3は、レーザーヘッド2の溶接進行方向後方側に配設され、レーザーヘッド2に対して相対的に、ワイヤノズル水平移動機構33によって溶接進行方向と直交する左右方向に水平に平行移動されるようになっているとともに、ワイヤノズル回動駆動機構34によって回動軸部37の軸CAを中心として回動されるようになっている。
【0033】
本実施形態では、レーザーヘッド2とワイヤ供給ノズル3とは、レーザー光LBの移動軌跡が直線状である直線部の溶接時には、レーザーヘッド2の軸CLとワイヤ供給ノズル3の軸CNとが溶接経路Rに沿って一致し、レーザー光LBの中心LBcとフィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置とが溶接経路Rに沿って一致した状態で移動するように位置調整されているが、レーザー光LBの移動軌跡が所定の曲率を有する曲線部である曲線部の溶接時には、ワイヤ供給ノズル3の軸CNが平行移動又は回転移動され、レーザー光LBの中心LBcに対してフィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置が曲線部の曲率中心側へ移動するように位置調整される。なお、前記ワイヤ供給位置調整機構は、ワイヤノズル水平移動機構33及びワイヤノズル回動駆動機構34によって構成されている。
【0034】
ワイヤ加熱装置4は、フィラーワイヤXに通電することにより、該ワイヤXに生じるジュール熱で該ワイヤX1を加熱するものであり、加熱電源装置41と、該加熱電源装置41とワイヤ供給ノズル3とを接続するノズル接続ケーブル42と、該加熱電源装置41とクランプ治具6とを接続する、すなわち加熱電源装置41と金属板W1、W2とを接続する金属板接続ケーブル43とを有している。
【0035】
ワイヤ加熱装置4を用いてフィラーワイヤXを加熱する際には、加熱電源装置41から流れる電流が、ノズル接続ケーブル42、ワイヤ供給ノズル3、フィラーワイヤX、金属板W1、W2、クランプ治具6、金属板接続ケーブル43を介して加熱電源装置41に戻るようになっている。なお、逆回りに電流が流れるように構成してももちろんよい。
【0036】
ここで、前記所定温度は、フィラーワイヤXの先端が、後述する図5に示すように、溶融池WYに供給されたときに、ワイヤ加熱装置4による熱と溶融池WYの熱とで溶融する温度に設定されている。フィラーワイヤXを所定温度に加熱するための電流値については実験等を行って導けばよい。
【0037】
また、レーザー溶接装置10には、図4に示すように、レーザー光LBの移動軌跡、レーザー光LBの出力及びレーザー光LBの移動速度などの溶接データを入力するデータ入力装置7と、レーザーヘッド2、ワイヤ送給モータ32、ワイヤ加熱装置4、ワイヤノズル水平移動機構33、ワイヤノズル回動駆動機構34及び溶接ロボット5の作動など、レーザー溶接装置10に関係する構成を総合的に制御するコントロールユニット60とが備えられている。
【0038】
コントロールユニット60は、データ入力装置7に入力された溶接データに基づいて、レーザー光LBの移動軌跡が所定の曲率を有する曲線部であるか否かを判定する判定手段としての曲線部判定部61と、該曲線部判定部61によってレーザー光LBの移動軌跡が曲線部であると判定されると、溶接データに基づいて曲線部の曲率を算出する曲率算出部62と、該曲率算出部62によって算出された曲率に基づいて、フィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させるための、ワイヤ供給ノズル3の位置を調整するノズル調整量を算出するノズル調整量算出部63と、該ノズル調整量算出部63によって算出されたノズル調整量に基づいて、ワイヤノズル水平移動機構33又はワイヤノズル回動駆動機構34の作動を制御するノズル調整部64とを備えている。
【0039】
コントロールユニット60にはまた、所定のレーザー光LBの出力及び所定のレーザー光LBの移動速度である場合に所定の曲率を有する曲線部をレーザー溶接するときに、溶融池WYが曲線部の曲率中心側に移動する移動量、具体的にはレーザー光LBの移動軌跡と溶融池WYの幅方向中心とのオフセット量が記憶されたノズル移動データ記憶装置67が接続されている。
【0040】
これにより、コントロールユニット60のノズル調整量算出部63では、曲率算出部62によって算出された曲率に基づいて、ノズル移動データ記憶装置67から溶融池WYが曲線部の曲率中心側に移動する移動量が算出され、この移動量だけフィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させるために、ワイヤ供給ノズル3の位置を調整するノズル調整量が算出される。なお、コントロールユニット60は、例えばマイクロコンピュータを主要部として構成されている。
【0041】
このようにして構成されるレーザー溶接装置10を用いてレーザー溶接する際には、図1に示すように、先ず、平板状の二枚の金属板W1、W2を上下に重ね合わせた状態で二枚の金属板W1、W2を所定位置においてクランプ治具6によって把持する。この二枚の金属板W1、W2の対向する面の間には、前述したように隙間Zが生じている。
【0042】
そして、二枚の金属板W1、W2のうち上側の金属板W1表面に向けてレーザー光LBを照射しつつ該レーザー光LBを溶接経路Rに沿ってこれら二枚の金属板W1、W2に対して相対的に移動させ、これにより、上下の金属板W1、W2のレーザー光被照射部位Lを溶融させて上下の金属板W1、W2の溶融金属が貯留されてなる溶融池WYを上側の金属板W1の上面から下側の金属板W2の下面にわたって形成する。そして、溶融池WYの熱とで溶融するように通電加熱されたフィラーワイヤXを溶融池WYにおけるレーザー光LBよりも溶接進行方向後方の所定位置に供給し、フィラーワイヤXを溶融させて溶融池WYに溶融金属を追加供給する。
【0043】
図5は、前記レーザー溶接装置によってレーザー溶接中にある二枚の金属板のレーザー光被照射部位及びその近傍の状態を示す図であり、図5の(a)は、金属板のレーザー光被照射部位及びその近傍の状態を示す平面図、図5の(b)は、図5(a)のY5b−Y5b線に沿った断面図である。
【0044】
図5を参照しつつ詳しく説明すると、先ず、溶接経路Rにおけるレーザー光LBの中心LBcの前方近傍では、上側の金属板W1におけるレーザー光LBの中心LBc近傍の金属が溶融され、溶融金属Wyが生成されている。レーザー光LBが照射されるレーザー光被照射部位Lは、レーザー光LBにより金属がプラズマ状態となり、その圧力により溶融金属Wyを周囲に押しやってキーホールWKが形成されている。
【0045】
溶接経路Rにおけるレーザー光中心LBc位置では、キーホールWKは、上側の金属板W1を貫通して下側の金属板W2に達している。そして、下側の金属板W2においても、レーザー光中心LBc近傍の金属が溶融されて溶融金属Wyが生成されている。また、上側の金属板W1の溶融金属Wyは、重力により下側の金属板W2側に垂下し始めている。
【0046】
溶接経路Rにおけるレーザー光LBの中心LBcの後方近傍では、上側の金属板W1の溶融金属Wyが重力により下方へ垂下し、溶融経路Rにおけるレーザー光中心LBcよりも後方位置においては、溶融金属Wyが、先に形成されていたキーホールWKに運ばれ、溶融金属Wyが貯留されてなる溶融池WYが上側の金属板W1の上面から下側の金属板W2の下面にわたって形成されている。
【0047】
溶融池WYの熱とで溶融するように通電加熱されたフィラーワイヤXは、溶融池WYにおけるレーザー光LBよりも溶接進行方向後方の所定位置に供給され、フィラーワイヤXが溶融して溶融金属Wy’が生成される。この新たに生成された溶融金属Wy’が溶融池WY内に供給されることにより、もとから存在していた溶融池WY内の溶融金属Wyが点線の矢印で示すように下方へ押しやられて、該溶融金属Wyの隙間Zを超えた下方への垂下が促進され、上側の金属板W1と下側の金属板W2とが溶融金属Wyにより連結されることとなる。
【0048】
そして、溶接経路Rにおけるレーザー光中心LBcよりもさらに後方位置においては、溶融池WYの溶融金属Wy、Wy’が下側から固化し始め、さらに後方においては、溶融池Wyの溶融金属Wy、Wy’が上から下まで全て固化し、非溶融状態の被溶接部WBが形成されることとなる。
【0049】
ここで、溶融池WYへのフィラーワイヤXの供給についてさらに説明する。
図5に示すように、フィラーワイヤXは、溶接経路Rに沿って溶融池WYに供給されるとともに、矢印βで示すように前下がりに傾斜した状態で溶融池WY内に進入するように供給される。
【0050】
より詳しくは、フィラーワイヤXは、溶融池WYに対するフィラーワイヤXの進入位置、すなわちフィラーワイヤXが溶融池WYの上面と交差する溶接進行方向前端位置Xpが、レーザー光中心LBcから溶接経路R後方の距離Dとなるように供給され、溶融池WYに対するフィラーワイヤXの進入角度が、すなわちフィラーワイヤXと溶融池WYの上面とのなす角度がθとなるように供給される。
【0051】
そして、図5に示すように、溶融池WYに供給されるフィラーワイヤXを、溶融池WY内に形成されたキーホールWKに入らないように、且つ、溶融池WYの外周形状と接触しないように、すなわち非溶融状態にある金属板W1、W2や被溶接部WBと接触しないように溶融池WY内に進入させる。
【0052】
このようにして、フィラーワイヤXを供給しながら二枚の金属板W1、W2をレーザー溶接することにより、金属板W1、W2の溶融金属WyにフィラーワイヤXの溶融金属Wy’を加えて溶融金属量を増大させることができるとともに、溶融池WY内へのフィラーワイヤXの進入によって上側の金属板W1の溶融金属Wyの下方への垂下を促進させることができ、二枚の金属板W1、W2間に比較的大きい隙間Zが生じている場合においても、上下の金属板W1、W2を良好に連結させることができる。
【0053】
前述したように、フィラーワイヤXを供給しながら二枚の金属板W1、W2をレーザー溶接する際には、レーザー光LBの移動軌跡が所定の曲率を有する曲線部では、溶融池WYが曲線部の曲率中心側に移動し、溶融池WYにおけるレーザー光LBの溶接進行方向後方の所定位置に供給されたフィラーワイヤXが溶融池WYの外周面を形成する非溶融状態の金属板や被溶接部に接触する場合があるが、本実施形態では、レーザー光LBの移動軌跡が曲線部であるか否かを判定し、レーザー光LBの移動軌跡が曲線部であると判定されると、ワイヤ供給ノズル3の位置を調整することにより、フィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させることで、かかる問題を回避する。
【0054】
ここで、レーザー光LBの移動軌跡が所定の曲率を有する曲線部である曲線部のレーザー溶接時に、金属板へ入力されるエネルギーについて説明する。
図6は、曲線部のレーザー溶接時に金属板へ入力されるエネルギーを説明するための説明図であり、図6では、溶接経路Rとして直線部から曲線部につづく経路を示し、所定時間毎に金属板W1の上面に照射されるレーザー光の被照射部位Lを斜線ハッチングによって示し、レーザー光の被照射部位Lが重なる部分をクロスハッチングによって示している。
【0055】
図6に示すように、溶接経路Rに沿って移動するレーザー光LBの移動軌跡が直線部T1であるとき、溶接経路Rの溶接進行方向右側、すなわち図6において溶接経路Rの上側と溶接進行方向左側、すなわち図6において溶接経路Rの下側とでレーザー光被照射部位Lにおけるクロスハッチングの占める割合が等しいが、レーザー光LBの移動軌跡が曲線部T2であるときには、溶接経路Rの溶接進行方向左側である曲線部T2の内側は、溶接経路Rの溶接進行方向右側である曲線部T2の外側に比してレーザー光被照射部位Lにおけるクロスハッチングの占める割合が大きく、レーザー光LBによって金属板に入力されるエネルギー入力量が大きくなることとなる。このため、曲線部のレーザー溶接時には、溶融池が曲線部の曲率中心側に移動することとなる。
【0056】
以下、曲線部のレーザー溶接時に、ワイヤ供給ノズル3の位置を調整することにより、フィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させる方法について説明する。
【0057】
図7は、曲線部のレーザー溶接時の前記レーザー溶接装置の制御を説明するための説明図であり、図7では、直線部をレーザー溶接中にあるワイヤ供給ノズル及び溶融池の形状を二点鎖線で示し、曲線部をレーザー溶接中にあるワイヤ供給ノズル及び溶融池の形状を実線で示している。
【0058】
前述したように、曲線部のレーザー溶接時には、溶融池が曲線部の曲率中心側である曲線部の内側に移動することとなる。これに対応して、本実施形態では、レーザー光LBの移動軌跡が曲線部であるか否かを判定し、レーザー光LBの移動軌跡が曲線部であると判定されると、図7に示すように、ワイヤ供給ノズル3の位置をレーザーヘッド2に対して平行移動して調整することにより、フィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させる。
【0059】
図8は、本発明の第1の実施形態に係るレーザー溶接装置の制御フローチャートである。レーザー溶接装置10では、フィラーワイヤXを供給しながら二枚の金属板W1、W2をレーザー溶接するに際し、先ず、レーザー光LBの移動軌跡、レーザー光LBの出力、レーザー光LBの移動速度、ワイヤ加熱装置4の出力などのレーザー溶接データが入力され(#1)、レーザー溶接が開始される(#2)。
【0060】
そして、データ入力装置7に入力された溶接データに基づいて、レーザー光LBの移動軌跡が曲線部である曲線部のレーザー溶接であるか否かが判定される(#3)。#3において曲線部のレーザー溶接であると判定されると、溶接データに基づいて曲線部の曲率が算出され(#4)、算出された曲率に基づいて、フィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させるための、ワイヤ供給ノズル3の位置を調整するノズル調整量が算出される(#5)。
【0061】
次に、#5において算出されたノズル調整量に基づいて、ノズル調整制御が行われる(#6)。具体的には、#5において算出されたノズル調整量に基づいて、図7に示すように、ワイヤノズル水平移動機構33の作動が制御され、ワイヤ供給ノズル3が曲線部の曲率中心側に水平方向に平行移動される。これにより、フィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置が曲線部の曲率中心側へ移動される。そして、#7において溶接終了であるか否かが判定され、溶接終了になるまで#3から#7が繰り返される。
【0062】
一方、#3において曲線部のレーザー溶接ではないと判定されると、すなわち直線部のレーザー溶接であると判定されると、ワイヤ供給ノズル3は、レーザーヘッド2の軸CLとワイヤ供給ノズル3の軸CNとが溶接経路Rに沿って一致し、レーザー光LBの中心LBcとフィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置とが溶接経路Rに沿って一致した状態で移動するように位置調整された状態のまま、溶接終了であるか否かが判定される(#7)。なお、直線部のレーザー溶接であると判定された際に、レーザーヘッド2の軸CLとワイヤ供給ノズル3の軸CNとが溶接経路Rに沿って一致していない場合は、レーザーヘッド2の軸CLとワイヤ供給ノズル3の軸CNとが溶接経路Rに沿って一致するように位置調整される。
【0063】
このようにして、曲線部のレーザー溶接時に、溶融池WYの形状が曲線部の曲率中心側に移動する場合においても、フィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置が曲線部の曲率中心側へ移動されることにより、フィラーワイヤXを非溶融状態の金属板W1、W2や被溶接部WBに接触することなく、フィラーワイヤXを溶融池WY内の好適な位置に供給することができ、二枚の金属板W1、W2を良好にレーザー溶接することができる。
【0064】
前述した実施形態では、曲線部のレーザー溶接時に、ワイヤノズル水平移動機構33の作動を制御し、図7に示すように、ワイヤ供給ノズル3を曲線部の曲率中心側に水平方向に平行移動しているが、ワイヤ供給ノズル3を回転移動させることにより、フィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させることも可能である。
【0065】
図9は、曲線部のレーザー溶接時の前記レーザー溶接装置の別の制御を説明するための説明図であり、図9においても、直線部をレーザー溶接中にあるワイヤ供給ノズル及び溶融池の形状を二点鎖線で示し、曲線部をレーザー溶接中にあるワイヤ供給ノズル及び溶融池の形状を実線で示している。
【0066】
図9に示すように、曲線部のレーザー溶接時に溶融池が曲線部の曲率中心側である曲線部の内側に移動することに対応して、レーザー光LBの移動軌跡が曲線部であると判定されると、ワイヤ供給ノズル3の位置をレーザーヘッド2に対して回転移動して調整することにより、フィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させることも可能である。なお、ノズル調整量算出部63では、ワイヤ供給ノズル3を平行移動させる場合、あるいはワイヤ供給ノズル3を回転移動させる場合についてそれぞれ、ノズル調整量が算出される。
【0067】
このように、本発明の第1の実施形態では、二枚の金属板W1、W2のうち上側の金属板W1表面にレーザー光LBを照射しつつ該レーザー光LBを所定の溶接経路Rに沿って二枚の金属板W1、W2に対して相対的に移動し、該レーザー光LBによって金属板W1、W2を溶融させて溶融金属Wyが貯留されてなる溶融池WYを形成するとともに、ワイヤ供給ノズル3によって溶融池WYにおけるレーザー光LBの被照射部位Lよりも溶接進行方向後方の所定位置に通電加熱されたフィラーワイヤXを供給し、二枚の金属板W1、W2をレーザー溶接するに際し、レーザー光LBの移動軌跡が所定の曲率を有する曲線部であるか否かを判定し、レーザー光LBの移動軌跡が曲線部であると判定されると、ワイヤ供給ノズル3の位置を調整することにより、フィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させる。
【0068】
これにより、曲線部のレーザー溶接時に、レーザー光LBによって照射される曲線部の内側がその外側に比してエネルギー入力量が大きくなって溶融池WYが曲線部の曲率中心側に移動する場合においても、フィラーワイヤXを非溶融状態の金属板W1、W2や被溶接部WBに接触することなく、フィラーワイヤXを溶融池WY内の好適な位置に供給することができ、二枚の金属板W1、W2を良好にレーザー溶接することができる。特に、フィラーワイヤXの先端を、溶融池WYへの供給位置から溶接進行方向前方側に前下がりに傾斜した状態で溶融池WY内に進入させる場合、曲線部のレーザー溶接時にフィラーワイヤXが非溶融状態の金属板W1、W2や被溶接部WBに接触しやすくなるので、前記効果御をより有効に奏することができる。
【0069】
また、ワイヤ供給ノズル3を平行移動又は回転移動させることにより、フィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させるので、比較的簡単な方法によって、前記効果をより具体的に実現することができる。
【0070】
前述した実施形態では、フィラーワイヤXの供給位置の移動量、ひいてはワイヤ供給ノズル3の調整量が、曲線部の曲率に基づいて決定されているが、レーザー光LBの出力やレーザー光LBの移動速度によっても溶融池WYの形状が移動することから、フィラーワイヤXの供給位置の移動量を、曲線部の曲率、レーザー光LBの出力及びレーザー光LBの移動速度の少なくとも何れか1つに基づいて決定するようにしてもよい。これにより、ワイヤ供給ノズル3の移動量を精度良く決定することができ、前記効果をより有効に奏することができる。
【0071】
図10は、本発明の第2の実施形態に係るレーザー溶接装置の制御構成図である。第2の実施形態に係るレーザー溶接装置70は、第1の実施形態に係るレーザー溶接装置10に、ワークWのレーザー光照射部位L及びその近傍を上側の金属板W1の上方側から撮像する撮像手段としての撮像装置8がさらに備えられたものであり、レーザー溶接装置10と同様の構成については同一符号を付して説明を省略する。
【0072】
図10に示すように、第2の実施形態に係るレーザー溶接装置70は、レーザー溶接装置10に加えて、撮像装置8をさらに備えており、該撮像装置8は、例えばCCDカメラなどによって所定周期毎に画像を取得可能に構成され、溶融池WYの上面を撮像することができるようになっている。
【0073】
レーザー溶接装置70においても、レーザー光LBの移動軌跡が所定の曲率を有する曲線部である曲線部のレーザー溶接時には、ワイヤ供給ノズル3の軸CNが平行移動又は回転移動され、レーザー光LBの中心LBcに対してフィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置が曲線部の曲率中心側へ移動されるが、レーザー溶接装置70では、撮像装置8によって撮像された撮像データから溶融池WYの形状が算出され、レーザー光LBの移動軌跡と溶融池WYの幅方向中心とのオフセット量が算出され、このオフセット量だけ、フィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させるための、ワイヤ供給ノズル3の位置を調整するノズル調整量が算出され、算出されたノズル調整量に基づいて、ワイヤノズル水平移動機構33又はワイヤノズル回動駆動機構34の作動が制御される。
【0074】
レーザー溶接装置70のコントロールユニット60には、曲率算出部62に代えて、撮像装置8によって撮像された撮像データから溶融池WYの形状を算出し、レーザー光LBの移動軌跡と溶融池WYの幅方向中心とのオフセット量を算出する溶融池形状算出部66が備えられ、ノズル調整量算出部63では、溶融池形状算出部66によって算出されたレーザー光LBの移動軌跡と溶融池WYの幅方向中心とのオフセット量に基づいて、このオフセット量だけフィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させるための、ワイヤ供給ノズル3の位置を調整するノズル調整量が算出される。
【0075】
図11は、本発明の第2の実施形態に係るレーザー溶接装置の制御フローチャートである。レーザー溶接装置70においても、フィラーワイヤXを供給しながら二枚の金属板W1、W2をレーザー溶接するに際し、先ず、レーザー光LBの移動軌跡、レーザー光LBの出力、レーザー光LBの移動速度、ワイヤ加熱装置4の出力などの溶接データが入力され(#11)、レーザー溶接が開始される(#12)。
【0076】
レーザー溶接装置70では、レーザー溶接が開始されると、撮像装置8によって撮像された撮像データがコントロールユニット60に入力される(#13)。そして、データ入力装置7に入力された溶接データに基づいて、レーザー光LBの移動軌跡が曲線部である曲線部のレーザー溶接であるか否かが判定される(#14)。
【0077】
#14において曲線部のレーザー溶接であると判定されると、レーザー光LBの移動軌跡と溶融池WYの幅方向中心とのオフセット量が算出され(#15)、算出されたオフセット量に基づいて、フィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させるための、ワイヤ供給ノズル3の位置を調整するノズル調整量が算出される(#16)。
【0078】
次に、#16において算出されたノズル調整量に基づいて、ノズル調整制御が行われる(#17)。ノズル調整制御は、前述した図7に示すように、ワイヤノズル水平移動機構33の作動を制御してワイヤ供給ノズル3を曲線部の曲率中心側に水平方向に平行移動させるようにしてもよく、前述した図9に示すように、ワイヤノズル回動駆動機構34の作動を制御してワイヤ供給ノズル3の位置をレーザーヘッド2に対し回転移動させるようにしてもよい。これにより、フィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置が曲線部の曲率中心側へ移動される。そして、#18において溶接終了であるか否かが判定され、溶接終了になるまで#14から#18が繰り返される。
【0079】
一方、#14において曲線部のレーザー溶接ではないと判定されると、すなわち直線部のレーザー溶接であると判定されると、ワイヤ供給ノズル3は、レーザーヘッド2の軸CLとワイヤ供給ノズル3の軸CNとが溶接経路Rに沿って一致し、レーザー光LBの中心LBcとフィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置とが溶接経路Rに沿って一致した状態で移動するように位置調整された状態のまま、溶接終了であるか否かが判定される(#18)。なお、直線部のレーザー溶接であると判定された際に、レーザーヘッド2の軸CLとワイヤ供給ノズル3の軸CNとが溶接経路Rに沿って一致していない場合は、レーザーヘッド2の軸CLとワイヤ供給ノズル3の軸CNとが溶接経路Rに沿って一致するように位置調整される。
【0080】
このようにして、曲線部のレーザー溶接時に、溶融池WYが曲線部の曲率中心側に移動する場合においても、フィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置が曲線部の曲率中心側へ移動されることにより、フィラーワイヤXを非溶融状態の金属板W1、W2や被溶接部WBに接触することなく、フィラーワイヤXを溶融池WY内の好適な位置に供給することができ、二枚の金属板W1、W2を良好にレーザー溶接することができる。
【0081】
このように、本発明の第2の実施形態では、フィラーワイヤXの供給位置の移動量、ひいてはワイヤ供給ノズル3の調整量が、溶融池WYの形状を撮像する撮像装置8によって撮像された溶融池WYの形状に基づいて決定される。これにより、フィラーワイヤXの移動量を精度良く決定することができ、前記効果をより安定して得ることができる。
【0082】
なお、溶接データとしてフィラーワイヤXのワイヤ径を入力しておくことで、曲線部のレーザー溶接時に、ワイヤ供給ノズル3の位置を調整することにより、フィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させる際に、ワイヤ径を考慮して、フィラーワイヤXが溶融池WYの外周面を形成する非溶融状態の金属板W1、W2や被溶接部WBに接触しないようにワイヤ供給ノズル3の移動量を制御することができ、かかる場合には、前記効果をより確実に得ることができる。
【0083】
本発明は、例示された実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0084】
以上のように、本発明は、曲線部のレーザー溶接時に、フィラーワイヤを溶融池内の好適な位置に供給することができ、二枚の金属板を良好にレーザー溶接することができ、自動車産業の他、二枚の金属板の溶接が必要となる産業において広く利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0085】
2 レーザーヘッド
3 ワイヤ供給ノズル
8 撮像装置
10、70 レーザー溶接装置
60 コントロールユニット
L レーザー光の被照射部位
LB レーザー光
R 溶接経路
T2 曲線部
W1、W2 金属板
Wy、Wy’溶融金属
WY 溶融池
X フィラーワイヤ
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラーワイヤを供給しながら上下に重ね合わせられた二枚の金属板をレーザー溶接するレーザー溶接方法及びレーザー溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、上下に重ね合わされた二枚の金属板の溶接方法として、レーザー溶接が利用されつつある。このレーザー溶接は、二枚の金属板の上側の金属板表面に向けてレーザー光を照射しつつ該レーザー光を所定の溶接経路に沿ってこれら二枚の金属板に対して移動させ、二枚の金属板を溶融させて線状の溶接ビードを形成させるものである。
【0003】
また、レーザー溶接については、上下に重ね合わされた二枚の金属板を溶接するものではないが、二枚の金属板を突き合わせて溶接する際に、突き合わせた被溶接部にフィラーワイヤを供給しながらレーザー溶接することにより、金属板だけでなくフィラーワイヤも溶融させて、二枚の金属板を溶接することが知られている。
【0004】
例えば特許文献1には、突き合わせた被溶接部にレーザー光を照射しつつ移動させる際に、被溶接部にフィラーワイヤをレーザー光の移動方向後方側から送給するものが開示されている。また、例えば特許文献2には、突き合わせた被溶接部にレーザー光を照射してレーザー溶接を行う際に、レーザー光の周囲を囲む円弧状のフィラーワイヤを被溶接部に送給するものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−9173号公報
【特許文献2】特開2003−48087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上下に重ね合わされた二枚の金属板をレーザー溶接する場合、二枚の金属板における対向する面は一般に完全な平面ではないので、二枚の金属板間には少なからず隙間が生じることとなり、その結果、例えば隙間が大きい箇所において上側の金属板の溶融金属が金属板間の隙間を超えて下側の金属板に接触するまで垂下せず、上下の金属板が連結されない溶接不良を生じることがある。
【0007】
これに対しては、上下に重ね合わされた二枚の金属板のうち上側の金属板表面に向けて照射されたレーザー光によって形成された溶融池におけるレーザー光よりも溶接進行方向後方の所定位置にフィラーワイヤを供給することで、金属板だけでなくフィラーワイヤも溶融させて、すなわち溶融金属を増加させて、二枚の金属板を溶接することが考えられる。
【0008】
しかしながら、フィラーワイヤを溶融池におけるレーザー光よりも溶接進行方向後方の所定位置に供給しながら上下に重ね合わせた二枚の金属板をレーザー溶接する際には、レーザー光の移動軌跡が所定の曲率を有する曲線部では、レーザー光によって照射される曲線部の内側がその外側に比して、レーザー光によって金属板に入力されるエネルギー入力量が大きくなることから、溶融池が曲線部の曲率中心側に移動することとなり、レーザー光の溶接進行方向後方の所定位置に供給されたフィラーワイヤの先端が溶融池の外周面を形成する非溶融状態の金属板や被溶接部に接触し、フィラーワイヤが引っかかったり折れ曲がったりしてワイヤ供給状態が一定せずに溶接が不安定になる畏れがある。
【0009】
そこで、本発明は、前記技術的課題に鑑みてなされたものであり、フィラーワイヤを供給しながら上下に重ね合わせられた二枚の金属板をレーザー溶接する際に、曲線部のレーザー溶接時に、フィラーワイヤを溶融池内の好適な位置に供給することができ、二枚の金属板を良好にレーザー溶接することができるようにする、ことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このため、本願の請求項1に係る発明は、上下に重ね合わせられた状態で対向する面の間に隙間が生じた平板状の二枚の金属板のうち上側の金属板表面にレーザー光を照射しつつ該レーザー光を所定の溶接経路に沿って前記二枚の金属板に対して相対的に移動し、該レーザー光によって前記金属板を溶融させて溶融金属が貯留されてなる溶融池を形成するとともに、ワイヤ供給手段によって前記溶融池における前記レーザー光の被照射部位よりも溶接進行方向後方の所定位置に通電加熱されたフィラーワイヤを供給し、二枚の金属板をレーザー溶接するレーザー溶接方法であって、前記レーザー光の移動軌跡が所定の曲率を有する曲線部であるか否かを判定する曲線部判定ステップと、前記曲線部判定ステップにおいて前記レーザー光の移動軌跡が前記曲線部であると判定されると、前記ワイヤ供給手段の位置を調整することにより、前記フィラーワイヤの前記溶融池への供給位置を前記曲線部の曲率中心側へ移動させるワイヤ供給位置調整ステップと、を備えている、ことを特徴としたものである。
【0011】
また、本願の請求項2に係る発明は、請求項1に記載のレーザー溶接方法において、前記ワイヤ供給位置調整ステップは、前記ワイヤ供給手段を平行移動させることにより、フィラーワイヤの前記溶融池への供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させる、ことを特徴としたものである。
【0012】
更に、本願の請求項3に係る発明は、請求項1に記載のレーザー溶接方法において、前記ワイヤ供給位置調整ステップは、前記ワイヤ供給手段を回転移動させることにより、フィラーワイヤの前記溶融池への供給位置を前記曲線部の曲率中心側へ移動させる、ことを特徴としたものである。
【0013】
また更に、本願の請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3の何れか1項に記載のレーザー溶接方法において、前記ワイヤ供給位置調整ステップにおける前記フィラーワイヤの供給位置の移動量が、前記曲線部の曲率、前記レーザー光の出力及び前記レーザー光の移動速度の少なくとも何れか1つに基づいて決定される、ことを特徴としたものである。
【0014】
また更に、本願の請求項5に係る発明は、請求項1から請求項3の何れか1項に記載のレーザー溶接方法において、前記ワイヤ供給位置調整ステップにおける前記フィラーワイヤの供給位置の移動量が、前記溶融池の形状を撮像する撮像手段によって撮像された前記溶融池の形状に基づいて決定される、ことを特徴としたものである。
【0015】
また更に、本願の請求項6に係る発明は、上下に重ね合わせられた状態で対向する面の間に隙間が生じた平板状の二枚の金属板のうち上側の金属板表面にレーザー光を照射し、前記金属板を溶融させて溶融金属が貯留されてなる溶融池を形成するレーザーヘッドと、前記溶融池における前記レーザー光の被照射部位よりも溶接進行方向後方の所定位置に通電加熱されたフィラーワイヤを供給するワイヤ供給手段と、を備え、二枚の金属板をレーザー溶接するレーザー溶接装置であって、前記ワイヤ供給手段の位置を調整することにより、フィラーワイヤの前記溶融池への供給位置を移動するワイヤ供給位置調整手段と、前記レーザー光の移動軌跡が所定の曲率を有する曲線部であるか否かを判定する曲線部判定手段と、前記曲線部判定手段によって前記レーザー光の移動軌跡が前記曲線部であると判定されると、前記ワイヤ供給位置調整手段の作動を制御することにより、フィラーワイヤの前記溶融池への供給位置を前記曲線部の曲率中心側へ移動させるワイヤ供給位置制御手段と、を備えている、ことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0016】
本願の請求項1に係る発明によれば、レーザー光の移動軌跡が曲線部であると判定されると、ワイヤ供給手段の位置を調整することにより、フィラーワイヤの溶融池への供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させるので、曲線部のレーザー溶接時に、レーザー光によって照射される曲線部の内側がその外側に比してエネルギー入力量が大きくなって溶融池が曲線部の曲率中心側に移動する場合においても、フィラーワイヤを非溶融状態の金属板や被溶接部に接触することなく、フィラーワイヤを溶融池内の好適な位置に供給することができ、二枚の金属板を良好にレーザー溶接することができる。
【0017】
また、本願の請求項2に係る発明によれば、ワイヤ供給位置調整ステップは、ワイヤ供給手段を平行移動させることにより、フィラーワイヤの溶融池への供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させるので、比較的簡単な方法によって、前記効果をより具体的に実現することができる。
【0018】
更に、本願の請求項3に係る発明によれば、ワイヤ供給位置調整ステップは、ワイヤ供給手段を回転移動させることにより、フィラーワイヤの溶融池への供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させるので、比較的簡単な方法によって、前記効果をより具体的に実現することができる。
【0019】
また更に、本願の請求項4に係る発明によれば、ワイヤ供給位置調整ステップにおけるフィラーワイヤの供給位置の移動量が、曲線部の曲率、レーザー光の出力及びレーザー光の移動速度の少なくとも何れか1つに基づいて決定されることにより、フィラーワイヤの供給位置の移動量を精度良く決定することができ、前記効果をより有効に奏することができる。
【0020】
また更に、本願の請求項5に係る発明によれば、ワイヤ供給位置調整ステップにおけるフィラーワイヤの供給位置の移動量が、溶融池の形状を撮像する撮像手段によって撮像された溶融池の形状に基づいて決定されることにより、フィラーワイヤの供給位置の移動量をより精度良く決定することができ、前記効果をより安定して得ることができる。
【0021】
また更に、本願の請求項6に係る装置発明によれば、請求項1に記載の方法発明と同様の作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るレーザー溶接装置の斜視図である。
【図2】前記レーザー溶接装置の背面図である
【図3】前記レーザー溶接装置の側面図である
【図4】前記レーザー溶接装置の制御構成図である。
【図5】前記レーザー溶接装置によってレーザー溶接中にある二枚の金属板のレーザー光被照射部位及びその近傍の状態を示す図である。
【図6】曲線部のレーザー溶接時に金属板へ入力されるエネルギーを説明するための説明図である。
【図7】曲線部のレーザー溶接時の前記レーザー溶接装置の制御を説明するための説明図である。
【図8】本発明の第1の実施形態に係るレーザー溶接装置の制御フローチャートである。
【図9】曲線部のレーザー溶接時の前記レーザー溶接装置の別の制御を説明するための説明図である。
【図10】本発明の第2の実施形態に係るレーザー溶接装置の制御構成図である。
【図11】本発明の第2の実施形態に係るレーザー溶接装置の制御フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態に係るレーザー溶接方法及びレーザー溶接装置について、添付図面を参照しながら説明する。
【0024】
図1は、本発明の第1の実施形態に係るレーザー溶接装置の斜視図であり、図2は、前記レーザー溶接装置の背面図、図3は、前記レーザー溶接装置の側面図、図4は、前記レーザー溶接装置の制御構成図である。なお、図1では、図を見やすくするために、ワイヤ供給ノズルの位置を調整することにより、フィラーワイヤの溶融池への供給位置を調整するワイヤ供給位置調整機構を省略して示している。
【0025】
図1に示すように、第1の実施形態に係るレーザー溶接装置10は、レーザー光LBを発生するレーザーヘッド2と、レーザーヘッド2からのレーザー光被照射部位Lの後方の所定位置にフィラーワイヤXを供給するワイヤ供給手段としてのワイヤ供給ノズル3と、フィラーワイヤXを所定温度に加熱するワイヤ加熱装置4と、レーザーヘッド2及びワイヤ供給ノズル3を支持すると共にワークWに対して相対的に移動させるアーム型の溶接ロボット5とを有している。なお、図1では、溶接ロボット5のロボットアーム51の先端のみが示されている。
【0026】
本実施形態では、ワークWとしては、上下に重ね合わせられた平板状の二枚の金属板W1、W2を一例として示している。二枚の金属板W1、W2は、複数のクランプ治具6によって把持されているが、金属板W1、W2の精度上、対向する面の間には少なからず隙間Zが生じている。
【0027】
レーザーヘッド2は、例えばYAGレーザー、炭酸ガスレーザー等の高出力レーザーを利用して構成されていると共に、レーザー光LBの出力が可変とされている。また、レーザー光LBの焦点位置は可変であるが、本実施形態では下側の金属板W2の下面に設定されている。このレーザーヘッド2は、平面状に形成された取付ブラケット52を介してロボットアーム51の先端に取り付けられている。
【0028】
ワイヤ供給ノズル3は、レーザーヘッド2よりも溶接進行方向後方側に配設され、ワイヤ送給装置31内のワイヤ送給モータ32(図4参照)によって、フィラーワイヤXが巻回されたワイヤ送給装置31内の図示しないワイヤロールから繰り出されたフィラーワイヤXを、上側の金属板W1の上面においてレーザー光LBに対して溶接進行方向後方の所定位置に、所定角度で供給することができるようになっている。
【0029】
ワイヤ送給モータ32は、回転速度や回転方向の制御が可能に構成され、これにより、フィラーワイヤXの供給量が調整可能に構成されるとともに、前記ワイヤロールからフィラーワイヤXを供給可能に、且つ前記ワイヤロールへフィラーワイヤXを引き戻し可能に構成されている。
【0030】
ワイヤ供給ノズル3はまた、該ワイヤ供給ノズル3をレーザーヘッド2に対して溶接進行方向と直交する左右方向に水平に平行移動させるワイヤノズル水平移動機構33(図4参照)と該ワイヤ供給ノズル3をレーザーヘッド2に対して回動移動させるワイヤノズル回動駆動機構34(図4参照)を介して、取付ブラケット52に取り付けられている。
【0031】
具体的には、図2及び図3に示すように、取付ブラケット52の溶接進行方向後端部に取り付けられた矩形状の固定プレート35に、ワイヤノズル水平移動機構33によって該固定プレート35に対して水平に平行移動可能に構成される移動プレート36が取り付けられ、この移動プレート36に、ワイヤノズル回動駆動機構34によって該移動プレート36に対して回動可能に構成される回動軸部37が取り付けられ、この回動軸部37の先端部の傾斜面37aにワイヤ供給ノズル3が固定されている。
【0032】
このようにして、レーザーヘッド2とワイヤ供給ノズル3とがロボットアーム51の先端に取り付けられ、ワイヤ供給ノズル3は、レーザーヘッド2の溶接進行方向後方側に配設され、レーザーヘッド2に対して相対的に、ワイヤノズル水平移動機構33によって溶接進行方向と直交する左右方向に水平に平行移動されるようになっているとともに、ワイヤノズル回動駆動機構34によって回動軸部37の軸CAを中心として回動されるようになっている。
【0033】
本実施形態では、レーザーヘッド2とワイヤ供給ノズル3とは、レーザー光LBの移動軌跡が直線状である直線部の溶接時には、レーザーヘッド2の軸CLとワイヤ供給ノズル3の軸CNとが溶接経路Rに沿って一致し、レーザー光LBの中心LBcとフィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置とが溶接経路Rに沿って一致した状態で移動するように位置調整されているが、レーザー光LBの移動軌跡が所定の曲率を有する曲線部である曲線部の溶接時には、ワイヤ供給ノズル3の軸CNが平行移動又は回転移動され、レーザー光LBの中心LBcに対してフィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置が曲線部の曲率中心側へ移動するように位置調整される。なお、前記ワイヤ供給位置調整機構は、ワイヤノズル水平移動機構33及びワイヤノズル回動駆動機構34によって構成されている。
【0034】
ワイヤ加熱装置4は、フィラーワイヤXに通電することにより、該ワイヤXに生じるジュール熱で該ワイヤX1を加熱するものであり、加熱電源装置41と、該加熱電源装置41とワイヤ供給ノズル3とを接続するノズル接続ケーブル42と、該加熱電源装置41とクランプ治具6とを接続する、すなわち加熱電源装置41と金属板W1、W2とを接続する金属板接続ケーブル43とを有している。
【0035】
ワイヤ加熱装置4を用いてフィラーワイヤXを加熱する際には、加熱電源装置41から流れる電流が、ノズル接続ケーブル42、ワイヤ供給ノズル3、フィラーワイヤX、金属板W1、W2、クランプ治具6、金属板接続ケーブル43を介して加熱電源装置41に戻るようになっている。なお、逆回りに電流が流れるように構成してももちろんよい。
【0036】
ここで、前記所定温度は、フィラーワイヤXの先端が、後述する図5に示すように、溶融池WYに供給されたときに、ワイヤ加熱装置4による熱と溶融池WYの熱とで溶融する温度に設定されている。フィラーワイヤXを所定温度に加熱するための電流値については実験等を行って導けばよい。
【0037】
また、レーザー溶接装置10には、図4に示すように、レーザー光LBの移動軌跡、レーザー光LBの出力及びレーザー光LBの移動速度などの溶接データを入力するデータ入力装置7と、レーザーヘッド2、ワイヤ送給モータ32、ワイヤ加熱装置4、ワイヤノズル水平移動機構33、ワイヤノズル回動駆動機構34及び溶接ロボット5の作動など、レーザー溶接装置10に関係する構成を総合的に制御するコントロールユニット60とが備えられている。
【0038】
コントロールユニット60は、データ入力装置7に入力された溶接データに基づいて、レーザー光LBの移動軌跡が所定の曲率を有する曲線部であるか否かを判定する判定手段としての曲線部判定部61と、該曲線部判定部61によってレーザー光LBの移動軌跡が曲線部であると判定されると、溶接データに基づいて曲線部の曲率を算出する曲率算出部62と、該曲率算出部62によって算出された曲率に基づいて、フィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させるための、ワイヤ供給ノズル3の位置を調整するノズル調整量を算出するノズル調整量算出部63と、該ノズル調整量算出部63によって算出されたノズル調整量に基づいて、ワイヤノズル水平移動機構33又はワイヤノズル回動駆動機構34の作動を制御するノズル調整部64とを備えている。
【0039】
コントロールユニット60にはまた、所定のレーザー光LBの出力及び所定のレーザー光LBの移動速度である場合に所定の曲率を有する曲線部をレーザー溶接するときに、溶融池WYが曲線部の曲率中心側に移動する移動量、具体的にはレーザー光LBの移動軌跡と溶融池WYの幅方向中心とのオフセット量が記憶されたノズル移動データ記憶装置67が接続されている。
【0040】
これにより、コントロールユニット60のノズル調整量算出部63では、曲率算出部62によって算出された曲率に基づいて、ノズル移動データ記憶装置67から溶融池WYが曲線部の曲率中心側に移動する移動量が算出され、この移動量だけフィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させるために、ワイヤ供給ノズル3の位置を調整するノズル調整量が算出される。なお、コントロールユニット60は、例えばマイクロコンピュータを主要部として構成されている。
【0041】
このようにして構成されるレーザー溶接装置10を用いてレーザー溶接する際には、図1に示すように、先ず、平板状の二枚の金属板W1、W2を上下に重ね合わせた状態で二枚の金属板W1、W2を所定位置においてクランプ治具6によって把持する。この二枚の金属板W1、W2の対向する面の間には、前述したように隙間Zが生じている。
【0042】
そして、二枚の金属板W1、W2のうち上側の金属板W1表面に向けてレーザー光LBを照射しつつ該レーザー光LBを溶接経路Rに沿ってこれら二枚の金属板W1、W2に対して相対的に移動させ、これにより、上下の金属板W1、W2のレーザー光被照射部位Lを溶融させて上下の金属板W1、W2の溶融金属が貯留されてなる溶融池WYを上側の金属板W1の上面から下側の金属板W2の下面にわたって形成する。そして、溶融池WYの熱とで溶融するように通電加熱されたフィラーワイヤXを溶融池WYにおけるレーザー光LBよりも溶接進行方向後方の所定位置に供給し、フィラーワイヤXを溶融させて溶融池WYに溶融金属を追加供給する。
【0043】
図5は、前記レーザー溶接装置によってレーザー溶接中にある二枚の金属板のレーザー光被照射部位及びその近傍の状態を示す図であり、図5の(a)は、金属板のレーザー光被照射部位及びその近傍の状態を示す平面図、図5の(b)は、図5(a)のY5b−Y5b線に沿った断面図である。
【0044】
図5を参照しつつ詳しく説明すると、先ず、溶接経路Rにおけるレーザー光LBの中心LBcの前方近傍では、上側の金属板W1におけるレーザー光LBの中心LBc近傍の金属が溶融され、溶融金属Wyが生成されている。レーザー光LBが照射されるレーザー光被照射部位Lは、レーザー光LBにより金属がプラズマ状態となり、その圧力により溶融金属Wyを周囲に押しやってキーホールWKが形成されている。
【0045】
溶接経路Rにおけるレーザー光中心LBc位置では、キーホールWKは、上側の金属板W1を貫通して下側の金属板W2に達している。そして、下側の金属板W2においても、レーザー光中心LBc近傍の金属が溶融されて溶融金属Wyが生成されている。また、上側の金属板W1の溶融金属Wyは、重力により下側の金属板W2側に垂下し始めている。
【0046】
溶接経路Rにおけるレーザー光LBの中心LBcの後方近傍では、上側の金属板W1の溶融金属Wyが重力により下方へ垂下し、溶融経路Rにおけるレーザー光中心LBcよりも後方位置においては、溶融金属Wyが、先に形成されていたキーホールWKに運ばれ、溶融金属Wyが貯留されてなる溶融池WYが上側の金属板W1の上面から下側の金属板W2の下面にわたって形成されている。
【0047】
溶融池WYの熱とで溶融するように通電加熱されたフィラーワイヤXは、溶融池WYにおけるレーザー光LBよりも溶接進行方向後方の所定位置に供給され、フィラーワイヤXが溶融して溶融金属Wy’が生成される。この新たに生成された溶融金属Wy’が溶融池WY内に供給されることにより、もとから存在していた溶融池WY内の溶融金属Wyが点線の矢印で示すように下方へ押しやられて、該溶融金属Wyの隙間Zを超えた下方への垂下が促進され、上側の金属板W1と下側の金属板W2とが溶融金属Wyにより連結されることとなる。
【0048】
そして、溶接経路Rにおけるレーザー光中心LBcよりもさらに後方位置においては、溶融池WYの溶融金属Wy、Wy’が下側から固化し始め、さらに後方においては、溶融池Wyの溶融金属Wy、Wy’が上から下まで全て固化し、非溶融状態の被溶接部WBが形成されることとなる。
【0049】
ここで、溶融池WYへのフィラーワイヤXの供給についてさらに説明する。
図5に示すように、フィラーワイヤXは、溶接経路Rに沿って溶融池WYに供給されるとともに、矢印βで示すように前下がりに傾斜した状態で溶融池WY内に進入するように供給される。
【0050】
より詳しくは、フィラーワイヤXは、溶融池WYに対するフィラーワイヤXの進入位置、すなわちフィラーワイヤXが溶融池WYの上面と交差する溶接進行方向前端位置Xpが、レーザー光中心LBcから溶接経路R後方の距離Dとなるように供給され、溶融池WYに対するフィラーワイヤXの進入角度が、すなわちフィラーワイヤXと溶融池WYの上面とのなす角度がθとなるように供給される。
【0051】
そして、図5に示すように、溶融池WYに供給されるフィラーワイヤXを、溶融池WY内に形成されたキーホールWKに入らないように、且つ、溶融池WYの外周形状と接触しないように、すなわち非溶融状態にある金属板W1、W2や被溶接部WBと接触しないように溶融池WY内に進入させる。
【0052】
このようにして、フィラーワイヤXを供給しながら二枚の金属板W1、W2をレーザー溶接することにより、金属板W1、W2の溶融金属WyにフィラーワイヤXの溶融金属Wy’を加えて溶融金属量を増大させることができるとともに、溶融池WY内へのフィラーワイヤXの進入によって上側の金属板W1の溶融金属Wyの下方への垂下を促進させることができ、二枚の金属板W1、W2間に比較的大きい隙間Zが生じている場合においても、上下の金属板W1、W2を良好に連結させることができる。
【0053】
前述したように、フィラーワイヤXを供給しながら二枚の金属板W1、W2をレーザー溶接する際には、レーザー光LBの移動軌跡が所定の曲率を有する曲線部では、溶融池WYが曲線部の曲率中心側に移動し、溶融池WYにおけるレーザー光LBの溶接進行方向後方の所定位置に供給されたフィラーワイヤXが溶融池WYの外周面を形成する非溶融状態の金属板や被溶接部に接触する場合があるが、本実施形態では、レーザー光LBの移動軌跡が曲線部であるか否かを判定し、レーザー光LBの移動軌跡が曲線部であると判定されると、ワイヤ供給ノズル3の位置を調整することにより、フィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させることで、かかる問題を回避する。
【0054】
ここで、レーザー光LBの移動軌跡が所定の曲率を有する曲線部である曲線部のレーザー溶接時に、金属板へ入力されるエネルギーについて説明する。
図6は、曲線部のレーザー溶接時に金属板へ入力されるエネルギーを説明するための説明図であり、図6では、溶接経路Rとして直線部から曲線部につづく経路を示し、所定時間毎に金属板W1の上面に照射されるレーザー光の被照射部位Lを斜線ハッチングによって示し、レーザー光の被照射部位Lが重なる部分をクロスハッチングによって示している。
【0055】
図6に示すように、溶接経路Rに沿って移動するレーザー光LBの移動軌跡が直線部T1であるとき、溶接経路Rの溶接進行方向右側、すなわち図6において溶接経路Rの上側と溶接進行方向左側、すなわち図6において溶接経路Rの下側とでレーザー光被照射部位Lにおけるクロスハッチングの占める割合が等しいが、レーザー光LBの移動軌跡が曲線部T2であるときには、溶接経路Rの溶接進行方向左側である曲線部T2の内側は、溶接経路Rの溶接進行方向右側である曲線部T2の外側に比してレーザー光被照射部位Lにおけるクロスハッチングの占める割合が大きく、レーザー光LBによって金属板に入力されるエネルギー入力量が大きくなることとなる。このため、曲線部のレーザー溶接時には、溶融池が曲線部の曲率中心側に移動することとなる。
【0056】
以下、曲線部のレーザー溶接時に、ワイヤ供給ノズル3の位置を調整することにより、フィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させる方法について説明する。
【0057】
図7は、曲線部のレーザー溶接時の前記レーザー溶接装置の制御を説明するための説明図であり、図7では、直線部をレーザー溶接中にあるワイヤ供給ノズル及び溶融池の形状を二点鎖線で示し、曲線部をレーザー溶接中にあるワイヤ供給ノズル及び溶融池の形状を実線で示している。
【0058】
前述したように、曲線部のレーザー溶接時には、溶融池が曲線部の曲率中心側である曲線部の内側に移動することとなる。これに対応して、本実施形態では、レーザー光LBの移動軌跡が曲線部であるか否かを判定し、レーザー光LBの移動軌跡が曲線部であると判定されると、図7に示すように、ワイヤ供給ノズル3の位置をレーザーヘッド2に対して平行移動して調整することにより、フィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させる。
【0059】
図8は、本発明の第1の実施形態に係るレーザー溶接装置の制御フローチャートである。レーザー溶接装置10では、フィラーワイヤXを供給しながら二枚の金属板W1、W2をレーザー溶接するに際し、先ず、レーザー光LBの移動軌跡、レーザー光LBの出力、レーザー光LBの移動速度、ワイヤ加熱装置4の出力などのレーザー溶接データが入力され(#1)、レーザー溶接が開始される(#2)。
【0060】
そして、データ入力装置7に入力された溶接データに基づいて、レーザー光LBの移動軌跡が曲線部である曲線部のレーザー溶接であるか否かが判定される(#3)。#3において曲線部のレーザー溶接であると判定されると、溶接データに基づいて曲線部の曲率が算出され(#4)、算出された曲率に基づいて、フィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させるための、ワイヤ供給ノズル3の位置を調整するノズル調整量が算出される(#5)。
【0061】
次に、#5において算出されたノズル調整量に基づいて、ノズル調整制御が行われる(#6)。具体的には、#5において算出されたノズル調整量に基づいて、図7に示すように、ワイヤノズル水平移動機構33の作動が制御され、ワイヤ供給ノズル3が曲線部の曲率中心側に水平方向に平行移動される。これにより、フィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置が曲線部の曲率中心側へ移動される。そして、#7において溶接終了であるか否かが判定され、溶接終了になるまで#3から#7が繰り返される。
【0062】
一方、#3において曲線部のレーザー溶接ではないと判定されると、すなわち直線部のレーザー溶接であると判定されると、ワイヤ供給ノズル3は、レーザーヘッド2の軸CLとワイヤ供給ノズル3の軸CNとが溶接経路Rに沿って一致し、レーザー光LBの中心LBcとフィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置とが溶接経路Rに沿って一致した状態で移動するように位置調整された状態のまま、溶接終了であるか否かが判定される(#7)。なお、直線部のレーザー溶接であると判定された際に、レーザーヘッド2の軸CLとワイヤ供給ノズル3の軸CNとが溶接経路Rに沿って一致していない場合は、レーザーヘッド2の軸CLとワイヤ供給ノズル3の軸CNとが溶接経路Rに沿って一致するように位置調整される。
【0063】
このようにして、曲線部のレーザー溶接時に、溶融池WYの形状が曲線部の曲率中心側に移動する場合においても、フィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置が曲線部の曲率中心側へ移動されることにより、フィラーワイヤXを非溶融状態の金属板W1、W2や被溶接部WBに接触することなく、フィラーワイヤXを溶融池WY内の好適な位置に供給することができ、二枚の金属板W1、W2を良好にレーザー溶接することができる。
【0064】
前述した実施形態では、曲線部のレーザー溶接時に、ワイヤノズル水平移動機構33の作動を制御し、図7に示すように、ワイヤ供給ノズル3を曲線部の曲率中心側に水平方向に平行移動しているが、ワイヤ供給ノズル3を回転移動させることにより、フィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させることも可能である。
【0065】
図9は、曲線部のレーザー溶接時の前記レーザー溶接装置の別の制御を説明するための説明図であり、図9においても、直線部をレーザー溶接中にあるワイヤ供給ノズル及び溶融池の形状を二点鎖線で示し、曲線部をレーザー溶接中にあるワイヤ供給ノズル及び溶融池の形状を実線で示している。
【0066】
図9に示すように、曲線部のレーザー溶接時に溶融池が曲線部の曲率中心側である曲線部の内側に移動することに対応して、レーザー光LBの移動軌跡が曲線部であると判定されると、ワイヤ供給ノズル3の位置をレーザーヘッド2に対して回転移動して調整することにより、フィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させることも可能である。なお、ノズル調整量算出部63では、ワイヤ供給ノズル3を平行移動させる場合、あるいはワイヤ供給ノズル3を回転移動させる場合についてそれぞれ、ノズル調整量が算出される。
【0067】
このように、本発明の第1の実施形態では、二枚の金属板W1、W2のうち上側の金属板W1表面にレーザー光LBを照射しつつ該レーザー光LBを所定の溶接経路Rに沿って二枚の金属板W1、W2に対して相対的に移動し、該レーザー光LBによって金属板W1、W2を溶融させて溶融金属Wyが貯留されてなる溶融池WYを形成するとともに、ワイヤ供給ノズル3によって溶融池WYにおけるレーザー光LBの被照射部位Lよりも溶接進行方向後方の所定位置に通電加熱されたフィラーワイヤXを供給し、二枚の金属板W1、W2をレーザー溶接するに際し、レーザー光LBの移動軌跡が所定の曲率を有する曲線部であるか否かを判定し、レーザー光LBの移動軌跡が曲線部であると判定されると、ワイヤ供給ノズル3の位置を調整することにより、フィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させる。
【0068】
これにより、曲線部のレーザー溶接時に、レーザー光LBによって照射される曲線部の内側がその外側に比してエネルギー入力量が大きくなって溶融池WYが曲線部の曲率中心側に移動する場合においても、フィラーワイヤXを非溶融状態の金属板W1、W2や被溶接部WBに接触することなく、フィラーワイヤXを溶融池WY内の好適な位置に供給することができ、二枚の金属板W1、W2を良好にレーザー溶接することができる。特に、フィラーワイヤXの先端を、溶融池WYへの供給位置から溶接進行方向前方側に前下がりに傾斜した状態で溶融池WY内に進入させる場合、曲線部のレーザー溶接時にフィラーワイヤXが非溶融状態の金属板W1、W2や被溶接部WBに接触しやすくなるので、前記効果御をより有効に奏することができる。
【0069】
また、ワイヤ供給ノズル3を平行移動又は回転移動させることにより、フィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させるので、比較的簡単な方法によって、前記効果をより具体的に実現することができる。
【0070】
前述した実施形態では、フィラーワイヤXの供給位置の移動量、ひいてはワイヤ供給ノズル3の調整量が、曲線部の曲率に基づいて決定されているが、レーザー光LBの出力やレーザー光LBの移動速度によっても溶融池WYの形状が移動することから、フィラーワイヤXの供給位置の移動量を、曲線部の曲率、レーザー光LBの出力及びレーザー光LBの移動速度の少なくとも何れか1つに基づいて決定するようにしてもよい。これにより、ワイヤ供給ノズル3の移動量を精度良く決定することができ、前記効果をより有効に奏することができる。
【0071】
図10は、本発明の第2の実施形態に係るレーザー溶接装置の制御構成図である。第2の実施形態に係るレーザー溶接装置70は、第1の実施形態に係るレーザー溶接装置10に、ワークWのレーザー光照射部位L及びその近傍を上側の金属板W1の上方側から撮像する撮像手段としての撮像装置8がさらに備えられたものであり、レーザー溶接装置10と同様の構成については同一符号を付して説明を省略する。
【0072】
図10に示すように、第2の実施形態に係るレーザー溶接装置70は、レーザー溶接装置10に加えて、撮像装置8をさらに備えており、該撮像装置8は、例えばCCDカメラなどによって所定周期毎に画像を取得可能に構成され、溶融池WYの上面を撮像することができるようになっている。
【0073】
レーザー溶接装置70においても、レーザー光LBの移動軌跡が所定の曲率を有する曲線部である曲線部のレーザー溶接時には、ワイヤ供給ノズル3の軸CNが平行移動又は回転移動され、レーザー光LBの中心LBcに対してフィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置が曲線部の曲率中心側へ移動されるが、レーザー溶接装置70では、撮像装置8によって撮像された撮像データから溶融池WYの形状が算出され、レーザー光LBの移動軌跡と溶融池WYの幅方向中心とのオフセット量が算出され、このオフセット量だけ、フィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させるための、ワイヤ供給ノズル3の位置を調整するノズル調整量が算出され、算出されたノズル調整量に基づいて、ワイヤノズル水平移動機構33又はワイヤノズル回動駆動機構34の作動が制御される。
【0074】
レーザー溶接装置70のコントロールユニット60には、曲率算出部62に代えて、撮像装置8によって撮像された撮像データから溶融池WYの形状を算出し、レーザー光LBの移動軌跡と溶融池WYの幅方向中心とのオフセット量を算出する溶融池形状算出部66が備えられ、ノズル調整量算出部63では、溶融池形状算出部66によって算出されたレーザー光LBの移動軌跡と溶融池WYの幅方向中心とのオフセット量に基づいて、このオフセット量だけフィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させるための、ワイヤ供給ノズル3の位置を調整するノズル調整量が算出される。
【0075】
図11は、本発明の第2の実施形態に係るレーザー溶接装置の制御フローチャートである。レーザー溶接装置70においても、フィラーワイヤXを供給しながら二枚の金属板W1、W2をレーザー溶接するに際し、先ず、レーザー光LBの移動軌跡、レーザー光LBの出力、レーザー光LBの移動速度、ワイヤ加熱装置4の出力などの溶接データが入力され(#11)、レーザー溶接が開始される(#12)。
【0076】
レーザー溶接装置70では、レーザー溶接が開始されると、撮像装置8によって撮像された撮像データがコントロールユニット60に入力される(#13)。そして、データ入力装置7に入力された溶接データに基づいて、レーザー光LBの移動軌跡が曲線部である曲線部のレーザー溶接であるか否かが判定される(#14)。
【0077】
#14において曲線部のレーザー溶接であると判定されると、レーザー光LBの移動軌跡と溶融池WYの幅方向中心とのオフセット量が算出され(#15)、算出されたオフセット量に基づいて、フィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させるための、ワイヤ供給ノズル3の位置を調整するノズル調整量が算出される(#16)。
【0078】
次に、#16において算出されたノズル調整量に基づいて、ノズル調整制御が行われる(#17)。ノズル調整制御は、前述した図7に示すように、ワイヤノズル水平移動機構33の作動を制御してワイヤ供給ノズル3を曲線部の曲率中心側に水平方向に平行移動させるようにしてもよく、前述した図9に示すように、ワイヤノズル回動駆動機構34の作動を制御してワイヤ供給ノズル3の位置をレーザーヘッド2に対し回転移動させるようにしてもよい。これにより、フィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置が曲線部の曲率中心側へ移動される。そして、#18において溶接終了であるか否かが判定され、溶接終了になるまで#14から#18が繰り返される。
【0079】
一方、#14において曲線部のレーザー溶接ではないと判定されると、すなわち直線部のレーザー溶接であると判定されると、ワイヤ供給ノズル3は、レーザーヘッド2の軸CLとワイヤ供給ノズル3の軸CNとが溶接経路Rに沿って一致し、レーザー光LBの中心LBcとフィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置とが溶接経路Rに沿って一致した状態で移動するように位置調整された状態のまま、溶接終了であるか否かが判定される(#18)。なお、直線部のレーザー溶接であると判定された際に、レーザーヘッド2の軸CLとワイヤ供給ノズル3の軸CNとが溶接経路Rに沿って一致していない場合は、レーザーヘッド2の軸CLとワイヤ供給ノズル3の軸CNとが溶接経路Rに沿って一致するように位置調整される。
【0080】
このようにして、曲線部のレーザー溶接時に、溶融池WYが曲線部の曲率中心側に移動する場合においても、フィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置が曲線部の曲率中心側へ移動されることにより、フィラーワイヤXを非溶融状態の金属板W1、W2や被溶接部WBに接触することなく、フィラーワイヤXを溶融池WY内の好適な位置に供給することができ、二枚の金属板W1、W2を良好にレーザー溶接することができる。
【0081】
このように、本発明の第2の実施形態では、フィラーワイヤXの供給位置の移動量、ひいてはワイヤ供給ノズル3の調整量が、溶融池WYの形状を撮像する撮像装置8によって撮像された溶融池WYの形状に基づいて決定される。これにより、フィラーワイヤXの移動量を精度良く決定することができ、前記効果をより安定して得ることができる。
【0082】
なお、溶接データとしてフィラーワイヤXのワイヤ径を入力しておくことで、曲線部のレーザー溶接時に、ワイヤ供給ノズル3の位置を調整することにより、フィラーワイヤXの溶融池WYへの供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させる際に、ワイヤ径を考慮して、フィラーワイヤXが溶融池WYの外周面を形成する非溶融状態の金属板W1、W2や被溶接部WBに接触しないようにワイヤ供給ノズル3の移動量を制御することができ、かかる場合には、前記効果をより確実に得ることができる。
【0083】
本発明は、例示された実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0084】
以上のように、本発明は、曲線部のレーザー溶接時に、フィラーワイヤを溶融池内の好適な位置に供給することができ、二枚の金属板を良好にレーザー溶接することができ、自動車産業の他、二枚の金属板の溶接が必要となる産業において広く利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0085】
2 レーザーヘッド
3 ワイヤ供給ノズル
8 撮像装置
10、70 レーザー溶接装置
60 コントロールユニット
L レーザー光の被照射部位
LB レーザー光
R 溶接経路
T2 曲線部
W1、W2 金属板
Wy、Wy’溶融金属
WY 溶融池
X フィラーワイヤ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下に重ね合わせられた状態で対向する面の間に隙間が生じた平板状の二枚の金属板のうち上側の金属板表面にレーザー光を照射しつつ該レーザー光を所定の溶接経路に沿って前記二枚の金属板に対して相対的に移動し、該レーザー光によって前記金属板を溶融させて溶融金属が貯留されてなる溶融池を形成するとともに、ワイヤ供給手段によって前記溶融池における前記レーザー光の被照射部位よりも溶接進行方向後方の所定位置に通電加熱されたフィラーワイヤを供給し、二枚の金属板をレーザー溶接するレーザー溶接方法であって、
前記レーザー光の移動軌跡が所定の曲率を有する曲線部であるか否かを判定する曲線部判定ステップと、
前記曲線部判定ステップにおいて前記レーザー光の移動軌跡が前記曲線部であると判定されると、前記ワイヤ供給手段の位置を調整することにより、前記フィラーワイヤの前記溶融池への供給位置を前記曲線部の曲率中心側へ移動させるワイヤ供給位置調整ステップと、
を備えている、ことを特徴とするレーザー溶接方法。
【請求項2】
前記ワイヤ供給位置調整ステップは、前記ワイヤ供給手段を平行移動させることにより、フィラーワイヤの前記溶融池への供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させる、
ことを特徴とすることを特徴とする請求項1に記載のレーザー溶接方法。
【請求項3】
前記ワイヤ供給位置調整ステップは、前記ワイヤ供給手段を回転移動させることにより、フィラーワイヤの前記溶融池への供給位置を前記曲線部の曲率中心側へ移動させる、
ことを特徴とすることを特徴とする請求項1に記載のレーザー溶接方法。
【請求項4】
前記ワイヤ供給位置調整ステップにおける前記フィラーワイヤの供給位置の移動量が、前記曲線部の曲率、前記レーザー光の出力及び前記レーザー光の移動速度の少なくとも何れか1つに基づいて決定される、
ことを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載のレーザー溶接方法。
【請求項5】
前記ワイヤ供給位置調整ステップにおける前記フィラーワイヤの供給位置の移動量が、前記溶融池の形状を撮像する撮像手段によって撮像された前記溶融池の形状に基づいて決定される、
ことを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載のレーザー溶接方法。
【請求項6】
上下に重ね合わせられた状態で対向する面の間に隙間が生じた平板状の二枚の金属板のうち上側の金属板表面にレーザー光を照射し、前記金属板を溶融させて溶融金属が貯留されてなる溶融池を形成するレーザーヘッドと、前記溶融池における前記レーザー光の被照射部位よりも溶接進行方向後方の所定位置に通電加熱されたフィラーワイヤを供給するワイヤ供給手段と、を備え、二枚の金属板をレーザー溶接するレーザー溶接装置であって、
前記ワイヤ供給手段の位置を調整することにより、フィラーワイヤの前記溶融池への供給位置を移動するワイヤ供給位置調整手段と、
前記レーザー光の移動軌跡が所定の曲率を有する曲線部であるか否かを判定する曲線部判定手段と、
前記曲線部判定手段によって前記レーザー光の移動軌跡が前記曲線部であると判定されると、前記ワイヤ供給位置調整手段の作動を制御することにより、フィラーワイヤの前記溶融池への供給位置を前記曲線部の曲率中心側へ移動させるワイヤ供給位置制御手段と、
を備えている、ことを特徴とするレーザー溶接装置。
【請求項1】
上下に重ね合わせられた状態で対向する面の間に隙間が生じた平板状の二枚の金属板のうち上側の金属板表面にレーザー光を照射しつつ該レーザー光を所定の溶接経路に沿って前記二枚の金属板に対して相対的に移動し、該レーザー光によって前記金属板を溶融させて溶融金属が貯留されてなる溶融池を形成するとともに、ワイヤ供給手段によって前記溶融池における前記レーザー光の被照射部位よりも溶接進行方向後方の所定位置に通電加熱されたフィラーワイヤを供給し、二枚の金属板をレーザー溶接するレーザー溶接方法であって、
前記レーザー光の移動軌跡が所定の曲率を有する曲線部であるか否かを判定する曲線部判定ステップと、
前記曲線部判定ステップにおいて前記レーザー光の移動軌跡が前記曲線部であると判定されると、前記ワイヤ供給手段の位置を調整することにより、前記フィラーワイヤの前記溶融池への供給位置を前記曲線部の曲率中心側へ移動させるワイヤ供給位置調整ステップと、
を備えている、ことを特徴とするレーザー溶接方法。
【請求項2】
前記ワイヤ供給位置調整ステップは、前記ワイヤ供給手段を平行移動させることにより、フィラーワイヤの前記溶融池への供給位置を曲線部の曲率中心側へ移動させる、
ことを特徴とすることを特徴とする請求項1に記載のレーザー溶接方法。
【請求項3】
前記ワイヤ供給位置調整ステップは、前記ワイヤ供給手段を回転移動させることにより、フィラーワイヤの前記溶融池への供給位置を前記曲線部の曲率中心側へ移動させる、
ことを特徴とすることを特徴とする請求項1に記載のレーザー溶接方法。
【請求項4】
前記ワイヤ供給位置調整ステップにおける前記フィラーワイヤの供給位置の移動量が、前記曲線部の曲率、前記レーザー光の出力及び前記レーザー光の移動速度の少なくとも何れか1つに基づいて決定される、
ことを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載のレーザー溶接方法。
【請求項5】
前記ワイヤ供給位置調整ステップにおける前記フィラーワイヤの供給位置の移動量が、前記溶融池の形状を撮像する撮像手段によって撮像された前記溶融池の形状に基づいて決定される、
ことを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載のレーザー溶接方法。
【請求項6】
上下に重ね合わせられた状態で対向する面の間に隙間が生じた平板状の二枚の金属板のうち上側の金属板表面にレーザー光を照射し、前記金属板を溶融させて溶融金属が貯留されてなる溶融池を形成するレーザーヘッドと、前記溶融池における前記レーザー光の被照射部位よりも溶接進行方向後方の所定位置に通電加熱されたフィラーワイヤを供給するワイヤ供給手段と、を備え、二枚の金属板をレーザー溶接するレーザー溶接装置であって、
前記ワイヤ供給手段の位置を調整することにより、フィラーワイヤの前記溶融池への供給位置を移動するワイヤ供給位置調整手段と、
前記レーザー光の移動軌跡が所定の曲率を有する曲線部であるか否かを判定する曲線部判定手段と、
前記曲線部判定手段によって前記レーザー光の移動軌跡が前記曲線部であると判定されると、前記ワイヤ供給位置調整手段の作動を制御することにより、フィラーワイヤの前記溶融池への供給位置を前記曲線部の曲率中心側へ移動させるワイヤ供給位置制御手段と、
を備えている、ことを特徴とするレーザー溶接装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−161452(P2011−161452A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23798(P2010−23798)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
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