説明

レーザー発振装置およびそれに用いられるプラスチックロッドの製造方法

【課題】高出力レーザーを構築することのできる安価なレーザー発振媒体を提供すること。
【解決手段】所定の励起光を照射することにより蛍光を発し且つ希土類イオンとしてEu3+、Tb3+、Yb3+,Nd3+,Er3+およびSm3+からなる群から選択される少なくとも1つを含有する希土類イオン錯体を、透明樹脂にドープしてなるプラスチックロッドをレーザー発振媒体として用いる。このプラスチックロッドは、例えば、希土類イオンとしてEu3+、Tb3+、Yb3+,Nd3+,Er3+およびSm3+からなる群から選択される少なくとも1つを含有する希土類イオン錯体と透明樹脂の原料モノマーもしくはオリゴマーと重合開始剤とを含む溶液をロッド形成用型内で重合することにより得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー発振装置およびそれに用いられるプラスチックロッドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療手術や物質加工に用いる高出力レーザーは、現代の産業にとって欠かせないものになっている。この高出力レーザーを構築するためには、良好なレーザー発振媒体が必要である。レーザー発振媒体は高出力レーザーを構成する部品の中でも最も重要な光学パーツであり、優れたレーザー発振媒体の開発は産業界にとって極めて重要とされている。高出力レーザーの発振媒体には、希土類を含む発光体が多く報告されている。この希土類イオンはレーザー発振に最適な4準位発光を示すことから、有機色素や遷移金属に比べてレーザー発振の高出力化ができる。現在に至るまで、様々な形状(ファイバータイプ、薄膜タイプなど)を有する希土類含有発光体が開発されてきているが、高出力レーザー構築を目的とした場合、希土類をドープした無機結晶(Nd:YAG)のロッド形状物が最適とされている。これは、高出力化に必要な光増幅率が高く且つ直進するレーザー光のビームパターン(レーザー光の直径)が安定しているためである(レーザー光の直径が広がり難い)。以上のことから、希土類をドープしてなるレーザー発振媒体は高出力レーザーの開発において欠かせない光学パーツとされている。
【0003】
しかし、従来使用されている希土類イオンドープ無機結晶ロッドは、非常に高価であるため、レーザー発振媒体の損傷による交換費用が嵩むという問題があった。そのため、産業界では、高出力レーザーを構築することのできる安価なレーザー発振媒体の開発が望まれている。
安価なレーザー発振媒体を得るにはロッドをプラスチック化することが考えられるが、これまで基板上に作製された希土類イオン錯体ドーププラスチック薄膜は報告されている(例えば、特許文献1を参照)ものの、高出力レーザーを構築することができるような希土類イオン錯体ドーププラスチックロッドは実現されていない。
【0004】
【特許文献1】特開2004−179296号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明は、上記従来の問題を解決するためになされたものであり、高出力レーザーを構築することのできる安価なレーザー発振媒体を開発し、それを用いたレーザー発振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者らは鋭意研究、開発を遂行した結果、上記のような課題を解決するためには、所定の励起光を照射することにより蛍光を発する特定の希土類イオン錯体を、透明樹脂にドープしたプラスチックロッドをレーザー発振媒体として用いることが有効であることに想到し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、所定の励起光を照射することにより蛍光を発し且つ希土類イオンとしてEu3+、Tb3+、Yb3+,Nd3+,Er3+およびSm3+からなる群から選択される少なくとも1つを含有する希土類イオン錯体を、透明樹脂にドープしてなるプラスチックロッドをレーザー発振媒体とすることを特徴とするレーザー発振装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高出力レーザーを構築することのできる安価なレーザー発振媒体としてのプラスチックロッドを提供することができる。また、本発明によるプラスチックロッドは、希土類イオン錯体のドープ量(特に高濃度に)を調整することが容易であるという利点や、プラスチック特有の優れた成形加工性を有することから、様々な大きさや形状を有するレーザー発振媒体が容易に作製できるという利点も有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係るレーザー発振装置の構成を説明するための図である。図1において、本実施の形態1に係るレーザー発振装置は、レーザー発振媒体としてのプラスチックロッド1と、プラスチックロッド1の光路長に配置されたQスイッチ2と、プラスチックロッド1およびQスイッチ2を挟むように互いに平行に配置され、光を増幅させるための全反射鏡3および部分反射鏡4と、プラスチックロッド1に励起光を照射することができるように配置された光源5とを備えている。このように構成されたレーザー発振装置では、高い反転分布密度が形成され、短時間で大きいピーク出力を有するジャイアントパルスを放出することができる。プラスチックロッド1は、所定の励起光を照射することにより蛍光を発し且つ希土類イオンとしてEu3+、Tb3+、Yb3+,Nd3+,Er3+およびSm3+からなる群から選択される少なくとも1つを含有する希土類イオン錯体を、透明樹脂にドープしたものから構成されている。光源5としては、LED、重水素ランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプ、レーザーなどを用いることができる。例えば、Eu(III)錯体がドープされたプラスチックロッドの場合、所定の配位子を配位させることにより465nm付近にEu3+のf−f遷移に対応する吸収帯を有するため、そのような波長光を発する光源5を用いることにより、Eu(III)錯体を励起しレーザー発振させることができる。
【0009】
レーザー発振のしきい値の大きさは錯体の分子構造によって決まるが、しきい値ΔNthは式ΔNth=ΔN0/(1+2BρsT)によって表されるため、しきい値を小さくするには、定常状態におけるエネルギー密度ρを大きくすればよい。ここでΔN0は励起エネルギー、Bはアインシュタイン係数、Tは反転分布の緩和時間を表す。エネルギー密度ρsをより大きくするには発光量子収率を高くすればよく、ドープする錯体として、下記一般式(1)〜(18)のような非対称構造ものを採用することで達成することができる。ここで非対称構造とは、全体の構造が非対称となるような配位子を選択した錯体構造をいい、このような構造にすることでf−f遷移が許容遷移となって発光速度が大きくなる。
また、錯体の分子構造を低振動型構造として、分子振動が小さくなるように分子設計し、励起された電子の分子振動による失活を抑制することにより、発光量子収率を高めた構造とすることが、より好ましい。金属錯体構造を低振動型構造とすることにより、アインシュタイン係数Bを大きくすることができるため、しきい値ΔNthをより小さくすることができるからである。
【0010】
【化1】

【0011】
【化2】

【0012】
【化3】

【0013】
【化4】

【0014】
【化5】

【0015】
【化6】

【0016】
【化7】

【0017】
【化8】

【0018】
【化9】

【0019】
【化10】

【0020】
【化11】

【0021】
【化12】

【0022】
【化13】

【0023】
【化14】

【0024】
【化15】

【0025】
【化16】

【0026】
【化17】

【0027】
【化18】

【0028】
上記一般式(1)〜(18)において、Ln3+はEu3+、Tb3+、Yb3+,Nd3+,Er3+およびSm3+からなる群から選択される希土類イオンであり、好ましくはEu3+およびTb3+である。nは1、2または3であり、好ましくは2である。mは1、2、3または4であり、好ましくは3である。kは、1以上の整数である。R1、R2、R3、R4、X、YおよびZは、同一であっても異なってもよく、水素基、重水素基、ハロゲン基、C1〜C20の基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基または芳香族基である。芳香族基は、重水素原子やフッ素原子の置換基を有するものでも構わない。
【0029】
1〜C20の基としては、直鎖又は分枝を有するアルキル基(Cn2n+1;n=1〜20);パーフルオロアルキル基(Cn2n+1;n=1〜20)、パークロロアルキル基(CnCl2n+1;n=1〜20)などの直鎖又は分枝を有するパーハロゲン化アルキル基;直鎖又は分枝を有するアルケニル基(ビニル基、アリル基、ブテニル基);パーフルオロアルケニル基(パーフルオロビニル基、パーフルオロアリル基、パーフルオロブテニル基)、パークロロアルケニル基などの直鎖又は分枝を有するパーハロゲン化アルケニル基;シクロアルキル基(Cn2n-1;n=3〜20);パーフルオロシクロアルキル基(Cn2n-1;n=3〜20)、パークロロアルキル基(CnCl2n-1;n=3〜20)などの直鎖又は分枝を有するパーハロゲン化アルキル基;シクロアルケニル基(シクロペンチル基、シクロヘキシル基など);パーフルオロシクロアルケニル基、パークロロアルケニル基などのパーハロゲン化アルキル基;フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基などの芳香族基;パーフルオロフェニル基、パーフルオロナフチル基、パーフルオロビフェニル基、パークロロフェニル基、パークロロナフチル基、パークロロビフェニル基などのパーハロゲン化芳香族基;ピリジル基などのヘテロ芳香族基;パーフルオロピリジル基などのパーハロゲン化ヘテロ芳香族基;ベンジル基、フェネチル基などのアラルキル基;パーフルオロベンジル基などのパーハロゲン化アラルキル基などを挙げることができる。
【0030】
1〜C20の基は、必要に応じて重水素基、ハロゲン基(F、Cl、Br、I)、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基などの置換基で置換されていてもよい。
【0031】
上記一般式(1)〜(4)で表される希土類イオン錯体は、例えば、特開2003−81986号公報の記載を参考にして合成することが可能であり、上記一般式(5)および(6)で表される希土類イオン錯体は、例えば、Y. Hasegawa, Y. Kimura, K. Murakoshi, Y. Wada, T. Yamanaka, J. Kim, N. Nakashima and S. Yanagida, J. Phys. Chem. 100, 10201 (1996)の記載を参考にして合成することが可能であり、上記一般式(7)〜(9)で表される希土類イオン錯体は、例えば、Y. Hasegawa, S. Tsuruoka, T. Yoshida, H. Kawai and T. Kawai, J. Phys. Chem. A, 112, 803 (2008)の記載を参考にして合成することが可能であり、上記一般式(10)〜(13)および(16)〜(18)で表される希土類イオン錯体は、例えば、Y. Hasegawa, T. Yasuda, K. Nakamura and T. Kawai, Jpn. J. Appl. Phys. 47, 1192 (2008)の記載を参考にして合成することが可能であり、上記一般式(14)および(15)で表される希土類イオン錯体は、例えば、Y. Hasegawa, T. Ohkubo, K. Sogabe, Y. Kawamura, Y. Wada, N. Nakashima and S. Yanagida, Angew. Chem. Int. Ed. 39, 357 (2000)の記載を参考にして合成することが可能である。
【0032】
なお、C1〜C20の基の任意の位置のC−C単結合の間に−O−、−COO−、−CO−を一個または複数個介在させて、エーテル、エステル、ケトン構造としてもよい。また、R1、R2、R3、R4、XおよびYがアルケニル基である一般式(1)〜(18)の希土類イオン錯体を、必要に応じてエチレン、プロピレンなどのオレフィンおよびハロゲン化オレフィン重合させて高分子希土類錯体としてもよい。
【0033】
また、一般式(1)〜(18)で表される希土類イオン錯体と重水素化剤とを重水素置換反応させることにより、Zが重水素基Dである重水素化錯体が得られる。用いられる重水素化剤は、重水素を含むプロトン性化合物、具体的には、重水、重水素化メタノール、重水素化エタノールなどの重水素化アルコール、重塩化水素、重水素化アルカリなどが挙げられる。反応を促進させるためにトリメチルアミン、トリエチルアミンなどの塩基剤や添加剤を加えてもよい。重水素置換反応は、一般式(1)〜(18)で表される希土類イオン錯体と重水素化剤とを混合することにより行うことができる。
【0034】
例えば、一般式(1)において、R1、R2およびR3がすべてフェニル基、YがCF3、ZがH、n=2、m=3、Ln3+がEu3+である、トリス(ヘキサフルオロアセチルアセトナート)ユーロピウム(III)ビス(トリフェニルホスフィンオキサイド)錯体を重水素化した錯体は、高い蛍光量子収率および大きな発光速度を示す。これは、ヘキサフルオロアセチルアセトナート配位子により金属錯体が低振動型構造となるため、高い発光量子収率が達成されるものである。また、ヘキサフルオロアセチルアセトナート配位子およびフォスフィンオキサイド配位子により非対称構造(スクエアアンチプリズム構造)が形成され、これによって大きい発光速度が達成される。
【0035】
例えば、一般式(14)において、XがH、YがCF3、ZがN、n=8、m=3、Ln3+がNd3+ある、トリス(ビスペルフルオロメタンスルホンイミネート)ネオジム(III)8水和物錯体を重水素化した錯体は、高い蛍光量子収率および大きな発光速度を示す。これは、配位水の重水素化が行われることにより、大きい発光量子収率が達成されるためである。
【0036】
上記した希土類イオン錯体は、プラスチックロッド中に0.001質量%〜99.9質量%含まれる(ドープされている)ことが好ましく、0.01質量%〜30質量%含まれることがさらに好ましい。希土類イオン錯体のドープ量が上記範囲内であれば、発光効率をより向上させることができる。
【0037】
希土類イオン錯体をドープする透明樹脂は、励起光が十分透過するようなものであればよく、例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリレート、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、ポリスチレン、シロキサンポリマー、これらのハロゲン化物もしくは重水素化物、およびこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、耐熱性、光耐久性、透明性および屈折率が高いという点で、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリレートおよびシロキサンポリマーが好ましい。
【0038】
シロキサンポリマーの中でも、下記一般式(19):
【0039】
【化19】

【0040】
(式中、R1、R2、R3、R4、R5およびR6は、同一であっても異なってもよく、水素基、アリール基、脂肪族アルキル基、トリアルキルシリル基、重水素基、重水素化アルキル基、フッ素基、フルオロアルキル基または不飽和結合を有する官能基である。k、l、mおよびnは、いずれも0以上の整数で、2k+(3/2)l+m+(1/2)nは自然数であって、ポリマーの重量平均分子量は50以上である。分子末端基は、同一であっても異なってもよく、水素基、アリール基、脂肪族アルキル基、水酸基、トリアルキルシリル基、重水素基、重水素化アルキル基、フッ素基、フルオロアルキル基または不飽和結合を有する官能基である。)で表されるポリシルセスキオキサンが好ましい。上記一般式(19)で表されるポリシルセスキオキサンはネットワーク構造を形成するため、直鎖状のシロキサンポリマーを用いた場合よりも耐熱性を高めることができ、デバイス作製時に高温プロセスを必要とするような用途に好適である。
【0041】
上記したポリシルセスキオキサンの中でも、下記一般式(20):
【0042】
【化20】

【0043】
(式中、R1およびR2は、同一であっても異なってもよく、水素基、アリール基、脂肪族アルキル基、水酸基、重水素基、重水素化アルキル基、フッ素基、フルオロアルキル基または不飽和結合を有する官能基である。R3、R4、R5およびR6は、同一であっても異なってもよく、水素基、アリール基、脂肪族アルキル基、トリアルキルシリル基、水酸基、重水素基、重水素化アルキル基、フッ素基、フルオロアルキル基または不飽和結合を有する官能基である。nは1以上の整数で、ポリマーの重量平均分子量は50以上である。)で表される梯子状のポリシルセスキオキサンが好ましい。上記一般式(20)で表されるポリシルセスキオキサンは梯子構造により剛直な構造を形成するので耐熱性をさらに高めることができ、高温プロセス用途に好適である。
【0044】
上述したプラスチックロッド1の直径は、特に限定されるものではないが、通常、0.1mm〜100mmである。また、プラスチックロッド1の長さは、特に限定されるものではないが、通常、0.1mm〜1000mmである。
【0045】
次に、本実施の形態におけるプラスチックロッド1の製造方法について説明する。
第一の製造方法は、上述した希土類イオン錯体と透明樹脂の原料モノマーもしくはオリゴマーと重合開始剤とを含む溶液をロッド形成用型内で重合する方法である。重合は加熱しながら行うことが好ましい。また、溶液中には各材料を溶解させるために、有機溶媒を加えてもよい。
第二の製造方法は、上述した希土類イオン錯体と透明樹脂とを有機溶媒で溶解混合した溶液をロッド形成用型内に流し込み、真空中もしくは常圧下で有機溶媒を除去する方法である。真空中で有機溶媒を除去する場合、ボイドを含まないプラスチックロッド1を得るために、液体窒素などで溶液を凍らせながら徐々に有機溶媒を揮発させることが好ましい。常圧下で有機溶媒を除去する場合、製造に掛かる時間を短縮するために、揮発性の高い有機溶媒(例えば、沸点の低い有機溶媒)を用いることが好ましい。有機溶媒除去後、必要に応じて、不活性ガス雰囲気下で加熱処理してもよい。
第三の製造方法は、上述した希土類イオン錯体の粉末と透明樹脂の粉末との混合物をロッド形成用型で加熱し溶融させて熱成形する方法である。この製造方法により短時間でプラスチックロッド1を作製することができる。
上記した製造方法において用いるロッド形成用型としては、例えば、ガラスチューブが挙げられる。
【0046】
本実施の形態による製造方法では、各材料の配合割合を変更するだけで希土類イオン錯体のドープ量を容易に調整することができる。また、本実施の形態による製造方法は、従来の希土類ドープ無機結晶ロッドの製造方法に比べて、高出力レーザーを構築可能なレーザー発振媒体を低コストで大量に作製することができる。
【実施例】
【0047】
<実施例1>
一般式(1)におけるR1、R2およびR3がフェニル基、YがCF3、ZがH、Ln3+がEu3+、n=2、m=3であるEu(III)錯体(トリス(ヘキサフルオロアセチルアセトナート)ユーロピウム(III)ビス(トリフェニルフォスフィンオキサイド)錯体)(以下、Eu(HFA−H)3(TPPO)2と略記する))を、一般式(20)における側鎖のR1およびR2がフェニル基、R3からR6が水素原子であり、重量平均分子量が約15万のポリフェニルシルセスキオキサンにドープしてなるプラスチックロッドを作製した例を以下に示す。
【0048】
Eu(HFA−H)3(TPPO)2は、特開2003−81986号公報の記載を参考にして合成した。
【0049】
40gのポリフェニルシルセスキオキサン粉末を100mlのテトラヒドロフランに溶解させた後、4g(0.72mmol)のEu(HFA−H)3(TPPO)2を加えて樹脂溶液を調製した。これを内径10mmの円筒形ガラスチューブに入れ、有機溶媒であるテトラヒドロフランを除々に揮発除去した。ガラスチューブを割り、ロッド状のポリマー固体を取り出した。これをクリーンオーブンに投入し、窒素を10ml/分で流しながら200℃で1時間熱処理し十分に乾燥させた。得られたロッドのエッジを研磨して、平滑かつ鏡面状に仕上げて、直径10mmで長さ100mmのプラスチックロッドを作製した。
【0050】
<実施例2>
一般式(3)におけるR1、R2、R3およびR4がフェニル基、XがH、YがCF3、ZがH、Ln3+がEu3+、n=1、m=3であるEu(III)錯体(トリス(ヘキサフルオロアセチルアセトナート)ユーロピウム(III)−1,1’−ビフェニル―2,2’―ジイルビス(ジフェニルフォスフィンオキサイド)錯体)(以下、Eu(HFA−H)3(PIPHEPO)と略記する))を、ポリメチルメタクリレートにドープしてなるプラスチックロッドを作製した例を以下に示す。
【0051】
Eu(HFA−H)3(PIPHEPO)は、特開2003−81986号公報の記載を参考にして合成した。
【0052】
10mlのメタクリル酸メチルに、0.68g(50mmol)のEu(HFA−H)3(PIPHEPO)と重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)5mgを加えた後、十分に溶解分散させて樹脂溶液を調製した。これを内径10mmの円筒形ガラスチューブに入れ、真空ラインに取り付け、液体窒素で凍らせながら脱気し、液中に溶解している空気を完全に除去した。その後、70℃で2時間加熱してメタクリル酸メチルを重合させた。ガラスチューブを割り、ロッド状のポリマー固体を取り出した。これをクリーンオーブンに投入し、窒素を10ml/分で流しながら120℃で1時間熱処理し、十分に乾燥させた。得られたロッドのエッジを研磨して、平滑かつ鏡面状に仕上げて、直径10mmで長さ30mmのプラスチックロッドを作製した。
【0053】
<実施例3>
一般式(14)におけるXがH、YがCF3、ZがN、Ln3+がTb3+、n=8、m=3であるTb(III)錯体(トリス(ビスペルフルオロメタンスルホンイミネート)テルビウム(III)8水和物錯体(以下、Tb(PMS)3(H2O)8と略記する))を、ポリアクリレートにドープしてなるプラスチックロッドを作製した例を以下に示す。
【0054】
Tb(PMS)3(H2O)8は、Y. Hasegawa, T. Ohkubo, K. Sogabe, Y. Kawamura, Y. Wada, N. Nakashima and S. Yanagida, Angew. Chem. Int. Ed. 39, 357 (2000)の記載を参考にして合成した。
【0055】
1kgのポリアクリレート粉末に、56g(50mmol)のTb(PMS)3(H2O)8を加えて十分に混合した後、熱成形加工装置内に導入し、190℃で加熱後、その混合物を型に押し出し、その後、室温まで冷却することによりロッド状のプラスチック成形体を得た。これをクリーンオーブンに投入し、窒素を10mL/分で流しながら120℃で1時間熱処理し、十分に乾燥させた。得られたロッドのエッジを研磨して、平滑かつ鏡面状に仕上げて、直径30mmで長さ100mmのプラスチックロッドを作製した。
【0056】
<プラスチックロッドの評価>
図1で示されるレーザー発振装置と同様の構成のものに、実施例1〜実施例3で作製したプラスチックロッドを取り付け、取り出されたレーザー強度をパワーメーターにより測定した。
その結果、実施例1のプラスチックロッドでは、Eu特有の615nmの波長のレーザーが、強度0.01mJ/cm2で得られた。実施例2のプラスチックロッドでは、Eu特有の615nmの波長のレーザーが、強度0.03mJ/cm2で得られた。実施例3のプラスチックロッドでは、Tb特有の545nmの波長のレーザーが、強度0.01mJ/cm2で得られた。
以上のように、実施例で作製されたプラスチックロッドは、良好な発光特性を示したことから、本発明によるプラスチックロッドは高出力レーザー用の発振媒体として有用であることが示された。
【0057】
なお、ランタノイド元素は極めてよく似た化学的・物理的性質を有することから、上記のEu、Tb以外のランタノイド錯体を用いても、同様のレーザー発振現象が生じると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施の形態1に係るレーザー発振装置の構成を説明するための図である。
【符号の説明】
【0059】
1 プラスチックロッド、2 Qスイッチ、3 全反射鏡、4 部分反射鏡、5 光源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の励起光を照射することにより蛍光を発し且つ希土類イオンとしてEu3+、Tb3+、Yb3+,Nd3+,Er3+およびSm3+からなる群から選択される少なくとも1つを含有する希土類イオン錯体を、透明樹脂にドープしてなるプラスチックロッドをレーザー発振媒体とすることを特徴とするレーザー発振装置。
【請求項2】
前記希土類イオン錯体が、下記一般式(1)〜(18):
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

【化16】

【化17】

または
【化18】

(式中、Ln3+はEu3+、Tb3+、Yb3+,Nd3+,Er3+およびSm3+からなる群から選択される希土類イオンである。nは1、2または3である。mは1、2、3または4である。kは1以上の整数である。R1、R2、R3、R4、X、YおよびZは、同一であっても異なってもよく、水素基、重水素基、ハロゲン基、C1〜C20の基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基または芳香族基である。)
で表されるものであることを特徴とする請求項1に記載のレーザー発振装置。
【請求項3】
前記プラスチックロッド中に希土類イオン錯体が0.001質量%〜99.9質量%含まれることを特徴とする請求項1または2に記載のレーザー発振装置。
【請求項4】
前記透明樹脂が、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリレート、シロキサンポリマーまたはこれらの混合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のレーザー発振装置。
【請求項5】
前記シロキサンポリマーが、下記一般式(19):
【化19】

(式中、R1、R2、R3、R4、R5およびR6は、同一であっても異なってもよく、アリール基、水素基、脂肪族アルキル基、トリアルキルシリル基、重水素基、重水素化アルキル基、フッ素基、フルオロアルキル基または不飽和結合を有する官能基である。k、l、mおよびnは、いずれも0以上の整数で、2k+(3/2)l+m+(1/2)nは自然数であって、ポリマーの重量平均分子量は50以上である。分子末端基は、同一であっても異なってもよく、水素基、アリール基、脂肪族アルキル基、水酸基、トリアルキルシリル基、重水素基、重水素化アルキル基、フッ素基、フルオロアルキル基または不飽和結合を有する官能基である。)で表されるポリシルセスキオキサンであることを特徴とする請求項4に記載のレーザー発振装置。
【請求項6】
レーザー発振装置におけるレーザー発振媒体として用いられるプラスチックロッドの製造方法であって、
希土類イオンとしてEu3+、Tb3+、Yb3+,Nd3+,Er3+およびSm3+からなる群から選択される少なくとも1つを含有する希土類イオン錯体と透明樹脂の原料モノマーもしくはオリゴマーと重合開始剤とを含む溶液をロッド形成用型内で重合することを特徴とするプラスチックロッドの製造方法。
【請求項7】
レーザー発振装置におけるレーザー発振媒体として用いられるプラスチックロッドの製造方法であって、
希土類イオンとしてEu3+、Tb3+、Yb3+,Nd3+,Er3+およびSm3+からなる群から選択される少なくとも1つを含有する希土類イオン錯体と透明樹脂とを有機溶媒で溶解混合した溶液をロッド形成用型内に流し込み、真空中もしくは常圧下で有機溶媒を除去することを特徴とするプラスチックロッドの製造方法。
【請求項8】
レーザー発振装置におけるレーザー発振媒体として用いられるプラスチックロッドの製造方法であって、
希土類イオンとしてEu3+、Tb3+、Yb3+,Nd3+,Er3+およびSm3+からなる群から選択される少なくとも1つを含有する希土類イオン錯体の粉末と透明樹脂の粉末との混合物をロッド形成用型で熱成形することを特徴とするプラスチックロッドの製造方法。

【図1】
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