説明

レーザー透過部材の切断方法及び切断装置並びに電極製造方法

【課題】通常はレーザーカットできない素材であっても、カットが可能になって量産性に優れるレーザー透過部材の切断方法及び切断装置並びに電極製造方法を提供する。
【解決手段】レーザー切断可能部材に設けられたレーザー透過部材を切断する方法であって、レーザー透過部材が設けられた領域のレーザー切断可能部材にレーザーを照射する照射工程#101と、照射工程#101でレーザーが照射された軌跡を挟んで広がる2つの領域に力を加えて引き離す切断工程#102と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーザー透過部材の切断方法及び切断装置並びに電極製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、素材をレーザーカットしてリチウム二次電池用の電極を製造する手法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−289180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本件発明者らも素材をレーザーカットして電池用の電極を製造する手法を開発している。そして本件発明者らが開発を進めていくなかで、素材(被切断物)の材料によっては、何らかの工夫をしなければうまくカットできない場合があることが知見された。
【0005】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされたものであり、本発明の目的は、通常はレーザーカットできない素材であっても、カットが可能になって量産性に優れるレーザー透過部材の切断方法及び切断装置並びに電極製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下のような解決手段によって前記課題を解決する。
【0007】
本発明は、レーザー切断可能部材に設けられたレーザー透過部材を切断する方法である。そして前記レーザー透過部材が設けられた領域のレーザー切断可能部材にレーザーを照射する照射工程と、前記照射工程でレーザーが照射された軌跡を挟んで広がる2つの領域に力を加えて引き離す切断工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、レーザーが照射された軌跡を挟んで広がる2つの領域に力を加えることで、両領域を引き離して切断することができ、通常はレーザーカットできない素材であっても、カットが可能になって量産性に優れる。
【0009】
本発明の実施形態、本発明の利点については、添付された図面を参照しながら以下に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、リチウムイオン二次電池を説明する図である。
【図2】図2は、量産性に優れる電極製造方法を説明する図である。
【図3】図3は、電極素材シートから電極を製造するためのカットラインを示す図である。
【図4】図4は、レーザー照射の推奨条件を示すマップである。
【図5】図5は、レーザー透過部材切断装置の概要を示す図である。
【図6】図6は、レーザーヘッドの詳細図である。
【図7】図7は、切断台の構造及び作動を説明する図である。
【図8】図8は、レーザー及び切断台の作動タイミングチャートである。
【図9】図9は、切断台の可動部の作動を説明する図である。
【図10】図10は、カットラインIIにおける切断の状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
最初に本発明の理解を容易にするために、発明者らの技術着想について説明する。
【0012】
図1はリチウムイオン二次電池を説明する図であり、図1(A)はリチウムイオン二次電池のセルパックの外観を示す斜視図、図1(B)はセルパックに収納される単位電池の平面図である。
【0013】
ここでは、電池としてリチウムイオン二次電池を一例に取り上げて説明する。
【0014】
リチウムイオン二次電池のセルパック10は、外装材11に、所定数積層されて電気的に接続された単位電池12が内蔵されている。なお単位電池12については図1(B)を参照して後述する。また図示を省略するが、このリチウムイオン二次電池のセルパック10が所定数積層されて、アルミニウムなどで形成されたボックス(筐体)に納められてリチウムイオン二次電池パッケージになる。
【0015】
外装材11は、積層された単位電池12を収容する。外装材11の材料は種々考えられるが、たとえば、アルミニウムをポリプロピレンフィルムで被覆した高分子−金属複合ラミネートフィルムのシート材がある。外装材11は、まずはじめに積層された単位電池12を収容した状態で、一辺が開口するように三辺が熱融着される。そして電解液が注液された後に残りの一辺も熱融着される。外装材11は、単位電池12の電力を外部に取り出すための正極タブ111a及び負極タブ111bを備える。
【0016】
正極タブ111aは、一端が外装材11の内部で正極集電部に接続され、他端が外装材11の外に出る。
【0017】
負極タブ111bは、一端が外装材11の内部で負極集電部に接続され、他端が外装材11の外に出る。
【0018】
図1(B)に示されるように、単位電池12は、正極121aと、負極121bと、セパレーター122と、を含む。
【0019】
セパレーター122は、流動性のある電解質(電解液)を保持する電解質層である。セパレーター122は、ポリアミド製不織布,ポリエチレン不織布,ポリプロピレン不織布,ポリイミド不織布,ポリエステル不織布,アラミド不織布などの不織布である。また、セパレーター122は、フィルムが延伸されて細孔が形成された微多孔膜フィルムでもよい。このようなフィルムは、既存のリチウムイオン電池用セパレーターとして使用される。またポリエチレン,ポリプロピレン,ポリイミドフィルムやあるいはこれらを積層したものであってもよい。セパレーター122の厚さは、特には限定されない。しかしながら、薄いほうが電池がコンパクトになる。そこでセパレーター122は、性能を確保できる範囲で、できるだけ薄いことが望ましい。一般的にはセパレーター122の厚さは10〜100μm程度である。ただし一定厚でなくてもよい。
【0020】
電解質(電解液)は、たとえば、ポリマー骨格中に数重量%〜99重量%程度電解液を保持させたゲル電解質である。特に高分子ゲル電解質がよい。高分子ゲル電解質は、たとえば、イオン導伝性を有する固体高分子電解質に、通常リチウムイオン電池で用いられる電解液を含んだものである。また、リチウムイオン導伝性を持たない高分子の骨格中に、通常リチウムイオン電池で用いられる電解液を保持させたものでもよい。
【0021】
高分子ゲル電解質は、高分子電解質100%でできたもの以外のものであって、電解液をポリマー骨格に含ませたものであればよい。特に、電解液とポリマーとの比率(質量比)は、20:80〜98:2程度が好ましい。このような比率であれば、電解質による流動性と、電解質としての性能と、が両立される。
【0022】
ポリマー骨格は、熱硬化性ポリマー及び熱可塑性ポリマーのいずれでもよい。具体的には、たとえば、ポリエチレンオキシドを主鎖又は側鎖に持つ高分子(PEO),ポリアクリロニトリル(PAN),ポリメタクリル酸エステル,ポリフッ化ビニリデン(PVDF),ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体(PVDF−HFP),ポリメチルメタクリレート(PMMA)などである。ただし、これらに限られない。
【0023】
高分子ゲル電解質に含まれる電解液(電解質塩及び可塑剤)は、通常リチウムイオン電池で用いられるものである。たとえば、LiPF6,LiBF4,LiClO4,LiAsF6,LiTaF6,LiAlCl4,Li210Cl10等の無機酸陰イオン塩、LiCF3SO3,Li(CF3SO2)2N,Li(C25SO2)2N等の有機酸陰イオン塩の中から選ばれる、少なくとも1種類のリチウム塩(電解質塩)を含み、プロピレンカーボネート,エチレンカーボネート等の環状カーボネート類である。ジメチルカーボネート,メチルエチルカーボネート,ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネート類でもよい。テトラヒドロフラン,2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン等のエーテル類でもよい。γ−ブチロラクトン等のラクトン類でもよい。アセトニトリル等のニトリル類でもよい。プロピオン酸メチル等のエステル類でもよい。ジメチルホルムアミド等のアミド類でもよい。酢酸メチル及び蟻酸メチルの中から選ばれる少なくとも1種類以上を混合した非プロトン性溶媒等の有機溶媒(可塑剤)を用いたものでもよい。ただし、これらに限られない。
【0024】
正極121aは、正極集電箔と、その両面に形成された正極活物質層と、を有する。正極121aは、セパレーター122の一方の面(図1(B)ではセパレーター122の下面)に配置される。
【0025】
正極集電箔は、たとえば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金などによる箔である。正極集電箔の厚さは、特に限定されないが、通常は1〜100μm程度である。
【0026】
正極活物質層の正極活物質は、特にリチウム−遷移金属複合酸化物が好ましい。具体的には、たとえば、スピネルLiMn24などのLi・Mn系複合酸化物,LiCoO2などのLi・Co系複合酸化物,LiNiO2などのLi・Ni系複合酸化物,LiFeO2などのLi・Fe系複合酸化物などである。また、LiFePO4などの遷移金属とリチウムのリン酸化合物や硫酸化合物でもよい。さらに、V25,MnO2,TiS2,MoS2,MoO3などの遷移金属酸化物や硫化物でもよい。また、PbO2,AgO,NiOOHなどでもよい。このような正極活物質は、電池容量、出力特性に優れた電池を構成できる。
【0027】
正極活物質の粒径は、正極材料をペースト化してスプレーコートなどによって製膜できる程度であればよいが、小さいほうが電極抵抗を低減できる。具体的には、正極活物質の平均粒径が0.1〜10μmであるとよい。
【0028】
正極活物質は、この他にもイオン伝導性を高めるために、電解質,リチウム塩,導電助剤などを含んでもよい。導電助剤は、一例を挙げれば、アセチレンブラック,カーボンブラック,グラファイトなどである。
【0029】
正極活物質,電解質(好ましくは固体高分子電解質),リチウム塩,導電助剤の配合量は、電池の使用目的(出力重視,エネルギー重視など)、イオン伝導性が考慮されて設定される。たとえば、電解質、特に固体高分子電解質の配合量が過少であると、活物質層内でのイオン伝導抵抗やイオン拡散抵抗が大きくなり、電池性能が低下する。一方、電解質、特に固体高分子電解質の配合量が過多であると、電池のエネルギー密度が低下する。したがって、これらが考慮されて、具体的な配合量が設定される。正極活物質層の厚さは、特には限定されない。電池の使用目的(出力重視,エネルギー重視など)、イオン伝導性などが考慮されて設定される。一般的な正極の厚さは1〜500μm程度である。
【0030】
負極121bは、負極集電箔と、その両面に形成された負極活物質層と、を有する。負極121bは、セパレーター122のもう一方の面(図1(B)ではセパレーター122の上面)に配置される。
【0031】
負極集電箔は、正極集電箔と同じものを使用しても、別のものを使用してもよい。
【0032】
負極活物質層の負極活物質は、具体的には、金属酸化物,リチウム−金属複合酸化物金属,カーボン,チタン酸化物,リチウム−チタン複合酸化物などである。特に、カーボン,遷移金属酸化物,リチウム−遷移金属複合酸化物が好ましい。なかでもカーボン又はリチウム−遷移金属複合酸化物は、電池を高電池容量化、高出力化できる。これらが1種単独で用いられてもよいし、2種以上併用されてもよい。
【0033】
このような単位電池12が所定数積層されて各正極集電箔がひとつに集合されて電気的に並列接続される。この集合部分が正極集電部であり、この正極集電部に正極タブ111aが接続される。また各負極集電箔がひとつに集合されて電気的に並列接続される。この集合部分が負極集電部であり、この負極集電部に負極タブ111bが接続される。
【0034】
正極121a及び負極121bは、セパレーター122を挟むように配置されるが、万一、位置がズレると、正極121a及び負極121bが短絡するおそれがある。特に、正極121a及び負極121bが交差する図1(B)に一点破線円で囲んだA部で短絡するおそれがある、ということが本件発明者らによって知見された。そこで本件発明者らは、少なくとも正極121a及び負極121bのいずれか一方の電極のA部を含む領域に絶縁性の粘着テープを貼付することを着想した。なおこの絶縁性の粘着テープは、正極121a及び負極121bの短絡を防止するものなので、いずれか一方に貼付すればよいし両方に貼付してもよい。また以下の説明では、正極/負極に特定せず、電極として説明する。
【0035】
図2は、量産性に優れる電極製造方法を説明する図である。
【0036】
具体的な種々の手法を検討していくなかで、本件発明者らは、量産性を考慮して、絶縁性の粘着テープ1213を電極素材シート1210に貼付した状態でレーザーを照射してカットすることで電極を製造する手法に想到した。なお電極素材シート1210は、電極集電箔1211の所定領域に電極活物質層1212が形成されている。また絶縁性の粘着テープ1213は、たとえばポリプロピレン(polypropylene;PP)などの樹脂テープである。
【0037】
電極素材シート1210に、樹脂テープ1213を貼付した状態が図2に示されている。図2(B)から判るように、電極集電箔1211の所定領域に電極活物質層1212が形成されている。そして樹脂テープ1213は、電極集電箔1211に形成された電極活物質層1212と、電極活物質層1212が形成されていない電極集電箔1211と、を跨いで貼付されている。
【0038】
図3は、電極素材シートから電極を製造するためのカットラインを示す図である。
【0039】
上述のように、本件発明者らは、量産性を考慮して、樹脂テープ1213を電極素材シート1210に貼付した状態でレーザーを照射してカットすることで電極を製造する手法に想到した。樹脂テープ1213が貼付された電極素材シート1210を、一点破線で示したカットラインに沿ってカットする。このようにすれば、量産性に優れた手法で所望の電極121を製造できる。
【0040】
しかしながら、樹脂テープ1213は、レーザーを透過してしまうので、何らかの工夫をしなければ、うまくカットできないことが本件発明者らによって知見された。
【0041】
すなわち、図3のカットラインI及びカットラインIIに存在する樹脂テープ1213はレーザーを透過してしまうので、何らかの工夫をしなければ、カットできない。なおカットラインIIIには、樹脂テープ1213が貼付されておらず、電極集電箔1211が露出している。したがってここについては通常の方法でレーザーカットできる。
【0042】
そこで発明者らは、種々の実験を繰り返し、カットラインIについては、樹脂テープ1213が貼付された電極活物質層1212に所定のパワー密度のレーザーを照射することで電極活物質に含有される成分が蒸発し、この蒸発ガスの熱や圧力などによって樹脂テープ1213が切断されることを見いだした。一方カットラインIIについては、図3(B)に示されているように、樹脂テープ1213が電極活物質層1212ではなく電極集電箔1211に貼付されている。そのため、電極活物質層の蒸発現象が生じないため、樹脂テープ1213はカットされない。しかしながら、レーザーカットされるときの電極集電箔1211の熱を受けて、樹脂テープ1213も所々溶融し、強度が弱まることが見いだされた。この状態でカットライン(レーザー照射軌跡)を挟んだ電極121及び余剰部材125を保持して両者を引き離すことで、カットラインIIにおける樹脂テープ1213を切断することができる。ただしレーザーからの入熱量が小さすぎると、樹脂テープ1213の強度が弱まらない。またレーザーからの入熱量が大きすぎると、電極集電箔1211が過剰にカットされてしまう。このようなことから図4に示すような推奨条件マップを得た。この図4を用いれば、カットライン(レーザー照射軌跡)を挟んだ電極121及び余剰部材125を引き離すことが可能な強度から、レーザーの出力及び切断速度を求めることができる。なおカットラインIについても上記所定のパワー密度よりも小さいレーザーを照射することで、樹脂テープ1213が所々溶融して強度が弱まるものの切断はされない状態になる。このような状態でカットライン(レーザー照射軌跡)を挟んだ電極121及び余剰部材125を保持して両者を引き離すことで、カットラインIにおける樹脂テープ1213を切断することも可能である。
【0043】
以下では、このような技術思想を具現化するレーザー透過部材切断装置について説明する。
【0044】
図5は、レーザー透過部材切断装置の概要を示す図である。
【0045】
レーザー透過部材切断装置20は、レーザー発振部21と、レーザーヘッド22と、レーザーヘッド位置決め部23と、ワーク搬送台24と、を含む。
【0046】
レーザー発振部21は、レーザーを発生させる。レーザーは、たとえば波長が1μm帯のレーザーである。このようなレーザーであれば電極素材シート1210を切断したときに発生する切り屑を少なくできる。したがって電池の内部に切り屑が残りにくくなる。また高速にカットできる。したがって量産性に優れる。なお、波長が1μm帯のレーザーとしては、YAGレーザーやファイバーレーザーがある。より具体的には、波長1.07μmシングルモードファイバーレーザーなどがある。
【0047】
レーザーヘッド22は、ファイバーケーブル261を介してレーザー発振部21に接続される。レーザーヘッド22は、レーザーを発射する。またレーザーヘッド22は、ガスチューブ262を介してガス供給部25に接続される。ガスチューブ262の途中には、電磁弁263が設けられており、ガスの供給又は停止を切り替えることができる。レーザーヘッド22のその他の詳細については、後述する。
【0048】
レーザーヘッド位置決め部23は、レーザーヘッド22を支持するとともに、前後方向(X方向)及び左右方向(Y方向)にレーザーヘッド22を移動させる。
【0049】
ワーク搬送台24は、電極素材シート1210を所定の位置まで搬送するとともに、レーザーカット時に位置がズレないように電極素材シート1210を保持する。具体的には、ワーク搬送台24は、シート搬送コンベヤー241と、切断台242と、電極搬送コンベヤー243と、を含む。
【0050】
シート搬送コンベヤー241は、電極素材シート1210を載置して搬送するベルトコンベヤーである。
【0051】
切断台242は、シート搬送コンベヤー241で搬送されてきた電極素材シート1210を吸引して位置がズレないように保持する。この状態で、レーザーヘッド22が電極素材シート1210にレーザーを照射する。なお切断台242は、固定部2421と、可動部2422と、を含む。固定部2421及び可動部2422のいずれにもエア吸引口が設けられている。可動部2422の作動については後述する。
【0052】
電極搬送コンベヤー243は、切断台242において電極素材シート1210から切り出された電極121を載置して搬送するベルトコンベヤーである。
【0053】
図6は、レーザーヘッドの詳細図である。
【0054】
レーザーヘッド22は、末端221にファイバーコネクターを備える。このファイバーコネクターにファイバーケーブル261が接続される。レーザーヘッド22は、ファイバーコネクターからレーザーを取り入れる。レーザーヘッド22は、先端222がノズルチップである。ノズルチップの先端口径は、一例を挙げるとφ0.8〜1.5mmである。レーザーヘッド22は、ノズルチップからレーザーを照射する。またレーザーヘッド22は、ガス取り入れ部223を備える。このガス取り入れ部223にガスチューブ262が接続される。レーザーヘッド22は、ガス供給部25から供給されたガスを、ガス取り入れ口223から取り入れる。そしてこのガスは、ノズルチップの先端口からレーザーと同軸に噴射される。さらにレーザーヘッド22は、カメラ224を備える。このカメラ224は、ノズルチップの先端口の位置確認用である。
【0055】
図7は、切断台の構造及び作動を説明する図である。
【0056】
上述のように、切断台242は、固定部2421と、可動部2422と、を含む。
【0057】
固定部2421には、電極素材シート1210から切り出す電極121の外形形状に沿ってエア吸引口2421aが設けられている。
【0058】
可動部2422には、電極素材シート1210から除去する余剰部材125が載置される領域にエア吸引口2422aが設けられている。また可動部2422は、軸方向がX軸方向(前後方向)であるピボット2422bを中心として、水平状態から下降する。
【0059】
図8は、レーザー及び切断台の作動タイミングチャートである。
【0060】
なおこのタイミングチャートは、各部の作動の前後関係を説明するにとどまり、横軸の一定間隔であっても一定時間を示すものではない。
【0061】
タイミングt1までは、レーザーは停止している。また固定部2421はエア吸引を停止している。また可動部2422はエア吸引を停止しているとともに下降状態である。この状態でシート搬送コンベヤー241が電極素材シート1210を搬送する。可動部2422が下降状態であるので、電極素材シート1210を搬送しやすい。
【0062】
電極素材シート1210が所定位置に到達したタイミングt1になったら、固定部2421及び可動部2422がエア吸引を開始する。そしてタイミングt2になったら可動部2422が水平状態にされる。これらによって電極素材シート1210が位置ズレを生じないように保持される。
【0063】
タイミングt3になったら、レーザー照射を開始する。なおタイミングt3からタイミングt4までがカットラインIに沿ったレーザー照射を示す。タイミングt4からタイミングt5までがカットラインIIに沿ったレーザー照射を示す。タイミングt5からタイミングt6までがカットラインIIIに沿ったレーザー照射を示す。なおこの工程が照射工程#101であり、図9(A−1)(A−2)に示されている。
【0064】
タイミングt7になったら、固定部2421がエア吸引を停止する。
【0065】
タイミングt8になったら、可動部2422が下降する。これによって電極素材シート1210から余剰部材125が引き千切られる。なおこの工程が切断工程#102であり、図9(B−1)(B−2)に示されている。
【0066】
タイミングt9になったら、可動部2422がエア吸引を停止する。これによって余剰部材125が可動部2422から離れて下方に廃棄される。なおこの工程が廃棄工程#103であり、図9(C−1)(C−2)に示されている。
【0067】
図10は、カットラインIIにおける切断の状態を説明する図である。なお上側が平面図、下側が縦断面図である。
【0068】
図10(A)に示されるように、電極素材シート1210に対してカットラインIIに沿ってレーザーLを照射すると、レーザーは樹脂テープ1213を透過し電極集電箔1211に吸収される。
【0069】
そして図10(B)に示されるように、電極集電箔1211は切断される。このとき樹脂テープ1213は電極集電箔1211の熱を受けて温度上昇して部分的には切断されるものの、架橋状に切れ残りが発生する。
【0070】
しかしながら、強度が低下しているので、図10(C)に示されるように、余剰部材125を引き離すと、図10(D)に示されるように、余剰部材125が切断される。切断が完了すると、樹脂テープ1213は収縮して元に戻るので、切断面が過度に汚くなることはない。
【0071】
レーザーを透過してしまう樹脂テープはレーザーカットできない。本実施形態では、樹脂テープが貼付された電極素材シート1210にレーザーを照射する。すると樹脂テープ1213は電極素材シート1210の熱を受けて温度上昇する。しかしながら、発生する熱量が小さいと、樹脂テープ1213は、部分的には切断されるものの、架橋状に切れ残りが発生してしまう。特に電極素材シート1210の電極集電箔1211のような金属箔では、レーザーの吸収度合いが少ないために発生熱量が小さい。そのため、そこに貼付された樹脂テープ1213が切断されにくい。そこで、本実施形態では、架橋状に切れ残った状態でカットライン(レーザー照射軌跡)を挟んだ電極121及び余剰部材125を保持して両者を引き離すようにした。このようにすることで、樹脂テープ1213を切断できるようになった。このように本実施形態によれば、レーザーを透過してしまってレーザーカットできない樹脂テープであっても、切断できるのである。そして樹脂テープを使用できるので、量産性に優れるのである。
【0072】
なお樹脂テープ1213が貼付された電極活物質層1212に所定のパワー密度のレーザーを照射することで電極活物質に含有される成分が蒸発し、この蒸発ガスの熱や圧力などによって樹脂テープ1213が切断されるが、それよりも小さいレーザーを照射されたときには、樹脂テープ1213が所々溶融して強度が弱まるものの切断はされない状態になる。このような状態でカットライン(レーザー照射軌跡)を挟んだ電極121及び余剰部材125を保持して両者を引き離すことでも、樹脂テープ1213を切断することも可能である。
【0073】
また電極素材シート1210にレーザーを照射した後、電極素材シート1210を移動させることなく引き切るようにしたので、工程が無駄に長くなってしまうことを防止できる。また、レーザー照射直後に搬送すると、切れ残りが周辺設備に引っ掛かって搬送異状となるおそれがあるが、本実施形態によれば、そのような異状も発生しない。このように、ラインの冗長化及び搬送異常を回避できるとともに、設備費を低減できるのである。
【0074】
さらに引き切った後、電極素材シート1210を移動させることなく不用な余剰部材を廃棄するようにしたので、個別に廃却機構を設置する必要がなくなるため、設備費を低減できるとともに、ラインタクトタイムを向上できる。
【0075】
さらにまた電極素材シート1210をエア吸引して保持するが、このような設備は他の設備を利用でき、設備費の上昇を招かない。
【0076】
また余剰部材125を引き離すときには回転又はスライドさせることで確実に切断できる。
【0077】
さらに本実施形態によれば、樹脂テープを特殊な材質する必要がなく、またレーザーも通常用いられる汎用的なものを使用可能であるので、部材変更によって直材費が増大してしまうことや、切断品質が劣化してしまうことや、加工時間が増加してしまうことを回避できるのである。
【0078】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0079】
たとえば、上記説明においては、切断台の可動部2422は、軸方向がX軸方向(前後方向)であるピボット2422bを中心として、水平状態から回転して下降するものとしたが、上昇してもよい。またピボットの軸方向がY軸方向(左右方向)であったり、Z軸方向(上下方向)であってもよい。また切断台の可動部2422が、前後又は左右又は上下にスライド(平行移動)してもよい。
【0080】
また上記説明においては、切断台の固定部2421及び可動部2422は、電極素材シート1210を吸引して保持するが、把持することで保持してもよい。
【0081】
さらに上記説明においては、電極素材シート1210の上下両面に樹脂テープ1213が貼付されていたが、いずれか片面に貼付されていてもよい。
【符号の説明】
【0082】
10 リチウムイオン二次電池のセルパック
11 外装材
12 単位電池
121 電極 (121a 正極,121b 負極)
1210 電極素材シート1210
1211 電極集電箔
1212 電極活物質層
1213 絶縁性の粘着テープ(樹脂テープ;樹脂部材)
122 セパレーター
125 余剰部材
20 レーザー透過部材切断装置
21 レーザー発振部
22 レーザーヘッド
23 レーザーヘッド位置決め部
24 ワーク搬送台
241 シート搬送コンベヤー
242 切断台
2421 固定部
2422 可動部
243 電極搬送コンベヤー
#101 照射工程
#102 切断工程
#103 廃棄工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー切断可能部材に設けられたレーザー透過部材を切断する方法であって、
前記レーザー透過部材が設けられた領域のレーザー切断可能部材にレーザーを照射する照射工程と、
前記照射工程でレーザーが照射された軌跡を挟んで広がる2つの領域に力を加えて引き離す切断工程と、
を含むレーザー透過部材切断方法。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザー透過部材切断方法において、
前記レーザー透過部材は、樹脂部材であり、
前記切断工程は、前記照射工程でレーザーが照射された後、前記2つの領域を保持して力を加えて引き離す、
レーザー透過部材切断方法。
【請求項3】
請求項2に記載のレーザー透過部材切断方法において、
前記切断工程で切断した後、前記2つの領域のうちで一方の不用な領域の保持を中止することでその不用な領域を廃棄する廃棄工程をさらに含む、
レーザー透過部材切断方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のレーザー透過部材切断方法において、
前記切断工程は、前記2つの領域を保持した状態で、それらの2つの領域を回転又はスライドさせることで引き離す、
レーザー透過部材切断方法。
【請求項5】
レーザー透過部材が形成された電極素材シートから電極を製造する方法であって、
前記レーザー透過部材が形成された領域の前記電極素材シートにレーザーを照射する照射工程と、
前記照射工程でレーザーが照射された軌跡を挟んで広がる2つの領域に力を加えて引き離す切断工程と、
を備える電極製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の電極製造方法において、
前記電極素材シートは、電極集電箔の所定領域に電極活物質層が形成されており、
前記レーザー透過部材は、絶縁性の粘着テープであって、前記電極活物質層が形成されていない電極集電箔に貼付されており、
前記レーザーは、波長1μm帯のレーザーである、
電極製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の電極製造方法において、
前記電極素材シートは、電極集電箔の所定領域に電極活物質層が形成されており、
前記レーザー透過部材は、絶縁性の粘着テープであって、前記電極集電箔に形成された電極活物質層に貼付されており、
前記レーザーは、波長1μm帯のレーザーである、
電極製造方法。
【請求項8】
レーザー切断可能部材に設けられたレーザー透過部材を切断する装置であって、
前記レーザー透過部材が設けられた領域のレーザー切断可能部材にレーザーを照射する照射部と、
前記レーザーが照射された軌跡を挟んで広がる2つの領域に力を加えて引き離す切断部と、
を備えるレーザー透過部材切断装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−221914(P2012−221914A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89990(P2011−89990)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】