説明

レーザ光結像用の色消しレンズ

【課題】波長1.0μmから1.6μmまでの波長帯で1/10波長(rms)以下の総合波面収差を持つ色消しの単一レンズを提供する。
【解決手段】第1の材料からなる正の屈折力を有するAレンズと第2の材料からなる負の屈折力を有するBレンズを貼り合わせた2枚構成、または前記Aレンズの両面に前記Bレンズを貼り合わせた3枚構成を取るレーザ光結像用の色消しレンズであって、AレンズとBレンズのレンズ材料の条件として両レンズのアッベ数ν1.31nの差が27を超え、部分分散比の差の絶対値が0.005を下回ると共にAレンズの屈折率n1.31(1)が1.42から1.59の範囲にあるか、又は両レンズのアッベ数ν1.31の差が27を超え、アッベ数ν1.31の比が1.40を超えると共にBレンズの屈折率n1.31(2)が1.69を超える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光結像用の色消しレンズに関するものである。より詳しくは、波長多重化技術を用いた光ファイバ通信で規格化されている波長帯及びレーザ加工機等で数多く用いられている1.06μm帯のレーザ波長を包含する広い波長帯(1.0μmから1.6μm)において、開口数0.12未満の入射光線に対して、波長に因らず同一の焦点位置で回折限界の結像性能を有するレーザ光結像用のレンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光無線通信において、商用化されている装置では近赤外波長(0.78μmあるいは0.85μm)のレーザが使われており、この波長帯に合った光学部品(レンズやビームスプリッタ)が設計・製作されてきた。しかしながら、高速大容量化する需要に対応するため、光無線通信装置には、幹線系の光ファイバ通信に用いられている1.31μmあるいは1.55μmを中心とするレーザの波長帯に加えて、波長多重通信で規格化されている波長帯をすべてカバーする1.26μmから1.61μmを包含する広い波長帯への対応が求められている。この際、レーザ加工機のために高出力レーザが開発されている1.06μm帯のレーザ波長も含まれることが望ましい。
【0003】
光ファイバ技術を活用した光無線通信装置の光学系には、光ファイバから発射されるレーザ光を遠距離の空間伝送に適した平行光に変換するコリメータレンズ、空間光を光ファイバに効率良く導入するためのファイバカップラ用結像レンズ、平行光のビーム口径を縮小・拡大するビームエキスパンダ用の結像レンズなどが必要である。これらのレンズについて、上記の波長帯のレーザ光の結像に必要な回折限界の光学特性、例えば波長の1/10以下の波面収差(以下ではλ/10と表記する。)を持った製品を安価に製造することが必要とされている。
【0004】
この際、使用するレーザの波長帯が1μm以下であれば、非球面レンズや張り合わせ構成の2枚組レンズ(ダブレット)等の市販のレンズを、その波長帯に合った無反射コートを施して使用することができる。しかしながら、波長多重通信で規格化されている波長帯をすべてカバーするためには、少なくとも1.27μmから1.61μmまでの波長帯で十分に色消しとなるレンズが必要になる。
【0005】
可視光から波長が1μm程度の近赤外波長域については、ダブレット、あるいは3枚構成の貼り合わせレンズ(トリプレット)によって広帯域の色消しを実現する発明が公開されている(特許文献1、特許文献2を参照)。この理論に従って色消しに適した異常分散ガラスの中から最適な品種を選定することにより広帯域の色消しレンズが設計できる。
【0006】
しかしながら、波長1.0μmから1.6μmの波長帯においては、レーザ光の結像に必要な回折限界の結像精度を持ったダブレットレンズやトリプレットレンズの商品開発や設計結果の発表は行われておらず、可視光について色消し特性となる光学ガラス(異常分散ガラス)の組み合わせを元に最適設計を行った場合でも、必ずしも良好な特性が得られるとは限らない。
【0007】
一般に、顕微鏡対物レンズや望遠鏡の対物レンズでは、無収差の基準として、入射面から焦点の参照面に向かって光線追跡を行い、複数の入射光線について光路差(OPD)を求めて、その最大値がλ/4以下となることや、入射光束全体について光路差の2乗平均を求め、その平方根(rms値)がλ/13以下になるといった条件が用いられる。以下の説明では、レーザ光に対する回折限界の結像条件として、入射光束全体にわたる光路差の2乗平均の平方根(この値を総合波面収差と呼ぶ)がλ/10(rms)以下であることをその波面収差の条件とする。
【0008】
シングルモードファイバ中を伝搬するレーザ光と空間光を結合するためには、開口数(NA)が0.1〜0.15程度の光線について、組み立て誤差を考慮して1.0度程度の入射角の光軸からのずれも許容し得る回折限界の結像光学系が必要である。
【0009】
回折限界の結像特性を有するNAの大きな結像光学系として、LDモジュールでの非球面レンズの適用がある。LDモジュールでは光ファイバの位置がレンズに対して固定されているので、軸上光線について良好な結像性能を示す非球面レンズが好適である。シングルモード光ファイバを用いた高速大容量光通信には、波長1.31μmと波長1.55μmを中心とするレーザ光が使われており、従来のLDモジュールでは、この2つの波長帯に個別に対応する非球面の形状を持った結像レンズが使われる場合が多かった(特許文献3参照)。
【0010】
しかしながら、従来の非球面レンズは光軸に対して斜めから入射したレーザ光に対しては非点収差の補正が十分でなく、結像性能が劣化するという問題点があった。さらに、非球面レンズでは、幅広い波長帯において焦点が同一になる、いわゆる広帯域色消しレンズも実現できていなかった。このため、広帯域の色消しを必要とする回折限界の結像光学系は、多数のレンズによる複雑・高価な光学系が用いられることが多かった。
【0011】
これに対して、光無線通信装置に用いられる望遠鏡(ビームエキスパンダ)の接眼レンズには、レーザ光の入射角変動を許容するため、0.2度から4.0度までの幅広い入射角に対して回折限界の性能を維持する必要があり、この条件から上記の入射角の範囲内で非点収差も補正する必要がある。2枚構成の貼り合わせダブレット、あるいは3枚構成の貼り合わせトリプレットでこれらの特性を実現するためには、最近開発が進められてきた高屈折率のガラス材や、赤外域でも異常分散を示すガラス材を用いて色消しレンズを設計することが有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2003−139916号公開公報
【特許文献2】特開2000−98221号公開公報
【特許文献3】特開平6−289256号公開公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
可視光領域において良好な色消し特性を示す異常分散ガラスを用いた従来のダブレットあるいはトリプレット構造の色消しレンズでは、波長1μmを超える赤外波長で必ずしも良好な色消し特性を得ることができない。また、光ファイバ通信用のレーザ光を結像する従来の非球面レンズでは、広帯域の色消しは不可能であり、入射角の大きなレーザ光に対しては結像性能が急激に低下する場合が多かった。
【0014】
そこで、本発明では、従来のd線を中心とする可視光領域の色消しレンズの設計手法を踏襲しつつ、波長の中心を1.31μmとして、色分散の大きさを規定するアッベ数ν1.31を定義しこのアッベ数ν1.31と、波長0.98μmと波長1.55μmの部分分散比(後述の数3にて定義)をパラメータとして、最適なガラス材料を選定することにより、将来の光無線通信装置に必要となる波長1.0μmから1.6μmまでの広い波長帯に対して、波長に因らず同一の焦点位置で、シングルモード光ファイバとの直結を特徴とする光無線通信装置の内部光学系に必要なλ/10(rms)以下の総合波面収差を持った安価な光学系を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明では、上記のレーザ結像に必要な性能を持った広帯域色消しレンズを安価に実現するため、製造されている光学ガラスの中から赤外波長での色消しに適した品種を選定し、貼り合わせレンズの構成によりレンズ形状を最適化した場合に、回折限界の結像特性を満たす解が得られる条件を検討した。この際、短波長(0.98μm又は1.06μm)、中波長(1.31μm)、長波長(1.6μm)の3つの波長について、レーザの結像に必要な波面精度が得られるかどうかを評価の基準とした。
【0016】
さらに、光学系の製作の際に回避不可能な光学系の軸ずれや光線入射位置の変動を許容し、λ/10(rms)以下の波面誤差を持った結像性能を満足するため、光線の入射高、入射角の誤差に対する許容範囲についても評価した。このためには、レンズの光学収差のうち、色収差、球面収差、コマのみならず、非点収差をも補正する必要があった。また、入射瞳がレンズの前側焦点位置にある場合の結像性能についても評価した。
【0017】
請求項1に記載されたレーザ光結像用の色消しレンズは、波長1.0μmから1.6μmまでの波長帯における開口数が0.12未満の入射光について、波長に因らず同一の焦点位置で回折限界の結像特性を得ることを目的とした、第1の材料からなる正の屈折力を有するAレンズと第2の材料からなる負の屈折力を有するBレンズを貼り合わせた2枚構成の、または前記Aレンズの両面に前記Bレンズを貼り合わせた3枚構成の、次の条件(1)及び条件(2)若しくは条件(3)を満足する色消しレンズであることを特徴としている。
(1)波長1.31μmにおける屈折率をn1.31、波長1.55μmにおける屈折率をn1.55、波長0.98μmにおける屈折率をn0.98とし、波長1.31μmを基準とする色分散の大きさを示すアッベ数ν1.31を、
【数1】

で定義したとき、前記第1の材料のアッベ数ν1.31(1)と前記第2の材料のアッベ数ν1.31(2)の差が次式
【数2】

の範囲である。
(2)波長0.98μmから波長1.55μmにおける色収差の2次スペクトルの大きさに関連する部分分散比θ1.31
【数3】

で定義したとき、前記第1の材料の部分分散比θ1.31(1)と前記第2の材料の部分分散比θ1.31(2)の差の絶対値|Δθ1.31|が次式
【数4】

の範囲であり、前記第1の材料の波長1.31μmでの屈折率n1.31(1)が次式
【数5】

の範囲である。条件(1)及び条件(2)を満たすことにより、波長1.0μmから1.6μmまでの波長域で良好な色消し特性と回折限界の結像性能を持ったダブレットまたはトリプレットが設計できる。この条件は、従来の可視光・近赤外域の広帯域色消しレンズの設計手法と類似しているが、赤外波長域におけるガラス材料の屈折率分散特性は可視光域とは異なるガラス材料が多いため、上記の条件を満たすことが必要である。上記のアッベ数、部分分散比は従来のものとは異なる波長で定義したものであり、上記の条件を満たすガラス材の組み合わせが可視域でも良好な色消し特性を持つとは限らない。
【0018】
次に、条件(2)に代わる条件として、
(3)前記第1の材料のアッベ数ν1.31(1)と、前記第2の材料のアッベ数ν1.31(2)の比が次式
【数6】

の範囲であり、前記第2の材料の波長1.31μmでの屈折率n1.31(2)が次式
【数7】

の範囲であれば、部分分散比が合致していなくても、色収差による結像性能の劣化を許容範囲に収めることができる。
【0019】
通常の色消しダブレットは、クラウンガラスなどの屈折率が小さくアッベ数の大きいガラス材による正レンズと、フリントガラスなどの屈折率が大きくアッベ数の小さいガラス材による負レンズで作られるが、本発明においては、波長1.31μmを基準とするアッベ数ν1.31を数1のように定義し、さらに、波長0.98μmと波長1.55μmにおける2次スペクトルの大きさに関係する部分分散比θ1.31を数3のように定義し、市販されている光学ガラスの中から部分分散比分散比θ1.31の条件を満足する組み合わせを選ぶことにより、上記の結像性能を満足するレンズが製造できる。この条件を外れた場合、張り合わせ面の曲率が小さくなりすぎて開口数の大きなレンズが実現できなくなり、レンズの厚さが大きくなってコスト高を招くと共に有効なレンズとして機能しなくなる。
【0020】
一般的に、屈折率n1.31を大きくすることにより、レンズ各面の曲率半径が大きくなり、球面収差・コマを小さくすることができる。さらに、2つのレンズのアッベ数の差が大きいほど、正・負の屈折力を持つ2つのレンズの個々の屈折力の絶対値を小さくすることができ、これに対応して個々のレンズの収差を小さくバランスさせることができる。このため、レーザ光に対して回折限界の結像性能を得るためには、通常の色消しレンズで用いられる組み合わせよりも大きなアッベ数の差を持つガラスの組み合わせが必要である。また、球面収差を減らすため、負の屈折力を有するBレンズの材料の屈折率は、正の屈折力を有するAレンズの材料の屈折率よりも大きくする構成が適している。さらに、広帯域の色消し特性を持たせるためには、部分分散比を2種類のガラスで合わせる必要がある。
【0021】
これらの色収差を完全に補正する条件と、球面収差、コマ、非点収差を補正する条件を、設計自由度の少ないダブレットやトリプレット構成のレンズで同時に満足することは困難であり、後者の条件だけでもレンズの各面の曲率半径、面間隔は一意的に決まってしまう。現状では、高屈折率のガラス材料で、大きなアッベ数の差をもち、部分分散比の等しいガラス材料の組み合わせは存在しないので、現実に販売されている光学ガラスの組み合わせでは、色消し特性と回折限界の結像特性を両立させる解が無いとの結論になる場合が多い。
【0022】
請求項1に記載された発明は、屈折率が1.42以上で部分分散比が実質的に合致した2つのガラス素材が現実に存在する領域と、部分分散比は異なるものの負の屈折力を有するBレンズのレンズ材料の屈折率を1.69以上と大きくとることにより、球面収差、コマが小さくできる領域の、2つの領域についてアッベ数の差及びアッベ数の比を大きくして、目的とする広波長帯域レーザ結像用のレンズが設計できることを示している。
【0023】
請求項2に記載のレーザ光結像用の色消しレンズは、請求項1に記載されたレーザ光結像用の色消しレンズにおいて、前記レーザ光結像用の色消しレンズが前記Aレンズと前記Bレンズを貼り合わせた2枚構成であり、前記の条件(2)及び次の条件(4)、(5)を満足する事を特徴とする。
(4)前記第1の材料の前記アッベ数ν1.31(1)と前記第2の材料の前記アッベ数ν1.31(2)の差が次式
【数8】

の範囲である。
(5)前記第2の材料の前記屈折率n1.31(2)と前記第1の材料の屈折率Δn1.31(1)の差が次式
【数9】

の範囲である。
【0024】
請求項2に示されている色消しレンズでは、入手可能な2種類の異常分散ガラスを使用することにより、2つのレンズについて、数8で定義されるアッベ数の差を大きくしつつ、部分分散比を厳密に合わせることができるため、広波長帯域の色消し性能が得られる。また、2種類のガラス材料の屈折率差を設けることにより、貼り合わせ面でも球面収差・コマを補正できるため、使用する材料の屈折率がそれほど大きくなくても、波長1.0μmから1.6μmまでの波長帯において回折限界の結像が可能となる。この屈折率差の上限は、張り合わせ面の反射が特別な無反射コートを施すことなく0.3%以下に抑えるために必要な条件である。
【0025】
請求項2の条件により、焦点距離が短いダブレットレンズを設計した場合、レンズ面の曲率半径が小さくなり、これに伴って球面収差、コマが増加する傾向がある。さらに、光線入射角が大きくなると急激に非点収差が増大するため、入射角変動が大きい接眼レンズには適していない。このため、請求項2のレンズは、入射角変動の小さいファイバ結合用の結像レンズやビームエキスパンダの対物レンズに用いることが好適である。
【0026】
請求項3に記載のレーザ光結像用の色消しレンズは、請求項1に記載されたレーザ光結像用の色消しレンズにおいて、前記レーザ光結像用の色消しレンズが前記Aレンズの両面に前記Bレンズを貼り合わせたレンズの形状が光軸方向に対称な3枚構成であり、前記の条件(3)および、次の条件(6)および(7)を満足することを特徴とする。
(6)前記第2の材料の前記屈折率n1.31(2)が
【数10】

の範囲である。
(7)前記第2の材料の前記屈折率n1.31(2)と前記第1の材料の前記屈折率n1.31(1)の差が次式
【数11】

の範囲である。
【0027】
請求項3に示されている色消しレンズは、第2レンズとなるAレンズの両面に貼りあわされた第1レンズと第3レンズを同一形状・同一ガラス材料のBレンズとして完全な対称配置の3枚構成貼り合わせトリプレットにすることで、最低限の収差補正の自由度を確保しつつ、レンズ加工面の曲率半径を2種類として安価にレンズを製造することができるように工夫したものである。請求項1の条件(3)と同様に、高屈折率のガラス材料を用いることにより球面収差の発生を抑え、貼り合わせ面における屈折率差を一定値以上にし、光軸方向に対称な構成を採用することにより球面収差、コマ、非点収差を補正している。さらに、請求項1及び2のダブレットレンズ構成では、光線の入射瞳をレンズの直前にしないと大きなコマが発生して結像性能が劣化するが、本構成では入射瞳をレンズの前側焦点付近に配置しても、良好な光学特性を得ることができる。この配置はいわゆる像側テレセントリックレンズと同じであり、このため、射出瞳をレンズ面から離れた位置に置く必要がある接眼レンズとして最適である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によるレンズをファイバ結合光学系に使用することにより、複数の波長(例えば1.06μm、1.31μ、1.55μm)の空間を通して伝送されるレーザ光と、シングルモードファイバ中を伝搬するファイバ光を損失無く結合することができ、将来、この波長帯を全て利用する100Tbpsを超える超大容量の光無線通信が必要になった場合でもその光学系を安価に提供することができる。また本発明の適用範囲は光無線通信に限らず、従来、単一レンズでは不可能とされてきた多波長のレーザ光の精密な結像光学系を、本発明のレンズを用いることにより幅広い用途で活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例1:請求項1の異常分散ガラスの組み合わせ用いたダブレットレンズの形状と入射角1度(点線)の光路図。
【図2】実施例2:請求項1の高屈折率ガラスを用いて広帯域色消しを実現したダブレットレンズの形状と入射角1度(点線)の光路図。
【図3】実施例2の高屈折率ガラスを用いたダブレットレンズの波長と焦点位置変化量の関係を示す図。
【図4】実施例2の高屈折率ガラスを用いたダブレットレンズの波面収差特性。(A) 入射角 0.0度 (B) 入射角 1.0度
【図5】実施例3:請求項1の高屈折率ガラスを用いて長波長帯の波面収差特性を重視したダブレットレンズの形状と入射角1度(点線)の光路図。
【図6】実施例3の高屈折率ガラスを用いたダブレットレンズの波面収差特性。(A) 入射角 0.0度 (B) 入射角 1.0度 (C)入射角 2.0度
【図7】比較例1:アッベ数の差が比較的小さなガラスを用いたレンズの形状と入射角2度(点線)の光路図。
【図8】比較例1のダブレットレンズの波面収差特性。(A)入射角 0.0度 (B)入射角 1.0度 (C)入射角 2.0度
【図9】比較例2:市販されている赤外レーザ結像用レンズに用いられているガラスの組み合わせを用いて最適設計したレンズの形状と入射角2度(点線)の光路図。
【図10】比較例2のダブレットレンズの波面収差特性。(A)入射角 0.0度 (B)入射角 1.0度 (C)入射角 2.0度
【図11】実施例4:請求項1の条件(1)、(2)を満たす、部分分散比の一致する異常分散ガラス材料の組み合わせを用いたダブレットレンズの形状と入射角4度(点線)の光路図。
【図12】実施例4のレンズの波面収差特性。(A)入射角 0.0度 (B)入射角 2.0度 (C)入射角 4.0度
【図13】実施例5:高屈折率ガラス材料を用いた対称構成トリプレットレンズの形状と入射角4度(点線)の光路図。
【図14】実施例5のレンズの波面収差特性。
【図15】実施例6:請求項2の異常分散ガラスの組み合わせを用いたダブレットレンズの形状と入射角1度(点線)の光路図。
【図16】実施例6のレンズの波長と焦点位置ずれの関係を示す図。
【図17】実施例6のレンズの波面収差特性。(A) 入射角 0.0度 (B) 入射角 1.0度
【図18】実施例8:請求項3の高屈折率ガラスを用いたトリプレットレンズの形状と入射角4度(点線)の光路図。
【図19】実施例8のトリプレットレンズの波長と焦点位置ずれの関係を示す図。
【図20】実施例8のトリプレットレンズの波面収差特性。(A) 入射角 0.0度 (B) 入射角 4.0度
【図21】実施例9:請求項3の高屈折率ガラスを用いたトリプレットレンズの形状と入射角4度(点線)の光路図。
【図22】実施例10:請求項3の高屈折率ガラスを用いたトリプレットレンズの形状と入射角4度(点線)の光路図。
【図23】実施例11:請求項3の高屈折率ガラスを用いたトリプレットレンズの形状と入射角4度(点線)の光路図。
【図24】実施例12:請求項3の高屈折率ガラスを用いたトリプレットレンズの形状と入射角4度(点線)の光路図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
請求項1に記載された発明について、以下に表と図を用いて詳細に説明する。
(1)2枚構成レンズ
請求項1において、条件(1)と条件(2)を共に満たす場合の実施例を示す。
【0031】
実施例1:実施例1の第1レンズは請求項1に記載されたAレンズに、実施例1の第2レンズは請求項1に記載されたBレンズにそれぞれ相当する。本実施例は、屈折率は大きくないものの、アッベ数の差が大きく、部分分散比が一致した異常分散ガラスの組み合わせを用いて、焦点距離9.97mmの色消しレンズを設計したものである。レンズ材料は、Aレンズにオハラ社のS−FPL51Y、BレンズにS−NBM51を用いた。このレンズ面の曲率半径、レンズの厚さ、波長0.98μm、1.31μm、1.55μmにおける屈折率、波長1.31μmにおけるアッベ数ν1.31、波長0.98μmから波長1.55μmの領域における部分分散比θ1.31などのレンズデータは表1の通りである。設計例ではレンズの第3面を平面にしても良好な結像性能が得られる。
【0032】
【表1】

【0033】
表1から分かるように、実施例1のレンズは条件(1)、(2)を満たしていて、請求項2の条件(4)は満たしていない。このレンズの色消し特性を焦点移動量として評価した結果、1.0μmから1.6μmの波長変化に対する焦点位置の変動は1μm以下であり、ほぼ完全な色消しが実現できている。しかしながら、1.0μm以下の波長では色消し特性が急激に劣化する。
【0034】
入射ビーム径を2.4mm、入射角を1.0度とした時の光路図とレンズ形状を図1に示す。以下の説明に用いるレンズ形状と光路を示す図において、図中の符号1ないし3は第1レンズないし第3レンズである。また、符号(1)ないし(4)は面番号1ないし4を意味する。レンズ形状の白抜きの部分はAレンズ、ハッチ部分はBレンズである。以後、レンズの図面について上記のレンズ番号と面番号の記載を用いる。
【0035】
入射ビーム径2.4mm、入射角2.0度までのビームに対する総合波面収差特性を表2に示す。総合波面収差の値は複数の光線から構成される光束全体についての光路差(OPD)の2乗平均の平方根(rms値)である。以後、全ての総合波面収差特性の表について、波面収差の大きさは波長を単位とするrms値で表わす。
【0036】
【表2】

【0037】
表2を見ると、設計した色消しレンズは入射角1.0度までは回折限界の性能を示すが、入射角が2.0度になると波面収差がλ/10(rms)をわずかに超えることが分かる。入射角が1.0度の時の幾何光学的なスポット径は2.2μm(rms)で、回折限界の目安とされるエアリ・リングの半径(7μm)よりも十分小さい。この結果から、このレンズは、入射角が大きく変化しない場合に1.0μmから1.6μmの幅広い波長域で色消しの性能が必要な用途に適している。
【0038】
実施例2:請求項1に示した条件(1)、(3)を満たすように、オハラ社の高屈折率ガラスの組み合わせを用いて設計した色消しダブレットレンズについて説明する。ガラス材料は、第1レンズにS−LAH58、第2レンズにS−NPH2を使用した。また、このレンズのレンズデータは表3の通りである。この実施例では、請求項2の条件(2)、(4)を満たしていない。
【0039】
【表3】

【0040】
このレンズデータをもとに直径6mmのレンズを製作した結果、焦点距離は11.03mmとなった。レンズ形状と、レーザ光の入射ビーム径が2.4mm、入射角が1.0度の場合の光路を図2に示す。このレンズは、1.55μmと1.31μmの2つの波長における結像性能を重視して設計したもので、レンズ全体のベンディングを大きくして色消し特性の良好な波長帯を上記2波長の中間になるように調整している。このため、短波長帯における結像性能が劣化している。
【0041】
波長が0.9μmから1.9μmまで変化した時の焦点位置の変化を図3に示す。波長1.55μmと波長1.31μmの焦点位置は同一で、波長1.0μmから波長1.9μmの間では焦点の移動距離は20μm以下であり、完全ではないもののレーザ結像光学系として使用可能な色消し性能を示している。波長1.4μm以上では、通常のレンズとは逆の色収差を持つため、通常のレンズと組み合わせて光学系全体の色収差を補正するために用いることができる。
【0042】
実施例2のレンズの波面収差特性を図4に示す。実線が波長1.064μm、点線が波長1.31μm、一点鎖線が波長1.55μmを示している。縦軸スケールの最大・最小は±0.2波長とし、縦軸には子午面(メリジオナル)及び球欠面(サジタル)の入射光線について光路差OPD(M)とOPD(S)を、横軸はレンズへの光線入射高(H)を示している。図4(A)が軸上入射光線、図4(B)が入射角1.0度の光線に対する波面収差である。波長1.31μm及び1.55μmに対するOPDの最大値はλ/20以下で、回折限界の結像性能を有している。また、1.064μmでもOPDの最大値はλ/5以下である。なお、以後の波面収差特性の図は上記の表示法による。
【0043】
入射角1.0度までのビームについて入射角に対する実施例2のレンズの総合波面収差(rms値)を計算した結果を表4に示す。
【0044】
【表4】

【0045】
波長1.064μmについては、目標とするλ/10(rms)の波面精度を超えているが、波長1.3μmと1.55μmについてはλ/20(rms)以下の良好な性能を有している。また、幾何光学的なスポット径は全ての波長、入射角において2.0μm(rms)以下である。本実施例では、波長1.31μmと1.55μmの色収差を除去することを優先したため、短波長(1.06μm)において結像性能が劣化した。この原因は実施例1とは異なりガラス材料の部分分散比の差が大きいためである。また、入射角が1.0度よりも大きくなると波面収差特性が急激に悪化する。この理由は、レンズ全体のベンディングが大きいことと、2種類のガラス材の屈折率差が小さく、貼り合わせ面が収差補正にあまり寄与していないためである。このため、本実施例のレンズは光ファイバカップラ等の入射角変動の少ない用途に適している。
【0046】
アッベ数の差Δνの大きなオハラ社の高屈折ガラス材料を用いて、入射角2.0度、直径2.4mmの入射ビームについて球面収差、コマ、非点収差を完全に補正する条件で、色収差特性の変化を比較検討した結果を以下に示す。レンズの焦点距離は全て10mmである。
【0047】
実施例3:第1のガラス材として、アッベ数が大きく、異常分散性の強いS−PHM52を、第2のガラス材としてアッベ数が小さく屈折率が大きいS−NPH1を選択して設計した場合のレンズデータを表5に示す。この実施例では、請求項1の条件(1)、(3)を満たすものの、請求項2の条件(4)、(5)は満たしていない。
【0048】
【表5】

【0049】
実施例3のレンズ形状と直径2.4mm、入射角2.0度の光路図を図5に示す。
【0050】
実施例3のレンズの波面収差特性を図6に示す。部分分散比の差がΔθ=0.041と大きいものの、屈折率差がΔn1.31=0.16、アッベ数の差がΔν=37.1と共に大きいため、球面収差、コマ、非点収差を全て補正した場合でも、入射角1.0度に対する波面収差が全ての波長についてλ/10以下になっている。但し、入射角が2.0度の場合には、短波長側の特性が劣化する。
【0051】
実施例3のレンズについて、2.0度までの入射角のビーム対して総合波面収差を3つの波長について計算した結果を表6に示す。
【0052】
【表6】

【0053】
入射角0.0度から2.0度、波長0.98μmから1.55μmのすべての組み合わせについてλ/10(rms)以下の条件を満足しているが、入射角が2.0度を超えると総合波面収差はλ/10(rms)を超える。入射角2.0度の場合の幾何光学的なスポット径は1.1μm、波長1.0μmから1.6μについて焦点位置の変化は33μmである。
【0054】
「2枚構成レンズの比較例」
比較例1:実施例3と比較するために、請求項1の条件を外れた設計例について説明する。アッベ数の差が条件(1)を満たさない場合として、実施例3の第1のガラス材をアッベ数の小さいS−LAL8に変更した場合の設計結果のレンズデータを表7に示す。
【0055】
【表7】

【0056】
比較例1のレンズ形状と直径径2.4mm、入射角2.0度の光路図を図7に示す。
【0057】
比較例1のレンズの波面収差特性を図8に示す。この設計例ではレンズ材料の部分分散比の差がΔθ1.31=0.049と大きく、屈折率、アッベ数の差がΔn1.31=0.07、Δν1.31=19.2と共に小さいため、波長1.31μmで球面収差、コマ、非点収差を補正すると、短波長側と長波長側で色収差が大きくなり、入射高が大きい光線について波面収差が増加する。
【0058】
比較例1のレンズの入射角2.0までの入射ビームに対する総合波面収差特性を3つの波長について表8に示す。
【0059】
【表8】

【0060】
比較例1のレンズは、実施例3の特性(表6)に比べて収差が大きく、短波長域で入射角が2.0度を超えるとλ/10(rms)以下の条件を満足していない。入射角2.0度の場合の幾何光学的なスポット径は2.0μm(rms)、波長1.0μmから1.6μについて焦点位置の変化は72μmであり、単一波長(たとえば1.31μmの近傍)であれば回折限界の結像レンズとして使用できる。
【0061】
比較例2:赤外波長帯のレーザ結像用に市販されているレンズと同一のガラス材(ショット社)を用いた設計例を示す。Aレンズの材料としてLANK22、Bレンズの材料としてSFL6を用いた場合の球面収差、コマ、非点収差を補正した時の設計結果のレンズデータを表9に示す。
【0062】
【表9】

【0063】
比較例2のレンズでは、アッベ数がν1.31(2)=57.5と大きく、アッベ数ν1.31の比が1.358と条件(3)の1.40よりも小さくなるため、波長1.31μmにおいて球面収差、コマ、非点収差を補正すると、大きな色収差が発生する。逆に、色収差の補正を優先させると、コマ、非点収差が残ってしまう。
【0064】
比較例2のレンズ形状と、直径2.4mm、入射角2.0度の光路図を図9に示す。また、波面収差特性を図10に示す。
【0065】
比較例2のレンズの入射角2.0度までの入射ビームに対する総合波面収差特性を3つの波長について表10に示す。
【0066】
【表10】

【0067】
比較例2のレンズの収差特性は比較例1の収差特性(表8)とよく似ているが、比較例1よりも短波長域での結像性能が大きく劣化している。入射角2.0度の場合の幾何光学的なスポット径は2.5μm(rms)、波長1.0μmから1.6μについて焦点位置の変化は74μmである。
【0068】
以上の貼り合わせ2枚構成の色消しレンズについての比較(実施例3と比較例1及び2の対比)から、ダブレットレンズについては2つのガラス材のアッベ数の差は少なくとも27.0以上で有るとともにアッベ数の比が1.40以上であることが、目的とする波長1.0μmから1.6μmまでの波長帯において総合波面収差をλ/10(rms)以下にするための条件であることがわかる。
【0069】
(2)3枚構成レンズ
請求項1に記載された張り合わせ3枚構成の色消しレンズの発明について表と図を用いて詳細に説明をする。
【0070】
実施例4:請求項1の条件(1)、(2)を満たす3枚の貼り合わせ対称構成の色消しレンズについて、請求項3の条件を満たさない場合について説明する。
【0071】
条件(2)は、部分分散比がほぼ同一であることを意味し、広い波長帯の色消しに必要な条件である。また、3枚構成により入射角の大きな光線に対しても回折限界の性能を維持することができる。オハラ社のレンズ材料から3枚構成の中心に位置するAレンズにS−FPL51,Aレンズの両面に位置するBレンズにS−NBM51を用いた場合の設計結果のレンズデータを表11に示す。この場合、部分分散比は一致しているものの、Bレンズの材料2の波長1.31μmでの屈折率n1.31が1.5934と比較的小さく、請求項3の条件(6)を満たしていない。
【0072】
【表11】

【0073】
実施例4のレンズの形状と、入射ビーム直径を2.4mm、入射角を4.0度とし、入射瞳を前側焦点位置に設定した時の光路図を図11に示す。レンズ直径は5.0mmである。
【0074】
実施例4のレンズの1.0μmから2.2μmの波長変化に対する焦点位置のシフト量は1μm以下であり、ほぼ完全な色消しが実現できている。但し、1.0μmより短い波長では色消し特性が急激に劣化する。ビーム径2.4mmのビームについて入射角の変化に対する実施例4のレンズの波面収差特性を図12、総合波面収差特性を表12に示す。
【0075】
【表12】

【0076】
実施例5:請求項1の条件(1)、(3)を満たし、請求項3の条件を満たさない、高屈折率のガラス材(Aレンズにオハラ社のS−LAM3、BレンズにS−NPH1)を用いた3枚の貼り合わせ対称構成の色消しレンズの設計結果のレンズデータを表13に示す。この場合、2つのガラス材の屈折率の差が小さいので請求項3の条件(7)を満たしていない。
【0077】
【表13】

【0078】
実施例5のレンズの形状と、入射角4.0度の光路図を図13に示す。レンズ直径は5.0mmである。
【0079】
口径2.4mmのビームを入射した時の実施例5のレンズの波面収差特性を図14、総合波面収差特性を表14に示す。
【0080】
【表14】

【0081】
表14を見ると、短波長帯の性能は若干低下するものの、部分分散比の差が小さい高屈折率ガラスの組み合わせによる対称構成トリプレット構成により、入射角4.0度においても回折限界に近い性能を持った広帯域の色消しレンズが実現できる。但し、色消し特性は、実施例4の方が良好である。また、実施例4及び5に共通した性質として、レンズの厚さが焦点距離よりも大きくなっており、大口径あるいは長焦点距離のレンズには適さない。このため、接眼レンズやコリメータレンズ等の用途に適している。
【0082】
次に請求項2に対応した、異常分散ガラスの組み合わせによる実施例を示す。
【0083】
実施例6:請求項2の条件に従ってショット社の異常分散ガラス、N−PK51,KZFSN5を用いて設計した色消しレンズのレンズデータを示す。レンズ面の曲率半径、レンズの厚さ、ガラス材料、波長1.31μmにおける屈折率、アッベ数などのレンズデータは表15の通りである。
【0084】
【表15】

【0085】
表15の設計値により直径5.0mmのレンズを製作した結果、焦点距離は9.88mmとなった。このレンズの形状と、レーザ光の入射ビーム径が2.4mm、入射角が1.0度の場合の光路図を図15に示す。
【0086】
実施例6のレンズについて、波長を0.7μmから1.7μmまで変化させた時の焦点位置の変化を図16に示す。波長0.8μmから1.6μmの範囲で焦点位置の変化量が0.5μm以下であり、ほぼ完全な色消し特性が実現できている。ダブレットレンズでは、条件(2)を満たさない請求項1の実施例2の焦点位置の変化量を示す図3の特性と比べると、請求項2の条件(2)をみたすことで、さらに高性能の色消し特性を有するダブレットレンズが実現できることが分かる。
【0087】
実施例6のレンズの波面収差特性を図17に示す。コマが若干残っているものの、全ての波長及び1.0度までの入射角においてλ/10以下の波面収差特性を示している。
【0088】
ビーム径2.4mm、入射角1.0までのビームについて実施例6のレンズの総合波面収差特性を計算した結果を、3つの波長について表16に示す。
【0089】
【表16】

【0090】
入射角が1.0度以下であれば、すべての波長において波面精度がλ/30(rms)以下であり、回折限界の性能を満足している。しかしながら、このレンズは光線の入射角が大きくなるに従って急激に収差が増大し、入射角が2.0度を超えると回折限界の結像にならない。幾何光学的なスポット径は全ての波長、入射角1.0度以下において1.2μm(rms)以下である。
【0091】
上記の設計結果と同等な性能を有するレンズは、ショット社のガラス材料の次の組み合わせでも実現できる。
(1)PK52とKZFS4あるいはKZFS11の組み合わせ
(2)FK51とKZFS4あるいはKZFSN4の組み合わせ
【0092】
実施例7:これらのうち(1)の組み合わせ(PK52とKZFS4)を用いて設計した場合のレンズデータを表17に示す
【0093】
【表17】

【0094】
口径2.4mm、入射角1.0度未満の場合のビームについて実施例7のレンズの総合波面収差は、3波長全てについてλ/20(rms)以下である。また、1.0μmから1.6μmの波長に対する焦点位置の変化は1μm以下、幾何光学的なスポット径は1.6μm(rms)である。実施例6及び7の焦点位置の変化量を、実施例2のレンズの特性(図3)と比べると色消し性能は格段に向上していることが分かる。しかしながら、回折限界の結像性能を維持できる入射角は1.0度程度までである。
【0095】
次に請求項3に対応する実施例を説明する。
【0096】
実施例8:請求項3の条件により、第1レンズと第3レンズが同一形状、同一ガラス材である完全対称構成の色消しトリプレットレンズをオハラ社の高屈折率ガラスを用いて設計した実施例を示す。ガラス材料は、Bレンズである第1レンズ及び第3レンズにS−NPH2,Aレンズである第2レンズにS−LAM3を使用した。設計結果である、レンズ面の曲率半径、レンズの厚さ、波長1.31μmにおける屈折率、アッベ数などのレンズデータは表18の通りである。
【0097】
【表18】

【0098】
実施例8の色消しトリプレットレンズの形状と、入射ビーム径が2.4mm、入射角が4.0度の場合の光路を図18に示す。焦点距離は10.08mmである。本レンズデータでは、直径2.4mmの入社瞳の位置をレンズ前面ではなく、レンズの前側焦点位置に設定している。
【0099】
実施例8のレンズで、波長を0.8μmから1.8μmまで変化させた時の焦点位置の変化を図19に示す。波長1.0μm以上で焦点位置の変化量が20μm以下であり、良好な色消し性能が実現できている。
【0100】
波長1.064μm(実線)、1.31μm(鎖線)、1.55μm(一点鎖線)、における波面収差特性を図20に示す。
【0101】
3つの波長について実施例8のレンズの総合波面収差特性を波長を単位として表19に示す。
【0102】
【表19】

【0103】
実施例8の色消しトリプレットでは、すべての波長及び入射角において総合波面収差がλ/10(rms)以下であり、回折限界の性能を満足している。また、幾何光学的なスポット径は全ての波長、入射角において1.5μm(rms)以下である。
【0104】
表18に示すオハラ社のBレンズにS-NPH2、Aレンズにオハラ社のS-LAM3を組み合わせた実施例8と同等な性能を有するレンズは、次の組み合わせでも実現できる。
【0105】
実施例9:Bレンズにオハラ社のS-NPH2、Aレンズにオハラ社のS-PHM52を組み合わせた場合の設計結果のレンズデータを表20に示す。
【0106】
【表20】

【0107】
実施例9のレンズに口径2.4mm、入射角4.0度のビームを入射した場合の総合波面収差は3波長全てについて0.098λ(rms)以下である。また、1.0μmから1.6μmの波長に対する焦点位置の変化は17μm以下、幾何光学的なスポット径は1.9μm(rms)である。レンズ形状と入射角4度の光路図を図21に示す。レンズ直径は6.0mmである。
【0108】
実施例10:ガラス材料として、Bレンズにオハラ社S-NPH2、Aレンズにオハラ社S−LAL58を組み合わせた場合の設計結果のレンズデータを表21に示す。
【0109】
【表21】

【0110】
このレンズに口径2.4mm、入射角4.0度のビームを入射した場合の総合波面収差は3波長について0.09λ(rms)以下である。また、1.0μmから1.6μmの波長に対する焦点位置の変化は17μm以下、幾何光学的なスポット径は1.8μm(rms)以下である。レンズ直径は6.0mmである。レンズ形状と入射角4度の光路図を図22に示す。
【0111】
実施例11:ガラス材料として、Bレンズにオハラ社のS−NPH2、Aレンズにオハラ社のS−LAM2の組み合わせた場合の設計結果のレンズデータを表22に示す。
【0112】
【表22】

【0113】
口径2.4mm、入射角4.0度のビームについての実施例11のレンズの総合波面収差は3波長について0.08λ(rms)以下である。また、1.0μmから1.6μmの波長に対する焦点位置の変化は17μm以下、幾何光学的なスポット径は1.6μm(rms)である。レンズ直径は6.0mmである。レンズ形状と入射角4度の光路図を図23に示す。
【0114】
実施例12:Bレンズにオハラ社のS−NPH1、Aレンズにオハラ社のS−PHM52を組み合わせた場合の設計結果のレンズデータを表23に示す。
【0115】
【表23】

【0116】
口径2.4mm、入射角4.0度の場合の実施例12のレンズの総合波面収差は3波長について0.11λ(rms)以下である。また、1.0μmから1.6μmの波長に対する焦点位置の変化は15μm以下、幾何光学的なスポット径は2.3μm(rms)である。実施例12のレンズのレンズ直径は5.0mmである。レンズ形状と入射角4度の光路図を図24に示す。
【0117】
以上の実施例から、請求項3に記載された条件を満たすガラス材料の組み合わせを用いることにより、単純な対称構成の貼り合わせトリプレットレンズで、広い波長帯において大きな入射角に対しても回折限界の結像性能を持ったレンズが、複数のガラス材料の組み合わせについても実現できることがわかった。この構成により、NAが0.12程度のシングルモードファイバの結合に適した広波長帯の結像レンズが設計できる。しかしながら、レンズ全体の厚さが焦点距離と同程度となっており、焦点距離の長い、あるいは大口径のレンズには適していない。これの用途には、請求項2のレンズが適当である。
【産業上の利用可能性】
【0118】
以上の実施例により、従来は数枚の特殊なレンズ構成を要した回折限界の色消し結像光学系が、貼合わせ構成の単一のレンズで実現できることが明らかになった。1μmより長い波長のレンズは用途が限られているため高価なことが多いが、本実施例に示した設計結果を採用することにより、市販されているレンズ材料を用いてレーザ結像用の光学系を安価に製造することができる。また、本発明は光無線通信だけでなく、波長1.0μmから1.6μm、あるいは実施例によっては0.8μmから2.2μmまでの波長帯において回折限界の結像を目的とする多種多様なレーザ結像光学系においても有用であり、赤外レーザを利用した産業の発展に寄与すると期待される。
【符号の説明】
【0119】
1 第1レンズ
2 第2レンズ
3 第3レンズ
(1)第1面
(2)第2面
(3)第3面
(4)第4面
A Aレンズ
B Bレンズ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長1.0μmから1.6μmまでの波長帯において開口数が0.2未満の入射光について、波長に因らず同一の焦点位置で回折限界の結像を得ることを目的とした、第1の材料からなる正の屈折力を有するAレンズと第2の材料からなる負の屈折力を有するBレンズを貼り合わせた2枚構成の、または前記Aレンズの両面に前記Bレンズを貼り合わせた3枚構成の、次の条件(1)及び条件(2)若しくは条件(3)を満足することを特徴とするレーザ光結像用の色消しレンズ。
(1)波長1.31μmにおける屈折率をn1.31、波長1.55μmにおける屈折率をn1.55、波長0.98μmにおける屈折率をn0.98とし、波長1.31μmを基準とする色分散の大きさを示すアッベ数ν1.31を、
【数1】

で定義したとき、前記第1の材料のアッベ数ν1.31(1)と前記第2の材料のアッベ数ν1.31(2)の差が次式
【数2】

の範囲である。
(2)部分分散比θ1.31
【数3】

で定義したとき、前記第1の材料の部分分散比θ1.31(1)と前記第2の材料の部分分散比θ1.31(2)の差の絶対値|Δθ1.31|が次式
【数4】

の範囲であり、前記第1の材料の波長1.31μmでの屈折率n1.31(1)が次式
【数5】

の範囲である。
(3)前記第1の材料のアッベ数ν1.31(1)と、前記第2の材料のアッベ数ν1.31(2)の比が次式
【数6】

の範囲であり、前記第2の材料の波長1.31μmでの屈折率n1.31(2)が
【数7】

の範囲である。
【請求項2】
請求項1に記載されたレーザ光結像用の色消しレンズにおいて、前記レーザ光結像用の色消しレンズは前記Aレンズと前記Bレンズを貼り合わせた2枚構成であり、前記の条件(2)及び次の条件(4)、(5)を満足する事を特徴とする。
(4)前記第1の材料の前記アッベ数ν1.31(1)と前記第2の材料の前記アッベ数ν1.31(2)の差が次式
【数8】

の範囲である。
(5)前記第2の材料の前記屈折率n1.31(2)と前記第1の材料の屈折率Δn1.31(1)の差が次式
【数9】

の範囲である。
【請求項3】
請求項1に記載されたレーザ光結像用の色消しレンズにおいて、前記レーザ光結像用の色消しレンズは前記Aレンズの両面に前記Bレンズを貼り合わせたレンズの形状が光軸方向に対称な3枚構成であり、前記の条件(3)および、次の条件(6)および(7)を満足することを特徴とする。
(6)前記第2の材料の前記屈折率n1.31(2)が次式
【数10】

の範囲である。
(7)前記第2の材料の前記屈折率n1.31(2)と前記第1の材料の前記屈折率n1.31(1)の差が次式
【数11】

の範囲である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2012−103351(P2012−103351A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250015(P2010−250015)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】