説明

レーザ光透過性樹脂部材およびそれを用いた樹脂成形品

【課題】見栄えが良く、経年後の変色を隠蔽可能で、かつ、レーザ溶着後の溶着状態の良否判断が容易なレーザ光透過性樹脂部材を提供する。
【解決手段】出口通路キャップ12は、レーザ溶着用のレーザ光透過性樹脂部材であって、マンセル表色系において、明度をV、彩度をC、色相環を100分割し色相10RPを「0」または「100」とした場合の色相をHとしたとき、「V≦0.229H+3.714、V≦−0.8H+24、V≧3」、かつ、「C≦−0.075H2+1.936H+1.267、C≧2」の関係を満たす色を呈するように着色されている。かつ、出口通路キャップ12のうち、レーザ溶着される部位である溶着部122は、波長800nm以上のレーザ光に対する透過率が15%以上となるように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ溶着用の樹脂部材に関し、特にレーザ光に対して透過性を有する樹脂部材およびそれを用いた樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂で形成された部材同士を接合する方法として、レーザ光により樹脂部材同士を溶着して接合する方法が知られている。この方法では、まず、レーザ光に対し透過性を有するレーザ光透過性樹脂部材と黒色等の濃色に着色されレーザ光に対し吸収性を有するレーザ光吸収性樹脂部材とを当接し、レーザ光透過性樹脂部材側からレーザ光を照射する。これにより、レーザ光透過性樹脂部材を透過したレーザ光がレーザ光吸収性樹脂部材に吸収されて発熱し、両部材の当接面近傍が溶融する。この状態でレーザ光の照射を停止すると、両部材の溶融した箇所は、温度が下がり固化する。その結果、両部材が溶着した樹脂成形品を得ることができる。
【0003】
ところで、樹脂で形成された部材は、使用される環境に依っては経年後に変色することがある。例えば、ポリアミド系の樹脂により形成された無色の樹脂部材は、高温の環境下で使用されると黄色〜茶色に変色し易く、見栄えが著しく低下することがある。そこで、特許文献1に記載された技術では、予めレーザ光透過性樹脂部材を標準色価のY値(明度)が低くなるような濃色(Y<30、Y<20またはY<10)に着色しておくことで、レーザ光透過性樹脂部材の変色の隠蔽を図っている。
【0004】
また、樹脂で形成される部材には、その製造工程において、カーボンダスト等の不純物が混入することがある。このような不純物を含んだレーザ光透過性樹脂部材を用いてレーザ溶着を行った場合、不純物はレーザ光のエネルギーを吸収し発熱する。これにより、不純物の周囲が炭化し、レーザ光透過性樹脂部材の表面あるいは内部に黒点が生じる。レーザ光透過性樹脂部材に黒点が生じると、レーザ光の一部が黒点に遮られることによりレーザ光のエネルギーがレーザ光吸収性樹脂部材に十分に到達せず、両部材の不十分な溶着を招く結果となる。そのため、レーザ溶着後に、例えば黒点の発生個数あるいは大きさ等を確認すれば、両部材が十分に溶着されたか否かを判断することが可能である。
【0005】
例えば、レーザ光透過性樹脂部材とレーザ光吸収性樹脂部材とを当接することにより両部材の間に容積室を形成し、この容積室に高い気密性または液密性を要求する場合、両部材は、当接面において十分に、かつ、気密または液密に溶着されている必要がある。そのため、レーザ溶着後に黒点の発生状況を確認し、両部材が十分に溶着されたか否かを判断することが重要である。
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されたレーザ光透過性樹脂部材は、上述のように明度の低い濃色に着色されているため、レーザ溶着後の黒点の発生状況を確認するのは難しい。そのため、このようなレーザ光透過性樹脂部材をレーザ溶着に用いた場合、十分な溶着がなされていない樹脂成形品を、不良品として検出することが困難となる。
【特許文献1】特表2003−517075号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、見栄えが良く、経年後の変色を隠蔽可能で、かつ、レーザ溶着後の溶着状態の良否判断が容易なレーザ光透過性樹脂部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、レーザ溶着用のレーザ光透過性樹脂部材であって、マンセル表色系(JISZ8721)において、明度をV、彩度をC、色相環を100分割し色相10RPを「0」または「100」とした場合の色相をHとしたとき、「V≦0.229H+3.714、V≦−0.8H+24、V≧3」、かつ、「C≦−0.075H2+1.936H+1.267、C≧2」の関係を満たす色を呈するように着色されている。かつ、レーザ光透過性樹脂部材のうち、レーザ溶着される部位は、波長800nm以上のレーザ光に対する透過率が15%以上となるように形成されている。これにより、波長が800nm以上のレーザ光を用いることでレーザ溶着が可能となる。
【0009】
本発明のレーザ光透過性樹脂部材は、上記の関係を満たす色、すなわち所定値以上の明度および彩度を示す茶系の色で着色されている。そのため、レーザ光透過性樹脂部材の見栄えを良くすることができる。また、レーザ光透過性樹脂部材は、初期状態において茶系の色で着色されていることにより、経年後に変色したとしても、この変色を隠蔽することができる。そのため、レーザ光透過性樹脂部材の使用中あるいは使用後においても、良好な美観を保つことができる。
【0010】
上記「背景技術」の欄で説明したように、樹脂で形成される部材にはカーボンダスト等の不純物が混入していることがあり、このような不純物を含むレーザ光透過性樹脂部材をレーザ溶着に用いた場合、レーザ光透過性樹脂部材に黒点が生じることがある。本発明のレーザ光透過性樹脂部材は、上記の関係を満たす色、すなわち明度Vが3以上かつ彩度Cが2以上を示す色で着色されている。これにより、レーザ光透過性樹脂部材の表面あるいは内部に明度および彩度の低い黒点が生じたとしても、この黒点を容易に発見できるとともに、黒点の発生状況を容易に確認することができる。したがって、レーザ光透過性樹脂部材のレーザ溶着後における溶着状態の良否を容易に判断することができる。なお、本発明のレーザ光透過性樹脂部材を用いてレーザ溶着により樹脂成形品を形成し、これを製品として製造する場合、十分な溶着がなされていない樹脂成形品を不良品として容易に検出することができる。そのため、製造される製品から不良品を容易に排除でき、品質の高い製品を安定して市場に供給することが可能となる。
【0011】
請求項2記載の発明では、レーザ光透過性樹脂部材は、ポリアミド系の樹脂により形成されている。一般に、ポリアミド系の樹脂により形成された樹脂部材は、高温の環境下等で使用されると黄色〜茶色に変色し易いのは上述の通りである。本発明では、レーザ光透過性樹脂部材は、初期状態において茶系の色で着色されている。そのため、レーザ光透過性樹脂部材が、例えば高温の環境下で使用され、経年後に黄色〜茶色に変色したとしても、この変色を効果的に隠蔽することができる。つまり、本発明は、レーザ光透過性樹脂部材がポリアミド系の樹脂で形成されている場合、変色の隠蔽効果をより高いものとすることができる。
【0012】
請求項3記載の発明では、レーザ光透過性樹脂部材のうち、レーザ溶着される部位は、厚みが2.5mm以下に設定されている。これにより、レーザ光透過性樹脂部材の内部に黒点が生じたとしても、この黒点をより容易に発見することができる。
請求項4記載の発明は、上記請求項1〜3のいずれか一項に記載のレーザ光透過性樹脂部材と所定の波長のレーザ光を吸収可能なレーザ光吸収性樹脂部材とからなる樹脂成形品の発明である。レーザ光吸収性樹脂部材は、レーザ光透過性樹脂部材のレーザ溶着される部位に当接する当接面を有し、レーザ光透過性樹脂部材を透過したレーザ光を吸収して発熱することにより、前記当接面においてレーザ光透過性樹脂部材と溶着するものである。
【0013】
本発明の樹脂成形品は、請求項1〜3のいずれか一項に記載のレーザ光透過性樹脂部材を用いることから、当該レーザ光透過性樹脂部材において、上述した請求項1〜3記載の発明と同様の効果を奏する。すなわち、樹脂成形品を構成するレーザ光吸収性樹脂部材は、見栄えが良く、経年後に変色したとしてもこの変色を隠蔽可能である。さらに、当該レーザ光吸収性樹脂部材を用いれば、レーザ溶着後に溶着状態の良否を容易に判断することができる。したがって、本発明の樹脂成形品を製品として製造する場合、製造される製品から不良品を容易に排除でき、品質の高い製品を安定して市場に供給することができる。
【0014】
請求項5記載の発明では、レーザ光透過性樹脂部材は、レーザ光吸収性樹脂部材との当接面においてレーザ光吸収性樹脂部材に気密または液密に溶着している。また、レーザ光透過性樹脂部材は、レーザ光吸収性樹脂部材との間に、所定の容積をもつ容積室を形成している。本発明の樹脂成形品に用いられるレーザ光透過性樹脂部材は、上記請求項1〜3のいずれか一項に記載のレーザ光透過性樹脂部材である。そのため、レーザ光透過性樹脂部材とレーザ光吸収性樹脂部材とをレーザ溶着した後の溶着状態について、十分に溶着がなされたか否かを容易に判断することができる。これにより、レーザ光透過性樹脂部材とレーザ光吸収性樹脂部材とが十分に、かつ、気密または液密に溶着された樹脂成形品のみを製品等とすることが容易となる。したがって、樹脂成形品に形成される容積室に対し高い気密性または液密性が要求される場合であっても、この要求を満足することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図に基づいて説明する。
(一実施形態)
本発明の一実施形態によるレーザ透過性樹脂部材を出口通路キャップとして、樹脂成形品としてのパージバルブに適用したものを図1に示す。
図2に示すように、自動車には、燃料タンク3で気化した燃料を吸着して保持するキャニスタ4が設けられている。このキャニスタ4は、大気導入通路5を介して大気を導入可能に設けられている。また、キャニスタ4は、パージ通路6を介して吸気管7の負圧発生部分となるスロットルバルブ8の下流に接続されている。そして、エンジンの運転中に、大気導入通路5に設けられた弁9を開いて、外部からフィルタ11を通してキャニスタ4内に空気を導入するとともに、パージ通路6に設けられたパージバルブ1を開いて、キャニスタ4内に保持された気化燃料をフィルタ10を通して吸気管7へ導く。
【0016】
次に、図1を参照してパージバルブ1の説明をする。パージバルブ1は、通電されるとパージ通路6の上流と下流とを連通させる常閉型の電磁弁であり、流体制御弁として機能する。以下、パージバルブ1の説明では便宜上、図1の上側を上、図1の下側を下として説明する。
パージバルブ1は、パージ通路6の吸気管側に接続される流出ポート13が形成された出口通路キャップ12と、流出ポート13に通じる弁口14を開閉する弁体15と、パージ通路6のキャニスタ4側に接続される流入ポート17が形成されるハウジング16に覆われて弁体15を駆動して弁口14を開閉させる電磁アクチュエータ2等からなる。
【0017】
出口通路キャップ12とハウジング16との間には、流入ポート17と連通し、容積室を成す空間としてのチャンバ18が形成されている。出口通路キャップ12、ハウジング16、および出口通路キャップ12とハウジング16との接合については、後に詳述する。チャンバ18内まで延びて形成された流出ポート13の端部となる弁口14は、電磁アクチュエータ2の可動子としてのムービングコア22に取り付けられたゴム製の弁体15によって開閉される。即ち、流出ポート13の下部が弁口14を成し、弁体15が弁口14に着座することでパージ通路6の連通が遮断され、弁体15が弁口14から離座することでパージ通路6が連通される。
【0018】
チャンバ18の内部には、フィルタ19が取り付けられており、流入ポート17からチャンバ18内に流入した気体燃料は、フィルタ19を通過して弁口14へ導かれるようになっている。
電磁アクチュエータ2は、弁体15が取り付けられたムービングコア22の他に、このムービングコア22を弁体15が弁口14に着座する方向に付勢するリターンスプリング23と、このリターンスプリング23の付勢力に抗してムービングコア22を開弁方向へ磁気吸引するソレノイド24とを備える。
【0019】
ムービングコア22は、上端に弁体15が取り付けられたカップ形状の可動子であり、例えば鉄などの磁性体金属よりなる。
リターンスプリング23は、ムービングコア22を閉弁方向へ付勢する圧縮コイルスプリングであり、一端がムービングコア22に当接し、他端がムービングコア22内に設けられたスプリング保持部27に当接する。
【0020】
スプリング保持部27は、弁体15のリフト量が所定量に達すると、スプリング保持部27の上端がムービングコア22内に挿入された弁体15に当接し、弁体15の最大リフト量を決定する。
ソレノイド24は、コイル25、ヨーク29、固定子としてのステータ30を備え、コネクタ20によって通電制御されるものであり、これらはソレノイド24のハウジング16を成す二次成形によって樹脂モールドされている。
【0021】
ステータ30は、略円筒形状で例えば鉄などの磁性体金属からなり、ステータ30の下部がヨーク29の下部と嵌合し、磁性リング31がヨーク29の上部と嵌合している。吸引部34とムービングコア22との軸方向間には磁気吸引ギャップ28が形成されている。
ヨーク29は、例えば鉄などの磁性体金属からなる。ヨーク29は、カップ状に形成された部材の側壁のうち対向する部位を切り欠いた略コ字状に形成されている。ヨーク29は、側壁がコイル25の外周側に位置するように設けられている。ヨーク29は、側壁が磁性リング31を介してステータ30の上部に接続し、下部すなわち底壁がステータ30の下部に接続している。
【0022】
コイル25は、両端部にフランジが形成された筒形状を呈する一次形成樹脂のボビンの周囲に、絶縁被覆が施されたエナメル線等からなる導線を多数巻回したもので、通電されると磁力を発生して、ムービングコア22、ヨーク29、ステータ30を通る磁束ループを形成させる。
コネクタ20は、パージバルブ1を開閉制御する図示しない電子制御装置と接続線を介して電気的な接続を行う接続手段であり、その内部には、コイル25の両端にそれぞれ接続されるコネクタ端子21が配置されている。このコネクタ端子21は、ハウジング16を成す二次成形により樹脂モールドされ、一端がボビンに差し込まれ、他端がコネクタ20内で露出する。
【0023】
なお、電子制御装置は、キャニスタ4内に保持された気化燃料の濃度を算出するとともに、エンジンの運転状態からパージバルブ1を開弁した際にパージ通路6を流れる流量を算出して、パージバルブ1を開弁した際に吸気管7に導かれるパージ燃料を算出するパージ燃料算出手段を備え、パージバルブ1を開弁した際に、インジェクタから噴射される燃料の噴射量を補正し、空燃比をエンジンの運転状態に適した目標空燃比に保つように設けられている。
【0024】
図1に示すように、ステータ30は、ムービングコア22の外周面を覆い軸方向へ摺動自在に支持する収容部32、収容部の上部に設けられる鍔状の磁性リング31、ムービングコア22を軸方向の一方向に吸引する吸引部34、及び収容部32と吸引部34との間で収容部よりも肉厚が薄く円筒状に形成された磁気絞り部33からなり一体に形成されている。
【0025】
次に、出口通路キャップ12、ハウジング16、および出口通路キャップ12とハウジング16との接合について、詳細に説明する。
出口通路キャップ12は、例えば熱可塑性を有するポリアミド系の樹脂により形成されている。出口通路キャップ12は、図1に示すように、略円筒状の流出ポート13から径外方向へ板状に拡がる蓋部121を有している。蓋部121の外縁部は、ハウジング16にレーザ溶着される部位である溶着部122として形成されている。溶着部122は、厚みがtとなるように形成されている。本実施形態では、tは2.5(mm)に設定されている。また、溶着部122は、ハウジング16に当接する当接面123を有している。
【0026】
ハウジング16は、出口通路キャップ12と同様、例えば熱可塑性を有するポリアミド系の樹脂により形成されている。ハウジング16には、電磁アクチュエータ2と反対側の端部に開口161が形成されている。ハウジング16には、開口161の外周側に、出口通路キャップ12にレーザ溶着される部位である溶着部162が形成されている。溶着部162は、蓋部121の当接面123に当接する当接面163を有している。このような構成により、蓋部121は、当接面123が当接面163に当接することによって、ハウジング16の開口161を塞いでいる。そして、当接面123と当接面163とは、レーザ溶着により溶着されている。
【0027】
出口通路キャップ12は、ポリアミド系の樹脂に例えば着色剤を含有させた状態で成形することにより、マンセル表色系において、明度をV、彩度をC、色相環を100分割し色相10RPを「0」または「100」とした場合の色相をH(図3参照)としたとき、「V≦0.229H+3.714、V≦−0.8H+24、V≧3(図4参照)」、かつ、「C≦−0.075H2+1.936H+1.267、C≧2(図5参照)」の関係を満たす色を呈するように着色されている。
【0028】
以下、上記関係を満たす色について詳しく説明する。
図3では、マンセル表色系における色相環を、便宜上、無彩色で示している。また、図3では、色相環を100分割し色相10RPを「0」または「100」とした場合の色相(H)の値を示している。例えば、この場合、色相(H)10、20、30、40、50、60、70、80、90は、それぞれ、マンセル表色系での色相10R、10YR、10Y、10GY、10G、10BG、10B、10PB、10Pに対応している。
【0029】
図4は、色相(H)を横軸に、明度(V)を縦軸にとり、HとVとの関係を示す複数の関係式「V≦0.229H+3.714、V≦−0.8H+24、V≧3」によって囲まれた範囲(格子状の破線で網掛けした範囲)により、出口通路キャップ12が着色され得る色の範囲を示したものである。
図5は、色相(H)を横軸に、彩度(C)を縦軸にとり、HとCとの関係を示す複数の関係式「C≦−0.075H2+1.936H+1.267、C≧2」によって囲まれた範囲(格子状の破線で網掛けした範囲)により、出口通路キャップ12が着色され得る色の範囲を示したものである。
【0030】
すなわち、出口通路キャップ12は、図4に網掛けで示した範囲、および図5に網掛けで示した範囲のどちらにも含まれる色相(H)を示す色で着色されるものである。「V≦0.229H+3.714、V≦−0.8H+24、V≧3」、かつ、「C≦−0.075H2+1.936H+1.267、C≧2」の関係を満たす色の色相は、図3に示すように、概ね色相10RP〜5Yの範囲に含まれる色相である。また、上記関係を満たす色は、視覚上、赤茶〜黄茶の茶系色を呈するものである。
【0031】
例えば、本実施形態の出口通路キャップ12が着色され得る色について、特定の色相における色の範囲を示すと図6の通りとなる。図6は、マンセル表色系での色相10R(色相(H)10)の等色相カラーチャートを示したものである。便宜上、図6では彩色していないが、実際の等色相カラーチャートでは、図6の太い実線で囲まれた各ブロックに対応する箇所が彩色されている。また、実際の等色相カラーチャートでは、各ブロックの色は、すべて同じ色相の色で彩色され、縦軸に明度段階をとり、横軸に彩度段階をとっている。
【0032】
本実施形態の出口通路キャップ12が着色される色が、色相10R(色相(H)10)であり、上記関係を満たすとき、
V≦0.229×10+3.714、V≦−0.8×10+24、V≧3、
および、
C≦−0.075×102+1.936×10+1.267、C≧2
から、
出口通路キャップ12が着色され得る色は、H(色相)=10で、3≦V(明度)≦6.004、かつ、2≦C(彩度)≦13.127の範囲内の色であることがわかる。この範囲は、図6において一点鎖線で囲んだ範囲で示される。よって、出口通路キャップ12は、色相10R(色相(H)10)の等色相カラーチャートにおいては、図6の一点鎖線で囲んだ範囲内のブロック(格子状の破線で網掛けしたブロック)に対応する色で着色され得る。これらのブロックの色は、実際の等色相カラーチャートでは、視覚上、茶色として示されるものである。
【0033】
なお、現実には明度および彩度に関し無段階の色が存在するため、上記格子状の破線で網掛けしたブロックの色以外でも、上記関係を満たす色(図6において一点鎖線で囲んだ範囲)であれば、本実施形態の出口通路キャップ12が着色され得る色として含まれるものとする。
また、出口通路キャップ12の色が上記関係を満たす色であるか否かは、出口通路キャップ12が可視光線(例えばCIE/ISOの基準光(色温度6504K))で照らされている状態等、所定の条件の下で、色彩計または分光測色計等によって、出口通路キャップ12の色を測定することにより判断することができる。なお、物体の色はある光源からの光の反射を測定等することにより識別されるものなので、上記所定の条件としては、例えば太陽光あるいは屋内の蛍光灯または白熱灯等で照らされた状態も想定される。
【0034】
出口通路キャップ12の溶着部122は、上記の通り着色された状態で、波長800nm以上のレーザ光に対して15%以上の透過率を示す。すなわち、波長800nm以上のレーザ光を溶着部122の反当接面123側から照射して当接面123側へ透過させたとき、透過前のレーザ光のエネルギーを100%とすると透過後のエネルギーは15%以上となる。このことから、出口通路キャップ12は、所定の波長のレーザ光を透過可能なレーザ光透過性樹脂により形成されているといえる。つまり、出口通路キャップ12は、特許請求の範囲における「レーザ光透過性樹脂部材」として形成されるものである。
【0035】
一方、ハウジング16は、ポリアミド系の樹脂に例えば着色剤を含有させた状態で成形することにより、明度および彩度がともに低い黒色等の濃色に着色されている。これにより、ハウジング16は、所定のレーザ光を吸収可能である。すなわち、ハウジング16は、レーザ光吸収性樹脂により形成されているといえる。つまり、ハウジング16は、特許請求の範囲における「レーザ光吸収性樹脂部材」として形成されるものである。
【0036】
続いて、レーザ溶着による出口通路キャップ12とハウジング16との接合について、図7を用いて説明する。
図7(A)に示すように、出口通路キャップ12とハウジング16とをレーザ溶着するにあたって、まず、出口通路キャップ12の当接面123とハウジング16の当接面163とを当接させる。続いて、加圧手段100により出口通路キャップ12の溶着部122に所定の圧力Fを加え、当接面123と当接面163とを密着させる。この状態で、溶着部122の反当接面123側からレーザ光を照射する。これにより、レーザ光は、溶着部122を透過し、ハウジング16の溶着部162(当接面163)に吸収される。溶着部162は、当接面163でレーザ光を吸収すると発熱する。この発熱により、溶着部162および溶着部122は、当接面163(当接面123)において溶融し、互いの溶融した樹脂が混合することによって溶融プールp1(図7(A)に格子状の網掛けで示した箇所)を形成する。ここで、レーザ光の照射を停止する、あるいはレーザ光の照射位置をずらすと、溶着部162および溶着部122の溶融した箇所(溶融プールp1)は、温度が下がり固化する。これにより、溶着部122と溶着部162とは、溶融プールp1において溶着される。このようにして、レーザ光の照射を蓋部121の外縁部の全周(溶着部122)に亘って施すことにより、出口通路キャップ12とハウジング16とは、気密または液密に溶着されて接合する。
【0037】
上記レーザ溶着に用いるレーザ光としては、例えば、波長808nm〜940nmの赤外線を発生可能なLDレーザ、波長1064nmの赤外線を発生可能なYAGレーザ、あるいは波長10600nmの赤外線を発生可能なCO2レーザ等を適宜選択することができる。なお、本実施形態のように樹脂部材同士をレーザ溶着する場合、ビーム品質(熱源)、コスト、経済性、効率等の観点から、LDレーザを用いることが望ましい。
【0038】
ところで、樹脂で形成される部材には、その製造工程において、カーボンダスト等の不純物が混入することがある。このような不純物が出口通路キャップ12に含まれていた場合に生じ得る事象について、図7(B)を用いて説明する。溶着部122の反当接面123側からレーザ光を照射したとき、照射範囲に不純物が含まれていると、この不純物はレーザ光のエネルギーを吸収して発熱する。このようにして発生した熱により、不純物の周囲の樹脂が炭化し黒点b1(図7(B)に楕円で塗りつぶした箇所)が生じる。そのため、レーザ光の一部が黒点b1に遮られることにより、溶着部162の当接面163には、部分的に、レーザ光のエネルギーが十分に到達されない箇所が生じる。これにより、溶着部122および溶着部162には、溶融プールp2と溶融プールp3との間に、十分な溶着がなされない箇所が生じる。その結果、出口通路キャップ12とハウジング16とが十分に溶着されていない状態のパージバルブが出来上がることとなる。
【0039】
しかしながら、本実施形態の出口通路キャップ12は、上述のように、明度Vが3以上かつ彩度Cが2以上を示す色で着色されている。これにより、出口通路キャップ12の溶着部122の表面あるいは内部に明度および彩度の低い黒点が生じたとしても、この黒点を容易に発見できるとともに、黒点の発生状況を容易に確認することができる。したがって、出口通路キャップ12のレーザ溶着後における溶着状態の良否を容易に判断することができる。よって、部材同士の溶着が不十分なパージバルブを、不良品として容易に排除することができる。
【0040】
次に、上記構成よりなるパージバルブ1の基本作動を図1および図2に基づいて説明する。
電子制御装置により、電磁アクチュエータ2のコイル25に通電され、パージバルブがオンされると、コイル25に磁束が発生する。この磁束は、磁性リング31、収容部32、磁気絞り部33、ムービングコア22、吸引部34、ヨーク29によって構成された磁気回路に流れ、磁束ループを形成する。収容部32の磁性リング31側から吸引部34側へ流れる磁束は、磁気絞り部33の肉厚が薄く磁路面積が小さいことより圧縮され、抵抗が大きくなる。
【0041】
磁気絞り部33の磁束が飽和すると、磁束はムービングコア22と吸引部34との間に放出される。ムービングコア22と吸引部34との間を磁束が流れ、磁気吸引ギャップ28に強い磁場が発生し、ムービングコア22は、リターンスプリング23の付勢力に抗して吸引部34に磁気吸引され図1の下方の開弁方向に移動する。その結果、ムービングコア22に取り付けられた弁体15も開弁方向へ移動し、弁体15が弁口14を開く。これにより、流入ポート17と流出ポート13とが弁口14を経由してチャンバ18において連通し、パージ通路6が連通する。このため、キャニスタ4に保持されていた気化燃料が吸気負圧により吸気管7内に吸引される。
【0042】
電子制御装置により、パージバルブ1がオフされると、コイル25の発生していた磁束が喪失するため、リターンスプリング23の付勢力によってムービングコア22が閉弁方向へ移動する。その結果、ムービングコア22に取り付けられた弁体15も閉弁方向へ移動し、弁体15が弁口14を閉塞する。これによって、流入ポート17と流出ポート13との連通がチャンバ18において遮断され、パージ通路6が遮断される。これにより、キャニスタ4に保持されていた気化燃料は吸気管7内に吸引されなくなる。
なお、パージバルブ1は上述のように作動するため、気化燃料が流通するチャンバ18には高い気密性が要求される。
【0043】
以上説明したように、本実施形態では、レーザ光透過性樹脂部材としての出口通路キャップ12が、「V≦0.229H+3.714、V≦−0.8H+24、V≧3」、かつ、「C≦−0.075H2+1.936H+1.267、C≧2」の関係を満たす色を呈するように着色されている。すなわち、出口通路キャップ12は所定値以上の明度および彩度を示す茶系の色で着色され、これにより、出口通路キャップ12の見栄えを良くすることができる。また、出口通路キャップ12は、初期状態において茶系の色で着色されていることにより、経年後に変色したとしても、この変色を隠蔽することができる。そのため、レーザ光透過性樹脂部材の使用中あるいは使用後においても、良好な美観を保つことができる。
【0044】
さらに、出口通路キャップ12は、上記の通り明度(V)が3以上かつ彩度(C)が2以上を示す色で着色されている。これにより、出口通路キャップ12の表面あるいは内部に明度および彩度の低い黒点が生じたとしても、この黒点を容易に発見できるとともに、黒点の発生状況を容易に確認することができる。したがって、出口通路キャップ12のレーザ溶着後における溶着状態の良否を容易に判断することができる。
【0045】
本実施形態のパージバルブ1は、出口通路キャップ12とハウジング16とをレーザ溶着により接合した樹脂成形品である。そのため、出口通路キャップ12に生じる黒点の発生状況を確認することにより、出口通路キャップ12とハウジング16とが十分に溶着されていないパージバルブを不良品として容易に検出することができる。そのため、不良品とされたパージバルブを容易に排除でき、品質の高いパージバルブを安定して市場に供給することができる。
【0046】
また、本実施形態では、出口通路キャップ12は、ポリアミド系の樹脂により形成されている。ポリアミド系の樹脂は黄色〜茶色に変色し易いが、出口通路キャップ12は初期状態において茶系の色で着色されているため、出口通路キャップ12が経年後に黄色〜茶色に変色したとしても、この変色を効果的に隠蔽することができる。つまり、本実施形態では出口通路キャップ12がポリアミド系の樹脂で形成されていることから、変色の隠蔽効果はより高いものであるといえる。
【0047】
また、本実施形態では、出口通路キャップ12のうち、レーザ溶着される部位としての溶着部122は、厚みが2.5mmに設定されている。これにより、溶着部122の内部に黒点が生じたとしても、この黒点をより容易に発見することができる。
本実施形態のようなパージバルブは、その製品としての用途から、内部空間(容積室)に高い気密性が要求される。本実施形態では、出口通路キャップ12は、レーザ光透過性樹脂部材として使用され、ハウジング16にレーザ溶着されている。これにより、出口通路キャップ12は、ハウジング16との間に容積室としてのチャンバ18を形成している。出口通路キャップ12は、上述した特徴を有するため、ハウジング16にレーザ溶着された後の溶着状態について、十分に溶着がなされたか否かを容易に判断することができる。これにより、出口通路キャップ12とハウジング16とが十分かつ気密に溶着されたパージバルブ1のみを製品等とすることが容易となる。したがって、パージバルブ1に形成されるチャンバ18に対し高い気密性が要求される場合であっても、この要求を満足することができる。
【0048】
(他の実施形態)
本発明の他の実施形態では、レーザ光透過性樹脂部材としての出口通路キャップは、ポリアミド系の樹脂ではなく、例えばPET、PBT等のポリエステル系樹脂、あるいはポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)等の熱可塑性を有する樹脂により形成されていてもよい。本発明では出口通路キャップが初期状態において茶系の色で着色されていることから、上で挙げた樹脂により出口通路キャップが形成され、経年後に変色しても、この変色を隠蔽することができる。
【0049】
また、レーザ光吸収性樹脂部材としてのハウジングも、ポリアミド系の樹脂に限らず、上で挙げたような樹脂により形成されていてもよい。なお、ハウジングは、出口通路キャップとのレーザ溶着が可能ならば、出口通路キャップを形成する樹脂と同一の種類の樹脂ではなく、種類の異なる樹脂により形成されていてもよい。
【0050】
また、本発明の他の実施形態では、出口通路キャップの溶着部の厚みは、2.5mm以下であれば任意の厚みに設定してもよい。
また、出口通路キャップは、樹脂に着色剤を含有させて成形することにより着色するのではなく、表面に着色剤を塗布することにより着色してもよい。このように出口通路キャップの表面にのみ着色したとしても、本発明によれば、出口通路キャップは見栄えが良く、経年後の変色を隠蔽する効果も期待できる。また、レーザ溶着により出口通路キャップの表面あるいは内部に黒点が生じたとしても、この黒点を容易に発見することができる。
【0051】
上述の実施形態では、レーザ光透過性樹脂部材をパージバルブに適用し、レーザ光透過性樹脂部材とレーザ光吸収性樹脂部材との間に容積室としての内部空間(チャンバ)を形成する例を示した。本発明は他の実施形態として、レーザ光透過性樹脂部材を、内部空間に高い気密性が要求されるキャニスタまたはインテークマニホールド等の樹脂成形品に適用することもできる。また、本発明のレーザ光透過性樹脂部材は、内部空間に液体を保持あるいは流通させるような、内部空間に高い液密性が要求される樹脂成形品にも適用可能である。
【0052】
このように、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の一実施形態によるレーザ光透過性樹脂部材を流体制御弁に適用した例を示す断面図。
【図2】本発明の一実施形態によるレーザ光透過性樹脂部材を適用した流体制御弁を内燃機関の吸気系統に配置した状態を示す構成図。
【図3】マンセル表色系の色相環において、本発明の一実施形態によるレーザ光透過性樹脂部材が着色される色のとり得る色相の範囲を示した図。
【図4】本発明の一実施形態によるレーザ光透過性樹脂部材が着色され得る色について、明度と色相との関係における範囲を示した図。
【図5】本発明の一実施形態によるレーザ光透過性樹脂部材が着色され得る色について、彩度と色相との関係における範囲を示した図。
【図6】マンセル表色系の等色相カラーチャートにおいて、本発明の一実施形態によるレーザ光透過性樹脂部材が着色され得る色の範囲を示した図。
【図7】本発明の一実施形態によるレーザ光透過性樹脂部材をレーザ光吸収性樹脂部材にレーザ溶着するときの様子を示す断面図であって、(A)は通常のレーザ溶着の様子を示す断面図、(B)はレーザ光透過性樹脂部材に黒点が生じた場合のレーザ溶着の様子を示す断面図。
【符号の説明】
【0054】
12:出口通路キャップ(レーザ光透過性樹脂部材)、122:溶着部(レーザ溶着される部位)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ溶着用のレーザ光透過性樹脂部材であって、
マンセル表色系において、明度をV、彩度をC、色相環を100分割し色相10RPを「0」または「100」とした場合の色相をHとしたとき、「V≦0.229H+3.714、V≦−0.8H+24、V≧3」、かつ、「C≦−0.075H2+1.936H+1.267、C≧2」の関係を満たす色を呈するように着色され、
レーザ溶着される部位は、波長800nm以上のレーザ光を照射したときの透過率が15%以上となるように形成されていることを特徴とするレーザ光透過性樹脂部材。
【請求項2】
ポリアミド系樹脂により形成されていることを特徴とする請求項1記載のレーザ光透過性樹脂部材。
【請求項3】
前記レーザ溶着される部位は、厚みが2.5mm以下であることを特徴とする請求項1または2記載のレーザ光透過性樹脂部材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のレーザ光透過性樹脂部材と、
所定の波長のレーザ光を吸収可能であり、前記レーザ光透過性樹脂部材の前記レーザ溶着される部位に当接する当接面を有し、前記レーザ光透過性樹脂部材を透過したレーザ光を吸収して発熱することにより、前記当接面において前記レーザ光透過性樹脂部材と溶着するレーザ光吸収性樹脂部材と、からなる樹脂成形品。
【請求項5】
前記レーザ光透過性樹脂部材は、前記レーザ光吸収性樹脂部材の前記当接面に気密または液密に溶着し、所定の容積をもつ容積室を前記レーザ光吸収性樹脂部材との間に形成していることを特徴とする請求項4記載の樹脂成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−90234(P2010−90234A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−260599(P2008−260599)
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】