説明

レーザ切断による穴あけ加工方法

【課題】より簡単に被加工物裏面のバリを抑制することが可能なレーザ切断による穴あけ加工方法を提供する。
【解決手段】被加工物1に、正規穴2の直径φdに対して同心で、且つ正規穴2の直径φdに対して1〜3mm の範囲で直径φdoが小さく設定された下穴3(1≦(φd−φdo)≦3)をレーザ切断によって穴あけ加工し、次に、該下穴3が加工された被加工物1に、直径φdの正規穴2をレーザ切断によって穴あけ加工することにより、被加工物の裏側にバリ(ドロス)が発生するのが抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ切断による穴あけ加工方法の改良に関するもので、特に、被加工物に照射した集光状態のレーザビームを円軌道に走査することにより直径φdの穴を加工する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被加工物に円形の穴を加工する手段の一つにレーザ切断がある。レーザ切断においては、被加工物(鋼板)に照射した集光状態のレーザビームを円軌道に走査することで、被加工物に直径φdの穴が形成される。このようなレーザ切断は、近年、切断品質及び切断能力の向上が目覚しく、特に、プレス加工による機械的切断やプラズマ加工等の他の熱的切断では得ることができない高い精度の穴あけ加工や厚板への穴あけ加工に有利である。ところで、レーザ切断によって被加工物に穴あけ加工する場合に問題になるのが、被加工物の裏面に形成されるバリ(ドロス)である。このバリ(ドロス)は、切断速度やアシストガス等の加工条件の改善によってある程度小さくすることができるが、加工条件の設定だけでは後処理を廃止する程度までバリを小さくするのが困難である。したがって、従来のレーザ切断による穴あけ加工では、被加工物の裏面のバリ取りを行う必要があり、生産性を著しく低下させていた。
【0003】
そこで、特許文献1には、ノズルの外周位置から被加工物に向けて流体を粉末粒子ノズルによって吹付け、該粉末粒子ノズルによって吹付けられる流体によって被加工物の裏面に発生するスパッタ及びドロスを除去するレーザ加工装置が開示されている。しかしながら、このレーザ加工装置では、ノズルの構造が複雑化して装置が高価になると共に、粉末粒子を吹付けるため作業環境が悪化する。
【特許文献1】特開平11−123583号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、より簡単に被加工物の裏面のバリを抑制することが可能なレーザ切断による穴あけ加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記第1の目的を達成するために、本発明のうち請求項1に記載の発明は、金属製の被加工物に照射した集光状態のレーザビームを走査して被加工物に正規穴を加工する方法であって、被加工物に、正規穴と同心で且つ正規穴よりも所定寸法だけ小さい外形寸法の下穴を加工する工程と、該下穴が加工された被加工物に正規穴を加工する工程と、を含むことを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のレーザ切断による穴あけ加工方法において、正規穴及び下穴は、それぞれ直径がφd及びφdoの円形であって、下穴の直径φdoが正規穴の直径φdに対して1〜3mm小さく(1≦(φd−φdo)≦3)設定されることを特徴とする。
【0006】
したがって、請求項1では、正規穴と同心で且つ正規穴よりも所定寸法だけ小さい外形寸法の下穴が加工された被加工物に、レーザ切断によって正規穴が加工される。
請求項2では、正規穴の直径φdに対して1〜3mm小さい直径φdoの下穴が加工された被加工物に、レーザ切断によって正規穴が加工される。
【発明の効果】
【0007】
より簡単に被加工物裏面のバリを抑制することが可能なレーザ切断による穴あけ加工方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の一実施形態を図1及び図2に基づいて説明する。図1に示されるように、本レーザ切断による穴あけ加工方法では、被加工物1に、正規穴2の直径φdに対して同心で、且つ正規穴2の直径φdに対して1〜3mmの範囲で直径φdoが小さく設定された下穴3(1≦(φd−φdo)≦3)、より好ましくは、正規穴2の直径φdに対して直径φdoが3mm 小さく設定された下穴3(φdo=φd−3)を、レーザ切断によって穴あけ加工し、次に、該下穴3が加工された被加工物1に、直径φdの正規穴2をレーザ切断によって穴あけ加工する。これにより、本レーザ切断による穴あけ加工方法では、被加工物の裏側にバリ(ドロス)が発生することが抑制され、バリ取りの工程を廃止することができる。
【0009】
ここで図2は、YAGレーザをシングルモードで連続照射してアルミニウム合金製の板厚2mm の押出材(被加工物1)に直径φdがそれぞれφ7、φ10、φ20の正規穴2を穴あけ加工した場合の、下穴3の直径φdoと被加工物1の裏面に対するバリの高さ(以下、単にバリ高さと称する)との関係を示した測定データである。なお、その他の加工条件は、レーザ出力が2.5kW 、切断速度が1.0 m/min 、アシストガスに使用される流体がエア、ノズル内圧が0.7MPa である。この図に示されるように、正規穴2の直径がφ7の場合、下穴3の直径φdoが4〜6mm の時のバリ高さが0mm であり、下穴3の直径φdoが4mm を越えて小さくなるとバリ高さが急激に大きくなる傾向にある。また、正規穴2の直径がφ10の場合、下穴3の直径φdoが7〜9mm の時のバリ高さが0mm であり、下穴3の直径φdoが7mm を越えて小さくなるとバリ高さが急激に大きくなる傾向にある。
【0010】
さらに、正規穴2の直径がφ20の場合、下穴3の直径φdoが17mm の時のバリ高さが0mm であり、下穴3の直径φdoが17を越えて19mm までの時のバリ高さが、バリ取りが不要(品質上問題ない程度)の極小高さであり、下穴3の直径φdoが17mm を越えて小さくなるとバリ高さが急激に大きくなる傾向にある。このように、図2に示される測定データから、下穴3の直径φdoを正規穴2の直径φdに対して1〜3mm の範囲で小さく設定することにより(1≦(φd−φdo)≦3)、バリ高さが0mm 或いはバリ取りが不要の極小高さに抑制されることがわかる。ここで、下穴3の直径φdoを正規穴2の直径φdに対して1〜2mm の範囲で小さく設定した場合(1≦(φd−φdo)≦2)、正規穴2の切断面(内周面)に若干の溶融が見られ、切断品質に問題があった。したがって、これらを総合的に判断すると、下穴3の直径φdoを正規穴2の直径φdに対して3mm 小さく設定した場合(φd−φdo=3)に、バリがなく且つ切断品質が最も高い正規穴2が得られることがわかる。
【0011】
この実施形態では以下の効果を奏する。
本レーザ切断による穴あけ加工方法では、被加工物1に、正規穴2の直径φdに対して同心で、且つ正規穴2の直径φdに対して1〜3mmの範囲で直径φdoが小さく設定された下穴3(1≦(φd−φdo)≦3)をレーザ切断によって穴あけ加工し、次に、該下穴3が加工された被加工物1に、直径φdの正規穴2をレーザ切断によって穴あけ加工することにより、被加工物の裏側にバリ(ドロス)が発生するのを抑制し、バリ取りの工程を廃止して生産性を高めることができる。
そして、より好ましくは、下穴3の直径φdoを、正規穴2の直径φdに対して3mm 小さく設定する(φdo=φd−3)。これにより、より高い切断品質(切断面の品質)の正規穴2を得ることが可能になる。
【0012】
なお、実施形態は上記に限定されるものではなく、例えば次のように構成してもよい。
本実施形態では、被加工物1がアルミニウム合金(非鉄金属)製の押出材であったが、例えば、SPCCのような鉄を含む材料であっても、本実施形態と同様に、被加工物1に、正規穴2の直径φdに対して同心で、且つ直径φdoが正規穴2の直径φdに対して1〜3mmの範囲で小さく設定された下穴3(1≦(φd−φdo)≦3)をレーザ切断によって穴あけ加工し、次に、下穴3が加工された被加工物1に、直径φdの正規穴2をレーザ切断によって穴あけ加工することにより、被加工物の裏側にバリ(ドロス)が発生するのが抑制される。
また、本実施形態では、板厚2mm の被加工物1(押出材)を用いたが、被加工物1の板厚はこれに限定されるものではなく、板厚1〜2mm の範囲で実験した結果、被加工物1の板厚に関わらず、直径φdoが正規穴2の直径φdに対して1〜3mm の範囲で小さく設定された下穴3(1≦(φd−φdo)≦3)をレーザ切断によって穴あけ加工し、次に、下穴3が加工された被加工物1に、直径φdの正規穴2をレーザ切断によって穴あけ加工することにより、被加工物の裏側にバリ(ドロス)が発生するのが抑制されることがわかった。
また、本実施形態では、正規穴2と下穴3との双方をレーザ切断によって加工したが、下穴を他の穴あけ手段、例えばプレス加工によって加工してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】被加工物に加工される正規穴と下穴とを示す図である。
【図2】YAGレーザをシングルモードで連続照射してアルミニウム合金製の板厚2mm の押出材(被加工物1)に直径φdがそれぞれφ7、φ10、φ20の正規穴2を穴あけ加工した場合における、下穴3の直径φdoと被加工物1の裏面に対するバリ高さとの関係を示した測定データである。
【符号の説明】
【0014】
1 被加工物、2 正規穴2 下穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の被加工物に照射した集光状態のレーザビームを走査して被加工物に正規穴を加工する方法であって、被加工物に、前記正規穴と同心で且つ前記正規穴よりも所定寸法だけ小さい外形寸法の下穴を加工する工程と、該下穴が加工された被加工物に前記正規穴を加工する工程と、を含むことを特徴とするレーザ切断による穴あけ加工方法。
【請求項2】
前記正規穴及び前記下穴は、それぞれ直径がφd及びφdoの円形であって、前記下穴の直径φdoが前記正規穴の直径φdに対して1〜3mm小さく(1≦(φd−φdo)≦3)設定されることを特徴とする請求項1に記載のレーザ切断による穴あけ加工方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−237235(P2007−237235A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−63029(P2006−63029)
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】