説明

レーザ切断方法及びレーザ切断装置

【課題】 本発明は、過剰酸素によるセルフバーニング等による切断面への悪影響を防止し、切断に寄与しない酸素ガスを低減し、加工精度を維持することを目的としている。
【解決手段】 被切断材2にレーザ光3aを照射すると共に、該レーザ光3aを照射した切断点2a及びその近傍に酸素ガスを噴射しつつ切断するレーザ切断装置1であって、レーザ光3aを出射するノズル口4の周囲に設けた複数のノズル口5と、該複数のノズル口5のうちで切断点2aよりも切断進行方向の前後に配置されるノズル口5を判断する制御部と、該制御部6により判断された切断点2aよりも切断進行方向の前後に配置されるノズル口5に高圧の酸素ガスを供給すると共に、該切断進行方向の前後以外の部位に配置されるノズル口5に低圧の酸素ガスを供給するガス供給部8を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被切断材にレーザ光を照射すると共に、該レーザ光を照射した切断点及びその近傍に酸素ガスを噴射しつつ切断するレーザ切断方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、比較的板厚の厚い鋼板をレーザ切断する場合、鋼板表面よりも板厚方向奥側ではレーザエネルギーが不足する場合があり、これを補うために切断点近傍に高純度の酸素ガスをアシストガスやシールドガスとして補給して板厚方向奥側の酸素濃度を維持し、鉄と酸素の燃焼反応熱により切断することが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、切断点近傍に高い酸素濃度を確保し、該切断点よりも切断進行方向後ろ側の酸素濃度を低下させることで、過剰酸素によるセルフバーニング等による切断面への悪影響を防止する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4183779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述の特許文献1の技術では、切断進行方向左右側の酸素濃度が高いため過剰酸素によるセルフバーニング等による切断面への悪影響が発生する場合があり、切断溝に入らず、切断に寄与しない酸素ガスが常に存在するため無駄である。
【0006】
また、切断進行方向の後方に酸素を噴射するノズルを追加することは従来から行われているが、切断点近傍での酸素濃度について、切断進行方向に対して略一定の指行性を維持させる上で、切断進行方向を変更する場合には、旋回装置等によりノズルを切断進行方向に旋回させるか、ノズルの方向性に対応して被切断材を回転させる必要があり、装置が複雑で、加工精度を維持するのも困難になるという問題があった。
【0007】
本発明は前記課題を解決するものであり、その目的とするところは、過剰酸素によるセルフバーニング等による切断面への悪影響を防止し、切断に寄与しない酸素ガスを低減し、加工精度を維持することができるレーザ切断方法及びレーザ切断装置を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するための本発明に係るレーザ切断方法の第1の構成は、被切断材にレーザ光を照射すると共に、該レーザ光を照射した切断点及びその近傍に酸素ガスを噴射しつつ切断するレーザ切断方法であって、前記切断点よりも切断進行方向の前後に噴射する酸素ガスの圧力が、該切断進行方向の前後以外の部位に噴射する酸素ガスの圧力よりも高いことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係るレーザ切断方法の第2の構成は、被切断材にレーザ光を照射すると共に、該レーザ光を照射した切断点及びその近傍に酸素ガスを噴射しつつ切断するレーザ切断方法であって、前記切断点よりも切断進行方向の前後にのみ酸素ガスを噴射することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るレーザ切断方法の第3の構成は、前記第2の構成において、前記切断進行方向の前後以外の部位に噴射するガスを遮断することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るレーザ切断方法の第4の構成は、前記第2の構成において、前記切断進行方向の前後以外の部位に、酸素以外の単一組成からなるガス、或いは酸素を含まない混合ガスを噴射することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るレーザ切断装置の第1の構成は、被切断材にレーザ光を照射すると共に、該レーザ光を照射した切断点及びその近傍に酸素ガスを噴射しつつ切断するレーザ切断装置であって、レーザ光を出射するノズル口の周囲に設けた複数のノズル口と、前記複数のノズル口のうちで前記切断点よりも切断進行方向の前後に配置されるノズル口を判断する判断手段と、前記判断手段により判断された前記切断点よりも切断進行方向の前後に配置されるノズル口に高圧の酸素ガスを供給すると共に、該切断進行方向の前後以外の部位に配置されるノズル口に低圧の酸素ガスを供給するガス供給手段とを有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るレーザ切断装置の第2の構成は、被切断材にレーザ光を照射すると共に、該レーザ光を照射した切断点及びその近傍に酸素ガスを噴射しつつ切断するレーザ切断装置であって、レーザ光を出射するノズル口の周囲に設けた複数のノズル口と、前記複数のノズル口のうちで前記切断点よりも切断進行方向の前後に配置されるノズル口を判断する判断手段と、前記判断手段により判断された前記切断点よりも切断進行方向の前後に配置されるノズル口にのみ酸素ガスを供給するガス供給手段とを有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係るレーザ切断装置の第3の構成は、前記第2の構成において、前記ガス供給手段は、前記切断進行方向の前後以外の部位に噴射するガスを遮断することを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係るレーザ切断装置の第4の構成は、前記第2の構成において、前記ガス供給手段は、前記切断進行方向の前後以外の部位に、酸素以外の単一組成からなるガス、或いは酸素を含まない混合ガスを噴射することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るレーザ切断方法の第1の構成によれば、切断点よりも切断進行方向の前後に噴射する酸素ガスの圧力が、該切断進行方向の前後以外の部位に噴射する酸素ガスの圧力よりも高いことで、切断点よりも切断進行方向の前後では、高圧の酸素ガスの噴射により切断進行方向に広いガス幅を確保してドロスの残存を抑制しつつ、切断進行方向の前後以外の部位に噴射する酸素ガスの圧力を低くして、切断進行方向の左右側におけるガス幅を狭くして切断進行方向の左右側における切断面の過剰の酸化燃焼反応を抑制して切断溝の変形を抑制し、ドロスの発生を抑制することが出来、被切断材の板厚方向奥側の切断面に形成されるテーパの発生を抑制して垂直で平坦な切断面を形成することが出来る。また、切断点近傍での全方向に同じ圧力の酸素ガスを噴射した場合と比較して切断進行方向の左右側で過剰酸素によるセルフバーニング等による切断面への悪影響を低減できる。
【0017】
本発明に係るレーザ切断方法の第2の構成によれば、切断点よりも切断進行方向の前後にのみ酸素ガスを噴射することで、切断点よりも切断進行方向の前後では、正常な酸化燃焼反応によりドロスの残存を抑制しつつ、切断進行方向の前後以外の部位に酸素ガスを噴射しないことで、切断進行方向の左右側における切断面の過剰の酸化燃焼反応を抑制し、ドロスの発生を抑制することが出来、被切断材の板厚方向奥側の切断面に形成されるテーパの発生を抑制して垂直で平坦な切断面を形成することが出来る。また、切断点近傍での全方向に同じ圧力の酸素ガスを噴射した場合と比較して切断進行方向の左右側で過剰酸素によるセルフバーニング等による切断面への悪影響を低減できる。
【0018】
本発明に係るレーザ切断方法の第3の構成によれば、切断進行方向の前後以外の部位に噴射するガスを遮断し、本発明に係るレーザ切断方法の第4の構成によれば、切断進行方向の前後以外の部位に、酸素以外の単一組成からなるガス、或いは酸素を含まない混合ガスを噴射することで、切断点よりも切断進行方向の前後では、正常な酸化燃焼反応によりドロスの残存を抑制しつつ、切断進行方向の前後以外の部位に何らシールドガスを噴射しないか、シールドガスとして酸素以外の単一組成からなるガス、或いは酸素を含まない混合ガスを噴射することで、切断進行方向の左右側における切断面の過剰の酸化燃焼反応を抑制し、ドロスの発生を抑制することが出来、被切断材の板厚方向奥側の切断面に形成されるテーパの発生を抑制して垂直で平坦な切断面を形成することが出来る。また、切断点近傍での全方向に同じ圧力の酸素ガスを噴射した場合と比較して切断進行方向の左右側で過剰酸素によるセルフバーニング等による切断面への悪影響を低減できる。
【0019】
本発明に係るレーザ切断装置の第1の構成によれば、判断手段により、複数のノズル口のうちで切断点よりも切断進行方向の前後に配置されるノズル口を判断し、ガス供給手段により切断点よりも切断進行方向の前後に配置されるノズル口に高圧の酸素ガスを供給すると共に、該切断進行方向の前後以外の部位に配置されるノズル口に低圧の酸素ガスを供給することが出来る。これにより、切断点よりも切断進行方向の前後では、高圧の酸素ガスの噴射により切断進行方向に広いガス幅を確保してドロスの残存を抑制しつつ、切断進行方向の前後以外の部位に噴射する酸素ガスの圧力を低くして、切断進行方向の左右側におけるガス幅を狭くして切断進行方向の左右側における切断面の過剰の酸化燃焼反応を抑制して切断溝の変形を抑制し、ドロスの発生を抑制することが出来、被切断材の板厚方向奥側の切断面に形成されるテーパの発生を抑制して垂直で平坦な切断面を形成することが出来る。また、切断点近傍での全方向に同じ圧力の酸素ガスを噴射した場合と比較して切断進行方向の左右側で過剰酸素によるセルフバーニング等による切断面への悪影響を低減できる。
【0020】
本発明に係るレーザ切断装置の第2の構成によれば、判断手段により、複数のノズル口のうちで切断点よりも切断進行方向の前後に配置されるノズル口を判断し、ガス供給手段により切断点よりも切断進行方向の前後に配置されるノズル口にのみ酸素ガスを供給することが出来る。これにより、切断点よりも切断進行方向の前後にのみ酸素ガスを噴射することで、切断点よりも切断進行方向の前後では、正常な酸化燃焼反応によりドロスの残存を抑制しつつ、切断進行方向の前後以外の部位に酸素ガスを噴射しないことで、切断進行方向の左右側における切断面の過剰の酸化燃焼反応を抑制し、ドロスの発生を抑制することが出来、被切断材の板厚方向奥側の切断面に形成されるテーパの発生を抑制して垂直で平坦な切断面を形成することが出来る。また、切断点近傍での全方向に同じ圧力の酸素ガスを噴射した場合と比較して切断進行方向の左右側で過剰酸素によるセルフバーニング等による切断面への悪影響を低減できる。
【0021】
本発明に係るレーザ切断装置の第3の構成によれば、切断進行方向の前後以外の部位に噴射するガスを遮断し、本発明に係るレーザ切断装置の第4の構成によれば、切断進行方向の前後以外の部位に、酸素以外の単一組成からなるガス、或いは酸素を含まない混合ガスを噴射することで、切断点よりも切断進行方向の前後では、正常な酸化燃焼反応によりドロスの残存を抑制しつつ、切断進行方向の前後以外の部位に何らシールドガスを噴射しないか、シールドガスとして酸素以外の単一組成からなるガス、或いは酸素を含まない混合ガスを噴射することで、切断進行方向の左右側における切断面の過剰の酸化燃焼反応を抑制し、ドロスの発生を抑制することが出来、被切断材の板厚方向奥側の切断面に形成されるテーパの発生を抑制して垂直で平坦な切断面を形成することが出来る。また、切断点近傍での全方向に同じ圧力の酸素ガスを噴射した場合と比較して切断進行方向の左右側で過剰酸素によるセルフバーニング等による切断面への悪影響を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るレーザ切断装置の構成を示すブロック図である。
【図2】レーザ光を出射するノズル口の周囲に該ノズル口を中心とした同一円上に等間隔で配置された複数のノズル口に接続されたガス供給手段の構成を示す模式説明図である。
【図3】切断進行方向の変化に対応して切断点よりも切断進行方向の前後のノズル口が選択される様子を説明する模式説明図である。
【図4】(a)は切断点よりも切断進行方向の前後のノズル口から噴射されるシールドガスの作用を説明する断面説明図、(b)は切断点よりも切断進行方向の前後のノズル口から噴射されるシールドガスを遮断した場合の課題を説明する断面説明図、(c)は切断点よりも切断進行方向の左右側のノズル口から噴射されるシールドガスを遮断した場合の作用を説明する断面説明図、(d)は切断点よりも切断進行方向の左右側のノズル口から噴射されるシールドガスによる課題を説明する断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図により本発明に係るレーザ切断方法及びレーザ切断装置の一実施形態を具体的に説明する。
【0024】
図1に示すレーザ切断装置1は、レーザ発振器3により生成されたレーザ光3aをレーザ切断トーチ16のノズル口4から出射して鋼板等の被切断材2に照射すると共に、該レーザ光3aを照射した切断点2a及びその近傍に酸素ガスを噴射しつつ切断する。レーザ光3aと共に、該レーザ光3aの周囲にアシストガスとして高純度の酸素ガスを出射する中央のノズル口4の周囲には、図2及び図3に示すように、中央のノズル口4を中心とする同一円上に等間隔に配置された12個(複数)のノズル口5a〜5lが設けられている。切断進行方向に対応して、適宜、選択されたノズル口5a〜5lからシールドガスとして高純度の酸素ガス、或いは酸素以外の単一組成からなる種々のガスのうち窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスが所定の圧力で噴射されるか、或いはシールドガスの噴射が遮断される。
【0025】
複数のノズル口5a〜5lのうちで切断点2aよりも図3の矢印a方向、或いは矢印b方向で示す切断進行方向の前後に配置されるノズル口5を判断する判断手段となる制御部6が設けられており、制御部6は予め設計されたNC(数値制御)データを記憶するNCデータ記憶部7に記憶された特定の図形の切断方向情報から切断進行方向情報を取得し、その切断進行方向情報から切断点2aよりも図3の矢印a方向、或いは矢印b方向で示す切断進行方向の前後に配置されるノズル口5を判断する。
【0026】
例えば、図3の矢印a方向に切断しているときは、複数のノズル口5a〜5lのうちで切断点2aよりも切断進行方向の前後に配置されるノズル口5として、切断点2aよりも切断進行方向の前方に配置されるノズル口5a〜5cと、切断点2aよりも切断進行方向の後方に配置されるノズル口5g〜5iとが選択される。図3の矢印b方向に切断しているときは、複数のノズル口5a〜5lのうちで切断点2aよりも切断進行方向の前後に配置されるノズル口5として、切断点2aよりも切断進行方向の前方に配置されるノズル口5d〜5fと、切断点2aよりも切断進行方向の後方に配置されるノズル口5j〜5lとが選択される。
【0027】
そして、ガス供給手段となるガス供給部8により、制御部6により判断された切断点2aよりも切断進行方向の前後に配置されるノズル口5に高圧の酸素ガスを供給すると共に、該切断進行方向の前後以外の部位に配置されるノズル口5に低圧の酸素ガスを供給する。本実施形態では、ガス供給部8は、酸素ガス供給源11、不活性ガス供給源12、ガス種類切り替え装置10、圧力調整部13内に設けられる進行方向用圧力調整器13b、側方用圧力調整器13c、電磁弁14等を有して構成される。
【0028】
ガス供給部8により各ノズル口4,5a〜5lに供給されるガスの圧力は、被切断材2の材質や板厚に対応して各種ガスの圧力が予め設定されており、ガス圧力データ記憶部9に記憶されている。そして、制御部6は、ガス圧力データ記憶部9に記憶された各種ガスの圧力情報に基づいて、ガス種類切り替え装置10により切断進行方向の前後以外の部位に配置されるノズル口5に供給されるシールドガスを酸素ガス供給源11、或いは、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガス供給源12から選択的に切り替える。尚、酸素ガス供給源11及び不活性ガス供給源12は図示しないガスボンベや工場のガス配管等で構成される。
【0029】
尚、不活性ガス供給源12の代わりに、酸素以外の単一組成からなる種々のガス供給源や、酸素を含まない種々の混合ガス供給源が適宜選択される構成としても良い。例えば、鋼板等の鋼材をレーザ切断する場合には、切断進行方向に対応して、適宜、選択されたノズル口5a〜5lからシールドガスとして、酸素ガス、或いは窒素ガスを噴射する。
【0030】
切断点2aよりも切断進行方向の前後以外の部位となる切断進行方向左右側に配置されるノズル口5から噴射する酸素を含まない混合ガスの具体例としては、メタンガス、プロパンガス等の可燃性ガスや、これらの可燃性ガスに反応性を制御するための窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスを混合したガスも適用出来る。
【0031】
また、切断点2aよりも切断進行方向の前後以外の部位となる切断進行方向左右側に配置されるノズル口5から噴射する酸素以外の単一組成からなるガスの具体例としては、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスが適用出来る。
【0032】
13は制御部6からの制御信号に基づいて電気信号をガス圧力信号に変換する圧力調整部である。圧力調整部13の内部には、酸素ガス供給源11からレーザ光3aの周囲にアシストガスとして中央のノズル口4に供給される99.5モル%以上の高純度の酸素ガスの圧力を調整するアシストガス用圧力調整器13aが設けられている。中央のノズル口4に供給される酸素ガスの圧力は0.02MPa〜0.2MPaに設定されている。
【0033】
更に、圧力調整部13の内部には、酸素ガス供給源11から、制御部6により判断された切断点2aよりも切断進行方向の前後に配置されるノズル口5に供給される99.5モル%以上の高純度の酸素ガスの圧力を調整する進行方向用圧力調整器13bが設けられている。切断点2aよりも切断進行方向の前後に配置されるノズル口5に供給される酸素ガスの圧力は0.02MPa〜0.2MPaに設定されている。
【0034】
更に、圧力調整部13の内部には、ガス種類切り替え装置10により切り替えられる酸素ガス供給源11、或いは不活性ガス供給源12から、制御部6により判断された切断点2aよりも切断進行方向の前後以外の部位に配置されるノズル口5に供給される99.5モル%以上の高純度の酸素ガス、或いは99.5モル%以上の高純度の不活性ガスの圧力を調整する側方用圧力調整器13cが設けられている。切断点2aよりも切断進行方向の前後以外の部位に配置されるノズル口5に供給される酸素ガスの圧力は0.0MPa〜0.1MPaに設定され、切断点2aよりも切断進行方向の前後以外の部位に配置されるノズル口5に供給される不活性ガスの圧力は0.0MPa〜0.5MPaに設定されている。
【0035】
圧力調整部13は、アシストガス用圧力調整器13a、進行方向用圧力調整器13b、側方用圧力調整器13cのそれぞれに対応して、制御部6からの制御信号に基づいて電気信号をガス圧力信号に変換する電空レギュレータ(電空変圧器)を使用することが出来る。電空レギュレータはガス圧力を連続的にコントロールするものである。圧力調整部13は、電空レギュレータの代わりに手動圧力調整器を用いて、アシストガス用圧力調整器13a、進行方向用圧力調整器13b及び側方用圧力調整器13cの少なくとも1つを構成しても良い。
【0036】
尚、切断点2aよりも切断進行方向の前後に配置されるノズル口5と、切断点2aよりも切断進行方向の前後以外の部位に配置されるノズル口5の両方に酸素ガスを供給する場合には、進行方向用圧力調整器13bにより設定される切断点2aよりも切断進行方向の前後に配置されるノズル口5に供給される酸素ガスの圧力の方が、側方用圧力調整器13cにより設定される切断点2aよりも切断進行方向の前後以外の部位に配置されるノズル口5に供給される酸素ガスの圧力よりも高くなるように設定される。
【0037】
実際に、被切断材2としてSS400鋼板で板厚16mm、レーザ出力6kWで、切断点2aよりも切断進行方向の前後に配置されるノズル口5から圧力0.03MPaの酸素ガスを噴射し、切断点2aよりも切断進行方向の前後以外の部位となる切断進行方向左右側に配置されるノズル口5から圧力0.01MPaの酸素ガスを噴射してレーザ切断した結果、図4(c)に示すようなテーパ2cのない良好な切断面を得た。
【0038】
また、被切断材2としてSS400鋼板で板厚25mm、レーザ出力6kWで、切断点2aよりも切断進行方向の前後に配置されるノズル口5から圧力0.025MPaの酸素ガスを噴射し、切断点2aよりも切断進行方向の前後以外の部位となる切断進行方向左右側に配置されるノズル口5から圧力0.0MPa(即ち、切断進行方向左右側のシールドガスを遮断した状態)にて、レーザ切断した結果、図4(c)に示すようなテーパ2cのない良好な垂直切断面、30度開先切断面を得た。
【0039】
また、被切断材2としてSS400鋼板で板厚28mm、レーザ出力4kW、切断点2aよりも切断進行方向の前後に配置されるノズル口5から圧力0.05MPaの酸素ガスを噴射し、切断点2aよりも切断進行方向の前後以外の部位となる切断進行方向左右側に配置されるノズル口5から圧力0.015MPaの酸素ガスを噴射してレーザ切断した結果、図4(c)に示すようなテーパ2cのない良好な切断面を得た。
【0040】
進行方向用圧力調整器13b及び側方用圧力調整器13cの下流側には、各ノズル口5a〜5lへ供給されるシールドガスを流通/遮断する電磁弁14が設けられている。本実施形態では、図2に示すように、中央のノズル口4を中心に互いに180度ずれた位置に設けられたノズル口5a,5gが電磁弁14cにより開閉され、同じく、ノズル口5b,5hが電磁弁14dにより開閉され、同じく、ノズル口5c,5iが電磁弁14eにより開閉され、同じく、ノズル口5d,5jが電磁弁14fにより開閉され、同じく、ノズル口5e,5kが電磁弁14aにより開閉され、同じく、ノズル口5f,5lが電磁弁14bにより開閉される。
【0041】
これにより、制御部6の制御信号により1つの電磁弁14を動作させることで、切断点2aよりも切断進行方向の前後に配置される一対のノズル口5、或いは、切断点2aよりも切断進行方向の前後以外の部位に配置される左右一対のノズル口5を一度に開閉することが出来、電磁弁14の数を低減することが出来る。
【0042】
図4(a)は切断点2aよりも切断進行方向の前後のノズル口5から噴射されるシールドガスの作用により被切断材2の切断溝2bの底部にドロス15が残留していない様子を示す。図4(b)は切断点2aよりも切断進行方向の前後のノズル口5から噴射されるシールドガスを遮断した場合に被切断材2の切断溝2bの底部にドロス15が残留している様子を示す。図4(c)は切断点2aよりも切断進行方向の左右側のノズル口5から噴射されるシールドガスを遮断した場合に切断溝2bの切断面が垂直で平坦に形成された様子を示す。図4(d)は切断点2aよりも切断進行方向の左右側のノズル口5から噴射されるシールドガスにより切断溝2bの下部でテーパ2cが発生した様子を示す。
【0043】
上記構成によれば、判断手段となる制御部6により、シールドガスを噴射する複数のノズル口5のうちで切断点2aよりも切断進行方向の前後に配置されるノズル口5を判断し、ガス供給部8により切断点2aよりも切断進行方向の前後に配置されるノズル口5に高圧の酸素ガスを供給すると共に、該切断進行方向の前後以外の部位に配置されるノズル口5に低圧の酸素ガスを供給することが出来る。これにより、切断点2aよりも切断進行方向の前後では、図4(a)に示すように、高圧の酸素ガスの噴射により切断進行方向に広いガス幅を確保してドロス15の残存を抑制しつつ、切断進行方向の前後以外の部位に噴射する酸素ガスの圧力を低くして、図4(c)に示すように、切断進行方向の左右側におけるガス幅を狭くして切断進行方向の左右側における切断面の過剰の酸化燃焼反応を抑制して切断溝2bの変形を抑制し、ドロス15の発生を抑制することが出来、被切断材2の板厚方向奥側の切断面に形成されるテーパ2cの発生を抑制して垂直で平坦な切断面を形成することが出来る。また、切断点2a近傍での全方向に同じ圧力の酸素ガスを噴射した場合と比較して切断進行方向の左右側で過剰酸素によるセルフバーニング等による切断面への悪影響を低減できる。
【0044】
本実施形態では、被切断材2にレーザ光3aを照射すると共に、該レーザ光3aを照射した切断点2a及びその近傍に酸素ガスを噴射しつつ切断する際に、切断点2aよりも切断進行方向の前後に噴射する酸素ガスの圧力が、該切断進行方向の前後以外の部位に噴射する酸素ガスの圧力よりも高い。切断点2aよりも切断進行方向の前後に噴射する酸素ガスの圧力が、該切断進行方向の前後以外の部位に噴射する酸素ガスの圧力よりも高いことで、切断点2aよりも切断進行方向の前後では、図4(a)に示すように、高圧の酸素ガスの噴射により切断進行方向に広いガス幅を確保してドロス15の残存を抑制しつつ、切断進行方向の前後以外の部位に噴射する酸素ガスの圧力を低くして、図4(c)に示すように、切断進行方向の左右側におけるガス幅を狭くして切断進行方向の左右側における切断面の過剰の酸化燃焼反応を抑制して切断溝2bの変形を抑制し、ドロス15の発生を抑制することが出来、被切断材の板厚方向奥側の切断面に形成されるテーパ2cの発生を抑制して垂直で平坦な切断面を形成することが出来る。
【0045】
また、他の構成として、ガス供給部8は、制御部6により判断された切断点2aよりも切断進行方向の前後に配置されるノズル口5にのみ酸素ガスを供給する構成としても良い。その際に、電磁弁14により切断進行方向の前後以外の部位に噴射するガスを遮断することでも良いし、切断進行方向の前後以外の部位に、酸素以外の単一組成からなるガス、或いは酸素を含まない混合ガスを噴射することでも良い。
【0046】
上記構成によれば、判断手段となる制御部6により、複数のノズル口5のうちで切断点2aよりも切断進行方向の前後に配置されるノズル口5を判断し、ガス供給部8により切断点2aよりも切断進行方向の前後に配置されるノズル口5にのみ酸素ガスを供給することが出来る。これにより、切断点2aよりも切断進行方向の前後にのみ酸素ガスを噴射することで、切断点2aよりも切断進行方向の前後では、正常な酸化燃焼反応によりドロス15の残存を抑制しつつ、切断進行方向の前後以外の部位に酸素ガスを噴射しないことで、切断進行方向の左右側における切断面の過剰の酸化燃焼反応を抑制し、ドロス15の発生を抑制することが出来、被切断材2の板厚方向奥側の切断面に形成されるテーパ2cの発生を抑制して垂直で平坦な切断面を形成することが出来る。また、切断点2a近傍での全方向に同じ圧力の酸素ガスを噴射した場合と比較して切断進行方向の左右側で過剰酸素によるセルフバーニング等による切断面への悪影響を低減できる。
【0047】
また、切断進行方向の前後以外の部位に噴射するガスを遮断するか、或いは、切断進行方向の前後以外の部位に、酸素以外の単一組成からなるガス、或いは酸素を含まない混合ガスを噴射することで、切断点2aよりも切断進行方向の前後では、正常な酸化燃焼反応によりドロス15の残存を抑制しつつ、切断進行方向の前後以外の部位に何らシールドガスを噴射しないか、シールドガスとして酸素以外の単一組成からなるガス、或いは酸素を含まない混合ガスを噴射することで、切断進行方向の左右側における切断面の過剰の酸化燃焼反応を抑制し、ドロス15の発生を抑制することが出来、被切断材2の板厚方向奥側の切断面に形成されるテーパ2cの発生を抑制して垂直で平坦な切断面を形成することが出来る。また、切断点2a近傍での全方向に同じ圧力の酸素ガスを噴射した場合と比較して切断進行方向の左右側で過剰酸素によるセルフバーニング等による切断面への悪影響を低減できる。
【0048】
本実施形態では、レーザ切断に必要なガスのみ噴射することで、ガス消費量を低減できる。また、レーザ切断に最適なガス分布を形成できるため加工品質を向上できる。また、切断点2a近傍での酸素濃度について、切断進行方向に対して略一定の指行性を維持させる上で、レーザ切断トーチ16を旋回させたり、被切断材2を回転させたりする必要が無いので加工精度に影響が無い。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の活用例として、被切断材にレーザ光を照射すると共に、該レーザ光を照射した切断点及びその近傍に酸素ガスを噴射しつつ切断するレーザ切断方法及び装置に適用出来る。
【符号の説明】
【0050】
1 …レーザ切断装置
2 …被切断材
2a …切断点
2b …切断溝
2c …テーパ
3 …レーザ発振器
3a …レーザ光
4 …ノズル口
5,5a〜5l …ノズル口
6 …制御部(判断手段)
7 …NCデータ記憶部
8 …ガス供給部(ガス供給手段)
9 …ガス圧力データ記憶部
10 …ガス種類切り替え装置
11 …酸素ガス供給源
12 …不活性ガス供給源
13 …圧力調整部
13a …アシストガス用圧力調整器
13b …進行方向用圧力調整器
13c …側方用圧力調整器
14,14a〜14f …電磁弁
15 …ドロス
16 …レーザ切断トーチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被切断材にレーザ光を照射すると共に、該レーザ光を照射した切断点及びその近傍に酸素ガスを噴射しつつ切断するレーザ切断方法であって、
前記切断点よりも切断進行方向の前後に噴射する酸素ガスの圧力が、該切断進行方向の前後以外の部位に噴射する酸素ガスの圧力よりも高いことを特徴とするレーザ切断方法。
【請求項2】
被切断材にレーザ光を照射すると共に、該レーザ光を照射した切断点及びその近傍に酸素ガスを噴射しつつ切断するレーザ切断方法であって、
前記切断点よりも切断進行方向の前後にのみ酸素ガスを噴射することを特徴とするレーザ切断方法。
【請求項3】
前記切断進行方向の前後以外の部位に噴射するガスを遮断することを特徴とする請求項2に記載のレーザ切断方法。
【請求項4】
前記切断進行方向の前後以外の部位に、酸素以外の単一組成からなるガス、或いは酸素を含まない混合ガスを噴射することを特徴とする請求項2に記載のレーザ切断方法。
【請求項5】
被切断材にレーザ光を照射すると共に、該レーザ光を照射した切断点及びその近傍に酸素ガスを噴射しつつ切断するレーザ切断装置であって、
レーザ光を出射するノズル口の周囲に設けた複数のノズル口と、
前記複数のノズル口のうちで前記切断点よりも切断進行方向の前後に配置されるノズル口を判断する判断手段と、
前記判断手段により判断された前記切断点よりも切断進行方向の前後に配置されるノズル口に高圧の酸素ガスを供給すると共に、該切断進行方向の前後以外の部位に配置されるノズル口に低圧の酸素ガスを供給するガス供給手段と、
を有することを特徴とするレーザ切断装置。
【請求項6】
被切断材にレーザ光を照射すると共に、該レーザ光を照射した切断点及びその近傍に酸素ガスを噴射しつつ切断するレーザ切断装置であって、
レーザ光を出射するノズル口の周囲に設けた複数のノズル口と、
前記複数のノズル口のうちで前記切断点よりも切断進行方向の前後に配置されるノズル口を判断する判断手段と、
前記判断手段により判断された前記切断点よりも切断進行方向の前後に配置されるノズル口にのみ酸素ガスを供給するガス供給手段と、
を有することを特徴とするレーザ切断装置。
【請求項7】
前記ガス供給手段は、前記切断進行方向の前後以外の部位に噴射するガスを遮断することを特徴とする請求項6に記載のレーザ切断装置。
【請求項8】
前記ガス供給手段は、前記切断進行方向の前後以外の部位に、酸素以外の単一組成からなるガス、或いは酸素を含まない混合ガスを噴射することを特徴とする請求項6に記載のレーザ切断装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate