説明

レーザ切断方法

【課題】目的の図形に対応させた経路の一部に被切断材と接続する接続部を形成する。
【解決手段】レーザ切断ノズルから被切断材1に対して該被切断材1を切断するのに適した切断速度、レーザの平均出力、アシストガス圧、レーザ光の焦点位置でレーザ切断ノズルを目的の図形2に対応させた経路3で移動させて切断する際に、一部の区間で、切断速度を前記被切断材を切断するのに適した切断速度よりも上昇させる条件、レーザの平均出力を前記被切断材を切断するのに適したレーザの平均出力よりも低下させる条件、アシストガス圧を前記被切断材を切断するのに適したアシストガス圧よりも低下させる条件、レーザ光の焦点位置を前記被切断材を切断するのに適した焦点位置よりも被切断材の板厚の内部方向に移動させる条件、を選択して被切断材に対する切断能力を低下させることで被切断材と目的の図形を接続する接続部を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ切断ノズルから被切断材に向けてレーザ光を照射すると共にアシストガスを噴射して該被切断材から目的の図形を切断する際に、目的の図形と被切断材とを接続する接続部を形成し得るようにしたレーザ切断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属からなる被切断材を切断する際に、レーザ切断法を採用することがある。このレーザ切断法は、レーザ切断ノズルから被切断材に向けてレーザ光を照射すると共にアシストガスを噴射して母材を蒸発又は溶融させ、且つ生成した溶融物を母材から排除しつつ、レーザ切断ノズルを目的の図形に対応させた経路で移動させることで連続した溝を形成して切断するものである。
【0003】
被切断材に対してレーザ切断を行う場合、切断定盤上に被切断材を載置した後、この被切断材に厚さ方向の貫通孔を形成(ピアシング)して切断開始点とし、レーザ切断ノズルを目的の図形に対応させた経路で移動させることで、被切断材から目的の図形を切り離すのが一般的である。このような切り離し切断を行った場合、目的の図形に対応した形状に切断された製品と製品が切り離された被切断材の残材が、互いに独立した状態で切断定盤上に存在することになる。このため、切断作業が終了した後、切断定盤から残材を排出する作業と、切断定盤から製品を排出する作業とを個別に行うことが必要となる。このように切断定盤から残材と製品の排出を分けて行うことは、作業が繁雑となり且つ切断定盤上での作業時間がながくなる虞がある。
【0004】
このため、図7に示すように、被切断材51から目的の図形52を切断する際に、両者を接続する接続部53を設けておくようにすることがある。この場合、被切断材の切断が終了した後、該被切断材51を切断定盤から排出すると同時に目的の図形52も排出することが可能であり、排出作業の短縮化をはかることができる。
【0005】
上記切断について簡単に説明する。図7(a)に示すように、被切断材51に於ける目的の図形52に対応する経路54から外れた位置55でピアシングを行った後、経路54に沿って矢印方向にレーザ切断ノズルを移動させて切断する。そして、経路54上に予め設定された接続部53の中断点53aまで切断したとき、レーザ切断ノズルを経路54から離脱させ、点56で切断を停止する。その後、経路54から離隔した点57でピアシングを行って切断を再開し、経路54上の再開点53bから残りの経路54に沿ってレーザ切断ノズルを移動させることで、目的の図形52である製品を切断する。
【0006】
上記の如くしてレーザ切断を行うことで、図7(b)に示すように、製品52と被切断材51とは、切断の中断点53aから再開点53bまでの長さLと板厚Tに相当する寸法を持った面積を持った接続部53によって接続されることとなる。このため、切断定盤上から排出する際には、被切断材51と製品52を1枚の材(被切断材51)として取り扱うことができる。従って、切断後の被切断材51と製品52の排出作業が極めて容易となり、これに伴って、切断定盤上に新たな被切断材を搬入する作業に着手するまでの時間を短縮することが可能となる。
【0007】
そして、切断定盤から排出された製品52との間に接続部53を有する被切断材51は、後続工程に送られて製品52を被切断材51から分離する作業が行われる。この分離作業は、作業員がプラスチックハンマー等を用いて接続部53の周囲に衝撃を与えることで行われるのが一般的である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の如く、製品52と被切断材51とを接続させた状態で切断する場合、接続部53は中断点53aから再開点53bまでの寸法Lと板厚Tとの積からなる面積を有する。このため、板厚が大きくなると、接続部の面積が大きくなって衝撃を加えても被切断材と製品の分離が困難になるという問題が生じている。
【0009】
上記問題を解決するために、接続部に於ける中断点から再開点までの寸法Lを小さくすることが有効であるが、この寸法を小さくすると、中断点で加えられた熱や、再開点で加えられた熱の影響を受けて接続部を構成する母材が溶融してしまい、製品を被切断材に接続しておくのに十分な強度を発揮し得なくなるという問題が派生している。
【0010】
また、切断を中断した後、ピアシングして切断を再開するため、切断に要する作業時間がながくなるという問題が生じる。更に、切断を停止する位置やピアシング位置は目的の図形の経路から外れた位置、即ち、残材側に設定されるため、この分、製品を切断した後の残材に於ける切断が可能な面積が減少することとなり、材料の歩留まりが低下するという問題も生じる。
【0011】
本発明の目的は、目的の図形に対応させた経路の一部を、切断能力を低下させて被切断材に対するレーザ切断を行うことによって、レーザ切断ノズルを経路に沿って連続的に移動させながら、該経路の一部に目的の図形と被切断材とを接続する接続部を形成し得るようにしたレーザ切断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るレーザ切断方法は、レーザ切断ノズルから被切断材に対して該被切断材を切断するのに適した切断速度、レーザの平均出力、アシストガス圧、レーザ光の焦点位置でレーザ切断ノズルを目的の図形に対応させた経路で移動させて切断する際に、レーザ切断ノズルを目的の図形に対応させた経路で移動させている過程に於ける一部の区間で、切断速度を前記被切断材を切断するのに適した切断速度よりも上昇させる条件、レーザの平均出力を前記被切断材を切断するのに適したレーザの平均出力よりも低下させる条件、アシストガス圧を前記被切断材を切断するのに適したアシストガス圧よりも低下させる条件、レーザ光の焦点位置を前記被切断材を切断するのに適した焦点位置よりも被切断材の板厚の内部方向に移動させる条件、からなる条件の中から一つの条件又は複数の条件を選択して被切断材に対する切断能力を低下させることで被切断材と目的の図形を接続する接続部を形成することを特徴とするものである。
【0013】
上記レーザ切断方法に於いて、前記レーザ切断ノズルを目的の図形に対応させた経路で移動させている過程に於ける一部の区間で、被切断材に対する切断能力を低下させることで被切断材と目的の図形とを接続する接続部を形成した後、被切断材を切断するのに適した切断速度、レーザの平均出力、アシストガス圧、レーザ光の焦点位置に復帰させてレーザ切断ノズルを目的の図形に対応させた経路で移動させて切断することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るレーザ切断方法では、被切断材に対する切断作業を中断することなく、被切断材から目的の図形に対応させた経路に、被切断材と目的の図形とを接続する接続部を形成することができる。即ち、レーザ切断ノズルを移動させる過程の一部の区間で、被切断材を切断するのに適した切断能力よりも低下させた切断能力で切断することによって、被切断材の表面側から厚さ方向に貫通することのない切溝を形成することができる。この切溝によって、被切断材の裏面側に接続部を形成することができる。
【0015】
上記切溝の深さは切断能力を低下させる度合いに応じて変化させることが可能である。即ち、切断能力を決定する条件である、切断速度、レーザの平均出力、アシストガス圧、レーザ光の焦点位置、の中から選択された1又は複数の条件を切断能力を低下させるように設定することで、切溝の深さを調整し、これにより接続部に於ける目的の図形と被切断材との接続部の面積を調整することができる。
【0016】
従って、レーザ切断が終了した被切断材を切断定盤から排出する際には、被切断材と目的の図形とが接続された状態として排出作業を容易に且つ短時間で行うことができる。また、後工程で被切断材と目的の図形とを分離する際には、接続部に適度な衝撃を加えることで、両者を容易に分離することができる。
【0017】
更に、目的の図形に対応させた経路の一部で切断能力を低下させて接続部を形成した後、被切断材を切断するのに適した切断能力に復帰させて切断することで、レーザ切断ノズルを目的の図形の経路から逸脱させることなく連続的に切断することができる。このため、被切断材には最初のピアシング以外にピアシングを行う必要がなく、無駄な時間をなくして切断作業を行うことができる。
【0018】
特に、切断を開始する際のピアシング以外のピアシングを行うことがないため、被切断材には初期のピアシングに連続した部分と切断を終了する部分とが目的の図形に対応させた経路と連続した切溝が形成されるものの、他の部位に余分な切溝が形成されることがない。従って、目的の図形を切断した後の残材に於ける切断可能面積を大きくすることが可能となり、材料歩留まりの向上をはかることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】被切断材を切断するための構成を模式的に説明する図である。
【図2】被切断材と目的の図形との間を接続する接続部の例を説明する図である。
【図3】切断速度を適正速度よりも低下させたときの接続部の形状を説明する図である。
【図4】切断速度を適正速度よりも低下させたときの接続部の形状を説明する図である。
【図5】平均出力条件を適正出力から減少させたときの接続部の形状を説明する図である。
【図6】平均出力条件を適正出力から減少させたときの接続部の形状を説明する図である。
【図7】従来より行われていた被切断材と目的の図形との間を接続する接続部の例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るレーザ切断方法について説明する。本発明に係るレーザ切断方法は、図1に示すように、被切断材1から目的の図形(「製品」ともいう)2に対応させた経路(以下「予定切断線」又は「切溝」という)3をレーザ切断する際に、該予定切断線3の一部に被切断材1と目的の図形2とが接続する接続部4を設けるものである。そして、この接続部4を設けることで、切断が終了した後、被切断材1を切断定盤から排出する際の作業を容易に行うと共に、排出された被切断材1から切断された製品2を容易に分離し得るようにしたものである。
【0021】
本発明に於いて、被切断材1と目的の図形2とを接続する接続部4の形状は限定するものではない。しかし、本発明に係るレーザ切断方法が、予定切断線3に沿った切断を継続して行いつつ、一部で被切断材1を切断するのに適した切断条件(適正切断条件)よりも切断能力を低下させた条件(能力低下条件)で切断することによって接続部4を形成するものであるため、被切断材1の上面側には連続した切溝3が形成され、接続部4は被切断材1の裏面側に形成される。
【0022】
また、接続部4の面積も限定するものではなく、目的の図形2を切断した後の被切断材1を切断定盤から排除する際に、該図形2の重量がかかったとき簡単に破断されることがなく、且つ被切断材1から目的の図形2を分離して製品とする際に衝撃を加えたときに容易に分離し得るような面積であることが好ましい。
【0023】
しかし、被切断材1と製品2を分離する際に大きな衝撃を加えることは好ましいことではないため、製品2の重量が大きくなるような場合、予定切断線3上に2箇所、或いはそれ以上の接続部4を形成することが好ましい。即ち、本発明に於いて、予定切断線3上に形成する接続部4の数は限定するものではなく、目的の図形2の面積と被切断材1の板厚等の条件に応じて適宜数の接続部4を形成することが好ましい。
【0024】
被切断材1と目的の図形2を接続する接続部4は、図形2に対応させた予定切断線3が途切れることがない状態で形成される。即ち、被切断材1の上面側から厚さ方向に向かって裏面に貫通することのない連続した切溝3が形成され、この結果、被切断材1の裏面側に、切溝3の未貫通部分の高さh(非切断部分に於ける被切断材1の厚さ)と、未貫通部分の長さL(非切断部分に於ける予定切断線3に沿った長さ)と、に応じた面積を持った接続部4が形成される。
【0025】
接続部4に於ける長さLは、被切断材1に接続部4を形成する際に切断能力を低下させる区間の長さであり、切断能力を低下させておく時間に応じて設定される。この切断能力を低下させておく時間を短くすることは、接続部4の長さを短くすることであり、切断時に発生する熱によって接続部4を形成すべき母材が溶融してしまう虞が生じる。また、切断能力を低下させておく時間を長くすることは、接続部4の長さを長くすることであり、長くし過ぎると被切断材1から製品2を分離する作業が困難になる虞が生じる。
【0026】
接続部4に於ける高さhは、被切断材1に接続部4を形成する際に切断能力を低下させたときの低下の度合いに応じて設定される。即ち、切断能力を低下させる度合いが小さいと、高さhの寸法が大きくなって被切断材1から製品2を分離する作業が困難になる虞が生じ、切断能力を低下させる度合いが大きいと、高さhの寸法が小さくなって接続部4としての機能を発揮し得なくなる虞がある。
【0027】
本発明に於いて、接続部4を形成する際の能力低下条件とは、切断速度を被切断材1を切断するのに適した切断速度よりも上昇させる条件(速度条件)、レーザの平均出力を被切断材1を切断するのに適したレーザの平均出力よりも低下させる条件(平均出力条件)、アシストガス圧を被切断材1を切断するのに適したアシストガス圧よりも低下させる条件(アシストガス条件)、レーザ光の焦点位置を被切断材1を切断するのに適した焦点位置よりも被切断材の板厚の内部方向に移動させる条件(焦点条件)、である。そして、これらの中の一つの条件を選択して、或いは複数の条件を選択して組み合わせることで、予定切断線3の一部に接続部4を形成することが可能である。
【0028】
接続部4を形成する際に速度条件を選択した場合、被切断材1を切断するのに適した切断速度(適正速度)をどの程度上昇させるかは限定するものではなく、形成すべき接続部4の面積や形状に応じて設定することが好ましい。特に、切断速度を変化させる場合、現在の速度から変化させる速度に移行するまでに時間(立ち上がり時間、立下り時間)が必要なため、接続部4の形状は被切断材1の裏面を底辺とする三角形又は台形となる。
【0029】
また、平均出力条件を選択した場合、切断に適した平均出力(適正平均出力)をどの程度まで低下させるかは限定するものではない。レーザ発振器の出力を変化させるのに要する時間は極めて短時間であり、平均出力は瞬時に変更されるため、接続部4の形状は略四角形となる。
【0030】
また、アシストガス条件を選択した場合、切断に適したアシストガス圧(適正圧力)をどの程度低下させるかについても限定するものではない。アシストガスを変化させる場合、アシストガスの供給装置からレーザ切断ノズルまでは距離があるため、アシストガスの圧力を変化させる指令が出てから実際に圧力が変わるまでに時間がかかる。このため、接続部4の形状は略三角形となる。
【0031】
また、焦点条件を選択した場合、切断に適した焦点(適正焦点)をどのように変化させるかは限定するものではない。焦点位置の変更はモータによってレーザ切断ノズルを昇降させるか、レンズを昇降させることで行われ、レーザ発振器からレーザ光が出射されている状態で焦点位置が変化する。このため、接続部4の始点4a側と終点4b側には傾斜部分が形成されることとなり、全体として形状は台形状となる。
【0032】
被切断材1に対し目的の図形2をレーザ切断する際に、レーザ切断ノズルを移動させる装置構成については限定するものではない。被切断材1をレーザ切断する切断装置としては、切断ロボットや、図面をトレースすると同時に同一経路で移動させるように構成したものがある。
【0033】
本実施例では、図1に模式的に示すように、切断定盤11を挟んで敷設された一対のレール12に走行可能に載置された門型のフレーム15と、該フレーム15に搭載されてレール12の敷設方向に対し直交する方向に横行する横行キャリッジ16と、横行キャリッジ16に搭載されたレーザ切断ノズル17と、レーザ切断ノズル17と接続されたレーザ発振器18と、フレーム15の走行及び横行キャリッジ16の横行、レーザ発振器18の動作等を含む切断に必要な一連の制御を行う数値制御(NC)装置を内蔵した制御盤19と、を有するレーザ切断装置20を用いている。
【0034】
レーザ切断ノズル17には図示しないアシストガスの供給装置が接続されている。このアシストガスの供給装置は、ボンベや工場内配管等の酸素ガスの供給源と、供給された酸素ガスの圧力を適正圧力に調整し、又は適正圧力よりも低い圧力に調整する圧力調整器と、を有して構成されている。
【0035】
レーザ切断ノズル17にはレーザ光を集光する図示しないレンズが内蔵されている。このレンズはレーザ切断ノズル17に固定され、或いはレーザ切断ノズル17内でレーザ光の光軸に沿って移動し得るように構成されている。このため、レーザ切断ノズル17及びレーザ切断ノズル17に内蔵されたレンズを被切断材1の表面に対し接近させ、或いは離隔させることで被切断材1に対する焦点位置を適正焦点に、或いは切断能力を低下させた位置に調整することが可能である。
【0036】
制御盤19に内蔵されたNC装置には、予め設定された被切断材1から切断すべき図形2の情報が入力されると共に該図形2に於ける接続部4の形成位置が入力される。また、NC装置には、フレーム15の走行速度及び横行キャリッジ16の横行速度を合成した速度からなる速度条件、レーザ発振器18の平均出力からなる平均出力条件、アシストガス圧からなるアシストガス条件、レーザ光の焦点位置からなる焦点条件、に対する適正切断条件、及び前記各条件の中から選択された1又は複数の条件の能力を低下させる能力低下条件が入力される。
【0037】
そして、切断定盤11に被切断材1を載置し、レーザ切断装置20を稼動させて該被切断材1から図形2を切断する。このとき、被切断材1に対して図形2を切断するための予定切断線3の情報と接続部4の情報、該図形2を切断するための情報に応じた適正条件及び能力低下条件に応じて、フレーム15、横行キャリッジ16、レーザ発振器18、レーザ切断ノズル17に接続されたアシストガス供給装置が制御され、被切断材1との間に接続部4が形成された図形2が切断される。
【0038】
上記の如くして被切断材1と図形2との間に接続部4を形成して切断を終了した後、被切断材1を切断定盤11から図示しない分離ヤードに搬送する。被切断材1を搬送する際に、幅方向の両側にフックを引っ掛けてクレーンによって吊り上げたとき、図形2は被切断材1と共に吊り上げられるため、一度の作業で被切断材1及び図形2を切断定盤11上から排出することが可能となる。
【0039】
本件発明者等は、被切断材1と図形2との間に接続部4を形成する際に、前述した速度条件、平均出力条件、アシストガス条件、焦点条件を変化させ、形成された接続部4を判定する実験を行った。
【0040】
この実験は、材質;SS400、板厚;6mm、12mm、16mm、19mm、22mm、レーザ発振器;ピーク出力4000Wの炭酸ガスレーザ、アシストガス;酸素ガスで行った。尚、適正な切断速度、適正なアシストガス圧は板厚に対応して変化する。
【0041】
速度条件は、適正速度から150%〜350%の範囲で50%毎に上昇させるように変化させた。また、平均出力条件はデューティ比を10%〜30%の範囲で10%毎に減少させるように変化させた。また、圧力条件は適正圧力から10%〜30%の範囲で10%毎に低下させるように変化させた。また、焦点条件は被切断材1の表面から2mm〜6mmの範囲で2mm毎に内部に入り込むように変化させた。更に、適正条件を能力低下条件に変化させる長さ(接続部4の長さLに対応する長さ)は2mm〜10mmの範囲で2mm毎に変化させた。尚、実験に際し、変数は一つとし、他の条件は適正条件で保持した
【0042】
上記実験の結果、板厚が薄い鋼板、例えば板厚が6mmの鋼板を切断する場合、速度条件を150%としたときには、能力低下条件に変化させる長さが2mm〜10mmの範囲では接続部4を形成することなく、通常の切り離し切断が行われてしまうことが判明した。また、速度条件を200%としたときには、能力低下条件に変化させる長さが2mm〜6mmでは接続部4を形成することなく、通常の切り離し切断が行われてしまうことが判明した。
【0043】
速度条件を250%〜350%としたときには、能力低下条件に変化させる長さが6mmよりも大きい範囲で良好な接続部4を形成することが可能であった(図3参照)。図に示すように、接続部4の形状は略三角形となり、能力低下条件を過酷にする程、面積を大きくすることが可能である。
【0044】
また、板厚を厚くしてゆき、例えば板厚が12mmの鋼板を切断する場合、速度条件を150%としたときには、能力低下条件に変化させる長さが2mm、4mmの範囲では接続部4を形成することなく、通常の切り離し切断が行われてしまうものの、前記長さが6mmよりも大きい範囲では良好な接続部4を形成することが可能であった(図4参照)。
【0045】
また、速度条件を200%としたときには、能力低下条件に変化させる長さが2mmでは接続部4を形成することなく、通常の切り離し切断が行われてしまうことが判明した。前記長さが6mmでは良好な接続部4を形成することが可能であるものの、8mmよりも大きくした場合、切断そのものが不可能であった。
【0046】
また、速度条件を250%、300%の範囲としたときには、能力低下条件に変化させる長さが2mmでは接続部4を形成することなく、通常の切り離し切断が行われてしまうことが判明した。前記長さが4mmでは良好な接続部4を形成することが可能であるものの、6mmよりも大きくした場合、切断そのものが不可能であった。
【0047】
また、速度条件を350%としたときには、能力低下条件に変化させる長さが2mmでは接続部4を形成することなく、通常の切り離し切断が行われてしまうことが判明した。前記長さを4mmよりも大きくした場合、切断そのものが不可能であった。
【0048】
また、板厚が16mmの鋼板を切断する場合、速度条件を150%としたときには、能力低下条件に変化させる長さが2mm、4mmの範囲では接続部4を形成することなく、通常の切り離し切断が行われてしまうものの、前記長さが6mmよりも大きい範囲では良好な接続部4を形成することが可能であった。
【0049】
また、速度条件を200%としたときには、能力低下条件に変化させる長さが2mm、4mmでは接続部4を形成することなく、通常の切り離し切断が行われてしまうことが判明した。前記長さが6mmでは切断そのものが不可能であった。
【0050】
また、速度条件を250%としたときには、能力低下条件に変化させる長さが2mmでは接続部4を形成することなく、通常の切り離し切断が行われてしまうことが判明した。前記長さが4mmでは良好な接続部4を形成することが可能であるものの、6mmよりも大きくした場合、切断そのものが不可能であった。
【0051】
また、速度条件を300%、350%としたときには、能力低下条件に変化させる長さが2mmでは接続部4を形成することなく、通常の切り離し切断が行われてしまうことが判明した。前記長さを4mmよりも大きくした場合、切断そのものが不可能であった。
【0052】
更に、板厚が19mmの鋼板を切断する場合、速度条件を150%としたときには、能力低下条件に変化させる長さが2mmでは接続部4を形成することなく、通常の切り離し切断が行われてしまうものの、前記長さが4mmよりも大きい範囲では良好な接続部4を形成することが可能であった。
【0053】
また、速度条件を200%〜300%の範囲としたときには、能力低下条件に変化させる長さが2mmでは良好な接続部4を形成することが可能であった。前記長さを4mmよりも大きくした場合、切断そのものが不可能であった。更に、速度条件を350%とした場合、能力低下条件の長さを2mmにした場合でも切断そのものが不可能であった。
【0054】
更に、板厚が22mmの鋼板を切断する場合、速度条件を150%〜350%の範囲としたときには、能力低下条件に変化させる長さを2mmとしたとき良好な接続部4を形成することが可能であった。しかし、前記長さが4mmよりも大きい範囲では切断そのものが不可能であった。
【0055】
上記結果から、切断すべき板厚に応じて変化するものの、切断条件を選択した場合、適正速度よりも上昇させた能力低下条件を設定することによって、被切断材1から図形2を切断する過程で接続部4を形成することが可能であるといえる。
【0056】
平均出力条件は、適正出力のデューティ比を10%〜30%の範囲で10%毎に減少させるように変化させた。板厚が6mmの鋼板を切断する場合、デューティ比を10%、20%減少させたときには、能力低下条件に変化させる長さが2mm〜10mmの範囲では接続部4を形成することなく、通常の切り離し切断が行われてしまうことが判明した(図5参照)。
【0057】
また、デューティ比を30%減少させたときには、能力低下条件に変化させる長さが2mm、4mmでは接続部4を形成することなく、通常の切り離し切断が行われてしまうことが判明した。しかし、能力低下条件に変化させる長さが6mmよりも大きい範囲で良好な接続部4を形成することが可能であった。図5に示すように、接続部4の形状は略四角形となり、能力低下条件を過酷にする程、面積を大きくすることが可能である。
【0058】
板厚が12mmの鋼板を切断する場合、デューティ比を10%減少させたときには、能力低下条件に変化させる長さが2mm〜10mmの範囲では接続部4を形成することなく、通常の切り離し切断が行われてしまうことが判明した(図6参照)。
【0059】
また、デューティ比を20%減少させたときには、能力低下条件に変化させる長さが2mm、4mmでは接続部4を形成することなく、通常の切り離し切断が行われてしまうことが判明した。また、能力低下条件に変化させる長さが6mmのときには良好な接続部4を形成することが可能であったが、8mmのときには通常の切り離し切断が行われてしまった。
【0060】
また、デューティ比を30%減少させたときには、能力低下条件に変化させる長さが2mm〜6mmの範囲では接続部4を形成することなく、通常の切り離し切断が行われてしまうことが判明した。しかし、能力低下条件に変化させる長さが8mmよりも大きい範囲では切断そのものが不可能であった。
【0061】
板厚が16mmの鋼板を切断する場合、デューティ比を10%、20%減少させたときには、能力低下条件に変化させる長さが2mm〜10mmの範囲では接続部4を形成することなく、通常の切り離し切断が行われてしまうことが判明した。
【0062】
また、デューティ比を30%減少させたときには、能力低下条件に変化させる長さが2mm〜10mmの範囲で切断そのものが不可能であった。
【0063】
板厚が19mmの鋼板を切断する場合、デューティ比を10%減少させたときには、能力低下条件に変化させる長さが2mm〜10mmの範囲では接続部4を形成することなく、通常の切り離し切断が行われてしまうことが判明した。
【0064】
また、デューティ比を20%減少させたときには、能力低下条件に変化させる長さが2mmでは接続部4を形成することなく、通常の切り離し切断が行われてしまうことが判明した。また、能力低下条件に変化させる長さが4mmよりも大きい範囲で良好な接続部4を形成することが可能であった。
【0065】
また、デューティ比を30%減少させたときには、能力低下条件に変化させる長さが2mm〜10mmの範囲で切断そのものが不可能であった。
【0066】
板厚が22mmの鋼板を切断する場合、デューティ比を10%減少させたときには、能力低下条件に変化させる長さが2mm〜10mmの範囲では接続部4を形成することなく、通常の切り離し切断が行われてしまうことが判明した。
【0067】
また、デューティ比を20%減少させたときには、能力低下条件に変化させる長さが2mmでは接続部4を形成することなく、通常の切り離し切断が行われてしまうことが判明した。また、能力低下条件に変化させる長さが4mm〜8mmのときには良好な接続部4を形成することが可能であったが、10mmのときには切断が不可能であった。
【0068】
また、デューティ比を30%減少させたときには、能力低下条件に変化させる長さが2mmのとき良好な接続部4を形成することが可能であった。しかし、能力低下条件に変化させる長さが4mmよりも大きい範囲では切断そのものが不可能であった。
【0069】
上記結果から、切断すべき板厚に応じて変化するものの、平均出力条件を選択した場合、適正出力よりもデューティ比を減少させた能力低下条件を設定することによって、被切断材1から図形2を切断する過程で接続部4を形成することが可能であるといえる。
【0070】
圧力条件は、適正圧力から10%〜30%の範囲で10%毎に低下させるように変化させた。板厚が6mmの鋼板を切断する場合、適正圧力は0.034MPaである。この適正圧力を10%低下させたとき、能力低下条件に変化させる長さが2mm〜10mmの範囲では接続部4を形成することなく、通常の切り離し切断が行われてしまうことが判明した。
【0071】
また、圧力条件を20%低下させたときには、能力低下条件に変化させる長さが10mmよりも大きい範囲で良好な接続部4を形成することが可能であった。また、圧力条件を30%低下させたときには、能力低下条件に変化させる長さが6mmよりも大きい範囲で良好な接続部4を形成することが可能であった。
【0072】
また、板厚が12mmの鋼板を切断する場合、適正圧力は0.041MPaである。この適正圧力を10%低下させたとき、能力低下条件に変化させる長さが2mm〜10mmの範囲では接続部4を形成することなく、通常の切り離し切断が行われてしまうことが判明した。
【0073】
また、圧力条件を20%低下させたときには、能力低下条件に変化させる長さが10mmよりも大きい範囲で良好な接続部4を形成することが可能であった。また、圧力条件を30低下させたときには、能力低下条件に変化させる長さが6mmよりも大きい範囲で良好な接続部4を形成することが可能であった。
【0074】
また、板厚が16mmの鋼板を切断する場合、適正圧力は0.041MPaであり、このアシストガスの外側に酸素ガスからなるシールドガスを噴射している。この適正圧力を10%低下させたとき、能力低下条件に変化させる長さが2mm〜10mmの範囲では接続部4を形成することなく、通常の切り離し切断が行われてしまうことが判明した。
【0075】
また、圧力条件を20%低下させたときには、能力低下条件に変化させる長さが8mmよりも大きい範囲で良好な接続部4を形成することが可能であった。また、圧力条件を30%低下させたときには、能力低下条件に変化させる長さが4mmよりも大きい範囲で良好な接続部4を形成することが可能であった。
【0076】
また、板厚が19mmの鋼板を切断する場合、適正圧力は0.041MPaであり、このアシストガスの外側に酸素ガスからなるシールドガスを噴射している。この適正圧力を10%低下させたとき、能力低下条件に変化させる長さが2mm〜10mmの範囲では接続部4を形成することなく、通常の切り離し切断が行われてしまうことが判明した。
【0077】
また、圧力条件を20%低下させたときには、能力低下条件に変化させる長さが4mm〜8mmの範囲にあるとき良好な接続部4を形成することが可能であった。しかし、10mmとしたときには切断が不可能であった。また、圧力条件を30%低下させたときには、能力低下条件に変化させる長さが2mm〜4mmの範囲にあるとき良好な接続部4を形成することが可能であった。しかし、6mmよりも大きい範囲では切断が不可能であった。
【0078】
また、板厚が22mmの鋼板を切断する場合、適正圧力は0.040MPaであり、このアシストガスの外側に酸素ガスからなるシールドガスを噴射している。この適正圧力を10%低下させたとき、能力低下条件に変化させる長さが2mm〜10mmの範囲では接続部4を形成することなく、通常の切り離し切断が行われてしまうことが判明した。
【0079】
また、圧力条件を20%低下させたときには、能力低下条件に変化させる長さが4mm〜6mmの範囲にあるとき良好な接続部4を形成することが可能であった。しかし、8mmよりも大きい範囲では切断が不可能であった。また、圧力条件を30%低下させたときには、能力低下条件に変化させる長さが2mm〜10mmの範囲では切断そのものが不可能であった。
【0080】
上記結果から、切断すべき板厚に応じて変化するものの、圧力条件を選択した場合、適正圧力よりも低下させた能力低下条件を設定することによって、被切断材1から図形2を切断する過程で接続部4を形成することが可能であるといえる。
【0081】
焦点条件は、被切断材1の表面から2mm〜6mmの範囲で2mm毎に内部に入り込むように変化させた。板厚が6mmの鋼板を切断する場合、焦点条件を2mm〜6mmとした場合には、能力低下条件に変化させる長さが2mm〜10mmの範囲では接続部4を形成することなく、通常の切り離し切断が行われてしまうことが判明した。
【0082】
また、板厚が12mmの鋼板を切断する場合、焦点条件を2mmとしたときには、能力低下条件に変化させる長さが2mm〜10mmの範囲では接続部4を形成することなく、通常の切り離し切断が行われてしまうことが判明した。焦点条件を4mmとしたときには、能力低下条件に変化させる長さが2mm〜10mmでは良好な接続部4を形成することが可能であった。また、焦点条件を6mmとしたときには、切断そのものが不可能であった。
【0083】
また、板厚が16mmの鋼板を切断する場合、焦点条件を2mmとしたときには、能力低下条件に変化させる長さが2mm〜10mmの範囲では接続部4を形成することなく、通常の切り離し切断が行われてしまうことが判明した。焦点条件を4mmとしたときには、能力低下条件に変化させる長さが2mmでは接続部4を形成することなく、通常の切り離し切断が行われてしまうことが判明した。前記長さが4mm〜8mmでは良好な接続部4を形成することが可能であったが、10mmのときには切断が不可能であった。また、焦点条件を6mmとしたときには、切断そのものが不可能であった。
【0084】
また、板厚が19mmの鋼板を切断する場合、焦点条件を2mmとしたときには、能力低下条件に変化させる長さが2mmでは接続部4を形成することなく、通常の切り離し切断が行われてしまうことが判明した。前記長さが4mm〜10mmでは良好な接続部4を形成することが可能であった。また、焦点条件を4mm、6mmとしたときには、切断そのものが不可能であった。
【0085】
また、板厚が22mmの鋼板を切断する場合、焦点条件を2mmとしたときには、能力低下条件に変化させる長さが2mm〜6mmでは良好な接続部4を形成することが可能であった。しかし、8mmより大きい範囲では切断が不可能であった。焦点条件を4mm、6mmとしたときには、能力低下条件に変化させる長さが2mm〜10mmの範囲では切断そのものが不可能であった。
【0086】
上記結果から、切断すべき板厚に応じて変化するものの、焦点条件を選択した場合、焦点位置を被切断材1の表面から下降させた能力低下条件を設定することによって、被切断材1から図形2を切断する過程で接続部4を形成することが可能であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
上記の如く構成した本発明のレーザ切断方法では、大判の被切断材から複数の製品を切断するような場合に利用すると有利である。
【符号の説明】
【0088】
1 被切断材
2 図形、製品
3 経路、予定切断線、切溝
4 接続部
11 切断定盤
12 レール
15 フレーム
16 横行キャリッジ
17 レーザ切断ノズル
18 レーザ発振器
19 制御盤
20 レーザ切断装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ切断ノズルから被切断材に対して該被切断材を切断するのに適した切断速度、レーザの平均出力、アシストガス圧、レーザ光の焦点位置でレーザ切断ノズルを目的の図形に対応させた経路で移動させて切断する際に、
レーザ切断ノズルを目的の図形に対応させた経路で移動させている過程に於ける一部の区間で、
切断速度を前記被切断材を切断するのに適した切断速度よりも上昇させる条件、
レーザの平均出力を前記被切断材を切断するのに適したレーザの平均出力よりも低下させる条件、
アシストガス圧を前記被切断材を切断するのに適したアシストガス圧よりも低下させる条件、
レーザ光の焦点位置を前記被切断材を切断するのに適した焦点位置よりも被切断材の板厚の内部方向に移動させる条件、
からなる条件の中から一つの条件又は複数の条件を選択して被切断材に対する切断能力を低下させることで被切断材と目的の図形を接続する接続部を形成することを特徴とするレーザ切断方法。
【請求項2】
前記レーザ切断ノズルを目的の図形に対応させた経路で移動させている過程に於ける一部の区間で、被切断材に対する切断能力を低下させることで被切断材と目的の図形とを接続する接続部を形成した後、被切断材を切断するのに適した切断速度、レーザの平均出力、アシストガス圧、レーザ光の焦点位置に復帰させてレーザ切断ノズルを目的の図形に対応させた経路で移動させて切断することを特徴とする請求項1に記載したレーザ切断方法。

【図1】
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【図2】
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【図7】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−235291(P2011−235291A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106254(P2010−106254)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(000185374)小池酸素工業株式会社 (64)
【Fターム(参考)】