説明

レーザ加工ロボットシステム及びその制御方法

【課題】 レーザ加工ロボットシステムにおけるレーザスキャンヘッドの早送り動作に要する時間を短縮して、サイクルタイムの短縮及び加工効率の向上を図る。
【解決手段】 レーザ加工ロボットシステム10は、マニピュレータ12と、マニピュレータ12に装着されるレーザ加工ツール14と、マニピュレータ12及びレーザ加工ツール14の動作を制御する制御装置16とを備える。レーザ加工ツール14は、可動ミラー20を内蔵するレーザスキャンヘッド18と、レーザスキャンヘッド18を移動可能に支持する可動支持機構22とを備える。制御装置16は、レーザスキャンヘッド18がレーザ光を出射しない非加工時に、可動支持機構22の動作を制御して、レーザスキャンヘッド18を早送り動作させる早送り動作制御部24を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工ロボットシステムに関する。本発明はさらに、レーザ加工ロボットシステムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用ロボットでレーザ加工を実施するレーザ加工ロボットシステムは、例えば自動車製造ラインにおけるスポット溶接ロボットに代わり得る加工システムとして、近年注目されている。レーザ加工ロボットシステムでは、可動ミラーを内蔵したレーザ光走査用ヘッド(本願で「レーザスキャンヘッド」と称する)を有するレーザ加工ツールが、マニピュレータの端部にエンドエフェクタとして装着され、マニピュレータ及び可動ミラーの動作を制御することにより、加工対象面に沿ってレーザ光を正確に走査させながらレーザ加工を行なうことができる。
【0003】
例えば、特許文献1は、可動ミラーを内蔵したレーザスキャンヘッドを有するレーザ溶接システムを開示する。このレーザ溶接システムでは、レーザスキャンヘッドを、自動車の車体を溶接するロボットに設置して、ロボットの動作によりレーザスキャンヘッドを位置決めしながら溶接を行なうことができる。
【0004】
【特許文献1】特開2002−301585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レーザ加工ロボットシステムは、スポット溶接ロボットや他の加工装置を備えた加工システムに比べて一般に高価であるから、サイクルタイムを短縮して加工効率を向上させることが、コスト削減の観点で望まれている。サイクルタイムを短縮するためには、待機位置と加工作業位置との間や異なる加工作業位置同士の間でレーザスキャンヘッドを移動させる、いわゆる早送り動作に要する時間を短縮することが有効である。従来、このような早送り動作は、マニピュレータの動作によって実行されている。しかし一般に、マニピュレータの動作は、慣性の大きいアームの移動を伴うので、早送り時間を効果的に短縮することが困難であった。
【0006】
早送り時間はすなわち、レーザスキャンヘッドがレーザ光を出射しない非加工時間である。したがって、早送り時間の短縮が困難な場合には、レーザスキャンヘッドがレーザ光を出射する実際の加工時間の、サイクルタイムに占める割合が低くなり、加工効率が低下する。
【0007】
本発明の目的は、マニピュレータの端部にレーザ加工ツールを装着してレーザ加工を行なうレーザ加工ロボットシステムにおいて、レーザスキャンヘッドの早送り動作に要する時間を容易かつ効果的に短縮でき、サイクルタイムの短縮及び加工効率の向上を実現できるレーザ加工ロボットシステムを提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、マニピュレータの端部にレーザ加工ツールを装着してレーザ加工を行なうレーザ加工ロボットシステムの制御方法であって、レーザスキャンヘッドの早送り動作に要する時間を容易かつ効果的に短縮でき、サイクルタイムの短縮及び加工効率の向上を実現できる制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、マニピュレータと、マニピュレータに装着されるレーザ加工ツールと、マニピュレータ及びレーザ加工ツールの動作を制御する制御装置とを具備するレーザ加工ロボットシステムにおいて、レーザ加工ツールは、可動ミラーを内蔵するレーザスキャンヘッドと、レーザスキャンヘッドを移動可能に支持する可動支持機構とを備え、制御装置は、レーザスキャンヘッドがレーザ光を出射しない非加工時に、可動支持機構の動作を制御して、レーザスキャンヘッドを早送り動作させる早送り動作制御部を備えることを特徴とするレーザ加工ロボットシステムを提供する。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のレーザ加工ロボットシステムにおいて、早送り動作制御部は、非加工時に、可動支持機構の動作制御に加えて、マニピュレータ及び可動ミラーの少なくとも一方の動作を制御するレーザ加工ロボットシステムを提供する。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のレーザ加工ロボットシステムにおいて、制御装置は、レーザスキャンヘッドがレーザ光を出射する加工時に、マニピュレータ、可動ミラー及び可動支持機構のうち、少なくとも1つの動作を制御して、レーザ加工ツールを加工動作させる加工動作制御部を備えるレーザ加工ロボットシステムを提供する。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載のレーザ加工ロボットシステムにおいて、可動支持機構は、加工対象面に対してレーザスキャンヘッドを、鉛直方向へ移動させる縦移動部と、水平方向へ移動させる横移動部とを備えるレーザ加工ロボットシステムを提供する。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載のレーザ加工ロボットシステムにおいて、マニピュレータ、可動ミラー及び可動支持機構のうち、少なくとも1つの動作を、オフラインシミュレーションにより制御装置に教示するオフライン教示部をさらに具備し、オフライン教示部は、マニピュレータの動作量を最少にすることを条件として、加工対象物に対する一連のレーザ加工プログラムを作成するレーザ加工ロボットシステムを提供する。
【0014】
請求項6に記載の発明は、マニピュレータと、マニピュレータに装着されるレーザ加工ツールとを具備するレーザ加工ロボットシステムの、マニピュレータ及びレーザ加工ツールの動作を制御する制御方法であって、可動ミラーを内蔵するレーザスキャンヘッドと、レーザスキャンヘッドを移動可能に支持する可動支持機構とを備えるレーザ加工ツールを用意し、レーザスキャンヘッドがレーザ光を出射しない非加工時に、可動支持機構の動作を制御して、レーザスキャンヘッドを早送り動作させることを特徴とする制御方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、レーザ加工プログラムにおける非加工時に、早送り動作制御部の制御下で可動支持機構が作動することにより、マニピュレータを動作させること無く、レーザスキャンヘッドを早送り動作させることができる。したがって、慣性の大きいマニピュレータのアームの移動を伴わずに、レーザスキャンヘッドのみの移動で早送り動作を実行できるので、早送り時間を効果的に短縮でき、以ってサイクルタイムの短縮及び加工効率の向上を実現できる。またそれにより、製品の製造コストを低減できる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、レーザスキャンヘッドの早送り動作に付随する予備的動作を、マニピュレータ及び可動ミラーの少なくとも一方の動作により遂行できる。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、早送り動作制御部とは異なる加工動作制御部の制御下で、レーザ加工ツールによる加工動作を迅速かつ正確に遂行できる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、レーザスキャンヘッドの3次元的動作を簡単な構成で確実に制御できる。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、オフラインシミュレーションによって、サイクルタイムを低減したレーザ加工プログラムを作成することができる。
【0020】
請求項6に記載の発明によれば、レーザ加工プログラムにおける非加工時に、可動支持機構が作動することにより、マニピュレータを動作させること無く、レーザスキャンヘッドを早送り動作させることができる。したがって、慣性の大きいマニピュレータのアームの移動を伴わずに、レーザスキャンヘッドのみの移動で早送り動作を実行できるので、早送り時間を効果的に短縮でき、以ってサイクルタイムの短縮及び加工効率の向上を実現できる。またそれにより、製品の製造コストを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。全図面に渡り、対応する構成要素には共通の参照符号を付す。
図面を参照すると、図1は、本発明に係るレーザ加工ロボットシステム10の基本構成を示す。レーザ加工ロボットシステム10は、ロボット機構部を構成するマニピュレータ12と、マニピュレータ12に装着されるレーザ加工ツール14と、マニピュレータ12及びレーザ加工ツール14の動作を制御する制御装置16とを備える構成において、マニピュレータ12の端部に、移動可能なレーザスキャンヘッド18を備えたレーザ加工ツール14を装着することで、レーザスキャンヘッド18の早送り動作に要する時間を短縮できるようにしたものである。具体的には、レーザ加工ツール14は、可動ミラー20を内蔵するレーザスキャンヘッド18と、レーザスキャンヘッド18を移動可能に支持する可動支持機構22とを備える。そして制御装置16は、レーザスキャンヘッド18がレーザ光を出射しない非加工時に、可動支持機構22の動作を制御して、レーザスキャンヘッド18をレーザ加工ツール14内で早送り動作させる早送り動作制御部24を備えて構成される。
【0022】
上記構成を有するレーザ加工ロボットシステム10によれば、レーザ加工プログラムにおいて、待機位置と加工作業位置との間や異なる加工作業位置同士の間でレーザスキャンヘッド18を移動させようとするときに、早送り動作制御部24の制御下で可動支持機構22が作動することにより、マニピュレータ12を動作させること無く、レーザスキャンヘッド18を早送り動作させることができる。したがって、慣性の大きいマニピュレータ12のアームの移動を伴わずに、レーザスキャンヘッド18のみの移動で早送り動作を実行できるので、早送り時間を効果的に短縮でき、以ってサイクルタイムの短縮及び加工効率の向上を実現できる。
【0023】
上記基本構成を有するレーザ加工ロボットシステム10の一実施形態を、図2〜図4を参照してさらに詳細に説明する。図示実施形態において、マニピュレータ12は、例として6軸を有する多関節型マニピュレータであって、アーム先端のフランジ面(すなわちメカニカルインタフェース)26に、レーザ加工ツール14が装着されている(図2)。マニピュレータ12は、制御装置16の制御下で多様に動作して、レーザ加工ツール14を所望位置に位置決めする。本願では例として、6軸のマニピュレータ12の個々の制御軸を#1〜#6で表示する。
【0024】
レーザ加工ツール14は、レーザスキャンヘッド18をレーザ加工ツール14の中で移動させるための可動支持機構22を有している。可動支持機構22は、図3に示すように、加工対象物Wの表面(すなわち加工対象面)Sに対してレーザスキャンヘッド18を、鉛直方向(すなわち高さ方向)へ移動させる縦移動部28と、水平方向へ移動させる横移動部30とを備える。縦移動部28は、レーザスキャンヘッド18の高さ方向の位置(すなわち加工対象面Sからの距離)を調節するためのものであって、例えばスライダを有するリニアモータ機構(図示せず)を備えることができる。また、横移動部30は、加工対象面S上の加工線(例えば溶接線)に沿ってレーザスキャンヘッド18を移動させたり、レーザスキャンヘッド18を早送り動作させたりするためのものであって、例えばスライダを有するリニアモータ機構(図示せず)を備えることができる。
【0025】
縦移動部28は、マニピュレータ12のフランジ面26に固定的に支持される縦ベース32を備える。また横移動部30は、縦ベース32に移動可能に支持される横ベース34を備える。そしてレーザスキャンヘッド18は、横移動部30の横ベース34に移動可能に支持される。縦移動部28は、制御装置16の制御下で、例えばフランジ面26を基準に設定されるメカニカルインタフェース座標系(原点F)のZ軸に沿って、縦ベース32上で横ベース34を直線移動させる。また横移動部30は、制御装置16の制御下で、例えばメカニカルインタフェース座標系(原点F)のX軸に沿って、横ベース34上でレーザスキャンヘッド18を直線移動させる。本願では、縦移動部28の制御軸を#7で、また横移動部30の制御軸を#8で表示する。なお、可動支持機構22の縦移動部28及び横移動部30として、リニアモータ機構に代えて、例えばボールネジとサーボモータとを組み合わせた直動機構を採用することもできる。
【0026】
レーザスキャンヘッド18は、図4に示すように、ケーシング36に収容される一対の可動ミラー20a、20bと、それら可動ミラー20a、20bを個々に回転駆動する一対のサーボモータ38、40と、レーザ光Lの出射口に設置されるレンズ42とを備える。可動ミラー20a、20bは、制御装置16の制御下で、個々のサーボモータ38、40の駆動により、互いに直交する軸線を中心に適宜角度に回転する。それによりレーザスキャンヘッド18は、外部から導入されたレーザ光を、可動ミラー20a、20bによる反射角度を連続的に変化させながら、レンズ42を介して所望方向へ出射する。本願では、可動ミラー20aを駆動するサーボモータ38の制御軸を#9で、また可動ミラー20bを駆動するサーボモータ40の制御軸を#10で表示する。なお、レーザスキャンヘッド18は、1個又は3個以上の可動ミラーを備えることもできる。
【0027】
レーザスキャンヘッド18には、光ファイバ44を介して、レーザ発振器46が接続される(図2)。レーザ発振器46は、制御装置16の制御下でレーザ光を生成し、光ファイバ44を通してレーザ光をレーザ加工ツール18に供給する。制御装置16は、レーザ発振器46に対し、発振動作のオン/オフ、レーザ光の出力等を制御することができる。
【0028】
図2に示すように、制御装置16は、前述した早送り動作制御部24に加えて、レーザスキャンヘッド18がレーザ光Lを出射する加工時に、マニピュレータ12、可動ミラー20及び可動支持機構22のうち、少なくとも1つの動作を制御して、レーザ加工ツール14を加工動作させる加工動作制御部48を備える。制御装置16は、レーザ加工ロボットシステム10の全体を制御するロボット制御装置であって、早送り動作制御部24及び加工動作制御部48を含むメインCPU(中央演算処理装置)50を備える。メインCPU50には、RAM及びROMからなるメモリ52が接続されるとともに、レーザ加工ロボットシステム10における個々の制御軸#1〜#10を制御するサーボコントローラ(図示せず)、レーザ発振器46用の入出カインタフェース(図示せず)、及び教示操作盤54用の入出力インタフェース(図示せず)が、バス(図示せず)を介して接続される。さらに、メインCPU50には、オフライン教示部56又はその外部メモリを、任意選択的に接続することができる。
【0029】
このように、図示実施形態によるレーザ加工ロボットシステム10では、制御装置16の加工動作制御部48が、マニピュレータ12、レーザ加工ツール14(可動ミラー20及び可動支持機構22)及びレーザ発振器46の動作を適宜に制御することにより、レーザスキャンヘッド18を所望位置に迅速かつ正確に位置決めして、加工対象面S上でレーザ光Lを所望の加工経路に沿って正確に走査させながら、レーザ加工を実行することができる。さらにレーザ加工ロボットシステム10では、制御装置16の早送り動作制御部24が、マニピュレータ12及びレーザ加工ツール14(可動ミラー20及び可動支持機構22)の動作を適宜に制御することにより、レーザスキャンヘッド18を所望の早送り経路に沿って早送り動作させることができる。
【0030】
教示操作盤54は、マニピュレータ12及びレーザ加工ツール14(可動ミラー20及び可動支持機構22)の動作の教示や座標設定等を行なうためのものであり、図示しないLCD等の表示画面及び種々の入力キーを備える。また教示操作盤54は、マニピュレータ12及びレーザ加工ツール14の個々の制御軸#1〜#10を、手動モードで動作させるためのジョグ送り機能も有する。教示操作盤54のジョグ送り機能では、例えば、マニピュレータ12を停止させた状態で、レーザ加工ツール14の可動支持機構22の縦移動部28(軸#7)を動作させて、レーザスキャンヘッド18と加工対象面Sとの間の距離を手動モードで調整したり、可動支持機構22の横移動部30(軸#8)を動作させて、レーザスキャンヘッド18の位置を加工対象面Sの上方で水平方向へ調整したりすることができる。
【0031】
オフライン教示部56は、制御装置16に任意選択的に接続可能なパーソナルコンピュータ等から構成される。オフライン教示部56は、マニピュレータ12、可動ミラー20及び可動支持機構22のうち、少なくとも1つの動作を、画面表示に従って行うオフラインシミュレーションにより制御装置16に教示することができる。
【0032】
図示実施形態によるレーザ加工ロボットシステム10では、レーザ加工プログラムの作成(すなわち教示)を、教示操作盤54を用いるリモートティーチ方式と、オフライン教示部56を用いるオフラインプログラミング方式との、いずれかにより行なうことができる。リモートティーチ方式では、教示操作盤54のジョグ送り機能を使用して、マニピュレータ12(軸#1〜#6)及びレーザ加工ツール14(軸#7〜#10)を手動モードで動作させ、レーザスキャンヘッド18及び可動ミラー20を、目標加工位置に順次対応付けて位置決めすることで、移動経路(加工経路及び早送り経路)を教示する。そして、教示点間の移動形式(直線移動、円弧移動、各制御軸移動)、移動速度、位置決め割合(停止、加減速通過、定速通過)等のヘッド移動条件、及びレーザ光Lのパワー等のレーザ出力条件を指定するパラメータや、レーザ発振器46の動作のオン/オフ命令等を追加することにより、レーザ加工プログラムが作成される。
【0033】
オフラインプログラミング方式では、例えばパーソナルコンピュータからなるオフライン教示部56において、実際のレーザ加工ロボットシステム10を3次元モデル化したワークセルをオフラインプログラミングシステム上で定義し、そのワークセル内で教示点を定めることにより、レーザスキャンヘッド18及び可動ミラー20の移動経路(加工経路及び早送り経路)を教示する。さらにオフライン教示部56で、上記したヘッド移動条件及びレーザ出力条件を指定するパラメータ、レーザ発振器46のオン/オフ命令等を追加することにより、レーザ加工プログラムが作成される。いずれの方式においても、作成されたレーザ加工プログラムは、制御装置16のメモリ52に格納される。
【0034】
次に、レーザ加工ロボットシステム10で実行されるレーザ加工プログラム及びその教示手順の一例を、図2を参照して説明する。
加工対象物Wにおいて教示すべきレーザスキャンヘッド18及び可動ミラー20の移動経路(加工経路及び早送り経路)は、可動ミラー20単体の可動範囲(すなわちレーザ光照射範囲)を基準として加工対象面S上で設定された加工エリアに関連して教示される。図示の例では、加工経路は、加工エリアS1内での可動ミラー20の動作によるP1→P2(レーザ発振器オン)、P2→P3(レーザ発振器オフ)、P3→P4(レーザ発振器オン)、加工エリアS2内での可動ミラー20及びマニピュレータ12の同期動作によるP5→P6(レーザ発振器オン)、並びに加工エリアS3内での可動ミラー20の動作によるP7→P8(レーザ発振器オン)である。また、早送り経路は、加工エリアS1から加工エリアS2に移動する際のレーザスキャンヘッド18の動作によるP4→P5(レーザ照射オフ)、及び加工エリアS2から加工エリアS3に移動する際のレーザスキャンヘッド18の動作によるP6→P7(レーザ照射オフ)である。つまり、教示される移動経路の始点P1から終点P8に至るまでに、レーザ加工実行区間(P1→P2、P3→P4、P5→P6、P7→P8)とレーザ加工非実行区間(P2→P3、P4→P5、P6→P7)とが存在する。
【0035】
そこで、レーザ加工非実行区間(P2→P3、P4→P5、P6→P7)のうち、早送り経路(P4→P5、P6→P7)については、前述した早送り動作制御部24の制御下で、レーザスキャンヘッド18の早送り動作を遂行することにより、サイクルタイムを削減し、加工効率を向上させることができる。
【0036】
上記した移動経路は、例えば以下の手順に従って教示できる。なお教示開始時には、マニピュレータ12及びレーザ加工ツール14を、図2に示す初期姿勢に設定する。
(1)可動支持機構22の横移動部30(軸#8)を手動モードで動作させて、レーザスキャンヘッド18を初期位置(図で左端位置)に位置決めする(軸#8の軸値(座標又はエンコーダ読取値)=X0)。
(2)マニピュレータ12(軸#1〜#6)を手動モードで動作させるとともに、レーザ発振器46を動作させて、レーザスキャンヘッド18から出射されるレーザ光Lの焦点を、教示点P1に一致させる。
【0037】
(3)その状態で、可動支持機構22の縦移動部28(軸#7)を手動モードで動作させて、加工対象面Sに対するレーザスキャンヘッド18の高さを調整し、その高さ調整量をメモリ52に記憶する。
(4)高さ調整完了時のマニピュレータ12及びレーザスキャンヘッド18の位置(軸#1〜#8の軸値)をメモリ52に記憶する。
(5)その状態から、可動ミラー20(軸#9及び#10)を手動モードで動作させて、レーザスキャンヘッド18から出射されるレーザ光Lの焦点を、教示点P2、P3、P4に順次一致させ、個々の教示点P2、P3、P4における可動ミラー20の位置(軸#9及び#10の軸値)をメモリ52に記憶する。
【0038】
(6)教示点P4を教示した後、可動支持機構22の横移動部30(軸#8)を手動モードで動作させて、レーザスキャンヘッド18を加工エリアS1から加工エリアS2に移動させるとともに、レーザ発振器46を動作させて、レーザスキャンヘッド18から出射されるレーザ光Lの焦点を、教示点P5に一致させる。
(7)その状態で、可動支持機構22の縦移動部28(軸#7)を手動モードで動作させて、加工対象面Sに対するレーザスキャンヘッド18の高さを調整し、高さ調整完了時のマニピュレータ12及びレーザスキャンヘッド18の位置(軸#1〜#8の軸値)をメモリ52に記憶する。
【0039】
(8)その状態から、可動ミラー20(軸#9及び#10)を手動モードで動作させて、レーザスキャンヘッド18から出射されるレーザ光Lの焦点を、教示点P6に一致させ、個々の教示点P5、P6における可動ミラー20の位置(軸#9及び#10の軸値)をメモリ52に記憶する。
(9)次に、マニピュレータ12(軸#1〜#6)を手動モードで動作させて、先端のフランジ面26を初期位置E0(実線で図示)から次の位置E1(破線で図示)に移動すると同時に、可動支持機構22の横移動部30(軸#8)を手動モードで動作させて、レーザスキャンヘッド18を初期位置に位置決めする(軸#8の軸値=X0)。これにより、次の加工エリアS3における加工作業に備えて、横移動部30上でのレーザスキャンヘッド18の移動ストロークを確保することができる。
【0040】
(10)その状態から、可動支持機構22の横移動部30(軸#8)を手動モードで動作させて、レーザスキャンヘッド18を加工エリアS2から加工エリアS3に移動させるとともに、レーザ発振器46を動作させて、レーザスキャンヘッド18から出射されるレーザ光Lの焦点を、教示点P7に一致させる。
(11)その状態で、可動支持機構22の縦移動部28(軸#7)を手動モードで動作させて、加工対象面Sに対するレーザスキャンヘッド18の高さを調整し、高さ調整完了時のマニピュレータ12及びレーザスキャンヘッド18の位置(軸#1〜#8の軸値)をメモリ52に記憶する。
【0041】
(12)その状態から、可動ミラー20(軸#9及び#10)を手動モードで動作させて、レーザスキャンヘッド18から出射されるレーザ光Lの焦点を、教示点P8に一致させ、個々の教示点P7、P8における可動ミラー20の位置(軸#9及び#10の軸値)をメモリ52に記憶する。このようにして、始点P1から終点P8に至る移動経路が教示される。
【0042】
上記した教示手順は、教示操作盤54及びオフライン教示部56のいずれによっても遂行できる。特に、オフライン教示部56を用いる場合には、移動経路中のマニピュレータ12、可動ミラー20及び可動支持機構22のそれぞれの動作パターンを、パーソナルコンピュータ等の表示画面上でのシミュレーションにより、最も効率的な移動経路が確保されるように設定することができる。
【0043】
例えば図5に示すように、複数の加工位置Q(太線)に対し、3つの加工エリアS1、S2、S3(破線)が設定されているときに、加工エリアを適宜移動させて、全ての加工位置Qを内包する2つの加工エリアS1´、S2´(実線)に設定し直すことができる。このような新たな加工エリアの設定は、オフライン教示部56が、複数の加工位置Qのデータに基づいて、マニピュレータ12の動作量を最少にすることを条件として実行するものである。このようにすれば、前述した早送り動作制御の採用と相俟って、サイクルタイムを低減することを目的としてマニピュレータ12、可動ミラー20及び可動支持機構22の動作を最適化した内容で、加工対象物Wに対する一連のレーザ加工プログラムを作成することができる。
【0044】
前述した教示手順で作成したレーザ加工プログラムを、制御装置16のメモリ52に格納し、同プログラムの実行指令を例えば教示操作盤54から入力すると、制御装置16のメインCPU50は、図6のフローチャートに従う処理を実行する。
まずステップS1で、レーザ加工プログラムを記述する個々の行番号Lを表わす指標を“1”に初期設定する。次にステップS2で、当処理時の行番号Lが最終行を表わすものであるか否かを判断し、最終行であれば処理を終了する。最終行でなければステップS3へ進む。
【0045】
ステップS3では、当処理時の行番号Lで記述されるレーザ加工プログラムの動作文を読み込む。次いでステップS4で、レーザ加工を実行する動作文であるか、早送りを実行する動作文であるかを判断し、前者であればステップS5へ進み、後者であればステップS7へ進む。そしてステップS5で、マニピュレータ12、可動ミラー20及びレーザ発振器46を動作させて、指定加工位置(例えば図1のP1→P2)に対するレーザ加工を開始し、ステップS6で、可動ミラー20が加工終了位置(例えばP2)に到達すると同時にレーザ発振器46を停止させて、指定加工位置に対するレーザ加工を終了する。
【0046】
他方、ステップS7では、可動支持機構22を動作させて、レーザスキャンヘッド18を早送り動作させる(例えば図1のP6→P7)。このとき、前述した教示手順(9)で教示したように、マニピュレータ12及び可動支持機構22を同期して動作させることにより、次の加工エリアにおけるレーザスキャンヘッド18の移動ストロークを確保する。なお、このような予備的動作は、制御装置16の早送り動作制御部24によって実行されるものであって、その目的で早送り動作制御部24は、非加工時に、可動支持機構22の動作制御に加えて、マニピュレータ12及び可動ミラー20の少なくとも一方の動作を制御することができるように構成される。
【0047】
最後にステップS8で、レーザ加工プログラムを記述する行番号Lを表わす指標を1だけ増やして、ステップS2に戻る。以下、ステップS2で最終行と判断されるまで、上記処理サイクルを繰り返す。このようにして、レーザ加工プログラムが実行され、効果的に短縮されたサイクルタイムの下に、指定のレーザ加工工程が完了する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係るレーザ加工ロボットシステムの基本構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態によるレーザ加工ロボットシステムの構成を模式図的に示す図である。
【図3】図2のレーザ加工ロボットシステムにおけるレーザ加工ツールの構成を模式図的に示す図である。
【図4】図3のレーザ加工ツールのレーザスキャンヘッドを概略で示す図である。
【図5】図2のレーザ加工ロボットシステムにおけるオフラインシミュレーションの一例を示す図である。
【図6】図2のレーザ加工ロボットシステムにおけるレーザ加工プログラムの再生処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0049】
10 レーザ加工ロボットシステム
12 マニピュレータ
14 レーザ加工ツール
16 制御装置
18 レーザスキャンヘッド
20 可動ミラー
22 可動支持機構
24 早送り動作制御部
28 縦移動部
30 横移動部
46 レーザ発振器
48 加工動作制御部
54 教示操作盤
56 オフライン教示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マニピュレータと、該マニピュレータに装着されるレーザ加工ツールと、該マニピュレータ及び該レーザ加工ツールの動作を制御する制御装置とを具備するレーザ加工ロボットシステムにおいて、
前記レーザ加工ツールは、可動ミラーを内蔵するレーザスキャンヘッドと、該レーザスキャンヘッドを移動可能に支持する可動支持機構とを備え、
前記制御装置は、前記レーザスキャンヘッドがレーザ光を出射しない非加工時に、前記可動支持機構の動作を制御して、該レーザスキャンヘッドを早送り動作させる早送り動作制御部を備えること、
を特徴とするレーザ加工ロボットシステム。
【請求項2】
前記早送り動作制御部は、前記非加工時に、前記可動支持機構の動作制御に加えて、前記マニピュレータ及び前記可動ミラーの少なくとも一方の動作を制御する、請求項1に記載のレーザ加工ロボットシステム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記レーザスキャンヘッドがレーザ光を出射する加工時に、前記マニピュレータ、前記可動ミラー及び前記可動支持機構のうち、少なくとも1つの動作を制御して、前記レーザ加工ツールを加工動作させる加工動作制御部を備える、請求項1又は2に記載のレーザ加工ロボットシステム。
【請求項4】
前記可動支持機構は、加工対象面に対して前記レーザスキャンヘッドを、鉛直方向へ移動させる縦移動部と、水平方向へ移動させる横移動部とを備える、請求項1〜3のいずれか1項に記載のレーザ加工ロボットシステム。
【請求項5】
前記マニピュレータ、前記可動ミラー及び前記可動支持機構のうち、少なくとも1つの動作を、オフラインシミュレーションにより前記制御装置に教示するオフライン教示部をさらに具備し、該オフライン教示部は、該マニピュレータの動作量を最少にすることを条件として、加工対象物に対する一連のレーザ加工プログラムを作成する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のレーザ加工ロボットシステム。
【請求項6】
マニピュレータと、該マニピュレータに装着されるレーザ加工ツールとを具備するレーザ加工ロボットシステムの、該マニピュレータ及び該レーザ加工ツールの動作を制御する制御方法であって、
可動ミラーを内蔵するレーザスキャンヘッドと、該レーザスキャンヘッドを移動可能に支持する可動支持機構とを備える前記レーザ加工ツールを用意し、
前記レーザスキャンヘッドがレーザ光を出射しない非加工時に、前記可動支持機構の動作を制御して、該レーザスキャンヘッドを早送り動作させること、
を特徴とする制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−150418(P2006−150418A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−345896(P2004−345896)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】