説明

レーザ加工機用電源装置

【課題】従来よりもさらに加工品質を向上させることが可能なレーザ加工機用電源装置を提供する。
【解決手段】レーザ発振器1に対してレーザ発振用の高周波の電圧パルスを出力する電力変換用のインバータ12の動作を制御する制御回路15を備え、制御回路15は被加工物の加工条件に応じて電圧パルスのキャリア周波数をパルス周波数変調制御するための情報をLUT17から生成し、指令パルス発生回路19はこのパルス周波数変調制御情報を反映させてパルス周波数変調された指令パルスを発生し、この指令パルスに基づいてゲートパルス生成回路20からインバータ12のスイッチング素子をオンオフ制御するゲートパルスを生成することでインバータ12からパルス周波数変調された電圧パルスを出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーザ加工機用電源装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話や情報端末機器の小型化、高機能化に伴い、そこに使用されるプリント基板の高密度化、微細化が急速に進んでいる。特にプリント基板の製造方法では、従来のドリルによるスルーホール加工から、レーザによるビアホール加工が多く利用されるようになり、また穴径も300um程度から100um以下と、微細化の要求が高まっている。このような要求に対して、COレーザを用いたプリント基板穴あけ用のレーザ加工機が製品化され、穴径100um前後の微小穴を高速、高精度に加工することが可能となっている。
【0003】
上記のようなレーザ加工機で使用されるレーザ加工機用電源装置において、レーザ媒体を励起させるためには、放電電極に数kVの電圧パルスを印加する必要があり、放電時に流れる放電電流は数十A、放電時の放電周波数は、数百kHzから数MHz以上必要であり、さらに安定した放電を得るために制御を行わなければならない。そのために、微細加工に適したレーザ加工機用電源装置が開発されている(例えば、下記の特許文献1参照)。
【0004】
ところで、プリント基板などの被加工物に対して効率良く高速に微細加工を行うためには、被加工物の材質に応じてレーザの強度とエネルギ量とを最適化する必要がある。そのためには、被加工物の材質や加工条件に応じて放電電力を適切に制御することが重要である。
【0005】
このため、従来、例えば、レーザ発振器のレーザ出力をコントロールする制御パラメータである、(i)レーザパルスの放電電力のピーク値、(ii)レーザパルスの繰り返しパルス周波数、(iii)レーザパルス出力のパルス幅等をそれぞれ制御する技術が提案されている(例えば、下記の特許文献2参照)。
【0006】
図11(a)にはインバータから出力される高周波の電圧パルス(細実線)と出力電流(太実線)を、同図(b)にはこのインバータ出力に伴ってレーザ発振器から出力されるレーザパルスの各波形を示している。
【0007】
ここで、(i)レーザパルスの放電電力のピーク出力Pi(図11(b)参照)は、主にレーザ発振器の放電電極に印加される放電電圧と、放電電極間に生じる放電によって流れる放電電流のピークによって決定され、そのピーク出力Piの制御は、インバータに対する直流電源の電圧を調整して放電電圧を制御したり、あるいはPWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)によってインバータのDutyを制御するなどして行われる。
【0008】
(ii)繰り返しパルス周波数(図11(b)参照)は、単位時間T当たりに照射されるレーザパルスのパルス数Nであり、この繰り返しパルス周波数は、図11(a)に示されるように、インバータから出力される一連の電圧パルスからなる電圧パルス群の単位時間当たりの数により制御される。
【0009】
(iii)レーザパルスのパルス幅Wi(図11(b)参照)は、図11(a)に示されるように、インバータから出力される各電圧パルス群に含まれる電圧パルスのパルス数に相当し、したがって、このパルス幅Wiはインバータのスイッチング素子をオン/オフ制御する一連のゲートパルスの数を制御することで行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−4059号公報
【特許文献2】特開平5−145155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このように、上記の特許文献2などに記載の従来技術では、レーザ発振器のレーザ出力をコントロールする制御パラメータとして、(i)レーザパルスの放電電力のピーク値、(ii)レーザパルスの繰り返しパルス周波数、(iii)レーザパルスのパルス幅等を制御するなどの方法が提案されているものの、従来は、インバータのスイッチング素子をオン/オフ制御するゲートパルスの周波数は常に一定に設定されている。このため、インバータから出力される高周波の電圧パルスの周波数(以下、レーザパルスの繰り返しパルス周波数と区別するため、ここでは便宜上、キャリア周波数と称する)も常に一定に設定されている。
【0012】
このように、従来は、被加工物をレーザ加工する際、インバータから出力される高周波の電圧パルスのキャリア周波数が常に一定に保持されているため、多種多様な材質の被加工物に応じてより微細な加工を施したい場合に、レーザ強度やエネルギ量を最適化してさらに加工性能を向上させることが難しかった。
【0013】
この発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、加工材質や加工条件に合わせてレーザパルス出力を制御する上で、レーザパルスの繰り返しパルス周波数やパルス幅だけでなく、時間軸に対してレーザパルスの形状を変化できるようにして、従来よりもさらに加工品質を向上させることが可能なレーザ加工機用電源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明に係るレーザ加工機用電源装置は、レーザ発振器に対してレーザ発振用の高周波の電圧パルスを出力する電力変換用のインバータと、このインバータの動作を制御する制御手段とを備え、上記制御手段は、被加工物の加工条件に応じて上記電圧パルスのキャリア周波数をパルス周波数変調制御するための情報を生成するパルス周波数変調制御情報生成手段と、このパルス周波数変調制御情報生成手段で生成されたパルス周波数変調制御情報を反映させてパルス周波数変調された指令パルスを生成する指令パルス発生手段と、この指令パルス発生手段で発生された指令パルスに基づいて上記インバータのスイッチング素子をオンオフ制御するインバータ駆動手段とを備え、このインバータ駆動手段の駆動により上記インバータからパルス周波数変調された上記電圧パルスを出力する。
【発明の効果】
【0015】
この発明のレーザ加工機用電源装置によれば、加工材質や加工条件に合わせてレーザパルス出力を制御する上で、レーザパルスの繰り返しパルス周波数やパルス幅だけでなく、インバータから出力される電圧パルスのキャリア周波数の変調を行うので、時間軸に対してレーザパルスの形状を変化させてレーザ強度を調整することができる。これにより、多種多様な材質の被加工物に応じて、レーザの強度やエネルギ量を最適化することができるので、従来よりもさらに加工性能を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の実施の形態1におけるレーザ加工機の全体を示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1におけるレーザ加工機用電源装置の構成図である。
【図3】LC直列共振回路において、放電電極に印加される電圧パルスのキャリア周波数と放電電流との関係を示す特性図である。
【図4】この発明の実施の形態1において、図2に示すレーザ加工機用電源装置の制御回路のブロック図である。
【図5】この発明の実施の形態1において、インバータ駆動用のゲートパルス、インバータから出力される電圧パルスと出力電流、およびレーザ発振器で生じる放電電力とレーザエネルギの相互の関係を示す説明図である。
【図6】この発明の実施の形態2において、インバータ駆動用のゲートパルス、インバータから出力される電圧パルスと出力電流、およびレーザ発振器で生じる放電電力とレーザエネルギの相互の関係を示す説明図である。
【図7】この発明の実施の形態3において、インバータ駆動用のゲートパルス、インバータから出力される電圧パルスと出力電流、およびレーザ発振器で生じる放電電力とレーザエネルギの相互の関係を示す説明図である。
【図8】この発明の実施の形態4において、インバータ駆動用のゲートパルス、インバータから出力される電圧パルスと出力電流、およびレーザ発振器で生じる放電電力とレーザエネルギの相互の関係を示す説明図である。
【図9】加工条件に応じてインバータから出力される電圧パルスをPFM(パルス周波数変調)制御することにより得られるレーザ発振器の各種の放電電力を示す説明図である。
【図10】加工位置と放電電力の関係を示す説明図である。
【図11】インバータから出力される電圧パルスおよび出力電流と、これに伴ってレーザ発振器から出力されるレーザパルスの関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1におけるレーザ加工機の全体を示す構成図、図2は同レーザ加工機に使用されるレーザ加工機用電源装置の構成図である。
【0018】
このレーザ加工機は、例えば炭酸ガスレーザ発振器などのレーザ発振器1と、レーザ加工機用電源装置(以降、単に「電源装置」という)2とを備え、電源装置2からの電力供給によりレーザ発振器1からレーザパルスが発振され、このレーザパルスを反射ミラー3、一対のガルバノミラー4a,4b、および集光レンズ5を介して加工台6上に配置された被加工物7に照射して加工する。被加工物7の任意の位置にレーザパルスを照射して加工するために、CNC(コンピュータ数値制御)装置8によりレーザパルスの出力に合わせて高速にガルバノミラー4a,4bを制御することで高速加工を実現している。
【0019】
この実施の形態1による電源装置2は、レーザ発振器1の一対の放電電極11a,11bを制御対象とする。このレーザ発振器1を構成する放電電極11a,11bは誘電体電極であり、金属電極が放電空間に露出しておらず、セラミック等からなる誘電体で被覆されている。そして、電源装置2によりこの放電電極11a,11bに高周波の電圧パルスを印加することで誘電体バリア放電を起こし、この放電によって励起されたレーザ媒体の誘導放出によりレーザ発振してレーザパルスが出力される。
【0020】
電源装置2は、図2に示すように、スイッチング素子S1〜S4を有するフルブリッジ型のインバータ12を備える。インバータ12に高圧直流電圧を印加した状態で制御回路15による制御で各スイッチング素子S1〜S4を駆動することにより、インバータ12から高周波の電圧パルスが出力される。インバータ12の出力側には共振リアクトル13a,13bが接続されており、放電電極11a,11bとLC共振することでレーザ発振器1の放電に必要な高電力を得る。
【0021】
制御回路15は、ゲートドライブ回路16a,16bを介してインバータ12の制御を行うものである。この制御回路15は、後に詳述するように、CNC装置8から与えられる被加工物の材質を考慮した加工条件に応じて、レーザパルスの繰り返しパルス周波数やパルス幅、および時間軸に対するレーザパルスの形状といった各制御パラメータを反映させた指令パルスを生成し、この指令パルスに基づいてインバータ駆動用のゲートパルスを出力する。
【0022】
ゲートドライブ回路16a,16bは、制御回路15から出力されるゲートパルスに応じてインバータ12を構成する上下の各アームのスイッチング素子S1〜S4をオン/オフ制御する。これにより、インバータ12からは被加工物の加工条件に適合した高周波の電圧パルスが出力されてレーザ発振器1に与えられる。
【0023】
ここで、図11(a)に示したように、インバータ12から100kHz程度の一連の高周波の電圧パルスからなる電圧パルス群を繰り返し出力すると、レーザ発振器1からは同図(b)に示したようなレーザパルスが発振される。この場合、共振負荷であるため、インバータ12から出力される電圧パルスのキャリア周波数によって、図11(b)のレーザパルスの強度Piが変化する。
【0024】
すなわち、放電電極11a,11bと共振リアクトル13a,13bとからなるLC直列共振回路において、放電電極11a,11bに印加される電圧パルスのキャリア周波数と放電電流との間には、図3に示すような特性がある。そして、図3において、ある共振周波数frにおいて放電電流が最大になり、この共振周波数frから外れた周波数、例えば周波数faになるにつれて放電電流が抑制される。そして、共振周波数frに近いほど放電電流が大きくなるため、レーザパルスの強度Piも大きくなる。
【0025】
そこで、この発明では、レーザパルスの強度やエネルギ量を制御するために、従来のインバータ12から出力される電圧パルスのパルス幅を調整するPWM制御ではなく、電圧パルスのキャリア周波数を変調するPFM(Pulse Frequency Modulation:パルス周波数変調)制御を行うようにしている。
【0026】
次に、制御回路15の構成および基本動作について詳述する。
図4は、図2に示す制御回路15の詳細を示すブロック図である。
レーザ加工機は、CNC装置8にユーザが加工条件を入力することで加工を行う。この加工条件はCNCから通信回線などを介して制御回路15に送信される。
【0027】
図3に示したように、LC直列共振回路において、インバータ12から出力される電圧パルスのキャリア周波数が共振周波数frからずれるのに応じて放電電流が変化することから、加工条件に合わせて予め設定された周波数に制御することで、放電電力が調整されてレーザパルスの強度やエネルギ量が制御される。
【0028】
そこで、LUT(ルックアップテーブル)17には、被加工物の加工条件(条件1〜n)に合わせて、レーザパルスの出力開始後にインバータ12からどの時間にどのようなキャリア周波数をもつ電圧パルスを出力するかという、時間とキャリア周波数の関係を決めるためのPFM制御用の情報が予め複数用意されて登録されている。
【0029】
選択回路18は、CNC装置8から与えられた被加工物の加工条件に応じて、LUT17からその加工条件に応じたPFM制御用の情報の内の一つを選択し、この情報を次段の指令パルス発生回路19に出力する。
【0030】
指令パルス発生回路19は、LUT17から与えられるPFM制御用の情報、およびCNC装置8から加工条件に応じて与えられるレーザパルスの繰り返しパルス周波数やパルス幅の制御パラメータの情報に基づいて、これらの情報を反映させたPFM制御された一連の電圧パルスからなる電圧パルス群をインバータ12から順次繰り返して出力するための指令パルスを生成し、この指令パルスをゲートパルス生成回路20に出力する。
【0031】
なお、インバータ12からPFM制御された一連の電圧パルスを発生させるには、指令パルス発生回路19において、分周回路とカウンタを複数用意しておき、LUT17からのPFM制御用の情報に基づき、設定された時間ごとに周波数値に対応するカウンタのカウント値を切り替えることで、指令パルスの周波数をPFM変調することで実現可能である。また、レーザビームの繰り返し周波数を制御する上では、指令パルス発生回路19において、CNC装置8からの制御パラメータの情報に基づき、指令パルスの単位時間当たりのパルス群の数が設定され、またレーザパルスのパルス幅を制御する上では、一連の指令パルスからなるパルス群に含まれるパルス数が設定される。
【0032】
ゲートパルス生成回路20は、指令パルス発生回路19からの指令パルスに応じて、デッドタイム等を付与したゲートパルスを生成し、このゲートパルスがゲートドライブ回路16a,16bに与えられる。ゲートドライブ回路16a,16bは、このゲートパルスに応じてインバータ12の各スイッチング素子S1〜S4をオン/オフ制御する。その結果、インバータ12からは所定の繰り返しパルス周波数、パルス幅、およびPFM制御された一連の電圧パルスからなる電圧パルス群が順次繰り返して出力される。その結果、レーザ発振器1からは、様々な被加工物に適合した強度とエネルギ量をもつレーザパルスが出力されるので、良好な加工品質が得られる。
【0033】
そして、上記の制御回路15が特許請求の範囲における制御手段に、選択回路18とLUT17とが特許請求の範囲におけるパルス周波数変調情報生成手段に、LUT17が特許請求の範囲のメモリ手段に、指令パルス発生回路19が特許請求の範囲における指令パルス発生手段に、ゲートパルス生成回路20とゲートドライブ回路16a,16bが特許請求の範囲におけるインバータ駆動手段に、それぞれ対応している。
【0034】
図5は、この発明の実施の形態1において、インバータ駆動用のゲートパルス、インバータ12から出力される電圧パルスと出力電流、およびレーザ発振器1で生じる放電電力とレーザエネルギの相互の関係を示す説明図である。
【0035】
図5(a)は、制御回路15において指令パルス発生回路19からの指令パルスに基づいてゲートパルス生成回路20から出力されるPFM制御されたゲートパルス(レーザパルスの1パルス分に相当)を示しており、また、図5(b)は、このゲートパルスによってインバータ12から出力される一連の電圧パルス(細実線)と出力電流(太実線)を示している。
【0036】
図5(b)に示すように、電圧パルスは最初が高い周波数から徐々に共振周波数になるようにPFM制御されている。このように、高い周波数から徐々に低くなるように設定しているのは、放電電流が放電電圧に対して遅れ位相にして、インバータ12を構成する還流ダイオードにリカバリー電流が流れ、スイッチング素子S1〜S4に高負荷がかかるのを防ぐ目的である。
【0037】
また、図5(b)に示すようなPFM制御された一連の電圧パルスを用いると、一連の電圧パルスの前半では、電圧パルスのキャリア周波数が高いため(図3のfa)、放電電流ピークが抑制されている。一連の電圧パルスの後半では、共振周波数frに近づくため放電電流が徐々に大きくなる。この結果、図5(c)のような放電電力が得られ、図5(d)のようなレーザエネルギが得られる。
【0038】
また、レーザビームを出力するためには、レーザ発振器1の放電電極に約4kV以上の電圧パルスを印加して安定放電させる必要があるが、この発明の場合、一定の高電圧を印加して放電電力を制御できるため、安定的に放電させることができる。
【0039】
穴あけ加工はレーザパルスが被加工物7に照射されることで、これが被加工物7の表面で吸収されて材料の加熱および蒸散が起こり、これにより、被加工物7に対して所望の穴あけ加工が行われている。この際、被加工物7の加工状態はレーザパルスの強度に著しく依存する。
【0040】
ここで、ガラス繊維を含むガラスエポキシ材のように、比較的レーザ照射時間が長い方が良質な加工が得られる被加工物7に対しては、レーザ照射の初期段階において、レーザパルスの強度が高すぎる場合、被加工物7の表面に発生したプラズマにレーザパルスのエネルギの大半が吸収されて、蒸散量が低下し、穴あけ加工が十分に行われない。
【0041】
したがって、図5(d)のように、レーザ照射の初期段階ではレーザエネルギを比較的小さくして被加工物7の表面に発生したプラズマにレーザパルスのエネルギの大半が吸収されるのを抑え、その後に所期のエネルギをもつレーザパルスを照射するようにすれば、上記のガラス繊維を含むガラスエポキシ材に対してレーザエネルギを効率的に照射することができ、従来よりも高速かつ安定的に加工が行える。
【0042】
実施の形態2.
上記の実施の形態1では、インバータ12から出力される電圧パルスを高い周波数faから徐々に共振周波数frになるようにPFM制御しているが、被加工物7の材質によっては、一連の電圧パルスの前半で共振周波数frの放電電圧を印加し、後半で徐々に高い周波数faに移行するようにしてもよい。
【0043】
図6は、この発明の実施の形態2において、インバータ12駆動用のゲートパルス、インバータ12から出力される電圧パルスと出力電流、およびレーザ発振器1で生じる放電電力とレーザエネルギの相互の関係を示す説明図である。
【0044】
図6(a)は、制御回路15において指令パルス発生回路19からの指令パルスに基づいてゲートパルス生成回路20から出力されるPFM制御されたゲートパルス(レーザパルスの1パルス分に相当)を示しており、また、図6(b)は、このゲートパルスによってインバータ12から出力される一連の電圧パルス(細実線)と出力電流(太実線)を示している。
【0045】
図6(b)に示すように、インバータ12から出力される電圧パルスはその前半では共振周波数frのものを印加し、後半で徐々に高い周波数faに移行するようにPFM制御されている。このように、共振周波数frから徐々に高いキャリア周波数faに移行させると、一連の電圧パルスからなる電圧パルス群の前半では高い放電電流が得られ、電圧パルス群の後半では放電電流が抑制される。このため、図6(c)に示すような放電電力が得られ、その結果、図6(d)に示すように、被加工物7に対して初期の短時間で高エネルギを照射し、少しずつ入熱量を減少させたいような加工を行う場合に最適な状態が得られる。
【0046】
このようなエネルギをもつレーザパルスを用いれば、被加工物7がポリイミド系樹脂のように、レーザ照射時間が短い方が良質な加工が得られる場合に有効である。
【0047】
実施の形態3.
上記の実施の形態1では、一連の電圧パルスについて高いキャリア周波数faから徐々に共振周波数frになるようにPFM制御しているが、最初からインバータ12から出力される電圧パルスのキャリア周波数を大きくとると、放電電極11a,11bに印加する電圧パルスのパルス幅が短くなるので、レーザ放電の初期段階において、放電のちらつきや立ち消えが起こるおそれがある。そして、放電が不安定になると、負荷のインピーダンスが変化してLC共振点がずれ、放電電流がそれに応じて振動することから、所望の放電電力が得られなくなり、加工品質に影響を与える。
【0048】
そこで、レーザ放電の立ち上り時に放電を安定化させるため、一連の電圧パルス(レーザパルスの1パルス分に相当)に含まれる各電圧パルスについて、レーザ放電の立ち上り時に電圧パルスのキャリア周波数が予め規定された周波数よりも高い場合には、図7(a)に示すように、指令パルス発生回路19からの指令パルスに基づいてゲートパルス生成回路20から出力されるゲートパルスの周波数を一時的に低くする。つまり、図7(b)に示すように、インバータ12から出力される初期の電圧パルスのキャリア周波数を一時的に低くして(パルス幅を十分大きくして)確実に放電させる。放電が安定した後は、例えば実施の形態1の場合と同様に、高いキャリア周波数faに移行して、このキャリア周波数faから徐々に共振周波数frになるようにPFM制御する。これにより、PFM制御を行う場合に常に安定した放電状態が得られる。
【0049】
実施の形態4.
上記の実施の形態1〜3の手法を用いて、レーザパルスの1パルス単位ごとにインバータ12から出力される電圧パルスのキャリア周波数をPFM制御すれば、例えば図8に示すような任意の放電電力、レーザエネルギが得られることになる。
【0050】
この場合、LUT17に各加工条件(条件1〜n)に応じて、時間とキャリア周波数の関係を決めるPFM制御用の情報を予め複数用意して登録しておけば、図9に示すように様々なレーザパルスの形状が得られ、任意の放電電力を投入できるレーザパルスを作ることができる。これにより、加工材質に適合した最適なレーザエネルギが得られる。
【0051】
そして、レーザパルスの1パルスごとのエネルギを調整して、1パルスごとにガルバノミラー4a,4bの角度を調整すれば、図10に示すように、被加工物7の任意の位置に応じて所望の加工エネルギを高速に投入することができ、従来よりも一層、加工性能を高めることができる。
【0052】
なお、本発明は、その発明の範囲内において、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 レーザ発振器、2 レーザ加工機用電源装置、7 被加工物、8 CNC装置、
11a,11b 放電電極、12 インバータ、13a,13b 共振リアクトル、
15 制御回路、16a,16b ゲートドライブ回路、
17 LUT(ルックアップテーブル)、18 選択回路、19 指令パルス発生回路、20 ゲートパルス生成回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ発振器に対してレーザ発振用の高周波の電圧パルスを出力する電力変換用のインバータと、このインバータの動作を制御する制御手段とを備え、
上記制御手段は、被加工物の加工条件に応じて上記電圧パルスのキャリア周波数をパルス周波数変調制御するための情報を生成するパルス周波数変調制御情報生成手段と、
上記パルス周波数変調制御情報生成手段で生成されたパルス周波数変調制御情報を反映させてパルス周波数変調された指令パルスを生成する指令パルス発生手段と、
上記指令パルス発生手段で発生された指令パルスに基づいて上記インバータのスイッチング素子をオンオフ制御するインバータ駆動手段とを備え、上記インバータ駆動手段の駆動により上記インバータからパルス周波数変調された上記電圧パルスを出力するレーザ加工機用電源装置。
【請求項2】
上記パルス周波数変調制御情報生成手段は、被加工物の加工条件に応じて上記電圧パルスのキャリア周波数をパルス周波数変調制御するための時間とキャリア周波数の関係を設定した情報が予め登録されたメモリ手段で構成されている請求項1に記載のレーザ加工機用電源装置。
【請求項3】
上記パルス周波数変調制御情報生成手段は、被加工物の加工材質に合わせて、上記インバータからレーザパルスの1パルス分に相当する一連の電圧パルスが出力されるたびに、パルス周波数変調制御用の情報を変更するものである請求項1または請求項2に記載のレーザ加工機用電源装置。
【請求項4】
上記パルス周波数変調制御情報生成手段からの上記パルス周波数変調情報に基づいて上記インバータからパルス周波数変調されて出力される電圧パルスのキャリア周波数が予め規定された周波数よりも高い場合には、上記指令パルス発生手段はレーザパルスの1パルス分に相当する一連の上記指令パルスの内、初期の立上りパルスのみパルス幅を長くする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のレーザ加工機用電源装置。
【請求項5】
上記パルス周波数変調制御情報生成手段は、上記電圧パルスのキャリア周波数が、上記レーザ発振器の共振周波数よりも高い周波数から徐々に低くなるようなパルス周波数変調制御情報を生成するものである請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のレーザ加工機用電源装置。
【請求項6】
上記パルス周波数変調制御情報生成手段は、上記電圧パルスのキャリア周波数が、上記レーザ発振器の共振周波数よりも低い周波数から徐々に高くなるようなパルス周波数変調制御情報を生成するものである請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のレーザ加工機用電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−89788(P2013−89788A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229419(P2011−229419)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】