説明

レーザ加工機

【課題】密閉伸縮光路のパージガスを浪費することがなく、大気中の粉塵が密閉伸縮光路内に侵入することがなく、圧力調整用バッファージャバラや、バッファー手段としてのガス袋を必要としないレーザ加工機を得ること。
【解決手段】レーザビームを出力するレーザ発振器と、前記レーザビームを集光してワークに照射する加工ヘッド部と、前記レーザ発振器と加工ヘッド部との間を接続し、該加工ヘッド部の移動に伴なって伸縮し、前記レーザビームを前記加工ヘッド部まで伝送する密閉伸縮光路20と、前記加工ヘッド部の移動を制御する制御装置15と、を備えるレーザ加工機において、前記制御装置15の加工ヘッド部移動指令に基づいて、前記密閉伸縮光路20内のパージガスの圧力が大気圧より高くなるように調整する圧力調整手段100、31を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ発振器から出力されるレーザビームを加工ヘッドまで伝送する密閉伸縮光路に、パージガスを供給するパージガス供給装置を備えるレーザ加工機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光学機器を備え且つ密閉されたレーザ光の密閉伸縮光路(テレスコピックカバー、光路ジャバラ)に乾燥した清浄な空気を送り込むドライエアユニットを設けると共に、この密閉伸縮光路末端に前記空気を排出するチェック弁を設け、前記光学機器の表面を常に清浄に保つようにしたレーザ光密閉伸縮光路エアロフローシステムがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、レーザ発振器から出力されたレーザ光を、ミラー及び伸縮自在の保護管(光路ジャバラ)から成る密閉伸縮光路によりワークに導くレーザ加工機において、前記保護管の収縮時に、前記密閉伸縮光路内の圧力が上昇することにより密閉伸縮光路内のパージガスを排出するチェック弁を前記密閉伸縮光路に設けるとともに、前記保護管の伸長時に、前記密閉伸縮光路内の圧力が負圧になることにより密閉伸縮光路内にパージガスを吸入する吸入手段(チェック弁)を前記密閉伸縮光路に設けたものがある(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平02−235012号公報(第2、第3頁、第1図)
【特許文献2】特開平03−151185号公報(第2、第3頁、第1、第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載された技術によれば、エアロフローシステムにより、レーザ光の密閉伸縮光路(テレスコピックカバー、光路ジャバラ)に乾燥した清浄な空気を、常時、流し続けるので、乾燥、清浄化した空気を浪費してしまう、という問題があった。最近では、レーザ加工機が大容量化し、パージガスとして空気の代わりに窒素ガスが用いられるので、ガスの浪費は、加工コストに影響を及ぼすことになる。
【0006】
また、上記特許文献2に記載された技術によれば、保護管(光路ジャバラ)の伸長時に、密閉伸縮光路内の圧力が負圧になってしまい、大気中の粉塵が密閉伸縮光路内に侵入し、光学機器に悪影響を及ぼす、という問題があった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、密閉伸縮光路のパージガスを浪費することがなく、大気中の粉塵が密閉伸縮光路内に侵入することがなく、圧力調整用バッファージャバラや、バッファー手段としてのガス袋を必要としないレーザ加工機を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、レーザビームを出力するレーザ発振器と、前記レーザビームを集光してワークに照射する加工ヘッド部と、前記レーザ発振器と加工ヘッド部との間を接続し、該加工ヘッド部の移動に伴なって伸縮し、前記レーザビームを前記加工ヘッド部まで伝送する密閉伸縮光路と、前記加工ヘッド部の移動を制御する制御装置と、を備えるレーザ加工機において、前記制御装置の加工ヘッド部移動指令に基づいて、前記密閉伸縮光路内のパージガスの圧力が大気圧より高くなるように調整する圧力調整手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、密閉伸縮光路のパージガスを浪費することがなく、大気中の粉塵が密閉伸縮光路内に侵入することがなく、圧力調整用バッファージャバラや、バッファー手段としてのガス袋を必要としないレーザ加工機が得られる、という効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明にかかるレーザ加工機の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0011】
実施の形態
図1は、本発明にかかるレーザ加工機の実施の形態を示す平面図であり、図2は、側面図であり、図3は、制御ブロック図であり、図4は、制御フローチャートである。
【0012】
図1及び図2に示すように、実施の形態のレーザ加工機200は、レーザビーム22を出力するレーザ発振器21を備えている。
【0013】
レーザ発振器21から発振されたレーザビーム22は、第1ベンドミラー23aにより水平方向に偏向された後、第2ベンドミラー23bにより垂直下方に偏向され、加工レンズ24により集光される。加工レンズ24により集光されたレーザビーム22をワーク25へ照射してレーザ加工が行なわれる。
【0014】
レーザ加工機200は、図示しない直線駆動機構により、第1ベンドミラー23a、第2ベンドミラー23b及び加工レンズ24を保持する図示しないガントリーが図1のY方向へ移動する。
【0015】
一方、X方向へは、ガントリー構造中の第1ベンドミラー23aが固定され、第2ベンドミラー23b及び加工レンズ24が一体的に図のX方向へ移動する。一点鎖線で示すベンドミラー等の位置をX、Y各軸のストロークエンドとすると、図1の斜線部で示す範囲のX−Y平面をレーザ加工することができる。
【0016】
レーザ発振器21と加工ヘッド部26との間を接続し、レーザビーム22が伝送される密閉伸縮光路20の一部には、伸縮自在の光路部材として、具体的には、Y軸光路ジャバラ27aとX軸光路ジャバラ27bとを備えている。レーザ発振器21とY軸光路ジャバラ27a間は、固定ダクト33により接続されている。
【0017】
Y軸光路ジャバラ27aとX軸光路ジャバラ27bとは、ベンドブロック34を介して接続され、X軸光路ジャバラ27bは、加工ヘッド部26に接続されている。また、図示はしないが、Y軸光路ジャバラ27a及びX軸光路ジャバラ27bは、ガイドローラやガイドレールにより案内され、移動方向を規制されるようになっている。
【0018】
レーザ発振器21から加工レンズ24に至るレーザビーム22の密閉伸縮光路20は、固定ダクト33、Y軸光路ジャバラ27a、ベンドブロッ34、X軸光路ジャバラ27b、加工ヘッド部26及び第1ベンドミラー23a、第2ベンドミラー23bにより、密閉されている。
【0019】
X、Y軸光路ジャバラ27b、27aや、その接続部等を、完全な気密構造とするのは事実上困難であり、密閉伸縮光路20内と外気との僅かな差圧により外気や粉塵が密閉伸縮光路20内に微量でも侵入する可能性がある。
【0020】
そのため、実施の形態のパージガス供給装置100により、清浄な窒素ガス等のパージガスをパージガス供給口39より流入させ、密閉伸縮光路20内の圧力を必ず大気圧より高い状態(例えば、差圧500Pa以上)にし、外気や粉塵の密閉伸縮光路20内への侵入を阻止する。
【0021】
固定ダクト33及び加工ヘッド部26には、密閉伸縮光路20内のパージガスの圧力と大気との差圧が高くなった(例えば、差圧1500Pa以上)ときに、パージガスを外部に排出するチェック弁31、31が装着されている。チェック弁31のクラッキング圧(開弁圧)は、大気圧+1500Pa(=第2の圧力)に設定されている。
【0022】
次に、図3及び図4を参照して実施の形態のパージガス供給装置100について説明する。図3に示すように、パージガス供給装置100は、図示しない液体窒素ボンベ等のパージガス供給源と、パージガス供給源に接続されガス圧力を0.5MPa程度に減圧する減圧弁10と、減圧弁10の下流側の圧力を計測する圧力計13と、減圧弁10に並列に接続され、パージガス供給回路を開閉する第1、第2の電磁弁11、12と、第1、第2の電磁弁11、12を制御する制御装置15と、密閉伸縮光路20内のガス圧と大気圧との差圧を検出して制御装置15に出力する差圧センサ14と、を備え、第1、第2の電磁弁11、12の出口側は固定ダクト33のパージガス供給口39に接続されている。
【0023】
第1、第2の電磁弁11、12の流量調整部11a、12aは、加工ヘッド部26が、X、Y各軸方向に最大移動速度(例えば、15m/分)で移動したときにも、密閉伸縮光路20内の圧力が負圧にならないようにパージガスを供給できる流量に調整されている。
【0024】
図3に示すように、制御装置15は、加工ヘッド移動指令部15aと、移動方向判定部15bと、圧力判定部15cと、弁制御部15dと、を備えている。加工ヘッド移動指令部15aは、予め設定されたワーク加工プログラムに従い、加工ヘッド部26のX、Y軸移動及び停止を前述の直線駆動機構に指令する。
【0025】
移動方向判定部15bは、加工ヘッド部26のX、Y軸移動方向が、密閉伸縮光路20の容積が増える方向(X、Y軸伸長方向;プラス方向)へ移動するのか減る方向(X、Y軸収縮方向;マイナス方向)へ移動するのかを判定し、加工ヘッド移動指令部15aから、Y軸伸長方向の移動指令が出力されるときに、弁制御部15dに第1の電磁弁11の開弁指令を出力し、X軸伸長方向の移動指令が出力されるときに、弁制御部15dに第2の電磁弁12の開弁指令を出力する。従って、第1、第2の電磁弁11、12は、加工ヘッド移動指令部15aの加工ヘッド部26への移動指令に基づいてフィードフォワード制御される。
【0026】
圧力判定部15cは、レーザ加工機200の始動時に、差圧センサ14の検出値が、所定値(例えば、500Pa)以下であるときは、弁制御部15dに第1、第2の電磁弁11,12の開弁指令を出力する。
【0027】
次に、図4の制御フローチャートを参照して、実施の形態のレーザ加工機200及びパージガス供給装置100の作用について説明する。
【0028】
レーザ加工機200が始動されると、まず、差圧センサ14により、密閉伸縮光路20と大気との差圧を計測し、圧力判定部12cにより、差圧が所定値(500Pa)以上であるか否かを判定する(ステップS11)。差圧が所定値以上(ステップS11肯定)であれば、ステップS15に進み、制御装置12の加工ヘッド移動指令部12aから直線駆動機構へ、X、Y軸方向のヘッド移動指令を出力して加工ヘッド部26の移動を開始させる(ステップS15)。
【0029】
一方、ステップS11で、圧力判定部12cにより、密閉伸縮光路20の差圧が所定値以下と判定されたとき(ステップS11否定)は、弁制御部12dに指令して第1、第2の電磁弁11、12を開き(ステップS12)、減圧弁10で0.5MPaに減圧されたパージガスを第1、第2の電磁弁11、12でさらに大気圧との差圧1000Pa程度に減圧し、差圧1000Paのパージガスを密閉伸縮光路20内へ供給する。
【0030】
次に、ステップS13に進み、スタートから10秒経過するまでは、ステップS11〜S13を繰り返し密閉伸縮光路20内圧力と大気圧との差圧が所定値(500Pa)以上になるのを待ち、差圧が所定値以上になれば(ステップS11肯定)、ステップS15に進む。
【0031】
ステップS13でスタートから10秒が経過していると、密閉伸縮光路20からパージガスが漏れていると判断し、アラームを出力し(ステップS14)、加工作業を開始するのを中止する。
【0032】
密閉伸縮光路20の圧力が所定値(500Pa)以上になり、ステップS15で加工ヘッド移動指令を出力すると同時に、ステップS16に進み、移動方向判定部12bにより、加工ヘッド移動指令が、密閉伸縮光路20の容積が増える方向(X軸伸縮速度とY軸伸縮速度の合計がプラス方向)へ移動するのか否かを判定する。
【0033】
密閉伸縮光路20の容積が増える方向であると判定すると(ステップS16肯定)、ステップS17に進み、弁制御部12dに指令して第1の電磁弁11を開き、パージガスを密閉伸縮光路20に供給する。密閉伸縮光路20の容積の増大速度が速いときは、第2の電磁弁12も開き、増大速度に追従するようにし、密閉伸縮光路20内を500Pa〜1
000Paの圧力に保つ。
【0034】
その後、ステップS19に進み、加工作業終了指令が出ていなければ(ステップS19否定)、ステップS16に戻り、ステップS16、S17、S19を繰り返し、パージガスを密閉伸縮光路20に供給し続ける。
【0035】
一方、ステップS16で、移動方向判定部12bにより、加工ヘッド移動指令が、密閉伸縮光路20の容積が減る方向(X軸伸縮速度とY軸伸縮速度の合計がマイナス方向)へ移動するものであるか又は停止するものであると判定されたときは(ステップS16否定)、弁制御部12dに指令して第1、第2の電磁弁11、12を閉じる(ステップS18)。
【0036】
加工ヘッド部26が、密閉伸縮光路20の容積が減る方向へ移動すると、密閉伸縮光路20内の圧力が上昇して大気圧+1500Pa(=第2の圧力)以上となり、チェック弁31,31が開いて密閉伸縮光路20内のパージガスを排出し、密閉伸縮光路20内の圧力は、Y軸光路ジャバラ27a、X軸光路ジャバラ27bが破損するようなことのない大気圧+2000Pa以下に維持される。以上説明したパージガス供給装置100とチェック弁31とが、圧力調整手段を構成している。
【0037】
以上説明したように、実施の形態のレーザ加工機200は、加工ヘッド移動指令が、密閉伸縮光路20の容積が増える方向への移動指令のときだけ、パージガスを密閉伸縮光路20へ供給するようにし、また、チェック弁の開弁圧(クラッキング圧;第2の圧力)をパージガス供給装置100の供給圧(第1の圧力)より高くしたので、パージガスを浪費することがない。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上のように、本発明にかかるレーザ加工機は、密閉伸縮光路のパージガスを浪費することがなく、大気中の粉塵が密閉伸縮光路内に侵入することがないレーザ加工機として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明にかかるレーザ加工機の実施の形態を示す平面図である。
【図2】実施の形態のレーザ加工機を示す側面図である。
【図3】実施の形態のレーザ加工機の制御ブロック図である。
【図4】実施の形態のレーザ加工機の制御フローチャートである。
【符号の説明】
【0040】
10 減圧弁
11 第1の電磁弁
12 第2の電磁弁
11a,12a 流量調整部
13 圧力計
14 差圧センサ
15 制御装置
20 密閉伸縮光路
21 レーザ発振器
22 レーザビーム
23a 第1ベンドミラー
23b 第2ベンドミラー
24 集光レンズ
25 ワーク
26 加工ヘッド部
27a Y軸光路ジャバラ
27b X軸光路ジャバラ
31 チェック弁
33 固定ダクト
34 ベンドブロック
39 パージガス供給口
100 パージガス供給装置
200 レーザ加工機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザビームを出力するレーザ発振器と、
前記レーザビームを集光してワークに照射する加工ヘッド部と、
前記レーザ発振器と加工ヘッド部との間を接続し、該加工ヘッド部の移動に伴なって伸縮し、前記レーザビームを前記加工ヘッド部まで伝送する密閉伸縮光路と、
前記加工ヘッド部の移動を制御する制御装置と、
を備えるレーザ加工機において、
前記制御装置の加工ヘッド部移動指令に基づいて、前記密閉伸縮光路内のパージガスの圧力が大気圧より高くなるように調整する圧力調整手段を備えることを特徴とするレーザ加工機。
【請求項2】
前記圧力調整手段は、
前記制御装置が、前記密閉伸縮光路が伸長して容積が増える方向の加工ヘッド部移動指令を出力しているとき、該移動指令に基づいて前記密閉伸縮光路に大気圧より高い第1の圧力のパージガスを供給するパージガス供給装置と、
前記制御装置が、前記密閉伸縮光路が収縮して容積が減る方向の加工ヘッド部移動指令を出力しているとき、前記密閉伸縮光路の容積が減少して前記パージガスが圧縮され圧力が前記第1の圧力より高い第2の圧力となると開弁し、前記パージガスを前記密閉伸縮光路外へ排出する弁と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載のレーザ加工機。
【請求項3】
前記パージガス供給装置は、前記制御装置が前記密閉伸縮光路の容積が増える方向の加工ヘッド部移動指令を出力しているとき、該移動指令に基づいて開弁し、パージガス源からのパージガスを前記密閉伸縮光路に供給する電磁弁を備えることを特徴とする請求項2に記載のレーザ加工機。
【請求項4】
前記パージガスを前記密閉光路外へ排出する弁は、開弁圧が前記第2の圧力に設定されたチェック弁であることを特徴とする請求項2又は3に記載のレーザ加工機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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