説明

レーザ加工被加工物用保護シート及びそれが貼付されたレーザ加工被加工物

【課題】被加工物に貼付された保護シートが剥がれてしまうのを最小限に抑えることにより被加工物への孔開けや切断加工を良好に行うことができるレーザ加工被加工物に貼付される保護シート及びその保護シートが貼付されたレーザ加工被加工物を提供する。
【解決手段】レーザ加工被加工物用保護シート10は、レーザ加工装置20により加工部分16にアシストガス40を吹き付けながらレーザ光34を照射する所要のレーザ加工が施される被加工物12に貼付されるものである。保護シート10の表裏を貫通する貫通部(貫通孔14或いは切れ目18)を所定間隔を存して複数設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザ加工被加工物用保護シート、詳しくは、レーザ光を照射してレーザ加工が施される被加工物の傷防止や指紋などの汚れ防止用に貼付する保護シート及びそれが貼付されたレーザ加工被加工物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来よりレーザ光にて被加工物の孔開けや切断加工を行うレーザ加工装置が知られている。該レーザ加工装置は、従来のプレス加工等の打ち抜き加工と異なり、高精度で孔開けや切断加工が行える、被加工物をレーザ光にて孔開けや切断加工を行った部分にバリが出ない、打ち抜き金型が不必要等の長所を有している。このレーザ加工装置は、被加工物を一つ一つ単一で孔開けや切断加工を行わなければならないため、大量生産には不向きであるが高精度の加工に適している。
【0003】
ところで、集光レンズにて集光されたレーザ光にて被加工物に孔を開けたり切断加工などを行うレーザ加工装置では、レーザ光での孔開けや切断加工時に周囲に被加工物が溶けた溶融物が飛散して被加工物を損傷させると共に、飛散した溶融物により集光レンズを汚す危険性があった。そこで、レーザ加工ヘッドの下方端に形成された開口部から被加工物の加工部分にアシストガスを噴射して、レーザ加工ヘッドから照射されたレーザ光により溶けた溶融物が飛散するのを抑制していた(特許文献1参照)。
【0004】
即ち、このようなレーザ加工装置では図10、図11に示すように、レーザ加工ヘッド124のノズル部128下方端の開口部130から高圧のアシストガス140を被加工物112の加工部分116に噴射しながら、集光レンズ132にて集光されたレーザ光134にて被加工物112の孔開けや切断加工を行っている。そして、孔開けや切断加工した被加工物112に曲げ加工などを施す場合、曲げ加工装置によって被加工物112の表面が傷付いてしまう。そこで、被加工物112の表面に傷が付いてしまうのを防止するため、傷防止用の保護シート110を被加工物112の表面に貼付していた。
【0005】
該被加工物112の表面に貼付される保護シート110は、孔開けや切断加工、或いは、曲げ加工が行われた後、大半は剥がされる場合が多い。該保護シート110が被加工物112の表面に強力に接着されていると、後に剥がし難くなってしまったり、保護シート110を剥がした被加工物112の表面に接着剤などが残ってしまうため、被加工物112には容易に剥離できるような保護シート110が貼付されていた。この場合、保護シート110の接着力は弱く、レーザ加工ヘッド124の開口部130から噴射された高圧のアシストガス140による風圧で剥がれ、浮き上がってしまう場合が多い。この場合、図12に示すように保護シート110の一部は被加工物112から剥がれ、小さな寸法で孔開けや切断加工箇所から約1.5mm〜大きな寸法で孔開けや切断加工箇所から約7.0mmの範囲で浮き上がっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−61861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、被加工物が傷付いてしまうのを防止している保護シートが剥がれ、孔開け部分や切断加工部分から大きな寸法で浮き上がってしまうと、保護シートの溶融物が、レーザ加工ヘッド先端に付着し、アシストガス出口となるノズル部下方端の開口部内を変形させてしまう。これによって、開口部から噴射されるアシストガスの吐出方向が変わり、被加工物の切断不良が生じてしまう。また、大きな寸法で浮き上がった保護シートにレーザ加工ヘッドのノズル部が引っかかることにより、停止センサが働いて、切断加工運転が時々停止してしまうなど、作業性が悪化してしまう問題があった。
【0008】
本発明は、係る従来技術の課題を解決するために成されたものであり、被加工物に貼付された保護シートが剥がれてしまうのを最小限に抑えることにより被加工物への孔開けや切断加工を良好に行うことができるレーザ加工被加工物に貼付される保護シート及びその保護シートが貼付されたレーザ加工被加工物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のレーザ加工被加工物用保護シートは、レーザ加工装置により加工部分にアシストガスを吹き付けながらレーザ光を照射する所要のレーザ加工が施される被加工物に貼付されるものであって、表裏を貫通する貫通部が所定間隔を存して複数設けられていることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2のレーザ加工被加工物用保護シートは、上記において、前記貫通部は、保護シートの表裏を貫通する貫通孔であり、該貫通孔の直径は、0.25mm以上、2.00mm以下であることを特徴とする。
【0011】
また、請求項3のレーザ加工被加工物用保護シートは、請求項2において、貫通孔の直径は、0.50mmであることを特徴とする。
【0012】
また、請求項4のレーザ加工被加工物用保護シートは、請求項1において、貫通部は、保護シートの表裏を貫通する切れ目であることを特徴とする。
【0013】
また、請求項5のレーザ加工被加工物用保護シートは、請求項1乃至請求項4のうちの何れかにおいて、貫通部は、1.00mm以上、5.00mm以下の間隔で配置されていることを特徴とする。
【0014】
また、請求項6のレーザ加工被加工物は、請求項1乃至請求項5のうちの何れかに記載のレーザ加工被加工物用保護シートが表面に貼付されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、レーザ加工装置によりレーザ加工被加工物の加工部分にアシストガスを吹き付けながらレーザ光を照射する所要のレーザ加工を行う際、例えば、請求項6の如くレーザ加工被加工物用保護シートが表面に貼付されたレーザ加工被加工物を用いれば、レーザ加工被加工物と保護シート間に入り込んだアシストガスを、保護シートに複数設けた貫通部から外部に放出させることが可能となる。これにより、例えばレーザ加工ヘッドの先端部から噴射された高圧のアシストガスの風圧で、レーザ加工被加工物に貼付された保護シートが孔開けや切断加工部分から大きな寸法で剥がれ、浮き上がってしまうなどといった不都合を未然に防止することができる。従って、保護シートの溶融物が、レーザ加工ヘッド先端に付着して、アシストガス出口となるノズル部先端の開口部内を変形させてしまうなどといった不都合を未然に防止することができる。また、開口部から噴射されるアシストガスの吐出方向が変わり、被加工物の切断不良が生じてしまうと共に、大きな寸法で浮き上がった保護シートにレーザ加工ヘッドのノズル部が引っかかることにより、停止センサが働いて、切断加工運転が時々停止してしまう等といった不都合も未然に防止することができるようになるものである。
【0016】
また、請求項2の如く貫通部を貫通孔とし、当該貫通孔の直径を0.25mm以上、2.00mm以下に形成すると共に、請求項5の如くそれらの間隔を1.00mm以上、5.00mm以下の間隔で配置すれば、レーザ光にてレーザ加工被加工物に孔開けや切断加工を行った場合、従来のように孔開けや切断加工部分の保護シートが貫通部の間隔以上大きな寸法で剥がれ、浮き上がってしまう不都合を確実に防止することが可能になる。また、レーザ加工ヘッドの先端部から噴射された、高圧のアシストガスの風圧でも、貫通部の間隔以上保護シートが剥がれないので、レーザ加工被加工物への孔開けや切断加工を行った後、曲げ加工などを行った場合でも、曲げ加工装置によりレーザ加工被加工物の表面に傷が付いてしまう不都合を防止することができ、綺麗な外観を維持することが可能となる。これにより、レーザ加工精度の向上及び綺麗な状態で外観を維持することができるので、レーザ加工した被加工物の商品価値を大幅に向上させることが可能となる。従って、レーザ加工被加工物に貼付される保護シート及びその保護シートが貼付されたレーザ加工被加工物の利便性を極めて向上させることができるようになるものである。
【0017】
特に、請求項4の如く貫通部を保護シートの表裏を貫通する切れ目とした場合には、保護シートに孔がない状態で被加工物の表面全体を覆うことができる。これにより、被加工物の加工前の取り扱い及び、被加工物の孔開けや切断加工後に曲げ加工などを行った場合でも、曲げ加工装置によりレーザ加工被加工物の表面に傷が付いてしまう不都合を防止することができ、綺麗な外観を維持することが可能となる。これにより、レーザ加工精度の向上及び綺麗な状態で外観を維持することができるので、レーザ加工した被加工物の商品価値を大幅に向上させることが可能となる。従って、レーザ加工被加工物に貼付される保護シート及びその保護シートが貼付されたレーザ加工被加工物の利便性を極めて向上させることができるようになるものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施例を示すレーザ加工被加工物用保護シートの正面図である(実施例1)。
【図2】被加工物にレーザ加工被加工物用保護シートが貼付された状態を示すレーザ加工被加工物用保護シートの側面図である。
【図3】レーザ加工被加工物用保護シートが貼付された被加工物に、レーザ光にて孔開けや切断加工を行う状態を示すレーザ加工装置の概略図である。
【図4】レーザ光にてレーザ加工被加工物用保護シートが貼付された被加工物に、孔開けや切断加工が行われているときのアシストガスの流通を示す図である。
【図5】レーザ光にて円形の孔が開けられたときの保護シートの剥がれ状態を示す被加工物の拡大平面図である。
【図6】同図5のレーザ光にて円形の孔が開けられたときの保護シートの剥がれ状態を示す被加工物の平面図である。
【図7】本発明の一実施例を示すレーザ加工被加工物用保護シートの正面図である(実施例2)。
【図8】本発明の一実施例を示す他のレーザ加工被加工物用保護シートの正面図である。
【図9】本発明の一実施例を示す他のレーザ加工被加工物用保護シートの正面図である。
【図10】従来のレーザ加工被加工物用保護シートが貼付された被加工物に、レーザ光にて孔開けや切断加工が行われている状態を示すレーザ加工装置の概略図である。
【図11】レーザ光にてレーザ加工被加工物用保護シートが貼付された被加工物に、孔開けや切断加工が行われているときの、従来のアシストガスの流通を示す図である。
【図12】従来の保護シートが貼付された被加工物に、レーザ光にて円形の孔が開けられたときの保護シートの剥がれ状態を示す被加工物の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、レーザ加工被加工物の加工部分にレーザ加工装置からアシストガスを吹き付けながらレーザ光を照射して加工を行う際、レーザ加工被加工物の表面に貼付された保護シートが剥がれ、浮き上がってしまうのを防止することを主な特徴とする。レーザ加工被加工物の表面に貼付された保護シートが、レーザ加工装置から吹き付けられたアシストガスにより剥がれ、浮き上がってしまうのを防止するという目的を、保護シートにアシストガスを逃がす孔を複数設けるだけの簡単な構造で実現した。
【実施例1】
【0020】
次に、図面に基づき本発明の実施の形態を詳述する。図1は本発明の一実施例を示すレーザ加工被加工物用保護シート10の正面図、図2はレーザ加工被加工物12にレーザ加工被加工物用保護シート10が貼付された状態を示すレーザ加工被加工物用保護シート10の側面図をそれぞれ示している。
【0021】
本実施形態におけるレーザ加工被加工物用保護シート10(以降、レーザ加工被加工物用保護シート10を保護シート10と称す)は、レーザ加工装置20から照射されるレーザ光34にてレーザ加工被加工物12(ステンレス板、鋼板、アルミニウム板、銅板等の金属板等)に孔開けや切断加工が行われる加工部分16、或いは、レーザ加工被加工物12への孔開けや切断加工が行われた後、曲げ加工などを行う際、曲げ加工装置によりレーザ加工被加工物12の表面に傷が付いてしまうのを防止するため、被加工物12の表面に貼付されるものである。
【0022】
保護シート10は、図1、図2に示すように厚さ約65μmの低密度ポリエチレンフィルム或いはポリ塩化ビニールフィルムなどにて構成されている。尚、レーザ加工装置20については後に詳しく説明を行う。また、レーザ加工被加工物12は、保護シート10が貼付されている面を表面、保護シート10が貼付されていない面を裏面としている。
【0023】
該保護シート10には、当該保護シート10の表裏を貫通して、貫通部としての貫通孔14(図4、図5に図示)が複数設けられており、この貫通孔14は、直径約0.25mm以上、2.00mm以下、好ましくは0.50mmの大きさを呈している。これらの貫通孔14は、保護シート10全体に所定の間隔で配置されると共に、隣接する貫通孔14のY軸方向(図5の上下方向)の間隔A1、及び、X軸方向(図5の左右方向)の間隔A2を1.00mm以上、5.00mm以下、好ましくは1.00mm間隔(隣接する貫通孔14の端縁と端縁との間隔)で配置されている。尚、実施例では貫通孔14は円形孔にて形成されている。
【0024】
該保護シート10のどちらか一方の面には、比較的接着力が弱いアクリル系接着剤が塗布されており、この接着剤により保護シート10はレーザ加工被加工物12の表面側に貼付可能に構成されている。そして、この保護シート10が、塗布された接着剤でレーザ加工被加工物12の表面(図2の左側面)に貼付されて、レーザ光34にて孔開けや切断加工可能なレーザ加工被加工物12(以降、レーザ加工被加工物12を被加工物12と称す)が完成する。
【0025】
ここで、前記レーザ加工装置20は、図3に示すように被加工物12への孔開けや切断加工可能なレーザ光34を発振させるレーザ発振装置22と、このレーザ発振装置22から発振されたレーザ光34を被加工物12に照射しながらアシストガス40を被加工物12の加工部分16に吹き付けるレーザ加工ヘッド24と、圧搾されたアシストガス40をレーザ加工ヘッド24に供給するアシストガス供給装置38と、水平面X軸、Y軸方向に移動し、被加工物12が支持固定される支持テーブル42と、これらの制御を行う制御装置44とから構成されている。
【0026】
該レーザ加工装置20には、汎用マイクロコンピュータからなる制御装置44が設けられており、レーザ加工装置20は、この制御装置44によって作動を制御されるように構成されている。尚、レーザ加工装置20にて被加工物12にレーザ光34を照射し、当該被加工物12への孔開けや切断加工を行う技術については、従来より周知の技術であるため詳細な説明を省略する。また、制御装置44にてレーザ加工装置20を制御する技術についても従来より周知の技術であるため詳細な説明を省略する。
【0027】
該レーザ加工ヘッド24は、レーザ光34を集光可能な集光レンズ32を収納した円筒形状のハウジング部26と、このハウジング部26の下部に連続して設けられ、下方端(図中下部)に開口部30を備えると共に、内部に空間部29を有する中空逆円錐形状のノズル部28とを備えている。詳しくは、ノズル部28はハウジング部26の下部から離間するに従って細く窄められて、先端(下方端)が開口した細い開口部30を備えている。また、アシストガス供給装置38には導入管36が接続され、この導入管36はノズル部28に接続されている。即ち、アシストガス供給装置38は、導入管36を介してノズル部28内に形成された空間部29に連通し、この空間部29はノズル部28下端の細い開口部30を介して下方外部に連通している。
【0028】
また、被加工物12を支持固定する支持テーブル42とレーザ加工ヘッド24は、駆動装置(図示せず)によって水平面において相対移動可能に構成されると共に、レーザ加工ヘッド24には、前記レーザ発振装置22が接続されている。該レーザ加工ヘッド24には、当該レーザ加工ヘッド24の軸心が鉛直方向となる昇降装置(図示せず)が設けられており、このレーザ加工ヘッド24は軸心が鉛直方向となるように昇降装置に支持されている。
【0029】
そして、制御装置44によってレーザ発振装置22が駆動されると、このレーザ発振装置22から発振されたレーザ光34は集光レンズ32によって集光されて、ノズル部28の空間部29内を通り、ノズル部28下方端の開口部30を通過して被加工物12へ照射される。該制御装置44は、レーザ発振装置22から発振されたレーザ光34が照射されて被加工物12への孔開けや切断加工が行われる際、当該被加工物12へのレーザ光34の照射位置となる加工部分16に、アシストガス40が噴射できるように構成されている。
【0030】
即ち、アシストガス40は、アシストガス供給装置38から導入管36を介してノズル部28の空間部29内に流入した後、ノズル部28下方端の開口部30から噴射されて、被加工物12の加工部分16に吹き付けられる。詳しくは、レーザ光34を被加工物12に照射して孔開けや切断加工が行われる際、アシストガス供給装置38にて圧搾されたアシストガス40は、導入管36からレーザ加工ヘッド24の下方端に設けられた、中空逆円錐形状のノズル部28の空間部29内に流入する。
【0031】
そして、空間部29内に流入したアシストガス40は、ノズル部28内を下方に行くに従って絞られ、開口部30から勢いよく噴射されて被加工物12の加工部分16に吹き付けられる。尚、制御装置44は、被加工物12への孔開けや切断加工が行われないとき、アシストガス供給装置38を制御してノズル部28から噴射されるアシストガス40を被加工物12の加工部分16に吹き付けるのを停止する。
【0032】
該ノズル部28の下端部には、レーザ加工ヘッド24と被加工物12との間隔を一定に保持する静電容量式の距離センサ46が設けられている。この距離センサ46は、ノズル部28の下端部と被加工物12との間の距離の違いに応じた静電容量の変化を検出し、その検出結果が制御装置44に入力されるように構成されている。
【0033】
即ち、制御装置44は、距離センサ46による静電容量の検出結果を基に、レーザ加工ヘッド24(集光レンズ32やレーザ発振装置22などを含む)を上下動を制御して、レーザ光34にて被加工物12への孔開けや切断加工時に、当該被加工物12とノズル部28の下端開口部30との間の距離を一定に保持する。尚、静電容量式の距離センサ46を用い、制御装置44にてレーザ加工ヘッド24と被加工物12との間の距離を一定に保持する技術については従来より周知の技術であるため詳細な説明を省略する。
【0034】
以上の構成により、次にレーザ加工装置20による被加工物12への円形孔開け加工の説明を行う。尚、支持テーブル42の所定位置に被加工物12が支持固定されると共に、被加工物12には、例えば直径約50mmの円形の孔開け加工が行われるものとする。また、制御装置44は、距離センサ46の静電容量の変化によりレーザ加工ヘッド24と被加工物12との距離を一定に保持しているものとする。
【0035】
レーザ加工装置20が運転されると、レーザ発振装置22から発振されたレーザ光34は、集光レンズ32で集光され、ノズル部28下端の開口部30から被加工物12の加工部へ向けて照射される。そして、前記被加工物12の表面に貼付された保護シート10は、レーザ発振装置22から発振されたレーザ光34にて被加工物12の円形孔開け加工時に、同時に切断される。また、アシストガス40はアシストガス供給装置38から導入管36を介してノズル部28の空間部29内に流入した後、細いノズル部28下方端の開口部30で絞られて被加工物12の加工部分16に高圧で噴射される。
【0036】
このとき、図4白抜き矢印で示すように、被加工物12の加工部分16に高圧で吹き付けられたアシストガス40の大半は加工部分16(孔開けや切断加工部分)から下方に通り抜ける。また、被加工物12の加工部分16に高圧で吹き付けられたアシストガス40は被加工物12に当たって一部が分岐する。分岐した一部のアシストガス40は、図4黒矢印で示すように切断された被加工物12と保護シート10との間に入り込み、従来のように保護シート10を被加工物12から剥離し浮き上がらせてしまう。
【0037】
しかし、本発明では保護シート10に所定の間隔で貫通孔14を複数設けているので、被加工物12と保護シート10との間に入り込んで、当該保護シート10を浮き上がらせたアシストガス40は、加工部分16に最も近接した貫通孔14内を通過して外部に放出される(被加工物12と保護シート10との間から貫通孔14を通過して外部に放出される。)。即ち、アシストガス40の大半は被加工物12の加工部分16から下方に通り抜け、一部のアシストガス40は、被加工物12と保護シート10との間に入り込み、加工部分16に最も近接した貫通孔14より、被加工物12と保護シート10との間から外部に放出され、それより離間側の被加工物12と保護シート10との間に入り込んでしまわないように構成している。
【0038】
詳しくは、貫通孔14は、レーザ加工ヘッド24の先端部から噴射され、被加工物12と保護シート10の間に入った高圧のアシストガス40を、当該被加工物12と保護シート10の間から外部に逃がし、被加工物12から保護シート10がその貫通孔14より、加工部分16から離間した貫通孔14の方向に剥がれない大きさに形成されている。これにより、アシストガス40は、加工部分16に最も近接した貫通孔14より遠方の貫通孔14の方向には流入しないので、加工部分16に最も近接した貫通孔14より遠方方向の保護シート10が被加工物12より剥がれてしまうことがない。
【0039】
係るレーザ光34による被加工物12への孔開けや切断加工時においては、図5、図6に示すように孔開けされた加工部分16の近傍だけ保護シート10が剥がれ(保護シート10は、加工部分16に最も近接した貫通孔14迄剥がれる)、それ以上保護シート10が剥がれることがない。これにより、レーザ光34にて被加工物12に孔開けや切断加工を行った後、当該被加工物12の曲げ加工などを行った場合でも、曲げ加工装置により被加工物12の表面(保護シート10の剥がれた部分)に傷が付いてしまうのを防止することができる。
【0040】
このように、レーザ加工装置20により被加工物12の加工部分16にアシストガス40を吹き付けながらレーザ光34を照射する所要のレーザ加工を行う際、例えば、請求項5の如く保護シート10が表面に貼付された被加工物12を使用すれば、被加工物12と保護シート10間に入り込んだアシストガス40を、保護シート10に複数設けた貫通孔14から外部に排出させることが可能となる。詳しくは、好ましい貫通孔14の間隔を約1.00mmとしているので、保護シート10が浮き上がる寸法は、加工部分16から貫通孔14迄の寸法(約1.00mm)である。
【0041】
これにより、レーザ加工ヘッド24の先端部から噴射された、高圧のアシストガス40の風圧で被加工物12に貼付された保護シート10が加工部分16から大きな寸法で剥がれ、浮き上がってしまうなどといった不都合を未然に防止することができる。従って、従来のように保護シート10の溶融物が、レーザ加工ヘッド24先端に付着して、アシストガス40出口となるノズル部28下方端の開口部30内が変形してしまうなどといった不都合を未然に防止することが可能となる。また、開口部30から噴射されるアシストガス40の吐出方向が変わり、被加工物12の切断不良が生じてしまうと共に、大きな寸法で浮き上がった保護シート10にレーザ加工ヘッド24のノズル部28が引っかかることにより、停止センサが働いて、切断加工運転が時々停止してしまう等といった不都合も未然に防止することができる。
【0042】
特に、貫通孔14の直径を0.25mm以上、2.00mm以下に形成すると共に、貫通孔14の間隔を1.00mm以上、5.00mm以下の間隔で配置したので、レーザ光34にて被加工物12に孔開けや切断加工を行った場合、従来のように貫通孔14の間隔以上保護シート10が加工部分16から大きな寸法で剥がれ、浮き上がってしまう不都合を確実に防止することが可能になる。また、レーザ加工ヘッド24の先端部から噴射された高圧のアシストガス40の風圧でも、貫通孔14の間隔以上保護シート10が剥がれないので、被加工物12への孔開けや切断加工を行った後、曲げ加工などを行った場合でも、曲げ加工装置により被加工物12の表面に傷が付いてしまうのを防止することができ、綺麗な外観を維持することが可能となる。これにより、レーザ加工精度の向上及び綺麗な状態で外観を維持することができるので、レーザ加工した被加工物12の商品価値を大幅に向上させることが可能となる。従って、被加工物12に貼付される保護シート10及びその保護シート10が貼付された被加工物12の利便性を極めて向上させることができる。
【実施例2】
【0043】
次に、図7、図8、図9には本発明の他の実施例の保護シート10を示している。該保護シート10は、前述の実施形態と略同じ構成を有している。以下、異なる部分について説明する。尚、前述の実施の形態と同じ部分にはこれと同じ符号を付し、説明を省略する。
【0044】
該保護シート10には、図7に示すように前記貫通孔14と同様の働きをする貫通部としての切れ目18が多数設けられている。この切れ目18は、レーザ加工ヘッド24の先端部から噴射され、被加工物12と保護シート10の間に入った高圧のアシストガス40を、当該被加工物12と保護シート10の間から外部に逃がし、被加工物12から保護シート10がその切れ目18より、加工部分16から離間した切れ目18の方向に剥がれない大きさに形成されている。
【0045】
具体的に切れ目18は、鋭利な刃物で保護シート10の表裏面を貫通して切り裂かれ、この切り裂かれた長さ寸法B1(切れ目18の一端から多端までの長さ寸法)は、約1.50mm〜2.00mmの横方向から見て−形状(マイナス形状)を呈している。保護シート10には複数の−形状の切れ目18が設けられており、この切れ目18はY軸方向(図7の上下方向)に約3.00mm〜4.00mm間隔で配置されている。詳しくは、Y軸方向に隣接する両切れ目18端部の、近接側の間隔B2が約3.00mm〜4.00mm離間して配置されている。
【0046】
また、切れ目18はX軸方向(図7の左右方向)の間隔B3が約3.00mmで配置されている。詳しくは、Y軸方向に約3.00mm〜4.00mm間隔で複数の切れ目18が配置されると共に、Y軸方向に配置された複数の切れ目18が約3.00mm間隔でX軸方向に配置されている。そして、Y軸方向に配置された複数の切れ目18は、隣接するY軸方向に配置された複数の、切れ目18の間に位置して配置され、これによって、保護シート10に設けられた複数の切れ目18は、千鳥状に配置されている。このように形成され、配置された複数の切れ目18は、レーザ加工ヘッド24の先端部から噴射され、被加工物12と保護シート10の間に入った高圧のアシストガス40を、当該被加工物12と保護シート10の間から外部に効率よく逃がせるようになっている。
【0047】
次に、他の形状の切れ目18を設けた保護シート10を、図8を参照して説明する。該保護シート10には、図8に示すように前記貫通孔14と同様の働きをする貫通部としての切れ目18が多数設けられている。この切れ目18も、レーザ加工ヘッド24の先端部から噴射され、被加工物12と保護シート10の間に入った高圧のアシストガス40を、当該被加工物12と保護シート10の間から外部に逃がし、被加工物12から保護シート10がその切れ目18より、加工部分16から離間した切れ目18方向に剥がれない大きさに形成されている。
【0048】
具体的に切れ目18は、鋭利な刃物で保護シート10の表裏面を貫通して切り裂かれ、この切り裂かれた長さ(切れ目18の一端から多端までの長さ)は、Y軸方向の寸法C1を約1.00mm〜2.50mm、X軸方向の寸法C3を約1.00mm〜2.50mmに形成した+形状(プラス形状)を呈している。保護シート10には複数の+形状の切れ目18が設けられており、これらの切れ目18は、保護シート10全体に所定の間隔で配置されると共に、隣接する切れ目18の、Y軸方向の間隔C2、及び、X軸方向の間隔C4は1.00mm〜5.00mm(隣接する貫通孔14の端縁と端縁との間隔)に配置されている。このように形成され、配置された複数の切れ目18は、レーザ加工ヘッド24の先端部から噴射され、被加工物12と保護シート10の間に入った高圧のアシストガス40を、当該被加工物12と保護シート10の間から外部に効率よく逃がせるようになっている。
【0049】
次に、他の形状の切れ目18を設けた保護シート10を、図9を参照して説明する。該保護シート10には、図9に示すように前記貫通孔14と同様の働きをする貫通部としての切れ目18が多数設けられている。この切れ目18も、レーザ加工ヘッド24の先端部から噴射され、被加工物12と保護シート10の間に入った高圧のアシストガス40を、当該被加工物12と保護シート10の間から外部に逃がし、被加工物12から保護シート10がその切れ目18より、加工部分16から離間した切れ目18方向に剥がれない大きさに形成されている。
【0050】
具体的に切れ目18は、鋭利な刃物で保護シート10の表裏面が貫通して引き裂かれ、この引き裂かれた形状が略Y字形状(等間隔で放射状に3方向)を呈している。該引き裂かれた3方向の、切れ目18の各一片の長さ寸法D1(放射状に延在する中心から端部までの長さ)は、約0.50mm〜1.00mmに形成した略Y字形状を呈している。保護シート10には複数の略Y字形状の切れ目18が設けられており、これらの切れ目18は、保護シート10全体に所定の間隔で配置されると共に、切れ目18が隣接するY軸方向の間隔D2(Y軸方向に隣接した、切れ目18の近接側の端縁と端縁との間隔)は3.00mm〜4.00mm、X軸方向の間隔D3は1.00mm〜5.00mm(隣接する切れ目18の中心と中心の間隔)、好ましくは4.00mm〜5.00mmに配置されている。このように形成され、配置された複数の切れ目18は、レーザ加工ヘッド24の先端部から噴射され、被加工物12と保護シート10の間に入った高圧のアシストガス40を、当該被加工物12と保護シート10の間から外部に効率よく逃がせるようになっている。尚、X軸方向の間隔D3を4.00mmより狭くする場合は、隣接する切れ目が重なってしまう、或いは、近接しすぎるので、切れ目18を千鳥状に配置して、Y軸方向に隣接する切れ目18が重なってしまうのを防止すればよい。
【0051】
そして、複数の切れ目18が設けられた保護シート10が被加工物12の表面に貼付され、この被加工物12が前述同様レーザ加工装置20のレーザ光34により孔開けや切断加工が行われる。そして、レーザ光34による孔開けや切断加工時に、前述同様レーザ加工ヘッド24の先端部から高圧のアシストガス40が被加工物12に噴射されると、このアシストガス40の一部が、切断された被加工物12と保護シート10との間に入り込む。被加工物12と保護シート10との間に入り込んだアシストガス40は、切れ目18から外部に放出されるので、その切れ目18より加工部分16から離間した切れ目18方向に保護シート10が大きな寸法で剥がれて浮き上がってしまうなどといった不都合を未然に防止することができる。
【0052】
また、レーザ加工装置20のレーザ光34により被加工物12の孔開けや切断加工が行われる際、切れ目18がレーザ光34で切断された場合、アシストガス40により切れ目18部分がめくれ、切断加工部分と切れ目18のめくれた部分からアシストガス40を外部に逃がすことができる。このように、保護シート10に切れ目18を複数設けることにより、前述同様、レーザ加工ヘッド24の先端部から噴射された高圧アシストガス40の風圧で被加工物12に貼付された保護シート10が加工部分16から大きな寸法で剥がれ、浮き上がってしまうなどといった不都合を未然に防止することができる。
【0053】
特に、切れ目18は、孔(貫通孔14)では無いので、貫通孔14(孔)の部分に塵埃などが付着してしまうのも防止することができる。また、貫通孔14では、孔(貫通孔14)の部分に砂などが入って、被加工物12の傷付きも懸念されることがあるが、貫通孔14を切れ目18にすることにより、そのような懸念も払拭することができる。これにより、保護シート10が貼付された被加工物12を長期間放置して置いても、切れ目18部分が汚れて被加工物12の商品価値が損なわれてしまうなどの不都合を確実に防止することができ、保護シート10が表面に貼付された被加工物12の利便性を大幅に向上させることができるようになる。
【0054】
また、従来のように保護シート10の溶融物がレーザ加工ヘッド24先端に付着し、この溶融物によってアシストガス40出口となるノズル部28下方端の開口部30内が変形してしまうなどといった不都合を未然に防止することが可能となる。これにより、ノズル部28下方端に付着した保護シート10が溶融物によって、レーザ加工ヘッド24の開口部30から噴射されるアシストガス40の吐出方向が変わり、被加工物12の切断不良が生じてしまう不都合を防止することができると共に、噴射されたアシストガス40で大きな寸法で保護シート10が浮き上がり、この保護シート10にレーザ加工ヘッド24のノズル部28が引っかかって停止センサが働き、切断加工運転が時々停止してしまうなどといった不都合を確実に防止することができる。
【0055】
尚、実施の形態では、被加工物12をステンレス板、鋼板、アルミニウム板、銅板等の金属板にて説明したが、被加工物12は金属板に限られず、合成樹脂や合板などであっても差し支えない。この場合、被加工物12が合成樹脂や合板などである場合、その加工部分16にレーザ加工装置20からアシストガス40を吹き付けながらレーザ光34を照射して、被加工物12に孔開けや切断加工を行う際、合成樹脂や合板などの表面に貼付された保護シート10が剥がれ、浮き上がってしまうのを確実に防止することができる。
【0056】
また、実施の形態では、貫通孔14を円形孔で説明したが、貫通孔14は、円形孔に限られるものではなく、レーザ加工装置20から被加工物12の加工部分16に吹き付けられたアシストガス40を通過させることができれば貫通孔14は、楕円形、三角形、方形、多角形などであっても差し支えない。これにより、レーザ加工装置20から被加工物12の加工部分16に吹き付けられたアシストガス40を通過させることができるので、保護シート10が剥がれてしまう不都合を未然に防止することができる。
【0057】
また、実施の形態では保護シート10の表裏を貫通する直径約0.25mm以上、2.00mm以下、好ましくは0.50mmの貫通孔14(実施例では円形孔)を複数形成すると共に、各貫通孔14を1.00mm以上、5.00mm以下、好ましくは1.00mm間隔で配置したが、各貫通孔14の間隔は、レーザ加工装置20から被加工物12の加工部分16に吹き付けられたアシストガス40が通過し、保護シート10が剥がれなければ、各貫通孔14をでき得る限り小さくし、各貫通孔14の間隔をでき得る限り狭くしても差し支えない。
【0058】
また、実施の形態では保護シート10及び保護シート10が貼付された被加工物12の形状や寸法を記載したが、保護シート10及び保護シート10が貼付された被加工物12の要旨を逸脱しない範囲内で形状や寸法を変更しても良いのは言うまでもない。勿論本発明は、上記実施例のみに限定されるものではなく、この発明の趣旨を逸脱しない範囲で他の様々な変更を行っても本発明は有効である。
【符号の説明】
【0059】
10 保護シート
12 被加工物
14 貫通孔
16 加工部分
18 切れ目
20 レーザ加工装置
22 レーザ発振装置
24 レーザ加工ヘッド
28 ノズル部
30 開口部
32 集光レンズ
34 レーザ光
36 導入管
38 アシストガス供給装置
40 アシストガス
42 支持テーブル
44 制御装置
46 距離センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ加工装置により加工部分にアシストガスを吹き付けながらレーザ光を照射する所要のレーザ加工が施される被加工物に貼付される保護シートであって、表裏を貫通する貫通部が所定間隔を存して複数設けられていることを特徴とするレーザ加工被加工物用保護シート。
【請求項2】
前記貫通部は、前記保護シートの表裏を貫通する貫通孔であり、該貫通孔の直径は、0.25mm以上、2.00mm以下であることを特徴とする請求項1に記載のレーザ加工被加工物用保護シート。
【請求項3】
前記貫通孔の直径は、0.50mmであることを特徴とする請求項2に記載のレーザ加工被加工物用保護シート。
【請求項4】
前記貫通部は、前記保護シートの表裏を貫通する切れ目であることを特徴とする請求項1に記載のレーザ加工被加工物用保護シート。
【請求項5】
前記貫通部は、1.00mm以上、5.00mm以下の間隔で配置されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のうちの何れかに記載のレーザ加工被加工物用保護シート。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のうちの何れかに記載のレーザ加工被加工物用保護シートが表面に貼付されていることを特徴とするレーザ加工被加工物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−194602(P2010−194602A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45746(P2009−45746)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(592110934)株式会社オガタ・エスメック (2)
【Fターム(参考)】