説明

レーザ波長変換装置及びレーザ波長変換方法

【課題】 レーザによる自己加熱を補償し、高強度での変換効率の低下を改善する。
【解決手段】 波長変換用非線形結晶10における波長変換による平均的な温度上昇を検出する温度検出器22による検出出力に基づいて、第1のペルチェ素子21を駆動して、上記波長変換用非線形結晶10の結晶全体の温度を平均した平均温度を制御し、上記波長変換用非線形結晶10の出射端面10Bから出射された2次高調波光(L)の光量に応じた大きさの駆動電流を第2のペルチェ素子31に流すことにより、上記波長変換用非線形結晶10内の温度勾配を相殺する熱流(HC2)を上記第2のペルチェ素子31により生じさせて上記温度勾配を制御して、上記波長変換用非線形結晶10の位相整合をとり、出射される2次高調波光(L)の光量が最大となる温度に上記波長変換用非線形結晶10の平均温度を上記第1のペルチェ素子21により制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周期的分極構造を有する波長変換用非線形結晶にレーザ光を入射させて、伝播方向に基本波と異なる波長のレーザ光を発生させるレーザ波長変換装置及びレーザ波長変換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コヒーレント光源は光通信分野のみならず、医療分野や顕微鏡など計測分野などにおいても欠かせないものとなっている。そして、コヒーレント光の波長も、たとえば医療分野においてはその目的によって種々の波長が使われようとしている。
【0003】
コヒーレント光の光源としては、半導体レーザや固体レーザなど各種のレーザ発振器が知られているが、波長によっては、レーザ発振器から直接得られないものがある。その場合、必要な波長を得るために、非線形波長変換方法が用いられている。
【0004】
既存の長波長(赤色)半導体レーザを基本波とし、その半分の波長の光が発生する二次の非線形光学効果である第二高調波発生(SHG:Second Harmonic Generation)は短波長レーザ光源を実現する手段として広く研究されてきた。一般的に、結晶は屈折率に周波数分散を持つため、基本波と第二高調波で速度が異なる。そのためある点で発生した第二高調波と打ち消しあうような第二高調波が発生する点が存在する。このため、効率よく第二高調波を発生させるためには位相整合条件が必要である。一般には、各周波数で偏光によって屈折率が異なる複屈折を持った結晶を用いて、基本波と第二高調波の屈折率をそろえる方法がある。しかし、半導体などは、第二高調波の発生効率を決める二次の非線形光学感受率は大きいが、複屈折性を持たないため複屈折を利用した第二高調波発生を利用することができない。
【0005】
これに対し、1962年にArmstrongらによって擬似位相整合(QPM:Quasi Phase Matching)による第二高調波発生が提案された。擬似位相整合とは、各点で発生した第二高調波の足し合わせが、もっとも大きくなる結晶長ごとに第二高調波を引き起こす非線形分極の向きを反転させることにより、それまで打ち消しあう電場の振動だった第二高調波を電場が加勢する(もしくは打ち消さない)向きに変えてやることにより擬似的に位相を整合させる方法である。したがって、この方法では、半導体などの複屈折を持たない結晶でも利用することができる。
【0006】
二次高調波発生を行う非線形光学結晶内部では、レーザ光の強い光電場により誘起された非線形分極により、基本波の位相速度と同じ速度で伝播する非線形分極波と、非線形分極から双極子輻射で放出される二次高調波(SHG波)とがともに伝播する。
【0007】
ここで、分極波とSHG波の位相速度が同じであれば、伝播するSHG波と結晶内のどの地点で発生しつつある双極子輻射とも同位相となるためコヒーレント加算され高効率で二次高調波を発生させることができる。この様に分極波とSHG波との位相を合わせることを位相整合と呼び、最大の変換効率を得る条件を位相整合条件という。そして、この位相整合条件は入射波の波長における結晶の屈折率とSHG波の屈折率とを等しくすることにより得られる。
【0008】
すなわち、非線形光学効果を利用して波長変換を行う場合、入力レーザ光に誘起される非線形分極とその非線形分極より発生する高調波は、通常その位相がずれて位相不整合の状態であり、コヒーレンス長 (基本波と高調波の位相が180゜ずれる距離)毎に極大、極小を周期的に繰り返すので、効率良く波長変換を行うためには位相整合条件を満たす必要がある。
【0009】
従来、CWレーザの高い効率での波長変換は、周期的分極構造を有するPPLT(periodically poled LiTaO),PPKTP(Periodically Poled KTiOPO)などにより行われている(例えば、非特許文献1参照)。
【0010】
周期的分極構造を有するPPLT(periodically poled LiTaO),PPKTP(Periodically Poled KTiOPO)などの分極反転素子の疑似位相整合による波長変換は、波長変換効率が比較的高く、1μm帯から500nm付近の可視光帯へのSHG 波長変換等で広く利用されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0011】
ここで、2次高調波の場合、レーザ強度が低い場合は入射強度の2乗で変換されていくが、10Wを超える入射になると、レーザ自身による加熱により、結晶内に不均一な温度分布ができる。これにより位相整合条件が唯一条件をとれなくなり、変換効率が低下することが知られている(例えば、非特許文献2参照)。非特許文献2には、熱的位相不整合(thermal dephasing)として記述されている。
【0012】
また、所望される強度まで変換効率の低下を無視して入射強度を上げ得ることも可能であり、すでに16Wの0.5μm光の発生も行われている(例えば、非特許文献3参照)。しかし、変換効率は16%程度まで落ちてしまっている。
【0013】
一方、結晶への集光特性と2次高調波や1次、2次のレーザが高強度で共存する場合の吸収に対して低い吸収率が保たれる結晶を使って32.5%という高い変換効率で9.6Wの出力を得ることに成功したものもある(例えば、非特許文献4参照)。しかし、ここでも熱的位相不整合(Thermal dephasing)は対処されておらず、著者も、これを解決すればさらに高い効率に向える、というコメントをしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2006−208629号公報
【特許文献2】特開2008−40301号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】S.C. Kumar et al., OPTICS Express Vol.17, No.16, (2009) 13711
【非特許文献2】F.J.Kontur, et al., OPTICS EXPRESS, Vol.15, No.20 (2007) 12882
【非特許文献3】S.V.Tovstonog, OPTICS EXPRESS, Vol.16 (2008) 11294
【非特許文献4】G.K.Samanta, Opt. Lett., 34 (2009) 1561
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところで、レーザ光を非線形光学結晶で波長変換する際に、温度位相整合は重要になる。特にCWレーザでも高い変換効率が得られる周期的分極構造を有する非線形光学結晶では、準位相整合を長距離にわたり取ることができるが、温度位相整合はより重要になってくる。
【0017】
しかし、周期的分極構造を有する非線形光学結晶からなる波長変換素子を使ってレーザ光の波長を変換させる場合、上記波長変換素子を構成する非線形光学結晶が長尺な周期的分極構造を有することから、入射強度の増大化にともない入射レーザ光、変換光による結晶の加熱が起き、結晶の温度分布の一様性を保てなくなる。
【0018】
すなわち、入射レーザ強度を増加させると、変換された2次高調波の吸収や2次高調波をアシストにした基本波の吸収などが起き、長い結晶中で特に下流側で温度上昇が起きる。結晶全体の温度が上がることは、冷却能力を上げることで対応できるが、このようなレーザ軸方向の温度分布は、補償できる手法がなく、高効率変換での制限要素となっている。
【0019】
従来、熱的位相不整合(thermal dephasing)問題は、Z. M. LiaoらがJOSAB, Vol.21-12 (2004) 2191などにまとめているが、これを解決する手法としては、上記非特許文献1に記載されているように、結晶ホルダーの上部をオープンにして温度分布を変える、上流部、下流部に2つの温度制御を設ける方法などが提案されているに過ぎない。また、制御の点で考えると、2つの温度という同質のものを使って出力特性を制御することは、最適解を見つける上で困難な面が多い。
【0020】
本発明の目的は、上述の如き従来の実情に鑑み、レーザによる自己加熱を補償し、高強度での変換効率の低下を改善するようにしたレーザ波長変換装置及びレーザ波長変換方法を提供することにある。
【0021】
本発明のさらに他の目的、本発明によって得られる具体的な利点は、以下において図面を参照して説明される実施に形態から一層明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0022】
伝播方向に基本波と異なる波長のレーザ光を発生させる場合、レーザの方向に熱勾配を外部からの熱流を流すことで行う手法はまだなく、原理的にも温度勾配を生む流れそのものを反対向きの流れを駆動して補償するという考えの方が適している。
【0023】
本発明では、レーザの軸方向にペルチェ素子により熱流を発生させ、それと垂直方向での温度制御と並列化することにより、レーザによる自己加熱を補償し、高強度での変換効率の低下を改善する。
【0024】
すなわち、本発明は、レーザ波長変換装置であって、基本レーザ光が入射端面から入射され、入射された基本レーザ光を高調波光に波長変換し、出射端面から高調波光を出射する周期的分極構造を有する波長変換用非線形結晶と、上記波長変換用非線形結晶における波長変換光による結晶の加熱に起因する温度位相整合のずれを検出する検出手段と、上記検出手段による検出出力に基づいて、上記波長変換用非線形結晶の結晶全体の温度を平均した平均温度を第1のペルチェ素子により制御する第1の温度制御手段と、上記波長変換用非線形結晶の出射端面から出射された高調波光の光量を検出する光量検出手段と、上記光量検出手段による検出出力に基づいて、上記波長変換用非線形結晶の出射端面側から入射端面側に向かう当該波長変換用非線形結晶内の温度勾配を相殺する熱流を第2のペルチェ素子により生じさせて上記温度勾配を制御する第2の温度制御手段とを備え、上記第1の温度制御手段と第2の温度制御手段により、上記波長変換用非線形結晶の平均温度と当該波長変換用非線形結晶内の温度勾配を制御して、上記波長変換用非線形結晶の温度位相整合を最適に保つことを特徴とする。
【0025】
本発明に係るレーザ波長変換装置において、上記第1の温度制御手段は、上記波長変換用非線形結晶の出射端面から出射される2次高調波光の光量が最大となる温度に上記波長変換用非線形結晶の平均温度を上記第1のペルチェ素子により制御し、上記波長変換用非線形結晶の出射端面から出射される2次高調波光の光量を上記光量検出手段により検出し、上記第2の温度制御手段は、上記光量検出手段により検出される上記2次高調波光の光量に応じた大きさの電流を上記第2のペルチェ素子に流すことにより上記温度勾配を制御するものとすることができる。
【0026】
また、本発明に係るレーザ波長変換装置において、上記第1のペルチェ素子は、上記波長変換用非線形結晶と熱シンクとの間に設けられ、上記第1の温度制御手段は、上記波長変換用非線形結晶に生じた熱を上記第1のペルチェ素子を介して上記熱シンクに逃がすことより、上記波長変換用非線形結晶の平均温度を制御し、上記第2のペルチェ素子は、上記波長変換用非線形結晶の入射端面側側面と出射端面側側面に各一端面が当接された一対の熱循環アームの各他端面間に設けられ、上記第1の温度制御手段は、上記波長変換用非線形結晶内の温度勾配を相殺する熱流を上記第2のペルチェ素子により生じさせて上記一対の熱循環アームを介して上記波長変換用非線形結晶に流すことにより、上記温度勾配を制御するものとすることができる。
【0027】
また、本発明は、周期的分極構造を有する波長変換用非線形結晶により、当該波長変換用非線形結晶に入射端面から入射された基本レーザ光を高調波光に波長変換し、出射端面から高調波光を出射するレーザ波長変換装置におけるレーザ波長変換方法であって、上記波長変換用非線形結晶における波長変換による平均的な温度上昇を検出する温度検出手段による検出出力に基づいて、上記波長変換用非線形結晶の結晶全体の温度を平均した平均温度を第1のペルチェ素子により制御し、上記波長変換用非線形結晶の出射端面から出射された高調波光の光量を検出する光量検出手段による検出出力に基づいて、上記光量検出手段により検出される上記2次高調波光の光量に応じた電流を第2のペルチェ素子に流すことにより、上記波長変換用非線形結晶の出射端面側から入射端面側に向かう当該波長変換用非線形結晶内の温度勾配を相殺する熱流を上記第2のペルチェ素子により生じさせて上記温度勾配を制御し、上記波長変換用非線形結晶の平均温度と当該波長変換用非線形結晶内の温度勾配を制御して、上記波長変換用非線形結晶の位相整合をとり、上記波長変換用非線形結晶の出射端面から出射される2次高調波光の光量が最大となる温度に上記波長変換用非線形結晶の平均温度を上記第1のペルチェ素子により制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明では、周期分極構造を持った結晶など、長い結晶使って高い強度のレーザで相互作用させる場合の自己加熱によるレーザ軸方向の熱的位相不整合(Thermal dephasing)を低減させ、高い効率の波長変換を行うことができる。
【0029】
また、本発明では、温度と熱流という直交性のある独立な2つの要素を制御することで、温度位相整合など高い温度一定性が必要な場合に、安定で簡便な最適条件制御が可能になる。
【0030】
すなわち、本発明では、ペルチェ素子が生む電流に比例した熱流を利用した熱帰還型の閉回路を通常の温度制御と並行させることで、熱流と温度という独立な2つの要素を制御するので、最適値を決めることができ、安定で簡便な最適条件制御が可能となり、レーザによる自己加熱を補償し、高強度での変換効率の低下を改善するようにしたレーザ波長変換装置及びレーザ波長変換方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明を適用したレーザ波長変換装置の構成を示すブロック図である。
【図2】上記レーザ波長変換装置における非線形光学結晶の温度制御の様子を模式的に示す要部断面図である。
【図3】上記レーザ波長変換装置における非線形光学結晶の形状を模式的に示す外観斜視図である。
【図4】上記レーザ波長変換装置において、非線形光学結晶内で非線形光学効果により無変換光が減少して二次高調波光が増加する様子を模式的に示す図である。
【図5】上記レーザ波長変換装置において、第1のペルチェ素子による波長変換用非線形結晶の平均温度の制御と、第2のペルチェ素子による波長変換用非線形結晶内の温度勾配の制御の2つの制御を施した場合の典型的な測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0033】
本発明は、例えば図1に示すような構成のレーザ波長変換装置100に適用される。
【0034】
このレーザ波長変換装置100は、非線形光学効果を利用して波長変換を行うことにより、入射する基本波レーザ光(LIN)の2倍の周波数の二次高調波光(L)を発生させる二次高調波発生(SHG)装置として機能するものであって、波長変換用非線形光学結晶10として周期的分極構造を有するPPLT(periodically poled LiTaO)やPPKTP(Periodically Poled KTiOPO)などの非線形光学結晶を備える。
【0035】
上記波長変換用非線形光学結晶10は、図示しないレーザ光源から出射された基本波レーザ光(CWレーザ光(LIN)が入射端面10Aから入射され、入射された基本波レーザ光(LIN)を非線形光学効果により二次高調波光(L)に波長変換して出射端面10Bから出射する。この波長変換用非線形光学結晶10の出射端面10Bから出射される出射光(LOUT)には、図2に示すように、無変換光(L)と二次高調波光(L)が含まれている。
【0036】
ここで、このレーザ波長変換装置100では、上記波長変換用非線形光学結晶10として、例えば、図3に示すように、厚さTが1mm、幅Wが2mm、長さLが20mmの長尺な直方体形状のPPLT(periodically poled LiTaO)を用いた。
【0037】
このレーザ波長変換装置100には、上記波長変換用非線形結晶10の出射端面10Bから出射される出射光(LOUT)に含まれる無変換光(L)は反射して二次高調波光(L)は透過する波長選択性を有する第1の半透鏡11と、この第1の半透鏡11を透過した二次高調波光(L)を所定の光量比で2つの二次高調波光(L21),(L22)に分割する第2の半透鏡12とが設けられている。そして、上記波長変換用非線形結晶10の出射端面10Bから出射される出射光に含まれる二次高調波光(L)の光量を検出する光量検出手段としてフォトダイオードなどの光検出器13が、上記第2の半透鏡12により反射された二次高調波光(L22)を受光するように設けられている。
【0038】
また、このレーザ波長変換装置100において、上記波長変換用非線形結晶10は、放熱用の熱シンク20上に第1のペルチェ素子21を介して設置されている。また、上記波長変換用非線形結晶10には、入射端面側側面11Cと出射端面側側面11Dに各一端面が当接された一対の熱循環アーム30A,30Bが設けられ、上記一対の熱循環アーム30A,30Bの各他端面間に第2のペルチェ素子31が設けられている。さらに、上記波長変換用非線形結晶10には、当該波長変換用非線形結晶10おける波長変換による加熱に起因する温度位相整合のずれを検出する検出手段として熱電対もしくはサーミスタ等の温度検出器22が設けられている。
【0039】
上記温度検出器22は、上記波長変換用非線形結晶10における波長変換による波長変換による加熱に起因する温度位相整合のずれを当該波長変換用非線形結晶10の平均的な温度上昇として検出する。上記温度検出器22は、上記第1のペルチェ素子21に駆動電流を供給する温度制御回路23に接続されている。また、上記光検出器13は、上記第2のペルチェ素子31に駆動電流を供給する温度勾配制御回路32に接続されている。
【0040】
すなわち、このレーザ波長変換装置100は、波長変換用非線形結晶10の結晶全体の温度を平均した平均温度を制御する第1のペルチェ素子21と温度計測を使った温度の絶対値制御と上記波長変換用非線形結晶10のレーザ軸方向に熱の流れを生ませる第2のペルチェ素子31およびその熱回路を備える。
【0041】
上記長尺な直方体形状の非線形光学結晶10内では、基本波レーザ光(CWレーザ光(LIN)が入射端面10Aから入射されると、非線形光学効果により基本波レーザ光(CWレーザ光(LIN)が二次高調波光(L)に波長変換されることにより、図4に示すように、入射端面10A側から出射端面10B側に近づくにしたがって無変換光(L)が減少して、二次高調波光(L)が増加する。
【0042】
熱的位相不整合(Thermal dephasing)として問題となる波長変換用非線形結晶10内での温度分布は、主に2次高調波光(L)の強度分布により決まるため、入射端面10A側から出射端面10B側に向かうに従って徐々に温度が上昇し、反対方向への熱流(HC1)を生んでいる。この波長変換用非線形結晶10内の温度勾配により生じる熱流(HC1)を、上記波長変換用非線形結晶10の上部に付けた第2のペルチェ素子31の駆動により熱回路を介して流れる熱流(HC2)により打ち消して低減させ、上記波長変換用非線形結晶10の位相不整合を低下させる。上記波長変換用非線形結晶10全体の温度は、出射端面10Bから出射される2次高調波光(L)の光量が最大となるように第1のペルチェ素子21で決定し、その2次高調波光(L)の光量に応じた大きさの駆動電流を第2のペルチェ素子31に流すことにより、上記波長変換用非線形結晶10内の温度勾配を制御する。
【0043】
このレーザ波長変換装置100において、上記温度制御回路23は、上記波長変換用非線形結晶10における波長変換による当該波長変換用非線形結晶10の平均的な温度上昇を検出する上記温度検出器22による検出出力に基づいて、上記温度制御回路23から駆動電流を供給することにより上記第1のペルチェ素子21を駆動して、図2に示すように、上記波長変換用非線形結晶10に生じた熱(H1)を上記第1のペルチェ素子21を介して上記熱シンク20に逃がすことより、上記波長変換用非線形結晶10の結晶全体で平均した温度を制御する第1の温度制御手段として機能する。
【0044】
また、上記温度勾配制御回路32は、上記波長変換用非線形結晶10の出射端面10Bから出射された2次高調波光(L)の光量を検出する光検出器13による検出出力に基づいて、上記光検出器13により検出される上記2次高調波光(L)の光量に応じた大きさの駆動電流を上記第2のペルチェ素子31に流すことにより、図2に示すように、上記波長変換用非線形結晶10の出射端面10B側から入射端面10A側に向かう当該波長変換用非線形結晶10内の温度勾配を相殺する熱流(HC2)を上記第2のペルチェ素子31により生じさせて上記温度勾配を制御する第2の温度制御手段として機能する。
【0045】
そして、このレーザ波長変換装置100では、上記波長変換用非線形結晶10における波長変換による平均的な温度上昇を検出する上記温度検出器22による検出出力に基づいて、上記温度制御回路23から駆動電流を供給することにより上記第1のペルチェ素子21を駆動して、上記波長変換用非線形結晶10の平均温度を制御し、上記波長変換用非線形結晶10の出射端面10Bから出射された2次高調波光(L)の光量を検出する光検出器13による検出出力に基づいて、上記光検出器13により検出される上記2次高調波光(L)の光量に応じた大きさの駆動電流を上記温度勾配制御回路32から第2のペルチェ素子31に流すことにより、上記波長変換用非線形結晶10の出射端面10B側から入射端面10A側に向かう当該波長変換用非線形結晶10内の温度勾配を相殺する熱流(HC2)を上記第2のペルチェ素子31により生じさせて上記温度勾配を制御し、上記波長変換用非線形結晶10の平均温度と当該波長変換用非線形結晶10内の温度勾配を制御して、上記波長変換用非線形結晶10の位相整合をとり、上記波長変換用非線形結晶10の出射端面10Bから出射される2次高調波光(L)の光量が最大となる温度に上記波長変換用非線形結晶10の平均温度を上記第1のペルチェ素子21により制御する。
【0046】
このような構成のレーザ波長変換装置100では、周期分極構造を持った結晶など、長い結晶使って高い強度のレーザで相互作用させる場合の自己加熱によるレーザ軸方向の熱的位相不整合(Thermal dephasing)を低減させ、1μm帯から500nm付近の可視光帯へのSHG波長変換を高い効率で行うことができ、高強度の直流グリーンレーザを得ることができる。また、温度と熱流という直交性のある独立な2つの要素を制御することで、温度位相整合など高い温度一定性が必要な場合に、安定で簡便な最適条件制御が可能になり、様々な波長で熱的位相不整合(Thermal dephasing)の問題なく数Wの高強度の直流光を得ることが可能となる。
【0047】
ここで、上述の如き構成のレーザ波長変換装置100において、第1のペルチェ素子21による波長変換用非線形結晶10の平均温度の制御と、第2のペルチェ素子31による波長変換用非線形結晶10内の温度勾配の制御の2つの制御を施した場合の典型的な結果を図5に示す。
【0048】
すなわち、上記第1のペルチェ素子21でレーザによる加熱の平均的な温度上昇を制御しない場合の変換効率の測定結果を図5中に白丸○にて示し、また、上記第1のペルチェ素子21で結晶の平均温度を制御した場合の変換効率の測定結果を図5中に四角■にて示し、さらに、上記第2のペルチェ素子31の自己加熱による熱の流れを制御した場合の変換効率の測定結果を緑ダイヤ◆にて示す。上述の如き構成のレーザ波長変換装置100では、これまで言われていた熱的位相不整合(Thermal dephasing)が大きく改善していることが分かる。
【0049】
なお、本発明は、以上の実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0050】
10 非線形光学結晶、10A 入射端面、10B 出射端面、11 第1の半透鏡、11C 入射端面側側面、11D 出射端面側側面、12 第2の半透鏡、13 光検出器、20 熱シンク、21 第1のペルチェ素子、22 温度検出器、23 温度制御回路、30A,30B 熱循環アーム、31 第2のペルチェ素子、32 温度勾配制御回路、100 レーザ波長変換装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本レーザ光が入射端面から入射され、入射された基本レーザ光を高調波光に波長変換し、出射端面から高調波光を出射する周期的分極構造を有する波長変換用非線形結晶と、
上記波長変換用非線形結晶における波長変換光による結晶の加熱に起因する温度位相整合のずれを検出する検出手段と、
上記検出手段による検出出力に基づいて、上記波長変換用非線形結晶の結晶全体の温度を平均した平均温度を第1のペルチェ素子により制御する第1の温度制御手段と、
上記波長変換用非線形結晶の出射端面から出射された高調波光の光量を検出する光量検出手段と、
上記光量検出手段による検出出力に基づいて、上記波長変換用非線形結晶の出射端面側から入射端面側に向かう当該波長変換用非線形結晶内の温度勾配を相殺する熱流を第2のペルチェ素子により生じさせて上記温度勾配を制御する第2の温度制御手段と
を備え、
上記第1の温度制御手段と第2の温度制御手段により、上記波長変換用非線形結晶の平均温度と当該波長変換用非線形結晶内の温度勾配を制御して、上記波長変換用非線形結晶の温度位相整合を最適に保つことを特徴とするレーザ波長変換装置。
【請求項2】
上記第1の温度制御手段は、上記波長変換用非線形結晶の出射端面から出射される2次高調波光の光量が最大となる温度に上記波長変換用非線形結晶の平均温度を上記第1のペルチェ素子により制御し、
上記波長変換用非線形結晶の出射端面から出射される2次高調波光の光量を上記光量検出手段により検出し、上記第2の温度制御手段は、上記光量検出手段により検出される上記2次高調波光の光量に応じた電流を上記第2のペルチェ素子に流すことにより上記温度勾配を制御することを特徴とする請求項1に記載のレーザ波長変換装置。
【請求項3】
上記第1のペルチェ素子は、上記波長変換用非線形結晶と熱シンクとの間に設けられ、上記第1の温度制御手段は、上記波長変換用非線形結晶に生じた熱を上記第1のペルチェ素子を介して上記熱シンクに逃がすことより、上記波長変換用非線形結晶の平均温度を制御し、
上記第2のペルチェ素子は、上記波長変換用非線形結晶の入射端面側側面と出射端面側側面に各一端面が当接された一対の熱循環アームの各他端面間に設けられ、上記第1の温度制御手段は、上記波長変換用非線形結晶内の温度勾配を相殺する熱流を上記第2のペルチェ素子により生じさせて上記一対の熱循環アームを介して上記波長変換用非線形結晶に流すことにより、上記温度勾配を制御することを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載のレーザ波長変換装置。
【請求項4】
周期的分極構造を有する波長変換用非線形結晶により、当該波長変換用非線形結晶に入射端面から入射された基本レーザ光を高調波光に波長変換し、出射端面から高調波光を出射するレーザ波長変換装置におけるレーザ波長変換方法であって、
上記波長変換用非線形結晶における波長変換による平均的な温度上昇を検出する温度検出手段による検出出力に基づいて、上記波長変換用非線形結晶の結晶全体の温度を平均した平均温度を第1のペルチェ素子により制御し、
上記波長変換用非線形結晶の出射端面から出射された高調波光の光量を検出する光量検出手段による検出出力に基づいて、上記光量検出手段により検出される上記2次高調波光の光量に応じた電流を第2のペルチェ素子に流すことにより、上記波長変換用非線形結晶の出射端面側から入射端面側に向かう当該波長変換用非線形結晶内の温度勾配を相殺する熱流を上記第2のペルチェ素子により生じさせて上記温度勾配を制御し、
上記波長変換用非線形結晶の平均温度と当該波長変換用非線形結晶内の温度勾配を制御して、上記波長変換用非線形結晶の位相整合をとり、
上記波長変換用非線形結晶の出射端面から出射される2次高調波光の光量が最大となる温度に上記波長変換用非線形結晶の平均温度を上記第1のペルチェ素子により制御することを特徴とするレーザ波長変換方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−42808(P2012−42808A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185186(P2010−185186)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度文部科学省、委託研究「先端光量子科学アライアンス(先端光科学システムの構築)」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504133110)国立大学法人電気通信大学 (383)
【Fターム(参考)】