レーザ溶接装置
【課題】加工物にレーザ光を照射することによって生じる金属蒸気(プルーム)を確実に除去して溶接の品質を高める。
【解決手段】ワークの上方にスキャナ装置と共にエアブロー装置16を設け、スキャナ装置から照射されるレーザ光の光軸を包囲するリング状のエアをエアブロー装置16からワーク5に向けて吐出する。エアブロー装置16のハウジング21はリング状に形成され、ハウジング21にはリング状のキャビティが形成され、ハウジング21の下面21Aには、内側リング部材25が取り付られ、その外周側には外側リング部材27が取り付けられ、内側リング部材25と外側リング部材27との間にはリング状の吐出口29が形成されている。内側リング部材25の外周側端面の傾斜と外側リング部材27の内周側端面の傾斜によりエアの吐出方向が定まる。
【解決手段】ワークの上方にスキャナ装置と共にエアブロー装置16を設け、スキャナ装置から照射されるレーザ光の光軸を包囲するリング状のエアをエアブロー装置16からワーク5に向けて吐出する。エアブロー装置16のハウジング21はリング状に形成され、ハウジング21にはリング状のキャビティが形成され、ハウジング21の下面21Aには、内側リング部材25が取り付られ、その外周側には外側リング部材27が取り付けられ、内側リング部材25と外側リング部材27との間にはリング状の吐出口29が形成されている。内側リング部材25の外周側端面の傾斜と外側リング部材27の内周側端面の傾斜によりエアの吐出方向が定まる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を用いて溶接を行うレーザ溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばスキャナ装置やレーザ加工ヘッドといったレーザ照射手段をロボットに取り付け、ロボットを遠隔操作することにより、ワーク等の加工物の溶接を行うリモートレーザ溶接が普及している。このようなレーザ溶接では、ワークから離れた位置からワークに向けてレーザ光を照射して溶接を行う。また、遠隔操作によりロボットのアームを移動させ、またはレーザ照射手段に設けられた反射鏡等を回動させることによりレーザ光の照射位置を変え、これによりワークの所望の箇所に対して溶接を行う。
【0003】
溶接を行うためにレーザ光を金属からなるワークに照射すると、金属の溶出により金属蒸気(プルーム)が発生し、レーザ光が金属蒸気(プルーム)により遮られる。この結果、レーザ光によりワークに加えられる熱量の安定性が損なわれ、溶接の品質が低下する。そこで、従来、溶接を行う際には、例えば、ワークの側方であってワークから離れた位置にファンを設置し、ファンからエアをワーク側に吹きつけ、金属蒸気(プルーム)をエアにより吹き飛ばすといった方法が採られている。
【0004】
また、特許文献1には、ロボットアームの先端に取り付けられたレーザ加工ヘッドにエア噴射ノズルを取り付け、エア噴射ノズルから噴射されるエアによりヒュームを吹き飛ばす構成を備えたレーザ溶接装置が記載されている。このレーザ溶接装置では、ワークないしレーザ光の側方にエア噴射ノズルを配置し、レーザ光を横切るようにエアを噴射している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−268610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ワークに対して溶接を行う際には、ワークを作業台の上に載せ、例えば棒状または板状の複数本のクランパによりワークを上から押さえ付ける場合が多い。この場合、ワークにおける溶接すべき箇所は、複数本のクランパに囲まれた凹んだ位置に配置される。このため、このクランパに囲まれた凹んだ位置に上方からレーザ光を差し込むようにして溶接を行う。
【0007】
このようにワークをクランパによって押さえ付けながら溶接を行う場合、ワークの側方に設置されたファンからワークに向けて横方向にエアを吹き付けても、エアがクランパの側面に当たって遮られてしまい、クランパに囲まれた凹んだ領域内にエアが流れ込まない。この結果、クランパに囲まれた凹んだ領域内に金属蒸気(プルーム)が滞留してしまい、この金属蒸気(プルーム)によりレーザ光が遮られ、溶接の品質が低下する場合がある。
【0008】
また、ワークの側方に設置されたファンからワークに向けて横方向にエアを吹き付ける方法では、ワークにおける溶接すべき箇所がファンに近い場合と遠い場合とでエアの当たり具合が大きく異なり、このため、溶接すべき箇所がファンに近い場合と遠い場合とで、エアによって吹き飛ばされずに残留する金属蒸気(プルーム)の量が異なる。この結果、ワークにおける溶接すべき箇所によって溶接の品質に差が生じる場合がある。また、クランパの設置の仕方によっては、ワーク上においてエアの当たり具合が不均一になる場合があり、この場合にも、ワークにおける溶接すべき箇所によって溶接の品質に差が生じることがある。
【0009】
また、特許文献1に記載されたレーザ溶接装置は、ワークないしレーザ光の側方にエア噴射ノズルを配置し、レーザ光を横切るようにエアを噴射する構成であるため、特許文献1に記載されたレーザ溶接装置においても、ワークの側方に設置されたファンからワークに向けて横方向にエアを吹き付ける場合と同様の問題が生じ得る。
【0010】
一方、ワークにレーザ光を照射したときに飛散するスパッタが、スキャナ装置の保護ガラスに衝突し、保護ガラスが傷付いてしまうという問題もある。
【0011】
本発明は例えば上述したような問題に鑑みなされたものであり、本発明の第1の課題は、ワーク等の加工物にレーザ光を照射することによって生じる金属蒸気(プルーム)を確実に除去して溶接の品質を高めることができるレーザ溶接装置を提供することにある。
【0012】
本発明の第2の課題は、加工物において溶接すべき箇所が相互に異なる位置に複数ある場合でも、それぞれの箇所における溶接の品質の均一化を図ることができるレーザ溶接装置を提供することにある。
【0013】
本発明の第3の課題は、加工物にレーザ光を照射することによって生じるスパッタの飛散を抑制することができるレーザ溶接装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明の第1のレーザ溶接装置は、加工物にレーザ光を照射して前記加工物の溶接を行うレーザ溶接装置であって、前記加工物に前記レーザ光を照射するレーザ照射手段と、前記レーザ照射手段が前記加工物の上方に配置されるように前記レーザ照射手段を支持する支持部と、前記加工物の上方に配置されるように前記支持部に支持され、前記レーザ光の光軸を包囲するリング状のガスを前記加工物に向けて吐出するガス吐出手段と、前記ガス吐出手段にガスを供給するガス供給源とを備えていることを特徴とする。
【0015】
本発明の第1のレーザ溶接装置によれば、加工物の上方からリング状のガスを加工物に向けて吹き付けることができる。これにより、加工物をクランパで押さえ付けながら溶接を行う場合でも、加工物においてクランパに囲まれた凹んだ領域内にガスを吹き込ませることができ、当該領域内の金属蒸気(プルーム)を外部へ吹き飛ばすことができる。したがって、レーザ光を遮る金属蒸気(プルーム)を確実に除去することができ、溶接の品質を高めることができる。
【0016】
また、加工物の上方からリング状のガスを加工物に向けて吹き付けることができるので、加工物において溶接すべき箇所が相互に異なる位置に複数ある場合でも、すべての箇所にガスを吹き当てて、金属蒸気(プルーム)を吹き飛ばすことができる。これにより、それぞれの箇所における溶接の品質を均一化させることができる。
【0017】
また、ガス吐出手段はレーザ照射手段と同じ支持部に支持されている。例えば支持部がロボットであり、ロボットのアームの先端部にレーザ照射手段が支持される場合には、ガス吐出手段も当該ロボットのアームの先端部に支持される。この結果、ロボットを遠隔操作してレーザ照射手段を移動させてレーザ光の照射位置を移動させると、ガス吐出手段もレーザ照射手段に追従して移動する。これにより、レーザ光を照射して溶接する箇所に常にガスを十分に吹き付けることができる。したがって、加工物における溶接すべきすべての箇所について、溶接の品質を均一化させることができる。
【0018】
また、加工物の上方からリング状のガスを加工物に向けて吹き付けることにより、スパッタを加工物から外れた場所へ下向きに飛ばすことができる。
【0019】
上記課題を解決するために、本発明の第2のレーザ溶接装置は、上述した本発明の第1のレーザ溶接装置において、前記ガス吐出手段は、リング状に形成され、前記レーザ照射手段または前記レーザ光の光軸を包囲するように前記支持部に支持されたハウジングと、前記ハウジング内にリング状に形成され、前記ガス供給源から供給されるガスを蓄えるキャビティと、リング状に形成され、前記レーザ照射手段または前記レーザ光の光軸を包囲するように前記ハウジングの下面側に取り付けられた内側リング部材と、リング状に形成され、前記内側リング部材の外径よりも大きい内径を有し、前記内側リング部材の外周側に位置し前記内側リング部材と同軸となるように前記ハウジングの下面側に取り付けられた外側リング部材と、前記内側リング部材の外周側端面と前記外側リング部材の内周側端面との間に形成され、前記キャビティと連通するリング状の吐出口とを備えていることを特徴とする。
【0020】
本発明の第2のレーザ溶接装置によれば、リング状のガス流を簡単な構造により作り出すことができる。
【0021】
上記課題を解決するために、本発明の第3のレーザ溶接装置は、上述した本発明の第2のレーザ溶接装置において、前記内側リング部材の外周側端面は、その下縁が上縁よりも当該内側リング部材の中心に接近するように傾斜し、前記外側リング部材の内周側端面は、その下縁が上縁よりも当該外側リング部材の中心に接近するように傾斜し、前記内側リング部材の外周側端面の傾斜および前記外側リング部材の内周側端面の傾斜により前記吐出口から吐出されるガスの吐出方向が定められていることを特徴とする。
【0022】
本発明の第3のレーザ溶接装置によれば、ガスの吐出方向を簡単な構造により設定することができる。特に、外側リング部材の内周側端面の傾斜、および内側リング部材の外周側端面の傾斜をそれぞれ変更することにより、ガスの吐出方向を容易に変更することができる。
【0023】
上記課題を解決するために、本発明の第4のレーザ溶接装置は、上述した本発明の第2または第3のレーザ溶接装置において、前記吐出口が描く円の中心を吐出基準点とし、前記吐出基準点を通り当該円と垂直に交わる直線を吐出軸とすると、前記吐出軸上であって前記吐出基準点から下方へ前記レーザ光の焦点距離の2分の1よりも短い距離離れた位置にガス集中点が設定され、前記吐出口から吐出されるガスが前記ガス集中点に集中するように当該ガスの吐出方向が定められていることを特徴とする。
【0024】
本発明の第4のレーザ溶接装置によれば、ガス吐出手段の吐出口から吐出されたガスはガス集中点において一度集まってから、漸次拡がりつつ下方へ流れ、その後、加工物に吹き当たる。これにより、加工物において溶接すべき箇所のある面の広い範囲に均一にガスを吹き付けることができる。
【0025】
上記課題を解決するために、本発明の第5のレーザ溶接装置は、上述した本発明の第2ないし第4のいずれかのレーザ溶接装置において、前記内側リング部材および前記外側リング部材は前記ハウジングに着脱可能に取り付けられていることを特徴とする。
【0026】
本発明の第5のレーザ溶接装置によれば、内側リング部材および外側リング部材を別の内側リング部材および別の外側リング部材にそれぞれ容易に交換することができる。例えば、外周側端面の傾斜角が相互に異なる複数の内側リング部材を用意し、内周側端面の傾斜角が相互に異なる複数の外側リング部材を用意し、これら複数の内側リング部材および外側リング部材の中から任意の内側リング部材および外側リング部材を選んでハウジングに取り付けることにより、ガスの吐出方向を任意に設定ないし変更することができる。
【0027】
上記課題を解決するために、本発明の第6のレーザ溶接装置は、上述した本発明の第2ないし第5のいずれかのレーザ溶接装置において、前記ハウジングの外周側には、前記キャビティに連通し、前記ガス供給源から供給されるガスを前記キャビティに流入させる複数のガス供給口が形成され、前記複数のガス供給口は、前記ハウジングの周方向において等しい間隔をもって配置されていることを特徴とする。
【0028】
本発明の第6のレーザ溶接装置によれば、等間隔に配置された複数のガス供給口からキャビティ内にガスを供給することにより、キャビティから吐出口を介して吐出されるガスの流速を均一化することができる。特に、キャビティの容積が小さい場合でも、ガスの流速を均一化することができる。これにより、加工物における溶接すべきすべての箇所にガスを均一に吹き当てて、金属蒸気(プルーム)を吹き飛ばすことができ、それぞれの箇所における溶接の品質を均一化させることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、加工物にレーザ光を照射することによって生じる金属蒸気(プルーム)を確実に除去して溶接の品質を高めることができる。また、本発明によれば、加工物において溶接すべき箇所が相互に異なる位置に複数ある場合でも、それぞれの箇所における溶接の品質の均一化を図ることができる。また、本発明によれば、加工物にレーザ光を照射することによって生じるスパッタの飛散を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態によるレーザ溶接装置を示す全体図である。
【図2】本発明の実施形態によるレーザ溶接装置におけるエアブロー装置を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施形態によるレーザ溶接装置におけるエアブロー装置を示す下面図である。
【図4】図3中の矢示IV−IV方向から見たエアブロー装置を示す断面図である。
【図5】本発明の実施形態によるレーザ溶接装置におけるエアブロー装置のハウジングを示す下面図である。
【図6】本発明の実施形態によるレーザ溶接装置におけるエアブロー装置の内側リング部材を示す下面図である。
【図7】本発明の実施形態によるレーザ溶接装置におけるエアブロー装置の外側リング部材を示す下面図である。
【図8】エアブロー装置の別の内側リング部材の一部および別の外側リング部材の一部を示す断面図である。
【図9】本発明の実施形態によるレーザ溶接装置のエアブロー装置におけるエアの吐出方向の設定方法を示す説明図である。
【図10】本発明の実施形態によるレーザ溶接装置におけるエアブロー装置からワーク表面に吹き付けられるエアの分布を示す説明図である。
【図11】本発明の実施形態によるレーザ溶接装置においてエアブロー装置からのエアがワークに向けて吹き付けられる様子を示す説明図である。
【図12】比較例によるレーザ溶接装置においてエアがワークに向けて吹き付けられる様子を示す説明図である。
【図13】本発明の実施形態における内側リング部材および外側リング部材に代えて用いることが可能なリング部材を示す下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について添付図面に従って説明する。図1は本発明の実施形態によるレーザ溶接装置を示している。図1において、本発明の実施形態によるレーザ溶接装置1は、加工物にレーザ光を照射して加工物の溶接を行う装置である。加工物としてのワーク5は作業台6上に載置されている。また、ワーク5は複数本のクランパ7により作業台6上に押さえ付けられている。
【0032】
レーザ溶接装置1は、レーザ照射手段としてのスキャナ装置11、ロボット12、レーザ発振装置14、ガス吐出手段としてのエアブロー装置16、およびガス供給源としてのエア源17を備えている。スキャナ装置11は、ロボット12のアーム12Aの先端部に取り付けられている。レーザ発振装置14は光ファイバ15を介してスキャナ装置11に接続されている。
【0033】
また、スキャナ装置11は、ロボット12により、作業台6上においてクランパ7により押さえ付けられたワーク5の上方に配置される。レーザ発振装置14から発振されたレーザ光は、光ファイバ15を介してスキャナ装置11に供給され、スキャナ装置11に設けられた光学機器(図示せず)により集光されつつ、スキャナ装置11からワーク6に向けて照射される。また、スキャナ装置11の下面には、スキャナ装置11に設けられた光学機器をスパッタの衝突から保護するための保護ガラス11Aが取り付けられている。
【0034】
溶接作業者は、遠隔操作によりロボット12のアーム12Aを動かしてスキャナ装置11を移動させ、または、遠隔操作によりスキャナ装置11に設けられた光学機器を動かし、スキャナ装置11から照射されるレーザ光の照射位置を変えることができる。例えば、遠隔操作によりスキャナ装置11に設けられた光学機器を動かすことで、レーザ光の光軸Lの向きを変えることができる。このようにレーザ光の照射位置を移動させることで、作業台6上にワーク5を固定した状態であっても、ワーク5の複数の箇所において溶接を行うことができる。
【0035】
また、エアブロー装置16は、ワーク5における溶接する箇所およびその周囲にエアAを吹き付け、レーザ光のワーク5への照射により発生する金属蒸気(プルーム)、およびスパッタを吹き飛ばす装置である。エアブロー装置16はスキャナ装置11の下部に支持され、作業台6上に載置されたワーク5の上方に配置される。また、エアブロー装置16は後述するようにリング状の外形を有しており、スキャナ装置11から照射されるレーザ光の光軸Lを包囲するように配置されている。
【0036】
また、エア源17はエア供給配管18を介してエアブロー装置16に接続され、エアをエアブロー装置16に供給する。エアブロー装置16は、エア源17からエアの供給を受け、レーザ光の光軸Lを包囲するリング状のエアAをワーク5に向けて吐出する。
【0037】
図2、図3、図4はエアブロー装置16を示している。図5、図6、図7は、エアブロー装置16のハウジング、内側リング部材、外側リング部材をそれぞれ示している。図2に示すように、エアブロー装置16は、ハウジング21、内側リング部材25および外側リング部材27から大略構成されている。
【0038】
ハウジング21は、例えば金属または耐熱性を有する樹脂等の材料にリング状に形成されている。また、ハウジング21の外周の側面には複数の取付部材22が取り付けられ、取付部材22を介して、レーザ光の光軸Lを包囲するようにスキャナ装置11の下部に取り付けられている。
【0039】
また、図5に示すように、ハウジング21の内部には、ハウジング21のリング状の外形に沿うようにリング状のキャビティ23が形成されている。また、キャビティ23は、ハウジング21の下面21Aに開口しており、キャビティ23の開口部は、キャビティ23の形状に沿ってリング状である。
【0040】
また、ハウジング21の外周の側面には一対のエア供給口24が4対形成されており、各エア供給口24はキャビティ23に連通している。また、図2に示すように、各エア供給口24には、エア供給配管18が接続されている。これにより、エア源17からエア供給配管18を通って供給されるエアは各エア供給口24を介してキャビティ23内に流入し、キャビティ23内に一時的に蓄えられる。なお、詳細な図示を省略しているが、エア供給配管18は、その一端側がエア源17に接続され、他端側は複数本の支管に分かれて各エア供給口24に接続されている。
【0041】
また、4対のエア供給口24は、一対ごとに、ハウジング21の周方向において等しい間隔(例えば90度間隔)をもって配置されている。これにより、エアをキャビティ23内に相互に異なる複数の方向(例えば4方向)から同時に流入させることができる。
したがって、キャビティ23から吐出口29を介して吐出されるエアAの流速を均一化することができる。特に、本実施形態のようにキャビティ23の容積が小さい場合でも、吐出口29から吐出されるエアAの流速を均一化することができる。これにより、ワーク5における複数の溶接すべき箇所のすべてにエアAを均一に吹き当てて、金属蒸気(プルーム)を吹き飛ばすことができ、それぞれの箇所における溶接の品質を均一化させることができる。
【0042】
内側リング部材25は、図6に示すように、例えば金属または耐熱性を有する樹脂等の材料によりリング状の平板状に形成されている。内側リング部材25は、図3に示すように、ハウジング21の下面21Aの内周部分にねじ26を用いて着脱可能に取り付けられる。すなわち、内側リング部材25には、図6に示すように、複数の小孔25Bが全周にわたって所定の間隔をもって形成されており、一方、ハウジング21の下面21Aの内周部分には、図5に示すように、内側リング部材25に形成された小孔25Bに対応するように複数のねじ穴21Bが形成されており、内側リング部材25の各小孔25Bを介してハウジング21の各ねじ穴21Bにねじ26を締着することにより、内側リング部材25はハウジング21の下面21Aの内周部分に取り付けられる。このように内側リング部材25がハウジング21の下面21Aの内周部分に取り付けられることにより、内側リング部材25は、レーザ光の光軸Lを包囲するように配置される。また、内側リング部材25の外周部分は、図3に示すように、ハウジング21の下面21Aに開口したキャビティ23の開口部の内周部分を覆う。
【0043】
外側リング部材27は、図7に示すように、例えば金属または耐熱性を有する樹脂等の材料によりリング状の平板状に形成されている。外側リング部材27は、図3に示すように、ハウジング21の下面21Aの外周部分にねじ28を用いて着脱可能に取り付けられる。すなわち、外側リング部材27には、図7に示すように、複数の小孔27Bが全周にわたって所定の間隔をもって形成されており、ハウジング21の下面21Aの外周部分には、図5に示すように、外側リング部材27に形成された小孔27Bに対応するように複数のねじ穴21Cが形成されており、外側リング部材27の各小孔27Bを介してハウジング21の各ねじ穴21Cにねじ28を締着することにより、外側リング部材27はハウジング21の下面21Aの外周部分に取り付けられる。このように外側リング部材27がハウジング21の下面21Aの外周部分に取り付けられることにより、外側リング部材27は、レーザ光の光軸Lを包囲すると共に、内側リング部材25と同軸となるように内側リング部材25の外周側に配置される。また、外側リング部材27の内周部分は、図3に示すように、ハウジング21の下面21Aに開口したキャビティ23の開口部の外周部分を覆う。
【0044】
内側リング部材25および外側リング部材27をハウジング21の下面に取り付けた状態で、内側リング部材25の外周側端面25Aと外側リング部材27の内周側端面27Aとの間には、キャビティ23と連通するリング状の吐出口29が形成される。すなわち、外側リング部材27の内径D2(図7参照)は、内側リング部材25の外径D1(図6参照)よりも大きいため、内側リング部材25の外周側端面25Aと外側リング部材27の内周側端面27Aとの間にリング状の隙間が形成される。そして、このリング状の隙間はリング状のキャビティ23の開口部に対応した位置に配置され、キャビティ23と連通している。これにより、このリング状の隙間は、キャビティ23に供給されたエアを吐出する吐出口29として機能する。
【0045】
また、図4に示すように、吐出口29を形成する内側リング部材25の外周側端面25Aは、その下縁が上縁よりも内側リング部材25の中心に接近するように傾斜している。また、吐出口29を形成する外側リング部材27の内周側端面27Aは、その下縁が上縁よりも外側リング部材27の中心に接近するように傾斜している。そして、内側リング部材25の外周側端面25Aの傾斜および外側リング部材27の内周側端面27Aの傾斜により吐出口29から吐出されるエアAの吐出方向が定められる。このエアAの吐出方向の設定については後述する。
【0046】
ここで、エアブロー装置16においては、内側リング部材25と外側リング部材27とを別の内側リング部材および別の外側リング部材にそれぞれ交換することにより、吐出口29から吐出されるエアAの吐出方向を変更することができる。
【0047】
例えば、図8(1)中の内側リング部材31は、その外周側端面の傾斜が、内側リング部材25の外周側端面の傾斜(図4中の二点鎖線で囲まれた部分を参照)と比較して急である(水平面Hに対する傾斜角αが大きい)。また、図8(1)中の外側リング部材32は、その内周側端面の傾斜が、外側リング部材27の内周側端面の傾斜(図4中の二点鎖線で囲まれた部分を参照)と比較して急である。内側リング部材25および外側リング部材27をハウジング21から取り外して、これらの代わりに、内側リング部材31および外側リング部材32をハウジング21に取り付けることにより、吐出口29から吐出されるエアAの吐出方向を、内側リング部材25および外側リング部材27をハウジング21に取り付けたときに形成される吐出口29から吐出されるエアAの吐出方向と比較して、水平面Hに垂直な方向に近づけることができる。
【0048】
また、図8(2)中の内側リング部材33は、その外周側端面の傾斜が、内側リング部材25の外周側端面の傾斜(図4参照)と比較して緩やかである(水平面Hに対する傾斜角αが小さい)。また、図8(2)中の外側リング部材34は、その内周側端面の傾斜が、外側リング部材27の内周側端面の傾斜(図4参照)と比較して緩やかである。内側リング部材25および外側リング部材27をハウジング21から取り外して、これらの代わりに、内側リング部材33および外側リング部材34をハウジング21に取り付けることにより、吐出口29から吐出されるエアAの吐出方向を、内側リング部材25および外側リング部材27をハウジング21に取り付けたときに形成される吐出口29から吐出されるエアAの吐出方向と比較して、水平方向に近づけることができる。
【0049】
内側リング部材25、31、33および外側リング部材27、32、34はそれぞれねじ26、28を着脱することによりハウジング21に対し容易に着脱することができるので、内側リング部材25、31、33および外側リング部材27、32、34の交換作業は容易である。そして、内側リング部材25、31、33および外側リング部材27、32、34を交換するだけで、吐出口29から吐出されるエアAの吐出方向を容易に変更することができる。
【0050】
図9はエアブロー装置16におけるエアAの吐出方向の設定方法を示し、図10はエアブロー装置16からワーク表面に吹き付けられるエアAの分布を示している。エアブロー装置16におけるエアAの吐出方向は次のように設定することが望ましい。すなわち、図9に示すように、ワークの表面Wが水平な面であり、スキャナ装置のレーザ照射部13から照射されるレーザ光の焦点距離D3が600mmであり、それゆえ、レーザ照射部13がワークの表面Wから600mm離れた位置となるように配置されているとする。また、吐出口29がワークの表面Wから600mm離れた位置となるようにエアブロー装置16が配置されているとする。
【0051】
このようなある1つの理想的な設定状態において、エアブロー装置16におけるエアAの吐出方向は、リング状の吐出口29が描く円の中心を吐出基準点P1とし、吐出基準点P1を通り当該円と垂直に交わる直線を吐出軸Qとすると、吐出軸Q上であって吐出基準点P1から下方へレーザ光の焦点距離D3の2分の1よりも短い距離D4離れた位置にエア集中点P2を設定し、吐出口29から吐出されるエアAがエア集中点P2に集中するように設定することが望ましい。
【0052】
このようにエアAの吐出方向を設定することにより、エアAは、吐出口29から吐出し、エア集中点P2において一度集まってから、漸次拡がりつつ下方へ流れ、その後、ワークに吹き当たるようになる。これにより、ワークの表面Wの広い範囲に均一にエアAを吹き付けることができる。具体的には、図10に示すように、ワークの表面Wに吹き付けられるエアAの流速が、吐出軸Qと表面Wとが交わる点P3から水平方向におよそ100mm離れた領域R2〜R9において均一となり、かつ適切な値(例えば中央の領域R1における流速が19.0m/sである場合に、周囲の領域R2〜R9における流速がおよそ4.5m/s〜5.0m/s)となる。
【0053】
レーザ溶接装置の理想的な設定状態を示す図9と、レーザ溶接装置1の実際の設定状態を示す図1とを比較するとわかるとおり、実際の設定状態では、エアブロー装置16がスキャナ装置11よりも下に配置されており、吐出口29がスキャナ装置11のレーザ照射部よりも低い位置にある。しかしながら、図1に示す実際の設定状態において、吐出基準点とエア集中点との間の距離が、図9に示す理想的な設定状態における吐出基準点P1とエア集中点P2との間の距離D4よりも短くなるように、エアブロー装置16のエアAの吐出方向を設定することにより、ワーク5の表面に吹き当たるエアAの分布を、図10に示すように適切に設定することができる。
【0054】
なお、実際には、ワーク5の高さ寸法やワーク5の表面の凹凸形状等に応じてワーク5の表面に吹き当たるエアAの分布を調整する必要が生じる場合がある。この場合には、上述したように、内側リング部材25および外側リング部材27を別の内側リング部材31、33および別の外側リング部材32、34等と交換してエアAの吐出方向を変更すればよい。
【0055】
以上説明したとおり、本発明の実施形態によるレーザ溶接装置1によれば、ワーク5の上方からリング状のエアAをワーク5に向けて吹き付けることができる。これにより、ワーク5をクランパ7で押さえ付けながら溶接を行う場合でも、ワーク5においてクランパ7に囲まれた凹んだ領域内にエアAを吹き込ませることができ、当該領域内の金属蒸気(プルーム)を外部へ吹き飛ばすことができる。したがって、レーザ光を遮る金属蒸気(プルーム)を除去することができ、溶接の品質を高めることができる。
【0056】
また、レーザ溶接装置1によれば、ワーク5の上方からリング状のエアAをワーク5に向けて吹き付けることにより、スパッタをワーク5から外れた場所へ下向きに飛ばすことができる。これにより、スキャナ装置11の保護ガラス11Aにスパッタが衝突して保護ガラス11Aが傷付くことを防止することができる。
【0057】
ここで、図11および図12に従って、レーザ溶接装置1の作用効果を具体的に説明する。図11は、本発明の実施形態によるレーザ溶接装置1においてエアを金属蒸気(プルーム)等に吹き付ける様子を示している。図12は、比較例によるレーザ溶接装置においてエアを金属蒸気(プルーム)等に吹き付ける様子を示している。
【0058】
比較例によるレーザ溶接装置101では、図12に示すように、ワーク5の側方にファン113を設置し、ファン113によりワーク5の側方からワーク5に向けてエアAを吹き付けている。このため、ワーク5においてクランパ7に囲まれた凹んだ領域内にエアAが流れ込まず、この結果、当該領域内に金属蒸気(プルーム)Vが滞留している。この滞留した金属蒸気(プルーム)Vは、スキャナ装置111から照射されるレーザ光の照射の妨げとなり、溶接の品質を低下させる原因となり得る。また、レーザ溶接装置101においては、スパッタSがスキャナ装置111の保護ガラス111Aに衝突して保護ガラスが傷付く場合がある。
【0059】
これに対し、本発明の実施形態によるレーザ溶接装置1では、図11に示すように、ワーク5の上方からワーク5に向けて吐出されたエアAが、ワーク5においてクランパ7に囲まれた凹んだ領域内に流れ込み、このエアAにより、当該領域内の金属蒸気(プルーム)Vが当該領域から外部へ吹き飛ばされている。この結果、レーザ光が安定した状態で十分にワーク5に照射されるので、溶接の品質が高まる。また、レーザ溶接装置1においては、ワーク5の上方からワーク5に向けて吐出されたエアAにより、スパッタSがワーク5から外れた場所へ下向きに吹き飛ばされている。この結果、スキャナ装置11の保護ガラス11AへのスパッタSの衝突は大幅に減少する。
【0060】
さらに、本発明の実施形態によるレーザ溶接装置1によれば、次のような作用効果を得ることができる。すなわち、ワーク5の上方からリング状のエアAをワーク5に向けて吹き付けることができるので、ワーク5において溶接すべき箇所が相互に異なる位置に複数ある場合でも、すべての箇所にエアAを吹き当てて、金属蒸気(プルーム)を吹き飛ばすことができ、それぞれの箇所における溶接の品質を均一化させることができる。
【0061】
また、ロボット12のアーム12Aの先端にスキャナ装置11とエアブロー装置16が支持されているので、ロボット12を遠隔操作してスキャナ装置11を移動させてレーザ光の照射位置を移動させると、エアブロー装置16がスキャナ装置11に追従して移動する。これにより、レーザ光を照射して溶接する箇所に常にエアAを十分に吹き付けることができる。したがって、ワーク5における溶接すべきすべての箇所について、溶接の品質を均一化させることができる。
【0062】
なお、上述した実施形態では、エアブロー装置16において、内側リング部材25の外周側に外側リング部材27を配置することで、両者間にリング状の吐出口29を形成する場合を例にあげたが、本発明はこれに限らない。例えば、図13に示すように、内側リング部材25および外側リング部材27に代えて、円弧状のスリット41Aが形成された単一のリング部材41を用いることもできる。例えば円弧状の長いスリット41Aを周方向に狭い間隔で形成することにより、全体的に見て実質的にリング状のスリットを形成することができ、これによりリング状の吐出口を実現することができる。
【0063】
また、上述した実施形態では、エアブロー装置16をスキャナ装置11に支持する場合を例にあげたが、本発明はこれに限らない。エアブロー装置16をロボット12のアーム12Aの一部に支持してもよい。また、スキャナ装置11およびエアブロー装置16をロボット12ではなく、支柱や台等により支持してもよく、また、高い位置からこれらを吊してもよい。
【0064】
また、上述した実施形態では、エアブロー装置16によりエアをワーク5に向けて吐出する場合を例にあげたが、エアに代えて、他のガスを用いてもよい。また、例えばエア源17とエアブロー装置16との間に流量調整弁等を設け、エア源17からエアブロー装置16に供給するエアの量を調整し、これにより吐出口29から吐出されるエアAの流速を変えることができるようにしてもよい。
【0065】
また、本発明は、請求の範囲および明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うレーザ溶接装置もまた本発明の技術思想に含まれる。
【符号の説明】
【0066】
1 レーザ溶接装置
5 ワーク(加工物)
11 スキャナ装置(レーザ照射手段、支持部)
12 ロボット(支持部)
16 エアブロー装置(ガス吐出手段)
17 エア源(ガス供給源)
21 ハウジング
21A 下面
23 キャビティ
24 エア供給口(ガス供給口)
25、31、33 内側リング部材
25A 外周側端面
27、32、34 外側リング部材
27A 内周側端面
29 吐出口
A エア(ガス)
L 光軸
P1 吐出基準点
Q 吐出軸
P2 エア集中点(ガス集中点)
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を用いて溶接を行うレーザ溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばスキャナ装置やレーザ加工ヘッドといったレーザ照射手段をロボットに取り付け、ロボットを遠隔操作することにより、ワーク等の加工物の溶接を行うリモートレーザ溶接が普及している。このようなレーザ溶接では、ワークから離れた位置からワークに向けてレーザ光を照射して溶接を行う。また、遠隔操作によりロボットのアームを移動させ、またはレーザ照射手段に設けられた反射鏡等を回動させることによりレーザ光の照射位置を変え、これによりワークの所望の箇所に対して溶接を行う。
【0003】
溶接を行うためにレーザ光を金属からなるワークに照射すると、金属の溶出により金属蒸気(プルーム)が発生し、レーザ光が金属蒸気(プルーム)により遮られる。この結果、レーザ光によりワークに加えられる熱量の安定性が損なわれ、溶接の品質が低下する。そこで、従来、溶接を行う際には、例えば、ワークの側方であってワークから離れた位置にファンを設置し、ファンからエアをワーク側に吹きつけ、金属蒸気(プルーム)をエアにより吹き飛ばすといった方法が採られている。
【0004】
また、特許文献1には、ロボットアームの先端に取り付けられたレーザ加工ヘッドにエア噴射ノズルを取り付け、エア噴射ノズルから噴射されるエアによりヒュームを吹き飛ばす構成を備えたレーザ溶接装置が記載されている。このレーザ溶接装置では、ワークないしレーザ光の側方にエア噴射ノズルを配置し、レーザ光を横切るようにエアを噴射している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−268610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ワークに対して溶接を行う際には、ワークを作業台の上に載せ、例えば棒状または板状の複数本のクランパによりワークを上から押さえ付ける場合が多い。この場合、ワークにおける溶接すべき箇所は、複数本のクランパに囲まれた凹んだ位置に配置される。このため、このクランパに囲まれた凹んだ位置に上方からレーザ光を差し込むようにして溶接を行う。
【0007】
このようにワークをクランパによって押さえ付けながら溶接を行う場合、ワークの側方に設置されたファンからワークに向けて横方向にエアを吹き付けても、エアがクランパの側面に当たって遮られてしまい、クランパに囲まれた凹んだ領域内にエアが流れ込まない。この結果、クランパに囲まれた凹んだ領域内に金属蒸気(プルーム)が滞留してしまい、この金属蒸気(プルーム)によりレーザ光が遮られ、溶接の品質が低下する場合がある。
【0008】
また、ワークの側方に設置されたファンからワークに向けて横方向にエアを吹き付ける方法では、ワークにおける溶接すべき箇所がファンに近い場合と遠い場合とでエアの当たり具合が大きく異なり、このため、溶接すべき箇所がファンに近い場合と遠い場合とで、エアによって吹き飛ばされずに残留する金属蒸気(プルーム)の量が異なる。この結果、ワークにおける溶接すべき箇所によって溶接の品質に差が生じる場合がある。また、クランパの設置の仕方によっては、ワーク上においてエアの当たり具合が不均一になる場合があり、この場合にも、ワークにおける溶接すべき箇所によって溶接の品質に差が生じることがある。
【0009】
また、特許文献1に記載されたレーザ溶接装置は、ワークないしレーザ光の側方にエア噴射ノズルを配置し、レーザ光を横切るようにエアを噴射する構成であるため、特許文献1に記載されたレーザ溶接装置においても、ワークの側方に設置されたファンからワークに向けて横方向にエアを吹き付ける場合と同様の問題が生じ得る。
【0010】
一方、ワークにレーザ光を照射したときに飛散するスパッタが、スキャナ装置の保護ガラスに衝突し、保護ガラスが傷付いてしまうという問題もある。
【0011】
本発明は例えば上述したような問題に鑑みなされたものであり、本発明の第1の課題は、ワーク等の加工物にレーザ光を照射することによって生じる金属蒸気(プルーム)を確実に除去して溶接の品質を高めることができるレーザ溶接装置を提供することにある。
【0012】
本発明の第2の課題は、加工物において溶接すべき箇所が相互に異なる位置に複数ある場合でも、それぞれの箇所における溶接の品質の均一化を図ることができるレーザ溶接装置を提供することにある。
【0013】
本発明の第3の課題は、加工物にレーザ光を照射することによって生じるスパッタの飛散を抑制することができるレーザ溶接装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明の第1のレーザ溶接装置は、加工物にレーザ光を照射して前記加工物の溶接を行うレーザ溶接装置であって、前記加工物に前記レーザ光を照射するレーザ照射手段と、前記レーザ照射手段が前記加工物の上方に配置されるように前記レーザ照射手段を支持する支持部と、前記加工物の上方に配置されるように前記支持部に支持され、前記レーザ光の光軸を包囲するリング状のガスを前記加工物に向けて吐出するガス吐出手段と、前記ガス吐出手段にガスを供給するガス供給源とを備えていることを特徴とする。
【0015】
本発明の第1のレーザ溶接装置によれば、加工物の上方からリング状のガスを加工物に向けて吹き付けることができる。これにより、加工物をクランパで押さえ付けながら溶接を行う場合でも、加工物においてクランパに囲まれた凹んだ領域内にガスを吹き込ませることができ、当該領域内の金属蒸気(プルーム)を外部へ吹き飛ばすことができる。したがって、レーザ光を遮る金属蒸気(プルーム)を確実に除去することができ、溶接の品質を高めることができる。
【0016】
また、加工物の上方からリング状のガスを加工物に向けて吹き付けることができるので、加工物において溶接すべき箇所が相互に異なる位置に複数ある場合でも、すべての箇所にガスを吹き当てて、金属蒸気(プルーム)を吹き飛ばすことができる。これにより、それぞれの箇所における溶接の品質を均一化させることができる。
【0017】
また、ガス吐出手段はレーザ照射手段と同じ支持部に支持されている。例えば支持部がロボットであり、ロボットのアームの先端部にレーザ照射手段が支持される場合には、ガス吐出手段も当該ロボットのアームの先端部に支持される。この結果、ロボットを遠隔操作してレーザ照射手段を移動させてレーザ光の照射位置を移動させると、ガス吐出手段もレーザ照射手段に追従して移動する。これにより、レーザ光を照射して溶接する箇所に常にガスを十分に吹き付けることができる。したがって、加工物における溶接すべきすべての箇所について、溶接の品質を均一化させることができる。
【0018】
また、加工物の上方からリング状のガスを加工物に向けて吹き付けることにより、スパッタを加工物から外れた場所へ下向きに飛ばすことができる。
【0019】
上記課題を解決するために、本発明の第2のレーザ溶接装置は、上述した本発明の第1のレーザ溶接装置において、前記ガス吐出手段は、リング状に形成され、前記レーザ照射手段または前記レーザ光の光軸を包囲するように前記支持部に支持されたハウジングと、前記ハウジング内にリング状に形成され、前記ガス供給源から供給されるガスを蓄えるキャビティと、リング状に形成され、前記レーザ照射手段または前記レーザ光の光軸を包囲するように前記ハウジングの下面側に取り付けられた内側リング部材と、リング状に形成され、前記内側リング部材の外径よりも大きい内径を有し、前記内側リング部材の外周側に位置し前記内側リング部材と同軸となるように前記ハウジングの下面側に取り付けられた外側リング部材と、前記内側リング部材の外周側端面と前記外側リング部材の内周側端面との間に形成され、前記キャビティと連通するリング状の吐出口とを備えていることを特徴とする。
【0020】
本発明の第2のレーザ溶接装置によれば、リング状のガス流を簡単な構造により作り出すことができる。
【0021】
上記課題を解決するために、本発明の第3のレーザ溶接装置は、上述した本発明の第2のレーザ溶接装置において、前記内側リング部材の外周側端面は、その下縁が上縁よりも当該内側リング部材の中心に接近するように傾斜し、前記外側リング部材の内周側端面は、その下縁が上縁よりも当該外側リング部材の中心に接近するように傾斜し、前記内側リング部材の外周側端面の傾斜および前記外側リング部材の内周側端面の傾斜により前記吐出口から吐出されるガスの吐出方向が定められていることを特徴とする。
【0022】
本発明の第3のレーザ溶接装置によれば、ガスの吐出方向を簡単な構造により設定することができる。特に、外側リング部材の内周側端面の傾斜、および内側リング部材の外周側端面の傾斜をそれぞれ変更することにより、ガスの吐出方向を容易に変更することができる。
【0023】
上記課題を解決するために、本発明の第4のレーザ溶接装置は、上述した本発明の第2または第3のレーザ溶接装置において、前記吐出口が描く円の中心を吐出基準点とし、前記吐出基準点を通り当該円と垂直に交わる直線を吐出軸とすると、前記吐出軸上であって前記吐出基準点から下方へ前記レーザ光の焦点距離の2分の1よりも短い距離離れた位置にガス集中点が設定され、前記吐出口から吐出されるガスが前記ガス集中点に集中するように当該ガスの吐出方向が定められていることを特徴とする。
【0024】
本発明の第4のレーザ溶接装置によれば、ガス吐出手段の吐出口から吐出されたガスはガス集中点において一度集まってから、漸次拡がりつつ下方へ流れ、その後、加工物に吹き当たる。これにより、加工物において溶接すべき箇所のある面の広い範囲に均一にガスを吹き付けることができる。
【0025】
上記課題を解決するために、本発明の第5のレーザ溶接装置は、上述した本発明の第2ないし第4のいずれかのレーザ溶接装置において、前記内側リング部材および前記外側リング部材は前記ハウジングに着脱可能に取り付けられていることを特徴とする。
【0026】
本発明の第5のレーザ溶接装置によれば、内側リング部材および外側リング部材を別の内側リング部材および別の外側リング部材にそれぞれ容易に交換することができる。例えば、外周側端面の傾斜角が相互に異なる複数の内側リング部材を用意し、内周側端面の傾斜角が相互に異なる複数の外側リング部材を用意し、これら複数の内側リング部材および外側リング部材の中から任意の内側リング部材および外側リング部材を選んでハウジングに取り付けることにより、ガスの吐出方向を任意に設定ないし変更することができる。
【0027】
上記課題を解決するために、本発明の第6のレーザ溶接装置は、上述した本発明の第2ないし第5のいずれかのレーザ溶接装置において、前記ハウジングの外周側には、前記キャビティに連通し、前記ガス供給源から供給されるガスを前記キャビティに流入させる複数のガス供給口が形成され、前記複数のガス供給口は、前記ハウジングの周方向において等しい間隔をもって配置されていることを特徴とする。
【0028】
本発明の第6のレーザ溶接装置によれば、等間隔に配置された複数のガス供給口からキャビティ内にガスを供給することにより、キャビティから吐出口を介して吐出されるガスの流速を均一化することができる。特に、キャビティの容積が小さい場合でも、ガスの流速を均一化することができる。これにより、加工物における溶接すべきすべての箇所にガスを均一に吹き当てて、金属蒸気(プルーム)を吹き飛ばすことができ、それぞれの箇所における溶接の品質を均一化させることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、加工物にレーザ光を照射することによって生じる金属蒸気(プルーム)を確実に除去して溶接の品質を高めることができる。また、本発明によれば、加工物において溶接すべき箇所が相互に異なる位置に複数ある場合でも、それぞれの箇所における溶接の品質の均一化を図ることができる。また、本発明によれば、加工物にレーザ光を照射することによって生じるスパッタの飛散を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態によるレーザ溶接装置を示す全体図である。
【図2】本発明の実施形態によるレーザ溶接装置におけるエアブロー装置を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施形態によるレーザ溶接装置におけるエアブロー装置を示す下面図である。
【図4】図3中の矢示IV−IV方向から見たエアブロー装置を示す断面図である。
【図5】本発明の実施形態によるレーザ溶接装置におけるエアブロー装置のハウジングを示す下面図である。
【図6】本発明の実施形態によるレーザ溶接装置におけるエアブロー装置の内側リング部材を示す下面図である。
【図7】本発明の実施形態によるレーザ溶接装置におけるエアブロー装置の外側リング部材を示す下面図である。
【図8】エアブロー装置の別の内側リング部材の一部および別の外側リング部材の一部を示す断面図である。
【図9】本発明の実施形態によるレーザ溶接装置のエアブロー装置におけるエアの吐出方向の設定方法を示す説明図である。
【図10】本発明の実施形態によるレーザ溶接装置におけるエアブロー装置からワーク表面に吹き付けられるエアの分布を示す説明図である。
【図11】本発明の実施形態によるレーザ溶接装置においてエアブロー装置からのエアがワークに向けて吹き付けられる様子を示す説明図である。
【図12】比較例によるレーザ溶接装置においてエアがワークに向けて吹き付けられる様子を示す説明図である。
【図13】本発明の実施形態における内側リング部材および外側リング部材に代えて用いることが可能なリング部材を示す下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について添付図面に従って説明する。図1は本発明の実施形態によるレーザ溶接装置を示している。図1において、本発明の実施形態によるレーザ溶接装置1は、加工物にレーザ光を照射して加工物の溶接を行う装置である。加工物としてのワーク5は作業台6上に載置されている。また、ワーク5は複数本のクランパ7により作業台6上に押さえ付けられている。
【0032】
レーザ溶接装置1は、レーザ照射手段としてのスキャナ装置11、ロボット12、レーザ発振装置14、ガス吐出手段としてのエアブロー装置16、およびガス供給源としてのエア源17を備えている。スキャナ装置11は、ロボット12のアーム12Aの先端部に取り付けられている。レーザ発振装置14は光ファイバ15を介してスキャナ装置11に接続されている。
【0033】
また、スキャナ装置11は、ロボット12により、作業台6上においてクランパ7により押さえ付けられたワーク5の上方に配置される。レーザ発振装置14から発振されたレーザ光は、光ファイバ15を介してスキャナ装置11に供給され、スキャナ装置11に設けられた光学機器(図示せず)により集光されつつ、スキャナ装置11からワーク6に向けて照射される。また、スキャナ装置11の下面には、スキャナ装置11に設けられた光学機器をスパッタの衝突から保護するための保護ガラス11Aが取り付けられている。
【0034】
溶接作業者は、遠隔操作によりロボット12のアーム12Aを動かしてスキャナ装置11を移動させ、または、遠隔操作によりスキャナ装置11に設けられた光学機器を動かし、スキャナ装置11から照射されるレーザ光の照射位置を変えることができる。例えば、遠隔操作によりスキャナ装置11に設けられた光学機器を動かすことで、レーザ光の光軸Lの向きを変えることができる。このようにレーザ光の照射位置を移動させることで、作業台6上にワーク5を固定した状態であっても、ワーク5の複数の箇所において溶接を行うことができる。
【0035】
また、エアブロー装置16は、ワーク5における溶接する箇所およびその周囲にエアAを吹き付け、レーザ光のワーク5への照射により発生する金属蒸気(プルーム)、およびスパッタを吹き飛ばす装置である。エアブロー装置16はスキャナ装置11の下部に支持され、作業台6上に載置されたワーク5の上方に配置される。また、エアブロー装置16は後述するようにリング状の外形を有しており、スキャナ装置11から照射されるレーザ光の光軸Lを包囲するように配置されている。
【0036】
また、エア源17はエア供給配管18を介してエアブロー装置16に接続され、エアをエアブロー装置16に供給する。エアブロー装置16は、エア源17からエアの供給を受け、レーザ光の光軸Lを包囲するリング状のエアAをワーク5に向けて吐出する。
【0037】
図2、図3、図4はエアブロー装置16を示している。図5、図6、図7は、エアブロー装置16のハウジング、内側リング部材、外側リング部材をそれぞれ示している。図2に示すように、エアブロー装置16は、ハウジング21、内側リング部材25および外側リング部材27から大略構成されている。
【0038】
ハウジング21は、例えば金属または耐熱性を有する樹脂等の材料にリング状に形成されている。また、ハウジング21の外周の側面には複数の取付部材22が取り付けられ、取付部材22を介して、レーザ光の光軸Lを包囲するようにスキャナ装置11の下部に取り付けられている。
【0039】
また、図5に示すように、ハウジング21の内部には、ハウジング21のリング状の外形に沿うようにリング状のキャビティ23が形成されている。また、キャビティ23は、ハウジング21の下面21Aに開口しており、キャビティ23の開口部は、キャビティ23の形状に沿ってリング状である。
【0040】
また、ハウジング21の外周の側面には一対のエア供給口24が4対形成されており、各エア供給口24はキャビティ23に連通している。また、図2に示すように、各エア供給口24には、エア供給配管18が接続されている。これにより、エア源17からエア供給配管18を通って供給されるエアは各エア供給口24を介してキャビティ23内に流入し、キャビティ23内に一時的に蓄えられる。なお、詳細な図示を省略しているが、エア供給配管18は、その一端側がエア源17に接続され、他端側は複数本の支管に分かれて各エア供給口24に接続されている。
【0041】
また、4対のエア供給口24は、一対ごとに、ハウジング21の周方向において等しい間隔(例えば90度間隔)をもって配置されている。これにより、エアをキャビティ23内に相互に異なる複数の方向(例えば4方向)から同時に流入させることができる。
したがって、キャビティ23から吐出口29を介して吐出されるエアAの流速を均一化することができる。特に、本実施形態のようにキャビティ23の容積が小さい場合でも、吐出口29から吐出されるエアAの流速を均一化することができる。これにより、ワーク5における複数の溶接すべき箇所のすべてにエアAを均一に吹き当てて、金属蒸気(プルーム)を吹き飛ばすことができ、それぞれの箇所における溶接の品質を均一化させることができる。
【0042】
内側リング部材25は、図6に示すように、例えば金属または耐熱性を有する樹脂等の材料によりリング状の平板状に形成されている。内側リング部材25は、図3に示すように、ハウジング21の下面21Aの内周部分にねじ26を用いて着脱可能に取り付けられる。すなわち、内側リング部材25には、図6に示すように、複数の小孔25Bが全周にわたって所定の間隔をもって形成されており、一方、ハウジング21の下面21Aの内周部分には、図5に示すように、内側リング部材25に形成された小孔25Bに対応するように複数のねじ穴21Bが形成されており、内側リング部材25の各小孔25Bを介してハウジング21の各ねじ穴21Bにねじ26を締着することにより、内側リング部材25はハウジング21の下面21Aの内周部分に取り付けられる。このように内側リング部材25がハウジング21の下面21Aの内周部分に取り付けられることにより、内側リング部材25は、レーザ光の光軸Lを包囲するように配置される。また、内側リング部材25の外周部分は、図3に示すように、ハウジング21の下面21Aに開口したキャビティ23の開口部の内周部分を覆う。
【0043】
外側リング部材27は、図7に示すように、例えば金属または耐熱性を有する樹脂等の材料によりリング状の平板状に形成されている。外側リング部材27は、図3に示すように、ハウジング21の下面21Aの外周部分にねじ28を用いて着脱可能に取り付けられる。すなわち、外側リング部材27には、図7に示すように、複数の小孔27Bが全周にわたって所定の間隔をもって形成されており、ハウジング21の下面21Aの外周部分には、図5に示すように、外側リング部材27に形成された小孔27Bに対応するように複数のねじ穴21Cが形成されており、外側リング部材27の各小孔27Bを介してハウジング21の各ねじ穴21Cにねじ28を締着することにより、外側リング部材27はハウジング21の下面21Aの外周部分に取り付けられる。このように外側リング部材27がハウジング21の下面21Aの外周部分に取り付けられることにより、外側リング部材27は、レーザ光の光軸Lを包囲すると共に、内側リング部材25と同軸となるように内側リング部材25の外周側に配置される。また、外側リング部材27の内周部分は、図3に示すように、ハウジング21の下面21Aに開口したキャビティ23の開口部の外周部分を覆う。
【0044】
内側リング部材25および外側リング部材27をハウジング21の下面に取り付けた状態で、内側リング部材25の外周側端面25Aと外側リング部材27の内周側端面27Aとの間には、キャビティ23と連通するリング状の吐出口29が形成される。すなわち、外側リング部材27の内径D2(図7参照)は、内側リング部材25の外径D1(図6参照)よりも大きいため、内側リング部材25の外周側端面25Aと外側リング部材27の内周側端面27Aとの間にリング状の隙間が形成される。そして、このリング状の隙間はリング状のキャビティ23の開口部に対応した位置に配置され、キャビティ23と連通している。これにより、このリング状の隙間は、キャビティ23に供給されたエアを吐出する吐出口29として機能する。
【0045】
また、図4に示すように、吐出口29を形成する内側リング部材25の外周側端面25Aは、その下縁が上縁よりも内側リング部材25の中心に接近するように傾斜している。また、吐出口29を形成する外側リング部材27の内周側端面27Aは、その下縁が上縁よりも外側リング部材27の中心に接近するように傾斜している。そして、内側リング部材25の外周側端面25Aの傾斜および外側リング部材27の内周側端面27Aの傾斜により吐出口29から吐出されるエアAの吐出方向が定められる。このエアAの吐出方向の設定については後述する。
【0046】
ここで、エアブロー装置16においては、内側リング部材25と外側リング部材27とを別の内側リング部材および別の外側リング部材にそれぞれ交換することにより、吐出口29から吐出されるエアAの吐出方向を変更することができる。
【0047】
例えば、図8(1)中の内側リング部材31は、その外周側端面の傾斜が、内側リング部材25の外周側端面の傾斜(図4中の二点鎖線で囲まれた部分を参照)と比較して急である(水平面Hに対する傾斜角αが大きい)。また、図8(1)中の外側リング部材32は、その内周側端面の傾斜が、外側リング部材27の内周側端面の傾斜(図4中の二点鎖線で囲まれた部分を参照)と比較して急である。内側リング部材25および外側リング部材27をハウジング21から取り外して、これらの代わりに、内側リング部材31および外側リング部材32をハウジング21に取り付けることにより、吐出口29から吐出されるエアAの吐出方向を、内側リング部材25および外側リング部材27をハウジング21に取り付けたときに形成される吐出口29から吐出されるエアAの吐出方向と比較して、水平面Hに垂直な方向に近づけることができる。
【0048】
また、図8(2)中の内側リング部材33は、その外周側端面の傾斜が、内側リング部材25の外周側端面の傾斜(図4参照)と比較して緩やかである(水平面Hに対する傾斜角αが小さい)。また、図8(2)中の外側リング部材34は、その内周側端面の傾斜が、外側リング部材27の内周側端面の傾斜(図4参照)と比較して緩やかである。内側リング部材25および外側リング部材27をハウジング21から取り外して、これらの代わりに、内側リング部材33および外側リング部材34をハウジング21に取り付けることにより、吐出口29から吐出されるエアAの吐出方向を、内側リング部材25および外側リング部材27をハウジング21に取り付けたときに形成される吐出口29から吐出されるエアAの吐出方向と比較して、水平方向に近づけることができる。
【0049】
内側リング部材25、31、33および外側リング部材27、32、34はそれぞれねじ26、28を着脱することによりハウジング21に対し容易に着脱することができるので、内側リング部材25、31、33および外側リング部材27、32、34の交換作業は容易である。そして、内側リング部材25、31、33および外側リング部材27、32、34を交換するだけで、吐出口29から吐出されるエアAの吐出方向を容易に変更することができる。
【0050】
図9はエアブロー装置16におけるエアAの吐出方向の設定方法を示し、図10はエアブロー装置16からワーク表面に吹き付けられるエアAの分布を示している。エアブロー装置16におけるエアAの吐出方向は次のように設定することが望ましい。すなわち、図9に示すように、ワークの表面Wが水平な面であり、スキャナ装置のレーザ照射部13から照射されるレーザ光の焦点距離D3が600mmであり、それゆえ、レーザ照射部13がワークの表面Wから600mm離れた位置となるように配置されているとする。また、吐出口29がワークの表面Wから600mm離れた位置となるようにエアブロー装置16が配置されているとする。
【0051】
このようなある1つの理想的な設定状態において、エアブロー装置16におけるエアAの吐出方向は、リング状の吐出口29が描く円の中心を吐出基準点P1とし、吐出基準点P1を通り当該円と垂直に交わる直線を吐出軸Qとすると、吐出軸Q上であって吐出基準点P1から下方へレーザ光の焦点距離D3の2分の1よりも短い距離D4離れた位置にエア集中点P2を設定し、吐出口29から吐出されるエアAがエア集中点P2に集中するように設定することが望ましい。
【0052】
このようにエアAの吐出方向を設定することにより、エアAは、吐出口29から吐出し、エア集中点P2において一度集まってから、漸次拡がりつつ下方へ流れ、その後、ワークに吹き当たるようになる。これにより、ワークの表面Wの広い範囲に均一にエアAを吹き付けることができる。具体的には、図10に示すように、ワークの表面Wに吹き付けられるエアAの流速が、吐出軸Qと表面Wとが交わる点P3から水平方向におよそ100mm離れた領域R2〜R9において均一となり、かつ適切な値(例えば中央の領域R1における流速が19.0m/sである場合に、周囲の領域R2〜R9における流速がおよそ4.5m/s〜5.0m/s)となる。
【0053】
レーザ溶接装置の理想的な設定状態を示す図9と、レーザ溶接装置1の実際の設定状態を示す図1とを比較するとわかるとおり、実際の設定状態では、エアブロー装置16がスキャナ装置11よりも下に配置されており、吐出口29がスキャナ装置11のレーザ照射部よりも低い位置にある。しかしながら、図1に示す実際の設定状態において、吐出基準点とエア集中点との間の距離が、図9に示す理想的な設定状態における吐出基準点P1とエア集中点P2との間の距離D4よりも短くなるように、エアブロー装置16のエアAの吐出方向を設定することにより、ワーク5の表面に吹き当たるエアAの分布を、図10に示すように適切に設定することができる。
【0054】
なお、実際には、ワーク5の高さ寸法やワーク5の表面の凹凸形状等に応じてワーク5の表面に吹き当たるエアAの分布を調整する必要が生じる場合がある。この場合には、上述したように、内側リング部材25および外側リング部材27を別の内側リング部材31、33および別の外側リング部材32、34等と交換してエアAの吐出方向を変更すればよい。
【0055】
以上説明したとおり、本発明の実施形態によるレーザ溶接装置1によれば、ワーク5の上方からリング状のエアAをワーク5に向けて吹き付けることができる。これにより、ワーク5をクランパ7で押さえ付けながら溶接を行う場合でも、ワーク5においてクランパ7に囲まれた凹んだ領域内にエアAを吹き込ませることができ、当該領域内の金属蒸気(プルーム)を外部へ吹き飛ばすことができる。したがって、レーザ光を遮る金属蒸気(プルーム)を除去することができ、溶接の品質を高めることができる。
【0056】
また、レーザ溶接装置1によれば、ワーク5の上方からリング状のエアAをワーク5に向けて吹き付けることにより、スパッタをワーク5から外れた場所へ下向きに飛ばすことができる。これにより、スキャナ装置11の保護ガラス11Aにスパッタが衝突して保護ガラス11Aが傷付くことを防止することができる。
【0057】
ここで、図11および図12に従って、レーザ溶接装置1の作用効果を具体的に説明する。図11は、本発明の実施形態によるレーザ溶接装置1においてエアを金属蒸気(プルーム)等に吹き付ける様子を示している。図12は、比較例によるレーザ溶接装置においてエアを金属蒸気(プルーム)等に吹き付ける様子を示している。
【0058】
比較例によるレーザ溶接装置101では、図12に示すように、ワーク5の側方にファン113を設置し、ファン113によりワーク5の側方からワーク5に向けてエアAを吹き付けている。このため、ワーク5においてクランパ7に囲まれた凹んだ領域内にエアAが流れ込まず、この結果、当該領域内に金属蒸気(プルーム)Vが滞留している。この滞留した金属蒸気(プルーム)Vは、スキャナ装置111から照射されるレーザ光の照射の妨げとなり、溶接の品質を低下させる原因となり得る。また、レーザ溶接装置101においては、スパッタSがスキャナ装置111の保護ガラス111Aに衝突して保護ガラスが傷付く場合がある。
【0059】
これに対し、本発明の実施形態によるレーザ溶接装置1では、図11に示すように、ワーク5の上方からワーク5に向けて吐出されたエアAが、ワーク5においてクランパ7に囲まれた凹んだ領域内に流れ込み、このエアAにより、当該領域内の金属蒸気(プルーム)Vが当該領域から外部へ吹き飛ばされている。この結果、レーザ光が安定した状態で十分にワーク5に照射されるので、溶接の品質が高まる。また、レーザ溶接装置1においては、ワーク5の上方からワーク5に向けて吐出されたエアAにより、スパッタSがワーク5から外れた場所へ下向きに吹き飛ばされている。この結果、スキャナ装置11の保護ガラス11AへのスパッタSの衝突は大幅に減少する。
【0060】
さらに、本発明の実施形態によるレーザ溶接装置1によれば、次のような作用効果を得ることができる。すなわち、ワーク5の上方からリング状のエアAをワーク5に向けて吹き付けることができるので、ワーク5において溶接すべき箇所が相互に異なる位置に複数ある場合でも、すべての箇所にエアAを吹き当てて、金属蒸気(プルーム)を吹き飛ばすことができ、それぞれの箇所における溶接の品質を均一化させることができる。
【0061】
また、ロボット12のアーム12Aの先端にスキャナ装置11とエアブロー装置16が支持されているので、ロボット12を遠隔操作してスキャナ装置11を移動させてレーザ光の照射位置を移動させると、エアブロー装置16がスキャナ装置11に追従して移動する。これにより、レーザ光を照射して溶接する箇所に常にエアAを十分に吹き付けることができる。したがって、ワーク5における溶接すべきすべての箇所について、溶接の品質を均一化させることができる。
【0062】
なお、上述した実施形態では、エアブロー装置16において、内側リング部材25の外周側に外側リング部材27を配置することで、両者間にリング状の吐出口29を形成する場合を例にあげたが、本発明はこれに限らない。例えば、図13に示すように、内側リング部材25および外側リング部材27に代えて、円弧状のスリット41Aが形成された単一のリング部材41を用いることもできる。例えば円弧状の長いスリット41Aを周方向に狭い間隔で形成することにより、全体的に見て実質的にリング状のスリットを形成することができ、これによりリング状の吐出口を実現することができる。
【0063】
また、上述した実施形態では、エアブロー装置16をスキャナ装置11に支持する場合を例にあげたが、本発明はこれに限らない。エアブロー装置16をロボット12のアーム12Aの一部に支持してもよい。また、スキャナ装置11およびエアブロー装置16をロボット12ではなく、支柱や台等により支持してもよく、また、高い位置からこれらを吊してもよい。
【0064】
また、上述した実施形態では、エアブロー装置16によりエアをワーク5に向けて吐出する場合を例にあげたが、エアに代えて、他のガスを用いてもよい。また、例えばエア源17とエアブロー装置16との間に流量調整弁等を設け、エア源17からエアブロー装置16に供給するエアの量を調整し、これにより吐出口29から吐出されるエアAの流速を変えることができるようにしてもよい。
【0065】
また、本発明は、請求の範囲および明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うレーザ溶接装置もまた本発明の技術思想に含まれる。
【符号の説明】
【0066】
1 レーザ溶接装置
5 ワーク(加工物)
11 スキャナ装置(レーザ照射手段、支持部)
12 ロボット(支持部)
16 エアブロー装置(ガス吐出手段)
17 エア源(ガス供給源)
21 ハウジング
21A 下面
23 キャビティ
24 エア供給口(ガス供給口)
25、31、33 内側リング部材
25A 外周側端面
27、32、34 外側リング部材
27A 内周側端面
29 吐出口
A エア(ガス)
L 光軸
P1 吐出基準点
Q 吐出軸
P2 エア集中点(ガス集中点)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工物にレーザ光を照射して前記加工物の溶接を行うレーザ溶接装置であって、
前記加工物に前記レーザ光を照射するレーザ照射手段と、
前記レーザ照射手段が前記加工物の上方に配置されるように前記レーザ照射手段を支持する支持部と、
前記加工物の上方に配置されるように前記支持部に支持され、前記レーザ光の光軸を包囲するリング状のガスを前記加工物に向けて吐出するガス吐出手段と、
前記ガス吐出手段にガスを供給するガス供給源とを備えていることを特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項2】
前記ガス吐出手段は、
リング状に形成され、前記レーザ照射手段または前記レーザ光の光軸を包囲するように前記支持部に支持されたハウジングと、
前記ハウジング内にリング状に形成され、前記ガス供給源から供給されるガスを蓄えるキャビティと、
リング状に形成され、前記レーザ照射手段または前記レーザ光の光軸を包囲するように前記ハウジングの下面側に取り付けられた内側リング部材と、
リング状に形成され、前記内側リング部材の外径よりも大きい内径を有し、前記内側リング部材の外周側に位置し前記内側リング部材と同軸となるように前記ハウジングの下面側に取り付けられた外側リング部材と、
前記内側リング部材の外周側端面と前記外側リング部材の内周側端面との間に形成され、前記キャビティと連通するリング状の吐出口とを備えていることを特徴とする請求項1に記載のレーザ溶接装置。
【請求項3】
前記内側リング部材の外周側端面は、その下縁が上縁よりも当該内側リング部材の中心に接近するように傾斜し、
前記外側リング部材の内周側端面は、その下縁が上縁よりも当該外側リング部材の中心に接近するように傾斜し、
前記内側リング部材の外周側端面の傾斜および前記外側リング部材の内周側端面の傾斜により前記吐出口から吐出されるガスの吐出方向が定められていることを特徴とする請求項2に記載のレーザ溶接装置。
【請求項4】
前記吐出口が描く円の中心を吐出基準点とし、前記吐出基準点を通り当該円と垂直に交わる直線を吐出軸とすると、前記吐出軸上であって前記吐出基準点から下方へ前記レーザ光の焦点距離の2分の1よりも短い距離離れた位置にガス集中点が設定され、前記吐出口から吐出されるガスが前記ガス集中点に集中するように当該ガスの吐出方向が定められていることを特徴とする請求項2または3に記載のレーザ溶接装置。
【請求項5】
前記内側リング部材および前記外側リング部材は前記ハウジングに着脱可能に取り付けられていることを特徴とする請求項2ないし4のいずれかに記載のレーザ溶接装置。
【請求項6】
前記ハウジングの外周側には、前記キャビティに連通し、前記ガス供給源から供給されるガスを前記キャビティに流入させる複数のガス供給口が形成され、前記複数のガス供給口は、前記ハウジングの周方向において等しい間隔をもって配置されていることを特徴とする請求項2ないし5のいずれかに記載のレーザ溶接装置。
【請求項1】
加工物にレーザ光を照射して前記加工物の溶接を行うレーザ溶接装置であって、
前記加工物に前記レーザ光を照射するレーザ照射手段と、
前記レーザ照射手段が前記加工物の上方に配置されるように前記レーザ照射手段を支持する支持部と、
前記加工物の上方に配置されるように前記支持部に支持され、前記レーザ光の光軸を包囲するリング状のガスを前記加工物に向けて吐出するガス吐出手段と、
前記ガス吐出手段にガスを供給するガス供給源とを備えていることを特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項2】
前記ガス吐出手段は、
リング状に形成され、前記レーザ照射手段または前記レーザ光の光軸を包囲するように前記支持部に支持されたハウジングと、
前記ハウジング内にリング状に形成され、前記ガス供給源から供給されるガスを蓄えるキャビティと、
リング状に形成され、前記レーザ照射手段または前記レーザ光の光軸を包囲するように前記ハウジングの下面側に取り付けられた内側リング部材と、
リング状に形成され、前記内側リング部材の外径よりも大きい内径を有し、前記内側リング部材の外周側に位置し前記内側リング部材と同軸となるように前記ハウジングの下面側に取り付けられた外側リング部材と、
前記内側リング部材の外周側端面と前記外側リング部材の内周側端面との間に形成され、前記キャビティと連通するリング状の吐出口とを備えていることを特徴とする請求項1に記載のレーザ溶接装置。
【請求項3】
前記内側リング部材の外周側端面は、その下縁が上縁よりも当該内側リング部材の中心に接近するように傾斜し、
前記外側リング部材の内周側端面は、その下縁が上縁よりも当該外側リング部材の中心に接近するように傾斜し、
前記内側リング部材の外周側端面の傾斜および前記外側リング部材の内周側端面の傾斜により前記吐出口から吐出されるガスの吐出方向が定められていることを特徴とする請求項2に記載のレーザ溶接装置。
【請求項4】
前記吐出口が描く円の中心を吐出基準点とし、前記吐出基準点を通り当該円と垂直に交わる直線を吐出軸とすると、前記吐出軸上であって前記吐出基準点から下方へ前記レーザ光の焦点距離の2分の1よりも短い距離離れた位置にガス集中点が設定され、前記吐出口から吐出されるガスが前記ガス集中点に集中するように当該ガスの吐出方向が定められていることを特徴とする請求項2または3に記載のレーザ溶接装置。
【請求項5】
前記内側リング部材および前記外側リング部材は前記ハウジングに着脱可能に取り付けられていることを特徴とする請求項2ないし4のいずれかに記載のレーザ溶接装置。
【請求項6】
前記ハウジングの外周側には、前記キャビティに連通し、前記ガス供給源から供給されるガスを前記キャビティに流入させる複数のガス供給口が形成され、前記複数のガス供給口は、前記ハウジングの周方向において等しい間隔をもって配置されていることを特徴とする請求項2ないし5のいずれかに記載のレーザ溶接装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−76111(P2012−76111A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223465(P2010−223465)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】
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