説明

レーザ熱分解によるシリコンナノ結晶の合成

本発明はレーザ熱分解によるシリコン含有ナノ粒子合成に関する。この目的のため:熱分解リアクタ(REAC)内部に、移動流体(He)により、元素ケイ素を含む前駆体(SiH4)が供給され;移動流体と前駆体とが形成する混合物に対してレーザ放射(LAS)がリアクタ内で実施され;シリコン含有ナノ粒子(nP)がリアクタ出口で回収される。特に、レーザ放射の出力が制御される。さらに、有効パルス持続時間がレーザ放射時間の中で制御される。典型的には、500ワットを超える出力及びレーザ放射時間の40%を越えるパルス持続時間に対して、1ナノメートルのオーダー以下のサイズの結晶構造を有するナノ粒子が、1時間あたり80ミリグラムのオーダーを超える速度で得られる。最適な条件下で、1時間あたり740ミリグラムを超える顕著な速度を得ることができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は結晶形態のシリコン含有ナノ粒子の合成に関する。
【背景技術】
【0002】
図1を参照すると、結晶シリコンナノ粒子Siは、表面上に、その厚みΔRがナノ粒子の全直径Dの約十分の一であるSiO酸化物の層を通常含む。量子閉じ込め(quantum confinement)によって、そのようなナノ粒子は、サイズにして10ナノメートル以下のオーダーの結晶シリコンコアを有し、フォトルミネッセンス性を示す。フォトルミネッセンス効果を通じたフォトンの発光波長はナノ粒子の結晶コアのサイズが小さいほど短い(赤/赤外における発光に関する10nmから赤/黄における発光に関する3nmまで)。さらに、特にナノ粒子の組成を変えることによって、発光波長を変更することも可能である。例えば、炭素含有(Si−C)ナノ粒子及び/又はゲルマニウム含有(Si−Ge)ナノ粒子及び/又は窒素含有(Si−N)ナノ粒子がフォトルミネッセンス性を有し得ることが指摘されている。
【0003】
このように、シリコンは、結晶ナノ粒子の粉末の形態で、フォトルミネッセントである。室温及び可視範囲内(緑から赤、粒子サイズに依存する)で観察可能であるこの性質は、非常に広い分野、例えばフォトニクス(シリコンレーザ)、生物学(ラベル又はトレーサ)、偽造品の検知(光学的バーコード)、化粧品等、における用途への道を開き得る。
【0004】
シリコンの構造がナノスケール(10nm未満のサイズ)まで低減されたとき量子閉じ込めの現象に帰されるフォトルミネッセンスが観察され、観察される色はナノ結晶のサイズに応じて変化する。したがって、可能な限り小さなサイズのシリコンナノ結晶の製造に対して興味が増しつつあることが理解される。しかしながら、そのようなナノ粒子に基づく装置の開発は、前記ナノ粒子が入手できなかったことにより遅れていた。
【0005】
これらの材料を得るために幾つかの方法が開発されてきた。例えば、SiOマトリックス内部にSiを埋め込みその後アニーリングする等(シリコンナノ結晶を析出する効果を有する)、薄いSi含有膜をもたらす幾つかの技術が挙げられる。PECVD(プラズマ化学気相成長法)も挙げられる。また、「逆ミセル」合成又は他には超臨界溶液と呼ばれるもの等、液相における方法は実行に時間がかかり、収率が低いことが多い。
【0006】
フリーのナノ粒子を得る物理的合成法に関しては、以下が挙げられる:レーザーアブレーション;流動床リアクタ内での熱分解、プラズマ誘起合成;及びレーザ誘起熱分解(例えば、COレーザ等の十分に強力なレーザを用いて)。後の二つの方法のみが、得られたナノ粒子の製造及び品質に関して、有効な結果を与えた。
【0007】
第1の方法によれば、L.Mangolini、E.Thimsen、及びU.Korsthagenによる「High yield plasma synthesis of luminescent silicon nanocrystals」、Nanoletters、Vol.5−4、pp.655−659、(2005)に記述される方法による、低圧(186から1860Pa)アルゴン/シラン無線周波数プラズマ内で、2から8nmまでの範囲のサイズのシリコンナノ粒子が得られている。0.4から2.4sccm(1分あたり標準1立方センチメートル)の範囲のシラン流速が、1時間あたり14から52mgまでの範囲の製造速度が達成されることを可能にする。
【0008】
ナノ粒子は非常に狭いサイズ分布を有する(例えば、標準偏差0.68nmで5.72nm)。ナノ粒子の表面を不活性にすることを目的とする「パッシベーション」処理と呼ばれる処理の後に、それらは、ナノ粒子に依存して、700から840nmの間のピーク波長でフォトルミネッセンスを示す。
【0009】
第2の方法は、G.Ledoux、O.Guillois、D.Porterat、C.Reynaud、F.Huisken、B.Kohn、及びV.Paillardによる「Photoluminescence properties of silicon nanocrystals as a function of their size」、Phys.Rev.B,Vol.62(23)、pp.15942−51(2000)に記載される方法による、特にCOベースのパルスレーザを用いる、シランのレーザ熱分解である。この方法は、その温度を熱分解焔を得る点まで上昇させ、焔内で形成されるシリコンナノ粒子を収集するため、シラン流をレーザービームに露出することが思い起こされる。得られたナノ粒子は2.8から4.8nmの間の範囲のサイズを有し、空気中で簡易にパッシベーションした後、610から900nmまでの範囲の波長で強いフォトルミネッセンスを放出する。しかしながら、非常に少量(数ミリグラムのみ)で得られるので工業的用途には向かないと思われる。
【0010】
より最近では、X.Li、Y.He、S.Talukdar、M.Swihartらの文献「Process for Preparing Macroscopic Quantities of Brightly Photoluminescent Silicon Nanoparticles with Emission Spanning the Visible Spectrum」、Langmuir 19、pp.8490−8496(2003)の、連続的な、しかし集束された低出力(60W)レーザ(焦点スポット直径2mm)を用いた、54×10Paの圧力におけるシランのレーザ熱分解により、5−20nmの範囲のサイズのシリコンナノ粒子を製造することが可能であることが示された。生成速度は20−200mg/hourの範囲である。しかしながら、合成の後、粒子をフォトルミネッセントにするのに第2の段階(ここではHF/HNO混合物による化学処理)が必要である。フォトルミネッセンスは500−800nmの波長範囲で得られてよい。
【0011】
同じ文献において、高出力レーザを用いて、及びレーザ/前駆体の重なり面積の大きさを増やすことによって、製造速度は高くなるであろうことが示された。しかしながら、これらのパラメータが粒子サイズに及ぼす効果に関して詳細は与えられていない。それにもかかわらず、レーザ出力の増加は先験的に焔温度の増加、及びその結果一般的に良好な結晶化をもたらすであろうから、結晶サイズの増加が予測される。さらに、重なり面積の増加はそれ自身相互作用時間の増加、及びその結果得られる結晶サイズの増加にも繋がるであろう。
【0012】
おそらく約12nmまで低減されたサイズのシリコンナノ粒子が、N.Herlin−Boime、K.Jursikova、E.Trave、E.Borsella、O.Guillois、J.Vicens、及びC.Reynaudによる「Laser−grown silicon nanoparticles and photoluminescence properties」、Proceedings、MRS Spring Meeting、Symposium M、San Francisco、USA(2004)に記載される、高出力連続レーザを用いて、レーザ熱分解により得られている。得られる製造速度は1時間あたり数グラムである。それらのサイズのために、これらのナノ粒子はフォトルミネッセンスを示さない。空気中の熱処理段階(酸化を促進するため)によってのみ、シリコンコアのサイズは10nm未満に低減されることができ、その結果フォトルミネッセンス効果が得られる。
【0013】
結局、レーザ熱分解に関して、重量計測可能な量で、及び単一の段階で、10nm以下のサイズを有し、かつ、例えば空気中での単純なパッシベーションの後で、フォトルミネッセンス性を示すシリコンナノ粒子を得ることを可能にする解決法は現在のところない。
【0014】
本発明の目的は、その状況を改善することである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Nanoletters、Vol.5−4、pp.655−659、(2005)
【非特許文献2】Phys.Rev.B,Vol.62(23)、pp.15942−51(2000)
【非特許文献3】Langmuir 19、pp.8490−8496(2003)
【非特許文献4】Proceedings、MRS Spring Meeting、Symposium M、San Francisco、USA(2004)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明はこの目的に関してレーザ熱分解によるシリコン含有ナノ粒子の合成方法を提案し、前記方法は以下の段階を含む:
・キャリア流体によって、元素ケイ素を含む前駆体を熱分解リアクタに移送する段階;
・前記キャリア流体と前駆体とがリアクタ内で形成する混合物に対してレーザ放射を実施する段階;及び
・リアクタ出口でシリコン含有ナノ粒子を回収する段階。
【0017】
本発明によれば、レーザ放射は少なくともその出力という観点で制御される。レーザ放射は、レーザ放出時間内での、その有効なパルス持続時間という観点で制御されてもよい。有利には、
・典型的には約500ワット以上の出力に対して、
・レーザ放射時間の約40%以上のパルス持続時間に対して、
約10ナノメートル以下のサイズを有する結晶コアを有するナノ粒子が、1時間あたり約80ミリグラム以上の製造速度で得られる。
【0018】
実施された試験から、実は重量を計測可能な量のフォトルミネッセントナノ粒子を得るための一つの重要なパラメータが熱分解反応に供給されるフォトンエネルギーのレベルであることが観察されており、これは前駆体の量又はその熱分解リアクタを通過する速度と比較してさらに重要である。例えば、前駆体が熱分解リアクタを通過する速度の増加(及び、結果的に熱分解反応に許される時間の減少)に関わらず、特に、レーザ出力の観点から、又は有効な放射パルス持続期間の観点から、レーザ放射により供給されるエネルギーに依存して、製造速度が増加し得ることが観察されている
【0019】
本発明は、特にレーザ出力及び有効パルス持続時間の割合を変化させることによって、得られるナノ粒子のサイズを精密に制御するのと同時に、製造速度を実質的に増加させることを初めて提案し、それによって、後述の例示的実施形態において見られるように、1時間あたり700ミリグラムを越える記録的な製造速度の実現を可能にし、同時にそれにもかかわらず10nm未満のままのサイズを有するナノ粒子を得る。
【0020】
制御に有利な他のパラメータは、キャリア流体中の元素ケイ素を含む前駆体の希釈である。実は、ナノ粒子のサイズを制限するために、ケイ素原子の間の衝突の数を制御することが必要である。さらに、ただし影響はより少ないが、前駆体を希釈することは、キャリア流体の流速、結果的にリアクタを通過する速度、を増加することを可能にする。したがって、反応時間(結果的に粒子成長)は制限される。
【0021】
実施された試験から、フォトンエネルギー(出力及び有効パルス持続時間)の供給を増加することは、製造速度の増加を可能にする。しかしながら、製造速度の増加は得られる粒子のサイズの増加を伴うことが非常に多い。したがって、希釈は粒子のサイズの増加を制限するための追加的なパラメータであってよく、三つのパラメータ(レーザ出力、有効パルス持続時間の割合、及び希釈)を制御することによって、得られる粒子のサイズが精密に制御され、同時に重量計測可能な量でそれらを製造することが可能である。典型的には、1分子あたり1個のケイ素原子を含む前駆体に関して、500Wを超えるレーザ出力、及び有効パルス持続時間の割合が40%で、キャリア流体中での1/10から1/30の間の希釈が良好な結果を提供した。もちろん、キャリア流体は好ましくは例えばヘリウム等の不活性ガスである。前駆体はガスの形態でリアクタ内に運ばれてもよい。典型的には、前駆体は化学式SiHのシランであってよい。
【0022】
好ましくは、レーザ放射は、例えば直径2mmの焦点スポットで、リアクタ内に焦点が合わせられる。レーザ出力の設定値(すなわち、与えるのに望ましい出力)が効果的にリアクタ内部に伝達されることを保証するために、及び、実施される試験による影響がより少ない状況で、小さな幾何学的レーザ/前駆体相互作用領域を生成し、結果的に反応領域における粒子成長時間が制限されることを確実にするために、リアクタ内のレーザービームのフォーカシングを制御することも有利である。
【0023】
さらに、レーザ/前駆体相互作用時間を制限する他の方法は、上述のように、リアクタ内部への注入速度が上述の1秒あたり4から11メートルの範囲内であるように、単純にキャリア流体流速を制御することであってよい。注入速度は反応領域を通過する速度が間接的に制御されることを可能にする。以下の説明を簡単にするために、これらの二つの速度はひとまとめに同じ用語「通過速度」によって示される。
【0024】
制御のために有利であり得る他のパラメータは、前駆体及びキャリア流体がリアクタ内で形成する混合物の圧力である。好ましくは、この圧力は低く(大気圧未満)、これは核生成及び粒子の成長においてもたらされる衝突を制限する効果を有する。前駆体が不活性ガス(例えば、ヘリウム)内で運ばれるシラン等のガスである例示的実施形態において、リアクタ内の圧力は好ましくは約40torrから約300torr、有利には150から300torr、の間である。しかしながら、他の実施形態において、前駆体がガス以外の形態(例えば液滴の形態で)でリアクタ内部へ運ばれることは、排除されず、この場合少なくともキャリア流体の圧力はその後制御され、キャリア流体自身は好ましくはガス状の形態に保たれる。
【0025】
有利には、熱分解反応の後粒子成長を停止するために、リアクタから取り出すとき粒子に対して急冷も実施される。
【0026】
本発明の他の特徴及び有利な点は、以下の詳細な説明及び図面を検討することで明確になるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】結晶シリコンナノ粒子Siを示す。
【図2】本発明による熱分解方法を実施するための装置の概略図を示す。
【図3】一定の振動数を有するレーザ放射の間の有効パルス持続時間を示す。
【図4】ナノ粒子のサイズに対する有効パルス持続時間の効果を示す。
【図5】これらのナノ粒子の小さなサイズ分布を説明するための、前記方法を実行することにより得られるナノ粒子に関して記録されるフォトルミネッセンススペクトルを示す。
【図6】レーザ放射あたりの有効パルス持続時間の割合に応じたナノ粒子の1時間あたりの製造速度の変化を示す。
【図7A】レーザスポットを制御するためのフォーカシング装置を示す。
【図7B】円筒形レンズを備えたフォーカシング装置を示す。
【図7C】二つのレンズを備えたフォーカシング装置を示す。
【図8】同じ混合物流に関するスポットの様々な形状を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
熱分解装置の例
図2を参照すると、ガス状形態の、元素ケイ素、及びより正確には、記載される例示的実施形態におけるシランSiH、を含む前駆体はキャリアガスとしての不活性ガス(ここではヘリウムHe)と混合される。好ましくは、キャリア流体中の前駆体の希釈は1/10から1/30の間である。記載される実施形態において、希釈は図2における二つのバルブV1及びV2によって制御される。二つのガスの混合物(図2においてMIXで示される)は圧力ゲージV0により制御された圧力で反応チャンバ(REAC)内部に運ばれる。混合物の圧力は、好ましくは150から300torrの間である。バルブV1、及び特にV2を備えた質量流速レギュレータシステムが、やはりガス流速を、特に反応チャンバREAC内のキャリア流れ(矢印He)を制御するために、使用される。ここでキャリア流流速は600から2000sccmの間であり、これは、実施された及び以下に記述される試験の実験条件の下では、1秒あたり約4から11メートルの間のリアクタREAC内の通過速度に相当する。
【0029】
本発明によれば、連続モード又はパルスモードにおいて、すなわち従来技術において推奨されるよりもずっと長いパルス持続時間で(レーザ放射時間あたりの有効パルス持続時間の割合が約40%以上で)、高出力で操作することができるレーザ源LSの使用が選択される。これは、例えば連続モードで最大5kWを供給することができるCOレーザ源であってよい。図3は、レーザ放射の有効パルスの波形の概略図を示す。これらの放射は周期的である。放射の全期間(又は「放射時間」)はtで示され、それに対して有効パルスの持続時間はtで示される。レーザ出力設定値PLASは各有効パルス最大値Pに達する。したがって、本発明による熱分解装置のレーザ源LSは、出力設定値及び放射時間(又は、同等である、レーザ放射振動数)の双方の観点から、及び放射時間tあたりの有効パルスの持続時間の割合tの観点からも、調節され得る。レーザービームLAS入射をリアクタREAC上に集束して、熱分解反応領域上部に集められたビームLASの衝突がサイズ約2ミリメートルのスポットを形成するようにレーザ源LSにより放射されたビームをフォーカシングするため、フォーカシング手段FOCも提供される。これは、約0.18から0.5ミリ秒の間の反応時間(1秒あたり4から11メートルの間のリアクタ通過速度に関する)に相当する。
【0030】
合成法は、得られた粒子を熱分解焔から取り出した直後にクエンチング効果により処理することによりさらに改善され得る。これを行うために、粒子成長を停止するように、前駆体/レーザ相互作用領域の後で、冷ガスCGQが注入される。その結果、同じ粒子サイズに関して、この急冷を実施することによって製造速度を増加することが可能である。このクエンチングシステムCGQは、プラズマトーチ上で使用されてよいクエンチングシステムと同様の環形状を有するが、しかし、発明者の知識では、そのようなシステムはレーザ熱分解装置においては使用されてこなかった。
【0031】
得られたナノ粒子nPは、最終的にフィルタFILT上に収集される。それらは、概して、非常に均一なサイズを有する。実験条件に依存して、サイズは約4から10ナノメートルの間であり得る。得られた粒子は、大気中での自然酸化の後(典型的には数ヶ月の後、又は小さな粒子の場合にはより短い)、フォトルミネッセンス性を有する。
【0032】
値の範囲、及び実験パラメータの影響
製造速度と得られた粒子サイズとは同じ方向性で変化し、及びほぼ分離できないことは、この段階で指摘されるべきである。言い換えると、もしも製造速度を増加することが望まれる場合、10ナノメートルを超えるかもしれないサイズの粒子が必然的に得られる。これは、したがって、粒子にフォトルミネッセンス性を賦与する化学的処理、又は熱処理を必要とする。
【0033】
したがって、連続放射モードにおける、しかし低出力の、従来技術によるレーザ合成を用いると、得られた粒子は大きなサイズを有し、フォトルミネッセンスを得るためにさらなる化学的処理段階が必要である。パルスレーザでは、製造される量は、その一方で、非常に小さい。
【0034】
より正確には、連続レーザでは、反応時間は反応物の通過速度(すなわち、その流速)、及びレーザスポットのサイズにのみ依存する。
【0035】
ガス/レーザ相互作用時間は、典型的には、従来技術において約0.1から1msであってよく、特に以下の文献:N.Herlin−Boime、K.Jursikova、E.Trave、E.Borsella、O.Guillois、J.Vincens、及びC.Reynaudによる「Laser−grown silicon nanoparticles and photoluminescence properties」、Proceedings、MRS Spring Meeting、Symposium M、San Francisco、USA(2004)、で以前述べられたものである。
【0036】
パルスレーザでは、本発明によれば、反応時間は有効レーザパルスの持続時間(上述の図4に示されるように)及び制御の事実にも依存し、このパラメータは得られる粒子のサイズがよりよく制御され、一方で重量計測可能な量でそれらを製造することを可能にする。
【0037】
図4は有効放射パルスの持続時間に応じた得られた粒子サイズの変化を示し、他のパラメータ、例えば放射時間あたりの有効パルス持続時間の割合、レーザ出力、希釈、圧力等、は一定である。サイズの測定は、差分ポンピング及び超音波ジェットにより焔から抽出されたナノ粒子に対する飛行時間型質量分光計により、インサイチュで実行された。
【0038】
ナノ粒子が形成されることは、30マイクロ秒の有効パルス持続時間のみに関して、すでに明らかである。より短い持続時間に関して、熱分解焔は全く生成されないことには留意されたい。規定された範囲内で、ナノ粒子のサイズ、及び結果的に製造速度は有効パルス持続時間に応じて明確に増加し、それによって有効パルス持続時間の重要性を確実にすることが、特に観察される。
【0039】
良好な結果を与えた有効パルス持続時間の範囲は約30マイクロ秒から約260マイクロ秒である。連続モードでのレーザ操作も良好な結果を与えるが、ただし低出力においてである。
【0040】
しかしながら、直感的に、相互作用時間(パルス持続時間を通じて)及び反応温度(単位面積あたりのレーザービームの出力又はエネルギーを通じて)は、結晶成長を促進するタイプのパラメータである。しかしながら、得られる結晶サイズは約10ナノメートル未満であり、しかしながら、大きく増加されるナノ粒子製造速度は1時間あたり700ミリグラムを超える記録的値に達し得る。そのような結果は、特に放射時間あたりの有効パルス持続時間の割合を制御することによって得られている。
【0041】
しかしながら、レーザ出力又は有効パルス持続時間以外の実験パラメータも影響を有し、特に前駆体の希釈、及び程度は低いが混合物の圧力、及びリアクタを通過する速度がある。得られる実質的量の、同時に10nm未満のサイズの範囲内である、ナノ粒子に関して幾つかのパラメータセットが決定されている。以下の表は、サイズの範囲が4から9nmであり製造速度範囲が80から740mg/hourである製造されたナノ粒子を有する四つの異なるバッチを合成する例を示す。
【0042】
【表1】

【0043】
図5は、方法を実施することによって得られた出力での紫外線レーザ放射の下で顕著なフォトルミネッセンススペクトルを示す。最大値(フォトルミネッセンスピーク)は、740から800nmの間でシフトされ、これは量子閉じ込めの理論に基づく計算から導かれる4.2から5.2nmの範囲のサイズに相当する。これは、結果的に、ここで製造されるナノ粒子の小さなサイズ分布を説明する。粒子サイズが、高解像度透過型電子顕微鏡、及びBET(Brunauer、Emmet、及びTeller)法によっても測定され、粒子サイズの値が決定されたことに留意されたい。
【0044】
30から260マイクロ秒の、上述の有効パルス持続時間は別として、
・レーザ出力の範囲は、約500ワットから約2400ワット、有利には500ワットから約2000ワットである。
・レーザ放射あたりの有効パルス持続時間の割合は、有利には40から100%の範囲である。
・キャリア流体中の前駆体の希釈は、好ましくは1/30から1/10の範囲である。
・リアクタ内の混合物の圧力は、好ましくは150から300torrの範囲である。
・リアクタ内の滞留時間は好ましくは0.18ミリ秒(すなわち、サイズ2ミリメートルのレーザ衝突スポットに関して、リアクタを通過する速度が11m/s)から0.5ミリ秒(通過速度4m/s)の範囲である。
【0045】
値のこれらの範囲の全てに関して、下限に近い値(30μs、500W、40%、1/30、150torr、及び0.18ms)は小さなサイズを有する粒子を促進する。対照的に、上限に近い値(260μs、2000W、100%、1/10、300torr、及び0.5ms)は粒子成長を促進し、より詳細には製造速度の増大に寄与する。しかしながら、もしもパラメータ下限近くでのみ、又は主に下限近くで選択される場合、単純に反応焔が生成されず、その結果粒子が製造されないことは指摘されるべきである。対照的に、もしも全てのパラメータが上限近くで選択された場合、10nmよりサイズが大きいナノ粒子が製造される。したがって、10nm未満のサイズのナノ粒子の製造は、様々な合成パラメータの間の折衷の結果である。典型的には、幾つかの実験パラメータの様々な組で同じ粒子サイズが得られてよい。
【0046】
10nm未満のサイズを有し、及び重量測定可能な量のナノ粒子を得るための基準は、それにもかかわらず以下に詳述される。
【0047】
1/20未満(すなわち、1/30〜1/20の範囲)の希釈、及び相対的に低いレーザ出力(500〜700W)を選択することによって、有効パルス持続時間の割合は好ましくは100%(連続モードにおけるレーザ操作)であり、及び好ましくはリアクタ内の圧力は相対的に高い(250〜300torr)。
【0048】
1/20未満の希釈、ただし中程度のレーザ出力(約800から1000W)を選択することによって、有効パルス持続時間の割合は好ましくは約40から55%であり、その代わり圧力は約150〜250torrである。その結果、1時間あたり約100ミリグラムの時間製造速度で直径約5nm(赤)の粒子を得るために、パルス持続時間40〜45%、圧力150torr、及びレーザ出力800〜900Wに設定することが可能である。
【0049】
1/20未満の希釈、ただし高いレーザ出力(約1000W)を選択することによって、有効パルス持続時間の割合は好ましくは約60から75%であり、出力及び有効パルス持続時間は結果的に増大される。リアクタ内の圧力は結果的に150から200torrの範囲に減少される。その結果、150mg/hの時間製造速度で直径約5nm(赤)の粒子を得るために、パルス持続時間65%、圧力150torr、及びレーザ出力1500Wに設定することが可能である。
【0050】
1/20以上の希釈(1/10に近い)を選択することによって、有効パルス持続時間の割合は好ましくは約75%であるが、ただし高いレーザ出力(最大約1500W)であり、一方で圧力範囲は低いままである(150〜200torr)。
【0051】
しかしながら、製造速度に対する有効パルス持続時間の割合の特定の影響を説明するために、図6はこの割合に応じた製造速度の変化を示し、他の実験パラメータは実質的に一定(又は少なくとも同じ範囲内の値)である。この図は有効パルス持続時間の割合に応じた時間あたりの製造速度(ここでは最大1時間あたり約200ミリグラム)の増加における一般的な傾向を明確に示す。
【0052】
本発明の他の目的は、本発明による方法によるシリコンナノ粒子合成のためのレーザ熱分解設備を提供することであり、前記設備は特に以下を含む。
・少なくともその出力、及びその有効パルス持続時間の観点から調節され得るレーザ源。
・質量流速を調節するためのシステムであって、キャリア流体内の前駆体の希釈及び/又はリアクタ内の圧力及び/又はリアクタ内の通過速度(キャリア流体流速を通じて)を制御するためのバルブ及び圧力ゲージの組を含むシステム。
・直径約2ミリメートルのリアクタREAC内の相互作用領域(焦点スポット)を形成するためのレーザ放射の集束に関する焦点調整手段FOC。
・熱分解領域の下流に冷ガスを注入することによる急冷システム。
【0053】
本発明の実施形態において、シリコンナノ結晶の製造速度はレーザ源の出力によって制御される。最大の製造速度を有するために、可能な限り高い出力を有するレーザが使用されることが好ましい。有利には、出力によるこの制御は、製造速度を増大するため、レーザビームの幾何学的形状を最適化するとともに実行される。
【0054】
有利には、このレーザ出力制御は反応チャンバに入る混合物の流速の調節と同時に行われる。これは、ナノ結晶の製造速度に対する影響とは別に、レーザ出力が得られる粒子のサイズに対する効果を有するためである。前駆体が曝されるレーザ出力が高いほど、ナノ結晶のサイズは大きくなる。
【0055】
その結果、所定のサイズのナノ結晶に関して高い製造速度、例えば4nmの粒子に対して約200mg/h、を得るために、高いレーザ出力、及び反応チャンバに入る混合物の高い流速が選択される。このように、たとえ出力が高い場合であっても、もしも前駆体が相互作用領域にある時間が制限されるならば、ナノ結晶はサイズがそれほど大きく成長する時間を持たない。
【0056】
したがって、レーザ出力、及び反応チャンバに入る混合物の流速は、ナノ結晶のサイズを制御するパラメータであることが理解される。ナノ結晶のサイズはレーザ源の出力に応じて増加し、反応チャンバに入る混合物の流速に応じて減少する。
【0057】
ナノ結晶のサイズを制御する他の手段は、反応チャンバ内部に導入される混合物内のシランの希釈を変えることである。これは、シラン粒子の希釈が低いことが、衝突、結果的にナノ粒子の成長、を促進するためである。したがって、この希釈パラメータはナノ結晶の製造において考慮されなくてはならない。例えばヘリウムとの混合物における、最適なシラン希釈範囲は約5%から8%である。これらの割合は、シラン及びヘリウム各々の体積流速に基づく。この範囲内で、非常に微細な粒子を得ることが可能である。希釈を制御するために、解放バルブ及びマスフローメータが使用されてよい。
【0058】
例えば導入されるヘリウムの量を変更せずに導入されるシランの量を減らすことにより希釈を変更することによって、反応チャンバに入る混合物の流速が結果的に変更されてよい。この希釈の変更が、結果的に、粒子のサイズに対して効果を有し得る。しかしながら、ナノ結晶のサイズ分布にも効果を有し得る。
【0059】
具体的には、ガス混合物はノズルにより反応チャンバ内部に導入され、前記ノズルはガス混合物の周囲の閉じ込めガス(confinement gas)を注入するための同心円形の注入手段により囲まれる。
【0060】
この閉じ込めガス、一般的にアルゴン、は幾つかの機能を有する。第一に、それは混合物の流れが反応チャンバ内部に向かうことを可能にして、例えば、結果的に前駆体/壁相互作用を回避する。第二に、閉じ込めガスは、反応領域を通過する前駆体粒子の通過速度が均一であることを可能にする。
【0061】
これは、ノズル出口において、全ての前駆体粒子が同じ速度を持つわけではないからである。外周の前駆体粒子、すなわちノズルの壁に最も近い、は流れの中央部に存在する粒子と比較して速度が遅くなる。その結果、混合物の周囲に同心円状に閉じ込めガスを注入することによって、外周の前駆体粒子は同伴効果により加速される。
【0062】
その結果、前駆体粒子は均一な通過速度を有し、これは均一な通過時間をもたらし、結果的にナノ結晶によりよいサイズ分布を与える。
【0063】
もしも、入ってくる閉じ込めガスの流速を結果的に変更することなしに、反応チャンバに入る混合物の流速が変わる場合、ナノ結晶のサイズ分布は悪化する。
【0064】
したがって、入ってくる混合物の流速が変わるとき、閉じ込めガスの流速も結果的に変更される。例えば、これらの二つの流速の間の一定の比は保持される。
【0065】
理解されるであろうが、反応領域はガス混合物の流れの経路上に存在する。したがって、前駆体粒子はこの領域に入る前に特定の経路を移動する。結果的に、この経路はナノ結晶のサイズに影響し得る。例えば、前駆体粒子はノズル出口における速度と比較して小さな速度を有する。したがって、ノズル出口から反応領域が離れるほど、得られるナノ結晶のサイズは大きいだろう。
【0066】
したがって、例えば焦点調整装置の又はレーザ装置の視準線を制御することによって、この距離は考慮されなくてはならない。
【0067】
良好な熱分解品質を保証するために、低い製造速度において平坦な焔が得られることを確実にするための手段が実行され、焔は高い製造速度では引き延ばされ、幅広く、及び対称である。どちらの場合も、これらの焔は良好な熱分解を確実にする。
【0068】
より一般的には、均一な焔が保持される、すなわちおおよそ一定の光度を有する、ことを確実にするための手段が実行される。良好な焔の均一性によって、前駆体粒子の全てがレーザ源から同じエネルギーを受けることを確実にする。これは、製造されるナノ粒子の適切なサイズ分布が存在することを確実にする。
【0069】
反応チャンバ内部に導入される混合物のための供給パイプにおける圧力の制御がなされる。この制御は反応領域から所定の距離、例えば30センチメートルの距離、での混合物の圧力に関連し得る。この制御は混合物供給パイプ(ノズル)内の圧力にも関連し得る。
【0070】
反応チャンバ内の圧力が制御されてもよく、又は反応領域内の混合物の流速が制御されてよい。
【0071】
圧力はかなり広い範囲内で調節されてよい。圧力は150torr未満又は50torr未満にさえ低減されてよい。しかしながら、ナノ結晶の狭いサイズ分布を保証するために、安定な、すなわち相対的に一定の圧力が、一連の製造の間保持されることを確実にするための手段が実行される。
【0072】
操作に有利である他のパラメータは、ナノ結晶のサイズの制御のための、レーザ放射時間に対する有効パルス持続時間の比である。この制御を実行するのに有利な範囲は、約0.2から0.4の間である。
【0073】
最終的に、高い製造速度を実現するために、レーザ放射の出力を制御することは有利である。
【0074】
3から4nmにわたるナノ結晶サイズ範囲内で、得られる製造速度は最大80mg/h、又は、後述の実施形態において特に有利である、最大200mg/hであってよい。
【0075】
もちろん、これらの製造速度はナノ結晶のサイズを考慮している。例えば、10nmのナノ結晶に関して、十分な製造速度は約1000mg/hである。
【0076】
本発明の実施形態において、熱分解反応が起こる領域の大きさが制御される。より詳細には、レーザスポットの寸法、特に反応チャンバ内部に導入される混合物に移動される光のエネルギーの空間分布、が制御される。レーザスポットはレーザ源から、又は、場合によっては、焦点調整装置から来る光線の平均方向に直交する平面内で観察される。光線の平均方向に直交する平面内のこのスポットの寸法に関する良好な結果は、流れの方向がスポットの観察平面に平行であるとき、例えば反応チャンバ内部に導入される混合物の流れ方向で0.5mm、及び流れ方向に直交する方向で3mmである。
【0077】
流れの幅、すなわち流れ方向に直交する方向の流れの寸法、がカバーされることを確実にするのは有利である。結果的に、混合物の前駆体粒子全てがレーザービームと相互作用する。スポットを流れの幅と一致させることによって、狭すぎるレーザスポット(流れの端部から熱分解を受けることなく前駆体分子が反応チャンバを通過するようにするであろう)を回避することができる。このように、これは非常に広いスポット(前駆体粒子を全く含まない領域を照らし、その結果表面エネルギーの不要な損失をもたらすであろう)を回避することも可能である。
【0078】
スポットの他の寸法は、その高さ、すなわち流れの軸に沿ったその寸法、である。この寸法は、粒子のサイズに対して効果を有し得る。具体的には、この寸法に沿ってスポットが広がるほど、前駆体粒子が反応チャンバ内でレーザと強く相互作用する。その結果、非常に微細なナノ結晶を得るためには、流れ方向に沿って非常に大きく広がるスポットは回避されるべきものである。
【0079】
理想的には、スポットの形状は長方形である。具体的には、粒子が、相対的に外周に近い流れの中のそれらの位置に依存して、レーザと相互作用する領域中で同じ距離移動しないことを、すなわちビームと多く又は少なく相互作用することを、防ぐために(それらはナノ粒子のサイズ分布に影響するであろう)、流れの上に均一な照射を得ることが好ましい。
【0080】
まとめると、混合物流と同じ幅を有するスポットが形成され、一方で一定の高さが維持されることを確実にする手段が実行される。このようにして、ナノ結晶の微細な、及び等分布サイズを保持すると同時に、製造速度は増大される。
【0081】
スポットの寸法を制御するために、図7Aに示される調節可能な焦点調整装置FOCが使用されてよい。この図及びこの図の正規直交参照枠(O、x、y、z)を参照すると、レーザ源からくるレーザ光LAS(図示されない)は、流れMIXの方向の軸(Bz)に沿う方向に向けられている。この流れは、ノズルNOZによる出力であり、(By)軸に沿った方向を向く円筒形である。点Bは流れ中の一つの点である。スポットSPは(B、x、y)面で観察される。
【0082】
焦点調整装置はスポットの寸法が幅に関して(Bx)に平行な方向で、及び高さに関して(By)に平行な方向で調節されることを可能にする。この調節は各方向に関して独立であってよい。
【0083】
結果的に、スポットの幅Wが流れMIXの幅と対応するように、装置は調節される。理解されるように、流れの幅はこの例示においてレーザとの相互作用の平均点での流れの直径に対応する。
【0084】
装置はスポットの高さhがおおよそ一定であるようにも調節される。
【0085】
一般的に、装置は約0.5mmの高さを有するように調節される。もちろん、当業者は、この調節が、起こり得る、レーザ源からくる光線の回折及び収差に起因する問題を考慮して行なわれることを確実にするだろう。これらの問題は光学装置に固有のものであり、当業者はそれを修正することができる。
【0086】
もちろん、使用される焦点調整装置に依存して、スポットは様々な形状(正方形、長方形、円、楕円、又はその他)を有してよい。
【0087】
例えば、焦点調整装置は一つ以上の円筒形又は半円筒形のレンズを備えてよい。そのようなレンズは、それ自体知られる方法で、入射光が直線分に沿って集束することを可能にする。
【0088】
単一のレンズを備えるそのような装置の一つの例は図7Bに示される(図7Aと同じ表記である)。この図7Bにおいて、半円筒形レンズLは混合物MIXの流れ方向に直角である不変な方向の軸を有する。用語「不変な方向」は、それに沿ってレンズが入射光を変更しない方向を意味するとして理解される。回転柱の一部としての形状を有するレンズに関して、この軸は回転柱の軸に相当する。
【0089】
結果的に、反応領域に関連してこのレンズの焦点面からの距離を制御することによって、スポットの幅が調節される。例えば、(Bx)軸に沿って長い寸法を有するおおよそ楕円形のスポットを得るために500mmの焦点距離を有するレンズが使用され、場合により反応混合物の流れの幅まで広がる(例えば3mm)。
【0090】
図7Aと同じ記号を有する図7Cにおいて説明されるような、二つの円筒形レンズを備える焦点調整装置が想定されてよい。この場合、レンズL1及びL2の各々の不変方向が異なることを確実にするような手段が取られる。表現「異なる方向」は、同一線上ではないベクトルによって規定される方向、例えば直交平面内、を意味すると理解される。
【0091】
ここで、レンズの不変軸は直交し、レンズL2の不変軸は混合物の流れ方向に平行である。
【0092】
このように、少なくとも二つの特徴的大きさを有するスポットが得られる。各々のレンズの反応領域からの距離を独立に変えることによって、二つの特徴的大きさの各々を調節することが可能である。
【0093】
例えば、図7Cに示される装置において、レーザは光線の平均的方向に対して直交する平面にそこから広がる円形スポットを形成する。レンズL1を通過した後、このスポットは楕円形状を有する。楕円の主軸は(Bx)軸に平行であるが、L1の不変軸もこの軸に平行であるためである。光線がレンズL2を通過した後、(By)に平行な軸に沿って楕円は変形される。これは、レンズL2の不変軸もこの軸に平行であるからである。
【0094】
結果的に、混合物の流れと同じ高さで、(B、x、y)平面において、特徴的寸法W及びhを有するスポットが得られ、前記特徴は混合物の流れの方向と直交する方向、及び混合物の流れ方向と平行である方向において各々測定される。スポットは基本的に長方形であるが、おおよそ楕円弧の形態(全体形状は「クッション」)の側部を有する。この場合、特徴的大きさは長方形の長さ及び幅であり、これらは各々混合物の流れ方向に直交する方向、及び混合物の流れ方向に平行な方向に沿って測定される。
【0095】
したがって、例えば、レンズL1を提供することによって特に製造速度を変更することが可能であり、レンズL2を提供することによって特にナノ結晶のサイズを変更することが可能であり、独立に実行されることは理解されるだろう。
【0096】
例えば、L1及びL2は円筒形であり、同じ焦点距離fを有する。L1と(By)軸との間の距離はfに設定される。L2とノズル軸との間の距離は調節可能であり、レーザスポットの幅Wを調節可能にする。スポットの高さhが、例えば回折限界(焦点距離500mmで10.6μmにおいて0.45mm)によって、与えられる。ガス流とレーザとの間の十分な重なりが結果的に得られる。
【0097】
スポットの寸法を制御することによって、例えば照射領域を反応チャンバ内部に導入される混合物の流れの厚み、すなわち焦点調整装置からくる光線の平均的方向に直交する、及び流れ方向に直交する平面内の流れの寸法、に適合させることが可能である。結果的に、最大の光出力密度が混合物に移動され、一方で損失は最小化される。
【0098】
末端効果を回避し、かつナノ結晶の良好なサイズ分布を保証するため、幅Wが大きくなりすぎないことを確実にする手段が実行される。これは、流れの外周において、すなわち閉じ込めガスの流れ近傍で、上述したように、前駆体分子が平均流れ軸に近いものと比較して同じ速度を有することがないためである。
【0099】
この相互作用領域の有利な幾何学的形状は、結果的にフォーカシングパラメータを変更することによって得られ、それによってナノ結晶のサイズを低減すると同時に、ナノ結晶の製造速度を改善する。
【0100】
この結果は、一つ又は二つの円筒型レンズを使用し、かつ、二つのレンズの場合、反応領域のスポットの垂直及び水平方向の寸法を独立に調節するため焦点面が交差される、レーザ焦点調整手段を用いて、結果的に反応領域からの各レンズの距離を変えることにより得られた。最良の結果は、上述の反応混合物流供給条件に関して、高さ0.5mm及び幅3mm(実験的に測定された)のスポットに対して得られた。
【0101】
結果的に、直径4nmのナノ結晶に対する80mg/hから、3〜4nmの範囲のナノ結晶に対する200mg/h超までの製造速度が実現可能であった。
【0102】
図8は同じ流れに対する様々なスポット形状を説明する。この図は、スポット形状が製造能力に及ぼす影響を比較することを可能にする。第1のスポットSP1は円形であるが、反応性流の横方向の端部を覆わない。その結果、混合物前駆体粒子がスポットのどちらか一方の側部を通過するので、この直径よりも広い流れでは、最適な製造速度が得られない。
【0103】
スポットSP2は楕円形であり、例えば、半円筒型レンズL1(図7B)を用いて円形スポットを変形することによって、得られてよい。結果的に、所定の高さ(混合物の流れ方向に沿った)に関して、流れの幅全体を覆う(流れの方向に直交する方向に沿った)ことが可能である。このようにして、製造速度は増大される。
【0104】
スポットSP3は長方形であり、例えば、図7Cを参照して上述したように、楕円形スポットSP2を、第2の半円筒型レンズL2を加えることにより、変形することによって得られてよい。結果的に、スポットはおおよそ一定の高さを有し、粒子はほぼ同じようにビームと相互作用して反応領域を通過し、それによってナノ結晶のサイズ分布を改善する。
【符号の説明】
【0105】
V1、V2 バルブ
REAC リアクタ
LAS レーザ光
MIX 流れ
NOZ ノズル
SP1、SP2、SP3 スポット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
・キャリア流体によって、元素ケイ素を含む前駆体を熱分解リアクタに移送する段階;
・前記キャリア流体と前駆体とが形成する混合物に対してリアクタ内でレーザ放射を実施する段階;及び
・リアクタ出口でシリコン含有ナノ粒子を回収する段階、を含み、
前記レーザ放射は少なくともその出力という観点で制御されることを特徴とする、レーザ熱分解によるシリコン含有ナノ粒子の合成方法。
【請求項2】
前記放射がレーザ放射時間内の有効パルス持続時間という観点でも制御されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記レーザ出力が約500W以上であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記有効パルス持続時間がレーザ放射時間の約40%から100%の間であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記有効パルス持続時間が約30マイクロ秒から約260マイクロ秒の間であることを特徴とする、請求項2又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記レーザ放射の出力が約500Wから約2400Wの間であることを特徴とする、請求項1から5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記レーザ放射がリアクタ内の直径数ミリメートルのスポット上に集束されることを特徴とする、請求項1から6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
スポットの高さ及び/又は幅の寸法を調節するために、レーザ放射の焦点を合わせるための焦点調整手段が提供されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
キャリア流体中の前駆体の希釈も制御されることを特徴とする、請求項1から8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記前駆体が1分子あたり一つのケイ素原子を含むので、キャリア流体中の前駆体の希釈が1/30から1/10の間であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
キャリア流体が、少なくとも、リアクタ内でガス状形態であり、キャリア流体の圧力も、少なくとも、リアクタ内で低圧力での操作を行なうために、制御されることを特徴とする、請求項1から10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
キャリア流体が不活性ガスであることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記前駆体がガス状形態のシランであることを特徴とする、請求項1から12の何れか一項に記載の方法。
【請求項14】
キャリア流体と前駆体とがリアクタ内で形成する混合物の圧力が約40torrから約300torrの間であるように制御されることを特徴とする、請求項13と組み合わされた、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項15】
少なくともリアクタ内のキャリア流の流速も、リアクタ内部への注入速度が1秒あたり約4から約11メートルの間の範囲で操作されるよう制御されることを特徴とする、請求項1から14の何れか一項に記載の方法。
【請求項16】
ナノ粒子は熱分解の後冷ガスを用いて急冷されることを特徴とする、請求項1から15の何れか一項に記載の方法。
【請求項17】
レーザ放射がレーザ放射振動数の観点からも制御可能であることを特徴とする、請求項1から16の何れか一項に記載の方法。
【請求項18】
元素ケイ素を含む前駆体がキャリア流体によりレーザ放射を受ける熱分解リアクタ内部に供給される、レーザ熱分解によりシリコン含有ナノ粒子を合成するための装置であって、請求項1から17の何れか一項に記載の方法を実施するために、すくなくともその出力という観点で調節され得るレーザ源を含むことを特徴とする装置。
【請求項19】
請求項2から17の何れか一項に記載の方法を実施するための、レーザ源が、レーザ放射時間における有効パルス持続時間の観点からも調節可能であることを特徴とする、請求項18に記載の装置。
【請求項20】
請求項9、10、及び15の何れか一項に記載の方法を実施するための、キャリア流体内の前駆体の希釈を制御するための、及び/又はリアクタ内部への注入速度を制御するためのバルブの組を含むことを特徴とする、請求項18に記載の装置。
【請求項21】
請求項11又は14に記載の方法を実施するための、リアクタ内の圧力を制御するための少なくとも一つの圧力ゲージを含むことを特徴とする、請求項18から20の何れか一項に記載の装置。
【請求項22】
請求項7に記載の方法を実施するための、リアクタ上へレーザ放射の焦点を合わせるための手段を含むことを特徴とする、請求項18から21の何れか一項に記載の装置。
【請求項23】
焦点調整装置によりレーザ放射の焦点がスポット上に合わされることを可能にし、それらがスポットの高さ及び/又は幅の寸法を制御するのに適することを特徴とする、請求項22に記載の装置。
【請求項24】
請求項16に記載の方法を実施するための、熱分解の後冷ガスを注入することによりナノ粒子を急冷するための冷却システムをさらに含むことを特徴とする、請求項18から23の何れか一項に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−527318(P2010−527318A)
【公表日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−507959(P2010−507959)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際出願番号】PCT/FR2008/050838
【国際公開番号】WO2008/152272
【国際公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(502124444)コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ (383)
【Fターム(参考)】