説明

レーザ発振器

【解決手段】 本実施例におけるレーザ発振器1のレーザチューブ2には、複数の電極4がそれぞれ電極支持手段21によって着脱自在に設けられており、この電極支持手段は電極を保持する蓋部材22、シール部材23、ストッパ部材24によって構成されている。
上記蓋部材には上記レーザチューブに形成された筒状部2cの開口部2eを封止するように筒状部よりも大径の大径部22aが形成され、この大径部には上記ストッパ部材のナット部24aが螺合し、また大径部とストッパ部材に設けられたフランジ部24bとの間で上記シール部材を圧縮するようになっている。
また上記フランジ部には大径部に向けてテーパ形状24cが形成されており、このテーパ形状によりシール部材は縮径方向に圧縮され、電極支持手段を筒状部に固定することができる。
【効果】 レーザ発振器の製造コスト及びランニングコストを低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザ発振器に関し、詳しくはレーザガスを流通させるレーザチューブと、当該レーザチューブの内部空間に突出する少なくとも1対の電極を備えたレーザ発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザガスを流通させるレーザチューブと、当該レーザチューブの内部空間に突出する少なくとも1対の電極とを備えたレーザ発振器が知られ、上記電極によりレーザガス内で放電を行い、レーザガスを励起することでレーザ光を発振するようになっている。
このようなレーザ発振器では、金属材料からなる電極および耐熱ガラスからなるレーザチューブの熱膨張の差を吸収しつつ、レーザチューブに電極を封止して取り付ける必要がある。
このため、上記レーザチューブにおける電極の取付け位置に、レーザチューブの外方に向けて突出する突出部を形成すると共に、この突出部に電極を貫通させ、これら突出部と電極とをコバールを用いて固定した構成が知られている。(特許文献1)
【特許文献1】特許第2746050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このような上記特許文献1の構成では、電極と突出部とをコバールを用いて固定しており、その作業の煩雑さから製造コストが高くなるという問題がある。
また、電極がレーザチューブに固定されていることから、ランニングコストが高くなるという問題がある。
具体的に説明すると、レーザ発振器を使用することで、放電により電極が損耗し、スパッタ(微粒子)が発生してレーザチューブ内に付着してしまう。
このスパッタは硫酸や塩酸等の強アルカリ性の洗浄液で洗浄することができるが、電極がこの洗浄液では溶解してしまうため、従来はレーザチューブの洗浄ができず、レーザチューブおよび電極を一体的に交換するようになっていた。
また、放電による損耗のため、電極の寿命はレーザチューブの寿命に比べて短いことから、損耗した電極だけを交換するのが望ましいが、電極の交換は非常に困難であり、結局は電極が損耗した時点でレーザチューブおよび電極を一体的に交換するようになっていた。
このような問題に鑑み、本発明は製造コスト及びランニングコストの低いレーザ発振器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち本発明におけるレーザ発振器は、レーザガスを流通させるレーザチューブと、当該レーザチューブの内部空間に突出する少なくとも1対の電極とを備えたレーザ発振器において、
上記レーザチューブにおける電極の取付位置に開口部を形成し、当該開口部に上記電極を保持すると共に上記開口部を封止する電極支持手段を着脱自在に設けたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0005】
上記発明によれば、電極の固定を電極支持手段によって容易に行うことができるので、上述したようなコバールによる固定が不要となり、レーザ発振器の製造コストを低減させることができる。
また、電極支持手段は開口部に対して着脱自在に設けられていることから、電極を一時的に取り外せば、レーザチューブ内に付着したスパッタを強アルカリ性の洗浄液によって洗浄することができ、また損耗した電極だけを交換することができるので、レーザ発振器のランニングコストを低減させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下図示実施例について説明すると、図1はレーザ発振器1を示し、同一構造を有する2つのレーザチューブ2と、これらレーザチューブ2にレーザガスを供給するレーザガス供給手段3と、各レーザチューブ2に取付けられた電極4に電力を供給する直流高電圧回路5とを備えている。
このレーザ発振器1によれば、上記レーザガス供給手段3がレーザチューブ2内にレーザガスを供給し、上記直流高電圧回路5が電極4に高電圧を印加することで、放電によりレーザガスが励起され、レーザ光が発振されるようになっている。
上記2つのレーザチューブ2は共に略円筒形状を有し、その中心軸を一致させた状態で配設され、両レーザチューブ2の中間および両端には、レーザチューブ2を支持すると共にレーザガスを流通させるマニホールド6が設けられている。
また両端のマニホールド6には、レーザチューブ2内で発振されたレーザ光を反射する反射ミラー7と、上記レーザ光を反射するとともにレーザ光を透過させる出力ミラー8とが、レーザチューブ2の軸線上に対向して設けられ、共振器を構成している。
【0007】
次に、レーザガス供給手段3は、図示左右方向にレーザガスを送気するブロア11と、中央のマニホールド6とブロア11との間に設けられてレーザガスを冷却する熱交換器12とを備えており、これらはチューブ13によって相互に連結されている。
この構成により、ブロア11によって送気されたレーザガスは各レーザチューブ2内に供給され、各レーザチューブ2内で加熱されたレーザガスは、中央のマニホールド6を介して熱交換器12に供給されると、冷却されて再びブロア11へと供給されるようになっている。
そして、上記電極4は後述する電極支持手段21(図示せず)によってレーザチューブ2に着脱自在に設けられており、各電極4は電極支持手段21および電線14を介して上記直流高電圧回路5に接続されている。
【0008】
図2は本実施例における上記レーザチューブ2の拡大図を示し、本実施例のレーザチューブ2は耐熱ガラスで製造されている。
上記レーザチューブ2は、同一の径で形成された外径部2aと、レーザチューブ2の内方に突出する内径部2bと、上記外径部2aよりレーザチューブ2の外方に突出して上記電極4が取付けられる筒状部2cとから構成され、上記筒状部2cには電極支持手段21を介して電極4が取り付けられている。
上記内径部2bはレーザチューブ2の軸方向に2ヶ所形成されており、内径部2bの一方の端部はテーパ部2dにより外径部2aと連結され、他方の端部にはテーパ部2dが設けられているものの、当該テーパ部2dは外径部2aと連結しないようにされている。
このように内径部2bを外径部2aの内方に膨出させることで、外径部2aを一定の寸法で形成することができ、レーザチューブ2の一部に内圧が集中するのを防止し、レーザチューブ2の破損を防止している。
そして図2、図3に示すように、上記筒状部2cは上記各テーパ部2dの両側にそれぞれ放射状に6箇所ずつ形成され、1つのレーザチューブ2には合計で24の筒状部2cが形成されている。
この筒状部2cは、予めレーザチューブ2の外径部2aに形成された貫通孔に、所定の径で製造された耐熱ガラス製のパイプを溶着して形成するようになっており、その先端には平坦に加工された開口部2eが形成されている。
このように、所定の径で製造されたガラス製のパイプを溶着して筒状部2cを形成することで、後述するシール部材によるシール性を向上させることができる。
【0009】
次に、上記電極4は各筒状部2cごとに上記電極支持手段21を用いて固定されており、本実施例における電極4の素材はニッケルとなっている。
各電極4は電極支持手段21からレーザチューブ2の内方に向けて突出し、上記内径部2bの内周面と実質的に同じ位置か、それよりも少し半径方向外方の位置でL字形に折り曲げられている。
また本実施例では、折り曲げられた2つの電極4の先端部を相互に対向させてこれを1組とし、当該1組の電極4をレーザチューブ2の軸方向に沿って2組直列に配置するようになっている。
そして、各組の電極4のうち、一方の電極4はグランド側電極4aとしてマニホールド6側に配置され、他方の電極4は非グランド側電極4bとして各レーザチューブ2の中央部に配置されている。なお、この配置を逆の配置としても良い。
【0010】
図4は電極支持手段21についての拡大図を示しており、各筒状部2cに設けられている電極支持手段21はどれも同様の構成を有している。
上記電極支持手段21は、電極4が取付けられるとともに、上記筒状部2cの開口部2eを封止する蓋部材22と、上記筒状部2cから外気がレーザチューブ内に漏入するのを防止するシール部材23と、これら蓋部材22及びシール部材23を筒状部2cに固定するためのストッパ部材24とを備えている。
上記蓋部材22はステンレス製となっており、この蓋部材22には筒状部2cよりも大径に形成されて筒状部2cの開口部2eを覆う大径部22aと、筒状部2cの内部に挿入されて上記電極4を支持する小径部22bとが形成されている。
また上記大径部22aの上部には上記直流高電圧回路5に接続される接続端子25がボルト26によって固定されており、また大径部22aの外周には、上記ストッパ部材24と螺合するためのねじ溝が形成されている。
上記小径部22bの中央には電極4の径よりも大径の有底孔22cが形成されており、この有底孔22cには筒状の板ばね27が挿入され、電極4はこの板ばね27内に挿入されるようになっている。またこの板ばね27はカシメ部材28によって小径部22bに固定されている。このため、電極4は蓋部材22に容易に着脱できるようになっている。
そして、大径部22aと小径部22bとの連結部分には、上記筒状部2cの先端部を収容する溝形状22dが形成されており、筒状部2cの先端と当該溝形状22dの底部とが相互に当接するようになっている。
【0011】
次に、上記シール部材23はゴム製で上記筒状部2cを囲繞するリング形状を有し、上記大径部22aのレーザチューブ2の軸心側端面と相互に当接する位置に設けられている。
また上記ストッパ部材24は、上記大径部22aの外周と螺合するナット部24aと、当該ナット部24aよりもレーザチューブ2の軸心側の位置で筒状部2c側に突出するフランジ部24bとを備え、このフランジ部24bには上記大径部22aに向けて拡径するテーパ形状24cが形成されている。
そして上記シール部材23は上記大径部22a及びフランジ部24bとの間に位置し、上記ナット部24aと大径部22aとを螺合させると、シール部材23は上記テーパ形状24c内に収容されながら、これら大径部22a及び当該テーパ形状24cによって縮径する方向に圧縮されることとなる。
その結果シール部材23は上記筒状部2cの外周面に密着されるので、電極支持手段21は筒状部2cを密封して固定され、また筒状部2cから外気がレーザチューブ内に漏入してしまうのが防止される。
なお、上記テーパ形状24cを上記大径部22aに形成しても、シール部材23は上記筒状部2cに密着させることが可能であり、電極支持手段21を筒状部2cに固定することができる。
【0012】
上記実施例のレーザ発振器1によれば、電極支持手段21により電極4をレーザチューブ2に固定しているので、レーザ発振器1の製造コスト及びランニングコストを低減させることができる。
すなわち、特許文献1のレーザ発振器の場合、電極をコバールによってレーザチューブに固定する作業が必要であったが、この作業は煩雑であり、製造コストが高いという問題があった。
これに対し本実施例のレーザ発振器1では、筒状部2cに上記電極支持手段21を用いて電極4を固定することができるので、電極4を固定する作業が非常に容易であり、製造コストを低減することができる。
また特許文献1のレーザ発振器の場合、電極をレーザチューブから取り外すのが困難であり、電極が強アルカリ性の洗浄液によって溶解してしまうことから、レーザチューブ内にスパッタが付着してもこれを洗浄することができず、また電極が損耗しても電極だけを交換することができなかったことから、レーザチューブ及び電極を一体的に交換しており、その分ランニングコストが高いものとなっていた。
これに対し本実施例のレーザ発振器1では、電極4を電極支持手段21と共にレーザチューブ2の外側に取り外すことができるので、レーザチューブ2の内部にスパッタが付着しても、電極4を取り外せばレーザチューブ2だけを上記洗浄液を用いて洗浄することができる。
また電極4が損耗しても、電極支持手段21をレーザチューブ2の外側に取り外せば、レーザチューブ2を上記マニホールド6から取り外さなくても電極4を交換することができ、しかも電極4は板ばね27を介して蓋部材22に保持されているだけなので、電極4の交換を容易に行うことができる。
このように、レーザチューブ2だけを洗浄することができ、また電極4だけを交換することができるので、レーザチューブ2を再利用することが可能となり、ランニングコストを低減することができる。
【0013】
また、本実施例の電極4はニッケル製であるが、このニッケルという素材は加工性が良好で耐熱性が高く、また放電による電極4の損耗が少なく、スパッタの発生が少ないという性質を有している。
上記特許文献1におけるレーザ発振器の場合、上記コバールではニッケル製の電極を突出部に固定することができないという事情があったため、一般的にはタングステン製の電極が用いられていたが、このタングステン製の電極は放電による損耗が大きく、スパッタの発生量が多いという問題を有していた。
このような問題に対し、本実施例によるレーザ発振器1によれば、電極4を電極支持手段21によって固定することができるので、電極4の素材を自由に選択することができ、上記性質を有するニッケル製の電極4を使用することが可能となる。
その結果、放電による電極4の損耗が遅くなり、またレーザチューブ2内に付着するスパッタ量を低減させることができるので、電極4の寿命を長くすると共に、レーザチューブ2内に付着したスパッタを洗浄する間隔を長くすることができるので、ランニングコストを低減することができる。
なお、電極4の素材はニッケル製に限定されるものではなく、任意の素材を選択することが可能である。
【0014】
さらに、本実施例では電極4をレーザチューブ2に直接取付けず、電極支持手段21を介して支持しているため、電極4の径を特許文献1の電極の径に比べて太くし、電極4の表面積を広くして、放電による電流密度を低減できることから、電極4の寿命を延ばすことができる。
上記特許文献1の場合、電極の径を太くしてしまうと、それだけ加熱による電極の熱膨張量が増大し、電極の熱膨張によってコバールや突出部が破損してしまうおそれがあることから、電極の径を太くすることができなかった。
これに対し、本実施例の場合、電極4を電極支持手段21によって支持し、特に上記板ばね27の変形によって電極4の熱膨張を吸収することができるので、電極の径が太くても、電極支持手段21や筒状部2cが破損することはない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施例に係るレーザ発振器を示す配置図。
【図2】レーザチューブについての拡大側面図。
【図3】図2におけるIII−III部の断面図。
【図4】電極支持手段についての拡大断面図。
【符号の説明】
【0016】
1 レーザ発振器 2 レーザチューブ
2c 筒状部 2e 開口部
4 電極 21 電極支持手段
22 蓋部材 22a 大径部
22b 小径部 23 シール部材
24 ストッパ部材 24a ナット部
24b フランジ部 24c テーパ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザガスを流通させるレーザチューブと、当該レーザチューブの内部空間に突出する少なくとも1対の電極とを備えたレーザ発振器において、
上記レーザチューブにおける電極の取付位置に開口部を形成し、当該開口部に上記電極を保持すると共に上記開口部を封止する電極支持手段を着脱自在に設けたことを特徴とするレーザ発振器。
【請求項2】
上記開口部をレーザチューブの外方に向けて突出した円筒状の筒状部の先端に形成すると共に、上記電極支持手段は、蓋部材と、ストッパ部材と、シール部材とを備え、
上記蓋部材には電極が取付けられるとともに、上記筒状部よりも大径に形成されて筒状部の開口部を覆う円筒状の大径部を備え、
また上記ストッパ部材は、上記大径部の外周に螺合されるナット部と、当該ナット部に連設されて上記蓋部材よりもレーザチューブの軸心側位置から筒状部側に突出するフランジ部とを備え、
さらに上記シール部材は、蓋部材の大径部とフランジ部との間に配置されて、ナット部が大径部に螺合された際に縮径方向に圧縮されて筒状部に密着され、当該密着部をシールするとともに電極支持手段を筒状部に固着することを特徴とする請求項1に記載のレーザ発振器。
【請求項3】
上記大径部及びフランジ部における上記シール部材を圧縮する面の少なくともいずれか一方に、上記シール部材を収容可能な他方の部材に向けて拡径するテーパ形状を形成することを特徴とする請求項2に記載のレーザ発振器。
【請求項4】
上記電極の素材をニッケルとすることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のレーザ発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−186236(P2006−186236A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−380506(P2004−380506)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000253019)澁谷工業株式会社 (503)
【Fターム(参考)】