説明

レーザ融着用ファイバ整列部品

【課題】光ファイバのレーザ融着接続において用いる、レーザ損傷の少ないレーザ融着用ファイバ整列部品を提供すること。
【解決手段】1,2は融着される光ファイバ融着される光ファイバ、4は光ファイバ整列V溝、5は治具ステージ、6は押え板(例えば、ジルコニアセラミックス)、7は押さえ板保持アーム、8はCO2レーザ、9はレーザのビームウエスト位置、10は光ファイバ融着界面、11は従来技術と異なる本発明固有のシリコンV溝基板である。シリコンV溝基板のCO2レーザ照射耐性は従来のジルコニア基板の耐性を著しく上回っている。押さえ板6としてジルコニアを選定することによって、治具に照射されるCO2レーザ光のエネルギーを吸収し、透過したCO2レーザ光がシリコンV溝基板11に収容された光ファイバに照射されることがない構成としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザ照射耐性を高めたレーザ融着用ファイバ整列部品に関する。
【背景技術】
【0002】
図5に、従来のCO2レーザによる光ファイバの融着手法を示す。図5の21,22は融着される光ファイバ、23は光ファイバを整列収容するためのV溝基板(例えば、石英もしくはジルコニア)、24は光ファイバ整列V溝、25は治具ステージ、26は押さえ板、27は押さえ板保持アーム、28はCO2レーザ、29はCO2レーザのビームウエスト位置、30は光ファイバ融着界面である。
【0003】
融着される光ファイバ21,22は、レーザ融着用治具に備えつけられているV溝基板23の光ファイバ整列V溝24内に整列収容され、押さえ板保持アーム27を閉じることによって、アームに取り付けられた押さえ板26でV溝内に収容される。この時、光ファイバ21,22は、その先端同士があるクリアランス内に収まるよう位置合せも行われる。
【0004】
その後、一方の光ファイバ21を他方の光ファイバ22側に向けて進ませ、光ファイバ21に座屈が生じたところでレーザ照射する。これにより、融着界面の石英が蒸散・溶融すると同時に押圧力によって融着界面に向けて石英材料が供給され、融着が完了する。
【0005】
図5に示すように、レーザ光の照射は、光ファイバの上下面の両面からの光学系を用いず、上からの一方向のみから行われる。このようなレーザ照射によって光ファイバの融着界面全域を均一に加熱するには、光ファイバ側面ならびに下面にもレーザ光を回りこませて、光ファイバの融着界面全域にレーザ光を照射する必要がある。そのため、光ファイバ融着界面の上方にてレーザ光のビームウエスト位置29を設け、光ファイバ照射位置においてCO2レーザビーム径を広げるディフォーカス設定している。
【0006】
特にCO2レーザ照射は、前述のようにレーザ波長10.6μmにおいて石英の吸収率が極めて高く、表面での吸収が支配的となる(非特許文献1参照)ので、界面により均一に熱を分布させるためにレーザ光を大きくディフォーカスして光ファイバに照射し、光ファイバの融着界面に極力均一に照射することが望まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】北村直之、福味幸平、西井準治著、「外部場操作技術」、NEW GLASS −特集ナノガラスプロジェクトの成果と展望―、 Vol.21 No.2 pp.25−30、2006年
【非特許文献2】S. Koike et al., “Spring−8 X−ray Micro−Tomography Observations of Zirconium Inclusions in CO2 laser Fusion Splice for Single Mode Optical Fibers,” IEEE Transactions on Components, Packaging, and Manufacturing Technology, vol.1 no.1 pp.100−110, (2011).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の光ファイバ整列用治具では、照射されたレーザ光によって損傷を受けるという課題がある。
【0009】
図6(a)〜(c)に、CO2レーザ主波長(10.6μm)に吸収ピークをもつ石英からなるV溝基板23に通常のレーザ融着照射条件(約3Wのレーザ照射条件)での連続使用で観察された破損状態の顕微鏡写真を示す。V溝基板23のレーザ照射側付近の矢印で示す部分には、大きなクラックがいくつか現れており、ファイバ整列収容部材V溝基板23のレーザ照射耐性が失われている。
【0010】
また、図6(d)、(e)に、一般的にアーク放電融着接続で用いられてきた耐熱性、機械加工特性に優れたジルコニアをV溝基板23として適用した際、誤ってCO2レーザ光を8Wにて基板照射した場合に示した破損状態を示す。この場合にも、V溝基板23には大きな破損が生じている。
【0011】
さらに通常使用条件(約3Wの照射)においても、ジルコニアのV溝基板23を起源と推察されるジルコニアの光ファイバ界面への混入が観察され、レーザ融着光ファイバの融着接続損失分布に悪影響を及ぼす(非特許文献2参照)。
【0012】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、光ファイバのレーザ融着接続において用いる、レーザ損傷の少ないレーザ融着用ファイバ整列部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明は、光ファイバ同士を調心するためのV溝が刻まれたV溝基板と、前記V溝基板上の光ファイバを押さえるための押さえ板を備え、前記V溝基板と前記押さえ板によって収容された光ファイバ同士が突き合わされた部分をCO2レーザにより融着するのに用いられるレーザ融着用ファイバ整列部品であって、前記V溝基板および前記押さえ板の少なくとも一方がシリコン部材を含むことを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のレーザ融着用ファイバ整列部品において、前記押さえ板は、前記CO2レーザの主波長に対して吸収波長ピークを持つことを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のレーザ融着用ファイバ整列部品において、前記押さえ板は、前記V溝基板と対向する面がシリコンで構成されていることを特徴とする。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載のレーザ融着用ファイバ整列部品において、前記押さえ板のCO2レーザ照射面は、CO2レーザ波長反射用の誘電体多層膜コートがなされたことを特徴とする。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載のレーザ融着用ファイバ整列部品において、前記押さえ板のCO2レーザ照射面は、鏡面研磨がなされたことを特徴とする。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項3に記載のレーザ融着用ファイバ整列部品において、前記押さえ板のシリコンで構成された面は、シリコンコートもしくはシリコン板の貼り付けがなされたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、光ファイバのレーザ融着接続において用いるレーザ融着用ファイバ整列部品のレーザ照射耐性を高める効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本願発明の実施形態1に係るレーザ融着用ファイバ整列部品を示す図である。
【図2】(a)は、KOHエッチングによって形成したシリコンV溝基板のCO2レーザ照射損傷の顕微鏡写真を示す図であり、(b)は従来のV溝基板材料として用いてきたジルコニアで構成される光ファイバ用フェルールのCO2レーザ照射損傷の顕微鏡写真を示す図である。
【図3】本願発明の実施形態2に係るレーザ融着用ファイバ整列部品を示す図である。
【図4】本願発明の実施形態3に係るレーザ融着用ファイバ整列部品を示す図である。
【図5】従来のレーザ融着用ファイバ整列部品を示す図である。
【図6】(a)〜(c)は、石英からなるV溝基板に約3Wのレーザ照射で観察された破損状態の顕微鏡写真であり、(d)、(e)は、ジルコニアからなるV溝基板に8Wのレーザ照射で観察された破損状態の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0022】
(実施形態1)
図1に、本願発明の実施形態1に係るレーザ融着用ファイバ整列部品を示す。図1の1,2は融着される光ファイバ融着される光ファイバ、4は光ファイバ整列V溝、5は治具ステージ、6は押え板(例えば、ジルコニアセラミックス)、7は押さえ板保持アーム、8はCO2レーザ、9はレーザのビームウエスト位置、10は光ファイバ融着界面、11は従来技術と異なる本発明固有のシリコンV溝基板である。
【0023】
ここで、シリコンV溝基板11が有するレーザ照射に対する耐性について説明する。
【0024】
図2(a)に、KOHエッチングによって形成したシリコンV溝基板のCO2レーザ照射損傷の顕微鏡写真を示す。比較のため、図2(b)に、従来のV溝基板材料として用いてきたジルコニアで構成される光ファイバ用フェルールのCO2レーザ照射損傷の顕微鏡写真を示す。尚、CO2レーザの照射エネルギーは図2(a)、(b)いずれも10Wとした。
【0025】
図2(a)に示すように、10Wのエネルギーを持ったCO2レーザ光の照射に際しても、本発明のシリコンV溝基板は顕微鏡観察下でまったく変化が見られない。一方、図2(b)の従来より使用されてきたジルコニア材では大きなクラックが生じている。この比較対照結果が示すように、シリコンV溝基板のCO2レーザ照射耐性は従来のジルコニア基板の耐性を著しく上回っている。
【0026】
次に、図1のシリコンV溝基板11を含む光学実験系においてレーザ照射が行われた場合について説明する。CO2レーザ光の照射光学系は従来技術の図5の構成と同様であり、光ファイバの図中記載治具を用いたレーザ融着接続手順については省略する。
【0027】
本実施形態1においても、前述のように、ディフォーカス光学系を用いたCO2レーザ融着では、レーザ光が光ファイバ以外の治具基板にも照射される。但し、本実施形態1では、押さえ板6としてジルコニアを選定することによって、治具に照射されるCO2レーザ光のエネルギーを吸収し、透過したCO2レーザ光がシリコンV溝基板11に収容された光ファイバに照射されることがない構成としている。
【0028】
また、本実施形態1のシリコン製V溝基板11とした結果、融着界面付近からの迷光のCO2レーザ光の吸収をほとんど行わず、基板損傷が生じなかった。
【0029】
その結果、シリコンV溝基板11を用いることによってレーザ光照射によるV溝基板11の劣化損傷を抑えることが可能となり、融着時の安定した光ファイバの精密保持や、融着界面への基板材料の溶け込みを低減でき、融着光ファイバの機械強度の安定化を図ることができる。
【0030】
また、シリコンV溝基板11の当初設計寸法精度が保持できる結果、融着光ファイバの低挿入損失分布を得ることも可能となった。
【0031】
また、従来の図5の構成では、押さえ板26とV溝基板23の両方について交換が必要であったが、本方式によって、押さえ板6のみの交換でレーザ融着の連続照射が可能となった。
【0032】
(実施形態2)
図3に、本発明の実施形態2に係るレーザ融着用ファイバ整列部品を示す。図3の1,2は融着される光ファイバ、4は光ファイバ整列V溝、5はステージ、7は押さえ板保持アーム、8はCO2レーザ、9はCO2レーザのビームウエスト位置、10は光ファイバ融着界面、11は実施形態1と同じシリコン製V溝基板、12はシリコン押さえ板、13はCO2レーザ照射反射処理面を示す。シリコン製押さえ板12、CO2レーザ照射反射処理面13が本実施形態2に固有の構成となる。
【0033】
CO2レーザ光の照射光学系の主だった構成は従来技術の例として述べた図1と同様であり、図中記載治具を用いたレーザ融着接続手順については省略する。
【0034】
本実施形態2においても、前述のように、ディフォーカス光学系を用いたCO2レーザ融着では、レーザ光が光ファイバ以外の治具基板にも照射される。但し、本実施形態2では、押さえ板12として、特にレーザ光照射面について鏡面研磨を施したシリコンを選定することによってCO2レーザ光の迷光がシリコンで反射され、レーザ光8が本発明によるシリコンV溝基板11に収容された光ファイバ1、2に照射されることがない構成としている。
【0035】
また、実施形態1と同様にシリコンV溝基板11とした結果、CO2レーザ光の基板での吸収が抑制され基板損傷が生じなかった。
【0036】
その結果、シリコンV溝基板11と鏡面研磨を施したシリコン押さえ板12を用いることによってレーザ光照射によるV溝基板11と押さえ板12の劣化損傷を抑えることが可能となり、融着時の安定した光ファイバの精密保持や、融着界面への基板材料の溶け込みが防止でき、融着光ファイバの機械強度の安定化を図ることができた。
【0037】
また、シリコンV溝基板11の当初設計寸法精度が保持できた結果、融着光ファイバの低挿入損失分布を得ることも可能となった。
【0038】
なお、本発明による実施例においては、CO2レーザ照射面を鏡面研磨したシリコン板を押さえ板12として用いたが、本形態に限定されるものではなく、例えば、シリコン押さえ板構成面のうち、CO2レーザ照射面の一部について誘電体多層膜で被覆コートして、レーザ主波長を反射する構成としても良いことは言うまでもない。
【0039】
(実施形態3)
図4に、本発明の実施形態3に係るレーザ融着用ファイバ整列部品を示す。図4の1,2は融着される光ファイバ、5はステージ、7は押さえ板保持アーム、11は実施形態1,2と同じシリコン製V溝基板、15は実施形態3固有の押さえ板を示す。
【0040】
図4に示すように、押さえ板15の主材料はCO2レーザの吸収波長をもつ材料から構成される。ここではジルコニアを構成材料として用いている。押さえ板15は、光ファイバ設置側面、すなわち、シリコンV溝基板11上の光ファイバと接する面に、シリコン板14を貼り付けた構成としている。このような構成をとることによって、光ファイバに直接触れる部分はシリコンで覆われてジルコニア基板が直接光ファイバ端面に接触することがないので、ジルコニアの溶出などがあったとしても、光ファイバ界面へのジルコニアの混入が生じない。
【0041】
また、図3で示したようにシリコンはレーザ照射耐性に強いためシリコン材の光ファイバ界面への混入を防止することが可能となる。また、シリコン材のみで押さえ板を構成した場合では一部レーザ光がシリコン基板を透過し、シリコンV溝基板11上に設置した石英光ファイバへの吸収が懸念されたが、押さえ板15のような構成とすることでレーザ光の透過を防止し、レーザ光のシリコンV溝基板11に収容されている光ファイバの融着界面以外の部分へのレーザ光の照射を抑制することが可能となる。
【0042】
なお、本実施例では押さえ板15の主材料としてジルコニアを中心に述べたが、CO2レーザ光を吸収できる材料であればよく、ジルコニアのみならず、アルミナなども用いることが可能である。また、押さえ板15の光ファイバ側に貼付したシリコン板14であるが、貼り付けに限定されるものでなく、スパッタリングなどのコーティング手法によって、被覆できれば良いことは言うまでもない。
【0043】
以上実施形態1〜3とともに詳しく説明したように、本発明に関わる、光ファイバ整列部材として、シリコン材を中心としたV溝基板ならびに押さえ板から構成される治具を用いたCO2レーザ照射によるファイバ融着によれば、従来技術のジルコニアセラミックス製もしくは、石英製V溝基板によって実現を図ってきたCO2レーザ照射による光ファイバ融着に比べ、同波長でのシリコンV溝基板の吸収率の著しい低減により、レーザ照射にともなうV溝基板の損傷を防止することができる。その結果、ディフォーカス光学系でのレーザ光の光ファイバに向けた照射を行っても、安定したレーザ融着接続と機械強度が期待でき、高品質な融着光ファイバの実現可能となる。
【符号の説明】
【0044】
1,2,21,22 光ファイバ
4,24 光ファイバ整列V溝
5,25 治具ステージ
6,15,26 押さえ板
7,27 押さえ板保持アーム
8,28 CO2レーザ
9,29 レーザのビームウエスト位置
10,30 光ファイバ融着界面
11 シリコンV溝基板
12 シリコン押さえ板
13 CO2レーザ照射反射処理面
14 シリコン板
23 V溝基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ同士を調心するためのV溝が刻まれたV溝基板と、前記V溝基板上の光ファイバを押さえるための押さえ板を備え、前記V溝基板と前記押さえ板によって収容された光ファイバ同士が突き合わされた部分をCO2レーザにより融着するのに用いられるレーザ融着用ファイバ整列部品であって、
前記V溝基板および前記押さえ板の少なくとも一方がシリコン部材を含むことを特徴とするレーザ融着用ファイバ整列部品。
【請求項2】
前記押さえ板は、前記CO2レーザの主波長に対して吸収波長ピークを持つことを特徴とする請求項1に記載のレーザ融着用ファイバ整列部品。
【請求項3】
前記押さえ板は、前記V溝基板と対向する面がシリコンで構成されていることを特徴とする請求項1に記載のレーザ融着用ファイバ整列部品。
【請求項4】
前記押さえ板のCO2レーザ照射面は、CO2レーザ波長反射用の誘電体多層膜コートがなされたことを特徴とする請求項1に記載のレーザ融着用ファイバ整列部品。
【請求項5】
前記押さえ板のCO2レーザ照射面は、鏡面研磨がなされたことを特徴とする請求項1に記載のレーザ融着用ファイバ整列部品。
【請求項6】
前記押さえ板のシリコンで構成された面は、シリコンコートもしくはシリコン板の貼り付けがなされたことを特徴とする請求項3に記載のレーザ融着用ファイバ整列部品。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【図6】
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