説明

レーザ装置

【課題】予備励起により光パルス列を安定的に出力できるとともに、動作条件を変更する場合でも、OFF区間を短くすることが可能なレーザ装置を提供すること。
【解決手段】励起用半導体レーザ40から出射されるレーザ光によって増幅器50を励起させる前に、低励起用の励起用半導体レーザ20及び高励起用の励起用半導体レーザ30からそれぞれ出射されるレーザ光によって増幅器50を予備励起させる。その予備励起では、低励起用の励起用半導体レーザ20のレーザ出力を一定とする一方、高励起用の励起用半導体レーザ30のレーザ出力を調整することで、増幅光の動作条件に合わせて予備励起に必要なエネルギーを調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号用レーザ光源から出射された入力光を光増幅部を通じて増幅し、増幅光として出射するレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のレーザ装置としては、例えばレーザ光の照射により加工対象物にマーキングを行うレーザ加工装置が実用されている。この装置では、信号用半導体レーザから入力光がパルス発振されるとともに、この入力光が、光増幅部として機能する希土類ドープ光ファイバに入射される。希土類ドープ光ファイバは、上記信号用半導体レーザとは別の励起用半導体レーザから出射されるレーザ光により高励起状態に励起されている。よって、信号用半導体レーザから希土類ドープ光ファイバに入射された入力光は、希土類ドープ光ファイバを通過する際に増幅されるとともに、その出射端面から増幅光として出射される。この増幅光は、収束レンズを介してワーク上に集光され、この集光された増幅光がワークの表面上を走査することにより所望のマーキングが行われる。
【0003】
ところで、このようなレーザ加工装置では、マーキング開始時に希土類ドープ光ファイバを高励起状態に励起させようとすると、実際に高励起状態に励起されるまでにある程度の時間を要する。従って、マーキング開始時にレーザ加工装置から出射される増幅光の初期のパルスで十分な出力を得られない場合があり、マーキングの品質が低下する虞がある。
【0004】
そこで、従来のレーザ加工装置では、例えば特許文献1に見られるように、希土類ドープ光ファイバを高励起状態に励起させることが可能なレーザ出力を有する第1励起用半導体レーザ、及び同第1励起用半導体レーザのレーザ出力よりも低いレーザ出力を有する第2励起用半導体レーザを設けるようにしている。そして、図5に示すように、例えば時刻t30でレーザ加工装置に設けられたスイッチがオン操作されたとすると、図5(b)に示すように、その時点で第2励起用半導体レーザのみがレーザ出力L1でレーザ光を連続発振する。これにより、第2励起用半導体レーザから出射されるレーザ光によって希土類ドープ光ファイバがマーキングが不可能な状態にて予備励起される。
【0005】
その後、図5(a)に示すように、時刻t31で第1励起用半導体レーザがレーザ出力L2でレーザ光を連続発振するとともに、図5(d)に示すように、同時刻t31で信号用半導体レーザが入力光をパルス発振する。このとき、既に予備励起されている希土類ドープ光ファイバは、第1励起用半導体レーザから出射されるレーザ光によって高励起状態まで即座に励起される。よって、図5(e)に示すように、増幅光の初期パルスP30で十分な出力L3を確保することができるため、マーキングの品質を高めることが可能となる。尚、図5(c)は、希土類ドープ光ファイバの励起に利用されるレーザ光源の総レーザ出力を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3411852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、増幅光のパルス幅、繰り返し周波数、パルス高さ等といった動作条件を変更する場合、入力光が出力されないOFF区間中の第2励起用半導体レーザのレーザ出力を次回の動作条件に合わせて変更する必要がある。例えば、第1パルス列の増幅光に対し、第2パルス列の増幅光のパルス高さが大きくなるよう動作条件が変更される場合、第2励起用半導体レーザのレーザ出力として、前者よりも大きなものが後者に必要となる。しかしながら、上記第2励起用半導体レーザのような低いレーザ出力を有するものを単独で予備励起に用いた場合、上記第2パルス列の増幅光のように大きなパルス高さが必要となる際には、自ずと予備励起の期間が長くなり、そうすると第1パルス列と第2パルス列との間のOFF区間を短くすることができない。
【0008】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、予備励起により光パルス列を安定的に出力できるとともに、動作条件を変更する場合でも、OFF区間を短くすることが可能なレーザ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、信号用レーザ光源から光増幅部に入力光をパルス発振する際に、第1励起用レーザ光源から出射されるレーザ光によって前記光増幅部を励起させ、励起状態となっている前記光増幅部を通じて、前記信号用レーザ光源から出射された入力光を増幅し、増幅光として出射するレーザ装置であって、前記第1励起用レーザ光源から出射されるレーザ光によって前記光増幅部を励起させる前に、低励起用の第2励起用レーザ光源及び高励起用の第3励起用レーザ光源からそれぞれ出射されるレーザ光によって前記光増幅部を予備励起させるとともに、その予備励起では、前記第2励起用レーザ光源のレーザ出力を一定とする一方、前記第3励起用レーザ光源のレーザ出力を調整することで、増幅光の動作条件に合わせて予備励起に必要なエネルギーを調整することをその要旨としている。
【0010】
同構成によると、低励起用の第2励起用レーザ光源が単独で予備励起に用いられるのではなく、予備励起では第2励起用レーザ光源に加え高励起用の第3励起用レーザ光源も用いられる。これにより、予備励起において、第2励起用レーザ光源によるエネルギーの不足分を第3励起用レーザ光源によるエネルギーで補えるとともに、光パルス列間で増幅光の動作条件が変更される場合でも、これに対応でき、さらに、OFF区間が短い場合でも、第3励起用レーザ光源のレーザ出力を調整することで対応できるようになる。従って、予備励起により光パルス列を安定的に出力できるとともに、動作条件を変更する場合でも、OFF区間を短くすることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のレーザ装置において、前記第3励起用レーザ光源には、最大定格電流が供給されるとともに、その最大定格電流の供給時間が調整されることで当該第3励起用レーザ光源のレーザ出力が調整され、当該調整に基づき、増幅光の動作条件に合わせて予備励起に必要なエネルギーが調整されることをその要旨としている。
【0012】
同構成によると、第3励起用レーザ光源には最大定格電流として規定される大きな電流が供給されるため、第2励起用レーザ光源によるエネルギーの不足分を十分に補えるとともに、予備励起に必要なエネルギーが短時間で蓄積され、供給時間を短縮できるようになる。従って、OFF区間をより短くすることができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のレーザ装置において、増幅光の動作条件は、光パルス列を構成するパルスのパルス幅を含み、同パルス幅の大小に合わせて前記第3励起用レーザ光源のレーザ出力の大小が調整されることをその要旨としている。
【0014】
同構成によると、例えば、パルス幅の小さなパルスによる光パルス列からパルス幅の大きなパルスによる光パルス列が構成されるよう増幅光の動作条件が変更される場合、予備励起に必要なエネルギーとして大きなエネルギーが必要となるため、この場合、第3励起用レーザ光源のレーザ出力が高められる。このように第3励起用レーザ光源のレーザ出力を調整することで、増幅光の動作条件に合わせて予備励起に必要なエネルギーを調整することができる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載のレーザ装置において、増幅光の動作条件は、光パルス列を構成するパルスの繰り返し周波数を含み、同パルスの繰り返し周波数の高低に合わせて前記第3励起用レーザ光源のレーザ出力の大小が調整されることをその要旨としている。
【0016】
同構成によると、例えば、繰り返し周波数の低いパルスによる光パルス列から繰り返し周波数の高いパルスによる光パルス列が構成されるよう増幅光の動作条件が変更される場合、予備励起に必要なエネルギーとして大きなエネルギーが必要となるため、この場合、第3励起用レーザ光源のレーザ出力が高められる。このように第3励起用レーザ光源のレーザ出力を調整することで、増幅光の動作条件に合わせて予備励起に必要なエネルギーを調整することができる。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載のレーザ装置において、増幅光の動作条件は、光パルス列を構成するパルスのパルス高さを含み、同パルスのパルス高さの大小に合わせて前記第3励起用レーザ光源のレーザ出力の大小が調整されることをその要旨としている。
【0018】
同構成によると、例えば、パルス高さの小さなパルスによる光パルス列からパルス高さの大きなパルスによる光パルス列が構成されるよう増幅光の動作条件が変更される場合、予備励起に必要なエネルギーとして大きなエネルギーが必要となるため、この場合、第3励起用レーザ光源のレーザ出力が高められる。このように第3励起用レーザ光源のレーザ出力を調整することで、増幅光の動作条件に合わせて予備励起に必要なエネルギーを調整することができる。
【0019】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載のレーザ装置において、前記信号用レーザ光源からの入力光の出射を開始するに際して、その第1パルスの出射が、前記第1励起用レーザ光源からレーザ光が出射されるよりも前に行われることをその要旨としている。
【0020】
同構成によると、信号用レーザ光源から出射された入力光の第1パルスは、予備励起の際に蓄積されたエネルギーによって増幅される。このように第1励起用レーザ光源からのレーザ光の出射を待たずして第1パルスが増幅されるため、増幅光をより早く出射することができる。
【0021】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載のレーザ装置において、前記信号用レーザ光源からの入力光について最終パルスの出射が完了された後の段階で、前記第1励起用レーザ光源からのレーザ光の出射が停止されることをその要旨としている。
【0022】
同構成によると、最終パルスの増幅に必要なエネルギーが確保された上で第1励起用レーザ光源からのレーザ光の出射が停止されるため、最終パルスに至るまで増幅光を安定的に出力できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、予備励起により光パルス列を安定的に出力できるとともに、動作条件を変更する場合でも、OFF区間を短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施形態のレーザ加工装置について、その概略構成を示すブロック図。
【図2】同じくレーザ加工装置の動作例を示すタイミングチャート。
【図3】他の実施形態のレーザ加工装置について、その概略構成を示すブロック図。
【図4】同じくレーザ加工装置の動作例を示すタイミングチャート。
【図5】(a)〜(e)は従来のレーザ加工装置の動作例を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明をレーザ加工装置に具体化した一実施形態について説明する。尚、本実施形態のレーザ加工装置は、レーザ光の照射により加工対象物であるワークに文字や図形等のマーキングを行うものである。
【0026】
図1に示すように、レーザ加工装置1では、ユーザが入力部2を操作して文字や図形等を入力すると、制御部3による制御のもと、レーザ生成部4において生成されたレーザ光がヘッド部5を介してワーク6に照射され、このワーク6に文字や図形等がマーキングされる。
【0027】
レーザ生成部4は、入力光として赤外線レーザをパルス発振する信号用レーザ光源としての信号用半導体レーザ10を備えるとともに、この信号用半導体レーザ10は、ドライバ11を通じて供給電流量が制御される。また、レーザ生成部4は、低励起用の第2励起用レーザ光源としての励起用半導体レーザ20、高励起用の第3励起用レーザ光源としての励起用半導体レーザ30、第1励起用レーザ光源としての励起用半導体レーザ40を備えるとともに、これら3つの励起用半導体レーザを含むかたちで増幅器50が構成されている。尚、上記励起用半導体レーザ20は、ドライバ21を通じて供給電流量が制御されるとともに、上記励起用半導体レーザ30及び40は、ドライバ31を通じて供給電流量が制御される。
【0028】
前記増幅器50には光結合部51が設けられるとともに、この光結合部51の下流側には、希土類元素であるイットリビウム(Yb)を含むガラスファイバからなる希土類ドープ光ファイバ52が設けられている。尚、上記希土類ドープ光ファイバ52は、ボビンに多数回巻回されることにより所要長の光路が確保された構造を有している。そして、上記光結合部51に対し、信号用半導体レーザ10から出射された入力光が光ファイバを介して入射されるとともに、励起用半導体レーザ20から出射されたレーザ光が光ファイバを介して入射される。そして、励起用半導体レーザ20から出射されたレーザ光が光結合部51を介して希土類ドープ光ファイバ52に入射されることにより、希土類ドープ光ファイバ52がマーキングの不可能な低励起状態にて予備励起される。
【0029】
前記増幅器50において希土類ドープ光ファイバ52の下流側には光結合部53が設けられるとともに、この光結合部53の下流側には、希土類ドープ光ファイバ54が設けられている。そして、上記光結合部53に対し、希土類ドープ光ファイバ52から出射されたレーザ光が入射されるとともに、励起用半導体レーザ30及び40から出射されたレーザ光が光ファイバを介して入射される。そして、励起用半導体レーザ30から出射されたレーザ光が光結合部53を介して希土類ドープ光ファイバ54に入射されることにより、希土類ドープ光ファイバ54が希土類ドープ光ファイバ52による予備励起を補うかたちでマーキング可能な高励起状態に励起される。尚、この励起によるエネルギーによって、入力光の第1パルスが増幅され、増幅光の第1パルスとしてヘッド部5に出射される。
【0030】
また、励起用半導体レーザ40から出射されたレーザ光が光結合部53を介して希土類ドープ光ファイバ54に入射されることにより、希土類ドープ光ファイバ54がマーキング可能な高励起状態に励起され、この励起によるエネルギーによって、入力光の第2パルス以降が増幅され、増幅光の第2パルス以降としてヘッド部5に出射される。
【0031】
ヘッド部5は、上記のようにレーザ生成部4から出射される増幅光を平行光あるいは収束光に絞るコリメータレンズを始め、その絞られた増幅光を所要の方向に反射させる2つのガルバノミラー、その反射された増幅光をスポットレーザ光に絞り込む集光レンズを備えて構成されている。そして、その絞り込まれた増幅光がワーク6の表面上を走査することにより所望のマーキングが行われるようになっている。
【0032】
次に、レーザ加工装置1の作用について説明する。
図2に示すように、入力部2に対するマーキング開始操作が行われてから時刻t1までの区間において、低励起用の励起用半導体レーザ20に所要の電流が供給され、これにより、励起LD(励起用半導体レーザ20〜40の総称)に待機電流が流れる。尚、低励起用の励起用半導体レーザ20に供給される電流は、予備励起に必要な最低値に設定される。
【0033】
そして、時刻t1から時刻t2までの区間において、引き続き低励起用の励起用半導体レーザ20に所要の電流が供給されるとともに、高励起用の励起用半導体レーザ30に所要の電流が供給され、これにより、励起LDに立上電流が流れる。尚、高励起用の励起用半導体レーザ30には、最大定格電流が供給される。
【0034】
そして、時刻t2から時刻t3までの区間において、高励起用の励起用半導体レーザ30に対する電流の供給が停止され、これにより、励起LDに待機電流が流れる。尚、時刻t3に達する前に入力光の第1パルス列の第1パルスが出射され、これが出射されるまでに蓄積された低励起用の励起用半導体レーザ20及び高励起用の励起用半導体レーザ30による励起エネルギーによって当該第1パルスが増幅される。
【0035】
そして、時刻t3から時刻t4までの区間において、低励起用の励起用半導体レーザ20に所要の電流が供給されるとともに、励起用半導体レーザ40に所要の電流が供給され、入力光の第1パルス列の第2パルス以降が増幅される。尚、時刻t4に達する前に入力光の第1パルス列の最終パルスの出射が完了され、すなわち当該最終パルスの出射が完了された後の段階で、低励起用の励起用半導体レーザ20及び励起用半導体レーザ40に対する電流の供給が停止される。
【0036】
そして、時刻t4から時刻t5までの区間において、低励起用の励起用半導体レーザ20を含む全ての励起LDに対する電流の供給が停止され、これにより、余剰エネルギーが除去される。
【0037】
そして、時刻t5から時刻t6までの区間において、次回の予備励起にあたり、低励起用の励起用半導体レーザ20に所要の電流が供給され、これにより、励起LDに待機電流が流れる。
【0038】
そして、時刻t6から時刻t7までの区間において、引き続き低励起用の励起用半導体レーザ20に所要の電流が供給されるとともに、高励起用の励起用半導体レーザ30に所要の電流が供給され、これにより、励起LDに立上電流が流れる。尚、高励起用の励起用半導体レーザ30には、時刻t1から時刻t2までの区間と同様、最大定格電流が供給されるが、その供給時間は前記区間よりも長い時間に設定される。
【0039】
そして、時刻t7から時刻t8までの区間において、高励起用の励起用半導体レーザ30に対する電流の供給が停止され、これにより、励起LDに待機電流が流れる。尚、時刻t8に達する前に入力光の第2パルス列の第1パルスが出射され、これが出射されるまでに蓄積された低励起用の励起用半導体レーザ20及び高励起用の励起用半導体レーザ30による励起エネルギーによって当該第1パルスが増幅される。
【0040】
そして、時刻t8から時刻t9までの区間において、低励起用の励起用半導体レーザ20に所要の電流が供給されるとともに、励起用半導体レーザ40に所要の電流が供給され、入力光の第2パルス列の第2パルス以降が増幅される。尚、時刻t9に達する前に入力光の第2パルス列の最終パルスの出射が完了され、すなわち当該最終パルスの出射が完了された後の段階で、低励起用の励起用半導体レーザ20及び励起用半導体レーザ40に対する電流の供給が停止される。
【0041】
そして、時刻t9から時刻t10までの区間において、低励起用の励起用半導体レーザ20を含む全ての励起LDに対する電流の供給が停止され、これにより、余剰エネルギーが除去される。
【0042】
そして、時刻t10において、励起LDに対する待機電流の供給が開始され、これにより、次回の予備励起が開始される。尚、以降の動作については割愛する。
そして、こうした動作を経て本実施形態では、増幅光について、第1パルス列を構成するパルスの繰り返し周波数に対し、第2パルス列を構成するパルスの繰り返し周波数が1/2倍に設定され、また、前者パルスのパルス高さに対し、後者パルスのパルス高さが2倍に設定されるといったように、動作条件の変更された増幅光が出射される。そして、これに伴い、まず第2パルス列の第1パルスが当該動作条件に適うよう、高励起用の励起用半導体レーザ30に対する最大定格電流の供給時間が調整され、これにより、予備励起に必要なエネルギーが調整される。また、第2パルス列の第2パルス以降については、繰り返し周波数が1/2倍、パルス高さが2倍であることから、こうした増幅に必要なエネルギーは第1パルス列の増幅時と同様のエネルギーとなり、したがって励起用半導体レーザ40に対する供給電流量がそのまま適用される。
【0043】
以上説明したように、本実施形態によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)低励起用の励起用半導体レーザ20が単独で予備励起に用いられるのではなく、予備励起では励起用半導体レーザ20に加え高励起用の励起用半導体レーザ30も用いられる。これにより、予備励起において、励起用半導体レーザ20によるエネルギーの不足分を励起用半導体レーザ30によるエネルギーで補えるとともに、光パルス列間で増幅光の動作条件が変更される場合でも、これに対応でき、さらに、OFF区間が短い場合でも、励起用半導体レーザ30のレーザ出力を調整することで対応できるようになる。従って、予備励起により光パルス列を安定的に出力できるとともに、動作条件を変更する場合でも、OFF区間を短くすることができる。
【0044】
(2)励起用半導体レーザ30には最大定格電流として規定される大きな電流が供給されるため、励起用半導体レーザ20によるエネルギーの不足分を十分に補えるとともに、予備励起に必要なエネルギーが短時間で蓄積され、供給時間を短縮できるようになる。従って、OFF区間をより短くすることができる。
【0045】
(3)パルス高さの小さなパルスによる第1パルス列からパルス高さの大きなパルスによる第2パルス列が構成されるよう増幅光の動作条件が変更される場合、予備励起に必要なエネルギーとして大きなエネルギーが必要となるため、この場合、励起用半導体レーザ30のレーザ出力が高められる。このように励起用半導体レーザ30のレーザ出力を調整することで、増幅光の動作条件に合わせて予備励起に必要なエネルギーを調整することができる。
【0046】
(4)信号用半導体レーザ10からの入力光の出射を開始するに際して、その第1パルスの出射が、励起用半導体レーザ40からレーザ光が出射されるよりも前に行われる。言い換えると、信号用半導体レーザ10から出射された入力光の第1パルスは、予備励起の際に蓄積されたエネルギーによって増幅される。このように励起用半導体レーザ40からのレーザ光の出射を待たずして第1パルスが増幅されるため、増幅光をより早く出射することができる。
【0047】
(5)信号用半導体レーザ10からの入力光について最終パルスの出射が完了された後の段階で、励起用半導体レーザ40からのレーザ光の出射が停止される。このように最終パルスの増幅に必要なエネルギーが確保された上で励起用半導体レーザ40からのレーザ光の出射が停止されるため、最終パルスに至るまで増幅光を安定的に出力できる。
【0048】
尚、前記実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・高励起用の励起用半導体レーザ30のレーザ出力の調整は、これに対する供給電流の波高値(高さ)を変更することで行ってもよく、或いは、上記実施形態によるように電流の供給時間(幅)を変更することで行ってもよく、さらには、両者を変更することで行ってもよい。尚、高励起用の励起用半導体レーザ30に最大定格電流が供給される構成に限定されない。
【0049】
・低励起用の励起用半導体レーザ20について、例えば高励起用の励起用半導体レーザ30の最大定格電流よりも小さな最大定格電流を有するものを採用し、この低励起用の励起用半導体レーザ20にその最大定格電流が供給されてもよい。このように構成すれば、予備励起に必要な最低値の電流といったような小さな電流でありながら、それが低励起用の励起用半導体レーザ20にとっての最大定格電流であるので、熱損失が抑制される。
【0050】
・励起用半導体レーザ40について、低励起用の励起用半導体レーザ20の最大定格電流よりも大きな最大定格電流であって、且つ、高励起用の励起用半導体レーザ30の最大定格電流よりも小さな最大定格電流を有するものを採用し、この励起用半導体レーザ40にその最大定格電流が供給されてもよい。
【0051】
・図3に示すように、励起LDとして、励起用半導体レーザ20〜40に加え、新たな励起用半導体レーザ45を設けることで、図4に示すような動作条件の変更に対応できるようにしてもよい。図4に示す態様では、第1パルス列を構成するパルスのパルス高さに対し、第2パルス列を構成するパルスのパルス高さが2倍に設定されるとともに、繰り返し周波数については前者と後者とで同一となるよう設定されている。
【0052】
この場合、まず第2パルス列の第1パルスが当該動作条件に適うよう、時刻t16から時刻t17までの区間において、高励起用の励起用半導体レーザ30に対する最大定格電流の供給時間が調整され、これにより、予備励起に必要なエネルギーが調整される。
【0053】
そして、時刻t17から時刻t18までの区間において、励起LDに待機電流が流れ、時刻t18に達する前に入力光の第2パルス列の第1パルスが増幅される。
そして、時刻t18から時刻t19までの区間において、低励起用の励起用半導体レーザ20に所要の電流が供給されるとともに、上記新たな励起用半導体レーザ45に所要の電流が供給され、入力光の第2パルス列の第2パルス以降が増幅される。
【0054】
尚、単一の励起用半導体レーザに対する供給電流を制御することで、この単一の励起用半導体レーザのレーザ出力を可変できるような構成を採用してもよい。このように励起用半導体レーザを流用することとすれば、新たなレーザ光源を設ける必要がないため、部品点数の増加を回避することができる。
【0055】
・上記実施形態では触れなかったが、増幅光の動作条件に、光パルス列を構成するパルスのパルス幅が含まれてもよく、この場合、同パルス幅の大小に合わせて高励起用の励起用半導体レーザ30のレーザ出力の大小が調整される。同構成によると、例えば、パルス幅の小さなパルスによる光パルス列からパルス幅の大きなパルスによる光パルス列が構成されるよう増幅光の動作条件が変更される場合、予備励起に必要なエネルギーとして大きなエネルギーが必要となるため、この場合、高励起用の励起用半導体レーザ30のレーザ出力が高められる。そして、このように高励起用の励起用半導体レーザ30のレーザ出力を調整することで、増幅光の動作条件に合わせて予備励起に必要なエネルギーを調整することができる。
【0056】
・増幅光の動作条件に、光パルス列を構成するパルスの繰り返し周波数が含まれる構成において、同パルスの繰り返し周波数の高低に合わせて高励起用の励起用半導体レーザ30のレーザ出力の大小が調整されるようにしてもよい。尚、この構成は、光パルス列の第2パルスの増幅までを予備励起で賄う場合に有効となる。同構成によると、例えば、繰り返し周波数の低いパルスによる光パルス列から繰り返し周波数の高いパルスによる光パルス列が構成されるよう増幅光の動作条件が変更される場合、予備励起に必要なエネルギーとして大きなエネルギーが必要となるため、この場合、高励起用の励起用半導体レーザ30のレーザ出力が高められる。そして、このように高励起用の励起用半導体レーザ30のレーザ出力を調整することで、増幅光の動作条件に合わせて予備励起に必要なエネルギーを調整することができる。
【0057】
・上記実施形態では、本発明に係るレーザ装置を、ワークにマーキングを行うレーザ加工装置(レーザマーカー)に適用することとしたが、例えばワークに穴あけ、切断、及び溶接等の加工を行うレーザ加工装置に適用することも可能である。また、レーザ加工装置に限らず、希土類ドープ光ファイバを通じてレーザ光を増幅して出射する各種レーザ装置に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0058】
1…レーザ加工装置(レーザ装置)、2…入力部、3…制御部、4…レーザ生成部、5…ヘッド部、6…ワーク、10…信号用半導体レーザ(信号用レーザ光源)、11…ドライバ、20…励起用半導体レーザ(低励起用の第2励起用レーザ光源)、21…ドライバ、30…励起用半導体レーザ(高励起用の第3励起用レーザ光源)、31…ドライバ、40…励起用半導体レーザ(第1励起用レーザ光源)、45…励起用半導体レーザ(第1励起用レーザ光源)、50…増幅器(光増幅部)、51…光結合部、52…希土類ドープ光ファイバ、53…光結合部、54…希土類ドープ光ファイバ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号用レーザ光源から光増幅部に入力光をパルス発振する際に、第1励起用レーザ光源から出射されるレーザ光によって前記光増幅部を励起させ、励起状態となっている前記光増幅部を通じて、前記信号用レーザ光源から出射された入力光を増幅し、増幅光として出射するレーザ装置であって、
前記第1励起用レーザ光源から出射されるレーザ光によって前記光増幅部を励起させる前に、低励起用の第2励起用レーザ光源及び高励起用の第3励起用レーザ光源からそれぞれ出射されるレーザ光によって前記光増幅部を予備励起させるとともに、その予備励起では、前記第2励起用レーザ光源のレーザ出力を一定とする一方、前記第3励起用レーザ光源のレーザ出力を調整することで、増幅光の動作条件に合わせて予備励起に必要なエネルギーを調整する
ことを特徴とするレーザ装置。
【請求項2】
前記第3励起用レーザ光源には、最大定格電流が供給されるとともに、その最大定格電流の供給時間が調整されることで当該第3励起用レーザ光源のレーザ出力が調整され、当該調整に基づき、増幅光の動作条件に合わせて予備励起に必要なエネルギーが調整される
請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項3】
増幅光の動作条件は、光パルス列を構成するパルスのパルス幅を含み、同パルス幅の大小に合わせて前記第3励起用レーザ光源のレーザ出力の大小が調整される
請求項1又は2に記載のレーザ装置。
【請求項4】
増幅光の動作条件は、光パルス列を構成するパルスの繰り返し周波数を含み、同パルスの繰り返し周波数の高低に合わせて前記第3励起用レーザ光源のレーザ出力の大小が調整される
請求項1〜3のいずれか一項に記載のレーザ装置。
【請求項5】
増幅光の動作条件は、光パルス列を構成するパルスのパルス高さを含み、同パルスのパルス高さの大小に合わせて前記第3励起用レーザ光源のレーザ出力の大小が調整される
請求項1〜4のいずれか一項に記載のレーザ装置。
【請求項6】
前記信号用レーザ光源からの入力光の出射を開始するに際して、その第1パルスの出射が、前記第1励起用レーザ光源からレーザ光が出射されるよりも前に行われる
請求項1〜5のいずれか一項に記載のレーザ装置。
【請求項7】
前記信号用レーザ光源からの入力光について最終パルスの出射が完了された後の段階で、前記第1励起用レーザ光源からのレーザ光の出射が停止される
請求項1〜6のいずれか一項に記載のレーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−253103(P2012−253103A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122851(P2011−122851)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000106221)パナソニック デバイスSUNX株式会社 (578)
【Fターム(参考)】