レーザ走査型顕微鏡
【課題】市販のレーザ光源を簡単な構成で効率よく導入でき、光路分岐や波長の異なるレーザ光の合成などの照明光の切替を1画素単位以下の速度で行う。
【解決手段】レーザ光源11,12と、該レーザ光源11,12から出射されるレーザ光を標本Sに対して走査する観察用走査手段23と、標本Sからの光を検出する検出光学系3と、レーザ光源11,12と観察用走査手段23との間に配置され、電流の注入により屈折率のグラデーションが誘起される電気光学結晶20を備える電気光学偏向素子13と、該電気光学偏向素子13に加える電圧を観察用走査手段23による走査に同期して制御する制御手段9とを備えるレーザ走査型顕微鏡1を提供する。
【解決手段】レーザ光源11,12と、該レーザ光源11,12から出射されるレーザ光を標本Sに対して走査する観察用走査手段23と、標本Sからの光を検出する検出光学系3と、レーザ光源11,12と観察用走査手段23との間に配置され、電流の注入により屈折率のグラデーションが誘起される電気光学結晶20を備える電気光学偏向素子13と、該電気光学偏向素子13に加える電圧を観察用走査手段23による走査に同期して制御する制御手段9とを備えるレーザ走査型顕微鏡1を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ走査型顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、多重染色された蛍光標本の観察時に、個々の蛍光色素に対応して異なる波長のレーザ光を時分割で1波長ずつ照射して、発生する蛍光間のクロストークを防止するようにした蛍光観察方法(いわゆるシーケンシャルスキャン方式)が知られている。例えば、特許文献1に開示されたレーザ走査型顕微鏡では、複数のレーザ光源からの異なる波長のレーザ光が、1つに合成した後に音響光学素子(AOTF)を通過させられる。レーザ走査を行いながら、このAOTFを用いてレーザ波長切替を行うことで、上記シーケンシャルスキャン方式の蛍光観察方法を実行することができる。
【0003】
また、刺激用走査手段で標本の任意の位置に比較的高い強度の光で光刺激を行いながら観察用走査手段で観察する場合に、刺激光と観察光とを標本の同一部位に同時に照射すると、刺激用のレーザ光を照射することにより発生する蛍光が、観察光に混入し、画像の輝度が飽和してしまう不都合がある。これを回避するために、音響光学素子を用いて観察光と刺激光の照射を時分割で行う方法が知られている(例えば、特許文献2および特許文献3参照。)。
さらに、音響光学素子よりも高速で切替を行うことができる素子として、電気光学素子が知られている(例えば、特許文献4参照。)。また、電気光学素子における光の偏向角を大きくするために、電気光学素子を直列的に複数個設けて多段構成にしたものも開示されている(例えば、特許文献5参照。)。
【0004】
【特許文献1】特開2006−31018号公報
【特許文献2】特開2000−275529号公報
【特許文献3】特開2005−292273号公報
【特許文献4】特開2001−324679号公報
【特許文献5】特開平10−288798号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されているように音響光学素子を用いて波長の切替を行う場合、音響光学結晶内を伝播する超音波の音速の制限があり、数μsecより速い切替を行うことができないという不都合がある。これは、ガルバノミラースキャナ等を用いて1本の光線を2次元的に走査して走査画像を取得する一般的なレーザ走査型顕微鏡において、レーザ光の1ライン走査毎にレーザ波長を切り替える(ミリ秒オーダー)ことは可能であるが、1画素毎にレーザ波長を切り替える(マイクロ秒オーダー)ことは困難であることを意味する。
【0006】
仮に、画素毎の切替を行おうとしても、音響光学結晶内に定在する超音波の周波数が切り替わる遷移状態中を光が通過することになるので、音響光学結晶におけるシリンドリカルレンズ効果によって音響光学結晶から出射されるレーザ光が1軸方向に広がってしまい、対物レンズで集光されたときに非点較差を生じて分解能が低下してしまうという不都合がある。
【0007】
また、上述したように、音響光学素子による切替時間は数μsecであるため、1画素単位で刺激光と観察光との切替を行うことが困難であり、光刺激と観察とを画素単位で同時に実施する要求に対応できないという問題がある。
【0008】
また、光路に結合するレーザ光を高速に切り替えることができる素子として、特許文献4に示されるように、電気光学偏向素子(EOD)が知られているが、電気光学偏向素子は偏向角が小さく、屈折率変化を大きくするために電圧をかける空間(電極間距離)を200μm以下に設定する必要がある。
したがって、偏向角が小さいために市販のガスレーザ光源では空間的な配置が困難になるばかりか、狭い空間(電極間距離)にレーザ光を導くために焦点距離の長いレンズが必要となるなど、光学系もスペースおよびコストを必要とする。また、偏向角を稼ぐためには、特許文献5に示されるように、複数対の電極を直列に並べるなど複雑な構造が必要となり、コストがさらに高くなるという問題がある。
【0009】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、市販のレーザ光源を簡単な構成で効率よく導入でき、光路分岐や波長の異なるレーザ光の合成などの照明光の切替を1画素単位以下の速度で行うことができるレーザ走査型顕微鏡を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、レーザ光源と、該レーザ光源から出射されるレーザ光を標本に対して走査する観察用走査手段と、標本からの光を検出する検出光学系と、前記レーザ光源と前記観察用走査手段との間に配置され、電流の注入により屈折率のグラデーションが誘起される電気光学結晶を備える電気光学偏向素子と、該電気光学偏向素子に加える電圧を前記観察用走査手段による走査に同期して制御する制御手段とを備えるレーザ走査型顕微鏡を提供する。
【0011】
本発明によれば、電気光学偏向素子の作動により、レーザ光源から出射されたレーザ光が偏向され、観察用走査手段に指向される。そして、観察用走査手段によりレーザ光が標本上において2次元的に走査されることにより、標本から発せられた蛍光あるいは反射光等の光が検出光学系により検出され、標本の2次元的な画像を取得することができる。
【0012】
この場合において、電気光学偏向素子が電流の注入により屈折率のグラデーションの誘起される電気光学結晶を備えるので、小さい電圧で大きな偏向角が得られる。すなわち、この電気光学偏向素子では、電気光学結晶に入射したレーザ光は、電界の付与によって生じる屈折率勾配により屈折による進行方向の変化が結晶中を進行するに伴って累積する。このようにして電気光学結晶に付与した電界の方向に大きな偏向角を得ることができる。
【0013】
なお、電界を付与しない場合には、レーザ光は結晶中を直進し、付与する電界の強度に応じて偏向角を自在に制御できる。また、音響光学素子にように音波(弾性波)を使用するのではなく、電界の付与によって屈折率勾配を生じさせるので、音響光学素子に比べて応答性が非常に高いから、音響光学素子よりもさらに高速に光の進行方向を制御することができる。
【0014】
したがって、レーザ光の波長が切り替えられる場合には、電気光学偏向素子に加える電圧の切替により、観察用走査手段へ指向させるレーザ光の波長を高速に切り替えることができる。また、複数の光源からのレーザ光を電気光学偏向素子に入射させる場合には、電気光学偏向素子に加える電圧の切替により、観察用走査手段へ指向させる異なる光源からのレーザ光を高速に切り替えることができる。
【0015】
そして、この場合に、小さな電圧で大きな偏向角が得られるので、結晶の電極間距離を大きくとっても実用的な電圧で実用的な偏向角を得ることができる。したがって、レーザ光の十分な光束径を確保して、複雑な光学系等の構造の採用を不要とし、また、小さい電圧で大きな偏向角が得られるので、レーザ配置の自由度が増え、装置の小型化およびコスト低減を図ることができる。
この場合に、前記電気光学結晶が、KTa1−xNbxO3であることが好ましい。
【0016】
上記発明においては、前記レーザ光源が、異なる波長のレーザ光を発振する複数の光源を備え、前記電気光学偏向素子が、前記光源からのレーザ光の交差する位置に配置され、前記制御手段が、前記電気光学偏向素子に加える電圧を制御して、該電気光学偏向素子からのレーザ光の出射方向を切り替えて、前記観察用走査手段に導くレーザ光の波長を時分割で切り替えることとしてもよい。
【0017】
このようにすることで、複数の光源からの異なる波長のレーザ光を異なる方向から電気光学偏向素子に入射させた状態で、電気光学偏向素子に加える電圧を切り替えることにより、各レーザ光を同一方向に出射させることが可能となる。これにより、異なる波長のレーザ光を観察用走査手段に導いて、走査画素単位で標本に時分割に照射することができる。
【0018】
また、上記発明においては、標本に光刺激を与えるレーザ光の照射位置を調節する刺激用走査手段を備え、前記電気光学偏向素子が、前記観察用走査手段への光路と前記刺激用走査手段への光路との分岐点に配置され、前記制御手段が、前記電気光学偏向素子に加える電圧を制御して、該電気光学偏向素子からのレーザ光の出射方向を前記観察用走査手段への光路と前記刺激用走査手段への光路とを切り替えることとしてもよい。
【0019】
このようにすることで、観察用走査手段への光路と刺激用走査手段への光路との分岐点に配置された電気光学偏向素子に加える電圧を制御することにより、レーザ光源からのレーザ光を観察用走査手段への光路または刺激用走査手段への光路に切り替えて入射させることができる。そして、レーザ光が観察用走査手段への光路に入射された場合には、観察用走査手段の作動によりレーザ光を標本上において2次元的に走査して、標本からの光を観察することができる。また、レーザ光が刺激用走査手段への光路に入射された場合には、刺激用走査手段の作動によりレーザ光を標本上の任意の位置に照射して、標本に光刺激を与えることができる。この場合に、光路の切替を上記電気光学偏向素子で行うことにより、きわめて高速に観察光と刺激光とを切り替えて、走査画素毎に、観察と光刺激とをほぼ同時に行うことができる。
【0020】
また、上記発明においては、前記レーザ光源が、異なる波長のレーザ光を発振する複数の光源を備え、前記電気光学偏向素子が、前記光源からのレーザ光の交差する位置に配置されていることとしてもよい。
このようにすることで、異なる波長のレーザ光を観察光および刺激光として高速で切り替えて標本の観察と光刺激とを走査画素単位でほぼ同時に行うことができる。
【0021】
また、上記発明においては、前記レーザ光源が、異なる波長のレーザ光を発振する複数の光源を備え、前記電気光学偏向素子が、これらの光源から発せられ相互に平行に配された複数のレーザ光の光路に光軸方向に隣接して配置され相互に逆方向に電圧が加えられる2つの前記電気光学結晶を備えることとしてもよい。
このようにすることで、一方の電気光学結晶により一方向に偏向されたレーザ光を他方の電気光学結晶により逆方向に偏向させて、相互にほぼ平行な2つの光路に選択的にレーザ光を出射させることができる。
【0022】
また、上記発明においては、前記電気光学偏向素子と前記観察用走査手段または前記電気光学偏向素子と前記刺激用走査手段との間の少なくとも一方に、光ファイバが配置されていることとしてもよい。
このようにすることで、隣接する2つの電気光学結晶を通過することでほぼ平行な光路を維持したまま光ファイバに精度よく入射させ、観察用走査手段または刺激用走査手段へそれぞれ導くことができる。
【0023】
また、上記発明においては、前記制御手段が、前記電気光学偏向素子からの光ファイバへのレーザ光の入射角度を変化させ、光ファイバへの入射光量を調整するよう前記電気光学偏向素子に加える電圧を制御することとしてもよい。
このようにすることで、光変調手段を別個に設けることなく、標本に照射する光の強度を調節することができる。
【0024】
また、上記発明においては、前記制御手段が、前記観察用走査手段による標本へのレーザ光の各1画素照射時間内において前記電気光学偏向素子に加える電圧を切り替えることとしてもよい。
このようにすることで、電気光学偏向素子に加える電圧を切り替えて、走査画素毎に、切り替えた複数のレーザ光を照射することができる。
【0025】
また、上記発明においては、前記制御手段が、前記観察用走査手段による標本へのレーザ光の各1画素照射時間内において、観察用走査手段への光路と刺激用走査手段への光路とを切り替える時間比率を調節することとしてもよい。
このようにすることで、観察用走査手段による観察光の照射時間と、刺激用走査手段による刺激光の照射時間との比率を調節し、走査画素単位で、光刺激の程度を調節しつつ観察を行うことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、市販のレーザ光源を簡単な構成で効率よく導入でき、光路分岐や波長の異なるレーザ光の合成などの照明光の切替を1画素単位以下の速度で行うことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の一実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡1について、図1〜図9を参照して以下に説明する。
本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡1は、図1に示されるように、レーザ光を出射する光源ユニット2と、観察用光学系3と、刺激用光学系4と、これら光学系3,4に対してそれぞれレーザ光を導く2本の光ファイバ5,6と、これら光学系3,4を合流させるダイクロイックミラー7と、標本Sに対し、レーザ光を照射し、標本Sから発せられる蛍光を集光する対物レンズ8と、これらを制御する制御ユニット9とを備えている。図中、符号10は対物レンズ8により集光された標本Sからの光を結像させる結像レンズである。
【0028】
光源ユニット2は、異なる波長λ1,λ2のレーザ光を発振し、相互に交差する光軸に沿ってレーザ光を出射するよう配置された2つのレーザ光源(光源)11,12と、これらレーザ光源11,12からのレーザ光の交差位置に配置された電気光学偏向素子13と、該電気光学偏向素子13を通過したレーザ光を前記2本の光ファイバ5,6の端面に入射させるカップリングレンズ14,15と、前記電気光学偏向素子13から所定の光路に出射されたレーザ光を一方のカップリングレンズ15に導くミラー16およびダイクロイックミラー17とを備えている。図中、符号18はシャッタ、符号19は調光用のNDフィルタである。
【0029】
前記電気光学偏向素子13は、電流の注入により屈折率のグラデーションが誘起される電気光学結晶20と、該電気光学結晶20を挟んで対向配置される一対の電極21a,21bとを備えている。前記電気光学結晶20は、例えば、カー定数が3×10−16m2/V2以上のものであり、KTa1−xNbxO3により構成されている。このような電気光学結晶20は、例えば、次の文献に開示されたものを使用できる。
「Nakamura et al., Wide-angle, low-voltage
electro-optic beam deflection based on space-charge-controlled mode of
electrical conduction in KTa1-xNbxO3, Applied Physics
Letters 89,
131115,
2006」
【0030】
この電気光学結晶20の両端の電極21a,21bに加える電圧と屈折率のグラデーションの関係を図2に示す。
この電気光学偏向素子13では、電気光学結晶20に入射したレーザ光は、図3に示されるように、屈折による進行方向の変化が結晶中を進行するに伴って累積する。このようにして電気光学結晶20に付与した電界の方向に大きな偏向角を得ることができるようになっている。
【0031】
なお、電界を付与しない場合には、レーザ光は、図3に破線で示すように、電気光学結晶20中を直進する。したがって、付与する電界の強度に応じて偏向角を自在に制御できるようになっている。
【0032】
前記観察用光学系3は、光ファイバ5を介して導かれたレーザ光を略平行光にするコリメータレンズ22と、該コリメータレンズ22により略平行光にされたレーザ光を2次元的に走査する走査手段(観察用走査手段)23と、該走査手段23により走査されたレーザ光を集光して中間像を結像させる瞳投影レンズ24とを備えている。
走査手段23は、例えば、相互に交差する2方向にそれぞれ揺動可能な2枚のガルバノミラーを近接して配置した、いわゆる近接ガルバノミラーである。
【0033】
また、観察用光学系3には、対物レンズ8により集光され、結像レンズ10、ダイクロイックミラー7、瞳投影レンズ24、走査手段23を介して戻る蛍光をレーザ光の光路から分岐するダイクロイックミラー25と、分岐された蛍光を集光させる共焦点レンズ26と、該共焦点レンズ26の焦点位置近傍に配置された共焦点ピンホール27と、該共焦点ピンホール27を通過した蛍光を波長毎に分離するダイクロイックミラー28と、分離された波長毎の蛍光をそれぞれ検出する2つの光検出器29,30とが設けられている。図中、符号31はミラー、符号32はバリアフィルタである。
【0034】
前記刺激用光学系4は、光ファイバ6を介して導かれたレーザ光を略平行光にするコリメータレンズ33と、該コリメータレンズ33により略平行光にされたレーザ光を2次元的に位置調節する走査手段(刺激用走査手段)34と、該走査手段34により走査されたレーザ光を集光して中間像を結像させる瞳投影レンズ35とを備えている。刺激用光学系4用の走査手段34を備えることにより、観察位置(観察用光学系3によって観察用レーザ光を照射する位置)とは独立した任意の位置に刺激用レーザ光を照射することができる。
【0035】
前記制御ユニット9は、各光検出器29,30により検出された蛍光の強度情報と、そのときの走査手段23による走査位置情報とを受信して対応づけて記憶するようになっている。また、制御ユニット9は、前記走査手段23による標本Sへのレーザ光の走査に同期して前記電気光学偏向素子13の電極21a,21bに加える電圧を切り替えるようになっている。本実施形態では、電極21a,21bへの電圧のかけ方として、図2のようにA〜Dの4種類のパターンがある。それぞれの場合におけるレーザ光の進み方が図4に示されている。図4は光源ユニット2を拡大して図示したもので、(a)〜(d)はそれぞれ、図2に示したA〜Dのように電圧を加えた場合に対応している。
【0036】
図4(a)では、レーザ光源11からのレーザ光が観察用光学系3へ導入され、レーザ光源12からのレーザ光は光路外へ偏向される。図4(b)では、レーザ光源11からのレーザ光は光路外へ偏向され、レーザ光源12からのレーザ光が観察用光学系3に導入される。図4(c)では、レーザ光源11からのレーザ光が刺激用光学系4に導入され、レーザ光源12からのレーザ光は光路外へ偏向される。図4(d)では、レーザ光源11からのレーザ光は光路外へ偏向され、レーザ光源12からのレーザ光が刺激用光学系4に導入される。
【0037】
具体的には、観察用光学系3に入射させるレーザ光の波長を切り替える場合に、図5に示されるように、電気光学偏向素子13の電極21a,21bに加える電圧を1走査画素内において反転させるように切り替える。これは、図2におけるA,Bを1画素毎に交互に切り替えることに相当する。これにより、2つのレーザ光源11,12からのレーザ光は、図4(a),(b)に示されるように、カップリングレンズ14に向かう同一の光路に交互に指向され、光ファイバ5を介して観察用光学系3に導かれるようになっている。図中、記号Bはレーザ光の出射される出射口を示している。
【0038】
そして、波長λ1のレーザ光を標本Sに照射したときには、標本Sから発せられた蛍光を光検出器29で、波長λ2のレーザ光を標本Sに照射したときには、標本Sから発せられた蛍光を光検出器30で、それぞれ時分割で検出するようになっている。
このようにすることで、1走査画素単位の時分割蛍光検出を行うことができ、各波長間のデータ取得の時間差をきわめて小さくすることができる。また、観察用光学系3への光路中に波長を合成するダイクロイックミラーを設ける必要がなく、少ない損失でレーザ光を観察用光学系3に導くことができる。
【0039】
また、標本S上のある1点に波長λ1のレーザ光で光刺激を与えながら、波長λ1のレーザ光で蛍光観察を行う場合には、図6に示されるように、電気光学結晶20に加える電圧値を2段階に切り替える。これは、図2のA.Cを1画素毎に交互に切り替えることに相当する。これにより、電気光学結晶20に発生する屈折率の傾斜を変化させ、図4(a),(c)に示されるように、波長λ1のレーザ光をカップリングレンズ14に向かう光路と、カップリングレンズ15に向かう光路とにそれぞれ指向させ、光ファイバ5,6を介して観察用光学系3および刺激用光学系4にそれぞれ交互に導くことができる。光刺激は標本S上の1点を断続的に照射するパルス状の光刺激になる。
【0040】
このようにすることで、光刺激と観察とを時分割で行うことができ、刺激用のレーザ光により極大化した蛍光を検出することがなく、刺激に対する蛍光輝度の変化を正確に把握することができる。また、刺激用のレーザ光は高速のパルス状に点滅させられるので、ほぼ連続的な刺激と考えることができる。
【0041】
また、光刺激を光検出器29におけるアナログ積算の放電期間に行う場合、図7に示されるように、光刺激に要する時間が観察に要する時間に比べて短くなる。刺激光は一般に強くすることが望まれ、観察光は弱くすることが望まれる。したがって、この場合には、電気光学結晶20に加える電圧を微調整することにより、光ファイバ5に入射するレーザ光の角度を変化させ、光ファイバ5に入射する観察用のレーザ光の光量を調節することが好ましい。また、電気光学結晶20と光ファイバ5との間に光量調節用のNDフィルタ(図示略)を配置することにしてもよい。
このようにすることで、光検出器29の放電期間を有効に利用して光刺激を行うので、光刺激を時分割で行うことにより蛍光検出効率の低下がまったく生じないという利点がある。
【0042】
また、図8に示されるように、光刺激用のレーザ光の照射時間と観察用のレーザ光の照射時間との比率を変化させることにしてもよい。例えば、図8に示す例では、1画素への照射時間(例えば、2μsec)を観察と光刺激とで1:4に分割している。このようにすることで、光刺激と観察の光量分割比率を電気光学結晶20への電圧の印加時間を調節するだけで行うことができ、分割比率を調節するための別個の手段が不要となる。したがって、簡単な構成で信頼性が高いレーザ走査型顕微鏡1を提供することができる。
【0043】
さらに、図8に示す例では、1画素の期間内(2μsec)で観察および光刺激を4回に分割して、1回の観察光照射時間を0.1μsec、1回の刺激光照射時間を0.4μsecとして、交互に4回繰り返すように照射している。このようにすることで、刺激光の照射の連続性を高めることができる。1画素内での切替の繰り返し回数(分割数)を増やせば、刺激の連続性をさらに高めることができる。
【0044】
また、図9に示されるように、標本上のある1点に波長λ1のレーザ光による光刺激を行いながら、波長λ1,λ2のレーザ光による各画素内における時分割切替を行うことにより、2重染色標本Sの蛍光観察を行うこととしてもよい。これは1画素内で図2におけるA,C,B,Cの順に切り替えることに相当する。具体的には、一画素に対応する標本S上の範囲内において、まず、波長λ1の観察用のレーザ光を照射し、次いで、波長λ1の光刺激用のレーザ光を照射し、その後波長λ2の観察用のレーザ光を照射し、最後に再度波長λ1の光刺激用のレーザ光を照射する。
【0045】
そして、波長λ1のレーザ光を照射することにより標本Sから発生する蛍光は一方の光検出器29により検出し、波長λ2のレーザ光を照射することにより標本Sから発生する蛍光は他方の光検出器30により検出する。この場合に、各光検出器29,30による蛍光検出のアナログ積算の放電期間に光刺激を行う。
【0046】
このようにすることで、2重染色標本Sの時分割蛍光観察と、ほぼ同時に時分割での光刺激を走査画素単位で切り替えて行うので、観察用の異なる複数の波長のレーザ光をきわめて短い時間差で照射することができ、また、刺激用のレーザ光により極大化する蛍光を検出することなく蛍光観察を行うことができる。また、光検出器29,30の放電期間に光刺激を行うので、光刺激を時分割で行うことによる蛍光検出効率の低下を生じさせずに済む。
【0047】
なお、本実施形態においては、標本S上の任意の1点について光刺激を行う場合を例示して説明したが、これに代えて、標本S上において光刺激用のレーザ光を螺旋状に走査させることにしてもよい。この場合に、間欠的に照射される光刺激用のレーザ光のスポットの移動距離が、スポット径以下となるようにすることで、螺旋状に連続的に光刺激を与えることができる。
【0048】
また、標本S上において光刺激用のレーザ光を任意の領域内において往復ラスタスキャン、ラインスキャンあるいはフリーラインスキャン方式により走査することにしてもよい。このようにすることで、観察と光刺激との同時性を損なうことなく、ポイント刺激より広範囲の任意領域に対する光刺激を行うことができる。
【0049】
また、本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡1においては、2つのレーザ光源11,12からの波長λ1,λ2の異なる2つのレーザ光を切り替えることとしたが、これに代えて、図10〜図12に示されるように、3つのレーザ光源36からの波長λ1〜λ3の異なる3つのレーザ光を切り替えることにしてもよい。上記実施形態に加えて、電気光学結晶20に電圧をかけない状態で、カップリングレンズ14に波長λ3のレーザ光が指向される位置にレーザ光源36を配置している。
【0050】
そして、図11および図12に示されるように、電気光学偏向素子に加える電圧値および電圧の方向をを切り替えて、3つのレーザ光源11,12,36からの波長λ1,λ2,λ3のレーザ光を2つのカップリングレンズ14,15に向けてそれぞれ指向させることができる。
【0051】
具体的には、次のようになる。
(a) 電極21a=0V、電極21b=200Vのとき、観察用光学系3=λ1(レーザ光源11)、刺激用光学系4=なし。
(b) 電極21a=200V、電極21b=0Vのとき、観察用光学系3=λ2(レーザ光源12)、刺激用光学系4=なし。
(c) 電極21a=0V、電極21b=0Vのとき、観察用光学系3=λ3(レーザ光源36)、刺激用光学系4=なし。
(d) 電極21a=0V、電極21b=100Vのとき、観察用光学系3=なし、刺激用光学系4=λ1(レーザ光源11)。
(e) 電極21a=100V、電極21b=0Vのとき、観察用光学系3=なし、刺激用光学系4=λ2(レーザ光源12)。
(f) 電極21a=0V、電極21b=130Vのとき、観察用光学系3=なし、刺激用光学系4=λ3(レーザ光源36)。
このようにすることで、例えば、図11に示されるように、波長λ1のレーザ光により光刺激を行いながら、波長λ2,λ3のレーザ光で蛍光観察を各走査画素単位で行うことができる。
【0052】
そして、このように構成することで、電気光学結晶20に生じる屈折率のグラデーションを利用して、紫外光から2光子励起用近赤外レーザ光(例えば、920nm)までのレーザ光を使用することができる。
【0053】
次に、本発明の第2の実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡について、図13を参照して以下に説明する。
本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡は、図13に示される光源ユニット40を備えている。
なお、本実施形態の説明において、上述した第1の実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡1と構成を共通とする箇所には同一符号を付して説明を省略する。
【0054】
光源ユニット40は、略平行な光軸を有する波長の異なる2つのレーザ光をそれぞれ照射するレーザ光源41,42と、各レーザ光源41,42からのレーザ光を透過させる電気光学偏向素子43と、該電気光学偏向素子43から出射された2本の平行な光軸に沿うレーザ光をそれぞれ観察用光学系3および刺激用光学系4に接続される光ファイバ5,6に入射させるカップリングレンズ14,15とを備えている。図中、符号44はミラーである。
【0055】
本実施形態において電気光学偏向素子43は、光軸方向に隣接して配置される2つの電気光学結晶45,46と、各電気光学結晶45,46を挟む対向電極47a,47b;48a,48bとを備えている。そして、これら対向電極47a,47b;48a,48bには、相互に逆方向に同じ大きさの電圧が加えられるようになっている。
【0056】
すなわち、図14(a)に示されるように、一方の電気光学結晶45により一方向に偏向された波長λ1のレーザ光は、他方の電気光学結晶46により他方向に偏向され、略平行な光軸を保持しつつ一方のカップリングレンズ15に入射させられるようになっている。そして、図14(b)に示されるように、各電気光学結晶45,46の対向電極47a,47b;48a,48bに加える電圧値を切り替えることにより、偏向角度の変化を利用して他方のカップリングレンズ14に入射させられるようになっている。
【0057】
また、図14(a),(d)に示されるように、電気光学結晶45,46に加える電圧を逆転させることにより、電気光学結晶45によって一方向に偏向された波長λ2のレーザ光を他方の電気光学結晶46により他方向に偏向し、略平行な光軸を保持しつつカップリングレンズ14に入射させるようになっている。そして、図14(c)に示されるように、各電気光学結晶45,46の対向電極47a,47b;48a,48bに加える電圧値を切り替えることにより、偏向角度の変化を利用して波長λ2のレーザ光をカップリングレンズ15に入射させるようになっている。
【0058】
このようにすることで、観察用のレーザ光および光刺激用のレーザ光として、異なる波長λ1,λ2のレーザ光を同軸でそれぞれ電気光学偏向素子43から出射させることができ、観察用および光刺激用のいずれについても波長合成用のダイクロイックミラーを不要とすることができるという利点がある。
【0059】
次に、本発明の第3の実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡について、図15を参照して以下に説明する。
本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡は、図15に示される光源ユニット50を備えている。
なお、本実施形態の説明において、上述した第1の実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡1と構成を共通とする箇所には同一符号を付して説明を省略する。
【0060】
この光源ユニット50は、3つの異なる波長λ1,λ2,λ3のレーザ光を出射する3つのレーザ光源51,52,53と、これらのレーザ光源51,52,53から出射されたレーザ光を合波するミラー54およびダイクロイックミラー55,56と、合波されたレーザ光を波長毎に異なる角度で分離する回折格子57と、分離された3つのレーザ光を所定の角度をなして交差するように集光する集光レンズ58,59と、該集光レンズ58,59によるレーザ光の交差位置に配置された電気光学偏向素子60と、2つの光ファイバ5,6に入射させるカップリングレンズ14,15およびミラー16およびダイクロイックミラー17とを備えている。
本実施形態における電気光学偏向素子60の動作は、第1の実施形態における図10〜図12の動作と同様である。
【0061】
このようにすることで、現実的にレーザ光源51,52,53のサイズが大きく、第1の実施形態の方法では、3つのレーザ光源51,52,53を空間的に配置すると、大きなスペースを要してしまう場合にも、比較的小さなスペースに配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡の全体構成を示す模式図である。
【図2】図1のレーザ走査型顕微鏡の光源ユニットに備えられた電気光学偏向素子の電圧と屈折率との関係を示すグラフである。
【図3】図2の電気光学偏向素子の電気光学結晶内におけるレーザ光の屈折の状態を示す模式図である。
【図4】図1のレーザ走査型顕微鏡の光源ユニットの動作を説明する説明図である。
【図5】図4(a)、(b)の動作を切り替えた場合における電極に加える電圧と出射されるレーザ光との関係を示すグラフである。
【図6】図4(a),(c)の動作を切り替えた場合における電極に加える電圧と出射されるレーザ光との関係を示すグラフである。
【図7】図6の動作において、光検出器の放電期間内に刺激用レーザ光を出射する場合を説明するグラフである。
【図8】図6の動作において、観察用レーザ光と刺激用レーザ光の照射時間の比率を変化させる場合を説明するグラフである。
【図9】図4(a),(b),(c)の動作を切り替えた場合における電極に加える電圧と出射されるレーザ光との関係を示すグラフである。
【図10】図1のレーザ走査型顕微鏡の変形例であって、3つのレーザ光源を有する光源ユニットを示す模式図である。
【図11】図10の光源ユニットにより、2つの異なる波長による観察と、さらに異なる波長による光刺激とを時分割で行う動作を説明するグラフである。
【図12】図10の光源ユニットの動作を説明する説明図である。
【図13】本発明の第2の実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡の光源ユニットを示す模式図である。
【図14】図13の光源ユニットの動作を説明する説明図である。
【図15】本発明の第3の実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡の光源ユニットを示す模式図である。
【符号の説明】
【0063】
A 標本
λ1,λ2,λ3 波長
1 レーザ走査型顕微鏡
3 観察光学系(検出光学系)
5,6 光ファイバ
9 制御ユニット(制御手段)
11,12,36,41,42,51,52,53 レーザ光源(光源)
13,43,60 電気光学偏向素子
20,45,46 電気光学結晶
23 走査手段(観察用走査手段)
34 走査手段(刺激用走査手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ走査型顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、多重染色された蛍光標本の観察時に、個々の蛍光色素に対応して異なる波長のレーザ光を時分割で1波長ずつ照射して、発生する蛍光間のクロストークを防止するようにした蛍光観察方法(いわゆるシーケンシャルスキャン方式)が知られている。例えば、特許文献1に開示されたレーザ走査型顕微鏡では、複数のレーザ光源からの異なる波長のレーザ光が、1つに合成した後に音響光学素子(AOTF)を通過させられる。レーザ走査を行いながら、このAOTFを用いてレーザ波長切替を行うことで、上記シーケンシャルスキャン方式の蛍光観察方法を実行することができる。
【0003】
また、刺激用走査手段で標本の任意の位置に比較的高い強度の光で光刺激を行いながら観察用走査手段で観察する場合に、刺激光と観察光とを標本の同一部位に同時に照射すると、刺激用のレーザ光を照射することにより発生する蛍光が、観察光に混入し、画像の輝度が飽和してしまう不都合がある。これを回避するために、音響光学素子を用いて観察光と刺激光の照射を時分割で行う方法が知られている(例えば、特許文献2および特許文献3参照。)。
さらに、音響光学素子よりも高速で切替を行うことができる素子として、電気光学素子が知られている(例えば、特許文献4参照。)。また、電気光学素子における光の偏向角を大きくするために、電気光学素子を直列的に複数個設けて多段構成にしたものも開示されている(例えば、特許文献5参照。)。
【0004】
【特許文献1】特開2006−31018号公報
【特許文献2】特開2000−275529号公報
【特許文献3】特開2005−292273号公報
【特許文献4】特開2001−324679号公報
【特許文献5】特開平10−288798号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されているように音響光学素子を用いて波長の切替を行う場合、音響光学結晶内を伝播する超音波の音速の制限があり、数μsecより速い切替を行うことができないという不都合がある。これは、ガルバノミラースキャナ等を用いて1本の光線を2次元的に走査して走査画像を取得する一般的なレーザ走査型顕微鏡において、レーザ光の1ライン走査毎にレーザ波長を切り替える(ミリ秒オーダー)ことは可能であるが、1画素毎にレーザ波長を切り替える(マイクロ秒オーダー)ことは困難であることを意味する。
【0006】
仮に、画素毎の切替を行おうとしても、音響光学結晶内に定在する超音波の周波数が切り替わる遷移状態中を光が通過することになるので、音響光学結晶におけるシリンドリカルレンズ効果によって音響光学結晶から出射されるレーザ光が1軸方向に広がってしまい、対物レンズで集光されたときに非点較差を生じて分解能が低下してしまうという不都合がある。
【0007】
また、上述したように、音響光学素子による切替時間は数μsecであるため、1画素単位で刺激光と観察光との切替を行うことが困難であり、光刺激と観察とを画素単位で同時に実施する要求に対応できないという問題がある。
【0008】
また、光路に結合するレーザ光を高速に切り替えることができる素子として、特許文献4に示されるように、電気光学偏向素子(EOD)が知られているが、電気光学偏向素子は偏向角が小さく、屈折率変化を大きくするために電圧をかける空間(電極間距離)を200μm以下に設定する必要がある。
したがって、偏向角が小さいために市販のガスレーザ光源では空間的な配置が困難になるばかりか、狭い空間(電極間距離)にレーザ光を導くために焦点距離の長いレンズが必要となるなど、光学系もスペースおよびコストを必要とする。また、偏向角を稼ぐためには、特許文献5に示されるように、複数対の電極を直列に並べるなど複雑な構造が必要となり、コストがさらに高くなるという問題がある。
【0009】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、市販のレーザ光源を簡単な構成で効率よく導入でき、光路分岐や波長の異なるレーザ光の合成などの照明光の切替を1画素単位以下の速度で行うことができるレーザ走査型顕微鏡を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、レーザ光源と、該レーザ光源から出射されるレーザ光を標本に対して走査する観察用走査手段と、標本からの光を検出する検出光学系と、前記レーザ光源と前記観察用走査手段との間に配置され、電流の注入により屈折率のグラデーションが誘起される電気光学結晶を備える電気光学偏向素子と、該電気光学偏向素子に加える電圧を前記観察用走査手段による走査に同期して制御する制御手段とを備えるレーザ走査型顕微鏡を提供する。
【0011】
本発明によれば、電気光学偏向素子の作動により、レーザ光源から出射されたレーザ光が偏向され、観察用走査手段に指向される。そして、観察用走査手段によりレーザ光が標本上において2次元的に走査されることにより、標本から発せられた蛍光あるいは反射光等の光が検出光学系により検出され、標本の2次元的な画像を取得することができる。
【0012】
この場合において、電気光学偏向素子が電流の注入により屈折率のグラデーションの誘起される電気光学結晶を備えるので、小さい電圧で大きな偏向角が得られる。すなわち、この電気光学偏向素子では、電気光学結晶に入射したレーザ光は、電界の付与によって生じる屈折率勾配により屈折による進行方向の変化が結晶中を進行するに伴って累積する。このようにして電気光学結晶に付与した電界の方向に大きな偏向角を得ることができる。
【0013】
なお、電界を付与しない場合には、レーザ光は結晶中を直進し、付与する電界の強度に応じて偏向角を自在に制御できる。また、音響光学素子にように音波(弾性波)を使用するのではなく、電界の付与によって屈折率勾配を生じさせるので、音響光学素子に比べて応答性が非常に高いから、音響光学素子よりもさらに高速に光の進行方向を制御することができる。
【0014】
したがって、レーザ光の波長が切り替えられる場合には、電気光学偏向素子に加える電圧の切替により、観察用走査手段へ指向させるレーザ光の波長を高速に切り替えることができる。また、複数の光源からのレーザ光を電気光学偏向素子に入射させる場合には、電気光学偏向素子に加える電圧の切替により、観察用走査手段へ指向させる異なる光源からのレーザ光を高速に切り替えることができる。
【0015】
そして、この場合に、小さな電圧で大きな偏向角が得られるので、結晶の電極間距離を大きくとっても実用的な電圧で実用的な偏向角を得ることができる。したがって、レーザ光の十分な光束径を確保して、複雑な光学系等の構造の採用を不要とし、また、小さい電圧で大きな偏向角が得られるので、レーザ配置の自由度が増え、装置の小型化およびコスト低減を図ることができる。
この場合に、前記電気光学結晶が、KTa1−xNbxO3であることが好ましい。
【0016】
上記発明においては、前記レーザ光源が、異なる波長のレーザ光を発振する複数の光源を備え、前記電気光学偏向素子が、前記光源からのレーザ光の交差する位置に配置され、前記制御手段が、前記電気光学偏向素子に加える電圧を制御して、該電気光学偏向素子からのレーザ光の出射方向を切り替えて、前記観察用走査手段に導くレーザ光の波長を時分割で切り替えることとしてもよい。
【0017】
このようにすることで、複数の光源からの異なる波長のレーザ光を異なる方向から電気光学偏向素子に入射させた状態で、電気光学偏向素子に加える電圧を切り替えることにより、各レーザ光を同一方向に出射させることが可能となる。これにより、異なる波長のレーザ光を観察用走査手段に導いて、走査画素単位で標本に時分割に照射することができる。
【0018】
また、上記発明においては、標本に光刺激を与えるレーザ光の照射位置を調節する刺激用走査手段を備え、前記電気光学偏向素子が、前記観察用走査手段への光路と前記刺激用走査手段への光路との分岐点に配置され、前記制御手段が、前記電気光学偏向素子に加える電圧を制御して、該電気光学偏向素子からのレーザ光の出射方向を前記観察用走査手段への光路と前記刺激用走査手段への光路とを切り替えることとしてもよい。
【0019】
このようにすることで、観察用走査手段への光路と刺激用走査手段への光路との分岐点に配置された電気光学偏向素子に加える電圧を制御することにより、レーザ光源からのレーザ光を観察用走査手段への光路または刺激用走査手段への光路に切り替えて入射させることができる。そして、レーザ光が観察用走査手段への光路に入射された場合には、観察用走査手段の作動によりレーザ光を標本上において2次元的に走査して、標本からの光を観察することができる。また、レーザ光が刺激用走査手段への光路に入射された場合には、刺激用走査手段の作動によりレーザ光を標本上の任意の位置に照射して、標本に光刺激を与えることができる。この場合に、光路の切替を上記電気光学偏向素子で行うことにより、きわめて高速に観察光と刺激光とを切り替えて、走査画素毎に、観察と光刺激とをほぼ同時に行うことができる。
【0020】
また、上記発明においては、前記レーザ光源が、異なる波長のレーザ光を発振する複数の光源を備え、前記電気光学偏向素子が、前記光源からのレーザ光の交差する位置に配置されていることとしてもよい。
このようにすることで、異なる波長のレーザ光を観察光および刺激光として高速で切り替えて標本の観察と光刺激とを走査画素単位でほぼ同時に行うことができる。
【0021】
また、上記発明においては、前記レーザ光源が、異なる波長のレーザ光を発振する複数の光源を備え、前記電気光学偏向素子が、これらの光源から発せられ相互に平行に配された複数のレーザ光の光路に光軸方向に隣接して配置され相互に逆方向に電圧が加えられる2つの前記電気光学結晶を備えることとしてもよい。
このようにすることで、一方の電気光学結晶により一方向に偏向されたレーザ光を他方の電気光学結晶により逆方向に偏向させて、相互にほぼ平行な2つの光路に選択的にレーザ光を出射させることができる。
【0022】
また、上記発明においては、前記電気光学偏向素子と前記観察用走査手段または前記電気光学偏向素子と前記刺激用走査手段との間の少なくとも一方に、光ファイバが配置されていることとしてもよい。
このようにすることで、隣接する2つの電気光学結晶を通過することでほぼ平行な光路を維持したまま光ファイバに精度よく入射させ、観察用走査手段または刺激用走査手段へそれぞれ導くことができる。
【0023】
また、上記発明においては、前記制御手段が、前記電気光学偏向素子からの光ファイバへのレーザ光の入射角度を変化させ、光ファイバへの入射光量を調整するよう前記電気光学偏向素子に加える電圧を制御することとしてもよい。
このようにすることで、光変調手段を別個に設けることなく、標本に照射する光の強度を調節することができる。
【0024】
また、上記発明においては、前記制御手段が、前記観察用走査手段による標本へのレーザ光の各1画素照射時間内において前記電気光学偏向素子に加える電圧を切り替えることとしてもよい。
このようにすることで、電気光学偏向素子に加える電圧を切り替えて、走査画素毎に、切り替えた複数のレーザ光を照射することができる。
【0025】
また、上記発明においては、前記制御手段が、前記観察用走査手段による標本へのレーザ光の各1画素照射時間内において、観察用走査手段への光路と刺激用走査手段への光路とを切り替える時間比率を調節することとしてもよい。
このようにすることで、観察用走査手段による観察光の照射時間と、刺激用走査手段による刺激光の照射時間との比率を調節し、走査画素単位で、光刺激の程度を調節しつつ観察を行うことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、市販のレーザ光源を簡単な構成で効率よく導入でき、光路分岐や波長の異なるレーザ光の合成などの照明光の切替を1画素単位以下の速度で行うことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の一実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡1について、図1〜図9を参照して以下に説明する。
本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡1は、図1に示されるように、レーザ光を出射する光源ユニット2と、観察用光学系3と、刺激用光学系4と、これら光学系3,4に対してそれぞれレーザ光を導く2本の光ファイバ5,6と、これら光学系3,4を合流させるダイクロイックミラー7と、標本Sに対し、レーザ光を照射し、標本Sから発せられる蛍光を集光する対物レンズ8と、これらを制御する制御ユニット9とを備えている。図中、符号10は対物レンズ8により集光された標本Sからの光を結像させる結像レンズである。
【0028】
光源ユニット2は、異なる波長λ1,λ2のレーザ光を発振し、相互に交差する光軸に沿ってレーザ光を出射するよう配置された2つのレーザ光源(光源)11,12と、これらレーザ光源11,12からのレーザ光の交差位置に配置された電気光学偏向素子13と、該電気光学偏向素子13を通過したレーザ光を前記2本の光ファイバ5,6の端面に入射させるカップリングレンズ14,15と、前記電気光学偏向素子13から所定の光路に出射されたレーザ光を一方のカップリングレンズ15に導くミラー16およびダイクロイックミラー17とを備えている。図中、符号18はシャッタ、符号19は調光用のNDフィルタである。
【0029】
前記電気光学偏向素子13は、電流の注入により屈折率のグラデーションが誘起される電気光学結晶20と、該電気光学結晶20を挟んで対向配置される一対の電極21a,21bとを備えている。前記電気光学結晶20は、例えば、カー定数が3×10−16m2/V2以上のものであり、KTa1−xNbxO3により構成されている。このような電気光学結晶20は、例えば、次の文献に開示されたものを使用できる。
「Nakamura et al., Wide-angle, low-voltage
electro-optic beam deflection based on space-charge-controlled mode of
electrical conduction in KTa1-xNbxO3, Applied Physics
Letters 89,
131115,
2006」
【0030】
この電気光学結晶20の両端の電極21a,21bに加える電圧と屈折率のグラデーションの関係を図2に示す。
この電気光学偏向素子13では、電気光学結晶20に入射したレーザ光は、図3に示されるように、屈折による進行方向の変化が結晶中を進行するに伴って累積する。このようにして電気光学結晶20に付与した電界の方向に大きな偏向角を得ることができるようになっている。
【0031】
なお、電界を付与しない場合には、レーザ光は、図3に破線で示すように、電気光学結晶20中を直進する。したがって、付与する電界の強度に応じて偏向角を自在に制御できるようになっている。
【0032】
前記観察用光学系3は、光ファイバ5を介して導かれたレーザ光を略平行光にするコリメータレンズ22と、該コリメータレンズ22により略平行光にされたレーザ光を2次元的に走査する走査手段(観察用走査手段)23と、該走査手段23により走査されたレーザ光を集光して中間像を結像させる瞳投影レンズ24とを備えている。
走査手段23は、例えば、相互に交差する2方向にそれぞれ揺動可能な2枚のガルバノミラーを近接して配置した、いわゆる近接ガルバノミラーである。
【0033】
また、観察用光学系3には、対物レンズ8により集光され、結像レンズ10、ダイクロイックミラー7、瞳投影レンズ24、走査手段23を介して戻る蛍光をレーザ光の光路から分岐するダイクロイックミラー25と、分岐された蛍光を集光させる共焦点レンズ26と、該共焦点レンズ26の焦点位置近傍に配置された共焦点ピンホール27と、該共焦点ピンホール27を通過した蛍光を波長毎に分離するダイクロイックミラー28と、分離された波長毎の蛍光をそれぞれ検出する2つの光検出器29,30とが設けられている。図中、符号31はミラー、符号32はバリアフィルタである。
【0034】
前記刺激用光学系4は、光ファイバ6を介して導かれたレーザ光を略平行光にするコリメータレンズ33と、該コリメータレンズ33により略平行光にされたレーザ光を2次元的に位置調節する走査手段(刺激用走査手段)34と、該走査手段34により走査されたレーザ光を集光して中間像を結像させる瞳投影レンズ35とを備えている。刺激用光学系4用の走査手段34を備えることにより、観察位置(観察用光学系3によって観察用レーザ光を照射する位置)とは独立した任意の位置に刺激用レーザ光を照射することができる。
【0035】
前記制御ユニット9は、各光検出器29,30により検出された蛍光の強度情報と、そのときの走査手段23による走査位置情報とを受信して対応づけて記憶するようになっている。また、制御ユニット9は、前記走査手段23による標本Sへのレーザ光の走査に同期して前記電気光学偏向素子13の電極21a,21bに加える電圧を切り替えるようになっている。本実施形態では、電極21a,21bへの電圧のかけ方として、図2のようにA〜Dの4種類のパターンがある。それぞれの場合におけるレーザ光の進み方が図4に示されている。図4は光源ユニット2を拡大して図示したもので、(a)〜(d)はそれぞれ、図2に示したA〜Dのように電圧を加えた場合に対応している。
【0036】
図4(a)では、レーザ光源11からのレーザ光が観察用光学系3へ導入され、レーザ光源12からのレーザ光は光路外へ偏向される。図4(b)では、レーザ光源11からのレーザ光は光路外へ偏向され、レーザ光源12からのレーザ光が観察用光学系3に導入される。図4(c)では、レーザ光源11からのレーザ光が刺激用光学系4に導入され、レーザ光源12からのレーザ光は光路外へ偏向される。図4(d)では、レーザ光源11からのレーザ光は光路外へ偏向され、レーザ光源12からのレーザ光が刺激用光学系4に導入される。
【0037】
具体的には、観察用光学系3に入射させるレーザ光の波長を切り替える場合に、図5に示されるように、電気光学偏向素子13の電極21a,21bに加える電圧を1走査画素内において反転させるように切り替える。これは、図2におけるA,Bを1画素毎に交互に切り替えることに相当する。これにより、2つのレーザ光源11,12からのレーザ光は、図4(a),(b)に示されるように、カップリングレンズ14に向かう同一の光路に交互に指向され、光ファイバ5を介して観察用光学系3に導かれるようになっている。図中、記号Bはレーザ光の出射される出射口を示している。
【0038】
そして、波長λ1のレーザ光を標本Sに照射したときには、標本Sから発せられた蛍光を光検出器29で、波長λ2のレーザ光を標本Sに照射したときには、標本Sから発せられた蛍光を光検出器30で、それぞれ時分割で検出するようになっている。
このようにすることで、1走査画素単位の時分割蛍光検出を行うことができ、各波長間のデータ取得の時間差をきわめて小さくすることができる。また、観察用光学系3への光路中に波長を合成するダイクロイックミラーを設ける必要がなく、少ない損失でレーザ光を観察用光学系3に導くことができる。
【0039】
また、標本S上のある1点に波長λ1のレーザ光で光刺激を与えながら、波長λ1のレーザ光で蛍光観察を行う場合には、図6に示されるように、電気光学結晶20に加える電圧値を2段階に切り替える。これは、図2のA.Cを1画素毎に交互に切り替えることに相当する。これにより、電気光学結晶20に発生する屈折率の傾斜を変化させ、図4(a),(c)に示されるように、波長λ1のレーザ光をカップリングレンズ14に向かう光路と、カップリングレンズ15に向かう光路とにそれぞれ指向させ、光ファイバ5,6を介して観察用光学系3および刺激用光学系4にそれぞれ交互に導くことができる。光刺激は標本S上の1点を断続的に照射するパルス状の光刺激になる。
【0040】
このようにすることで、光刺激と観察とを時分割で行うことができ、刺激用のレーザ光により極大化した蛍光を検出することがなく、刺激に対する蛍光輝度の変化を正確に把握することができる。また、刺激用のレーザ光は高速のパルス状に点滅させられるので、ほぼ連続的な刺激と考えることができる。
【0041】
また、光刺激を光検出器29におけるアナログ積算の放電期間に行う場合、図7に示されるように、光刺激に要する時間が観察に要する時間に比べて短くなる。刺激光は一般に強くすることが望まれ、観察光は弱くすることが望まれる。したがって、この場合には、電気光学結晶20に加える電圧を微調整することにより、光ファイバ5に入射するレーザ光の角度を変化させ、光ファイバ5に入射する観察用のレーザ光の光量を調節することが好ましい。また、電気光学結晶20と光ファイバ5との間に光量調節用のNDフィルタ(図示略)を配置することにしてもよい。
このようにすることで、光検出器29の放電期間を有効に利用して光刺激を行うので、光刺激を時分割で行うことにより蛍光検出効率の低下がまったく生じないという利点がある。
【0042】
また、図8に示されるように、光刺激用のレーザ光の照射時間と観察用のレーザ光の照射時間との比率を変化させることにしてもよい。例えば、図8に示す例では、1画素への照射時間(例えば、2μsec)を観察と光刺激とで1:4に分割している。このようにすることで、光刺激と観察の光量分割比率を電気光学結晶20への電圧の印加時間を調節するだけで行うことができ、分割比率を調節するための別個の手段が不要となる。したがって、簡単な構成で信頼性が高いレーザ走査型顕微鏡1を提供することができる。
【0043】
さらに、図8に示す例では、1画素の期間内(2μsec)で観察および光刺激を4回に分割して、1回の観察光照射時間を0.1μsec、1回の刺激光照射時間を0.4μsecとして、交互に4回繰り返すように照射している。このようにすることで、刺激光の照射の連続性を高めることができる。1画素内での切替の繰り返し回数(分割数)を増やせば、刺激の連続性をさらに高めることができる。
【0044】
また、図9に示されるように、標本上のある1点に波長λ1のレーザ光による光刺激を行いながら、波長λ1,λ2のレーザ光による各画素内における時分割切替を行うことにより、2重染色標本Sの蛍光観察を行うこととしてもよい。これは1画素内で図2におけるA,C,B,Cの順に切り替えることに相当する。具体的には、一画素に対応する標本S上の範囲内において、まず、波長λ1の観察用のレーザ光を照射し、次いで、波長λ1の光刺激用のレーザ光を照射し、その後波長λ2の観察用のレーザ光を照射し、最後に再度波長λ1の光刺激用のレーザ光を照射する。
【0045】
そして、波長λ1のレーザ光を照射することにより標本Sから発生する蛍光は一方の光検出器29により検出し、波長λ2のレーザ光を照射することにより標本Sから発生する蛍光は他方の光検出器30により検出する。この場合に、各光検出器29,30による蛍光検出のアナログ積算の放電期間に光刺激を行う。
【0046】
このようにすることで、2重染色標本Sの時分割蛍光観察と、ほぼ同時に時分割での光刺激を走査画素単位で切り替えて行うので、観察用の異なる複数の波長のレーザ光をきわめて短い時間差で照射することができ、また、刺激用のレーザ光により極大化する蛍光を検出することなく蛍光観察を行うことができる。また、光検出器29,30の放電期間に光刺激を行うので、光刺激を時分割で行うことによる蛍光検出効率の低下を生じさせずに済む。
【0047】
なお、本実施形態においては、標本S上の任意の1点について光刺激を行う場合を例示して説明したが、これに代えて、標本S上において光刺激用のレーザ光を螺旋状に走査させることにしてもよい。この場合に、間欠的に照射される光刺激用のレーザ光のスポットの移動距離が、スポット径以下となるようにすることで、螺旋状に連続的に光刺激を与えることができる。
【0048】
また、標本S上において光刺激用のレーザ光を任意の領域内において往復ラスタスキャン、ラインスキャンあるいはフリーラインスキャン方式により走査することにしてもよい。このようにすることで、観察と光刺激との同時性を損なうことなく、ポイント刺激より広範囲の任意領域に対する光刺激を行うことができる。
【0049】
また、本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡1においては、2つのレーザ光源11,12からの波長λ1,λ2の異なる2つのレーザ光を切り替えることとしたが、これに代えて、図10〜図12に示されるように、3つのレーザ光源36からの波長λ1〜λ3の異なる3つのレーザ光を切り替えることにしてもよい。上記実施形態に加えて、電気光学結晶20に電圧をかけない状態で、カップリングレンズ14に波長λ3のレーザ光が指向される位置にレーザ光源36を配置している。
【0050】
そして、図11および図12に示されるように、電気光学偏向素子に加える電圧値および電圧の方向をを切り替えて、3つのレーザ光源11,12,36からの波長λ1,λ2,λ3のレーザ光を2つのカップリングレンズ14,15に向けてそれぞれ指向させることができる。
【0051】
具体的には、次のようになる。
(a) 電極21a=0V、電極21b=200Vのとき、観察用光学系3=λ1(レーザ光源11)、刺激用光学系4=なし。
(b) 電極21a=200V、電極21b=0Vのとき、観察用光学系3=λ2(レーザ光源12)、刺激用光学系4=なし。
(c) 電極21a=0V、電極21b=0Vのとき、観察用光学系3=λ3(レーザ光源36)、刺激用光学系4=なし。
(d) 電極21a=0V、電極21b=100Vのとき、観察用光学系3=なし、刺激用光学系4=λ1(レーザ光源11)。
(e) 電極21a=100V、電極21b=0Vのとき、観察用光学系3=なし、刺激用光学系4=λ2(レーザ光源12)。
(f) 電極21a=0V、電極21b=130Vのとき、観察用光学系3=なし、刺激用光学系4=λ3(レーザ光源36)。
このようにすることで、例えば、図11に示されるように、波長λ1のレーザ光により光刺激を行いながら、波長λ2,λ3のレーザ光で蛍光観察を各走査画素単位で行うことができる。
【0052】
そして、このように構成することで、電気光学結晶20に生じる屈折率のグラデーションを利用して、紫外光から2光子励起用近赤外レーザ光(例えば、920nm)までのレーザ光を使用することができる。
【0053】
次に、本発明の第2の実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡について、図13を参照して以下に説明する。
本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡は、図13に示される光源ユニット40を備えている。
なお、本実施形態の説明において、上述した第1の実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡1と構成を共通とする箇所には同一符号を付して説明を省略する。
【0054】
光源ユニット40は、略平行な光軸を有する波長の異なる2つのレーザ光をそれぞれ照射するレーザ光源41,42と、各レーザ光源41,42からのレーザ光を透過させる電気光学偏向素子43と、該電気光学偏向素子43から出射された2本の平行な光軸に沿うレーザ光をそれぞれ観察用光学系3および刺激用光学系4に接続される光ファイバ5,6に入射させるカップリングレンズ14,15とを備えている。図中、符号44はミラーである。
【0055】
本実施形態において電気光学偏向素子43は、光軸方向に隣接して配置される2つの電気光学結晶45,46と、各電気光学結晶45,46を挟む対向電極47a,47b;48a,48bとを備えている。そして、これら対向電極47a,47b;48a,48bには、相互に逆方向に同じ大きさの電圧が加えられるようになっている。
【0056】
すなわち、図14(a)に示されるように、一方の電気光学結晶45により一方向に偏向された波長λ1のレーザ光は、他方の電気光学結晶46により他方向に偏向され、略平行な光軸を保持しつつ一方のカップリングレンズ15に入射させられるようになっている。そして、図14(b)に示されるように、各電気光学結晶45,46の対向電極47a,47b;48a,48bに加える電圧値を切り替えることにより、偏向角度の変化を利用して他方のカップリングレンズ14に入射させられるようになっている。
【0057】
また、図14(a),(d)に示されるように、電気光学結晶45,46に加える電圧を逆転させることにより、電気光学結晶45によって一方向に偏向された波長λ2のレーザ光を他方の電気光学結晶46により他方向に偏向し、略平行な光軸を保持しつつカップリングレンズ14に入射させるようになっている。そして、図14(c)に示されるように、各電気光学結晶45,46の対向電極47a,47b;48a,48bに加える電圧値を切り替えることにより、偏向角度の変化を利用して波長λ2のレーザ光をカップリングレンズ15に入射させるようになっている。
【0058】
このようにすることで、観察用のレーザ光および光刺激用のレーザ光として、異なる波長λ1,λ2のレーザ光を同軸でそれぞれ電気光学偏向素子43から出射させることができ、観察用および光刺激用のいずれについても波長合成用のダイクロイックミラーを不要とすることができるという利点がある。
【0059】
次に、本発明の第3の実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡について、図15を参照して以下に説明する。
本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡は、図15に示される光源ユニット50を備えている。
なお、本実施形態の説明において、上述した第1の実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡1と構成を共通とする箇所には同一符号を付して説明を省略する。
【0060】
この光源ユニット50は、3つの異なる波長λ1,λ2,λ3のレーザ光を出射する3つのレーザ光源51,52,53と、これらのレーザ光源51,52,53から出射されたレーザ光を合波するミラー54およびダイクロイックミラー55,56と、合波されたレーザ光を波長毎に異なる角度で分離する回折格子57と、分離された3つのレーザ光を所定の角度をなして交差するように集光する集光レンズ58,59と、該集光レンズ58,59によるレーザ光の交差位置に配置された電気光学偏向素子60と、2つの光ファイバ5,6に入射させるカップリングレンズ14,15およびミラー16およびダイクロイックミラー17とを備えている。
本実施形態における電気光学偏向素子60の動作は、第1の実施形態における図10〜図12の動作と同様である。
【0061】
このようにすることで、現実的にレーザ光源51,52,53のサイズが大きく、第1の実施形態の方法では、3つのレーザ光源51,52,53を空間的に配置すると、大きなスペースを要してしまう場合にも、比較的小さなスペースに配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡の全体構成を示す模式図である。
【図2】図1のレーザ走査型顕微鏡の光源ユニットに備えられた電気光学偏向素子の電圧と屈折率との関係を示すグラフである。
【図3】図2の電気光学偏向素子の電気光学結晶内におけるレーザ光の屈折の状態を示す模式図である。
【図4】図1のレーザ走査型顕微鏡の光源ユニットの動作を説明する説明図である。
【図5】図4(a)、(b)の動作を切り替えた場合における電極に加える電圧と出射されるレーザ光との関係を示すグラフである。
【図6】図4(a),(c)の動作を切り替えた場合における電極に加える電圧と出射されるレーザ光との関係を示すグラフである。
【図7】図6の動作において、光検出器の放電期間内に刺激用レーザ光を出射する場合を説明するグラフである。
【図8】図6の動作において、観察用レーザ光と刺激用レーザ光の照射時間の比率を変化させる場合を説明するグラフである。
【図9】図4(a),(b),(c)の動作を切り替えた場合における電極に加える電圧と出射されるレーザ光との関係を示すグラフである。
【図10】図1のレーザ走査型顕微鏡の変形例であって、3つのレーザ光源を有する光源ユニットを示す模式図である。
【図11】図10の光源ユニットにより、2つの異なる波長による観察と、さらに異なる波長による光刺激とを時分割で行う動作を説明するグラフである。
【図12】図10の光源ユニットの動作を説明する説明図である。
【図13】本発明の第2の実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡の光源ユニットを示す模式図である。
【図14】図13の光源ユニットの動作を説明する説明図である。
【図15】本発明の第3の実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡の光源ユニットを示す模式図である。
【符号の説明】
【0063】
A 標本
λ1,λ2,λ3 波長
1 レーザ走査型顕微鏡
3 観察光学系(検出光学系)
5,6 光ファイバ
9 制御ユニット(制御手段)
11,12,36,41,42,51,52,53 レーザ光源(光源)
13,43,60 電気光学偏向素子
20,45,46 電気光学結晶
23 走査手段(観察用走査手段)
34 走査手段(刺激用走査手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光源と、
該レーザ光源から出射されるレーザ光を標本に対して走査する観察用走査手段と、
標本からの光を検出する検出光学系と、
前記レーザ光源と前記観察用走査手段との間に配置され、電流の注入により屈折率のグラデーションが誘起される電気光学結晶を備える電気光学偏向素子と、
該電気光学偏向素子に加える電圧を前記観察用走査手段による走査に同期して制御する制御手段とを備えるレーザ走査型顕微鏡。
【請求項2】
前記電気光学結晶が、KTa1−xNbxO3である請求項1に記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項3】
前記レーザ光源が、異なる波長のレーザ光を発振する複数の光源を備え、
前記電気光学偏向素子が、前記光源からのレーザ光の交差する位置に配置され、
前記制御手段が、前記電気光学偏向素子に加える電圧を制御して、該電気光学偏向素子からのレーザ光の出射方向を切り替えて、前記観察用走査手段に導くレーザ光の波長を時分割で切り替える請求項1に記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項4】
標本に光刺激を与えるレーザ光の照射位置を調節する刺激用走査手段を備え、
前記電気光学偏向素子が、前記観察用走査手段への光路と前記刺激用走査手段への光路との分岐点に配置され、
前記制御手段が、前記電気光学偏向素子に加える電圧を制御して、該電気光学偏向素子からのレーザ光の出射方向を前記観察用走査手段への光路と前記刺激用走査手段への光路とを切り替える請求項1に記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項5】
前記レーザ光源が、異なる波長のレーザ光を発振する複数の光源を備え、
前記電気光学偏向素子が、前記光源からのレーザ光の交差する位置に配置されている請求項4に記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項6】
前記レーザ光源が、異なる波長のレーザ光を発振する複数の光源を備え、
前記電気光学偏向素子が、これらの光源から発せられ相互に平行に配された複数のレーザ光の光路に光軸方向に隣接して配置され相互に逆方向に電圧が加えられる2つの前記電気光学結晶を備える請求項1または請求項4に記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項7】
前記電気光学偏向素子と前記観察用走査手段または前記電気光学偏向素子と前記刺激用走査手段との間の少なくとも一方に、光ファイバが配置されている請求項6に記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項8】
前記制御手段が、前記電気光学偏向素子からの光ファイバへのレーザ光の入射角度を変化させ、光ファイバへの入射光量を調整するよう前記電気光学偏向素子に加える電圧を制御する請求項7に記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項9】
前記制御手段が、前記観察用走査手段による標本へのレーザ光の各1画素照射時間内において前記電気光学偏向素子に加える電圧を切り替える請求項1に記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項10】
前記制御手段が、前記観察用走査手段による標本へのレーザ光の各1画素照射時間内において、観察用走査手段への光路と刺激用走査手段への光路とを切り替える時間比率を調節する請求項4に記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項1】
レーザ光源と、
該レーザ光源から出射されるレーザ光を標本に対して走査する観察用走査手段と、
標本からの光を検出する検出光学系と、
前記レーザ光源と前記観察用走査手段との間に配置され、電流の注入により屈折率のグラデーションが誘起される電気光学結晶を備える電気光学偏向素子と、
該電気光学偏向素子に加える電圧を前記観察用走査手段による走査に同期して制御する制御手段とを備えるレーザ走査型顕微鏡。
【請求項2】
前記電気光学結晶が、KTa1−xNbxO3である請求項1に記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項3】
前記レーザ光源が、異なる波長のレーザ光を発振する複数の光源を備え、
前記電気光学偏向素子が、前記光源からのレーザ光の交差する位置に配置され、
前記制御手段が、前記電気光学偏向素子に加える電圧を制御して、該電気光学偏向素子からのレーザ光の出射方向を切り替えて、前記観察用走査手段に導くレーザ光の波長を時分割で切り替える請求項1に記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項4】
標本に光刺激を与えるレーザ光の照射位置を調節する刺激用走査手段を備え、
前記電気光学偏向素子が、前記観察用走査手段への光路と前記刺激用走査手段への光路との分岐点に配置され、
前記制御手段が、前記電気光学偏向素子に加える電圧を制御して、該電気光学偏向素子からのレーザ光の出射方向を前記観察用走査手段への光路と前記刺激用走査手段への光路とを切り替える請求項1に記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項5】
前記レーザ光源が、異なる波長のレーザ光を発振する複数の光源を備え、
前記電気光学偏向素子が、前記光源からのレーザ光の交差する位置に配置されている請求項4に記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項6】
前記レーザ光源が、異なる波長のレーザ光を発振する複数の光源を備え、
前記電気光学偏向素子が、これらの光源から発せられ相互に平行に配された複数のレーザ光の光路に光軸方向に隣接して配置され相互に逆方向に電圧が加えられる2つの前記電気光学結晶を備える請求項1または請求項4に記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項7】
前記電気光学偏向素子と前記観察用走査手段または前記電気光学偏向素子と前記刺激用走査手段との間の少なくとも一方に、光ファイバが配置されている請求項6に記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項8】
前記制御手段が、前記電気光学偏向素子からの光ファイバへのレーザ光の入射角度を変化させ、光ファイバへの入射光量を調整するよう前記電気光学偏向素子に加える電圧を制御する請求項7に記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項9】
前記制御手段が、前記観察用走査手段による標本へのレーザ光の各1画素照射時間内において前記電気光学偏向素子に加える電圧を切り替える請求項1に記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項10】
前記制御手段が、前記観察用走査手段による標本へのレーザ光の各1画素照射時間内において、観察用走査手段への光路と刺激用走査手段への光路とを切り替える時間比率を調節する請求項4に記載のレーザ走査型顕微鏡。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−158326(P2008−158326A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−347893(P2006−347893)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
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