説明

レース編地

【課題】高い回復性、耐熱性を有し、製品のスリップイン、解れ防止機能を有するレース編地を提供する。
【解決手段】ポリウレタン化合物を5重量%〜40重量%含有し、熱機械測定分析(TMA)による圧縮変形開始温度が150℃以上180℃以下であり、かつ50%伸長下、180℃における熱切断秒数が30秒以上であるポリウレタンウレア弾性繊維が少なくとも一部に用いられてなることを特徴とするレース編地。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レース編地及びこれに用いた衣料に関し、特に、主にポリウレタン弾性繊維を混用した解れやスリップインの防止に有用でかつ風合いが良好なレース編地に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン弾性繊維は、弾性機能に優れた伸縮性繊維であり、ポリウレタン弾性繊維が含有されたレース編地等の経編地は、ショーツ、ガードル、ブラジャー等のファンデーション、スリップ、キャミソール等のランジェリーその他の女性用下着、ボディスーツ、水着、レオタード等のスポーツウエア、その他のアウター等の各種衣料において、広く使用されている。
ポリウレタン弾性繊維は、主としてセグメントポリウレタンからなる繊維であり、高分子量ポリオール、ジイソシアネート、鎖延長剤を主原料としたブロック共重合体を基本としており、化学構造的には屈曲性に富むソフトセグメントと、水素結合による強い分子間力により結晶構造をつくるハードセグメントから構成される。そして、ハードセグメントを構成する鎖延長剤の種類によって、低分子ジアミンを用い、ウレア結合を有するポリウレタン−ウレアタイプと、低分子ジオールを用い、ウレタン結合からなるポリウレタン−ウレタンタイプに分類することができる。
【0003】
ハードセグメントの水素結合力は、耐熱性などの物性に大きく影響し、ウレア結合の方がウレタン結合よりも水素結合力が強いため、ポリウレタン−ウレアタイプの方が耐熱性に優れ、また現在生産されているポリウレタン弾性繊維の主流となっていることから、幅広い分野で用いられている。本発明では、このようなポリウレタン−ウレアタイプの重合体(以下、ポリウレタンウレア重合体という)を主成分としてなる弾性繊維をポリウレタンウレア弾性繊維と称する。一方、ポリウレタン−ウレタンタイプの重合体からなる弾性繊維は、ポリウレタンウレア弾性繊維に比べて耐熱性や回復性に劣るが、逆に比較的低温でセットできるという特徴を活かし、例えばウール織物や、ゾッキパンストなどに適用されている。
【0004】
ポリウレタン弾性繊維が含有されたレース編地では、切りっ放しした編地の端からポリウレタン弾性繊維の抜け、いわゆる「スリップイン」を起こしやすい問題点がある。さらに切りっ放ししたレース編地の端から解れやすいといった問題がある。これに対しては、レーザー、ヒートカッターにより、編地縁を溶融することである程度解れを解決できるが、溶融した編地縁が固くなるため、着用感が悪化し、好ましくない。
ポリウレタン−ウレタンタイプからなる低融点のポリウレタン弾性繊維を用い、それ以外の糸をプレーティング編により編みたて、ヒートセット加工を施した解れ止め機能がある編物を用い、同様に切りっ放し開口部を有する衣類が提案されている(特許文献1または2参照)。
【0005】
しかしながら、ポリウレタン−ウレタンタイプのポリウレタン弾性繊維は、生地や製品を型止めするためのセット工程や、染色工程での熱による物性低下が大きく、ポリウレタンウレア弾性繊維が通常使用される加工温度条件では、生地の回復性の低下や、さらにポリウレタン弾性繊維の糸切れが起こることがあり、この生地を使用する製品では、加工条件に熱的制約があるという問題がある。特にポリエステル繊維との組み合わせでは、120℃〜135℃の染色加工においてポリウレタン弾性繊維の糸切れが起きるため、ポリエステル繊維との組み合わせには用いることが出来ない。
さらに、例えばポリウレタン−ウレタンタイプと、ポリウレタン−ウレアタイプのように、高温側融点の異なる少なくとも2種のポリウレタン成分を含有する紡糸液から紡糸されたポリウレタン弾性繊維を用いた繊維構造物を、高温側融点が低いポリウレタン成分の熱変形温度以上で熱処理することにより、解れを生じ難い伸縮性繊維構造物の製造方法が提案されている(特許文献3参照)。
【0006】
しかし、本製造方法で得られる生地のカールや解れ抑制効果は、上述の低融点ポリウレタン弾性糸を用いた場合に比べて十分満足とは言えない。また、構造の異なる2種以上のポリウレタン成分を含有させることにより、ポリウレタン−ウレアタイプが持っている高い回復性や伸度といった弾性繊維の基本性能が低下してしまう可能性については、考慮されていない。
【特許文献1】特開2005−113349号公報
【特許文献2】特開2005−350800号公報
【特許文献3】特開2005−330617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高い回復性、耐熱性を有し、スリップインや解れが抑制され、風合いが改善され、優れた伸長物性を保持したレース編地を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、レース編地のスリップインや解れ防止性を向上するためのポリウレタン弾性繊維として、特定のポリウレタン化合物を含有し、熱変形性と耐熱性を有するポリウレタンウレア弾性繊維が用いられたレース編地により、上記課題を解決できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
すなわち本発明は、以下のとおりである。
(1) ポリウレタン化合物を5重量%〜40重量%含有し、熱機械測定分析(TMA)による圧縮変形開始温度が150℃以上、180℃以下であり、かつ50%伸長下、180℃における熱切断秒数が30秒以上であるポリウレタンウレア弾性繊維が少なくとも一部に用いられてなることを特徴とするレース編地。
(2) ポリウレタンウレアが、炭素数2〜10の一種以上のアルキレンエーテルからなるポリアルキレンエーテルジオールを原料とすることを特徴とする、上記(1)記載のレース編地。
(3) ポリウレタン化合物が、炭素数2〜10の一種以上のアルキレンエーテルからなるポリアルキレンエーテルジオールを原料とすることを特徴とする、上記(1)または(2)記載のレース編地。
(4) ポリウレタン化合物を5重量%〜40重量%含有し、熱機械測定分析(TMA)による圧縮変形開始温度が150℃以上180℃以下であり、かつ50%伸長下、180℃における熱切断秒数が30秒以上であるポリウレタンウレア弾性繊維を少なくとも一部に用いて編成した後、150℃〜200℃でプレセットし、150℃〜200℃でファイナルセットすることを特徴とする編地の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のレース編地は、加工処理時の熱により、生地中でポリウレタンウレア弾性繊維同士、またはポリウレタンウレア弾性繊維と相手糸との接触点で、生地への張力、圧縮またはポリウレタンウレア弾性繊維自身の残留応力により、ポリウレタンウレア弾性繊維の圧縮変形が起こる。この変形点で、ポリウレタンウレア弾性繊維同士、またはポリウレタンウレア弾性繊維への相手糸の固着が起こるため、生地組織からポリウレタンウレア弾性繊維や相手糸が抜けにくくなり、スリップインや解れが抑制されたレース編み地を得ることができる。そのため、縫製時における縁始末が不要となり、着用感の優れた衣料品を提供できる。このため、本発明のレース編地は、ショーツ、ガードル、ブラジャー等のファンデーション、スリップ、キャミソール等のランジェリー、その他の女性用下着、ボディースーツ、水着、レオタード等のスポーツウェア、その他のアウター等の用途において、着用感に優れた編地として利用される。
【0011】
また、本発明のレース編地に用いるポリウレタンウレア弾性繊維は、耐熱性、回復性に優れるため、加工処理における熱的条件の制約が少なく、ポリウレタンウレア弾性繊維が使用される繊維製品で一般的に用いられる、あらゆる相手糸との組合せの製品を提供することができる。またポリウレタン−ウレタンタイプのポリウレタン弾性繊維では用いることが出来ないポリエステル繊維との組み合わせも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のレース編地は、後述する特定のポリウレタンウレア弾性繊維が少なくとも一部に用いられてなることを特徴とする。これにより、本発明の効果を達成することができる。
本発明のレース編地に用いられるポリウレタンウレア弾性繊維は、ポリウレタンウレア重合体を主成分とする組成物からなる。耐熱性の高いポリウレタンウレア重合体を主成分とすることによって、加工処理時の熱での糸切れが起こりにくく、良好な伸縮物性を有する生地が得られる。ポリウレタンウレア弾性繊維におけるポリウレタンウレア重合体の含有量は、このポリウレタンウレア弾性繊維およびその生地製品の耐熱性、物理的特性の観点から、好ましくは60重量%以上であり、より好ましくは75重量%以上である。
【0013】
本発明のレース編地に用いられるポリウレタンウレア重合体は、例えば、高分子量ポリオール、ジイソシアネート、低分子ジアミン、および単官能性活性水素原子を有する末端停止剤を反応させて得ることができる。
【0014】
高分子量ポリオールとしては、実質的に線状のホモ又は共重合体からなる各種ジオール、例えば、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリエステルアミドジオール、ポリアクリルジオール、ポリチオエステルジオール、ポリチオエーテルジオール、ポリカーボネートジオールもしくはこれらの混合物、又はこれらの共重合物等が挙げられる。好ましくはポリアルキレンエーテルグリコールであり、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリオキシペンタメチレングリコール、炭素数が2から10の異なったアルキレンエーテルからなる共重合ポリアルキレンエーテルグリコール、又はこれらの混合物等である。中でも、優れた弾性機能を示す、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、炭素数が2から10の異なったアルキレンエーテルからなる共重合ポリアルキレンエーテルグリコールが好適であり、炭素数が2から10の異なったアルキレンエーテルからなる共重合ポリアルキレンエーテルグリコールがより好適である。炭素数が2から10の異なったアルキレンエーテルからなる共重合ポリアルキレンエーテルグリコールの好適な例としては、テトラメチレン基と2,2−ジメチルプロピレン基から成る共重合ポリエーテルグリコール、テトラメチレン基と3−メチルテトラメチレン基から成る共重合ポリエーテルグリコールがあげられる。また高分子ポリオールの数平均分子量としては500〜5,000が好ましい。より好ましい数平均分子量は、1,000〜3,000である。
【0015】
ジイソシアネートとしては、脂肪族、脂環族、芳香族のジイソシアネートが挙げられる。例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−及び2,6−トリレンジイソシアネート、m−及びp−キシリレンジイシシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチル−キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルジイソシアネート、1,3−及び1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、3−(α−イソシアナートエチル)フェニルイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、又はこれらの混合物、又はこれらの共重合物等が挙げられる。好ましくは、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートである。
【0016】
鎖延長剤として用いる低分子ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,2−プロピレンジアミン、1,3−プロピレンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、トリエチレンジアミン、m−キシリレンジアミン、ピペラジン、o−,m−及びp−フェニレンジアミン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、N,N’−(メチレンジ−4,1−フェニレン)ビス[2−(エチルアミノ)−ウレア]等が挙げられる。これらは単独で、又は混合して用いることができる。好ましくは、エチレンジアミン単独、又は1,2−プロピレンジアミン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、2−メチル−1,5−ペンタジアミンの群から選ばれる少なくとも1種が5〜40モル%含まれるエチレンジアミン混合物が挙げられる。より好ましくは、エチレンジアミン単独が用いられる。
【0017】
単官能性活性水素原子を有する末端停止剤としては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール、1−ブタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、3−メチル−1−ブタノール等のモノアルコールや、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、t−ブチルアミン、2−エチルヘキシルアミン等のモノアルキルアミンや、ジエチルアミン、ジメチルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジ−t−ブチルアミン、ジイソブチルアミン、ジ−2−エチルヘキシルアミン、ジイソプロピルアミン等のジアルキルアミンが挙げられる。これらは単独で、又は混合して用いることができる。モノアルコールより1官能性アミンであるモノアルキルアミンまたはジアルキルアミンが好ましい。
【0018】
本発明に用いられるポリウレタンウレア重合体を製造する方法に関しては、公知のポリウレタン化反応の技術を用いることができる。例えば、ポリアルキレンエーテルグリコールとジイソシアネートをジイソシアネート過剰の条件下で反応させ、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを合成し、次いで、このウレタンプレポリマーを低分子ジアミンで鎖伸張反応を行い、ポリウレタンウレア重合体を得ることができる。本発明において好ましいポリマー基質としては、数平均分子量500〜5000のポリテトラメチレンエーテルグリコールおよび/または炭素数が2から10の異なったアルキレンエーテルからなる共重合ポリアルキレンエーテルグリコールに過剰等量のジイソシアナートを反応させて、末端にイソシアネート基を有するプレポリマーを合成し、次いでプレポリマーに低分子ジアミンと1官能性アミンとを反応させて得られるポリウレタンウレア重合体である。
【0019】
ポリウレタン化反応の操作に関しては、ウレタンプレポリマー合成時やウレタンプレポリマーと活性水素含有化合物との反応時に、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド等のアミド系極性溶媒を用いることができる。好ましくはジメチルアセトアミドが用いられる。
【0020】
本発明に用いられるポリウレタンウレア弾性繊維は、熱機械測定分析(TMA)による圧縮変形開始温度が150℃以上180℃以下であることを特徴とする。この温度範囲にあることにより、通常のポリウレタンウレア弾性繊維の混用生地製品の加工条件にて、目的のスリップインや解れ防止機能を得ることができる。スリップインや解れ防止機能を発現させる観点から、ポリウレタンウレア弾性繊維の圧縮変形開始温度は175℃以下であることが好ましく、加工工程における熱処理後の生地製品の回復性などの物理的特性の点から160℃以上であることがより好ましい。
【0021】
また、本発明に用いられるポリウレタンウレア弾性繊維は、生地製品を加工する時の糸切れ耐熱性の観点から、原糸を50%伸長下、180℃の熱体に接触させた際に、破断が起こるまでの時間が30秒以上であることを特徴とする。高温でもポリウレタンウレア弾性繊維が糸切れしにくいため、加工時の温度条件の制約の少ないレース編地を提供することができる。
本発明のレース編地に用いられるポリウレタンウレア弾性繊維は上述のごとく、高温での耐熱性に優れ、かつ、それより低い温度で圧縮変形しやすいという特徴を有する。このような性能は、繊維基質にポリウレタンウレア重合体を用い、さらに特定のポリウレタン化合物を特定量含有させることで発現させることができる。
【0022】
本発明のレース編地に用いられるポリウレタンウレア弾性繊維は、ポリウレタン化合物を5重量%以上、40重量%以下含有する。ポリウレタン化合物の含有量を5重量%以上とすることで、スリップインや解れの防止効果を得ることができるが、40重量%以下とすることで、弾性繊維の破断強伸度、パワー、回復性を損なわず、良好な伸縮物性を有するレース編地を得ることができる。ポリウレタン化合物の含有量は、より好ましくは10重量%以上30重量%以下である。
本発明に用いられるポリウレタンウレア弾性繊維に含有されるポリウレタン化合物は、ハードセグメントがウレタン結合からなる重合体であり、例えば、高分子量ポリオール、イソシアネート化合物、低分子量ポリオールを反応させて得ることができる。また、単官能性活性水素原子を有する末端停止剤を反応させてもよい。
【0023】
高分子量ポリオールとしては、実質的に線状のホモ又は共重合体からなる各種ジオール、例えば、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリエステルアミドジオール、ポリアクリルジオール、ポリチオエステルジオール、ポリチオエーテルジオール、又はこれらの混合物又はこれらの共重合物、または後述する分子中に3つ以上の官能基を有するポリオール等が挙げられる。実質的に線状のホモ又は共重合体からなるポリエーテルグリコールとしては、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリオキシペンタメチレングリコール、炭素数が2から10の異なったアルキレンエーテルからなる共重合ポリアルキレンエーテルグリコール又はこれらの混合物等である。実質的に線状のホモ又は共重合体からなるポリエステルジオールとしては、アジピン酸、フタル酸などの二塩基酸とエチレングリコール、1,4−ブタンジオールなどのグリコール類との縮合脱水反応によるアジペート系ポリエステルジオール、ε−カプロラクトンの開環重合によるポリカプロラクトンジオール、ポリカーボネートジオール等である。高分子ポリオールは、数平均分子量として500〜2,500のものが好ましい。より好ましくは、600〜2,200であり、特に好ましくは、800〜1,800である。
【0024】
イソシアネート化合物としては、脂肪族、脂環族、芳香族のジイソシアネートや後述する分子中に3つ以上の官能基を有するイソシアネート等が挙げられる。ジイソシアネートとしては、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−及び2,6−トリレンジイソシアネート、m−及びp−キシリレンジイシシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチル−キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルジイソシアネート、1,3−及び1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、3−(α−イソシアナートエチル)フェニルイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートもしくはこれらの混合物、又はこれらの共重合物等が挙げられる。好ましくは、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートである。
【0025】
低分子量ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3―プロピレングリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、1,10−デカンジオール、1,3−ジメチロールシクロヘキサン、1,4−ジメチロールシクロヘキサンや後述する分子中に3つ以上の官能基を有する低分子ポリオール等を鎖延長剤として用いることができる。低分子量ポリオールとして好ましくは、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールである。
【0026】
本発明に用いられるポリウレタン化合物を製造する方法に関しては、公知のポリウレタン化反応の技術を用いることができる。例えば、高分子量ポリオールとイソシアネート化合物と低分子量ポリオールの3成分を一括混合し、反応させるワンショット法。または、高分子量ポリオールとイソシアネート化合物をイソシアネート基過剰の条件下で反応させ、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを合成し、次いで、このウレタンプレポリマーを低分子量ポリオールで鎖伸長反応を行うプレポリマー法があるが、いずれの方法でポリウレタン化合物を得てもよい。ポリウレタン化反応の操作に関しては、プレポリマー法におけるウレタンプレポリマー合成時やウレタンプレポリマーとジオールとの反応時に、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド等のアミド系極性溶媒を用いることができる。好ましくはジメチルアセトアミドである。
【0027】
本発明に用いられるポリウレタン化合物は、スリップインや解れを防止する効果を発現させるために、硬度が低いものが好ましい。良好な固着性能を得るために、ポリウレタン化合物の硬度は、JIS−K6253で規定されている硬度が80A以下であることが好ましく、77A以下がより好ましい。
【0028】
本発明に用いられるポリウレタン化合物は、示差走査熱量測定(DSC)において、80℃から、このポリウレタン化合物の分解が始まるまでの温度間で、吸熱ピークを持たないものが好ましい。通常このような吸熱ピークは、ポリウレタン化合物ポリマー中、主に低分子量ポリオールとイソシアネート化合物からなる、ウレタンハードセグメントの融解に起因するものと考えられている。このように吸熱ピークを持たないポリウレタン化合物は、ハードセグメント比率が低いもの、およびハード構造がルーズなもので発現できる。また、ポリウレタン化合物の分解温度は熱重量分析(TG)にて大きな熱減量が起こる温度で測定される。この温度範囲において、DSC測定上で確認できるような、明確な吸熱ピークを持たないこと、すなわち特定の温度で、ハードセグメントの急激な融解が起こらないポリウレタン化合物が含有されることにより、より良好な固着性能が得られるだけでなく、加工処理中の熱によってもポリウレタン化合物の吸熱ピーク温度を境にしたポリウレタンウレア弾性繊維の伸縮機能において良好な回復性を有することができる。
【0029】
このような性能を有するポリウレタン化合物としては、ポリウレタン重合体を得る際に、高分子量ポリオールに対するイソシアネート化合物の当量比を変えることで、ハードセグメントの分子量の比率を下げる方法や、低分子量ポリオールを2種類以上混合して用いる方法、以下に記する架橋型ポリウレタンを用いる方法、後述のポリウレタン重合体の原料として共重合のポリアルキレンエーテルグリコールを用いること等で好適に得ることができる。
【0030】
本発明に用いられるポリウレタン化合物は、ポリウレタンウレア弾性繊維に高い耐熱性と回復性を付与するために、架橋型ポリウレタン化合物がより好適である。本発明において、架橋型ポリウレタン化合物とは、ポリウレタン分子の分岐構造、またはアロファネート結合やイソシアヌレート構造により、ポリウレタン重合体の一部が三次元的な網目構造を有しているものである。架橋型のポリウレタン化合物を得るには、分子中に3つ以上の官能基を有する、高分子量ポリオール、イソシアネート化合物、低分子量ポリオールを用いる方法、ジイソシアネートの反応時にアロファネート結合やイソシアヌレートによる架橋構造を生じさせる方法等がある。成形性の観点から、アロファネート結合による架橋構造を有するものが好ましい。
【0031】
分子中に3つ以上の官能基を有するポリオールとしては、グリセリン、ヘキサントリオール、トリエタノールアミン、ジグリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、またはこれらを開始剤とするポリエーテルポリオールやポリエステルポリオール、ポリマーポリオールがあげられる。イソシアネートとしては、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオフォスフェート、リジンエステルトリイソシアネート、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネートや、各種イソシアネート化合物から得られるアロファネート変性ポリイソシアネート、ポリウレタン変性ポリイソシアネートがあげられる。
【0032】
上記アロファネート結合架橋構造を有する、架橋タイプのポリウレタン化合物を製造する方法については、例えば、プレポリマー法により低分子量ポリオールによる鎖延長時に、イソシアネート基が残る官能基比率で低分子量ポリオールを加えて鎖延長させた後、80℃以上の恒温槽でイソシアネート基が消失するまで加熱保持し、架橋させる方法。また、例えば低分子量ポリオールによる鎖延長後、過剰のジイソシアネート化合物を加え、同様に加熱保持して架橋させる方法等がある。
【0033】
また、本発明に用いられるポリウレタン化合物としては、炭素数が2から10の異なったアルキレンエーテルからなる共重合ポリアルキレンエーテルグリコールを用いることがより好適である。炭素数が2から10の異なったアルキレンエーテルからなる共重合ポリアルキレンエーテルグリコールの好適な例としては、テトラメチレン基と2,2−ジメチルプロピレン基から成る共重合ポリエーテルグリコール、テトラメチレン基と3−メチルテトラメチレン基から成る共重合ポリエーテルグリコールがあげられる。テトラメチレン基に対する2,2−ジメチルプロピレン基または3−メチルテトラメチレン基の共重合比は、力学特性の観点から、5〜35モル%が好ましく、5〜20モル%がより好ましい。
【0034】
本発明のレース編地に用いられるポリウレタンウレア弾性繊維は、上述のポリウレタン化合物とポリウレタンウレア重合体を、アミド系極性溶媒に溶解して得られたポリウレタンウレア紡糸原液を、乾式紡糸によって好適に製造することができる。乾式紡糸は溶融紡糸や湿式紡糸に比べてハードセグメント間の水素結合による物理架橋を最も強固に形成させることが出来るため好ましい。また、弾性繊維中のポリウレタン化合物が40重量%以下とすることで、乾式紡糸においては紡糸時の糸切れ等の問題が無い安定な生産ができ、糸長方向の斑の少ない品位の高いポリウレタン弾性繊維を得ることができる。アミド系極性溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドがあげられる。ポリウレタンウレア弾性繊維中にポリウレタン化合物を含有させるには、どのような方法をとってもよいが、生産工程性の観点から、ポリウレタン化合物とポリウレタンウレア重合体を均一に混合したポリウレタンウレア組成物を紡糸することが好ましい。
【0035】
ポリウレタン化合物とポリウレタンウレア重合体を混合する方法は、例えばポリウレタン組成物中で均一に混合させるには、アミド系極性溶媒中で合成したポリウレタン化合物とポリウレタンウレア重合体の溶液同士を混合する方法、無溶媒で重合したポリウレタン化合物をアミド系極性溶媒に溶解させた後にポリウレタンウレア重合体溶液中に添加する方法、溶融したポリウレタン化合物をポリウレタンウレア重合体溶液に添加する方法、粉末またはペレット状のポリウレタン化合物をポリウレタンウレア重合体のアミド系極性溶媒溶液中で溶解させる方法等があげられる。
このポリウレタンウレア紡糸原液には、ポリウレタンウレア弾性繊維に通常用いられる他の化合物、例えば紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、耐ガス着色防止剤、耐塩素剤、着色剤、艶消し剤、滑剤、充填剤等を添加してもよい。
【0036】
本発明に用いられるポリウレタンウレア弾性繊維は、ジメチルシリコーンを1.0重量%以上6.0重量%以下含有することが好ましい。1.0重量%以上のジメチルシリコーンを含有することにより、ポリウレタンウレア弾性繊維を使用する際に、パッケージからの糸の解じょ性が良好となり、特にパッケージを長期間保管した後の解じょ性の低下を抑制することができる。また、ジメチルシリコーンの含有量を6.0重量%以下とすることで、パッケージから糸の巻き崩れを起こりずらくすることができる。より好ましくは、2.5重量%以上5.5重量%以下である。
【0037】
また本発明に用いられるポリウレタンウレア弾性繊維は、変性シリコーンの含有量が0.001重量%未満であることが好ましい。変性シリコーンはジメチルシリコーン鎖の末端、中間部側鎖を官能基で修飾したものであり、例えば、アミノ変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、ポリエステル変性シリコーン、アルコール変性シリコーン、アルコキシ変性シリコーン等が挙げられる。ポリウレタンウレア弾性繊維中の含有量を0.001重量%未満とすることで、ポリウレタンウレア弾性繊維のより高い熱固着性を発現することができる。より好ましくは、変性シリコーンを含有しないものである。
【0038】
前述のジメチルシリコーン及び変性シリコーンをポリウレタンウレア弾性繊維に含有させるには、ジメチルシリコーン成分を含み、鉱物油等からなる油剤を含有させて得ることができる。油剤の含有のさせ方は、乾式紡糸後にポリウレタンウレア弾性繊維に付与してもよく、また油剤を紡糸原液に予め含有させて乾式紡糸してもよく、そのいずれを行っても良い。乾式紡糸後に油剤を付与する場合、紡糸原液が乾式紡糸され繊維形成後であれば特に限定されないが、巻き取り機に巻き取られる直前が好ましい。
【0039】
油剤の付与方法は、油剤バス中に回転させた金属円筒の表面上に作った油膜に紡糸直後の糸を接触させる方法、ガイド付きのノズル先端から定量吐出した油剤を糸へ付着させる方法など、公知の方法を用いることができる。また、油剤の紡糸原液への含有のさせ方は、紡糸原液を製造するどの時点に添加してもよく、紡糸原液に溶解又は分散させておく。ポリウレタンウレア弾性繊維中の油剤の含有量は、1.0重量%以上6.0重量%以下であることが好ましい。
【0040】
油剤として、ジメチルシリコーン、鉱物油の他、アミノ変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、ポリエステル変性シリコーン、アルコール変性シリコーン、アルコキシ変性シリコーン等の変成シリコーンを含有しても良いが、油剤成分中の変成シリコーンの含有量は、あわせて1.0重量%未満であることが好ましい。より好ましくは、変性シリコーンを含有していないものである。また、ポリウレタンウレア弾性繊維に付与した際に、ジメチルシリコーン成分が1.0重量%以上6.0重量%以下含有するように、ポリウレタンウレア弾性繊維への油剤の含有量にあわせて、油剤中のジメチルシリコーン成分の含有量を変えることが好ましい。油剤中のジメチルシリコーンの含有量は、50重量%以上が好ましい。さらに油剤には、タルク、コロイダルアルミナ等の鉱物性微粒子、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム等の高級脂肪酸金属塩粉末、高級脂肪族カルボン酸、高級脂肪族アルコール、パラフィン、ポリエチレン等の常温で固体のワックス等を単独、または必要に応じて任意に組み合わせて用いても良い。
【0041】
本発明のレース編地に用いられるポリウレタンウレア弾性繊維と組み合わされる繊維は、綿、ウール、麻などの天然繊維、レーヨン、リヨセル、キュプラなどの再生繊維、アセテート、トリアセテートなどの半合成繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維などの合成繊維から、一つまたは二つ以上から選ばれる。
【0042】
レース編地の構成に際して使用する糸の太さは、総繊度20〜2000デシテックスの範囲が好ましい。これらは、使用目的に合わせて適宜選択することができる。
ポリウレタンウレア弾性繊維と組み合わされる繊維は、フィラメント糸及び紡績糸のいずれであってもよい。またフィラメントと紡績糸の複合糸であってもよい。
フィラメント糸の形態は、原糸(未加工糸)、仮撚加工糸、先染糸等のいずれであってもよく、また、これらの複合糸であってもよい。これらは単独又は混紡されたもの等、いずれであってもよい。これらの繊維は、ポリウレタンウレア弾性繊維の混用又は引き揃え編成等、いずれであってもよい。また、ポリウレタンウレア弾性繊維は裸糸、被覆弾性糸として使用しても良い。
【0043】
被覆弾性糸とは、ポリウレタンウレア弾性繊維を芯に、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維等のフィラメント合成繊維等や綿等の短繊維などを鞘成分とした、FTY、SCY、DCYと称されるようなカバリング糸、綿等の短繊維で被覆されたCSYと称されるコアスパンヤーン、更には、非弾性繊維とポリウレタンウレア弾性繊維とを撚糸した被覆弾性糸等が挙げられる。これらの被覆弾性糸の、ポリウレタンウレア弾性繊維と非弾性繊維のドラフト率(被覆弾性糸のドラフト率=被覆弾性糸を伸長した時の非弾性繊維の長さ/被覆弾性糸を伸長した時のポリウレタンウレア弾性繊維の長さ)も任意に設定が可能であり、1.2〜7の範囲内に設定するのが好ましい。被覆弾性糸に使用するポリウレタンウレア弾性繊維の太さは限定されないが、20〜2000dtが好ましい。非弾性繊維との混率についても限定されないが、5〜70重量%程度が好ましく、製造するレース編地により任意に選定できる。また、被覆弾性糸は通常知られているスチームセットを行っても良い。
【0044】
レース編地の生地中における弾性繊維の含有率は、必要なストレッチ性を付与できればよく、特に限定されないが、弾性繊維の被覆性、回復性の点から1〜40%であることが好ましい。弾性繊維として、上述の熱固着性ウレタンウレア弾性繊維のみが用いられても良く、あるいは上述の熱固着性ポリウレタンウレア弾性繊維と従来のポリウレタン弾性繊維等との組み合わせでも良い。その比率は、任意の比率でよいが、本発明の効果を発現させるために、上述の熱固着性ポリウレタンウレア弾性繊維がレース編地中に5〜35重量%含有されていることが好ましい。
【0045】
本発明において、被覆弾性糸を用いる場合、他の弾性繊維、あるいは相手糸との固着のためにはある程度の被覆状態のコントロールが必要であり、完全に本発明のレース編地を構成するポリウレタンウレア弾性繊維を被覆するのではなく、被覆率を下げ、部分的に露出するようにするとよい。被覆率を下げることで、生地の風合いを改善することも期待できる。
【0046】
本発明のレース編地に使用可能な編成組織は、鎖編、デンビー編、コード編、アトラス編、挿入編等の基本組織、またこれらの組み合わせによる変化組織のいずれであってもよい。かかる経編地において、その基本となる地編の組織を、鎖編糸と挿入糸によるサテン編、パワーネット編、デンビー編、チュール編あるいはメッシュ状の編組織にして、この編組織の編成に弾性繊維及び/または被覆弾性糸を用いて編成することにより、編地全体に伸長性や伸縮性を付与し、これに柄筬による通常のレース柄やジャカード筬によるジャカードレース柄を付加して構成して本発明のレース編地が得られる。ポリウレタンウレア弾性繊維は全面に編みこんでも良いし、所望する間隔に編みこんでも良い。またポリウレタンウレア弾性繊維を挿入することも可能である。
【0047】
本発明のレース編地は、カールマイヤー整経機、リバー整経機等を用いた整経工程により、弾性繊維及び/又は被覆弾性糸、非弾性繊維を各々、目的とする商品に合わせた本数を揃えてビームに巻き取る。その後、後述の編機に、弾性繊維及び/又は被覆弾性糸、非弾性繊維のビームを設置し、編成して所望の経編地を得る。
【0048】
経編地の編成にはトリコット編機、ラッセル編機、ダブルラッセル編機等が使用でき、使用する糸のデニールや商品の狙いにより適宜使用デニール、編機種、ゲージを選択すればよい。編成組織としては、上述の基本編成組織、これらの組み合わせによる変化組織を用いて、トリコット編機では2枚筬組織のハーフ組織、サテン組織、ジャガード組織、またこれらの組織の組み合わせによる変化組織等、ラッセル編機、ダブルラッセル編機では、パワーネット組織、サテンネット組織、ジャガード組織等によって所望の経編地が得られる。トリコット編機、ラッセル編機とも、3枚以上の筬組織で編成しても良い。編機のゲージは、通常10〜50ゲージであり、使用目的によって適宜選定すればよい。
【0049】
本発明のレース編地の染色仕上げ工程については、従来のレース編地と同様の工程を用いることができる。また生機セットを付与する工程を採用することもできる。
本発明のレース編地は生機を開反し、リラックス処理を施した後、染色工程を経て、樹脂加工を含めた仕上げセットなどの行う一般的な染色工程を使用することができる。
【0050】
本発明のレース編地は、上記のポリウレタンウレア弾性繊維とフィラメント糸、紡績糸とを交編して得られた布帛を、染色前にテンターでの150〜200℃のプレセット工程を通すことによって製造される。テンターでの処理時間としては30秒から2分が好ましい。プレセット工程の温度が150℃未満では、プレセット通過後に十分な固着力が得られず、固着力を増加させるためには長時間のプレセットを必要とする。また、プレセット工程温度が150℃未満では生地の寸法安定性も低下し、生地がカールしやすくなる。プレセット工程の温度が200℃を越えると、高温処理によって伸縮性布帛の特徴であるストレッチ性、パワーが損失し、伸縮性布帛としての特徴を失うとともに、特に交編相手素材がポリアミド繊維では、ポリアミド繊維が黄変し、得られた製品は染色斑の発生により、品質安定性が得られない。長時間のプレセットによっても同様の現象が起こる。以上から本発明でのプレセット工程温度は150〜200℃、好ましくは170〜195℃であり、処理時間は30秒から2分が好ましい。
【0051】
プレセット工程を通過後は、ポリウレタンウレア弾性繊維の交編相手素材に適した染色工程を経る。例えば、交編相手素材がポリアミド繊維ならば、酸性染料による90〜110℃の染色条件、ポリエステル繊維ならば、分散染料による120〜135℃染色条件のように、適宜条件が選ばれる。
交編相手素材がポリアミド繊維ならば、ソーピング処理、フィックス処理を施しても良い。交編相手素材がポリエステル繊維ならば、還元洗浄処理、ソーピング処理を施しても良い。さらには、ポリエステル繊維で通常加工される減量加工を施しても良い。交編相手素材が綿ならば、過酸化水素による晒し工程を施しても良い。このように、本発明の編地は、得られる生地の堅牢度、風合いを良くするために、交編相手素材に合わせた各種処理を施すことが出来る。また通常付与される後加工、例えば、柔軟剤加工、吸水加工などを施しても良い。
【0052】
染色工程を通過後は、テンターでの150〜200℃のファイナルセット工程を通すことによって製造される。プレセット工程と同様に、十分なポリウレタンウレア弾性繊維の固着力を得るためには、ファイナルセット工程温度は、150℃以上、また生地の品質安定性から200℃以下である。好ましくは、170〜195℃であり、プレセット工程温度の5〜10℃低い温度でファイナルセットを行うのが好ましい。テンターでの処理時間としては30秒から2分が好ましい。
【0053】
本発明のレース編地は、上述のように、熱処理を経たポリウレタンウレア繊維の固着力によって、裁断された縁が解れ難くなっており、縫製時に、縁始末が不要となり、縫製工程の簡略化や着用感の向上に寄与できる。またポリウレタンウレア弾性繊維が、レース編地からの引抜き抵抗が大きくなることにより、スリップインの発生を抑制できる。
【実施例】
【0054】
以下に本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこの範囲に限定されるものではない。以下にポリウレタンウレア弾性繊維とレース編地、衣料の性能評価のための各種評価方法について述べる。
(1)熱機械分析(TMA)による圧縮変形開始温度
ポリウレタンウレア弾性繊維(比較例2はポリウレタン−ウレタン弾性繊維)を、石油エーテルで油剤を除去し乾燥させた後、ジメチルアセトアミドに溶解し20%溶液とする。この溶液を、アプリケーターを用いて厚さ0.6mmで均一にガラス板上にキャストする。これを70℃×16時間で、ジメチルアセトアミドを乾燥除去して厚さ約0.12mmのフィルムを得る。
このフィルムを、熱機械分析装置(セイコー電子工業(株)社製TMA/SS120型)の圧縮モードにて、押込プローブ経φ1.2mm、5gの一定加重下、室温より10℃/分で昇温させる。温度上昇により膨張するが、膨張から押込による圧縮変形に転ずる変曲点の温度を、圧縮変形開始温度とする。
【0055】
(2)熱切断秒数
初期長14cmのポリウレタンウレア弾性繊維(比較例2はポリウレタン−ウレタン弾性繊維)を50%伸長して21cmとし、表面温度180℃の直径6cmの円筒状の熱体に押し当て(接触部分1cm)、切断されるまでの秒数を測定する。
【0056】
(3)ポリウレタン化合物の示差走査熱量測定(DSC)
ポリウレタン化合物約10mgを、示差走査熱量計(セイコー電子工業(株)社製DSC210型)にて、窒素50ml/分の気流下、10℃/分の昇温速度で20℃から300℃まで測定する。
【0057】
(4)原糸300%伸長回復時回復率
ポリウレタンウレア弾性繊維(比較例2はポリウレタン−ウレタン弾性繊維)を、引張試験機(オリエンテック(株)社製UTM−III−100型(商標))により、20℃×65%RH雰囲気下で、初期長5cmで引張試験機にセットし、1000%/分の速度で、伸度300%までの伸長・回復を3回繰り返した時、3回目回復時に応力が0になる伸長率をH(%)としたとき、回復率L(%)=100−Hで求める。
【0058】
(5)硬度
ポリウレタン化合物の厚さ6mm以上の平板状試験片を作成し、JIS−K7311に記載のデュロメーター(硬さ試験機)を用いる方法で測定する。
【0059】
(6)生地の解れ性評価
得られたレース編地の染上げ反の1辺を編目に沿って、1辺10cmの正方形に切断した試験片を、洗濯機で水30Lに対し、花王(株)社製洗剤アタック(商標)20gを入れた洗濯機で15分/回として洗濯する。5回おきに取り出して試験片の縁の解れの有無を確認し、解れが発生するまでの洗濯繰り返し回数で判定する。
【0060】
(7)生地のスリップイン性
得られたレース編地の染上げ反を生地幅2.5cm、初期長10cmに切断した試験片を、デマッチャーにて80%伸長、10,000回伸長を繰り返した後の、ポリウレタンウレア弾性繊維(比較例2はポリウレタン−ウレタン弾性繊維)の長さA(mm)からスリップイン量L=100−Aを求める。
【0061】
(8)生地の80%伸長回復時回復率
得られたレース編地の染上げ反を、引張試験機(オリエンテック(株)社製UTM−III−100型(商標))により、20℃×65%RH雰囲気下で生地幅2.5cm、初期長10cmで引張試験機にセットし、300mm/分の速度で、伸度80%までの伸長・回復を3回繰り返した時、3回目回復時に応力が0になる伸長率をH’(%)としたとき、回復率L’(%)=100−H’で求める。
【0062】
[実施例1]
数平均分子量2000のポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)に対し、1.6倍当量の4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)とを乾燥窒素雰囲気下、80℃において3時間、攪拌下で反応させて、末端がイソシアネートでキャップされたポリウレタンプレポリマーを得た。これを室温まで冷却した後、ジメチルアセトアミドを加え、溶解してポリウレタンプレポリマー溶液とした。
一方、エチレンジアミン(EDA)およびジエチルアミンを乾燥ジメチルアセトアミドに溶解した溶液を用意し、これを前記プレポリマー溶液に室温下添加して、ポリウレタン固形分濃度30重量%、粘度450Pa・s(30℃)のポリウレタンウレア重合体溶液PA1を得た。
【0063】
また別に、数平均分子量2000のポリテトラメチレンエーテルグリコールに対し、3.0倍当量の4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを、乾燥窒素雰囲気下、80℃において3時間、攪拌下で反応させて、末端がイソシアネートでキャップされたポリウレタンプレポリマーとする。前記プレポリマー中のイソシアネート基に対し0.95倍当量の1,4−ブタンジオール(1,4−BD)をプレポリマーに添加し反応させた後、80℃で16時間加熱して、硬度80A、DSCにおいて80℃から分解開始温度(282℃)までの間に吸熱ピークを持たないポリウレタン化合物を得た。これにジメチルアセトアミドを加え、固形分濃度30重量%のポリウレタン溶液PU1を得た。
【0064】
得られたポリウレタンウレア溶液とポリウレタン溶液をPA1:PU1=80:20で混合し、ポリウレタンウレアとポリウレタンをあわせた固形分に対し、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)を1重量%、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール0.5重量%をポリウレタン溶液と混合して、均一な溶液とした後、室温減圧下で脱泡して、これを紡糸原液とした。
【0065】
この紡糸原液を紡糸速度800m/分、熱風温度310℃で乾式紡糸し、得られたポリウレタンウレア弾性繊維をパッケージに巻き取られる前に、仕上げ剤として、ポリジメチルシロキサン80重量%、鉱物油18重量%、ステアリン酸マグネシウム2重量%からなる油剤を、ポリウレタン弾性繊維に対して4重量%付与し、紙製の紙管に巻き取ることで、44デシテックス、および130デシテックスのポリウレタンウレア弾性繊維をそれぞれ得た。
【0066】
ジャカード筬を備えるラッセル機を用い、地筬L1に44デシテックスのナイロン糸を使用して、鎖編組織で編成し、またジャカード筬L2に上記で得られた44デシテックスのポリウレタンウレア弾性繊維を芯糸にして、17デシテックスのナイロン加工糸を1重巻きした被覆弾性糸を使用して、隣接ウエールに移行して次のコースで元に戻るジャカードの薄地組織で挿入編成し、バック筬L3に上記で得られた130デシテックスのポリウレタン糸を使用して、経挿入の組織で地編を編成した。
【0067】
この編成条件で得られたレース編地生機を、90℃で1分間精錬し、プレセットとしてテンター仕上げ機を用いて、熱処理条件として温度190℃、時間60秒で処理した。次いで、液流染色機を用いて100℃、60分の条件で染色した。ファイナルセットとして、テンター仕上げ機を用いて、熱処理条件180℃、45秒で処理して、レース編地の染上げ反を得た。
【0068】
[実施例2]
実施例1のポリウレタン溶液PU1の代わりに、数平均分子量2000のポリテトラメチレンエーテルグリコールに対し、2.4倍当量の4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを、乾燥窒素雰囲気下、80℃において3時間、攪拌下で反応させて、末端がイソシアネートでキャップされたポリウレタンプレポリマーとする。前記プレポリマー中のイソシアネート基に対し1.0倍当量の1,4−BDをプレポリマーに添加し反応させた後、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを最初に加えた量の3重量%をさらに反応液に加えて均一にして、80℃で60時間加熱して、硬度75A、DSCにおいて80℃から分解開始温度(253℃)までの間に吸熱ピークを持たないポリウレタン化合物を得た。これにジメチルアセトアミドを加え、固形分濃度30重量%のポリウレタン溶液PU2を得た。
【0069】
得られたポリウレタン溶液をPA1:PU2=80:20で混合し、実施例1と同様にして44デシテックス、および130デシテックスのポリウレタンウレア弾性繊維をそれぞれ得た。
得られたポリウレタンウレア弾性繊維を用いて、実施例1と同様にして、レース編地の染上げ反を得た。
【0070】
[実施例3]
実施例2において、ポリウレタンウレア溶液とポリウレタン溶液をPA1:PU2=65:35で混合する以外は、実施例1と同様にして44デシテックス、および130デシテックスのポリウレタンウレア弾性繊維をそれぞれ得た後、実施例1と同様にして、レース編地の染上げ反を得た。
【0071】
[実施例4]
実施例1のポリウレタン溶液PU1の代わりに、数平均分子量2000のテトラメチレン基と2,2−ジメチルプロピレン基から成り、2,2−ジメチルプロピレン基のモル分率が10モル%の共重合ポリエーテルグリコールに対し、2.4倍当量の4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを、乾燥窒素雰囲気下、80℃において3時間、攪拌下で反応させて、末端がイソシアネートでキャップされたポリウレタンプレポリマーとする。前記プレポリマー中のイソシアネート基に対し0.95倍当量の1,4−BDをプレポリマーに添加して、同様に反応させ、硬度77A、DSCにおいて80℃から分解開始温度(264℃)までの間に吸熱ピークを持たないポリウレタン化合物を得た。これにジメチルアセトアミドを加え、固形分濃度30重量%のポリウレタン溶液PU3を得た。
得られたポリウレタン溶液をPA1:PU3=80:20で混合し、実施例1と同様にして44デシテックス、130デシテックスのポリウレタンウレア弾性繊維をそれぞれ得た後、実施例1と同様にして、レース編地の染上げ反を得た。
【0072】
[実施例5]
実施例1のポリウレタン溶液PU1の代わりに、数平均分子量1000のポリブチレンアジペートジオールに対し、3.0倍当量の4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを、乾燥窒素雰囲気下、80℃において3時間、攪拌下で反応させて、末端がイソシアネートでキャップされたポリウレタンプレポリマーとする。前記プレポリマー中のイソシアネート基に対し0.95倍当量の1,4−BDをプレポリマーに添加して、同様に反応させ、硬度66A、DSCにおいて80℃から分解開始温度(302℃)までの間に吸熱ピークを持たないポリウレタン化合物を得た。これにジメチルアセトアミドを加え、固形分濃度30重量%のポリウレタン溶液PU4を得た。
得られたポリウレタン溶液をPA1:PU4=80:20で混合し、実施例1と同様にして44デシテックス、および130デシテックスのポリウレタンウレア弾性繊維をそれぞれ得た後、実施例1と同様にして、レース編地の染上げ反を得た。
【0073】
[実施例6]
実施例2において、数平均分子量2000のポリテトラメチレングリコールに代えて、数平均分子量2000のテトラメチレン基と2,2−ジメチルプロピレン基からなる共重合ポリエーテルグリコール(2,2−ジメチルプロピレン基の共重合率10モル%)を用いる以外は同様な方法で得られたポリウレタンウレア重合体溶液PA2を得た。ポリウレタンウレア重合体溶液PA1に代えて、このポリウレタンウレア重合体溶液PA2を用いた以外は実施例2と同様にして44デシテックス、130デシテックスのポリウレタン弾性繊維をそれぞれ得た後、実施例1と同様にして、レース編地の染上げ反を得た。
【0074】
[実施例7]
実施例6で用いたPA2と、実施例4で用いたPU3を、PA2:PU3=80:20で混合し、実施例1と同様にして44デシテックス、130デシテックスのポリウレタンウレア弾性繊維を得た後、実施例1と同様にして、レース編地の染上げ反を得た。
【0075】
[実施例8]
実施例1において、得られたレース編地生機を、熱処理条件150℃でプレセット、ファイナルセットした以外は、実施例1と同様にしてレース編地の染上げ反を得た。
【0076】
[実施例9]
実施例1において、得られた44デシテックスのポリウレタンウレア弾性繊維を裸糸のまま使用した以外は、実施例1と同様にしてレース編地の染上げ反を得た。
【0077】
[実施例10]
実施例1において、得られた44デシテックスのポリウレタンウレア弾性繊維を芯糸にして、17デシテックスのナイロン加工糸を2重巻した被覆弾性糸を使用した以外は、実施例1と同様にしてレース編地の染上げ反を得た。
【0078】
[比較例1]
ポリウレタン化合物PU1を添加しない以外は実施例1と同様にして(各添加剤はPA1固形分対比量添加した)、44デシテックス、130デシテックスのポリウレタンウレア弾性繊維をそれぞれ得た後、実施例1と同様にして、レース編地の染上げ反を得た。
【0079】
[比較例2]
ポリウレタンウレア重合体PA1を添加しない以外は実施例2と同様にして(各添加剤はPU2固形分対比量添加した)、44デシテックス、130デシテックスのポリウレタン−ウレタン弾性繊維をそれぞれ得た後、実施例1と同様にしてレース編地の染上げ反を得た。
【0080】
[比較例3]
実施例1のポリウレタン溶液PU1の代わりに、数平均分子量2000のポリテトラメチレンエーテルグリコールに対し、5.1倍当量の4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを、乾燥窒素雰囲気下、80℃において3時間、攪拌下で反応させて、末端がイソシアネートでキャップされたポリウレタンプレポリマーとした後、1,4−ブタンジオールを前記プレポリマーに添加し反応させ、硬度90A、DSCにおいて分解開始温度(290℃)より低い230℃に吸熱ピークを有するポリウレタン化合物を得た。これにジメチルアセトアミドを加え、固形分濃度30重量%のポリウレタン溶液PU5を得た。
得られたポリウレタン溶液をPA1:PU5=80:20で混合し、実施例1と同様にして44デシテックス、130デシテックスのポリウレタン弾性繊維をそれぞれ得た後、レース編地の染上げ反を得た。
以上の各実施例および比較例における組成を表1に、得られたポリウレタンウレア弾性繊維の性能と、得られたレース編地の染上げ反の性能を表2に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のレース編地は、加工時の熱により、スリップインや解れが抑制され、ショーツ、ガードル、ブラジャー等のファンデーション、スリップ、キャミソール等のランジェリー、その他の女性用下着、ボディースーツ、水着、レオタード等のスポーツウェア、その他のアウター等の用途に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン化合物を5重量%〜40重量%含有し、熱機械測定分析(TMA)による圧縮変形開始温度が150℃以上、180℃以下であり、かつ50%伸長下、180℃における熱切断秒数が30秒以上であるポリウレタンウレア弾性繊維が少なくとも一部に用いられてなることを特徴とするレース編地。
【請求項2】
ポリウレタンウレアが、炭素数2〜10の一種以上のアルキレンエーテルからなるポリアルキレンエーテルジオールを原料とすることを特徴とする、請求項1記載のレース編地。
【請求項3】
ポリウレタン化合物が、炭素数2〜10の一種以上のアルキレンエーテルからなるポリアルキレンエーテルジオールを原料とすることを特徴とする、請求項1または2記載のレース編地。
【請求項4】
ポリウレタン化合物を5重量%〜40重量%含有し、熱機械測定分析(TMA)による圧縮変形開始温度が150℃以上180℃以下であり、かつ50%伸長下、180℃における熱切断秒数が30秒以上であるポリウレタンウレア弾性繊維を少なくとも一部に用いて編成した後、150℃〜200℃でプレセットし、150℃〜200℃でファイナルセットすることを特徴とするレース編地の製造方法。

【公開番号】特開2009−19292(P2009−19292A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−181401(P2007−181401)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】