説明

レーダー管制シミュレータ装置および管制状態引継方法

【課題】システム規模やコストを抑えつつ、シナリオ時刻変更前の航空機の管制状態を変更後に引き継ぐ。
【解決手段】本発明のシミュレータシステムは、シナリオに基づいて航空機の飛行計画データを生成する生成装置1と、飛行計画データと航空機が管制機状態か準管制機状態かを示すフラグ情報とを飛行計画テーブル211に記録する飛行計画処理部21と、航空機の追尾処理を行い、トラックデータとフラグ情報とを含む航跡データを生成する追尾処理部22と、管制操作を受け付けるとともに、航跡データに基づいて航空機の航跡および管制機状態か否かを示す表示を行う管制装置2とを有し、管制装置2は、航空機を管制機状態に設定する操作を受け付けると、その旨を飛行計画処理部21に通知し、飛行計画処理部21は、フラグ情報を準管制機状態に設定して飛行計画テーブル211に記録し、管制装置2から通知を受けると、フラグ情報を管制機状態に変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダー管制シミュレータ装置および管制状態引継方法に関し、特に管制業務の模擬訓練のシナリオ巻き戻し後に、巻き戻し前の航空機の管制状態を引き継ぐ技術に関する。
【背景技術】
【0002】
航空管制官のレーダー管制業務の模擬訓練を行うレーダー管制シミュレータシステムが知られている。
【0003】
実際に管制官によるレーダー管制業務で使用されるレーダー管制システムでは、レーダー装置で航空機が検出されると、情報処理装置において、検出された航空機の位置や高度等の情報を含む目標データや、その航空機の飛行計画を示す飛行計画データ等に基づいて、その航空機の追尾処理が開始される。情報処理装置は、航空機に対する追尾処理を開始すると、追尾処理の結果に基づいたその航空機の航跡データを管制官が管制業務を行う管制卓に送信する。そして、その航跡データに基づいた航空機の航跡が航空機の高度や位置等の情報とともに管制卓の表示部に表示される。なお、情報処理装置で行う航空機の追尾処理とは、その航空機の飛行計画データや、目標データ、レーダー装置で航空機が検出された時刻、実際の航空機の移動性能等に基づいて、航空機が次にレーダー装置で検出されると予想される位置である目標検出位置を演算し、演算結果に基づいてその航空機を追尾する処理である。
【0004】
新規でレーダー装置に検出され、情報処理装置による追尾処理が開始されたが、管制官による管制を受けていない航空機の状態は、準管制機状態と呼ばれ、この状態の航空機は、管制官の注意を引くために管制卓の表示部にBGN表示が表示される。具体的には、情報処理装置は、新規でレーダー装置に検出されて追尾処理を開始した航空機については、その旨を示す情報を航跡データに含めて管制卓に送信し、管制卓は、この情報に基づいて、その航空機の表示をBGN表示とする。なお、管制卓において、BGN表示が表示されている航空機に対して、管制官によりその航空機を管制を受けている管制機状態に設定するコントロールアクセプト処理が行われると、その旨が情報処理装置に出力され、その航空機のBGN表示が消える。このように、管制卓の表示部では、準管制機状態の航空機と管制機状態の航空機とが、BGN表示の有無により区別して表示される。
【0005】
図5は、一般的なレーダー管制システムの管制卓の表示部の表示の一例を示す図である。
【0006】
図5に示した例では、コールサインがABC500の航空機(左上)とZZZ30の航空機(右下)とが表示されており、コールサインがZZZ30の航空機はBGN表示が表示されているため、新規で追尾処理が開始された準管制機状態の航空機であることを示している。また、コールサインがABC500の航空機はBGN表示が表示されていないため、管制官による管制を受けている管制機状態であることを示している。なお、コールサインがABC500の航空機に表示されているDは、出発する航空機の管制を行う出域管制卓で管制を行うことを意味し、コールサインがZZZ300の航空機に表示されているAは、到着機の管制を行う入域管制卓で管制を行うことを示している。また、コールサインの下に表示されている数字は、その航空機の速度と高度を示している。
【0007】
一方、上述したレーダー管制シミュレータシステムでは、レーダー装置の代わりに、模擬訓練のシナリオに基づいた航空機の目標データや飛行計画データ等を生成し出力するシナリオ生成装置が設けられており、情報処理装置においてシナリオ生成装置で生成されたデータに基づいて追尾処理等が行われ、情報処理装置から航跡データが管制卓に出力される。そのため、管制官は、シナリオに基づいた航空機の管制業務の模擬訓練を行うことができる。
【0008】
ところで、レーダー管制シミュレータシステムにおいては、模擬訓練の都合上、シナリオ内の時間経過を示すシナリオ時刻を巻き戻し、管制業務のやり直しや振り返りを行うというシミュレータ特有のニーズがある。また、実際のレーダー管制システムを忠実に模擬するために、レーダー管制システムの実運用機材の情報処理装置またはそれと同等の情報処理装置をレーダー管制シミュレータシステムに組み込む場合がある。
【0009】
しかし、実運用器材の情報処理装置を組み込んだレーダー管制シミュレータシステムでは、情報処理装置が時間の流れが遡ることに対応していないため、シナリオ生成装置でシナリオ時刻を巻き戻し、任意のシナリオ時刻からシナリオを再開すると、以下に示すような不具合が生じてしまう。
【0010】
図6は、実運用機材の情報処理装置を組み込んだ一般的なレーダー管制シミュレータシステムにおける、シナリオ時刻の巻き戻し前後の動作を説明するための図であり、(a)はシナリオ時刻の巻き戻し前の管制卓の表示部の表示の一例を示す図、(b)はシナリオ時刻を巻き戻し、シナリオ再開後の管制卓の表示部の表示の一例を示す図、(c)はシナリオ再開後、航空機に対してコントロールアクセプト操作が行われた後の管制卓の表示部の表示の一例を示す図である。
【0011】
ここでは、図6(a)に示すように、コールサインがABC500の航空機(左上)とZZZ30の航空機(右下)とが管制機状態に設定されている際に、シナリオ時刻を巻き戻し、所定のシナリオ時刻からシナリオを再開する場合について考える。
【0012】
実運用器材の情報処理装置においては、目標データに含まれる位置情報で示される位置が、追尾処理により予想される航空機の目標検出位置に含まれるか否かを判断し、含まれない場合、新たに航空機がレーダー装置で検出されたものと判断する。通常、シナリオ時刻を巻き戻し、任意のシナリオ時刻からシナリオを再開した場合、シナリオ再開後に情報処理装置に入力される目標データに含まれる位置情報で示される位置は、シナリオ巻き戻し前に行っていたその航空機の追尾処理により予想される目標検出位置から外れる。したがって、情報処理装置は、シナリオ再開後にシナリオ生成部から目標データが入力されると、その目標データはシナリオ巻き戻し前に追尾処理を行っていた航空機とは異なる、新規の航空機に対応するものと判断し、新規でその航空機の追尾処理を開始する。上述したように、新規で追尾処理が開始された航空機は管制卓の表示部ではBGN表示となるため、図6(b)に示すように、シナリオ巻き戻し前に管制機状態であった航空機が、シナリオの再開後には全てBGN表示に戻ってしまう。そのため、管制官は、シナリオ再開後、各航空機に対して再度コントロールアクセプト処理を行い、管制機状態に設定しなおす必要がある。管制官がコントロールアクセプト処理を行うことで、各航空機は再度管制機状態に設定され、図6(c)に示すようにBGN表示が消える。
【0013】
このように、実運用機材を組み込んだレーダー管制シミュレータシステムでは、管制官は、シナリオ時刻の巻き戻し前の各航空機が管制機状態か否かを示す管制状態を把握しておき、シナリオ再開後に必要な航空機を管制機状態に設定しなおす必要があり、多数の航空機を管制機状態に設定している場合には、管制官の作業負担が大きくなるという問題がある。
【0014】
そのため、特許文献1等では、シナリオ実行時の管制卓で行われた管制操作内容を全て記録することで、シナリオ時刻を巻き戻し、所定のシナリオ時刻から再開する際に、各航空機の管制状態を引き継ぐことができるレーダー管制シミュレータシステムが公開されている。
【特許文献1】特開昭58−144240号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、特許文献1で公開されている技術のように、シナリオ実行時の管制操作内容を全て記録するためには、レーダー管制シミュレータシステムに大容量記録装置等を設置する必要があり、システム規模が大きくなってしまったり、コストが増加してしまったりするという課題がある。
【0016】
本発明の目的は、システム規模を大きくしたりコストを増加させたりすることなく、シナリオ時刻の巻き戻し前の各航空機の管制状態をシナリオ時刻の巻き戻し後に引継ぐことで管制官の作業負担を軽減することが出来るレーダー管制シミュレータシステムおよび管制状態引継方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために本発明のレーダー管制シミュレータシステムは、
航空機の管制業務の模擬訓練のシナリオに基づいて、該航空機の識別子および飛行計画を含む飛行計画データと、該航空機の識別子、位置情報を含む目標データとを生成するシナリオ生成装置と、
飛行計画テーブルを備え、前記航空機の前記飛行計画データに当該航空機が管制を受けている管制機状態か新規で追尾処理が開始された準管制機状態かを示すフラグ情報を含めて前記飛行計画テーブルに記録する飛行計画処理部と、前記識別子に基づいて前記目標データと対応する飛行計画データを前記飛行計画テーブルから検索し、該飛行計画データと前記目標データとに基づいて前記航空機の追尾処理を行うとともに、該追尾処理の結果に基づいたトラックデータと前記フラグ情報とを含む航跡データを生成する追尾処理部とを具備する情報処理装置と、
前記航空機の管制操作を受け付けるとともに、前記航跡データに基づいて、該航空機の航跡および該航空機が前記管制機状態か否かを示す表示を行う管制装置とを有し、
前記管制装置は、前記航空機を管制機に設定する操作を受け付けると、その旨を前記飛行計画処理部に通知し、
前記飛行計画処理部は、前記飛行計画データを前記飛行計画テーブルに記録する際に、前記フラグ情報を準管制機状態に設定し、前記管制装置から前記通知を受けると、該フラグ情報を管制機状態に設定する。
【0018】
上記目的を達成するために本発明の管制状態引継方法は、
航空機の識別子および飛行計画を含む飛行計画データを記録する飛行計画テーブルと、前記航空機の追尾処理結果に基づいたトラックデータを記録するトラックテーブルとを有するレーダー管制シミュレータシステムが行う管制状態引継方法であって、
航空機の管制業務の模擬訓練のシナリオに基づいて、該航空機の前記飛行計画データと、該航空機の識別子および位置情報を含む目標データとを生成する生成ステップと、
前記航空機が管制を受ける管制機状態であるか新規で追尾処理が開始された準管制機状態であるかを示すフラグ情報を準管制機状態に設定して前記航空機の飛行計画データに含めて前記飛行計画テーブルに記録する飛行計画記録ステップと、
前記目標データが生成されるたびに、前記識別子に基づいて該目標データと対応する飛行計画データを前記飛行計画テーブルから検索し、該飛行計画データと前記目標データとに基づいて前記航空機の追尾処理を行い、該追尾処理の結果に基づいたトラックデータを前記トラックテーブルに記録する追尾処理ステップと、
前記トラックテーブルにトラックデータが記録されるたびに、該トラックデータと、前記飛行計画テーブルに記録されたフラグ情報とを含む航跡データを生成する航跡データ生成ステップと、
前記航跡データが生成されるたびに、該航跡データに基づいて、前記航空機の航跡と該航空機が前記管制機状態か否かを示す表示を行う表示ステップと、
前記航空機を前記管制機に設定する操作を受け付け、当該航空機の前記フラグ情報を管制機状態に設定するフラグ情報設定ステップとを有する。
【発明の効果】
【0019】
上述したように、本発明によれば、飛行計画データに航空機が管制機状態か準管制機状態かを示すフラグ情報を含めて記録しておき、このフラグ情報に基づいて、管制装置にて航空機が管制機状態か否かを示す表示を行う。
【0020】
そのため、管制業務の模擬訓練のシナリオが巻き戻され、新たにシナリオ生成装置から情報処理装置に出力された目標データに含まれる位置情報で示される位置が目標検出位置に含まれなくても、フラグ情報に基づいてその目標データがシナリオの巻き戻し前に管制を行っていた航空機に対応する目標データであると判断することができるため、シナリオ再開後に航空機の管制状態を引き継ぐことができる。また、飛行計画データにフラグ情報を追加し、そのフラグ情報に基づいて管制状態を引き継ぐため、大容量記憶装置等を必要とせず、システム規模が大きくなったり、コストが増加したりすることなく管制状態を引き継ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して説明する。
【0022】
図1は、本発明のレーダー管制シミュレータシステムの一実施形態の構成を示す概略構成図である。
【0023】
図1に示すように、実施形態のレーダー管制シミュレータシステムは、シナリオ生成装置1と、情報処理装置2と、管制装置3とを有している。
【0024】
シナリオ生成装置1は、航空機の管制業務の模擬訓練のシナリオに基づいて、航空機の識別子および飛行計画を含む飛行計画データと、航空機の識別子、位置情報および該位置に当該航空機が位置した時刻情報を含む目標データとを生成する。なお、位置情報には、距離情報、方位情報、高度情報が含まれている。また、シナリオ生成装置1は、ユーザ操作に基づいた飛行パターンを示す航空機の目標データを生成することもできる。また、ユーザからの操作を受け付け、操作内容に基づいてシナリオの作成および登録や、シナリオのシナリオ時刻の初期設定や巻き戻し等の時刻制御等を行う。
【0025】
情報処理装置2は、飛行計画処理部21と追尾処理部22とを有し、シナリオ生成装置1と管制装置3の間で目標データや飛行計画データ、管制装置3で行われた管制操作に基づいた管制操作データ等を用いて航空機の追尾処理等の情報処理を行う装置であり、シナリオ生成装置1と管制装置3と間の通信インタフェース機能も有する。
【0026】
飛行計画処理部21は、飛行計画テーブル211を備え、シナリオ生成装置1で生成された飛行計画データに対応する航空機が管制を受けている管制機状態か新規で追尾処理が開始された準管制機状態かを示すフラグ情報を含めて飛行計画テーブル211に記録する。なお、飛行計画処理部21は、飛行計画データを飛行計画テーブル211に記録する際に、フラグ情報を準管制機状態に設定し、管制装置3にて、その飛行計画データに対応する航空機を管制機状態に設定する操作が受け付けられると、フラグ情報を管制機状態に設定する。なお、飛行計画テーブル211を飛行計画処理部21の外部の記憶部等に設けてもよい。
【0027】
追尾処理部22は、シナリオ生成装置1で生成された目標データに含まれる識別子に基づいて、対応する飛行計画データを飛行計画テーブル211から検索し、検索された飛行計画データと目標データとを含む情報に基づいて航空機の追尾処理を行う。また、追尾処理を行った航空機に対して、追尾処理の結果や、その航空機のフラグ情報、目標データ、飛行計画データ等を含む航跡データを生成し、管制装置3に出力する。また、追尾処理部は22、追尾処理の結果を含む情報をトラックデータとして記録するトラックテーブル221を備え、飛行計画データ、目標データおよびトラックデータを用いて航空機の追尾処理を行うことで、その航空機が次に検出されると予想される範囲を示す目標検出位置を演算する。追尾処理部は22、シナリオ生成部1で新たに目標データが生成されると、新たに生成された目標データに含まれる位置情報で示される位置が演算した目標検出位置に含まれず、その航空機のフラグ情報が準管制機状態に設定されている場合に、新たに生成された目標データは新規の航空機に対応するものと判断し、新規の航空機の追尾処理を開始する。なお、追尾処理部22が行う追尾処理は、レーダー管制システムの実運用器材の情報処理装置で行われる追尾処理と同様のため、詳細な説明は割愛する。また、トラックテーブル221を追尾処理部22の外部の記憶部等に設けてもよい。
【0028】
管制装置3は、操作部31と表示部32とを有する。
【0029】
表示部32は、追尾処理部22から出力された航跡データに基づいて航空機の飛行計画や航跡等を表示する。また、航跡データに含まれるフラグ情報に基づいて、その航跡データに対応する航空機が管制機状態か否かを示す表示を行う。具体的には、表示部31は、航空機が準管制機状態の場合BGN表示を表示し、管制機状態の場合BGN表示を表示しない。
【0030】
操作部31は、表示部32に表示された航空機に対する管制操作を受け付ける。操作部31は、航空機を管制機状態に設定するコントロールアクセプト処理の操作を受け付けると、その旨をその航空機の航跡データに含まれる識別子とともに管制操作データとして飛行計画処理部21に出力する。飛行計画処理部21は、この管制操作データを受けて、フラグ情報を管制機状態に設定する。
【0031】
なお、本実施形態では、識別子としてSecondary Surveillance Radarデータ(SSRデータ:ビーコンコード)を使用するものとする。
【0032】
以下に、本実施形態のレーダー管制シミュレータシステムの動作について説明する。
【0033】
図2は、図1に示した飛行計画テーブル211に記録されている飛行計画データのシナリオ開始後、シナリオ時刻変更前およびシナリオ時刻変更後の一例を示す図であり、(a)はシナリオ開始後の飛行計画データの一例、(b)はシナリオ時刻変更前の飛行計画データの一例、(c)はシナリオ時刻変更後の飛行計画データの一例を示している。
【0034】
また、図3は、図1に示したトラックテーブル221に記録されているトラックデータのシナリオ時刻変更前およびシナリオ時刻変更後の一例を示す図であり、(a)はシナリオ時刻変更前のトラックデータの一例、(b)はシナリオ時刻変更後のトラックデータの一例を示している。
【0035】
また、図4は、図1に示した表示部32の、シナリオ開始後、シナリオ時刻変更前およびシナリオ時刻変更後の表示の一例を示す図であり、(a)はシナリオ開始後の表示の一例、(b)はシナリオ時刻変更前の表示の一例、(c)はシナリオ時刻変更後の表示の一例を示している。
【0036】
最初に、シナリオの巻き戻し前のレーダー管制シミュレータシステムの動作について説明する。
【0037】
まず、シナリオ生成装置1は、管制業務の模擬訓練のシナリオを登録する操作を受け付けると、そのシナリオに基づいた各航空機の飛行計画データを飛行計画処理部21に出力する。これを受け、飛行計画処理部21は、飛行計画テーブルに飛行計画データを記録する。この際、図2(a)に示すように、飛行計画処理部21は、各航空機のフラグ情報を全て準管制機状態を意味するOFFに設定する。また、図2(a)に示すように、飛行計画テーブルに記録された飛行計画データには、飛行計画データを識別する飛行計画ナンバー、コールサイン、飛行計画の区分を示す飛行計画区分、対応するトラックデータを識別するトラックナンバー、SSRデータ、フラグ情報である管制機状態フラグ等が含まれている。なお、飛行計画区分は、その航空機が、出発機なのか到着機なのか、どのような飛行方式で飛行しているのか等を示す情報である。
【0038】
次に、シナリオ生成装置1は、シナリオを開始する操作を受け付けると、シナリオ時刻データを情報処理装置2および管制装置3に出力し、各装置の時刻規正を行うとともに、シナリオに基づいた目標データの生成を開始し、生成した目標データを追尾処理部22に出力する。なお、シナリオ生成装置1から出力される目標データには、時刻情報、位置情報およびSSRデータ等が含まれている。
【0039】
次に、情報処理装置2において、追尾処理部22は、シナリオ生成装置1から出力された目標データに含まれるSSRデータに基づいてその目標データに対応する飛行計画データを飛行計画テーブル212から検索し、対応する飛行計画データが検索された場合、その目標データを追尾処理対象の航空機であると判断し、検索された飛行計画データと目標データとを含む情報に基づいて追尾処理を開始する。また、追尾処理部22は、追尾を開始した航空機に対して、追尾処理の結果に基づいて、その航空機の距離情報、方位情報および高度情報を含む位置情報やSSRデータ等からなるトラックデータをトラックテーブル221に記録する。また、図2(a)および図3(a)に示すように、追尾処理部22は、検索された飛行計画データとトラックデータとを関連付けるために、検索された飛行計画データのトラックナンバーに、生成したトラックデータのトラックナンバーの値を記録するとともに、生成したトラックデータに検索された飛行計画データの飛行計画ナンバーの値を含める。なお、追尾処理部22は、シナリオ生成部1で目標データが生成されるたびに、上述の処理を行い、トラックテーブル221に記録されているトラックデータをアップデートする。図3(a)に示すように、トラックテーブル221に記録されているトラックデータには、トラックナンバー、距離情報、方位情報、高度情報、SSRデータ、飛行計画ナンバー等が含まれている。
【0040】
次に、追尾処理部22は、トラックテーブル221に記録したトラックデータおよびそのトラックデータに対応する航空機の管制機状態フラグを含む航跡データを生成し、管制装置3に出力する。これを受け、管制装置3において、表示部32は、航跡データに含まれるトラックデータに基づいて航跡を表示するとともに、管制機状態フラグに基づいてその航空機が管制機状態か否かを示す表示を表示する。ここでは、図4(a)に示すように、まだ航空機に対してコントロールアクセプト処理が行われていないため、航空機の表示は準管制機状態を示すBGN表示で表示される。
【0041】
次に、管制装置3において、操作部31は、航空機を管制機状態に設定するコントロールアクセプト処理の操作を受け付けると、その旨を、航跡データに含まれるSSRデータとともに管制操作データとして飛行計画部21に出力する。これを受け、図2(b)に示すように、飛行計画処理部21は、管制操作データに含まれるSSRデータに基づいて、操作が行われた航空機に対応する飛行計画データを飛行計画テーブル211から検索し、検索された飛行計画データに含まれる管制機状態フラグを管制機状態を意味するONに設定する。なお、飛行計画データは、シナリオ生成装置1にてシナリオが他のシナリオに変更されるまで飛行計画テーブル211に記録されているものとする。
【0042】
その後、シナリオ生成部1で新たな目標データが生成されると、追尾処理部22により追尾処理が行われ、航跡データが管制装置3に出力される。図4(b)に示すように、この際、管制機状態フラグが管制機状態を意味するONに設定されているため、表示部32の航空機の表示からBGN表示が消え、管制機状態を示す表示となる。
【0043】
次に、シナリオ生成装置1にて、シナリオの巻き戻し等のシナリオ時刻の変更操作が行われ、変更したシナリオ時刻からシナリオが再開される場合のレーダー管制シミュレータシステムの動作について説明する。
【0044】
シナリオ生成装置1は、ナリオ時刻の変更操作後、シナリオを再開する操作を受け付けると、変更後のシナリオ時刻データを情報処理装置2および管制装置3に出力し、各装置の時刻規正を行うとともに、変更後のシナリオ時刻からシナリオに基づいて目標データの生成を再開し、生成した目標データを追尾処理部22に出力する。また、シナリオ生成部1は、シナリオ時刻を変更した旨を飛行計画処理部21および追尾処理部22に通知する。
【0045】
次に、飛行計画処理部21は、シナリオ生成部1からシナリオ時刻を変更した旨の通知を受けると、飛行計画テーブル211に記録されている飛行計画データからトラックデータとの関連付けに用いられているトラックナンバーの値を削除する。なお、トラックナンバー以外の情報は全てそのまま保持される。
【0046】
また、追尾処理部22は、シナリオ生成部1からシナリオ時刻を変更した旨の通知を受けると、トラックテーブル221に記録されているトラックデータを全て削除する。これは、トラックテーブル211にトラックデータを残しておくと、シナリオ時刻変更後も追尾処理を継続してしまい、航空機の航跡が不連続なものになってしまう恐れがあるためである。
【0047】
次に、追尾処理部22は、シナリオ時刻変更後にシナリオ生成装置1で生成された目標データに含まれるSSRデータに基づいて、その目標データに対応する飛行計画データを飛行計画テーブル212から検索し、検索した飛行計画データと目標データとを含む情報に基づいて、その目標データに対応する航空機の追尾処理を開始する。この際、シナリオ時刻変更前のトラックデータが全て削除されているため、追尾処理部22は、新規で航空機の追尾処理を開始する。また、追尾処理部22は、追尾を開始した航空機に対して、追尾処理の結果に基づいてトラックデータをトラックテーブル221に記録する。また、図3(b)に示すように、新規で追尾処理が開始されたため、生成されるトラックデータには新しいトラックナンバーが割り振られ、シナリオ時刻変更前のトラックナンバーとは異なる値となる。また、図2(c)および図3(b)に示すように、追尾処理部22は、検索された飛行計画データと生成したトラックデータとを関連付けるために、検索された飛行計画データのトラックナンバーに生成したトラックデータのトラックナンバーの値を記録するとともに、生成したトラックデータに検索された飛行計画データの飛行計画ナンバーを含める。
【0048】
次に、追尾処理部22は、航跡データを生成し、管制装置3に出力する。ここでは、図2(c)に示すように、飛行計画データに含まれる管制機状態フラグが管制機状態を示すONに設定されている。そのため、図4(c)に示すように、新規で追尾処理を開始した航空機でも、表示部31での表示は管制機状態を示す表示となり、BGN表示は表示されない。なお、航跡データに含まれる管制機状態フラグが準管制機状態を示すOFFに設定されている場合には、表示部31での航空機の表示はBGN表示となる。
【0049】
上述したように、本実施形態のレーダー管制シミュレータシステムにおいては、飛行計画データに航空機が管制機状態か準管制機状態かを示すフラグ情報を含めて飛行計画データテーブル211に記録しておき、このフラグ情報に基づいて、管制装置3にて航空機が管制機状態か否かを示す表示を行う。
【0050】
そのため、管制業務の模擬訓練のシナリオが巻き戻され、新たにシナリオ生成装置1から情報処理装置2に出力された目標データに含まれる位置情報で示される位置が目標検出位置に含まれなくても、フラグ情報に基づいてその目標データがシナリオの巻き戻し前に管制を行っていた航空機に対応する目標データであると判断することができるため、シナリオ再開後に航空機の管制状態を引き継ぐことができる。
【0051】
また、シナリオ時刻の変更後に、トラックテーブル221に記録されているトラックデータを全て削除することで、シナリオ再開後に追尾処理が継続されることがなくなり、不自然な航跡が表示部32に表示されないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明のレーダー管制シミュレータシステムの一実施形態の構成を示す概略構成図である。
【図2】図1に示した飛行計画テーブルに記録されている飛行計画データのシナリオ開始後、シナリオ時刻変更前およびシナリオ時刻変更後の一例を示す図である。
【図3】図1に示したトラックテーブルに記録されているトラックデータのシナリオ時刻変更前およびシナリオ時刻変更後の一例を示す図である。
【図4】図1に示した表示部の、シナリオ開始後、シナリオ時刻変更前およびシナリオ時刻変更後の表示の一例を示す図である。
【図5】レーダー管制システムの管制卓の表示部の表示の一例を示す図である。
【図6】実運用機材の情報処理装置を組み込んだ一般的なレーダー管制シミュレータシステムにおける、シナリオ時刻の巻き戻し前後の動作を説明するための図である。
【符号の説明】
【0053】
1 シナリオ生成装置
2 情報処理装置
3 管制装置
21 飛行計画処理部
22 追尾処理部
31 操作部
32 表示部
211 飛行計画テーブル
221 トラックテーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機の管制業務の模擬訓練のシナリオに基づいて、当該航空機の識別子および飛行計画を含む飛行計画データと、当該航空機の識別子および位置情報を含む目標データとを生成するシナリオ生成装置と、
飛行計画テーブルを備え、前記航空機の前記飛行計画データに当該航空機が管制を受けている管制機状態か新規で追尾処理が開始された準管制機状態かを示すフラグ情報を含めて前記飛行計画テーブルに記録する飛行計画処理部と、前記識別子に基づいて前記目標データと対応する飛行計画データを前記飛行計画テーブルから検索し、該飛行計画データと前記目標データとに基づいて前記航空機の追尾処理を行うとともに、該追尾処理の結果に基づいたトラックデータと前記フラグ情報とを含む航跡データを生成する追尾処理部とを具備する情報処理装置と、
前記航空機の管制操作を受け付けるとともに、前記航跡データに基づいて、該航空機の航跡および該航空機が前記管制機状態か否かを示す表示を行う管制装置とを有し、
前記管制装置は、前記航空機を管制機に設定する操作を受け付けると、その旨を前記飛行計画処理部に通知し、
前記飛行計画処理部は、前記飛行計画データを前記飛行計画テーブルに記録する際に、前記フラグ情報を準管制機状態に設定し、前記管制装置から前記通知を受けると、該フラグ情報を管制機状態に設定する、レーダー管制シミュレータシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のレーダー管制シミュレータシステムにおいて、
前記追尾処理部は、前記トラックデータを記録するトラックテーブルを備え、前記飛行計画データ、前記目標データおよび前記トラックテーブルに記録されている前記トラックデータに基づいて前記航空機の追尾処理を行うことで、当該航空機が次に検出されると予想される範囲を示す目標検出位置を演算し、前記シナリオ生成部で新たに生成された目標データに含まれる位置情報で示される位置が前記目標検出位置に含まれず、当該航空機の前記フラグ情報が準管制機状態に設定されている場合に、前記新たに生成された目標データは新規の航空機に対応するものと判断し、該新規の航空機の追尾処理を開始する、レーダー管制シミュレータシステム。
【請求項3】
請求項2に記載のレーダー管制シミュレータシステムにおいて、
前記シナリオ生成装置は、ユーザからの操作に基づいて、前記シナリオ内の時刻を変更し、前記操作で指定された時刻から前記シナリオを再開し、該再開されたシナリオに基づいて前記目標データを生成するとともに、前記シナリオの時刻を変更した旨を前記追尾処理部に通知し、
前記追尾処理部は、前記シナリオ生成装置からの前記通知を受け、前記トラックテーブルに記録されているトラックデータを削除する、レーダー管制シミュレータシステム。
【請求項4】
航空機の識別子および飛行計画を含む飛行計画データを記録する飛行計画テーブルと、前記航空機の追尾処理結果に基づいたトラックデータを記録するトラックテーブルとを有するレーダー管制シミュレータシステムが行う管制状態引継方法であって、
航空機の管制業務の模擬訓練のシナリオに基づいて、当該航空機の前記飛行計画データと、当該航空機の識別子および位置情報を含む目標データとを生成する生成ステップと、
前記航空機が管制を受ける管制機状態であるか新規で追尾処理が開始された準管制機状態であるかを示すフラグ情報を準管制機状態に設定して前記航空機の飛行計画データに含めて前記飛行計画テーブルに記録する飛行計画記録ステップと、
前記目標データが生成されるたびに、前記識別子に基づいて該目標データと対応する飛行計画データを前記飛行計画テーブルから検索し、該飛行計画データと前記目標データとに基づいて前記航空機の追尾処理を行い、該追尾処理の結果に基づいたトラックデータを前記トラックテーブルに記録する追尾処理ステップと、
前記トラックテーブルにトラックデータが記録されるたびに、該トラックデータと、前記飛行計画テーブルに記録されたフラグ情報とを含む航跡データを生成する航跡データ生成ステップと、
前記航跡データが生成されるたびに、該航跡データに基づいて、前記航空機の航跡と該航空機が前記管制機状態か否かを示す表示を行う表示ステップと、
前記航空機を前記管制機に設定する操作を受け付け、当該航空機の前記フラグ情報を管制機状態に設定するフラグ情報設定ステップとを有する、管制状態引継方法。
【請求項5】
請求項4に記載の管制状態引継方法において、
前記追尾処理ステップでは、
前記飛行計画データ、前記目標データおよび前記トラックテーブルに記録されたトラックデータに基づいて前記追尾処理を行い、該追尾処理を行っている航空機が次に検出されると予想される範囲を示す目標検出位置を演算するステップと、
新たに生成された目標データに含まれる位置を示す情報が前記目標検出位置に含まれず、当該航空機の前記フラグ情報が準管制機状態に設定されている場合に、新たに生成された目標データは新規の航空機に対応するものと判断し、該新規の航空機の追尾処理を開始するステップとを有する、管制状態引継方法。
【請求項6】
請求項5に記載の管制状態引継方法において、
ユーザからの操作を受け付け、該操作に基づいて前記シナリオ内の時刻を変更し、前記操作で指定された時刻から前記シナリオを再開し、該再開されたシナリオに基づいて前記目標データを生成するとともに、前記トラックテーブルに記録されている追尾処理の結果を削除するステップをさらに有する、管制状態引継方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate