説明

レーダ信号処理装置およびレーダ信号処理方法

【課題】同一の目標物に対して処理が重複する冗長性をなくす。
【解決手段】受信信号を時間方向でフーリエ変換しドップラー周波数次元のデータに変換する時間フーリエ変換部16と、変換後のデータからピーク信号を検出するピーク検出部17と、ピーク信号に相当するドップラー周波数次元のデータから共分散行列を生成する共分散行列生成手段と、共分散行列に含まれる波の数を抽出する波数推定部19と、波数推定部19による演算結果を用いて高分解能により目標物までの距離を算出する距離算出部22と、当該距離から隣接する距離ゲートからの漏れ込み波かどうかの判定を行う漏れ込み波判定部23と、漏れ込み波と判定されたデータの処理の優先度を下げる優先度判定部20とを備えたレーダ信号処理装置で、これらの一連の処理の処理時間が制限時間を超えた場合に途中でその処理を打ち切る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーダ信号処理装置およびレーダ信号処理方法に関し、特に、複数のアンテナで受信した信号から目標物体の距離または角度を算出するためのレーダ信号処理装置およびレーダ信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のレーダ装置は、複数の受信アンテナから構成される受信アレーアンテナをもち、空間方向に複数のビームを形成するビーム合成処理を行うことで、到来するレーダ反射波のビーム方向ごとの信号処理を行うことができる。また、到来反射波の方向ごとに受信信号の積分効果を得ることができる。
【0003】
また、他の従来のレーダ装置として、時分割で複数周波数のパルス波を送信し、目標物からの反射波を受信する、多周波パルス方式を用いたレーダ装置が提案されており(例えば、非特許文献1参照)、該レーダ装置においては、規定の幅をもつ距離範囲ごとに信号を処理することができる(この距離範囲を距離ゲートと呼ぶ)。
【0004】
ここで、目標の相対的な角度や距離を高い分解能で算出する方法として、MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)(例えば、非特許文献2参照)やESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)(例えば、非特許文献3参照)といった高分解能処理が知られている。この高分解能処理では、受信信号に複数の反射波の情報が混在する、多重波環境となる場合においても複数の波の分離が可能である。
【0005】
上述の従来のレーダ装置において、非特許文献2や3に記載の高分解能処理を用いることで、レーダの捜索範囲の空間を分割し、分割した領域ごとに高い分解能で目標の距離や角度を求めることができる。
【0006】
ただし、高分解能処理は高い分解能を達成できる一方で、処理の負荷が大きく、レーダ装置で要求されるリアルタイム処理を達成するためには、装置の規模が大きくなってしまうという課題がある。そのため、この課題に対して、高分解能処理を行うか否かの選定手段をもち、選定された信号にのみ高分解能処理を施す手法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
【非特許文献1】稲葉敬之著,「多周波ステップICWレーダによる多目標分離法」,電子情報通信学会論文誌,B Vol. J89-B No.3,pp.373-383
【非特許文献2】R. O. Schmidt,“Multiple Emitter Location and Signal Parameter Estimation”, IEEE Trans, vol.AP-34, No.3, pp.276-280(Mar. 1986)
【非特許文献3】R. Roy and T. Kailath,“ESPRIT Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques”, IEEE Trans, vol.ASSP-37, pp.984-995(July. 1989)
【特許文献1】特開2006−91029号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の従来のレーダ装置においては、ビームや距離ゲートといった、空間上の異なる領域ごとの処理が可能である。しかしながら、ここで、隣り合う2つの領域の一方の領域にある目標物からの反射波が一方の領域でも検出され、かつ、他方の領域に漏れこんで検出される場合、同一の目標物からの反射波を2つの領域で扱うことになり、処理に冗長性が存在するという問題点がある。
【0009】
上述した特許文献1に記載の手法においても、この処理の冗長性の解決はなされていないため、高分解能処理を行うに当たって、演算器やメモリといった処理装置のリソースを有効に活用し切れないという問題点があった。
【0010】
本発明は、かかる問題点を解決するためになされたものであり、同一の目標物に対して処理が重複する冗長性をなくし、演算器およびメモリのリソースを有効に活用し、リアルタイム処理を達成することが可能なレーダ信号処理装置およびレーダ信号処理方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、送信信号を空間に向けて放出する送信手段と、上記空間に存在した目標物によって上記送信信号が反射して発生する反射信号を受信信号として受信する受信手段と、上記受信信号を時間方向でフーリエ変換し、時間次元の受信信号をドップラー周波数次元のデータに変換する時間フーリエ変換手段と、上記ドップラー周波数次元のデータの中から、所定の閾値を超えるピーク信号を検出するピーク検出手段と、上記ピーク信号に相当するドップラー周波数次元のデータから距離算出用の共分散行列を生成する共分散行列生成手段と、上記共分散行列を固有値分解して、上記共分散行列に含まれる波の数を抽出する波数推定手段と、上記波数推定手段による上記共分散行列の演算結果を用いて高分解能アルゴリズムにより上記目標物までの距離の算出を行う距離算出手段と、上記距離算出手段により算出された上記距離と隣接する距離ゲートまでの距離とを比較して、上記波が隣接する距離ゲートからの漏れ込み波かどうかの判定を行う漏れ込み波判定手段と、上記漏れ込み波判定手段による判定結果を参照し、漏れ込み波と判定されたデータの処理の優先度を下げて、上記距離算出手段による処理を行う順位を決定する優先度判定手段と、上記受信手段による受信信号の受信から上記距離算出手段による距離算出までの処理時間をカウントし、当該処理時間が予め設定された制限時間を超えた場合には、途中でその処理を打ち切るタイムアウト手段とを備えたレーダ信号処理装置である。
【発明の効果】
【0012】
この発明は、送信信号を空間に向けて放出する送信手段と、上記空間に存在した目標物によって上記送信信号が反射して発生する反射信号を受信信号として受信する受信手段と、上記受信信号を時間方向でフーリエ変換し、時間次元の受信信号をドップラー周波数次元のデータに変換する時間フーリエ変換手段と、上記ドップラー周波数次元のデータの中から、所定の閾値を超えるピーク信号を検出するピーク検出手段と、上記ピーク信号に相当するドップラー周波数次元のデータから距離算出用の共分散行列を生成する共分散行列生成手段と、上記共分散行列を固有値分解して、上記共分散行列に含まれる波の数を抽出する波数推定手段と、上記波数推定手段による上記共分散行列の演算結果を用いて高分解能アルゴリズムにより上記目標物までの距離の算出を行う距離算出手段と、上記距離算出手段により算出された上記距離と隣接する距離ゲートまでの距離とを比較して、上記波が隣接する距離ゲートからの漏れ込み波かどうかの判定を行う漏れ込み波判定手段と、上記漏れ込み波判定手段による判定結果を参照し、漏れ込み波と判定されたデータの処理の優先度を下げて、上記距離算出手段による処理を行う順位を決定する優先度判定手段と、上記受信手段による受信信号の受信から上記距離算出手段による距離算出までの処理時間をカウントし、当該処理時間が予め設定された制限時間を超えた場合には、途中でその処理を打ち切るタイムアウト手段とを備えたレーダ信号処理装置であるので、同一の目標物に対して処理が重複する冗長性をなくし、演算器およびメモリのリソースを有効に活用し、リアルタイム処理を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係るレーダ信号処理装置の構成を示す構成図である。図1において、11は空間に向けて放出するための送信信号(送信波)を生成する送信部、11aは送信部11に設けられた発振器、11bは送信部11に設けられた周波数逓倍器、11cは送信部11に設けられた低雑音増幅器、12は送信部11に接続されて送信信号を放出する送信アンテナである。また、13は複数の受信アンテナから構成されて、送信信号が目標物で反射した反射波を受信する受信アレーアンテナ、14は受信アレーアンテナ14の受信アンテナの個数分だけ設けられた受信部、14aは受信部14に設けられた低雑音増幅器、14bは受信部14に設けられたミキサ、15は各受信部14に接続され、アナログ信号による受信信号をディジタル信号に変換するA/D変換器、16は複数のA/D変換器15に接続された時間フーリエ変換部、17は時間フーリエ変換部16からの信号が入力されるピーク検出部、18は時間フーリエ変換部16およびピーク検出部17からの信号が入力される共分散行列生成部、19は共分散行列生成部18からの信号が入力される波数推定部、20は波数推定部19からの信号が入力される優先度判定部、21は優先度判定部20による演算結果が一時的に保存される一時データ保存部、22は優先度判定部20からの信号が入力される距離算出部、23は距離算出部22からの信号が入力され、演算結果を優先度判定部20に出力する漏れ込み波判定部である。
【0014】
次に動作について説明する。本実施の形態に係るレーダ信号処理装置は、送信アンテナ12から空間に向けて送信信号を放出し、目標物にあたって反射してくる反射波を受信信号として受信アレーアンテナ13で受信して、当該受信信号に基づいて、目標物までの距離を算出するものである。本実施の形態は、上記の非特許文献1の多周波ステップレーダ方式に基づき、高分解能アルゴリズムを用いて、目標物までの距離を算出するものであり、全体の処理は、あらかじめ設定された制限時間内で処理を終えるリアルタイム処理である。
【0015】
送信部11の内部では、周波数逓倍器11bは発振器11aから出力された送信用信号の周波数を逓倍して送信レーダ波を生成し、低雑音増幅器11cにおいて強度を増幅して、送信アンテナ12を介してアンテナ面前方に放出する。この周波数逓倍器11bでは一定時間間隔で逓倍率が切り替わり、一定の周波数ステップ幅の送信波が生成される。その結果、送信されるレーダ波は一定時間で周波数がステップ状に切り替わることになる。
【0016】
送信アンテナ12から放出された送信信号は、送信波の進行方向前方に目標物があった場合、当該目標物によって反射される。反射波は受信アレーアンテナ13によって受信され、当該受信信号は、この時点ではアナログ信号であるため、受信アンテナ、低雑音増幅器14aおよびミキサ14bから構成される受信系ごとに、A/D変換器15でディジタル信号に変換される。
【0017】
ディジタル化された各受信系の受信信号は、それぞれ、時間フーリエ変換部16において、受信信号の時間次元(時間方向)で高速フーリエ変換され、受信信号の次元は時間次元からドップラー周波数次元に変換される。
【0018】
ドップラー周波数次元に変換された受信信号は、ピーク検出部17において、当該受信信号の電力または振幅強度に関して閾値処理され、すなわち、予め設定された所定の閾値と受信信号の電力または振幅強度とが比較され、当該閾値を超える電力または振幅強度を有する受信信号だけを抽出し、それらをピーク信号として検出する。ピーク信号のドップラー周波数は、目標物と自機(すなわち、本実施の形態によるレーダ信号処理装置)との相対速度を表す。
【0019】
共分散行列生成部18は、時間フーリエ変換部16の出力から、ピーク検出部17で検出されたピーク信号のドップラー周波数成分の信号(ドップラー周波数次元の受信信号)を取り出し、それに基づいて共分散行列を生成する。共分散行列は、ピーク検出部17で検出されたピーク信号ごとに当該ピーク信号の数だけ生成される。
【0020】
波数推定部19では、共分散行列生成部18で生成された共分散行列を固有値展開し、共分散行列に含まれる波の数を決定する。
【0021】
優先度判定部20では、波数推定部19の出力である高分解能処理の途中結果と推定された波の数を受け取る。推定された波の数が複数個の場合は、それらの波のデータの処理の優先度を高いものと決定し、当該途中結果を後段の距離算出部22に受け渡す。一方、推定された波の数が1個の場合は、その波のデータの処理の優先度を低いものと決定し、優先度を下げるとともに、当該途中結果と波の数を一時データ保存部21に保存しておく。
【0022】
距離算出部22では、優先度が高いものとしてこのようにして優先度判定部20から受け取った高分解能処理の途中結果を用いて、高分解能アルゴリズムによる処理の続きを行って、目標物までの距離を算出する。
【0023】
漏れ込み波判定部23は、距離算出部22で算出した距離と隣接する距離ゲートまでの距離とを比較して、距離算出部22で算出した距離が、隣接する距離ゲート内の距離に相当する場合は、漏れ込み波と判定して、隣接する距離ゲートを漏れ込み波の存在する領域と判定する。漏れ込み波の情報は、漏れ込み波判定部23内の記憶域に保存する。
【0024】
上記までの処理で、波数推定部19で波の数が複数個であると判定された共分散行列の距離算出が終了する。
【0025】
次は、波の数が1個であると判定された共分散行列の処理である。上述のように、優先度判定部20では、波の数が1個と判定された場合には、そのデータを優先度の低いものと決定して一時データ保存部21にデータを記憶しているので、波の数が複数個であると判定された共分散行列の距離算出が終了した時点で、一時データ保存部21に記憶されたデータを取り出し、漏れ込み波判定部23に蓄えられた漏れ込み波の情報を参照する。そして、共分散行列のもとになっているピーク信号の距離ゲートが漏れ込み波の存在する領域とは異なる場合は、漏れ込み波ではないと判定し、距離算出部22に途中処理結果を受け渡し、距離算出部22により距離を算出する。距離算出後の漏れ込み波判定部23の動作は上述と同じであり、すなわち、距離算出部22で算出した距離と隣接する距離ゲートまでの距離とを比較して、距離算出部22で算出した距離が、隣接する距離ゲート内の距離に相当する場合は、漏れ込み波と判定して、隣接する距離ゲートを漏れ込み波の存在する領域と判定し、当該漏れ込み波の情報が漏れ込み波判定部23内の記憶域に追加保存され、漏れ込み波の情報が更新される。
【0026】
一方、優先度判定部20で、漏れ込み波判定部23の情報を参照した結果、漏れ込み波と判定された場合は、優先度判定部20は、その処理の優先度を下げ、その処理は後回しにされる。すなわち、優先度判定部20で決定される処理の優先度は、推定された波の数が複数個の場合で、かつ、漏れ込み波でないものが優先度が1番高く、推定された波の数が1個の場合で、かつ、漏れ込み波でないものが2番目に高く、次が、推定された波の数が複数個の場合で、かつ、漏れ込み波のもので、最後が、推定された波の数が1個の場合で、かつ、漏れ込み波のものの順となる。
【0027】
また、本実施の形態では、受信アレーアンテナ13による受信信号の受信から距離算出部22による距離算出までの処理時間をカウントし、当該処理時間が予め設定された制限時間を越えた場合には、途中でその処理を打ち切るタイムアウト機能が距離算出部22に設けられている。このようにして処理が打ち切られる処理は、後回しにされた優先度の低い漏れ込み波の処理である。また、制限時間内であれば、漏れ込み波についても残りの処理が実行される。よって、漏れ込み波判定部23による判定で誤判定が生じた場合でも修正が可能である。
【0028】
以上のように、本実施の形態1においては、このように、漏れ込み波かどうかを判定する判定手段としての漏れ込み波判定部23を設け、漏れ込み波に対する処理の優先度を下げて実行するので、同一の目標物に対して重複して処理が生じる冗長性を削減することができ、処理のための演算器やリソースをより有効に活用し、リアルタイム処理を達成することができるという効果が得られる。
【0029】
実施の形態2.
図2はこの発明の実施の形態2に係るレーダ信号処理装置の構成を示す構成図である。図2において、24は、時間フーリエ変換部16とピーク検出部17との間に設けられたビーム形成部である。25は、図1の距離算出部22の代わりに設けられた角度算出部である。他の構成は図1と同じであるため、ここではその説明は省略する。但し、本実施の形態においては、共分散行列生成部18が角度算出用の共分散行列を生成する点と、漏れ込み波判定部23が角度算出部25の出力に対応して、漏れ込み波の判定を行う点が、図1に示した実施の形態1と異なっている。その他の動作については実施の形態1と同じである。
【0030】
動作について説明する。送信アンテナ12による送信信号の送信から時間フーリエ変換部16による時間フーリエ変換までの処理は、実施の形態1と全く同一の動作である。本実施の形態においては、時間フーリエ変換後、ビーム形成部24が、空間方向に複数の受信ビームを形成する。
【0031】
ピーク検出部17では、受信ビームの張る方向の次元と、ドップラー周波数の2次元でピーク検出を行う。すなわち、ビーム形成部24によりビーム形成されたドップラー周波数次元のデータの中から所定の閾値を超えるピーク信号を検出する。共分散行列生成部18では、時間フーリエ変換部16の出力信号からピーク信号のドップラー周波数成分(ドップラー周波数次元のデータ)を取り出し、角度算出用の共分散行列を生成する。
【0032】
以降の、波数推定部19および一時データ保存部21の動作・機能は実施の形態1と同一である。角度算出部25は、優先度判定部20から、高分解能処理の途中結果を受け取り、続きの処理によって角度を算出する。
【0033】
漏れ込み波判定部23の動作を説明する。本実施の形態では、角度算出部25により角度を算出する。そのため、漏れ込み波判定部23は、あるビームで検出されたピーク信号に対して算出された角度と隣接するビームの張る角度範囲とを比較して、当該角度が隣接するビームの張る角度範囲に存在する場合、漏れ込み波と判定し、その隣接ビームの領域を漏れ込み波が存在する領域と判定する。漏れ込み波が存在する領域の情報は、漏れ込み波判定部23内の記憶域に保存する。
【0034】
優先度判定部20は、ビーム間の漏れ込みに対応して、処理優先度を決定する。優先度判定部20の処理については実施の形態1と基本的に同じであるため、ここでは説明を省略する。
【0035】
以上のように、本実施の形態においても、隣り合うビームの間での漏れ込みを判定し、漏れ込みと判定された共分散行列の処理は後回しになるように優先度を下げて処理を実行うるようにしたので、同一の目標物に対して重複して処理が生じる冗長性を削減することができ、処理のための演算器やリソースを有効に活用して、リアルタイムの処理を達成することができるという効果が得られる。
【0036】
実施の形態3.
実施の形態3は、実施の形態1または実施の形態2と同一の装置構成であって、優先度判定部の動作のみが異なるものであるため、図1または図2を参照することとし、ここでは構成についての説明は省略する。
【0037】
本実施の形態においては、優先度判定部20で、漏れ込み波判定部23の結果を参照して、漏れ込み波と判定された共分散行列について、もとの信号のドップラー周波数との比較を行う。あらかじめ設定された周波数幅の範囲でドップラー周波数が一致する場合には、漏れ込み波と確定し、処理の優先度を下げる。一致しない場合には、漏れ込み波判定部23の判定を破棄し、処理を続行させる。
【0038】
以上のように、本実施の形態においては、実施の形態1および2と同様の効果が得られるとともに、さらに、漏れ込み波判定部23において、実施の形態1および2で示した空間上での判定に加え、ドップラー周波数上での判定を行うようにしたので、漏れ込み波の判定の確度を高めることができる。その結果、誤判定によって処理の優先度を下げられ、距離や角度が算出されない信号の数を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】この発明の実施の形態1を示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態2を示す構成図である。
【符号の説明】
【0040】
11 送信部、11a 発振器、11b 周波数逓倍器、11c 低雑音増幅器、12 送信アンテナ、13 受信アレーアンテナ、14 受信部、14a 低雑音増幅器、14b ミキサ、15 A/D、16 時間フーリエ変換部、17 ピーク検出部、18 共分散行列生成部、19 波数推定部、20 優先度判定部、21 一時データ保存部、22 距離算出部、23 漏れ込み波判定部、24 ビーム形成部、25 角度算出部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信信号を空間に向けて放出する送信手段と、
上記空間に存在した目標物によって上記送信信号が反射して発生する反射信号を受信信号として受信する受信手段と、
上記受信信号を時間方向でフーリエ変換し、時間次元の受信信号をドップラー周波数次元のデータに変換する時間フーリエ変換手段と、
上記ドップラー周波数次元のデータの中から、所定の閾値を超えるピーク信号を検出するピーク検出手段と、
上記ピーク信号に相当するドップラー周波数次元のデータから距離算出用の共分散行列を生成する共分散行列生成手段と、
上記共分散行列を固有値分解して、上記共分散行列に含まれる波の数を抽出する波数推定手段と、
上記波数推定手段による上記共分散行列の演算結果を用いて高分解能アルゴリズムにより上記目標物までの距離の算出を行う距離算出手段と、
上記距離算出手段により算出された上記距離と隣接する距離ゲートまでの距離とを比較して、上記波が隣接する距離ゲートからの漏れ込み波かどうかの判定を行う漏れ込み波判定手段と、
上記漏れ込み波判定手段による判定結果を参照し、漏れ込み波と判定されたデータの処理の優先度を下げて、上記距離算出手段による処理を行う順位を決定する優先度判定手段と、
上記受信手段による受信信号の受信から上記距離算出手段による距離算出までの処理時間をカウントし、当該処理時間が予め設定された制限時間を超えた場合には、途中でその処理を打ち切るタイムアウト手段と
を備えたことを特徴とするレーダ信号処理装置。
【請求項2】
送信信号を空間に向けて放出する送信手段と、
上記空間に存在した目標物によって上記送信信号が反射して発生する反射信号を受信信号として受信する受信手段と、
上記受信信号を時間方向でフーリエ変換し、時間次元の受信信号をドップラー周波数次元のデータに変換する時間フーリエ変換手段と、
上記空間方向に複数の受信ビームを形成するビーム形成手段と、
上記ビーム形成手段によりビーム形成された上記ドップラー周波数次元のデータの中から、所定の閾値を超えるピーク信号を検出するピーク検出手段と、
上記ピーク信号に相当するドップラー周波数次元のデータから角度算出用の共分散行列を生成する共分散行列生成手段と、
上記共分散行列を固有値分解して、上記共分散行列に含まれる波の数を抽出する波数推定手段と、
上記波数推定手段による上記共分散行列の演算結果を用いて高分解能アルゴリズムにより上記目標物が存在する方角の角度の算出を行う角度算出手段と、
上記角度算出手段により算出された上記角度と隣接するビームの張る角度範囲とを比較して、上記波が隣接するビームからの漏れ込み波かどうかの判定を行う漏れ込み波判定手段と、
上記漏れ込み波判定手段による判定結果を参照し、漏れ込み波と判定されたデータの処理の優先度を下げて、上記角度算出手段による処理を行う順位を決定する優先度判定手段と、
上記受信手段による受信信号の受信から上記角度算出手段による角度算出までの処理時間をカウントし、当該処理時間が予め設定された制限時間を超えた場合には、途中でその処理を打ち切るタイムアウト手段と
を備えたことを特徴とするレーダ信号処理装置。
【請求項3】
送信信号を空間に向けて放出する送信ステップと、
上記空間に存在した目標物によって上記送信信号が反射して発生する反射信号を受信信号として受信する受信ステップと、
上記受信信号を時間方向でフーリエ変換し、時間次元の受信信号をドップラー周波数次元のデータに変換する時間フーリエ変換ステップと、
上記ドップラー周波数次元のデータの中から、所定の閾値を超えるピーク信号を検出するピーク検出ステップと、
上記ピーク信号に相当するドップラー周波数次元のデータから距離算出用の共分散行列を生成する共分散行列生成ステップと、
上記共分散行列を固有値分解して、上記共分散行列に含まれる波の数を抽出する波数推定ステップと、
上記波数推定ステップによる上記共分散行列の演算結果を用いて高分解能アルゴリズムにより上記目標物までの距離の算出を行う距離算出ステップと、
上記距離算出ステップにより算出された上記距離と隣接する距離ゲートまでの距離とを比較して、上記波が隣接する距離ゲートからの漏れ込み波かどうかの判定を行う漏れ込み波判定ステップと、
上記漏れ込み波判定ステップによる判定結果を参照し、漏れ込み波と判定されたデータの処理の優先度を下げて、上記距離算出ステップによる処理を行う順位を決定する優先度判定ステップと、
上記受信ステップによる受信信号の受信から上記距離算出ステップによる距離算出までの処理時間をカウントし、当該処理時間が予め設定された制限時間を超えた場合には、途中でその処理を打ち切るタイムアウトステップと
を備えたことを特徴とするレーダ信号処理方法。
【請求項4】
送信信号を空間に向けて放出する送信ステップと、
上記空間に存在した目標物によって上記送信信号が反射して発生する反射信号を受信信号として受信する受信ステップと、
上記受信信号を時間方向でフーリエ変換し、時間次元の受信信号をドップラー周波数次元のデータに変換する時間フーリエ変換ステップと、
上記空間方向に複数の受信ビームを形成するビーム形成ステップと、
上記ビーム形成ステップによりビーム形成された上記ドップラー周波数次元のデータの中から、所定の閾値を超えるピーク信号を検出するピーク検出ステップと、
上記ピーク信号に相当するドップラー周波数次元のデータから角度算出用の共分散行列を生成する共分散行列生成ステップと、
上記共分散行列を固有値分解して、上記共分散行列に含まれる波の数を抽出する波数推定ステップと、
上記波数推定ステップによる上記共分散行列の演算結果を用いて高分解能アルゴリズムにより上記目標物が存在する方角の角度の算出を行う角度算出ステップと、
上記角度算出ステップにより算出された上記角度と隣接するビームの張る角度範囲とを比較して、上記波が隣接するビームからの漏れ込み波かどうかの判定を行う漏れ込み波判定ステップと、
上記漏れ込み波判定ステップによる判定結果を参照し、漏れ込み波と判定されたデータの処理の優先度を下げて、上記角度算出ステップによる処理を行う順位を決定する優先度判定ステップと、
上記受信ステップによる受信信号の受信から上記角度算出ステップによる角度算出までの処理時間をカウントし、当該処理時間が予め設定された制限時間を超えた場合には、途中でその処理を打ち切るタイムアウトステップと
を備えたことを特徴とするレーダ信号処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−257882(P2009−257882A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−105909(P2008−105909)
【出願日】平成20年4月15日(2008.4.15)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】