レーダ装置及び受信データ処理方法
【課題】 過去のスキャンで発生した雑音信号の影響を抑え、目標の位置を正確に検出することが可能なレーダ装置及び受信データ処理方法を提供する。
【解決手段】 レーダ装置は、無線部、パルス圧縮部、ドップラフィルタ処理部、信号処理部、予測部及び積分部を具備する。パルス圧縮部は、無線部で受信したパルス信号に対してパルス圧縮処理を施す。ドップラフィルタ処理部は、パルス圧縮後のデータに対してドップラフィルタ処理を施す。信号処理部は、ドップラフィルタ処理部で1スキャン毎に取得されるデータを固有データに変換する。予測部は、過去のスキャンで取得された固有データに基づいて次スキャン時の目標の位置を予測し、予測した位置に過去の固有データを累積した予測データを作成する。積分部は、次スキャン時に取得される固有データと、累積される積分数が予め設定された回数に抑えられた予測データとを積分する。
【解決手段】 レーダ装置は、無線部、パルス圧縮部、ドップラフィルタ処理部、信号処理部、予測部及び積分部を具備する。パルス圧縮部は、無線部で受信したパルス信号に対してパルス圧縮処理を施す。ドップラフィルタ処理部は、パルス圧縮後のデータに対してドップラフィルタ処理を施す。信号処理部は、ドップラフィルタ処理部で1スキャン毎に取得されるデータを固有データに変換する。予測部は、過去のスキャンで取得された固有データに基づいて次スキャン時の目標の位置を予測し、予測した位置に過去の固有データを累積した予測データを作成する。積分部は、次スキャン時に取得される固有データと、累積される積分数が予め設定された回数に抑えられた予測データとを積分する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、送信パルスが反射、散乱又は回折されたパルス信号を受信することで目標を捜索するレーダ装置と、このレーダ装置で用いられる受信データ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置は、一定のPRI(Pulse Repetition Interval)で送信された複数の送信パルスが反射、散乱又は回折されたパルス信号を受信する。レーダ装置は、受信したパルス信号に対してコヒーレント積分を行う。ここで、コヒーレント積分とは、複数のパルス信号に対して同一レンジでコヒーレントに積分する処理である。このように、レーダ装置が受信したパルス信号に対してコヒーレント積分を行う期間を一般的にCPI(Coherent Processing Interval)と呼ぶ。そして、レーダ装置は、現在のスキャンでコヒーレント積分した信号を、過去のスキャンで取得された信号とインコヒーレント積分し、その強度を測定する。レーダ装置は、測定した強度が所定のスレッショルド値を超えた場合、これを目標信号として検知する。
【0003】
しかしながら、この種のレーダ装置では、過去のスキャンで取得された信号を積分していくため、スレッショルド値を超える雑音信号が発生した場合、以降の計測でもこの雑音信号の影響が残ってしまう。これは、あたかも目標が移動するかのような誤航跡としてスコープ上に現れ、目標の誤検出の要因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】E. Fisher, A. H. Heimovich, "Spatial diversity in radar - models and detection Performance", IEEE Trans. On Signal Processing, vol. 54, no. 3, pp. 823-838
【非特許文献2】E. Fisher, A. H. Heimovich, "Performance of MIMO Radar System: Advantages of Angular Diversity", IEEE Trans. On Signal Processing, 2004
【非特許文献3】M. I. Skolnik, "Radar Handbook second edition", McGraw-Hill, New York, 1990
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように、現在のスキャンでコヒーレント積分した信号を、過去のスキャンで取得された信号とインコヒーレント積分するレーダ装置では、スレッショルド値を超える雑音信号が発生した場合、以降の計測にこの雑音信号の影響が残るため、目標を誤検出するおそれがある。
【0006】
そこで、目的は、過去のスキャンで発生した雑音信号の影響を抑え、目標の位置を正確に検出することが可能なレーダ装置及びこのレーダ装置で用いられる受信データ処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態によれば、レーダ装置は、無線部、パルス圧縮部、ドップラフィルタ処理部、信号処理部、予測部及び積分部を具備する。無線部は、パルス信号を受信する。パルス圧縮部は、前記パルス信号に対してパルス圧縮処理を施し、パルス信号毎のレンジセルデータを生成する。ドップラフィルタ処理部は、前記パルス圧縮部からのレンジセルデータに対してドップラフィルタ処理を施すことで、周波数ビン毎のレンジセルデータを生成する。信号処理部は、前記ドップラフィルタ処理部で1スキャン毎に取得されるレンジセルデータを、目標の速度を含むパラメータで特定する固有データに変換する。予測部は、過去のスキャンで取得された固有データの速度に基づいて次スキャン時の目標の位置を予測し、次スキャン時に前記予測した位置に到達すると算出される過去の固有データを、前記予測した位置に累積した予測データを作成する。積分部は、次スキャン時に取得される固有データと、前記予測データとを積分し、前記次スキャン時の固有データと前記過去の固有データとの累積数が予め設定した回数を超える場合、積分結果から最も古い固有データを減じる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1の実施形態に係るレーダ装置の機能構成を示すブロック図である。
【図2】図1のパルス圧縮部によるパルス圧縮処理を示す図である。
【図3】図1のドップラフィルタ処理部によるコヒーレント積分を示す図である。
【図4】図1の信号処理部が作成する4次元データのパラメータを示す図である。
【図5】図1のレーダ装置についてのシミュレーションで用いられるシミュレーション諸元を示す図である。
【図6】図1の積分部でのスライディングウィンドウ処理の概要を示す図である。
【図7】図5のシミュレーション諸元を用いた際のシミュレーション結果を示す図である。
【図8】図6のスライディングウィンドウ処理を適用しない場合のシミュレーション結果を示す図である。
【図9】第1の実施形態に係るレーダ装置を含むMIMOレーダシステムの機能構成を示すブロック図である。
【図10】図9のレーダ装置の機能構成のその他の例を示すブロック図である。
【図11】第2の実施形態に係るレーダ装置の機能構成を示すブロック図である。
【図12】図11の重み付け部での重み付け係数を算出する際のグラフである。
【図13】第2の実施形態に係るレーダ装置の機能構成のその他の例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0010】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係るレーダ装置の機能構成を示すブロック図である。図1に示すレーダ装置は、無線部10、空間処理部20、パルス圧縮部30、ドップラフィルタ処理部40、信号処理部50、積分部60、予測部70及び記録部80を具備する。
【0011】
無線部10は、アンテナ素子11、受信モジュール12、周波数変換部13及びアナログ−デジタル変換部14を備える。
【0012】
アンテナ素子11は、一定のPRI(Pulse Repetition Interval)で送信された複数の送信パルスが反射、散乱又は回折されたパルス信号を受信する。このとき、1CPI(Coherent Processing Interval)でM個の送信パルスが送信され、アンテナ素子11は、M個のパルス信号を受信するとする。アンテナ素子11は、受信したパルス信号を受信モジュール12へ出力する。受信モジュール12は、アンテナ素子11からのパルス信号の電力を増幅する。周波数変換部13は、受信モジュール12で増幅されたパルス信号をベースバンド帯に変換する。アナログ−デジタル変換部14は、周波数変換部13からのパルス信号をデジタル変換し、空間処理部20へ出力する。
【0013】
空間処理部20は、無線部10でデジタル化された信号に対して所定のビームウェイトを重畳することで、受信ビームを形成する。
【0014】
パルス圧縮部30は、空間処理部20からの信号に対してパルス圧縮処理を行い、パルス信号毎にレンジセルデータを生成する。図2は、パルス圧縮部30によるパルス圧縮処理を模式的に示す図である。
【0015】
ドップラフィルタ処理部40は、パルス圧縮部30からのM個毎のレンジセルデータに対してコヒーレント積分を行う。すなわち、ドップラフィルタ処理部40は、パルス圧縮部30からのレンジセルデータに対して1CPI単位でFFT処理を行うことで、M個の周波数ビンそれぞれについてのレンジセルデータを生成する。図3は、ドップラフィルタ処理部40によるコヒーレント積分を模式的に示す図である。
【0016】
信号処理部50は、ドップラフィルタ処理部40からのレンジセルデータの強度が、レンジr、方位θ、仰角φ及び相対速度vmにより特定されるようにする。つまり、信号処理部50は、所定の捜索領域における全方向への1回のスキャンで得られる全てのレンジセルデータの強度がレンジr、方位θ、仰角φ及び相対速度vmにより特定されるように変換した4次元データを作成する。あるスキャンiで取得された4次元データは、R(i)(r,θ,φ,vm)と表される。信号処理部50は、4次元データを積分部60及び記録部80へ出力する。図4は、目標に対するレンジr、方位θ、仰角φ及び相対速度vmの関係を示す模式図である。
【0017】
なお、1CPIで送信されるM個のパルス信号に基づいて求められる、n番目(nは1〜Mの自然数)の周波数ビンにおける目標の相対速度vmは、以下のように求められる。図3で示す各周波数ビンの周波数帯域幅Δfは、Δf=fPRF/Mである。ここで、周波数ビンの値は目標の移動によるドップラ周波数に起因してのみ生じると仮定する。なお、fPRF=1/fPRIである。このとき、n番目の周波数ビンにおける相対速度vmは、vm=n・Δf・c/fcで表される。ただし、cは光速、fcはキャリア周波数を示す。
【0018】
予測部70は、積分部60から後述する積分4次元データを受け取り、積分4次元データにより特定される位置の全てに目標が存在すると仮定する。そして、予測部70は、積分4次元データに基づいて、次のスキャン時の目標の存在位置を予測する。このときの予測部70での処理を以下に説明する。
【0019】
レーダ装置は、所定の捜索領域における全方位に順次照射される送信パルスの反射波を受信する。このため、同一方向からのパルス信号を受信するのは離散的(1スキャン間隔)になる。1スキャン当りの周期をTSCAN秒とすると、図3に示すレンジセル毎の周波数バンク信号は周期TSCAN毎に得られることになる。
【0020】
目標の運動モデルを等速直線運動と仮定した場合、周波数ビンnに存在する目標は、TSCAN秒後の次スキャン時には目標はvm・TSCANだけ移動していると予測できる。つまり、隣接するレンジセルの間隔をxとおくと、目標は、(vm・TSCAN/x)以下の最大の整数分(Δnとする。)だけ異なるレンジセルに移動することになる。
【0021】
このため、i番目のスキャン時のレンジセルr、周波数ビンnに目標が存在する場合、TSCAN後のi+1番目のスキャン時のレンジセルr+Δn、周波数ビンnに同じ目標が存在すると予測される。
【0022】
予測部70は、積分部60から積分4次元データが供給される場合、この積分4次元データが、次のスキャンまでにΔnだけ移動すると予測する。予測部70は、積分4次元データがΔnだけ移動した予測4次元データを作成し、作成した予測4次元データを記憶部80へ出力する。
【0023】
また、予測部70は、記録部80から後述する過去4次元データを受け取ると、この過去4次元データに基づいて、予め設定されるp回先(pは自然数)のスキャン時(TSCAN×p後)の目標の存在位置を予測する。予測部70は、過去4次元データがp×Δnだけ移動すると予測して制限4次元データを作成し、作成した制限4次元データを積分部60へ出力する。
【0024】
記録部80は、信号処理部50からの4次元データを受け取る。記録部80は、p+1回分のスキャンで得られる4次元データを記録する。具体的には、まず、記録部80は、信号処理部50からの4次元データを、1回目のスキャンからp回目のスキャンまで記録する。記録部80は、p+1回目のスキャンによりp+1個分の4次元データが記録されると、1回目のスキャンで得られた4次元データを過去4次元データとして予測部70へ出力する。記録部80は、p+2回目のスキャン以降のスキャンで4次元データが得られると、記録されている最も古い4次元データを過去4次元データとして予測部70へ出力する。
【0025】
また、記録部80は、予測部70からの予測4次元データを記録する。記録部80は、予測4次元データを記録している場合、信号処理部50で新たなスキャンの4次元データが作成されると、記録している予測4次元データを積分部60へ出力する。
【0026】
積分部60は、信号処理部50からの4次元データ、記録部80からの予測4次元データ及び/又は予測部70からの制限4次元データを受け取り、これらに基づいてインコヒーレント積分を行う。具体的には、記録部80から予測4次元データが供給されず、かつ、予測部70からの制限4次元データが供給されない場合、積分部60は、信号処理部50からの4次元データを積分4次元データとして後段及び予測部70へ出力する。また、記録部80から予測4次元データが供給され、かつ、予測部70からの制限4次元データが供給されない場合、積分部60は、信号処理部50からの4次元データに、予測4次元データを足し合わせて積分4次元データとして、後段及び予測部70へ出力する。
【0027】
また、記録部80から予測4次元データが供給され、かつ、予測部70から制限4次元データが供給される場合、積分部60は、信号処理部50からの4次元データに予測4次元データを足し合わせ、この足し合わせたデータから制限4次元データを差し引いて積分4次元データとして、後段及び予測部70へ出力する。なお、記録部80によるこの処理を、以下ではスライディングウィンドウ処理と称する。
【0028】
また、図1では記載されていないが、レーダ装置は、積分部60の後段に目標検出部をさらに具備していても構わない。目標検出部は、積分部60からの積分4次元データの強度が閾値を超えるか否かを判断する。なお、閾値の値は、積分部60でのインコヒーレント積分の回数に基づいて変動する。目標検出部は、積分4次元データの強度が閾値を超える場合、目標を検出したと判断する。
【0029】
次に、上記構成のレーダ装置による探知確率推移についてのシミュレーション結果を示す。図5は、第1の実施形態に係るレーダ装置についてのシミュレーションで用いられるシミュレーション諸元を示す図である。本シミュレーションでは、インコヒーレント積分の回数p=5である場合を例に示す。図6は、p=5である際の、積分部60でのスライディングウィンドウ処理の概要を示す模式図である。図7は、図5のシミュレーション諸元を用いた際のシミュレーション結果を示す図である。また、図8は、スライディングウィンドウ処理を適用しない場合のシミュレーション結果を示す図である。図8では、雑音信号の発生のため、破線で示す位置に目標の誤検出が起きている。一方、図7では、スライディングウィンドウ処理を適用しているため、図8で示すような誤検出の発生は抑圧される。
【0030】
以上のように、第1の実施形態では、積分部60は、4次元データの積分を予め設定した回数以上行った場合、最も古い4次元データに基づく値を積分結果から減算するようにしている。つまり、インコヒーレント積分の回数を、予め設定された回数に制限するようにしている。これにより、過去に発生した高い雑音信号の影響が以降のスキャンにおける探知処理に継続的に影響する問題を緩和することが可能となる。
【0031】
したがって、第1の実施形態に係るレーダ装置によれば、過去のスキャンで発生した雑音信号の影響を抑え、目標の位置を正確に検出することができる。
【0032】
なお、上記第1の実施形態では、信号処理部50により、ドップラフィルタ処理部40からのレンジセルデータを4次元データに変換する場合を例に説明したが、これに限定される訳ではない。例えば、レーダ装置は、図9に示すようなMIMOレーダシステムを構成し、レンジセルデータを6次元セルデータに変換するようにしても構わない。
【0033】
各レーダ装置は、送信装置TX1〜TXRからそれぞれ送信された送信パルスが目標で反射等されたパルス信号を受信する。図10は、第1の実施形態に係るレーダ装置の機能構成のその他の例を示すブロック図である。なお、送信装置TX1〜TXRからそれぞれ送信される送信パルスは、互いに無相関となるように変調されている。また、複数のレーダ装置において、座標の原点及び直交軸は共有されている。
【0034】
図10に示すレーダ装置は、無線部10、空間処理部20、パルス圧縮部30、ドップラフィルタ処理部40、信号処理部90、積分部100、予測部70及び記録部80を備える。
【0035】
信号処理部90は、各レーダ装置間で共有されている座標の原点及び直交軸を予め記録している。また、信号処理部90は、自装置の位置座標を把握している。信号処理部90は、ドップラフィルタ処理部40からのレンジセルデータの強度が、目標の位置のx座標、y座標、z座標、目標の速度のx座標、y座標、z座標の値により特定されるようにする。つまり、信号処理部90は、レンジセルデータの強度が目標の位置のx座標、y座標、z座標、目標の速度のx座標、y座標、z座標の値で特定される6次元セルデータF(x,y,z,vx,vy,vz)を作成する。信号処理部90は、6次元セルデータを積分部100へ出力する。
【0036】
予測部110は、積分部100から後述する積分6次元セルデータが供給される場合、この積分6次元セルデータの、次のスキャンまでの移動量を予測する。目標の運動モデルを等速直線運動と仮定した場合、ある時刻における6次元セルデータF(x,y,z,vx,vy,vz)は、TSCAN秒後の次スキャン時にはF(x+vxTSCAN,y+vyTSCAN,z+vzTSCAN,vx,vy,vz)となる。つまり、隣接するレンジセルの間隔をdとおくと、目標は、(vxTSCAN/d,vyTSCAN/d,vzTSCAN/d)以下の最大の整数分(Δnx,Δny,Δnz)だけ異なるレンジセルに移動することになる。予測部110は、積分6次元セルデータが(Δnx,Δny,Δnz)だけ移動した予測6次元セルデータを作成し、作成した予測6次元セルデータを記憶部120へ出力する。
【0037】
また、予測部110は、記録部120から後述する過去6次元セルデータを受け取ると、この過去6次元セルデータに基づいて、予め設定されるp回先(pは自然数)のスキャン時(TSCAN×p後)の目標の存在位置を予測する。予測部70は、過去6次元セルデータがp×(Δnx,Δny,Δnz)だけ移動すると予測して制限6次元セルデータを作成し、作成した制限6次元セルデータを積分部100へ出力する。
【0038】
記録部120は、積分部100から後述するMISO積分後の6次元セルデータを受け取る。記録部120は、p+1回分のスキャンで得られる6次元セルデータを記録する。具体的には、まず、記録部120は、MISO積分後の6次元セルデータを、1回目のスキャンからp回目のスキャンまで記録する。記録部120は、p+1回目のスキャンによりp+1個分の6次元セルデータが記録されると、1回目のスキャンで得られた6次元セルデータを過去6次元データとして予測部110へ出力する。記録部120は、p+2回目のスキャン以降のスキャンで6次元セルデータが得られると、記録されている最も古い6次元セルデータを過去6次元セルデータとして予測部110へ出力する。
【0039】
また、記録部120は、予測部110からの予測6次元セルデータを記録する。記録部120は、予測6次元セルデータを記録している場合、信号処理部90で新たなスキャンの6次元セルデータが作成されると、記録している予測6次元セルデータを積分部100へ出力する。
【0040】
積分部100は、信号処理部90からの6次元セルデータに対してMISO(Multi Input Single Output)積分を行う。MISO積分とは、複数の送信パルスに基づくパルス信号についての6次元セルデータを積分する処理である。このとき、パルス信号は、送信パルスが同一の目標で反射、散乱又は回折されたものである。以下では、6次元セルデータのMISO積分について説明する。
【0041】
送信装置TX1〜TXRは、それぞれ異なる時刻に送信ビームを目標へ向ける。そのため、送信装置TX1〜TXRからの送信パルスに対するパルス信号は、異なる時刻にレーダ装置で受信される。また、送信装置TX1〜TXRが目標に対して送信ビームを向ける時刻が異なるため、その間に目標が移動してしまうこともある。そのため、同一の目標からのパルス信号に基づいて得られる6次元セルデータは、送信源毎に異なる。
【0042】
積分部100は、送信ビームを向ける間に移動してしまった目標の移動量を予測するために、目標の運動モデルを規定する。例えば、目標の運動モデルを等速直線運動と仮定した場合、ある時刻における6次元セルデータF(x,y,z,vx,vy,vz)は、時刻Δt秒後においてはF(x+vxΔt,y+vyΔt,z+vzΔt,vx,vy,vz)となる。
【0043】
積分部100は、想定した運動モデルに基づいて、移動前の6次元セルデータと移動後の6次元セルデータとを結び付ける。そして、積分部100は、結び付けた6次元セルデータを積分する。このように、運動モデルに基づいて移動後の6次元セルデータを予測することで、送信装置TX1〜TXRからの送信パルスが同一の目標に反射されるパルス信号の受信時刻はそれぞれ異なるが、これらのパルス信号に基づく6次元セルデータを積分することが可能となる。
【0044】
また、積分部100は、記録部120からの予測6次元セルデータ及び/又は予測部110からの制限6次元セルデータをさらに受け取り、MISO積分後の6次元セルデータ、予測6次元セルデータ及び制限6次元セルデータに基づいてインコヒーレント積分を行う。具体的には、記録部120から予測6次元セルデータが供給されず、かつ、予測部110からの制限6次元セルデータが供給されない場合、積分部100は、MISO積分後の6次元セルデータを積分6次元セルデータとして後段及び予測部110へ出力する。また、記録部120から予測6次元セルデータが供給され、かつ、予測部110からの制限6次元セルデータが供給されない場合、積分部100は、MISO積分後の6次元セルデータに、予測6次元セルデータを足し合わせて積分6次元セルデータとして、後段及び予測部110へ出力する。
【0045】
また、記録部120から予測6次元セルデータが供給され、かつ、予測部110から制限6次元セルデータが供給される場合、積分部100は、MISO積分後の6次元セルデータに予測6次元セルデータを足し合わせ、この足し合わせたデータから制限6次元セルデータを差し引いて積分6次元セルデータとして、後段及び予測部110へ出力する。
【0046】
積分部100からの積分6次元セルデータは、処理サーバ130へ出力される。処理サーバ130は、接続される複数のレーダ装置でそれぞれ取得された積分6次元セルデータに対してSIMO(Single Input Multi Output)積分を行う。そして、処理サーバ130は、SIMO積分の結果のレベルが、積分6次元セルデータの積分数に従って設定されるスレッショルド値を超える場合、目標を検知したと判断する。
【0047】
このように、積分部100は、6次元セルデータの積分を予め設定した回数以上行った場合、最も古い6次元セルデータに基づく値を積分結果から減算するようにしている。つまり、インコヒーレント積分の回数を、予め設定された回数に制限するようにしている。これにより、レーダ装置がMIMOレーダシステムを構成する場合であっても、過去に発生した高い雑音信号の影響が以降のスキャンにおける探知処理に継続的に影響する問題を緩和することが可能となる。
【0048】
(第2の実施形態)
図11は、第2の実施形態に係るレーダ装置の機能構成を示すブロック図である。図11に示すレーダ装置は、無線部10、空間処理部20、パルス圧縮部30、ドップラフィルタ処理部40、信号処理部50、積分部140、予測部150、記録部160及び重み付け部170を具備する。
【0049】
信号処理部50は、ドップラフィルタ処理部40からのレンジセルデータを4次元データに変換し、変換した4次元データを積分部140へ出力する。
【0050】
積分部140は、信号処理部50からの4次元データ、重み付け部170からの重み付け4次元データ及び記録部160からの予測4次元データを受け取り、これらに基づいてインコヒーレント積分を行う。具体的には、重み付け部170から重み付け4次元データが供給され、かつ、記録部160から予測4次元データが供給される場合、積分部140は、信号処理部50からの4次元データから、重み付け部170からの重み付け4次元データを減算する。そして、積分部140は、減算後のデータに対して記録部160に記録される予測4次元データを足し合わせて積分4次元データとして、後段及び予測部150へ出力する。
【0051】
また、重み付け部170から重み付け4次元データが供給されず、かつ、記録部160から予測4次元データが供給されない場合、積分部140は、信号処理部50からの4次元データを積分4次元データとして後段及び予測部150へ出力する。
【0052】
予測部150は、積分部110から積分4次元データが供給される場合、この積分4次元データが、次のスキャンまでにΔnだけ移動すると予測する。予測部150は、積分4次元データがΔnだけ移動した予測4次元データを作成し、作成した予測4次元データを記憶部160へ出力する。
【0053】
記録部160は、予測部150からの予測4次元データを記録する。記録部160は、予測4次元データを記録している場合、信号処理部50で新たなスキャンの4次元データが作成されると、記録している予測4次元データを積分部140及び重み付け部170へ出力する。
【0054】
重み付け部170は、重み付け係数Kが予め設定されている。ここで、重み付け係数Kは、nをスキャン数とした場合、K=1−1.56/nで求められる。なお、スキャン数に対して目標信号をインコヒーレント積分した場合のS/N特性推移(積分特性)は図12で示される。重み付け部170は、記録部160からの予測4次元データに(1−K)を乗算し、重み付け4次元データとして積分部140へ出力する。
【0055】
以上のように、第2の実施形態に係るレーダ装置では、信号処理部50からの4次元データから重み付け4次元データを減算し、減算後のデータに予測4次元データを加算するようにしている。つまり、レーダ装置は、妨害信号成分等を除去するMTI(Moving Target Indication)方式の一手法であるスウィープインテグレータによるフェージングメモリ方式を採用するようにしている。これにより、過去に発生した高い雑音信号の影響が以降のスキャンにおける探知処理に継続的に影響する問題を緩和することが可能となる。また、第1の実施形態で示すスライディングウィンドウ処理で必要となる、p+1回分の4次元データを記録する必要がないため、メモリ量の節約を図ることが可能となる。
【0056】
したがって、第2の実施形態に係るレーダ装置によれば、過去のスキャンで発生した雑音信号の影響を抑え、目標の位置を正確に検出することができる。
【0057】
なお、上記第2の実施形態では、信号処理部50により、ドップラフィルタ処理部40からのレンジセルデータを4次元データに変換する場合を例に説明したが、これに限定される訳ではない。例えば、レーダ装置は、図9に示すようなMIMOレーダシステムを構成し、レンジセルデータを6次元セルデータに変換するようにしても構わない。
【0058】
各レーダ装置は、送信装置TX1〜TXRからそれぞれ送信された送信パルスが目標で反射等されたパルス信号を受信する。図13は、第2の実施形態に係るレーダ装置の機能構成のその他の例を示すブロック図である。
【0059】
図13に示すレーダ装置は、無線部10、空間処理部20、パルス圧縮部30、ドップラフィルタ処理部40、信号処理部90、積分部180、予測部190、記録部200及び重み付け部210を備える。
【0060】
信号処理部90は、ドップラフィルタ処理部40からのレンジセルデータを6次元セルデータに変換し、変換した6次元セルデータを積分部180へ出力する。
【0061】
積分部180は、信号処理部90からの6次元セルデータに対してMISO(Multi Input Single Output)積分を行う。MISO積分とは、複数の送信パルスに基づくパルス信号についての6次元セルデータを積分する処理である。
【0062】
また、積分部180は、重み付け部210からの重み付け6次元セルデータ及び記録部200からの予測6次元セルデータをさらに受け取り、MISO積分後の6次元セルデータ、重み付け6次元セルデータ及び予測6次元セルデータに基づいてインコヒーレント積分を行う。具体的には、重み付け部210から重み付け6次元セルデータが供給され、かつ、記録部200から予測6次元セルデータが供給される場合、積分部180は、MISO積分後の6次元セルデータから、重み付け部210からの重み付け6次元セルデータを減算する。そして、積分部180は、減算後のデータに対して記録部200に記録される予測6次元セルデータを足し合わせて積分6次元セルデータとして、後段及び予測部190へ出力する。
【0063】
また、重み付け部210から重み付け6次元セルデータが供給されず、かつ、記録部200から予測6次元セルデータが供給されない場合、積分部180は、MISO積分後の6次元セルデータを積分6次元セルデータとして後段及び予測部190へ出力する。
【0064】
予測部190は、積分部180から積分6次元セルデータが供給される場合、この積分6次元セルデータが、次のスキャンまでに(Δnx,Δny,Δnz)だけ移動すると予測する。予測部190は、積分6次元セルデータが(Δnx,Δny,Δnz)だけ移動した予測6次元セルデータを作成し、作成した予測6次元セルデータを記憶部200へ出力する。
【0065】
記録部200は、予測部190からの予測6次元セルデータを記録する。記録部200は、予測6次元セルデータを記録している場合、新たにMISO積分が実施されると、記録している予測6次元セルデータを積分部180及び重み付け部210へ出力する。
【0066】
重み付け部210は、重み付け係数Kが予め設定されている。ここで、重み付け係数Kは、nをスキャン数とした場合、K=1−1.56/nで求められる。重み付け部210は、記録部200からの予測6次元セルデータに(1−K)を乗算し、重み付け6次元セルデータとして積分部180へ出力する。
【0067】
このように、積分部180は、MISO積分後の6次元セルデータから重み付け6次元セルデータを減算し、減算後のデータに予測6次元セルデータを加算するようにしている。これにより、レーダ装置がMIMOレーダシステムを構成する場合であっても、過去に発生した高い雑音信号の影響が以降のスキャンにおける探知処理に継続的に影響する問題を緩和することが可能となる。また、第1の実施形態で示すスライディングウィンドウ処理で必要となる、p+1回分の4次元データを記録する必要がないため、メモリ量の節約を図ることが可能となる。
【0068】
なお、上記各実施形態では、積分4次元データ又は積分6次元セルデータに基づいて次のスキャンでの予測4次元データ又は予測6次元セルデータを作成し、これらを記録部80,120,160,200へ記録する場合を例に説明した。しかしながら、これに限定される訳ではない。例えば、積分4次元データ又は積分6次元セルデータを記録部へ記録し、新たな4次元データ又は6次元セルデータが作成された際に、記録部から読み出した積分4次元データ又は積分6次元セルデータに基づいて予測4次元データ又は予測6次元セルデータを作成するようにしても良い。
【0069】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0070】
10…無線部、11…アンテナ素子、12…受信モジュール、13…周波数変換部、14…A/D、20…空間処理部、30…パルス圧縮部、40…ドップラフィルタ処理部、50,90…信号処理部、60,100,140,180…積分部、70,110,150,190…予測部、80,120,160,200…記録部、130…処理サーバ、170,210…重み付け部
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、送信パルスが反射、散乱又は回折されたパルス信号を受信することで目標を捜索するレーダ装置と、このレーダ装置で用いられる受信データ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置は、一定のPRI(Pulse Repetition Interval)で送信された複数の送信パルスが反射、散乱又は回折されたパルス信号を受信する。レーダ装置は、受信したパルス信号に対してコヒーレント積分を行う。ここで、コヒーレント積分とは、複数のパルス信号に対して同一レンジでコヒーレントに積分する処理である。このように、レーダ装置が受信したパルス信号に対してコヒーレント積分を行う期間を一般的にCPI(Coherent Processing Interval)と呼ぶ。そして、レーダ装置は、現在のスキャンでコヒーレント積分した信号を、過去のスキャンで取得された信号とインコヒーレント積分し、その強度を測定する。レーダ装置は、測定した強度が所定のスレッショルド値を超えた場合、これを目標信号として検知する。
【0003】
しかしながら、この種のレーダ装置では、過去のスキャンで取得された信号を積分していくため、スレッショルド値を超える雑音信号が発生した場合、以降の計測でもこの雑音信号の影響が残ってしまう。これは、あたかも目標が移動するかのような誤航跡としてスコープ上に現れ、目標の誤検出の要因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】E. Fisher, A. H. Heimovich, "Spatial diversity in radar - models and detection Performance", IEEE Trans. On Signal Processing, vol. 54, no. 3, pp. 823-838
【非特許文献2】E. Fisher, A. H. Heimovich, "Performance of MIMO Radar System: Advantages of Angular Diversity", IEEE Trans. On Signal Processing, 2004
【非特許文献3】M. I. Skolnik, "Radar Handbook second edition", McGraw-Hill, New York, 1990
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように、現在のスキャンでコヒーレント積分した信号を、過去のスキャンで取得された信号とインコヒーレント積分するレーダ装置では、スレッショルド値を超える雑音信号が発生した場合、以降の計測にこの雑音信号の影響が残るため、目標を誤検出するおそれがある。
【0006】
そこで、目的は、過去のスキャンで発生した雑音信号の影響を抑え、目標の位置を正確に検出することが可能なレーダ装置及びこのレーダ装置で用いられる受信データ処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態によれば、レーダ装置は、無線部、パルス圧縮部、ドップラフィルタ処理部、信号処理部、予測部及び積分部を具備する。無線部は、パルス信号を受信する。パルス圧縮部は、前記パルス信号に対してパルス圧縮処理を施し、パルス信号毎のレンジセルデータを生成する。ドップラフィルタ処理部は、前記パルス圧縮部からのレンジセルデータに対してドップラフィルタ処理を施すことで、周波数ビン毎のレンジセルデータを生成する。信号処理部は、前記ドップラフィルタ処理部で1スキャン毎に取得されるレンジセルデータを、目標の速度を含むパラメータで特定する固有データに変換する。予測部は、過去のスキャンで取得された固有データの速度に基づいて次スキャン時の目標の位置を予測し、次スキャン時に前記予測した位置に到達すると算出される過去の固有データを、前記予測した位置に累積した予測データを作成する。積分部は、次スキャン時に取得される固有データと、前記予測データとを積分し、前記次スキャン時の固有データと前記過去の固有データとの累積数が予め設定した回数を超える場合、積分結果から最も古い固有データを減じる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1の実施形態に係るレーダ装置の機能構成を示すブロック図である。
【図2】図1のパルス圧縮部によるパルス圧縮処理を示す図である。
【図3】図1のドップラフィルタ処理部によるコヒーレント積分を示す図である。
【図4】図1の信号処理部が作成する4次元データのパラメータを示す図である。
【図5】図1のレーダ装置についてのシミュレーションで用いられるシミュレーション諸元を示す図である。
【図6】図1の積分部でのスライディングウィンドウ処理の概要を示す図である。
【図7】図5のシミュレーション諸元を用いた際のシミュレーション結果を示す図である。
【図8】図6のスライディングウィンドウ処理を適用しない場合のシミュレーション結果を示す図である。
【図9】第1の実施形態に係るレーダ装置を含むMIMOレーダシステムの機能構成を示すブロック図である。
【図10】図9のレーダ装置の機能構成のその他の例を示すブロック図である。
【図11】第2の実施形態に係るレーダ装置の機能構成を示すブロック図である。
【図12】図11の重み付け部での重み付け係数を算出する際のグラフである。
【図13】第2の実施形態に係るレーダ装置の機能構成のその他の例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0010】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係るレーダ装置の機能構成を示すブロック図である。図1に示すレーダ装置は、無線部10、空間処理部20、パルス圧縮部30、ドップラフィルタ処理部40、信号処理部50、積分部60、予測部70及び記録部80を具備する。
【0011】
無線部10は、アンテナ素子11、受信モジュール12、周波数変換部13及びアナログ−デジタル変換部14を備える。
【0012】
アンテナ素子11は、一定のPRI(Pulse Repetition Interval)で送信された複数の送信パルスが反射、散乱又は回折されたパルス信号を受信する。このとき、1CPI(Coherent Processing Interval)でM個の送信パルスが送信され、アンテナ素子11は、M個のパルス信号を受信するとする。アンテナ素子11は、受信したパルス信号を受信モジュール12へ出力する。受信モジュール12は、アンテナ素子11からのパルス信号の電力を増幅する。周波数変換部13は、受信モジュール12で増幅されたパルス信号をベースバンド帯に変換する。アナログ−デジタル変換部14は、周波数変換部13からのパルス信号をデジタル変換し、空間処理部20へ出力する。
【0013】
空間処理部20は、無線部10でデジタル化された信号に対して所定のビームウェイトを重畳することで、受信ビームを形成する。
【0014】
パルス圧縮部30は、空間処理部20からの信号に対してパルス圧縮処理を行い、パルス信号毎にレンジセルデータを生成する。図2は、パルス圧縮部30によるパルス圧縮処理を模式的に示す図である。
【0015】
ドップラフィルタ処理部40は、パルス圧縮部30からのM個毎のレンジセルデータに対してコヒーレント積分を行う。すなわち、ドップラフィルタ処理部40は、パルス圧縮部30からのレンジセルデータに対して1CPI単位でFFT処理を行うことで、M個の周波数ビンそれぞれについてのレンジセルデータを生成する。図3は、ドップラフィルタ処理部40によるコヒーレント積分を模式的に示す図である。
【0016】
信号処理部50は、ドップラフィルタ処理部40からのレンジセルデータの強度が、レンジr、方位θ、仰角φ及び相対速度vmにより特定されるようにする。つまり、信号処理部50は、所定の捜索領域における全方向への1回のスキャンで得られる全てのレンジセルデータの強度がレンジr、方位θ、仰角φ及び相対速度vmにより特定されるように変換した4次元データを作成する。あるスキャンiで取得された4次元データは、R(i)(r,θ,φ,vm)と表される。信号処理部50は、4次元データを積分部60及び記録部80へ出力する。図4は、目標に対するレンジr、方位θ、仰角φ及び相対速度vmの関係を示す模式図である。
【0017】
なお、1CPIで送信されるM個のパルス信号に基づいて求められる、n番目(nは1〜Mの自然数)の周波数ビンにおける目標の相対速度vmは、以下のように求められる。図3で示す各周波数ビンの周波数帯域幅Δfは、Δf=fPRF/Mである。ここで、周波数ビンの値は目標の移動によるドップラ周波数に起因してのみ生じると仮定する。なお、fPRF=1/fPRIである。このとき、n番目の周波数ビンにおける相対速度vmは、vm=n・Δf・c/fcで表される。ただし、cは光速、fcはキャリア周波数を示す。
【0018】
予測部70は、積分部60から後述する積分4次元データを受け取り、積分4次元データにより特定される位置の全てに目標が存在すると仮定する。そして、予測部70は、積分4次元データに基づいて、次のスキャン時の目標の存在位置を予測する。このときの予測部70での処理を以下に説明する。
【0019】
レーダ装置は、所定の捜索領域における全方位に順次照射される送信パルスの反射波を受信する。このため、同一方向からのパルス信号を受信するのは離散的(1スキャン間隔)になる。1スキャン当りの周期をTSCAN秒とすると、図3に示すレンジセル毎の周波数バンク信号は周期TSCAN毎に得られることになる。
【0020】
目標の運動モデルを等速直線運動と仮定した場合、周波数ビンnに存在する目標は、TSCAN秒後の次スキャン時には目標はvm・TSCANだけ移動していると予測できる。つまり、隣接するレンジセルの間隔をxとおくと、目標は、(vm・TSCAN/x)以下の最大の整数分(Δnとする。)だけ異なるレンジセルに移動することになる。
【0021】
このため、i番目のスキャン時のレンジセルr、周波数ビンnに目標が存在する場合、TSCAN後のi+1番目のスキャン時のレンジセルr+Δn、周波数ビンnに同じ目標が存在すると予測される。
【0022】
予測部70は、積分部60から積分4次元データが供給される場合、この積分4次元データが、次のスキャンまでにΔnだけ移動すると予測する。予測部70は、積分4次元データがΔnだけ移動した予測4次元データを作成し、作成した予測4次元データを記憶部80へ出力する。
【0023】
また、予測部70は、記録部80から後述する過去4次元データを受け取ると、この過去4次元データに基づいて、予め設定されるp回先(pは自然数)のスキャン時(TSCAN×p後)の目標の存在位置を予測する。予測部70は、過去4次元データがp×Δnだけ移動すると予測して制限4次元データを作成し、作成した制限4次元データを積分部60へ出力する。
【0024】
記録部80は、信号処理部50からの4次元データを受け取る。記録部80は、p+1回分のスキャンで得られる4次元データを記録する。具体的には、まず、記録部80は、信号処理部50からの4次元データを、1回目のスキャンからp回目のスキャンまで記録する。記録部80は、p+1回目のスキャンによりp+1個分の4次元データが記録されると、1回目のスキャンで得られた4次元データを過去4次元データとして予測部70へ出力する。記録部80は、p+2回目のスキャン以降のスキャンで4次元データが得られると、記録されている最も古い4次元データを過去4次元データとして予測部70へ出力する。
【0025】
また、記録部80は、予測部70からの予測4次元データを記録する。記録部80は、予測4次元データを記録している場合、信号処理部50で新たなスキャンの4次元データが作成されると、記録している予測4次元データを積分部60へ出力する。
【0026】
積分部60は、信号処理部50からの4次元データ、記録部80からの予測4次元データ及び/又は予測部70からの制限4次元データを受け取り、これらに基づいてインコヒーレント積分を行う。具体的には、記録部80から予測4次元データが供給されず、かつ、予測部70からの制限4次元データが供給されない場合、積分部60は、信号処理部50からの4次元データを積分4次元データとして後段及び予測部70へ出力する。また、記録部80から予測4次元データが供給され、かつ、予測部70からの制限4次元データが供給されない場合、積分部60は、信号処理部50からの4次元データに、予測4次元データを足し合わせて積分4次元データとして、後段及び予測部70へ出力する。
【0027】
また、記録部80から予測4次元データが供給され、かつ、予測部70から制限4次元データが供給される場合、積分部60は、信号処理部50からの4次元データに予測4次元データを足し合わせ、この足し合わせたデータから制限4次元データを差し引いて積分4次元データとして、後段及び予測部70へ出力する。なお、記録部80によるこの処理を、以下ではスライディングウィンドウ処理と称する。
【0028】
また、図1では記載されていないが、レーダ装置は、積分部60の後段に目標検出部をさらに具備していても構わない。目標検出部は、積分部60からの積分4次元データの強度が閾値を超えるか否かを判断する。なお、閾値の値は、積分部60でのインコヒーレント積分の回数に基づいて変動する。目標検出部は、積分4次元データの強度が閾値を超える場合、目標を検出したと判断する。
【0029】
次に、上記構成のレーダ装置による探知確率推移についてのシミュレーション結果を示す。図5は、第1の実施形態に係るレーダ装置についてのシミュレーションで用いられるシミュレーション諸元を示す図である。本シミュレーションでは、インコヒーレント積分の回数p=5である場合を例に示す。図6は、p=5である際の、積分部60でのスライディングウィンドウ処理の概要を示す模式図である。図7は、図5のシミュレーション諸元を用いた際のシミュレーション結果を示す図である。また、図8は、スライディングウィンドウ処理を適用しない場合のシミュレーション結果を示す図である。図8では、雑音信号の発生のため、破線で示す位置に目標の誤検出が起きている。一方、図7では、スライディングウィンドウ処理を適用しているため、図8で示すような誤検出の発生は抑圧される。
【0030】
以上のように、第1の実施形態では、積分部60は、4次元データの積分を予め設定した回数以上行った場合、最も古い4次元データに基づく値を積分結果から減算するようにしている。つまり、インコヒーレント積分の回数を、予め設定された回数に制限するようにしている。これにより、過去に発生した高い雑音信号の影響が以降のスキャンにおける探知処理に継続的に影響する問題を緩和することが可能となる。
【0031】
したがって、第1の実施形態に係るレーダ装置によれば、過去のスキャンで発生した雑音信号の影響を抑え、目標の位置を正確に検出することができる。
【0032】
なお、上記第1の実施形態では、信号処理部50により、ドップラフィルタ処理部40からのレンジセルデータを4次元データに変換する場合を例に説明したが、これに限定される訳ではない。例えば、レーダ装置は、図9に示すようなMIMOレーダシステムを構成し、レンジセルデータを6次元セルデータに変換するようにしても構わない。
【0033】
各レーダ装置は、送信装置TX1〜TXRからそれぞれ送信された送信パルスが目標で反射等されたパルス信号を受信する。図10は、第1の実施形態に係るレーダ装置の機能構成のその他の例を示すブロック図である。なお、送信装置TX1〜TXRからそれぞれ送信される送信パルスは、互いに無相関となるように変調されている。また、複数のレーダ装置において、座標の原点及び直交軸は共有されている。
【0034】
図10に示すレーダ装置は、無線部10、空間処理部20、パルス圧縮部30、ドップラフィルタ処理部40、信号処理部90、積分部100、予測部70及び記録部80を備える。
【0035】
信号処理部90は、各レーダ装置間で共有されている座標の原点及び直交軸を予め記録している。また、信号処理部90は、自装置の位置座標を把握している。信号処理部90は、ドップラフィルタ処理部40からのレンジセルデータの強度が、目標の位置のx座標、y座標、z座標、目標の速度のx座標、y座標、z座標の値により特定されるようにする。つまり、信号処理部90は、レンジセルデータの強度が目標の位置のx座標、y座標、z座標、目標の速度のx座標、y座標、z座標の値で特定される6次元セルデータF(x,y,z,vx,vy,vz)を作成する。信号処理部90は、6次元セルデータを積分部100へ出力する。
【0036】
予測部110は、積分部100から後述する積分6次元セルデータが供給される場合、この積分6次元セルデータの、次のスキャンまでの移動量を予測する。目標の運動モデルを等速直線運動と仮定した場合、ある時刻における6次元セルデータF(x,y,z,vx,vy,vz)は、TSCAN秒後の次スキャン時にはF(x+vxTSCAN,y+vyTSCAN,z+vzTSCAN,vx,vy,vz)となる。つまり、隣接するレンジセルの間隔をdとおくと、目標は、(vxTSCAN/d,vyTSCAN/d,vzTSCAN/d)以下の最大の整数分(Δnx,Δny,Δnz)だけ異なるレンジセルに移動することになる。予測部110は、積分6次元セルデータが(Δnx,Δny,Δnz)だけ移動した予測6次元セルデータを作成し、作成した予測6次元セルデータを記憶部120へ出力する。
【0037】
また、予測部110は、記録部120から後述する過去6次元セルデータを受け取ると、この過去6次元セルデータに基づいて、予め設定されるp回先(pは自然数)のスキャン時(TSCAN×p後)の目標の存在位置を予測する。予測部70は、過去6次元セルデータがp×(Δnx,Δny,Δnz)だけ移動すると予測して制限6次元セルデータを作成し、作成した制限6次元セルデータを積分部100へ出力する。
【0038】
記録部120は、積分部100から後述するMISO積分後の6次元セルデータを受け取る。記録部120は、p+1回分のスキャンで得られる6次元セルデータを記録する。具体的には、まず、記録部120は、MISO積分後の6次元セルデータを、1回目のスキャンからp回目のスキャンまで記録する。記録部120は、p+1回目のスキャンによりp+1個分の6次元セルデータが記録されると、1回目のスキャンで得られた6次元セルデータを過去6次元データとして予測部110へ出力する。記録部120は、p+2回目のスキャン以降のスキャンで6次元セルデータが得られると、記録されている最も古い6次元セルデータを過去6次元セルデータとして予測部110へ出力する。
【0039】
また、記録部120は、予測部110からの予測6次元セルデータを記録する。記録部120は、予測6次元セルデータを記録している場合、信号処理部90で新たなスキャンの6次元セルデータが作成されると、記録している予測6次元セルデータを積分部100へ出力する。
【0040】
積分部100は、信号処理部90からの6次元セルデータに対してMISO(Multi Input Single Output)積分を行う。MISO積分とは、複数の送信パルスに基づくパルス信号についての6次元セルデータを積分する処理である。このとき、パルス信号は、送信パルスが同一の目標で反射、散乱又は回折されたものである。以下では、6次元セルデータのMISO積分について説明する。
【0041】
送信装置TX1〜TXRは、それぞれ異なる時刻に送信ビームを目標へ向ける。そのため、送信装置TX1〜TXRからの送信パルスに対するパルス信号は、異なる時刻にレーダ装置で受信される。また、送信装置TX1〜TXRが目標に対して送信ビームを向ける時刻が異なるため、その間に目標が移動してしまうこともある。そのため、同一の目標からのパルス信号に基づいて得られる6次元セルデータは、送信源毎に異なる。
【0042】
積分部100は、送信ビームを向ける間に移動してしまった目標の移動量を予測するために、目標の運動モデルを規定する。例えば、目標の運動モデルを等速直線運動と仮定した場合、ある時刻における6次元セルデータF(x,y,z,vx,vy,vz)は、時刻Δt秒後においてはF(x+vxΔt,y+vyΔt,z+vzΔt,vx,vy,vz)となる。
【0043】
積分部100は、想定した運動モデルに基づいて、移動前の6次元セルデータと移動後の6次元セルデータとを結び付ける。そして、積分部100は、結び付けた6次元セルデータを積分する。このように、運動モデルに基づいて移動後の6次元セルデータを予測することで、送信装置TX1〜TXRからの送信パルスが同一の目標に反射されるパルス信号の受信時刻はそれぞれ異なるが、これらのパルス信号に基づく6次元セルデータを積分することが可能となる。
【0044】
また、積分部100は、記録部120からの予測6次元セルデータ及び/又は予測部110からの制限6次元セルデータをさらに受け取り、MISO積分後の6次元セルデータ、予測6次元セルデータ及び制限6次元セルデータに基づいてインコヒーレント積分を行う。具体的には、記録部120から予測6次元セルデータが供給されず、かつ、予測部110からの制限6次元セルデータが供給されない場合、積分部100は、MISO積分後の6次元セルデータを積分6次元セルデータとして後段及び予測部110へ出力する。また、記録部120から予測6次元セルデータが供給され、かつ、予測部110からの制限6次元セルデータが供給されない場合、積分部100は、MISO積分後の6次元セルデータに、予測6次元セルデータを足し合わせて積分6次元セルデータとして、後段及び予測部110へ出力する。
【0045】
また、記録部120から予測6次元セルデータが供給され、かつ、予測部110から制限6次元セルデータが供給される場合、積分部100は、MISO積分後の6次元セルデータに予測6次元セルデータを足し合わせ、この足し合わせたデータから制限6次元セルデータを差し引いて積分6次元セルデータとして、後段及び予測部110へ出力する。
【0046】
積分部100からの積分6次元セルデータは、処理サーバ130へ出力される。処理サーバ130は、接続される複数のレーダ装置でそれぞれ取得された積分6次元セルデータに対してSIMO(Single Input Multi Output)積分を行う。そして、処理サーバ130は、SIMO積分の結果のレベルが、積分6次元セルデータの積分数に従って設定されるスレッショルド値を超える場合、目標を検知したと判断する。
【0047】
このように、積分部100は、6次元セルデータの積分を予め設定した回数以上行った場合、最も古い6次元セルデータに基づく値を積分結果から減算するようにしている。つまり、インコヒーレント積分の回数を、予め設定された回数に制限するようにしている。これにより、レーダ装置がMIMOレーダシステムを構成する場合であっても、過去に発生した高い雑音信号の影響が以降のスキャンにおける探知処理に継続的に影響する問題を緩和することが可能となる。
【0048】
(第2の実施形態)
図11は、第2の実施形態に係るレーダ装置の機能構成を示すブロック図である。図11に示すレーダ装置は、無線部10、空間処理部20、パルス圧縮部30、ドップラフィルタ処理部40、信号処理部50、積分部140、予測部150、記録部160及び重み付け部170を具備する。
【0049】
信号処理部50は、ドップラフィルタ処理部40からのレンジセルデータを4次元データに変換し、変換した4次元データを積分部140へ出力する。
【0050】
積分部140は、信号処理部50からの4次元データ、重み付け部170からの重み付け4次元データ及び記録部160からの予測4次元データを受け取り、これらに基づいてインコヒーレント積分を行う。具体的には、重み付け部170から重み付け4次元データが供給され、かつ、記録部160から予測4次元データが供給される場合、積分部140は、信号処理部50からの4次元データから、重み付け部170からの重み付け4次元データを減算する。そして、積分部140は、減算後のデータに対して記録部160に記録される予測4次元データを足し合わせて積分4次元データとして、後段及び予測部150へ出力する。
【0051】
また、重み付け部170から重み付け4次元データが供給されず、かつ、記録部160から予測4次元データが供給されない場合、積分部140は、信号処理部50からの4次元データを積分4次元データとして後段及び予測部150へ出力する。
【0052】
予測部150は、積分部110から積分4次元データが供給される場合、この積分4次元データが、次のスキャンまでにΔnだけ移動すると予測する。予測部150は、積分4次元データがΔnだけ移動した予測4次元データを作成し、作成した予測4次元データを記憶部160へ出力する。
【0053】
記録部160は、予測部150からの予測4次元データを記録する。記録部160は、予測4次元データを記録している場合、信号処理部50で新たなスキャンの4次元データが作成されると、記録している予測4次元データを積分部140及び重み付け部170へ出力する。
【0054】
重み付け部170は、重み付け係数Kが予め設定されている。ここで、重み付け係数Kは、nをスキャン数とした場合、K=1−1.56/nで求められる。なお、スキャン数に対して目標信号をインコヒーレント積分した場合のS/N特性推移(積分特性)は図12で示される。重み付け部170は、記録部160からの予測4次元データに(1−K)を乗算し、重み付け4次元データとして積分部140へ出力する。
【0055】
以上のように、第2の実施形態に係るレーダ装置では、信号処理部50からの4次元データから重み付け4次元データを減算し、減算後のデータに予測4次元データを加算するようにしている。つまり、レーダ装置は、妨害信号成分等を除去するMTI(Moving Target Indication)方式の一手法であるスウィープインテグレータによるフェージングメモリ方式を採用するようにしている。これにより、過去に発生した高い雑音信号の影響が以降のスキャンにおける探知処理に継続的に影響する問題を緩和することが可能となる。また、第1の実施形態で示すスライディングウィンドウ処理で必要となる、p+1回分の4次元データを記録する必要がないため、メモリ量の節約を図ることが可能となる。
【0056】
したがって、第2の実施形態に係るレーダ装置によれば、過去のスキャンで発生した雑音信号の影響を抑え、目標の位置を正確に検出することができる。
【0057】
なお、上記第2の実施形態では、信号処理部50により、ドップラフィルタ処理部40からのレンジセルデータを4次元データに変換する場合を例に説明したが、これに限定される訳ではない。例えば、レーダ装置は、図9に示すようなMIMOレーダシステムを構成し、レンジセルデータを6次元セルデータに変換するようにしても構わない。
【0058】
各レーダ装置は、送信装置TX1〜TXRからそれぞれ送信された送信パルスが目標で反射等されたパルス信号を受信する。図13は、第2の実施形態に係るレーダ装置の機能構成のその他の例を示すブロック図である。
【0059】
図13に示すレーダ装置は、無線部10、空間処理部20、パルス圧縮部30、ドップラフィルタ処理部40、信号処理部90、積分部180、予測部190、記録部200及び重み付け部210を備える。
【0060】
信号処理部90は、ドップラフィルタ処理部40からのレンジセルデータを6次元セルデータに変換し、変換した6次元セルデータを積分部180へ出力する。
【0061】
積分部180は、信号処理部90からの6次元セルデータに対してMISO(Multi Input Single Output)積分を行う。MISO積分とは、複数の送信パルスに基づくパルス信号についての6次元セルデータを積分する処理である。
【0062】
また、積分部180は、重み付け部210からの重み付け6次元セルデータ及び記録部200からの予測6次元セルデータをさらに受け取り、MISO積分後の6次元セルデータ、重み付け6次元セルデータ及び予測6次元セルデータに基づいてインコヒーレント積分を行う。具体的には、重み付け部210から重み付け6次元セルデータが供給され、かつ、記録部200から予測6次元セルデータが供給される場合、積分部180は、MISO積分後の6次元セルデータから、重み付け部210からの重み付け6次元セルデータを減算する。そして、積分部180は、減算後のデータに対して記録部200に記録される予測6次元セルデータを足し合わせて積分6次元セルデータとして、後段及び予測部190へ出力する。
【0063】
また、重み付け部210から重み付け6次元セルデータが供給されず、かつ、記録部200から予測6次元セルデータが供給されない場合、積分部180は、MISO積分後の6次元セルデータを積分6次元セルデータとして後段及び予測部190へ出力する。
【0064】
予測部190は、積分部180から積分6次元セルデータが供給される場合、この積分6次元セルデータが、次のスキャンまでに(Δnx,Δny,Δnz)だけ移動すると予測する。予測部190は、積分6次元セルデータが(Δnx,Δny,Δnz)だけ移動した予測6次元セルデータを作成し、作成した予測6次元セルデータを記憶部200へ出力する。
【0065】
記録部200は、予測部190からの予測6次元セルデータを記録する。記録部200は、予測6次元セルデータを記録している場合、新たにMISO積分が実施されると、記録している予測6次元セルデータを積分部180及び重み付け部210へ出力する。
【0066】
重み付け部210は、重み付け係数Kが予め設定されている。ここで、重み付け係数Kは、nをスキャン数とした場合、K=1−1.56/nで求められる。重み付け部210は、記録部200からの予測6次元セルデータに(1−K)を乗算し、重み付け6次元セルデータとして積分部180へ出力する。
【0067】
このように、積分部180は、MISO積分後の6次元セルデータから重み付け6次元セルデータを減算し、減算後のデータに予測6次元セルデータを加算するようにしている。これにより、レーダ装置がMIMOレーダシステムを構成する場合であっても、過去に発生した高い雑音信号の影響が以降のスキャンにおける探知処理に継続的に影響する問題を緩和することが可能となる。また、第1の実施形態で示すスライディングウィンドウ処理で必要となる、p+1回分の4次元データを記録する必要がないため、メモリ量の節約を図ることが可能となる。
【0068】
なお、上記各実施形態では、積分4次元データ又は積分6次元セルデータに基づいて次のスキャンでの予測4次元データ又は予測6次元セルデータを作成し、これらを記録部80,120,160,200へ記録する場合を例に説明した。しかしながら、これに限定される訳ではない。例えば、積分4次元データ又は積分6次元セルデータを記録部へ記録し、新たな4次元データ又は6次元セルデータが作成された際に、記録部から読み出した積分4次元データ又は積分6次元セルデータに基づいて予測4次元データ又は予測6次元セルデータを作成するようにしても良い。
【0069】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0070】
10…無線部、11…アンテナ素子、12…受信モジュール、13…周波数変換部、14…A/D、20…空間処理部、30…パルス圧縮部、40…ドップラフィルタ処理部、50,90…信号処理部、60,100,140,180…積分部、70,110,150,190…予測部、80,120,160,200…記録部、130…処理サーバ、170,210…重み付け部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス信号を受信する無線部と、
前記パルス信号に対してパルス圧縮処理を施し、パルス信号毎のレンジセルデータを生成するパルス圧縮部と、
前記パルス圧縮部からのレンジセルデータに対してドップラフィルタ処理を施すことで、周波数ビン毎のレンジセルデータを生成するドップラフィルタ処理部と、
前記ドップラフィルタ処理部で1スキャン毎に取得されるレンジセルデータを、目標の速度を含むパラメータで特定する固有データに変換する信号処理部と、
過去のスキャンで取得された固有データの速度に基づいて次スキャン時の目標の位置を予測し、次スキャン時に前記予測した位置に到達すると算出される過去の固有データを、前記予測した位置に累積した予測データを作成する予測部と、
次スキャン時に取得される固有データと、前記予測データとを積分し、前記次スキャン時の固有データと前記過去の固有データとの累積数が予め設定した回数を超える場合、積分結果から最も古い固有データを減じる積分部と
を具備することを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記信号処理部は、前記1スキャン毎に取得されるレンジセルデータを、レンジと、ビームポジションに基づく方位角及び仰角と、周波数ビンに基づく相対速度とにより特定する固有データへ変換することを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記パルス信号は、互いに無相関となるように変調された複数の送信パルスが反射、散乱又は回折されて到来したものであり、
前記信号処理部は、前記1スキャン毎に取得されるレンジセルデータを、予め設定される原点及び直交軸を利用したデカルト座標系及び速度により特定する固有データへ変換することを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項4】
パルス信号を受信する無線部と、
前記パルス信号に対してパルス圧縮処理を施し、パルス信号毎のレンジセルデータを生成するパルス圧縮部と、
前記パルス圧縮部からのレンジセルデータに対してドップラフィルタ処理を施すことで、周波数ビン毎のレンジセルデータを生成するドップラフィルタ処理部と、
前記ドップラフィルタ処理部で1スキャン毎に取得されるレンジセルデータを、目標の速度を含むパラメータで特定する固有データに変換する信号処理部と、
過去のスキャンで取得された固有データの速度に基づいて次スキャン時の目標の位置を予測し、次スキャン時に前記予測した位置に到達すると算出される過去の固有データを、前記予測した位置に累積した予測データを作成する予測部と、
前記予測データを予め設定された係数で重み付けし、重み付けデータを作成する重み付け部と、
次スキャン時に取得される固有データから前記重み付けデータを減算し、前記予測データを加算する積分部と
を具備することを特徴とするレーダ装置。
【請求項5】
前記信号処理部は、前記1スキャン毎に取得されるレンジセルデータを、レンジと、ビームポジションに基づく方位角及び仰角と、周波数ビンに基づく相対速度とにより特定する固有データへ変換することを特徴とする請求項4記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記パルス信号は、互いに無相関となるように変調された複数の送信パルスが反射、散乱又は回折されて到来したものであり、
前記信号処理部は、前記1スキャン毎に取得されるレンジセルデータを、予め設定される原点及び直交軸を利用したデカルト座標系及び速度により特定する固有データへ変換することを特徴とする請求項4記載のレーダ装置。
【請求項7】
パルス信号を受信し、
前記パルス信号に対してパルス圧縮処理を施してパルス信号毎のレンジセルデータを生成し、
前記パルス圧縮後のレンジセルデータに対してドップラフィルタ処理を施すことで、周波数ビン毎のレンジセルデータを生成し、
1スキャン毎に取得される前記ドップラフィルタ処理後のレンジセルデータを、目標の速度を含むパラメータで特定する固有データに変換し、
過去のスキャンで取得された固有データの速度に基づいて次スキャン時の目標の位置を予測し、次スキャン時に前記予測した位置に到達すると算出される過去の固有データを、前記予測した位置に累積した予測データを作成し、
次スキャン時に取得される固有データと、前記予測データとを積分し、
前記次スキャン時の固有データと前記過去の固有データとの累積数が予め設定した回数を超える場合、積分結果から最も古い固有データを減じることを特徴とする受信データ処理方法。
【請求項1】
パルス信号を受信する無線部と、
前記パルス信号に対してパルス圧縮処理を施し、パルス信号毎のレンジセルデータを生成するパルス圧縮部と、
前記パルス圧縮部からのレンジセルデータに対してドップラフィルタ処理を施すことで、周波数ビン毎のレンジセルデータを生成するドップラフィルタ処理部と、
前記ドップラフィルタ処理部で1スキャン毎に取得されるレンジセルデータを、目標の速度を含むパラメータで特定する固有データに変換する信号処理部と、
過去のスキャンで取得された固有データの速度に基づいて次スキャン時の目標の位置を予測し、次スキャン時に前記予測した位置に到達すると算出される過去の固有データを、前記予測した位置に累積した予測データを作成する予測部と、
次スキャン時に取得される固有データと、前記予測データとを積分し、前記次スキャン時の固有データと前記過去の固有データとの累積数が予め設定した回数を超える場合、積分結果から最も古い固有データを減じる積分部と
を具備することを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記信号処理部は、前記1スキャン毎に取得されるレンジセルデータを、レンジと、ビームポジションに基づく方位角及び仰角と、周波数ビンに基づく相対速度とにより特定する固有データへ変換することを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記パルス信号は、互いに無相関となるように変調された複数の送信パルスが反射、散乱又は回折されて到来したものであり、
前記信号処理部は、前記1スキャン毎に取得されるレンジセルデータを、予め設定される原点及び直交軸を利用したデカルト座標系及び速度により特定する固有データへ変換することを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項4】
パルス信号を受信する無線部と、
前記パルス信号に対してパルス圧縮処理を施し、パルス信号毎のレンジセルデータを生成するパルス圧縮部と、
前記パルス圧縮部からのレンジセルデータに対してドップラフィルタ処理を施すことで、周波数ビン毎のレンジセルデータを生成するドップラフィルタ処理部と、
前記ドップラフィルタ処理部で1スキャン毎に取得されるレンジセルデータを、目標の速度を含むパラメータで特定する固有データに変換する信号処理部と、
過去のスキャンで取得された固有データの速度に基づいて次スキャン時の目標の位置を予測し、次スキャン時に前記予測した位置に到達すると算出される過去の固有データを、前記予測した位置に累積した予測データを作成する予測部と、
前記予測データを予め設定された係数で重み付けし、重み付けデータを作成する重み付け部と、
次スキャン時に取得される固有データから前記重み付けデータを減算し、前記予測データを加算する積分部と
を具備することを特徴とするレーダ装置。
【請求項5】
前記信号処理部は、前記1スキャン毎に取得されるレンジセルデータを、レンジと、ビームポジションに基づく方位角及び仰角と、周波数ビンに基づく相対速度とにより特定する固有データへ変換することを特徴とする請求項4記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記パルス信号は、互いに無相関となるように変調された複数の送信パルスが反射、散乱又は回折されて到来したものであり、
前記信号処理部は、前記1スキャン毎に取得されるレンジセルデータを、予め設定される原点及び直交軸を利用したデカルト座標系及び速度により特定する固有データへ変換することを特徴とする請求項4記載のレーダ装置。
【請求項7】
パルス信号を受信し、
前記パルス信号に対してパルス圧縮処理を施してパルス信号毎のレンジセルデータを生成し、
前記パルス圧縮後のレンジセルデータに対してドップラフィルタ処理を施すことで、周波数ビン毎のレンジセルデータを生成し、
1スキャン毎に取得される前記ドップラフィルタ処理後のレンジセルデータを、目標の速度を含むパラメータで特定する固有データに変換し、
過去のスキャンで取得された固有データの速度に基づいて次スキャン時の目標の位置を予測し、次スキャン時に前記予測した位置に到達すると算出される過去の固有データを、前記予測した位置に累積した予測データを作成し、
次スキャン時に取得される固有データと、前記予測データとを積分し、
前記次スキャン時の固有データと前記過去の固有データとの累積数が予め設定した回数を超える場合、積分結果から最も古い固有データを減じることを特徴とする受信データ処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−251953(P2012−251953A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126736(P2011−126736)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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