説明

レールボンド用低温溶接ろう

【課題】 カドミウムを含有せず、ろう付け作業が容易であって、剪断強度が大きいレールボンド用低温溶接ろうを提供する。
【解決手段】固相線温度が200℃以下、液相線温度が260℃以下であって、固相線温度と液相線温度の差が30℃以上あるレールボンド用低温溶接ろうを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼製レールと鋼製レールとを接続して電気的導通をとるレールボンド用低温溶接ろうに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道の軌道は、道床(バラスト)、まくらぎ、鋼製レール(単にレールという)などから構成されており、そのレールは、車両の台車を誘導して進行させるガイドとしての役割だけでなく、帰線電流や、運行表示の切替やポイントの切替を行うための指示信号用電流やATS用の制御信号用電流などを伝達させる電気導体としての役割も持っている。
ところで、鉄道のレールは夏の暑さで熱膨張するため、レールとレールの継ぎ目は、この熱膨張する分だけ隙間があけられている。従って、この継ぎ目でレールは電気的に完全に遮断されており、前述の各種信号用電流や帰線電流が途切れてしまう。そのため、レールとレールは、その継ぎ目を挟んでレールボンドを介して接続されており、このときレールボンドとレールとは低温溶接ろう(以下「ろう」と呼ぶ)で接合され、電気的な導通をとっている。
【0003】
ここに、「レールボンド」とは、複数の銅線を束ね、その両端を、端子と称する黄銅製の金具で結束したものである。このレールボンドのそれぞれの端子とレールとをろうで金属的に接続することにより、継ぎ目を挟んだレールとレールを電気的に導通をとるのである。レールボンドの仕様はJIS E 3601に規定されている。
【0004】
一方、レールとレールボンドの接続 (以下、単に「レールボンド接続」という) は、単に電気的に接続されていればよいというものでなく、レール上の鉄道車両の通過による捩れや振動が、レールボンド、特に端子とレールとの接合面に加わるので、振動に強い接合強度が要求される。
【0005】
また、鉄道車両の通過の際には、レールに上下方向の振動が発生するために、レールとレールボンドの接合面には上下方向に対する強い剪断強度が求められる。さらに、バラスト軌道の保線作業においては、レールボンドが保線作業員にまくらぎとともに踏まれたり、砕石をならす保線作業中につるはしなどで引っ掛けられたりするので、レールとレールボンドの接合に使用されるろうには、優れた接合特性、特に強い衝撃に対する高い剪断強度が求められる。
【0006】
さらに、レールボンドの接続 は電車を止めて行うために、個々のろう付けは数分の短い作業時間で行う必要がある。
従来よりレールボンドの接合には低い温度で接合のできるろうが用いられてきた。レールとレールボンドのろう付けは、レールボンド(例えば:端子寸法:60X20 mm)を専用治具でレール側面に固定して、棒状のろうを接続箇所に当てて、ガスバーナで棒状のろうを溶かしながら上記接続箇所の界面隙間にろうを充填して、レールとレールボンドを接続していく方法が取られている。このような肉盛溶接は、十分な量のろうを接合界面に存在させることで接合強度を高めるためである。
【0007】
このレールボンドの接合に用いるろうは、ガスバーナなどでの加熱作業を前提として、260℃以下の溶融温度(液相線温度)を持つろうが適当と言われている。
従来のレールボンド用ろうとして実用化されているものは、特許文献1、特許文献2に開示されたろう合金があるが、いずれもカドミウムを合金成分として含有しているため、今日その代替が求められている。
特許文献3には、Ag:0.5〜2質量%、Zn:7〜15質量%、残部Snからなるレールボンド用はんだ合金が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭31−862 号公報
【特許文献2】特開昭61−154788号公報
【特許文献3】特開平8−267270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
レールとレールボンドを金属的に接続するための手段としては、電気的導通があって、しかも接合強度も充分に強い溶接や硬ロウ付け等が考えられる。しかしながら、溶接や硬ロウ付けなどの方法ではレールの保証温度域である800 ℃以上にレールも同時に加熱されてしまい、レール本体を焼鈍して機械的強度を弱めてしまったり、あるいはレールに熱歪みを起こさせたりするという悪影響がでてしまう。そのためレールに熱影響を与えないはんだ付け温度としては300℃以下、ろうの液相線温度が260℃以下が好ましいとされている。
【0010】
従来のレールボンド用ろうとして実用化されているものは、特許文献1、特許文献2に示すように、Sn−Zn−Cd系のものであった。この系のろう合金は液相線温度が260 ℃以下であるため、はんだ付け時にレールに対する熱影響がない。しかし、このような従来のレールボンド用ろうは、いずれも有害なカドミウムが含まれているという問題があった。
【0011】
特許文献3に開示されているレールボンド用ろうは、有害物質であるカドミウムが含まれていないが、レールとレールボンドの溶接作業中にろうがレールとレールボンドを挟んだ治具の隙間から溢れ出して、まくらぎ上やバラスト上に落下し易かった。また、接続箇所に充填したろうが固まってから追加で充填することが考えられるが、このような作業方法は、所謂「いもはんだ付け」と呼ばれる作業方法であり、接合したろうが積層状に形成されているために接合強度が落ちるろう溶接作業方法である。しかも、このような作業方法では、ろうが固まってからその上に充填するため、作業時間が長くなるという問題点もあった。
【0012】
一般的な低温ろう付けでは、固相線温度と液相線温度が同一の所謂共晶組成と呼ばれているものや固相線温度と液相線温度が近似しているろう組成の方が使用し易い。共晶組成や共晶に近似しているろう組成は、同じ系のろう組成であれば少ない加熱で全てのろうを溶かすことができるからであり、またろうの凝固も速やかに行われる。
【0013】
しかし、レールとレールボンドの接続作業は、列車を止めて行われるので夜間に実施されることが多く、露天の環境下でろう付け作業が行われるのでガスバーナなどの簡単な器具を用いて短時間で作業が終了しなければならない、などの特殊な環境下で作業が進められる。そのために保線作業員の技能によるところが大きく、共晶組成や共晶に近似しているろう組成のろうを用いると、充填作業中にろうの落下が発生するので、ろうを加熱しすぎて足下に落下したり、ろうの落下を防止するために加熱を中断すると、充填したろうが先に凝固して後から充填したろうと層をなして、所謂いもはんだとなることを防止できなかった。
【0014】
しかも、近年、保線作業者も経験豊富な団塊世代からの移行期を迎え、経験の少ない保線作業員が増えており、作業者によっては完全なレールボンドの接合作業が行えないという問題点があった。従って、そのような作業者がレールボンドの接合作業をしても安全な接合作業が可能で、安定した品質のろう付けが可能なろうが求められている。
【0015】
本発明の課題は、有害なカドミウムや鉛を全く含有せず、しかもはんだ付け時にレールに対して熱影響を与えないばかりか、作業者の経験に関わらず安全なレールボンド接合作業が可能で、安定した品質のろう付けが可能なろうを提供することである。
最近の鉄道は高速化され、ダイヤも高密度化されていることから、レールにかかる捩れや振動が大きくなっており、レールボンドに強い力がかかるようになっている。また、一層強い剪断強度のろう付けが求められており、かかる傾向はますます強く、要求される特性はますます厳しいものとなってきている。
【0016】
したがって、本発明の更なる課題は、近年の高速鉄道のレールボンド用にも使用することができ、レールボンド接合用として要求される強い剪断力を有している低温溶接ろうを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者等は、従来のろうを使ったレールボンドのろう付け作業の上述のような問題点は、固相線温度と液相線温度とが近づいていることに起因することを知り、そして、レールとレールボンドの接続に使用するろうが固相線温度と液相線温度の差が30℃以上あるろうを用いることで、レールとレールボンドの溶接作業中にろうがレールとレールボンドを挟んだ治具の隙間から溢れ出して、まくらぎ上やバラスト上に落下することもなく、また、先に溶解したろうが凝固してしまい、層状にろうが重なった所謂「いもはんだ」になることもなく、レールボンドの接合を厚く盛ることができることを見いだし、本発明を完成させた。
【0018】
本発明は、鋼製レールと信号ケーブルの結束端子との接合に用いる低温溶接ろうであって、固相線温度が200℃以下、液相線温度が260℃以下であって、固相線温度と液相線温度の差が30℃以上であることを特徴とするレールボンド用低温溶接ろうである。
【0019】
ここに、温度を上昇させたときに溶融を開始する温度が固相線温度であり、温度を上昇させたときに金属が完全に液体に変化する温度が液相線温度である。なお、これらを溶融温度という。
【0020】
本発明にかかるろうは、前述の従来技術の問題点を解消するために開発されたろうであって、固相線温度と液相線温度が30℃以上離れているので、ろうが半溶融状態にある領域が広いためにろうの流動性が悪い。そのため、レールとレールボンドの溶接作業中に加熱・溶融したろうがレールとレールボンドを挟んだ治具の隙間から溢れ出して、まくらぎ上やバラスト上に落下することもなくなる。
【0021】
本発明によれば、さらに、Zn:11〜15質量%、Bi:1〜5質量%、残部:Snの組成を有するろうをレールボンド接続用に用いることで、レールボンド端子とレールとの接合部の剪断強度が特に優れた接合部が得られることを見出した。
【0022】
特公平3―28274号公報の開示するはんだ合金は、自動車用のコントロールケーブルのインナーワイヤと口金との接合用のはんだとして用いるものであり、用途として、いわゆる「いもはんだ付け」とならずに厚い肉盛はんだ付けが可能か否は、不明であり、実際、レールボンド用として、また具体的組成例として本発明のろうは開示されていない。また、剪断強度は評価の対象外である。
【発明の効果】
【0023】
本発明のレールボンド用ろうは、カドミウムや鉛を全く含んでいないため、重金属による毒性の心配は全くないものであり、また固相線温度と液相線温度の差が30℃以上あることから、レールとレールボンドの溶接作業中にろうがレールとレールボンドを挟んだ治具の隙間から溢れ出して、まくらぎ上やバラスト上に落下することもなく、先に溶解したろうが凝固してしまい、層状にろうが重なることもなく、レールボンドの接合部を厚く盛ることができる。そのため、経験豊富な作業者でなくとも、誰がレールボンドの接合作業を行っても安全な安定した品質のろう付けが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】レールとレールボンドの接合の説明図である。
【図2】図2(a)、(b)は作業状態の良いレールボンドの模式的説明図である。
【図3】実施例1のNo.1の作業状態の良好なレールボンド接続部の写真である。
【図4】比較例のNo.1の作業状態の悪いレールボンド接続部の写真図である。レール上にろうが落下していることが判る。
【図5】振動試験の端子取り付け位置を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、レールへのレールボンド、つまり信号ケーブルの結束端子の接合状況を示す模式的説明図である。
2つのレール10は、その端部に僅かな隙間を設けてまくらぎ12上に固定されている。二つのレール10の間は、上記隙間のために、電気的導通がとれていないので、レールボンド14によって、電気的導通をとっている。図示例の場合、2本のレールボンドが接合されている。
【0026】
各レールボンド14は、信号ケーブルを構成する複数の銅線束16と、銅線束の両端に設けられ、それを結束する金具18と、この金具18を支持するとともに、レールとのろう付け面を構成する端子20とから構成される。この端子20は、複数の銅線束からなる信号ケーブルの結束端子を構成するもので、銅製であって、それ自体ろう付け性は良好である。以下、この信号ケーブルの結束端子は単に「端子」と称する。
【0027】
レール10とレールボンド14とのろう付けは、レールの予熱、レールボンドの端子とレールとの治具による固定、レールボンド端子とレールとの隙間への溶融ろうの充填、そして、治具の取り外し、によって行う。
【0028】
なお、レール10とレールボンド14とを治具(図示せず)で固定してから、金具部18にパテ詰めを行い、加熱により溶融したろうが、レールとレールボンドとの隙間から溢れて銅線束のほうに流れないようにする。
レールボンド接合は、短時間で屋外、しかも通常は夜間という悪環境下で作業を行う必要がある。そのときのろう付け位置もレールが固定されているため、ろう付け姿勢も自由度がない。従来にあっては、溶融ろうが十分に充填されず、強度が不十分であったり、あるいは溶融ろうがレールボンド端子の下端から漏れ落ちたりすることがあった。いずれも、熟練作業者の技量により解決が図られてきた分野であった。しかしながら、本発明によれば、同一ろう付け条件の場合、溶融ろうは、半溶融状態を従来のものより、長く保持できることから、必要により半溶融状態で攪拌することもでき、溢流させることなく、上記隙間に容易に十分な量の溶融ろうを充填でき、接合部のろう付け量を多くする(厚肉盛り)ことができる。
【0029】
次に、レールボンド14をレール10にろう付けした後、レールとろう付け面を剥離させた剥離面を示す模式的説明図が図2である。図2(a)は、その正面図、図2(b)は、部分拡大断面図である。図1と同じ符号は同一部材を示す。
図2(a)からは、斜線部22はろう付け部を示し、端子20の裏面全体に均一にろうが付着していることが分かる。図2(b)は、端子20の周縁部のろう付け部の部分拡大断面を模式的に示す説明図であり、レールとの接合面を示す剥離面24と、ろう付け部22の縁部25との境界が明確に表れており、ろう付けの際の溶融ろうの漏れ落ちがないことが分かる。図中、黒太線は、端子20の輪郭線を示す。
【0030】
このように、本発明によれば、固相線温度と液相線温度との差異が30℃以上と大きいことから、ろうが溶融してから凝固するまでの固液共存時間が長くとれるため、前記隙間への充填が速やかに行われ、「いもはんだ」となることもなく、しかも、液相線温度が、260℃以下であるため、漏れ落ちはない。
【0031】
本発明において、液相線温度を260℃以下とするのは、現場でのろう付け温度をできるだけ低くするためと、レールが高温度に加熱されるのを避けるためである。このましくは、250℃以下である。固相線温度を200℃以下とするのは、液相線温度との差異を30℃以上とするためであり、好ましくは、190℃以下である。
本発明において、固相線温度と液相線温度との差異について、その上限は特に規定しないが、一般にろう合金では100℃を超えない。液相線温度を考慮すれば、固相線温度と液相線温度との温度差は、30℃以上、90℃以下が好ましい。
本発明にかかるろうであって、固相線温度が200℃以下、液相線温度が260℃以下、固相線温度と液相線温度の差が30℃以上あるろうの組成としては、Znが11〜15質量%、Biが1〜5質量%、残部がSnのろうの組成が考えられる。この範囲のSn−Zn−Biの組成では、全て固相線温度が200℃以下、液相線温度が260℃以下であって、固相線温度と液相線温度の差が30℃以上の条件を満たすことができる。この範囲のSn−Zn−Biの組成では、ろうの剪断力が 39.2KN以上、好ましくは40.8KN以上であって、振動試験においても1000分以上の耐久性を有する。
【0032】
本発明の固相線温度が200℃以下、液相線温度が260℃以下であって、固相線温度と液相線温度の差が30℃以上であるろうの組成例としては、上述の組成例および後述する実施例に挙げるもの以外に下記組成が例示される。
(1)Znが13質量%、Biが3質量%、Inが2質量%、残部がSn、
(2)Znが14質量%、Biが2質量%、Agが0.5質量%、残部がSn、
(3)Znが13質量%、Biが3質量%、Ni、Cu、Sbなど合計1.0質量%以下、残部Sn
(4)Znが10質量%、Sbが2質量%、残部がSn、
本発明の好適態様によれば、さらに、Zn:11〜15質量%、Bi:1〜5質量%、残部:Snの組成を有するろうをレールボンド接続用に用いることで、レールボンド端子とレールとの接合部の剪断強度が特に優れた接合部が得られる。
本発明において使用するろうの好ましい合金組成を上述のように規定する理由は、次の通りである。ここに、「%」は、特にことわりがない限り、「質量%」である。
Znは、11%未満では、所要強度が確保できないからであり、15%を超えると、液相温度が上昇して260℃を超えてしまう。より好ましい範囲は、12〜14%である。
Biが1%未満であると、Sn-Zn-Bi系組成において液相線温度と固相線温度を十分に低下させることができず、Biが6%を超えてしまうと、剪断強度を確保できないからである。より好ましい範囲は、2〜4%である。
【0033】
必要により、上記ろう組成には、接合部の機械的強度を改善するために、Ag,In,Ni,Cu, Sbなどを1種以上添加してもよく、そのときの好ましい配合割合は次の通りである。
Ag:0.5%以下配合するが、それを超えると、液相線温度が高くなる場合がある。
In:2%以下配合するが、それを超えると、Biとの共存で脆くなる場合がある。
Ni、Cu, Sb: 少なくとも1種合計量として1.0%以下配合する。
【0034】
上述のような割合でこれらの機械的強度改善元素を配合した組成であっても、前述の本発明の組成範囲内では、固相線温度と液相線温度との差異が30℃以上、液相線温度が260℃以下、固相線温度が200℃以下となる。
【実施例1】
【0035】
表1に示す各ろう組成を有するろうをサイズ10.0×5.0×400mmの棒状に鋳造して、実施例及び比較例の供試材であるろうを作製した。
次に、各ろうを用いて、JIS E1101およびE1120に規定された50NレールとJIS E3601に規定されたCLB型のレールボンドの溶接を行った。
本例におけるろう付け作業方法は、以下の通り行った。
(1)レールをガスバーナで予備加熱した。
(2)予備加熱したレールの表面にフラックスを塗布し、その後、各ろうをガスバーナで加熱しながらレールの溶接箇所に接触させ、レール表面をろうで覆うレールの予備めっきを行った。
(3)ろう付け部を予備めっきしたレールにレールボンド端子を位置合わせし、レールボンド端子の端面とレールの予備めっき部とを専用治具を使って密着・固定した。
(4)レールボンドの銅線側にパテを詰めて、レールボンドの銅線側からろうが溢れないようにした。
(5)ろうをガスバーナで加熱して溶解し、レールとレールボンドを固定した専用治具の隙間に充填した。
(6)レールとレールボンドを固定した専用治具の隙間において完全にろうが溶解して、端子とレールとの隙間内の溶融ろうを攪拌して、隙間内をろうで十分に充填してからろうの凝固をもってろう付けを完了とした。
本例では、それぞれの供試用ろうを用いて、1本のレールに最大3カ所のろう付けを行った。
溶解中にろうが下に落下するか、否かを確認して、作業性を判断した。ろうの溶解中に落下しないものを作業性が○(良)、ろうの溶解中に落下したものを作業性が×(不可)とした。結果を表1にまとめて示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1において、比較例3の備考欄で「耐久性劣る」とあるのは、後述する剪断試験および振動試験の結果、今日の高速鉄道の用途には不十分な接合強度であるが、作業性は良好であるため、従来の用途には十分に適用できる。
【0038】
図3は、表1の実施例No.. 1の作業状態の良好なレールボンド接続部の写真である。十分な量のろうが付けられており、接合も十分であることが分る。上部のろう付け部のふくらみは、十分な量の溶融ろうが供給されたことを示す。
【0039】
一方、図4は、表1の比較例No.1の作業状態の悪い場合のレールボンド接続部の写真である。レールと端子との間の隙間から下方に溶融ろうが漏れ出したことが分る。これは、固相線温度と液相線温度との差異が18℃と、小さいため、ろうが溶融するとすぐに液相線温度を超えてしまい、溶融ろうが流動性が高くなり、レールと端子とを固定する治具の間から溶融ろうが流下してしまったからである。
【実施例2】
【0040】
実施例1で各ろうでろう付けを行ったろう付け箇所に対して、剪断試験及び振動試験を行った。結果を表2に示す。
剪断試験の試験方法
(1)アムスラー万能試験機の土台に長さ300mmの50Nのレールを載せて、ろう付けした端子部分に剪断刃を上方から当たるようにした。
(2)ろう付けした端子部分に上方から、アムスラー万能試験機で荷重をかけ、剪断する荷重力を測定した。
振動試験の試験方法
(1)50Nのレールを締結ばねで土台にしっかり取り付け、図5に示すようにレールとレールボンドをろう付けした。図に示すように、左右2本のレールをまくらぎ上に固定し、それぞれに3箇所、結束端子を本発明にしたがって、ろう付けした。図中の数字は寸法(単位:mm)を示す。
それぞれのレール端部に、図中、「打点」と示す先端部26mmφの円柱状先端を取り付けたノミを固定し、50馬力のコンプレッサーによりレールに常時振動を与えて、ろう付け箇所が破断、脱落するまでの時間(分)を計測した。
【0041】
剪断試験および振動試験の結果は、表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
表1および2の結果からは、本発明のろうは、レールとレールボンドのろう付けの作業中にろうの落下が無く、安心して作業ができることが判る。さらに、本発明のろうは、剪断試験及び振動試験の結果も良好で、信頼性の高いろう付けが可能な事を示している。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製レールと信号ケーブルの結束端子との接合に用いる低温溶接ろうであって、固相線温度が200℃以下、液相線温度が260℃以下であって、固相線温度と液相線温度の差が30℃以上あることを特徴とするレールボンド用低温溶接ろう。
【請求項2】
前記低温溶接ろうがCdフリーである、請求項1に記載のレールボンド用低温溶接ろう。
【請求項3】
前記低温溶接ろうが、Zn:11〜15質量%、Bi:1〜5質量%、残部:Snの組成を有することを特徴とする請求項1または2に記載のレールボンド用低温溶接ろう。
【請求項4】
前記組成がさらに下記成分の少なくとも1種を含有する請求項3記載のレールボンド用低温溶接ろう。
Ag:0.2〜0.5質量%、
In:1〜 2質量%、
Ni,Cu、Sb: 少なくとも1種、合計で、0.3 〜 1質量%。
【請求項5】
鋼製レールに信号ケーブルの結束端子を固定し、次いで、低温溶接ろうを、前記鋼製レールと結束端子との隙間において溶解し、肉盛りしてレールボンド接続を行う方法において、前記低温溶接ろうとして、固相線温度が200℃以下、液相線温度が260℃以下であって、固相線温度と液相線温度の差が30℃以上のレールボンド用低温溶接ろうを用いることを特徴とする、レールボンド接続方法。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−16145(P2011−16145A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−161769(P2009−161769)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(000199197)千住金属工業株式会社 (101)
【出願人】(000190172)信号器材株式会社 (19)