説明

ロック装置

【課題】構成の簡素化、ひいては小型化が図られるロック装置を提供する。
【解決手段】ロック部材23を圧電体により形成することにより、ロック部材23自体にステアリングシャフト13をロック又はアンロックするアクチュエータ機能を持たせるようにした。このように、ロック部材23自身を圧電アクチュエータとして構成することにより、ロック部材23を、ロック状態及びアンロック状態の2つの態様に変位させるための機械的な構成を大幅に削減可能となり、部品点数を低減させることができる。従って、ロック装置11の構成の簡素化、ひいては小型化が図られる。また、ロック装置11の製品コストの低減化も図られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動規制対象である移動体の変位を規制するロック装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年では、自動車等の車両には、例えば特許文献1に示されるような電動ステアリングロック装置が搭載されつつある。この電動ステアリングロック装置は、モータ等のアクチュエータの駆動力に基づいてロックバーをステアリングシャフトに嵌合させることによりステアリング操作を規制するものである。これにより、車両の盗難防止が図られる。
【特許文献1】特開2005−297645号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記従来の電動ステアリングロック装置には、モータ等のアクチュエータの駆動力をロックバーに伝達するための伝達機構を設ける必要があった。そして、当該伝達機構として、従来、例えば次のような構成が採用されていた。即ち、図7に示すように、電動ステアリングロック装置の伝達機構101は、モータ102の出力軸102aに固定されたウォーム103を備えるとともに、当該ウォーム103にはウォームホイール104が噛合されている。当該ウォームホイール104の軸心位置には、当該軸心方向へ延びる雄ねじ部材105が固定さるとともに、当該雄ねじ部材105は、L字状のナット部材106の基端部に螺進又は螺退可能に螺合されている。ナット部材106の先端部には、ロックバー107の基端部が当該ナット部材106に対して進退移動可能に設けられている。ロックバー107とナット部材106との間にはコイルばね108が介在されるとともに、当該コイルばね108の弾性力によりロックバー107はナット部材106に対して離間する方向(図示しないステアリングシャフト側)へ常時付勢されている。
【0004】
従って、モータ102の正逆回転に伴って、ウォーム103、ウォームホイール104及び雄ねじ部材105が正逆回転する。そして、雄ねじ部材105の正逆回転に伴ってナット部材106、ひいてはロックバー107は、雄ねじ部材105に対して進退移動する。当該進退移動に基づいて、ロックバー107は、図示しないステアリングシャフトと嵌合するロック位置と、同じく嵌合が解除されるアンロック位置との間を移動する。このように、前記従来の電動ステアリングロック装置は、モータ102を含めて、多数の機械要素から構成されていた。
【0005】
近年では、車両においては、製品コストの低減、車両の多機能化に伴う各種の装置の搭載スペースの確保、並びに車室内スペースの確保等の観点から、電動ステアリングロック装置の更なる小型化が望まれている。そして、当該装置の小型化を図るためには、例えば伝達機構101等の構成要素の削減が有効である。しかし、ロックバー107の駆動源としてモータ102を使用している以上、当該モータ102の回転数を減速するための伝達機構101は必須である。また、モータ102の回転運動をロックバー107の往復運動に変換するという機能は不変であることから、その機能を実現するための機械的な構成は、自ずと制限されたものとなる。このため、伝達機構101の構成要素の削減、ひいてはステアリングロック装置の小型化には自ずと限界があった。
【0006】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、構成の簡素化、ひいては小型化が図られるロック装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、移動規制対象である移動体の一部に係合することにより当該移動体の変位を規制するロック状態と、同じく移動体の一部との係合状態が解除されることにより当該移動体の変位を許容するアンロック状態との2つの態様をとるロック部材を備えたロック装置において、電圧の印加の有無により伸縮する電歪材料により形成されたアクチュエータ部材を備えるとともに、当該アクチュエータ部材の伸縮を利用して、前記ロック部材をロック状態及びアンロック状態とするようにしたことをその要旨とする。
【0008】
この構成によれば、電圧印加の有無に伴うアクチュエータ部材の伸縮により、ロック部材はロック状態及びアンロック状態の2つの態様をとる。このため、ロック部材を、ロック状態及びアンロック状態の2つの態様に変位させるための機械的な構成を削減可能となり、部品点数を低減させることができる。従って、ロック装置の構成の簡素化、ひいては小型化が図られる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のロック装置において、前記ロック部材それ自体を電歪材料により形成することによりアクチュエータ部材とするようにしたことをその要旨とする。
【0010】
この構成によれば、ロック部材は、それ自身で圧電アクチュエータとして機能することにより、ロック装置の構成のいっそうの簡素化が図られる。
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のロック装置において、前記ロック部材は、2つのロック片に分割して構成するとともに、当該2つのロック片は、前記電歪材料よりも機械的強度に優れる金属材料により形成するようにし、前記アクチュエータ部材は、前記2つのロック片間に配設するようにしたことをその要旨とする。
【0011】
この構成によれば、ロック部材は、アクチュエータ部材よりも機械的強度に優れたロック片において移動体の一部に係合する。このため、例えばアクチュエータ部材を移動体の一部に係合させるようにした場合と異なり、移動体が変位しようとする際に受ける力に対する強度が確保される。従って、ロック部材がロック状態にある場合に、何らかの原因で移動体が変位しようとしても、当該移動体の変位は確実に規制される。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載のロック装置において、前記アクチュエータ部材は、前記ロック部材の前記移動体と反対側の端部に設けるとともに、前記ロック部材は前記電歪材料よりも機械的強度に優れる金属材料により形成するようにしたことをその要旨とする。
【0013】
この構成によれば、ロック部材は、アクチュエータ部材よりも機械的強度に優れた金属材料により形成されることにより、例えばアクチュエータ部材を移動体の一部に係合させるようにした場合と異なり、移動体が変位しようとする際に受ける力に対する強度が確保される。従って、ロック部材がロック状態にある場合に、何らかの原因で移動体が変位しようとしても、当該移動体の変位は確実に規制される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、構成の簡素化、ひいては小型化が図られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
<第1の実施の形態>
以下、本発明を、例えば車両のステアリングシャフトの回転を規制するロック装置に具体化した第1の実施の形態を図1及び図2に基づいて説明する。
【0016】
図1に示すように、ロック装置11は図示しない車両に固定された支持チューブ12の外周面に固定されている。支持チューブ12にはステアリングシャフト13が一対のベアリング14,14を介して回転可能に挿通支持されており、該ステアリングシャフト13の外端部にはステアリングホイール15が固定されている。
【0017】
ロック装置11は、ブラケット21を介して支持チューブ12の外周面に固定されたケース22を備えるとともに、当該ケース22内にはロック部材23が収容されている。ロック部材23の先端部は、ケース22の側壁を貫通するとともに、支持チューブ12に形成された孔12aを介して当該支持チューブ12の内部に若干突出している。また、ロック部材23の基端部とケース22の内頂面との間には、コイルばね24が介装されるとともに、当該コイルばね24の弾性力によりロック部材23はステアリングシャフト13側へ常時付勢されている。
【0018】
ロック部材23は、電圧の印加の有無により伸縮するチタン酸バリウム等の圧電体(電歪材料)により形成された直方体状のロック部材本体23aを備えるとともに、当該ロック部材本体23aの互いに反対側の面には2つの電極23b、23bが設けられている。この2つの電極23b,23b間に所定の電圧を印加することによりロック部材本体23aは伸長する。本実施の形態では、電圧印加の有無によるロック部材本体23aの伸縮を利用してステアリングシャフト13のロック及びアンロックを行う。即ち、圧電体により形成されたロック部材23に所定の電圧を印加したとき、当該ロック部材23の先端部が、ステアリングシャフト13における2つのベアリング14,14間に外嵌された歯車状の回転規制体25に嵌合可能となるように、当該ロック部材23の長さ、伸長量及びケース22に対する配置等が設定されている。
【0019】
回転規制体25は、鉄鋼等の金属材料により円環状に形成されるとともに、当該回転規制体25の外周面には複数の嵌合凹部25aが周方向において所定間隔毎に形成されることにより、複数の突部25bが形成されている。本実施の形態では、ロック部材本体23aの伸長量は5mm〜8.5mm程度に設定されている。そして、当該伸長量だけ伸長したロック部材23の先端部が回転規制体25の嵌合凹部25aに嵌合することにより、ステアリングシャフト13の回転が規制される。また、電圧が印加されない通常時において、ロック部材23の先端部が回転規制体25に干渉しないように、当該ロック部材23の長さ、及びケース22に対する配置等が設定されている。なお、ロック部材23に電圧が印加されたとき、ケース22の内頂面側への伸長が抑制されるとともに、回転規制体25側に伸長するように、コイルばね24の弾性力(弾性係数)が設定されている。
【0020】
図2に示すように、ロック部材23の2つの電極23b,23b間には、電源回路等の電圧源31が配線32を介して接続されている。前記電圧回路は、図示しない車両のバッテリから入力される電圧を、圧電素子として構成されたロック部材23の予め設定された伸縮量に応じた所定レベルの電圧に変換し、当該電圧をロック部材23に供給する。
【0021】
配線32上には、FET(電界効果型トランジスタ)33が設けられるとともに、当該FET33のゲートには、制御装置34が図示しないインターフェースを介して接続されている。制御装置34は、ロック部材23をロック状態にすべきときには所定のオン信号(電圧)を出力するとともに、ステアリングシャフト13をアンロック状態にすべきときには所定のオフ信号(電圧)を出力する。即ち、制御装置34からオン信号が出力されることによりFET33はオン状態となり、電圧源31からの電圧がロック部材23の電極23b,23b間に印加される。また、制御装置34からオフ信号が出力されることによりFET33はオフ状態となり、電圧源31からの電圧供給が遮断される。
【0022】
次に、前述のように構成したロック装置11の作用を説明する。当該ロック装置11を搭載した車両において、例えばエンジンを停止した後の降車に伴ってドアが開閉された場合には、図示しないセンサからの検出信号に基づいて、制御装置34はFET33にオン信号を出力する。すると、FET33はオン状態になり、電圧源31からの電圧が配線32を介して2つの電極23b,23b間に印加される。その結果、ロック部材23(正確には、ロック部材本体23a)は、ステアリングシャフト13側へ所定量だけ伸長したロック状態となって回転規制体25に嵌合する。これにより、ステアリングシャフト13の回転が規制されるとともに、ステアリングホイール15の操作が不能となる。
【0023】
なお、ステアリングシャフト13の回転位置によっては、ロック部材本体23aが伸長した際に、ロック部材23の先端部が回転規制体25の突部25bの先端部に当接するおそれもある。このよう場合には、ロック部材23の先端部が突部25bに当接した以降、ロック部材本体23aの伸長に伴ってロック部材23はコイルばね24の弾性力に抗してケース22の内面に近接する方向へ変位する。これにより、ロック部材23に過大な負荷がかかることが防止される。
【0024】
一方、エンジンの始動操作が行われた場合、図示しないセンサからの検出信号に基づいて、制御装置34はFET33にオフ信号を出力する。すると、FET33はオフ状態になり、電圧源31からの電圧の供給が遮断される。その結果、ロック部材23(正確には、ロック部材本体23a)は、ステアリングシャフト13に対して離間する方向へ収縮して元のアンロック状態となる。これにより、ロック部材23と回転規制体25との嵌合が解除されて、ステアリングホイール15の操作が可能となる。
【0025】
<実施の形態の効果>
従って、本実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)ロック部材23を圧電体により形成することにより、ロック部材23自体にステアリングシャフト13をロック又はアンロックするアクチュエータ機能を持たせるようにした。このように、ロック部材23自身を圧電アクチュエータとして構成することにより、ロック部材23を、ロック状態及びアンロック状態の2つの態様に変位させるための機械的な構成を大幅に削減可能となり、部品点数を低減させることができる。従って、ロック装置11の構成の簡素化、ひいては小型化が図られる。また、ロック装置11の製品コストの低減化も図られる。
【0026】
(2)また、部品点数が大幅に低減されることにより、ロック装置11の体格も大幅な小型化が図られる。このため、車両において、ロック装置11の設置スペースも僅かなものとなり、当該ステアリングロック装置の搭載自由度が高められる。
【0027】
<第2の実施の形態>
次に、本発明の第2実施形態を説明する。本実施の形態は、ロック部材の構成の点で前記第1の実施の形態と異なる。従って、前記第1の実施の形態と同一の構成については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0028】
図3に示されるように、ロック部材40は、鉄鋼等の金属材料により直方体状に形成された2つのロック片41,41を備えるとともに、これら2つのロック片41,41間には、チタン酸バリウム等の圧電体により直方体状に形成されたアクチュエータ部材42が介装された状態で固定されている。ロック片41は、アクチュエータ部材42の形成材料である圧電体よりも機械的強度に優れる金属材料により形成されている。また、アクチュエータ部材42の互いに反対側の側面には、2つの電極43,43が設けられるとともに、当該2つの電極43,43は、前記第1の実施の形態と同様に、配線32を介して電圧源31に接続されている。そして、2つの電極43,43間に所定の電圧を印加したとき、2つのロック片41,41のうち先端側の一方のロック片41が、ステアリングシャフト13の回転規制体25に嵌合可能となるように、アクチュエータ部材42の長さ及び伸長量(変位量)、並びに2つのロック片41,41の長さ等が設定されている。
【0029】
従って、本実施の形態によれば、ロック部材40は、アクチュエータ部材42よりも機械的強度に優れた先端側のロック片41においてステアリングシャフト13の回転規制体25に嵌合する。このため、ロック部材40がロック状態にある場合に、何らかの原因でステアリングシャフト13が回転しようとしても、当該ステアリングシャフト13の回転は確実に規制される。また、この際に、ロック部材40の先端部が変形又は破損することも抑制される。従って、ステアリングシャフト13を確実にロック状態に保持することができる。ひいては、ロック装置11の製品性能に対する信頼性の向上が図られる。
【0030】
<第3の実施の形態>
次に、本発明の第3の実施の形態を説明する。本実施の形態は、ロック部材の構成の点で前記第1の実施の形態と主に異なる。従って、前記第1の実施の形態と同一の構成については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0031】
図4に示すように、ケース22の内面には、2つのロック部材51,51がステアリングシャフト13を間に挟んで互いに対向するように固定されている。2つのロック部材51,51は、チタン酸バリウム等の圧電体により直方体状に形成されるとともに、当該2つのロック部材51,51のステアリングシャフト13側の側面には、当該ステアリングシャフト13の外周面に合致する円弧面51a,51aが形成されている。また、2つのロック部材51,51の円弧面51aに隣接する互いに反対側の側面には、2つの電極52,52が設けられるとともに、当該2つの電極52,52は、前記第1の実施の形態と同様に、配線32を介して電圧源31に接続されている。そして、2つの電極52,52間に所定の電圧を印加したとき、2つのロック部材51,51の円弧面51a,51aがステアリングシャフト13の外周面に合致して当接するように、2つのロック部材51,51の長さ及び伸長量(変位量)等が設定されている。
【0032】
(1)従って、本実施の形態によれば、2つの電極52,52間に所定の電圧が印加されたとき、ステアリングシャフト13は2つのロック部材51,51により挟み込まれることにより、回転が規制される。即ち、2つのロック部材51,51の円弧面51a,51aとステアリングシャフト13との間の摩擦力により、当該ステアリングシャフト13の回転が規制される。このため、第1の実施の形態における過負荷吸収用のコイルばね24、及び回転規制体25は不要となり、ロック装置11の部品点数を、より低減することができる。
【0033】
(2)また、2つのロック部材51,51により互いに反対側からステアリングシャフト13を挟み込むようにしたことにより、ステアリングシャフト13にかかる曲げモーメントをなくすことができる。即ち、一方のロック部材51をステアリングシャフト13の外周面に押し付けた際に生ずる曲げモーメントと、他方のロック部材51をステアリングシャフト13の外周面に押し付けた際に生ずる曲げモーメントとで釣り合いがとれる。このため、ステアリングシャフト13に曲げモーメントを与えることなく回転規制力を確保することができる。
【0034】
(3)さらに、2つのロック部材51,51とステアリングシャフト13との摩擦係合により、当該ステアリングシャフト13の変位を規制するようにしたことにより、2つのロック部材51,51とステアリングシャフト13との間に大がかりな係合構造を設ける必要がない。このため、ロック装置11の構成の簡素化が図られる。
【0035】
<他の実施の形態>
なお、前記各実施の形態は、次のように変更して実施してもよい。
・第1及び第2の実施の形態において、ロック部材23,40の先端部の形状を回転規制体25の嵌合凹部25aの内形形状に対応して形成するようにしてもよい。即ち、図5(a),(b)に示されるように、ロック部材23,40の先端部に、嵌合凹部25aの対向する2つの内側面61,61のなす角度θと同様の角度をなす2つの勾配面62,62を形成する。そして、ロック部材23,40が嵌合凹部25aに嵌合した際には、嵌合凹部25aの2つの内側面61,61とロック部材23,40の2つの勾配面62とが面接触状態で当接するようにした。このようにすれば、ステアリングシャフト13の回転力を勾配面62,62により受けることになる。このため、ロック部材23,40の先端部における単位面積当たりの力が小さくなるとともに、ロック部材23,40の製品寿命を確保することができる。
【0036】
・また、第1及び第2の実施の形態において、ロック部材23,40の先端部の形状を次のようにしてもよい。すなわち、図5(c),(d)に示されるように、ロック部材23,40の先端部において、互いに反対側の側面には、先端に向かうにつれて拡開する2つの勾配面63,63を形成することにより、断面三角形状の2つの食い込み部64,64を形成する。そして、ロック部材23,40が嵌合凹部25aに嵌合した状態において、ステアリングシャフト13に回転力が作用したときには、嵌合凹部25aの2つの内側面61,61にロック部材23,40の2つの食い込み部64,64の先端部が食い込むように作用する。このため、ステアリングシャフト13の回転を好適に規制することができる。
【0037】
・第1及び第2の実施の形態においては、ロック部材23,40の先端部を、回転規制体25の嵌合凹部25aに嵌合させることにより、ステアリングシャフト13の回転を規制するようにしたが、次のようにしてもよい。即ち、図5(e)に示すように、ロック部材23,40の先端面には、例えば微細な凹凸からなる粗面65を形成するとともに、ステアリングシャフト13の外周面においてロック部材23,40の先端面に対応する部位には、回転規制体25に換えて、例えば微細な凹凸からなる円環状の粗面66を形成する。そして、ロック部材本体23a及びアクチュエータ部材42に電圧を印加した場合には、それらの伸長に伴って、ロック部材23,40の粗面65がステアリングシャフト13の粗面66に押し付けられるようにする。ロック部材23,40の先端面及びステアリングシャフト13の外周面に粗面65,66を形成することにより、それらの間の摩擦力が確保されるとともに、当該摩擦力により、ステアリングシャフト13の回転を規制することができる。この場合、ロック部材23,40の伸長量を、第1及び第2の実施の形態の場合に比べて、若干大きく設定することが好ましい。これは、ロック部材23,40のステアリングシャフト13に対する圧着力を増大させることにより、ロック部材23,40の先端面とステアリングシャフト13の外周面との間の滑りを抑制するためである。なお、第3の実施の形態において、ロック部材51の円弧面51aに粗面65を形成するとともに、ステアリングシャフト13の外周面に粗面66を形成するようにしてもよい。このように、粗面65,66を形成するという簡単な構成により、ロック部材23,40がロック状態にある場合における当該ロック部材23,40とステアリングシャフト13との間の摩擦力が好適に確保される。
【0038】
・また、第1及び第2の実施の形態においては、ロック部材23,40の先端部を、回転規制体25の嵌合凹部25aに嵌合させることにより、ステアリングシャフト13の回転を規制するようにしたが、次のようにしてもよい。即ち、図5(f)に示すように、ロック部材23,40の先端面には、例えばゴム及び皮革等の非金属材料、並びに鋳鉄、軟鋼、黄銅、青銅等の金属材料により形成された第1の摩擦部材67を設ける。また、ステアリングシャフト13の外周面においてロック部材23,40の先端面に対応する部位には、第1の摩擦部材67と同様又は異なる材質の円環状の第2の摩擦部材68を設ける。そして、ロック部材本体23a及びアクチュエータ部材42に電圧を印加した場合には、それらの伸長に伴って、ロック部材23,40の第1の摩擦部材67がステアリングシャフト13の第2の摩擦部材68に押し付けられるようにする。ロック部材23,40の先端面及びステアリングシャフト13の外周面に第1及び第2の摩擦部材67,68を形成することにより、それらの間の摩擦力が確保されるとともに、当該摩擦力により、ステアリングシャフト13の回転を好適に規制することができる。この場合、ロック部材23,40の伸長量を、第1及び第2の実施の形態の場合に比べて、若干大きく設定することが好ましい。これは、ロック部材23,40のステアリングシャフト13に対する圧着力を増大させることにより、ロック部材23,40の先端面とステアリングシャフト13の外周面との間の滑りを抑制するためである。なお、第3の実施の形態において、ロック部材51の円弧面51aに第1の摩擦部材67を設けるとともに、ステアリングシャフト13の外周面に第2の摩擦部材68を形成するようにしてもよい。
【0039】
・第1及び第2の実施の形態では、単一のロック部材23,40を設けるのみとしたが、複数のロック部材23,40を設けるようにしてもよい。このようにすれば、複数のロック部材23,40を複数方向から回転規制体25の嵌合凹部25aに嵌合させることにより、ステアリングシャフト13の回転をいっそう好適に規制することができる。また、この場合、複数のロック部材23,40を互いに反対側から嵌合凹部25aに嵌合させるようにすることが好ましい。これにより、複数のロック部材23,40を嵌合凹部25aに嵌合した際にステアリングシャフト13に生ずる曲げモーメントの釣り合いがとれる。このため、ステアリングシャフト13に曲げモーメントを与えることなく回転規制力を確保することができる。
【0040】
・第1及び第2の実施の形態では、ロック部材23をステアリングシャフト13の回転規制体25に嵌合させることにより、また、第3の実施の形態では、ロック部材51をステアリングシャフト13の外周面に押し付けることにより、ひいてはステアリングホイール15の回転操作を規制するようにしたが、次のようにしてもよい。即ち、例えば電動パワーステアリング装置が搭載された車両にあっては、当該装置のモータ軸をロックすることによりステアリングホイール15の回転を規制するようにしてもよい。即ち、前記モータ軸のロックは、当該モータ軸に第1〜第3の実施の形態のロック装置11を設けることにより行う。電動パワーステアリング装置にあっては、パワーステアリングモータの駆動力を歯車等からなる伝達機構を介してステアリングシャフト13に伝える構成が一般に採用されることが多い。このため、パワーステアリングモータの出力軸の回転が規制されれば、ステアリングシャフト13の回転に連動した前記伝達機構の動作も当然規制される。
【0041】
・第1及び第2の実施の形態において、コイルばね24を、電歪材料である形状記憶合金により形成するようにしてもよい。この場合、当該コイルばね24に電圧源31を接続する。そして、電圧源31から所定の電圧を印加したとき、ジュール熱によりコイルばね24が所定量だけ伸長し、その結果、ロック部材23,40の先端部が回転規制体25の嵌合凹部25aに嵌合するように構成する。このようにすれば、コイルばね24に所定の電圧を印加したとき、ジュール熱により当該コイルばね24が所定量だけ伸長し、その結果、ロック部材23,40のステアリングシャフト13側の嵌合凹部25aに嵌合する。ここで、ステアリングシャフト13の回転位置によっては、ロック部材23,40が嵌合凹部25aに対応しない場合も想定される。この場合、電圧印加によりコイルばね24が伸長しようとしても、ロック部材23,40が嵌合凹部25aから外れた位置に当接することから、当該ロック部材23,40はそれ以上ステアリングシャフト13側へ変位することはできない。この状態で、引き続きコイルばね24の伸長によりロック部材23,40がステアリングシャフト13側へ押圧された場合には、当該ロック部材23,40に大きな負荷が作用することが懸念される。しかし、このような場合であれ、本実施の形態によれば、ロック部材23,40が嵌合凹部25aから外れた位置に当接した以降、本来変位すべき残りの変位量は、コイルばね24が収縮することにより吸収される。このため、ロック部材23,40に過度の負荷が作用することが回避される。また、ロック部材23,40をロック状態及びアンロック状態に変位させるアクチュエータ手段とロック部材23,40の過負荷吸収手段とを、コイルばね24で共用することにより、部品点数を低減させることが可能となる。
【0042】
・第3の実施の形態では、2つのロック部材51,51を設けるようにしたが、ロック部材51の個数は任意である。即ち、単一のロック部材51を設けるのみとしてもよいし、3つ、4つ又はそれ以上のロック部材51を設けるようにしてもよい。3つ以上のロック部材51を設けるようにした場合には、それらロック部材51のステアリングシャフト13の外周面に対する総接触面積が増大することにより摩擦力も増大する。このため、ステアリングシャフト13の回転をいっそう好適に規制することができる。
【0043】
・前記第3の実施の形態において、2つのロック部材51,51とケース22の内面との間に、コイルばね24を設けるようにしてもよい。この場合、当該コイルばね24を電歪部材である形状記憶合金により形成すれば、ロック部材51を圧電体により形成する必要はない。即ち、コイルばね24を電圧源31に接続するとともに、当該電圧源31から所定の電圧を印加したとき、ジュール熱によりコイルばね24が所定量だけ伸長して、ロック部材51の円弧面51aがステアリングシャフト13の外周面に当接するように、当該コイルばね24の伸長量を設定する。
【0044】
・第1〜第3の実施の形態において、ステアリングシャフト13と回転規制体25とを一体形成するようにしてもよい。
・第1〜第3の実施の形態では、本発明のロック装置を、ステアリングシャフト13の回転を規制するロック装置11(即ち、ステアリングロック装置)として具体化したが、例えばシフトロック装置、並びに家屋等のドアロック装置として具体化することも可能である。
【0045】
・第1〜第3の実施の形態において、図6に示されるように、電歪効果(又は圧電効果)を有するアクチュエータ部材としての複数個の板状の圧電体71と電極72とを交互に重ね合わせて一体化することにより、ロック部材23,40,51を棒状に形成するようにしてもよい。このようにすれば、接合するアクチュエータ部材としての圧電素子の数を調節することにより、ロック部材23,40,51の伸縮量を任意に設定することが可能となる。
【0046】
・第1〜第3の実施の形態において、電圧を印加することにより歪みを生じる電歪材料(圧電体)として、圧電結晶体、圧電バイモルフ、圧電セラミックス及び電歪セラミックス等も採用可能である。
【0047】
<他の技術的思想>
次に、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
(イ)請求項1に記載のロック装置において、前記ロック部材は、複数個の板状のアクチュエータ部材を接合することにより棒状に形成するとともに、それらアクチュエータ部材の厚み方向の伸縮を利用して、前記ロック部材をロック状態及びアンロック状態とするようにしたロック装置。この構成によれば、接合するアクチュエータ部材の数を調節することにより、ロック部材の伸縮量を任意に設定することが可能となる。
【0048】
(ロ)請求項1に記載のロック装置において、前記ロック部材がロック状態にあるときには、当該ロック部材の先端部が前記移動体に設けられた嵌合凹部に嵌合することにより当該移動体の変位を規制するとともに、前記ロック部材がアンロック状態にあるときには、当該ロック部材の先端部と前記移動体の嵌合凹部との嵌合が解除されることにより当該移動体の変位を許容するようにし、前記ロック部材を収容するケースとロック部材の基端部との間には過負荷吸収用のコイルばねを設けるとともに、当該コイルばねを電歪材料である形状記憶合金により形成することにより前記アクチュエータ部材として機能させるようにしたロック装置。この構成によれば、コイルばねに所定の電圧を印加したとき、ジュール熱により当該コイルばねが所定量だけ伸長し、その結果、ロック部材の移動体の嵌合凹部に嵌合する。ここで、移動体の位置によっては、ロック部材が移動体の嵌合凹部に対応しない場合も想定される。この場合、電圧印加によりコイルばねが伸長しようとしても、ロック部材が移動体の嵌合凹部から外れた位置に当接することから、当該ロック部材はそれ以上移動体側へ変位することはできない。この状態で、引き続きコイルばねの伸長によりロック部材が移動体側へ押圧された場合には、当該ロック部材に大きな負荷が作用することが懸念される。しかし、このような場合であれ、本発明によれば、ロック部材が移動体の嵌合凹部から外れた位置に当接した以降、本来変位すべき残りの変位量は、コイルばねが収縮することにより吸収される。このため、ロック部材に過度の負荷が作用することが回避される。また、アクチュエータ部材とロック部材の過負荷吸収用の部材とを、コイルばねで共用することにより、部品点数を低減させることが可能となる。
【0049】
(ハ)請求項1〜請求項4並びに前記(イ)項及び前記(ロ)項のうちいずれか一項に記載のロック装置において、複数個のロック部材を、前記移動体を介して対向配置するようにしたロック装置。この構成によれば、アクチュエータ部材に電圧を印加したとき、2つのロック部材は移動体を互いに反対側から挟み込むようにして当該移動体の一部に係合する。このため、2つのロック部材が移動体に係合する際、当該移動体には互いに反対方向の力が作用する。即ち、一方のロック部材から受ける力と、他方のロック部材から受ける力との釣り合いがとられる。従って、2つのロック部材の係合に際して、移動体に曲げモーメント等の力が大きく作用することはない。
【0050】
(ニ)前記(ロ)項に記載のロック装置において、前記ロック部材の先端部には、当該ロック部材がロック状態にある場合に、前記移動体にその移動方向への力が作用したとき、前記嵌合凹部に食い込むように作用する食い込み部を設けるようにしたロック装置。この構成によれば、ロック部材が嵌合凹部に嵌合した状態において、移動体が変位しようとした場合には、嵌合凹部の内側面にロック部材の食い込み部が食い込むように作用する。このため、移動体の変位を好適に規制することができる。
【0051】
(ホ)請求項1〜請求項4及び前記(イ)項のうちいずれか一項に記載のロック装置において、前記ロック部材がロック状態にあるときには、当該ロック部材と前記移動体との間の摩擦力を利用して当該移動体の変位を規制するようにしたロック装置。このように、ロック部材と移動体との摩擦係合より、当該移動体の変位を規制することも可能である。また、ロック部材と移動体との間に大がかりな係合構造を設ける必要がない。このため、ロック装置の構成の簡素化が図られる。
【0052】
(ヘ)前記(ホ)項に記載のロック装置において、前記ロック部材と前記移動体との間には、それらの間の摩擦力を確保するための摩擦構造体を設けるようにしたロック装置。この構成によれば、ロック部材がロック状態にある場合、摩擦構造体によりロック部材と移動体との間の摩擦力が確保されることにより、当該移動体の変位を好適に規制することができる。
【0053】
(ト)前記(ヘ)項に記載のロック装置において、前記摩擦構造体は、ロック部材の移動体側の側面、及び前記移動体の表面においてロック部材に対応する部位に設けられた粗面であるロック装置。この構成によれば、ロック部材の移動体側の側面、及び前記移動体の表面においてロック部材に対応する部位に粗面を形成するという簡単な構成により、ロック部材がロック状態にある場合における当該ロック部材と移動体との間の摩擦力が好適に確保される。
【0054】
(チ)前記(ヘ)項に記載のロック装置において、前記摩擦構造体は、ロック部材の移動体側の側面、及び前記移動体の表面においてロック部材に対応する部位に別部材として設けられた摩擦部材であるロック装置。ロック部材の移動体側の側面、及び前記移動体の表面においてロック部材に対応する部位に摩擦部材を設けるという簡単な構成により、ロック部材がロック状態にある場合における当該ロック部材と移動体との間の摩擦力が好適に確保される。
【0055】
(リ)請求項1〜請求項4及び前記(イ)項〜前記(チ)項のうちいずれか一項に記載のロック装置において、前記移動体は所定の軸を中心として回転する回転体であるロック装置。この構成によれば、ロック部材がロック状態にある場合、当該ロック部材が回転体に係合することにより当該回転体の回転が好適に規制される。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】第1の実施の形態におけるロック装置の取り付け状態を示す断面図。
【図2】同じくロック装置の電気的な構成を示す概略構成図。
【図3】第2の実施の形態におけるロック装置の電気的な構成を示す概略構成図。
【図4】第3の実施の形態におけるロック装置の電気的な構成を示す概略構成図。
【図5】(a)〜(f)は、他の実施の形態におけるロック部材の先端部の形状を示す概略構成図。
【図6】他の実施の形態におけるロック部材の構成図。
【図7】従来のロック機構の概略構成図。
【符号の説明】
【0057】
11…ロック装置、13…ステアリングシャフト(移動体、回転体)、
22…ケース、23,51…ロック部材(アクチュエータ部材)、24…コイルばね、25a…嵌合凹部、40…ロック部材、41…ロック片、42…アクチュエータ部材、64…食い込み部、65,66…粗面(摩擦構造体)、67…第1の摩擦部材、
68…第2の摩擦部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動規制対象である移動体の一部に係合することにより当該移動体の変位を規制するロック状態と、同じく移動体の一部との係合状態が解除されることにより当該移動体の変位を許容するアンロック状態との2つの態様をとるロック部材を備えたロック装置において、
電圧の印加の有無により伸縮する電歪材料により形成されたアクチュエータ部材を備えるとともに、当該アクチュエータ部材の伸縮を利用して、前記ロック部材をロック状態及びアンロック状態とするようにしたロック装置。
【請求項2】
請求項1に記載のロック装置において、
前記ロック部材それ自体を電歪材料により形成することによりアクチュエータ部材とするようにしたロック装置。
【請求項3】
請求項1に記載のロック装置において、
前記ロック部材は、2つのロック片に分割して構成するとともに、当該2つのロック片は、前記電歪材料よりも機械的強度に優れる金属材料により形成するようにし、
前記アクチュエータ部材は、前記2つのロック片間に配設するようにしたロック装置。
【請求項4】
請求項1に記載のロック装置において、
前記アクチュエータ部材は、前記ロック部材の前記移動体と反対側の端部に設けるとともに、前記ロック部材は前記電歪材料よりも機械的強度に優れる金属材料により形成するようにしたロック装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−239260(P2007−239260A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−61105(P2006−61105)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【Fターム(参考)】