説明

ロック装置

【課題】ロック装置において、ラッチ手段の円滑なロック動作および解除動作を確保しつつ、振動などに原因する打音の発生を防止する。
【解決手段】ロック機構33でロックピン31を拘束することによって第1部材を第2部材の着座部に保持するロック装置において、ロック機構33は、ロックピン31が進入・退出可能な案内溝40と、ロックピン31の案内溝40への進入に伴って案内溝40を開きつつロックピン31の背後にまわってロックピン31の退路を閉じるラッチ手段(34など)と、を備える。ロックピン31は回転可能に軸支され、案内溝40とその退路を閉じるラッチ手段(34など)との間でロックピン31に案内溝40の深さ方向へのガタを与える短径域と、前記ガタを解消する長径域と、を持つカム形状にロックピン31の断面を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、キャブオーバ型車両において、キャブをチルトダウン状態(走行可能な通常状態)に保持(施錠)するのに好適なロック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
キャブオーバ型車両においては、キャブがフレームにチルト軸を介して前方へ傾倒(チルトアップ)可能に支持され、キャブをチルトダウン状態(走行可能な通常状態)に保持するロック装置が備えられる(特許文献1,特許文献2)。
【0003】
図3に基づいて、その一例を説明する。10はキャブオーバ型トラックのフレーム(梯子型フレーム)であり、左右1対のサイドレール10a上にブリッジメンバ11が架設される。ブリッジメンバ11上にフローティングバー12がキャブサスペンションスプリング13を介して支持され、ブローティングバー12上にキャブ20後部の着座部として防振ゴムを持つキャブマウントブラケット14が配置される。15はフローティングバー11の中央部に配置されるロックピンであり、16はロックピン15に対応してキャブ20に配置されるロック機構であり、ロック機構16でロックピン15を拘束することによってキャブ20をフローティングバー11上にキャブマウントブラケット13を介して着座状態に保持するようになっている。17はショックアブソーバである。
【0004】
ロック機構16としては、ロックピン15が進入・退出可能な案内溝18と、ロックピン15の案内溝18への進入に伴って案内溝18を開きつつロックピン15の背後にまわってロックピン15の退路を閉じるラッチ手段19と、ラッチ手段19を開閉する操作手段19aと、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−034270号
【特許文献2】実開平05−032263号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このようなロック装置においては、ラッチ手段19の円滑なロック動作や操作手段19aによって案内溝18を開く円滑なロック解除動作を確保する上から、案内溝18とその退路を閉じるラッチ手段19との間でロックピン15が案内溝18の深さ方向へ動けるガタ(隙間)が必要となる。そのため、キャブオーバ型トラックへの適用例においては、走行時の振動により、ロックピン15が案内溝18やラッチ手段19にぶつかり、打音が発生する、という不具合が考えられる。
【0007】
この発明は、このような不具合を想定してなされたものであり、ラッチ手段の円滑なロック動作およびロック解除動作を確保しつつ、振動などに原因する打音の発生を防止しえるロック装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、移動可能な第1部材と、その着座部を形成する第2部材と、これら部材の一方に配置されるロックピンと、同じく他方に配置されるロック機構と、を備え、前記ロック機構で前記ロックピンを拘束することによって第1部材を第2部材の着座部に保持するロック装置において、前記ロック機構は、前記ロックピンが進入・退出可能な案内溝と、前記ロックピンの案内溝への進入に伴って案内溝を開きつつロックピンの背後にまわってロックピンの退路を閉じるラッチ手段と、ラッチ手段を開閉する操作手段と、を備えるものにあって、前記ロックピンは回転可能に軸支され、案内溝とその退路を閉じるラッチ手段との間でロックピンに案内溝の深さ方向へのガタを与える短径域と、前記ガタを解消する長径域と、を持つカム形状にロックピンの断面を形成したことを特徴とする。
【0009】
第2の発明は、フレームにチルト軸を介して前方へ傾倒可能に支持されるキャブと、前記フレーム上の車幅方向に架設されるブリッジメンバと、前記ブリッジメンバ上にキャブサスペンションスプリングを介して支持されるフローティングバーと、前記フローティングバー上にキャブ後部の着座部として配置されるキャブマウントブラケットと、前記キャブまたは前記フローティングバーに配置されるロックピンと、前記ロックピンに対応して前記フローティングバーまたは前記キャブに配置されるロック機構と、を備え、前記ロック機構で前記ロックピンを拘束することによってキャブをフローティングバーのキャブマウントブラケットに保持するロック装置にあって、前記ロック機構は、前記ロックピンが進入・退出可能な案内溝と、前記ロックピンの案内溝への進入に伴って案内溝を開きつつロックピンの背後にまわってロックピンの退路を閉じるラッチ手段と、ラッチ手段を開閉する操作手段と、を備えるものにあって、前記ロックピンは回転可能に軸支され、案内溝とその退路を閉じるラッチ手段との間でロックピンに案内溝の深さ方向へのガタを与える短径域と、前記ガタを解消する長径域と、を持つカム形状にロックピンの断面を形成したことを特徴とする。
【0010】
第3の発明は、第1の発明または第2の発明において、前記ロックピンの回転を操作するハンドルと、前記ロックピンが自ずから回転するのを抑える回り止め手段と、を設けたことを特徴とする。
【0011】
第4の発明は、第1の発明〜第3の発明の何れか1つにおいて、前記ロックピンは、金属製の丸棒からその円形端面を半月形状に切除することによって短径域および長径域を形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1の発明においては、ロックピンを回転させて短径域を案内溝の深さ方向に合わせると、案内溝とその退路を閉じるラッチ手段との間でロックピンが案内溝の深さ方向へ動けるガタ(隙間)が与えられ、ラッチ手段の円滑なロック動作および操作手段による円滑なロック解除動作を確保することができる。また、ロックピンを回転させて長径域を案内溝の深さ方向に合わせると、ガタが解消され、第1部材と第2部材との間に振動が作用しても、案内溝とその退路を閉じるラッチ手段との間でロックピンが案内溝の深さ方向へ動けないため、打音の発生を防止することができる。
【0013】
第2の発明においては、ロックピンを回転させて短径域を案内溝の深さ方向に合わせると、案内溝とその退路を閉じるラッチ手段との間でロックピンが案内溝の深さ方向へ動けるガタ(隙間)が与えられ、ラッチ手段の円滑なロック動作および操作手段による円滑なロック解除動作を確保することができる。また、ロックピンを回転させて長径域を案内溝の深さ方向に合わせると、ガタが解消され、キャブとフローティングバーとの間に振動が作用しても、案内溝とその退路を閉じるラッチ手段との間でロックピンが案内溝の深さ方向へ動けないため、打音の発生を防止することができる。
【0014】
第3の発明においては、回り止め手段により、ロックピンが勝手に回転してガタが発生するのも抑えられる。
【0015】
第4の発明においては、短径部および長径部を持つロックピンが簡単かつ容易に製作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の実施形態を説明する概略構成図である。
【図2】同じく作用説明図である。
【図3】従来技術を説明するキャブリヤマウント部の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図に基づいて、この発明の実施形態に係るロック装置を説明する。
【0018】
図1において、ロック装置は、移動可能な第1部材(図示せず)と、その着座部を形成する第2部材(図示せず)と、これら部材の一方に配置されるロックピン31と、同じく他方に配置されるロック機構33と、を備え、ロック機構33でロックピン31を拘束することによって第1部材を第2部材の着座部に保持するようになっている。
【0019】
ロック機構33は、基板33aと、これにピン35を介して回動自在に配置されるフック34と、を備えて構成され、基板33aにロックピン31の進入・退出可能な案内溝40が形成される。フック34は、ロックピン31の案内溝40への進入に伴って案内溝40を開きつつロックピン31の背後にまわってロックピン31の退路を閉じるラッチ手段を構成するものであり、案内溝40を閉じるロック位置へフック31を付勢するスプリング36が備えられる。37はフック34(ラッチ手段の構成部材)を開閉する操作手段であり、ロッドから形成される。ロッド37は、一端がフック34の基端部に連結され、他端側に把持用のレバー38が形成される。
【0020】
ロックピン31は、第2部材に回転可能に軸支され、案内溝40とその退路を閉じるフック34との間でロックピン31が案内溝40の深さ方向へ動ける隙間(ガタ)を与える短径域と、ガタを解消する長径域と、を持つカム形状にロックピン31の断面が設定される。図示の場合、ロックピン31は、金属の丸棒から、その円形断面を半月形状に切除することにより、短径域および長径域が形成される。32はロックピン31の回転を操作するハンドル(つまみ)である。
【0021】
ロック装置においては、第1部材が第2部材へ接近すると、その動きに伴ってロックピン31が基板33aの案内溝40に進入し、フック34を押し開きながら、案内溝40の深さ方向へさらに進入する。そして、ロックピン31は、フック34を乗り越えると、フック34がロックピン31の背後にまわって案内溝40を閉じるロック位置(初期位置)へ復帰するため、案内溝40の深さ方向の奥方(溝40の幅が最小となる部分)に拘束される。従って、第1部材が第2部材の着座部に保持される。
【0022】
その際、第1部材の第2部材への接近に先立ち、ロックピン31を軸芯Pを中心に回転させて短径域を案内溝40の深さ方向に合わせると、図1のように案内溝40とその退路を閉じるフック34との間でロックピン31が案内溝40の深さ方向へ動けるガタ(隙間)が与えられるため、ロックピン31の案内溝40への進入に伴って案内溝40を開きつつロックピン31の背後にまわってロックピン31の退路を閉じるフックのロック動作が円滑に確保されることになる。
【0023】
その後、ロックピン31を回転させて長径域を案内溝の深さ方向に合わせると、図2のようにガタが解消され、第1部材と第2部材との間に振動が作用しても、案内溝40とその退路を閉じるフック34との間でロックピン31が案内溝40の深さ方向へ動けなくなるため、打音の発生を防止することができる。
【0024】
図2の状態から操作手段37によってフック34を開いて案内溝40からロックピン31を解放すると、第1部材が第2部材から移動可能となるのである。その際、操作手段37によるフック31のロック解除動作に先立ち、ロックピン31を軸芯Pを中心に回転させて短径域を案内溝40の深さ方向に合わせると、図1のように案内溝40とその退路を閉じるフック34との間でロックピン31が案内溝40の深さ方向へ動けるガタ(隙間)が与えられ、操作手段37によりフック34を開いて案内溝40からロックピン31を解放するフック31のロック解除動作が無理なく円滑に確保されることになる。
【0025】
ロックピン31の断面形状については、基本的には、円形の概念を含む楕円形状に設定することが考えられる。長軸の長さと短軸の長さとの差が大きくなると、長径両端の曲率半径が相対的に小さくなり、フック34との摩擦力が大きくなりやすいので、前記のように金属の丸棒からその円形断面を半月形状に切除することにより、短径域および長径域を設定する方が望ましい。その場合、短径部および長径部を持つロックピン31が丸棒から簡単な加工により安価に製作できる、というメリットもある。
【0026】
キャブオーバ型車両において、キャブをチルトダウン状態(走行可能な通常状態)に保持するロック装置として適用する場合においては、図3のロック機構16を図1のロック機構33に置き換えると共に図3のロックピン15を図1のロックピン31に置き換えることになる。
【0027】
図3において、10はキャブオーバ型トラックのフレーム(梯子型フレーム)であり、左右1対のサイドレール10a上にブリッジメンバ11が架設される。ブリッジメンバ11上にフローティングバー12がキャブサスペンションスプリング13を介して支持され、ブローティングバー12上にキャブ20後部の着座部として防振ゴムを持つキャブマウントブラケット14が配置される。15はフローティングバー12の中央部に配置されるロックピンであり、16はロックピン15に対応してキャブ20に配置されるロック機構であり、ロック機構16でロックピン15を拘束することによってキャブ20をフローティングバー12上にマウントブラケット14を介して着座状態に保持するようになっている。17はショックアブソーバである
図3のロック機構16を図1のロック機構33に置き換えると共に図3のロックピン15を図1のロックピン31に置き換えると、キャブ20(第1部材に相当する)のチルトダウンに伴ってロックピン31が基板33aの案内溝40に進入し、フック31を押し開きながら、案内溝40の深さ方向へさらに進入する。そして、ロックピン31は、フック34を乗り越えると、フック34がロックピン31の背後にまわって案内溝40を閉じるロック位置(初期位置)へ復帰するため、案内溝40の深さ方向の奥方に拘束される。従って、キャブ20がフローティングバー12(第2部材に相当する)上にキャブマウントブラケット14を介して着座状態に保持される。
【0028】
その際、キャブ20のチルトダウンに先立ち、ロックピン31を軸芯Pを中心に回転させて短径域を案内溝40の深さ方向に合わせると、図1のように案内溝40とその退路を閉じるフック34との間でロックピン31が案内溝の深さ方向へ動けるガタ(隙間)が与えられるため、ロックピン31の案内溝40への進入に伴って案内溝40を開きつつロックピン31の背後にまわってロックピン31の退路を閉じるフック34のロック動作が円滑に確保されることになる。
【0029】
その後、ロックピン31を軸芯Pを中心に回転させて長径域を案内溝40の深さ方向に合わせると、図2のようにガタが解消され、キャブ20とフローティングバー12との間に上下振動が作用しても、案内溝40とその退路を閉じるフック34との間でロックピン31が案内溝40の深さ方向へ動けなくなるため、打音の発生を防止することができる。
【0030】
図2の状態から操作手段37によってフック34を開いて案内溝40からロックピン31を解放すると、キャブ20がチルトアップが可能となるのである。その際、操作手段37によるフック31のロック解除動作に先立ち、ロックピン31を軸芯Pを中心に回転させて短径域を案内溝40の深さ方向に合わせると、図1のように案内溝40とその退路を閉じるフック34との間でロックピン31が案内溝40の深さ方向へ動けるガタ(隙間)が与えられるため、操作手段37によりフック34を開いて案内溝40からロックピン31を解放するフック34のロック解除動作を無理なく円滑に行えるようになる。
【0031】
走行時の振動により、ロックピン31が勝手に軸芯Pを中心に回転してガタが発生し、案内溝40とその退路を閉じるフック34との間でロックピン31が案内溝40の深さ方向へ動けるようになってしまうことが考えられるので、ロックピン31が勝手に回転するのを抑える回り止め手段を付加すると良い。
【産業上の利用可能性】
【0032】
この発明に係るロック装置は、キャブオーバ車両のキャブをチルトダウン状態に拘束するロック装置に限らず、車両のドアやシートなどを車体側にロックする装置として広く適用することができる。
【符号の説明】
【0033】
31 ロックピン
33 ロック機構
34 フック(ラッチ手段の構成部品)
37 操作手段
40 案内溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動可能な第1部材と、その着座部を形成する第2部材と、これら部材の一方に配置されるロックピンと、同じく他方に配置されるロック機構と、を備え、前記ロック機構で前記ロックピンを拘束することによって第1部材を第2部材の着座部に保持するロック装置において、前記ロック機構は、前記ロックピンが進入・退出可能な案内溝と、前記ロックピンの案内溝への進入に伴って案内溝を開きつつロックピンの背後にまわってロックピンの退路を閉じるラッチ手段と、ラッチ手段を開閉する操作手段と、を備えるものにあって、前記ロックピンは回転可能に軸支され、案内溝とその退路を閉じるラッチ手段との間でロックピンに案内溝の深さ方向へのガタを与える短径域と、前記ガタを解消する長径域と、を持つカム形状にロックピンの断面を形成したことを特徴とするロック装置。
【請求項2】
フレームにチルト軸を介して前方へ傾倒可能に支持されるキャブと、前記フレーム上の車幅方向に架設されるブリッジメンバと、前記ブリッジメンバ上にキャブサスペンションスプリングを介して支持されるフローティングバーと、前記フローティングバー上にキャブ後部の着座部として配置されるキャブマウントブラケットと、前記キャブまたは前記フローティングバーに配置されるロックピンと、前記ロックピンに対応して前記フローティングバーまたは前記キャブに配置されるロック機構と、を備え、前記ロック機構で前記ロックピンを拘束することによってキャブをフローティングバーのキャブマウントブラケットに保持するロック装置にあって、前記ロック機構は、前記ロックピンが進入・退出可能な案内溝と、前記ロックピンの案内溝への進入に伴って案内溝を開きつつロックピンの背後にまわってロックピンの退路を閉じるラッチ手段と、ラッチ手段を開閉する操作手段と、を備えるものにあって、前記ロックピンは回転可能に軸支され、案内溝とその退路を閉じるラッチ手段との間でロックピンに案内溝の深さ方向へのガタを与える短径域と、前記ガタを解消する長径域と、を持つカム形状にロックピンの断面を形成したことを特徴とするロック装置。
【請求項3】
前記ロックピンの回転を操作するハンドルと、前記ロックピンが自ずから回転するのを抑える回り止め手段と、を設けたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のロック装置。
【請求項4】
前記ロックピンは、金属製の丸棒からその円形端面を半月形状に切除することによって短径域および長径域を形成したことを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1つに記載のロック装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−254008(P2010−254008A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−103732(P2009−103732)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(000003908)UDトラックス株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】