ロボットのエンドエフェクタのシール部材
【課題】エンドエフェクタが取り付けられているロボットにおいてエンドエフェクタを取り外すことなく、また、ボルトが障害になることなく取り付け可能であり、シール性が過度に低下することを抑制するシール部材を提供する。
【解決手段】シール部材は、半円環状に形成されて互いに係合することにより円環状をなす一対のリム部30を備えており、このリム部30は、一方の端部に第一係合部32が設けられ、他方の端部に第二係合部33が設けられ、第一係合部32および第二係合部33はそれぞれ他方のリム部30に設けられている第二係合部33および第一係合部32に係合し、裏面側に潤滑剤を吸着する吸着材31が設けられている。
【解決手段】シール部材は、半円環状に形成されて互いに係合することにより円環状をなす一対のリム部30を備えており、このリム部30は、一方の端部に第一係合部32が設けられ、他方の端部に第二係合部33が設けられ、第一係合部32および第二係合部33はそれぞれ他方のリム部30に設けられている第二係合部33および第一係合部32に係合し、裏面側に潤滑剤を吸着する吸着材31が設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットのエンドエフェクタが取り付けられるフランジ部とフランジカバーとの間をシールするロボットのエンドエフェクタのシール部材に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば産業用のロボットは、エンドエフェクタが接続されるアーム部に、エンドエフェクタを回転駆動するための回転駆動部を備えている。この回転駆動部は、エンドエフェクタを取り付けるためのフランジ部に接続しており、フランジ部を介してエンドエフェクタを回転駆動する。フランジ部は、概ね円柱状に形成されており、軸受部材によって回転可能に支持されている。また、フランジ部は、エンドエフェクタが取り付けられる側の端部を露出した状態で、回転駆動部や軸受部材とともにフランジカバーによって覆われている。このとき、回転駆動部や軸受部材に塗布されているグリスなどの潤滑剤が外部に流出することを防止するため、フランジカバーの内側にはフランジ部の外周側の全域を覆う円環状のオイルシールやOリングなどが設けられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、ロボットの運転時には、モータや減速機あるいは軸受部材などの温度が上昇する。そのため、温度の上昇に伴って低粘性化した潤滑剤は、オイルシールなどでシールしていたとしてもフランジ部とフランジカバーとの間から微量に漏出するおそれがある。そして、例えばロボットをクリーンルームで使用している場合には、潤滑剤が微量であっても漏出すると製品の品質に影響を与えるおそれがある。そこで、フランジ部とフランジカバーとの間に吸着材を有するシール部材をさらに設け、漏出した潤滑剤を吸着することが考えられる。
【0004】
しかしながら、既設のロボットすなわちエンドエフェクタが取り付けられた状態で製造ラインに設置されているロボットは、エンドエフェクタを取り外して再度取り付けた場合、取り付け誤差が生じるおそれがある。このため、エンドエフェクタを取り外した場合には、ロボットの作動に問題がないかを確認するキャリブレーションが必要となる。このキャリブレーションには多くの時間および労力を要することから、ユーザは、エンドエフェクタの取り外しを避けたいと考えている。つまり、シール部材を取り付けるためにエンドエフェクタを取り外すことは、既設のロボットに対しては実質的に困難であるというのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−14104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さて、エンドエフェクタは、アーム部との間にわずかな隙間(クリアランス)を設けた状態でロボットのアーム部の先端側に取り付けられている。この隙間は一般的には数ミリ程度であり、作業者の指が入るような大きさではない。また、フランジ部は内部の駆動回路を保護するためにフランジカバーにより覆われており、そのフランジカバーが3本のボルトで留められている。このとき、フランジカバーはエンドエフェクタ側からアーム部にボルトで固定されていることから、ボルトの頭部が隙間に位置している。そして、3本のボルトは一般的には等間隔で配置されることから、フランジ部の周囲に3本のボルトが配置され、エンドエフェクタを取り外さない場合にはそれらのボルトが障害になってシール部材を取り付けることが出来ない。つまり、エンドエフェクタが取り付けられているアーム部に、エンドエフェクタを取り外すことなくシール部材を取り付けることは容易ではない。また、それらのボルトを避けるためにシール部材を多数に分割すると、フランジ部の周囲において吸着材が配置される領域が少なくなりシール性が低下してしまうという問題もある。
【0007】
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、エンドエフェクタが取り付けられているロボットにおいてエンドエフェクタを取り外すことなく、また、ボルトが障害になることなく取り付け可能であり、シール性が過度に低下することを抑制するロボットのエンドエフェクタのシール部材を提供することにある
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明では、リム部を第一係合部及び第二係合部を有する半円環状に形成し、その外周面に中央よりも第1係合部側に治具係合部を設けている。このため、まず、リム部を治具に係合させた状態でエンドエフェクタとアーム部との隙間に挿入するとともに、挿入したリム部の第二係合部側の端部を概ね120°間隔で等間隔に配置されている3本のボルトの間に挿入する。次に、リム部を、治具係合部とボルトまでの距離が大きく旋回量が大きくとれる第二係合部側に、第一係合部側の端部がボルト間に位置するまで旋回する。そして、第一係合部側の端部をボルトの間から挿入し、一方のリム部を取り付ける。これにより、概ね180°の半円環状に形成されているリム部を取り付けることができる。続いて、旋回させたことにより挿入済みのリム部とボルトとの位置関係が変化したことで形成された空間に、他方のリム部を同様の手順で挿入する。そして、挿入済みのリム部と他方のリム部とを、治具を介して径方向内側に力を加えることにより、互いに係合させる。
【0009】
このように、シール部材を一対のリム部で形成するとともに治具係合部を設けたことにより、作業者の指などを入れられないわずかな隙間にリム部を挿入させることができ、エンドエフェクタが取り付けられているロボットにおいてエンドエフェクタを取り外すことなく、また、ボルトが障害になることなくシール部材を取り付けることができる。しかも、先に挿入したリム部を旋回させるだけで他方のリム部を挿入するための空間を形成することが可能となるので、シール部材を非常に容易に取り付けることができる。
【0010】
このとき、第一係合部をリム部の外周面側から径方向内側に当該リム部の幅の半分以上に延びて形成し、第二係合部をリム部の内周面側から径方向外側に当該リム部の幅の半分以上に延びて形成しているため、第一係合部と第二係合部との係合が確実なり、強固にシール部材を取り付けることができる。
【0011】
さて、吸着剤の量を増やすためにリム部の幅をボルトに接触しない程度の幅広に設定すると、リム部を互いに係合させることが困難になる。具体的には、第一係合部と第二係合部とが係合するとき、リム部の内周側はフランジ部に当接していることから、リム部は、径方向外周に向かって撓んで変形することになる。しかし、リム部の外周側にはボルトが配置されていることから、径方向外側へのリム部の変形が制限されてしまい、第一係合部と第二係合部とを係合させることができなくなる。そこで、リム部の周方向における一方の端部側に、当該リム部の外周部から内周部側に窪んだ逃げ穴を設けている。これにより、リム部が径方向外側に撓んだとしてもボルトが逃げ穴に進入することから、リム部とボルトとの接触が回避され、第一係合部と第二係合部とを係合させることができる。
【0012】
さて、潤滑剤の漏出を効果的に防止するためには、吸着材の量を多くすることが望ましい。その場合、フランジ部の外周側の全域に吸着材を設けることが望ましいものの、上記したようにリム部を分割する必要がある。そこで、リム部を径方向に幅広に形成することにより、吸着材の量を増やすことができる。また、リム部を最小分割数すなわち2分割とすることにより、吸着材が配置されない領域を最小限にとどめることができ、シール性が過度に低下することを抑制できる。
【0013】
また、リム部は、可撓性を有しているものの、フランジ部とフランジカバーとの間を密にシールするためにある程度の剛性も有している。そのため、一対のリム部を係合させるためには、リム部を互いに押しつける必要がある。その場合、最も効率的に押しつけるためには、リム部の中央に治具係合部を設けるのが理想的ではあるが、上記したように3本のボルトが120°間隔で設けられていることから、他方のリム部を挿入可能な程度までリム部を旋回させるためには、治具とボルトとの接触を回避した状態である程度の旋回量が必要となる。そこで、治具係合部をリム部の周方向の中央よりも第一係合部寄りに設けることにより、リム部をボルト間に挿入するときることにより、に治具を一方のボルトから離間した位置にてリム部に係合させている。そして、その状態で治具を他方のボルトに向かって移動させることにより、治具の移動量つまりリム部の旋回が大きくなるようにしている。これにより、治具によるリム部の旋回量を確保しつつも、治具がボルトに接触することを避けた状態で力を効率よく加えることができる。
【0014】
請求項2記載の発明では、逃げ穴の少なくとも一部を周方向に覆うつば部を備えている。逃げ穴が形成されている部位は、径方向の幅が小さくなっていることから、他の部位に比べて撓み易くなっている。そのため、ロボットの運転時の振動や長期的な使用により、逃げ穴が撓んでシール性の低下を招くおそれがある。そこで、逃げ穴の吸着材と反対側の面につば部を設けることにより、剛性を高めている。これにより、逃げ穴の撓みが抑制され、シール性が低下することを低減することができる。
【0015】
請求項3記載の発明では、治具係合部は、リム部を旋回するための治具に設けられているピンが挿抜可能に圧入される圧入孔と、圧入孔の周方向の両側に形成された係合凹部とを備えている。エンドエフェクタとアーム部との間の隙間は通常数ミリ程度であることから、ユーザや作業者は指を挿入することができない。そこで、治具のピンを圧入孔に圧入することにより、リム部を治具に固定する。これにより、リム部は、治具に保持される。したがって、リム部を挿入する際には、リム部の挿入および旋回を容易に行うことができる。また、治具に設けられている係合凸部が係合凹部に係合することによって、互いのリム部を係合させる際には、周方向に広い範囲で力を加えることができ、リム部を確実に係合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】一実施形態によるリム部の外観を模式的に示す図で、(A)はシール部材の表面側の斜視図、(B)はシール部材の裏面側の斜視図
【図2】ロボットの外観を模式的に示す図
【図3】図2のIII領域の拡大図で、ロボットのエンドエフェクタとフランジカバーとの隙間を模式的に示す図
【図4】図3の矢印A方向からみたフランジの取り付け部位を模式的に示す図
【図5】シール部材の取り付け手順を模式的に示す図その1
【図6】シール部材の取り付け手順を模式的に示す図その2
【図7】シール部材の取り付け手順を模式的に示す図その3
【図8】シール部材の取り付け手順を模式的に示す図その4
【図9】シール部材の取り付け手順を模式的に示す図その5
【図10】シール部材の取り付け手順を模式的に示す図その6
【図11】シール部材を取り付けた状態を模式的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、シール部材の一実施形態について、図1から図11を参照しながら説明する。
図2から図4に示すように、シール部材10(図3参照)を取り付けるロボット11は、例えば6軸の垂直多回転関節型などの周知のものであり、工場の水平な床面などの設置面に固定されるベース部12、ショルダ部13、第一アーム部14、第二アーム部15、第三アーム部16および第四アーム部17を備えている。これらベース部12、ショルダ部13および第一〜第四の各アーム部は、各接続部位に図示しない回転関節をそれぞれ有しており、互いに順次連結されて所謂ロボットアームを構成している。ロボット11の場合、ショルダ部13はベース部12を中心に水平方向に旋回可能に連結され、第一アーム部14はショルダ部13の先端側において図2の上下方向(鉛直方向)に旋回可能に連結され、第二アーム部15は第一アーム部14の先端側において上下方向に旋回可能に連結され、第三アーム部16は第二アーム部15の先端部において第二アーム部15の軸方向に対して回転可能に連結され、第四アーム部17は第三アーム部16の先端部において第三アーム部16を中心に上下方向に旋回可能に連結されている。
【0018】
第四アーム部17は、図3に示すように、図示右方の先端側にフランジ部18を有している。フランジ部18は、概ね円柱状に形成されており、図示左方の端部が第四アーム部17に設けられている回転駆動部19に接続している。回転駆動部19は、図示しないモータ、減速機およびフランジ部18を回転可能に支持する軸受部材などで構成されている。回転駆動部19は、軸受部材に支持されたフランジ部18を回転駆動する。なお、回転駆動部19のモータや減速機などの構成は周知であるので、詳細な説明は省略する。
【0019】
これらフランジ部18および回転駆動部19は、フランジカバー20によって覆われている。フランジカバー20は、本実施形態の場合、概ね有底円筒状に形成され、フランジ部18および回転駆動部19を外周側から覆っている。また、フランジカバー20は、図4に示すように、その底部20aに開口20bが形成されている。この開口20bは、フランジ部18の先端側(図3の場合右方の端部側)に設けられている取り付け部位18aを露出するために設けられている。このため、開口20bとフランジ部18との間には、隙間Cが形成されている。なお、この図4では、シール部材10および後述するエンドエフェクタ24(図4参照)の図示は省略している。
【0020】
このフランジカバー20は、3本のボルト21によって第四アーム部17に固定されている。3本のボルト21は、フランジ部18の外周側に等間隔で、且つ、フランジ部18の外周面から予め設定されている配置間隔を存して配置されている。具体的には、3本のボルト21は、フランジ部18を中心として120°間隔で、且つ、フランジ部18の外周面から一定の距離Lだけ離間した位置に設けられている。また、フランジカバー20の内側には、回転駆動部19の軸受部材などに塗布されている潤滑のための潤滑剤が開口20bから流出することを防止するために、図示しないオイルシールやOリングなどが設けられている。
【0021】
フランジカバー20から露出しているフランジ部18の取り付け部位18aには、複数のメスねじ孔22および位置決め孔23が設けられている。この取り付け部位18aには、図2および図3に示すように、エンドエフェクタ24が取り付けられている。エンドエフェクタ24は、ハンドあるいはマニピュレータなどとも称される。本実施形態の場合、エンドエフェクタ24は、フランジカバー20の直径と同程度以上の径を有する筒状の本体部24aを有している。このため、第四アーム部17の先端側の端面は、エンドエフェクタ24の本体部24aにより覆われた状態となっている。このエンドエフェクタ24は、位置決め孔23により位置決めされた状態で図示しないねじによってメスねじ孔22にねじ止めされる。これにより、エンドエフェクタ24は、フランジ部18と一体に回転駆動部19によって回転駆動される。また、エンドエフェクタ24は、回転駆動時に第四アーム部17に接触することを防止するため、本体部24aの左方の端部と第四アーム部17との間に所定のクリアランス、例えば概ね数ミリ程度の隙間、を介した状態でフランジ部18に取り付けられている。なお、第四アーム部17とエンドエフェクタ24との隙間の大きさは、ロボット11の設計上の仕様により決定される。
【0022】
このような構成のロボット11においては、運転時におけるモータや軸受部材などの温度上昇にともなって低粘性化した潤滑剤が、オイルシールなどでシールしていたとしてもフランジ部18とフランジカバー20との間から微量に漏出するおそれがある。そこで、図3に示すように、第四アーム部17とエンドエフェクタ24との隙間にフランジ部18とフランジカバー20との間をシールするシール部材10を設けている。
【0023】
ところで、既設のロボット11の場合、前述の通りユーザはエンドエフェクタ24の取り外しを避けたいと考えていることから、シール部材10を取り付けるためだけにエンドエフェクタ24を取り外すことは実質的に困難である。また、フランジカバー20を第四アーム部17に固定しているボルト21の頭部が第四アーム部17とエンドエフェクタ24との隙間に突出していることから、エンドエフェクタ24を取り付けたままシール部材10を取り付けるとき、ボルト21が障害になってしまう。このため、シール部材10を取り付けるためには、分割する必要がある。その一方、ボルト21を避けるためにシール部材10を分割すると、フランジ部18の周囲においてシールされる領域が少なくなり、シール性が低下してしまう。
【0024】
そこで、本実施形態では、以下のようなシール部材10を採用している。シール部材10は、図1(A)および(B)に示すリム部30を2個組み合わせることにより、フランジ部18を外周側から覆う円環状(図3参照)に形成される。このリム部30には、吸着材31、第一係合部32、第二係合部33、逃げ穴34、つば部35および治具係合部36が設けられている。以下、図1(A)に示す吸着材31が設けられていない側の面を便宜的にリム部30の表面と称し、図1(B)に示す吸着材31が設けられている側の面を便宜的にリム部30の裏面と称する。つまり、シール部材10を取り付けた状態において、フランジカバー20側の面がリム部30の裏面になる。
【0025】
リム部30は、半円環状すなわち概ね180°の円弧状に形成されている。リム部30の厚みHは、上記した第四アーム部17とエンドエフェクタ24との隙間に挿入可能な値に設定されている。また、リム部30の幅Wは、上記したフランジ部18の外周面からボルト21までの距離L(配置間隔)未満、且つ、可能な限り距離Lに近い値に設定されている。つまり、リム部30は、その幅Wがほぼ距離Lに等しくなるように設定されている。本実施形態の場合、リム部30は、可撓性を有する材料例えば樹脂材料により形成されている。
【0026】
吸着材31は、図1(B)に示すようにリム部30の裏面側に設けられており、フランジ部18とフランジカバー20との間から漏出する潤滑剤を吸着する。吸着材31は、リム部30の裏面側から表面側に窪んで形成された収容凹部37に収容されている。この吸着材31は、リム部30の形状に概ね相似した円弧状に形成されている。また、吸着材31は、リム部30の厚みHおよびリム部30の幅Wが変化しない範囲で最大限の大きさ、より具体的には、収容凹部37に収容された状態でリム部30の内周面と裏面とに対して概ねつら位置になる大きさに形成されている。
【0027】
第一係合部32は、リム部30の周方向における一方の端部に設けられている。この第一係合部32は、本実施形態の場合、リム部30の外周面側から径方向内側に向かってリム部30の幅の半分以上に延びて形成された第一爪部32aを有している。第二係合部33は、リム部30の周方向において第一係合部32と反対側の端部に設けられている。この第二係合部33は、本実施形態の場合、リム部30の内周面側から径方向外側に向かってリム部30の幅の半分以上に延びて形成された第二爪部33aを有している。この第二爪部33aは、第一爪部32aに係合する。これにより、第一係合部32および第二係合部33は、それぞれ、他方のリム部30に設けられている第二係合部33および第一係合部32に係合する。つまり、本実施形態の場合、シール部材10は、同一形状に形成された一対のリム部30により構成されている。また、リム部30は、第二係合部33側の端部の幅がわずかに先細りに形成されている(図5など参照)。
【0028】
逃げ穴34は、第一係合部32が設けられている側のリム部30の端部に設けられている。この逃げ穴34は、リム部30の外周面から径方向内側に窪んだ形状に形成されている。このため、リム部30は、逃げ穴34が設けられている部位の幅が他の部位の幅Wに比べて狭くなっている。一方、逃げ穴34が設けられている部位のリム部30の表面側には、逃げ穴34を覆うつば部35が設けられている。つば部35は、リム部30の表面を周方向に延長することにより形成されている。本実施形態の場合、つば部35は、リム部30の幅Wよりも小さい幅に形成されており、逃げ穴34の一部を覆っている。
【0029】
治具係合部36は、リム部30の周方向の中央よりも第一係合部32寄り、且つ、逃げ穴34よりも中央寄りに設けられている。治具係合部36は、リム部30の外周面から径方向内側に窪んで形成された圧入孔38と、圧入孔38の周方向の両側に設けられリム部30の外周面から径方向内側に窪んで形成された2つの係合凹部39とを有している。この治具係合部36は、リム部30を周方向に旋回するための治具40(後述する図5など参照)に係合する。このとき、詳細は後述するが、治具40に設けられているピン41(図5参照)が圧入孔38に挿抜可能に圧入され、治具40に設けられている2つの係合凸部42が2つの係合凹部39にそれぞれ係合する。
【0030】
次に、上記したシール部材10の作用について、シール部材10の取り付けの手順を示す図5から図11を参照しながら説明する。以下の説明では、説明の簡略化のために、シール部材10を構成する一対のリム部30を第一リムR1および第二リムR2と便宜的に称する。ここで、第一リムR1は、以下に説明する取り付け手順において先に取り付けられるリム部30であり、第二リムR2は、第一リムR1が取り付けられた後に取り付けられるリム部30である。また、フランジカバー20を取り付けている3本のボルト21を、図5から図10に示すように、時計回りにボルトB1、B2、B3と便宜的に称する。
【0031】
シール部材10を取り付ける場合、まず、図5に示すように、第一リムR1を取り付ける。この場合、第一リムR1は、治具40により第四アーム部17とエンドエフェクタ24との間に挿入される。この治具40は、先端が3分岐した平板状に形成されている。治具40は、3分岐した中央に位置するピン41と、ピン41の両側に設けられている係合凸部42を有している。治具40は、ピン41を第一リムR1の圧入孔38に圧入し、係合凸部42を第一リムR1の係合凹部39に係合することにより第一リムR1に固定される。これにより、これにより、第一リムR1は、治具40に保持された状態で第四アーム部17とエンドエフェクタ24との間の隙間に挿入される。
【0032】
この場合、第一リムR1は、例えばボルトB1、B2との間から挿入される。このとき、第一リムR1は、上記したように、逃げ穴34が設けられている部位および第二係合部33側の端部の幅が狭くなっていることから、ボルトB1、B2との間に容易に挿入することができる。なお、第一リムR1をボルトB2、B3との間あるいはボルトB3、B1との間から挿入しても勿論よく、その場合には、以下に説明する第二リムR2を挿入する位置が変化するだけである。
【0033】
この図5に示すように第一リムR1を挿入した状態では、ボルトB3が障害になって第二リムR2を取り付けることができない。そこで、第一リムR1を、図6に示すように、第二係合部33の方向(図6の場合、時計回りの方向)に治具40がボルトB2に接触しない程度まで周方向に旋回する。これにより、第一リムR1とボルトB1〜B3との相対的な位置関係が変化し、第二リムR2を取り付けるためのスペースが確保される。このとき、治具係合部36を第一リムR1の周方向の中央よりも第一係合部32寄りに設けているので、第一リムR1を大きく旋回すること、すなわち、第一リムR1の旋回量を確保することができる。
【0034】
続いて、図7に示すように、ボルトB2、B3の間から第二リムR2を挿入する。このとき、第一リムR1が既に取り付けられていることから、上記した図5の状態とは異なり、第二リムR2がボルトB3に接触するおそれがある。具体的には、第一リムR1および第二リムR2の幅Wを距離Lにほぼ等しくなるように設定し、第一係合部32の第一爪部32aおよび第二係合部33の第二爪部33aをそれぞれリム部30の幅Wの半分以上に形成していることから、図7に示すように第一リムR1の第二係合部33と第二リムR2の第一係合部32とが係合するとき、径方向の幅の合計値が距離Lを超えてしまう。
【0035】
この状態では、第一リムR1の内周側はフランジ部18の外周面に当接していることから、第一リムR1および第二リムR2に対して治具40から力を加えた場合には、第二リムR2が径方向外周に向かって撓むことになるものの、第二リムR2の第一係合部32側に逃げ穴34を設けていることにより、第二リムR2が径方向外側に撓んだとしても、ボルトB3が逃げ穴34に進入することにより第二リムR2とボルトB3との接触は回避される。これにより、第一リムR1の第二係合部33と第二リムR2の第一係合部32とを互いに係合させることができる。この状態で第一リムR1および第二リムR2に対してさらに力を加えると、換言すると、第二リムR2を押し込むと、図8に示すように第二リムR2の第二係合部33と第一リムR1の第一係合部32とが接触する。このとき、第一リムR1が径方向外側に撓むものの、第一リムR1が径方向外側には十分なスペースがあることから、第二リムR2との係合が妨げられることはない。
【0036】
この状態でさらに治具40から力を加えることにより、図9に示すように、第二リムR2の第二係合部33と第一リムR1の第一係合部32とは、互いに係合する。すなわち、第一リムR1と第二リムR2とが互いに係合する。なお、図示は省略するが、このとき、第一リムR1および第二リムR2に設けられている吸着材31は、フランジカバー20に接触している。
【0037】
その後、治具40を取り外すことにより、図10および図11に示すように、内周側がフランジ部18の外周面に接触した状態で、一対のリム部30(第一リムR1および第二リムR2)により円環状に形成されたシール部材10が取り付けられる。このとき、上記したように吸着材31をシール部材10の内周面のつら位置およびリム部30の裏面のつら位置になるような形状で設けていることから(図1参照)、シール部材10は、フランジカバー20から突出したフランジ部18の外周面。および。フランジ部18とフランジカバー20との隙間C(図4参照)を吸着材31により覆った状態で取り付けられる。すなわち、シール部材10により、フランジ部18とフランジカバー20との間がシールされる。なお、図11では、エンドエフェクタ24の図示を省略している。
【0038】
以上説明したシール部材10によれば、以下のような効果を奏する。
シール部材10は、半円環状に形成された同一形状の一対のリム部30で形成されている。各リム部30は、図6から図10に示すように、まず一方のリム部30(第一リムR1)をボルト21の隙間から挿入した後に旋回することによりスペースを形成し、形成されたスペースに他方のリム部30(第二リムR2)が取り付けられる。そして、第一リムR1と第二リムR2とを治具40により互いに押しつけて係合させる。これにより、ボルト21を回避しつつ、シール部材10を構成する一対のリム部30を取り付けることができる。したがって、フランジカバー20が3本のボルト21によって固定されそのボルト21がフランジ部18の外周側且つアーム部とエンドエフェクタ24との隙間に位置しているロボット11において、換言すると、エンドエフェクタ24が取り付けられている既設のロボット11に対して、エンドエフェクタ24を取り外すことなく、また、ボルト21が障害になることなくフランジ部18とフランジカバー20との間をシールするための円環状のシール部材10を取り付けることができる。
【0039】
この場合、シール部材10を同一形状のリム部30で構成しているので、リム部30の製造および管理の手間を削減できるとともに、リム部30の取り付け作業時に混乱することが無く、作業効率を向上させることができる。
【0040】
リム部30は、半円環状すなわち概ね180°の円弧状に形成されており、その裏面側に概ね相似形状の吸着材31が設けられている。潤滑剤は、フランジ部18の周囲のどこから漏出するかが不明である。そこで、円環状のシール部材10を最小分割数である2分割とすることにより、フランジ部18の外周側において各リム部30が係合する部位を除いた領域に吸着材31を配置することができる。これにより、エンドエフェクタ24を取り外すことが実質的に困難な場合であっても、換言すると、シール部材10を取り付けるために分割が必須な場合であっても、吸着材31が配置されない領域を最小限に留めることができ、シール性が過度に低下してしまうことを抑制することができる。
【0041】
各リム部30の幅をフランジ部18の外周面から各ボルト21までの距離Lに近い値に設定しているので、吸着材31の量を多く、換言すると、潤滑剤を吸着可能な上限を高くなる。これにより、潤滑剤が一時的に多量に漏出した場合であっても、潤滑剤の外部への飛散を抑制することができる。また、吸着材31を多くすることにより、吸着材31を取り替えるメンテナンスの頻度を低減することもできる。
【0042】
各リム部30の幅をフランジ部18の外周面から各ボルト21までの距離Lに近い値に設定した場合には、リム部30を互いに係合させるときにリム部30がボルト21に接触することが懸念されるものの、リム部30の外周面側に逃げ穴34を設けることにより、リム部30とボルト21との接触を回避している。これにより、一対のリム部30を互いに係合させることができる。
【0043】
逃げ穴34が形成されている部位は、リム部30の幅が他の部位よりも小さくなっていることから撓み易い。そこで、リム部30の表面側に逃げ穴34の少なくとも一部を周方向に覆うつば部35を設けることで、ボルト21の回避スペースを確保しつつ、逃げ穴34が設けられている部位の剛性を高めている。これにより、逃げ穴34が設けられている部位における撓みが抑制され、シール部材10とフランジ部18との接触性の低下、換言すると、シール性の低下を低減することができる。
【0044】
治具係合部36を、治具40に設けられているピン41が挿抜可能に圧入される圧入孔38と、圧入孔38の周方向の両側に形成された係合凹部39とで構成したことにより、リム部30と治具40とは互いに固定される。このため、リム部30は、治具40により保持された状態となり、作業者の指が入らないような第四アーム部17とエンドエフェクタ24との隙間に挿入することができる。また、治具40に設けられている係合凸部42が係合凹部39に係合することにより、リム部30を旋回するとき、および、互いのリム部30を係合させるとき、リム部30に加わる圧力が分散される。これにより、エンドエフェクタ24とアーム部との間の隙間に容易にリム部30を挿入することができるとともに、リム部30の旋回時およびリム部30の係合時に治具40が破損するおそれを低減しつつ、周方向に広い範囲で力を加えることができ、リム部を確実に係合することができる。つまり、シール部材10の取り付け作業を容易に行うことができる。
【0045】
リム部30は、取り付けのために可撓性を有する材料で形成しているものの、密にシールするためにある程度の剛性も有している。このため、リム部30を係合させるときには、ある程度の力で互いに押しつける必要がある。また、第二リムR2を取り付けるためには、第一リムR1の周方向への旋回量を大きくする必要がある。そこで、治具係合部36をリム部30の周方向の中央よりも第一係合部32寄りに設けたことにより、第一リムR1の旋回量を確保することができるとともに、治具40がボルト21に接触することを避けた状態で力を効率よく加えることができる。
【0046】
(その他の実施形態)
本発明は、上述した一実施形態にのみ限定されるものではなく、以下のように変形又は拡張することができる。
第四アーム部17とエンドエフェクタ24との隙間の大きさはロボット11の設計上の仕様により定まる値であるため、例えばボルト21の頭部とエンドエフェクタ24との隙間がほとんど無いような場合にはつば部35を設けない構成としてもよい。
また、ボルト21が配置される距離Lは、ロボット11の設計上の仕様により決定される値であるため、リム部30の幅Wは、距離Lにあわせて適宜設定すればよい。
【符号の説明】
【0047】
図面中、10はシール部材、11はロボット、17は第四アーム部(アーム部)、18はフランジ部、19は回転駆動部、20はフランジカバー、21はボルト、24はエンドエフェクタ、30はリム部、31は吸着材、32は第一係合部、33は第二係合部、36は治具係合部、38は圧入孔(治具係合部)、39は係合凹部(治具係合部)、40は治具、41はピン、42は係合凸部、B1、B2、B3はボルト、R1は第一リム(リム部)、R2は第二リム(リム部)を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットのエンドエフェクタが取り付けられるフランジ部とフランジカバーとの間をシールするロボットのエンドエフェクタのシール部材に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば産業用のロボットは、エンドエフェクタが接続されるアーム部に、エンドエフェクタを回転駆動するための回転駆動部を備えている。この回転駆動部は、エンドエフェクタを取り付けるためのフランジ部に接続しており、フランジ部を介してエンドエフェクタを回転駆動する。フランジ部は、概ね円柱状に形成されており、軸受部材によって回転可能に支持されている。また、フランジ部は、エンドエフェクタが取り付けられる側の端部を露出した状態で、回転駆動部や軸受部材とともにフランジカバーによって覆われている。このとき、回転駆動部や軸受部材に塗布されているグリスなどの潤滑剤が外部に流出することを防止するため、フランジカバーの内側にはフランジ部の外周側の全域を覆う円環状のオイルシールやOリングなどが設けられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、ロボットの運転時には、モータや減速機あるいは軸受部材などの温度が上昇する。そのため、温度の上昇に伴って低粘性化した潤滑剤は、オイルシールなどでシールしていたとしてもフランジ部とフランジカバーとの間から微量に漏出するおそれがある。そして、例えばロボットをクリーンルームで使用している場合には、潤滑剤が微量であっても漏出すると製品の品質に影響を与えるおそれがある。そこで、フランジ部とフランジカバーとの間に吸着材を有するシール部材をさらに設け、漏出した潤滑剤を吸着することが考えられる。
【0004】
しかしながら、既設のロボットすなわちエンドエフェクタが取り付けられた状態で製造ラインに設置されているロボットは、エンドエフェクタを取り外して再度取り付けた場合、取り付け誤差が生じるおそれがある。このため、エンドエフェクタを取り外した場合には、ロボットの作動に問題がないかを確認するキャリブレーションが必要となる。このキャリブレーションには多くの時間および労力を要することから、ユーザは、エンドエフェクタの取り外しを避けたいと考えている。つまり、シール部材を取り付けるためにエンドエフェクタを取り外すことは、既設のロボットに対しては実質的に困難であるというのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−14104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さて、エンドエフェクタは、アーム部との間にわずかな隙間(クリアランス)を設けた状態でロボットのアーム部の先端側に取り付けられている。この隙間は一般的には数ミリ程度であり、作業者の指が入るような大きさではない。また、フランジ部は内部の駆動回路を保護するためにフランジカバーにより覆われており、そのフランジカバーが3本のボルトで留められている。このとき、フランジカバーはエンドエフェクタ側からアーム部にボルトで固定されていることから、ボルトの頭部が隙間に位置している。そして、3本のボルトは一般的には等間隔で配置されることから、フランジ部の周囲に3本のボルトが配置され、エンドエフェクタを取り外さない場合にはそれらのボルトが障害になってシール部材を取り付けることが出来ない。つまり、エンドエフェクタが取り付けられているアーム部に、エンドエフェクタを取り外すことなくシール部材を取り付けることは容易ではない。また、それらのボルトを避けるためにシール部材を多数に分割すると、フランジ部の周囲において吸着材が配置される領域が少なくなりシール性が低下してしまうという問題もある。
【0007】
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、エンドエフェクタが取り付けられているロボットにおいてエンドエフェクタを取り外すことなく、また、ボルトが障害になることなく取り付け可能であり、シール性が過度に低下することを抑制するロボットのエンドエフェクタのシール部材を提供することにある
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明では、リム部を第一係合部及び第二係合部を有する半円環状に形成し、その外周面に中央よりも第1係合部側に治具係合部を設けている。このため、まず、リム部を治具に係合させた状態でエンドエフェクタとアーム部との隙間に挿入するとともに、挿入したリム部の第二係合部側の端部を概ね120°間隔で等間隔に配置されている3本のボルトの間に挿入する。次に、リム部を、治具係合部とボルトまでの距離が大きく旋回量が大きくとれる第二係合部側に、第一係合部側の端部がボルト間に位置するまで旋回する。そして、第一係合部側の端部をボルトの間から挿入し、一方のリム部を取り付ける。これにより、概ね180°の半円環状に形成されているリム部を取り付けることができる。続いて、旋回させたことにより挿入済みのリム部とボルトとの位置関係が変化したことで形成された空間に、他方のリム部を同様の手順で挿入する。そして、挿入済みのリム部と他方のリム部とを、治具を介して径方向内側に力を加えることにより、互いに係合させる。
【0009】
このように、シール部材を一対のリム部で形成するとともに治具係合部を設けたことにより、作業者の指などを入れられないわずかな隙間にリム部を挿入させることができ、エンドエフェクタが取り付けられているロボットにおいてエンドエフェクタを取り外すことなく、また、ボルトが障害になることなくシール部材を取り付けることができる。しかも、先に挿入したリム部を旋回させるだけで他方のリム部を挿入するための空間を形成することが可能となるので、シール部材を非常に容易に取り付けることができる。
【0010】
このとき、第一係合部をリム部の外周面側から径方向内側に当該リム部の幅の半分以上に延びて形成し、第二係合部をリム部の内周面側から径方向外側に当該リム部の幅の半分以上に延びて形成しているため、第一係合部と第二係合部との係合が確実なり、強固にシール部材を取り付けることができる。
【0011】
さて、吸着剤の量を増やすためにリム部の幅をボルトに接触しない程度の幅広に設定すると、リム部を互いに係合させることが困難になる。具体的には、第一係合部と第二係合部とが係合するとき、リム部の内周側はフランジ部に当接していることから、リム部は、径方向外周に向かって撓んで変形することになる。しかし、リム部の外周側にはボルトが配置されていることから、径方向外側へのリム部の変形が制限されてしまい、第一係合部と第二係合部とを係合させることができなくなる。そこで、リム部の周方向における一方の端部側に、当該リム部の外周部から内周部側に窪んだ逃げ穴を設けている。これにより、リム部が径方向外側に撓んだとしてもボルトが逃げ穴に進入することから、リム部とボルトとの接触が回避され、第一係合部と第二係合部とを係合させることができる。
【0012】
さて、潤滑剤の漏出を効果的に防止するためには、吸着材の量を多くすることが望ましい。その場合、フランジ部の外周側の全域に吸着材を設けることが望ましいものの、上記したようにリム部を分割する必要がある。そこで、リム部を径方向に幅広に形成することにより、吸着材の量を増やすことができる。また、リム部を最小分割数すなわち2分割とすることにより、吸着材が配置されない領域を最小限にとどめることができ、シール性が過度に低下することを抑制できる。
【0013】
また、リム部は、可撓性を有しているものの、フランジ部とフランジカバーとの間を密にシールするためにある程度の剛性も有している。そのため、一対のリム部を係合させるためには、リム部を互いに押しつける必要がある。その場合、最も効率的に押しつけるためには、リム部の中央に治具係合部を設けるのが理想的ではあるが、上記したように3本のボルトが120°間隔で設けられていることから、他方のリム部を挿入可能な程度までリム部を旋回させるためには、治具とボルトとの接触を回避した状態である程度の旋回量が必要となる。そこで、治具係合部をリム部の周方向の中央よりも第一係合部寄りに設けることにより、リム部をボルト間に挿入するときることにより、に治具を一方のボルトから離間した位置にてリム部に係合させている。そして、その状態で治具を他方のボルトに向かって移動させることにより、治具の移動量つまりリム部の旋回が大きくなるようにしている。これにより、治具によるリム部の旋回量を確保しつつも、治具がボルトに接触することを避けた状態で力を効率よく加えることができる。
【0014】
請求項2記載の発明では、逃げ穴の少なくとも一部を周方向に覆うつば部を備えている。逃げ穴が形成されている部位は、径方向の幅が小さくなっていることから、他の部位に比べて撓み易くなっている。そのため、ロボットの運転時の振動や長期的な使用により、逃げ穴が撓んでシール性の低下を招くおそれがある。そこで、逃げ穴の吸着材と反対側の面につば部を設けることにより、剛性を高めている。これにより、逃げ穴の撓みが抑制され、シール性が低下することを低減することができる。
【0015】
請求項3記載の発明では、治具係合部は、リム部を旋回するための治具に設けられているピンが挿抜可能に圧入される圧入孔と、圧入孔の周方向の両側に形成された係合凹部とを備えている。エンドエフェクタとアーム部との間の隙間は通常数ミリ程度であることから、ユーザや作業者は指を挿入することができない。そこで、治具のピンを圧入孔に圧入することにより、リム部を治具に固定する。これにより、リム部は、治具に保持される。したがって、リム部を挿入する際には、リム部の挿入および旋回を容易に行うことができる。また、治具に設けられている係合凸部が係合凹部に係合することによって、互いのリム部を係合させる際には、周方向に広い範囲で力を加えることができ、リム部を確実に係合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】一実施形態によるリム部の外観を模式的に示す図で、(A)はシール部材の表面側の斜視図、(B)はシール部材の裏面側の斜視図
【図2】ロボットの外観を模式的に示す図
【図3】図2のIII領域の拡大図で、ロボットのエンドエフェクタとフランジカバーとの隙間を模式的に示す図
【図4】図3の矢印A方向からみたフランジの取り付け部位を模式的に示す図
【図5】シール部材の取り付け手順を模式的に示す図その1
【図6】シール部材の取り付け手順を模式的に示す図その2
【図7】シール部材の取り付け手順を模式的に示す図その3
【図8】シール部材の取り付け手順を模式的に示す図その4
【図9】シール部材の取り付け手順を模式的に示す図その5
【図10】シール部材の取り付け手順を模式的に示す図その6
【図11】シール部材を取り付けた状態を模式的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、シール部材の一実施形態について、図1から図11を参照しながら説明する。
図2から図4に示すように、シール部材10(図3参照)を取り付けるロボット11は、例えば6軸の垂直多回転関節型などの周知のものであり、工場の水平な床面などの設置面に固定されるベース部12、ショルダ部13、第一アーム部14、第二アーム部15、第三アーム部16および第四アーム部17を備えている。これらベース部12、ショルダ部13および第一〜第四の各アーム部は、各接続部位に図示しない回転関節をそれぞれ有しており、互いに順次連結されて所謂ロボットアームを構成している。ロボット11の場合、ショルダ部13はベース部12を中心に水平方向に旋回可能に連結され、第一アーム部14はショルダ部13の先端側において図2の上下方向(鉛直方向)に旋回可能に連結され、第二アーム部15は第一アーム部14の先端側において上下方向に旋回可能に連結され、第三アーム部16は第二アーム部15の先端部において第二アーム部15の軸方向に対して回転可能に連結され、第四アーム部17は第三アーム部16の先端部において第三アーム部16を中心に上下方向に旋回可能に連結されている。
【0018】
第四アーム部17は、図3に示すように、図示右方の先端側にフランジ部18を有している。フランジ部18は、概ね円柱状に形成されており、図示左方の端部が第四アーム部17に設けられている回転駆動部19に接続している。回転駆動部19は、図示しないモータ、減速機およびフランジ部18を回転可能に支持する軸受部材などで構成されている。回転駆動部19は、軸受部材に支持されたフランジ部18を回転駆動する。なお、回転駆動部19のモータや減速機などの構成は周知であるので、詳細な説明は省略する。
【0019】
これらフランジ部18および回転駆動部19は、フランジカバー20によって覆われている。フランジカバー20は、本実施形態の場合、概ね有底円筒状に形成され、フランジ部18および回転駆動部19を外周側から覆っている。また、フランジカバー20は、図4に示すように、その底部20aに開口20bが形成されている。この開口20bは、フランジ部18の先端側(図3の場合右方の端部側)に設けられている取り付け部位18aを露出するために設けられている。このため、開口20bとフランジ部18との間には、隙間Cが形成されている。なお、この図4では、シール部材10および後述するエンドエフェクタ24(図4参照)の図示は省略している。
【0020】
このフランジカバー20は、3本のボルト21によって第四アーム部17に固定されている。3本のボルト21は、フランジ部18の外周側に等間隔で、且つ、フランジ部18の外周面から予め設定されている配置間隔を存して配置されている。具体的には、3本のボルト21は、フランジ部18を中心として120°間隔で、且つ、フランジ部18の外周面から一定の距離Lだけ離間した位置に設けられている。また、フランジカバー20の内側には、回転駆動部19の軸受部材などに塗布されている潤滑のための潤滑剤が開口20bから流出することを防止するために、図示しないオイルシールやOリングなどが設けられている。
【0021】
フランジカバー20から露出しているフランジ部18の取り付け部位18aには、複数のメスねじ孔22および位置決め孔23が設けられている。この取り付け部位18aには、図2および図3に示すように、エンドエフェクタ24が取り付けられている。エンドエフェクタ24は、ハンドあるいはマニピュレータなどとも称される。本実施形態の場合、エンドエフェクタ24は、フランジカバー20の直径と同程度以上の径を有する筒状の本体部24aを有している。このため、第四アーム部17の先端側の端面は、エンドエフェクタ24の本体部24aにより覆われた状態となっている。このエンドエフェクタ24は、位置決め孔23により位置決めされた状態で図示しないねじによってメスねじ孔22にねじ止めされる。これにより、エンドエフェクタ24は、フランジ部18と一体に回転駆動部19によって回転駆動される。また、エンドエフェクタ24は、回転駆動時に第四アーム部17に接触することを防止するため、本体部24aの左方の端部と第四アーム部17との間に所定のクリアランス、例えば概ね数ミリ程度の隙間、を介した状態でフランジ部18に取り付けられている。なお、第四アーム部17とエンドエフェクタ24との隙間の大きさは、ロボット11の設計上の仕様により決定される。
【0022】
このような構成のロボット11においては、運転時におけるモータや軸受部材などの温度上昇にともなって低粘性化した潤滑剤が、オイルシールなどでシールしていたとしてもフランジ部18とフランジカバー20との間から微量に漏出するおそれがある。そこで、図3に示すように、第四アーム部17とエンドエフェクタ24との隙間にフランジ部18とフランジカバー20との間をシールするシール部材10を設けている。
【0023】
ところで、既設のロボット11の場合、前述の通りユーザはエンドエフェクタ24の取り外しを避けたいと考えていることから、シール部材10を取り付けるためだけにエンドエフェクタ24を取り外すことは実質的に困難である。また、フランジカバー20を第四アーム部17に固定しているボルト21の頭部が第四アーム部17とエンドエフェクタ24との隙間に突出していることから、エンドエフェクタ24を取り付けたままシール部材10を取り付けるとき、ボルト21が障害になってしまう。このため、シール部材10を取り付けるためには、分割する必要がある。その一方、ボルト21を避けるためにシール部材10を分割すると、フランジ部18の周囲においてシールされる領域が少なくなり、シール性が低下してしまう。
【0024】
そこで、本実施形態では、以下のようなシール部材10を採用している。シール部材10は、図1(A)および(B)に示すリム部30を2個組み合わせることにより、フランジ部18を外周側から覆う円環状(図3参照)に形成される。このリム部30には、吸着材31、第一係合部32、第二係合部33、逃げ穴34、つば部35および治具係合部36が設けられている。以下、図1(A)に示す吸着材31が設けられていない側の面を便宜的にリム部30の表面と称し、図1(B)に示す吸着材31が設けられている側の面を便宜的にリム部30の裏面と称する。つまり、シール部材10を取り付けた状態において、フランジカバー20側の面がリム部30の裏面になる。
【0025】
リム部30は、半円環状すなわち概ね180°の円弧状に形成されている。リム部30の厚みHは、上記した第四アーム部17とエンドエフェクタ24との隙間に挿入可能な値に設定されている。また、リム部30の幅Wは、上記したフランジ部18の外周面からボルト21までの距離L(配置間隔)未満、且つ、可能な限り距離Lに近い値に設定されている。つまり、リム部30は、その幅Wがほぼ距離Lに等しくなるように設定されている。本実施形態の場合、リム部30は、可撓性を有する材料例えば樹脂材料により形成されている。
【0026】
吸着材31は、図1(B)に示すようにリム部30の裏面側に設けられており、フランジ部18とフランジカバー20との間から漏出する潤滑剤を吸着する。吸着材31は、リム部30の裏面側から表面側に窪んで形成された収容凹部37に収容されている。この吸着材31は、リム部30の形状に概ね相似した円弧状に形成されている。また、吸着材31は、リム部30の厚みHおよびリム部30の幅Wが変化しない範囲で最大限の大きさ、より具体的には、収容凹部37に収容された状態でリム部30の内周面と裏面とに対して概ねつら位置になる大きさに形成されている。
【0027】
第一係合部32は、リム部30の周方向における一方の端部に設けられている。この第一係合部32は、本実施形態の場合、リム部30の外周面側から径方向内側に向かってリム部30の幅の半分以上に延びて形成された第一爪部32aを有している。第二係合部33は、リム部30の周方向において第一係合部32と反対側の端部に設けられている。この第二係合部33は、本実施形態の場合、リム部30の内周面側から径方向外側に向かってリム部30の幅の半分以上に延びて形成された第二爪部33aを有している。この第二爪部33aは、第一爪部32aに係合する。これにより、第一係合部32および第二係合部33は、それぞれ、他方のリム部30に設けられている第二係合部33および第一係合部32に係合する。つまり、本実施形態の場合、シール部材10は、同一形状に形成された一対のリム部30により構成されている。また、リム部30は、第二係合部33側の端部の幅がわずかに先細りに形成されている(図5など参照)。
【0028】
逃げ穴34は、第一係合部32が設けられている側のリム部30の端部に設けられている。この逃げ穴34は、リム部30の外周面から径方向内側に窪んだ形状に形成されている。このため、リム部30は、逃げ穴34が設けられている部位の幅が他の部位の幅Wに比べて狭くなっている。一方、逃げ穴34が設けられている部位のリム部30の表面側には、逃げ穴34を覆うつば部35が設けられている。つば部35は、リム部30の表面を周方向に延長することにより形成されている。本実施形態の場合、つば部35は、リム部30の幅Wよりも小さい幅に形成されており、逃げ穴34の一部を覆っている。
【0029】
治具係合部36は、リム部30の周方向の中央よりも第一係合部32寄り、且つ、逃げ穴34よりも中央寄りに設けられている。治具係合部36は、リム部30の外周面から径方向内側に窪んで形成された圧入孔38と、圧入孔38の周方向の両側に設けられリム部30の外周面から径方向内側に窪んで形成された2つの係合凹部39とを有している。この治具係合部36は、リム部30を周方向に旋回するための治具40(後述する図5など参照)に係合する。このとき、詳細は後述するが、治具40に設けられているピン41(図5参照)が圧入孔38に挿抜可能に圧入され、治具40に設けられている2つの係合凸部42が2つの係合凹部39にそれぞれ係合する。
【0030】
次に、上記したシール部材10の作用について、シール部材10の取り付けの手順を示す図5から図11を参照しながら説明する。以下の説明では、説明の簡略化のために、シール部材10を構成する一対のリム部30を第一リムR1および第二リムR2と便宜的に称する。ここで、第一リムR1は、以下に説明する取り付け手順において先に取り付けられるリム部30であり、第二リムR2は、第一リムR1が取り付けられた後に取り付けられるリム部30である。また、フランジカバー20を取り付けている3本のボルト21を、図5から図10に示すように、時計回りにボルトB1、B2、B3と便宜的に称する。
【0031】
シール部材10を取り付ける場合、まず、図5に示すように、第一リムR1を取り付ける。この場合、第一リムR1は、治具40により第四アーム部17とエンドエフェクタ24との間に挿入される。この治具40は、先端が3分岐した平板状に形成されている。治具40は、3分岐した中央に位置するピン41と、ピン41の両側に設けられている係合凸部42を有している。治具40は、ピン41を第一リムR1の圧入孔38に圧入し、係合凸部42を第一リムR1の係合凹部39に係合することにより第一リムR1に固定される。これにより、これにより、第一リムR1は、治具40に保持された状態で第四アーム部17とエンドエフェクタ24との間の隙間に挿入される。
【0032】
この場合、第一リムR1は、例えばボルトB1、B2との間から挿入される。このとき、第一リムR1は、上記したように、逃げ穴34が設けられている部位および第二係合部33側の端部の幅が狭くなっていることから、ボルトB1、B2との間に容易に挿入することができる。なお、第一リムR1をボルトB2、B3との間あるいはボルトB3、B1との間から挿入しても勿論よく、その場合には、以下に説明する第二リムR2を挿入する位置が変化するだけである。
【0033】
この図5に示すように第一リムR1を挿入した状態では、ボルトB3が障害になって第二リムR2を取り付けることができない。そこで、第一リムR1を、図6に示すように、第二係合部33の方向(図6の場合、時計回りの方向)に治具40がボルトB2に接触しない程度まで周方向に旋回する。これにより、第一リムR1とボルトB1〜B3との相対的な位置関係が変化し、第二リムR2を取り付けるためのスペースが確保される。このとき、治具係合部36を第一リムR1の周方向の中央よりも第一係合部32寄りに設けているので、第一リムR1を大きく旋回すること、すなわち、第一リムR1の旋回量を確保することができる。
【0034】
続いて、図7に示すように、ボルトB2、B3の間から第二リムR2を挿入する。このとき、第一リムR1が既に取り付けられていることから、上記した図5の状態とは異なり、第二リムR2がボルトB3に接触するおそれがある。具体的には、第一リムR1および第二リムR2の幅Wを距離Lにほぼ等しくなるように設定し、第一係合部32の第一爪部32aおよび第二係合部33の第二爪部33aをそれぞれリム部30の幅Wの半分以上に形成していることから、図7に示すように第一リムR1の第二係合部33と第二リムR2の第一係合部32とが係合するとき、径方向の幅の合計値が距離Lを超えてしまう。
【0035】
この状態では、第一リムR1の内周側はフランジ部18の外周面に当接していることから、第一リムR1および第二リムR2に対して治具40から力を加えた場合には、第二リムR2が径方向外周に向かって撓むことになるものの、第二リムR2の第一係合部32側に逃げ穴34を設けていることにより、第二リムR2が径方向外側に撓んだとしても、ボルトB3が逃げ穴34に進入することにより第二リムR2とボルトB3との接触は回避される。これにより、第一リムR1の第二係合部33と第二リムR2の第一係合部32とを互いに係合させることができる。この状態で第一リムR1および第二リムR2に対してさらに力を加えると、換言すると、第二リムR2を押し込むと、図8に示すように第二リムR2の第二係合部33と第一リムR1の第一係合部32とが接触する。このとき、第一リムR1が径方向外側に撓むものの、第一リムR1が径方向外側には十分なスペースがあることから、第二リムR2との係合が妨げられることはない。
【0036】
この状態でさらに治具40から力を加えることにより、図9に示すように、第二リムR2の第二係合部33と第一リムR1の第一係合部32とは、互いに係合する。すなわち、第一リムR1と第二リムR2とが互いに係合する。なお、図示は省略するが、このとき、第一リムR1および第二リムR2に設けられている吸着材31は、フランジカバー20に接触している。
【0037】
その後、治具40を取り外すことにより、図10および図11に示すように、内周側がフランジ部18の外周面に接触した状態で、一対のリム部30(第一リムR1および第二リムR2)により円環状に形成されたシール部材10が取り付けられる。このとき、上記したように吸着材31をシール部材10の内周面のつら位置およびリム部30の裏面のつら位置になるような形状で設けていることから(図1参照)、シール部材10は、フランジカバー20から突出したフランジ部18の外周面。および。フランジ部18とフランジカバー20との隙間C(図4参照)を吸着材31により覆った状態で取り付けられる。すなわち、シール部材10により、フランジ部18とフランジカバー20との間がシールされる。なお、図11では、エンドエフェクタ24の図示を省略している。
【0038】
以上説明したシール部材10によれば、以下のような効果を奏する。
シール部材10は、半円環状に形成された同一形状の一対のリム部30で形成されている。各リム部30は、図6から図10に示すように、まず一方のリム部30(第一リムR1)をボルト21の隙間から挿入した後に旋回することによりスペースを形成し、形成されたスペースに他方のリム部30(第二リムR2)が取り付けられる。そして、第一リムR1と第二リムR2とを治具40により互いに押しつけて係合させる。これにより、ボルト21を回避しつつ、シール部材10を構成する一対のリム部30を取り付けることができる。したがって、フランジカバー20が3本のボルト21によって固定されそのボルト21がフランジ部18の外周側且つアーム部とエンドエフェクタ24との隙間に位置しているロボット11において、換言すると、エンドエフェクタ24が取り付けられている既設のロボット11に対して、エンドエフェクタ24を取り外すことなく、また、ボルト21が障害になることなくフランジ部18とフランジカバー20との間をシールするための円環状のシール部材10を取り付けることができる。
【0039】
この場合、シール部材10を同一形状のリム部30で構成しているので、リム部30の製造および管理の手間を削減できるとともに、リム部30の取り付け作業時に混乱することが無く、作業効率を向上させることができる。
【0040】
リム部30は、半円環状すなわち概ね180°の円弧状に形成されており、その裏面側に概ね相似形状の吸着材31が設けられている。潤滑剤は、フランジ部18の周囲のどこから漏出するかが不明である。そこで、円環状のシール部材10を最小分割数である2分割とすることにより、フランジ部18の外周側において各リム部30が係合する部位を除いた領域に吸着材31を配置することができる。これにより、エンドエフェクタ24を取り外すことが実質的に困難な場合であっても、換言すると、シール部材10を取り付けるために分割が必須な場合であっても、吸着材31が配置されない領域を最小限に留めることができ、シール性が過度に低下してしまうことを抑制することができる。
【0041】
各リム部30の幅をフランジ部18の外周面から各ボルト21までの距離Lに近い値に設定しているので、吸着材31の量を多く、換言すると、潤滑剤を吸着可能な上限を高くなる。これにより、潤滑剤が一時的に多量に漏出した場合であっても、潤滑剤の外部への飛散を抑制することができる。また、吸着材31を多くすることにより、吸着材31を取り替えるメンテナンスの頻度を低減することもできる。
【0042】
各リム部30の幅をフランジ部18の外周面から各ボルト21までの距離Lに近い値に設定した場合には、リム部30を互いに係合させるときにリム部30がボルト21に接触することが懸念されるものの、リム部30の外周面側に逃げ穴34を設けることにより、リム部30とボルト21との接触を回避している。これにより、一対のリム部30を互いに係合させることができる。
【0043】
逃げ穴34が形成されている部位は、リム部30の幅が他の部位よりも小さくなっていることから撓み易い。そこで、リム部30の表面側に逃げ穴34の少なくとも一部を周方向に覆うつば部35を設けることで、ボルト21の回避スペースを確保しつつ、逃げ穴34が設けられている部位の剛性を高めている。これにより、逃げ穴34が設けられている部位における撓みが抑制され、シール部材10とフランジ部18との接触性の低下、換言すると、シール性の低下を低減することができる。
【0044】
治具係合部36を、治具40に設けられているピン41が挿抜可能に圧入される圧入孔38と、圧入孔38の周方向の両側に形成された係合凹部39とで構成したことにより、リム部30と治具40とは互いに固定される。このため、リム部30は、治具40により保持された状態となり、作業者の指が入らないような第四アーム部17とエンドエフェクタ24との隙間に挿入することができる。また、治具40に設けられている係合凸部42が係合凹部39に係合することにより、リム部30を旋回するとき、および、互いのリム部30を係合させるとき、リム部30に加わる圧力が分散される。これにより、エンドエフェクタ24とアーム部との間の隙間に容易にリム部30を挿入することができるとともに、リム部30の旋回時およびリム部30の係合時に治具40が破損するおそれを低減しつつ、周方向に広い範囲で力を加えることができ、リム部を確実に係合することができる。つまり、シール部材10の取り付け作業を容易に行うことができる。
【0045】
リム部30は、取り付けのために可撓性を有する材料で形成しているものの、密にシールするためにある程度の剛性も有している。このため、リム部30を係合させるときには、ある程度の力で互いに押しつける必要がある。また、第二リムR2を取り付けるためには、第一リムR1の周方向への旋回量を大きくする必要がある。そこで、治具係合部36をリム部30の周方向の中央よりも第一係合部32寄りに設けたことにより、第一リムR1の旋回量を確保することができるとともに、治具40がボルト21に接触することを避けた状態で力を効率よく加えることができる。
【0046】
(その他の実施形態)
本発明は、上述した一実施形態にのみ限定されるものではなく、以下のように変形又は拡張することができる。
第四アーム部17とエンドエフェクタ24との隙間の大きさはロボット11の設計上の仕様により定まる値であるため、例えばボルト21の頭部とエンドエフェクタ24との隙間がほとんど無いような場合にはつば部35を設けない構成としてもよい。
また、ボルト21が配置される距離Lは、ロボット11の設計上の仕様により決定される値であるため、リム部30の幅Wは、距離Lにあわせて適宜設定すればよい。
【符号の説明】
【0047】
図面中、10はシール部材、11はロボット、17は第四アーム部(アーム部)、18はフランジ部、19は回転駆動部、20はフランジカバー、21はボルト、24はエンドエフェクタ、30はリム部、31は吸着材、32は第一係合部、33は第二係合部、36は治具係合部、38は圧入孔(治具係合部)、39は係合凹部(治具係合部)、40は治具、41はピン、42は係合凸部、B1、B2、B3はボルト、R1は第一リム(リム部)、R2は第二リム(リム部)を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する材料により径方向に幅広な半円環状に形成され、互いに係合することにより円環状をなす一対のリム部と、
前記リム部の周方向における一方の端部において、当該リム部の外周面側から径方向内側に当該リムの幅を上限としてその半分以上に延びる第一係合部と、
前記リム部の前記第一係合部と反対側の端部において当該リム部の内周面側から径方向外側に当該リムの幅を上限としてその半分以上に延び、一対の前記リム部のうち他方の前記リム部に設けられている前記第一係合部に係合する第二係合部と、
前記リム部の周方向の中央よりも前記第一係合部寄りの外周面に設けられ、当該リム部を周方向に旋回するための外部の治具に係合する治具係合部と、
前記リム部の周方向における一方の端部側において前記第一係合部と前記治具係合部との間に設けられ、当該リム部の外周面から径方向内側に窪んだ逃げ穴と、
前記リム部の一方の面に設けられ、潤滑剤を吸着する吸着材と、
を備えることを特徴とするロボットのエンドエフェクタのシール部材。
【請求項2】
前記リム部の前記吸着材と反対側の面において前記逃げ穴の少なくとも一部を周方向に覆うつば部をさらに備えることを特徴とする請求項1記載のロボットのエンドエフェクタのシール部材。
【請求項3】
前記治具係合部は、
前記リム部の外周面から径方向内側に窪んで形成され、前記治具に設けられているピンが挿抜可能に圧入される圧入孔と、
前記圧入孔の周方向の両側において前記リム部の外周面から径方向内側に窪んで形成され、前記治具に設けられている係合凸部に係合する係合凹部と、
を備えていることを特徴とする請求項1または2記載のロボットのエンドエフェクタのシール部材。
【請求項1】
可撓性を有する材料により径方向に幅広な半円環状に形成され、互いに係合することにより円環状をなす一対のリム部と、
前記リム部の周方向における一方の端部において、当該リム部の外周面側から径方向内側に当該リムの幅を上限としてその半分以上に延びる第一係合部と、
前記リム部の前記第一係合部と反対側の端部において当該リム部の内周面側から径方向外側に当該リムの幅を上限としてその半分以上に延び、一対の前記リム部のうち他方の前記リム部に設けられている前記第一係合部に係合する第二係合部と、
前記リム部の周方向の中央よりも前記第一係合部寄りの外周面に設けられ、当該リム部を周方向に旋回するための外部の治具に係合する治具係合部と、
前記リム部の周方向における一方の端部側において前記第一係合部と前記治具係合部との間に設けられ、当該リム部の外周面から径方向内側に窪んだ逃げ穴と、
前記リム部の一方の面に設けられ、潤滑剤を吸着する吸着材と、
を備えることを特徴とするロボットのエンドエフェクタのシール部材。
【請求項2】
前記リム部の前記吸着材と反対側の面において前記逃げ穴の少なくとも一部を周方向に覆うつば部をさらに備えることを特徴とする請求項1記載のロボットのエンドエフェクタのシール部材。
【請求項3】
前記治具係合部は、
前記リム部の外周面から径方向内側に窪んで形成され、前記治具に設けられているピンが挿抜可能に圧入される圧入孔と、
前記圧入孔の周方向の両側において前記リム部の外周面から径方向内側に窪んで形成され、前記治具に設けられている係合凸部に係合する係合凹部と、
を備えていることを特徴とする請求項1または2記載のロボットのエンドエフェクタのシール部材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−72546(P2013−72546A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214515(P2011−214515)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(501428545)株式会社デンソーウェーブ (1,155)
【出願人】(000227711)日邦産業株式会社 (29)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(501428545)株式会社デンソーウェーブ (1,155)
【出願人】(000227711)日邦産業株式会社 (29)
【Fターム(参考)】
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