説明

ロボットの運動予測制御方法と装置

【課題】状態推定の計算量やデータ通信の所要時間の影響を受けることなく、ロボットごとに決められた制御周期で制御指令値を算出し、複数のロボットを制御することができるロボットの運動予測制御方法と装置を提供する。
【解決手段】(A)ロボット1の制御周期に依らない任意のタイミングで、計測装置12、状態推定装置14、及びデータ記憶装置16により、対象物やロボット1のセンサ情報を取得し、センサ情報と同時刻の各ロボット1の内部状態Xを予測し、センサ情報と比較して内部状態を更新し、更新した内部状態Xと予測に用いた状態遷移方程式f(X)を記憶し、(B)複数のロボット制御装置20により、データ記憶装置16に記憶された最新の内部状態Xに基づき、各ロボット1の制御周期で、各ロボット1に必要な予測値を予測し、複数のロボット1をリアルタイムに制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットなどを使った自動装置のうち、複数のロボットの運動を予測する運動予測制御方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ロボット上やロボットの外部に設置したセンサ情報を使って、ロボットの位置や姿勢を算出し、ロボットを駆動制御する制御装置において、ロボットの位置と姿勢の計測に使われるセンサや計測方法としては、以下が一般的である。
(1) ロボット上の内界センサを使う方法。
例えば、ロボット上に設置したジャイロセンサや車輪のエンコーダなどで、ロボットの速度、加速度、角速度などを計測する。ロボット上に設置したステアリング部のエンコーダなどで、ロボットのステア角を計測する。
(2) ロボット上の外界センサを使う方法。
例えば、ロボット上に設置した測距センサ(レーザーレンジファインダ(LRF)、レーザレーダなど)やカメラなどで、ロボット周囲のランドマークの位置や姿勢を計測する。ロボット上に設置したGPSコンパスなどで、ロボットの現在の位置と姿勢の一方又は両方を計測する。
(3) ロボット外の外部センサで計測する方法。
ロボット外部に設置した測距センサやカメラなどで、計測範囲内のロボットの位置や姿勢を計測する。
【0003】
単一のセンサでロボットの位置や姿勢を精度よく求めることは困難なため、上述のセンサや計測方法を複数用いて、得られた複数の計測結果から位置や姿勢を求めることがある。
しかし、以下のような理由で、複数の計測結果を簡単に比較することはできない。
(2)(3)で計測される位置と姿勢は、計測するセンサや、特定の点を基点とする座標系で表される相対的な位置と姿勢である。計測座標の基点はそれぞれ異なる上に、ロボット上のセンサの場合は、基点となるロボット自身の位置が不明なため、単純に座標変換等で、これらの計測結果を比較することは難しい。
(1)は、位置や姿勢を直接計測するものではないため、(2)(3)と直接比較できない。
【0004】
以下のような理由で全てのセンサ情報を同期して計測することは困難である。したがって、得られた計測結果の計測時刻は、それぞれ異なる場合がある。ロボットの位置と姿勢は時々刻々と変化するため、時刻の揃っていない計測結果を単純に比較することはできない。特にロボットの速度が速い場合などでは、位置と姿勢の変化量が大きいため、このような問題が起こりやすい。
【0005】
a 一般的に、同一ロボット内の内界センサのセンサ情報は同期して取得される。しかし、異なるロボット間で、1つの同期信号を共有するのは難しい(有線接続が必要)。したがって、複数のロボット間で内界センサの情報を同期するのは困難である。
b (3)のように外部センサを用いる場合も、aと同様に、複数の装置間で同期信号を授受する必要があり、外部センサとロボット上のセンサの同期は困難である。
c (2)や(3)で使われるセンサには、センサそのものの計測時間や、センサから得られたセンサ情報を処理する時間などによる計測遅れがある。したがって、センサで得られる計測結果は、計測遅れの分古いセンサ情報となるため、(1)のような内界センサのセンサ情報と計測時刻が異なる。また、計測対象がセンサの視野から外れる場合があるため、指定した時刻の計測結果が常に得られるとは限らない。
【0006】
そこで上述した問題を解決するために、種々の制御手段が既に提案されている(例えば、特許文献1〜3)。
【0007】
特許文献1の「3次元運動予測装置」は、単振動を行なう被計測体の位置データからその運動パラメータを推定し、その将来の位置を予測し、その位置情報を基にマニピュレータにより被計測体を把持するものである。
特許文献2の状態推定手段は、観測により時系列に入力される観測信号に基づいて、その観測を行ったシステムの内部状態を推定するものである。内部状態とは、対象物の位置、姿勢、振れ角などの状態変数を意味する。
特許文献3の「運動予測装置」は、バックグラウンド処理とフォアグラウンド処理を併用して自動追尾と運動予測を行なうものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平07−019818号公報、「3次元運動予測装置」
【特許文献2】特許第4072017号公報、「状態推定装置、その方法及びそのプログラム、並びに、現在状態推定装置及び未来状態推定装置」
【特許文献3】特許第4153625号公報、「運動予測装置」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した特許文献1によれば、対象物(被計測体)を計測した観測履歴から、対象物の運動状態を推定することで、計測値が得られていない間のデータを補完したり、対象物をロボットで把持する際の把持地点を予測したりすることができる。
【0010】
運動状態の推定には、カルマンフィルタやパーティクルフィルタなどのベイズフィルタが一般的に用いられる。ベイズフィルタでは、特許文献2に開示されているように、運動の状態を表す「内部状態」と、「状態遷移方程式」、「観測方程式」を定義する。
【0011】
ベイズフィルタは、大きく分けて、以下の2つの処理で実現される。
(1)任意の時刻における内部状態を予測する「予測処理」。
(2)内部状態から計測値を予測し、実際の計測値と比較して、内部状態を修正する「更新処理」(特許文献2では、「濾波推定手段」と記述されている)。
【0012】
ロボットが状態推定結果を制御に用いる場合、以下の2通りの構成が考えられる。
A ロボット制御装置内に上記のアルゴリズムが実装され、ロボット制御周期ごとに(1)の予測処理を行ない、センサの計測値が得られた時に、(2)の更新処理を行なう。
B 特許文献1のように、状態推定装置とロボットで構成されるシステムとし、ロボットが推定装置から予測値を読み出して制御に用いる。
【0013】
ロボットなどの自動機械の運動を制御する際、一定の制御周期(例えば4msの周期)で制御指令値を算出することが求められる。これに対し従来技術では、運動状態の推定を使うシステムを、時間制約を考慮して構成する具体的な方法が提案されていなかった。
【0014】
例えば上述したAの手段では、ロボットの制御周期内に更新処理が終わらない可能性がある。状態推定器の更新処理には、一般的に時間がかかり、特に計測値の種類が多い場合、パーティクルフィルタや、その他の複雑な処理を使う場合には特に時間がかかる。
また、特許文献2の手段は、観測値や状態変数の種類に応じて予測処理、更新処理を分けることで、目的に応じて計算量を減らすことができるが、複雑な運動や、得られる計測値を全て反映させたい場合は、結局全ての処理を連結する必要があるため、推定に必要な計算量は減少しない。
【0015】
また上述したBの手段は、ロボット制御装置が更新処理をする必要はないが、ロボットが予測値を要求してから、推定装置が一定時間内に予測処理を完了し、予測値を返答しなければならない。これを満たす状態推定装置を設計するには、次のような問題を考慮する必要がある。
【0016】
(1)ロボットが多数に増えた時や、更新処理の負荷が高い時は、推定装置の演算処理能力が分散される。このような状況でも、予測処理は一定時間内に完了しなければならない。
(2)ロボットの制御周期はロボットごとに異なるため、ロボット側の要求から予測値を返すまでの時間制約は、一意に決まらない。
(3)ロボット制御装置と状態推定装置間の通信に、一定の時間がかかる。この通信の所要時間は、通信方式(有線、無線など)によって異なる。また、ロボットが多数ある場合、ロボットと状態推定装置間の通信負荷は、状況によって変わる。したがって、通信所要時間も変わる。
【0017】
複数のロボットが同一エリア内で稼動する場合は、ロボット同士がぶつからないようするなど、互いの相対的な運動(相対的な位置と姿勢や、その変化)に基づいて制御する。このようにロボットや外部センサが複数ある場合は、特に、上述のような問題が起こりやすい。
【0018】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、状態推定の計算量やデータ通信の所要時間の影響を受けることなく、ロボットごとに決められた制御周期で制御指令値を算出し、複数のロボットを制御することができるロボットの運動予測制御方法と装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明によれば、(A)ロボットの制御周期に依らない任意のタイミングで、
計測装置により対象物や複数のロボットのセンサ情報を取得し、
状態推定装置によりセンサ情報と同時刻の各ロボットの内部状態を予測して、予測した内部状態をセンサ情報と比較して更新し、
データ記憶装置により、更新した内部状態と予測に用いた状態遷移方程式を記憶し、
(B)複数のロボット制御装置により、データ記憶装置に記憶された最新の内部状態に基づき、各ロボットに必要な予測値を予測する、ことを特徴とするロボットの運動予測制御方法が提供される。
【0020】
また本発明によれば、ロボットの制御周期に依らない任意のタイミングで、対象物や複数のロボットのセンサ情報を取得する計測装置と、
前記センサ情報を取得したときに、センサ情報と同時刻の各ロボットの内部状態を予測して、予測した内部状態をセンサ情報と比較して更新する状態推定装置と、
前記更新が行われたときに、更新した内部状態と予測に用いた状態遷移方程式を記憶するデータ記憶装置と、
データ記憶装置に記憶された最新の内部状態に基づき、各ロボットに必要な予測値を予測する複数のロボット制御装置とを備えた、ことを特徴とするロボットの運動予測制御装置が提供される。
【発明の効果】
【0021】
上記本発明の方法と装置によれば、計測装置、状態推定装置、及びデータ記憶装置により、ロボットの制御周期に依らない任意のタイミングで、対象物や複数のロボットのセンサ情報を取得し、センサ情報と同時刻の各ロボットの内部状態を予測して、予測した内部状態をセンサ情報と比較して更新し、更新した内部状態と予測に用いた状態遷移方程式を記憶するので、対象物(例えばランドマーク)やロボットのセンサ情報(例えば位置、姿勢)に基づいてロボットの運動予測をすることができる。
【0022】
また、複数のロボット制御装置により、データ記憶装置に記憶された最新の内部状態に基づき、各ロボットに必要な予測値を予測するので、状態推定の計算量や、データ通信の所要時間の影響を受けることなく、ロボットごとに決められた制御周期で制御指令値を算出し、複数のロボットを制御することができる。
【0023】
すなわち、各ロボット制御装置は、状態推定の更新処理にかかる時間の影響を受けることなく動作できる。
また、計測装置やロボット制御装置が増え、状態推定の計算量が増加する場合も、各ロボット制御装置が独立して予測計算を行なうため、予測処理にかかる時間は長くならない。したがって、システム変更の際に、演算処理能力などの設計を見直す必要がなくなる。
さらに、予測処理の時間制約をロボット制御装置ごとに設定できる。また、算出する予測値の精度や、予測値の種類なども、ロボット制御装置ごとに設定できる。したがって、予測処理にかかる時間や制御周期等を考慮して、予測計算の精度を変えたり、内部状態のうち必要な変数のみを計算したりといった工夫を、それぞれのロボットで実現できる。
【0024】
また、データ記憶装置が、ロボットからの要求に依らないタイミングで、データ記憶装置に記憶された最新の内部状態をロボット上記憶部に転送することで、ロボット制御装置と状態推定装置間の通信に時間がかかる場合や、通信所要時間が一定でない場合でも、予測処理に必要なデータをすぐに参照できる。この場合、ロボット上で参照されるデータは、通信遅れの影響で、必ずしも最新値とならないが、予測処理が一定時間内に完了することができる。

【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明による運動予測制御装置を備えたロボットシステムの模式図である。
【図2】本発明による運動予測制御装置の第1実施形態図である。
【図3】本発明による運動予測制御装置の第2実施形態図である。
【図4】本発明による運動予測制御装置の第3実施形態図である。
【図5】本発明による運動予測制御装置の第4実施形態図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0027】
図1は、本発明による運動予測制御装置を備えたロボットシステムの模式図である。
この図において、1は移動ロボット、2は移動ロボット1の外部に固定されたランドマーク、3は移動ロボット1に固定された内部センサ、4は移動ロボット1の外部に固定された外部センサである。
このシステムにおいて、複数の移動ロボット1は、それぞれ自律的に移動できるようになっている。
以下、移動ロボットを単に「ロボット」と呼ぶ。
【0028】
図2は、本発明による運動予測制御装置の第1実施形態図である。
この図において、本発明の運動予測制御装置10は、計測装置12、状態推定装置14、データ記憶装置16、及び複数のロボット制御装置20を備える。装置12、14、20は、データ記憶装置16にそれぞれ直接接続されている。
複数のロボット制御装置20は、この例では第1ロボット制御装置20A、第2ロボット制御装置20B、および第3ロボット制御装置20Cからなる。
なお、ロボット制御装置20は、この例では3台であるが、2台でも、4台以上であってもよい。
【0029】
計測装置12は、対応する外部センサ4に接続され、外部センサ4のセンサ情報(観測値)を取り込む。外部センサ4としては、カメラ、レーザーレンジファインダ(LRF)、3次元レーザレーダ、ジャイロセンサ、GPSコンパス、パルスエンコーダ、などが挙げられる。
計測装置12は、任意のタイミングで、外部センサ4からセンサ情報を読み込み、後述する計測処理(作用の(1)〜(3))を行なう。
ロボット制御装置20上の計測部24は、計測装置12と同様の機能を有する。また、後述するロボット制御装置20の構成のうち、移動機構や駆動制御のための処理部が無いものを、この例では「計測装置12」とする。
【0030】
状態推定装置14には、カルマンフィルタのアルゴリズムを基にした状態推定アルゴリズムが実装されている。このアルゴリズムでは、ロボット1の位置x,y,z、速度vx,vy,vz、角速度drx,dry,drzなどの状態変数をまとめて、内部状態Xとする。
また、時刻が進むと内部状態Xがどのように変化するかを示す状態遷移方程式X(t+Δt)=f(X(t))と、内部状態Xと観測値Yを対応づける観測方程式Y=h(X)を定義する。観測方程式は、観測値Y(センサ情報)の種類ごとにそれぞれ定義される。
またこのアルゴリズムは、内部状態Xの誤差分布CovXや、観測値Yの誤差分布CovYなどを管理しており、これらのデータから状態推定の精度を求めることができる。なお以下の例では、これらの精度指標値をまとめてEとする。
【0031】
状態推定装置14には、全体予測部15aと更新部15bの2つの機能が実装される。
【0032】
全体予測部15aは、データ記憶装置16に記録されている内部状態Xを、状態遷移方程式f(X)を使って、指定された時刻まで遷移させる計算を行なう。
更新部15bは、全体予測部15aを使って計測時刻まで遷移させた内部状態Xと、観測方程式h(X)を使って、対象物(ロボット1又はランドマーク2)の観測値Yの予測値を算出する。入力された観測値Yと、予測値を比較して、内部状態Xを更新し、データ記憶装置16に記録する。この時、状態推定の精度指標値Eも同時に更新し、データ記憶装置16に記録する。
【0033】
図2のロボット制御装置20は、一般的なロボット1で用いられる構成を示している。
この図において、ロボット制御装置20は、移動のための駆動部21、駆動部21を制御する車両制御部22、ロボット1の目標軌道を算出する行動計画部23、各センサ3のセンサ処理を行なう計測部24で構成される。
センサ3として用いられるのは、主に、ロボット1の角速度又は加速度を計測するジャイロセンサ3a、周囲の形状を計測する測距センサ3b(LRF)、ロボット1に設けられた車輪の回転量を計測する車輪用エンコーダ3cである。
【0034】
図3は、本発明による運動予測制御装置の第2実施形態図である。なおこの図では、ロボット制御装置20のみを示している。
本発明では、センサ3の種類は限定されない。すなわち例えば図3に示すように、カメラ3d、GPSコンパス3e、ロボット1に設けられた車輪のステア角計測用のステア角エンコーダ3fなどのセンサを追加しても良いし、一部のセンサを使わない構成としても良い。
【0035】
図2、図3において、行動計画部23は、一定の制御周期で動作するリアルタイム処理系であり、ロボット上予測部23aを使って、自ロボット1の現在又は未来の位置や姿勢を予測し、軌道生成部23bによるロボット1の目標軌道の算出に用いる。また、衝突回避の場合など、必要に応じて、他ロボット1の現在又は未来の位置や姿勢を予測する。
【0036】
ロボット上予測部23aは、データ記憶装置16に記録されている内部状態Xのうち、ロボット制御に関連する状態量を、状態遷移方程式f(X)を使って、指定された時刻まで遷移させる計算を行なう。ロボット上予測部23aは、リアルタイム制御の時間制約下で予測処理できるように設計される。
【0037】
車両制御部22は、一定の制御周期で動作するリアルタイム処理系であり、ロボット1が目標軌道に沿って動くように、指令値算出部22aで指令値を算出し駆動部21を制御する。
【0038】
通信部25は、ロボット1とデータ記憶装置16間のデータ通信機能を有する。具体的には、イーサネット(登録商標)やUSBなどの有線通信や、Bluetooth、無線LAN、などの無線通信を行なうデバイスを用いる。
【0039】
データ記憶装置16は、内部状態X、内部状態のモデル時刻tx、観測値Y、計測された時刻ty、状態遷移方程式f、観測方程式h、状態推定の精度指標値Eなどのデータを保持する。
【0040】
以下、上述した本発明の運動予測制御装置10の作用を説明する。
計測装置12または計測部24は、以下の(1)〜(3)を任意のタイミングで繰り返す。
(1)任意のタイミングでセンサ情報を取得する。例えばカメラの場合は、カメラにシャッター信号を送信し、撮像された画像を取得する。
(2)取得したセンサ情報を処理し、ロボット1やランドマーク2の位置と姿勢や、ロボット1の速度又は角速度などの、観測値Yを求める。観測値Yは、センサごとに異なるため、センサごとに定義される。また、ここで行なうセンサ情報の処理も、センサの種類によって異なる。例えばカメラの場合は、得られた画像から画像処理によって対象物(ロボット1又はランドマーク2)の位置と姿勢のセンサ情報を取得する(例:画像内の白色領域を抽出し、重心を求める)。また例えば、パルスエンコーダの場合はパルス波のカウント処理などが考えられる。
(3)算出した観測値Yと、計測された時刻ty(シャッター時刻など)、観測値Yの誤差分布CovYをデータ記憶装置16に記録する。
【0041】
また、状態推定装置14は以下の(4)〜(6)を観測値Yが更新されるたびに実施する。
(4)データ記憶装置16を監視し、新たな観測値Yが記録されていたら、データ記憶装置16からY,ty,X,tx,f,h,Eを読み出す。
(5)内部状態Xは、時刻txの時の内部状態を示しているので、全体予測部15aを使って、時刻tyのときの内部状態を予測する。
(6)更新部15bを使って、(5)で予測した内部状態から時刻tyの時の観測値を予測し、予測値と観測値Yを比較して、内部状態Xを修正する。修正した内部状態Xと新たなモデル時刻tx(=ty)をデータ記憶装置16に記録する。また更新部15bは、内部状態Xの誤差分布CovXや、観測値と予測値のずれの大きさなどの精度指標値Eを算出し、データ記憶装置16に記録する。
【0042】
また、ロボット制御装置20上の行動計画部23は、以下の(7)〜(8)を一定の周期で繰り返す。
(7)ロボット上予測部23aを使って自ロボット1の現在位置や未来の位置を算出する。また、衝突回避などの必要に応じて、他ロボット1の現在位置や未来の位置を算出する。
(8)自ロボット1が目標位置に移動するような目標軌道を生成する。
【0043】
また、ロボット制御装置20上の車両制御部22は、以下の(9)〜(11)を一定の周期で繰り返す。
(9)車輪用エンコーダ3cから自ロボット1の現在速度を求める。
(10)行動計画部23で生成された目標軌道に沿って動くような、制御指令値を算出する。
(11)駆動部21に算出した制御指令値を送信する。
【0044】
駆動部21を精密に制御するには、車両制御部22が一定周期で制御指令値を算出する必要がある。また、車両制御部22で参照する目標軌道は、行動計画部23で事前に生成されている必要がある。したがって、行動計画部23、車両制御部22の処理は、一定の周期で繰り返されるリアルタイム処理である。
【0045】
一般に、行動計画部23の制御周期は、車両制御部22の制御周期よりも長い(一度に生成する目標軌道の長さなどによる)。また、目標軌道には、車両制御部22が参照する直近の移動経路の他に、目標地点までの大まかな移動経路などがある。したがって、局所の経路生成、大域の経路生成、より大域の経路生成のように、行動計画部23をさらに2つ以上の処理に分けることもある。この場合は、局所の経路を生成する処理の方が、短い制御周期となる。大域の方は、長い制御周期か、周期が一定でない非リアルタイムな処理でも構わない。
【0046】
図4は、本発明による運動予測制御装置の第3実施形態図である。この例において、ロボット制御装置20は、さらにロボット上記憶部26を備える。
上述した(7)の計算を行なう際、ロボット上予測部23aは、データ記憶装置16にある最新の内部状態Xを参照する。この時、通信のための時間がかかることで、一定の時間制約下で予測値を求められない場合がある。そこで、この例では、データ記憶装置16の内容を、ロボット上記憶部26に逐次転送し、ロボット上予測部23aは、ロボット上記憶部26を参照する。転送するタイミングは、データ記憶装置16の内部状態Xが更新された時とする(上述した(6)の直後)。
【0047】
第2ロボット制御装置20B、第3ロボット制御装置20Cも、第1ロボット制御装置20Aと同様に、ロボット上予測部23aを有する。
なお、ロボット制御装置20は、この例では3台であるが、2台でも、4台以上であってもよい。
【0048】
図5は、本発明による運動予測制御装置の第4実施形態図である。なおこの図では、ロボット制御装置20のみを示している。
上述した例では、説明上「計測装置12」という表現を用いたが、計測装置12は移動機構を持たないロボット制御装置20であり、ロボット制御装置20の一種として扱う。
したがって、本発明のシステム構成は状態推定装置14とロボット制御装置20の2種類とし、ロボット制御装置20は、移動機構を持たないものを含むとする。
データ記憶装置16は、複数の装置、プログラムが同一のデータを読み書きする共有メモリであれば良い。したがって、独立した装置とする必要はなく、図5に示すように状態推定装置14などのメモリ空間上に用意されていれば良い。
また状態推定装置14は、いずれかのロボット1上に設置され、図5に示すようにロボット制御装置20と一体とする構成であってもよい。例えば、状態推定プログラム、ロボット制御プログラムとして、一つのPC上で複数プログラムを並列処理させることができる。
【0049】
上述した例では、ロボット上予測部23aで算出した予測値をロボットの制御に用いたが、周囲の人や物体をロボットが計測して、その位置や運動の情報をロボット上予測部23aで予測して人に提示するなど、リアルタイムに変化する情報を提示するサービスに用いることもできる。
【0050】
上述した本発明の方法と装置によれば、計測装置12、状態推定装置14、及びデータ記憶装置16により、ロボットの制御周期に依らない任意のタイミングで、対象物や複数のロボット1のセンサ情報を取得し、センサ情報と同時刻の各ロボット1の内部状態Xを予測して、予測した内部状態をセンサ情報と比較して更新し、更新した内部状態Xと予測に用いた状態遷移方程式f(X)を記憶するので、対象物(例えばランドマーク2)やロボット1のセンサ情報(例えば位置、姿勢)に基づいて各ロボット1の運動予測をすることができる。
【0051】
また、複数のロボット制御装置20が、データ記憶装置16に記憶された最新の内部状態Xに基づき、各ロボット1に必要な予測値を予測するので、状態推定の計算量や、データの通信所要時間の影響を受けることなく、ロボット1ごとに決められた制御周期で制御指令値を算出し、複数のロボット1を制御することができる。
【0052】
すなわち、各ロボット制御装置20は、状態推定の更新処理にかかる時間の影響を受けることなく動作できる。
また、計測装置12やロボット制御装置20が増え、状態推定の計算量が増加する場合も、各ロボット制御装置20が独立して予測計算を行なうため、予測処理にかかる時間は長くならない。したがって、システム変更の際に、演算処理能力などの設計を見直す必要がなくなる。
さらに、予測処理の時間制約をロボット制御装置20ごとに設定できる。また、算出する予測値の精度や、予測値の種類なども、ロボット制御装置20ごとに設定できる。したがって、予測処理にかかる時間や制御周期等を考慮して、予測計算の精度を変えたり、内部状態Xのうち必要な変数のみを計算したりといった工夫を、それぞれのロボットで実現できる。
【0053】
また、データ記憶装置16が、ロボット1からの要求に依らないタイミングで、データ記憶装置16に記憶された最新の内部状態Xをロボット上記憶部26に転送することで、ロボット制御装置20と状態推定装置14間の通信に時間がかかる場合や、通信所要時間が一定でない場合でも、予測処理に必要なデータをすぐに参照できる。この場合、ロボット上で参照されるデータは、通信遅れの影響で、必ずしも最新値とならないが、予測処理が一定時間内に完了することができる。
【0054】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0055】
1 ロボット(自ロボット、他ロボット)、
2 ランドマーク、3 内部センサ、
3a ジャイロセンサ、3b 測距センサ(LRF)、
3c 車輪用エンコーダ、3dカメラ、3e GPSコンパス、
3f ステア角エンコーダ、4 外部センサ、
10 運動予測制御装置、12 計測装置、14 状態推定装置、
15a 全体予測部、15b 更新部、16 データ記憶装置、
20 ロボット制御装置、20A 第1ロボット制御装置、
20B 第2ロボット制御装置、20C 第3ロボット制御装置、
21 駆動部、22 車両制御部、23 行動計画部、
23a ロボット上予測部、23b 軌道生成部、24 計測部、
25 通信部、26 ロボット上記憶部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ロボットの制御周期に依らない任意のタイミングで、
計測装置により対象物や複数のロボットのセンサ情報を取得し、
状態推定装置によりセンサ情報と同時刻の各ロボットの内部状態を予測して、予測した内部状態をセンサ情報と比較して更新し、
データ記憶装置により、更新した内部状態と予測に用いた状態遷移方程式を記憶し、
(B)複数のロボット制御装置により、データ記憶装置に記憶された最新の内部状態に基づき、各ロボットに必要な予測値を予測する、ことを特徴とするロボットの運動予測制御方法。
【請求項2】
前記(B)において、各ロボットの制御周期で、各ロボットの制御に必要な予測値を予測し、複数のロボットをリアルタイムに制御する、ことを特徴とする請求項1に記載の運動予測制御方法。
【請求項3】
前記制御周期は、計測装置の処理間隔よりも短い一定周期である、ことを特徴とする請求項1に記載の運動予測制御方法。
【請求項4】
ロボットの制御周期に依らない任意のタイミングで、対象物や複数のロボットのセンサ情報を取得する計測装置と、
前記センサ情報を取得したときに、センサ情報と同時刻の各ロボットの内部状態を予測して、予測した内部状態をセンサ情報と比較して更新する状態推定装置と、
前記更新が行われたときに、更新した内部状態と予測に用いた状態遷移方程式を記憶するデータ記憶装置と、
データ記憶装置に記憶された最新の内部状態に基づき、各ロボットに必要な予測値を予測する複数のロボット制御装置とを備えた、ことを特徴とするロボットの運動予測制御装置。
【請求項5】
前記複数のロボット制御装置は、各ロボットの制御周期で、各ロボットの制御に必要な予測値を予測し、複数のロボットをリアルタイムに制御する、ことを特徴とする請求項4に記載の運動予測制御装置。
【請求項6】
状態推定装置は、前記内部状態を予測する全体予測部と、全体予測部が予測した内部状態を更新する更新部とを有し、
各ロボット制御装置は、各ロボットの制御周期でその制御に必要な予測値を予測するロボット上予測部を有する、ことを特徴とする請求項4に記載の運動予測制御装置。
【請求項7】
各ロボット制御装置は、データ記憶装置に記憶された最新の内部状態を記憶するロボット上記憶部を有し、
データ記憶装置は、ロボットからの要求に依らないタイミングで、データ記憶装置に記憶された最新の内部状態をロボット上記憶部に転送する、ことを特徴とする請求項4に記載の運動予測制御装置。
【請求項8】
前記内部状態は、ロボットの位置、姿勢、速度、又は角速度の状態変数である、ことを特徴とする請求項4に記載の運動予測制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−247835(P2012−247835A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116883(P2011−116883)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】