ロングノズル
【課題】ロングノズル下端付近のスラグ等の付着自体を抑制すること、及び付着物層の増大を抑制すること。
【解決手段】溶鋼をタンディッシュに排出するロングノズル10において、ロングノズルの下端から、少なくとも浸漬部(ロングノズルをタンディッシュ内溶融物中へ浸漬する際の、溶融物層の上面までの領域をいう。)上端位置よりも上方の領域に亘って、ロングノズルの内孔側表面及び外周側表面のいずれか又は両方に、その表面から突出して上下方向に伸びる、少なくとも6mm以上の高さの突条20を、周方向に間隔をおいて複数設けた。
【解決手段】溶鋼をタンディッシュに排出するロングノズル10において、ロングノズルの下端から、少なくとも浸漬部(ロングノズルをタンディッシュ内溶融物中へ浸漬する際の、溶融物層の上面までの領域をいう。)上端位置よりも上方の領域に亘って、ロングノズルの内孔側表面及び外周側表面のいずれか又は両方に、その表面から突出して上下方向に伸びる、少なくとも6mm以上の高さの突条20を、周方向に間隔をおいて複数設けた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶鋼を取鍋からタンディッシュに排出するロングノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
溶鋼の連続鋳造において取鍋からタンディッシュに溶鋼を排出するにあたっては、溶鋼の酸化やタンディッシュ内上面に存在するスラグの溶鋼内への巻き込み等を抑制するために、ロングノズルを使用することが一般的である。
【0003】
また、取鍋交換時の注湯開始時には、タンディッシュ溶鋼面上のスラグが溶鋼中に多量に巻き込まれることを防止するために、また溶鋼の酸化を抑制するために、ロングノズルを溶鋼中に浸漬したままで取鍋からの注湯を開始する、いわゆる浸漬開孔が多く行われている。
【0004】
この浸漬開孔の場合には、ロングノズルの上方に配置されている取鍋の溶鋼排出制御用ノズル(スライディングノズル、スライドゲート等と称されるノズル)内に充填されていた詰砂が、溶鋼排出開始時にロングノズル内孔の空間内に流下する。ロングノズル内孔の空間内に流下した詰砂は溶鋼及びスラグ層の上部に止まって、ロングノズル内の溶鋼流下を阻害することがある。そうすると、ロングノズル上方に設置した取鍋側のノズル下端との接合部から溶鋼漏出を生じることがある。
【0005】
この対策として、例えば特許文献1には、「タンディッシュ内溶鋼中に浸漬せしめる連続鋳造用ロングノズルにおいて、内断面を適宜大きさに形成してなる直筒状上体部と、該上体部に連続して形成される下体部であって、溶鋼湯面相当部位の断面内径が、取鍋に設けた摺動式溶鋼開閉装置の溶鋼流路内径の1.5〜5倍の内径寸法に形成せしめた下体部とからなる連続鋳造用ロングノズル」が開示されている。
【0006】
これは、ロングノズルの溶鋼湯面相当部位の内孔径を溶鋼排出制御用ノズル(摺動式溶鋼開閉装置)の溶鋼流路内径よりも大きくすることで、詰砂がロングノズル内孔内の溶鋼浴上面全体で固化層を形成することを抑制しようとするものである。しかしながら、この場合、詰砂はロングノズル内孔内に残留して、ロングノズル内孔から外に排除されることは殆どない。すなわち、ロングノズルの溶鋼湯面相当部位の内孔径が溶鋼流の流下時の内孔径よりも拡大していることで、ロングノズル内孔の中央付近にのみ溶鋼流が形成され、詰砂等はロングノズル内孔側表面付近に移動し、滞留する。
【0007】
一方、タンディッシュ内の溶鋼浴上にはスラグ層があるので、ロングノズルをタンディッシュ溶鋼中に浸漬すると、スラグ層中にも浸漬することになる。ロングノズルは取鍋交換又はタンディッシュ交換時に溶鋼浴及びスラグ層から引き上げるので、引き上げる際に内孔側表面及び外周側表面には、スラグ、詰砂、さらには溶鋼の凝固物(以下「地金」という。)等(以下、これらを総称して「スラグ等」という。)が付着する。スラグ等の付着物は引き上げ直後には下方に流下するが、急速な温度降下によりロングノズル表面で硬化し、残留する。とくに流下方向である下端付近に多く付着物層を形成する。
【0008】
このようなスラグ等の付着に対し、特許文献1には、ロングノズルの下体部をテーパー状に拡径させる例が示されているものの、依然としてスラグ等が付着しやすいという問題がある。さらに特許文献1のようにロングノズルの下体部を拡径させると、前述のように詰砂のほとんどが内孔内に残留するので、この詰砂も内孔側表面に付着する。すなわち、付着の対象となるスラグ等が相対的に多くなるので、ますますロングノズル内孔側表面の付着の増大を惹き起こす。
【0009】
また、このようなスラグ等の付着物は、取鍋交換数(連続鋳造数)が増えるにしたがって残留と付着が繰り返されることで、その厚みが増大する。さらに、スラグ等の付着物は、通常の管状形状のロングノズルでは、下端付近で一体的な構造となっていて除去することが困難である。内孔が下方向に漸次拡径する構造とした特許文献1の場合であっても、下端付近で一体的な構造となっていて除去することが困難である。
【0010】
スラグ等の付着物は、ロングノズル内孔内の溶鋼及びスラグ等のスムーズな流出を阻害する。その結果、とくに浸漬開孔時にロングノズル内孔内での溶鋼の詰まりやロングノズルと取鍋側ノズルとの接合部からの漏鋼等を生じやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭57−139456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、ロングノズル下端付近のスラグ等の付着自体を抑制すること、及び付着物層の増大を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明をまとめると以下のとおりである。
【0014】
[請求項1]
溶鋼をタンディッシュに排出するロングノズルにおいて、前記ロングノズルの下端から、少なくとも浸漬部(前記ロングノズルをタンディッシュ内溶融物中へ浸漬する際の、溶融物層の上面までの領域をいう。)上端位置よりも上方の領域に亘って、ロングノズルの内孔側表面及び外周側表面のいずれか又は両方に、その表面から突出して上下方向に伸びる、少なくとも6mm以上の高さの突条を、周方向に間隔をおいて複数設けたことを特徴とするロングノズル。
【0015】
[請求項2]
前記複数の突条の一部又は全部が、ロングノズルの下端を起点にして、上方向に100mm以上の長さで設けられている請求項1に記載のロングノズル。
【0016】
[請求項3]
前記突条が、その突出方向に漸次又は段階的に細くなる形状である請求項1又は請求項2に記載のロングノズル。
【0017】
[請求項4]
ロングノズルの下端部分が、内孔側は下方向に拡大し、外周側は下方向に縮小している請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のロングノズル。
【0018】
[請求項5]
前記突条間の周方向の間隔が、ロングノズルの下方向に漸次又は段階的に広くなっている請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のロングノズル。
【0019】
[請求項6]
下端面と内孔面とのエッジ部及び下端面と外周面とのエッジ部が、ロングノズルの縦方向断面においてカット形状又は曲面形状である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のロングノズル。
【0020】
[請求項7]
下端面が、ロングノズルの縦方向断面において曲面形状である請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のロングノズル。
【0021】
[請求項8]
ロングノズルの下端面に、その表面から突出する、少なくとも6mm以上の高さの突条が、周方向に間隔をおいて複数設けられている請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のロングノズル。
【0022】
[請求項9]
ロングノズルの下端面に設けられた突条が、内孔側表面に設けられた突条及び外周側表面に設けられた突条のいずれか又は両方と連続している請求項8に記載のロングノズル。
【0023】
なお、本発明において、ロングノズルの縦方向断面とはロングノズルの通鋼方向の中心軸に沿った断面であり、ロングノズルの横方向断面とは、前記中心軸に直交する方向に沿った断面である。
【0024】
以下、本発明を詳述する。
【0025】
ロングノズルを溶鋼及びスラグ層(本発明では詰砂等の浮遊物も含む概念である。)から引き上げる際、スラグ等は、その溶融状態にある部分の流動性及び重力により、ロングノズルの下方向に流下する。これらは直ちに大気又はタンディッシュやロングノズルのガス雰囲気に曝されるので、温度降下により粘性が上昇し、固化する。これが繰り返されることから、ロングノズル下端付近ではスラグ等が固化した付着物の層が次第に厚くなっていく(図15(a),(b)の符号30部分がロングノズル下端付近の付着物を模式的に示したものである。)。
【0026】
この付着物は、ロングノズル内孔側ではその内側の空間の中心方向に、外周側ではロングノズルの半径方向の外へ放射する方向に、迫り出すように成長する。内孔側及び外周側での付着物の成長の程度は個別の操業条件等によって異なるが、実測の結果、ロングノズルを溶鋼及びスラグ層に浸漬して引き上げた際の1回あたりの付着物の厚みは、概ね5mm以下であることが多い。1回あたりの付着物の厚みが小さくても、これを除去せずに、固化したスラグ等が付着した状態のロングノズルを、溶融スラグ等中への浸漬と引き上げを繰り返すと、その厚みは増大する。こうして増大した付着物の厚みは、操業条件の諸要因と繰り返しの回数等によって変動するが、放置し続けると、激しい場合は50mmを超える場合も観察される。
【0027】
このようにロングノズル内孔の下方に固化した付着物が存在する状態で浸漬開孔を行うと、ロングノズル内孔の下方からの詰砂及び溶鋼のスムーズな流出が阻害される。すると、図16に示すようにロングノズル内孔内に詰砂40等が滞留して溶鋼がロングノズル内孔に充満し(図16の符号50L)、取鍋の下部ノズル61との接合部15から溶鋼が漏出する(図16の符号50S)ことがある。
【0028】
また、前述の付着物は内孔側及び外周側それぞれで周方向に一体となった強固な構造となる。さらには、内孔側及び外周側の各付着物がロングノズル下端面で連結して、より強固な構造となることもある。
【0029】
付着物がこのような強固な一体的な構造になると、溶鋼流では除去できなくなり、また付着物に人力又は機械等で下方向の外力を加えても除去することは困難となる。強い外力を加える等で無理に除去を行うと、ロングノズルを破壊することも多い。
【0030】
そこで本発明では、ロングノズルの内孔側表面及び外周側表面のいずれか又は両方に、その表面から突出して上下方向に伸びる突条を、周方向に間隔をおいて複数設けることで、前述の付着物が内孔側又は外周側で一体的な構造となることを防止する。すなわち、突条を内孔側表面あるいは外周側表面の周方向に間隔をおいて複数設けることで、付着物が生成する過程のスラグ等が溶融状態で流下する間に、スラグ等は、突条によって、内孔側表面あるいは外周側表面の周方向において分断される。分断された付着物は、溶鋼流その他の下方向の外力により、ロングノズルから容易に除去することができるようになる。
【0031】
付着物を分断しかつ除去を容易にするためには、突条は内孔側表面あるいは外周側表面の周方向に間隔をおいて複数設けることが必要であって、周方向を均一に分割するように少なくとも2箇所、好ましくは3箇所以上に設けることが好ましく、多い方がより好ましい。
【0032】
これは、主として次の理由による。
第一に、突条の設置箇所が2箇所以上になると周方向での付着物の一体構造が破壊されて、分断後の付着物が、ロングノズル横方向断面上においてロングノズル表面から離脱できる程度に可動な状態になることによる(1箇所では可動な状態にはならない。離脱方向は図6及び図7の矢印方向)。
【0033】
なお、このように2箇所以上で付着物が分断されると、ロングノズル表面からの離脱状態が隙間程度であっても、また分断のみでまだ離脱してなくても、周方向に非一体的な構造にすることで、容易に破壊することが可能になる。また、ロングノズル横方向断面上に離脱するのみではなく、ロングノズルの下端部分の形状を、内孔側は下方向に拡大、外周側は下方向に縮小するようにすることで(詳細は後述)、下方向に容易に離脱可能となる。
【0034】
第二に、突条の設置箇所が多くなるのに伴い、分断後の付着物の個々の大きさが小さくなってロングノズル表面との接触面積が小さくなるので、分断後の個々の付着物とロングノズル表面との間の摩擦抵抗が小さくなり、離脱がより容易になることによる。
【0035】
突条の突出高さは、一度のロングノズルの引き上げにより付着する付着物の厚み以上であることが好ましい。この理由は、突条の突出高さが付着物の厚み以上であれば、突条先端側では付着物厚みをより薄くすることができ、最も薄い場合は突条先端側に付着物が存在しない部分を設けることができ、より周方向に一体的な構造となり難くなるからである。
【0036】
この一度のロングノズルの引き上げにより付着する付着物の厚みは、溶融状態のスラグ等の温度、成分等によって変動する粘性、ロングノズル表面との親和性、溶融スラグ中に浸漬したロングノズルの引き上げ速度、冷却速度等の要因、すなわち、個別の操業条件やそのバラツキによって変動する。したがって、突条の突出高さは個別の操業条件に応じて最適値を決定することが好ましい。通常の溶鋼の連続鋳造においては、前述のとおり、1回当たりの付着厚みが概ね5mm以下であることが多いから、本発明では突条の突出高さは6mm以上とした。
【0037】
本発明による付着物の分断効果は、主として次のような作用による。
【0038】
付着物となる溶融スラグ等は、内孔側表面、外周側表面の全面に接して下方に流れる。このとき、突条部分での周方向の急な角度の変化等を伴う形状により、溶融スラグ等はそのロングノズルの周方向(ロングノズルの横方向断面上)の表面張力により、また重力による下方向への移動に伴う引張力も加わって、突条、とくにその先端(横方向断面が三角形の場合は頂点)付近での厚みが、突条以外の表面での厚みよりも小さくなる。さらに横方向断面上の突条の周方向の長さ、すなわち突条の幅が、先端部分で小さくなる程、前述の表面張力や重力の効果が付着物の当該部分に集中的に作用することになるので、付着物の厚みを小さくする効果が増大する。これにより突条の先端に近いほど、スラグ等の付着厚みが突条の先端付近以外の付着厚みよりも相対的に小さくなる。突条の先端付近では、付着しない領域も生じる場合がある。
【0039】
付着物は、ロングノズルの引き上げ時に冷却されて収縮する。この収縮に伴い付着物内部に周方向の引張り応力が発生する。付着物へのこのような応力は、突条側面の形状に沿って変化し、突条先端付近に集中する。このため、突条先端部分を基点として付着物がより破壊しやすくなる。
【0040】
一方、ロングノズルの注湯時の溶鋼及びスラグ層中への浸漬、注湯終了時の溶鋼及びスラグ層からの引き上げ等に伴って、ロングノズル本体及び付着物は加熱、冷却の温度変化を受ける。この際にロングノズル本体及び付着物は熱膨脹し、また冷却により収縮する。
【0041】
ロングノズル本体を構成する耐火物は、通常はアルミナ、マグネシア等の結晶質の酸化物と黒鉛との複合耐火物であり、付着物のほとんどは炭素や黒鉛等を多くは含まないガラス質を含む酸化物からなる。このような材質の違いにより、熱膨張特性や弾性率等の物性の違いを生じる。また、付着物がロングノズル表面に存在することと、その厚みが相対的に小さいことから、温度変化は付着物に相対的に大きく生じる。このような物性の違いと温度変化の違いに起因する熱膨張特性の差等が、付着物内部の応力を拡大させる。
【0042】
これらの応力は、周方向では突条先端付近の付着物にとくに集中する。この応力集中により、また突条先端部分の付着物の厚みがその先端部分以外の厚みよりも相対的に小さいこと(前述のメカニズムによる)と相俟って、突条の先端付近では付着物が破壊しやすくなる。その結果、付着物の分断効果(非一体化の効果)がさらに高くなる。
【0043】
したがって、突条の先端部分はできるだけ小さくするような形状にすることが好ましい(図5参照)。より具体的には、突条が、その突出方向に漸次又は段階的に細くなった形状で、先端の幅ができるだけ小さいことが好ましい。先端の幅がゼロの場合は、突条の横方向断面の形状は概ね三角形に近い形となる。
【0044】
突条の側面(横方向断面上、突条先端の横方向端部と突条底部のロングノズル本体表面との交差部とを結ぶ線として表示できる。図6及び図7の20S。)の横方向断面上での角度は、分断された付着物が横方向断面上で離脱すると仮定したときの、離脱方向に対し、2つの突条に囲まれた空間が拡大するような角度にする(図6及び図7の20Δが、ロングノズル表面から離脱方向に向かって常に相対的に小さくなるようにする)ことが好ましい。このような構成であれば、分断後の付着物が分断された形状のまま(さらに破壊せずに)横方向断面上の離脱方向のみでの離脱が可能になる。
【0045】
ここで離脱方向とは、内孔側では、分断された付着物の周方向の中央からロングノズル中心方向に向かう方向、外周側では、分断された付着物の周方向の中央からロングノズル中心から放射状に外方向に向かう方向である。また、突条先端の横方向端部とは、突条の横方向断面形状が台形近似の形状では2箇所のうちの一方、三角形近似の形状では先端1箇所の端部をいう(図5の20T)。
【0046】
付着物の厚みは下方に漸次大きくなる傾向がある(重力による下方への流動による)。したがって突条は、少なくとも、付着物の厚みが大きくなるロングノズル下端付近に設ける必要がある。すなわち、突条は、ロングノズル下端を起点にして上方に伸びるように設ける。
【0047】
溶融状態のスラグ等に浸漬したロングノズルを引き上げる際に、スラグ等はロングノズル表面全体に一体的な膜状となって付着する。したがって、ロングノズル下端付近を起点として設けた突条の上下方向の長さは、少なくとも浸漬部の上端位置を超える長さ以上でとする必要がある。ここで、浸漬部とは、ロングノズルをタンディッシュ内溶融物中へ浸漬する際の、溶融物層の上面までの領域をいい、溶融物層とは、タンディッシュ内の溶鋼及びその上方にあるスラグ層を総称するものである。
【0048】
実際の突条の長さは、操業条件やロングノズル等の設備の条件等よって決定すべきである。通常の溶鋼の連続鋳造においては、この突条の長さは、付着物が最も付着する領域の上下方向の長さが小さい場合は概ね下端から約100mm程度であれば、また通常のスラグ層の上端位置としては約500mm程度であればよい。
【0049】
ロングノズルの上下方向(縦方向)に伸びる突条は、その設置部分では副次的に補強用リブの機能をも有する。この突条をロングノズルの周方向に間隔をおいて複数設けることで、ロングノズルの水平方向(横方向)応力に対する補強の効果をも得ることができる。
【0050】
突条は、付着物の分断効果の観点からはロングノズルの浸漬領域に設ければよいが、前述の副次的効果(補強効果)を高める観点からは、より上方に、最長でロングノズルの取鍋側ノズルとの接合部までの任意の範囲に設けてもよい。
【0051】
付着現象はロングノズル下端面でも生じ、又は付着物が成長することがある。また、内孔側、外周側の両方に付着現象が発生する場合は、ロングノズルの下端にも付着物が成長しやすくなり、その下端部分の付着物を架橋とする内孔側、下端、外周側とが一体となった、より強固な構造の付着物となることがある。
【0052】
このような場合には、ロングノズルの下端面にも突条を設けて、ロングノズルの下端面でも付着物を分断することが好ましい。また、ロングノズルの下端面に設ける突条は、内孔側、外周側の付着状態に応じて、内孔側の突条及び外周側の突条のいずれか又は両方と連続していることが好ましい。このように突条を連続させると、下端面の付着物と内孔側又は外周側の付着物とが円周方向で一緒に分断される。その結果、付着物のロングノズルからの離脱効果及び除去効果を高めることができる。
【0053】
前述のようなロングノズルの横方向断面上の空間構造に加え、複数の突条間の周方向の空間が、下方向に漸次又は段階的に拡大する構造にすることが好ましい。すなわち、複数の突条間の周方向の空間において、下方の空間がその上方の空間よりも、相対的に常に拡大する構造にすることが好ましい。これにより、分断後の付着物を、ロングノズルの横方向断面上のみで離脱させ又は離脱しやすくするだけでなく、さらにロングノズル縦方向にも離脱させ又は離脱しやすくすることができる。これは、内孔側及び外周側の縦方向、下端面のいずれにおいても同様である。
【0054】
内孔側、外周側ついてこのような構造を得るには、具体的に次のような方法を採ることができる。
(1)周方向に2つの突条に囲まれた同一の空間に接する両側の突条の底部の幅の合計を、上方よりも下方の方が、常に相対的に小さくなるようにする。
(2)ロングノズル本体の形状を、内孔側では下方向に拡大し、外周側では下方向に縮小する。この内孔側の下方向に拡大した部分及び外周側の下方向に縮小した部分は、ロングノズルの下端から少なくとも前記の浸漬部の上端位置までの領域又は突条の存在領域全域に形成することが好ましい。
【0055】
下端部について前述のような構造を得るには、具体的に次のような方法を採ることができる。
(1)周方向に2つの突条に囲まれた同一の空間に接する両側の突条の周方向の幅の合計を、上方よりも下方の方が、常に相対的に小さくなるようにする。
(2)周方向に2つの突条に囲まれた同一の空間に接するロングノズル下端面を、下方に向かって傾斜のある構造とする。
【0056】
また、ロングノズル下端面もロングノズル縦方向断面において傾斜又はR等の曲線(すなわち曲面)として、ロングノズル縦方向軸に対してほぼ水平な直線部分をできるだけ小さくすることがさらに好ましい。
【0057】
以上のように、突条間の周方向の間隔(隣接する一方の突条の端部から他方の端部までの空間)が下方向に向けて相対的に拡大するような構造にしておくことで、分断後の付着物は下方向への機械的な外力を加えられた際にロングノズル表面から容易に離脱するようになる。したがって、バー等を使用した人力等による除去作業による外力、さらには操業中に溶鋼等がロングノズル内孔を通過する際のその溶鋼等の下方向への流下によりもたらされる外力によっても、付着したスラグ等を除去しやすくなる。これは、このような付着物とロングノズルとの相対的な構造上の関係であれば、相対的に僅かな外力を加えたときに、付着物とロングノズルとの間に僅かな隙間が直ちに生じ、相互の摩擦抵抗が瞬時に消滅するからである。すなわち、付着物の離脱方向に対する、付着物が接触している突条の面又はロングノズル本体の面との相対的な角度が、拡径方向に0度を超えてさえいればよいが、この角度はロングノズルの肉厚等の他の具備条件が許容できる範囲でできるだけ大きくする方が、より容易に前述の効果を得ることができるので、好ましい。
【0058】
ロングノズルの内孔側表面、外周側表面及び下端面、並びに突条の露出面は、溶鋼及びスラグ層からロングノズルを引き上げる際の溶融状態のスラグ等の流下の経路ともなる。このような経路が鉛直方向の平面ではなく、いわゆるオーバーハングの傾斜(曲面を含む)状態になるように、具体的には内孔側は下方向に拡大(拡径)し、外周側は下方向に縮小(縮径)するように角度を有する場合には、溶融状態のスラグ等は空間である下方向に重力を受けるので、ロングノズル表面との接触面積及び接触抵抗が鉛直方向の面を流下する場合よりも小さくなって、流下しやすくなる。また、その流下の途中で滴となって落下するものもあるので、付着量(厚み)自体を抑制する効果が高まる。
【0059】
さらに分断後の付着物は前述のような構造下では直ぐに離脱して、ロングノズル本体側(突条を含む。以下同じ。)との間に隙間が容易に生じるので、ロングノズル本体に対して相対的に動きやすくなる。その結果、溶鋼通過時の溶鋼流による下方への外力で付着物の成長を抑制し又は除去できる可能性が高まり、人力等による付着物の除去作業もより容易になる。
【発明の効果】
【0060】
本発明により、ロングノズル下端付近のスラグ等の付着自体を抑制すること、及び付着物層の増大を抑制することが可能となる。さらには、付着したスラグ等を、一部は溶鋼流で除去することも可能となり、人力又は機械等により除去する際も、容易に除去することが可能となる。
【0061】
これらの結果、
(1)ロングノズル内孔内の溶鋼流及び詰砂を含むスラグ等の流動性を阻害する付着物が減少し、又は無くなることで、ロングノズル上端の取鍋側ノズルとの接合部からの溶鋼の漏れ事故を防止することが可能となり、また溶鋼飛散の危険性も減少させることができる。
(2)ロングノズル下端付近の付着物の除去が容易になることで、無理な作業によるロングノズルの破壊や損傷を減少させ又は防止することが可能となる。
(3)ロングノズルのメンテナンス作業量及び負荷が減少することで、生産性の向上及び労働環境の改善が可能になる。
(4)ロングノズル内孔内で溶鋼流を阻害する付着物が無い又は少なくなることで、スムーズな溶鋼流を得ることができ、タンディッシュ内の溶鋼流動ないし介在物減少等の管理がしやすくなり、鋼の品質の向上が可能になる。
(5)突条自体が溶鋼流等の方向制御にも寄与するので、よりスムーズな溶鋼流を得ることができ、鋼の品質の向上が可能になる。
(6)突条をロングノズルの上下方向(縦方向)に複数設けることで、ロングノズルの横方向応力に対する補強の機能をも果たすことができる。
(7)これらにより、ロングノズルの破壊事故を減少させることにも寄与することができる。また、ロングノズルの薄肉化(軽量化)の要請にも寄与できる。
(9)ひいては、操業上の安全性向上、操業能率の向上、労働負荷の軽減ないし労働環境改善、コスト低減(ロングノズル費用の削減、事故による損失の減少等)等にも寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に係るロングノズルの一実施例を示し、(a)は下端付近の縦方向断面図、(b)は(a)のA−A矢視図である。
【図2】本発明に係るロングノズルの他の実施例を示し、(a)は下端付近の縦方向断面図、(b)は(a)のA−A矢視図である。
【図3】本発明に係るロングノズルの他の実施例を示し、(a)は下端付近の縦方向断面図、(b)は(a)のA−A矢視図である。
【図4】本発明に係るロングノズルの他の実施例を示し、(a)は下端付近の縦方向断面図、(b)は(a)のA−A矢視図である。
【図5】突条の形状例を示す模式図である。
【図6】ロングノズルの表面に付着した付着物の離脱方向と突条の関係を示す横方向断面図である。
【図7】ロングノズルの表面に付着した付着物の離脱方向と突条の関係を示す横方向断面図である。
【図8】本発明に係るロングノズルの他の実施例を示す縦方向断面図である(ただし、突条は省略している。)。
【図9】図8のA部の詳細を示す図である。
【図10】図8のA部の他の例を示す図である。
【図11】本発明のロングノズルの下端面のエッジ部のイメージを示す縦方向断面図である。
【図12】本発明のロングノズルの下端付近の固化した付着物を左右に揺動させる際のイメージを示す縦方向断面図である。
【図13】(a)はロングノズルの下端面のエッジ部が局部的、不規則に破損する場合のイメージを示す縦方向断面図で、(b)は(a)のA−A視のイメージを示す縦方向断面図である。
【図14】本発明に係るロングノズルを、タンディッシュ内の溶鋼及びスラグ層に浸漬した状態を示す縦方向断面図である。
【図15】従来のロングノズルの一例及び付着物の付着状態のイメージを示す縦方向断面図である。
【図16】従来のロングノズルの内孔内に詰砂が滞留し、溶鋼が充満して、取鍋側ノズルとロングノズルとの接合部から溶鋼が漏出する状態のイメージを示す縦方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0063】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0064】
図1は、本発明の突条20をロングノズル10の下端付近の内孔側表面に設けた例で、図2は、本発明の突条20をロングノズル10の下端付近の外周側表面に設けた例である。これらの例では突条20をロングノズル10の内孔側表面又は外周側表面を周方向に均等に4分割する位置に設けている。
【0065】
突条20の形状は、図5に示すように、ロングノズル横方向断面上の形状が先端20Tに向かって先細りとなることが好ましい。また、図5(c)、(d)に示すように、突条20とロングノズル本体表面とが交差する部分20Bは、鋭角となる部分のない、なだらかな曲面(ロングノズル横方向断面において曲線)又は直線とすることが好ましい。これは、このような形状にすることで、(1)突条20先端での付着物の分断をより容易にする、(2)突条20先端で分断された付着物のロングノズル表面からの離脱を容易にする、(3)前記交差する部分20Bに応力が集中してロングノズル本体を破壊することを避けることができる等の理由による。
【0066】
図6は、突条20をロングノズル10の内孔側表面の横方向断面上4箇所に設けた例の一部を示す。付着物30は、円周方向に90度未満の角度以下に分断される。そして、分断後の付着物30は、ロングノズル横方向断面上では、各分断後の付着物30の中央(この例ではほぼ45度位置)から、概ねロングノズル中央に向かう線の方向(図6(a)の矢印方向)に離脱することになる。
【0067】
また、この例では、図6(b)に詳細に示すように、突条20の側面20Sのロングノズル横方向断面上での角度は、分断された付着物30が離脱する方向(仮想矢印20Lと平行な方向)に対し、2つの突条20に囲まれた空間が拡大するような角度にしている。それに伴い、図6(b)中の間隔20Δが、ロングノズル表面から離脱方向に向かって常に相対的に小さくなっている。このような構造であれば、分断後の付着物30が分断された形状のまま(さらに破壊した細分形状にならなくても)ロングノズル横方向断面上の離脱方向のみでの離脱が可能になる。
【0068】
なお、図7に突条20をロングノズル10の外周側表面に設けた例を示すが、突条20を内孔側表面に設けた前述の図6に例とは、付着物30の離脱方向及び空間の拡大方向が逆になるだけで、理論的な構成は同様である。
【0069】
図3は、本発明の突条20をロングノズル10の下端付近の内孔側表面と外周側表面の両方に設けた例である。この例では突条20をロングノズル10の内孔側表面及び外周側表面を周方向に均等に4分割する位置に設けている。また、この例では、内孔側と外周側の各突条20はロングノズル横方向断面上、ロングノズル中心から同一の半径方向の線上に位置している。さらに、この例ではロングノズル10の下端面にも突条20があり、この下端面の突条20によって内孔側の突条20と外周側の突条20は連続している。
【0070】
図4は、図3のロングノズルを基本とし、突条20を設けた領域が、内孔側は下方に向かって拡大し、外周側は下方に向かって縮小しており、いずれの突条20もそのロングノズル横方向断面形状(突条20の周方向の幅)が下方に向かって縮小し、突条20間の周方向の間隔(空間)が下方に向かって拡大している例である。このような形状にすることで、ロングノズル下端面付近の付着物を分断する効果が生じて本発明の付着物の分断効果が高まり、ロングノズル下端面付近のスラグ等の付着を抑制し又は付着したスラグ等の除去を容易にして、本発明の効果をさらに高め又は確保することに寄与する。
【0071】
図4のように、ロングノズルの下端部分が、内孔側は下方に向かって拡大し、外周側は下方に向かって縮小している形状について、以下に詳述する。
【0072】
図8は、前述の下端部分の形状を有するロングノズルの縦方向断面図、図9は、図8のA部の詳細を示す図である。なお、図8及び図9において、本発明の突条は省略している。
【0073】
図8に示すロングノズル10は、その上端及び下端付近を除き、内孔11側及び外周12側がそれぞれ縦方向にほぼ同じ径であって、その下端部分が、内孔11側は下方向に漸次拡大し(DIU<DIL)、また、外周12側は下方向に漸次縮小した(DOU>DOL)形状を有する。すなわち、図8に示すロングノズル10は、その下端部分を、内孔11側は下方向に拡大、外周12側は下方向に縮小するように角度を有する構造、言い換えれば、下方向に空間が漸次拡大していく構造としている。具体的には、図9に示すように、内孔11側の下方向に拡大した部分13が水平線となす角度θI、及び外周12側の下方向に縮小した部分14が水平線となす角度θOが、それぞれ90度未満となるようにしている。
【0074】
前述のように、ロングノズルを溶鋼及びスラグ層から引き上げる際、スラグ等は、その溶融状態にある部分の流動性及び重力により、ロングノズルの下方向に流下する。これらは直ちに大気又はタンディッシュやロングノズルのガス雰囲気に曝されるので、温度降下により粘性が上昇し、固化する。これが繰り返されることから、ロングノズル下端付近ではスラグ等が固化した付着物の層が次第に厚くなっていく。
【0075】
このようにロングノズル内孔の下方に固化した付着物が存在する状態で浸漬開孔を行うと、ロングノズル内孔の下方からの詰砂及び溶鋼のスムーズな流出が阻害される。すると、図16に示すようにロングノズル内孔内に詰砂40等が滞留して溶鋼がロングノズル内孔に充満し(図16の符号50L)、取鍋の下部ノズル51との接合部15から溶鋼が漏出する(図16の符号50S)ことがある。
【0076】
そこで本発明では、スラグ等の流下の際に、経路となるロングノズル表面が鉛直方向の平面ではなく、いわゆるオーバーハングの傾斜状態になるように(内孔側は下方向に拡大、外周側は下方向に縮小するように)角度を有する形状、言い換えればロングノズルの下端部分を先細り状とする。これによって、溶融状態のスラグ等は空間である下方向に重力を受けるので、ロングノズル表面との接触面積及び接触抵抗が鉛直方向の面を流下する場合よりも小さくなって、流下しやすくなる。また、その流下の途中で滴となって落下するものもあるので、流下経路となる面にこのような角度を付加することで、付着量を抑制する効果が得られる。
【0077】
さらに、ロングノズルの下端部分が、前述のように、内孔側は下方向に拡大、外周側は下方向に縮小するように角度を有する構造、すなわち、下方向に空間が漸次拡大していく構造であれば、付着したスラグ等に下方向の外力を加えることでスラグ等がロングノズル表面から容易に離脱するので、容易に除去することができる。しかも小さな外力、少しの移動で除去を実現できる。このような下方向の外力は、溶鋼排出時の溶鋼等によってももたらされ、溶鋼流等で付着したスラグ等の一部は除去される。また、溶鋼排出時以外に、人出又は機械により除去作業を行う場合にも容易に除去することができる。
【0078】
なお、ロングノズル内孔の下方からの詰砂及び溶鋼のスムーズな流れを確保する点からは、内孔側の形状のみを図8及び図9の例に示すようにすればよいが、外周側に付着したスラグ等が成長し又は内孔側のスラグ等と一体化して内孔側のスラグ等の成長を来す場合があるので、内孔側及び外周側の両方を図8及び図9の例に示すような形状とすることが好ましい。
【0079】
図8及び図9において内孔側の下方向に拡大した部分13及び外周側の下方向に縮小した部分14は、縦方向断面上、直線又は曲線のいずれであってもよい。なお、この直線又は曲線の仮想的な接線が水平線となす角度(図9のθI、θO)は、90度未満の範囲内で個別の操業条件によって決定すればよい。
【0080】
ここで、突条20による前述の効果を確実に得るには、突条20は図14に示すように、ロングノズル10の下端から、ロングノズルの浸漬部、すなわちロングノズル10をタンディッシュ内の溶融物(溶鋼50及びスラグ層70)中に浸漬したときの、溶融物層の上端位置(具体的にはスラグ層70の上端位置)よりも上方の領域に亘って形成する必要がある。
【0081】
また、内孔側の下方向に拡大した部分13及び外周側の下方向に縮小した部分14のロングノズル縦方向の長さは、溶鋼への浸漬深さ、スラグ層の厚さ、ロングノズル下端部の肉厚等の個別の操業条件により変動する複数の要素に依存するが、この内孔側の下方向に拡大した部分及び外周側の下方向に縮小した部分も前述の突条20と同様に、ロングノズル10の下端から、ロングノズルの浸漬部の上端位置よりも上方の領域に亘って形成することが好ましい。
【0082】
ロングノズル内孔では、スラグ層の上方の領域にもスプラッシュ等によるスラグ等の飛散及び付着はある。しかし、溶鋼が通過している間は溶鋼流によって流されること、溶鋼流と内孔面との間に空間がある場合にも内孔面は高温度に保たれているので、非浸漬部の内孔面に飛散したスラグ等は容易に流下すること、及びロングノズルをスラグ層から引き上げる際に付着物は前述のとおり下端付近に流下(移動)しながら固化すること等の現象により、付着物層が増大するのは、スラグ層よりも下方のロングノズル下端付近の領域である。具体的には、個別の設備や操業の条件によって変化するが、多くは下端から100ないし500mm程度までの領域である。ただし、スラグ等の粘性や温度降下の速度等、また溶融状態のスラグ等の飛散とその飛散物の壁面での付着現象が生じやすい条件等の操業時の変動要因によっては、さらに高い位置から付着物層が厚くなることがある。そのような場合には、内孔側の下方向に拡大した部分及び外周側の下方向に縮小した部分は、ロングノズル内孔内のスラグ層の上端面位置、すなわち浸漬部の上端位置より上方の位置を基点として形成することが、より好ましい。
【0083】
ロングノズルの下端面は、図10に示すように、縦方向断面上、先細り形状となるような直線又は曲線、あるいは図11に示すように下端面と内孔面、下端面と外周面とのエッジ部は、カット形状(図11(a)のC部)又は曲面形状(図11(b)のR部)とすることが好ましい。とくに、ロングノズルの下端面全体が、下に凸のなだらかな円弧(図11(c)のR部,図11(d)のR部)であることが好ましい。
【0084】
これにより、溶融状態にあるスラグ等を狭い範囲に集中させて、滴として落下する割合を増加させて、固化ないし付着する分をさらに減少させることができる。また、一体化した付着物を外力により除去する際に、内孔側と外周側とを連結する下端面の直線部分(ロングノズル縦方向断面における水平方向の部分)が短い方が、付着物をロングノズルから離脱させやすくなる。
【0085】
すなわち、ロングノズル下端面と内孔面とのエッジ部及び前記下端面と外周面とのエッジ部(これらのエッジ部を以下単に「エッジ部」ともいう。)が、ロングノズルの縦方向断面においてカット形状又は曲面形状であることで、固化した付着物(付着したスラグ等の冷却による固化物)を下方に下げると共に左右方向に揺動させる(図12参照)ことが容易になる。
【0086】
固化した付着物がロングノズルの内孔面又は外周面から離脱してロングノズルとの間に隙間を生じた際に、その隙間を可動範囲とする左右方向の揺動を行うと、固化した付着物の除去を加速することができる。このときにロングノズル下端面と内孔面とのエッジ部及び前記下端面と外周面とのエッジ部が、ロングノズルの縦方向断面においてカット形状又は曲面形状であること、すなわちロングノズルの縦方向断面において下端面のエッジ部が、下端面(図12中横方向の線)より上方に欠けた形状にすることで、付着物が揺動するときの付着物とエッジ部(両方)との引っかかりを解消して、相互の相対的な動きをより滑らかにすることが可能になる。
【0087】
また、エッジ部がこのようなカット形状又は曲面形状ではない場合は、固化した付着物を除去する(ロングノズルから少しでも離脱させる)際、又は左右の揺動等の際に、固化した付着物の動きがもたらす下端面エッジ部との衝突(機械的外力)によって、エッジ部を局部的に、また不規則に破壊し(図13の符号80部分)、ロングノズルの亀裂や破損の基点になる危険性がある。下端面のエッジ部をカット形状又は曲面形状にすることでこのような危険性をも解消できる。
【0088】
なお、エッジ部がカット形状又は曲面形状でありさえすれば、その大きさに関わらずその破壊防止の効果及び固着した付着物の左右の揺動ないし除去の効果は得られる。より好ましい形状と大きさは、下端面全面(ロングノズルの縦方向断面の横方向の線の全長)が、直線を含まない曲面形状、さらには、中央を最下端とするなだらかな円弧に近い形状である(固化した付着物が左右方向に最も滑らかに接することができるからである)。
【0089】
本発明の突条を備えたロングノズルの製造方法は、一般に行われている連続鋳造用ノズルの製造方法に準じればよい。例えば、CIP成形時に突条を形成するような型を用いて、成形時から突条を一体として製造することが可能である。また、突条のない通常の製造方法によって製造したロングノズルの内孔又は外周の突条を設ける表面位置に、突条として別途製造した部材を接合することも可能である。この場合、ロングノズル本体と嵌合できるようにロングノズル本体及び突条用の部材双方に凹凸等を備えておき、それを嵌合させて接合する方法又は無機系の接着材により接合する等の方法を採ることができる。また、ロングノズル下端部分の内孔拡大、外周縮小の形状も、一般に行われている連続鋳造用ノズルの製造方法に準じればよい。成形時からそのような形状としてもよく、後加工でもよい。
【符号の説明】
【0090】
10 ロングノズル
11 ロングノズルの内孔
12 ロングノズルの外周
13 内孔側の下端方向に拡大した部分
14 外周側の下端方向に縮小した部分
15 取鍋の下部ノズルとの接合部
20 突条
20T 突条の先端
20B 突条の底部(ロングノズル本体表面との交差部)
20S 突条の側面
20L 分断された付着物がロングノズル横方向断面上、半径方向に離脱する場合の方向を示す線(突条先端部分を通過する線も付記)
20Δ 20Lと20S(線上の任意の位置)との間の、ロングノズルの横方向断面上の周方向の距離
30 付着物
40 ロングノズル内孔に滞留した詰砂
50,50L,50S 溶鋼
60 取鍋の溶鋼注湯制御用ノズル
61 取鍋の下部ノズル(ロングノズルと接合するノズル)
70 スラグ層
80 不規則な欠け
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶鋼を取鍋からタンディッシュに排出するロングノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
溶鋼の連続鋳造において取鍋からタンディッシュに溶鋼を排出するにあたっては、溶鋼の酸化やタンディッシュ内上面に存在するスラグの溶鋼内への巻き込み等を抑制するために、ロングノズルを使用することが一般的である。
【0003】
また、取鍋交換時の注湯開始時には、タンディッシュ溶鋼面上のスラグが溶鋼中に多量に巻き込まれることを防止するために、また溶鋼の酸化を抑制するために、ロングノズルを溶鋼中に浸漬したままで取鍋からの注湯を開始する、いわゆる浸漬開孔が多く行われている。
【0004】
この浸漬開孔の場合には、ロングノズルの上方に配置されている取鍋の溶鋼排出制御用ノズル(スライディングノズル、スライドゲート等と称されるノズル)内に充填されていた詰砂が、溶鋼排出開始時にロングノズル内孔の空間内に流下する。ロングノズル内孔の空間内に流下した詰砂は溶鋼及びスラグ層の上部に止まって、ロングノズル内の溶鋼流下を阻害することがある。そうすると、ロングノズル上方に設置した取鍋側のノズル下端との接合部から溶鋼漏出を生じることがある。
【0005】
この対策として、例えば特許文献1には、「タンディッシュ内溶鋼中に浸漬せしめる連続鋳造用ロングノズルにおいて、内断面を適宜大きさに形成してなる直筒状上体部と、該上体部に連続して形成される下体部であって、溶鋼湯面相当部位の断面内径が、取鍋に設けた摺動式溶鋼開閉装置の溶鋼流路内径の1.5〜5倍の内径寸法に形成せしめた下体部とからなる連続鋳造用ロングノズル」が開示されている。
【0006】
これは、ロングノズルの溶鋼湯面相当部位の内孔径を溶鋼排出制御用ノズル(摺動式溶鋼開閉装置)の溶鋼流路内径よりも大きくすることで、詰砂がロングノズル内孔内の溶鋼浴上面全体で固化層を形成することを抑制しようとするものである。しかしながら、この場合、詰砂はロングノズル内孔内に残留して、ロングノズル内孔から外に排除されることは殆どない。すなわち、ロングノズルの溶鋼湯面相当部位の内孔径が溶鋼流の流下時の内孔径よりも拡大していることで、ロングノズル内孔の中央付近にのみ溶鋼流が形成され、詰砂等はロングノズル内孔側表面付近に移動し、滞留する。
【0007】
一方、タンディッシュ内の溶鋼浴上にはスラグ層があるので、ロングノズルをタンディッシュ溶鋼中に浸漬すると、スラグ層中にも浸漬することになる。ロングノズルは取鍋交換又はタンディッシュ交換時に溶鋼浴及びスラグ層から引き上げるので、引き上げる際に内孔側表面及び外周側表面には、スラグ、詰砂、さらには溶鋼の凝固物(以下「地金」という。)等(以下、これらを総称して「スラグ等」という。)が付着する。スラグ等の付着物は引き上げ直後には下方に流下するが、急速な温度降下によりロングノズル表面で硬化し、残留する。とくに流下方向である下端付近に多く付着物層を形成する。
【0008】
このようなスラグ等の付着に対し、特許文献1には、ロングノズルの下体部をテーパー状に拡径させる例が示されているものの、依然としてスラグ等が付着しやすいという問題がある。さらに特許文献1のようにロングノズルの下体部を拡径させると、前述のように詰砂のほとんどが内孔内に残留するので、この詰砂も内孔側表面に付着する。すなわち、付着の対象となるスラグ等が相対的に多くなるので、ますますロングノズル内孔側表面の付着の増大を惹き起こす。
【0009】
また、このようなスラグ等の付着物は、取鍋交換数(連続鋳造数)が増えるにしたがって残留と付着が繰り返されることで、その厚みが増大する。さらに、スラグ等の付着物は、通常の管状形状のロングノズルでは、下端付近で一体的な構造となっていて除去することが困難である。内孔が下方向に漸次拡径する構造とした特許文献1の場合であっても、下端付近で一体的な構造となっていて除去することが困難である。
【0010】
スラグ等の付着物は、ロングノズル内孔内の溶鋼及びスラグ等のスムーズな流出を阻害する。その結果、とくに浸漬開孔時にロングノズル内孔内での溶鋼の詰まりやロングノズルと取鍋側ノズルとの接合部からの漏鋼等を生じやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭57−139456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、ロングノズル下端付近のスラグ等の付着自体を抑制すること、及び付着物層の増大を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明をまとめると以下のとおりである。
【0014】
[請求項1]
溶鋼をタンディッシュに排出するロングノズルにおいて、前記ロングノズルの下端から、少なくとも浸漬部(前記ロングノズルをタンディッシュ内溶融物中へ浸漬する際の、溶融物層の上面までの領域をいう。)上端位置よりも上方の領域に亘って、ロングノズルの内孔側表面及び外周側表面のいずれか又は両方に、その表面から突出して上下方向に伸びる、少なくとも6mm以上の高さの突条を、周方向に間隔をおいて複数設けたことを特徴とするロングノズル。
【0015】
[請求項2]
前記複数の突条の一部又は全部が、ロングノズルの下端を起点にして、上方向に100mm以上の長さで設けられている請求項1に記載のロングノズル。
【0016】
[請求項3]
前記突条が、その突出方向に漸次又は段階的に細くなる形状である請求項1又は請求項2に記載のロングノズル。
【0017】
[請求項4]
ロングノズルの下端部分が、内孔側は下方向に拡大し、外周側は下方向に縮小している請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のロングノズル。
【0018】
[請求項5]
前記突条間の周方向の間隔が、ロングノズルの下方向に漸次又は段階的に広くなっている請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のロングノズル。
【0019】
[請求項6]
下端面と内孔面とのエッジ部及び下端面と外周面とのエッジ部が、ロングノズルの縦方向断面においてカット形状又は曲面形状である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のロングノズル。
【0020】
[請求項7]
下端面が、ロングノズルの縦方向断面において曲面形状である請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のロングノズル。
【0021】
[請求項8]
ロングノズルの下端面に、その表面から突出する、少なくとも6mm以上の高さの突条が、周方向に間隔をおいて複数設けられている請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のロングノズル。
【0022】
[請求項9]
ロングノズルの下端面に設けられた突条が、内孔側表面に設けられた突条及び外周側表面に設けられた突条のいずれか又は両方と連続している請求項8に記載のロングノズル。
【0023】
なお、本発明において、ロングノズルの縦方向断面とはロングノズルの通鋼方向の中心軸に沿った断面であり、ロングノズルの横方向断面とは、前記中心軸に直交する方向に沿った断面である。
【0024】
以下、本発明を詳述する。
【0025】
ロングノズルを溶鋼及びスラグ層(本発明では詰砂等の浮遊物も含む概念である。)から引き上げる際、スラグ等は、その溶融状態にある部分の流動性及び重力により、ロングノズルの下方向に流下する。これらは直ちに大気又はタンディッシュやロングノズルのガス雰囲気に曝されるので、温度降下により粘性が上昇し、固化する。これが繰り返されることから、ロングノズル下端付近ではスラグ等が固化した付着物の層が次第に厚くなっていく(図15(a),(b)の符号30部分がロングノズル下端付近の付着物を模式的に示したものである。)。
【0026】
この付着物は、ロングノズル内孔側ではその内側の空間の中心方向に、外周側ではロングノズルの半径方向の外へ放射する方向に、迫り出すように成長する。内孔側及び外周側での付着物の成長の程度は個別の操業条件等によって異なるが、実測の結果、ロングノズルを溶鋼及びスラグ層に浸漬して引き上げた際の1回あたりの付着物の厚みは、概ね5mm以下であることが多い。1回あたりの付着物の厚みが小さくても、これを除去せずに、固化したスラグ等が付着した状態のロングノズルを、溶融スラグ等中への浸漬と引き上げを繰り返すと、その厚みは増大する。こうして増大した付着物の厚みは、操業条件の諸要因と繰り返しの回数等によって変動するが、放置し続けると、激しい場合は50mmを超える場合も観察される。
【0027】
このようにロングノズル内孔の下方に固化した付着物が存在する状態で浸漬開孔を行うと、ロングノズル内孔の下方からの詰砂及び溶鋼のスムーズな流出が阻害される。すると、図16に示すようにロングノズル内孔内に詰砂40等が滞留して溶鋼がロングノズル内孔に充満し(図16の符号50L)、取鍋の下部ノズル61との接合部15から溶鋼が漏出する(図16の符号50S)ことがある。
【0028】
また、前述の付着物は内孔側及び外周側それぞれで周方向に一体となった強固な構造となる。さらには、内孔側及び外周側の各付着物がロングノズル下端面で連結して、より強固な構造となることもある。
【0029】
付着物がこのような強固な一体的な構造になると、溶鋼流では除去できなくなり、また付着物に人力又は機械等で下方向の外力を加えても除去することは困難となる。強い外力を加える等で無理に除去を行うと、ロングノズルを破壊することも多い。
【0030】
そこで本発明では、ロングノズルの内孔側表面及び外周側表面のいずれか又は両方に、その表面から突出して上下方向に伸びる突条を、周方向に間隔をおいて複数設けることで、前述の付着物が内孔側又は外周側で一体的な構造となることを防止する。すなわち、突条を内孔側表面あるいは外周側表面の周方向に間隔をおいて複数設けることで、付着物が生成する過程のスラグ等が溶融状態で流下する間に、スラグ等は、突条によって、内孔側表面あるいは外周側表面の周方向において分断される。分断された付着物は、溶鋼流その他の下方向の外力により、ロングノズルから容易に除去することができるようになる。
【0031】
付着物を分断しかつ除去を容易にするためには、突条は内孔側表面あるいは外周側表面の周方向に間隔をおいて複数設けることが必要であって、周方向を均一に分割するように少なくとも2箇所、好ましくは3箇所以上に設けることが好ましく、多い方がより好ましい。
【0032】
これは、主として次の理由による。
第一に、突条の設置箇所が2箇所以上になると周方向での付着物の一体構造が破壊されて、分断後の付着物が、ロングノズル横方向断面上においてロングノズル表面から離脱できる程度に可動な状態になることによる(1箇所では可動な状態にはならない。離脱方向は図6及び図7の矢印方向)。
【0033】
なお、このように2箇所以上で付着物が分断されると、ロングノズル表面からの離脱状態が隙間程度であっても、また分断のみでまだ離脱してなくても、周方向に非一体的な構造にすることで、容易に破壊することが可能になる。また、ロングノズル横方向断面上に離脱するのみではなく、ロングノズルの下端部分の形状を、内孔側は下方向に拡大、外周側は下方向に縮小するようにすることで(詳細は後述)、下方向に容易に離脱可能となる。
【0034】
第二に、突条の設置箇所が多くなるのに伴い、分断後の付着物の個々の大きさが小さくなってロングノズル表面との接触面積が小さくなるので、分断後の個々の付着物とロングノズル表面との間の摩擦抵抗が小さくなり、離脱がより容易になることによる。
【0035】
突条の突出高さは、一度のロングノズルの引き上げにより付着する付着物の厚み以上であることが好ましい。この理由は、突条の突出高さが付着物の厚み以上であれば、突条先端側では付着物厚みをより薄くすることができ、最も薄い場合は突条先端側に付着物が存在しない部分を設けることができ、より周方向に一体的な構造となり難くなるからである。
【0036】
この一度のロングノズルの引き上げにより付着する付着物の厚みは、溶融状態のスラグ等の温度、成分等によって変動する粘性、ロングノズル表面との親和性、溶融スラグ中に浸漬したロングノズルの引き上げ速度、冷却速度等の要因、すなわち、個別の操業条件やそのバラツキによって変動する。したがって、突条の突出高さは個別の操業条件に応じて最適値を決定することが好ましい。通常の溶鋼の連続鋳造においては、前述のとおり、1回当たりの付着厚みが概ね5mm以下であることが多いから、本発明では突条の突出高さは6mm以上とした。
【0037】
本発明による付着物の分断効果は、主として次のような作用による。
【0038】
付着物となる溶融スラグ等は、内孔側表面、外周側表面の全面に接して下方に流れる。このとき、突条部分での周方向の急な角度の変化等を伴う形状により、溶融スラグ等はそのロングノズルの周方向(ロングノズルの横方向断面上)の表面張力により、また重力による下方向への移動に伴う引張力も加わって、突条、とくにその先端(横方向断面が三角形の場合は頂点)付近での厚みが、突条以外の表面での厚みよりも小さくなる。さらに横方向断面上の突条の周方向の長さ、すなわち突条の幅が、先端部分で小さくなる程、前述の表面張力や重力の効果が付着物の当該部分に集中的に作用することになるので、付着物の厚みを小さくする効果が増大する。これにより突条の先端に近いほど、スラグ等の付着厚みが突条の先端付近以外の付着厚みよりも相対的に小さくなる。突条の先端付近では、付着しない領域も生じる場合がある。
【0039】
付着物は、ロングノズルの引き上げ時に冷却されて収縮する。この収縮に伴い付着物内部に周方向の引張り応力が発生する。付着物へのこのような応力は、突条側面の形状に沿って変化し、突条先端付近に集中する。このため、突条先端部分を基点として付着物がより破壊しやすくなる。
【0040】
一方、ロングノズルの注湯時の溶鋼及びスラグ層中への浸漬、注湯終了時の溶鋼及びスラグ層からの引き上げ等に伴って、ロングノズル本体及び付着物は加熱、冷却の温度変化を受ける。この際にロングノズル本体及び付着物は熱膨脹し、また冷却により収縮する。
【0041】
ロングノズル本体を構成する耐火物は、通常はアルミナ、マグネシア等の結晶質の酸化物と黒鉛との複合耐火物であり、付着物のほとんどは炭素や黒鉛等を多くは含まないガラス質を含む酸化物からなる。このような材質の違いにより、熱膨張特性や弾性率等の物性の違いを生じる。また、付着物がロングノズル表面に存在することと、その厚みが相対的に小さいことから、温度変化は付着物に相対的に大きく生じる。このような物性の違いと温度変化の違いに起因する熱膨張特性の差等が、付着物内部の応力を拡大させる。
【0042】
これらの応力は、周方向では突条先端付近の付着物にとくに集中する。この応力集中により、また突条先端部分の付着物の厚みがその先端部分以外の厚みよりも相対的に小さいこと(前述のメカニズムによる)と相俟って、突条の先端付近では付着物が破壊しやすくなる。その結果、付着物の分断効果(非一体化の効果)がさらに高くなる。
【0043】
したがって、突条の先端部分はできるだけ小さくするような形状にすることが好ましい(図5参照)。より具体的には、突条が、その突出方向に漸次又は段階的に細くなった形状で、先端の幅ができるだけ小さいことが好ましい。先端の幅がゼロの場合は、突条の横方向断面の形状は概ね三角形に近い形となる。
【0044】
突条の側面(横方向断面上、突条先端の横方向端部と突条底部のロングノズル本体表面との交差部とを結ぶ線として表示できる。図6及び図7の20S。)の横方向断面上での角度は、分断された付着物が横方向断面上で離脱すると仮定したときの、離脱方向に対し、2つの突条に囲まれた空間が拡大するような角度にする(図6及び図7の20Δが、ロングノズル表面から離脱方向に向かって常に相対的に小さくなるようにする)ことが好ましい。このような構成であれば、分断後の付着物が分断された形状のまま(さらに破壊せずに)横方向断面上の離脱方向のみでの離脱が可能になる。
【0045】
ここで離脱方向とは、内孔側では、分断された付着物の周方向の中央からロングノズル中心方向に向かう方向、外周側では、分断された付着物の周方向の中央からロングノズル中心から放射状に外方向に向かう方向である。また、突条先端の横方向端部とは、突条の横方向断面形状が台形近似の形状では2箇所のうちの一方、三角形近似の形状では先端1箇所の端部をいう(図5の20T)。
【0046】
付着物の厚みは下方に漸次大きくなる傾向がある(重力による下方への流動による)。したがって突条は、少なくとも、付着物の厚みが大きくなるロングノズル下端付近に設ける必要がある。すなわち、突条は、ロングノズル下端を起点にして上方に伸びるように設ける。
【0047】
溶融状態のスラグ等に浸漬したロングノズルを引き上げる際に、スラグ等はロングノズル表面全体に一体的な膜状となって付着する。したがって、ロングノズル下端付近を起点として設けた突条の上下方向の長さは、少なくとも浸漬部の上端位置を超える長さ以上でとする必要がある。ここで、浸漬部とは、ロングノズルをタンディッシュ内溶融物中へ浸漬する際の、溶融物層の上面までの領域をいい、溶融物層とは、タンディッシュ内の溶鋼及びその上方にあるスラグ層を総称するものである。
【0048】
実際の突条の長さは、操業条件やロングノズル等の設備の条件等よって決定すべきである。通常の溶鋼の連続鋳造においては、この突条の長さは、付着物が最も付着する領域の上下方向の長さが小さい場合は概ね下端から約100mm程度であれば、また通常のスラグ層の上端位置としては約500mm程度であればよい。
【0049】
ロングノズルの上下方向(縦方向)に伸びる突条は、その設置部分では副次的に補強用リブの機能をも有する。この突条をロングノズルの周方向に間隔をおいて複数設けることで、ロングノズルの水平方向(横方向)応力に対する補強の効果をも得ることができる。
【0050】
突条は、付着物の分断効果の観点からはロングノズルの浸漬領域に設ければよいが、前述の副次的効果(補強効果)を高める観点からは、より上方に、最長でロングノズルの取鍋側ノズルとの接合部までの任意の範囲に設けてもよい。
【0051】
付着現象はロングノズル下端面でも生じ、又は付着物が成長することがある。また、内孔側、外周側の両方に付着現象が発生する場合は、ロングノズルの下端にも付着物が成長しやすくなり、その下端部分の付着物を架橋とする内孔側、下端、外周側とが一体となった、より強固な構造の付着物となることがある。
【0052】
このような場合には、ロングノズルの下端面にも突条を設けて、ロングノズルの下端面でも付着物を分断することが好ましい。また、ロングノズルの下端面に設ける突条は、内孔側、外周側の付着状態に応じて、内孔側の突条及び外周側の突条のいずれか又は両方と連続していることが好ましい。このように突条を連続させると、下端面の付着物と内孔側又は外周側の付着物とが円周方向で一緒に分断される。その結果、付着物のロングノズルからの離脱効果及び除去効果を高めることができる。
【0053】
前述のようなロングノズルの横方向断面上の空間構造に加え、複数の突条間の周方向の空間が、下方向に漸次又は段階的に拡大する構造にすることが好ましい。すなわち、複数の突条間の周方向の空間において、下方の空間がその上方の空間よりも、相対的に常に拡大する構造にすることが好ましい。これにより、分断後の付着物を、ロングノズルの横方向断面上のみで離脱させ又は離脱しやすくするだけでなく、さらにロングノズル縦方向にも離脱させ又は離脱しやすくすることができる。これは、内孔側及び外周側の縦方向、下端面のいずれにおいても同様である。
【0054】
内孔側、外周側ついてこのような構造を得るには、具体的に次のような方法を採ることができる。
(1)周方向に2つの突条に囲まれた同一の空間に接する両側の突条の底部の幅の合計を、上方よりも下方の方が、常に相対的に小さくなるようにする。
(2)ロングノズル本体の形状を、内孔側では下方向に拡大し、外周側では下方向に縮小する。この内孔側の下方向に拡大した部分及び外周側の下方向に縮小した部分は、ロングノズルの下端から少なくとも前記の浸漬部の上端位置までの領域又は突条の存在領域全域に形成することが好ましい。
【0055】
下端部について前述のような構造を得るには、具体的に次のような方法を採ることができる。
(1)周方向に2つの突条に囲まれた同一の空間に接する両側の突条の周方向の幅の合計を、上方よりも下方の方が、常に相対的に小さくなるようにする。
(2)周方向に2つの突条に囲まれた同一の空間に接するロングノズル下端面を、下方に向かって傾斜のある構造とする。
【0056】
また、ロングノズル下端面もロングノズル縦方向断面において傾斜又はR等の曲線(すなわち曲面)として、ロングノズル縦方向軸に対してほぼ水平な直線部分をできるだけ小さくすることがさらに好ましい。
【0057】
以上のように、突条間の周方向の間隔(隣接する一方の突条の端部から他方の端部までの空間)が下方向に向けて相対的に拡大するような構造にしておくことで、分断後の付着物は下方向への機械的な外力を加えられた際にロングノズル表面から容易に離脱するようになる。したがって、バー等を使用した人力等による除去作業による外力、さらには操業中に溶鋼等がロングノズル内孔を通過する際のその溶鋼等の下方向への流下によりもたらされる外力によっても、付着したスラグ等を除去しやすくなる。これは、このような付着物とロングノズルとの相対的な構造上の関係であれば、相対的に僅かな外力を加えたときに、付着物とロングノズルとの間に僅かな隙間が直ちに生じ、相互の摩擦抵抗が瞬時に消滅するからである。すなわち、付着物の離脱方向に対する、付着物が接触している突条の面又はロングノズル本体の面との相対的な角度が、拡径方向に0度を超えてさえいればよいが、この角度はロングノズルの肉厚等の他の具備条件が許容できる範囲でできるだけ大きくする方が、より容易に前述の効果を得ることができるので、好ましい。
【0058】
ロングノズルの内孔側表面、外周側表面及び下端面、並びに突条の露出面は、溶鋼及びスラグ層からロングノズルを引き上げる際の溶融状態のスラグ等の流下の経路ともなる。このような経路が鉛直方向の平面ではなく、いわゆるオーバーハングの傾斜(曲面を含む)状態になるように、具体的には内孔側は下方向に拡大(拡径)し、外周側は下方向に縮小(縮径)するように角度を有する場合には、溶融状態のスラグ等は空間である下方向に重力を受けるので、ロングノズル表面との接触面積及び接触抵抗が鉛直方向の面を流下する場合よりも小さくなって、流下しやすくなる。また、その流下の途中で滴となって落下するものもあるので、付着量(厚み)自体を抑制する効果が高まる。
【0059】
さらに分断後の付着物は前述のような構造下では直ぐに離脱して、ロングノズル本体側(突条を含む。以下同じ。)との間に隙間が容易に生じるので、ロングノズル本体に対して相対的に動きやすくなる。その結果、溶鋼通過時の溶鋼流による下方への外力で付着物の成長を抑制し又は除去できる可能性が高まり、人力等による付着物の除去作業もより容易になる。
【発明の効果】
【0060】
本発明により、ロングノズル下端付近のスラグ等の付着自体を抑制すること、及び付着物層の増大を抑制することが可能となる。さらには、付着したスラグ等を、一部は溶鋼流で除去することも可能となり、人力又は機械等により除去する際も、容易に除去することが可能となる。
【0061】
これらの結果、
(1)ロングノズル内孔内の溶鋼流及び詰砂を含むスラグ等の流動性を阻害する付着物が減少し、又は無くなることで、ロングノズル上端の取鍋側ノズルとの接合部からの溶鋼の漏れ事故を防止することが可能となり、また溶鋼飛散の危険性も減少させることができる。
(2)ロングノズル下端付近の付着物の除去が容易になることで、無理な作業によるロングノズルの破壊や損傷を減少させ又は防止することが可能となる。
(3)ロングノズルのメンテナンス作業量及び負荷が減少することで、生産性の向上及び労働環境の改善が可能になる。
(4)ロングノズル内孔内で溶鋼流を阻害する付着物が無い又は少なくなることで、スムーズな溶鋼流を得ることができ、タンディッシュ内の溶鋼流動ないし介在物減少等の管理がしやすくなり、鋼の品質の向上が可能になる。
(5)突条自体が溶鋼流等の方向制御にも寄与するので、よりスムーズな溶鋼流を得ることができ、鋼の品質の向上が可能になる。
(6)突条をロングノズルの上下方向(縦方向)に複数設けることで、ロングノズルの横方向応力に対する補強の機能をも果たすことができる。
(7)これらにより、ロングノズルの破壊事故を減少させることにも寄与することができる。また、ロングノズルの薄肉化(軽量化)の要請にも寄与できる。
(9)ひいては、操業上の安全性向上、操業能率の向上、労働負荷の軽減ないし労働環境改善、コスト低減(ロングノズル費用の削減、事故による損失の減少等)等にも寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に係るロングノズルの一実施例を示し、(a)は下端付近の縦方向断面図、(b)は(a)のA−A矢視図である。
【図2】本発明に係るロングノズルの他の実施例を示し、(a)は下端付近の縦方向断面図、(b)は(a)のA−A矢視図である。
【図3】本発明に係るロングノズルの他の実施例を示し、(a)は下端付近の縦方向断面図、(b)は(a)のA−A矢視図である。
【図4】本発明に係るロングノズルの他の実施例を示し、(a)は下端付近の縦方向断面図、(b)は(a)のA−A矢視図である。
【図5】突条の形状例を示す模式図である。
【図6】ロングノズルの表面に付着した付着物の離脱方向と突条の関係を示す横方向断面図である。
【図7】ロングノズルの表面に付着した付着物の離脱方向と突条の関係を示す横方向断面図である。
【図8】本発明に係るロングノズルの他の実施例を示す縦方向断面図である(ただし、突条は省略している。)。
【図9】図8のA部の詳細を示す図である。
【図10】図8のA部の他の例を示す図である。
【図11】本発明のロングノズルの下端面のエッジ部のイメージを示す縦方向断面図である。
【図12】本発明のロングノズルの下端付近の固化した付着物を左右に揺動させる際のイメージを示す縦方向断面図である。
【図13】(a)はロングノズルの下端面のエッジ部が局部的、不規則に破損する場合のイメージを示す縦方向断面図で、(b)は(a)のA−A視のイメージを示す縦方向断面図である。
【図14】本発明に係るロングノズルを、タンディッシュ内の溶鋼及びスラグ層に浸漬した状態を示す縦方向断面図である。
【図15】従来のロングノズルの一例及び付着物の付着状態のイメージを示す縦方向断面図である。
【図16】従来のロングノズルの内孔内に詰砂が滞留し、溶鋼が充満して、取鍋側ノズルとロングノズルとの接合部から溶鋼が漏出する状態のイメージを示す縦方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0063】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0064】
図1は、本発明の突条20をロングノズル10の下端付近の内孔側表面に設けた例で、図2は、本発明の突条20をロングノズル10の下端付近の外周側表面に設けた例である。これらの例では突条20をロングノズル10の内孔側表面又は外周側表面を周方向に均等に4分割する位置に設けている。
【0065】
突条20の形状は、図5に示すように、ロングノズル横方向断面上の形状が先端20Tに向かって先細りとなることが好ましい。また、図5(c)、(d)に示すように、突条20とロングノズル本体表面とが交差する部分20Bは、鋭角となる部分のない、なだらかな曲面(ロングノズル横方向断面において曲線)又は直線とすることが好ましい。これは、このような形状にすることで、(1)突条20先端での付着物の分断をより容易にする、(2)突条20先端で分断された付着物のロングノズル表面からの離脱を容易にする、(3)前記交差する部分20Bに応力が集中してロングノズル本体を破壊することを避けることができる等の理由による。
【0066】
図6は、突条20をロングノズル10の内孔側表面の横方向断面上4箇所に設けた例の一部を示す。付着物30は、円周方向に90度未満の角度以下に分断される。そして、分断後の付着物30は、ロングノズル横方向断面上では、各分断後の付着物30の中央(この例ではほぼ45度位置)から、概ねロングノズル中央に向かう線の方向(図6(a)の矢印方向)に離脱することになる。
【0067】
また、この例では、図6(b)に詳細に示すように、突条20の側面20Sのロングノズル横方向断面上での角度は、分断された付着物30が離脱する方向(仮想矢印20Lと平行な方向)に対し、2つの突条20に囲まれた空間が拡大するような角度にしている。それに伴い、図6(b)中の間隔20Δが、ロングノズル表面から離脱方向に向かって常に相対的に小さくなっている。このような構造であれば、分断後の付着物30が分断された形状のまま(さらに破壊した細分形状にならなくても)ロングノズル横方向断面上の離脱方向のみでの離脱が可能になる。
【0068】
なお、図7に突条20をロングノズル10の外周側表面に設けた例を示すが、突条20を内孔側表面に設けた前述の図6に例とは、付着物30の離脱方向及び空間の拡大方向が逆になるだけで、理論的な構成は同様である。
【0069】
図3は、本発明の突条20をロングノズル10の下端付近の内孔側表面と外周側表面の両方に設けた例である。この例では突条20をロングノズル10の内孔側表面及び外周側表面を周方向に均等に4分割する位置に設けている。また、この例では、内孔側と外周側の各突条20はロングノズル横方向断面上、ロングノズル中心から同一の半径方向の線上に位置している。さらに、この例ではロングノズル10の下端面にも突条20があり、この下端面の突条20によって内孔側の突条20と外周側の突条20は連続している。
【0070】
図4は、図3のロングノズルを基本とし、突条20を設けた領域が、内孔側は下方に向かって拡大し、外周側は下方に向かって縮小しており、いずれの突条20もそのロングノズル横方向断面形状(突条20の周方向の幅)が下方に向かって縮小し、突条20間の周方向の間隔(空間)が下方に向かって拡大している例である。このような形状にすることで、ロングノズル下端面付近の付着物を分断する効果が生じて本発明の付着物の分断効果が高まり、ロングノズル下端面付近のスラグ等の付着を抑制し又は付着したスラグ等の除去を容易にして、本発明の効果をさらに高め又は確保することに寄与する。
【0071】
図4のように、ロングノズルの下端部分が、内孔側は下方に向かって拡大し、外周側は下方に向かって縮小している形状について、以下に詳述する。
【0072】
図8は、前述の下端部分の形状を有するロングノズルの縦方向断面図、図9は、図8のA部の詳細を示す図である。なお、図8及び図9において、本発明の突条は省略している。
【0073】
図8に示すロングノズル10は、その上端及び下端付近を除き、内孔11側及び外周12側がそれぞれ縦方向にほぼ同じ径であって、その下端部分が、内孔11側は下方向に漸次拡大し(DIU<DIL)、また、外周12側は下方向に漸次縮小した(DOU>DOL)形状を有する。すなわち、図8に示すロングノズル10は、その下端部分を、内孔11側は下方向に拡大、外周12側は下方向に縮小するように角度を有する構造、言い換えれば、下方向に空間が漸次拡大していく構造としている。具体的には、図9に示すように、内孔11側の下方向に拡大した部分13が水平線となす角度θI、及び外周12側の下方向に縮小した部分14が水平線となす角度θOが、それぞれ90度未満となるようにしている。
【0074】
前述のように、ロングノズルを溶鋼及びスラグ層から引き上げる際、スラグ等は、その溶融状態にある部分の流動性及び重力により、ロングノズルの下方向に流下する。これらは直ちに大気又はタンディッシュやロングノズルのガス雰囲気に曝されるので、温度降下により粘性が上昇し、固化する。これが繰り返されることから、ロングノズル下端付近ではスラグ等が固化した付着物の層が次第に厚くなっていく。
【0075】
このようにロングノズル内孔の下方に固化した付着物が存在する状態で浸漬開孔を行うと、ロングノズル内孔の下方からの詰砂及び溶鋼のスムーズな流出が阻害される。すると、図16に示すようにロングノズル内孔内に詰砂40等が滞留して溶鋼がロングノズル内孔に充満し(図16の符号50L)、取鍋の下部ノズル51との接合部15から溶鋼が漏出する(図16の符号50S)ことがある。
【0076】
そこで本発明では、スラグ等の流下の際に、経路となるロングノズル表面が鉛直方向の平面ではなく、いわゆるオーバーハングの傾斜状態になるように(内孔側は下方向に拡大、外周側は下方向に縮小するように)角度を有する形状、言い換えればロングノズルの下端部分を先細り状とする。これによって、溶融状態のスラグ等は空間である下方向に重力を受けるので、ロングノズル表面との接触面積及び接触抵抗が鉛直方向の面を流下する場合よりも小さくなって、流下しやすくなる。また、その流下の途中で滴となって落下するものもあるので、流下経路となる面にこのような角度を付加することで、付着量を抑制する効果が得られる。
【0077】
さらに、ロングノズルの下端部分が、前述のように、内孔側は下方向に拡大、外周側は下方向に縮小するように角度を有する構造、すなわち、下方向に空間が漸次拡大していく構造であれば、付着したスラグ等に下方向の外力を加えることでスラグ等がロングノズル表面から容易に離脱するので、容易に除去することができる。しかも小さな外力、少しの移動で除去を実現できる。このような下方向の外力は、溶鋼排出時の溶鋼等によってももたらされ、溶鋼流等で付着したスラグ等の一部は除去される。また、溶鋼排出時以外に、人出又は機械により除去作業を行う場合にも容易に除去することができる。
【0078】
なお、ロングノズル内孔の下方からの詰砂及び溶鋼のスムーズな流れを確保する点からは、内孔側の形状のみを図8及び図9の例に示すようにすればよいが、外周側に付着したスラグ等が成長し又は内孔側のスラグ等と一体化して内孔側のスラグ等の成長を来す場合があるので、内孔側及び外周側の両方を図8及び図9の例に示すような形状とすることが好ましい。
【0079】
図8及び図9において内孔側の下方向に拡大した部分13及び外周側の下方向に縮小した部分14は、縦方向断面上、直線又は曲線のいずれであってもよい。なお、この直線又は曲線の仮想的な接線が水平線となす角度(図9のθI、θO)は、90度未満の範囲内で個別の操業条件によって決定すればよい。
【0080】
ここで、突条20による前述の効果を確実に得るには、突条20は図14に示すように、ロングノズル10の下端から、ロングノズルの浸漬部、すなわちロングノズル10をタンディッシュ内の溶融物(溶鋼50及びスラグ層70)中に浸漬したときの、溶融物層の上端位置(具体的にはスラグ層70の上端位置)よりも上方の領域に亘って形成する必要がある。
【0081】
また、内孔側の下方向に拡大した部分13及び外周側の下方向に縮小した部分14のロングノズル縦方向の長さは、溶鋼への浸漬深さ、スラグ層の厚さ、ロングノズル下端部の肉厚等の個別の操業条件により変動する複数の要素に依存するが、この内孔側の下方向に拡大した部分及び外周側の下方向に縮小した部分も前述の突条20と同様に、ロングノズル10の下端から、ロングノズルの浸漬部の上端位置よりも上方の領域に亘って形成することが好ましい。
【0082】
ロングノズル内孔では、スラグ層の上方の領域にもスプラッシュ等によるスラグ等の飛散及び付着はある。しかし、溶鋼が通過している間は溶鋼流によって流されること、溶鋼流と内孔面との間に空間がある場合にも内孔面は高温度に保たれているので、非浸漬部の内孔面に飛散したスラグ等は容易に流下すること、及びロングノズルをスラグ層から引き上げる際に付着物は前述のとおり下端付近に流下(移動)しながら固化すること等の現象により、付着物層が増大するのは、スラグ層よりも下方のロングノズル下端付近の領域である。具体的には、個別の設備や操業の条件によって変化するが、多くは下端から100ないし500mm程度までの領域である。ただし、スラグ等の粘性や温度降下の速度等、また溶融状態のスラグ等の飛散とその飛散物の壁面での付着現象が生じやすい条件等の操業時の変動要因によっては、さらに高い位置から付着物層が厚くなることがある。そのような場合には、内孔側の下方向に拡大した部分及び外周側の下方向に縮小した部分は、ロングノズル内孔内のスラグ層の上端面位置、すなわち浸漬部の上端位置より上方の位置を基点として形成することが、より好ましい。
【0083】
ロングノズルの下端面は、図10に示すように、縦方向断面上、先細り形状となるような直線又は曲線、あるいは図11に示すように下端面と内孔面、下端面と外周面とのエッジ部は、カット形状(図11(a)のC部)又は曲面形状(図11(b)のR部)とすることが好ましい。とくに、ロングノズルの下端面全体が、下に凸のなだらかな円弧(図11(c)のR部,図11(d)のR部)であることが好ましい。
【0084】
これにより、溶融状態にあるスラグ等を狭い範囲に集中させて、滴として落下する割合を増加させて、固化ないし付着する分をさらに減少させることができる。また、一体化した付着物を外力により除去する際に、内孔側と外周側とを連結する下端面の直線部分(ロングノズル縦方向断面における水平方向の部分)が短い方が、付着物をロングノズルから離脱させやすくなる。
【0085】
すなわち、ロングノズル下端面と内孔面とのエッジ部及び前記下端面と外周面とのエッジ部(これらのエッジ部を以下単に「エッジ部」ともいう。)が、ロングノズルの縦方向断面においてカット形状又は曲面形状であることで、固化した付着物(付着したスラグ等の冷却による固化物)を下方に下げると共に左右方向に揺動させる(図12参照)ことが容易になる。
【0086】
固化した付着物がロングノズルの内孔面又は外周面から離脱してロングノズルとの間に隙間を生じた際に、その隙間を可動範囲とする左右方向の揺動を行うと、固化した付着物の除去を加速することができる。このときにロングノズル下端面と内孔面とのエッジ部及び前記下端面と外周面とのエッジ部が、ロングノズルの縦方向断面においてカット形状又は曲面形状であること、すなわちロングノズルの縦方向断面において下端面のエッジ部が、下端面(図12中横方向の線)より上方に欠けた形状にすることで、付着物が揺動するときの付着物とエッジ部(両方)との引っかかりを解消して、相互の相対的な動きをより滑らかにすることが可能になる。
【0087】
また、エッジ部がこのようなカット形状又は曲面形状ではない場合は、固化した付着物を除去する(ロングノズルから少しでも離脱させる)際、又は左右の揺動等の際に、固化した付着物の動きがもたらす下端面エッジ部との衝突(機械的外力)によって、エッジ部を局部的に、また不規則に破壊し(図13の符号80部分)、ロングノズルの亀裂や破損の基点になる危険性がある。下端面のエッジ部をカット形状又は曲面形状にすることでこのような危険性をも解消できる。
【0088】
なお、エッジ部がカット形状又は曲面形状でありさえすれば、その大きさに関わらずその破壊防止の効果及び固着した付着物の左右の揺動ないし除去の効果は得られる。より好ましい形状と大きさは、下端面全面(ロングノズルの縦方向断面の横方向の線の全長)が、直線を含まない曲面形状、さらには、中央を最下端とするなだらかな円弧に近い形状である(固化した付着物が左右方向に最も滑らかに接することができるからである)。
【0089】
本発明の突条を備えたロングノズルの製造方法は、一般に行われている連続鋳造用ノズルの製造方法に準じればよい。例えば、CIP成形時に突条を形成するような型を用いて、成形時から突条を一体として製造することが可能である。また、突条のない通常の製造方法によって製造したロングノズルの内孔又は外周の突条を設ける表面位置に、突条として別途製造した部材を接合することも可能である。この場合、ロングノズル本体と嵌合できるようにロングノズル本体及び突条用の部材双方に凹凸等を備えておき、それを嵌合させて接合する方法又は無機系の接着材により接合する等の方法を採ることができる。また、ロングノズル下端部分の内孔拡大、外周縮小の形状も、一般に行われている連続鋳造用ノズルの製造方法に準じればよい。成形時からそのような形状としてもよく、後加工でもよい。
【符号の説明】
【0090】
10 ロングノズル
11 ロングノズルの内孔
12 ロングノズルの外周
13 内孔側の下端方向に拡大した部分
14 外周側の下端方向に縮小した部分
15 取鍋の下部ノズルとの接合部
20 突条
20T 突条の先端
20B 突条の底部(ロングノズル本体表面との交差部)
20S 突条の側面
20L 分断された付着物がロングノズル横方向断面上、半径方向に離脱する場合の方向を示す線(突条先端部分を通過する線も付記)
20Δ 20Lと20S(線上の任意の位置)との間の、ロングノズルの横方向断面上の周方向の距離
30 付着物
40 ロングノズル内孔に滞留した詰砂
50,50L,50S 溶鋼
60 取鍋の溶鋼注湯制御用ノズル
61 取鍋の下部ノズル(ロングノズルと接合するノズル)
70 スラグ層
80 不規則な欠け
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶鋼をタンディッシュに排出するロングノズルにおいて、前記ロングノズルの下端から、少なくとも浸漬部(前記ロングノズルをタンディッシュ内溶融物中へ浸漬する際の、溶融物層の上面までの領域をいう。)上端位置よりも上方の領域に亘って、ロングノズルの内孔側表面及び外周側表面のいずれか又は両方に、その表面から突出して上下方向に伸びる、少なくとも6mm以上の高さの突条を、周方向に間隔をおいて複数設けたことを特徴とするロングノズル。
【請求項2】
前記複数の突条の一部又は全部が、ロングノズルの下端を起点にして、上方向に100mm以上の長さで設けられている請求項1に記載のロングノズル。
【請求項3】
前記突条が、その突出方向に漸次又は段階的に細くなる形状である請求項1又は請求項2に記載のロングノズル。
【請求項4】
ロングノズルの下端部分が、内孔側は下方向に拡大し、外周側は下方向に縮小している請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のロングノズル。
【請求項5】
前記突条間の周方向の間隔が、ロングノズルの下方向に漸次又は段階的に広くなっている請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のロングノズル。
【請求項6】
下端面と内孔面とのエッジ部及び下端面と外周面とのエッジ部が、ロングノズルの縦方向断面においてカット形状又は曲面形状である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のロングノズル。
【請求項7】
下端面が、ロングノズルの縦方向断面において曲面形状である請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のロングノズル。
【請求項8】
ロングノズルの下端面に、その表面から突出する、少なくとも6mm以上の高さの突条が、周方向に間隔をおいて複数設けられている請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のロングノズル。
【請求項9】
ロングノズルの下端面に設けられた突条が、内孔側表面に設けられた突条及び外周側表面に設けられた突条のいずれか又は両方と連続している請求項8に記載のロングノズル。
【請求項1】
溶鋼をタンディッシュに排出するロングノズルにおいて、前記ロングノズルの下端から、少なくとも浸漬部(前記ロングノズルをタンディッシュ内溶融物中へ浸漬する際の、溶融物層の上面までの領域をいう。)上端位置よりも上方の領域に亘って、ロングノズルの内孔側表面及び外周側表面のいずれか又は両方に、その表面から突出して上下方向に伸びる、少なくとも6mm以上の高さの突条を、周方向に間隔をおいて複数設けたことを特徴とするロングノズル。
【請求項2】
前記複数の突条の一部又は全部が、ロングノズルの下端を起点にして、上方向に100mm以上の長さで設けられている請求項1に記載のロングノズル。
【請求項3】
前記突条が、その突出方向に漸次又は段階的に細くなる形状である請求項1又は請求項2に記載のロングノズル。
【請求項4】
ロングノズルの下端部分が、内孔側は下方向に拡大し、外周側は下方向に縮小している請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のロングノズル。
【請求項5】
前記突条間の周方向の間隔が、ロングノズルの下方向に漸次又は段階的に広くなっている請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のロングノズル。
【請求項6】
下端面と内孔面とのエッジ部及び下端面と外周面とのエッジ部が、ロングノズルの縦方向断面においてカット形状又は曲面形状である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のロングノズル。
【請求項7】
下端面が、ロングノズルの縦方向断面において曲面形状である請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のロングノズル。
【請求項8】
ロングノズルの下端面に、その表面から突出する、少なくとも6mm以上の高さの突条が、周方向に間隔をおいて複数設けられている請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のロングノズル。
【請求項9】
ロングノズルの下端面に設けられた突条が、内孔側表面に設けられた突条及び外周側表面に設けられた突条のいずれか又は両方と連続している請求項8に記載のロングノズル。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−189381(P2011−189381A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57768(P2010−57768)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]