説明

ロータおよびモータ

【課題】超電導部材への熱の伝達をより抑制し、耐久性の高いロータおよびモータを提供する。
【解決手段】モータ100は、回転子であるロータ10と、ロータ10の周囲に配置されたステータコア23と、ロータ10の回転を出力するための出力軸51とを備える。ロータ10は、回転軸18に交差する断面における中央部分から放射状に延びるロータコア13と、ロータコア13に巻回されたロータコイル11とを含んでいる。ロータコア13には、回転軸18の延在方向、出力軸51の配置される方向に突出した突出部14が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導コイルを用いたロータおよびモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータの駆動能力を向上するために、回転子であるロータに用いるコイルとして超電導コイルを用いることがある。超電導コイルは、通常のコイルに比べて通電可能な電流値を大きくすることにより、高い磁場を提供することができるためである。
【0003】
しかし、たとえばロータを構成する界磁と電機子とをともに超電導コイルや超電導バルクを用いて形成した場合、界磁と電機子とをともに超電導電流を流すことが可能な程度の極低温に冷却する必要がある。したがって両者を冷却するための設備が必要となるが、このような設備は構成が複雑となるとともに、コスト高を招くことがある。
【0004】
また、たとえ界磁と電機子との両方を、適切な設備を用いて冷却することができたとしても、ロータの回転軸と、ロータの回転を出力するための出力軸とが機械的に直結していれば、出力軸は室温中に配置されていることから、外部の熱が出力軸を介してロータへと伝わり、界磁や電機子を冷却する効率が低下する可能性がある。具体的には、出力軸に接続され、室温下に配置された負荷にたとえば切削工具などが接続されており、当該負荷が回転することにより切削工具が駆動するなどの動作を行なった際には、当該切削工具が発熱することがある。ここでロータの回転軸と、負荷に接続される出力軸とが機械的に直結していれば、負荷の配置された外部雰囲気からの熱や、上記切削工具の発熱が、出力軸(回転軸)を伝わり、容易に界磁や電機子に伝達する。このようにして界磁や電機子に外部から熱が伝わる状態となると、これらを極低温に冷却した状態を保つことが困難になり、冷却の効率が低下する。
【0005】
そこで、たとえば以下の特許文献1においては、ロータの回転軸と、負荷に接続される出力軸とを分割し、ロータの回転軸と出力軸との間に磁気カップリングを配置して、ロータの回転を負荷側の出力軸に伝える電力発生装置が開示されている。この場合、ロータの回転軸と負荷に接続される出力軸とは機械的に不連続であるため、負荷が有する熱が出力軸を伝ってロータ側に伝達される可能性を小さくすることができる。
【特許文献1】特開2004−23921号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の図3において開示されている動力または電力発生装置は、負荷に接続される動力伝達軸について、ロータの回転軸として用いられる回転体と機械的に不連続であるため、これらの軸を伝って負荷から回転体へ熱が伝達する可能性は小さい。しかし、当該装置は、ロータの回転体の延在方向に対して交差する方向における断面の外周部(ロータの回転体の外周側面)に配置される超電導バルクを冷却する必要があるため、当該超電導バルクが配置されたロータの回転体全体を収納するように真空断熱槽を形成する必要がある。また、真空断熱槽の内部には当該回転体のほかにも超電導コイルなどが備えられているため、当該真空断熱槽の内部空間は非常に大きい。このため、真空断熱槽の内部空間を冷却するためには大きな容量の冷却機(冷凍機)を用いる必要がある。
【0007】
また、当該装置は、超電導バルクを有する回転体と、負荷に連なる動力伝達軸に接続された外筒とが、ベアリングにより接続されている。当該ベアリングにより、動力伝達軸や外筒は、回転体に対して、回転体の延在方向軸周りに自由に回転することが可能となっている。また、回転体の超電導バルクと、外筒の内周部に配置される永久磁石との磁気カップリングを利用して、回転体が回転すれば外筒および外筒に接続された動力伝達軸が回転する構成となっている。
【0008】
上記のような構成の従来の装置では、超電導バルクを磁気カップリングに利用している。そのため、たとえば超電導バルクに、真空断熱槽の外部の熱が何らかのトラブルなどにより伝わり当該超電導バルクの温度が上昇すると、超電導バルクが超電導体として機能しなくなる場合が考えられる。この場合、回転体の回転が動力伝達軸に伝わらなくなり、当該装置が正常に動作しなくなるという問題が起こりうる。
【0009】
本発明は、以上の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、超電導部材への熱の伝達をより抑制し、耐久性の高いロータおよびモータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るロータは、モータに用いるロータであり、ロータ軸と、上記ロータ軸の、回転軸に交差する断面における中央部分から放射状に延びるロータコアと、ロータコアに巻回された超電導コイルとを備える。上記ロータコアは、回転軸の方向における一方の端部に、当該回転軸の方向に突出した突出部を含む。
【0011】
本発明に係るロータでは、ロータコアが回転軸の方向に突出した突出部を含んでいるので、超電導コイルに電流を流して磁界を発生させた場合に、当該突出部も磁石として作用させることができる。
【0012】
このようなロータコアの突出部は超電導コイルのように冷却する必要は無く、たとえば温度条件を室温としておいてもよい。そして、このような磁石として作用する突出部は、上記ロータを組み込んだモータにおいて、出力軸とロータ軸とを磁気的に接続するための磁気カップリングを構成するロータ側の磁石部として用いることができる。このため、磁気カップリングを構成する出力軸側の磁石部と対向する位置に超電導コイルを直接配置する場合より、磁気カップリングから超電導コイルを離れた位置に配置することができる。したがって、出力軸の温度が外乱の影響で高くなった場合にも、当該出力軸の温度の影響を超電導コイルが受ける可能性を低くすることができる。この結果、本発明によるロータを用いれば、外部からの熱(外乱)に対する耐久性の高いモータを実現することができる。
【0013】
また、本発明に係るロータは、ロータ軸の、回転軸に交差する断面における中央部分から放射状に延びるロータコアに巻回された超電導コイルの近傍の領域を冷却するだけで、超電導コイルを超電導状態にすることができる。このため、超電導コイルに超電導電流を流し、電磁石としての機能を発揮させることが可能となる。したがって、冷却が必要な空間の領域を少なくすることができる。冷却が必要な空間の領域を少なくすることができるため、当該ロータを用いたモータなどの電力発生装置の設備の構成を簡略化(小型化)することができ、設備のコストを低減することができる。
【0014】
本発明に係るロータを用いたモータなどの動力または電力発生装置は、ロータコアの突出部と、負荷に接続された出力軸側の磁石部との磁気カップリングを用いてたとえば負荷に接続された出力軸に回転を伝える構成となる。突出部はロータの超電導コイルから離れた領域に配置されるため、超電導コイルは磁気カップリングから離れた領域に配置される。したがって、負荷の発熱が超電導コイルに伝達することにより、超電導コイルの機能を阻害する(たとえば超電導コイルの温度が上昇することにより超電導状態を維持できなくなる)可能性を小さくすることができる。
【0015】
本発明に係るモータは、ロータと、ロータの周囲に配置されたステータと、ロータの回転を出力するための出力軸とを備える。上記ロータは、ロータ軸と、上記ロータ軸の、回転軸に交差する断面における中央部分から放射状に延びるロータコアと、上記ロータコアに巻回された超電導コイルとを含む。上記ロータコアは、上記回転軸の方向における一方の端部に、上記回転軸の方向に突出した突出部が形成され、さらに、上記ロータから上記出力軸へ回転を伝達するためのロータの突出部をロータ側の磁石部として用いる磁気カップリングを備える。
【0016】
本発明に係るロータを用いたモータなどの電力発生装置は、ロータコアの突出部と、負荷に接続された出力軸側の磁石部との磁気カップリングを用いて負荷に回転を伝える構成となっている。突出部はロータの超電導コイルから離れた領域に配置されるため、超電導コイルは磁気カップリングから離れた領域に配置される。したがって、負荷の発熱が超電導コイルに伝達することにより、超電導コイルの機能を阻害する可能性を小さくすることができる。
【0017】
上記モータでは、上述した磁気カップリングにおいて、出力軸側の磁石部は、ロータ側の磁石部に対して、回転軸の方向において対向するよう配置されていることが好ましい。このような構成とすれば、出力軸側の磁石部を、その面積がロータ側の磁石部の、出力軸側の磁石部と対向する領域の面積と略等しくなるように配置することができる。この結果、ロータ側の磁石部に対して、ロータの回転軸から見て外周側(ロータの回転軸に交差する断面における中央部分から放射状に延びる半径方向での外側)に出力軸側の磁石部を配置する場合より、磁気カップリングのサイズ(上記半径方向における径)を小さくすることができる。このため、磁気カップリングおよびモータのサイズが大きくなることを抑制できる。
【0018】
上記モータでは、磁気カップリングにおいて、出力軸側の磁石部は、ロータ側の磁石部に対して、回転軸に交差する断面におけるロータの中央部分から放射状に延びる方向において対向するよう配置されていてもよい。このようにすれば、出力軸側に配置する磁石部の、回転軸の方向における長さ(つまりロータ側の磁石部と対向する領域の長さ)を自在に調節することができる。このため、調節した磁石部の長さに応じて、磁気カップリングにおけるロータ側の磁石部と出力軸側の磁石部との磁気的な結合力を調整することができる。そのため、磁気カップリングによるロータの回転を出力軸に伝達する場合の、ロータと出力軸との結合強さを自在に調節することができる。したがって、ロータの回転を出力軸に確実に伝達することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、超電導部材への熱の伝達をより抑制し、外乱に対する耐久性の高いロータおよびモータを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の各実施の形態について説明する。なお、各実施の形態において、同一の機能を果たす要素には同一の参照符号を付し、その説明は、特に必要がなければ繰り返さない。
【0021】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1の一の局面に係るモータの概略構成図である。図2は、図1の線分II−IIにおける概略断面図である。図3は、図1において省略されたステータ20の概略斜視図である。図4は、図1におけるロータ10の概略斜視図である。
【0022】
図1〜図4を参照して、本発明の実施の形態1に係るモータ100は、回転子であるロータ10と、ロータ10の周囲に配置されたステータ20とからなるモータ本体部30と、ロータ10の回転を出力するための出力軸51とを備える。ロータ10は、回転軸18の長軸方向に延びる外周面の周囲に形成されたロータ軸16を含む。また、ロータ10は、ロータ軸16の、回転軸18に交差する断面における中央部分(回転軸18が配置されている領域)から放射状に、ロータ軸16の外周面から突出するように延びるロータコア13と、ロータコア13に巻回されたロータコイル11とを含んでいる。
【0023】
ロータコア13には、回転軸18の延在方向(図1における左右方向)における一方の端部(図1における左側)において、回転軸18の延在方向、より具体的には出力軸51の配置される方向に突出した突出部14が形成されている。
【0024】
ロータ10と間隔を隔てて、出力軸51が配置されている。ロータ10の回転中心軸と出力軸51と回転中心軸とは重なるように、ロータ10および出力軸51は配置されている。出力軸51の延在方向における一端には、ロータ10の回転を出力軸51へ伝達するための磁気カップリングを構成する磁石部を配置するための負荷側土台34が配置されている。負荷側土台34の主表面がロータ10の回転軸18に交差する方向を向くように、負荷側土台34は配置されている。負荷側土台34の、ロータ10と対向する主表面上には、突出部14のうち、負荷側土台34と対向する端面である突出部端面15と対向する永久磁石33a、33bが配置されている。永久磁石33aでは、突出部端面15と対向する部分がN極となっており、永久磁石33bでは突出部端面15と対向する部分がS極となっている。なお、ここで主表面とは、表面のうち最も面積の大きい面をいうこととする。また、出力軸51の、負荷側土台34が配置される側と反対側の一端には、ロータ10の回転が出力軸51に伝達されることにより回転する負荷50が接続されている。
【0025】
ロータ10の周囲に配置された、モータ本体部30の固定子としてのステータ20にも、ステータコイル21と呼ばれる、ロータ10を回転軸18周りに回転させるためのコイル状の部材が形成されている。図2に示すように、ステータ20は上述したステータコイル21と、ステータコイル21を取り囲むように存在するステータ20の本体部分であるステータコア23と呼ばれる部分とから構成される。ステータコイル21としては、超電導コイルを用いてもよく、この場合には図2に示すように冷却容器の内部にステータコイル21は配置される。当該冷却容器は、ステータコア23の一部が配置されるようにステータコイル21のコイル中心において開口部を有している。
【0026】
なお、図1においては、図を見やすくするためステータ20は記載を省略しており、ステータ20の外枠部分であるステータコア23についてのみ点線で図示している。また、図3においては、ステータコア23の記載が省略されているが、ステータコイル21の周囲に(取り囲むように)ステータコア23が配置されるとともに、ステータコイル21のコイル中心部を貫通するようにステータコア23の一部が配置されている。
【0027】
モータ本体部30のロータ10を構成する回転軸18と、負荷50が接続された出力軸51とは、ベアリング35により、モータ100の本体をなす、図1において図示しない外枠部材に接続される。なお、図1においてベアリング35は、配置を理解しやすくするため、断面図状に描写している。
【0028】
図1、図3、図4においては、ロータ10のロータ軸16から4本のロータコア13が放射状に延びているが、ロータコア13の本数はたとえば6本、8本、3本など任意の本数とすることができる。同様に、図2、図3においては、ステータコイル21およびステータコイル21のコイル中心を貫通するステータコア23の一部は6本配置されているが、たとえば4本、8本、3本など任意の本数とすることができる。
【0029】
ロータ10の各ロータコア13に巻回されたロータコイル11としては、超電導コイルを用いることが好ましい。ロータコイル11に超電導コイルを用いれば、たとえば通常の銅線のコイルを用いた場合に比べて、ロータコイル11に流す電流値を大きくすることができる。このため、ロータコイル11に流れる電流が発生する磁場を大きくすることができ、ロータ10の回転力を大きくすることができる。その結果、モータ100の駆動能力を向上することができる。なお、ステータ20に備えられたステータコイル21に流れる電流が発生する磁場の大きさは、上述したロータコイル11に流れる電流が発生する磁場の大きさに比べて、負荷50に伝達する回転の出力の強さに与える影響は小さい。したがって、ステータコイル21には上述のように超電導コイルを用いてもよいが、たとえば通常の銅線のコイルを用いてもよい。ステータコイル21に通常の銅線のコイルを用いれば、後述するコイルを冷却する領域を少なくすることができるため、冷却装置を小型化することができる。
【0030】
ロータコア13がたとえば鉄塊で形成されている場合、当該ロータコア13に巻回されたロータコイル11(超電導コイル)に直流電流を流すと、ロータコア13は電磁石として機能する。ここでは直流電流を流しているため、ロータコア13により形成される電磁石の極性は時間変化せず、たとえば図1に示す上側と下側に存在するロータコア13には電磁石のS極であるロータコアS極13bが発生し、図1に示す中央部分に存在するロータコア13には電磁石のN極であるロータコアN極13aが発生する。後述する交流モータとしての駆動能力を高めるために、たとえば図2の断面図においてロータコア13の配置される円周上にて隣接されるロータコア13同士は互いに逆の極性を発生した配置とすることが好ましい。
【0031】
このとき、ロータコア13の周囲に配置されたステータコイル21に交流電流を流すと、ステータコイル21に発生する電磁石は交流電流の流れる向きにより極性が周期的に時間変化する。ステータコイル21の極性の変化により、各ステータコイル21は、各ロータコア13に対して反発力と吸引力とを交互に繰返し及ぼすことになる。この結果、ロータコア13が回転軸18周りに回転する。モータ100はこのように、ロータコイル11に直流電流、ステータコイル21に交流電流を流すことによりロータコイル11を回転させる交流モータであることが好ましい。
【0032】
そして、図1に示すようにロータコア13はたとえば図2に示す回転軸18に交差する断面図における、中央部分から放射状に4本延在している。そして、図1、図4に示すように、ロータコア13の径方向外周部では、回転軸18の延びる方向における端部から外側へ、回転軸18の延びる方向に延在する突出部14が形成されている。当該突出部14の先端部は、ロータ10から出力軸51へ回転を伝達するための磁気カップリングを構成する。この突出部の端部を構成する突出部端面15は負荷50側、より具体的には図1に示すように、負荷50側の出力軸51に接続された負荷側土台34の、永久磁石33a、33bが配置された一方の主表面と対向する。回転軸18の径方向における突出部端面15の幅は、当該突出部端面15とロータコア13との間に位置する突出部14の部分における上記径方向における幅より広くなっている。
【0033】
図1に示すように各ロータコア13の上端部(回転軸18に対する径方向外周部)は各極性に磁化されており、ロータコアN極13aおよびロータコアS極13bとなっている。これらの極性は突出部14や突出部端面15にも及ぶため、各ロータコア13の突出部14や突出部端面15はロータ10側の磁石部として用いられる。ここで、上述したように、出力軸51側には出力軸51側の磁石部としての永久磁石33a、33bが備えられている。そのため、これら永久磁石33a、33bが、突出部端面15に対して、回転軸18の方向において対向するように配置されれば、当該突出部14と永久磁石33a、33bとは磁気カップリングとしての機能を有することになる。すなわち、図1に示すようにロータコアN極13aの突出部端面15は永久磁石33bのS極と互いに吸引し合い、ロータコアS極13bの突出部端面15は永久磁石33aのN極と互いに吸引し合う。したがって、ロータ10の回転により突出部端面15が回転軸18周りに回転すると、突出部端面15に吸引されている永久磁石33a、33bが突出部端面15と同様に回転軸18の延在方向周りに回転する。負荷側土台34は突出部端面15と対向し、出力軸51は回転軸18の延在方向に揃うように配置されている。以上より、負荷側土台34や出力軸51が、ロータ10の回転に同期して回転し、負荷50にも同様の回転が伝達される。
【0034】
以上のように、突出部端面15と永久磁石33a、33bとの吸引力により、ロータ10の回転が出力軸51(負荷50)に伝達されるため、モータ本体部30および出力軸51(負荷50)側との間では非接触の状態を保つことができる。ここで、通常負荷50は室温下に配置されるため、仮にモータ本体部30と出力軸51(負荷50)とが機械的に直結されていれば、負荷50の熱が、モータ本体部30のたとえば超電導コイルからなるロータコイル11に伝達する可能性がある。さらに、たとえば負荷50に切削工具などが接続されている場合、当該切削工具が加工を行なうことにより発生する熱が、上述したようにモータ本体部30のたとえば超電導コイルからなるロータコイル11に伝達する可能性がある。しかし、モータ100においては上述したように負荷50が熱を有し、この熱が負荷50から出力軸51を伝って負荷側土台34や、負荷側土台34の主表面上の永久磁石33a、33bに伝達したとしても、モータ本体部30と出力軸51(負荷50)側との間では非接触の状態が保たれているため、この熱がモータ本体部30の突出部端面15やロータコア13などに伝達する可能性を低減することができる。このため、ロータコイル11に超電導コイルを用いている場合において、当該ロータコイル11に熱が伝達することにより当該ロータコイル11(超電導コイル)の動作に影響を及ぼす可能性を低減することができる。
【0035】
また、モータ100においては、突出部端面15と永久磁石33a、33bとの吸引力(磁気カップリング)により、負荷50や出力軸51を回転させている。このため、たとえロータコイル11に超電導コイルを用いたとしても、当該磁気カップリングの領域には超電導部材が用いられていない。したがって、たとえ負荷50側の熱がモータ本体部30側に伝達したとしても、負荷50側からモータ本体部30側へ熱を伝達する入口部に該当する磁気カップリングの領域には超電導部材が存在しない。超電導部材で構成されるロータコイル11が配置されているのは、突出部端面15から、回転軸18の方向に延在するロータコア13の一部の領域を経た領域であり、磁気カップリングの領域から離れた箇所である。このため、たとえ負荷50側の熱がモータ本体部30側に伝達したとしても、これがロータコイル11に到達する可能性は小さい。したがって、上述したように磁気カップリングに直接超電導コイルを用いない構成とすることにより、超電導コイル部分が外部の熱により動作を阻害される可能性を低減することができる。
【0036】
さらに、たとえ負荷50側の熱が突出部端面15から、ロータコア13の内部を伝達してロータコイル11(超電導コイル)に達する不具合が発生したとしても、たとえば図1における突出部端面15からロータコイル11までの距離を示す制御距離36をより長く設計することで、突出部端面15の熱がロータコイル11に到達することを抑制することができる。このように、制御距離36の設計の自由度を向上することができるとともに、制御距離36の設計値に応じて、ロータコイル11に外部の熱が到達する可能性をより抑制することができる。
【0037】
図5は、モータ100に用いられる超電導コイルを冷却するコイル冷却容器の概略斜視図である。図2の断面図に示すように、モータ100に用いられるロータコイル11である超電導コイルは、およそロータコア13がロータ軸16から放射状に延びる領域に巻回されている。図5に示した冷却容器の内部には、ロータコイル11を冷却するための冷却材が配置されている。つまり、図2においてロータコイル11が配置されている領域の大部分は、ロータコイル11を冷却する冷媒を配置する領域に当てることができる。
【0038】
この、図2においてロータコイル11が配置されている領域の大部分、すなわち4本のロータコア13が貫通する開口部を有し、ロータ軸16の側面を囲むように図5に示すコイル冷却容器17を配置することが好ましい。コイル冷却容器17としてはたとえば液化したヘリウムを減圧することにより冷却したクライオスタットを用いることが好ましい。このコイル冷却容器17を図2および図5に示すように、ロータコア13の周囲に巻回されたロータコイル11(図5においてはコイル冷却容器17に収容されているため図示せず)の周囲を取り囲むような配置となるよう構成する。
【0039】
図2に示すように、冷却する必要のあるロータコイル11が配置されているのは、ロータコア13がロータ軸16から放射状に延びる領域のみであり、モータ本体部30全体のごく一部の領域である。また、磁気カップリングの領域を冷却する必要もない。したがって、図5に示すような、当該領域の周囲のみを取り囲むような配置とされたコイル冷却容器17を用いることにより、コイル冷却容器17の容積をコンパクトにすることができる。コイル冷却容器17は、磁気カップリングに関与するロータコア13の突出部端面15は冷却しない。またその他、たとえば回転軸18やステータ20など、超電導部材が配置されない領域を冷却する構成とはなっていない。このため、冷媒を供給する設備として、たとえばモータ本体部30の全体を冷却するような大掛かりな設備は必要なく、設備の構成を簡略化(小型化)することができ、設備のコストを低減することができる。
【0040】
さらに、図5に示すコイル冷却容器17は、たとえばロータコイル11として超電導コイルでないコイルを用いる場合や、ロータコイル11として超電導コイルを用いる場合における冷却温度を変更、調整する場合に取外したり、別の同様の態様を有するコイル冷却容器17と交換したりする作業を容易に行なうことができる。つまり、他のロータ10やステータ20が配置された各領域に影響を与えることなく、円筒状の形状を有するクライオスタットを交換ないし取外すだけで、容易に所望の作業を行なうことができる。
【0041】
図6は、本発明の実施の形態1の他の局面に係るモータの概略構成図である。図6に示すモータ200は、図1に示すモータ100と基本的に同様の態様を備えている。しかし、ロータコア13の突出部14の形状がモータ100と異なる。この点においてのみ、モータ200はモータ100と異なる。なお、図6においてはステータ20(ステータコア23)の記載を省略している。
【0042】
モータ100における突出部14は、図1、図4に示すように、他の領域に比べて構造体の(回転軸18の径方向における)幅が小さくなっており、コの字型の形状を有することが好ましい。このようにすれば、磁気カップリングを構成する永久磁石33a、33bと対向する突出部端面15の面積を大きくできるので、磁気カップリングにおける突出部端面15と永久磁石33a、33bとの磁気的な結合力をより高めることができる。ただし、モータ200のようにこのような形態をとらず、図6に示すように、突出部14においても他の領域と略等しい構造体の幅を有する構成としてもよい。ロータコア13はたとえば鉄塊などの磁性体であるため、図6に示す突出部14の形状を有するモータ200においても、図1に示す突出部14の形状を有するモータ100と同様の磁気カップリング特性を示し、モータとして同様の作用効果を奏する。
【0043】
また、たとえば突出部14を図6のモータ200のような形状にした場合においても、たとえば鉄を鋳造することにより、図1のモータ100の突出部14のようなコの字型の形状を有する鋳造体を形成し、モータ200の突出部14に当該鋳造体を取り付けることにより、容易に図1のモータ100の突出部14と同様の機能を付与することができる。
【0044】
(実施の形態2)
図7は、本発明の実施の形態2の一の局面に係るモータの概略構成図である。図7に示すモータ300は、図1に示すモータ100と基本的に同様の態様を備えている。しかし、永久磁石33a、33bの配置の態様がモータ100と異なる。すなわち、永久磁石33a、33bは、ロータコア13の突出部14に対して、回転軸18に交差する断面におけるロータ10の中央部分から放射状に延びる方向において対向するよう配置されている。より具体的には、永久磁石33a、33bは、回転軸18に沿った方向における突出部14の表面に対向するように配置されている。ここでも永久磁石33a、33bは、突出部14に対して非接触の状態を保っている。なお、図7においてはステータ20(ステータコア23)の記載を省略している。また、図を簡略化するため、図7においては突出部14の形状は上述した図6に示すモータ200の突出部14と同様の態様としているが、上述した図1に示すモータ100の突出部14と同様の態様としてもよい。
【0045】
なお、図7において永久磁石33a、33bは、ロータコアN極13aおよびロータコアS極13bの両方の主表面上から、ロータコアN極13aおよびロータコアS極13bを挟むように1対の平板状のものが配置されている。しかし、ロータコアN極13aおよびロータコアS極13bの突出部14の、回転軸18の方向における表面の全体を外側から覆う筒状に永久磁石33a、33bが配置されていてもよい。
【0046】
上述したモータ100のように、永久磁石33a、33bが突出部端面15に対して、回転軸18の方向において対向するよう配置されている場合は、負荷側土台34の主表面のうち、突出部端面15と対向する領域に永久磁石33a、33bを配置することにより、突出部端面15と永久磁石33a、33bとの磁気カップリングにより出力軸51(負荷50)側に回転を与えることができる。すなわち、永久磁石33a、33bを突出部14より外周側に配置する必要が無いので、磁気カップリングの幅(回転軸18に対する径方向における幅)をロータの当該幅より大きくする必要がない。
【0047】
これに対して、モータ300のように、永久磁石33a、33bが、突出部14において回転軸18の延在する方向に延びる表面に対向する配置とすれば、突出部14の表面を取り囲むように永久磁石33a、33bを配置することができる。このためモータ300は、モータ100に比べて永久磁石33a、33bが突出部14と対向する領域を広くすることができる。当該領域を自在に広くすることができる上、永久磁石33a、33bが突出部14の表面を取り囲むように配置されるため、両者の間の磁気カップリングによる吸引力を強化することができる。したがって、ロータ10の回転をより確実に出力軸51(負荷50)側に伝達することが可能となる。
【0048】
さらに、当該吸引力を所望の値に調整するため、永久磁石33a、33bを配置する領域の面積を自在に調整することにより、磁気カップリングによる吸引力を設計する自由度を向上することができる。
【0049】
図8は、本発明の実施の形態2の他の局面に係るモータの概略構成図である。図8に示すモータ400は、図7に示すモータ300と基本的に同様の態様を備えている。しかしモータ400は、図1に示すモータ100に永久磁石33a、33bが配置された領域と、図3に示すモータ300に当該永久磁石33a、33bが配置された領域との両方に当該永久磁石が配置された構成となっている。このようにすれば、当該永久磁石がロータコア13に対して磁気カップリングによる吸引力を及ぼす領域をさらに広く、かつ強固なものとすることができる。このためモータ400は、ロータ10の回転をより確実に出力軸51(負荷50)側に伝達することが可能となる。
【0050】
なお、図8においてもステータ20(ステータコア23)の記載を省略している。また、図を簡略化するため、図8においても突出部14の形状は上述した図6に示すモータ200の突出部14と同様の態様としているが、モータ100の突出部14と同様の態様としてもよい。さらに、図8のモータ400においても、永久磁石33a、33bは回転軸18の方向における突出部14を両側から挟む1対の平板状に配置しているが、回転軸18の方向における突出部14の全体を覆う筒状に配置していてもよい。
【0051】
本発明の実施の形態2は、以上に述べた各点についてのみ、本発明の実施の形態1と異なる。すなわち、本発明の実施の形態2について、上述しなかった構成や条件、手順や効果などは、全て本発明の実施の形態1に順ずる。
【0052】
今回開示された各実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、超電導部材への熱の伝達をより抑制し、より強い動力を伝達する技術として、特に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施の形態1の一の局面に係るモータの概略構成図である。
【図2】図1の線分II−IIにおける概略断面図である。
【図3】図1において省略されたステータ20の概略斜視図である。
【図4】図1におけるロータ10の概略斜視図である。
【図5】モータ100に用いられる超電導コイルを冷却するコイル冷却容器の概略斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態1の他の局面に係るモータの概略構成図である。
【図7】本発明の実施の形態2の一の局面に係るモータの概略構成図である。
【図8】本発明の実施の形態2の他の局面に係るモータの概略構成図である。
【符号の説明】
【0055】
10 ロータ、11 ロータコイル、13 ロータコア、13a ロータコアN極、13b ロータコアS極、14 突出部、15 突出部端面、16 ロータ軸、17 コイル冷却容器、18 回転軸、20 ステータ、21 ステータコイル、23 ステータコア、30 モータ本体部、33a,33b 永久磁石、34 負荷側土台、35 ベアリング、36 制御距離、50 負荷、51 出力軸、100,200,300,400 モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータに用いるロータであり、
ロータ軸と、
前記ロータ軸の、回転軸に交差する断面における中央部分から放射状に延びるロータコアと、
前記ロータコアに巻回された超電導コイルとを備え、
前記ロータコアは、前記回転軸の方向における一方の端部に、前記回転軸の方向に突出した突出部を含む、ロータ。
【請求項2】
ロータと、
前記ロータの周囲に配置されたステータと、
前記ロータの回転を出力するための出力軸とを備え、
前記ロータは、
ロータ軸と、
前記ロータ軸の、回転軸に交差する断面における中央部分から放射状に延びるロータコアと、
前記ロータコアに巻回された超電導コイルとを含み、
前記ロータコアは、前記回転軸の方向における一方の端部に、前記回転軸の方向に突出した突出部が形成され、さらに、
前記ロータから前記出力軸へ回転を伝達するため、前記ロータの前記突出部を前記ロータ側の磁石部として用いる磁気カップリングを備える、モータ。
【請求項3】
前記磁気カップリングにおいて、前記出力軸側の磁石部は、前記ロータ側の磁石部に対して、前記回転軸の方向において対向するよう配置されている、請求項2に記載のモータ。
【請求項4】
前記磁気カップリングにおいて、前記出力軸側の磁石部は、前記ロータ側の磁石部に対して、前記回転軸に交差する断面における前記ロータの中央部分から放射状に延びる方向において対向するよう配置されている、請求項2に記載のモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−154682(P2010−154682A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330926(P2008−330926)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】