説明

ロータリダンパ

【課題】 大きな減衰力の発生を可能にして四輪車両への利用に向く一方で、規模を小さくしての利用も可能にする。
【解決手段】 車両における車体側あるいは車輪側に連結されるケース1と、車両における車体側あるいは車輪側に連結されながらケース1に連繋される基軸2と、ケース3内に収容されて基軸2に連結されながらケース1内で基軸2を回動中心にして回動する二翼以上の翼部32を有するベーン3と、ケース1に設けられてベーン3の回動を規制するストッパ4と、ケース1あるいはベーン3に保持される磁界発生手段5と、ケース1内に充満されるMR流体とを有してなるロータリダンパにおいて、磁界発生手段5とケース1あるいはベーン3との間にMR流体を通過させる通路を設け、この通路が磁界発生手段5によって形成される磁界内に位置決められてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ロータリダンパに関し、特に、作動流体にMR流体(Magneto‐Rheological Fluid;磁性流体)を利用して車両用とされるロータリダンパの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に対する人や車椅子の乗降には、車両における低床化が好ましいが、この車両における低床化を図る上では、懸架装置に利用されるダンパが筒型とされるよりもロータリ型とされる方が有利になる。
【0003】
一方、作動流体にMR流体を利用するロータリダンパとしては、これまでに種々の提案があるが、その中で、たとえば、特許文献1には、ハウジング内に一翼型のベーンを有するロータリダンパが開示されている。
【0004】
すなわち、この文献開示のロータリダンパは、ハウジングたる平面視を扇形にするケース内に側面視を矩形にする板状に形成のベーンを有し、このベーンが軸を回動中心にして回動すると共に、ケース内にMR流体を充満させている。
【0005】
そして、このロータリダンパは、ベーンの上下端とこれが対向するケースの上下端との間にMR流体を通過させる通路を出現させ、この通路をベーンが内蔵する磁界発生手段で磁界内におき、この通路を通過するMR流体の粘性を変更する。
【0006】
それゆえ、この文献開示のロータリダンパにあっては、ベーンが内蔵する磁界発生手段によって磁界強度を制御することで、任意の減衰作用を具現化し得る。
【特許文献1】特開2005‐172096公報(要約、請求項2、請求項3、請求項4、明細書中の段落0005、同0006、同0012、図1参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した文献開示の提案にあっては、磁界発生手段による磁界強度の制御で任意の減衰作用を具現化し得る点で、基本的に問題がある訳ではないが、利用の実際にあって、些かの不具合があると指摘される可能性がある。
【0008】
すなわち、上記した文献開示のロータリダンパは、二輪車のステアリング装置を構成するものとして提案されており、したがって、二輪車のライダーたる人の操作力を超えない範囲内での減衰力を発生させる場合の利用に向く。
【0009】
一方、上記のロータリダンパで大きい減衰力を発生させるには、全体を大きくするように構成すれば良いとも思考し得るが、全体が大型化される場合には、車両への搭載性を悪くし、たとえば、前記した車両における低床化を図る四輪車両の懸架装置への利用に向かなくなる。
【0010】
そして、ベーンの上下端とケースの上下端との間に磁界を出現させるから、大きい減衰力を発生させるには、磁性材料が大きくなる分、重量が大きくなる不具合の招来が懸念される。
【0011】
このことから、四輪車両用としての利用に向く一方で、規模を小さくするなどの場合には、二輪車用などの他への利用にも向くロータリダンパの提案が望まれているのが現状である。
【0012】
この発明は、このような現状を鑑みて創案されたものであって、その目的とするところは、大きな減衰力の発生を可能にして四輪車両への利用に向く一方で、規模を小さくしての利用も可能にして、その汎用性の向上を期待するのに最適となるロータリダンパを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した目的を達成するために、この発明によるロータリダンパの構成を、基本的には、車両における車体側あるいは車輪側に連結されるケースと、車両における車体側あるいは車輪側に連結されながらケースに連繋される基軸と、ケース内に収容されて基軸に連結されながらケース内で基軸を回動中心にして回動する二翼以上の翼部を有するベーンと、ケースに設けられてベーンの回動を規制するストッパと、ケースあるいはベーンに保持される磁界発生手段と、ケース内に充満されるMR流体とを有してなるロータリダンパにおいて、磁界発生手段とケースあるいはベーンとの間にMR流体を通過させる通路を設け、この通路が磁界発生手段によって形成される磁界内に位置決められてなるとする。
【発明の効果】
【0014】
それゆえ、この発明にあっては、磁界発生手段とケースあるいは二翼以上の翼部を有するベーンとの間にMR流体を通過させる通路を設け、この通路が磁界発生手段によって形成される磁界内に位置決められるから、通路を通過するMR流体の粘性を変化させて減衰作用を具現化する箇所を複数有することになり、たとえば、四輪車両における懸架装置に利用する場合に必要となる大きい減衰力の発生を可能にし得る。
【0015】
そして、磁界発生手段の制御如何で発生減衰力の高低調整を可能にするから、あるいは、磁界発生手段の選択を可能にするから、また、全体規模を小さく構成して人の操作力の範囲内での減衰作用の具現化を可能にするから、たとえば、四輪車両における懸架装置に利用する場合に比較して、小さい減衰力発生で足りる二輪車におけるステアリング装置などへの利用を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、図示した実施形態に基づいて、この発明を説明するが、この発明によるロータリダンパは、たとえば、四輪車両における懸架装置を構成するダンパとしての利用に向くとし、図1に示すように、ケース1と、基軸2と、ベーン3と、ストッパ4と、磁界発生手段5とを有し、さらには、ケース1内に充満されるMR流体を有してなる。
【0017】
ケース1は、車両における車体側あるいは車輪側に固定的に連結されるもので、形状としては、平面視で円形になる内空部を有するように形成され、図示しないが、外部からの作動流体たるMR流体の内空部内への注入を可能にする構成を有してなる。
【0018】
そして、このケース1は、図示しないが、内空部に連通するアキュムレータを有し、内空部に収容のMR流体における体積が膨張するときに、その膨張分のMR流体に流入させ、また、何らかの理由で内空部のMR流体の量が不足する傾向になるとき、これを補うとしている。
【0019】
また、このケース1は、後述する磁界発生手段5による磁界を形成する要素とされるから、磁性体からなるのを基本とするが、円形の内空部を形成する部位だけが磁性体で形成され、他部は、非磁性体たるアルミ材などで形成されて、軽量化を図るとしても良い。
【0020】
このケース1において、内空部が円形とされるのは、後述するベーン3が内空部で回動するからであり、したがって、図示しないが、外形については任意の形状とされて良いが、多くの場合に、車両における車体側あるいは車輪側への連結を可能にするブラケット類が設けられるであろう。
【0021】
さらに、内空部を円形にする方策としては、種々の方策を考慮し得るが、たとえば、図示しないが、鍋状に形成される本体部に円板に形成される蓋部を液密構造下に被せるようにして連設しても良く、この場合には、たとえば、上記のブラケット類が本体部に設けられるであろう。
【0022】
なお、ケース1内に充満されるMR流体は、強磁性金属微粒子を媒体となる液体中に高濃度で分散させたスラリーで、外部磁場により磁化された粒子同士が強く引きつけ合うことで高粘度になる。
【0023】
基軸2は、上記のケース1が連結される側の反対側となる車両における車体側あるいは車輪側に連結されながらケース1に連繋されるもので、ケース1の外に突出する先端部には、図示しないが、たとえば、リンク部材の基端部が固定的に連結され、このリンク部材の先端部が車体側あるいは車輪側に枢着される。
【0024】
そして、この基軸2にあっては、基端部がケース1内たる上記の内空部に臨在されて、ベーン3を連結させるが、具体的な連結手段については、任意の構成が選択されて良い。
【0025】
ただ、ベーン3は、この基軸2と同期して回動するのが肝要とされるから、また、組立性などを考慮すると、たとえば、図示するようにスプライン構造の利用下に連結されるのが好ましいであろう。
【0026】
また、この基軸2は、強度部材とされて、出力軸あるいは入力軸とされるが、磁界発生手段5による磁界を形成する要素とされなくて良いから、この限りでは、非磁性体で形成されても良い。
【0027】
もっとも、このロータリダンパにあって、この基軸2も磁界発生手段5による磁界を形成する要素とする場合には、当然のことながら、磁性体で形成されるであろう。
【0028】
ベーン3は、ケース1内に収容されて基軸2に連結されながらケース1内で基軸2を回動中心にして回動可能とされるもので、前記したケース1と同様に、磁性体からなり、磁界発生手段5による磁界を形成する要素とされ、この発明では、二翼以上の翼部32を有してなる。
【0029】
ベーン3が二翼以上の翼部32を有することで、このベーン3が他部との間に形成するMR流体を通過させるための通路を二箇所以上設けることを可能にし、前記した文献開示のロータリダンパのように、一翼のベーンを有するが故にMR流体を通過させる通路を上下の二箇所にする場合に比較して、大きい減衰力の発生を可能にし得ることになる。
【0030】
一方、ベーン3は、上記した基軸2に連結される筒状に形成の基部31と、この基部31の外周に一体に連設されて側面視を矩形にする板状に形成の翼部32と有し、この翼部32が二以上とされ、図1に示すところでは、二翼とされる翼部32の軸線が基部31の中心を通過する直線になるとしている。
【0031】
そして、このベーン3は、ケース1内の内空部に配在されることで、この内空部を二分割すると共に、後述するストッパ4の配在もあって、部屋R1,R2およびR3,R4を画成している。
【0032】
なお、ベーン3は、前記したように、磁界発生手段5による磁界を形成する要素とされるから、磁性体からなるとしているが、この場合に、基部31はともかくとして、翼部32については、これが全部磁性体で形成されている必要はなく、磁界を形成する上で必要とされる、たとえば、外周部のみが磁性体で形成され、他部は、非磁性体で形成され、あるいは、空部とされるとしても良い。
【0033】
ストッパ4は、ケース1に設けられてベーン3の回動を規制するもので、ベーン3における二つの翼部32の揺動ストロークを同じにする限りには、任意に設けられて良いが、図示するところでは、ベーン3の翼部32の外周端が摺接するケース1における周壁部1aに配設されている。
【0034】
そして、このストッパ4は、ベーン3の回動を規制することからすれば、磁性体で形成される必要はなく、また、ベーン3の翼部32が当接されることを鑑みると、メタルタッチを避けることから、さらに、図示する実施形態では、後述する磁界発生手段5をモールドすることから、適宜のモールド材で形成されるのが良い。
【0035】
また、このストッパ4は、磁界発生手段5を有するが、この磁界発生手段5が前記したMR流体を通過させる通路を形成することから、図示する実施形態にあっては、この通路に前後でそれぞれ連通するガイド通路を形成している。
【0036】
ストッパ4が対向する他部との間にガイド通路を形成しこのガイド通路をMR流体が通過する通路に連通するから、ガイド通路‐MR流体の通路‐ガイド通路で、言わば絞り通路を形成することになり、たとえば、磁界発生手段5が作動不能になるフェールセーフ時にこの絞り通路をMR流体が通過することで、最小限度の減衰力発生を期待できる。
【0037】
一方、磁界発生手段5は、この発明にあって、ケース1あるいはベーン3に保持されるとするが、図示するところでは、ケース1の周壁部1aに設けられる上記したストッパ4に保持されてなるとしている。
【0038】
そして、この磁界発生手段5は、鉄芯51にコイル52を巻装し、コイル52への通電で磁界を発生する電磁石からなり、鉄芯51のベーン3における基部31の外周に対向する先端が上記したMR流体を通過させる通路を形成し、この通路は、磁界発生手段5によって形成される磁界内に位置決められる。
【0039】
鉄芯51は、その先端がベーン3における基部31との間にMR流体を通過させる通路を形成するから、通路を長くする観点からすれば、可能な限りに先端面積を大きくする方が良いと言い得るが、磁束の飽和を防ぐ観点からすれば、必要以上に通路を大きく形成しない方が良い。
【0040】
そうだとすれば、図示する実施形態にあっては、前記したように、ストッパ4がMR流体を通過させる通路に連通するガイド通路を形成するから、鉄芯51の先端面積をいたずらに大きくせずして、前記した絞り通路を形成し得ることになる。
【0041】
以上のように形成されたこのロータリダンパにあっては、ベーン3が基軸2を回動中心にしてケース1内で回動して、たとえば、部屋R1および部屋R3を収縮させるとき、ストッパ4を挟んで反対側となる部屋R2およびR4が膨張して部屋R1および部屋R3からのMR流体を部屋R2および部屋R4に通路を介して流入させる。
【0042】
このとき、磁界発生手段5を励磁して上記の通路を、すなわち、磁界発生手段5とベーン3における基部31の外周との間に出現する通路を磁界内に置くことで、この通路を通過しようとするMR流体が固化して通路を通過するときの抵抗を大きくし、減衰作用を具現化する。
【0043】
それゆえ、このロータリダンパにあっては、磁界発生手段5に供給される電力を高低変更することで、MR流体における固化状態を加減して、好ましい減衰作用を具現化させることが可能になる。
【0044】
そして、このロータリダンパにあっては、二つある磁界発生手段5のうち一方のみを励磁して、言わば小さい減衰作用を具現化させるとしても良く、また、全体規模を小さく構成して人の操作力の範囲内での減衰作用の具現化させるとしても良く、また、磁界発生手段5が作動不能になるフェールセーフ時には、MR流体をガイド通路‐MR流体の通路‐ガイド通路で形成される絞り通路を通過させることで最小限度必要な減衰作用を具現化することも可能になる。
【0045】
図2および図3に示すところは、この発明の他の実施形態によるロータリダンパを示すものであるが、以下には、これについて少し説明する。
【0046】
ちなみに、この図2および図3に示すロータリダンパにあっては、前記した図1に示すところと同一の構成を有してなるので、その構成が同一となるところについては、図中に同一の符号を付するのみとして、要する場合を除き、その詳しい説明を省略する。
【0047】
図2に示すロータリダンパは、ベーン3が磁界発生手段5を有するもので、磁界発生手段5の先端とこの磁界発生手段5の先端が対向するケース1における内周壁との間にMR流体を通過させる通路を出現させてなる。
【0048】
このとき、磁界発生手段5におけるコイル52が巻装される鉄芯は、ベーン3における翼部32からなり、したがって、この実施形態の場合には、磁界発生手段5を構成する部品たる鉄芯を別途に準備する必要がない。
【0049】
そして、ベーン3の翼部が当接するストッパ4は、前記した図1に示す実施形態におけるストッパ4におけるモールド材と同様のモールド材からなり、また、コイル52の外周は、このストッパ4への当接に適するように適宜の材質のモールド材でモールドされている。
【0050】
図3に示すロータリダンパは、前記した図1に示すロータリダンパに比較して、ベーン3における翼部32が三箇所とされるもので、これに伴って、ストッパ4も三箇所に設けられ、したがって、部屋R5,R6が増えている。
【0051】
そして、ストッパ4が磁界発生手段5を有し、それゆえ、図1に示す実施形態に比較して、磁界発生手段5とベーン3との間に出現する通路を通過するMR流体の粘性を変化させて減衰作用を具現化する箇所を複数有することになり、たとえば、四輪車両における懸架装置に利用する場合に必要となる大きい減衰力の発生を可能にし得る。
【0052】
前記したところでは、MR流体が通過する通路がストッパ4とベーン3との間、あるいは、ベーン3とケース1との間に出現する通路としたが、この発明が意図するところからすれば、図示しないが、ベーン3の翼部32を貫通する絞り通路を有し、この絞り通路を介してベーン3の翼部32を挟む部屋が連通可能とされても良く、このとき、この絞り通路がベーン3の翼部32に配設の磁界発生手段5による磁界内に置かれるとしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】この発明の一実施形態によるロータリダンパを示す断面図である。
【図2】この発明の他の実施形態によるロータリダンパを図1と同様に示す図である。
【図3】この発明のさらに他の実施形態によるロータリダンパを図1と同様に示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1 ケース
2 基軸
3 ベーン
4 ストッパ
5 磁界発生手段
31 基部
32 翼部
51 鉄芯
52 コイル
R1,R2,R3,R4、R5,R6 部屋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両における車体側あるいは車輪側に連結されるケースと、車両における車体側あるいは車輪側に連結されながらケースに連繋される基軸と、ケース内に収容されて基軸に連結されながらケース内で基軸を回動中心にして回動する二翼以上の翼部を有するベーンと、ケースに設けられてベーンの回動を規制するストッパと、ケースあるいはベーンに保持される磁界発生手段と、ケース内に充満されるMR流体とを有してなるロータリダンパにおいて、磁界発生手段とケースあるいはベーンとの間にMR流体を通過させる通路を設け、この通路が磁界発生手段によって形成される磁界内に位置決められてなることを特徴とするロータリダンパ。
【請求項2】
ストッパが磁界発生手段を有すると共に、磁界発生手段の先端とこの磁界発生手段の先端が対向するベーンにおける基部の外周との間にMR流体を通過させる通路を出現させてなる請求項1に記載のロータリダンパ。
【請求項3】
ベーンが磁界発生手段を有すると共に、磁界発生手段の先端とこの磁界発生手段の先端が対向するケースにおける内周壁との間にMR流体を通過させる通路を出現させてなる請求項1に記載のロータリダンパ。
【請求項4】
磁界発生手段が鉄芯とこの鉄芯に巻装されるコイルとを有する電磁石からなり、鉄芯の先端が対向するケースあるいはベーンにおける基部との間にMR流体を通過させる通路を出現させてなる請求項1,請求項2または請求項3に記載のロータリダンパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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