説明

ローパスフィルタ

【課題】カットオフ周波数を調整可能なローパスフィルタを提供する。
【解決手段】ローパスフィルタは、相対的に小径のインダクタ部2と相対的に大径のキャパシタ部3とが同軸に交互に配列されたLPF本体1と、LPF本体1の外側に配置され、外面に押圧力が付与されると内径が縮小する筒状の導電板7と、導電板7の外面に押圧力を付与する可動ねじ6a,6bと、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローパスフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
図5は、マイクロ波無線装置などに用いられる一般的な同軸型ローパスフィルタ(LPF:Low Pass Filter)の一部を破断して示した斜視図である。
【0003】
このLPFは、内導体であるLPF本体101と、円筒状に形成され、LPF本体101を長手方向に沿って覆っている外導体104と、を有している。このLPFは、LPF本体101の長手方向の一端から入力された信号のうち、LPF本体101を長手方向に通過した信号が、LPF本体101の長手方向の他端から出力されるように構成されている。
【0004】
LPF本体101は金属材料によって形成され、相対的に小径のインダクタ部102と相対的に大径のキャパシタ部103とが長手方向に沿って交互に連続して配列されている。このLPFでは、インダクタ部102がインダクタとして機能し、キャパシタ部103が外導体104とともにキャパシタとして機能する。すなわち、このLPFでは、内導体であるLPF本体101と外導体104とによって、複数のLC共振回路を直列接続した構造が形成されている。
【0005】
LPF本体101の一端に入力された信号のうち周波数の高い信号は、キャパシタ部103から外導体104に流れやすいため、LPF本体101を通過する際に減衰される。一方、LPF本体101の一端に入力された信号のうち周波数の低い信号は、キャパシタ部103から外導体104に流れにくいため、LPF本体101を通過する際に減衰されずにLPF本体101の他端から出力される。このように、このLPFでは、LPF本体101の他端から出力される主信号から周波数の高い信号のみを除去することができる。
【0006】
LPFが除去する信号の周波数の下限は、一般的に、「カットオフ周波数」として表わされる。カットオフ周波数とは、LPFによって減衰させられて、利得が3db低下する信号の周波数のことである。
【0007】
同軸型LPFのカットオフ周波数は、インダクタ部102の電気抵抗値や、キャパシタ部103が外導体104とともに形成するキャパシタの静電容量や、インダクタ部102およびキャパシタ部103の数に左右される。したがって、同軸型LPFのカットオフ周波数は、LPF本体101および外導体104の形状や、LPF本体101と外導体104との相対的な配置によって決まる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−332904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、図5に示したLPFでは、製造後において、LPF本体101および外導体104の形状や、LPF本体101と外導体104との相対的な配置を変更することができない。したがって、このLPFでは製造後にカットオフ周波数を変更することは困難である。
【0010】
そこで、本発明は、カットオフ周波数を調整可能なローパスフィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明のローパスフィルタは、相対的に小径のインダクタ部と相対的に大径のキャパシタ部とが同軸に交互に配列された内導体と、該内導体の外側に配置され、外面に押圧力が付与されると内径が縮小する筒状の外導体と、該外導体の外側に配置され、該外導体の外面に押圧力を付与する押圧部と、を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、カットオフ周波数を調整可能なローパスフィルタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係るローパスフィルタの断面図である。
【図2】図1に示したローパスフィルタの断面図である。
【図3】図1に示したローパスフィルタにおける利得の周波数依存性を示した図である。
【図4】図1に示したローパスフィルタにおける導電板の内径Dによるカットオフ周波数の変化を示した図である。
【図5】一般的な同軸型ローパスフィルタの一部を破断して示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0015】
図1(a)は本発明の一実施形態に係るLPFの長手方向断面図であり、図1(b)は図1(a)のA−A’線に沿った断面図である。
【0016】
このLPFは、相対的に小径のインダクタ部2と相対的に大径のキャパシタ部3とが長手方向に交互に連続して配列された内導体であるLPF本体1と、細長く円筒状に丸められ、LPF本体1を長手方向に覆っている外導体である導電板7と、を有している。LPF本体1および導電板7はいずれも金属材料で形成されている。このLPFは、長手方向の両端にコネクタ(不図示)を有しており、いずれか一方のコネクタからLPF本体1に信号が入力され、LPF本体1を通過した信号が他方のコネクタから主信号として出力されるように構成されている。
【0017】
また、このLPFは、導電板7を外側から長手方向に沿って覆っている円筒状部材である内円筒壁4と、内円筒壁4を外側から長手方向に沿って覆っている外装部材である外円筒壁5と、を有している。内円筒壁4は、周方向に2つの半円筒状の壁部材4a,4bに分割されており、各壁部材4a,4bが弾性部材であるばね4cによって周方向に互いに接続されている。したがって、内円筒壁4は、全体として各壁部材4a,4bの間に隙間のあいた円筒形状を有している。各壁部材4a,4bを互いに安定して接続させるために、ばね4cは内円筒壁4の長手方向に複数設けられていることが望ましい。
【0018】
円筒状に丸められた導電板7は、導電板7自体の弾性回復力により内円筒壁4の壁部材4a,4bの内面に付勢されている。なお、説明の便宜上、図中には、導電板7が壁部材4a,4bの内面から離間しているように示しているが、実際には、導電板7は壁部材4a,4bの内面にほぼ隙間なく密着している。
【0019】
LPF本体1の各インダクタ部2はいずれも外径が1.0mmの円柱形状であり、各キャパシタ部3はいずれも外径が9.7mmの円盤形状である。インダクタ部2およびキャパシタ部3はいずれも同軸である。また、LPF本体1は、キャパシタ部3の外周面と導電板7の内面との距離が全周にわたってほぼ等しくなるように配置されている。
【0020】
外円筒壁5の内面には、その全周にわたってLPF本体1の中心軸に対して傾いた傾斜部5aが形成されている。すなわち、傾斜部5aは導電板7の長手方向に沿って傾斜している。傾斜部5aには、その傾斜方向に沿って螺旋状に形成されたねじ溝が設けられている。内円筒壁4の各壁部材4a,4bの外周面の中央部の、外円筒壁5の傾斜部5aに対向する位置には、各壁部材4a,4bの長手方向に沿って形成された溝形状の受け部4d,4eが設けられている。受け部4d,4eは平滑な表面を有している。
【0021】
また、このLPFには、内円筒壁4の各受け部4d,4eと外円筒壁5の傾斜部5aとの間に挟持された可動ねじ6a,6bが設けられている。可動ねじ6a,6bは、大径の一端から小径の他端に向けて徐々に径が小さくなるように形成され、円錐の頂部を底面に平行に切り取ったような形状となっている。可動ねじ6a,6bの側面には、外円筒壁5の傾斜部5aのねじ溝に係合している係合部であるねじ山が形成されている。本実施形態では、可動ねじ6a,6bの係合部としてねじ山が形成されているが、可動ねじ6a,6bの係合部は、傾斜部5aのねじ溝に係合可能な突起形状を有していればよい。
【0022】
可動ねじ6a,6bは受け部4d,4e内に保持されており、可動ねじ6a,6bの大径の一端は受け部4d,4e内にほぼ隙間なく収まっている。そのため、各受け部4d,4e内に保持された各可動ねじ6a,6bは、内円筒壁4の周方向に移動することはできないが、受け部4d,4eに沿ってスライド移動することが可能である。
【0023】
本実施形態では、外装部材である外円筒壁5に傾斜部5aを設けているが、外円筒壁5とは別部品として、傾斜部が備えられ、可動ねじ6a,6bを保持可能な保持部材を設けてもよい。しかし、本実施形態のように、外円筒壁5が保持部材を兼ねる構成にすることにより部品点数を減少させることができる。
【0024】
このLPFでは、外円筒壁5をその周方向に内円筒壁4に対して回動させることが可能である。外円筒壁5の回動操作は手作業にて行うことができる。外円筒壁5が回動すると、可動ねじ6a,6bのねじ山が、外円筒壁5のねじ溝によって傾斜部5aの傾斜方向に押圧されることにより、可動ねじ6a,6bが傾斜部5aに沿って移動する。
【0025】
図1(b)に示すように外円筒壁5を内円筒壁4に対して右回りに回動させると、可動ねじ6a,6bは傾斜部5aに沿ってLPF本体1に近接する方向に移動する。これに伴い、各可動ねじ6a,6bは各壁部材4a,4bの外面を押圧し、内円筒壁4は、各壁部材4a,4bが互いに近接するようにばね4cを弾性変形させる。各壁部材4a,4bが互いに近接すると、導電板7は、外面を壁部材4a,4bに押圧され、周方向の両端部の相対位置が変化するように弾性変形する。これにより導電板7の内径Dが縮小する。このように、可動ねじ6a,6bは、壁部材4a,4bを介して導電板7に押圧力を付与する押圧部材として機能する。
【0026】
本実施形態では、内円筒壁4を2つの壁部材4a,4bに分割しており、各壁部材4a,4bによって導電板7の外面の互いに対向する2ヶ所に押圧力を付与する。しかし、内円筒壁4を3つ以上の壁部材に分割し、各壁部材をばねで接続し、各壁部材を可動ねじによって押圧するように構成することも可能である。これにより、各壁部材によって導電板7の外面をより多くの方向から押圧することができるようになるため、導電板7の内径をより均一に変化させることが可能である。
【0027】
本実施形態に係るLPFを図1に示した状態から外円筒壁5を回動させて導電板7の内径Dを縮小した状態を図2に示す。図2は、そのLPFの長手方向断面図であり、図2(b)は図2(a)のB−B’線に沿った断面図である。図2に示した状態から、外円筒壁5を図1(b)の矢印方向とは反対の左回りに回転させると、可動ねじ6a,6bは傾斜部5aに沿ってLPF本体1にから離間する方向に移動する。これに伴い、内円筒壁4の各壁部材4a,4bは、ばね4cの弾性回復力により互いに離間する方向に移動し、導電板7は導電板7自体の弾性回復力により内径Dが拡大するように変形する。そうすると、このLPFは図1に示す状態に戻る。
【0028】
このLPFでは、外円筒壁5を回動させて導電板7の内径Dを縮小させると、キャパシタ部3と導電板7との距離が小さくなる。そうすると、キャパシタ部3が導電板7とともに形成するキャパシタの静電容量が大きくなるため、より周波数の低い信号がキャパシタ部3から導電板7に流れて除去されるようになる。したがって、このLPFでは、外円筒壁5を回動させて導電板7の内径Dを縮小することによりカットオフ周波数を低くすることができる。逆に、外円筒壁5を回動させて導電板7の内径Dを拡大することによりカットオフ周波数を高くすることができる。
【0029】
以上述べたように、このLPFでは、外円筒壁5を回動させて導電板7の内径Dを変化させることにより、カットオフ周波数を調整することが可能である。また、このLPFでは、カットオフ周波数を変化させても外形が変化しないため、実装後にもカットオフ周波数を容易に調整することができる。また、このLPFでは、カットオフ周波数を変化させても、LPF本体1を通過して出力される主信号のロス劣化はほとんど発生しない。
【0030】
本実施形態に係るLPFを用いて、導電板7の内径Dを様々に変化させて信号の入出力を繰り返し、このLPFにおける利得の周波数依存性を調べた。その結果を図3に示す。図3では、導電板7の内径Dを11mm、11.5mm、12mm、12.5mm、13mmとしたときの結果をそれぞれ曲線a、曲線b、曲線c、曲線d、曲線eとして示している。
【0031】
図3に示した各データからそれぞれカットオフ周波数を求めた。図4は、本実施形態に係るLPFのカットオフ周波数の、導電板7の内径Dによる変化を示している。カットオフ周波数は、内径Dが11mmである場合には約8.5GHzであるのに対し、内径Dが13mmである場合には約11GHzであった。したがって、本実施形態に係るLPFでは、カットオフ周波数を約2.5GHzの幅で変化させることが可能である。
【0032】
上述したように、本実施形態に係るLPFには、外導体である導電板7の内径Dを変更するための内径変更手段として、可動ねじ6a,6bによって内円筒壁4を介して導電板7の外面に押圧力を付与する機構が設けられている。しかし、LPFの内径変更手段は、導電板7の外面に押圧力を付与することができる機構を有していればよい。たとえば、内径変更手段は、可動ねじ6a,6bと導電板7との間に内円筒壁4を備えずに、可動ねじ6a,6bが導電板7の外面に直接押圧力を付与するように構成されていてもよい。
【0033】
また、本実施形態では、外円筒壁5を手作業にて回動させるが、外円筒壁5にモータなどの駆動装置を接続して、電気エネルギー等を利用して外円筒壁5を回動させることも可能である。この場合には、さらに、駆動装置を制御する制御部を駆動装置に接続し、LPFのカットオフ周波数を自動制御できるように構成することも可能である。
【0034】
また、可動ねじ6a,6bは外円筒壁5の傾斜部5aに沿って移動可能であればよく、たとえば、外円筒壁5の傾斜部5aにねじ溝を設けずに、可動ねじ6a,6bが傾斜部5aに沿ってスライド移動するように構成されていてもよい。
【0035】
また、内円筒壁4の壁部材4a,4bとして金属材料で形成された導電板を用いれば、内円筒壁4の内側に導電板7を設けずに、内円筒壁4自体を外導体として用いることが可能である。この場合にも同様に、LPFのカットオフ周波数を変化させるためには、外円筒壁5を回動させて、各壁部材4a,4bを互いに近接または離間させることにより、内円筒壁4の内径を変化させる。
【0036】
内円筒壁4を外導体として用いる場合、内円筒壁4の各壁部材4a,4bの周方向の端部では、各壁部材4a,4bを互いに近接または離間させても内径が変化しない。しかし、内円筒壁4を3つ以上の壁部材に分割し、各壁部材をばねで接続し、可動ねじによって各壁部材に押圧力を付与するように構成すれば、内円筒壁4の内径をその全周にわたって変化させることが可能である。
【0037】
また、内導体であるLPF本体1のキャパシタ部3と、外導体である導電板7と、の間に誘電体を設けることにより、キャパシタ部3が導電板7とともに形成するキャパシタの静電容量を変更することができる。この構成を実現するために、たとえば、LPF本体1を長手方向に覆う筒状の誘電体を設けることができる。また、導電板7の内側の空間に誘電体である液晶を充填することによっても、キャパシタ部3が導電板7とともに形成するキャパシタの静電容量を変更することができる。
【0038】
さらに、各キャパシタ部3と導電板7との間に誘電体を個別に分割して設けることもできる。この場合、各誘電体ごとに電圧の印加の有無を切替可能なように構成することにより、機能させるキャパシタ部3の数を変更することができる。すなわち、半分の誘電体のみに電圧を印加し、他の誘電体には電圧を印加しないようにすると、すべての誘電体に電圧を印加する場合に比べて、機能するキャパシタ部3の数を半分にすることができる。
【符号の説明】
【0039】
1 LPF本体
2 インダクタ部
3 キャパシタ部
4 内円筒壁
4a,4b 壁部材
4c ばね
4d,4e 受け部
5 外円筒壁
5a 傾斜部
6a,6b 可動ねじ
7 導電板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に小径のインダクタ部と相対的に大径のキャパシタ部とが同軸に交互に配列された内導体と、該内導体の外側に配置され、外面に押圧力が付与されると内径が縮小する筒状の外導体と、該外導体の外側に配置され、該外導体の外面に押圧力を付与する押圧部と、を有するローパスフィルタ。
【請求項2】
前記外導体は筒状に丸められ、周方向の両端部の相対位置が変化するように弾性変形することにより内径が変化する導電板である、請求項1に記載のローパスフィルタ。
【請求項3】
前記外導体の外面を覆い、前記外導体の周方向に複数に分割された壁部材と、該各壁部材を互いに接続する弾性部材と、を備えた筒状部材を有し、前記押圧部は、前記各壁部材の外面を押圧して、前記各壁部材が互いに近接するように前記弾性部材を弾性変形させることによって、前記外導体の外面に押圧力を付与する、請求項2に記載のローパスフィルタ。
【請求項4】
前記外導体は、周方向に複数に分割された導電板と、該各導電板を互いに接続する弾性部材と、によって筒状に構成され、前記押圧部は、前記各導電板の外面を押圧して、前記各導電板が互いに近接するように前記弾性部材を弾性変形させる、請求項1に記載のローパスフィルタ。
【請求項5】
前記外導体の外面に対向し、前記外導体の長手方向に沿って傾斜している傾斜部が設けられ、前記押圧部は前記傾斜部に沿って前記内導体に近接する方向に移動して前記外導体の外面に押圧力を付与する、請求項1から4のいずれか1項に記載のローパスフィルタ。
【請求項6】
前記傾斜部が前記外導体の周方向に回動させられると、前記押圧部が前記傾斜部に沿って移動する、請求項5に記載のローパスフィルタ。
【請求項7】
前記傾斜部にはその傾斜方向に沿ってねじ溝が形成され、前記押圧部には前記ねじ溝に係合する係合部が形成されている、請求項6に記載のローパスフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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