説明

ロープ据付治具

【課題】建物の揺れに影響されず安全にロープ据付が可能となるロープ据付治具を提供する。
【解決手段】本実施形態にかかるロープ据付治具によれば、ロープドラムが回転するための軸部と、この軸部を支持し、揚重のための吊り部を有する枠部と、この枠部に取り付けられ、ガイドレールに沿って昇降するためのガイド機構とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロープ据付時に使用するロープ据付治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、エレベータのロープ据付作業は、ロープドラムを回転フリーな状態で揚重し、昇降路に沿ってドラムを降ろしながらロープを引き出していた(例えば、特許文献1など参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−159097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の技術ではロープドラムを揚重機により単純に吊り下げて降ろしており、強風や地震等により建物が大きく揺れた場合には吊り下げられたドラムが建物の揺れに同期して揺れ、昇降路内の機器や建物に接触し、破損する恐れがあった。特に、高階床エレベータでは、据え付けるロープが長くなるためロープドラムの重量が大きくなり破損の度合いが増す。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑み為されたものであり、建物の揺れに影響されず安全にロープ据付が可能となるロープ据付治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態に係るロープ据付治具は、ロープドラムが回転するための軸部と、この軸部を支持し、揚重するための吊り部を有する枠部と、この枠部に取り付けられ、ガイドレールに沿って昇降するためのガイド機構とを備えることを特徴とする。これにより、建物の揺れに影響されず安全にロープ据付が可能となる。
【0007】
また、他の実施形態に係るロープ据付治具は、上記構成に制動機構を設けることを特徴とする。これにより、ロープ据付作業時に揚重用ワイヤーの切断などでロープ据付治具が落下するような非常時において、制動機構によりロープドラムの回転を停止することでロープ据付治具の落下を防止することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ガイド機構並びに制動機構を備えたロープ据付治具を用いることでロープ据付作業の安全性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第一の実施形態に係るロープ据付治具の斜視図である。
【図2】第一の実施形態にかかるロープ据付治具昇の昇降路内で吊り下げ時の図である。
【図3】本実施形態に係るロープ据付治具の組み立て及び取り付けのフローチャートである。
【図4】第二の実施形態に係るロープ据付治具の昇降路内での吊り下げ時の図である。
【図5】第二の実施形態にかかるロープ据付治具の制動機構を示す図である。
【図6】図6(a)は、図5におけるA方向から見た制動機構の動作前を示す図であり、(b)は、(a)のB方向から見た図であり、(c)は、(a)の動作後を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、本発明の一例にすぎず、各部の構成は、本発明の趣旨を達成できるものであれば、本発明の趣旨の範囲で適宜変更や修正を行えることは勿論である。
【0011】
(第一の実施形態)
図1は、第一の実施形態に係るロープ据付治具100の斜視図である。図2は、図1の据付治具100を昇降路内に吊り下げた状態を示す図である。
【0012】
図1及び図2に示すように、第一の実施形態に係るロープ据付治具100は、ロープドラム1の回転軸となる軸部2(以下、「シャフト2」とも言う)と、軸部2を保持する一対の立枠部3(3a及び3b)及び立枠部3(3a及び3b)間を接続する上梁部4からなる枠部5と、ガイドレール6に案内されるためのガイド機構7とから構成されている。
【0013】
ロープドラム1は、一対のドラム外周部11と各ドラム外周部11間に接続されたドラム軸部12(図示せず)から構成され、各ドラム外周部11がドラム軸部12を挟んで対向した形状となっている。ロープドラム1の中心には、軸穴としての貫通口を有しておりシャフト2を挿通できるようになっている。シャフト2は、横断面円形状であり、ロープドラム1が回動できる径となっている。
【0014】
立枠部3(3a及び3b)は、横断面「コ」字状の部材でありドラム外周部11に面する水平部31と、水平部31から昇降路側へ突出している突出部32を有している。水平部31にはシャフト2を挿通できる穴部33、及び穴部33に挿通されたシャフト2を保持するためのシャフト保持部34を有している。
【0015】
上梁部4は、上梁部本体41と揚重用ワイヤー8を通す吊り穴42を有した吊り部43から構成され、上梁部本体41の両端部に吊り部43が設けられている。上梁部4の両端部に立枠部3(3a及び3b)が接続されており、枠部5を形成している。
【0016】
ガイドレール6は、エレベータ装置の乗りカゴ及び釣り合い錘の昇降を案内するガイドレールが用いられる。従って、ロープ据付治具100を用いるための新たなガイドレールを設ける必要はない。
【0017】
ガイド機構7は、立枠部3に固定するための接続部71とガイドレール6に案内されるためのガイド部72から構成されている。接続部71は「L」字形状であり、立枠部3に固定される水平部711及び立枠部3からガイドレール6に向かって伸びる突出部712から構成される。突出部712はガイド部72をスライドさせるためのスリット713を有している。ガイド部72は、ガイドレール6に案内されるためのシュー、或いはローラー等の案内部721を有しており、ネジ等の支持部材73により、突出部712にスライド可能に支持されている。このように構成される本実施形態のロープ据付治具100は、以下のようにして組み立てられ、ロープ据付作業に用いられる。
【0018】
図3に、本実施形態のロープ据付治具100の組み立て及び設置動作のフローチャートを示す。
【0019】
先ず、上梁部4の両端に立枠部3(3a及び3b)を取り付け、枠部5を形成する(S1−1)。次に、ロープドラム1の軸穴と立枠部3(3a及び3b)の軸穴を合わせた状態で、シャフト2をこれらに挿通する(S1−2)。そして、立枠部3(3a及び3b)にガイド機構7を取り付け(S1−3)、ロープ据付治具100の組み立ては完了する(S1−4)。
【0020】
組み立て完了後、上梁部4の吊り穴42に揚重用ワイヤー8を取り付ける(S2−1)。昇降路内の建築梁に設置された揚重機により、ロープ据付治具100を最上階エレベータ乗場口から昇降路内に引き込む(S2−2)。ゴンドラ上の作業者は、ロープ据付治具100が釣り合い錘側のガイドレール6の間の中心にくるよう位置を調整する(S2−3)。調整後、作業者はガイド機構7の突出部712をガイドレール6の位置に合わせてスライドさせることで調整を行い、固定する(S2−4)。以上で、ロープ据付治具100の昇降路内への取り付けが完了し(S2−5)、ロープ据付作業に供される。
【0021】
ロープ据付作業では、ロープ据付治具100は、ゴンドラと並走しながらガイドレール6に沿って昇降路内を降りていき、ロープ10をロープドラム1より徐々に引き出していく。最下階に到達した時点でロープドラム1からロープ10をすべて引き出し、ロープドラム1を空の状態にして、ロープ据付治具100を最下階エレベータ乗場ロよりホールに搬出する。
【0022】
このように第一の実施形態に係るロープ据付治具100では、ガイドレール6に沿って動くためのガイド機構7を有することで、強風や地震等による建物の揺れに対してロープドラム1を一定の位置に保持でき、ロープドラム1が建物の揺れに同期して揺れることを防ぎ、安全にロープ据付作業を行うことができる。
【0023】
(第二の実施形態)
第一の実施形態に係るロープ据付治具100を用いたロープ据付作業において、ロープ据付治具100を昇降路内のガイドレール6に沿って降ろしている時などに、例えば揚重用ワイヤー8の切断やロープ据付治具100の吊り部43の破損が生じた場合に、ロープドラム1は高速に回転しながら、ロープ据付治具100とともに落下する(以下、「非常時」とも言う。)。
【0024】
第二の実施形態に係るロープ据付治具200は、このような非常時にロープドラム1の回転を停止し、落下を防止する制動機構を備えた構成としたものである。
【0025】
以下、第二の実施形態に係るロープ据付治具200について図4〜6を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明において、第一の実施形態と共通する部分については、同符号を付し、第一の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0026】
図4は、第二の実施形態に係るロープ据付治具200を示す斜視図であり、図5は、図4における制動機構9の構成を示す斜視図である。
【0027】
図4及び図5に示すように第二の実施形態に係るロープ据付治具200は、第一の実施形態に係るロープ据付治具100に制動機構9を備えた構成としたものである。
【0028】
制動機構9は、上梁部4に回動自在に取り付けられる制動部91と、制動部91をロープドラム1の回転に干渉しない位置(以下、「初期位置」とも言う。)に保持する制動保持部92と、制動保持部92に作用し、制動部91の保持を解除する制動動作部93と、保持が解除され、制動位置にて制動部91を噛み込みロープドラム1の回転を停止するツメ94から構成される。ここで、制動位置とは、ツメ94が制動部91を噛み込む位置をいう。
【0029】
制動部91は、ロープドラム1の軸に水平に設けられる制動水平部911と、制動水平部911の両端から垂直に突出した制動回動部912からなる「コ」字状の部材である。また、制動回動部912は、ロープドラム1側へ鈍角に折れ曲がった、「へ」字形状となっている。制動部91は、上梁部4の下部に設けられる制動連結部913に重心が制動水平部911側になるように取り付けられ、制動連結部913を軸に上下方向(矢印Q)に回動自在となっている。制動保持部92による保持が解除されると、制動部91は、自重により制動連結部913を軸にドラム外周部11方向へ制動位置に移動するようになっている。
【0030】
制動保持部92は、立枠部3に設けられる制動保持連結部921を軸に、前後方向(矢印R)に回動自在に取り付けられている。制動保持部92は、立枠部3と弾性体等の付勢部材922によって連結されており、制動保持部92が立枠3方向に付勢されることで、制動部91を初期位置に保持している。
【0031】
制動動作部93は、ドラム外周部11に固定するドラム固定部931、錘932及び紐、若しくはゴム、バネ等の弾性体からなる錘支持部933から構成され、錘932は錘支持部933を介してドラム固定部931に取り付けられている。
【0032】
ツメ94は、制動位置において制動部91を噛み込むよう、ドラム外周部11の外縁に、その回転方向の上流から下流に従って外側に突出して固定されている。制動動作部93及びツメ94の個数は、1個でもかまわないが、制動性の点から複数個取り付けられていることが好ましい。
【0033】
このように構成される第二の実施形態のロープ据付治具200の組み立ては、制動機構9として、上梁部4に制動部91、立枠部3に制動保持部92、ロープドラム1の外周部11に制動動作部93及びツメ94を取り付けること以外は、第一の実施形態に係るロープ据付治具100と同様の手順で行われる。
【0034】
次に、第二の実施形態に係るロープ据付治具200の非常時における動作を、図6を参照して詳細に説明する。図6(a)及び(c)は、図5におけるA方向から見た制動機構動作前と動作後の図であり、図6(b)は、図6(a)におけるB方向から見た図である。なお、図6(b)の一点鎖線Cは、ロープドラム1の回転軸を示している。
【0035】
ロープ据付作業中、ロープ据付治具200が揚重用ワイヤー8等の切断により落下した場合、ロープドラム1は回転を伴いながら一緒に落下する。このとき、制動動作部92は、ロープドラム1の高速回転による錘932の遠心力により錘支持部933が張った状態もしくは伸びた状態となる。
【0036】
このように遠心力によりロープドラム外周部11から離れた錘932は、立枠部3に前後方向に回動自在に取り付けられている制動保持部92を弾く(図6(a)、(b);矢印R1)。制動保持部92が弾かれることで、初期位置に保持されていた制動部91が制動連結部913を軸に下方向に回転移動し(図6(a);矢印Q)、ロープドラム外周部11に到達する。ロープドラム外周部11に到達した制動部91は、ロープドラム外周部11に取り付けたツメ94に噛み込まれ、ロープドラム1の回転が抑制、停止し、ロープ据付治具200の落下を防ぐことができる。他方、弾かれた制動保持部92は、付勢部材922により、元の位置に戻る(図6(b)、(c);矢印R2)。
【0037】
このように、通常作業時は、図6(a)に示すように制動部91は制動保持部92により初期位置に保持されているが、非常時は、図6(c)に示すように、制動部91が制動位置に移動し、ツメ94に噛み込まれることでロープドラム1の回転を停止させる。
【0038】
以上のように、第二の実施形態に係るロープ据付治具200では、揚重用ワイヤーの切断あるいは吊り部の破損等によるロープドラム落下時、制動機構を有することで落下を防ぎ、安全にロープ据付作業を行うことができる。
【符号の説明】
【0039】
1… ロープドラム
2… 軸部(シャフト)
3… 立枠部
4… 上梁部
5… 枠部
6… ガイドレール
7… ガイド機構
8… 揚重用ワイヤー
9… 制動機構
10… ロープ
100、200… ロープ据付治具
11… ドラム外周部
34… シャフト支持部
43… 吊り部
71… 接続部
72… ガイド部
91… 制動部
92… 制動保持部
93… 制動動作部
94… ツメ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロープドラムが回転するための軸部と、
この軸部を支持し、揚重のための吊り部を有する枠部と、
この枠部に取り付けられ、ガイドレールに沿って昇降するためのガイド機構と
を備えることを特徴とするロープ据付治具。
【請求項2】
前記枠部は、前記吊り部を有する上梁部と、この上梁部の両端に接続する、前記軸を支持する軸穴を有する立枠部からなることを特徴とする請求項1に記載のロープ据付治具。
【請求項3】
前記ガイド機構は、前記立枠部に固定するための接続部と、この接続部に前記ガイドレールの方向にスライド可能に支持されるガイド部と、このガイド部に設けられ、前記ガイドレールに係合する案内部と
を有することを特徴とする請求項2に記載のロープ据付治具。
【請求項4】
前記上梁部に取り付けられる、初期位置と制動位置との間を移動可能な制動部と、
この制動部を前記初期位置に保持する制動保持部と、
ロープドラムが高速に回転した場合に前記制動保持部に作用し、前記制動部の保持を解除する制動動作部と、
前記制動位置において前記制動部を噛み込み、ロープドラムの回転を停止するツメとを備えることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のロープ据付治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−10580(P2013−10580A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142948(P2011−142948)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】