説明

ローラの弾性層の剥離検査方法

【課題】剛性シャフトからの弾性層の剥離を、大掛かりで高価な装置を用いる必要なしに、簡易・迅速に、かつ客観的・定量的に検知することができる、ローラの弾性層の剥離検査方法を提供する。
【解決手段】剛性シャフト2aの周りに全周にわたって弾性層2bを固着させてなるローラ2の、前記弾性層2bの剛性シャフト2aからの剥離を検査するに当り、ローラ2を、少なくとも一方が透明ないしは半透明の二枚の平板1,3間に、80〜95%の範囲の圧縮率で挟み込んだ状態で、該二枚の平板1,3の相互を、ローラの軸線方向と交差する方向に相対的に往復変位させながら、弾性層2bへの膨らみの発生による、剥離の顕在化によって弾性層の剥離を検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複写機、プリンター等のOA機器に用いられる、弾性層を具えるローラの、剛性シャフトからの弾性層の剥離を検査する方法に関するものであり、弾性層の剥離を、大掛かりで高価な装置を用いることなく、簡易かつ迅速に、しかも、定量的に検査できる技術を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
OA機器の定着部、転写部、搬送部等に適用されるこの種のローラにあって、弾性層の、剛性シャフトからの剥離が生じたものは、商品として出荷できないことから、従来は、製造されたローラの全品を、熟練検査員による目視外観検査、打音検査等によって剥離検査することが一般的であった。
【0003】
しかるに、作業者によるこの全品検査では、作業工数が嵩む他、誤った判断の発生が不可避となり、また、剥離の範囲、程度等の判断が、主観的にならざるを得ず、検査員によって判断に差異が生じることになる等の問題があった。
【0004】
そこで、これらの問題を解決するべく、特許文献1,2には、超音波による探傷法等によって剥離の有無、広がり等を客観的かつ定量的に検知する検査技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−194348号公報
【特許文献2】特開2001−21541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかるに、上記提案技術によれば検査装置が、大掛かりで高価なものになるという他の問題があった。
【0007】
この発明は、提案技術が抱えるこのような問題点を解決することを課題とするものであり、それの目的とするところは、剛性シャフトからの弾性層の剥離を、大掛かりで高価な装置を用いる必要なしに、簡易・迅速に、かつ客観的・定量的に検知することができる、ローラの弾性層の剥離検査方法を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の、ローラの弾性層の剥離検査方法は、中実もしくは中空の剛性シャフトの周りに、弾性層を全周にわたって固着させてなるローラの、その弾性層の剛性シャフトからの剥離を検査するに当って、ローラを、少なくとも一方が透明ないしは半透明の、二枚の、たとえば相互に平行な板状部材間に、80〜95%の範囲の圧縮率で挟み込んだ状態で、二枚の板状部材の相互を、ローラの軸線と交差する方向、たとえば直交する方向に相対的に往復変位させながら、弾性層への膨らみの発生による、剥離の顕在化によって弾性層の剥離を検知するにある。
なおこの場合、一枚の板状部材は、テーブル、机等の天板によって代用することも可能である。
【0009】
この場合、好ましくは、弾性層への膨らみの発生状況を、二次元平面内の画像を検知できるエリアカメラにより撮影する。
そしてまた好ましくは、二枚の、たとえば平行な板状部材の相互を、50mmの距離にわたって相対的に往復変位させる。
従って、二枚の板状部材のそれぞれをともに、相互に逆方向に均等に変位させる場合は、各板状部材の変位量は25mmとなる。
【発明の効果】
【0010】
この発明の検査方法では、二枚の板状部材間に、ローラを特定の圧縮率の下で挟み込んだ状態で、それらの板状部材の相互をローラの軸線方向と交差する方向に相対的に往復変位させて、弾性層の剥離を顕在化させることにて剥離検査を行うことができるので、剥離検査を、大掛かりで高価な装置を用いるまでもなく、簡易・迅速に、かつ、客観的に、しかも正確に行うことができ、また、剥離部分と非剥離部分との平面寸法、剥離部分の長さ寸法等の測定に基き、剥離の有無のみならず、剥離の広がり等の程度を定量的に検知することができる。
【0011】
そして、剥離の程度のこの定量的検知は、弾性層への膨らみの発生状況をエリアカメラで撮影した撮像上で寸法測定を行うことにより、より高精度に行うことができる。
【0012】
なおここで、二枚の板状部材の相互を、50mmの距離にわたって相対的に往復変位させる場合は、ローラに対して、捻り方向の力が加わることで、弾性層をシャフトから引き剥すように力がかかることになって、剥離が生じている部分を明確に特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施形態の一の工程を例示する斜視図および平面図である。
【図2】ローラの圧下状態を例示する側面図である。
【図3】この発明の実施形態の他の一の工程を例示する斜視図および平面図である。
【図4】ローラの弾性層の、剥離の範囲および程度についての判定基準を例示する図である。
【図5】エリアカメラの適用状態を示す斜視図およびエリアカメラによる撮影画像を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明の実施に当っては、はじめに、図1(a)に示すように、アクリル板、ガラス板等の透明もしくは半透明の平板1上に、中実もしくは中空の剛性シャフト2aの周りに、弾性層2bを全周にわたって固着させてなるローラ2を載置した状態で、そのローラ2上に、透明もしくは半透明の他の平板3を配置して、この平板3を、図2に側面図で示すように、ローラ2の元の外径dが、80〜95%の範囲で圧縮されるまで圧下する。図1(b)は、平板3を圧下する前の平面図を示す。
なおここで、下側の平板1は、テーブル、机等の天板によって代用することもできる。
【0015】
次いで、平板3の圧下状態を維持しつつ、二枚の平板1,3の相互を、図3(a)に示すように、ローラ2の軸線と交差する方向、たとえば直交する方向に相対的に往復変位させる。
このことにより、ローラ2に弾性層2bの剥離部分が存在するときは、その剥離部分は、図3(b)に平面図で示すように膨出変形することになり、剥離が顕在化されることになる。
【0016】
そしてこのような膨出変形が生じたローラ2の検品に当っては、たとえば、図4に例示するように、膨出域の、ローラ2の軸線方向長さAが20mm以上となった場合、および、膨出変形域の最大幅Cと、非剥離部分の幅Bとの差(C−B)が0.2mm以上となった場合の少なくとも一方の現象が生じたものを不良品とすることで、弾性層の剥離を簡易・迅速に、かつ、客観的・定量的に検知することができる。
【0017】
ところで、二枚の平板1,3を相対的に往復変位させて弾性層2bの剥離域を上述したように膨出変形させるに当っては、先に述べたように、それらの平板1,3の相互を、50mmの距離にわたって相対的に往復変位させることが好ましい。
【0018】
そしてまた好ましくは、ローラ2に発生した膨出変形部分を、図5(a)に示すように、平板3の上方側から、たとえば複数台のエリアカメラ4によって撮影して、ローラ2の検品を、図5(b)に示すような、撮影画像上にて行うことで、各種の寸法の特定を容易かつ正確なものとする。
【実施例】
【0019】
剛性シャフトの直径を5mmとするとともに、剛性シャフトの周りに、外径を12.8mmおよび16.5mmとして、弾性層としての発泡ポリウレタン層を固着させた、剥離部の存在するそれぞれのローラにつき、圧縮率をパラメータとして上述したような剥離検査を行ったところ、表1および表2に示す結果を得た。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
表1および表2によれば、剛性シャフトの直径を5mmに特定して、弾性層外径を12.8mmおよび16.5mmに変化させた場合には、圧縮率をそれぞれ、80〜95%の範囲とすることで、所期した通りの剥離検査を行い得ることが解かる。
【符号の説明】
【0023】
1,3 平板
2 ローラ
2a 剛性シャフト
2b 弾性層
4 エリアカメラ
A 軸線方向長さ
B 非剥離部分の幅
C 膨出変形域の最大幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中実もしくは中空の剛性シャフトの周りに全周にわたって弾性層を固着させてなるローラの、前記弾性層の剛性シャフトからの剥離を検査するに当り、
ローラを、少なくとも一方が透明ないしは半透明の二枚の板状部材間に、80〜95%の範囲の圧縮率で挟み込んだ状態で、該二枚の板状部材の相互を、ローラの軸線方向と交差する方向に相対的に往復変位させながら、弾性層への膨らみの発生による、剥離の顕在化によって弾性層の剥離を検知する、ローラの弾性層の剥離検査方法。
【請求項2】
弾性層への膨らみの発生状況をエリアカメラで撮影する請求項1に記載のローラの弾性層の剥離検査方法。
【請求項3】
二枚の板状部材の相互を、50mmの距離にわたって相対的に往復変位させる請求項1もしくは2に記載のローラの弾性層の剥離検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−237305(P2011−237305A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109554(P2010−109554)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】