説明

ローラー及びその製造方法

【課題】 軽量化と高剛性化が同時に達成でき、自重による撓みなどの問題が無いローラー及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 SiC粉末を成形して円筒形状のプリフォームを形成する工程と、前記プリフォームに溶融アルミニウム又はアルミニウム合金を加圧浸透させる工程と、前記加圧浸透により得られた金属−セラミックス複合材料の内側に付着したアルミニウム又はアルミニウム合金を研削除去する工程と、前記金属−セラミックス複合材料の外側に付着したアルミニウム又はアルミニウム合金を所望の被覆層を残して研削する工程と、を含むことを特徴とするローラーの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローラー及びその製造方法に関するもので、特に、アルミニウム又はアルミニウム合金マトリックス中にSiC粉末が複合された複合材料の外表面にアルミニウム又はアルミニウム合金からなる被覆層を具備してなるローラー及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複写機のトナー焼付ローラー、プラスチックスの熱延ローラーに用いられる円筒状の発熱体は、円筒内の中心部にヒーター線が配置され、その外周の円筒を加熱して、発熱体としての機能を果たしている。
従来、その円筒の材質としては、複写機に用いられているのは主としてアルミニウム合金製の肉厚のローラーを用い、プラスチックに用いられるのは、鉄製のローラーを用いていた。
【0003】
しかしながら、従来のアルミニウム合金製のローラーは、熱伝導度こそ大きいが剛性に乏しく、そのために、肉厚にして撓みを少なくしている。しかし、アルミニウムはその熱容量が大きいので、肉厚にするとローラーを所定温度に加熱するのに、時間も、電力も浪費するという課題を有していた。
一方、鉄製のローラーは、剛性は高いが、熱伝導度が小さいので、ローラー表面の均熱性が不十分となる課題を有していた。
こうした課題に対して銅、鉄、ニッケルなどの金属パイプの外側にアルミニウムパイプを焼きばめ法を用いて被覆したローラーの製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平2000-202520号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、こうしたローラーも芯材の材料がいずれも金属であるため、軽量とはならず、銅やニッケルでは剛性も不十分であるという課題を有していた。
【0005】
本発明は、上述した課題に鑑みなされたものであって、その目的は、軽量化と高剛性化が同時に達成でき、自重による撓みなどの問題が無いローラー及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、課題を解決するための手段として以下の(1)、(2)を提供する。
【0007】
(1)SiC粉末を強化材とする金属−セラミックス複合材料の外側にアルミニウム又はアルミニウム合金からなる被覆層を具備していることを特徴とするローラー。
(2)SiC粉末を成形して円筒形状のプリフォームを形成する工程と、前記プリフォームに溶融アルミニウム又はアルミニウム合金を加圧浸透させる工程と、前記加圧浸透により得られた金属−セラミックス複合材料の内側に付着したアルミニウム又はアルミニウム合金を研削除去する工程と、前記金属−セラミックス複合材料の外側に付着したアルミニウム又はアルミニウム合金を所望の被覆層を残して研削する工程と、を含むことを特徴とする(1)に記載のローラーの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、複写機のトナー焼付ローラー、プラスチックスの熱延ローラーおいて、該ローラーの外表面がアルミニウム又はアルミニウム合金で被覆された金属−セラミックス複合材料を用いることにより、部材の軽量化と高剛性化が同時に達成できるという効果がある。したがって、自重による撓みなどの問題が無く、フィルムなどを傷つけないローラーを提供できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について、更に詳しく説明する。
本発明では、SiC粉末を強化材とする金属−セラミックス複合材料の外側にアルミニウム又はアルミニウム合金からなる被覆層を具備していることを特徴とするローラーを提案している。
【0010】
ここで、SiC粉末を強化材とする金属−セラミックス複合材料を芯材として用いる理由は、SiC粉末からなる強化材が有する剛性及び耐磨耗性とアルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属マトリックスが有する軽量性とを併せ持つ特長を発現させるためである。特に、SiCは剛性が高いので、アルミニウム又はアルミニウム合金と複合化させて得られる複合材料はセラミックスに近い高剛性なものが得られるという長所がある。
このように、本発明によれば、金属−セラミックス複合材料を用いることにより芯材の軽量化と高剛性化が同時に達成できる。また、金属−セラミックス複合材料の外側をアルミニウム又はアルミニウム合金からなる被覆層を具備させることにより、ローラー表面が硬過ぎずなくなるため、プラスチックなどを傷つけることがなくなるという作用がある。
【0011】
ここで、アルミニウム合金としては、公知のAl−Si系合金、Al−Mg系合金等を用いることができる。
また、強化材としてのSiC粉末は、粒子状およびウイスカー状、および、繊維状のものが目的に応じて用いられる。
【0012】
次に、複合材料中のSiC粉末の含有率は、40〜80体積%であることが好ましい。その理由は、SiC粉末の含有率が、40体積%より小さいと剛性が小さくなるため自重による撓みなどの問題があり、ローラーの芯材の用途には好ましくないからである。
また、SiC粉末の含有率が80体積%より大きいと、プリフォームの作製が困難となり複合材料の作成ができないからである。
【0013】
ここで、アルミニウム又はアルミニウム合金層からなる被覆層の厚みとしては、特に、0.5〜10mmものが、用途に応じて好的に用いられる。
その理由は、アルミニウム又はアルミニウム合金層からなる被覆層の厚みが、0.5mm未満と薄いと表面に複合材料のSiC粉末が表出する場合があり好ましくなく、また、アルミニウム又はアルミニウム合金層からなる被覆層の厚みが、10mmを超えて厚いと複合材料と被覆層との熱膨張係数差の増大を招きローラー表面に歪を発生するため好ましくないからである。
【0014】
次に、本発明では、SiC粉末を成形して円筒形状のプリフォームを形成する工程と、前記プリフォームに溶融アルミニウム又はアルミニウム合金を加圧浸透させる工程と、前記加圧浸透により得られた金属−セラミックス複合材料の内側に付着したアルミニウム又はアルミニウム合金を研削除去する工程と、前記金属−セラミックス複合材料の外側に付着したアルミニウム又はアルミニウム合金を所望の被覆層を残して研削する工程と、を含むことを特徴とする前記のローラーの製造方法を提案している。
【0015】
ここで、SiC粉末を成形して円筒形状のプリフォームを形成する工程としては、SiC粉末に有機バインダーを添加し、プレス成形により形成する方法や、SiC粉末に水などの溶媒を加え、フィルタープレスにより形成する方法などが挙げられる。
【0016】
ここで、プリフォームにおけるSiC粉末の充填率としては、上記した理由により、40〜80体積%となるようにした。
【0017】
次いで、得られた円筒形状のプリフォームを溶湯加圧装置内に入れて加熱して、溶融アルミニウム又はアルミニウム合金を加圧浸透させることにより芯材としての金円筒形状の金属−セラミックス複合材料が得られる。
ここで、溶湯加圧装置内に溶融アルミニウム又アルミニウム合金を流し込む際の、SiC粉末を成形したプリフォームの加熱温度は、500〜1000℃、好ましくは700〜800℃とすることが望ましい。
また、溶湯加圧装置内に流し込む際の溶融アルミニウム又アルミニウム合金の温度は、700〜1000℃、好ましくは750〜900℃とすることが望ましい。更には、溶融アルミニウム又アルミニウム合金の浸透は加圧による高圧鋳造法にて行うことが好ましい。 この場合の加圧力は、10MPa〜100MPa 、好ましくは20MPa〜80MPaとすることが望ましい。
【0018】
次に、加圧浸透させた後は、通常は、得られた複合材料の表面に付着した余分なアルミニウム合金を研削して目的の複合材料を得ている。
しかし、本発明の製造方法では、前記加圧浸透により得られた金属−セラミックス複合材料の内側に付着したアルミニウム又はアルミニウム合金を研削除去する工程と、前記金属−セラミックス複合材料の外側に付着したアルミニウム又はアルミニウム合金を所望の被覆層を残して研削する工程と、を含んでいる。その理由は、前記したようにSiC粉末を強化材とする金属−セラミックス複合材料の外側にアルミニウム又はアルミニウム合金からなる被覆層を具備させるためである。
【0019】
このようにすれば、円筒形状の金属−セラミックス複合材料を芯材として、その外側にアルミニウム又はアルミニウム合金からなる被覆層を具備するローラーを製造することができる。
このように、本発明によるローラーは、軽量で剛性の高い金属−セラミックス複合材料を芯材としているため、金属のみからなるローラーに比して軽量化と高剛性化が実現できる。
【0020】
以下、本発明の実施例を具体的に挙げ、本発明をより詳細に説明する。
(1)複合材料の作製
(試験例1)
市販のSiC粉末(信濃電気精錬社製、平均粒径10μm)100重量部に、有機バインダーとしてPVB(ポリビニルブチラール)5重量部とコロイダルシリカ5重量部を添加し、これをプレスして大きさが200×200×20mmで、SiC粉末の充填率が50体積%となるプリフォームを形成した。得られたプリフォームに高圧鋳造法により溶融アルミニウム合金(JIS AC8A)を浸透、複合化させ、冷却して金属−セラミックス複合材料(SiC粉末の充填率:50体積%)を作製した。
(2)評価
得られた複合材料の嵩密度をJIS R1634記載の方法で求めた。その結果、嵩密度は2.95g/cm3と小さく軽量であった。
次に、得られた複合材料から3×4×40mmの試験片を切り出し、その試験片でヤング率を求めた。その結果、ヤング率は180GPaと大きく高剛性であった。
【0021】
(試験例2)
SiC粉末として平均粒径60μmのものを70重量部と平均粒径10μmのもの30重量部を用いて、SiC粉末の充填率が60体積%のとなるプリフォームを形成した他は試験1と同様に金属−セラミックス複合材料(SiC粉末の充填率:60体積%)を作製し、評価した。その結果、嵩密度は3.00g/cm3と小さく軽量であった。また、ヤング率は220GPaと大きく高剛性であった。
【0022】
(試験例3)
試験例1において、プレス圧を低くして30体積%の充填率を有するプリフォームを形成した以外は試験例1と同様にして金属−セラミックス複合材料(SiC粉末の充填率:30体積%)を作製し、評価した。
その結果、嵩密度は2.85g/cm3と小さく軽量であった。また、ヤング率は125GPaと大きく高剛性であった。
【0023】
(参考例)
比較のために参考例として、アルミニウム合金(JIS AC8A 鋳造品)を試験例1と同様にして評価した。その結果、嵩密度は2.7g/cm3と小さく軽量であるものの、ヤング率は70GPaと小さく低剛性であった。
【0024】
(3)芯材用部材の評価結果
以上の評価結果から明らかなように、試験例全ての部材の嵩密度が低く、またヤング率が高く、軽量高剛性を示していた。このことは、この金属−セラミックス複合材料を用いてローラー用の芯材とすれば、軽量であって、かつ剛性の高いローラーが得られることを示している。
これに対して参考例では、部材がアルミニウム合金単味であるので、ヤング率が低く、剛性が劣っていた。
【0025】
(4)実施例
以下に、試験例2の部材をローラーの芯材として適用した実施例を具体的に説明する。
市販のSiC粉末(信濃電気製錬製、平均粒径60μm)70重量部とSiC粉末(信濃電気製錬製、平均粒径10μm)30重量部に、バインダーとしてPVB(ポリビニルブチラール)5重量部、コロイダルシリカ5重量部を添加し、これをプレスして外径40mm、肉厚3mm、長さ300mmの円筒形状に成形して、セラミックス強化材の充填率が60体積%となるプリフォームを形成した。
得られたプリフォームを溶湯加圧装置内に入れ、700℃で加熱した。次に、アルミニウム合金(JIS AC8A)を750℃で溶融させた溶湯を30MPaの圧力で加圧して、溶融アルミニウム合金をプリフォーム内に加圧浸透させて金属−セラミックス複合材料(SiC粉末の充填率:60体積%)を得た。
【0026】
次に、前記加圧浸透により得られた金属−セラミックス複合材料の内側に付着したアルミニウム合金を研削により除去した。
【0027】
さらに、前記金属−セラミックス複合材料の外側に付着したアルミニウム合金を3mmの被覆層を残して研削した。
このようにして、SiC粉末を強化材とする金属−セラミックス複合材料を芯材として、その外側に厚み3mmのアルミニウム合金からなる被覆層を具備したローラーを製造した。
【0028】
ここで、図1に本発明に係るローラーの概略模式断面図を示した。
図において、1は芯材となるSiC粉末を強化材とする金属−セラミックス複合材料であり、その外側には、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる被覆層2を具備している。
【0029】
実施例により得られたローラーの内部にヒーターを配置してプラスチック用の熱延用のローラーとして実際に適用したところ 、ブラスチックを均一に加熱することができ、しかも、軽量化と高剛性化が同時に達成できた。
また、アルミニウム製のローラーのように、ローラーが自重により撓むという問題もなかった。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係るローラーの概略模式断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1;金属−セラミックス複合材料
2;被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC粉末を強化材とする金属−セラミックス複合材料の外側にアルミニウム又はアルミニウム合金からなる被覆層を具備していることを特徴とするローラー。
【請求項2】
SiC粉末を成形して円筒形状のプリフォームを形成する工程と、前記プリフォームに溶融アルミニウム又はアルミニウム合金を加圧浸透させる工程と、前記加圧浸透により得られた金属−セラミックス複合材料の内側に付着したアルミニウム又はアルミニウム合金を研削除去する工程と、前記金属−セラミックス複合材料の外側に付着したアルミニウム又はアルミニウム合金を所望の被覆層を残して研削する工程と、を含むことを特徴とする請求項1記載のローラーの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−224355(P2007−224355A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−46089(P2006−46089)
【出願日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】