説明

ロールブランケット乾燥装置

【課題】 乾燥効率を高める。
【解決手段】 ブランケットロール1のブランケット2の外周面におけるロール軸方向に延びる直線状の領域Xに対して超音波4を集束させて照射するための超音波照射手段3と、同じ領域Xに流速を高めた状態の空気6を吹き付けるための空気噴射ノズル5と、超音波照射手段3と空気噴射ノズル5の上方と周りを覆う乾燥カバー7とを備えてロールブランケット乾燥装置Iを構成する。ブランケット2の外周面の領域Xに対して超音波照射手段3より集束させた超音波4を照射することで、ブランケット2を振動させて、表面波による印刷インクの溶剤の蒸発面積の拡大と、内部の粗密波による溶剤の表面側への染み出しの促進と、溶剤自体に超音波のエネルギを与えることによる気化の促進を行い、更に、空気噴射ノズル5より吹き付ける空気6によりブランケット2表面付近の溶剤蒸気圧を常に低減させることで、溶剤の蒸発を促進させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット印刷の実施時に印刷インクの溶媒を吸収して膨潤するブランケットロールのブランケットを乾燥させるために用いるロールブランケット乾燥装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
印刷装置の1つの形式として、版の印刷パターン溝(凹部)に付けた印刷インクをブランケットロールの外周面へ一旦転写(受理)処理し、次いで、上記ブランケットロールより印刷対象の表面へ印刷インクの再転写(印刷)処理を行うことで、印刷処理を行う形式のオフセット印刷装置がある。
【0003】
上記のようなオフセット印刷装置では、一般に、上記転写処理及び再転写処理による印刷サイクルを繰り返し行うと、該ブランケットロールの外周部に設けてあるブランケットが次第にインクの溶媒(溶剤)を吸収し(ブランケットにインクの溶媒が次第に染み込んで)、該ブランケットが膨潤するという現象が生じることが知られている。
【0004】
ところで、近年、金属蒸着膜のエッチング等による微細加工に代えて、導電性ペーストを印刷用のインクとして用いた凹版オフセット印刷技術を用いて基板上に液晶ディスプレイ等の画像表示素子の電子回路を印刷して形成する手法が提案されてきている。
【0005】
上記基板上に電子回路を印刷により形成する場合は、電極となる線幅として、たとえば、10μm程度と微細なものが要求されることがあり、よって、紙等に文字や画像を印刷する通常のオフセット印刷に比して高い印刷精度が要求される。
【0006】
そのため、この種の高い印刷精度が要求されるオフセット印刷装置では、印刷処理時に前記したようなインクの溶媒の吸収によりブランケットが許容以上に膨潤してしまうと、該ブランケット自体の厚み寸法が変化することに伴ってブランケットロールの外径寸法に変化が生じ、更には、上記ブランケットにおける膨潤した部分が柔らかくなってしまうため、該ブランケットロールの周速や、該ブランケットロールを版や印刷対象に接触させるときの印圧(接触圧力)が変化して、高い印刷精度を満足させることができなくなり、又、ブランケット自体の寿命が短くなる虞が懸念される。
【0007】
そこで、微細(高精細)な印刷パターンを高い印刷精度で印刷することが求められるオフセット印刷装置においては、上記のような印刷処理時のブランケットの膨潤に起因する種々の問題を回避するために、ブランケットロールのブランケットと、該ブランケットの外周表面に沿わせて配置した円弧状に延びるカバー部材との間に形成した流路の一端側と他端側に、送風ブロワーと排気ブロワーを接続して、版より上記ブランケットロールのブランケットの外周表面に印刷パターンを転写(受理)した状態のときに、該印刷パターンを上記流路に臨む位置に配置させてから、上記送風ブロワーより供給される乾燥した空気を、上記流路に流通させることにより、上記ブランケットの外周表面の印刷パターンを或る程度乾燥させて、インクの溶媒によるブランケットの膨潤を防止できるようにすることが従来提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0008】
ところで、食器乾燥機において、超音波振動子に取り付けた放射板で発生させて空中に放射させる超音波振動を、略放物面を備えた超音波集束手段により線状の焦点位置に集束させて上記食器乾燥機内の食器に付着した大きな水滴に当てることにより、該水滴を微細化して吹き飛ばすようにする考えが従来提案されている(特許文献2参照)。
【0009】
又、洗浄された板状の物品に対し、超音波振動体による超音波振動エネルギを照射して上記物品の表面に弾性波振動を生じさせて、乾燥している領域から濡れている向きに超音波流動により上記物品に付着している洗浄液を除去させるようにし、更に、この際、乾燥気体の送風手段により上記物品における上記超音波エネルギの照射部位に重ねて気体を送風して、上記弾性波振動により飛ばされた水滴やパーティクルの再付着を防ぐためのエアーカーテンとして機能させる考えは従来提案されている(たとえば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−254415号公報
【特許文献2】特開2009−240545号公報
【特許文献3】特許第3367336号公報(第5頁、図8)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、上記特許文献1に示されたものは、ブランケットの外周表面に転写された印刷パターンを乾燥させるためのものであるため、該ブランケットの外周表面に対して接触させる空気の流速は、上記印刷パターンに乱れが生じない程度に制限される。
【0012】
したがって、該特許文献1に示されたものは、乾燥に用いる空気の気流速度(風速)を大きくすることで、空気は粘性流体であるから乾燥対象となるブランケットの表面近傍での流速はゼロであるとしても該ブランケットの表面より空気中に放散される印刷インクの溶媒の蒸気(蒸発溶媒)を空気の流れによって直ちに取り除くようにして、ブランケットの表面付近における上記溶媒の蒸気圧を常に下げて乾燥効率の向上化を図るようにはなっていない。
【0013】
更に、ブランケットの表面とカバー部材との間に形成させる流路に空気を流通させてブランケットの乾燥を行う際に、乾燥効率を更に向上させるための別の手法を組み合わせる考えは何ら示されていない。
【0014】
しかも、特許文献1に示されたものは、上記ブランケットの外周表面に転写された印刷パターン全体を覆うことが可能なサイズのカバー部材を設ける必要があるため、装置構成が大きくなり、上記ブランケットロールの周辺に配置して設けられる他の機器との干渉が懸念されるという問題もある。
【0015】
特許文献2には、超音波振動子に取り付けた放射板で発生させて空中に放射させる超音波振動を、略放物面を備えた超音波集束手段により線状の焦点位置に集束させる考えは示されているが、上記集束させた超音波振動を当てる対象は、食器のような固体の表面に付着する水滴であって、該集束させた超音波振動の機能としては、上記、該水滴自体を微細化させて吹き飛ばす考えが示されているのみである。
【0016】
しかも、上記のように超音波振動(超音波)を用いる場合は、その音波出力に工学的な限界があるため、乾燥効率には上限がある。
【0017】
又、特許文献3に示されたものは、洗浄された板状の物品における、超音波振動体より超音波振動エネルギを照射する個所に、重ねて気体を送風するようにする考えは示されているが、上記物品に超音波振動エネルギを照射するのは、該物品に、付着している洗浄液を乾燥している領域から濡れている向きに流動(超音波流動)させるための弾性波振動を生じさせることを目的としているのであって、上記洗浄液の蒸発の促進を図ることが何ら示唆されるものではない。又、上記気体は、上記物品の表面に生じさせる弾性波振動によって飛ばされた水滴やパーティクルの再付着を防ぐためのエアーカーテンとして機能させる考えが示されているに過ぎない。
【0018】
しかも、特許文献3に示されたものは、上記超音波振動エネルギを照射する個所に気体の送風を行うための送風用のノズルの内側に、超音波振動体を設ける構成としてあるため、該超音波振動体より照射する超音波振動エネルギを上記物品に当てるためには、上記気体送風用のノズルを細く絞ることができず、よって、上記気体送風用のノズルより送風する気体の流速を高めることができるようにはなっておらず、又、気体を送風する領域は、上記物品における超音波振動エネルギを照射する領域に比して大きくせざるを得ないというのが実状である。
【0019】
更には、上記特許文献2及び特許文献3に示されたものは、いずれも、固体の表面に付着した水滴や洗浄液を除去して乾燥させることを目的としたものであるため、オフセット印刷装置におけるブランケットロールの外周部に設けてあるブランケットを対象として、印刷処理時に該ブランケットの内部に染み込むインクの溶媒を効率よく乾燥させる手段にそのまま適用できるものではない。
【0020】
そこで、本発明は、オフセット印刷装置で印刷処理時にブランケットロールの外周部に設けてあるブランケットに染み込む印刷インクの溶媒を効率よく乾燥させることができ、しかも、空気の流通のみによってブランケットの乾燥を図る場合に比して、装置構成の小型化を図ることができるロールブランケット乾燥装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、上記課題を解決するために、請求項1に対応して、ブランケットロールのブランケットの外周面の周方向の1個所におけるロール軸方向に延びる直線状の領域に超音波を集束させて照射する超音波照射手段と、上記ブランケットの外周面における上記超音波照射手段より集束された超音波が照射される領域と同じ領域に空気を吹き付けるための空気噴射ノズルと、上記超音波照射手段及び空気噴射ノズルの上方及び周りを覆う乾燥カバーを備え、更に、上記乾燥カバーの内部を上記空気噴射ノズルより噴射する空気の量より多い流量で吸引できるようにしてなる構成とする。
【0022】
又、上記構成において、空気噴射ノズルを、空気入口より供給される空気の流れをロール軸方向でブランケット表面に沿う左右方向へ分散させるための空気供給チャンバと、該空気供給チャンバよりも小さい流路断面積となる左右方向に延びるスリット状の噴射口を備えてなる構成とする。
【0023】
更に、上記各構成において、超音波照射手段を、超音波振動子と、該超音波振動子に取り付けた平板状の放射板と、該放射板より放射される超音波を線状の領域に集束させるためのシリンドリカルな凹面を備えた超音波集束手段からなる構成とする。
【0024】
同様に、上記各構成において、超音波照射手段を、超音波振動子と、該超音波振動子に取り付けたシリンドリカルな凹面を備えた放射板とからなり、該放射板より線状の領域へ向けて集束する超音波を放射できるようにしてなる構成とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明のロールブランケット乾燥装置によれば、以下のような優れた効果を発揮する。(1)ブランケットロールのブランケットの外周面の周方向の1個所におけるロール軸方向に延びる直線状の領域に超音波を集束させて照射する超音波照射手段と、上記ブランケットの外周面における上記超音波照射手段より集束された超音波が照射される領域と同じ領域に空気を吹き付けるための空気噴射ノズルと、上記超音波照射手段及び空気噴射ノズルの上方及び周りを覆う乾燥カバーを備え、更に、上記乾燥カバーの内部を上記空気噴射ノズルより噴射する空気の量より多い流量で吸引できるようにしてなる構成としてあるので、ブランケットにおける超音波照射手段より集束された超音波を照射する領域では、該ブランケットが振動させられ、その表面に表面波による凹凸が生じることで、印刷インクの溶媒の蒸発面積が拡大されて、該溶媒のブランケットからの蒸発を促進させることができる。
(2)更に、上記領域では、空気噴射ノズルより吹き付ける空気により、蒸発した印刷インクの溶媒の蒸気を直ちに除去して、ブランケットの表面近傍における上記溶媒の蒸気圧を常に低く保持することができるため、該溶媒のブランケットからの蒸発を促進させることができる。
(3)ブランケットにおける上記領域に位置する部分の内部では、集束させた超音波の照射により粗密波が生じることにより、ブランケットの内部に染み込んでいる印刷インクの溶媒の表面側への染み出しを促進させることができるため、このことによっても、上記溶媒のブランケットからの蒸発を促進させることができる。
(4)更には、ブランケットにおける上記領域に位置する部分に染み込んでいる印刷インクの溶媒自体に上記照射する超音波のエネルギを与えて、該溶媒自体の気化を促進させて、ブランケットからの蒸発を促すことができる。
(5)したがって、ブランケットロールを回転させながら、ブランケットにおける上記領域に対して超音波照射手段より集束させた超音波の照射と、空気噴射ノズルからの空気の吹き付けを行うことで、上記(1)(2)(3)(4)の相乗効果により、該ブランケットより、連続的に、しかも効率よく印刷インクの溶媒を乾燥させることができる。
(6)上記ブランケットより蒸発させた印刷インクの溶媒は、乾燥カバーより外部に漏らすことなく吸引して回収することができる。
(7)更に、本発明のロールブランケット乾燥装置は、設置する際にブランケットロールの周方向に必要とされる角度範囲を、ブランケットの外周面に対して空気を吹付けることのみで乾燥を行うために従来用いられていた装置を設置する場合に比して小さくすることができるため、オフセット印刷装置にてブランケットロールの周辺に設置される他の機器と干渉しないように配置することが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明のロールブランケット乾燥装置の実施の一形態を示す概略切断側面図である。
【図2】図1のA−A方向矢視図である
【図3】本発明の実施の他の形態を示す概略切断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
【0028】
図1及び図2は本発明のロールブランケット乾燥装置の実施の一形態を示すもので、以下のような構成としてある。
【0029】
すなわち、本発明のロールブランケット乾燥装置Iは、ブランケットロール1の外周部に設けてあるブランケット2の外周面の1個所にロール軸方向に延びる直線状の領域Xに向けて集束させた超音波4を照射する超音波照射手段3と、上記ブランケット2の外周面における上記領域Xに対して乾燥用の空気6の気流を吹き付けることができるようにしてある空気噴射ノズル5とを備え、更に、上記超音波照射手段3及び空気噴射ノズル5の上方と周りを覆う乾燥カバー7を備えて、該乾燥カバー7の内部を上記空気噴射ノズル5より噴射する空気6の量よりやや多い流量の空気を外部より吸引できるようにして周囲より減圧となるようにした構成とする。
【0030】
詳述すると、上記乾燥カバー7は、前後方向と高さ方向を所要寸法として側面形状を略矩形状とすると共に、ブランケットロール1の延びる方向となる左右方向を長尺寸法として上記ブランケット2の左右方向(ロール軸方向)の幅寸法よりも若干長い寸法の箱型として、下端側を開口させた構成としてある。
【0031】
更に、図2に示すように、上記ブランケット2の左右方向の両端部よりも外側となる位置に配置される上記乾燥カバー7の左右のサイドプレート(側壁)8は、その下端側を該乾燥カバー7の前側壁及び後側壁となるプレート9及び10の下端位置よりも上記ブランケット2の厚み寸法に対応する分、下方へ突出させると共に、該各左右のサイドプレート8の下端縁を、上記ブランケットロール1の外周面に沿う湾曲形状(円弧形状)としてある。
【0032】
これにより、上記乾燥カバー7は、ブランケットロール1のブランケット2の外周面における周方向の1個所(図1ではブランケット2の外周面の上端部)に設定する乾燥対象位置の外側に、該乾燥カバー7の下端開口側を近接させて配置する際に、上記左右の両サイドプレート8の下端縁を、上記ブランケットロール1の外周面に所定の隙間寸法、たとえば、0.1mm〜0.5mm程度の隙間寸法で近接させて配置できるようにすると共に、上記前側壁プレート9及び後側壁プレート10の下端縁を、上記ブランケット2の外周面に該ブランケット2の厚み寸法のぶれを考慮した所定の隙間寸法、たとえば、0.5mm〜1mm程度の隙間寸法で近接させて配置できるようにして、該乾燥カバー7における前後左右の側壁を形成する各プレート8,9,10の下端縁と、対応するブランケットロール1あるいはブランケット2の外周面との隙間を狭くすることで、上記ブランケット2の乾燥対象位置の外側に配置した上記乾燥カバー7の内部と外部での空気の吹き抜けを抑制できるようにしてある。
【0033】
上記乾燥カバー7の天井部11の中央部には、空気回収口12を設けて、外部の図示しない空気吸引手段に空気回収ラインを介して接続してある。
【0034】
上記超音波照射手段3は、上記ブランケット2のロール軸方向に沿う左右幅寸法に対応して左右方向に延びる領域に略水平状態で配置した放射板14の上側に、超音波振動子13を取り付けて、該超音波振動子13により上記放射板14を発振(振動)させることで、該放射板14の下面側に該下面に垂直な方向に沿って空中へ超音波4を放射できるようにしてある。更に、上記放射板14より放射される超音波4の進行方向となる位置に、上記ブランケット2の左右幅寸法に対応して左右方向に延び且つシリンドリカルな凹面を備えた超音波集束手段15を配置した構成としてある。これにより、上記超音波振動子13に取り付けた放射板14より空中に放射させる超音波4を、上記超音波集束手段15の凹面により反射させることで、該超音波4の進行方向を斜め下向きに変向させると共に、焦点となる左右方向に延びる線状の領域Xに集束させることができるようにしてある。
【0035】
ところで、上記超音波振動子13には、発振させることで超音波4を放出させることが可能な放射板14の大きさには限界がある。そのため、上記ブランケット2の左右幅寸法が大きくて、それに応じて上記放射板14を配置する左右方向に延びる領域の長さ寸法が長い場合は、複数の超音波振動子13を左右方向に配列して備えるようにすればよい。この場合、左右方向に延びる1枚の放射板14に、図示しないコントローラによって位相の同期調整をした複数の超音波振動子13を取り付けた構成、あるいは、単一の超音波振動子13により超音波4を発振させることが可能な長さ寸法となるように左右方向に複数分割した放射板14毎に、個別の超音波振動子13を取り付けた構成とすればよい。
【0036】
上記構成としてある超音波照射手段3は、上記乾燥カバー7の前後方向の一方の側壁、たとえば、前側壁プレート9の内側に沿う位置に、上記超音波集束手段15により斜め下向きに変向させて集束させる超音波4の進行方向が、乾燥カバー7の下端開口部における前後方向の中央付近に向くように配置して、上記放射板14を取り付けた超音波振動子13と、上記超音波集束手段15を、上記乾燥カバー7の前側壁プレート9の内面のそれぞれ対応する個所に、取付部材16,17を介して取り付けた構成としてある。
【0037】
なお、上記超音波集束手段15で超音波4を集束させる線状の領域Xの幅寸法は、上記超音波振動子13により発振させる放射板14より放出させる超音波4の波長分程度の寸法に設定してあるものとする。したがって、20kHzの超音波4を用いる場合は、15mm程度の幅寸法の線状の領域Xに上記超音波4を集束させるようにしてある。又、使用する超音波4の周波数が20kHz以上の場合は、幅寸法が15mm以下、たとえば、実用的には、10mm程度の幅寸法となる線状の領域Xに集束させるようにしてある。
【0038】
上記空気噴射ノズル5は、上記ブランケット2の左右幅寸法に対応して左右方向に延び且つ下部を斜め下向きに屈曲させた形状としてある空気供給チャンバ18の下端側に、流路断面積を上記空気供給チャンバ18の流路断面積より徐々に減少させると共に先端部に上記ブランケット2の左右幅寸法に対応して左右方向に延びるスリット状の噴射口20を備えたノズル体19を取り付けた構成としてある。
【0039】
上記構成としてある空気噴射ノズル5は、上記乾燥カバー7の前後方向の他方の側壁、図では後側壁の内側に沿う位置に、上記ノズル体19の噴射口20より噴射させる空気6の進行方向が、該乾燥カバー7の下端開口部における前後方向の中央付近に向くように配置して、上記空気供給チャンバ18の上部を、上記乾燥カバー7の後側壁プレート10の内面の対応する個所に、取付部材21を介して取り付けるようにしてある。更に、上記空気供給チャンバ18の上端部に設けた空気入口22に、上記乾燥カバー7の天井部11における該空気供給チャンバ18の真上となる個所を内外方向に貫通させて設けた空気入口管23の下端側を接続した構成としてある。
【0040】
上記乾燥カバー7の天井部11の上方に突出する上記空気入口管23の上端側には、外部の図示しない空気供給装置が空気供給ラインを介して接続してある。
【0041】
これにより、上記図示しない空気供給装置より空気供給ラインを通して導かれる空気6が、上記空気入口管23と空気入口22を経て空気供給チャンバ18へ供給されると、該空気供給チャンバ18の下流側に設けてあるノズル体19の部分で流路断面積が絞られて空気6の流通抵抗が高まるようにしてあることに伴って、該空気供給チャンバ18内で、上記空気入口22より流入する空気6の流れをロール軸方向でブランケット2表面に沿う左右方向へ一様に分散させることができるようにしてあり、この左右方向へ分散された空気6を、空気供給チャンバ18の流路断面積に比して流路断面積が小さくなるようにしてある上記ノズル体19のスリット状の噴射口20より、気流速度を増速させた状態で且つ該噴射口20の左右方向全幅より均等な流量で噴き出すことができるようにしてある。
【0042】
なお、前述したように上記乾燥カバー7を上記ブランケット2の乾燥対象位置の外側に配置した状態のときに、上記超音波照射手段3の超音波集束手段15により超音波4を集束させる線状の領域Xが、該ブランケット2の外周面上に位置するようにし、且つ、この状態で、上記空気噴射ノズル5のノズル体19における左右方向に延びるスリット状の噴射口20より噴射させる空気6の流れの上記ブランケット2の外周面に当たる位置が、該ブランケット2の外周面上における上記超音波照射手段3より集束された超音波4が照射される線状の領域Xに一致するように設定してあるものとする。
【0043】
以上の構成としてある本発明のロールブランケット乾燥装置Iを使用する場合は、予め該本発明のロールブランケット乾燥装置Iを、ブランケットロール1のブランケット2の外周面における周方向の1個所に設定した乾燥対象位置の外側に、上記乾燥カバー7の下端開口側を近接させた状態で配置しておく。
【0044】
その後、オフセット印刷処理における版(図示せず)よりブランケットロール1のブランケット2の表面への印刷パターンの転写(受理)処理と、該ブランケットロール1のブランケット2の表面から基板等の印刷対象(図示せず)への再転写(印刷)処理の印刷サイクルを終了した後、次の印刷サイクルに入るまでの間に、上記ブランケットロール1を、上記超音波照射手段3が設けてある乾燥カバー7の前側壁プレート9がロール回転方向の上流側、空気噴射ノズル5が設けてある後側壁プレート10がロール回転方向の下流側となる方向(図1における矢印rで示す方向)へ或る一定の速度で回転させた状態で、上記空気噴射ノズル5の上流側に接続してある図示しない空気供給装置と、上記乾燥カバー7の空気回収口12の下流側に接続してある図示しない空気吸引装置を共に運転する。この際、上記図示しない空気吸引装置による該乾燥カバー7の内部の吸引を、上記空気噴射ノズル5より噴射させる空気6の量よりやや多い流量で行うようにして、上記乾燥カバー7の内部を外部よりも減圧させることで、乾燥カバー7とブランケットロール1及びブランケット2の隙間から外部へ空気6が漏れ出ることを防止できるようにする。
【0045】
更に、上記超音波照射手段3の超音波振動子13により放射板14を発振させて、該放射板14より超音波4を放射させるようにする。
【0046】
これにより、上記超音波照射手段3の放射板14より放射された超音波4が、超音波集束手段15により集束させられて、上記乾燥カバー7の下端開口部の前後方向中央部に位置する線状の領域Xに集中して照射されるようになると共に、該ブランケット2の外周面における上記領域Xに対し、上記空気噴射ノズル5のノズル体19の噴出口20より気流速度を増速させた状態で噴射される空気6が当てられるようになる。
【0047】
この際、上記ブランケット2の外周面における領域Xでは、上記超音波照射手段3よりブランケット2の表面に対し斜め方向に照射される超音波4により、該ブランケット2が振動(超音波振動)させられると共に、樹脂製としてあるブランケット2と金属製としてある上記ブランケットロール1の界面で反射した超音波4も該ブランケット2に作用するようになるため、該ブランケット2自体に、縦波や横波、ラム波、レイリー波のような弾性波が複合して生じる。
【0048】
これにより、上記ブランケット2の外周面における上記領域Xに位置する部分では、表面波が生じ、この表面波の凹凸により表面積が増大した状態となることから、超音波を当てない場合に比して、該ブランケット2に染み込んでいる印刷インクの溶媒の蒸発(気化)する面積が拡大されて、該溶媒のブランケット2の表面からの蒸発が促進されるようになる。
【0049】
上記のようにしてブランケット2の表面より蒸発した印刷インクの溶媒は、上記空気噴射ノズル5より気流速度が高められた状態で且つ左右幅方向で均等な流量で上記ブランケット2の外周面における上記領域Xに位置する部分に対し吹き付けられている空気6によってブランケット2の表面近傍より直ちに除去されるようになるため、上記ブランケット2の外周面における上記領域Xに位置する部分では、上記印刷インクの溶媒の蒸気濃度(蒸気圧)が低い空気が常に存在するようになる。このことによっても、上記印刷インクの溶媒のブランケット2の表面からの蒸発が促進されるようになる。
【0050】
更に、上記ブランケット2における上記領域Xに位置する部分の内部では、集束して照射される上記超音波4によって粗密波が生じる。そのため、上記のようにして、ブランケット2の表面からの印刷インクの溶媒の蒸発が行われて、ブランケット2の表面付近が乾くと、その分、ブランケット2の内部に染み込んでいる上記印刷インクの溶媒が表面側へ染み出すようになるが、この際、上記したようにブランケット2の内部に生じている粗密波によって、該ブランケット2の内部から表面側への印刷インクの溶媒の染み出しが促進されるようになる。よって、このことによっても、上記印刷インクの溶媒のブランケット2の表面からの蒸発が促進されるようになる。
【0051】
更には、上記ブランケット2における上記領域Xに位置する部分では、該ブランケット2に染み込んでいる印刷インクの溶媒自体に上記超音波照射手段より集束して照射される超音波のエネルギが与えられることで、該印刷インクの溶媒自体が気化(蒸発)し易くなるため、このことによっても、該印刷インクの溶媒のブランケット2の表面からの蒸発が促進されるようになる。
【0052】
以上により、上記ブランケット2における上記領域Xに位置する部分における上記印刷インクの溶媒の乾燥が効率よく行われるようになり、よって、上記ブランケットロール1の回転に伴って順次ブランケット2の外周面の上記領域Xに位置するようになる個所について、該個所に染み込んでいるインクの溶媒が効率よく且つ左右幅方向にむらのない状態で乾燥させられるようになる。
【0053】
上記ブランケット2より蒸発させた印刷インクの溶媒の蒸気は、上記乾燥カバー7内の空気6と共に、空気回収口12より上記図示しない空気吸引装置へ回収できるため、上記印刷インクの溶媒の蒸気が乾燥カバー7の外部に漏れ出て外部環境が悪化する虞はない。
【0054】
このように、本発明のロールブランケット乾燥装置Iによれば、上記ブランケットロール1の回転に伴ってブランケット2の外周面における上記超音波照射手段3より集束させた超音波4が照射されるロール軸方向でブランケット2表面に沿う左右方向に延びる線状の領域Xとなる個所を、上記図示しない空気供給装置より供給される空気6をブランケット2の左右幅寸法に応じて左右方向に延びる空気供給チャンバ18と、該空気供給チャンバ18よりも流路断面積が小さくなるようにしてある噴射口20とを通すことで効率よく気流速度を増速させ、且つ左右幅方向の流速を均等にさせた状態で吹き付ける空気6により、連続的に、しかも効率よく印刷インクの溶媒を乾燥させることができる。
【0055】
よって、上記ブランケット2の乾燥を少ない空気量で実施することができるようになり、従来に比して乾燥効率の向上化を図ることができる。
【0056】
更に、本発明のロールブランケット乾燥装置Iは、ブランケット2の外周面の周方向の1個所における左右方向(ロール軸方向)に延びる線状の領域Xに、上記超音波照射手段3より集束させた超音波4を集中して照射すると共に、上記空気噴射ノズル5より気流速度を増速させた空気6を集中して吹き付けるようにしてあることから、ブランケットロール1の周方向における本発明のロールブランケット乾燥装置Iの設置のために必要となる角度範囲を、ブランケット2の外周面に対して空気を吹付けるために従来用いられていた装置を設置する場合に比して小さくすることができる。したがって、本発明のロールブランケット乾燥装置Iは、オフセット印刷装置にてブランケットロール1の周辺に設置される他の機器と干渉しないように配置することが容易になる。
【0057】
次に、図3は本発明の実施の他の形態を示すもので、図1及び図2に示したと同様の構成において、超音波照射手段3を、超音波振動子13に取り付けた平板状の放射板14より放射される超音波4を、シリンドリカルな凹面を備えた超音波集束手段15によって左右方向に延びる線状の領域Xに集束させるようにした構成に代えて、超音波振動子13に、上記ブランケット2のロール軸方向に沿う左右幅寸法に対応して左右方向に延びる領域に配置するシリンドリカルな凹面を備えた放射板14aを取り付けて、上記超音波振動子13により発振させる上記放射板14aより左右方向に延びる線状の焦点に集束する超音波を放射できるようにした形式の超音波照射手段3aとしたものである。
【0058】
上記構成としてある超音波照射手段3aは、上記超音波4を集束させる左右方向に延びる線状の焦点が、図1及び図2の実施の形態において超音波照射手段3より集束させた超音波4を照射するようにしてある左右方向に延びる線状の領域Xに一致するように、角度姿勢及び配置を調整した状態で、乾燥カバー7の内側に取付部材24を介して取り付けてあるものとする。
【0059】
その他の構成は図1及び図2に示したものと同様であり、同一のものには同一の符号が付してある。
【0060】
以上の構成としてある本実施の形態のロールブランケット乾燥装置によっても、ブランケット2の外周面における周方向の1個所の左右方向(ロール軸方向)に延びる線状の領域Xに対して、上記超音波照射手段3aより集束させた超音波4の照射と、空気噴射ノズル5からの空気6の吹き付けを行うことができるため、図1及び図2の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0061】
更に、部品点数を削減することができるため、装置構成をよりシンプルなものとすることができて、装置構成の更なる小型化を図る場合に有利なものとする効果が期待できる。
【0062】
なお、本発明は上記実施の形態のみに限定されるものではなく、図2では、乾燥カバー7を、ブランケット2の左右両端部よりも左右方向へ突出するものとして示したが、オフセット印刷に用いる版における印刷パターンを形成した領域の左右幅寸法が、ブランケット2の左右幅寸法よりも狭くて、ブランケット2における左右両端縁部に、印刷インクが付着することがなくて該印刷インクの溶剤が染み込むことがない余白部分、すなわち、印刷インクの溶剤の乾燥処理を行う必要のない余白部分が存在する場合は、上記乾燥カバー7の左右幅寸法を、上記ブランケット2の左右幅寸法と同等か、それ以下の寸法としてもよい。この場合は、上記乾燥カバー7の左右のサイドプレート8の下端部を、前側壁プレート9や後側壁プレート10の下方へ突出させずに、該各サイドプレート8の下端縁を、上記ブランケット2の外周面に沿う湾曲形状(円弧形状)とするようにすればよい。
【0063】
なお、乾燥カバー7を上記のような構成とする場合、その内側に設ける超音波照射手段3及び空気噴射ノズル5の左右幅寸法は、上記ブランケット2における印刷インクが付着してその溶媒が染み込む部分の左右幅寸法に対応する寸法に設定してあるものとする。
【0064】
又、乾燥カバー7における空気回収口12の位置は、空気噴射ノズル5よりブランケット2の外周面における周方向の1個所に設定される線状の領域Xに対して左右に均等な流速で吹き付ける空気6の流れに影響が生じないようにすれば、天井部11の中央以外の位置に設けるようにしてもよい。
【0065】
超音波照射手段3は、ブランケット2の外周面における周方向の1個所に設定される左右方向に延びる線状の領域Xに対して超音波4を集束させて照射できるようにしてあれば、図1及び図3に示した以外のいかなる形式のものとしてもよい。
【0066】
又、空気噴射ノズル5は、左右方向に延びる空気供給チャンバ18と、該空気供給チャンバ18よりも流路断面積の小さい噴射口20を備えて、上記ブランケット2の外周面における周方向の1個所に設定される線状の領域Xに対して流速を高めた空気6を吹き付けることができるようにしてあれば、左右方向に延びるスリット状ではなく、細径の噴射孔を左右方向に複数配列して備えてなる形式とする等、図1、図3に示した以外の形状、形式の空気噴射ノズル5を採用してもよい。
【0067】
オフセット印刷装置におけるブランケットロール1の周辺に設ける機器と上記乾燥カバー7との干渉を避けることができるようにしてあれば、本発明のロールブランケット乾燥装置Iの配置はブランケット2の周方向の上端部以外のいかなる個所としてもよい。この場合、乾燥カバー7を、下端開口部を上記ブランケット2の外周面の周方向の1個所に設定する乾燥対象位置に近接させる姿勢で設けるようにすればよい。
【0068】
乾燥カバー7の前後左右の側壁を形成するプレート8,9,10の下端と、ブランケットロール1やブランケット2の外周面の対応する個所との隙間は、前述したような隙間寸法とすることが望ましいが、ブランケットロール1やブランケット2の製作精度に応じて変更してもよい。
【0069】
その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0070】
I ロールブランケット乾燥装置
1 ブランケットロール
2 ブランケット
3,3a 超音波照射手段
4 超音波
6 空気
5 空気噴射ノズル
7 乾燥カバー
13 超音波振動子
14,14a 放射板
15 超音波集束手段
18 空気供給チャンバ
20 噴射口
22 空気入口
X 領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブランケットロールのブランケットの外周面の周方向の1個所におけるロール軸方向に延びる直線状の領域に超音波を集束させて照射する超音波照射手段と、上記ブランケットの外周面における上記超音波照射手段より集束された超音波が照射される領域と同じ領域に空気を吹き付けるための空気噴射ノズルと、上記超音波照射手段及び空気噴射ノズルの上方及び周りを覆う乾燥カバーを備え、更に、上記乾燥カバーの内部を上記空気噴射ノズルより噴射する空気の量より多い流量で吸引できるようにしてなる構成を有することを特徴とするロールブランケット乾燥装置。
【請求項2】
空気噴射ノズルを、空気入口より供給される空気の流れをロール軸方向でブランケット表面に沿う左右方向へ分散させるための空気供給チャンバと、該空気供給チャンバの流路断面積よりも小さい流路断面積となる左右方向に延びるスリット状の噴射口を備えてなる構成とした請求項1記載のロールブランケット乾燥装置。
【請求項3】
超音波照射手段を、超音波振動子と、該超音波振動子に取り付けた平板状の放射板と、該放射板より放射される超音波を線状の領域に集束させるためのシリンドリカルな凹面を備えた超音波集束手段からなる構成とした請求項1又は2記載のロールブランケット乾燥装置。
【請求項4】
超音波照射手段を、超音波振動子と、該超音波振動子に取り付けたシリンドリカルな凹面を備えた放射板とからなり、該放射板より線状の領域へ向けて集束する超音波を放射できるようにしてなる構成とした請求項1又は2記載のロールブランケット乾燥装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−93035(P2012−93035A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241115(P2010−241115)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】