説明

ロール金型及びその製造方法

【課題】表面にキズが形成されにくいロール金型を提供する。
【解決手段】ロール金型10のロール表面13Aには、NiPメッキ層14が形成される。NiPメッキ層14の表面14Bには、複数の凹部14Aが形成される。NiPメッキ層14の表面14B上には、Crメッキ層15が形成される。Crメッキ層15上には、DLC層17が形成される。ロール金型10は、NiPメッキ層14と、Crメッキ層15とDLC層17との組合せにより、高い硬度を有する金型表面10Bを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロール金型及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、光学フィルムを製造するためのロール金型及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリズムシートやレンチキュラレンズシート、マイクロレンズアレイシートに代表される光学フィルムは、一般的に、10〜50μm程度の高さを有する複数の凸部を有する。凸部はたとえば、線状のプリズム、シリンドリカルレンズ、マイクロレンズ等である。このような光学フィルムの製造方法の一つに、ロール金型を用いたロールツーロール法がある。
【0003】
一般的に、光学フィルム用途のロール金型の表面には、銅(Cu)メッキ層が設けられる。そして、Cuメッキ層の表面には、ダイヤモンドバイトを用いた切削加工により、光学フィルムの複数の凸部に対応する複数の凹部が形成される。光学フィルムの製造工程において、凹部に充填された紫外線硬化樹脂が硬化すると、光学フィルムの凸部となる。
【0004】
Cuメッキ層は、硬度が低く、磨耗しやすい。そこで、通常、ロールの耐摩耗性を向上するために、高硬度を有するCrメッキ層が、Cuメッキ層上に設けられる。
【0005】
また、グラビア製版ロールにおいて、耐刷力を向上するために、Cuメッキ層上にダイヤモンドライクカーボン層を設ける技術が特開2007−130996号公報(特許文献1)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−130996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、タッチパネルのニュートンリング対策として、浅く賦形された光学フィルムを使用することができる。この場合、光学フィルムの表面に形成される凸部の高さは、5μm未満となる。このように浅く賦形された光学フィルムを製造するとき、ロール金型と基板フィルムとの間に異物が巻き込まれれば、異物とロール表面とが擦れて、ロール表面に微小なキズが形成されてしまう場合がある。ロール表面にキズが形成されれば、そのキズが光学フィルムの表面にプリントされる。キズがプリントされた表面部分は入射光を乱反射する。そのため、光学フィルムのうち、キズがプリントされた部分が目立つという問題が生じる。したがって、ロール金型の表面は、キズを発生しにくい方が好ましい。
【0008】
特許文献1は、用途が異なるロールであり、光学フィルムを製造するためのロールではない。そのため、上述のように、ロール金型のキズが、浅く賦形された光学フィルムにプリントされ、目立ってしまうという問題について開示も示唆もされていない。
【0009】
本発明の目的は、表面にキズが発生しにくいロール金型を提供することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0010】
本発明によるロール金型は、ロールと、NiPメッキ層と、Crメッキ層と、ダイヤモンドライクカーボン層とを備える。ロールは、円柱状のロール表面を有する。NiPメッキ層は、ロール表面上に設けられる。NiPメッキ層は、複数の凹部が形成された表面を有する。Crメッキ層は、NiPメッキ層上に設けられる。ダイヤモンドライクカーボン層は、Crメッキ層上に設けられる。
【0011】
本発明によるロール金型に形成されるNiPメッキ層、Crメッキ層及びダイヤモンドライクカーボン層の硬度はいずれも高い。さらに、Crメッキ層とNiPメッキ層との密着性は高く、かつ、Crメッキ層とダイヤモンドライクカーボン層との密着性も高い。そのため、ダイヤモンドライクカーボン層が剥離しにくい。したがって、ロール金型の表面の硬度は高く、ロール金型の表面にキズが発生するのを抑制できる。
【0012】
本発明によるロール金型の製造方法は、円柱状のロールを準備する工程と、ロール表面上にNiPメッキ層を形成する工程と、NiPメッキ層の表面に複数の凹部を形成する工程と、NiPメッキ層上にCrメッキ層を形成する工程と、Crメッキ層上にダイヤモンドライクカーボン層を形成する工程とを備える。
【0013】
好ましくは、ロール金型の製造方法はさらに、洗浄液を貯めた洗浄槽を準備する工程と、凹部を形成した後、ロールの軸を略水平にして、ロールの下部を洗浄槽内の洗浄液につける工程と、ロールの下部を洗浄液につけた後、ロールを回転する工程と、回転後、ロールを洗浄液から離す工程と、洗浄液から離れたロールに注水してロールに付着している洗浄液を洗い流す工程と、洗浄液を洗い流した後、ロールを乾燥する工程とを備える。
【0014】
凹部を形成した後に、洗浄液を含む布でNiPメッキ層が形成されたロールの表面を拭いてロールを洗浄した場合、布に付着した塵埃とロールの表面とが擦れ、NiPメッキ層の表面にキズが発生する場合がある。キズを有するNiPメッキ層上にCrメッキ層及びダイヤモンドライクカーボン層を形成した場合、キズに起因した凹凸がダイヤモンドライクカーボン層上に形成される場合がある。本発明では上述のとおり、ロールを洗浄液につけ、ロールを回転することでロールの表面を非接触洗浄する。そのため、キズがロールの表面につきにくい。その結果、ダイヤモンドライクカーボン層の表面に、キズに起因した凹凸が発生するのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態によるロール金型の斜視図である。
【図2】図1に示したロール金型のII−II線での断面図である
【図3】NiPメッキ層が形成されたロール表面近傍の断面図である。
【図4】複数の凹部が形成されたNiPメッキ層を有するロール表面近傍の断面図である。
【図5】NiPメッキ層が形成されたロールを洗浄するための洗浄槽の斜視図である。
【図6】NiPメッキ層とCrメッキ層とが形成されたロール表面近傍の断面図である。
【図7】図1に示したロール金型を含む光学フィルム製造装置の構成を示す概略図である。
【図8】製造された光学フィルムをロール金型から剥がす工程を示す概略図である。
【図9】比較例1のロール金型の断面図である。
【図10】比較例2のロール金型の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
[ロール金型の構成]
【0017】
図1を参照して、ロール金型10は、光学フィルムの製造に用いられる。ロール金型10は、軸部11と、円柱状の金型表面10Bとを備える。軸部11はロール金型10の両端に配置され、ロール金型10の中心軸と同軸に配置される。光学フィルムを製造するとき、ロール金型10は、中心軸周りに回転する。
【0018】
ロール金型10は、金型表面10Bに複数の凹部10Aを有する。本例では、各凹部10Aは溝である。
【0019】
図2を参照して、ロール金型10は、ロール13と、ニッケルリン(NiP)メッキ層14と、クロム(Cr)メッキ層15と、ダイヤモンドライクカーボン(以下、DLCという)層17とを備える。
【0020】
ロール13は、ロール金型10の母体である。ロール13は金属からなり、たとえば、鉄、ステンレス、鋼等からなる。ロール13は、円柱状のロール表面13Aを有する。
【0021】
NiPメッキ層14は、ロール表面13A上に設けられる。NiPメッキ層14は、ニッケル(Ni)とリン(P)との合金からなり、電解メッキ法又は無電解メッキ法により形成される。NiPメッキ層は、高い硬度を有し(ビッカース硬度Hvで500〜600)、かつ、切削性に優れる。NiPメッキ層の厚さL1はたとえば、100〜200μmである。
【0022】
NiPメッキ層14は、複数の凹部14Aが形成された表面14Bを有する。凹部14Aの深さL2は非常に小さく、たとえば、5μm未満である。凹部14Aの横断形状は三角形状である。凹部14Aはダイヤモンドバイト等を用いて切削加工により形成される。図2では、説明の都合上、凹部10A及び14Aのサイズは実際のサイズよりも大きく表示している。図4、図6、図9及び図10においても同様である。
【0023】
Crメッキ層15は、NiPメッキ層14上に設けられる。Crメッキ層15は、NiPメッキ層14と同様に高い硬度を有する(ビッカース硬度Hvで1000以下)。Crメッキ層15は、たとえば電解メッキ法により形成される。一般的に、Crメッキ層は、ロール金型の最表面に形成され、ロール表面の硬度を確保する。そのため、Crメッキ層の厚さは一般的に1μmを超える。一方、本実施の形態では、Crメッキ層15は、NiPメッキ層14とDLC層17との間に配置され、NiPメッキ層14とDLC層17との密着性を向上する役割を果たす。そのため、Crメッキ層15はNiP層14及びDLC層17よりも薄くしてもよい。
【0024】
DLC層17は、Crメッキ層15上に設けられる。DCL層17は、炭素を主成分とする非晶質の物質であり、非常に高い硬度(ビッカース硬度Hvで1000以上)を有する。DLC層17はさらに、低い摩擦係数を有するため、キズが発生しにくい。DLC層17は、化学蒸着法(Chemical Vapor Deposition:以下、CVD法という)や、物理蒸着法(Physical Vapor Deposition:以下、PVD法という)により形成される。
【0025】
DLC層17は、炭素の他に、シリコン(Si)やCr、ゲルマニウム(Ge)、タングステン(W)等の金属を含有する。以降、DLC層17に含まれる金属を、中間金属と称する。中間金属と炭素とは、DLC層17の下部において、中間層16を構成する。中間層16により、DLC層17とCrメッキ層15との密着性がより向上する。
【0026】
中間層16は、中間金属と炭素との傾斜組成層である。具体的には、中間層16の下端から上端に向かって、炭素比率は徐々に増大する。中間層16上には、炭素と不純物からなる炭素層18が形成される。
【0027】
ロール金型10は、NiPメッキ層14とCrメッキ層15とDLC層17とを積層する。これらの層を組み合わせることで、ロール金型10の金型表面10Bの硬度は非常に高くなる。仮に、DLC層17よりも下方に硬度の低い層が配置されている場合、DLC層17の硬度が高くても、金型表面10Bの硬度は、硬度の低い層の影響を受ける。したがって、NiPメッキ層の代わりにCu層が同程度の厚さで形成されていれば、最表面にDLC層17が形成されていても、金型表面10Bの硬度は低くなり、キズがつきやすくなる。本実施の形態によるロール金型10は、NiPメッキ層14とDLC層17とを組み合わせるからこそ、金型表面10Bの硬度を向上できる。そのため、金型表面10Bの表面にキズが発生しにくい。
【0028】
ロール金型10ではさらに、Crメッキ層15がNiPメッキ層14とDLC層17とを強固に密着させる役割を有する。上述のとおり、NiPメッキ層14とDLC層17とを組み合わせれば、高い硬度を有する金型表面10Bを得ることができる。しかしながら、NiPメッキ層14上に直接DLC層17を形成した場合、DLC層17が容易に剥離してしまう。要するに、NiPメッキ層14とDLC層17との密着性は低い。
そこで、NiPメッキ層14とDLC層17との密着性を向上するために、NiPメッキ層14とDLC層17との間にCrメッキ層15を形成する。Crメッキ層15は、NiPメッキ層14と強固に密着し、かつ、DLC層17とも強固に密着する。そのため、DLC層17が剥がれにくい。さらに、Crメッキ層15はNiPメッキ層14よりも高い硬度を有する。そのため、Crメッキ層15は、金型表面10Bの硬度向上にも寄与する。
Crメッキ層15の厚さL3及びダイヤモンドライクカーボン層17の厚さL5の値の各々は、凹部14Aの深さの値L2以下である。この場合、金型表面10Bに形成される凹部10Aの形状を維持することができる。
[ロール金型の製造方法]
【0029】
次に、ロール金型10の製造方法について説明する。
【0030】
ロール金型10製造方法は、準備工程と、第1のメッキ工程と、切削工程と、洗浄工程と、第2のメッキ工程と、DLC層形成工程とを備える。
【0031】
準備工程では、ロール13を準備する。第1のメッキ工程では、図3に示すように、準備されたロール表面13A上に、無電解メッキ法により、NiPメッキ層14を形成する。
【0032】
切削工程では、図4に示すように、NiPメッキ層14の表面14Bに凹部14Aを形成する。具体的には、NiPメッキ層14の表面14Bに切削用加工油をかけながら、R形状を有するダイヤモンドバイトにより、表面14Bを鏡面に仕上げる。続いて、切削加工により、表面14Bに複数の凹部14Aを形成する。切削加工には、V字状のダイヤモンドバイトを用いる。NiPメッキ層14はCrメッキ層等他の金属メッキ層と比較して、切削性に優れる。そのため、表面14B上に容易に複数の凹部14Aを形成することができる。
【0033】
切削工程により、表面14Bには、切削用加工油や、切削により発生した切削くずや塵埃が付着している。そこで、洗浄工程では、表面14Bを洗浄する。このとき、洗浄された表面14Bにキズをなるべくつけないように、表面14Bを洗浄する。
【0034】
洗浄工程の具体的な工程は以下のとおりである。初めに、洗浄液を貯めた洗浄槽を準備する。図5に示すとおり、洗浄槽50は、上端に開口を有する筐体であり、内部に洗浄液51を貯める。次に、凹部14Aが形成されたロール13を洗浄槽50上に配置する。このとき、ロール13の軸部11を略水平にする。次に、ロール13を下げて、ロール13の下部13Cを洗浄槽50に内の洗浄液51につける。次に、下部13Cを洗浄液51につけたまま、ロール13を中心軸まわりに回転する。このとき、ロール13の表面14Bは、回転により洗浄液51で洗浄され、加工油や切削くず、塵埃が表面14Bから除去される。好ましくはさらに、ミストノズル等を用いて、回転中のロール13の表面14Bに洗浄液を吹き付ける。
【0035】
洗浄後、ロール13を引き上げて、ロール13を洗浄液51から離す。そして、ロール13の表面14Bに注水する。具体的には、ロール13を回転させながら、表面14Bに純水をかけ流す。たとえば、ロール13の上方に設けられた純水のタンクの下面にスリット状の開口が設けられており、純水が開口からロール13の表面14Bに注がれる。このように、表面14Bに注水することで、表面14Bに付着した洗浄液を洗い流す。洗浄液を洗い流した後、ロール13を乾燥する。たとえば、ロール13を回転しながら、表面14Bに空気を吹き付ける。以上の工程により洗浄工程を終了する。
【0036】
洗浄工程では、ロール13を非接触洗浄する。具体的には、洗浄液を含む布等を用いて表面14Bを拭いたりしない。布等を用いて接触洗浄すれば、切削加工により付着された塵埃や、布に付着した塵埃により、表面14Bにキズが発生する場合がある。表面14Bにキズが発生すれば、DLC層17のうち、キズに対応する部分に凹凸が生じる場合がある。このような凹凸は、浅く賦形される光学フィルムに転写され、光学フィルム上で目立つ。したがって、なるべく表面14Bでのキズの発生を抑制した方が好ましい。上述の洗浄工程では、非接触洗浄を実施する。そのため、表面14Bにキズが形成されにくい。
【0037】
洗浄工程を完了した後、第2メッキ工程を実施する。第2のメッキ工程では、図6に示すように、電解メッキ法により、NiPメッキ層14上にCrメッキ層15を形成する。このとき、電解脱脂処理も実行される。Crメッキ層15は、凹部14Aの上にも形成される。
【0038】
第2メッキ工程が完了した後、DLC層形成工程を実施する。DLC層形成工程では、プラズマCVD法により、Crメッキ層15上にDLC層17を形成する。このとき、周知の方法により、DLC層17の下部に中間金属と炭素からなる中間層16を形成する。
【0039】
以上の工程により、ロール金型10が製造される。
[光学フィルムの製造方法]
【0040】
上述のロール金型10を用いた光学フィルムの製造方法は以下のとおりである。光学フィルムは、ロールツーロール法により製造される。
【0041】
初めに、図7に示すとおり、フィルム製造装置100内に、ロール金型10を配置する。
【0042】
フィルム製造装置100は、図示しない送り出しロールと、図示しない巻き取りロールと、ロール金型10と、ニップロール20とを備える。ロール金型10及びニップロール20は、送り出しロールと巻き取りロールとの間に配置される。送り出しロールには、図7に示す基材フィルム30が巻かれている。基材フィルム30は樹脂であり、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムである。
【0043】
ニップロール20は、円柱形をなしている。ニップロール20は、中心軸21周りに、ロール金型10の回転方向ARW1と反対の方向ARW2(反時計回り)に回転する。送り出しロールから送り出された基材フィルム30は、ニップロール20とロール金型10との間に挿入される。ニップロール20は、基材フィルム30をロール金型10との間に挟み、ロール金型10の方向に圧力を加える。この圧力は、グラビア製版などに用いるときよりも大きい。基材フィルム30は、ロール金型10及びニップロール20の回転に合わせて基材フィルム30を巻き取りロール側にスライドする。
【0044】
ロール金型10の金型表面10Bには、紫外線硬化樹脂を滴下する。複数の凹部10Aには、紫外線硬化樹脂が充填される。基材フィルム30がニップロール20によりロール金型10側に押しつけられると、凹部10Aに充填された紫外線硬化樹脂は、基材フィルム30に接触する。基材フィルム30に接触した紫外線硬化樹脂に対して、紫外線を照射する。これにより、基材フィルム30に接触していた紫外線硬化樹脂が固まり、図8に示すように、光学フィルム31が形成される。形成された光学フィルム31をロール金型10から剥がされ、巻き取りロールに巻かれる。
【0045】
製造された光学フィルム31は、表面に複数の凸部を有する。具体的には、光学フィルム31の凸部は、横断面が三角形状の線状のプリズムである。凸部の高さは5μm未満であり、非常に低い。要するに、光学フィルム31の表面は非常に浅く賦形される。光学フィルム31は、たとえば、アンチニュートンリングフィルムとしてタッチパネルに利用される。
【0046】
光学フィルム31は、ロール金型10で製造される。ロール金型10の金型表面10Bの硬度は高いため、製造工程中に金型表面10Bにキズが発生しにくい。さらに、ロール金型10は洗浄工程で非接触洗浄される。そのため、製造されたロール金型10の金型表面10Bは、キズが形成されにくい。その結果、光学フィルム31の表面は、ロール金型のキズに起因した、入射光を乱反射する凸部が形成されにくい。
【0047】
上述の実施の形態では、凹部10Aを溝とした。しかしながら、凹部10Aは穴であってもよい。凹部10Aが穴である場合、たとえば、マイクロレンズ状の凸部を光学フィルムの表面に形成できる。また、凹部10Aが溝であって、横断面の形状が弓状であってもよい。この場合、凹部10Aによりシリンドリカルレンズ状の凸部が光学フィルムの表面に形成される。
【実施例】
【0048】
互いに異なる複数のコーティング層を有する複数のロール金型を製造した。そして、製造されたロール金型を用いて、ロールツーロール法により光学フィルムを製造した。ロール金型製造後のロール金型の金型表面と、光学フィルムを製造後のロール金型の金型表面とを目視及び光学顕微鏡で観察した。
【0049】
[本発明例]
本発明例のロール金型(以下、単に本発明例という)を以下の方法で製造した。本発明例の構成は図2と同じとした。初めに、ロール表面13Aの直径(ロール胴径)が300mmであり、ステンレス製のロール13を準備した。準備したロール13を用いて、上述の製造方法により、本発明例を製造した。第1のメッキ工程では、無電解メッキ法により厚さL1=150μmのNiPメッキ層14を形成した。切削工程では、頂角が鈍角であるV字状ダイヤモンドバイトを用いて、切削加工により、ピッチL6=0.5mm、深さL2=2.0μmの凹部14Aを形成した。洗浄工程では、アルカリ性洗剤を純水で希釈した洗浄液をインクパンに満たし、ロールを洗浄した。第2メッキ工程では、電解メッキ法により、厚さL3=0.5μmのCrメッキ層15を形成した。DLC層形成工程では、プラズマCVD法により厚さL5=1.0μmのDLC層17を形成した。中間金属にはSiを使用した。
【0050】
[比較例1]
比較例1のロール金型(以下、単に比較例1という)を以下の方法で製造した。比較例1の構成は図9に示すとおりとした。比較例1では、ロール表面13A上にNiPメッキ層14のみを形成した。ロール13の材質及びサイズと、NiPメッキ層14の形成方法及び凹部14Aの形成方法とは、本発明例と同じとした。凹部14Aを形成後、本発明例と同様に洗浄工程を実施し、比較例1を完成した。
【0051】
[比較例2]
比較例2のロール金型(以下、単に比較例2という)を以下の方法で製造した。比較例2の構成は図10に示すとおりとした。比較例2では、Crメッキ層を形成せず、NiPメッキ層14上に直接DLC層17を形成した。その他の構成及び製造方法は、本発明例と同じとした。具体的には、本発明例と同じ洗浄工程を実行した後、本発明例と同じ方法でDLC層17を形成し、比較例2を完成した。
【0052】
[ロール金型製造後の金型表面の観察]
本発明例、比較例1及び2を製造後、各ロール金型の金型表面を目視観察した。本発明例及び比較例1では、形成された層が剥離していなかった。一方、比較例2では、DLC層17の一部が剥離していた。DLC層17とNiPメッキ層14との密着性が低かったためと考えられる。
【0053】
[光学フィルム製造後の金型表面及び光学フィルム表面の観察]
本発明例及び比較例1を用いて、光学フィルムを製造した。各ロール金型を用いた光学フィルムの製造方法は、上述のとおりとした。具体的には、各ロール金型に紫外線硬化樹脂を滴下した。基材フィルム30の厚さは188μmとし、素材はPETとした。紫外線硬化樹脂を硬化して、ピッチ=0.5mm、高さ=2.0μmのプリズム状の複数の凸部が形成された表面を有する光学フィルムを製造した。
【0054】
製造後のロール金型の金型表面と、製造された光学フィルムの表面とを目視及び光学顕微鏡で観察した。観察の結果、本発明例の金型表面にはキズが発生していなかった。また、光学フィルムの表面にも、金型表面のキズが転写されて形成されたと推測される周期性のキズは観察されなかった。
【0055】
一方、比較例1の金型表面にはロール周方向に延び、数十μmの幅を有するキズが多数観察された。また、比較例1で製造された光学フィルムの表面には、比較例1のキズが転写されて形成されたと推測される周期性のキズが観察された。
【0056】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0057】
10 ロール金型
10A 凹部
10B 金型表面
11 軸部
13 ロール
13A ロール表面
14 ニッケルリンメッキ層
15 クロムメッキ層
17 ダイヤモンドライクカーボン層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状のロールと、
前記ロールの表面上に設けられ、複数の凹部が形成された表面を有するNiPメッキ層と、
前記NiPメッキ層上に設けられるCrメッキ層と、
前記Crメッキ層上に設けられるダイヤモンドライクカーボン層とを備える、ロール金型。
【請求項2】
請求項1に記載のロール金型であって、
前記凹部は、切削加工により形成される、ロール金型。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のロール金型であって、
前記Crメッキ層の厚さ及び前記ダイヤモンドライクカーボン層の厚さの値は各々、前記凹部の深さの値以下である、ロール金型。
【請求項4】
円柱状のロール表面を有するロールを準備する工程と、
前記ロール表面上にNiPメッキ層を形成する工程と、
前記NiPメッキ層の表面に複数の凹部を形成する工程と、
前記複数の凹部が形成されたNiPメッキ層上にCrメッキ層を形成する工程と、
前記Crメッキ層上にダイヤモンドライクカーボン層を形成する工程とを備える、ロール金型の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のロール金型の製造方法であってさらに、
洗浄液を貯めた洗浄槽を準備する工程と、
前記凹部を形成した後、前記ロールの軸を略水平にして、前記ロールの下部を前記洗浄槽内の洗浄液につける工程と、
前記ロールの下部を前記洗浄液につけた後、前記ロールを回転する工程と、
回転後、前記ロールを洗浄液から離す工程と、
前記洗浄液から離れたロールに注水して前記ロールに付着している前記洗浄液を洗い流す工程と、
前記洗浄液を洗い流した後、前記ロールを乾燥する工程とを備える、ロール金型の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−104909(P2011−104909A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263539(P2009−263539)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】