説明

ワイパーブレード

【課題】表面硬度を十分に高くし、ガラス面との接触の摩擦抵抗(摺動抵抗)を低下させることができるとともに、水が付着しにくく、撥水性を有するガラス表面に拭き筋を残しにくい、ワイパーブレードを提供する。
【解決手段】ワイパーブレード1の本体2をエチレン・プロピレン・ジエン(EPDM)ゴムで構成し、ガラス表面と接触して摺動するリップ部分6に対する水の接触角を100〜120°とすれば、表面硬度を十分に高くし、ガラス面との接触の摩擦抵抗(摺動抵抗)を低下させることができ、水が付着しにくく、撥水性を有するガラス表面に拭き筋を残しにくいワイパーブレードを実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイパーブレードに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車等の車両のワイパーブレードには、天然ゴム、クロロプレンゴム(CR)又はブタジエン−アクリロニトリロゴム(NBR)等の有機ゴムが使用されていたが、種々の問題があった。
【0003】
即ち、天然ゴムは、耐候性に劣り経時的に劣化して作動時に破断するおそれがあり、低温では硬くなりゴム弾性が下がってしまうという問題があり、また、天然ゴム製本体の表面を塩素化処理して、ガラス面に対する摩擦抵抗(摺動抵抗)を下げることも行われているが、塩素化処理された層が摩耗して摺動抵抗が増大し、ガラス面との接触により異状音が発生するおそれがある。
【0004】
また、CRやNBRは、天然ゴムの場合と同様に耐候性に劣り、物理的特性が温度に大きく依存するばかりでなく、表面硬度を十分に高くすることができないため、ガラス面との接触の摩擦抵抗(摺動抵抗)が大きくなってしまうという問題があった。
【0005】
これに対し、例えば特許文献1(特開2004−17948号公報)においては、ワイパーブレードにおいてガラス面に接する部分にエチレン・プロピレン・ジエン(EPDM)ゴムを用いることが提案されている(特許文献1、請求項2及び[0031]等参照)。
【0006】
また、例えば特許文献2(特開2003−253214号公報)においては、ワイパーブレードにおいてガラス面に接する部分にエチレン・プロピレン・ジエン(EPDM)ゴムを用い得ることに加え(特許文献2、[0037]及び[0038]等参照)、当該部分の表面に、熱硬化性あるいは加硫性を有する樹脂材料あるいはエラストマー材料と、シリコーンオイルと、層状格子構造材料、とを含有するコーティング用組成物で構成され特定の動摩擦係数を有する被膜を形成することが提案されている(同、[0039]等参照)。
【0007】
更に、例えば特許文献3(特開平10−024803号公報)においては、エチレン・プロピレン・ジエン(EPDM)ゴムで構成されたワイパーブレードにおいて、ガラス表面を払拭する先端部の両側面に、接触角が100°以下の親水性材料を塗布して形成された摩擦係数が1.0以下のコーティング層を設けることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−17948号公報
【特許文献2】特開2003−253214号公報
【特許文献3】特開平10−024803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
これら特許文献1〜3で提案されている技術によれば、確かに、表面硬度を十分に高くし、ガラス面との接触の摩擦抵抗(摺動抵抗)を低下させることができる。しかしながら、昨今、自動車等の車両のウインドガラス(特にフロントガラス)には撥水処理が施されたり、撥水性ガラスが用いられたりすることが多く、ガラス表面の撥水性部分とワイパーブレードの親水性部分とが摺動した際、水がワイパーブレードに付着易かったり、ガラス表面に拭き筋が残ったりするという問題があった。
【0010】
そこで、本発明の目的は、耐動的疲労特性及び耐候性を改良し、ガラス面との接触の摩擦抵抗(摺動抵抗)を低下させることができるとともに、水が付着しにくく、撥水性を有するガラス表面に拭き筋を残しにくい、ワイパーブレードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決すべく、本発明者らが鋭意検討したところ、ワイパーブレードの本体をエチレン・プロピレン・ジエン(EPDM)ゴムで構成し、ガラス表面と接触して摺動するリップ部分に対する水の接触角を100〜120°とすれば、耐動的疲労特性及び耐候性を改良し、ガラス面との接触の摩擦抵抗(摺動抵抗)を低下させることができ、水が付着しにくく、撥水性を有するガラス表面に拭き筋を残しにくいワイパーブレードを提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、
エチレン・プロピレン・ジエン(EPDM)ゴムで構成され、
外表面の少なくとも一部において水の接触角が100〜120°である撥水性部分を有すること、
を特徴とするワイパーブレードに関する。
【0013】
本発明のワイパーブレードにおいて、外表面の少なくとも一部における上記撥水性部分に対する水の接触角の下限を100°としたのは、ワイパーブレード表面に水を付着しにくくすることによる拭取性の改善がより確実に実現できるためであり、上限を120°としたのは、撥水性を示す成分比率の増加によるエチレン・プロピレン・ジエン(EPDM)ゴムの強度低下をより確実に回避できるためである。
ここでいう水の接触角とは、本発明のワイパーブレード製造直後で何らの摩擦もなされていない状態における水の接触角(初期)のことをいう。かかる水の接触角は、JIS R3257に示される静滴法で測定することができる。
【0014】
このような構成の本発明のワイパーブレードによれば、エチレン・プロピレン・ジエン(EPDM)ゴムで構成されていることから、耐動的疲労特性及び耐候性を改良し、ガラス面との接触の摩擦抵抗(摺動抵抗)が低く、また、水の接触角が100〜120°である撥水性部分が外表面の少なくとも一部(ガラス表面と接触して摺動するリップ部分の少なくとも一部)にあることから、水が付着しにくく、撥水性を有するガラス表面に拭き筋を残しにくい。撥水性を有するガラス表面に拭き筋を残しにくいのは、ワイパーブレード表面を撥水性とすることで、ガラス表面及びワイパーブレード表面に水が膜状に拡がらず、水の表面張力による液滴の大きさが大きくなり、ワイパーブレードの往復運動による雨滴の排除効率を高めるとともに、微細な液滴がワイパーブレードとガラスとの間をすり抜けることによる拭き筋を発生し難くする、というメカニズムによるものである。
【0015】
上記本発明のワイパーブレードにおいては、前記撥水性部分が、グラファイト、シリコーンオイル及びアクリル樹脂を含む撥水層で構成されていることが好ましい。
【0016】
このような構成によれば、外表面の少なくとも一部(ガラス表面と接触して摺動するリップ部分の少なくとも一部)にある撥水性部分に対する水の接触角を、確実に100〜120°とすることができ、水が付着しにくく、撥水性を有するガラス表面に拭き筋を残しにくいという効果を確実に得ることができる。
【0017】
また、上記本発明のワイパーブレードにおいては、前記撥水層のアクリル樹脂の含有量が、20〜35質量%であること、が好ましい。
【0018】
このような構成によれば、外表面の少なくとも一部(ガラス表面と接触して摺動するリップ部分の少なくとも一部)にある撥水性部分に対する水の接触角を、より確実に100〜120°とすることができ、水が付着しにくく、撥水性を有するガラス表面に拭き筋を残しにくいという効果をより確実に得ることができる。
【0019】
また、本発明は、上記本発明のワイパーブレードと、
撥水性ウインドガラスと、
を有すること、を特徴とするワイパー・ウインドガラスセットにも関する。
【0020】
上述のように、昨今、自動車等の車両のウインドガラス(特にフロントガラス)には撥水処理が施されたり、撥水性ガラスが用いられたりすることが多く、ガラス表面の撥水性部分とワイパーブレードの親水性部分とが摺動した際、水がワイパーブレードに付着易かったり、ガラス表面に拭き筋が残ったりするという問題があったが、上記構成の本発明のワイパー・ウインドガラスセットによれば、このような問題を解消することができる。
【0021】
上記本発明のワイパー・ウインドガラスセットにおいて、撥水性ウインドガラスは、ウインドガラスそのものが撥水性を有するものであっても、撥水層を有するものであっても構わない。いずれの場合であっても、上記のような本発明の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、耐動的疲労特性及び耐候性を改良し、ガラス面との接触の摩擦抵抗(摺動抵抗)を低下させることができるとともに、水が付着しにくく、撥水性を有するガラス表面に拭き筋を残しにくい、ワイパーブレードを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のワイパーブレードの一実施形態の概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明のワイパーブレード及びワイパー・ウインドガラスセットの代表的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、本発明はこれらのみに限定されるものではない。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、表された各構成要素の寸法やそれらの比は実際のものを必ずしも精密には表していない部分もある。
【0025】
図1は本発明のワイパーブレードの一実施形態の構造を概念的に示す概略縦断面図である。図1に示す本実施形態のワイパーブレード1は、エチレン・プロピレン・ジエン(EPDM)ゴムで構成された本体2と、本体2の表面の少なくとも一部を覆っており、水の接触角が100〜120°である撥水層4と、を有している。
【0026】
撥水層4は、より具体的には、ワイパーブレード1でガラス表面を払拭する際に、当該ガラス表面に接する部分に設けられている。このガラス表面に接する部分とは、本実施形態においては、本体2の一部であるリップ部6であり、このリップ部6の側面6a及び底面6bを覆うように撥水層4が設けられている。リップ部6は、ワイパーブレード1で自動車等の車両のフロントガラスを払拭する際に、フロントガラス表面と接触して摺動する部分である。
【0027】
本体1は、耐動的疲労特性及び耐候性を改良するという観点から、エチレン・プロピレン・ジエン(以下、「EPDM」ともいう。)ゴムを含むゴム組成物で構成されている。EPDMゴムは、エチレンとプロピレン及びこれら以外の第三成分を共重合させたポリマー(三元共重合体)である。
【0028】
上記第3成分としては、例えばエチリデンノルボルネン、1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン等の、側鎖に不飽和結合を有する有機化合物モノマーが用いられる。
【0029】
上記EPDMゴムは、硫黄及び加硫促進剤を添加して、加硫されていても構わない。かかる加硫促進剤としては、例えば2−メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィド、2−メルカプトベンゾチアゾールの亜鉛塩、2−メルカプトベンゾチアゾールのシクロヘキシルアミン塩、2−(N,N−ジエチルチオカルバモイルチオ)ペンゾチアゾール、2−(4−モルホリノジチオ)ペンゾチアゾール、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−tert−ブチル−2−べンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−オキシジエチレン−2−べンゾチアゾリルスルフェンアミド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフイド、テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフイド、ペンタメチレンジチオカルバミン酸ピペリジン塩、ピペコリルジチオカルバミン酸ピペコリン塩、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、N−エチル−N−フェニルジチオカルバミン酸亜鉛、N−ペンタメチレンジチオカルバミン酸亜鉛、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸銅、ジメチルジチオカルバミン酸第二鉄、ジエチルジチオカルバミン酸テルル、ジメチルジチオカルバミン酸第二鉄(TTFE)と2−メルカプトベンゾチアゾール(M)の混合物、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(EZ)と2−メルカプトベンゾチアゾール(M)の混合物、テトラメチルチウラムジスルフィド(TT)とジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(PZ)の混合物、ジメチルジチオカルバミン酸第二鉄(TTFE)とテトラメチルチウラムジスルフィド(TT)と2−メルカプトベンゾチアゾール(M)の混合物等が挙げられる。これらのうちの1種又は2種以上の加硫促進剤を使用することができる。
【0030】
また、上記EPDMゴムは、有機過酸化物により架橋・硬化されていてもよい。EPDMを架橋するための有機過酸化物架橋剤としては、例えば、1,3−ビス(ターシャリーブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ターシャリーブチルパーオキシ)ヘキシン−3、ジクミルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、1,1−ジテレブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジベンゾイルパーオキシヘキサン、n−ブチル−4、4−ジテレブチルパーオキシバレレート、テレブチルパーオキシベンゾエイト、ジテレブチルパーオキシジイソプロピルベンゼン、テレブチルクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジテレブチルパーオキシヘキサン、ジテレブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジテレブチルパーオキシヘキシン−3等が挙げられる。これらのうちの1種又は2種以上の有機過酸化物を使用することができる。
【0031】
上記の加硫促進剤又は有機過酸化物架橋剤の、EPDMゴム成分に対する添加量は、EPDMゴム分子間の加硫又は架橋が不十分とならず、本発明の効果を損なわない範囲で、適宜選択すればよい。
【0032】
また、上記EPDMゴムを含むゴム組成物には、例えば、パラフィンオイル等の軟化剤;亜鉛華(酸化亜鉛)、炭酸亜鉛、酸化マグネシウム等の金属酸化物や金属炭酸塩、ステアリン酸やオレイン酸等の脂肪酸やその誘導体、ジ−n−ブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン等のアミン類、等の架橋促進助剤;224(TMDQ)、PA(PAN)、DP(DPPD)、3C(IPPD)等のアミン系、SP、W、300(TBMTBP)、NS−7(DBHQ)等のフェノール系、MB(MBI)等のイミダゾール系、NMC等のニッケル塩系、NS−10等のチオウレア系、DLTP(DLTDP)等のチオエーテル系、TNP等のリン系、ワックス系、 等の老化防止剤;SAF、SAF−HS、ISAF、N−339、ISAF−LS、I−ISAF−HS、HAF、HAF−HS、N−351、HAF−LS、LI−HAF、MAF、FEF、FEF−HS、SRF、SRF−LM、GPF、ECFN−234、FT、MT等のカーボンブラック、ホワイトカーボン(湿式、或いは、乾式シリカ)、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、珪酸マグネシウム、ハードクレーなどの無機補強材、ハイスチレン樹脂、クマロン・インデン樹脂、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂等の有機補強材等の強化材;その他の添加剤を配合してもよい。これらの添加量については、本発明の効果を損なわない範囲で、適宜選択すればよい。
【0033】
次に、撥水層4について説明する。撥水層4は、グラファイト、シリコーンゴム、シリコーンオイル及びアクリル樹脂によって構成されており、これらグラファイト、シリコーンゴム、シリコーンオイル及びアクリル樹脂を含むコーティング材を用いて形成することができる。
【0034】
当該コーティング材に含まれるグラファイトは、いわゆる層状格子構造材料であり、剪断劈開性を備える。このようなグラファイトは、その剪断劈開性により水の付着の有無を問わずに潤滑性能(摩擦抵抗・摺動抵抗の低下)を発揮する。
【0035】
グラファイトには鱗片状、鱗状又は土状黒鉛等の天然黒鉛と人造黒鉛があり、いずれも用いることができるが、天然黒鉛、なかでも鱗状黒鉛が好ましい。更に、グラファイトの平均粒径は2〜50μmが好ましく、4〜10μmであることが特に好ましい。なお、ここでいう「平均粒径」とは、レーザ回折散乱法を用いた粒度分布測定器によるD50値であり、例えば、(株)島津製作所製のレーザ回折式粒度分布測定装置を用いて測定できるものである。
【0036】
シリコーンゴムは、撥水層4に接触移動面に対する潤滑性を付与し、特に水が付着していないドライ状態での摩擦抵抗・摺動抵抗を低減させる役割を担う。また、シリコーンゴムは、併せて撥水層4に撥水性も付与することができる。
【0037】
かかるシリコーンゴムとしては、本発明の効果を損なわない範囲で種々のものを用いることができるが、撥水層4を加工する点において液状シリコーンゴムが好ましい。この液状シリコーンゴムとしては、例えば縮合型液状シリコーンゴム、付加型液状シリコーンゴム等が挙げられる。また、縮合型シリコーンゴムは一液型でも二液型でもよく、脱水型、アルコール型、アミド型、酢酸型、オキシム型、アミノキシ型、アセトン型等、反応機構は特に限定しない。また、好ましい液状シリコーンゴムは、例えばジメチルシリコーンゴム、ビニル基含有シリコーンゴム、ビニルメチルシリコーンゴム、ビニルフェニルメチル線状シロキサン、メチルハイドロジエンポリシロキサン等のシリコーン類を含んでよい。
【0038】
シリコーンオイルは、シリコーンゴムと同様に、撥水層4に接触移動面に対する潤滑性を付与し、特に水が付着していないドライ状態での摩擦抵抗・摺動抵抗を低減させる役割を担う。また、シリコーンオイルは、併せて撥水層4に撥水性も付与することができる。撥水性を付与する効果は、シリコーンオイルがワイパーブレード1からガラス面に転移することによっても発現される。特に撥水性を有するガラスにおいては、ガラス面に水が付着していない状態が形成され易いため、更に転移し易くなっている。
【0039】
かかるシリコーンオイルとしては、一般的にストレートシリコーンオイルと呼ばれるジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイルや、アミノ変性、エポキシ変性、カルボキシル変性、カルビノール変性、メタクリル変性、メルカプト変性、フェノール変性、片末端反応性、アミノ基、アルコキシル基、エポキシ基、ポリエーテル基等を2種以上併せ持つ異種官能基変性等の反応性変性シリコーンオイル、メチルスチリル変性、アルキル変性、高級脂肪酸エステル変性、アルコール変性、フッ素変性(フルオロシリコーンオイル)等の非反応性変性シリコーンオイル、ジメチルシリコーンオイルにメチルリシノレートなどの油性向上剤を配合したもの等が挙げられる。
【0040】
潤滑性を付与し、摩擦抵抗・摺動抵抗を低減させる観点からは、特にジメチルシリコーンオイルやメチルフェニルシリコーンオイル等のストレートシリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、フロロシリコーンオイル、ジメチルシリコーンオイルにメチルリシノレートなどの油性向上剤を配合したもの等の変性シリコーンオイルを使用することが好ましい。
【0041】
なかでも、ストレートシリコーンオイルは、温度による粘度変化が小さく、ワイパーブレード1の使用環境の変化(例えば気候の変化による雰囲気温度の変化)がある場合、粘度の温度依存性が小さいために、気候環境を問わず潤滑効果を発揮するという特徴と、ワイパーブレード1を構成するEPDMを使用した部品や、プラスチック部品の潤滑について極めて効果的であるというメリットを有している。
【0042】
シリコーンオイルの粘度は、フルオロシリコーンオイルを除き、潤滑性付与(摩擦抵抗・摺動抵抗低減)効果の耐久性において大きな要因となるが、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択すればよい。フルオロシリコーンオイルは一般的なシリコーンオイルに比較し、境界潤滑性が高く好適であり、粘度は高い方が滑り耐久性を得易いが、低粘度であっても一般的なシリコーンオイルに比較し、高い滑り耐久性を維持することができる。なお、シリコーンオイルの粘度JISZ 8803によるウッベローデ粘度計などによって求めることができる。
【0043】
アクリル樹脂は、撥水層4においてバインダーとしての機能を果たすとともに、撥水層4に本体2への接着性とガラス表面へグラファイトが付着することに対する防汚性とを付与するものである。
【0044】
本発明者らは、撥水層4の組成を研究する過程において、まず好適な摩擦係数が得られるという観点からグラファイト及びシリコーンゴムを成分として選択したが、これらだけでは撥水層4が本体4に接着しにくくガラスが汚れ易い(グラファイトを保持しにくい)という問題があったところ、種々の成分を用いて実験を繰り返して鋭意検討し、その結果、アクリル樹脂を混合するとかかる問題を解消し得ることを見出したものである。
【0045】
かかるアクリル樹脂としては、例えば、エチレン性不飽和カルボン酸単量体と、アクリル酸若しくはメタクリル酸のアルキルエステル、ビニル芳香族化合物、アクリルニトリル、メタクリルニトリル、飽和カルボン酸ビニルエステル、ハロゲン化ビニル、ブタジエン及びエチレンのうちの1種又は2種以上と、の組み合わせによる不飽和単量体の混合物を乳化剤の存在下で乳化重合することによって得られるアクリル樹脂等を使用することができる。
【0046】
より具体的には、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル等のアクリル酸アルキルエステル類、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル等のメタクリル酸アルキルエステル類のホモポリマー等を使用することができる。これらのうちの1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0047】
また、撥水層4のグラファイト、シリコーンゴム、シリコーンオイル及びアクリル樹脂の含有量(質量%)は、撥水層4に対する水の接触角を確実に100〜120°とし、水が付着しにくく、撥水性を有するガラス表面に拭き筋を残しにくいという効果を確実に得るという観点から、適宜選択すればよいが、撥水層4のアクリル樹脂含有量は5〜40質量%であればよい。
【0048】
なかでも、上記効果をより確実に得るという観点から、撥水層4のアクリル樹脂含有量は20〜35質量%であるのが好ましい。
【0049】
ワイパーブレード1は、上記EPDMゴムを含むゴム組成物を用い、加熱圧縮成型、射出成型、押出成型法等の従来公知の方法によって製造することができる。上記の加硫又は架橋のタイミングは、成型と同時でもよく、押出成型後でもよい。なお、撥水層の形状によっては、2色押出成型法等を採用することもできる。
【0050】
押出成型後に加硫又は架橋する場合は、押出成型後の成型体(前駆体)を加硫又は架橋装置に導入し、例えば熱空気の存在下で加熱することにより、本体2を構成する未加硫又は未架橋のEPDMを加硫又は架橋すればよい。例えば、常圧熱風加熱炉(HAV)、流動床式加熱炉(LCM)、加硫缶等を使用することができる。
【0051】
また、撥水層4は、本体4を作製した後、上記コーティング材をリップ部6の側面6a及び底面6bに塗布し、その後、乾燥することにより形成することができる。塗布方法としては、従来公知の方法を採用することができ、例えば回転ブラシ方式、スプレー方式及び刷毛方式等が挙げられ、リップ部6を上記コーティング材に浸漬して、側面6a及び底面6bに上記コーティング材を塗布してもよい。
【0052】
上記コーティング材は、グラファイト、シリコーンオイル及びアクリル樹脂を分散媒に分散して混合することにより得られる。かかる分散媒としては、例えばトルエン等の有機分散媒や水を用いることができる。
【0053】
本体2を押出成型後に加硫又は架橋する場合、更に上記コーティング材を塗布した後に、押出成型後の成型体(前駆体)を加硫又は架橋装置に導入し、例えば熱空気の存在下で加熱すれば、本体2を構成する未加硫又は未架橋のEPDM及び撥水層4を構成するシリコーンオイルを加硫又は架橋するとともに、撥水層4を構成するアクリル樹脂を熱硬化し、本体2と撥水層4との界面を接着することができる。
【0054】
以上、本発明の代表的な一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。ここで示された実施形態は本発明の一例に過ぎず、特許請求の範囲の技術的思想及び教示の範囲で種々の設計変更が可能であり、したがって他の実施形態も種々存在し、それらは本発明の技術的範囲に属することは言うまでもない。
【0055】
例えば、上記実施形態においては、本体2のリップ部6の2つの側面6a及び底面6bの全てを覆う構成を有する撥水層4を設けたワイパーブレード1について説明したが、リップ部6の2つの側面6a及び底面6bのいずれか一部に撥水層が設けられてもよい。
【0056】
また、上記実施形態においては、本体2のリップ部6に撥水層4が設けられたワイパーブレード1について説明したが、本体2又はリップ部6の外表面の少なくとも一部において水の接触角が100〜120°である撥水性部分を有すればよく、例えばEPDMを含むゴム組成物の配合を適宜調整し、本体2又はリップ部6そのものに対する水の接触角が100〜120°となるように、当該EPDMを含むゴム組成物で本体2又はリップ部6を構成してもよい。
【0057】
この場合、撥水層4をあえて設ける必要はなく、少なくともガラス表面と接触して摺動する部分であるリップ部6の表面に対する水の接触角が100〜120°となり、上記EPDMを含むゴム組成物の押出成型及び加硫・架橋によって簡便に本発明のワイパーブレードを製造することができる。
【0058】
また、組成の異なるEPDMを含むゴム組成物を複数種用いて、外表面の少なくとも一部(ガラス表面と接触して摺動するリップ部分の少なくとも一部)に水の接触角が100〜120°である撥水性部分を設けてもよい。この場合、例えばEPDMを含むゴム組成物複数種の2色押出成型及び加硫・架橋によって簡便に本発明のワイパーブレードを製造することができる。
【0059】
また、上記実施形態においては、図1に示すような構造を有する本体2及びリップ部6を含むワイパーブレード1について説明したが、これは単なる一実施形態に過ぎず、本発明のワイパーブレードは種々の構造を有し得る。
【0060】
更に、上記実施形態においては、リップ部6の表面にそのまま撥水層4を設ける場合について説明したが、撥水層4の耐久性及び接着強度を向上させるために、撥水層を設ける本体2又はリップ部6の表面を事前に改質(活性化)処理しても構わない。かかる改質処理方法としては、例えば、塩素処理、エポキシ処理、紫外線処理、プラズマ処理、電子線処理、放射線処理、イオンビーム処理、コロナ放電処理等が挙げられる。このような改質処理を施すことにより、撥水層4を設ける部分の表面にヒドロキシル基等の反応サイトが生じ、撥水層4の耐久性が増し、撥水層と本体2又はリップ部6との接着強度が向上する。
【実施例】
【0061】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明のワイパーブレードについて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0062】
≪実験例1〜実験例11≫
表1に示す成分及び配合比(質量部)で、(株)神戸製鋼所製のバンバリーを用いて混練し、ゴム組成物1〜11を得た。ついで、これらのゴム組成物1〜11から、160℃で30分間約4MPaの圧力でプレス成型し、ワイパー形状の評価用ゴム成型体1〜11を得た。
【0063】
なお、各成分としては、以下のものを使用した。
(a)EPDM
JSR(株)製のEP22
化合物名:エチレン・プロピレン・ジエンゴム
(b)クロロプレン(CR)
東ソー(株)製のスカイプレンB30
(c)天然ゴム(NR)
標準マレーシアゴムのSMR−L
(d)カーボンブラック
旭カーボン(株)製のSRF
(e)シリカ
東ソーシリカ(株)製のニップシールVN
(f)パラフィンオイル
日本サン石油(株)製のサンパー2280
(g)酸化亜鉛
堺化学(株)製の酸化亜鉛3種
(h)酸化マグネシウム
協和化学工業(株)製のキョーワマグ150
(i)ステアリン酸
日油(株)製のステアリン酸椿
(j)硫黄
細井化学工業(株)製のオイル硫黄
(k)加硫促進剤
大内新興化学工業(株)製のノクセラーTT
化合物名:テトラメチルチウラムジスルフィド
(l)有機過酸化物
日油(株)製のパークミルD
化合物名:ジクミルパーオキサイド
【0064】
上記評価用ゴム成形体2、5、7、9及び11の表面に撥水層を設けるため、まずコーティング材を調整した。具体的には、SECカーボン(株)製のSGP−5(グラファイト、平均粒径:5μm)を40質量部と、信越化学工業(株)製のKE−1414(二液型シリコーンゴムの主剤)を100質量部と、信越化学工業(株)製のcx−32−1714(二液型シリコーンゴムの硬化剤)を5.2質量部と、信越化学工業(株)製のKF−69(シリコーンオイル、組成:ポリジメチルシロキサン)を9質量部と、DIC(株)製のアクリディックA−9521(二液型アクリル樹脂)を55質量部と、DIC(株)製のアクリディックHZ−1018(二液型アクリル樹脂硬化剤)を12質量部と、をトルエンに分散させて攪拌し、コーティング材を得た。
【0065】
上記コーティング材を、刷毛で上記評価用ゴム成形体2、5、7、9及び11の表面に塗布して塗布層を形成し、塗布層を有する評価用ゴム成形体を、室温で3日間放置乾燥させ、撥水層付きの評価用ゴム成形体を2、5、7、9及び11を得た。
【0066】
[評価試験]
(1)水の接触角(初期)[°]
上記評価用ゴム成形体1、3、4、6、8及び10の表面、並びに上記撥水層付きの評価用ゴム成形体を2、5、7、9及び11の撥水層の表面に対し、水の接触角を、JIS R3257に示される静滴法で測定した。結果を表1に示した。
【0067】
(2)水の接触角(摩擦後)[°]
上記(1)において測定した表面と、ガラス表面とを、1.6g/cmの押さえ力で接触させ、乾燥状態で100往復、水の噴霧により濡れた状態で100往復、という条件及び方法で、互いに擦り合わせ、その後、上記(1)と同様にして、各表面に対する水の接触角を測定した。の結果を表1に示した。
【0068】
(3)ワイパー耐久後払拭安定性
JIS D5710に示される条件及び方法でワイパー耐久後払拭安定性を評価した。基準を満たす場合を1(良好)、基準を満たさない場合を2(不良)として、結果を表1に示した。
【0069】
【表1】

【0070】
表1に示す結果からわかるように、水の接触角(初期)が100°を超えれば、ワイパー耐久払拭安定性が優れる傾向にあることがわかる。更に、水の接触角(摩擦後)も100°を超えれば、ワイパー耐久払拭安定性がより優れる傾向にあることがわかる。
【符号の説明】
【0071】
1・・・ワイパーブレード、
2・・・本体、
4・・・撥水層、
6・・・リップ部、
6a・・・側面、
6b・・・底面。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン・プロピレン・ジエンゴムで構成され、
外表面の少なくとも一部において水の接触角が100〜120°である撥水性部分を有すること、
を特徴とするワイパーブレード。
【請求項2】
前記撥水性部分が、グラファイト、シリコーンゴム、シリコーンオイル及びアクリル樹脂を含む前記撥水層で構成されていること、
を特徴とする請求項1に記載のワイパーブレード。
【請求項3】
前記撥水層のアクリル樹脂の含有量が、20〜35質量%であること、
を特徴とする請求項2に記載のワイパーブレード。
【請求項4】
請求項1〜3のうちのいずれかに記載のワイパーブレードと、
撥水性ウインドガラスと、
を有すること、を特徴とするワイパー・ウインドガラスセット。
【請求項5】
前記撥水性ウインドガラスがウインドガラス用撥水層を有すること、
を特徴とする請求項4に記載のワイパー・ウインドガラスセット。







【図1】
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