説明

ワイヤグリッド偏光子用積層体

【課題】アルカリ性溶液を用いたウェットエッチングの際においてもドライフィルムレジストの剥離を抑制でき、適切な金属格子が得られるワイヤグリッド偏光子用積層体を提供すること。
【解決手段】本発明のワイヤグリッド偏光子用積層体は、基材11と、この基材11上に設けられ、金属を主に含有するエッチング層12と、このエッチング層12上に設けられた感光性樹脂層13とを備える。感光性樹脂層13は、少なくとも2層のドライレジストフィルム層を備える。感光性樹脂層13がエッチング層12上に設けられたドライレジストフィルム層A14と、このドライレジストフィルム層B15の2層で構成される場合、最上層のドライレジストフィルム層B15がトリ(メタ)アクリレートを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上にエッチング層及び感光性樹脂層を備えた感光性樹脂積層体に関し、特に、ワイヤグリッド偏光子として好適に用いることができるワイヤグリッド偏光子用積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高い光利用効率と容易な薄型化からワイヤグリッド偏光子が注目されている。ワイヤグリッド偏光子の製造方法としては、幾つかの方法が提案されている。その製造方法の一例としては、基板である硝子上に金属薄膜を蒸着によって成膜し、この金属薄膜上に熱硬化またUV硬化材料からなるレジスト樹脂を塗布する。次いで、表面に微細パターンが形成されたモールドによって微細パターンをレジスト樹脂に転写する。次に、レジスト樹脂に転写された微細パターンをマスクとして、金属薄膜をエッチングする。このようにして硝子基板上にワイヤグリッドを形成するワイヤグリッド偏光子の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
このようなワイヤグリッド偏光子を構成するレジスト樹脂は、プラズマディスプレイの製造(例えば、特許文献2)、カラーフィルターの欠陥修復利用(例えば、特許文献3)等、広範に利用されているものである。最近では、ナノスケールの微細構造を有するワイヤグリッド偏光子を製造するためのナノインプリントリソグラフィ(NIL)技術に適したドライフィルムレジストも提案されている。例えば、支持基材上に基材表面から感光性樹脂層、離型剤層そして有機ポリマーフィルムが積層されたモールドからの離脱性に優れたインプリント用感光性樹脂積層体(ドライフィルムレジスト)である(例えば、特許文献4)。このドライフィルムレジストは、支持基材表面がエッチング層であり、感光性樹脂層及び離型剤層がレジスト層である。
【0004】
このような、ドライフィルムレジスト材料を用いたワイヤグリッド偏光子の製造方法は複数ある。上述した特許文献1では、トリアセチルセルロース(TAC)フィルムのようなフレキシブル基材上に、Alのような金属のエッチング層を形成し、さらに該エッチング層上にパターニングされたドライフィルムレジスト層を形成した積層体を用いて、ウェットエッチングする方法が提案されている。ウェットエッチングは、設備投資や環境負荷の観点からドライエッチングより優れる。
【0005】
しかしながら、この方法の場合、金属の溶解性とトリアセチルセルロース(TAC)フィルムの耐薬品性を考慮すると、ウェットエッチングには酸ではなくアルカリのエッチャントを使用する必要があるが、適式なドライフィルムレジストは、アルカリ性溶液に可溶な材料であるため、ウェットエッチングの際にドライフィルムレジストがエッチング層から剥離してしまうことが問題となっている。レジストがエッチング層から剥離することで、ワイヤグリッド偏光子に最適な金属格子パターンを得ることが出来ないからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−316495号公報
【特許文献2】国際公開WO2007−029295号パンフレット
【特許文献3】特開2009−133980公報
【特許文献4】特開2008−296441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、アルカリ性溶液を用いたウェットエッチングの際においてもドライフィルムレジストの剥離を抑制でき、適切な金属格子が得られるワイヤグリッド偏光子用積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のワイヤグリッド偏光子用積層体は、基材と、前記基材上に設けられ、金属を含有してなるエッチング層と、前記エッチング層上に設けられた感光性樹脂層とを備え、前記感光性樹脂層が少なくとも2層のドライレジストフィルム層からなり、前記少なくとも2層のドライレジストフィルム層の最上層のドライフィルムレジスト層がトリ(メタ)アクリレートを含有することを特徴とする。
【0009】
本発明のワイヤグリッド偏光子用積層体においては、前記金属がAl、Cu、Ag、Cu、Ni、Cr、及びSiからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属を含むことが好ましい。
【0010】
本発明のワイヤグリッド偏光子用積層体においては、前記感光性樹脂層は、前記感光性樹脂層内において最上層に設けられ、層全体の質量に対してトリ(メタ)クリレートを55質量%以上、75質量%以下含有すると共に、上層側の主面から下層側の主面にかけてトリ(メタ)アクリレートの含有量が減るように傾斜配分された第1ドライフィルムレジスト層と、前記エッチング層上に設けられ、膜厚が0μmより大きく、1μm以下である第2ドライフィルムレジスト層と、を具備することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アルカリ性溶液を用いたウェットエッチングの際においてもドライフィルムレジストの剥離を抑制でき、適切な金属格子が得られるワイヤグリッド偏光子用積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態に係る積層体の構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態に係るワイヤグリッド偏光子用積層体の積層構造を模式的に示した図である。なお、図1は、本発明に係るワイヤグリッド偏光子用積層体の一使用態様を示す図である。なお、図1における積層構造の各部の数、形状、寸法比等はこれに限定されない。
【0014】
図1に示すように、本発明に係るワイヤグリッド偏光子用積層体は、基材11と、この基材11の上に設けられたエッチング層12と、このエッチング層12の上に設けられた感光性樹脂層13とを備えて構成される。感光性樹脂層13は、エッチング層12上に設けられるドライフィルムレジスト層A14と、このドライフィルムレジスト層A14上に設けられるドライフィルムレジスト層B15と、を備える。この感光性樹脂層13の最上層に位置するドライフィルムレジスト層B15は、高架橋成分であるトリ(メタ)アクリレートを含有する。なお、感光性樹脂層13は、少なくとも2層のドライフィルムレジスト層から構成されていれば良く、3層以上から構成されていてもよい。
【0015】
本発明に係るワイヤグリッド偏光子用積層体は、感光性樹脂層13の最上層に位置し、積層体の最表面となるドライフィルムレジスト層B15が所定の割合のトリ(メタ)アクリレートを含有することにより、アルカリ溶液を用いたウェットエッチング工程においても感光性樹脂層13の溶解及び膨潤を抑制することができる。これにより、ワイヤグリッド偏光子用積層体の製造工程におけるウェットエッチング工程でのドライフィルムレジスト層の剥離を抑制することができ、所望の金属パターンを有するワイヤグリッド偏光子用積層体を得ることができる。
【0016】
以下、本発明に係るワイヤグリッド偏光子用積層体の各構成について説明する。
本発明に係るワイヤグリッド偏光子用積層体の基材11としては、例えばアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂の一種であり分子配向の少ないポリエチレンテレフタレート(PET)や分子配向の少ないトリアセチルセルロース(TAC)、ポリカーボネート(PC)樹脂、環状オレフィンポリマー(COP)、環状オレフィンコポリマー(COC)、ノルボルネン系樹脂、ポリイミド樹脂などを用いることができる。
【0017】
本発明に係るワイヤグリッド偏光子用積層体のエッチング層12としては、主に金属を含有してなる金属薄膜を用いることができる。エッチング層12の材質としては、例えば、Al、Cu、Ag、Au、Ni、Mo、Cr、Mg、In、Siなどの金属、またはこれらを少なくとも2種類以上含む合金などを用いることができる。また、これらの金属または合金を複数用いて高さ方向に積層させた構成としてもよい。これらの金属の中でもAl、Cu、Ag、Cu、Ni、Cr、及びSiからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属を含有することが好ましい。これらの金属を含有することにより、ワイヤグリッド偏光子用積層体の偏光性能が良好となるため好ましい。尚、エッチング層12を基材11上に形成する方法については、蒸着法、スパッタリング法といった通常の成膜方法を用いることができる。
【0018】
エッチング層12の厚さは、150nm〜250nmであることが好ましい。エッチング層12の厚さは、150nm以上で偏光性能が顕著であり、250nm以下で金属格子パターンの自立性が保たれる。より好ましくは、175nm〜200nmである。
【0019】
本発明に用いられる感光性樹脂層13(ドライフィルムレジスト層)は、所望のパターンの露光マスクを通して紫外線(電磁波)を照射することで露光部と未露光部でのパターニングを行うためのフィルム状の感光性樹脂組成物を主に含有する。露光部が現像液に溶出するポジ型と未露光部が現像液に溶出するネガ型があり、本発明には後述する要求物性を満たすネガ型が適している。パターニングをした感光性樹脂層13は、引き続き実施されるエッチング層12のエッチング工程でマスクとして機能する。
【0020】
本発明で用いる感光性樹脂層13は、少なくとも2層のドライフィルムレジスト層を備え、複数層のドライフィルムレジスト層が積層されて構成される。最表面に位置する最上層のドライフィルムレジスト層には、トリ(メタ)アクリレートが架橋剤として含有されている。以下に、2層の感光性樹脂層13が、ドライフィルムレジスト層A14、ドライフィルムレジスト層B15からなる場合を例にあげて説明する。
【0021】
まず、最表面のドライフィルムレジスト層B15について説明する。最表面のドライフィルムレジスト層B15は、高架橋成分であるトリ(メタ)アクリレートを含む。このトリ(メタ)アクリレートを用いることにより、ドライフィルムレジストのポリマー鎖間に三次元的な架橋が形成される為、ドライフィルムレジストへのイオンの浸透を抑制でき、ウェットエッチング時のドライフィルムレジストの膨潤を抑制することができる。このように、ウェットエッチングにおいて、トリ(メタ)アクリレートがドライフィルムレジストの膨潤を抑制することにより、感光性樹脂層13の剥離を抑制することができる。このトリ(メタ)アクリレートとしては、トリ(メタ)アクリル酸ベンジル、メチルトリ(メタ)アクリレート、エチルトリ(メタ)アクリレート、n−ブチルトリ(メタ)アクリレート、iso−ブチルトリ(メタ)アクリレート、sec−ブチルトリ(メタ)アクリレート、tert−ブチルトリ(メタ)アクリレ−ト、2−エチルヘキシルトリ(メタ)アクリレート、脂環式側鎖を有するトリ(メタ)アクリレ−ト、例えば、シクロヘキシルトリ(メタ)アクリレート、イソボルニルトリ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルトリ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエニルトリ(メタ)アクリレート、アダマンチルトリ(メタ)アクリレート、トリ(メタ)アクリルアミド、トリ(メタ)アクリロニトリル、フェニルトリ(メタ)アクリレート、グリシジルメタクリレート、スチレン、側鎖にヒドロキシル基を有するトリ(メタ)アクリレート、例えば、2−ヒドロキシエチルトリ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピルトリ(メタ)アクリレート、グリシジルモノトリ(メタ)アクリレート、エチレン性二重結合を有するトリ(メタ)アクリレート、例えば、コハク酸変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、フタル酸変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、イソフタル酸変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、テレフタル酸変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオ−ルトリ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジオ−ルトリ(メタ)アクリレート、またポリプロピレングリコ−ルトリ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコ−ルトリ(メタ)アクリレート、2−ジ(p−ヒドロキシフェニル)プロパントリ(メタ)アクリレート、グリセロ−ルトリ(メタ)アクリレート、トリメチロ−ルプロパントリ(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピルトリメチロ−ルプロパントリ(メタ)アクリレート、ポリオキシエチルトリメチロ−ルプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリグリシジルエ−テルトリ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエ−テルトリ(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコ−ルトリ(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコールトリ(メタ)アクリレート、ノニルフェニキシポリアルキレングリコールトリ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールトリ(メタ)アクリレートが挙げられる。また、スチレンを用いても同様の機構により、ドライフィルムレジストへのイオンの浸透を抑制することができる。
【0022】
ドライフィルムレジスト層B15中には、上記の高架橋成分(トリ(メタ)アクリレート)以外に高分子化合物が含まれる。この高分子化合物は、基材11との密着性の高い高分子であることが好ましく、カルボキシル基の量が酸当量で200以上、900以下である高分子化合物であることが好ましい。酸当量200以上となると金属表面とカルボキシル基との相互作用が良好となるので、金属面との接着点数が十分となり密着性が顕著となる。酸当量900以下になると金属格子パターンを形成するためのエッチャントによる膨潤抑制の効果が著しく顕著になる。なお、酸当量とは、1当量のカルボキシル基を有する線状重合体の質量を示す。高分子化合物としては、(メタ)アクリル系単量体と側鎖にカルボキシル基を有する単量体とを共重合していることが好ましい。(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸ベンジル、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、iso−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジルモノ(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、フェニル(メタ)アクリレート、グリシジルメタクリレート、が挙げられる。側鎖にカルボキシル基を有する単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、フマル酸、ケイ皮酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、マレイン酸無水物、マレイン酸半エステルが挙げられる。また、スチレンを用いても同様の効果を得ることができる。
【0023】
ドライフィルムレジスト層B15中での、トリ(メタ)アクリレートの含有量は、ドライフィルムレジスト層B15全体の55質量%以上、75質量%以下であることが好ましい。トリ(メタ)アクリレートの含有量は、55質量%以上であれば、エッチング時に生じるドライフィルムレジストの膨潤を効果的に抑制できる。また、75質量%以下であれば、エッチング時の基材11の変形で生じる応力を吸収し剥離を抑制できる。
【0024】
本発明においては、ワイヤグリッド偏光子用積層体の表面側の主面15a側からレジスト層12側の主面15b側にかけて、トリ(メタ)アクリレートの含有量が減少するように傾斜配分されていることが好ましい。ここで、傾斜配分とは、ドライフィルムレジスト層B15内において、ワイヤグリッド偏光子用積層体の表面側の主面15a側からエッチング層12側の主面15b側への距離に応じてトリ(メタ)アクリレートの含有量が変化することを意味する。この場合においては、ドライフィルムレジスト層B15の表面側の主面15aでは、ドライフィルムレジストの膨潤を抑制する観点から、トリ(メタ)アクリレートの含有量が55質量%以上であることが好ましい。また、エッチング層12側の主面15bでは、トリ(メタ)アクリレート含有量が55質量%以上であり、且つ表面側の主面15aのトリ(メタ)アクリレートの含有量以下であることがドライフィルムレジスト層B15の膨潤を抑制する観点及びドライフィルムレジスト層A14との接着の観点から望ましい。
【0025】
本発明においては、ドライフィルムレジスト層B15がドライフィルムレジスト層B15全体の質量に対し、トリ(メタ)アクリレートを55質量%以上、75質量%以下含有すると共に、上層側の主面から下層側の主面にかけてトリ(メタ)アクリレートの含有量が減るように傾斜配分され、且つドライフィルムレジスト層A14の膜厚が0μmより大きく、1μm以下であることが好ましい。このように、ドライフィルムレジスト層B15がトリ(メタ)アクリレートを含有することにより、エッチング工程において、ドライフィルムレジスト層B15の膨潤を効果的に抑制できることに加え、トリ(メタ)アクリレートの含有量がドライフィルムレジスト層A14側にかけて減少するように傾斜構造を有することにより、感光性樹脂層13全体の強度を向上することができる。さらに、この状態において、ドライフィルムレジスト層A14の膜厚が0μmより大きく、1μm以下となることにより、基材11に変形応力が作用した場合にも感光性樹脂層13全体としての剥離を効果的に抑制することができる。
【0026】
一方、エッチング層12と最表面のドライフィルムレジスト層B15とに挟まれて形成されたドライフィルムレジスト層A14は、高架橋成分(トリ(メタ)アクリレート)が含まれないか極微量である点以外は、ドライフィルムレジスト層B15と同様の高分子化合物からなれば構わない。即ち、エッチング層12との密着性の高い高分子化合物であることが好ましく、カルボキシル基の量が酸当量で200〜900であることが好ましい。酸当量が上記範囲であることにより、金属表面とカルボキシル基との相互作用が良好となるので、ドライフィルレジスト層A14とエッチング層12との密着性が向上する。また、本発明においては、ドライフィルムレジスト層A14は、トリ(メタ)アクリレートを全く含まないか、或いは含んでいても極微量であることが、エッチング層12との接着の観点から望ましい。ドライフィルムレジスト層A14中のトリ(メタ)アクリレートの含有量が、極微量であることによりドライフィルムレジスト層A14自体の物性としての硬化を抑制することができる。このように、本発明においては、ドライフィルムレジスト層A14とエッチング層12とが高い密着性を有すると共に、ドライフィルム層A14自体の物性としての硬化を抑制できるので、ドライフィルムレジスト層A14がエッチング工程において膨潤した状態で、基材11に変形応力が加わった場合においてもドライフィルムレジスト層A14によって変形応力が吸収されるので、感光性樹脂層13の剥離を抑制することができる。
【0027】
感光性樹脂層13に用いられる高分子化合物は、ドライフィルムレジスト層A14、ドライフィルムレジスト層B15で、同じであっても、異なっていても良いが、接着性の点から、類似構造を持つものを選択することが望ましい。例えば、ドライフィルムレジスト層A14にフマル酸とメタクリル酸ベンジルとの共重合体を用い、ドライフィルムレジスト層B15に該共重合体とトリメチロールプロパントリアクリレートの混合物を用いることが出来る。
【0028】
次に、基材11上にエッチング層12が積層された物に、本発明に係るドライフィルムレジスト層A14、ドライフィルムレジスト層B15を積層してワイヤグリッドフィルム用の積層体を製造する方法について説明する。本発明に係るドライフィルムレジスト層A14の形成方法は特に限定されるものではないが、ドライフィルムレジストを溶剤に希釈し、支持体フィルム上、具体的にはエッチング層12上にグラビアメッシュやスピンコーターなどの塗布器具を用いて均一に塗布した後、加熱及び/又は熱風吹き付けにより溶媒を除去して乾燥する方法や、ポリエチレンテレフタレートのPET面や離型処理を施したトリアセチルセルロース(TAC)、ポリカーボネート(PC)樹脂、環状オレフィンポリマー(COP)、環状オレフィンコポリマー(COC)、ノルボルネン系樹脂、ポリイミド樹脂フィルムなどにドライフィルムレジストを均一に塗布した後に乾燥し、ゲル状のドライフィルムレジストを金属面に転写する方法などが挙げられる。
【0029】
希釈の為の溶剤は、ドライフィルムレジスト層A14、ドライフィルムレジスト層B15の溶解性と溶剤除去に必要な乾燥温度の観点から選定する必要がある。特にフレキシブル基材を使用する場合、その耐熱温度からエタノールやプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、酢酸エチル、酢酸イソブチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、1−プロパノール、2−プロパノール、2−ブタノール、N−ブタノール、といった沸点が150度以下の低沸点溶剤が好ましい。
【0030】
塗布後の乾燥は形成する膜厚により最適条件が変化するが、ドライフィルムレジスト層A14の場合、概ね60度〜120度で10分以内がよい。乾燥時間を短縮させるために、60度〜120度で乾燥させたのち、減圧条件下で更に60度〜120度で5分以内乾燥してもよい。このようにして作製されるドライフィルムレジスト層A14の厚みは、0μmより大きく、1nm〜1μm以下であることが好ましい。ドライフィルムレジスト層A14の厚さが1μm以下であることにより、ドライフィルムレジスト層A14の膨潤による変形を抑制でき、ドライフィルムレジスト層13全体としての基材変形応力による剥離を抑制することができる。
【0031】
一方、高架橋成分であるトリ(メタ)アクリレートを含有するドライフィルムレジスト層B15の製膜方法も特に限定されるものではなく、上記製造方法でドライフィルムレジスト層A14を作製した後に、溶剤で希釈したトリ(メタ)アクリレート含有ドライフィルムレジストをドライフィルムレジスト層A14と同様の方法で製膜すればよい。希釈の為の溶剤は、ドライフィルムレジスト及びトリ(メタ)アクリレートの溶解性と溶剤除去に必要な乾燥温度の観点から選定する必要がある。特にフレキシブル基材を使用する場合、その耐熱温度からエタノールやプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、酢酸エチル、酢酸イソブチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、1−プロパノール、2−プロパノール、2−ブタノール、N−ブタノール、といった沸点が150度以下の低沸点溶剤が好ましい。塗布後の乾燥は形成する膜厚により最適条件が変化するが、概ね60度〜120度で10分以内がよい。
【0032】
特に、高架橋成分であるトリ(メタ)アクリレートをドライフィルムレジスト層A14中に浸透させ、感光性樹脂層13全体として、エッチング層12である金属面から遠い側からトリ(メタ)アクリレートの傾斜構造を形成する為に60度〜120度で乾燥させたのち、減圧条件下で更に60度〜120度で5分以内乾燥することがより好ましい。このようにして作製される高架橋成分トリ(メタ)アクリレートを含有するドライフィルムレジスト層B15の厚みは、100nm〜100μmであることが好ましい。また、ドライフィルムレジスト層A14の厚みは、0μmより大きく、1μm以下であることが好ましい。ドライフィルムレジスト層A14の厚みが1μm以下であることにより、ドライフィルムレジスト層A14自体の物性としての硬化を抑制でき、エッチング時の剥離抑制を効果的に発現できる。
【0033】
以上、本発明に係るドライフィルムレジスト材料を用いたドライフィルムレジスト層と、その層を含む積層体について説明した。
【0034】
本発明においては、エッチング層12を最表面に持つ基材11上に積層された感光性樹脂層13(多層ドライフィルムレジスト)は微細パターンを表面にもつモールドに押し当てた状態で硬化し、ドライエッチングにより残膜を除去した後にウェットエッチングのマスクとして機能する。硬化方法は特に限定されるものではなく、酸素阻害の影響をなくすために、窒素雰囲気などの酸素の少ない環境を利用する方法か、或いはアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂の一種であるポリエチレンテレフタレート(PET)、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリカーボネート(PC)樹脂、環状オレフィンポリマー(COP)、環状オレフィンコポリマー(COC)、ノルボルネン系樹脂、ポリイミド樹脂などからなるフレキシブルフィルムやガラスやシリコンといった離型処理を施した他の基板、或いはポリエチレンテレフタレートフィルムのPET面を押しあてた状態で実施する方法などが挙げられる。
【0035】
次に、本発明の効果を明確にするために行った実施例について説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
基材としてトリアセチルセルロースフィルムに窒化珪素膜が30nm積層されその上にアルミニウム膜が150nm積層された層構造を持つトリアセチルセルロースを使用し、金属面上に1−メトキシ2−プロパノールで0.5wt.%に希釈したメチルエチルケトンで50wt.%に希釈されたドライフィルムレジストを、1000rpmで10秒間、更に500rpmで20秒間の条件でスピンコーティングし、70度で10分間乾燥を行い、ドライフィルムレジスト層A14を形成した。続いて、トリメチロールプロパントリアクリレートをメチルエチルケトンで50wt.%に希釈されたドライフィルムレジストに、ドライフィルムレジストに対して66.7wt.%になるように混合し、上記溶液を1−メトキシ2−プロパノールで5wt.%に希釈し、ドライフィルムレジスト層A14上に1000rpmで10秒間、更に500rpmで20秒間の条件でスピンコーティングし、70度で8分乾燥した後に−0.1MPaまで減圧し2分間乾燥を行い高架橋成分トリアクリレートを含むドライフィルムレジスト層B15を形成した。
【0037】
上記のドライフィルムレジスト積層トリアセチルセルロース基材を、ニッケル製のモールドにドライフィルムレジスト層側から合わせ、70度の温度を加え、1mm/sec.の速度で2400Nの圧力を加えた後に、モールドから剥離し、窒素雰囲気下で100mJ/cmで露光した。
【0038】
上記二層型ドライフィルムレジスト層を金属表面に有する基材を、全圧3Pa、120W、10sccmの条件で24秒間酸素アッシングにかけ、次いで0.1wt.%の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬しアルミニウムをウェットエッチングしワイヤグリッドを形成した。
【0039】
得られた反射型ワイヤグリッド偏光子について、分光光度計を用いて、直線偏光に対する平行ニコル、直交ニコルでの透過光強度、反射光強度を測定した。その結果、反射型ワイヤグリッド型偏光子のTE波透過率は88.7%、TM波透過率は0.04%、TE波反射率は3.4%、TM波反射率は54.8%、偏光度は99.91%であった。
【0040】
(比較例1)
基材としてトリアセチルセルロースフィルムに窒化珪素膜が30nm積層されその上にアルミニウム膜が150nm積層された層構造を持つトリアセチルセルロースを使用し、金属面上に1−メトキシ2−プロパノールで5wt.%に希釈したメチルエチルケトンで50wt.%に希釈されたドライフィルムレジストを、1000rpmで10秒間、更に500rpmで20秒間の条件でスピンコーティングし、70度で10分間乾燥を行い、ドライフィルムレジスト層を形成した。
【0041】
上記実施例のドライフィルムレジスト積層トリアセチルセルロース基材を、ニッケル製のモールドにドライフィルムレジスト層側から合わせ、70度の温度を加え、1mm/sec.の速度で2400Nの圧力を加えた後に、モールドから剥離し、窒素雰囲気下で100mJ/cmで露光した。
【0042】
上記実施例のドライフィルムレジスト層を金属表面に有する基材を、全圧3Pa、120W、10sccmの条件で24秒間酸素アッシングにかけ、次いでアルミニウムをウェットエッチングする為に0.1wt.%の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬したところ、ドライフィルムレジスト層は金属表面から剥離し、ワイヤグリッドを形成することは出来なかった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のワイヤグリッド偏光子用積層体によれば、ドライエッチングのような大型真空装置を使用することなく容易に簡易な設備で金属格子を形成することが可能である点で有用である。
【符号の説明】
【0044】
11 基材
12 エッチング層
13 感光性樹脂層
14 ドライフィルムレジスト層A
15 ドライフィルムレジスト層B

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上に設けられ、金属を含有してなるエッチング層と、前記エッチング層上に設けられた感光性樹脂層とを備え、前記感光性樹脂層が少なくとも2層のドライレジストフィルム層からなり、前記少なくとも2層のドライレジストフィルム層の最上層のドライフィルムレジスト層がトリ(メタ)アクリレートを含有することを特徴とするワイヤグリッド偏光子用積層体。
【請求項2】
前記金属がAl、Cu、Ag、Cu、Ni、Cr、及びSiからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属を含むことを特徴とする請求項1に記載のワイヤグリッド偏光子用積層体。
【請求項3】
前記感光性樹脂層は、前記感光性樹脂層内において最上層に設けられ、層全体の質量に対してトリ(メタ)アクリレートを55質量%以上、75質量%以下含有すると共に、上層側の主面から下層側の主面にかけてトリ(メタ)アクリレートの含有量が減るように傾斜配分された第1ドライフィルムレジスト層と、前記エッチング層上に設けられ、膜厚が0μmより大きく、1μm以下である第2ドライフィルムレジスト層とを具備することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のワイヤグリッド偏光子用積層体。

【図1】
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【公開番号】特開2011−95683(P2011−95683A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252335(P2009−252335)
【出願日】平成21年11月2日(2009.11.2)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】