説明

ワイヤハーネス、絶縁カバー部材

【課題】ジョイント部7が形成された電線束9A及びジョイント部7を覆う絶縁カバー部材1を備えるワイヤハーネス2において、絶縁カバー部材1の取り付け作業の負荷を軽減し、さらに好ましくは絶縁カバー部材1のコストを低減すること。
【解決手段】絶縁カバー部材1は、樹脂材料がキャップ状に成形された可撓性を有する部材である。絶縁カバー部材1の筒状部11における結束材が巻き付けられる部分に、絶縁カバー部材1の長手方向(X軸方向)に直交する高さ方向(Z軸方向)において内側面及び外側面の両方で他の部分と段差をなしてくびれたくびれ部111が形成されている。くびれ部111の内側面は、高さ方向の寸法がジョイント部7の高さ方向の寸法よりも小さく、かつ、幅方向(Y軸方向)の寸法が第一電線束9Aの幅方向の寸法よりも大きく形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線束の端部のジョイント部を覆う絶縁カバー部材及びそれを備えたワイヤハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に代表される車両に搭載されるワイヤハーネスにおいて、複数の絶縁電線における導線の端部が、一体化されることによって電気的に接続される場合がある。例えば、複数の絶縁電線における導線の端部は、圧着金具がかしめられることにより一体化される。以下、複数の絶縁電線における導線の端部が一体化された部分のことをジョイント部と称する。
【0003】
ワイヤハーネスのジョイント部は、水が、絶縁電線の導線と絶縁被覆との隙間を伝って、雰囲気の圧力が高い場所から低い場所へ移動することによって電装部品の動作不良が生じる不都合を回避するために設けられる。
【0004】
即ち、ジョイント部は、一方の端部が雰囲気圧力の高い第一の場所へ配置される第一絶縁電線と、一方の端部が雰囲気圧力の低い第二の場所へ配置される第二絶縁電線と、からなる電線束の端部において、第一絶縁電線の他方の端部と第二絶縁電線の他方の端部とを接続する部分として設けられる。なお、第一絶縁電線及び第二絶縁電線は、一連の絶縁電線が切断されることにより得られる場合が多い。
【0005】
ジョイント部を有するワイヤハーネスが第一の場所から第二の場所に亘って敷設された場合、第一の場所の水は、第一絶縁電線における導線と絶縁被覆との隙間を伝って移動しても、ジョイント部において第一絶縁電線から排出され、第二絶縁電線の絶縁被覆内へ浸入しない。
【0006】
また、特許文献1に示されるように、ジョイント部が形成されたワイヤハーネスは、通常、ジョイント部を覆う絶縁カバー部材を備える。絶縁カバー部材は、可撓性を有し、電線束のジョイント部を内包する状態で粘着テープ又は結束用のベルト部材などの結束材が巻き付けられることにより、他の電線束と結束される。ワイヤハーネスにおいて、ジョイント部を覆う絶縁カバー部材は、電線束への取り付けが容易であることが望まれている。
【0007】
従来、樹脂材料からなり柔軟性を有する筒状部材が、絶縁カバー部材として用いられることが多い。この場合、筒状部材の一方の端部が、折り畳まれた状態で粘着テープにより留められる。これにより、筒状部材の一方の開口が塞がれ、筒状部材はキャップ状に形成される。なお、キャップ状とは、筒の一方の開口が塞がれた状態の形状を意味する。
【0008】
そして、電線束の端部におけるジョイント部から絶縁電線の絶縁被覆に亘る部分である保護領域が、キャップ状の部材の中空部に挿入された後、柔軟性を有するキャップ状の部材である絶縁カバー部材は、粘着テープなどの結束材が巻き付けられることにより、中空部に挿入された電線束とは別の電線束と結束される。通常、絶縁カバー部材と結束される電線束は、ワイヤハーネスにおける幹線を形成する電線束である。この場合、枝線を形成する電線束を内包する絶縁カバー部材は、幹線を形成する電線束に固定される。
【0009】
一方、特許文献1に示される絶縁カバー部材は、樹脂材料が予めキャップ状に成形された部材である。さらに、特許文献1に示される絶縁カバー部材の内側面には、2つの環状のリブが形成されている。
【0010】
特許文献1に示される絶縁カバー部材において、内側面のリブは、ジョイント部を絶縁カバー部材内部に位置決めし、絶縁カバー部材がその取り付け作業の途中で電線束の端部から抜け落ちることを防止する。その結果、電線束への絶縁カバー部材の取り付けが容易となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−187389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、ワイヤハーネスの幹線部に対する絶縁カバー部材の固定状態のばらつきを防ぐため、結束材は、電線束の保護領域を内包する絶縁カバー部材における予め定められた位置に巻き付けられる。例えば、作業者は、計測用の治具などを用いて、保護領域を内包する絶縁カバー部材における先端から予め定められた距離を隔てた位置を特定した上で、結束材を特定した位置に巻き付ける。
【0013】
しかしながら、昨今、絶縁カバー部材の電線束への取り付け作業の負荷のさらなる軽減が求められている。そのため、絶縁カバー部材の取り付け作業において、結束材の巻き付け位置を特定するための作業の負荷軽減が望まれている。
【0014】
また、特許文献1に示されるように、キャップ状の絶縁カバー部材の内側面に環状のリブ、即ち、他の部分よりも厚みの大きな環状の部分を形成するためには、樹脂材料の射出成形が必要となる。しかしながら、昨今、絶縁カバー部材をより簡易に製造し、絶縁カバー部材のコストをより低減することも求められている。
【0015】
本発明は、ジョイント部が形成された電線束及びジョイント部を覆う絶縁カバー部材を備えるワイヤハーネスにおいて、絶縁カバー部材の取り付け作業の負荷を軽減することを主目的とし、絶縁カバー部材のコストを低減することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
第1発明に係るワイヤハーネスは、以下に示される各構成要素を備える。(1)第1の構成要素は、複数の絶縁電線と複数の前記絶縁電線各々の導線の端部が一体化された部分であり前記絶縁電線の太さよりも太いジョイント部とを有する第一電線束である。(2)第2の構成要素は、前記第一電線束の端部における、前記ジョイント部から複数の前記絶縁電線の絶縁被覆までに亘る保護領域を覆う絶縁カバー部材である。(3)第3の構成要素は、前記絶縁カバー部材の一部に巻き付けられ、前記第一電線束の前記保護領域を内包する前記絶縁カバー部材と前記第一電線束とは異なる第二電線束とを結束する結束材である。さらに、第1発明に係るワイヤハーネスにおいて、前記絶縁カバー部材は、樹脂材料がキャップ状に成形された可撓性を有する部材である。さらに、前記絶縁カバー部材における前記結束材が巻き付けられた部分に、前記絶縁カバー部材の長手方向に直交する第一方向において内側面及び外側面の両方で他の部分と段差をなしてくびれたくびれ部が形成されている。さらに、前記絶縁カバー部材における前記くびれ部の内側面は、前記第一方向の寸法が前記ジョイント部の前記第一方向の寸法よりも小さく、かつ、前記絶縁カバー部材の長手方向及び前記第一方向に直交する第二方向の寸法が前記第一電線束の前記第二方向の寸法よりも大きく形成されている。
【0017】
また、第2発明に係るワイヤハーネスは、第1発明に係るワイヤハーネスの一例である。第2発明に係るワイヤハーネスにおいて、前記絶縁カバー部材は、樹脂材料がディップ成形によりキャップ状に成形された可撓性を有する部材である。
【0018】
また、第3発明に係るワイヤハーネスは、第1発明又は第2発明に係るワイヤハーネスの一例である。第3発明に係るワイヤハーネスにおいて、前記絶縁カバー部材の先端部は、他の部分の厚みよりも大きな厚みで形成されている。
【0019】
また、本発明は、本発明に係るワイヤハーネスが備える絶縁カバー部材の発明として捉えられてもよい。即ち、本発明に係る絶縁カバー部材は、複数の絶縁電線と複数の前記絶縁電線各々の導線の端部が一体化された部分であり横断面の最大寸法が前記絶縁電線の横断面の最大寸法よりも大きなジョイント部とを有する電線束の端部における、前記ジョイント部から複数の前記絶縁電線の絶縁被覆までに亘る保護領域を覆う絶縁カバー部材である。さらに、本発明に係る絶縁カバー部材は、樹脂材料がキャップ状に成形された可撓性を有する部材である。さらに、本発明に係る絶縁カバー部材の一部に、結束材が巻き付けられる部分であり、当該絶縁カバー部材の長手方向に直交する第一方向において、内側面及び外側面の両方で他の部分と段差をなしてくびれたくびれ部が形成されている。
【発明の効果】
【0020】
第1発明に係るワイヤハーネスにおいて、第一電線束のジョイント部は、絶縁カバー部材の内側に挿入された場合、絶縁カバー部材のくびれ部に引っ掛かる。しかしながら、可撓性を有する絶縁カバー部材のくびれ部は、幅が広く形成された方向である第二方向の両側から押されると、第二方向に直交する第一方向における幅が拡がるように変形する。
【0021】
従って、絶縁カバー部材のくびれ部が一時的に第二方向の両側から摘まれた状態で、第一電線束のジョイント部が絶縁カバー部材の内側に挿入されることにより、ジョイント部は、絶縁カバー部材の内側におけるくびれ部よりも奥の位置まで挿入される。
【0022】
そして、ジョイント部が絶縁カバー部材におけるくびれ部よりも奥の位置まで挿入された後、くびれ部の摘みが解除されれば、ジョイント部は、絶縁カバー部材の開口部側へ移動しようとする際にくびれ部に引っ掛かる。そのため、絶縁カバー部材がその取り付け作業の途中で第一電線束の端部から抜け落ちることは防がれる。
【0023】
また、第1発明に係るワイヤハーネスにおいて、絶縁カバー部材のくびれ部は、結束材の巻き付け位置を表すとともに結束材の位置ずれを防止する段差を形成する。そのため、絶縁カバー部材の電線束への取り付け作業において、結束材の巻き付け位置を特定するための作業は不要である。
【0024】
以上に示したことから、第1発明によれば、ジョイント部が形成された第一電線束及びジョイント部を覆う絶縁カバー部材を備えるワイヤハーネスにおいて、絶縁カバー部材の取り付け作業の負荷が軽減される。
【0025】
また、第2発明に係るワイヤハーネスにおいて、絶縁カバー部材は、樹脂材料がディップ成形によりキャップ状に成形された可撓性を有する部材である。ディップ成形は、射出成形に比べてより簡易かつ低コストの成形手法である。本発明に係る絶縁カバー部材は、筒状の部分の一部に厚みの大きな部分が形成される必要がなく、概ね均一な厚みのキャップ状の部材は、ディップ成形によって容易に製造可能である。第2発明よれば、絶縁カバー部材のコストの低減が可能となる。
【0026】
また、第3発明に係るワイヤハーネスにおいて、絶縁カバー部材の先端部は、他の部分の厚みよりも大きな厚みで形成されており、他の部分よりも破れにくい。そのため、第一電線束のジョイント部を絶縁カバー部材の先端部に突き当てることにより、第一電線束と絶縁カバー部材との位置合わせが行われた場合でも、絶縁カバー部材の先端部の破損は回避される。
【0027】
なお、絶縁カバー部材がディップ成形により成形される場合であっても、絶縁カバー部材の先端部を他の部分の厚みよりも大きな厚みで形成することは可能である。例えば、樹脂の冷却工程(固化工程)において、固化する前の樹脂材料が表面に付着した絶縁カバー部材の金型が、その先端部が下方に向く状態で保持されれば、流動性を有する樹脂材料が下方に溜まり、先端部は他の筒状の部分よりも大きな厚みで形成される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態に係る絶縁カバー部材1の斜視図である。
【図2】絶縁カバー部材1の3面図である。
【図3】絶縁カバー部材1の縦断面図である。
【図4】絶縁カバー部材1の横断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係るワイヤハーネス2の斜視図である。
【図6】ワイヤハーネス2が備える電線束の平面図及び側面図である。
【図7】電線束の端部が挿入された絶縁カバー部材1の縦断面図である。
【図8】電線束の端部が挿入された絶縁カバー部材1の横断面図である。
【図9】電線束の端部が挿入され変形した絶縁カバー部材1の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であり、本発明の技術的範囲を限定する事例ではない。
【0030】
<絶縁カバー部材>
まず、図1から図4を参照しつつ、本発明の実施形態に係る絶縁カバー部材1の構成について説明する。なお、図2(a)は絶縁カバー部材1の平面図、図2(b)は絶縁カバー部材の側面図、図2(c)は絶縁カバー部材1の背面図である。また、図3は図2(a)に示されるA−A平面における断面図(縦断面図)、図4は図2(a)に示されるB−B平面における断面図(横断面図)である。
【0031】
絶縁カバー部材1は、電線束の端部に形成されたジョイント部を覆う部材である。また、絶縁カバー部材1は、樹脂材料がキャップ状に成形された可撓性を有する部材である。絶縁カバー部材1を構成する樹脂材料は、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)、天然ゴム、ウレタン又はニトリルゴム(NBR)などの合成ゴムなどである。
【0032】
図1から図4に示されるように、絶縁カバー部材1は、概ね均一な厚みの筒状に形成された筒状部11と、筒状部11の一方の開口を塞ぐ閉塞部12とにより構成されている。即ち、絶縁カバー部材1の先端部は閉塞部12であり、絶縁カバー部材1の後端部は電線束の挿入口となる開口部13である。
【0033】
各図に示される座標軸において、X軸方向は絶縁カバー部材1の長手方向である。絶縁カバー部材1の長手方向は、絶縁カバー部材1における筒状部11の軸心方向でもある。
【0034】
また、各図に示される座標軸において、Z軸方向は絶縁カバー部材1の長手方向に直交する高さ方向であり、Y軸方向は絶縁カバー部材1の長手方向及び高さ方向に直交する幅方向である。なお、「幅方向」及び「高さ方向」との呼称は、絶縁カバー部材1の長手方向に直交する2方向を区別するための便宜上の呼称である。従って、絶縁カバー部材1は、必ずしも高さ方向(Z軸方向)が上下方向となるように配置されるわけではない。
【0035】
また、絶縁カバー部材1における筒状部11の一部には、絶縁カバー部材1の長手方向に直交する高さ方向(Z軸方向)のみにおいて、他の部分と段差をなしてくびれたくびれ部111が形成されている。
【0036】
図3に示されるように、くびれ部111は、内側面及び外側面の両方で他の部分と段差をなしてくびれた部分である。従って、くびれ部111の外側面は、高さ方向(Z軸方向)において凹面をなし、くびれ部111の内側面は、高さ方向において凸面をなしている。
【0037】
また、筒状部11におけるくびれ部111以外の部分は円筒状である。一方、筒状部11におけるくびれ部111は、図4に示されるように、外側面の輪郭及び内側面の輪郭の両方が扁平に形成されている。
【0038】
くびれ部111は、粘着テープ又は結束用ベルトなどの結束材が巻き付けられる部分であり、絶縁カバー部材1の長手方向(X軸方向)におけるくびれ部111の幅は、結束材の幅よりも若干大きい程度である。
【0039】
本実施形態においては、2つのくびれ部111が、絶縁カバー部材1の筒状部11に間隔を隔てて形成されている。しかしながら、1つのくびれ部111のみが筒状部11に形成されること、或いは、3つ以上のくびれ部111が筒状部11に間隔を隔てて形成されることも考えられる。
【0040】
また、図3に示されるように、絶縁カバー部材1の先端部である閉塞部12は、他の部分の厚み、即ち、筒状部11の厚みよりも大きな厚みで形成されている。
【0041】
以上に示された絶縁カバー部材1は、樹脂材料がディップ成形によりキャップ状に成形された可撓性を有する部材である。即ち、絶縁カバー部材1は、その内側面の形状を外形とする棒状の金型を溶融した樹脂材料の中に浸す浸漬工程と、棒状の金型の表面に付着した樹脂材料を冷却して固化する冷却工程と、固化した樹脂部材を棒状の金型から取り外す離型工程とを経て製造される。
【0042】
また、浸漬工程から冷却工程までの工程において、固化する前の樹脂材料が表面に付着した絶縁カバー部材の金型が、その先端部が下方に向く状態で保持されれば、流動性を有する樹脂材料が下方に溜まり、先端部は他の筒状の部分よりも大きな厚みで形成される。
【0043】
<ワイヤハーネス>
次に、図5から図9を参照しつつ、本発明の実施形態に係るワイヤハーネス2の構成について説明する。図5はワイヤハーネス2の斜視図である。
【0044】
図5に示されるように、ワイヤハーネス2は、第一電線束9Aと、第二電線束9Bと、絶縁カバー部材1と、結束材6とを備える。なお、図6(a)は第一電線束9Aの平面図であり、図6(b)は第一電線束9Aの側面図である。また、図7及び図8は、それぞれ第一電線束9Aの端部が挿入された絶縁カバー部材1の縦断面図及び横断面図である。
【0045】
<電線束>
図6に示されるように、第一電線束9Aは、複数の絶縁電線8とジョイント部7とを有する。絶縁電線8は、導線81と導線81の周囲を覆う絶縁被覆82により構成されている。
【0046】
ジョイント部7は、複数の絶縁電線8各々の導線81の端部が一体化された部分である。図6に示されるジョイント部7は、複数の絶縁電線8における導線81の端部が、圧着金具71がかしめられることにより一体化された部分である。第一電線束9Aを構成する複数の絶縁電線8は、ジョイント部7において電気的に接続されている。また、ジョイント部7は、絶縁電線8各々の太さ、即ち、絶縁電線8の絶縁被覆82の部分の太さよりも太く形成されている。
【0047】
なお、図6に示される例では、第一電線束9Aを構成する絶縁電線8は2本であるが、第一電線束9Aが3本以上の絶縁電線8を含むことも考えられる。
【0048】
一方、第二電線束9Bは、図示されていないが、複数の絶縁電線8の束である。第二電線束9Bは、ワイヤハーネス2における幹線を形成する電線束である。
【0049】
ワイヤハーネス2において、絶縁カバー部材1は、第一電線束9Aの端部における、ジョイント部7から複数の絶縁電線8の絶縁被覆82までに亘る領域を覆う。以下の説明において、第一電線束9Aにおける、絶縁カバー部材1で覆われる領域のことを保護領域と称する。
【0050】
<結束材>
結束材6は、絶縁カバー部材1のくびれ部111に巻き付けられ、第一電線束9Aの保護領域を内包する絶縁カバー部材1と第二電線束9Bとを結束する部材である。換言すれば、絶縁カバー部材1における結束材6が巻き付けられた部分にくびれ部111が形成されている。図5に示される結束材6は粘着テープである。なお、結束材6が、結束用のベルト部材であることも考えられる。
【0051】
<ワイヤハーネスにおける絶縁カバー部材>
図8に示されるように、ワイヤハーネス2において、絶縁カバー部材1におけるくびれ部111の内側面は、高さ方向(Z軸方向)の寸法W21がジョイント部7の高さ方向の寸法W11よりも若干小さく形成され、かつ、幅方向(Y軸方向)の寸法W22が第一電線束9Aの幅方向の寸法W12よりも十分大きく形成されている。また、くびれ部111の内側面における高さ方向の寸法W21は、第一電線束9Aにおける絶縁電線8の絶縁被覆82の部分の高さ方向の寸法W13よりも大きく形成されている。
【0052】
なお、図示されていないが、絶縁カバー部材1の筒状部11におけるくびれ部111以外の部分の内側面は、高さ方向の寸法が第一電線束9Aの高さ方向の寸法より大きく、かつ、幅方向の寸法が第一電線束9Aの幅方向の寸法W12よりも大きく形成されている。ここで、第一電線束9Aの高さ方向の寸法は、ジョイント部7の高さ方向の寸法W11と等しい。
【0053】
<絶縁カバー部材の作用及び効果>
図8に示されるように、絶縁カバー部材1が圧力を受けない自然状態であるとき、第一電線束9Aのジョイント部7は、絶縁カバー部材1の内側に挿入された場合、絶縁カバー部材1のくびれ部111に引っ掛かる。
【0054】
しかしながら、可撓性を有する絶縁カバー部材1のくびれ部111は、幅が広く形成された方向である幅方向(Y軸方向)の両側から押されると、幅方向に直交する高さ方向(Z軸方向)における幅が拡がるように変形する。
【0055】
図9は、第一電線束9Aの端部が挿入され変形した絶縁カバー部材1のくびれ部111の部分の横断面図である。図9に示されるように、可撓性を有する絶縁カバー部材1のくびれ部111は、幅方向(Y軸方向)の両側から指などにより力F1で押されると、高さ方向における幅が拡がるように変形する。
【0056】
従って、絶縁カバー部材1のくびれ部111が一時的に幅方向の両側から摘まれた状態で、第一電線束9Aのジョイント部7が絶縁カバー部材1の内側に挿入されることにより、ジョイント部7は、絶縁カバー部材1の内側におけるくびれ部111よりも奥の位置まで挿入される。
【0057】
そして、ジョイント部7が絶縁カバー部材1におけるくびれ部111よりも奥の位置まで挿入された後、くびれ部111の摘みによる力F1が解除されれば、ジョイント部7は、絶縁カバー部材1の開口部13側へ移動しようとする際にくびれ部111に引っ掛かる。そのため、絶縁カバー部材1がその取り付け作業の途中で第一電線束9Aの端部から抜け落ちることは防がれる。
【0058】
また、ワイヤハーネス2において、絶縁カバー部材1のくびれ部111は、結束材6の巻き付け位置を表すとともに結束材6の位置ずれを防止する段差を形成する。そのため、絶縁カバー部材1の電線束への取り付け作業において、結束材6の巻き付け位置を特定するための作業は不要である。
【0059】
以上に示したことから、ジョイント部7が形成された第一電線束9A及びジョイント部7を覆う絶縁カバー部材1を備えるワイヤハーネス2において、絶縁カバー部材1の取り付け作業の負荷が軽減される。
【0060】
また、ワイヤハーネス2において、絶縁カバー部材1は、樹脂材料がディップ成形によりキャップ状に成形された可撓性を有する部材である。ディップ成形は、射出成形に比べてより簡易かつ低コストの成形手法である。絶縁カバー部材1は、筒状部11の一部に厚みの大きな部分が形成される必要がなく、概ね均一な厚みのキャップ状の部材は、ディップ成形によって容易に製造可能である。従って、絶縁カバー部材1が採用されることにより、コストの低減が可能となる。
【0061】
また、絶縁カバー部材1の閉塞部12(先端部)は、他の部分の厚みよりも大きな厚みで形成されており、他の部分よりも破れにくい。そのため、第一電線束9Aのジョイント部7を絶縁カバー部材1の閉塞部12に突き当てることにより、第一電線束9Aと絶縁カバー部材1との位置合わせが行われた場合でも、絶縁カバー部材1の先端部の破損は回避される。
【0062】
なお、前述したように、絶縁カバー部材1がディップ成形により成形される場合であっても、絶縁カバー部材1の閉塞部12(先端部)を他の部分の厚みよりも大きな厚みで形成することは可能である。
【0063】
<その他>
ワイヤハーネス2において、第一電線束9Aのジョイント部7が、圧着金具以外の金具又は溶接などにより一体化された部分であってもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 絶縁カバー部材
2 ワイヤハーネス
6 結束材
7 ジョイント部
8 絶縁電線
9A 第一電線束
9B 第二電線束
11 筒状部
12 閉塞部
13 開口部
71 圧着金具
81 導線
82 絶縁被覆
111 くびれ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の絶縁電線と複数の前記絶縁電線各々の導線の端部が一体化された部分であり横断面の最大寸法が前記絶縁電線の横断面の最大寸法よりも大きなジョイント部とを有する第一電線束と、
前記第一電線束の端部における、前記ジョイント部から複数の前記絶縁電線の絶縁被覆までに亘る保護領域を覆う絶縁カバー部材と、
前記絶縁カバー部材の一部に巻き付けられ、前記第一電線束の前記保護領域を内包する前記絶縁カバー部材と前記第一電線束とは異なる第二電線束とを結束する結束材と、を備えるワイヤハーネスであって、
前記絶縁カバー部材は、樹脂材料がキャップ状に成形された可撓性を有する部材であり、
前記絶縁カバー部材における前記結束材が巻き付けられた部分に、前記絶縁カバー部材の長手方向に直交する第一方向において内側面及び外側面の両方で他の部分と段差をなしてくびれたくびれ部が形成されており、
前記絶縁カバー部材における前記くびれ部の内側面は、前記第一方向の寸法が前記ジョイント部の前記第一方向の寸法よりも小さく、かつ、前記絶縁カバー部材の長手方向及び前記第一方向に直交する第二方向の寸法が前記第一電線束の前記第二方向の寸法よりも大きく形成されていることを特徴とするワイヤハーネス。
【請求項2】
前記絶縁カバー部材は、樹脂材料がディップ成形によりキャップ状に成形された可撓性を有する部材である、請求項1に記載のワイヤハーネス。
【請求項3】
前記絶縁カバー部材の先端部は、他の部分の厚みよりも大きな厚みで形成されている、請求項1又は請求項2に記載のワイヤハーネス。
【請求項4】
複数の絶縁電線と複数の前記絶縁電線各々の導線の端部が一体化された部分であり前記絶縁電線の太さよりも太いジョイント部とを有する電線束の端部における、前記ジョイント部から複数の前記絶縁電線の絶縁被覆までに亘る保護領域を覆う絶縁カバー部材であって、
当該絶縁カバー部材は、樹脂材料がキャップ状に成形された可撓性を有する部材であり、
当該絶縁カバー部材の一部に、結束材が巻き付けられる部分であり、当該絶縁カバー部材の長手方向に直交する第一方向において、内側面及び外側面の両方で他の部分と段差をなしてくびれたくびれ部が形成されていることを特徴とする絶縁カバー部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−89439(P2013−89439A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228533(P2011−228533)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】