説明

ワイヤハーネス

【課題】コルゲートチューブで外装するワイヤハーネスのT字分岐部で、コルゲートチューブから電線群が露出しないようにする。
【解決手段】車両に配索されるワイヤハーネスの幹線から支線がT字状に分岐し、該幹線1および支線2をコルゲートチューブで外装しているワイヤハーネスであって、支線2の分岐位置を挟む両側の幹線の一方側1−Bに被せる第1コルゲートチューブ10を分岐位置で屈曲させて支線2へと連続して被せ、第1コルゲートチューブ10の屈曲させた分岐位置の内周部に切り込み11を入れておき、該切り込み部を分岐位置で開き、前記幹線の他方側に被せた第2コルゲートチューブ20の先端を第1コルゲートチューブ10の前記開き16の部分に嵌合し、該分岐位置で前記第2コルゲートチューブと第1コルゲートチューブの外周面にテープを巻き付けて固着している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に配索されるワイヤハーネスに関し、詳しくは、コルゲートチューブを外装したワイヤハーネスの分岐位置での改良を図るものである。
【背景技術】
【0002】
自動車に配索して電装品と接続されるワイヤハーネスは、ワイヤハーネスを構成する電線群の結束および保護を図るために、粘着テープをハーフラップ巻きする場合と、環状の凸部と凹部とを長さ方向に交互に形成した樹脂成形品からなるコルゲートチューブで電線群を外装する場合とがある。
前記粘着テープの巻き付けは作業者の熟練度によって仕上がり精度にバラツキがあるのに対してコルゲートチューブを用いる場合は、該コルゲートチューブ内に電線群を挿通させるだけであるため作業者によるバラツキの発生はなく、かつ、コルゲートチューブは屈曲性に富むため、近時、ワイヤハーネスはコルゲートチューブで電線群を外装する場合が多い。
【0003】
前記のようにコルゲートチューブを外装材として用いると熟練度による仕上がり精度にバラツキが生じない利点を有するが、ワイヤハーネスの幹線から支線が分岐する分岐位置で、幹線に外装するコルゲートチューブと支線に外装するコルゲートチューブとの接続が容易でない問題がある。
このため、ワイヤハーネスの分岐位置でのコルゲートチューブ同士の接続に関して、本出願人は種々の提案を行っている。
【0004】
例えば、特開平11−205944号公報(特許文献1)では、図5に示すように、幹線W1のT字分岐位置Bで支線W2が略直角方向に分岐する場合、支線W2と分岐位置から延在する被分岐幹線W3に小径のコルゲートチューブCB2とCB3とを先に被せておき、幹線W1に大径のコルゲートチューブCB1を被せ、分岐位置で大径のコルゲートチューブCB1を先付けしたコルゲートチューブCB3にオーバーラップして外嵌し、支線W2に被せたコルゲートチューブCB2との間にテープTを巻き付けて支線W2を被覆している。
【0005】
前記特許文献1の構成とすると、支線W2と被分岐線W3にそれぞれコルゲートチューブCB2、3を先付けする必要があり、かつ、幹線W1には大径のコルゲートチューブCB1と先端側の被分岐線W3に小径のコルゲートチューブCB3とを分割して外装する必要がある。このように、コルゲートチューブが分割されているため、支線W2へのコルゲートチューブの外装を含めて、3回のコルゲートチューブの外装作業が必要となり、作業手数がかかる等の問題があり、改善の余地がある。
【0006】
【特許文献1】特開平11−205944号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記問題に鑑みてなされたもので、幹線W1およびT字分岐位置から延在する被分岐線W3とに連続的にコルゲートチューブを外装できるようにしながら、幹線から直交方向に延在する支線W2に外装するコルゲートチューブとの間で支線W2が露出しないようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、車両に配索されるワイヤハーネスの幹線から支線がT字状に分岐し、該幹線および支線をコルゲートチューブで外装しているワイヤハーネスであって、
前記支線の分岐位置を挟む両側の幹線の一方側に被せる第1コルゲートチューブを前記分岐位置で屈曲させて前記支線へと連続して被せ、該第1コルゲートチューブの屈曲させた分岐位置の内周部に切り込みを入れておき、該切り込み部を分岐位置で開き、前記幹線の他方側に被せた第2コルゲートチューブの先端を前記第1コルゲートチューブの前記開いた部分に嵌合し、該分岐位置で前記第2コルゲートチューブと第1コルゲートチューブの外周面にテープを巻き付けて固着していることを特徴とするワイヤハーネスを提供している。
【0009】
前記のように、本発明では、分岐位置で第1コルゲートチューブを略90度曲げして幹線側の一方から支線へと連続して外装している。該第1コルゲートチューブの曲げ位置の内周側に当たる部分に切り込みを入れておくと、90度曲げで外周側は連続した状態で内周側が大きく開くこととなる。このように分岐位置で一方の第1コルゲートチューブを大きく開くことにより、分岐位置を挟む他方側の幹線に被せる第2コルゲートチューブの先端側を第1コルゲートチューブの開き部分に位置させることができる。これにより分岐位置には電線群を露出させないようにすることができる。このように、第1コルゲートチューブの開き部分に第2コルゲートチューブの先端部を挿入した分岐位置に粘着テープを巻き付けて、第1、第2コルゲートチューブを固着している。
該構成とすると、コルゲートチューブは第1、第2コルゲートチューブの2個であり、コルゲートチューブの電線群への取付作業は2回で済む。よって、特許文献1の3個のコルゲートチューブをそれぞれ電線群に取り付ける3回の取付作業を必要とする場合と比較して、部品コストおよび作業手数を軽減できる。
さらに、分岐位置での幹線側および支線側の電線群の露出を無くすことができ、電線群の保護機能を高めることができる。
【0010】
前記第1コルゲートチューブは前記第2コルゲートチューブよりも小径とし、該第1コルゲートチューブを分岐位置で分岐されて屈曲される支線と幹線側の一方側となる被分岐線とに被せ、前記第2コルゲートチューブは分岐位置に達するまでの幹線の他方側に被せ、該第2コルゲートチューブの先端を分岐位置で開かれた第1コルゲートチューブの外周に被せていることが好ましい。
これは、屈曲される支線が分岐された幹線の残りの被分岐線側の電線量は分岐位置から減少し、電線群の外径は分岐位置を挟む他方側より減少する。また、屈曲される支線の外径も幹線の外径よりも当然に小さい。このように、外径が小さくなる支線と、幹線の被分岐線側とを、第1コルゲートチューブで連続的に外装することにより、コルゲートチューブの内径と電線群の外径との差を小さくでき、コルゲートチューブ内での電線群の動きを抑制することができる。
一方、分岐位置に達するまでの幹線の外径は大きいため、この幹線部分に第2コルゲートチューブを被せ、支線に連続させていない。また、第1コルゲートチューブを第2コルゲートチューブより小径としていることで、分岐位置で、開いた第1コルゲートチューブの周縁に第2コルゲートチューブを重ねるように外嵌でき、分岐位置での電線群の露出を確実に防止できる。
【0011】
前記第1、第2コルゲートチューブは軸線方向に沿って連続したスリットを備えたスリット入りコルゲートチューブであり、前記屈曲位置での切り込みは前記スリットと直交方向する周方向の切り込みで、かつ、該切り込みは第1コルゲートチューブの半周に設け、
かつ、第2コルゲートチューブは前記屈曲した支線側にスリットを位置させ、該スリットを開きながら第1コルゲートチューブに外嵌していることが好ましい。
【0012】
このように、軸線方向のスリットと直交する周方向に、かつ、半周程度のスリットからなる切り込みを入れると、分岐位置で第1コルゲートチューブを略90度曲げすると、第1コルゲートチューブは外周側のみ連続した状態で、内周側を半周以上大きく開くことができ、第2コルゲートチューブの先端部を開き部分にスムーズに差し込むことができる。 前記内周側に設ける切り込みは軸線方向のスリットと直交方向のスリットに限定されず、V形状の切り込みとし、屈曲位置でより大きく開けるようにしてもよい。
また、第2コルゲートチューブも電線群への取付性を高めるためにスリット入りコルゲートチューブを用いることが好ましい。
【0013】
なお、T字分岐位置で幹線から曲げられて延在する支線は、必ずしも90度曲げされる場合に限らず、幹線から例えば30度以上曲げられて支線が延在する場合等にも、本発明は好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0014】
前述したように、本発明のワイヤハーネスでは、T字分岐位置で、幹線側の一方から屈曲して分岐させる支線にかけて第1コルゲートチューブを連続して被せ、分岐位置に設けた切り込みを内周側で開くことにより、幹線の他方側に被せる第2コルゲートチューブを第1コルゲートチューブの開き部分に位置させて、分岐位置での電線群の露出を簡単に防止することができる。
かつ、コルゲートチューブは2個でよく、そのため、コルゲートチューブの電線群への取付作業も2回で済み、部品点数および取付作業を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1乃至図3に実施形態を示す。
【0016】
電線群Wからなる幹線1の長さ方向の中間位置に、90度曲げで支線2を延在させたT字状の分岐部Pが設けられる。幹線1は分岐部Pに達するまでの一方側の基幹部1−Aの外径は大きく、支線2が分岐された先端側の被分岐線部1−Bの外径は小さくなっている。
【0017】
前記幹線1の分岐部Pを挟む一方側となる外径が小さい幹線の被分岐線部1−Bと、支線2とに連続して小径のスリット入りの第1コルゲートチューブ10を連続して被せ、分岐部Pで第1コルゲートチューブ10を略90度曲げしている。
一方、幹線1の基幹部1−Aに大径のスリット入りの第2コルゲートチューブ20を被せている。
前記第2コルゲートチューブ20の先端側を分岐部Pで、後述する第1コルゲートチューブ10の開き16の部分に位置させた状態で、分岐部Pでの電線群Wを完全に覆い、粘着テープTにより第1、第2コルゲートチューブ10、20を固着している。
【0018】
前記第1、第2コルゲートチューブ10、20はいずれも、樹脂成形品からなり、周方向の環状の凸部10a、20aと凹部10b、20bを軸線方向に交互に設けて屈曲性を有するものとしている。かつ、これら第1、第2コルゲートチューブ10、20は前記のように、軸線方向に連続したスリット10c、20cを有するスリット入りコルゲートチューブとし、スリット10c、20cを開いて電線群を軸直角方向から横入れできるものとしている。
【0019】
前記第1コルゲートチューブ10には分岐部Pで直角曲げする箇所に図2(A)に示すように、スリット10cと直交する周方向に、半周程度のスリットからなる切り込み11を予め形成している。該切り込み11を設けておくと、第1コルゲートチューブ10を曲げた時に図2(B)に示すように、切り込み11が開き、直角曲げすると、図2(C)に示すように、切り込み11が無い外周部12を支点として90度の開き16が発生する。 この状態で、前後両面および下面が開口し、図中、上側部と右側部に切り込み11を挟む周縁部13、14が位置する状態となる。
【0020】
前記第1コルゲートチューブ10を、幹線1の被分岐線部1−Bと支線2とに分岐部Pで直角曲げして連続して被せている。かつ、第1コルゲートチューブ10のスリット10c側を被分岐線部1−B側では図中下向き、分岐部Pでは内周側、支線2側では図中左側に位置させて被せ、切り込み11を分岐部Pの直角曲げする部分で内周側に位置させている。
【0021】
第1コルゲートチューブ10は、分岐部Pでは、前記図2(C)に示す状態となり、幹線1の基幹部1−Aに向けて大きな開き16が形成された状態となる。該状態で、分岐部Pの基幹部1−Aと反対側の被分岐線部1−Bの位置に、切り込み11を挟む前記周縁部13が位置し、支線2側に前記周縁部14が位置する状態となる。よって、分岐部Pの下面および前後両面が第1コルゲートチューブ10の開き16に位置し、該第1コルゲートチューブ10で覆われず、電線群Wが露出した状態となる。
【0022】
一方、幹線1の基幹部1−Aには前記第2コルゲートチューブ20を外嵌し、そのスリット20cを支線2の分岐側となる図中上面に位置させている。
【0023】
次に、第1、第2コルゲートチューブ10、20の取り付け作業について説明する。
図3(A)に示すように、第1コルゲートチューブ10を幹線1の被分岐線部1−Bから支線2にかけて連続して被せ、分岐部Pで直角曲げして内周側を切り込み11により大きく開いている。
この状態で、図3(B)に示すように、幹線1の基幹部1−Aに被せていた第2コルゲートチューブ20を分岐部Pに向けて移動させ、分岐部Pで第1コルゲートチューブ10で覆われていない開き16に当たる電線群Wの前後面および下面を第2コルゲートチューブ20で覆っている。支線2が分岐する上面側では、第2コルゲートチューブ20のスリット20cを広げ、第1コルゲートチューブ10の周縁部14の外面に重ねている。また、被分岐線部1−B側の周縁部13の外面に第2コルゲートチューブ20の先端側を重ねている。
【0024】
このように、分岐部Pで第1コルゲートチューブ10に開き16を設け、第2コルゲートチューブ20で開き16を覆うと共に、切り込み11を挟む周縁部13、14に第2コルゲートチューブ20を重ねた状態で、図3(C)に示すように、粘着テープTを分岐位置に股掛け状態で巻き付けて第1、第2コルゲートチューブ10と20とを固着している。
なお、第2コルゲートチューブ20の先端側を第1コルゲートチューブ10の周縁部13の重なり側だけに粘着テープを巻き付けてもよい。
【0025】
前記構成とすると、幹線1から支線2が分岐する分岐部Pを第1、第2コルゲートチューブ10、20で完全に覆うことができる。
かつ、使用するコルゲートチューブは2つの第1、第2コルゲートチューブ10、20だけであり、コルゲートチューブの電線群への取り付けも2回で済む。
さらに、第1、第2コルゲートチューブ10、20で電線群Wを完全に被覆しているため、粘着テープの巻き付け量も低減することができる。
【0026】
本発明は前記実施形態に限定されず、図4(A)示すように、第1コルゲートチューブ10の屈曲部の内周側に設ける切り込みをスリット状とせずに、V形状の切り込み11−Aとしてもよい。このように、切り込み11−Aを大きくすると、分岐部での第1コルゲートチューブ10をスムーズに大きく開くことができる。
さらに、図4(B)に示すように、四角形状の切欠11−Bをいれてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のワイヤハーネスの実施形態を示し、(A)は外観図、(B)は要部拡大図である。
【図2】(A)〜(C)は第1コルゲートチューブの切り込み及び該切り込みに曲げが付加された状態を示す図面である。
【図3】(A)〜(C)は第1、第2コルゲートチューブの取付工程を示す図面である。
【図4】(A)(B)は第1コルゲートチューブの切り込みの変形例を示す図面である。
【図5】従来例を示す図面である。
【符号の説明】
【0028】
1 幹線
1−A 基幹部
1−B 被分岐線部
2 支線
10 第1コルゲートチューブ
11 切り込み
12 外周部
13、14 周縁部
16 開き
20 第2コルゲートチューブ
10c 20c スリット
W 電線群
P 分岐部
T 粘着テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に配索されるワイヤハーネスの幹線から支線がT字状に分岐し、該幹線および支線をコルゲートチューブで外装しているワイヤハーネスであって、
前記支線の分岐位置を挟む両側の幹線の一方側に被せる第1コルゲートチューブを前記分岐位置で屈曲させて前記支線へと連続して被せ、該第1コルゲートチューブの屈曲させた分岐位置の内周部に切り込みを入れておき、該切り込み部を分岐位置で開き、前記幹線の他方側に被せた第2コルゲートチューブの先端を前記第1コルゲートチューブの前記開いた部分に嵌合し、該分岐位置で前記第2コルゲートチューブと第1コルゲートチューブの外周面にテープを巻き付けて固着していることを特徴とするワイヤハーネス。
【請求項2】
前記第1コルゲートチューブは前記第2コルゲートチューブよりも小径とし、該第1コルゲートチューブを分岐位置で分岐されて屈曲される支線と幹線側の一方側となる被分岐線とに被せ、前記第2コルゲートチューブは分岐位置に達するまでの幹線の他方側に被せ、該第2コルゲートチューブの先端を分岐位置で開かれた第1コルゲートチューブの外周に被せている請求項1に記載のワイヤハーネス。
【請求項3】
前記第1、第2コルゲートチューブは軸線方向に沿って連続したスリットを備えたスリット入りコルゲートチューブであり、前記屈曲位置での切り込みは前記スリットと直交方向する周方向の切り込みで、かつ、該切り込みは第1コルゲートチューブの半周に設け、
かつ、第2コルゲートチューブは前記屈曲した支線側にスリットを位置させ、該スリットを開きながら第1コルゲートチューブに外嵌している請求項1または請求項2に記載のワイヤハーネス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−93959(P2010−93959A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−262155(P2008−262155)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】