説明

ワイヤハーネス

【課題】複数の要素ワイヤハーネスが合体した構造を有するワイヤハーネスに関し、電線の保護と、組み立ての簡易化と、軽量化とを実現すること。
【解決手段】ワイヤハーネス1は、それぞれ第一保護部材10を備える複数の要素ワイヤハーネス20と、複数の要素ワイヤハーネス20を束ねつつ保護する第二保護部材30とを備える。第一保護部材10は、不織布が加熱成形されることにより硬化した筒状の部材からなり、各要素ワイヤハーネス20を構成する電線9の一部の周囲を覆う。第二保護部材30は、不織布が加熱成形されることにより硬化した筒状の部材からなり、複数の要素ワイヤハーネス20における複数の第一保護部材10を一括して束ねて形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の要素ワイヤハーネスが束ねられたワイヤハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に代表される車両に搭載されるワイヤハーネスは、不規則な曲げ跡(クセ)の付きやすい電線を予め定められた配線経路に沿って正しく配線することが容易なこと、及び、電線が振動などにより周囲の部材に接触することが原因で破損しないことが要求される。そこで、車載用のワイヤハーネスは、電線の周囲をその長手方向に沿って覆う保護部材が設けられる。この場合、保護部材は、電線を自動車のボディなどの支持体における予め定められた配線経路に沿って配線しやすい形状に保持する役割と、電線が周囲の部材に接触して破損することを防止する役割とを果たす。
【0003】
また、特許文献1に示されるように、ワイヤハーネスは、予め作製された複数のワイヤハーネスが合体されることにより、最終的なワイヤハーネスとして組み立てられる場合がある。以下、合体される複数のワイヤハーネス各々のことを要素ワイヤハーネスと称する。
【0004】
従来、複数の要素ワイヤハーネスを合体させる工程においては、合体作業用の治具が用いられる。合体作業用の治具は、複数の要素ワイヤハーネスをそれらの位置を正しい位置関係に位置決めしつつ指示する用具である。特許文献1において、コネクタ仮固定治具及び外装部品仮固定軸などを含むインパネモジュール組立台は、合体作業用の治具の一例である。
【0005】
一方、特許文献2には、不織布の熱可塑性材料からなる2枚の被覆体の間にフラット回路体を挟み込み、これをプレス成形することにより、フラット回路体を薄い厚みのまま保護する構造について示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−204521号公報
【特許文献2】特開2003−197038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、複数の要素ワイヤハーネスを合体させるために、ワイヤハーネスの種類ごとに合体作業用の治具を用意すること、及びその治具を用いて複数の要素ワイヤハーネスを位置決めしつつ合体させることは、それらに要する工数及びコストが大きい。
【0008】
即ち、従来のワイヤハーネスは、複数の要素ワイヤハーネスを合体させるために要する工数及びコストが大きいという問題点を有している。
【0009】
さらに、自動車などの車両に搭載されるワイヤハーネスは、従来よりもさらなる軽量化が要求される。なお、特許文献2には、複数の要素ワイヤハーネスが結束され、保護部材によって電線が保護されるワイヤハーネスについて何ら記載されていない。
【0010】
本発明は、複数の要素ワイヤハーネスが合体した構造を有するワイヤハーネスに関し、電線の保護と、組み立ての簡易化と、軽量化とを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第一発明に係るワイヤハーネスは、以下に示される各構成要素を備える。
(1)第1の構成要素は、電線と、不織布が加熱成形されることにより硬化した筒状の部材からなり電線の一部の周囲を覆う第一保護部材と、を含む複数の要素ワイヤハーネスである。
(2)第2の構成要素は、不織布が加熱成形されることにより硬化した筒状の部材からなり、複数の要素ワイヤハーネスにおける複数の第一保護部材を一括して束ねて形成された第二保護部材である。
【0012】
第二発明に係るワイヤハーネスは、第一発明に係るワイヤハーネスの構成に加え、さらに以下に示される構成を有している。即ち、第一保護部材は、電線の一部に巻き付けられた不織布が、加熱成形されることにより硬化した筒状の部材からなる。さらに、第二保護部材は、複数の第一保護部材に巻き付けられた不織布が、加熱成形されることにより硬化した筒状の部材からなる。
【0013】
第三発明に係るワイヤハーネスは、第二発明に係るワイヤハーネスの構成に加え、さらに以下に示される構成を有している。即ち、第二保護部材は、複数の第一保護部材のうちの少なくとも一つと繋がって形成されているとともに複数の第一保護部材に巻き付けられた不織布が、加熱成形されることにより硬化した筒状の部材からなる。
【0014】
第四発明に係るワイヤハーネスは、第一発明から第三発明のうちのいずれかに係るワイヤハーネスの構成に加え、さらに以下に示される構成を有している。即ち、第一保護部材は、扁平な筒状に形成されている。さらに、第二保護部材は、第一保護部材の扁平な断面における短軸の方向において積み重ねられた第一保護部材を一括して束ねて形成されている。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るワイヤハーネスにおいて、第一保護部材及び第二保護部材は、不織布が加熱成形された筒状の部材であるため、型枠によって加熱成形される外側の面は硬く形成され、外形が型枠に応じた形状で維持される。そのため、本発明に係るワイヤハーネスにおいて、電線は、内側の第一保護部材及び外側の第二保護部材の二重構造により保護され、周囲の部材に接触して破損することが防止される。
【0016】
また、第一保護部材を備えた要素ワイヤハーネスは、電線における予め定められた部分の周囲を覆う状態の不織布を型枠内で加熱するというごく単純な成形加工により、簡易にかつ安価に製造できる。さらに、複数の要素ワイヤハーネスは、それらの第一保護部材の位置を揃えつつ、それら第一保護部材の周囲を一括して覆う状態の不織布を型枠内で加熱するというごく単純な成形加工により、簡易にかつ安価に製造できる。即ち、本発明に係るワイヤハーネスは、簡易に組み立てることができる。
【0017】
また、第一保護部材及び第二保護部材は、不織布が加熱成形された部材であるため、非常に軽く、緩衝性に優れている。そのため、本発明に係るワイヤハーネスは、軽量であり、保護部材と電線及び周囲の部材との接触による異音を発しにくい。
【0018】
また、第二発明に係るワイヤハーネスにおいて、第一保護部材及び第二保護部材の製造の際に、不織布は、取り付け対象に対して巻き付けられた状態、即ち、取り付け対象と一体になった状態で、成形用の金型にセットされることにより製造される。従って、第二発明に係るワイヤハーネスが採用されることにより、不織布と保護部材の取り付け対象とが個別に金型にセットされる場合に比べ、保護部材の成形の作業が容易となる。
【0019】
また、第三発明に係るワイヤハーネスが採用されれば、第二保護部材の元となる不織布が、その取り付け対象の一つと繋がっているため、保護部材の成形の作業がさらに容易となる。
【0020】
また、第四発明に係るワイヤハーネスにおいて、複数の第一保護部材は、それらの扁平な断面における短軸の方向において積み重ねられるため、容易に安定した状態で積み重ねられる。そのため、第四発明に係るワイヤハーネスが採用されれば、複数の要素ワイヤハーネスにおける第一保護部材の部分を束ね、その部分に不織布をセットし、その不織布を加熱成形する作業が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係るワイヤハーネス1の主要部の斜視図である。
【図2】ワイヤハーネス1の主要部の断面図である。
【図3】ワイヤハーネス1の平面図である。
【図4】要素ワイヤハーネス20が備える第一保護部材の成形に用いられる第一の成形装置40A及び成形対象物の第一の状態における正面図である。
【図5】第一の成形装置40A及び成形対象物の第二の状態における正面図である。
【図6】第一の成形装置40A及び成形対象物の第三の状態における正面図である。
【図7】要素ワイヤハーネス20が備える第一保護部材の成形に用いられる第二の成形装置40B及び成形対象物の第一の状態における正面図である。
【図8】第二の成形装置40B及び成形対象物の第二の状態における正面図である。
【図9】ワイヤハーネス1として束ねられる前の複数の要素ワイヤハーネス20の平面図である。
【図10】ワイヤハーネス1が備える第二保護部材の成形に用いられる第三の成形装置50及び成形対象物の第一の状態における正面図である。
【図11】第三の成形装置50及び成形対象物の第二の状態における正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定する事例ではない。以下に示される本発明の実施形態に係るワイヤハーネス1は、複数の要素ワイヤハーネス20が合体したワイヤハーネスである。このワイヤハーネス1は、自動車などの車両に搭載される。
【0023】
まず、図1から図3を参照しつつ、ワイヤハーネス1の構成について説明する。図1から図3に示されるように、ワイヤハーネス1は、それぞれ保護部材10を備える複数の要素ワイヤハーネス20と、複数の要素ワイヤハーネス20を束ねつつ保護する保護部材30とを備える。以下、要素ワイヤハーネス20各々が備える保護部材を第一保護部材10と称し、複数の要素ワイヤハーネス20を束ねる保護部材を第二保護部材30と称する。
【0024】
要素ワイヤハーネス20各々は、1本又は複数本の電線9が束ねられ、コネクタ、電線分岐用の部材及び第一保護部材10などが予め取り付けられたワイヤハーネスである。各要素ワイヤハーネス20が備える電線9は被覆電線である。
【0025】
なお、図1及び図2に示される例では、各要素ワイヤハーネス20は、3本の電線9を備えるが、要素ワイヤハーネス20が、第一保護部材10によって一部の周囲が覆われた1本の電線9を備えること、又は第一保護部材10によって束ねられた2本もしくは4本以上の電線9を備えることも考えられる。また、各要素ワイヤハーネス20が異なる本数の電線9を備えることも考えられる。
【0026】
第一保護部材10は、要素ワイヤハーネス20を構成する1本又は複数本の電線9の一部の周囲を覆う部材である。この第一保護部材10は、不織布が加熱成形されることにより硬化した筒状の部材である。
【0027】
一方、第二保護部材30は、複数の要素ワイヤハーネス20における複数の第一保護部材10を一括して束ねて形成された部材である。この第二保護部材30も、第一保護部材10と同様に、不織布が加熱成形されることにより硬化した筒状の部材である。
【0028】
なお、図1から図3に示される例では、ワイヤハーネス1は、2つの要素ワイヤハーネス20を備えるが、ワイヤハーネス1が、第二保護部材30によって束ねられた3つ以上の要素ワイヤハーネス20を備えることも考えられる。
【0029】
例えば、第一保護部材10は、複数の要素ワイヤハーネス20における予め定められた位置に同じ長さで設けられる。この場合、複数の第一保護部材10が、それらの両端が揃うように束ねられるだけで、複数の要素ワイヤハーネス20は適正な位置関係で束ねられる。
【0030】
また、一部に位置揃え用の目印が記された第一保護部材10が、複数の要素ワイヤハーネス20における予め定められた位置に設けられることも考えられる。この場合、複数の第一保護部材10が、それらの目印が揃うように束ねられるだけで、複数の要素ワイヤハーネス20は適正な位置関係で束ねられる。
【0031】
また、図1及び図2に示されるように、各第一保護部材10は、扁平な筒状に形成されている。そして、複数の第一保護部材10は、それらの扁平な断面における短軸の方向において積み重ねられている。即ち、複数の第一保護部材10各々は、隣接する他の第一保護部材10に対し、四方の面のうち相対的に幅の広い2つの面の一方又は両方が接する状態で積み重ねられている。
【0032】
そして、第二保護部材30は、各第一保護部材10の扁平な断面における短軸の方向において積み重ねられた複数の第一保護部材10を一括して束ねて形成されている。
【0033】
なお、第一保護部材10及び第二保護部材30の断面形状は、矩形状、六角形状、その他の多角形状又はそれらを基本形状とし、その基本形状の一部(例えば、多角形形状の角部)が丸められた形状などであることが考えられる。図1及び図2に示される第一保護部材10及び第二保護部材30の断面形状は、概ね、矩形の角部が丸められた形状である。
【0034】
また、図1から図3に示される例では、第一保護部材10及び第二保護部材30は、全体が直線状に形成されているため、各電線9は、第一保護部材10及び第二保護部材30が取り付けられた部分が直線状に保持される。従って、第一保護部材10及び第二保護部材30が、ワイヤハーネス1における直線状の配線経路に沿って取り付けられる部分に設けられることにより、その部分を直線状の配線経路に沿って正しく敷設することが容易となる。
【0035】
なお、第一保護部材10及び第二保護部材30の電線9に沿う方向における形状は、電線9の配線経路に応じて、直線状の他、曲線状に形成される場合もある。
【0036】
<不織布の説明>
以下、第一保護部材10及び第二保護部材30の材料となる不織布について説明する。第一保護部材10及び第二保護部材30の元となる不織布は、例えば、絡み合う基本繊維とバインダと称される接着樹脂とを含む不織布が採用される。接着樹脂は、基本繊維の融点よりも低い融点(例えば、110[℃]〜150[℃]程度)を有する樹脂である。このような不織布は、基本繊維の融点よりも低く、かつ、接着樹脂の融点よりも高い温度に加熱されることにより、接着樹脂が溶融して基本繊維の隙間に溶け込む。その後、不織布の温度が、接着樹脂の融点よりも低い温度まで下がると、接着樹脂は、周囲に存在する基本繊維を結合した状態で硬化する。これにより、不織布の形状は、加熱前の状態よりも硬くなり、加熱時に型枠によって成形された形状で維持される。
【0037】
接着樹脂は、例えば、粒状の樹脂又は繊維状の樹脂などである。また、接着樹脂は、芯繊維の周囲を覆うように形成されることも考えられる。このように、芯繊維が接着樹脂で被覆された構造を有する繊維は、バインダ繊維などと称される。芯繊維の材料は、例えば、基本繊維と同じ材料が採用される。
【0038】
また、基本繊維は、接着樹脂の融点において繊維状態が維持されればよく、樹脂繊維の他、各種の繊維が採用され得る。また、接着樹脂は、例えば、基本繊維の融点よりも低い融点を有する熱可塑性樹脂繊維が採用される。不織布を構成する基本繊維と接着樹脂との組合せとしては、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)を主成分とする樹脂繊維が基本繊維として採用され、PET及びPEI(ポリエチレンイソフタレート)の共重合樹脂が接着樹脂として採用されることが考えられる。そのような不織布において、基本繊維の融点は概ね250[℃]であり、接着樹脂の融点は110[℃]〜150[℃]程度である。そのような不織布は、型枠内で110[℃]〜250[℃]程度の温度に加熱された後に冷却されると、接着樹脂が溶融して周囲の基本繊維を結合するため、型枠の内面に沿う形状に成形され、型枠に接触した面が硬化する。
【0039】
不織布が加熱成形によって硬化した部材は、その部材自体ある程度の可撓性を有しているが、筒状に形成されることにより、長手方向における形状を保持する硬さが強化される。第一保護部材10及び第二保護部材30は、そのような不織布が、型枠内で加熱されて筒状に成形された部材である。以下、加工対象である不織布を金型の間に挟み込んで加圧しつつ、その不織布を加熱することにより、不織布を金型の内面形状に成形することをホットプレス成形と称する。
【0040】
ホットプレス成形工程では、不織布は、ヒータにより、不織布に含まれる基本繊維の融点よりも低く、かつ、不織布に含まれる接着樹脂の融点よりも高い温度に加熱される。加熱の温度及び時間は、成形後の保護部材に要求される堅さ及び可撓性に応じて適宜設定される。
【0041】
一般に、ホットプレス成形工程において、加熱の温度が高いほど、加熱の時間が長いほど、また、加える圧力が高いほど、不織布は、より堅く、形状保持の性能の高い部材に成形される。一方、ホットプレス成形工程において、加熱の温度が低いほど、加熱の時間が短いほど、また、加える圧力が低いほど、不織布は、より柔らかく、可撓性及び緩衝性に優れた部材に成形される。
【0042】
<保護部材の詳細な説明>
以下、図4から図11を参照しつつ、第一保護部材10及び第二保護部材30の製造方法の一例を示しつつ、それらの構造について説明する。以下の説明において、便宜上、第一保護部材10の元となる不織布を第一不織布100、第二保護部材30の元となる不織布を第二不織布300と称する。
【0043】
まず、図4から図8を参照しつつ、第一保護部材10の製造方法及び構造について説明する。本実施形態における第一保護部材10は、電線9の一部に巻き付けられた第一不織布100がホットプレス成形されることにより硬化した筒状の部材である。
【0044】
第一保護部材10は、各要素ワイヤハーネス20を構成する電線9の一部を第一不織布100で覆う不織布囲繞工程と、電線9を覆う第一不織布100を加熱成形するホットプレス成形工程とを経て製造される。
【0045】
第一保護部材10の製造工程における不織布囲繞工程は、保護対象となる電線9の一部の周囲を第一不織布100で覆う工程である。例えば、不織布囲繞工程は、要素ワイヤハーネス20を構成する電線9の一部の周囲に第一不織布100を巻きつける工程である。本工程により、シート状の第一不織布100は、図4に示されるように、要素ワイヤハーネス20を構成する電線9の一部の周囲を覆う。第一不織布100は、保護すべき電線9の部位の長さに相当する幅と、電線9に対して予め定められた回数だけ巻きつけられることが可能な長さとを有する形状に予め成形(裁断)されている。
【0046】
第一不織布100に対するホットプレス成形工程は、図4から図6に例示される第一の成形装置40Aを用いて行われる。図4から図6は、それぞれ異なる状態における第一の成形装置40A及び成形対象物の正面図である。ここでの成形対象物は、電線9の一部に巻きつけられた第一不織布100である。
【0047】
図4は、ホットプレス成形が実行される前の第一の成形装置40Aと、第一の成形装置40Aにセットされる前の成形対象物とを示す。図4に示されるように、第一の成形装置40Aは、下型部材41と上型部材42とを備える。また、下型部材41及び上型部材42の各々には、ヒータ45が設けられている。
【0048】
下型部材41は、熱伝導性に優れた金属などの材料からなる部材であり、その一方の面(上面)に成形対象物が嵌め入れられる溝状の下型枠部411が形成されている。図4に示される例では、下型枠部411は、第一保護部材10の四方の面のうちの一方の側方の面を除く3つの面を成形する。
【0049】
また、上型部材42は、導電性に優れた金属などの材料からなる部材であり、その一方の面(下面)に溝状の上型枠部421が形成されている。図4に示される例では、上型枠部421は、第一保護部材10の四方の面のうちの一方の側方の面を成形する。
【0050】
下型部材41及び上型部材42は、下型枠部411及び上型枠部421が対向する状態で、不図示の支持機構によって接近及び離隔が可能に支持されている。下型部材41及び上型部材42が最も接近した状態において、下型枠部411と上型枠部421とが組み合わされて形成される型枠形状は、第一保護部材10の外形である。
【0051】
下型部材41及び上型部材42の各々に設けられたヒータ45は、下型枠部411及び上型枠部421を介して、第一保護部材10の元となる第一不織布100を、基本繊維の融点よりも低く、かつ、接着樹脂の融点よりも高い温度に加熱する加熱装置である。ヒータ45は、図4に示されるように、下型部材41及び上型部材42の各々に埋設されることが考えられる。また、ヒータ45は、下型部材41及び上型部材42の各々の外面に熱伝達可能な態様で取り付けられることも考えられる。
【0052】
図5は、ホットプレス成形が実行される前の第一の成形装置40Aと、下型部材41の下型枠部411に挿入された成形対象物とを示す。前述したように、ここでの成形対象物は、電線9に巻きつけられた第一不織布100である。
【0053】
不織布囲繞工程の次に行われるホットプレス成形工程は、電線9の周囲を覆う第一不織布100を、下型部材41の下型枠部411と上型部材42の上型枠部421とによって形成される型枠内で加熱することにより、第一不織布100を、電線9の周囲を覆う筒状の部材に成形する工程である。
【0054】
図6は、ホットプレス成形工程において、電線9の周囲を覆う第一不織布100が、下型枠部411及び上型枠部421によって形成される型枠内で圧縮されつつ加熱されている様子を表す。このホットプレス成形工程により、第一不織布100は、電線9の周囲を覆う状態で、型枠内で外側から圧縮されつつ加熱され、電線9の周囲を覆う筒状の第一保護部材10に成形される。このとき、電線9に巻きつけられていた第一不織布100における外側の端部とそれに接触する部分とが、加熱によって溶融した接着樹脂によって接着される。これにより筒状の第一保護部材10が形成される。
【0055】
ホットプレス成形工程において、加熱成形により得られた筒状の部材は、型枠内から取り出されることによって冷却される。その冷却は、強制空冷及び常温の室内で所定時間放置する自然冷却のいずれであってもよい。強制冷却としては、ファンによって常温の空気を筒状の部材に対して送風する空冷、又は、スポットクーラーなどの冷却器から出力される冷気を筒状の部材に対して送風する空冷などが考えられる。
【0056】
不織布は断熱性が高いため、ホットプレス成形工程において、電線9に接する内側の部分の温度は、加熱された型枠に接する外側の部分の温度に比べて低い。そのため、第一保護部材10の内側の面は、第一不織布100本来の性状である柔らかな状態、即ち、外側の面よりも柔らかな状態で維持される。
【0057】
また、本実施形態においては、少なくとも1つの第一保護部材10を成形するときに、第一不織布100に対するホットプレス成形工程は、図7及び図8に例示される第二の成形装置40Bを用いて行われる。図7及び図8は、それぞれ異なる状態における第二の成形装置40B及び成形対象物の正面図である。ここでの成形対象物は、電線9の一部に巻きつけられた第一不織布100である。
【0058】
図7は、ホットプレス成形が実行される前の第二の成形装置40Bと、第二の成形装置40Bにセットされた成形対象物とを示す。図7に示されるように、第二の成形装置40Bも、第一の成形装置40Aと同様に、それぞれヒータ45が設けられた下型部材43と上型部材44とを備える。
【0059】
また、第二の成形装置40Bの下型部材43及び上型部材44は、第一の成形装置40Aにおける下型枠部411及び上型枠部421に相当する下型枠部431及び上型枠部441を有している。
【0060】
第二の成形装置40Bは、第一の成形装置40Aと比較して、下型部材43及び上型部材44の各々に、型枠の内側と外側とに連通する隙間46を形成する隙間形成部432、442が形成されている点のみが異なる。
【0061】
第二の成形装置40Bがホットプレス成形工程で用いられる場合、不織布囲繞工程において、第一不織布100は、余剰部が生じる状態で電線9の一部の周囲に巻きつけられる。この場合、第一不織布100は、電線9に対して予め定められた回数だけ巻きつけられたときに余剰部が生じる長さで裁断されている。第一不織布100の余剰部は、第二保護部材30の元となる第二不織布300である。従って、第一不織布100の余剰部の長さは、第二保護部材30の作製に必要な不織布の長さである。
【0062】
図8は、ホットプレス成形工程において、電線9の周囲を覆う第一不織布100が、下型枠部431及び上型枠部441によって形成される型枠内で圧縮されつつ加熱されている様子を表す。このホットプレス成形工程により、筒状の第一保護部材10が形成される。
【0063】
また、図7及び図8に示されるように、下型部材43及び上型部材44の各々の隙間形成部432、442によって形成される隙間46は、第一不織布100の余剰部が型枠の内側から外側へ引き出される通路を形成する。隙間46から引き出された第一不織布100の余剰部は、硬化した筒状の第一保護部材10と繋がった元の不織布のままの状態で維持される。これにより、第一保護部材10と繋がって形成された第二不織布300が得られる。
【0064】
図9は、ワイヤハーネス1として束ねられる前の複数の要素ワイヤハーネス20の平面図である。図9に示される例では、第二不織布300は、2つの要素ワイヤハーネス20のうちの一方の第一保護部材10に繋がって形成されている。
【0065】
本実施形態における第二保護部材30は、第一保護部材10と繋がって形成された第二不織布300が、複数の第一保護部材10に巻き付けられた後に加熱成形されることにより硬化した筒状の部材である。
【0066】
第二保護部材30は、複数の要素ワイヤハーネス20における複数の第一保護部材10の周囲を一括して第二不織布300で覆う不織布囲繞工程と、複数の第一保護部材10を覆う第二不織布300を加熱成形するホットプレス成形工程とを経て製造される。
【0067】
第二保護部材30の製造工程における不織布囲繞工程は、保護対象となる複数の第一保護部材10の周囲を第二不織布300で覆う工程である。本実施形態において、不織布囲繞工程は、図9に示されるように、複数の第一保護部材10の周囲に第二不織布300を巻きつける工程である。本工程により、シート状の第二不織布300は、ワイヤハーネス1を構成する複数の要素ワイヤハーネス20が備える複数の第一保護部材10を一括して束ねて覆う。
【0068】
なお、一部が第二不織布300となる第一不織布100は、電線9に対して予め定められた回数だけ巻きつけられることが可能な長さに対し、複数の第一保護部材10に対して予め定められた回数だけ巻きつけられることが可能な長さを加えた長さで予め裁断されている。
【0069】
第二不織布300に対するホットプレス成形工程は、図10及び図11に例示される第三の成形装置50を用いて行われる。図10及び図11は、それぞれ異なる状態における第三の成形装置50及び成形対象物の正面図である。ここでの成形対象物は、複数の第一保護部材10を束ねて巻きつけられた第二不織布300である。
【0070】
図10は、ホットプレス成形が実行される前の第三の成形装置50と、複数の第一保護部材10の周囲に巻きつけられる途中の第二不織布300とを示す。図10に示されるように、第三の成形装置50は、下型部材51と上型部材52とを備える。また、下型部材51及び上型部材52の各々には、ヒータ55が設けられている。
【0071】
下型部材51は、熱伝導性に優れた金属などの材料からなる部材であり、その一方の面(上面)に成形対象物が嵌め入れられる溝状の下型枠部511が形成されている。図10に示される例では、下型枠部511は、第二保護部材30の四方の面のうちの一方の側方の面を除く3つの面を成形する。
【0072】
また、上型部材52は、導電性に優れた金属などの材料からなる部材であり、その一方の面(下面)に溝状の上型枠部521が形成されている。図11に示される例では、上型枠部521は、第二保護部材30の四方の面のうちの一方の側方の面を成形する。
【0073】
下型部材51及び上型部材52は、支持軸53によって相互に回動可能に支持されている。また、上型部材52には取っ手部54が形成されている。例えば、下型部材51は固定され、上型部材52は、その一部に形成された取っ手部54に対する操作により、上型枠部521が下型枠部511から離間した開状態と、上型枠部521が下型枠部511に対向して接近した閉状態との間で回動する。閉状態において、下型枠部511と上型枠部521とが組み合わされて形成される型枠形状は、第二保護部材30の外形である。
【0074】
下型部材51及び上型部材52の各々に設けられたヒータ55は、下型枠部511及び上型枠部521を介して、第二保護部材30の元となる第二不織布300を、基本繊維の融点よりも低く、かつ、接着樹脂の融点よりも高い温度に加熱する加熱装置である。ヒータ55は、図10に示されるように、下型部材51及び上型部材52の各々に埋設されることが考えられる。また、ヒータ55は、下型部材51及び上型部材52の各々の外面に熱伝達可能な態様で取り付けられることも考えられる。
【0075】
不織布囲繞工程の次に行われるホットプレス成形工程は、複数の第一保護部材10の周囲を覆う第二不織布300を、下型部材51の下型枠部511と上型部材52の上型枠部521とによって形成される型枠内で加熱することにより、第二不織布300を、複数の第一保護部材10を一括して束ねる筒状の部材に成形する工程である。
【0076】
図11は、ホットプレス成形工程において、複数の第一保護部材10の周囲を覆う第二不織布300が、下型枠部511及び上型枠部521によって形成される型枠内で圧縮されつつ加熱されている様子を表す。このホットプレス成形工程により、第二不織布300は、複数の第一保護部材10を一括して束ねる筒状の第二保護部材30に成形される。このとき、複数の第一保護部材10に巻きつけられていた第二不織布300における外側の端部とそれに接触する部分とが、加熱によって溶融した接着樹脂によって接着される。これにより筒状の第二保護部材30が形成される。
【0077】
<効果>
ワイヤハーネス1において、第一保護部材10及び第二保護部材30は、不織布100,300が加熱成形された筒状の部材であるため、型枠によって加熱成形される外側の面は硬く形成され、外形が型枠に応じた形状で維持される。そのため、電線9は、内側の第一保護部材10及び外側の第二保護部材30の二重構造により保護され、周囲の部材に接触して破損することが防止される。
【0078】
また、第一保護部材10を備えた要素ワイヤハーネス20は、電線9における予め定められた部分の周囲を覆う状態の第一不織布100を型枠内で加熱するというごく単純な成形加工により、簡易にかつ安価に製造できる。さらに、複数の要素ワイヤハーネス20は、それらの第一保護部材10の位置を揃えつつ、それら第一保護部材10の周囲を一括して覆う状態の第二不織布300を型枠内で加熱するというごく単純な成形加工により、簡易にかつ安価に製造できる。即ち、ワイヤハーネス1は、簡易に組み立てることができる。
【0079】
また、第一保護部材10及び第二保護部材30は、不織布100,300が加熱成形された部材であるため、非常に軽く、緩衝性に優れている。そのため、ワイヤハーネス1は、軽量であり、保護部材10,30と電線9及び周囲の部材との接触による異音を発しにくい。
【0080】
また、第一保護部材10及び第二保護部材20の製造の際に、不織布100,300は、取り付け対象に対して巻き付けられた状態、即ち、取り付け対象と一体になった状態で、成形用の金型にセットされることにより製造される。従って、ワイヤハーネス1が採用されることにより、不織布100,300と保護部材の取り付け対象とが個別に金型にセットされる場合に比べ、保護部材の成形の作業が容易となる。
【0081】
また、本実施形態においては、第二保護部材30の元となる第二不織布300が、その取り付け対象の一つである第一保護部材10と繋がっている。そのため、第二不織布300を巻きつける工程において、第二不織布300の一端を第一保護部材10に押さえつける必要がなく、第二保護部材30の成形の作業がさらに容易となる。
【0082】
また、扁平な筒状に形成された複数の第一保護部材10は、それらの扁平な断面における短軸の方向において積み重ねられた場合、容易に安定した状態で積み重ねられる。そのため、複数の要素ワイヤハーネス20における第一保護部材10の部分を束ね、その部分に第二不織布300を巻きつけ、その第二不織布300を加熱成形する作業が容易となる。
【0083】
<その他>
ワイヤハーネス1において、第二保護部材30の元となる第二不織布300は、第一保護部材10から分離した不織布であってもよい。その場合、全ての第一保護部材10が、第一の成形装置40Aを用いたホットプレス成形により成形されればよい。また、2つ以上の第一保護部材10各々と繋がる複数枚の第二不織布300が、ワイヤハーネス1を構成する全ての第一保護部材10に巻き付けられ、加熱成形されることにより、第二保護部材30が成形されることも考えられる。
【0084】
また、ワイヤハーネス1において、第一保護部材10及び第二保護部材30は、取り付け対象に対して巻きつけられた不織布の加熱成形により得られる場合の他、取り付け対象を両側から挟み込む不織布の加熱成形により得られる場合も考えられる。
【0085】
例えば、第一保護部材10が、電線9の一部を挟み込む2枚の第一不織布100もしくは二つ折りされた第一不織布100が加熱成形によって硬化した筒状の部材であることが考えられる。同様に、第二保護部材30が、複数の第一保護部材10を挟み込む2枚の第二不織布300もしくは二つ折りされた第二不織布300が加熱成形によって硬化した筒状の部材であることが考えられる。
【符号の説明】
【0086】
1 ワイヤハーネス
9 電線
10 第一保護部材
20 要素ワイヤハーネス
30 第二保護部材
40A 第一の成形装置
40B 第二の成形装置
41,43,51 下型部材
42,44,52 上型部材
45,55 ヒータ
46 隙間
50 第三の成形装置
100 第一不織布
300 第二不織布
411,431,511 下型枠部
421,441,521 上型枠部
432,442 隙間形成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線と不織布が加熱成形されることにより硬化した筒状の部材からなり前記電線の一部の周囲を覆う第一保護部材とを含む複数の要素ワイヤハーネスと、
不織布が加熱成形されることにより硬化した筒状の部材からなり、複数の前記要素ワイヤハーネスにおける複数の前記第一保護部材を一括して束ねて形成された第二保護部材と、を備えることを特徴とするワイヤハーネス。
【請求項2】
前記第一保護部材は、前記電線の一部に巻き付けられた不織布が加熱成形されることにより硬化した筒状の部材からなり、
前記第二保護部材は、複数の前記第一保護部材に巻き付けられた不織布が加熱成形されることにより硬化した筒状の部材からなる、請求項1に記載のワイヤハーネス。
【請求項3】
前記第二保護部材は、複数の前記第一保護部材のうちの少なくとも一つと繋がって形成されているとともに複数の前記第一保護部材に巻き付けられた不織布が、加熱成形されることにより硬化した筒状の部材からなる、請求項2に記載のワイヤハーネス。
【請求項4】
前記第一保護部材は、扁平な筒状に形成され、
前記第二保護部材は、前記第一保護部材の扁平な断面における短軸の方向において積み重ねられた前記第一保護部材を一括して束ねて形成されている、請求項1から請求項3のいずれかに記載のワイヤハーネス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−196035(P2012−196035A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57584(P2011−57584)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】