説明

ワイヤボンディング方法及び装置

【課題】 被接合部位の変形による悪影響を排除する。
【解決手段】 本発明のワイヤボンディング方法は、キャピラリ6より導出した金ワイヤ5を該キャピラリ6によってパッド3に押し付け、該金ワイヤ5をパッド3に接合させる段階と、キャピラリ6がパッド3から離れるまでキャピラリ6を反押し付け方向に低速度で移動させる段階とを含んでいる。前記移動させる段階では、キャピラリ6に微小超音波を印加しながらキャピラリ6を前記反押し付け方向に移動させるとともに、キャピラリ6の負荷変動を検出することにより、キャピラリ6がパッド3から離れたことを検出するようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被接合部位に金属ワイヤを接合するためのワイヤボンディング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のワイヤボンディング方法として、特許文献1に記載されたものを例示する。この方法は、例えば、金属、樹脂、セラミック等でできたフレーム2の上に、ダイアタッチ材(接着材料)を用いて半導体チップ1を装着し、半導体チップ1上のパッド3とフレーム2上のボンディング電極4を金ワイヤ5によって接続した構造を次のように実現するものである。
(1)キャピラリ6を貫通する金ワイヤ5の先端に、放電または水素炎を用いて微小金ボール8を形成する(図4(1))。
(2)キャピラリ6を下降し微小金ボール8を半導体チップ1上の被接合部位としてのパッド3に圧接し第一ボンディングを形成する(図4(2))。通常このボンディング方法はボールボンディング法と呼ばれ、熱圧着または熱圧着に超音波振動を加えて、微小金ボール8とパッド3の金属間で合金を形成して接合強度を確保している。
(3)キャピラリ6をわずかに上昇させた後横方向に移動させ、フレーム2上の被接合部位としてのボンディング電極4に金ワイヤ5を圧接し、第二ボンディングを形成する(図4(3))。この際、キャピラリ6の先端部によって、金ワイヤ5を押し潰すため金ワイヤ5に亀裂が入る。通常このボンディング方法はウェッジボンディング法と呼ばれ、ボールボンディング法の場合と同様に熱、圧力、振動を組み合わせて金ワイヤ5とボンディング電極4上の金属間で合金を形成して接合強度を確保している。
(4)キャピラリ6をわずかに上昇させた後、ワイヤクランパ9で金ワイヤ5をクランプし、そのままキャピラリ6、ワイヤクランパ9を上昇させ、金ワイヤ5を亀裂が生じている部位から切断する(図4(4))。
【0003】
前記(2)、(3)における各ボンディングの形成は、具体的には、次のように行う。すなわち、キャピラリ6がサーチ荷重に移行しながらパッド3等の被接合部位へ下降するとともに、タッチ検出を開始する。そして、タッチ検出位置が検出されると、その位置でキャピラリ6にボンド荷重を印加するとともにボンド用超音波を出力することによりボンディングを形成する。ここで、タッチ検出位置とは、金ワイヤ5又は微小金ボール8を被接合部位に接合するために必要なサーチ荷重をキャピラリ6に印加した上で、被接合部位に接触させて行ったときのキャピラリ6の下死点位置を検出したものである。キャピラリ6にサーチ荷重を印加する主な目的は、キャピラリ6が被接合部位に接触したときの衝撃による残留振動を抑制することと、キャピラリ6が被接合部位に接触したときに金ワイヤ5又は微小金ボール8に塑性変形を生じさせるとともにパッド3等の被接合部位表面に形成された酸化膜を破壊して新生面を生じさせることにある。また、キャピラリ6にボンド荷重を印加する主な目的は、金ワイヤ5又は微小金ボール8と被接合部位との接合部にボンド用超音波エネルギーを効率よく伝達し、最適な相互拡散を起こさせることにより、該接合部に合金を形成することにある。
【0004】
【特許文献1】特開2004−56021号公報([0003]、図7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、キャピラリ6に印加されるサーチ荷重やボンド荷重により、次のように、被接合部位がその押圧方向に変動する場合がある。
(a)複数の半導体チップを積層してなるタイプのパッケージにおいて、被接合部位としてのパッドの下が中空になっている場合(例えば、図5(a)に示すように、複数の半導体チップ1a,1bをダイアタッチ材10により積層したオーバーハング構造となっている場合)
(b)被接合部位を含む半導体チップのダイアタッチ材が柔らかい材質の場合
(c)同ダイアタッチ材による接着状態が不安定な場合
(d)ワイヤボンディング時にフレームそのものが固定されていない場合
(e)半導体チップが薄く、荷重をかけることによって被接合部位が変動する場合
【0006】
このような場合のボンディングには、例えば次のような課題がある。
(イ)図5(b)に示すように、タッチ検出時にキャピラリ6が被接合部位に接触するときの荷重や衝撃の影響で被接合部位が押さえ込まれ撓むが、同じ半導体チップでも被接合部位により撓み量は一定ではなく変動する。また、被接合部位が撓んだ場合、その状態を次の動作の原点としてキャピラリ6が上昇すると、図5(c)に示すように、その上昇に伴って被接合部位の撓みも復元するので、その撓みの戻り分、実際にはキャピラリ6の上昇量が少ない状態になる。この被接合部位の撓み量の変動と、撓み戻りとにより、その後に形成されるワイヤループ高さ、バンプ形状、テール長さに異常やバラツキが発生する。ワイヤループ高さに異常やバラツキが生じると、図5(d)、(e)に示すように、ワイヤダメージや破断が生じる。また、テール長さの異常やバラツキが発生すると、ワイヤカットエラーやワイヤ先端に形成されるボールのバラツキが発生する。
(ロ)前記(イ)において被接合部位が撓んだ状態からキャピラリ6が上昇する時、被接合部位には、撓みの戻りとともに、振動が発生する。この振動で、ボールネックダメージやワイヤ断線が発生したり、圧着済みのボールやバンプに負荷が掛かり変形や剥がれが発生する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のワイヤボンディング方法は、
キャピラリより導出した金属ワイヤを該キャピラリによって被接合部位に押し付け、該金属ワイヤを該被接合部位に接合させる段階と、
前記キャピラリが少なくとも前記被接合部位から離れるまで該キャピラリを反押し付け方向に低速度で移動させる段階とを含んでいる。
【0008】
ここで、前記「低速度」としては、前記キャピラリで押し付けられることによる前記被接合部位の撓みが復元する速度よりも遅い速度とすることが好ましい。この速度は、被接合部位の材料特性、撓み状態等に応じて設定することが好ましい。
【0009】
この方法によれば、「前記キャピラリが少なくとも前記被接合部位から離れるまで」、即ち、前記押し付け方向における前記被接合部位の変形が復元するまで、前記キャピラリを反押し付け方向に低速度に移動させるようにしているので、該被接合部位の振動を抑制することができる。これにより、前記キャピラリが前記被接合部位から離れてから、前記キャピラリを次の目標位置に向かって移動させることができ、被接合部位の変形量の変動や、変形の復元による悪影響を排除することができる。従って、被接合部位が変形し不安定な場合においても、該被接合部位を起点に形成する金属ワイヤのループ高さが安定する、該被接合部位に形成するバンプ形状が安定する、該接合部位への第2ボンドが安定する、該被接合部位に形成したバンプへの第2ボンドが安定する、該被接合部位を起点とする金属ワイヤのフィード量が安定するという効果が得られる。さらに、これらの効果に伴って、金属ワイヤ切断時のテール長さが安定するので、バンプ形成等のために金属ワイヤ先端に形成するボール形状が安定する、該ボール直上の金属ワイヤ形状が安定する等の効果も得られる。
【0010】
前記ワイヤボンディング方法においては、前記移動させる段階では、前記接合させる段階において前記キャピラリに印加するボンド荷重以下の荷重であって、該ボンド荷重によって変形した前記被接合部位の復元力に負けない荷重であるセパレート検出荷重を、前記キャピラリに印加するようにした態様を例示する。
【0011】
このような大きさの前記セパレート検出荷重を印加する理由は、該セパレート検出荷重を前記接合させる段階中の荷重よりも高くすると、被接合部位の変形をさらに増長させることになり、好ましくないからである。一方、前記セパレート検出荷重が、前記接合させる段階中の荷重よりも低すぎると、前記被接合部位の変形の復元力に負けて前記キャピラリが押し上げられてしまい、好ましくないからである。従って、この方法によれば、被接合部位の変形量の変動や、変形の復元による悪影響をさらに排除することができる。
【0012】
また、前記ワイヤボンディング方法においては、前記ボンド荷重と前記セパレート検出荷重の大きさが異なっているときは、前記接合させる段階の終了後、前記キャピラリに印加する荷重を該ボンド荷重から徐々に該セパレート検出荷重に変更するようにした態様を例示する。
【0013】
これは、前記ボンド荷重と前記セパレート検出荷重との大きさが異なっている場合に、急激に前記セパレート検出荷重に切り換えると、その反動等により前記キャピラリに振動が発生することがあり、前記キャピラリが前記被接合部位を離れたことを正確に検出することが困難になるためである。従って、この方法によれば、被接合部位の変形量の変動や、変形の復元による悪影響をさらに排除することができる。前記セパレート検出荷重の下限としては、特に限定されないが、前記ボンド荷重の約10%とすることを例示する。前記セパレート検出荷重へと徐々に変更する時間としては、特に限定されないが、10ミリ秒以内とすることを例示する。前記セパレート検出荷重へ変更する態様としては、特に限定されないが、次の態様を例示する。
(a)前記接合させる段階の終了後、徐々に前記セパレート検出荷重に変更した後で、前記移動させる段階を行う態様。
(b)前記接合させる段階の終了後、徐々に前記セパレート検出荷重に変更するとともに、それと並行して前記移動させる段階を行う態様。
【0014】
また、前記ワイヤボンディング方法においては、前記移動させる段階では、前記キャピラリに微小超音波を印加しながらキャピラリを前記反押し付け方向に移動させるとともに、該キャピラリの負荷変動を検出することにより、前記キャピラリが前記被接合部位から離れたことを検出するようにした態様を例示する。
【0015】
ここで、前記「微小超音波」としては、被接合部位に接合済みの部材(ボール、バンプ、金属ワイヤ等)の接合状態に悪影響を与えない程度の超音波とすることが好ましく、接合済みの部材の材料特性や、接合状態等に応じて設定することが好ましい。特に限定されないが、前記「微小超音波」としては、前記接合させる段階で印加する超音波の10〜70%の大きさに設定することを例示する。
【0016】
この方法によれば、既存のワイヤボンディング装置の機械的構成をほとんど変更せずに、前記キャピラリの負荷変動を検出する手段を追加するとともにキャピラリの制御処理内容を修正することにより対応でき、低コストで実現できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るワイヤボンディング方法によれば、被接合部位の変形による悪影響を排除することができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1〜図3は本発明を具体化した一実施形態のワイヤボンディング方法を示している。図1に示すように、本例で使用するワイヤボンディング装置は、水平方向に移動可能なXYテーブル(図示略)上にZ軸11を介して上下に揺動自在に支持されたボンディングアーム12と、Z軸11を中心にボンディングアーム12を揺動させるためのZ駆動モータ13と、ボンディングアーム12及びZ駆動モータ13等を制御する制御回路14とを備えている。ボンディングアーム12は、その先端部にアーム長さ方向へ突設されたトランスデューサ15と、該トランスデューサ15の先端部に取り付けられたツールとしてのキャピラリ6とを備えている。キャピラリ6は、中心に金ワイヤ5を通すための貫通穴を備え、該貫通穴から先方に突出する金ワイヤ5やその先端に形成された微小金ボール8を先端部で被接合部位としての半導体チップ1上のパッド3やフレーム2上のボンディング電極4に押し付けるためのものである。本例の半導体チップ1は、複数の半導体チップ1a,1bをダイアタッチ材10によって接着することにより積層されてなっており、被接合部位としてのパッド3の下方がオーバーハング構造になっている。
【0019】
制御回路14は、Z駆動モータを駆動するためのZ駆動部21と、トランスデューサ15に超音波を放射させるための超音波発振部22と、超音波発振部22からトランスデューサ15に供給される負荷電流を介してキャピラリ先端の負荷を検出する負荷検出手段としての電流センサ部23と、該電流センサ部23により検出された負荷電流を無負荷時の電流に対して比較し、両電流がほぼ等しくなっていること(キャピラリ先端が無負荷になっていること)を検出する電流比較部24と、これらの各部を制御する主制御部25とを備えている。
【0020】
また、ワイヤボンディング装置は、以上の構成に基づいて実現される機能手段として、キャピラリ6が昇降するときの荷重、速度、超音波出力を固定または任意に可変するキャピラリ制御手段と、キャピラリ6が被接合部位に接触したことを検出するタッチ検出手段と、金ワイヤ5やその先端に形成された微小金ボール8を被接合部位に接合させるボンディング手段と、キャピラリ6が被接合部位から離れたことを検出するセパレート検出手段等を備えている。キャピラリ制御手段、及びタッチ検出手段については公知の方法や手段を適宜採用できる。
【0021】
ボンディング手段は、キャピラリ6にボンド荷重を印加するとともにボンド用超音波を出力することにより金ワイヤ5やその先端に形成された微小金ボール8を被接合部位に接合する手段である。
【0022】
セパレート検出手段は、ボンディング手段によるボンディング終了後において、キャピラリ先端が被接合部位を離れたことを検出する手段である。本例では、トランスデューサによってキャピラリ6に対し微小超音波を印加しながら、キャピラリ6を低速度で上昇させるとともに、このときのキャピラリ先端の負荷又は負荷変動が無くなったことを検出することによりキャピラリ先端が被接合部位を離れたことを検出するようにしている。ここで、低速度とは、具体的には被接合部位の材料特性、撓み状態等によって左右されるが、約0.5〜15mm/secとすることを例示する。この低速度での移動中のキャピラリ6には、ボンド荷重以下の荷重であって、該荷重によって変形した被接合部位の復元力に負けない荷重であるセパレート検出荷重が印加される。本例では、図3に示すようにボンド荷重とセパレート検出荷重の大きさが異なっており、ボンディング手段においてキャピラリ6に印加するボンド荷重からこのセパレート検出荷重への変更は、徐々に行うようになっている。キャピラリ先端の負荷は、例えば超音波発振部22の出力側における負荷電流又は出力に比例し、該出力側のインピーダンスに反比例しているので、これらの負荷電流、出力、又はインピーダンスの大きさや変動により検出することができる。本例では負荷検出手段として負荷電流を検出する電流センサ部23を備えている。
【0023】
次に、ワイヤボンディング装置におけるワイヤボンディング方法を図2及び図3を参照しながら工程順に説明する。本例では、半導体チップ1上に形成された被接合部位としてのパッド3に金ワイヤ5を接続する場合のワイヤボンディング方法を示す。
【0024】
(工程1)キャピラリ6がダンパ荷重からサーチ荷重に移行しながらパッド3へ下降するとともに、タッチ検出手段によりタッチ検出を開始する(図2(a)、図3(a)参照)。
(工程2)キャピラリ6がパッド3に接触すると、その接触の際の衝撃荷重や、タッチ検出時のサーチ荷重の影響でパッド3が押さえ込まれて撓む(図2(b)、図3(b)参照)。タッチ検出位置が検出されると、ボンディング手段により、その位置でキャピラリ6にボンド荷重を印加するとともにボンド用超音波を出力することにより金ワイヤ5又は微小金ボール8のボンディングを実行する。
(工程3)ボンディング終了後、キャピラリ6に印加する荷重をボンド荷重から徐々にセパレート検出荷重に変更する。
(工程4)セパレート検出手段によりセパレート検出を開始する。このとき、キャピラリ6の上昇に伴ってパッド3の撓みが復元する(図2(c)、図3(c)参照)。その後、キャピラリ先端がパッド3から離れると、その位置がセパレート検出位置としてセパレート検出手段により検出される(図2(d)、図3(d)参照)。
(工程5)セパレート検出位置をその後のキャピラリ動作の原点として、例えば、キャピラリ6に印加する荷重をダンパー荷重に切り換えるとともに、ループ形成に移行するためにキャピラリ6を上昇させ、ループ形成に必要なリバース動作を行う(図2(e)、図3(e)参照)。
(工程6)ループ形成に必要なワイヤ繰り出し動作に移行する(図2(f)、図3(f)参照)。
【0025】
なお、セパレート検出については、全ての被接合部位で検出させる方法のほかに、セパレート検出にかかる時間を低減する方法として次のものがある。
(A)各半導体チップにおける最初の被接合部位のみ検出を行い、そのときの検出情報を他の被接合部位で利用する方法。
(B)半導体チップ内で任意に指定された1又は2以上の被接合部位のみ検出を行い、指定されていない被接合部位については指定されている被接合部位のなかで類似する部位(例えば、最も近い位置にある部位や同様な構造の部位等)の検出情報を利用する方法。
【0026】
以上のように本例のボンディング方法は、キャピラリ6より導出した金ワイヤ5又は微小金ボール8を該キャピラリ6によって被接合部位に押し付け、金ワイヤ5又は微小金ボール8を被接合部位に接合させる段階(前記工程2)と、キャピラリ6が被接合部位から離れるまでキャピラリ6を反押し付け方向に低速度で移動させる段階(前記工程4)とを含んでいる。このように、キャピラリ6が被接合部位から離れるまで、即ち、前記押し付け方向における被接合部位の変形が復元するまで、キャピラリ6を反押し付け方向に低速度に移動させるようにしているので、被接合部位の振動を抑制することができる。これにより、キャピラリ6が被接合部位から離れてから、キャピラリ6を次の目標位置に向かって移動させることができるので、被接合部位の変形量の変動や、変形の復元による悪影響を排除することができる。従って、被接合部位が変形し不安定な場合においても、該被接合部位を起点に形成する金ワイヤ5のループ高さが安定する、該被接合部位に形成するバンプ形状が安定する、該被接合部位への第2ボンドが安定する、該被接合部位に形成したバンプへの第2ボンドが安定する、該被接合部位を起点とする金ワイヤ5のフィード量が安定するという効果が得られる。さらに、これらの効果に伴って、金ワイヤ5切断時のテール長さが安定するので、バンプ形成等のために金ワイヤ先端に形成するボール形状が安定する、該ボール直上の金ワイヤ形状が安定する等の効果も得られる。
【0027】
また、前記移動させる段階(前記工程4)では、前記接合させる段階(前記工程2)においてキャピラリ6に印加するボンド荷重以下の荷重であって、該ボンド荷重によって変形した被接合部位の復元力に負けない荷重としてのセパレート検出荷重を、キャピラリ6に印加するようにしているので、被接合部位の変形量の変動や、変形の復元による悪影響をさらに排除することができる。
【0028】
また、前記接合させる段階(前記工程2)の終了後の前記工程3では、キャピラリ6に印加する荷重をボンド荷重から徐々にセパレート検出荷重に変更するようにしているので、被接合部位の変形量の変動や、変形の復元による悪影響をさらに排除することができる。
【0029】
また、前記移動させる段階(前記工程4)では、キャピラリ6に微小超音波を印加しながらキャピラリ6を反押し付け方向に移動させるとともに、該キャピラリ6の負荷変動を検出することにより、キャピラリ6がパッド3から離れたことを検出するようにしているので、既存のワイヤボンディング装置の機械的構成をほとんど変更せずに、キャピラリ6の負荷変動を検出する手段(電流センサ部23、電流比較部24)を追加するとともに主制御部25におけるキャピラリ6の制御処理内容を修正することにより対応でき、低コストで実現できる。
【0030】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のように、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
(1)セパレート検出時におけるキャピラリ先端の負荷を検出する方法としては、例えば、該負荷の変動を直接的に検出する方法、キャピラリ6の高さを示すZリニアスケール信号の変動を検出する方法、Z駆動モータ13の駆動電流の変動を検出する方法を採用することもできる。
(2)被接合部位を含む半導体チップのダイアタッチ材が柔らかい材質の場合、同ダイアタッチ材による接着状態が不安定な場合、ワイヤボンディング時にフレームそのものが固定されていない場合、半導体チップが薄く、荷重をかけることによって被接合部位が変動する場合等のように、他の態様における被接合部位に本方法を使用すること。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明を具体化した一実施形態に係るワイヤボンディング方法を実施するワイヤボンディング装置の要部の構成を示す図である。
【図2】同ワイヤボンディング方法の手順を示した図である。
【図3】同ワイヤボンディング方法を実施中のワイヤボンディング装置各部の動作状態を示すタイミングチャートである。
【図4】従来のワイヤボンディング方法の手順を示した図である。
【図5】被接合部位が変動する半導体チップに対して従来のワイヤボンディング方法を適用した場合における各手順を示した図である。
【符号の説明】
【0032】
1 半導体チップ
2 フレーム
3 パッド
4 ボンディング電極
5 金ワイヤ
6 キャピラリ
8 微小金ボール
9 ワイヤクランパ
10 ダイアタッチ材
11 Z軸
12 ボンディングアーム
13 Z駆動モータ
14 制御回路
15 トランスデューサ
21 Z駆動部
22 超音波発振部
23 電流センサ部
24 電流比較部
25 主制御部
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被接合部位に金属ワイヤを接合するためのワイヤボンディング方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のワイヤボンディング方法として、特許文献1に記載されたものを例示する。この方法は、例えば、金属、樹脂、セラミック等でできたフレーム2の上に、ダイアタッチ材(接着材料)を用いて半導体チップ1を装着し、半導体チップ1上のパッド3とフレーム2上のボンディング電極4を金ワイヤ5によって接続した構造を次のように実現するものである。
(1)キャピラリ6を貫通する金ワイヤ5の先端に、放電または水素炎を用いて微小金ボール8を形成する(図4(1))。
(2)キャピラリ6を下降し微小金ボール8を半導体チップ1上の被接合部位としてのパッド3に圧接し第一ボンディングを形成する(図4(2))。通常このボンディング方法はボールボンディング法と呼ばれ、熱圧着または熱圧着に超音波振動を加えて、微小金ボール8とパッド3の金属間で合金を形成して接合強度を確保している。
(3)キャピラリ6をわずかに上昇させた後横方向に移動させ、フレーム2上の被接合部位としてのボンディング電極4に金ワイヤ5を圧接し、第二ボンディングを形成する(図4(3))。この際、キャピラリ6の先端部によって、金ワイヤ5を押し潰すため金ワイヤ5に亀裂が入る。通常このボンディング方法はウェッジボンディング法と呼ばれ、ボールボンディング法の場合と同様に熱、圧力、振動を組み合わせて金ワイヤ5とボンディング電極4上の金属間で合金を形成して接合強度を確保している。
(4)キャピラリ6をわずかに上昇させた後、ワイヤクランパ9で金ワイヤ5をクランプし、そのままキャピラリ6、ワイヤクランパ9を上昇させ、金ワイヤ5を亀裂が生じている部位から切断する(図4(4))。
【0003】
前記(2)、(3)における各ボンディングの形成は、具体的には、次のように行う。すなわち、キャピラリ6がサーチ荷重に移行しながらパッド3等の被接合部位へ下降するとともに、タッチ検出を開始する。そして、タッチ検出位置が検出されると、その位置でキャピラリ6にボンド荷重を印加するとともにボンド用超音波を出力することによりボンディングを形成する。ここで、タッチ検出位置とは、金ワイヤ5又は微小金ボール8を被接合部位に接合するために必要なサーチ荷重をキャピラリ6に印加した上で、被接合部位に接触させて行ったときのキャピラリ6の下死点位置を検出したものである。キャピラリ6にサーチ荷重を印加する主な目的は、キャピラリ6が被接合部位に接触したときの衝撃による残留振動を抑制することと、キャピラリ6が被接合部位に接触したときに金ワイヤ5又は微小金ボール8に塑性変形を生じさせるとともにパッド3等の被接合部位表面に形成された酸化膜を破壊して新生面を生じさせることにある。また、キャピラリ6にボンド荷重を印加する主な目的は、金ワイヤ5又は微小金ボール8と被接合部位との接合部にボンド用超音波エネルギーを効率よく伝達し、最適な相互拡散を起こさせることにより、該接合部に合金を形成することにある。
【0004】
【特許文献1】特開2004−56021号公報([0003]、図7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、キャピラリ6に印加されるサーチ荷重やボンド荷重により、次のように、被接合部位がその押圧方向に変動する場合がある。
(a)複数の半導体チップを積層してなるタイプのパッケージにおいて、被接合部位としてのパッドの下が中空になっている場合(例えば、図5(a)に示すように、複数の半導体チップ1a,1bをダイアタッチ材10により積層したオーバーハング構造となっている場合)
(b)被接合部位を含む半導体チップのダイアタッチ材が柔らかい材質の場合
(c)同ダイアタッチ材による接着状態が不安定な場合
(d)ワイヤボンディング時にフレームそのものが固定されていない場合
(e)半導体チップが薄く、荷重をかけることによって被接合部位が変動する場合
【0006】
このような場合のボンディングには、例えば次のような課題がある。
(イ)図5(b)に示すように、タッチ検出時にキャピラリ6が被接合部位に接触するときの荷重や衝撃の影響で被接合部位が押さえ込まれ撓むが、同じ半導体チップでも被接合部位により撓み量は一定ではなく変動する。また、被接合部位が撓んだ場合、その状態を次の動作の原点としてキャピラリ6が上昇すると、図5(c)に示すように、その上昇に伴って被接合部位の撓みも復元するので、その撓みの戻り分、実際にはキャピラリ6の上昇量が少ない状態になる。この被接合部位の撓み量の変動と、撓み戻りとにより、その後に形成されるワイヤループ高さ、バンプ形状、テール長さに異常やバラツキが発生する。ワイヤループ高さに異常やバラツキが生じると、図5(d)、(e)に示すように、ワイヤダメージや破断が生じる。また、テール長さの異常やバラツキが発生すると、ワイヤカットエラーやワイヤ先端に形成されるボールのバラツキが発生する。
(ロ)前記(イ)において被接合部位が撓んだ状態からキャピラリ6が上昇する時、被接合部位には、撓みの戻りとともに、振動が発生する。この振動で、ボールネックダメージやワイヤ断線が発生したり、圧着済みのボールやバンプに負荷が掛かり変形や剥がれが発生する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のワイヤボンディング方法は、
キャピラリより導出した金属ワイヤを該キャピラリによって被接合部位に押し付け、該金属ワイヤを該被接合部位に接合させる段階と、
前記キャピラリが少なくとも前記被接合部位から離れるまで該キャピラリを反押し付け方向に低速度で移動させる段階とを含んでいる。
【0008】
ここで、前記「低速度」としては、前記キャピラリで押し付けられることによる前記被接合部位の撓みが復元する速度よりも遅い速度とすることが好ましい。この速度は、被接合部位の材料特性、撓み状態等に応じて設定することが好ましい。
【0009】
この方法によれば、「前記キャピラリが少なくとも前記被接合部位から離れるまで」、即ち、前記押し付け方向における前記被接合部位の変形が復元するまで、前記キャピラリを反押し付け方向に低速度に移動させるようにしているので、該被接合部位の振動を抑制することができる。これにより、前記キャピラリが前記被接合部位から離れてから、前記キャピラリを次の目標位置に向かって移動させることができ、被接合部位の変形量の変動や、変形の復元による悪影響を排除することができる。従って、被接合部位が変形し不安定な場合においても、該被接合部位を起点に形成する金属ワイヤのループ高さが安定する、該被接合部位に形成するバンプ形状が安定する、該接合部位への第2ボンドが安定する、該被接合部位に形成したバンプへの第2ボンドが安定する、該被接合部位を起点とする金属ワイヤのフィード量が安定するという効果が得られる。さらに、これらの効果に伴って、金属ワイヤ切断時のテール長さが安定するので、バンプ形成等のために金属ワイヤ先端に形成するボール形状が安定する、該ボール直上の金属ワイヤ形状が安定する等の効果も得られる。
【0010】
前記ワイヤボンディング方法においては、前記移動させる段階では、前記接合させる段階において前記キャピラリに印加するボンド荷重以下の荷重であって、該ボンド荷重によって変形した前記被接合部位の復元力に負けない荷重であるセパレート検出荷重を、前記キャピラリに印加するようにした態様を例示する。
【0011】
このような大きさの前記セパレート検出荷重を印加する理由は、該セパレート検出荷重を前記接合させる段階中の荷重よりも高くすると、被接合部位の変形をさらに増長させることになり、好ましくないからである。一方、前記セパレート検出荷重が、前記接合させる段階中の荷重よりも低すぎると、前記被接合部位の変形の復元力に負けて前記キャピラリが押し上げられてしまい、好ましくないからである。従って、この方法によれば、被接合部位の変形量の変動や、変形の復元による悪影響をさらに排除することができる。
【0012】
また、前記ワイヤボンディング方法においては、前記ボンド荷重と前記セパレート検出荷重の大きさが異なっているときは、前記接合させる段階の終了後、前記キャピラリに印加する荷重を該ボンド荷重から徐々に該セパレート検出荷重に変更するようにした態様を例示する。
【0013】
これは、前記ボンド荷重と前記セパレート検出荷重との大きさが異なっている場合に、急激に前記セパレート検出荷重に切り換えると、その反動等により前記キャピラリに振動が発生することがあり、前記キャピラリが前記被接合部位を離れたことを正確に検出することが困難になるためである。従って、この方法によれば、被接合部位の変形量の変動や、変形の復元による悪影響をさらに排除することができる。前記セパレート検出荷重の下限としては、特に限定されないが、前記ボンド荷重の約10%とすることを例示する。前記セパレート検出荷重へと徐々に変更する時間としては、特に限定されないが、10ミリ秒以内とすることを例示する。前記セパレート検出荷重へ変更する態様としては、特に限定されないが、次の態様を例示する。
(a)前記接合させる段階の終了後、徐々に前記セパレート検出荷重に変更した後で、前記移動させる段階を行う態様。
(b)前記接合させる段階の終了後、徐々に前記セパレート検出荷重に変更するとともに、それと並行して前記移動させる段階を行う態様。
【0014】
また、前記ワイヤボンディング方法においては、前記移動させる段階では、前記キャピラリに微小超音波を印加しながらキャピラリを前記反押し付け方向に移動させるとともに、該キャピラリの負荷変動を検出することにより、前記キャピラリが前記被接合部位から離れたことを検出するようにした態様を例示する。
【0015】
ここで、前記「微小超音波」としては、被接合部位に接合済みの部材(ボール、バンプ、金属ワイヤ等)の接合状態に悪影響を与えない程度の超音波とすることが好ましく、接合済みの部材の材料特性や、接合状態等に応じて設定することが好ましい。特に限定されないが、前記「微小超音波」としては、前記接合させる段階で印加する超音波の10〜70%の大きさに設定することを例示する。
【0016】
この方法によれば、既存のワイヤボンディング装置の機械的構成をほとんど変更せずに、前記キャピラリの負荷変動を検出する手段を追加するとともにキャピラリの制御処理内容を修正することにより対応でき、低コストで実現できる。
【0017】
また、本発明のワイヤボンディング装置は、
中心に金属ワイヤを通すための貫通穴を備え、該貫通穴から先方に突出する金属ワイヤを先端部で被接合部位に押し付けるように構成されたキャピラリと、
該キャピラリを移動させる駆動手段と、
該キャピラリが前記被接合部位から離れたことを検出するセパレート検出手段と、
該キャピラリによって前記金属ワイヤを該被接合部位に接合させた後に、該キャピラリが少なくとも前記被接合部位から離れたことを前記セパレート検出手段が検出するまで該キャピラリを反押し付け方向に移動させるように前記駆動手段を制御する手段と
を備えている。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るワイヤボンディング方法及び装置によれば、被接合部位の変形による悪影響を排除することができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1〜図3は本発明を具体化した一実施形態のワイヤボンディング方法及び装置を示している。図1に示すように、本例で使用するワイヤボンディング装置は、水平方向に移動可能なXYテーブル(図示略)上にZ軸11を介して上下に揺動自在に支持されたボンディングアーム12と、Z軸11を中心にボンディングアーム12を揺動させるためのZ駆動モータ13と、ボンディングアーム12及びZ駆動モータ13等を制御する制御回路14とを備えている。ボンディングアーム12は、その先端部にアーム長さ方向へ突設されたトランスデューサ15と、該トランスデューサ15の先端部に取り付けられたツールとしてのキャピラリ6とを備えている。キャピラリ6は、中心に金ワイヤ5を通すための貫通穴を備え、該貫通穴から先方に突出する金ワイヤ5やその先端に形成された微小金ボール8を先端部で被接合部位としての半導体チップ1上のパッド3やフレーム2上のボンディング電極4に押し付けるためのものである。本例の半導体チップ1は、複数の半導体チップ1a,1bをダイアタッチ材10によって接着することにより積層されてなっており、被接合部位としてのパッド3の下方がオーバーハング構造になっている。
【0020】
制御回路14は、Z駆動モータを駆動するためのZ駆動部21と、トランスデューサ15に超音波を放射させるための超音波発振部22と、超音波発振部22からトランスデューサ15に供給される負荷電流を介してキャピラリ先端の負荷を検出する負荷検出手段としての電流センサ部23と、該電流センサ部23により検出された負荷電流を無負荷時の電流に対して比較し、両電流がほぼ等しくなっていること(キャピラリ先端が無負荷になっていること)を検出する電流比較部24と、これらの各部を制御する主制御部25とを備えている。
【0021】
また、ワイヤボンディング装置は、以上の構成に基づいて実現される機能手段として、キャピラリ6が昇降するときの荷重、速度、超音波出力を固定または任意に可変するキャピラリ制御手段と、キャピラリ6が被接合部位に接触したことを検出するタッチ検出手段と、金ワイヤ5やその先端に形成された微小金ボール8を被接合部位に接合させるボンディング手段と、キャピラリ6が被接合部位から離れたことを検出するセパレート検出手段等を備えている。キャピラリ制御手段、及びタッチ検出手段については公知の方法や手段を適宜採用できる。
【0022】
ボンディング手段は、キャピラリ6にボンド荷重を印加するとともにボンド用超音波を出力することにより金ワイヤ5やその先端に形成された微小金ボール8を被接合部位に接合する手段である。
【0023】
セパレート検出手段は、ボンディング手段によるボンディング終了後において、キャピラリ先端が被接合部位を離れたことを検出する手段である。本例では、トランスデューサによってキャピラリ6に対し微小超音波を印加しながら、キャピラリ6を低速度で上昇させるとともに、このときのキャピラリ先端の負荷又は負荷変動が無くなったことを検出することによりキャピラリ先端が被接合部位を離れたことを検出するようにしている。ここで、低速度とは、具体的には被接合部位の材料特性、撓み状態等によって左右されるが、約0.5〜15mm/secとすることを例示する。この低速度での移動中のキャピラリ6には、ボンド荷重以下の荷重であって、該荷重によって変形した被接合部位の復元力に負けない荷重であるセパレート検出荷重が印加される。本例では、図3に示すようにボンド荷重とセパレート検出荷重の大きさが異なっており、ボンディング手段においてキャピラリ6に印加するボンド荷重からこのセパレート検出荷重への変更は、徐々に行うようになっている。キャピラリ先端の負荷は、例えば超音波発振部22の出力側における負荷電流又は出力に比例し、該出力側のインピーダンスに反比例しているので、これらの負荷電流、出力、又はインピーダンスの大きさや変動により検出することができる。本例では負荷検出手段として負荷電流を検出する電流センサ部23を備えている。
【0024】
次に、ワイヤボンディング装置におけるワイヤボンディング方法を図2及び図3を参照しながら工程順に説明する。本例では、半導体チップ1上に形成された被接合部位としてのパッド3に金ワイヤ5を接続する場合のワイヤボンディング方法を示す。
【0025】
(工程1)キャピラリ6がダンパ荷重からサーチ荷重に移行しながらパッド3へ下降するとともに、タッチ検出手段によりタッチ検出を開始する(図2(a)、図3(a)参照)。
(工程2)キャピラリ6がパッド3に接触すると、その接触の際の衝撃荷重や、タッチ検出時のサーチ荷重の影響でパッド3が押さえ込まれて撓む(図2(b)、図3(b)参照)。タッチ検出位置が検出されると、ボンディング手段により、その位置でキャピラリ6にボンド荷重を印加するとともにボンド用超音波を出力することにより金ワイヤ5又は微小金ボール8のボンディングを実行する。
(工程3)ボンディング終了後、キャピラリ6に印加する荷重をボンド荷重から徐々にセパレート検出荷重に変更する。
(工程4)セパレート検出手段によりセパレート検出を開始する。このとき、キャピラリ6の上昇に伴ってパッド3の撓みが復元する(図2(c)、図3(c)参照)。その後、キャピラリ先端がパッド3から離れると、その位置がセパレート検出位置としてセパレート検出手段により検出される(図2(d)、図3(d)参照)。
(工程5)セパレート検出位置をその後のキャピラリ動作の原点として、例えば、キャピラリ6に印加する荷重をダンパー荷重に切り換えるとともに、ループ形成に移行するためにキャピラリ6を上昇させ、ループ形成に必要なリバース動作を行う(図2(e)、図3(e)参照)。
(工程6)ループ形成に必要なワイヤ繰り出し動作に移行する(図2(f)、図3(f)参照)。
【0026】
なお、セパレート検出については、全ての被接合部位で検出させる方法のほかに、セパレート検出にかかる時間を低減する方法として次のものがある。
(A)各半導体チップにおける最初の被接合部位のみ検出を行い、そのときの検出情報を他の被接合部位で利用する方法。
(B)半導体チップ内で任意に指定された1又は2以上の被接合部位のみ検出を行い、指定されていない被接合部位については指定されている被接合部位のなかで類似する部位(例えば、最も近い位置にある部位や同様な構造の部位等)の検出情報を利用する方法。
【0027】
以上のように本例のボンディング方法は、キャピラリ6より導出した金ワイヤ5又は微小金ボール8を該キャピラリ6によって被接合部位に押し付け、金ワイヤ5又は微小金ボール8を被接合部位に接合させる段階(前記工程2)と、キャピラリ6が被接合部位から離れるまでキャピラリ6を反押し付け方向に低速度で移動させる段階(前記工程4)とを含んでいる。このように、キャピラリ6が被接合部位から離れるまで、即ち、前記押し付け方向における被接合部位の変形が復元するまで、キャピラリ6を反押し付け方向に低速度に移動させるようにしているので、被接合部位の振動を抑制することができる。これにより、キャピラリ6が被接合部位から離れてから、キャピラリ6を次の目標位置に向かって移動させることができるので、被接合部位の変形量の変動や、変形の復元による悪影響を排除することができる。従って、被接合部位が変形し不安定な場合においても、該被接合部位を起点に形成する金ワイヤ5のループ高さが安定する、該被接合部位に形成するバンプ形状が安定する、該被接合部位への第2ボンドが安定する、該被接合部位に形成したバンプへの第2ボンドが安定する、該被接合部位を起点とする金ワイヤ5のフィード量が安定するという効果が得られる。さらに、これらの効果に伴って、金ワイヤ5切断時のテール長さが安定するので、バンプ形成等のために金ワイヤ先端に形成するボール形状が安定する、該ボール直上の金ワイヤ形状が安定する等の効果も得られる。
【0028】
また、前記移動させる段階(前記工程4)では、前記接合させる段階(前記工程2)においてキャピラリ6に印加するボンド荷重以下の荷重であって、該ボンド荷重によって変形した被接合部位の復元力に負けない荷重としてのセパレート検出荷重を、キャピラリ6に印加するようにしているので、被接合部位の変形量の変動や、変形の復元による悪影響をさらに排除することができる。
【0029】
また、前記接合させる段階(前記工程2)の終了後の前記工程3では、キャピラリ6に印加する荷重をボンド荷重から徐々にセパレート検出荷重に変更するようにしているので、被接合部位の変形量の変動や、変形の復元による悪影響をさらに排除することができる。
【0030】
また、前記移動させる段階(前記工程4)では、キャピラリ6に微小超音波を印加しながらキャピラリ6を反押し付け方向に移動させるとともに、該キャピラリ6の負荷変動を検出することにより、キャピラリ6がパッド3から離れたことを検出するようにしているので、既存のワイヤボンディング装置の機械的構成をほとんど変更せずに、キャピラリ6の負荷変動を検出する手段(電流センサ部23、電流比較部24)を追加するとともに主制御部25におけるキャピラリ6の制御処理内容を修正することにより対応でき、低コストで実現できる。
【0031】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のように、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
(1)セパレート検出時におけるキャピラリ先端の負荷を検出する方法としては、例えば、該負荷の変動を直接的に検出する方法、キャピラリ6の高さを示すZリニアスケール信号の変動を検出する方法、Z駆動モータ13の駆動電流の変動を検出する方法を採用することもできる。
(2)被接合部位を含む半導体チップのダイアタッチ材が柔らかい材質の場合、同ダイアタッチ材による接着状態が不安定な場合、ワイヤボンディング時にフレームそのものが固定されていない場合、半導体チップが薄く、荷重をかけることによって被接合部位が変動する場合等のように、他の態様における被接合部位に本方法を使用すること。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明を具体化した一実施形態に係るワイヤボンディング方法を実施するワイヤボンディング装置の要部の構成を示す図である。
【図2】同ワイヤボンディング方法の手順を示した図である。
【図3】同ワイヤボンディング方法を実施中のワイヤボンディング装置各部の動作状態を示すタイミングチャートである。
【図4】従来のワイヤボンディング方法の手順を示した図である。
【図5】被接合部位が変動する半導体チップに対して従来のワイヤボンディング方法を適用した場合における各手順を示した図である。
【符号の説明】
【0033】
1 半導体チップ
2 フレーム
3 パッド
4 ボンディング電極
5 金ワイヤ
6 キャピラリ
8 微小金ボール
9 ワイヤクランパ
10 ダイアタッチ材
11 Z軸
12 ボンディングアーム
13 Z駆動モータ
14 制御回路
15 トランスデューサ
21 Z駆動部
22 超音波発振部
23 電流センサ部
24 電流比較部
25 主制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャピラリより導出した金属ワイヤを該キャピラリによって被接合部位に押し付け、該金属ワイヤを該被接合部位に接合させる段階と、
前記キャピラリが少なくとも前記被接合部位から離れるまで該キャピラリを反押し付け方向に低速度で移動させる段階とを含むワイヤボンディング方法。
【請求項2】
前記移動させる段階では、前記接合させる段階において前記キャピラリに印加するボンド荷重以下の荷重であって、該ボンド荷重によって変形した前記被接合部位の復元力に負けない荷重であるセパレート検出荷重を、前記キャピラリに印加するようにした請求項1記載のワイヤボンディング方法。
【請求項3】
前記ボンド荷重と前記セパレート検出荷重の大きさが異なっているときは、前記接合させる段階の終了後、前記キャピラリに印加する荷重を該ボンド荷重から徐々に該セパレート検出荷重に変更するようにした請求項2記載のワイヤボンディング方法。
【請求項4】
前記移動させる段階では、前記キャピラリに微小超音波を印加しながらキャピラリを前記反押し付け方向に移動させるとともに、該キャピラリの負荷変動を検出することにより、前記キャピラリが前記被接合部位から離れたことを検出するようにした請求項1〜3のいずれか一項に記載のワイヤボンディング方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャピラリより導出した金属ワイヤを該キャピラリによって被接合部位に押し付け、該金属ワイヤを該被接合部位に接合させる段階と、
前記キャピラリが少なくとも前記被接合部位から離れるまで該キャピラリを反押し付け方向に低速度で移動させる段階とを含むワイヤボンディング方法。
【請求項2】
前記移動させる段階では、前記接合させる段階において前記キャピラリに印加するボンド荷重以下の荷重であって、該ボンド荷重によって変形した前記被接合部位の復元力に負けない荷重であるセパレート検出荷重を、前記キャピラリに印加するようにした請求項1記載のワイヤボンディング方法。
【請求項3】
前記ボンド荷重と前記セパレート検出荷重の大きさが異なっているときは、前記接合させる段階の終了後、前記キャピラリに印加する荷重を該ボンド荷重から徐々に該セパレート検出荷重に変更するようにした請求項2記載のワイヤボンディング方法。
【請求項4】
前記移動させる段階では、前記キャピラリに微小超音波を印加しながらキャピラリを前記反押し付け方向に移動させるとともに、該キャピラリの負荷変動を検出することにより、前記キャピラリが前記被接合部位から離れたことを検出するようにした請求項1〜3のいずれか一項に記載のワイヤボンディング方法。
【請求項5】
中心に金属ワイヤを通すための貫通穴を備え、該貫通穴から先方に突出する金属ワイヤを先端部で被接合部位に押し付けるように構成されたキャピラリと、
該キャピラリを移動させる駆動手段と、
該キャピラリが前記被接合部位から離れたことを検出するセパレート検出手段と、
該キャピラリによって前記金属ワイヤを該被接合部位に接合させた後に、該キャピラリが少なくとも前記被接合部位から離れたことを前記セパレート検出手段が検出するまで該キャピラリを反押し付け方向に移動させるように前記駆動手段を制御する手段と
を備えたワイヤボンディング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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