説明

ワイヤロープ及びその製造方法

【課題】繊維心入りワイヤロープが有する特性とIWRC入りワイヤロープが有する特性という、相反する特性を兼ね備えたワイヤロープを提供する。
【解決手段】複数本の素線を撚り合わせてなるロープ心11と、ロープグリースが含浸された合成繊維をロープ心11の外周に編み込むことによりロープ心11を被覆するブレード21と、複数本の素線32を撚り合わせて形成され、ブレード21で被覆されたロープ心11に撚り合わされる複数本の側ストランド31とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンやエレベータ等に用いられるワイヤロープ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、クレーンやホイストあるいはエレベータ等に用いられるワイヤロープとしては、中心を繊維心としたワイヤロープが広く利用されてきた。
この繊維心を使用したワイヤロープは、柔軟性に優れているとともに、繊維心にグリースを含ませることにより、潤滑性や防錆性能にも優れている。
一方、近年の技術の向上によって高強度の素線の製造が可能となり、破断荷重の高いワイヤロープが製造されるようになっているところ、従来の繊維心を使用したワイヤロープには金属断面積が少ないという欠点がある。
そのため、ワイヤロープの強度の向上を目的として、鋼線を撚り合わせたIWRC(Independent Wire Rope Core)をロープ心としたワイヤロープが使用されるようになった(例えば、特許文献1及び特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平10−18190号公報
【特許文献2】特開平8−158275号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、IWRCのワイヤロープでは、繊維心のワイヤロープの特長である、柔軟性や潤滑性、防錆性が失われてしまうという問題がある。
また、IWRCはワイヤロープの外部から見えない内部に位置するため、高強度の素線を使用することにより、ワイヤロープの使用中に断線が発生し、大事故を引き起こしてしまうおそれもある。
そこで、本発明は、これらの事情および問題点に鑑みてなされたものであり、繊維心入りワイヤロープが有する特性とIWRC入りワイヤロープが有する特性という、相反する特性を兼ね備えたワイヤロープを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために、本発明に係るワイヤロープは、複数本の素線を撚り合わせてなるロープ心と、潤滑材が含浸された合成繊維を前記ロープ心の外周に編み込むことにより前記ロープ心を被覆するブレードと、複数本の素線を撚り合わせて形成され、前記ブレードで被覆されたロープ心に撚り合わされる複数本の側ストランドとを備えることを特徴とする。
本構成によって、IWRCのロープ心に合成繊維を編み込んで、ロープ心を被覆するので、柔軟性に優れ、かつ、IWRCの断線の発生率が軽減されたワイヤロープとなる。ここで、ロープ心を被覆する合成繊維には、充分な量のロープグリースを含浸させることができるので、優れた潤滑性および防錆性を発揮するワイヤロープを実現することができる。
ここで、本発明に係るワイヤロープは、前記ロープ心を構成する素線は、2000N/mm以上の引張強度を有し、前記側ストランドを構成する素線は、2500N/mm以上の引張強度を有するとするのが好ましい。
これによって、IWRCの断線の進行を遅らせることが可能となり、断線の発生率をさらに軽減することができる。
また、本発明に係るワイヤロープの製造方法は、複数本の素線を撚り合わせてロープ心を形成するロープ心製作工程と、潤滑材が含浸された合成繊維を前記ロープ心の外周に編み込んで、前記ロープ心を被覆するブレード加工工程と、複数本の素線を撚り合わせて形成された複数本の側ストランドを、前記ブレード加工工程において被覆されたロープ心に撚り合わせる側ストランド製作工程とを含むことを特徴とする。これによって、上記のワイヤロープを製造することができる。
【発明の効果】
【0005】
以上説明したように、本発明に係るワイヤロープによれば、ブレード加工、すなわち、ロープグリースが含浸された合成繊維の編み込みによって、IWRCのロープ心を被覆するので、IWRC入りワイヤロープが有する高強度という特性と、かつ、優れた柔軟性、潤滑性および防錆性といった、繊維心入りワイヤロープが有する特性とを兼ね備えたワイヤロープが実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係るワイヤロープの構成を示す斜視図であり、図2は、その断面図である。
図1及び図2に示すワイヤロープ1は、クレーン等の荷役機械やエレベータ等に用いられるワイヤロープであり、鋼線を撚り合わせてなるIWRCのロープ心11と、合成繊維を編み込むことにより構成された、ロープ心11を被覆する層であるブレード21と、素線32を撚り合わせてなる側ストランド31とから構成されている。
ロープ心11は、2000N/mm以上(好ましくは、2200〜2500N/mm)の引張強度を有する素線を撚り合わせることによって構成されるIWRCである。
ブレード21は、ロープ心11と側ストランド31との間に介在し、ロープ心11を被覆する円筒形状の層(オメガブレード:登録商標)であり、ロープグリースを含浸させたポリプロピレン、ポリエステル、ポリエチレン又はナイロン等の合成繊維を編み込むことによって形成されている。
側ストランド31は、2500N/mm以上(好ましくは、2500〜3000N/mm)の引張強度を有する素線32を撚り合わせることによって構成されている。
このように構成されるワイヤロープ1の製造工程について、以下説明する。
図3は、本実施の形態に係るワイヤロープ1の製造手順を示すフロー図である。
まず、素線32を撚り合わせてIWRCのロープ心11を製作する(ステップS10)。
次に、ロープグリースが含浸された合成繊維を、ロープ心11の外周を覆うように編み込むこと(ブレード加工)により、ロープ心11をブレード21で被覆する(ステップS12)。
最後に、側ストランド31を製作し(ステップS14)、側ストランド31をブレード21で被覆されたロープ心11に撚り合わせることにより(ステップS16)、ワイヤロープ1が完成する。
このようなステップ(工程)を経て製造されるワイヤロープ1は、IWRCのロープ心11と側ストランド31との間に、ブレード21という合成繊維の層が形成されるので、従来のIWRCのワイヤロープに比較して、優れた柔軟性を発揮することになる。また、合成繊維に充分なロープグリースを含浸させることができるので、潤滑性や防錆性においても優れたものとなる。
また、側ストランド31を構成する素線よりも、IWRCのロープ心11を構成する素線の引張強度を低くすることで、IWRCの断線の進行を遅らせることができることに加えて、合成繊維のブレード21がロープ心11を被覆することで、側ストランドとIWRCとが直接接触しなくなるので、IWRC自体の断線の発生率を軽減することも可能となる。
さらに、合成繊維をIWRCに対して編み込んで被覆することにより、IWRCと被覆された合成繊維とがそれぞれ移動可能になるので、ワイヤロープ1が曲げ作用を受けるシーブやドラム部において、ワイヤロープ1の損傷の軽減も期待される。
ここまで本発明に係るワイヤロープについて実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、この実施の形態に限定されるものではなく、その範囲を逸脱することなく本発明の趣旨に沿って様々の変形または修正が可能であることはいうまでもない。
例えば、上記実施の形態では、6×S(19)の構成のワイヤロープを図示して説明したが、6×Fi(29)や6×WS(36)などのその他の構成であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0007】
本発明に係るワイヤロープは、クレーンやホイスト、エレベータ等に使用されるワイヤロープに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態に係るワイヤロープの構成を示す斜視図である。
【図2】本実施の形態に係るワイヤロープの断面図である。
【図3】本実施の形態に係るワイヤロープの製造手順を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0009】
1 ワイヤロープ
11 ロープ心
21 ブレード
31 側ストランド
32 素線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の素線を撚り合わせてなるロープ心と、
潤滑材が含浸された合成繊維を前記ロープ心の外周に編み込むことにより前記ロープ心を被覆するブレードと、
複数本の素線を撚り合わせて形成され、前記ブレードで被覆されたロープ心に撚り合わされる複数本の側ストランドとを備える
ことを特徴とするワイヤロープ。
【請求項2】
前記ロープ心を構成する素線は、2000N/mm以上の引張強度を有し、
前記側ストランドを構成する素線は、2500N/mm以上の引張強度を有する
ことを特徴とする請求項1記載のワイヤロープ。
【請求項3】
複数本の素線を撚り合わせてロープ心を形成するロープ心製作工程と、
潤滑材が含浸された合成繊維を前記ロープ心の外周に編み込んで、前記ロープ心を被覆するブレード加工工程と、
複数本の素線を撚り合わせて形成された複数本の側ストランドを、前記ブレード加工工程において被覆されたロープ心に撚り合わせる側ストランド製作工程とを含む
ことを特徴とするワイヤロープの製造方法。







【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図1】
image rotate