説明

ワイヤロープ

【課題】 ワイヤと端子金具との分離強度を向上しながら簡易な構造とすることができるワイヤロープを提供する。
【解決手段】 本発明のワイヤロープは、ワイヤ31と、ワイヤ31の少なくとも一端部に固定される端子金具42を有している。端子金具42は、ワイヤ31にカシメ固定されるカシメ部42bを有している。そして、ワイヤ31は、端子金具42が固定される側のワイヤ端からカシメ部42bにより端子金具に固定される部位との間に拡径部33を有している。拡径部33の外径は、拡径部33以外であって、かつ、カシメ部42bにより端子金具42に固定される部位以外の部位におけるワイヤの外径より大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、ワイヤロープに関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤロープの中には、ワイヤの端部に端子金具が固定され、その端子金具によって機械部品等に取付けられるものがある。この種のワイヤロープでは、ワイヤに所定の張力(設計張力)が作用しても、ワイヤと端子金具とが分離しないよう、ワイヤに端子金具を固定しておく必要がある。このため、ワイヤと端子金具との分離強度を向上するための技術が提案されている(例えば、特許文献1)。
特許文献1の技術では、端子金具のカシメ部に縦穴と横穴が設けられる。ワイヤは、縦穴を貫通するように通され、縦穴から外に出た部分が横穴を貫通するように通される。そして、カシメ部をカシメることで、縦穴の部分と横穴の部分とでワイヤと端子金具とがカシメ固定される。これにより、ワイヤと端子金具との分離強度が向上されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平5−45090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、ワイヤと端子金具との分離強度を向上できるものの、ワイヤを挿通する縦穴と横穴を端子金具に設ける必要があり、その構造が複雑になるという問題がある。本願は、ワイヤと端子金具との分離強度を向上しながら簡易な構造とすることができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願のワイヤロープは、ワイヤと、ワイヤの少なくとも一端部に固定される端子金具を有している。端子金具は、ワイヤにカシメ固定されるカシメ部を有している。ワイヤは、端子金具が固定される側のワイヤ端からカシメ部により端子金具に固定される部位との間に拡径部を有している。拡径部の外径は、拡径部以外であって、かつ、カシメ部により端子金具に固定される部位以外の部位におけるワイヤの外径より大きい。
【0006】
このワイヤロープでは、ワイヤの先端部に拡径部が形成されている。ワイヤと端子金具とを分離しようとすると、この拡径部がワイヤと端子金具とが分離してしまうことを抑制する。これによって、ワイヤと端子金具との分離強度が向上される。また、ワイヤに拡径部を形成するだけでよいため、その構造を簡易なものとすることができる。
【0007】
上記のワイヤロープでは、ワイヤに端子金具が固定された状態では、カシメ部と拡径部が隣接して配置されていることが好ましい。このような構成によると、ワイヤに張力が作用したときに、ワイヤの拡径部が端子金具のカシメ部に当接し、ワイヤに対して端子金具の位置がずれることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施形態のワイヤロープが用いられたステアリング装置の構成を模式的に示す図。
【図2】実施形態に係るワイヤロープの全体的な構成を示す図。
【図3】実施形態に係るワイヤロープの上側端部の外観を示す斜視図。
【図4】実施形態に係るワイヤロープの上側端部のカシメ部の断面を示す断面図。
【図5】実施形態に係るワイヤロープの上側端部を部分的に示す平面図。
【図6】ワイヤ先端の拡径部の寸法と分離荷重の関係を示すグラフ。
【図7】変形例に係るワイヤロープの上側端部を示す図。
【図8】他の変形例に係るワイヤロープの上側端部を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明を具現化した一実施形態を説明する。図1は、実施形態に係るワイヤロープ30を備えたステアリング装置1の側面図である。ステアリング装置1は、電動パワーステアリング装置として構成されている。ステアリング装置1は、ステアリングシャフト2と、ステアリングシャフト2を内部に収容して回動可能に支持する筒状のステアリングコラム3を備えている。
【0010】
ステアリングシャフト2は、アッパシャフトとロアシャフトのスプライン嵌合により、軸方向に沿って伸縮可能に構成されている。ステアリングシャフト2の上端には、ステアリングホイール4が連結されている。ステアリングシャフト2の下端には、自在継手5を介して中間軸6が連動連結されている。中間軸6の下端には、自在継手7を介してピニオン軸8が連動連結されている。ピニオン軸8に形成されたピニオン8aと、ピニオン8aに噛み合うラック軸9とによって、ラックアンドピニオン機構からなる操舵機構10が構成されている。なお、図示しないが、ラック軸9の左右方向(図1の紙面貫通方向)の各端部は、タイロッドおよびナックルアームを介して対応する操向輪に連結されている。
【0011】
ステアリングコラム3は、アッパチューブ11と、アッパチューブ11の下端側に連結されたロアチューブ12と、ロアチューブ12の下端側に固定されたセンサハウジング13と、センサハウジング13の下端側に固定されたギヤハウジング14とを備えている。ロアチューブ12の上端はアッパチューブ11の下端に、軸方向に沿って摺動可能に挿入されている。このため、ステアリングコラム3は、ステアリングシャフト2の伸縮に応じて、軸方向に伸縮可能である。これにより、ステアリングホイール4の前後方向位置を調整できるようになっている。センサハウジング13の内部には、ステアリングシャフト2に近接して操舵トルクを検出するためのトルクセンサ15が収容されている。ギヤハウジング14には、ステアリングシャフト2に操舵捕助力を付与するための電動モータ16と、電動モータ16の動作を制御する制御部25が取り付けられている。
【0012】
図示していないが、ギヤハウジング14の内部には減速機構が収容されている。この減速機構は、電動モータ16の出力軸に連結された駆動ギヤと、この駆動ギヤに噛み合いかつステアリングシャフト2に同軸心状に連結された従動ギヤとを有している。ステアリングホイール4が運転者により操舵されると、車体側のECU(Electronic Control Unit)と連動する制御部25が、トルクセンサ15の検出値と車速の検出値に基づいて、所定電圧で電動モータ16を駆動する。そして、この電動モータ16の駆動力がギヤハウジング14内の減速機構を介してステアリングシャフト2に伝達されることにより、運転者のステアリング操作に対する操舵補助が行われる。
【0013】
ステアリングコラム3の下端部は、ピボット軸19を含むヒンジ機構20により、上下方向に回動可能に支持されている。すなわち、ギヤハウジング14に設けられた左右一対の突出部17であるコラムブラケットには、ピボット軸19が設けられている。ピボット軸19は、サポートブラケット18に支持されている。このため、ステアリングコラム3全体がステアリングホイール4とともに、ピボット軸19の回りに揺動可能であり、これにより、ステアリングホイール4の高さ方向位置を調整できるようになっている。
【0014】
ステアリングコラム3のアッパチューブ11には、サポートハウジング22が固定されている。サポートハウジング22には、操作レバー21に対する操作によって、ステアリングコラム3の伸縮および揺動のロック/アンロックを行うロック機構24を収容している。運転者は、操作レバー21をアンロック状態に切り替えてから、ステアリングホイール4を所望の位置に調整し、その後、操作レバー21をロック状態に戻すことにより、ステアリングホイール4の前後方向位置および高さ方向位置の調節を行うことができる。
【0015】
サポートブラケット18とサポートハウジング22は、何れも車体側のメインブラケット23に対して固定されている。
【0016】
センサハウジング13とサポートハウジング22は、本実施形態に係るワイヤロープ30によって連結されている。ワイヤロープ30の下側端部32は、センサハウジング13の外周面に形成されたワイヤ連結部27にねじ28によって連結されている。ワイヤ連結部27の周囲には、ワイヤロープ30のセンサハウジング13に対する相対回転を規制する回り止め26が形成されている。ワイヤロープ30の上側端部40は、サポートハウジング22の上面に形成されたワイヤ連結部29にねじによって連結されている。図1に示すように、ワイヤロープ30の下側端部32がセンサハウジング13に取り付けられる位置と、ワイヤロープ30の上側端部40がサポートハウジング22に取り付けられる位置は、ステアリングコラム3の軸周りに90度異なる角度となるように配置されている。
【0017】
図2はワイヤロープ30の全体構成を示している。ワイヤロープ30は、金属ワイヤ31と、センサハウジング13に連結する下側端部32と、サポートハウジング22に連結する上側端部40から構成されている。
【0018】
金属ワイヤ31は、複数本の硬鋼線によって構成されている。金属ワイヤ31には、プル型のワイヤを用いることができる。金属ワイヤ31は、撚り線構造を有しており、1本の撚り線で構成される単撚り構造や、複数の撚り線が撚り合わされた複撚り構造を採ることができる。金属ワイヤ31の上端部(上側端部40側の端部)には、図3,5に示すように、後で詳述する拡径部33が形成されている。
【0019】
下側端部32は、金属ブロック34と、樹脂カラー35と、端子金具36を備えている。金属ブロック34は、略円柱状に形成された、亜鉛ダイカスト製のブロック状部材である。金属ブロック34は、インサート鋳造によって、金属ワイヤ31の下端部(下側端部32側の端部)と一体的に形成されている。樹脂カラー35は、金属ブロック34の外周を覆う形状に形成されている。端子金具36は、樹脂カラー35にカシメ固定されるカシメ部37と、センサハウジング13にねじ止めされる座金部38を備えている。金属ブロック34が樹脂カラー35を介して端子金具36に固定されることで、金属ブロック34は端子金具36と電気的に絶縁されている。
【0020】
上側端部40は、図2,3,5に示すように、金属ワイヤ31に固定される端子金具42を備えている。端子金具42は、金属ワイヤ31にカシメ固定されるカシメ部42bと、サポートハウジング22にねじ止めされる座金部42aを備えている。カシメ部42bは、底板44cと、底板44cから左右に伸びる側板44a,44bによって構成されている。カシメ部42bに金属ワイヤ31が固定される前は、側板44a,44bが上方に伸び、底板44cの上方の空間が開放されている。このため、金属ワイヤ31を底板44c上に容易に載置することができる。カシメ部42bに金属ワイヤ31を固定するには、底板44c上に金属ワイヤ31を載置した状態で、金属ワイヤ31を両側から包むように側板44a,44bをカシメて変形させる。これによって、図4に示すように、金属ワイヤ31の周囲が側板44a,44bによって覆われ、端子金具42と金属ワイヤ31とが固定される。
【0021】
図3,5に示すように、金属ワイヤ31の先端には拡径部33が形成されている。詳細には、金属ワイヤ31のワイヤ端(上側端部40側の端)からカシメ部42bにより端子金具42に固定される部位との間に、拡径部33が形成されている。拡径部33は、金属ワイヤ31の先端を拡径加工することによって形成されている。拡径加工には、例えば、金属ワイヤ31の先端を冶具(型)で曲げる曲げ加工を用いることができる。金属ワイヤ31の先端を曲げ加工することで金属ワイヤ31が傘状に広がり、金属ワイヤ31に拡径部33が形成される。また、金属ワイヤ31の先端に拡径部33を形成することによって、金属ワイヤ31の先端がばらばらになることを防止することができる。
【0022】
拡径部33の外径Dは、金属ワイヤ31の径d(すなわち、拡径部33以外であって、かつ、カシメ部42bにより端子金具42に固定される部位以外の金属ワイヤ31の径)よりも大きくされている。これによって、金属ワイヤ31の端子金具42からの抜止めが図られている。すなわち、金属ワイヤ31と端子金具42との分離強度(分離荷重)の向上が図られている。なお、拡径部33の外径Dと金属ワイヤ31の径dとの比D/dは1.1〜2.5とすることが好ましい。D/dが1.1以下では、分離強度の向上が十分に発揮できないためである。一方、D/dが2.5以上となると、金属ワイヤ31の軸線とカシメ部42bの軸線が大きくズレることになり、金属ワイヤ31と端子金具42との固定が難しくなるためである。なお、カシメ部42bにより端子金具42に固定される部位の金属ワイヤ31の径は、カシメ部42bにより圧縮されるため、上記の径dよりも小さくなっている。
【0023】
金属ワイヤ31に端子金具42が固定された状態では、拡径部33はカシメ部42bに隣接した位置に配置されている。このため、金属ワイヤ31に張力が作用すると、その張力は拡径部33を介して端子金具42に伝わる。その結果、金属ワイヤ31に作用する張力を、金属ワイヤ31とカシメ部42bとの間に発生する摩擦力と、拡径部44から端子金具42に作用する力によって受けることとなる。このため、金属ワイヤ31に対する端子金具42の位置ずれを好適に防止することができる。
【0024】
ここで、拡径部33の外径Dと金属ワイヤ31の径dとの比D/dを変えて、端子金具42と金属ワイヤ31との分離荷重を測定した結果について説明する。なお、測定に用いた金属ワイヤ31の径dは2.005mmとした。測定方法には、端子金具42を固定した状態で金属ワイヤ31を引っ張り、端子金具42と金属ワイヤ31が分離したときに金属ワイヤ31に作用している張力を測定する方法を用いた。
【0025】
図6に示すように、比D/dが1.0のワイヤロープ(すなわち、拡径部33を有していないワイヤロープ(比較例))では分離荷重は2.0kN未満となった。一方、比D/dが1.0より大きいワイヤロープ(すなわち、拡径部33を有するワイヤロープ)では、拡径部33の径Dが大きくなるのに伴って分離荷重が上昇し、比D/dが1.6以上となると分離荷重が2.0kNを超えた。ステアリング装置1において、センサハウジング13とサポートハウジング22を連結する金属ワイヤ31には、ステアリング装置1を車両に組付ける際に張力が作用する。車両組付け時にワイヤロープ30に作用する張力は2kN程度であることが知られている。このため、金属ワイヤ31と端子金具42との分離荷重が2.0kNより大きければ、ステアリング装置1を車両に組付ける際に、金属ワイヤ31が端子金具42から抜けてしまうという事態を防止することができる。その結果、ステアリング装置1を車両に組付ける作業を容易に行うことができる。
【0026】
以上、説明したように、本実施形態のワイヤロープ30では、金属ワイヤ31に拡径部33を形成することで、金属ワイヤ31と端子金具42との分離強度を高めている。金属ワイヤ31に拡径部33を形成するだけなので、金属ワイヤ31に端子金具42を固定するための構造を簡易にすることができ、その固定作業も容易に行うことができる。
【0027】
また、金属ワイヤ31と端子金具42との分離強度が高められるため、カシメ部42bの軸方向の長さを短くすることができる。すなわち、カシメ部42bと金属ワイヤ31との間に発生する摩擦力は、カシメ部42bの軸方向の長さに比例して変化する。金属ワイヤ31に形成された拡径部33によって分離強度が向上されると、カシメ部42bに求められる摩擦力は小さくて済む。このため、カシメ部42bの軸方向の長さを短くすることができる。なお、カシメ部42bの軸方向の長さを短くできると、ワイヤロープ30の配索経路の自由度が広がり、ワイヤロープ30と他の部品との干渉等の問題が発生することを抑制することができる。
【0028】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0029】
例えば、金属ワイヤに形成する拡径部の形状は種々の形態を採ることができる。図7に示す拡径部53のように先端に向かって単調に広がる形状としてもよいし、図8に示す拡径部63のように方形状としてもよい。なお、方形状の拡径部63を採用する場合は、その角部をR形状とすることが好ましい。角部にRをつけることで、金属ワイヤを構成する鋼線に作用する負荷が低減でき、金属ワイヤの耐久性を向上することができる。
【0030】
また、端子金具42の底板44cには、側板44a,44bが設けられた位置と、拡径部33が当接する位置とで段差が形成されていてもよい。底板44cに段差を形成することで、金属ワイヤ31の軸線とカシメ部42bの軸線を一致させ易くなり、金属ワイヤ31と端子金具42との固定を好適に行うことができる。
【0031】
なお、上述した実施形態では、2つの部品を連結するワイヤロープに本願の技術を適用した例であったが、本願の技術は、コントロールケーブルのインナーケーブルの端部構造に適用することもできる。
【0032】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0033】
1 ステアリング装置
2 ステアリングシャフト
3 ステアリングコラム
4 ステアリングホイール
5 自在継手
6 中間軸
7 自在継手
8 ピニオン軸
9 ラック軸
10 操舵機構
11 アッパチューブ
12 ロアチューブ
15 トルクセンサ
16 電動モータ
19 ピボット軸
20 ヒンジ機構
21 操作レバー
24 ロック機構
25 制御部
27 ワイヤ連結部
29 ワイヤ連結部
30 ワイヤロープ
31 金属ワイヤ
32 下側端部
33 拡径部
34 金属ブロック
35 樹脂カラー
36 端子金具
38 座金部
40 上側端部
42 端子金具
42a 座金部
42b カシメ部
44 拡径部
44a,44b 側板
44c 底板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤと、
ワイヤの少なくとも一端部に固定される端子金具と、を有しており、
端子金具は、ワイヤにカシメ固定されるカシメ部を有しており、
ワイヤは、端子金具が固定される側のワイヤ端からカシメ部により端子金具に固定される部位との間に拡径部を有しており、
拡径部の外径は、拡径部以外であって、かつ、カシメ部により端子金具に固定される部位以外の部位におけるワイヤの外径より大きい、ワイヤロープ。
【請求項2】
ワイヤに端子金具が固定された状態では、カシメ部と拡径部とが隣接して配置されている、請求項1に記載のワイヤロープ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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