説明

ワイヤーハーネス端末等の処理構造

【課題】電線方向に対してコネクタを簡易な構成で横向きすることができるワイヤーハーネス端末等の処理構造を提供すること。
【解決手段】電線4に外装される外装材5の開口端部5aから該外装材5長さ方向に沿った所定長さの切り込み部6を形成し、その切り込み部6から内部の電線4を外部に露出させてコネクタ3を接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用ワイヤーハーネに関し、さらに詳しくは電線外装材が施されたワイヤーハーネス端末等の処理構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車のエンジンルーム内などに配索されるワイヤハーネスを構成する電線においては、この電線を熱や埃から保護するとともに周辺部品との接触を防止するために、中空状のチューブ材が外装されている。
【0003】
図7は、複数本の電線31を束ねた幹線部32と、この幹線部32の分岐部33から分岐された支線部34と、この支線部34の先端部分に電気機器や各種センサ等への接続のためのコネクタ35とからなるワイヤーハーネス30が示されている。図示されるように幹線部32にはコルゲートチューブ36が、また、支線部34には屈曲性に富む薄肉のチューブ37が、幹線部32および支線部34の電線31を保護すべく外装されている。通常、このようなワイヤーハーネス30は、電線31の長さやこれに外装されるコルゲートチューブ36やチューブ37の長さを厳密に寸法管理して製作されている。
【0004】
図8はワイヤーハーネス30がエンジン20に配索された状態を示しており、特に支線部34のコネクタ35とエンジン20に設けられた相手側コネクタ21との接続前の状態を示している、この場合、支線部34の長手方向に対して横に向いた相手側コネクタ21への接続においては、コネクタ35の抜き差しを考慮して、特に、途中位置でエンジン20に固定したブラケット22からの支線部34長さに、迂回経路38の分だけ余裕を持たせてある。
【0005】
コネクタの抜き差し方向と電線方向は平行であるのが通常であるが、車両制約等により接続の相手側コネクタが電線方向に対して横向きである場合は、図示したよう抜き差しのための迂回経路38の分長く製作する必要がある。更に実際の配索時においては、電線31やチューブ37に曲げ癖を付け、テープで固定したり、場合によってはゴムのブーツや樹脂のカバーで電線方向を規制する作業が行われる。
【0006】
【特許文献1】特開2003−45556号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このようなコネクタ同士の接続のための迂回経路分の電線長さやコネクタ方向を電線方向に対して横向きに規制する作業を解消するには、上記特許文献1に記載のようなコネクタ自体に樹脂のカバーを付けて電線方向を規制してコネクタを横向きする方法がある。しかしながら、これを実施するためには数種類のコネクタの形状毎にその形に合わせたカバーを作る必要があることから、全てのコネクタに対応させることが難しく、汎用性がないため実施が困難である。また、コネクタにカバーを付けるとコネクタサイズが大きくなり、狭いスペースなどの車両制約に合わない場合もある。更には、カバーを付けるとコストや重量も増加する。
【0008】
そこで本発明が解決する課題は、電線方向に対してコネクタを簡易な構成で横向きにすることができるワイヤーハーネス端末等の処理構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本発明に係るワイヤーハーネス端末等の処理構造は、電線に外装される中空状の外装材の開口端部から所定長さの切り込み部が形成され、その切り込み部から内部の電線が外部に露出されていることを要旨とするものである。
【0010】
この場合、前記外装材の開口端部には、前記切り込み部から電線が外れることを防止する電線飛び出し防止部が設けられていると良い。また、前記切り込み部の前記電線が露出された位置には、該電線を係止する係止部が設けられていると良い。更に、前記切り込み部は蛇行形状であると良い。
【発明の効果】
【0011】
上記構成を有するワイヤーハーネス端末等の処理構造によれば、電線に外装される外装材の開口端部から所定長さの切り込み部が形成され、その切り込み部から内部の電線が外部に露出されている構成であるので、例えば外装材端部においてコネクタを横向き状態にすることに適用する場合は、既存のチューブなどの外装材の開口端部からやや短めに切り込み部を切開により形成して、そこから電線を外部に露出させてコネクタを接続すれば簡単に外装材端部においてコネクタを横向き状態にすることができる。これはコネクタの種類に関係なく適用でき、コスト増や重量増にもならず、上述したような電線余長やコネクタ方向を規制する作業が解消される構成である。
【0012】
また、この処理構造はハーネス分岐部にも適用することができる。例えば既存のチューブなどの外装材の開口端部からやや長めに切り込み部を切開により形成してそこから電線の一部、つまり分岐させたい電線を外部に露出させることでハーネス分岐部として構成することが可能である。従来は、図7に示される分岐部33のように、分岐個所では電線の外装材を枝毎に分割するということが行われていたが、本構成によれば、外装材の分割数が減ることになる。更には、従来は図7に示される分岐部33のように、分岐個所の電線が外装材に覆われないため露出されることになるが、本構成によれば、切り込み部が形成された外装材が分岐個所の電線を覆うことになるため、電線保護性能が向上するというものである。
【0013】
この場合、前記外装材の開口端部には、前記切り込み部から電線が外れることを防止する電線飛び出し防止部が設けられている構成にすれば、例えば露出された電線にコネクタが接続されている場合などはそのコネクタの抜き差し時において、切り込み部から電線が飛び出してしまうことが防止される。また、前記切り込み部の前記電線が露出された位置には、該電線を係止する係止部が設けられている構成にすれば、外装材に対する電線の横向き状態等を簡易に規制できる。更に、前記切り込み部は蛇行形状である構成にすれば、電線飛び出し防止と電線横向き状態等の規制を両立させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明に係るワイヤーハーネス端末等の処理構造の実施の形態について図面を参照して説明する。先ず、図1から図4を用いて、本発明の第1実施形態に係るワイヤーハーネス端末等の処理構造について説明する。
【0015】
図1に示されるワイヤーハーネス1は、複数本の電線4を束ねた幹線部32と、この幹線部32の分岐部33から分岐された支線部2とで構成されており、幹線部32にはコルゲートチューブ36が外装されている。
【0016】
図示される支線部2は、端末にコネクタ3が接続された電線4とその電線4に外装される中空状のチューブ5とで構成されている。このチューブ5には図2に示すように、その開口端部5aからチューブ長さ方向に沿った所定長さの切り込み部6が形成されており、電線4はチューブ5内部から下方に向けられたこの切り込み部6を介して外部に露出され、その露出された電線4端末にコネクタ3が接続されている。この切り込み部6は、露出させる電線本数が少ない場合はカッター等による切れ目形状のものや、露出させる電線本数は多い場合は一部を切り欠いたスリット形状のものなどがあり、露出させる電線本数に応じた形状が選択される。
【0017】
また、チューブ5の開口端部5aには溶着加工により溶着部7が形成されて開口端部5aが閉塞されており、電線4が切り込み部6から外れたり飛び出さないようになっている。この場合、図示しないが開口端部5aへのテーピングなどによっても、電線4が切り込み部6から外れないようにすることができる。
【0018】
このような支線部2のハーネス製作手順としては例えば、1)チューブ5の開口端部5aに長手方向に沿った切り込み部6を、カッター等による切開で切れ目や一部を切り欠いたスリットとして形成する。2)切り込み部6が形成された側をコネクタ3側として、電線4にチューブ5を通す。3)切り込み部6から電線4端部を露出させコネクタ3を接続する。4)チューブ5の開口端部5aに溶着加工により溶着部7を形成することで支線部2の製作は完了する。
【0019】
図3は上述した従来技術の図8と同様にエンジン20への配索状態及びエンジン20に設けられた相手側コネクタ21との接続前の状態を示したもので、図示されるように、支線部2の長さ方向に対して横に向いた相手側コネクタ21への接続は、途中位置で固定したブラケット22からの支線部2長さにほとんど余裕を持たせることなく、コネクタ同士の抜き差しが容易になっている。また、ハーネス高さHも低くすることができ、狭いスペースなどでの配索が可能になっている。
【0020】
このようなワイヤーハーネス端末等の処理構造によれば、コネクタ同士の抜き差しを考慮して支線部を図8のように長く製作する必要がなく、又、電線やチューブに曲げ癖を付け、テープで固定したり、ゴムのブーツや樹脂のカバーで電線方向を規制する作業が不要になる処理構造である。また、特許文献1に記載のようなコネクタカバーなどの別途必要な部材がなく、コネクタの種類に関係なく適用でき、コスト増や重量増にもならない。このように既存のチューブに切り込み部を追加工するだけで、簡単にコネクタの横出し構造を実現できるというものである。
【0021】
上述したチューブ5の開口端部5aに形成された切り込み部形状の変形例としては、図4に示すようなものがある。図4(a)は開口端部5aとは反対側の端部に係止穴8aが形成された切り込み部8が示されており、露出された電線4がこの係止穴8aに係止されることで、電線4及びコネクタ3の横向き状態が簡便に規制されるというものである。また、図4(b)に示すように、開口端部5aとは反対側の端部にチューブ長さ方向に直交する係止溝9aが形成された切り込み部9のような構成でも同様に、電線4及びコネクタ3の横向きを簡便に規制することができる。
【0022】
図4(c)に示す切り込み部10は、チューブ長さ方向に向かって蛇行した形状の切り込み部で、露出された電線4はこの蛇行形状により切り込み部10に係止されることから、電線4及びコネクタ3の横向き規制がなされる。これらの変形例によれば、切り込み部の電線が露出された位置に電線を係止する係止部が設けられている構成にすれば、チューブに対する電線及びコネクタの横向き状態を簡易に規制でき、又、切り込み部が蛇行形状である構成にすれば、電線飛び出し防止と電線及びコネクタ横向き規制を両立させることができる。
【0023】
次に、図5及び図6を用いて、本発明の第2実施形態に係るワイヤーハーネス端末等の処理構造について説明する。上述した第1実施例では、外装材であるチューブのコネクタ側の開口端部からやや短めの切り込み部を形成して、外装材端部における電線及びコネクタを横向きにする構成について説明したが、この第2実施例は、外装材であるチューブのコネクタ側とは反対側の開口端部から外装材途中位置までやや長めの切り込み部を形成して、外装材途中位置において電線を分岐させる構成についての説明である。
【0024】
図5(a)に示されるワイヤーハーネス11は、複数本の電線4を束ねた幹線部12と、この幹線部12の分岐部13から分岐された支線部14とで構成されており、図示される幹線部12及び支線部14は、それぞれ電線4と分岐された電線4aに外装される中空状のチューブ15,17とで構成されている。
【0025】
幹線部12のチューブ15には図6に示すように、そのコネクタ18側とは反対側の開口端部15aから分岐部13となる途中位置までチューブ長さ方向に沿った所定長さの切り込み部16が形成されている。
【0026】
電線4の一部、つまり分岐させた電線4aはチューブ15の下方に向けられたこの切り込み部16を介して外部に露出され、その露出された電線4aにはチューブ17が外装されている。また、電線4a端部にはコネクタ19が接続されている。図5(a)には図示しないが、分岐部13には図5(b)に示すようにテーピングが施される。
【0027】
このような分岐部13を有する幹線部12及び支線部14のハーネス製作手順としては例えば、1)幹線部12のチューブ15に、コネクタ18側とは反対側の開口端部15aから長手方向に沿った切り込み部16を、カッター等による切開で切れ目や一部を切り欠いたスリットとして形成する。2)既にハーネス製作図板上で分岐形状にされた電線4,4aにチューブ15,17をそれぞれ通す。この場合、チューブ15は切り込み部16から電線4aが露出するように電線4に通し、チューブ17は露出した電線4aに通す。3)それぞれの電線4,4aの端末にコネクタ18,19を接続する。4)そして図5(b)に示すように分岐部13及び切り込み部16を覆うようにテーピングして幹線部12及び支線部14の製作は完了する。
【0028】
このように既存のチューブなどの外装材の開口端部からやや長めに切り込み部を切開により形成してそこから電線の一部、つまり分岐させたい電線を外部に露出させることでハーネス分岐部として構成することが可能である。従来は、図7に示される分岐部33のように、分岐個所では電線の外装材を枝毎に分割するということが行われていたが、本構造によれば、外装材の分割数が減る。更には、従来は図7に示される分岐部33のように、分岐個所の電線が外装材に覆われないため露出されることになるが、本構造によれば、切り込み部が形成された外装材が分岐個所の電線を覆うため、電線保護性能が向上するというものである。
【0029】
以上、本発明に係るワイヤーハーネス端末等の処理構造の実施の形態について説明したが、本発明はこうした実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施できることは勿論である。例えば、実施例で示した切り込み部の形状は一例であり、種々なる形状のものが適用でき、実施例のものには限定されない。また、図6に示した分岐用の切込み部16の形状に、図4(a)〜(c)を適用することもできる。更には、図5に示した分岐構造においては、図示しないが、チューブ17の切り込み部16側の端部をその切り込み部16内に臨ませて、電線4aが外部に露出しないように構成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るワイヤーハーネス端末等の処理構造の概略構成を示した図である。
【図2】図1のチューブの切り込み部正面図である。
【図3】図1のワイヤーハーネスの配索状態を示した図である。
【図4】図2の切り込み部の変形例を示した図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係るワイヤーハーネス端末等の処理構造の概略構成を示した図である。
【図6】図5のチューブの切り込み部正面図である。
【図7】従来用いられてきたワイヤーハーネスの概略構成を示した図である。
【図8】従来用いられてきたワイヤーハーネスの配索状態を示した図である。
【符号の説明】
【0031】
1 ワイヤーハーネス
2 支線部
3 コネクタ
4 電線
5 チューブ
5a 開口端部
6 切り込み部
8 切り込み部
7 溶着部
8a 係止穴
9 切り込み部
9a 係止溝
10 切り込み部
11 ワイヤーハーネス
12 幹線部
13 分岐部
14 支線部
15 チューブ
15a 開口端部
16 切り込み部
17 チューブ
18 コネクタ
19 コネクタ
20 エンジン
21 相手側コネクタ
22 ブラケット
32 幹線部
33 分岐部
36 コルゲートチューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線に外装される中空状の外装材の開口端部から所定長さの切り込み部が形成され、その切り込み部から内部の電線が外部に露出されていることを特徴とするワイヤーハーネス端末等の処理構造。
【請求項2】
前記外装材の開口端部には、前記切り込み部から電線が外れることを防止する電線飛び出し防止部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のワイヤーハーネス端末等の処理構造。
【請求項3】
前記切り込み部の前記電線が露出された位置には、該電線を係止する係止部が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のワイヤーハーネス端末等の処理構造。
【請求項4】
前記切り込み部は蛇行形状であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のワイヤーハーネス端末等の処理構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−40816(P2006−40816A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−222330(P2004−222330)
【出願日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】