説明

ワイヤ放電加工装置の物理量変化状態表示システム

【課題】 各種物理量の値を検出時点の加工位置と対応させて記録すると共に、物理量が許容範囲を外れた場合はその状態を識別可能な表示を行わせ、加工後における加工品形状の異常の原因追及と対策を容易にするワイヤ放電加工装置の物理量変化状態表示システムを提供する。
【解決手段】 加工環境に係る各種物理量を検出し、検出値を検出時点の被加工物に対するワイヤ位置と対応付けながら履歴情報として記録していくと共に、物理量の値が予め設定した許容範囲を外れると、表示用画像におけるその時点のワイヤ位置の表示を通常表示と異ならせ、これ以降の加工中及び加工後において前記状態を認識可能とすることから、加工停止には至らないものの加工精度への影響が懸念される程度に物理量が変化した状況及びその加工位置を適切に把握でき、異常を迅速容易に検出できると共に、対策による改善も確実に行える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤ放電加工装置の加工環境に係る温度や圧力等の物理量変化状態を画面上に表示可能とする表示システムに関し、特に、加工形状やワイヤ位置を示す画像上で、物理量変化が生じた状態をその時点のワイヤ位置等に特別な表示を付加して示す一方、物理量の変化をワイヤ進行に対応付けて変化履歴として記録保存し、後で利用可能とする、ワイヤ放電加工装置の物理量変化状態表示システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤ放電加工装置は、被加工物(ワーク)に対し極めて精密な加工を行えるという特長を有しているが、反面、加工液の温度や装置本体の温度、装置周辺の温度等の変動に伴って、装置各部や被加工物にほんの僅かな熱変形が生じたとしても、加工精度への影響は大きくなる。このため、こうした加工液等の温度については、それぞれ温度センサを設けるなどして温度を検出し、得られる検出温度があらかじめ設定した温度範囲から外れないように、冷却装置やエアコン等を用いた調節が行われる。ただし、何らかのトラブルで温度調節が適切に行われず、検出温度が設定温度範囲から外れた場合、この異常状態を検知した加工装置は管理者に向けて異常を知らせる警報を出した上で、加工を停止する等の制御を行うようになっていた。こうした従来のワイヤ放電加工装置の温度による制御の例としては、特開平2−116418号公報に示されるものがある。
【0003】
一方、ワイヤ放電加工装置では、加工形状や加工中のワイヤ位置、加工条件等他の情報を表示用画面上に表示する機能を備えるものが、近年一般的となっており、こうした表示により、被加工物を加工する上で適切な加工動作を行っているかを装置管理者が視覚的に確認でき、装置を適切に運転制御する上で重要な役割を果している。このような従来の放電加工における表示機能の例が、特開2005−1033号公報に開示されている。
【特許文献1】特開平2−116418号公報
【特許文献2】特開2005−1033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のワイヤ放電加工装置においては、前記特許文献1に示すように、加工液等の検出温度があらかじめ設定した温度範囲から外れた場合、加工が停止されることで異常状態を管理者も知ることができ、異常の原因調査も行える。また、前記特許文献2で示されるような表示用画面上で、前記検出温度が設定温度範囲から外れた場合に警告等の表示を行わせることは容易に想到でき、この場合も、表示により管理者は異常状態を把握することができる。
【0005】
しかし、加工中、センサで検出される温度が設定温度範囲から外れないながらも、上下限温度近傍の温度として検出される状態が継続し、そのことが原因で、被加工物の加工精度に何らかの問題が生じる場合、加工中においては検出温度が設定温度範囲内であるために加工は停止することなく継続して行われ、加工途中で装置が警報を発することもないため、装置管理者が加工中に異常として捉えることができず、加工終了後における被加工物の加工形状測定工程にならないと、この加工精度の問題が顕在化しないという課題を有していた。
【0006】
加えて、この加工精度の問題が加工中の前記温度状態となったことによるものかどうかの判断は、加工後にあっては、あらかじめ加工中の検出温度の変化を全て記録しておかない限り不可能であり、また、温度を記録していたとしても、加工プログラムに基づく加工工程からおおよその経過時間における加工位置を導き、問題の部位と温度の記録とを対照して温度変化による異常を推定するという手順を踏むこととなり、原因究明に時間がかかるという課題を有していた。
【0007】
本発明は前記課題を解消するためになされたもので、加工中における温度等の物理量の値を検出時点の加工位置と対応させて記録すると共に、設定した範囲を外れた場合はその状態を識別可能な表示を行わせ、加工時点で物理量変化の影響を予測可能とし、加工後における加工品形状の異常の原因追及と対策を容易にして加工品質の改善が適切に図れるワイヤ放電加工装置の物理量変化状態表示システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るワイヤ放電加工装置の物理量変化状態表示システムは、ワイヤ放電加工装置の加工環境に係る所定の一又は複数の物理量を検出する一又は複数の検出手段と、当該検出手段で取得された一又は複数の物理量の加工装置運転中における変化を、加工装置運転中におけるワイヤ位置の変化と対応付けて所定の記録手段に履歴情報として記録する履歴情報管理手段と、範囲外に前記物理量が達すると前記加工装置における加工を停止させるようあらかじめ設定された物理量の加工許容範囲に対し、所定の上限及び/又は下限の閾値で規定されて前記加工許容範囲より狭くなる一又は複数の他の許容範囲を設定し、前記検出手段から取得した物理量の値が前記他の許容範囲内にあるか否かを判定する物理量監視手段と、加工中の被加工物に対するワイヤ位置及びワイヤの加工軌跡を表示する所定の表示用画像を生成すると共に、前記物理量監視手段で物理量が前記他の許容範囲を外れたと判定した場合には、前記画像における前記他の許容範囲を外れた時期のワイヤ位置又は当該ワイヤ位置近傍を示す部位の全部又は一部に、通常のワイヤ位置及びワイヤの加工軌跡の各表示状態とは異なる所定の表示が付加された画像を生成する表示制御手段と、当該表示制御手段で生成した画像を所定の表示画面上に表示する表示手段とを備えるものである。
【0009】
このように本発明によれば、加工装置及び被加工物の周囲の状態を示す各種物理量を検出して監視し、検出値を検出時点の被加工物に対するワイヤ位置と対応付けながら履歴情報として記録していくと共に、物理量の値があらかじめ設定した他の許容範囲を外れると、表示手段で表示される表示用画像におけるその時点のワイヤ位置又はその近傍を表している所定位置の表示を通常表示と異ならせ、この物理量が前記他の許容範囲を外れた状況を、これ以降の加工中及び加工後においても表示手段の表示画面上で認識可能とすることにより、加工停止には至らないものの加工精度への影響が懸念される程度に物理量が変化した状況及びその時点の加工位置を、装置を取扱う管理者が表示画面を見て通常状態との相違から確認でき、この確認時点で可能な対応を管理者及び/又は加工装置が実行可能になると共に、物理量変化を伴ったワイヤ加工軌跡を示す画像から、加工形状における物理量変化のあった部分が加工後においても容易に認識でき、物理量変化による加工品への影響を予測しやすく、物理量変化のあった加工部位を意識して加工後の加工形状検査を行えることで異常を確実且つ迅速容易に検出できる。また、加工品の加工形状検査で異常があった場合に、異常部位について履歴情報と照らし合せて、物理量変化による影響か否かを適切に判別でき、異常の原因追及が極めて容易となり、対策による加工の改善を確実なものとすることができる。
【0010】
また、本発明に係るワイヤ放電加工装置における物理量変化状態表示システムは必要に応じて、前記表示制御手段が、前記物理量監視手段で物理量が前記他の許容範囲を外れたと判定した場合における前記所定の表示として、前記画像における前記判定時点のワイヤ位置で、通常のワイヤ位置表示色とは異なる描画色による表示を行わせるものである。
【0011】
このように本発明によれば、装置周囲の状態変化を示す各種物理量の値が他の許容範囲を外れた場合に、表示される表示用画像におけるその時点のワイヤ位置を表す箇所の表示色を通常のワイヤ位置表示色と異ならせ、物理量が他の許容範囲を外れた状況を表示画面上で色の違いから識別可能とすることにより、管理者が表示画面を見て物理量の変化した状況及びその時点の加工位置を容易且つ適切に確認できることとなり、物理量変化による加工品への影響に対して加工中又は加工後における管理者の迅速な対応を促せる。
【0012】
また、本発明に係るワイヤ放電加工装置における物理量変化状態表示システムは必要に応じて、前記表示制御手段が、既に記録された前記物理量の履歴情報に基づいて、物理量の推移を表すグラフ画像を生成し、前記加工中の被加工物に対するワイヤ位置及びワイヤの加工軌跡を表示する画像と同時に、又は当該画像と切換えて別個に、前記グラフ画像を前記表示手段に表示させるものである。
【0013】
このように本発明によれば、表示手段の表示画面上に物理量の推移を表すグラフ画像を表示可能とし、物理量の変化の過程を管理者が必要に応じて視認可能とすることにより、加工中における物理量の変化状態を表示画像から詳細に確認でき、物理量が設定範囲を外れた場合に、この物理量がどのような変化を経て範囲を外れるに至ったかを容易に把握できることとなり、加工後に判明する加工形状異常と物理量の変化状態との関連を把握しやすく、加工形状異常の原因究明を適切に行えると共に、物理量の変化に基づいて加工後の加工品の異常状態及びその発生箇所を適切に推定できる。
【0014】
また、本発明に係るワイヤ放電加工装置における物理量変化状態表示システムは必要に応じて、前記物理量監視手段で物理量が前記他の許容範囲を外れたと判定した場合に、前記加工装置の管理者に注意を喚起する所定の情報を加工装置周囲に向けて直接発報、及び/又は所定の通信媒体を介して管理者側端末に伝送する報知手段を備えるものである。
【0015】
このように本発明によれば、物理量が他の許容範囲を外れたことを表示画面によらずに示す報知手段を設け、この報知手段を用いて加工装置周囲及び/又は加工装置から離れた管理者に情報を伝達できることにより、加工装置その他に対する管理者の迅速な対応を可能にして、物理量変化の加工精度への影響を必要最小限にとどめられる。
【0016】
また、本発明に係るワイヤ放電加工装置における物理量変化状態表示システムは必要に応じて、前記物理量監視手段で物理量が前記他の許容範囲を外れたと判定した場合に、前記加工装置の数値制御部に対し、物理量変化に対応した所定の加工条件調整制御動作を行わせる復旧制御手段を備えるものである。
【0017】
このように本発明によれば、物理量が他の許容範囲を外れた場合に加工装置の数値制御部へ制御動作を行わせる復旧制御手段を設け、制御部を介して加工装置に加工条件調整を実行させることにより、物理量が他の許容範囲を外れてもこの物理量変化に対応させて被加工物への加工条件を変更して、本来の加工精度を維持した状態で加工を継続できることとなり、加工時間を大きく変えることなく、物理量変化の加工精度への影響を必要最小限にとどめられる。
【0018】
また、本発明に係るワイヤ放電加工装置における物理量変化状態表示システムは必要に応じて、前記物理量監視手段で物理量が前記他の許容範囲を外れたと判定した場合に、加工装置の数値制御部に対し、物理量が他の許容範囲内の値に戻るまで加工を一時中断する制御指令を与える復旧制御手段を備えるものである。
【0019】
このように本発明によれば、物理量が他の許容範囲を外れた場合に加工装置の数値制御部へ制御指令を与える復旧制御手段を設け、制御部を介して加工装置における加工を一時中断させることにより、物理量が他の許容範囲を外れて、仮に加工精度に悪影響が生じたとしても、物理量が他の許容範囲内の値に戻るまで被加工物に対する加工がなされず、物理量変化の影響を被加工物に与えずに済むこととなり、加工を行う場合は常時正常な加工精度を維持した状態で加工でき、物理量変化の加工精度への影響を排除できる。
【0020】
また、本発明に係るワイヤ放電加工装置における物理量変化状態表示システムは必要に応じて、前記物理量監視手段で物理量が前記他の許容範囲を外れたと判定した場合に、加工装置における物理量維持調整手段とは別個に設けられる所定の物理量調整用設備に対し、物理量が他の許容範囲内の値に戻るまで所定の物理量調整動作を行わせる復旧制御手段を備えるものである。
【0021】
このように本発明によれば、物理量が他の許容範囲を外れた場合に物理量調整用設備に物理量調整動作を行わせる復旧制御手段を設け、物理量調整用設備で物理量が他の許容範囲内の値に戻るよう調整することにより、加工装置の物理量維持調整手段におけるトラブル等で物理量が一旦他の許容範囲を外れたとしても、予備に設けた物理量調整用設備の調整動作を通じて物理量を他の許容範囲内の値に戻せることとなり、物理量変化の影響を被加工物に与えずに済み、正常な加工精度をほとんど維持した状態で加工を継続できることとなり、加工時間を大きく変えることなく、物理量変化の加工精度への影響を必要最小限にとどめられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態に係るワイヤ放電加工装置における物理量変化状態表示システムを、図1ないし図6に基づいて説明する。本実施形態では、ワイヤ放電加工装置において所定の物理量が前記他の許容範囲を外れた場合の、ワイヤ位置や加工軌跡の表示用画像における表示状態を、通常の表示色とは別の色に変える例について説明する。図1は本実施形態に係る物理量変化状態表示システムのブロック構成図、図2は本実施形態に係る物理量変化状態表示システムにおけるワイヤ位置と加工軌跡表示画像説明図及び温度変化グラフ画像説明図、図3は本実施形態に係る物理量変化状態表示システムにおける物理量変化状態監視処理のフローチャート、図4は本実施形態に係る物理量変化状態表示システムにおける加工中表示処理のフローチャート、図5は本実施形態に係る物理量変化状態表示システムにおける温度変化グラフ表示処理のフローチャート、図6は本実施形態に係る物理量変化状態表示システムにおける通信端末への情報送信処理のフローチャートである。
【0023】
前記各図において本実施形態に係る物理量変化状態表示システム1は、ワイヤ放電加工装置50の加工環境に係る複数の物理量をそれぞれ検出する複数の検出手段11と、加工装置50の制御部51から出力される所定時間ごとの被加工物に対するワイヤ位置情報を取得し、前記検出手段11から得られた複数の物理量の変化を前記ワイヤ位置情報と対応付けて所定の記録手段12に履歴情報として記録する履歴情報管理手段13と、前記検出手段11から前記物理量の値を取得し、この値が前記他の許容範囲内にあるか否かを判定する物理量監視手段14と、加工中の被加工物に対するワイヤ位置及びワイヤの加工軌跡を表示する画像を生成する一方、物理量が前記他の許容範囲を外れた場合には、ワイヤ位置に対応する部位に通常のワイヤ位置表示状態とは異なる所定の表示を付加した画像を生成する表示制御手段15と、この表示制御手段15で生成した画像を表示画面上に表示する表示手段16と、物理量が前記他の許容範囲を外れた場合に、所定の物理量調整用設備55に対し物理量が他の許容範囲内の値に戻るまで物理量調整動作を行わせる復旧制御手段17と、管理者の通信端末40に情報を送信する前記報知手段としての通信制御手段18と、管理者による表示状態の初期設定・設定変更等の各種入力操作を受入れる入力手段19とを備える構成である。
【0024】
本実施形態に係る物理量変化状態表示システム1を適用する加工装置50は、あらかじめ設定された加工プログラムに基づく運転制御を行う数値制御部51や、装置及び被加工物の周囲の状態を示す温度や圧力等の各種物理量を監視し、物理量の値があらかじめ設定された加工許容範囲内に収るように調整制御して加工精度の維持を図ると共に、何らかの理由で物理量の値が加工許容範囲を外れた場合には加工を停止させる物理量維持調整手段52等を備える従来公知のワイヤ放電加工装置同様のものであり、詳細な説明を省略する。
【0025】
加工装置50の数値制御部51は、管理者の操作入力であらかじめ設定された加工プログラムに基づいて被加工物の加工形状を定義し、この加工形状に合わせて、工具であるワイヤを移動させるか、あるいは被加工物の載置されたテーブルを移動させ、ワイヤと被加工物間で放電を行わせるといったワイヤ放電加工装置の標準的な運転制御機能を提供するものであり、従来公知のワイヤ放電加工装置と共通のものであるが、運転状態で所定時間ごとの被加工物に対するワイヤ位置をワイヤ位置情報として取出し可能な構成となっている。
【0026】
この加工装置50には、物理量維持調整手段52とは別に、予備の物理量調整用設備55が配設される構成である。この物理量調整用設備55は、加工装置50の物理量維持調整手段52の異常や装置の加工環境の急激な変化等によって、物理量があらかじめ設定された他の許容範囲から外れた場合に、前記復旧制御手段17の制御に基づいて所定の物理量調整動作(例えば、物理量が温度の場合、冷却又は加熱)を行うこととなる。
【0027】
前記検出手段11は、加工装置50の加工環境、すなわち、加工装置50及び被加工物の周囲の状態、を示す温度や圧力等の物理量の変化を電気的変化に変換して検出するセンサであり、対象とする物理量に応じて温度センサや圧力センサ等を用いるが、センサ自体は従来公知のものとしてその詳細な説明を省略する。この検出手段11で検出の対象とする物理量としては、加工装置の機械本体における加工槽の加工液温度や、加工装置の加工液濾過装置での加工液温度、また、加工装置の機械本体各部温度、装置周囲温度、平均加工電圧、放電周波数、加工液純水度、濾過フィルタ圧などがある。この検出手段11は、加工装置50の構成部品としてはじめから加工装置50と一体に設けられて加工装置50の物理量維持調整手段52に物理量の検出値を提供するセンサ類をそのまま利用するものであるが、別途新たに加工装置に付加した本システム専用のセンサを用いることもできる。
【0028】
前記履歴情報管理手段13は、検出手段11で取得された複数の物理量と、加工装置50の数値制御部51から出力されたワイヤ位置情報とをそれぞれ参照し、複数の物理量の加工装置運転中における変化を、ワイヤ位置情報、すなわち、加工装置運転中におけるワイヤ位置の変化と対応付けて、記録手段12に履歴情報として記録するものである。
【0029】
前記物理量監視手段14は、検出手段11から各物理量の値を取得してその変化を監視する一方、これら各物理量について、範囲外に物理量が達すると加工装置50における加工を停止させるようあらかじめ設定された物理量の加工許容範囲に対し、所定の上限及び/又は下限の閾値で規定されて前記加工許容範囲より狭くなる他の許容範囲を設定して、検出手段11から取得した物理量の値が前記他の許容範囲内にあるか否かを判定するものである。ここで、各物理量が前記加工許容範囲内にはあるものの他の許容範囲から外れている状態とは、加工停止には至らないものの加工精度への影響が懸念される程度に物理量が変化した状態を示している。なお、各物理量について、他の許容範囲が徐々に範囲を広げていく形で複数段階に設定されていてもよく、その場合、物理量監視手段14は、物理量の値が複数段階の許容範囲を外れるごと、すなわち、各閾値を超えるごとに、それぞれの許容範囲を外れた状態を判定することとなる。
【0030】
前記表示制御手段15は、加工装置50の数値制御部51から取得した加工形状Sを表示し、且つ数値制御部51から取出したワイヤ位置情報に基づいて被加工物に対するワイヤ位置W及びワイヤの加工軌跡を表示する所定の表示用画像を生成すると共に、前記物理量監視手段14で物理量が前記他の許容範囲を外れたと判定した場合には、前記画像における前記他の許容範囲を外れた時期のワイヤ位置に、通常のワイヤ位置表示状態とは異なる所定の表示、すなわち、通常のワイヤ位置表示色Gとは異なる表示色Bが付加された画像を生成するものである(図2(A)参照)。
【0031】
表示制御手段15において、前記画像はワイヤ位置が進行するごとに、変化したワイヤ位置を反映させながら更新されていき、各時点のワイヤ位置を示す点が線状に連続するワイヤ加工軌跡の表示となる。加工終了時点で、加工全体にわたるワイヤ加工軌跡が、物理量の値が前記他の許容範囲内を保った場合は一色、加工中に他の許容範囲を外れた場合は複数色の線で表されることとなる。そして、表示制御手段15は、加工終了後の画像、すなわち、加工におけるワイヤの加工軌跡を表す画像を、表示終了を指示操作されるまで継続的に表示可能とすると共に、画像情報を記録手段12に記録し、一旦画像の表示を終了した後も必要に応じて画像を読出して表示手段16に表示させることができる。
【0032】
また、表示制御手段15は、加工中又は加工終了後の段階で、既に記録手段12に記録されている物理量の履歴情報に基づいて、物理量の推移を表すグラフ画像を生成し、前記加工中の被加工物に対するワイヤ位置及びワイヤの加工軌跡を表示する画像から指示操作に応じて切換える形で、前記表示手段16に表示させるものとなっている(図2(B)参照)。
【0033】
前記表示手段16は、表示制御手段15で生成した画像をCRTや液晶ディスプレイ等の表示画面上に表示する公知の装置であり、詳細な説明を省略する。この表示手段16は、加工装置50とは独立して設けられるものの他、加工装置50に組込まれて加工形状や運転状況等の表示を行う加工装置50の表示部を兼ねる構成とすることもできる。
【0034】
前記復旧制御手段17は、前記物理量監視手段14で物理量が前記他の許容範囲を外れたと判定した場合に、加工装置50に併設される予備の物理量調整用設備55に対し、物理量が他の許容範囲内の値に戻るまで所定の物理量調整動作を行わせるものである。通常は、加工装置50の物理量維持調整手段52が、物理量を前記加工許容範囲内に収めるよう調整制御し、物理量はほぼ一定の値となっているが、物理量維持調整手段52における何らかの異常発生や、装置の加工環境の急激な変化等によって、物理量が他の許容範囲から外れた場合に、この復旧制御手段17の制御に基づいて予備の物理量調整用設備55が物理量調整動作を行うこととなる。
【0035】
前記通信制御手段18は、前記物理量監視手段14で物理量が前記他の許容範囲を外れたと判定した場合に、加工装置50の管理者に注意を喚起する所定の情報をネットワーク経由を含む無線又は有線通信により管理者の通信端末(ネットワーク端末)40に送信するものである。なお、通信制御手段18は、管理者の通信端末40からの指令情報を受信し、これに基づいて加工装置50の数値制御部51に指示を与え、加工装置50を所定の運転状態としたり、加工を中断させたりすることができるようにしてもよい。また、通信制御手段18は、物理量が加工許容範囲外に達して加工装置50における加工が停止した際に、加工停止を通知する情報を管理者の通信端末40に送信する機能を有することもできる。
【0036】
前記入力手段19は、キーボードやマウス、表示手段の表示画面上に設けられるタッチパネル等の公知の入力装置であり、詳細な説明を省略する。この入力手段19は、加工装置50とは独立して設けられるものの他、加工装置50に組込まれて数値制御部51に対する加工形状指示等の入力操作を受入れる加工装置50の入力部を兼ねる構成とすることもできる。
【0037】
次に、本実施形態に係る物理量変化状態表示システムの動作状態について説明する。加工装置50の運転が開始されると、加工装置50の数値制御部51から所定時間ごとの被加工物に対するワイヤ位置がワイヤ位置情報として出力され、これに基づいて表示制御手段15が、加工中のワイヤ位置、及び加工開始点から加工位置までのワイヤ移動軌跡を、加工プログラムより得られる被加工物の加工形状と共に、表示用画像として生成し、この表示用画像が表示手段16の表示画面上に表示される。
【0038】
また、加工が行われている間、加工液温度や加工装置の機械本体各部温度、装置周囲温度、加工液純水度、フィルタ圧等の物理量が、検出手段11により検出され、履歴情報管理手段13により、検出手段11から取得したこれら物理量の値が、被加工物に対するワイヤの位置(ワイヤ位置情報)と対応付けられながら、記録手段12に履歴情報として記録される。
【0039】
また、入力手段19を通じた管理者の入力操作に基づいて表示手段16の表示状態を一時的に切換える指示がなされると、記録された履歴情報に基づいて、所望の物理量の変化過程が、加工開始点からの距離、座標、又は経過時間を横軸、物理量の値を縦軸とするグラフ画像として表示制御手段15で生成処理され、この物理量変化のグラフが表示手段16の表示画面に表される。
【0040】
この加工動作中、物理量監視手段14で物理量の値があらかじめ設定された前記他の許容範囲を外れた状態が認識されると、この状態を識別可能に、表示制御手段15が表示用画像におけるワイヤ位置の表示を今までのものから色を異ならせた表示に変化させる。物理量の値が他の許容範囲を外れている間、表示の変化した状態が継続し、合わせてワイヤ移動軌跡の表示も色の変化した状態となって、他の許容範囲を外れているのがどの加工位置に対応しているかを表示手段16の表示画面上で認識可能となる。
【0041】
この物理量が他の許容範囲を外れた時点で、通信制御手段18から装置管理者の持つ通信端末40に、この物理量が他の許容範囲を外れたことを知らせる注意喚起の情報が送信される。また、この場合、表示制御手段15が、表示手段16の表示画面上に、ワイヤ位置等の表示変化とは別に、管理者の注意を喚起する特別な表示を行うようにすることもできる。
【0042】
物理量の値が前記他の許容範囲を外れた場合、物理量の値を他の許容範囲に戻すための制御動作が実行される。すなわち、復旧制御手段17が、予備の物理量調整用設備55に対し、物理量が他の許容範囲内の値に戻るまで所定の物理量調整動作(例えば、加工液の補助的な冷却等)を行わせる。
【0043】
この物理量の値が他の許容範囲を外れた場合に、物理量の値を他の許容範囲に戻すための制御動作としては、上記以外に、復旧制御手段17が数値制御部51に指令を与えて物理量の値が他の許容範囲に戻るまで加工装置50による加工を一時中断させるようにしてもよい。この他、前記他の許容範囲を外れた物理量による加工精度への影響を吸収するように、復旧制御手段17からの指令で数値制御部51に加工条件の変更などの調整制御、例えば、物理量としての温度の変化に伴う加工装置や被加工物の寸法変化量を算出し、この変化に対応させて加工寸法や加工ピッチ等を調整するといった制御を行わせ、物理量が他の許容範囲を外れても加工精度を悪化させず加工を正常に行えるようにすることもできる。
【0044】
物理量の値が前記他の許容範囲を外れた後も加工装置50による加工が継続される場合で、さらに物理量の値が前記加工許容範囲を外れた際には、従来公知の加工装置の場合と同様、警報表示や警報発報がなされると共に、加工装置50が加工停止状態へ移行する。また、通信制御手段18から、装置管理者の持つ通信端末40に加工停止の事実とそれをもたらした物理量変化の情報が送信される。この時、履歴情報管理手段13が履歴情報、すなわち、加工停止までの間の各物理量の変化を当該加工に係る情報として加工条件、及び加工停止時点の表示画像情報と共に記録手段12に記録保存する。履歴情報やワイヤ軌跡の画像情報を後で参照可能とすることで、加工停止に至った原因の調査究明を適切に行える。なお、この物理量の値が前記加工許容範囲を外れた際、表示制御手段15により、表示手段16に表示される表示用画像において前記時点のワイヤ位置を示す表示を、物理量の値が他の許容範囲を外れた場合の表示からさらに変化させ、加工停止を表す別の表示状態としてもよい。
【0045】
他方、物理量の値が前記他の許容範囲を外れた後も加工装置50による加工が継続される場合で、物理量の値が他の許容範囲を外れた状態又は他の許容範囲内に復帰した状態で加工が最後まで進行して一連の加工を完了した場合は、履歴情報管理手段13が、加工の間の各物理量の変化を当該加工に係る情報として加工条件、及び加工終了時点の表示画像情報と共に記録手段12に記録保存する。得られた加工品に後で加工形状異常等の問題が発見された場合には、記録された情報を参照し、問題のある部分と物理量の値が他の許容範囲を外れた加工区間との相関を調査することで、形状の異常の原因究明を適切に行える。
【0046】
履歴情報において、各物理量の変化は、加工におけるワイヤ位置(加工開始位置からの絶対座標変化)と対応付けられており、加工品の形状の異常との関係を見る場合、他の許容範囲を外れた座標位置と実際の加工品における形状の異常箇所が合致すると、物理量変化の示す加工環境変化が異常の原因の一つであると判断できる。この他、加工品に対する形状測定の前に、他の許容範囲を外れた座標位置から、これに対応する加工品位置が形状異常箇所であると推定できる。
【0047】
続いて、本実施形態に係る物理量変化状態表示システムによる各処理についてフローチャートに基づいてより詳細に説明する。ただし、いずれの処理も、物理量として加工液温度のみを検出対象とした例で説明する。
【0048】
始めに、物理量変化状態を監視する処理について、図3のフローチャートを用いて説明する。まず、履歴情報管理手段13が、検出手段11により得られた加工液温度のデータを取得すると共に、加工装置50の数値制御部51からワイヤ位置情報の他、加工日時、加工プログラム番号、加工条件番号等の加工に係る情報データを読込む(ステップ001)。そして、あらかじめ設定されたデータ取得のための単位時間が経過したか否かを判定し(ステップ002)、前記単位時間が経過している場合は、履歴情報管理手段13が、単位時間経過までに取得していた温度とワイヤ位置とを関連付けたデータ内容を、加工に係る情報ごとに分類される履歴情報ファイルとして記録手段12に記録する(ステップ003)。
【0049】
一方、検出手段11で検出された加工液温度は、加工装置50の物理量維持調整手段52で監視されており、加工液温度が加工許容範囲を外れた場合、加工装置は加工停止に至るが、物理量監視手段14においても、温度が加工許容範囲に含まれる状態が継続しているか否かを判定し(ステップ004)、加工許容範囲に含まれる状態が継続している場合のみ、引続いて物理量監視手段14において、温度があらかじめ設定された他の許容範囲に含まれる状態が継続しているか否かを判定する(ステップ005)。ここで、他の許容範囲内に含まれる状態が継続している場合、続けて、数値制御部51で加工プログラムが終了しているか否かを判定し(ステップ006)、プログラム終了の場合には、一連の処理を完了する。前記ステップ006でプログラムが終了していない場合、前記ステップ001に戻り、以降の処理を繰返す。なお、前記ステップ002でデータ取得時間が経過していない場合は、そのままステップ004へ移行する。
【0050】
前記ステップ005で、温度が他の許容範囲を外れた状態が所定時間継続した場合、表示制御手段15に対し、前記状態を表示用画像に反映させるよう指令がなされる(ステップ007)と共に、復旧制御手段17で、温度を他の許容範囲内に戻すための所定の処理、例えば、予備の物理量調整用設備55に対し、物理量が他の許容範囲内の値に戻るまで物理量調整動作を行わせる制御を実行する(ステップ008)。同時に、通信制御手段18から装置管理者の持つ通信端末40に、この物理量が他の許容範囲を外れたことを知らせる注意喚起の情報が送信される(ステップ009)。この後、前記ステップ006に移行する。
【0051】
前記ステップ004で、温度が加工許容範囲を外れた状態が所定時間継続した場合、数値制御部51が加工を停止させ(ステップ010)、加工装置50で警報表示や警報発報がなされると共に、通信制御手段18が、装置管理者の通信端末40に加工停止に係る情報を送信し(ステップ011)、一連の処理を終了する。
【0052】
第二の処理として、加工中の表示に係る処理について、図4のフローチャートを用いて説明する。まず、加工開始にあたり、表示制御手段15は、加工装置50の数値制御部51における加工プログラムから得た被加工物の加工形状データに基づいて、被加工物の加工形状Sを描画した初期表示画像を生成し、表示手段16に出力する(ステップ101)。その上で、放電加工装置50におけるワイヤ位置の絶対座標値を初期化し、加工開始点を原点とする(ステップ102)。加工開始後、表示制御手段15は、所定の単位時間ごとに、加工装置50の数値制御部51から、ワイヤ位置の絶対座標値を取得する(ステップ103)。そして、物理量監視手段14における判定結果に基づき、この時点における物理量としての加工液温度の検出値が、あらかじめ設定した他の許容範囲内にあるか否かを判定する(ステップ104)。ここで温度検出値が前記他の許容範囲内の場合、表示制御手段15では、画像における前記ワイヤ位置に該当する部位の表示色を、正常時を示す所定色Gで描画し更新した画像を生成し出力する(ステップ105)。続いて、表示制御手段15は、数値制御部51における制御状況から、加工プログラムが終了しているか否かを判定し(ステップ106)、プログラム終了の場合には、終了時点の画像イメージ情報が記録手段12に記録された後に、一連の処理を完了する。前記ステップ106でプログラムが終了していない場合、前記ステップ103に戻り、以降の処理を繰返す。
【0053】
前記ステップ104で、温度検出値が、前記他の許容範囲から外れている場合、表示制御手段15では、画像における前記ワイヤ位置に該当する部位の表示色を、異常時を示す所定色Bで描画し更新した画像を生成して出力し(ステップ107)、前記ステップ106へ移行する。
【0054】
第三の処理として、温度変化の履歴をグラフとして表示する処理について、図5のフローチャートを用いて説明する。あらかじめ、グラフ表示の操作入力がなされ、グラフ表示の初期画像が生成されて既存画面と切換える形で表示手段16に出力されているものとする。まず、検出手段11で検出した加工液温度の検出値を、表示制御手段15が取得し(ステップ201)、グラフ表示画像の所定位置に温度の数値を現在温度表示として描画して更新した画像を出力し、表示手段16で表示させる(ステップ202)。
【0055】
そして、あらかじめ設定されたデータ取得のための単位時間が経過したか否かを判定し(ステップ203)、前記単位時間が経過している場合、表示制御手段15では、記録手段12から単位時間分の新規データが加わった履歴ファイルを新たに読出し、グラフ作成の基となる各データを読込む(ステップ204)。さらに、表示制御手段15において、グラフ表示画像におけるグラフ表示領域を温度履歴データの取り得る範囲に合わせて再定義し(ステップ205)、新たに設定された表示領域に温度変化のグラフを描画生成し、表示手段16に出力してグラフの表示を行う(ステップ206;図2(B)参照)。ここで、温度について詳細情報表示を指示する入力操作がなされたか否かを判定し(ステップ207)、詳細情報表示指示の入力がなされた場合、表示制御手段15で温度の履歴情報を読出して詳細情報表示画像を出力し、表示手段16で詳細情報表示を行う(ステップ208)。この詳細情報表示を行って所定時間経過の後、表示制御手段15が詳細情報表示を行う前のグラフ表示に切換えて表示手段16に表示させる(ステップ209)。続いて、表示制御手段15は、数値制御部51における制御状況から、加工プログラムが終了しているか否かを判定し(ステップ210)、プログラム終了の場合には、一連の処理を完了する。前記ステップ210でプログラムが終了していない場合、前記ステップ201に戻り、以降の処理を繰返す。
【0056】
前記ステップ203で単位時間が経過していない場合は、温度の著しい変化や表示状態の変更指示入力等でグラフ表示画像に変更を加える必要があるか否かを判定し(ステップ211)、グラフ表示画像に変更がある場合、前記ステップ205に移行する。一方、前記ステップ211でグラフ表示画像に変更がない場合は、前記ステップ210へ移行する。
【0057】
第四の処理として、装置管理者の通信端末へ向けての情報送信処理について、図6のフローチャートを用いて説明する。前提として、加工液温度が加工許容範囲を外れるか、他の許容範囲を外れた状態が所定時間継続し、通信制御手段18に対し情報送信要求が発生しているものとする。まず、通信制御手段18において、送信する情報の内容を作成する(ステップ301)。そして、この処理に係る送信試行回数があらかじめ設定された再送信許可回数以下であるか否かを判定し(ステップ302)、送信試行回数が再送信許可回数以下である場合、装置管理者の通信端末40に向けて、作成した情報の送信を実行する(ステップ303)。送信実行後、通信端末40に対する送信が正常に行われたか否かを判定し(ステップ304)、送信が正常に行われた場合、一連の処理を完了する。前記ステップ304で送信が正常に行われていない場合、送信試行回数を1回分カウントして(ステップ305)、前記ステップ302に戻り、以降の処理を繰返す。一方、前記ステップ302で送信試行回数が再送信許可回数を上回った場合、送信不能と見なして、通信制御手段18は、表示制御手段15に送信エラーを表す画像を生成させて表示手段16に表示させ(ステップ306)、一連の処理を終了する。
【0058】
なお、以上の各処理では、物理量として加工液の温度を例に挙げ、その変化に対する各処理過程を説明しているが、この加工液温度以外に、加工装置の機械本体各部温度、装置周囲温度、平均加工電圧、放電周波数、加工液純水度、濾過フィルタ圧等の他の物理量についても、各物理量の種類に応じて設定された他の許容範囲を物理量の値が外れた場合を判定基準とするような、前記同様の処理が行われることはいうまでもない。
【0059】
このように、本実施の形態に係る物理量変化状態表示システムにおいては、加工装置50及び被加工物の周囲の状態を示す各種物理量を検出して監視し、検出値を検出時点の被加工物に対するワイヤ位置と対応付けながら履歴情報として記録していくと共に、物理量の値が他の許容範囲を外れると、表示手段16で表示される表示用画像におけるその時点のワイヤ位置を表す表示を通常表示と異ならせ、この物理量が前記他の許容範囲を外れた状況をこれ以降の加工中及び加工後においても表示手段16の画面上で認識可能とすることから、加工停止には至らないものの加工精度への影響が懸念される程度に物理量が変化した状況及びその時点の加工位置を、装置を取扱う管理者が表示画面を見て通常状態との相違から確認でき、この確認時点で可能な対応を管理者及び/又は加工装置50が実行可能になると共に、物理量変化を伴ったワイヤ加工軌跡を示す画像から、加工形状における物理量変化のあった部分が加工後においても容易に認識でき、物理量変化による加工品への影響を予測しやすく、物理量変化のあった加工部位を意識して加工後の加工形状検査を行えることで異常を確実且つ迅速容易に検出できる。また、加工品の加工形状検査で異常があった場合に、異常部位について履歴情報と照らし合せて、物理量変化による影響か否かを適切に判別でき、異常の原因追及が極めて容易となり、対策による加工の改善を確実なものとすることができる。
【0060】
なお、前記実施形態に係る物理量変化状態表示システムにおいては、各物理量の値が他の許容範囲を外れるとワイヤ位置や加工軌跡の表示色を通常と異ならせる構成としているが、これに限らず、ワイヤ位置を示す表示形状を変えたり、加工軌跡を示す線状表示の線種、線の太さ等を変えて通常表示状態から識別可能にする構成とすることもできる。また、表示用画像におけるワイヤ位置や加工軌跡の表示を直接変える他に、画像のワイヤ位置表示箇所の近傍に、物理量が他の許容範囲を外れた状態の始点と終点等を表す所定のマーク等を付加表示し、これらマーク等で物理量の値が他の許容範囲外となった区間を識別可能とするようにしてもよい。さらに、表示用画像においてこうした表示色や線種の変換、マーク付加など識別用の要素を複数組合わせて、物理量の値が他の許容範囲を外れた状態を示すようにしてもかまわない。
【0061】
また、前記実施形態に係る物理量変化状態表示システムにおいては、各物理量について、他の許容範囲をそれぞれ一つずつ設定し、物理量の値が他の許容範囲を外れるとワイヤ位置や加工軌跡の表示色を通常と異ならせる構成としているが、これに限らず、他の許容範囲を徐々に範囲を広げていく形で複数段階に設定し、複数段階の他の許容範囲それぞれを外れるごとに段階的に色を異ならせていく構成とすることもでき、加工中における物理量の変化の度合をより詳細に把握できることとなる。
【0062】
また、前記実施形態に係る物理量変化状態表示システムにおいては、被加工物に対しワイヤが加工形状に沿った一回の通過で加工を行う場合に対応して表示を行う構成としているが、この他、粗加工から精密加工を一加工装置で一連に行うなど、ワイヤが加工形状に沿って複数回加工を行う際の、そのままの表示では各回の加工軌跡の表示位置が重なったり軌跡相互の間隔が小さ過ぎたりして、加工回数ごとに見分けることが難しくなる場合に対応して、加工軌跡の表示位置を必要に応じて加工回数ごとにずらすと共に、物理量の値が他の許容範囲内にある通常状態の表示色を加工回数ごとに異ならせ、さらにそれぞれの回数ごとに前記通常状態と物理量の値が他の許容範囲から外れた状態との各表示色を異ならせるようにすることもでき、各加工回数ごとに物理量が他の許容範囲を外れた状態を確実に識別できることとなり、どの加工段階で異常状態に至ったのかを適切に把握して的確な対策を講じることができる。
【0063】
また、前記実施形態に係る物理量変化状態表示システムにおいては、各物理量について、他の許容範囲をそれぞれ一つずつ設定し、物理量の値が他の許容範囲を外れるとワイヤ位置や加工軌跡の表示色を通常と異ならせる構成としているが、これに限らず、他の許容範囲を徐々に範囲を広げていく形で複数段階に設定し、複数段階の他の許容範囲それぞれを外れるごとに段階的に色を異ならせていく構成とすることもでき、加工中における物理量の変化の度合をより詳細に把握できることとなる。
【0064】
また、前記実施形態に係る物理量変化状態表示システムにおいて、報知手段として、注意喚起の情報を所定の通信媒体を介して管理者側の通信端末40に伝送する通信制御手段18を用いる構成としているが、この他、報知手段を、物理量監視手段14で物理量が前記他の許容範囲を外れたと判定した場合に、加工装置50の管理者に注意を喚起する音声等の所定の情報を加工装置周囲に向けて直接発報するものとすることもできる。この場合、物理量が加工許容範囲を外れて加工装置が加工を停止した際に加工装置50で音声等の出力により警報を発報する手段が、前記報知手段を兼ねるようにしてもかまわない。
【0065】
また、前記実施形態に係る物理量変化状態表示システムにおいて、物理量の値が他の許容範囲を外れた場合に、物理量の値を他の許容範囲に戻すための制御動作のバリエーションとして、復旧制御手段17が数値制御部51に指令を与えて、物理量の値が他の許容範囲に戻るまで加工装置50による加工を一時中断させることができるが、この復旧制御手段17が加工装置による加工を中断させる場合、同時に物理量調整用設備55を起動させて物理量調整動作も行わせるようにしてもよい。さらに、復旧制御手段17が加工を中断させた際に、通信制御手段18が、先に送信した注意喚起の情報への返信として管理者の通信端末40から発信された指令情報を受信し、この指令情報に基づいて復旧制御手段17が物理量調整用設備55を起動させ、物理量調整動作を行わせるようにしてもかまわない。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の一実施形態に係る物理量変化状態表示システムのブロック構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る物理量変化状態表示システムにおけるワイヤ位置と加工軌跡表示画像説明図及び温度変化グラフ画像説明図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る物理量変化状態表示システムにおける物理量変化状態監視処理のフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態に係る物理量変化状態表示システムにおける加工中表示処理のフローチャートである。
【図5】本発明の一実施形態に係る物理量変化状態表示システムにおける温度変化グラフ表示処理のフローチャートである。
【図6】本発明の一実施形態に係る物理量変化状態表示システムにおける通信端末への情報送信処理のフローチャートである。
【符号の説明】
【0067】
1 物理量変化状態表示システム
11 検出手段
12 記録手段
13 履歴情報管理手段
14 物理量監視手段
15 表示制御手段
16 表示手段
17 復旧制御手段
18 通信制御手段
19 入力手段
40 通信端末
50 加工装置
51 数値制御部
52 物理量維持調整手段
55 物理量調整用設備

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤ放電加工装置の加工環境に係る所定の一又は複数の物理量を検出する一又は複数の検出手段と、
当該検出手段で取得された一又は複数の物理量の加工装置運転中における変化を、加工装置運転中におけるワイヤ位置の変化と対応付けて所定の記録手段に履歴情報として記録する履歴情報管理手段と、
範囲外に前記物理量が達すると前記加工装置における加工を停止させるようあらかじめ設定された物理量の加工許容範囲に対し、所定の上限及び/又は下限の閾値で規定されて前記加工許容範囲より狭くなる一又は複数の他の許容範囲を設定し、前記検出手段から取得した物理量の値が前記他の許容範囲内にあるか否かを判定する物理量監視手段と、
加工中の被加工物に対するワイヤ位置及びワイヤの加工軌跡を表示する所定の表示用画像を生成すると共に、前記物理量監視手段で物理量が前記他の許容範囲を外れたと判定した場合には、前記画像における前記他の許容範囲を外れた時期のワイヤ位置又は当該ワイヤ位置近傍を示す部位の全部又は一部に、通常のワイヤ位置及びワイヤの加工軌跡の各表示状態とは異なる所定の表示が付加された画像を生成する表示制御手段と、
当該表示制御手段で生成した画像を所定の表示画面上に表示する表示手段とを備えることを
特徴とするワイヤ放電加工装置の物理量変化状態表示システム。
【請求項2】
前記請求項1に記載のワイヤ放電加工装置の物理量変化状態表示システムにおいて、
前記表示制御手段が、前記物理量監視手段で物理量が前記他の許容範囲を外れたと判定した場合における前記所定の表示として、前記画像における前記判定時点のワイヤ位置で、通常のワイヤ位置表示色とは異なる描画色による表示を行わせることを
特徴とするワイヤ放電加工装置の物理量変化状態表示システム。
【請求項3】
前記請求項1又は2に記載のワイヤ放電加工装置の物理量変化状態表示システムにおいて、
前記表示制御手段が、既に記録された前記物理量の履歴情報に基づいて、物理量の推移を表すグラフ画像を生成し、前記加工中の被加工物に対するワイヤ位置及びワイヤの加工軌跡を表示する画像と同時に、又は当該画像と切換えて別個に、前記グラフ画像を前記表示手段に表示させることを
特徴とするワイヤ放電加工装置の物理量変化状態表示システム。
【請求項4】
前記請求項1ないし3のいずれかに記載のワイヤ放電加工装置の物理量変化状態表示システムにおいて、
前記物理量監視手段で物理量が前記他の許容範囲を外れたと判定した場合に、前記加工装置の管理者に注意を喚起する所定の情報を加工装置周囲に向けて直接発報、及び/又は所定の通信媒体を介して管理者側端末に伝送する報知手段を備えることを
特徴とするワイヤ放電加工装置の物理量変化状態表示システム。
【請求項5】
前記請求項1ないし4のいずれかに記載のワイヤ放電加工装置の物理量変化状態表示システムにおいて、
前記物理量監視手段で物理量が前記他の許容範囲を外れたと判定した場合に、前記加工装置の数値制御部に対し、物理量変化に対応した所定の加工条件調整制御動作を行わせる復旧制御手段を備えることを
特徴とするワイヤ放電加工装置の物理量変化状態表示システム。
【請求項6】
前記請求項1ないし4のいずれかに記載のワイヤ放電加工装置の物理量変化状態表示システムにおいて、
前記物理量監視手段で物理量が前記他の許容範囲を外れたと判定した場合に、加工装置の数値制御部に対し、物理量が他の許容範囲内の値に戻るまで加工を一時中断する制御指令を与える復旧制御手段を備えることを
特徴とするワイヤ放電加工装置の物理量変化状態表示システム。
【請求項7】
前記請求項1ないし4のいずれかに記載のワイヤ放電加工装置の物理量変化状態表示システムにおいて、
前記物理量監視手段で物理量が前記他の許容範囲を外れたと判定した場合に、加工装置における物理量維持調整手段とは別個に設けられる所定の物理量調整用設備に対し、物理量が他の許容範囲内の値に戻るまで所定の物理量調整動作を行わせる復旧制御手段を備えることを
特徴とするワイヤ放電加工装置の物理量変化状態表示システム。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図2】
image rotate