説明

ワクチンの舌下投与用医薬組成物、その調製方法およびその使用

本発明の目的は、吸収速度を調節し、その有効性および安全性を実質的に改善するワクチンの舌下投与用医薬組成物、その調製方法およびその使用である。前記舌下投与用医薬組成物は、感染症に対して用いられる免疫ワクチン、およびアレルギーを治療指標とする脱感作ワクチンの双方に適用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収速度を調節し、有効性および安全性を実質的に改善するワクチンの舌下投与用医薬組成物、その調製方法およびその使用を目的とする。
【0002】
前記組成物は、感染症に対して用いられる免疫ワクチン(immunizing vaccines)、およびアレルギーを治療指標とする脱感作ワクチン(desensitizing vaccines)のどちらの舌下投与についても適用可能である。
【0003】
生物は、特殊な器官を活用することなく、通常のプロセスを動員することで、病原体の攻撃から自己防衛していることが知られている。
【0004】
この生物学上の防衛戦略のより典型的表現型が、炎症、およびいわゆる獲得免疫の2つである。前者は生物の防御物の拡散移動に由来し、さまざまな症状(発赤、疼痛、発熱および腫脹に加えて、罹患部の一過性麻痺)で現れる。これらの症状は、それぞれ、たとえば防御物の調節に必要とされる組織の湿潤(tissue irroration)、体温および刺激/シグナルの高感度な知覚等、からはじまる生理学的プロセスの激化(sharpening)を示す。現在入手できる炎症対抗薬は、多くのステロイド性および非ステロイド性物質からなる抗炎症剤だけである。
【0005】
炎症とは違い、獲得免疫は、生物の免疫システムに関連するのみである。この免疫システムは、系統発生の過程で、分化し「自己」と「非自己」を区別するというタスクの中で特殊化されてきた(ここで、「自己」および「非自己」は、それぞれ、生物の機能および組成に関連するものと関連しないものとを意図している)。免疫システムは、常に機能しているが、感染症により典型的に示されるような緊急状態において、過度に活性化されるようになる。この過剰な活性化は、通常、約2〜3週間の潜伏期を必要とするが、潜伏期が終わると、通常の致死性(lethal)の何百倍も高い特に著しい防御が起き、その防御反応を起こすもとになった特定の病原菌または毒素の取り込みに抵抗できるようになる。免疫システムの活性化に関しては、免疫ワクチンおよび脱感作ワクチンの2種類の薬剤があり、それぞれ感染症およびアレルギーに対して用いられる。
【0006】
「クローン選択」説(バーネット(Burnet)、1959)によれば、免疫システムは不均一な胎児細胞集団から発生し、抗原を包含する生物の内外に存在する膨大な種類の抗原のほとんどを生来認識できるだけでなく攻撃もできる。誕生前および誕生直後に、これらの細胞は、ダーウィン的概念の系統発生において、生存種の進化を調整するもの(ダーウィン(Darwin)、1859)と類似した意味で選択の対象となる。生存に危険なため、その生物に反するものは排除され、他のものは保存される。生物に所有される自己と非自己を区別できる能力は、上記の説によれば、この代々受け継がれてきたプロセスに由来し、主にT細胞およびB細胞に基づく。これらおよびその子孫の各々、いわゆるクローンが、単一の抗原を区別し攻撃できる。
【0007】
クローン選択説から15年後に提唱された「イディオタイプ免疫ネットワーク」説(イェルネ(Jerne)、1974)は、抗体が外来性抗原としてふるまうことで、抗体生成を鈍化させる抗原性反応を開始する機構、すなわちネガティブフィードバック機構による自動調節能を免疫システムに属するものとみなす。この応答は、約2〜3週間の潜伏期間があり、関連する特定の細胞クローンの可動化に対応している。この潜伏期間中、一次応答の効果と同様に、この抗体はその効果を現しうる。抗原に対する抗体が、代わりに抗原として作用し、それにより、正弦波特性を有する一連の反応または相互関連性のある反応を開始させる。
【0008】
感染症および/またはアレルギーを発生する原因/作用物質に対する生物の免疫応答を著しく改善することは、非常に有益なはずである。
【0009】
すなわち、たとえば、その治療に通常用いられるワクチンより少ない回数で免疫システムを活性化させることができ、しかも同一量の投与により、少なくとも同等か、好ましくはよりよい有効性を示すことができるワクチンを供給できれば、非常に有益なはずである。
【0010】
有利には、上述の特徴を有するワクチンは、たとえば、同一の病状の予防および/または治療に通常用いられるワクチンよりも低用量で投与可能であり、特に患者にとって安全性が証明されている。
【0011】
上記の革新的特性を備えるワクチンは知られていない。
【0012】
したがって、感染症およびアレルギーを起こす原因/作用物質に対する生物の免疫応答および/または脱感作応答を、促進・改善することができ、同時に使用時の有効性および安全性が高いワクチンを供給する必要性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、上述してきた必要性に対する適切な答えを出すことにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
出願人は、舌下医薬品形状に(すなわち、特定の舌下投与/摂取用の医薬品剤形に)調製した適切な分量の既存のワクチン/抗原により、上述の問題が解決できることを完全に予想外に見出し、上記目的及び以下の詳細な説明に記載される他の目的を達成した。
【0015】
したがって、本願発明の目的は、添付の独立請求項に示すように、少なくとも1つの抗原を含む(免疫性および/または脱感作予防および/または治療が必要とされる病状の予防および/または治療用、つまり感染症および/またはアレルギーに起因する病状の予防および/または治療用)舌下医薬組成物である。
【0016】
本発明のもう一つの目的は、添付の独立請求項に示すように、上記舌下医薬組成物調製への前記少なくとも1つの抗原の使用である。
【0017】
本発明のもう一つの目的は、上記組成物の調製方法であり、その特徴については、添付の独立請求項に示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の好ましい実施形態は、添付の従属請求項に記載されている。
【0019】
本発明は、少なくとも1つの抗原を含む舌下医薬組成物に関する。
【0020】
前記少なくとも1つの抗原は、口腔粘膜、より具体的には舌下粘膜に吸収されるように調製される。
【0021】
好ましくは、その抗原、または抗原混合物は、凍結乾燥状である。
【0022】
用量に関しては、その抗原、または抗原混合物は、通常、注射により投与される類似組成物の分量に相当する分量が含有される。好ましくは、前記分量は、注射により投与される対応組成物の分量よりも低量である。
【0023】
好ましくは、前記分量は、注射により投与される類似組成物の分量に対して、20重量%〜100重量%であり;好ましくは、前記分量は、30重量%〜95重量%であり;より好ましくは、前記分量40重量%〜85重量%である。
【0024】
特に好ましい実施形態では、前記分量は、注射により投与される類似組成物の分量に対して約50重量%である。
【0025】
本発明に係わる舌下医薬組成物においては、その抗原、または抗原混合物は、舌下剤形に特有の少なくとも1つの適切な賦形剤との混合剤として調製される。
【0026】
当業者にとって非限定的な例として、前記賦形剤は、水溶性の不活性な賦形剤(たとえば、マンニトール、ソルビトール、乳糖など);舌下粘膜レベルでの有効成分の引き渡しを助ける不水溶性の賦形剤(たとえば、微結晶性セルロースなど);甘味料(たとえば、アスパルテーム、サッカリンナトリウムなど);香味剤(たとえば、ピーチ、アプリコット、バナナ、ストロベリー、オレンジ、マンダリン香料など);潤滑剤(たとえば、ステアリン酸マグネシウム、PEG 6000など);呈味改良剤(たとえば、クエン酸ナトリウムなど);医薬品製造技術で通常用いられる、その他の賦形剤、添加剤、キャリアを含む群から選択される。
【0027】
本発明の好ましい実施形態において、舌下組成物には抗原、または抗原混合物が、少なくとも1つの水溶性の賦形剤、および/または崩壊機能(disintegrating function)を有する少なくとも1つの不水溶性の微結晶性賦形剤との混合物として含まれる。
【0028】
好ましくは、前記水溶性の賦形剤は、マンニトールおよび/またはソルビトールから選択され、崩壊機能を有する前記不水溶性の微結晶性賦形剤は、微結晶性セルロースである。
【0029】
本発明の別の好ましい実施形態では、前記舌下組成物は、さらに少なくとも1つの潤滑剤を含み;好ましくは、前記潤滑剤は、ステアリン酸マグネシウムおよび/またはPEG 6000粉末である。
【0030】
さらに好ましい実施形態においては、前記舌下組成物は、さらに少なくとも1つの甘味剤を含み;好ましくは、前記甘味剤は、アスパルテームおよび/またはサッカリンナトリウムである。
【0031】
本発明に係わる舌下組成物は、あらゆるタイプの抗原の投与に活用可能であり、単一の抗原、および1以上の他種の抗原との適正な混合物のどちらにも、活用できる。したがって、後者の場合、単回剤形の投与で多価ワクチンを実現できる。
【0032】
本発明の好ましい実施形態において、前記少なくとも1つの抗原は、感染症に起因する病状に対して、免疫活性を有する。
【0033】
別の好ましい実施形態においては、前記少なくとも1つの抗原は、アレルギーに起因する病状に対して、脱感作活性を有する。
【0034】
好適かつ完全に非限定的な本発明の実用可能例として、少なくとも1つの抗原を含む舌下医薬組成物があげられる。この組成物においては、前記抗原がインフルエンザ、髄膜炎、風疹、破傷風、水痘を含む群から選択される病状に対して免疫活性を有する。
【0035】
ワクチンの舌下医薬組成物の一般的な調製方法
抗原の懸濁液/溶液(たとえば、注射剤のバイアルに含有されるものなど)に、不活性な賦形剤(たとえばマンニトール、ソルビトール、乳糖)を添加し、凍結乾燥する。得られた粉末を微粉化し、水溶性の賦形剤(たとえばマンニトール、ソルビトール)、および舌下粘膜レベルでの放出を助ける不水溶性賦形剤(たとえば微結晶性セルロース)と混ぜる。さらに好ましくは、この結果生じる混合物に、甘味剤(たとえば、アスパルテーム、サッカリンナトリウム)および/または香味剤(たとえば、ピーチ、アプリコット、バナナ香料)および/または潤滑剤(たとえば、ステアリン酸ナトリウム、PEG 6000)および/または呈味改良剤(たとえばクエン酸ナトリウム)を添加する。
【0036】
舌下組成物の完全に非限定的な例として、以下があげられる。
【0037】
インフルエンザワクチンの舌下組成物:
マンニトール系凍結乾燥抗原 25mg
マンニトール 30mg
微結晶性セルロース 20mg
アスパルテーム 5mg
ピーチ香料 5mg
Peg 6000 3mg
クエン酸ナトリウム 2mg
【0038】
抗髄膜炎ワクチンの舌下組成物:
ソルビトール系凍結の乾燥製品の専用抗原 30mg
マンニトール 25mg
微結晶性セルロース 25mg
サッカリンナトリウム 5mg
バナナ香料 5mg
ステアリン酸マグネシウム 3mg
クエン酸ナトリウム 2mg
【0039】
本発明に係わる舌下組成物は、所望の投与法に適した剤形に調製可能である。
【0040】
一例として、前記組成物は、たとえば、粉末状などで、口内すなわち舌下で溶解する単回投与用の小袋に包装されたり、舌下錠剤の剤形に調製される。
【0041】
特に好ましい例は、その使用上の利便性から、たとえば、急速放出舌下錠などの舌下錠剤の形状である。
【実施例】
【0042】
本発明に係わる組成物の有効性の評価は、特に、宗教上または思想上の理由から、天然組成物に無関係な物質の生体への強制的な導入は道義に反すると考え、注射ワクチンを拒絶する患者について行った。
【0043】
ワクチンの拒絶により、成人およびその家族を危険にさらす可能性があるケースについては、優先的に行った。
【0044】
実験は、1998年2月17日政令を1998年4月8日改正法第94号と協調させた法令に示唆される内容に準拠して行った。その第1副段落には、「医師は、自身の直接的責任において、患者への情報開示および患者の承認の獲得を条件として、承認されたものと異なる指示、投与経路または剤形で工業的に製造された薬剤を用いることができる。」という記載がある。
【0045】
上記政令を満足するこの処方は、「国際的に認められた科学出版物に見られる研究に準拠して」いなければならない。
【0046】
このような研究は、この件に関しては、該当薬剤に対する舌下粘膜の透過性に関する幅広い資料からなる。
【0047】
この目的のために、類似の注射ワクチンのバイアルに含有される用量の半分を含む凍結乾燥ワクチンおよび高速崩壊錠剤状に製剤されたワクチンを使用した。
【0048】
フリーの情報開示後の承認を得たうえで、以下のワクチンを、通常の薬量図に従って舌下投与した。用量は、通常用いられる量の半分(50重量%)とした。
インフルエンザワクチン;
抗破傷風ワクチン;
抗風疹ワクチン;
抗髄膜炎ワクチン;
抗水痘ワクチン。
【0049】
有志の被験者において、摂取前および3週間後の関連抗体の血中濃度をコントロールした。抗体反応は100重量%用量を筋肉注射された被験者に対し優れていた。
【0050】
本発明は、徐々に投与回数を増やし、抗原の投与量を徐々に増量していく注射が予測される脱感作ワクチンにも適用可能であるといえる(Abramson et al.、1995;Bousquet et al.、1998;Dykewitz et al.、1998;Jacobsen、2001)。
【0051】
この場合、患者は、週に1度5ヶ月間に渡り治療を受けた。次に、患者は、1回の必要量に応じて週に1度または月に1度、用量を増量した治療を受けた。
【0052】
また、これらのアプリケーションにおいて、抗体反応は、ワクチン自体の用量が低くても、対応するワクチンの筋肉注射を受けた場合に対応していた。
【0053】
実施した実験結果から、革新的な仮説が予期せず具体化され、以下のことも確認された。すなわち、免疫反応は、「外来の(extraneousness)」抗原により開始されるのみならず、生体内に抗原が侵入する「比率(rate)」によっても開始されることが確認された。また、内在性由来の場合であれば、その生産率、あるいは、それが隔離された部分による放出率によっても開始される。
【0054】
ワクチンの吸収速度を調節できる本発明の舌下組成物は、作用効率の点においても、患者に対する安全性の向上の点においても、顕著に有効性を改善できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの抗原を含む舌下医薬組成物。
【請求項2】
前記少なくとも1つの抗原は、感染症に起因する病状に対して免疫活性を有する請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記少なくとも1つの抗原は、アレルギーに起因する病状に対して脱感作活性を有する請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記少なくとも1つの抗原は凍結乾燥状である請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
前記少なくとも1つの抗原は、注射により投与される該組成物の分量に対して、20%〜100%の分量含まれる請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
前記分量は、30重量%〜95重量%;好ましくは、40重量%〜85重量%;より好ましくは、約50重量%である請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
水溶性の不活性な賦形剤、舌下粘膜レベルでの有効成分の放出を助ける不水溶性の賦形剤、甘味料、香味剤、潤滑剤、呈味改良剤を含む群から選択される少なくとも1つの賦形剤をさらに含む請求項1〜6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
少なくとも1つの水溶性の不活性な賦形剤および/または少なくとも1つの不水溶性の微結晶性賦形剤を崩壊剤として含む請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記水溶性の不活性な賦形剤は、マンニトールおよび/またはソルビトールから選択され、前記不水溶性の微結晶性賦形剤は微結晶性セルロースである請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
少なくとも1つの潤滑剤をさらに含み、好ましくは、前記潤滑剤はステアリン酸マグネシウムおよび/またはPEG 600粉末である請求項1〜9のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
少なくとも1つの甘味剤をさらに含み、好ましくは、前記甘味剤がアスパルテームおよび/またはサッカリンナトリウムである請求項1〜10のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
抗原がインフルエンザ、破傷風、風疹、髄膜炎、水痘に対する免疫活性を有する請求項1〜11のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
少なくとも1つの抗原の舌下投与用医薬品剤形の調製のための、請求項1〜11のいずれかに記載の組成物の使用。
【請求項14】
前記医薬品剤形は単回舌下投与用の小袋である請求項13に記載の使用。
【請求項15】
前記医薬品剤形は舌下錠剤である請求項13に記載の使用。
【請求項16】
感染症に起因する病状に対する免疫治療用および/またはアレルギーに起因する病状に対する脱感作治療用の舌下医薬組成物の調製のための、少なくとも1つの抗原の使用。
【請求項17】
前記病状はインフルエンザ、破傷風、風疹、髄膜炎、水痘を含む群から選択される請求項15に記載の使用。

【公表番号】特表2009−539821(P2009−539821A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−513790(P2009−513790)
【出願日】平成19年6月6日(2007.6.6)
【国際出願番号】PCT/IB2007/001521
【国際公開番号】WO2007/144724
【国際公開日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(508361162)
【氏名又は名称原語表記】SILVESTRINI,Bruno
【住所又は居所原語表記】Via Michelangelo Schipa,15,I−00179 Roma(IT)
【出願人】(508361173)
【氏名又は名称原語表記】BONANOMI,Michele
【住所又は居所原語表記】Via Brescia,29,I−00198 Roma(IT)
【Fターム(参考)】