説明

ワークピースを加熱するための方法および対応する工具

金属ワークピースを加熱するための方法および対応する工具。この方法では、金属ピースは、工作機械内で、永久磁石構造を有する誘導加熱工具をそこに取り付けることにより、および加熱される金属ピースおよび誘導加熱工具を互いに対して適切な距離で回転するおよび/または動かすことにより加熱される。この場合、加熱渦電流がピース内に誘導され、加熱に必要なエネルギが工作機械のモータから得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前段に規定された方法および請求項7の前段に従う誘導加熱工具に関する。
【背景技術】
【0002】
誘導加熱は、加熱されるピース内に渦電流を誘導する変化する磁界に基づき、この渦電流は順にピースを加熱する。従来、変化する磁界は、加熱されるピースを囲むとともに適切な周波数の交流電源に接続された電磁石により提供されている。
【0003】
しかし、誘導加熱に必要とされる変化する磁界はまた、例えば磁界の強さが不変であるような機械的な運動によっても提供され得る。この場合、磁界ベクトルの強さではなく主に方向が変化する。適切な永久磁石構造が導電性ピースの近くを回転させる場合、ピースは変化する磁界に「遭遇する」とともに、渦電流が誘導され、ピースを集中的に加熱する。
【0004】
機械工学産業では、高周波焼入れ等、熱処理されなければならない部品がしばしば製造される。熱処理のために、ピースがフライス盤または旋盤等の工作機械から取り外され、熱処理が他の場所で実行される。しかし、必要な誘導加熱装置は非常に高価であるため、一般に熱処理サービスは下請け業者から購入される、すなわち、ワークピースは、長距離であっても、熱処理のために、梱包されて輸送される。
【0005】
一般的に、ワークピース全体ではなく、一部分のみが焼入れされる。はめば歯車を例として挙げることができ、その歯が、場合によりその特定の領域のみが、焼入れされる。焼入れはしばしば機械加工の特定のステップにおいて実行される、すなわち焼入れの後、ワークピースは工作機械内に正確に再配置されなければならない。したがって、焼入れは、ワークピースへの多くの個別の作業工程、機械加工の中断、および遅れを生じさせる。この遅れは、当然、製造コストおよびピースの製造の時間を増加させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上述の従来技術の欠点を取り除くことである。特に、本発明の目的は、これにより焼入れがワークピースの機械加工に関連してワークピースを工作機械から取り外すことなく実行され得る新たな機械加工法およびこの方法に使用される工具を開示することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は金属ワークピースを、焼入れ等、加熱するための方法に関する。本発明によれば、金属ピースは、工作機械内で、そこに永久磁石構造を有する誘導加熱工具を取り付けることにより、並びに加熱される金属ピースおよび誘導加熱工具を互いに対して適切な距離で回転するおよび/または動かすことにより加熱される。結果として、加熱渦電流がピース内に誘導され、加熱に必要なエネルギが工作機械のモータから単独で得られる。この方法では、独立した誘導加熱装置電源は必要ない。また、出力の調整が本発明による方法では非常に単純である。それは、互いに対して回転または動くピースの回転速度または相互の距離を単に調整することによりもたらされる。
【0008】
本方法では、マシニングセンタまたはリーマ盤が工作機械として使用されることができ、この場合、誘導加熱工具は工作機械のマンドレル上でピースの加熱される領域の近傍で回転する。また、旋盤が工作機械として使用されることもでき、この場合、少なくとも加熱されるピースが回転する。さらに、1つの実施形態では、使用される工作機械は、誘導加熱工具がマンドレル上でピースの加熱される領域の近傍で回転するフライス盤またはボール盤である。
【0009】
好ましくは、本発明では、ピースを加熱するために使用される電力は、モータのアイドリング電力を減じた工作機械のモータの回転電力から測定される。この方法では、加熱電力またはピースが達した温度は別個に測定される必要はなく、ワークピースの正確かつ精密な加熱が単にモータ電力の測定により管理される。
【0010】
ピースを加熱する独立した作業工程を実行しないことさえ可能である。その代わりとして、金属ピースは、同じ工作機械によりおよび切りくずの除去を伴う同じ作業過程内で加熱される。
【0011】
さらに、本発明は、金属ワークピースまたはその一部を工作機械内で、焼入れ等、加熱するための誘導加熱工具に関する。本発明によれば、工具は、誘導加熱工具を工作機械に取り付けるためのマンドレルおよびマンドレルに取付けられた永久磁石を含み、ピースに生じる加熱渦電流のエネルギが工作機械のモータから得られる。
【0012】
好ましくは、永久磁石に関して、磁性材料で作られるとともにワークピースの形状および加熱出力の最適な伝達に必要とされる形に形成された構造が提供される。言い換えると、磁石の形状がシンプルな基本的な形状を取り囲むように、加熱される表面の形状に対応するような外部表面が形成されることが好ましい。磁性材料で作られる構造は、主に鉄あるいは他適切な金属または合金を含む。
【0013】
金属ピースの焼入れに使用される温度は通常約900℃である。同時に、永久磁石材料の磁性は200℃を超える温度に耐えられない。したがって、好ましくは、磁石または工具の鉄部分或いはそれらの両方がフィン、羽根、等価的な管路等、適切な冷却形状を備える。これらは、空気、ガスまたは液体の流れであり得る冷却流が工具またはその周りに導かれることを可能にする。別の可能性は、工具の永久磁石のピースが弱熱伝導ケーシング内に封入される実施形態である。しかし、ケーシングは、焼入れされるピース内の回転する磁界を実質的に弱めることがない材料で作られる。例えば、適切なセラミック材料がこの種の材料と見なされ得る。
【0014】
本発明により加熱方法および工具により、従来技術と比較して、重要な利点が達成される。本発明は、金属ワークピースの機械加工に関連して、部分的または全体的な金属ワークピースの簡単かつ迅速な加熱、焼入れまたは他の熱処理を提供する。必要とされるエネルギは工作機械自体の回転モータから得られるので、加熱のための独立したエネルギ源は必要とされない。このように、本発明により、重要な節約が装置コスト、処理工程および処理時間いずれにおいても達成される。
【0015】
以下では、本発明が添付の図面を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明による1つの工具を示す。
【図2】図2は、本発明による第2の工具を示す。
【図3】図3は、本発明による第3の工具を示す。
【図4】図4は、図2の工具の使用を示す。
【図5】図5は、工具内の磁石の数を概略的に示す。
【図6】図6は、本発明による1つの工具を概略的に示す。
【図7】図7は、本発明によるもう1つの工具を概略的に示す。
【図8】図8は、本発明による工具による平面の加熱を概略的に示す。
【図9】図9は、平面を加熱する別の実施形態を示す。
【図10】図10は、本発明による工具の磁界の方向を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に示されるように、本発明による工具1は、これにより工具がそれを使うフライス盤または旋盤等の工作機械に取付けることができるマンドレル5を含む。マンドレルに取付けられるのは、円柱状永久磁石6である。
【0018】
図2の対応する実施形態では、工具2は、マンドレル5に取付けられた、2つの丸い円盤形の永久磁石6または磁石を備える金属シートを含む。シートは互いに適切な距離を置いて配置されるので、焼入れされる金属ピースに対してまたは焼入れされる金属ピースの一部に対して適切な大きさの隙間がシートの間に残る。
【0019】
図3は、工具3が、マンドレル5に取付けられた、磁性を有する1つの円形シート6のみを含む、第3実施形態を示す。3つの工具は全て類似の方法で使用される、すなわち、回転する工具は、他の方法で焼入れまたは加熱される金属ピースに出来る限り近くに配置されるが、接触しない。この方法では、回転する磁石がピース内にピースを集中的に加熱する渦電流を発生させる。磁石を回転するために使用されるエネルギは、それを回転させる工作機械のモータから得られるとともに、ほぼ完全に金属ピースへの熱として伝達される。
【0020】
図4は、はめば歯車9の歯の焼入れにおける図2の工具の使用を示す。工具2では、2つの磁気円形シートが互いに歯の厚さと等しい距離間隔を置いて配置されるとともに、それらの内部表面が、歯に対応して、少し傾斜しているので、工具は歯の表面から正確に短い距離に配置され得る。工具を回転させることおよび工具を一端から他端に歯の歯すじ方向に動かすことにより、歯は容易かつ迅速に所望の焼入れ温度に過熱され得る。はめば歯車はこのようにそれについての機械加工に関してピースの単一の取り付けにより焼入れされる。さらに、加熱出力は、磁石の回転速度あるいは磁石とワークピースとの間の距離を変化させることにより、容易に調整され得る。
【0021】
図5の概略図から見ることができるように、1つまたは複数の永久磁石が工具内に使用され得るので、工具が回転すると、工具の外側で動かない加熱されるピースは変化する磁界に遭遇する。
【0022】
図6および7は本発明による工具を示し、集中的な磁界が工具の外側に形成されるように、永久磁石が如何なる方向にも磁化され得ることを示している。図6では、工具において、磁石8は、円形シート4の平面上に、その正確な外縁に沿って配置され、すなわち磁化方向は工具の軸方向である。図7では、磁石9は、円形シート7の外縁、すなわちその円周上に配置されるので、磁化方向は工具の半径方向である。また、図7の下方に図に描かれているのは、永久磁石が弱熱伝導セラミックケーシング17に封入された代替実施形態である。ケーシングは磁石の過度の加熱を防ぐが、実質的に装置の磁性に影響しない。
【0023】
図8は、フライス盤において平面のピースを加熱するための本発明による工具の実施形態を示す。工具は加熱される平面10の方向に回転するとともにその外周に設けられた磁石13を持つ横断する丸い円盤形本体12を備えるマンドレル11を含む。工具が回転するのが平面に接触せずに近づけば近づくほど、加熱渦電流が平面内に集中的に発生する。
【0024】
図9は、加熱される平面に対して工具の軸が傾斜した、すなわち、45度の角度の、図8に対応する実施形態を示す。
【0025】
図10は、特に、ピースまたはピースの一部を多様な形態に焼入れまたは加熱するための、本発明の有用な実施形態を示す。図の実施形態では、加熱されるピース14は旋盤に取付けられるとともにピースは旋盤のモータにより回転する一方工具は固定されている。工具は1つまたは複数の永久磁石15を含み得る。磁界は、磁石または複数の磁石の周りまたは中央に配置された鉄または他の等価材料で作られたシートまたはピース16により形成されるとともに方向づけられる。これらのピースにより、回転する磁界は出来る限りワークピースまたはその一部の近くに向けられることができ、この場合磁石自体は成形される必要はない。
【0026】
本発明は単に上述の例に限定されるものではなく、むしろ、多くの変形が特許請求の範囲に規定された発明的アイディアの範囲内で可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ワークピースを加熱するための方法であって、
前記金属ワークピースは、工作機械内で、永久磁石構造を有する誘導加熱工具を取り付けることにより、並びに加熱される前記金属ワークピースおよび前記誘導加熱工具を互いに対して適切な距離で回転するおよび/または動かすことにより加熱され、この場合、加熱渦電流が前記ピース内に誘導され、加熱に必要なエネルギが前記工作機械のモータから得られる、ことを特徴とする、
方法。
【請求項2】
マシニングセンタまたはリーマ盤が前記工作機械として使用され、この場合、前記誘導加熱工具は前記工作機械のマンドレル上で前記ピースの加熱される領域の近傍で回転する、ことを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
旋盤が前記工作機械として使用され、この場合、少なくとも加熱される前記ピースが回転する、ことを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
使用される前記工作機械は、前記誘導加熱工具がマンドレル上で前記ピースの加熱される領域の近傍で回転するフライス盤またはボール盤である、ことを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ピースを加熱するために使用される電力は、前記モータのアイドリング電力を減じた前記工作機械の前記モータの回転電力から測定される、ことを特徴とする、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記金属ワークピースは、同じ前記工作機械によりおよび切りくずの除去を伴う同じ工程内で加熱される、ことを特徴とする、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
金属ワークピースまたはその一部を工作機械内で加熱するための誘導加熱工具であって、
前記誘導加熱工具は、前記誘導加熱工具を前記工作機械に取り付けるためのマンドレルおよび前記マンドレルに取付けられた永久磁石を含み、前記ピースに生じる加熱渦電流のエネルギが前記工作機械のモータから得られる、ことを特徴とする、
工具。
【請求項8】
前記永久磁石に関して、前記ワークピースの形状および加熱出力の最適な伝達に必要とされる形に形成された磁性材料で作られた構造が提供される、ことを特徴とする、
請求項7に記載の工具。
【請求項9】
前記磁性材料で作られる前記構造は鉄を含む、ことを特徴とする、
請求項8に記載の工具。
【請求項10】
前記工具は、空気、ガスまたは液体の流れにより前記工具を冷却するための、形状、フィン、羽根、または等価的な管路を含む、ことを特徴とする、
請求項7乃至9のいずれか1項に記載の工具。
【請求項11】
前記工具の前記永久磁石のピースが少なくとも部分的に弱熱伝導ケーシング内に封入される、ことを特徴とする、
請求項7乃至10のいずれか1項に記載の工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2013−502680(P2013−502680A)
【公表日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−525188(P2012−525188)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【国際出願番号】PCT/FI2010/050661
【国際公開番号】WO2011/020952
【国際公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(512041137)
【氏名又は名称原語表記】PRIZZTECH OY
【住所又は居所原語表記】Tiedepuisto 4, 28600 Pori, Finland
【出願人】(512041148)
【氏名又は名称原語表記】HOLLMING OY
【住所又は居所原語表記】Hollmingintie 3,26100 Rauma, Finland
【Fターム(参考)】